説明

プリプレグ、積層板および電子部品

【課題】充填材が均一に分散されたプリプレグ、積層板および電子部品を提供することにある。
【解決手段】繊維基材に、充填材と熱硬化性樹脂とを含む樹脂組成物を含浸してなるプリプレグであって、前記充填剤は、前記樹脂組成物の含浸する条件下で、該充填材の表面電荷と前記繊維基材の表面電荷とが異符号となるものであることを特徴とするプリプレグと、前記プリプレグを1枚以上積層成形してなる積層板、および前記積層板に半導体素子を搭載してなる電子部品を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリプレグ、積層板および電子部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プリプレグは、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物を溶剤に溶解した樹脂ワニスを、ガラス繊維等の基材に含浸させ、加熱乾燥することにより作製される。プリント配線板等の電子機器に使用されるプリプレグでは、特に、耐熱性、低熱膨張性及び難燃性等の特性を向上させる必要がある。これらの特性を向上するため、前述した樹脂組成物に、さらに充填材が使用されている。この充填材の使用量は、プリプレグに要求される特性の向上と共に、増えてきている。
しかし、充填材を多量に含有した樹脂ワニスは粘度が高くなるため、樹脂ワニスの基材への均一な含浸および充填材の均一な分散が困難となる場合があった。
【0003】
特許文献1では、充填材の表面をカップリング処理することで、充填材が均一に分散した樹脂組成物および、樹脂組成物を繊維基材に含浸させたプリプレグが開示されている。しかし、このような方法でもプリプレグに、充填材を均一に分散させることが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開H7−26122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、充填材が均一に分散されたプリプレグ、積層板および電子部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、下記(1)〜(10)の本発明により達成される。
(1)繊維基材に、充填材と熱硬化性樹脂とを含む樹脂組成物を含浸してなるプリプレグであって、前記充填剤は、前記樹脂組成物の含浸する条件下で、該充填材の表面電荷と前記繊維基材の表面電荷とが異符号となるものであることを特徴とするプリプレグ。
(2)前記充填剤は、前記樹脂組成物の含浸する条件下で、該充填材の表面電荷が正に帯電しているものである(1)に記載のプリプレグ。
(3)前記充填材が、その表面を有機材料または無機材料で被覆されたものである(1)または(2)に記載のプリプレグ。
(4)前記充填材が、球状の充填材である(1)ないし(3)に記載のプリプレグ。
(5)前記繊維基材が、複数のフィブリル状繊維から構成されたストランドを含む(1)ないし(4)に記載のプリプレグ。
(6)前記充填材が、無機材料である(1)ないし(5)に記載のプリプレグ。
(7)前記繊維基材が、ガラス繊維基材である(1)ないし(6)に記載のプリプレグ。
(8)前記樹脂組成物が、さらに硬化剤を含むものである(1)ないし(7)に記載のプリプレグ。
(9)(1)ないし(8)のいずれかに記載のプリプレグを1枚以上積層成形してなる積層板。
(10)(9)に記載の積層板に半導体素子を搭載してなる電子部品。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、充填材が均一に分散されたプリプレグ、積層板および電子部品を提供することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明のプリプレグ、積層板および電子部品ついて詳細に説明する。
【0009】
本発明のプリプレグは、繊維基材に、充填材と熱硬化性樹脂とを含む樹脂組成物を含浸してなるプリプレグであって、前記充填材は、前記樹脂組成物の含浸する条件下で、該充填材の表面電荷と前記繊維基材の表面電荷とが異符号となるものであることを特徴とする。
【0010】
本発明の積層板は、前記プリプレグを1枚以上積層成形してなる。
【0011】
本発明の電子部品は、前記積層板に半導体素子を搭載してなる。
【0012】
[プリプレグ]
まず、本発明のプリプレグについて説明する。
【0013】
本発明のプリプレグは、繊維基材に、充填材と熱硬化性樹脂とを含む樹脂組成物を含浸してなるプリプレグであって、前記充填材は、前記樹脂組成物の含浸する条件下で、該充填材の表面電荷と前記繊維基材の表面電荷とが異符号となるものであることを特徴とする。
【0014】
前記繊維基材は、プリプレグに一般的に使用される繊維基材であれば特に限定されないが、ガラス織布、ガラス不繊布等のガラス繊維基材の他、紙、合成繊維等からなる織布や不織布、金属繊維、カーボン繊維、鉱物繊維等からなる織布、不織布、マット類等が挙げられる。また、これらの繊維基材の原料繊維は単独又は併用して使用してもよい。これらの中でもガラス繊維基材が好ましい。これにより、プリプレグの剛性、寸法安定性を向上することができる。このようなガラス繊維基材を構成するガラスとしては、例えば、Eガラス、Cガラス、Aガラス、Sガラス、Dガラス、NEガラス、Tガラス、Hガラス、Qガラス等が挙げられる。これらの中でも、ガラスは、Sガラス、または、Tガラスであるのが好ましい。これにより、ガラス繊維基材の熱膨張率を比較的小さくすることができる。
また、これらの繊維基材は、予め解繊処理をしていてもよい。解繊処理をすることにより、繊維間の空隙が広がり、充填材の均一な分散性がさらに向上する。
【0015】
また、前記繊維基材は複数のフィブリル状繊維から構成されるストランドからなるものが好ましい。これにより、繊機基材が剛直となり、プリプレグの剛性、寸法安定性を向上することができる。このとき、フィブリル状繊維として用いる繊維は円柱状のものが好ましく、その平均繊維径は1μm以上、12μm以下が好ましく、4μm以上、9μm以下が特に好ましい。前記範囲内であることで、繊維基材の剛直性を向上させることができる。また、ストランドを構成するフィブリル状繊維の本数は特に限定されないが、10以上、600以下が好ましく、50以上、400以下が特に好ましい。前記下限値以上であることで、繊維基材の剛直性を向上させることができ、前記上限値以下であることで、繊維基材の寸法安定性を向上させることができる。このようなストランドは、前記フィブリル状繊維を集束し、編組することで得ることができ、このときフィブリルに集束剤等の接着剤を塗布してストランドを得ることもできる。
【0016】
前記充填材は、プリプレグに一般的に使用される充填材であれば特に限定されないが、溶融シリカ、結晶シリカ、クレー、アルミナ、水酸化アルミニウム、マイカ及びガラス繊維などの無機材料からなる無機充填材、木粉、パルプ、粉砕布及び熱硬化性樹脂硬化物粉などの有機材料からなる有機充填材等が挙げられ、これらの無機材料と有機材料を単独又は併用して使用してもよい。これらの中でも、無機材料が好ましく、難燃性を向上させることができる。さらに無機材料の中でも、寸法安定性等の観点から、溶融シリカが特に好ましい。
【0017】
前記充填材の形状は塊状、鱗片状、球状、繊維状等、特に限定されないが、これらのなかでも、球状であることが好ましい。球状であることにより、繊維基材の内部まで侵入することが容易になり、プリプレグの熱膨張率をさらに低くすることができる。
【0018】
また、前記充填材の平均粒子径は、0.1μm以上、5μm以下が好ましく、0.5μm以上、2μm以下がさらに好ましい。前記下限値以上であることで、ワニス高粘度化の抑制の効果があり、前記上限値以下であることで、フィブリル間に形成される空隙よりも小さくなり、繊維基材の内部まで侵入することが容易になり、プリプレグの熱膨張率をさらに低くすることができる。
前記充填材の平均粒子径は、平均粒径が100nm未満の場合は、動的光散乱装置(例えば、マルバーン社製、ゼータサイザーナノZS)を用いて測定することができる。また、平均粒径が100nm以上の場合は、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、堀場製作所製、LA−920)により測定することができる。それぞれ体積換算で頻度が50%となる粒子径を平均粒子径D50%として定めた。
【0019】
本発明のプリプレグにおける充填材の表面電荷は、前記樹脂組成物を含浸する条件下において、繊維基材の表面電荷と異符号である必要がある。これにより、前記樹脂組成物を含浸させる際に、繊維基材の表面と充填材の表面電荷が異符号であることで、繊維基材と充填材に引力が生じる。これにより繊維基材に充填材が効果的に引き寄せられ、繊維基材内に形成された空隙、特にフィブリル間に形成された空隙に充填材が侵入することが容易になり、その結果プリプレグ内に充填材が十分に充填され得る。これにより、プリプレグ内の充填材の分散に偏りが発生することを防ぎ、プリプレグ内に充填材が均一に分散される。これにより、プリプレグの熱膨張率をさらに低くすることができる。
【0020】
前記繊維基材の、前記樹脂組成物を含浸する条件下における表面電荷の符号は、一般的に選択した繊維基材の材質、含浸する樹脂組成物のpHによって決まり、pHが低い場合は一般的に繊維基材の表面電荷は正であるが、pHを上昇していくと、ある特定のpH値(等電点)において表面電荷は無くなり、pHを等電点以上にすると表面電荷は負になる。等電点は繊維基材の材質により異なり、等電点が高く、樹脂組成物を含浸させる時点において表面電荷が正である領域が広い繊維基材として、例えばアルミナファイバー、酸化鉄繊維等を挙げることができる。一方、等電点が低く、樹脂組成物を含浸させる時点において表面電荷が負である領域が広い繊維基材として、例えばガラス織布、ガラス不繊布等のガラス繊維基材、等を挙げることができる。また、前記繊維基材は予め表面処理したのもを用いてもよい。表面処理剤として、カップリング剤、陽イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、有機イオン、イオン性高分子、等を挙げる事ができる。
【0021】
前記充填材の、前記樹脂組成物を含浸する条件下における表面電荷の符号は、前記繊維基材と同様に前記充填材の表面の材質、含浸する樹脂組成物のpHを選択することで調節することができ、後述するように充填材の表面を有機材料または無機材料で被覆した場合は、被覆した有機材料または無機材料の材質、含浸する樹脂組成物のpHによって決めることができる。前記繊維基材と同様に、pHが低い場合は一般的に充填剤の表面電荷は正であるが、pHを上昇していくと、ある特定のpH値(等電点)において表面電荷は無くなり、pHを等電点以上にすると表面電荷は負になる。等電点は充填材の表面の材質により異なり、等電点が高く、樹脂組成物を含浸させる際において表面電位が正である領域が広い充填剤として、例えばアルミナ、ベーマイト等を挙げることができる。一方、等電点が低く、樹脂組成物を含浸させる時点において表面電荷が負である領域が広い充填材としては、例えば溶融シリカ、結晶シリカ、ジルコニア等を挙げることができる。
【0022】
前記充填材の樹脂組成物を含浸する条件下における表面電荷は、正に帯電したものでも、負に帯電したものでも構わないが、正に帯電したものが好ましい。繊維基材において剛性、寸法安定性を向上することができるガラス繊維基材等の樹脂組成物の含浸する条件下における表面電荷は、樹脂組成物のpHによって決まるが、等電点が低く、含浸する樹脂組成物内において負に帯電していることが多いことから、前記充填材が正に帯電していることで、剛性、寸法安定性に優れた繊維基材の内部まで充填材を均一に分散することができ、プリプレグとして剛性、寸法安定性がさらに優れ、また熱膨張率をさらに低くすることができる。
【0023】
前記充填材の表面は有機材料または無機材料で被覆したものであってもよい。充填材の表面を有機材料または無機材料で被覆することで、充填材の樹脂組成物を含浸する条件下における表面電荷を調整することが容易となる。これにより、プリプレグ内の充填材の分散を均一にすることができ、プリプレグ、及び積層体の熱膨張率をさらに低くすることができる。
【0024】
ここで表面を被覆した充填材は、表面の少なくとも一部の領域を有機材料又は無機材料の被覆材料で覆っていることをいう。このため、被覆材料が表面の全面を覆っている態様には限られず、たとえば特定の断面から見たときに被覆材料が表面全面を覆っている態様や、表面の特定の領域を覆っている態様も含む。粒子間の組成のばらつきを効果的に抑制する観点からは、少なくとも特定の断面から見たときに、被覆材料が表面全面を覆っていることが好ましく、被覆材料が充填材の表面全面を覆っていることがさらに好ましい。
【0025】
前記有機材料は、前記充填材と同様のものを使用することができ、充填材の樹脂組成物を含浸する条件下における表面電荷の符号を正にすることができるものとして、例えばカップリング剤、陽イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、有機イオン、イオン性高分子等が挙げられ、充填材の表面電荷の符号を負にすることができるものとして、例えばカップリング剤、陽イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、有機イオン、イオン性高分子や等電点が低いPMMA、ポリフッ化ビニリデン等が挙げられる。また、前記無機材料は、充填材の表面電荷の符号を正にすることができるものとして、例えば等電点の高いアルミナ、酸化鉄等が挙げられ、充填材の表面電荷の符号を負にすることができるものとして、例えば等電点の低いシリカ、ジルコニア等が挙げられる。これらを単独又は併用して使用してもよい。
【0026】
ここで、前記充填材の表面を有機材料または無機材料の被覆材料で被覆する方法として、例えば機械的粒子複合化装置を使用する方法、充填材の表面に被覆材料を化学的に生成させる方法等が挙げられる。中でも、機械的粒子複合化装置を使用する方法が好ましい。これにより、充填材の表面を効率良く、簡便に被覆させることができる。
【0027】
前記機械的粒子複合化装置を使用する方法として、例えば以下のような方法が挙げられる。充填材と、被覆材料の原料となる粉体とを機械的粒子複合化装置における混合容器に投入し、容器内の攪拌翼等を回転させ、または撹拌翼等を固定し、または回転させながら混合容器を回転させる等の方法により得られる。上記の攪拌翼等を高速回転させることにより、個々の充填材および被覆材料に圧縮力やせん断力および衝撃力を含む機械的作用を加えることで、充填材の表面に被覆材料が被覆される。
【0028】
攪拌翼の回転速度は、さらに具体的には、周速1〜50m/s、期待する処理効果の観点からは、7m/s以上とし、好ましくは10m/s以上とする。また、処理時の発熱抑制および過粉砕防止の観点からは、攪拌翼の回転速度をたとえば35m/s以下、好ましくは25m/s以下とする。
前記下限値以上であることにより充填材の表面が被覆材料により十分に被覆され、前記上限値以下であることにより、処理時の発熱を抑制し、過粉砕を防止することができる。
【0029】
ここで、上記機械的粒子複合化装置とは、複数種の粉体等の原料に対して圧縮力やせん断力および衝撃力を含む機械的作用を加えることで、複数種の粉体等の原料同士が結合した粉体を得ることができる装置である。機械的作用を加える方式としては、一つあるいは複数の撹拌翼等を備えた回転体と撹拌翼等の先端部と近接した内周面を備えた混合容器を有し、撹拌翼等を回転させる方式や、撹拌翼等を固定し、または回転させながら混合容器を回転させる等の方式が挙げられる。撹拌翼等の形状については、機械的作用を加えることができれば特に制限はなく、楕円型や板状等が挙げられる。また、撹拌翼等は、回転方向に対して角度をもってもよい。また、混合容器はその内面に溝等の加工を施してもよい。
【0030】
機械的粒子複合化装置としては、たとえば、奈良機械製作所社製ハイブリダイゼーション、川崎重工業社製クリプトロン、ホソカワミクロン社製メカノフュージョンおよびノビルタ、徳寿工作所社製シータコンポーザ、岡田精工社製メカノミル、宇部興産社製CFミル等が挙げられるが、この限りではない。
【0031】
混合中の容器内の温度は、充填材、被覆原料に応じて設定されるが、たとえば5℃以上50℃以下とし、充填材に有機物や、被覆材料に有機材料を使用する場合は、有機物の溶融防止の観点から、40℃以下が好ましく、より好ましくは25℃以下である。ただし、容器を加温し、有機物を溶融させた状態で処理することも可能である。また、混合時間は、原料に応じて設定されるが、たとえば30秒以上120分以下とし、好ましくは1分以上、90分以下であり、さらに好ましくは3分以上、60分以下である。前記下限値以上とすることで、充填材の表面が被覆材料で十分に被覆され、前記上限値以下であることにより、生産性が向上する。
【0032】
前記充填材と、前記繊維基材の表面電荷は、ゼータ電位測定により求められる。具体的には、一定の電場内における粒子等の電気泳動移動度を測定し、Henrryの式によりゼータ電位に換算することで表面電荷を求めることができる。
【0033】
本発明における繊維基材と充填剤の表面電荷は、後述する樹脂組成物の希釈剤に浸漬若しくは分散させて、分散媒のpHを樹脂組成物のpHと同等になるように調節して、ゼータ電位測定により求められる。つまり、繊維基材の表面電荷は、例えば後述する樹脂組成物の希釈剤であるジメチルアセトアミド、MEKの混合物に酸性水溶液、塩基性水溶液を添加することでpHを調節し、繊維基材を浸漬させて、ゼータ電位測定により求められる。また、充填剤の表面電荷は、例えば後述する樹脂組成物の希釈剤であるジメチルアセトアミド、MEKの混合物に分散させ、酸性水溶液、塩基性水溶液を添加することでpHを調節し、ゼータ電位測定により求められる。
【0034】
前記樹脂組成物における、前記充填材の含有量は、特に限定されないが、樹脂組成物全体の固形分基準で10重量%以上、90重量%以下であることが好ましく、30重量%以上、80重量%以下であることがさらに好ましい。前記下限値以上であることにより、プリプレグと、積層体の熱膨張率を低くすることができ、前記上限値以下であることにより、靭性を確保することができる。
【0035】
前記樹脂組成物における熱硬化性樹脂は、例えばフェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シアネート樹脂、イソシアネート樹脂、マレイミド樹脂、ウレタン樹脂、熱硬化性ポリイミド、ベンゾオキサジン樹脂等が挙げられ、これらを2種以上併用してもよい。
これらの中でも、特にフェノール樹脂、エポキシ樹脂、シアネート樹脂が好ましく、熱膨張率をさらに低減させることができる。
【0036】
前記樹脂組成物における、前記熱硬化性樹脂の含有量は、特に限定されないが、樹脂組成物全体の固形分基準で5重量%以上、50重量%以下であることが好ましく、10重量%以上、40重量%以下であることがさらに好ましい。前記下限値以上であることにより、樹脂含侵性が十分となり、プリプレグと、積層体の耐湿性が上昇し、前記上限値以下であることにより、プリプレグと、積層体の熱膨張率を十分低減させることができる。
【0037】
前記樹脂組成物は、必要に応じて、従来の熱硬化性樹脂に使用される各種硬化剤を含むことが好ましい。各種硬化剤とは、例えば芳香族ポリアミン等のポリアミン系硬化剤、芳香族酸無水物等の酸無水物系硬化剤、フェノール系硬化剤等が挙げられる。
前記樹脂組成物における、前記硬化剤の含有量は、特に限定されないが、当量比((熱硬化性樹脂官能基当量)÷(硬化剤の官能基当量))が1.3〜0.5であることが好ましく、1.2〜0.8であることがさらに好ましい。前記下限値以上であることにより、硬化性が十分となり、プリプレグと、積層体の耐湿性が上昇し、前記上限値以下であることにより、プリプレグと、積層体の吸水性を十分低減させることができる。
【0038】
前記樹脂組成物には、必要に応じて硬化促進剤を加えても良い。前記硬化促進剤としては公知の物を用いることが出来る。例えばナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、オクチル酸スズ、オクチル酸コバルト、ビスアセチルアセトナートコバルト(II)、トリスアセチルアセトナートコバルト(III)等の有機金属塩、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン等の3級アミン類、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−エチル−4−エチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシイミダゾール等のイミダゾール類、フェノール、ビスフェノールA、ノニルフェノール等のフェノール化合物、酢酸、安息香酸、サリチル酸、パラトルエンスルホン酸等の有機酸等、またはこの混合物が挙げられる。
【0039】
本発明のプリプレグは、前記樹脂組成物を繊維基材に含浸してなるものである。ここで本発明のプリプレグにおける含浸とは、基材の全体のみならず、一部に含浸しているものも含まれる。ここで、一部とは基材の厚み方向の一部であっても良いし、基材の全表面に対する一部の表面にのみ含浸しているものであっても良い。また、前記プリプレグは、その繊維基材の表面電荷と充填材の表面電荷が異符号であることにより、従来に比べ基材に多量の充填材を含浸したプリプレグを得ることができる。
【0040】
前記樹脂組成物を前記繊維基材に含浸させるためには、通常、前記樹脂組成物を希釈剤で希釈し、樹脂ワニスとする。それから、当該樹脂ワニスを基材に含浸する。
前記希釈剤としては、例えば水、トルエン、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類、メタノール、エタノールおよびプロパノール等のアルコール類、ジメチルホルムアミド等のアミド類等が挙げられる。入手が容易であり、かつ揮発させるのが容易であるからである。
前記樹脂ワニスの固形分は、特に限定されないが、20重量%以上、85重量%以下が好ましく、特に50重量%以上、80重量%以下が好ましい。固形分が前記範囲内であると、基材への含浸性に特に優れる。
【0041】
前記樹脂ワニスを前記繊維基材に含浸する方法としては、例えば繊維基材を樹脂ワニスに浸漬する方法、各種コーターにより塗布する方法、スプレーにより吹き付ける方法等が挙げられる。これらの中でも、基材を樹脂ワニスに浸漬する方法が好ましい。これにより、基材に対する樹脂組成物の含浸性を向上することができる。なお、基材を樹脂ワニスに浸漬する場合、通常の含浸塗布設備を使用することができる。
そして、含浸後、適宜加熱して前記希釈剤を揮発させて乾燥し、プリプレグを得る。
【0042】
[積層板]
次に、本発明の積層板について説明する。
本発明の積層板は、前記プリプレグを少なくとも1枚以上を成形してなるものである。前記プリプレグを用いることにより、前記積層版は、熱膨張率を低減させることができる。前記積層板は、最も外側の片面または両面に導体層を有していても良い。前記積層板は、前記プリプレグ2枚以上を成形してなるときは、前記プリプレグ2枚以上を加熱加圧成形して樹脂積層板を製造することができる。前記積層板は更に、プリプレグの最も外側の片面または両面に導体層を積層して加熱加圧成形しても良い。前記プリプレグが1枚のときは、必要に応じて他のプリプレグ及び/又はプリプレグの片面または両面に導体層を積層して得ることができる。前記導体層は、例えば、金属箔や、銀ペーストのような導電性ペーストを用いて形成される。前記金属箔を構成する金属としては、例えば銅または銅系合金、アルミまたはアルミ系合金等が挙げられる。
【0043】
本発明に係るプリプレグ、及び積層板は、打抜き加工が必要な積層板用途であれば特に限定されることなく用いることができる。例えば、フレキ補強板、ボリウム、スイッチ、各種一般電子部品などが挙げられる。
【0044】
[電子部品]
次に、本発明の電子部品について説明する。
本発明の電子部品は、前記片面に金属箔を積層したプリプレグに半導体素子を搭載してなるものである。前記プリプレグを用いることにより、前記電子部品は高い信頼性を発現することができる。
【0045】
具体的には、例えば前記片面に金属箔を積層したプリプレグを用意して、その金属箔面にエッチングレジスト層を形成し、そこに所定の形状を有する回路パターンを露光し、エッチングレジスト層の現像を行い、現像されたエッチングレジスト層をマスクする金属箔をエッチングし、レジスト層(マスク)の除去等の工程を経て回路加工された金属箔を積層したプリプレグを得ることができる。
【0046】
次に前記回路加工されたプリプレグの金属箔の面にソルダーレジスト層を形成し、露光、現像、硬化を経て、半田ボール搭載用ランドを作る。
次に、前記回路加工されたプリプレグの樹脂面にレーザー装置を用いてビア加工し、ビア孔と半田ボール搭載用ランドの表面を金メッキ処理することで、インターポーザを得ることができる。
次に、半導体素子を前記インターポーザの樹脂面に搭載し、半導体素子に設けられた半田バンプをビア孔に接合することで、半導体素子と回路とを接続し、インターポーザと半導体素子との間に液状封止樹脂を充填し、硬化させることで電子部品を得ることができる。
さらに、前記半田ボール搭載用ランドに半田ボールを搭載し、プリント配線板と電子部品を接続することができる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制約されるものではない。
【0048】
(実施例1)
(1)充填材の調整
溶融球状シリカ(平均粒子径0.5μm)を58重量%、無機材料アルミナ(平均粒子径31nm)を6重量%を機械的粒子複合化装置(徳寿工作所社製シータコンポーザ)に投入し、攪拌翼の周速10m/sで15分間攪拌することにで、被覆処理を行い、無機材料アルミナで被覆されたシリカ粒子である充填材1を得た。ここで、充填材1の平均粒子径は0.52μmであることを確認した。
(2)エポキシ樹脂組成物含有樹脂ワニスの調製
次に、得られた充填材1を60重量%でジメチルアセトアミド、MEK(比率ジメチルアセトアミド:MEK=1:3)に分散させて、充填材1のスラリーを調製した。次に、充填材1スラリーに固形エポキシ樹脂A(日本化薬(株)製、NC3000、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、重量平均分子量1300、軟化点57℃、エポキシ当量276g/eq)10重量%と、シアネート樹脂A(ロンザジャパン(株)製、PT30、ノボラック型シアネート樹脂、重量平均分子量380)18重量%と、硬化剤としてフェノール樹脂A(明和化成(株)製、MEH7851)8重量%と、エポキシシランカップリング剤(日本ユニカー社製、A187)0.3重量%とを溶解・混合させ、高速撹拌装置を用い撹拌して、樹脂組成物が固形分基準で70重量%の樹脂ワニスを得た。ここで、樹脂組成物内の充填剤1の表面電荷は正であることを確認した。
【0049】
(3)プリプレグの作製
前記樹脂ワニスを表面電荷が負であるガラス織布(厚さ94μm、日東紡績製Eガラス織布、WEA−2116、フィブリル径7μm)に含浸し、180℃の加熱炉で2分間乾燥して、プリプレグ中の樹脂組成物が固形分基準で約49重量%のプリプレグを得た。また、樹脂組成物含有樹脂ワニスの含浸時におけるガラス織布の表面電荷は負であることを確認した。
【0050】
(4)金属箔積層板の作製
前記プリプレグを4枚重ね、その両面に12μmの銅箔(三井金属鉱業社製、3EC−VLP箔)を重ねて、圧力3MPa、温度220℃で2時間加熱加圧成形し、厚さ0.124mmの両面に銅箔を有する金属箔積層板を得た。
【0051】
(5)プリント配線板の製造
両面に銅箔を有する前記金属張積層板の両面の銅箔をエッチングすることにより、回路加工を行った。次に、前記金属張積層板の回路パターンを覆うようにソルダーレジスト(太陽インキ社製、PSR4000/AUS308)を形成し、前記プリプレグの樹脂面にCOレーザーでビア孔を形成し、インターポーザを作製した。
【0052】
(6)電子部品の製造
次に、半導体素子(TEGチップ、サイズ15mm×15mm、厚み0.8mm)で、Sn/Pb組成の共晶で形成された半田バンプを有し、半導体素子の回路保護膜はポジ型感光性樹脂(住友ベークライト社製、CRC-8300)で形成されたものを用意し、前記半田バンプにフラックス材を転写法により均一に塗布し、フリップチップボンダー装置を用いて、前記プリント配線板上に加熱圧着により搭載した。次に、IRリフロー炉で半田バンプを溶融接合した後、液状封止樹脂(住友ベークライト社製、CRP−4152S)を充填し、液状封止樹脂を硬化させることで電子部品を得た。尚、液状封止樹脂の硬化条件は、温度150℃、120分の条件であった。
【0053】
(実施例2)
無機材料アルミナの代わりに、ベーマイトを用いて充填材2とした以外は、実施例1と同様にして、プリプレグ、金属箔積層板、及び電子部品を得た。ここで、樹脂組成物含有樹脂ワニスの含浸時におけるガラス織布の表面電荷は負であって、充填剤2の表面電荷は正であることを確認した。
【0054】
(実施例3)
溶融球状シリカ(平均粒子径0.5μm)の代わりに、溶融球状シリカ(平均粒子径1μm)を用いて充填材3とした以外は、実施例1と同様にして、プリプレグ、金属箔積層板、及び電子部品を得た。ここで、樹脂組成物含有樹脂ワニスの含浸時におけるガラス織布の表面電荷は負であって、充填剤3の表面電荷は正であることを確認した。
【0055】
(実施例4)
溶融球状シリカ(平均粒子径0.5μm)の代わりに、球状ジルコニア(平均粒子径0.5μm)を用いて充填材4とした以外は、実施例1と同様にして、プリプレグ、金属箔積層板、及び電子部品を得た。ここで、樹脂組成物含有樹脂ワニスの含浸時におけるガラス織布の表面電荷は負であって、充填剤4の表面電荷は正であることを確認した。
【0056】
(比較例1)
充填材1を用いない以外は、実施例1と同様にして、プリプレグ、金属箔積層板、及び電子部品を得た。
【0057】
(比較例2)
充填材として、充填材1の代わりに溶融球状シリカ(平均粒子径0.5μm)を充填材5として用いた以外は、実施例1と同様にして、プリプレグ、金属箔積層板、及び電子部品を得た。ここで、樹脂組成物含有樹脂ワニスの含浸時におけるガラス織布の表面電荷は負であって、充填剤5の表面電荷も負であることを確認した。
【0058】
実施例及び比較例で得られたプリプレグ、金属張積層板、及び電子部品等について以下の評価を行った。評価項目を内容と共に示す。得られた結果を表1に示す。
【0059】
(1)充填材分散性
前記金属箔積層板について、SEMを用いて断面観察を行った。充填材分散性は、断面観察結果において、観察された充填材の有無で評価した。
○:繊維基材のフィブリル間に充填材が観察された。
×:繊維基材のフィブリル間に充填材が観察されなかった。
【0060】
(2)線熱膨張係数
線熱膨張係数は、TMA(熱機械的分析)装置(TAインスツルメント社製、Q400)を用いて評価した。前記金属箔積層板から金属箔をエッチングで除去したサンプルを用いて4mm×20mmの試験片を作製し、温度範囲30〜300℃、10℃/分、荷重5gの条件で2サイクル目の50〜100℃における線膨張係数(CTE)を測定した。
○:15ppm未満
△:15〜20ppm
×:20ppm以上
【0061】
【表1】

【0062】
表1に記載されているように、充填材を用いない実施例1および表面電位が同符号である充填材を使用した比較例2については、プリプレグの内部に充填材5が充分に含浸されなかった。併せて線熱膨張係数が上昇が見られた。
しかし、実施例1〜4については、プリプレグ内部の充填材の分散が充分であって、線熱膨張係数も低かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維基材に、充填材と熱硬化性樹脂とを含む樹脂組成物を含浸してなるプリプレグであって、
前記充填剤は、前記樹脂組成物の含浸する条件下で、該充填材の表面電荷と前記繊維基材の表面電荷とが異符号となるものであることを特徴とするプリプレグ。
【請求項2】
前記充填剤は、前記樹脂組成物の含浸する条件下で、該充填材の表面電荷が正に帯電しているものである請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項3】
前記充填材が、その表面を有機材料または無機材料で被覆されたものである請求項1または2に記載のプリプレグ。
【請求項4】
前記充填材が、球状の充填材である請求項1ないし3に記載のプリプレグ。
【請求項5】
前記繊維基材が、複数のフィブリル状繊維から構成されたストランドを含む請求項1ないし4に記載のプリプレグ。
【請求項6】
前記充填材が、無機材料である請求項1ないし5に記載のプリプレグ。
【請求項7】
前記繊維基材が、ガラス繊維基材である請求項1ないし6に記載のプリプレグ。
【請求項8】
前記樹脂組成物が、さらに硬化剤を含むものである請求項1ないし7に記載のプリプレグ。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかに記載のプリプレグを1枚以上積層成形してなる積層板。
【請求項10】
請求項9に記載の積層板に半導体素子を搭載してなる電子部品。


【公開番号】特開2013−95855(P2013−95855A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240131(P2011−240131)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】