説明

モータ制御装置

【課題】インバータの短絡故障発生時においてインバータおよびモータ間を接続するケーブルも確実に保護することが可能なモータ制御装置の構成を提供する。
【解決手段】ECUは、ステップS100により、インバータを構成するスイッチング素子に短絡故障が発生しているかどうかを判断する。そして、短絡故障の検知時(S100のYES判定時)には、ステップS110により、スイッチング素子を開放故障に導くような温度上昇措置を実行する。ステップS110では、たとえば、スイッチング素子の冷却機構の冷却水ポンプが停止される。これにより、インバータを構成するスイッチング素子に短絡故障が発生しても、当該スイッチング素子を温度上昇させて熱破壊による開放故障に速やかに導くことにより、大きな短絡電流が発生することを防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、モータ制御装置に関し、より特定的には、複数のスイッチング素子により構成されたインバータを備えたモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インバータによりモータを制御するモータ制御装置において、インバータを構成する電力用半導体スイッチング素子に短絡故障が発生すると、モータの回転によって発生した逆起電力により、モータ巻線、インバータおよび両者を接続するケーブルによって構成される電流経路に短絡電流が発生する。この短絡電流が過大である場合には、機器損傷が発生することが懸念される。
【0003】
たとえば、特開2007−181345号公報(特許文献1)には、自動車の走行モータに交流電流を供給するインバータに短絡故障が発生することによって、走行モータからインバータに逆起電流が供給され、この逆起電流によって走行モータとインバータとを接続するケーブルが発熱することによって溶損する可能性があることが指摘されている。
【0004】
そして、特許文献1には、インバータの短絡状態が検知されると、インバータから走行モータへ交流電流を出力するためのケーブル群を冷却するために、ラジエータファンを駆動させる構成が開示されている。
【特許文献1】特開2007−181345号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の構成のようなケーブルの冷却による対応では、ケーブルを短絡電流が通過する以上、ケーブルの溶損を確実に防止することはできず、かつ、冷却機構の設置によるシステム構成の大型化や、既設の冷却機構(特許文献1でのラジエータファン)を利用するためにケーブル配設に制約が生じることが懸念される。
【0006】
この発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、この発明の目的は、大型化やケーブル配設の制約を抑制しつつ、インバータの短絡故障発生時においてインバータおよびモータ間を接続するケーブルを確実に保護することが可能なモータ制御装置の構成を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明によるモータ制御装置は、給電線を介してモータと接続されたインバータと、インバータを構成する複数のスイッチング素子の短絡故障を検知する短絡検知部と、制御部とを備える。制御部は、短絡検知部による短絡故障の検知時に、同一の電流通過に対する各スイッチング素子の温度上昇を、短絡故障の非検知時と比較して相対的に増大させるように構成される。
【0008】
上記モータ制御装置によれば、インバータを構成する電力用半導体スイッチング素子(スイッチング素子)の短絡故障発生時には、スイッチング素子の温度上昇を促進して、熱破壊によって開放故障状態に移行させることができる。これにより、短絡電流経路を遮断して、給電線(ケーブル)に過大電流が流れることを防止できるので、大型化やケーブル配設の制約を抑制しつつインバータの短絡故障発生時に給電線を確実に保護することが可能となる。
【0009】
また、開放故障状態とされたスイッチング素子によって過大な短絡電流の発生そのものが防止されるので、給電線の径大化、あるいは、短絡電流に対応した専用ヒューズの設置によるコストアップを招くことなく、給電線を確実に保護できる。
【0010】
好ましくは、モータ制御装置は、複数のスイッチング素子を冷却するための冷却機構をさらに備える。そして、制御部は、短絡故障の検知時において、冷却機構による冷却能力を非検知時と比較して相対的に低下させる。
【0011】
さらに好ましくは、冷却機構は、複数のスイッチング素子と熱交換可能に形成された循環冷媒通路と、循環冷媒通路に冷媒を循環させるための冷媒供給ポンプとを含む。そして、制御部は、短絡故障の検知時において、冷媒供給ポンプによる冷媒供給量を、通常時と比較して相対的に減少させる。さらに好ましくは、制御部は、短絡故障の検知時において、冷媒供給ポンプを停止させる。
【0012】
このようにすると、スイッチング素子に対応して設けられる冷却機構において、循環冷媒流量の低下あるいは冷媒供給ポンプの停止といった簡易な制御によって冷却能力を低減することにより、新たな機構を設けることなく、インバータの短絡故障発生時にスイッチング素子を開放故障に導くことができる。
【0013】
また好ましくは、各スイッチング素子は、封止材によって覆われた状態で、ケース内に格納される。
【0014】
このような構成とすることにより、インバータの短絡故障発生時にスイッチング素子を熱破壊させても、インバータ以外の部位に悪影響を及ぼすことを防止できる。
【0015】
好ましくは、モータは、車両に搭載されて、車輪の駆動軸とモータの回転軸との間は相互に回転力を伝達可能に機械的に連結される。
【0016】
このように構成すると、車両に搭載された走行用モータを制御するインバータに短絡故障が発生した場合にも、待避運転等の継続により車輪が回転する際にモータに発生する逆起電力によって、過大電流が給電線を流れて給電線が溶損することを防止できる。特に、短絡電流からの保護のために給電線を径大化する必要がないので、給電線の重量アップによる車両の燃費悪化を回避できる。
【0017】
あるいは好ましくは、モータは、ロータに永久磁石が取り付けられた永久磁石モータにより構成される。
【0018】
このように構成すると、回転に伴う逆起電力が大きく、インバータ短絡故障時に大きな短絡電流が流れる傾向にある永久磁石モータを制御するモータ制御装置においても、給電線に過大な電流が流れて溶損に至ることを防止できる。
【発明の効果】
【0019】
この発明によるモータ制御装置によれば、大型化やケーブル配設の制約を抑制しつつ、インバータの短絡故障発生時においてインバータおよびモータ間を接続する給電線(ケーブル)を確実に保護することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、以下では、図中の同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は原則的に繰返さないものとする。
【0021】
図1は、本発明の実施の形態に従うモータ制御装置を搭載した電動車両10の概略構成を示すブロック図である。なお、以下では、電動車両10としてハイブリッド車両を例示するが、本実施の形態において、電動車両は、ハイブリッド自動車に限らず、電気自動車や燃料電池自動車等、車輪の駆動軸との間で回転力を伝達可能に機械的に連結されたモータ(モータジェネレータを含む)により車両駆動力を発生する車両を意味するものとする。
【0022】
図1を参照して、電動車両10は、ハイブリッド駆動装置20と、ディファレンシャルギヤ30と、駆動軸40と、車輪(駆動輪)50とを備える。
【0023】
ハイブリッド駆動装置20は、内部にエンジン(内燃機関)および2つのモータジェネレータを内蔵し、モータおよびモータジェネレータの協調制御により出力を発生する。ハイブリッド駆動装置20の出力は、ディファレンシャルギヤ30を介して駆動軸40に伝達されて、車輪50の回転駆動に用いられる。ディファレンシャルギヤ30は、路面からの抵抗の差を利用して車輪50の左右間の回転差を吸収する。
【0024】
図2は、図1に示したハイブリッド駆動装置20の構成を詳細に説明するブロック図である。
【0025】
図2を参照して、ハイブリッド駆動装置20は、燃料の燃焼によって作動する内燃機関などのエンジン112と、そのエンジン112の回転変動を吸収するスプリング式のダンパ装置114と、そのダンパ装置114を介して伝達されるエンジン112の出力を第1モータジェネレータMG1および出力部材118に機械的に分配する遊星歯車式の動力分割機構120と、出力部材118に回転力を加える第2モータジェネレータMG2とを備えている。
【0026】
エンジン112、ダンパ装置114、動力分割機構120、および第1モータジェネレータMG1(MG1)は同軸上において軸方向に並んで配置されており、第2モータジェネレータMG2は、ダンパ装置114および動力分割機構120の外周側に同心に配設されている。
【0027】
動力分割機構120は、シングルピニオン型の遊星歯車装置で、3つの回転要素として第1モータジェネレータMG1のモータ軸124に連結されたサンギヤ120sと、ダンパ装置114に連結されたキャリア120cと、第2モータジェネレータMG2のロータ122rと連結されたリングギヤ120rとを含む。
【0028】
出力部材118は、第2モータジェネレータMG2のロータ122rとボルトなどによって一体的に固設されており、そのロータ122rを介して動力分割機構120のリングギヤ120rに連結されている。好ましくは、ロータ122rには、永久磁石123が装着されており、第2モータジェネレータMG2は出力特性に優れた永久磁石モータにより構成される。図示しないが、第1モータジェネレータMG1についても永久磁石モータにより構成されることが好ましい。
【0029】
また、出力部材118には出力歯車126が設けられており、中間軸128の大歯車130および小歯車132を介して傘歯車式のディファレンシャルギヤ30が減速回転させられて、図1に示した車輪に動力が分配される。このように、第2モータジェネレータMG2の回転軸と、車輪の駆動軸40との間は相互に回転力を伝達可能に機械的に連結されている。
【0030】
第1モータジェネレータMG1および第2モータジェネレータMG2は、それぞれ、MG1駆動回路240およびMG2駆動回路250を介して、電源である蓄電装置(バッテリ)140に電気的に接続されている。
【0031】
これらのモータジェネレータMG1,MG2は、蓄電装置140からの電気エネルギが供給されて所定のトルクで回転駆動される回転駆動状態と、回転制動(モータジェネレータ自体の電気的な制動トルク)により発電機として機能して蓄電装置140に電気エネルギを充電する充電状態と、モータ軸124やロータ122rが自由回転することを許容する無負荷状態との間で動作を切換えられる。
【0032】
ハイブリッドECU(Electronic Control Unit)100は、予め設定されたプログラムに従って信号処理を行なうことにより、運転状況に応じて、モータジェネレータMG1,MG2による走行モードを、モータ走行、充電走行やエンジン・モータ走行等の間で切換える。
【0033】
たとえばモータ走行では、ハイブリッド車両は、第1モータジェネレータMG1を無負荷状態とするとともに第2モータジェネレータMG2を回転駆動状態とし、その第2モータジェネレータMG2のみを動力源として走行する。また、充電走行では、第1モータジェネレータMG1を発電機として機能させるとともに第2モータジェネレータMG2を無負荷状態としてエンジン112のみを駆動力源として走行しながら、第1モータジェネレータMG1によって蓄電装置140が充電される。
【0034】
あるいは、エンジン・モータ走行では、第1モータジェネレータMG1を発電機として機能させる一方で、エンジン112および第2モータジェネレータMG2の両方を動力源として走行しながら第1モータジェネレータMG1によって蓄電装置140が充電される。
【0035】
また、上記モータ走行時に第2モータジェネレータMG2を発電機として機能させて回生制動する回生制動制御や、車両停止時に第1モータジェネレータMG1を発電機として機能させるとともにエンジン112を作動させ、もっぱら第1モータジェネレータMG1によって蓄電装置140を充電する充電制御などもハイブリッドECU100によって行なわれる。
【0036】
ハイブリッドECU100は、各走行モードにおいて、所望の駆動力発生や発電が行なわれるように、各モータジェネレータMG1,MG2のトルク指令値を発生する。また、エンジン112は、車両停止時には自動的に停止される一方で、その始動タイミングは、運転状況に応じてハイブリッドECU100によって制御される。
【0037】
具体的には、発進時ならびに低速走行時あるいは緩やかな坂を下るとき等の軽負荷時には、エンジン効率の悪い領域を避けるために、エンジン112を起動させることなく、第2モータジェネレータMG2による駆動力で走行する。そして、一定以上の駆動力が必要な運転状態となったときには、エンジン112が始動される。但し、暖気等のためにエンジン112の駆動が必要な場合には、エンジン112は発進時に無負荷状態で始動されて、所望の暖機が実現するまでアイドリング回転数で駆動される。また、車両駐車時に上記充電制御を行なう場合にも、エンジン112が始動される。
【0038】
図3は、図2に示されたモータジェネレータを駆動する駆動回路の電気的な構成を示す回路図である。
【0039】
図3を参照して、直流電源210は、図2に示した蓄電装置(バッテリ)140を含んで構成されて、電源ライン220およびアースライン230の間に直流電圧を出力する。たとえば、直流電源210を二次電池(バッテリ)および昇降圧コンバータの組合わせにより、二次電池の出力電圧を変換して電源ライン220およびアースライン230の間に出力する構成とすることが可能である。この場合には、昇降圧コンバータを双方向の電力変換可能なように構成して、電源ライン220およびアースライン230間の直流電圧を二次電池の充電電圧に変換する。電源ライン220およびアースライン230の間には、平滑コンデンサ222が接続される。
【0040】
第1モータジェネレータMG1および第2モータジェネレータMG2の間で、その構成、駆動回路の構成、および制御方式についてはそれぞれ同様である。したがって、以下では、第1モータジェネレータMG1および第2モータジェネレータMG2を総括的にモータジェネレータMG♯と表記し、かつ、MG1駆動回路240およびMG2駆動回路250を総括的にMG駆動回路240♯と表記する。そして、MG駆動回路240♯によるモータジェネレータMG♯の制御について以下に説明する。
【0041】
MG駆動回路240♯は、一般的な三相インバータを構成する、電力用半導体スイッチング素子(以下、単にスイッチング素子とも称する)Q11〜Q16と、スイッチング素子Q11〜Q16にそれぞれ対応して設けられた逆並列ダイオードD11〜D16とを含む。スイッチング素子としては、たとえばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)が適用される。スイッチング素子Q11〜Q16は、対応の駆動回路T11〜T16によって、MG1−ECU110からのスイッチング制御信号SG11〜SG16にそれぞれ対応してオンオフ制御、すなわちスイッチング制御される。以下では、MG駆動回路240♯を単にインバータ240♯とも称する。
【0042】
一般的に、インバータ240♯は、スイッチング素子Q11〜Q16、逆並列ダイオードD11〜D16、および、駆動回路T11〜T16が一体化されたIPM(Intelligent Power Module)として設けられる。IPMには、温度センサ等の各種センサが内蔵されて、各スイッチング素子Q11〜Q16の異常検出を実行可能である。すなわち、IPMからの出力信号に基づいて、各スイッチング素子Q11〜Q16について、短絡故障が発生したことを検知できる。
【0043】
モータジェネレータMG♯は、U相コイル巻線270U、V相コイル巻線270VおよびW相コイル巻線270Wが中性点N1に共通接続されて構成された3相永久磁石モータである。インバータ240♯の各相の上アーム素子(Q11,Q13,Q15)および下アーム素子(Q12,Q14,Q16)の中間点は、パワーケーブル280によって、各相コイル巻線270U、270V,270Wと電気的に接続される。
【0044】
U,V,W相のうちの少なくとも2相において電流センサ241,242がそれぞれ設けられる。U相、V相、W相のモータ駆動電流(瞬時値)の和はゼロであることから、2相に電流センサ241,242を配置することによって各相のモータ電流を検出することができる。電流センサ241,242は、対応相の通過電流に応じた出力電圧を発生して、MG−ECU110へ送出する。
【0045】
モータジェネレータMG♯には、ロータ回転角を検出する位置センサ243がさらに配置される。位置センサ243によって検出された回転角は、MG−ECU110へ送出される。なお、モータジェネレータMGに対して、電流センサ241,242および位置センサ243の他にも適宜センサを設けて、このセンサによる出力をMG−ECU110へ送出してモータ駆動制御に用いてもよい。
【0046】
次に、モータジェネレータの制御構成について説明する。ハイブリッドECU100は、モータジェネレータMG♯の運転指令を生成して、MG−ECU110へ送出する。この運転指令には、モータジェネレータMG♯の運転許可/禁止指示や、トルク指令値、回転数指令等が含まれる。MG−ECU110は、電流センサ241,242および位置センサ243からの検出値に基づくフィードバック制御により、ハイブリッドECU100からの指令に従ってモータジェネレータMG♯が動作するように、スイッチング素子Q11〜Q16のスイッチング動作を制御する制御信号SG11〜SG16を発生する。
【0047】
ハイブリッドECU100からモータジェネレータMG♯の運転禁止指示が発せられた場合には、MG−ECU110は、インバータ240♯を構成するスイッチング素子Q11〜Q16の各々がスイッチング動作を停止(すべてオフ)するように、スイッチング制御信号SG11〜SG16を生成する。
【0048】
一方、ハイブリッドECU100によりモータジェネレータMG♯の運転指示が発せられている場合には、MG−ECU110は、モータジェネレータMG♯のトルク指令値に応じた各相モータ電流が供給されるように、電源ライン220およびアースライン230間の直流電圧をモータジェネレータMG♯の各相コイルに印加される交流電圧に変換するためのスイッチング制御信号SG11〜SG16を発生する。なお、モータジェネレータMG♯の回生制動制御時には、MG−ECU110は、モータジェネレータMG♯によって発電された交流電圧を電源ライン220およびアースライン230間の直流電圧に変換するように、スイッチング制御信号SG11〜SG16を発生する。これらの際に、スイッチング制御信号SG11〜SG16は、たとえば周知のPWM制御方式に従う、センサ検出値を用いたフィードバック制御により生成される。
【0049】
なお、図3では包括的に表記されているが、上記運転指令は第1モータジェネレータMG1および第2モータジェネレータMG2について独立に生成され、モータ駆動制御について独立に実行される。すなわち、制御信号SG11〜SG16についても、インバータ240,250(図2)のそれぞれについて別個に生成される点について確認的に記載する。
【0050】
また、MG−ECU110によって検知された、インバータ240♯(すなわち、インバータ240,250の双方)の異常に関する情報は、モータジェネレータMG♯の運転指令とは反対方向に、ハイブリッドECU100に対して送出される。ハイブリッドECU100は、これらの異常情報をモータジェネレータMG1,MG2の運転指令へ反映することが可能なように構成されている。
【0051】
図2および図3に示した構成において、モータジェネレータMG1,MG2,MG♯は、本発明における「モータ」に対応し、インバータ240♯,240,250は、本発明における「インバータ」に対応する。また、パワーケーブル280は、本発明における「給電線」に対応する。
【0052】
図4は、インバータを構成するスイッチング素子の実装例を説明する断面図である。
図4を参照して、インバータ240♯の構成部品311〜314は、基板310上に搭載される。構成部品311〜314は、代表的には、スイッチング素子Q11〜Q16に相当する。
【0053】
スイッチング素子Q11〜Q16は、オンオフ時に発生する電力損失により発熱する。このため、スイッチング素子を冷却するための冷却機構が必要とされる。したがって、基板310は、冷却水通路305が設けられたケース300の上に配置される。
【0054】
さらに、基板310上に搭載された構成部品群のうち、少なくともスイッチング素子Q11〜Q16は、樹脂等の封止材320によって封止される。たとえば、ゲル状の封止材320が用いられる。そして、基板310の上部には、固定部材340によってケース300に固定された蓋部330がさらに設けられてもよい。
【0055】
図5には、スイッチング素子の冷却機構の構成が概略的に示される。
図5を参照して、冷却水通路305は、冷却水ポンプ350、冷却水配管360およびラジエータ370と共に、スイッチング素子の「冷却機構」である循環冷却系を構成している。すなわち、冷却水ポンプ350によって循環され、かつ、ラジエータ370により放熱される冷却水(冷媒の代表例)が冷却水通路305を通過する。
【0056】
そして、冷却水通路305の冷却水と基板310との熱交換により、スイッチング素子Q11〜Q16は冷却される。たとえば、循環冷却系に設けられた温度センサ(図示せず)による検出温度に基づいて、必要な冷却能力が確保されるように、冷却水ポンプ350による冷却水供給量やラジエータファン(図示せず)の運転等が制御される。
【0057】
なお、図5に示した冷却水配管360は、インバータ240♯のみでなく、モータジェネレータMG♯の構成部品についても冷却可能なように構成することが好ましい。また、上述のスイッチング素子の冷却機構について、エンジンの冷却機構との間で、冷却水ポンプ350を共有するように構成してもよい。
【0058】
再び図3を参照して、インバータ240♯を構成するスイッチング素子Q11〜Q16のいずれかに短絡故障が発生すると、モータジェネレータMG♯の回転に伴って発生する逆起電力により、大きな短絡電流が発生する可能性がある。そして、この短絡電流が継続的に発生することにより、特許文献1にも記載されるように、パワーケーブル280が発熱し溶損に至ることが懸念される。特に、モータジェネレータMG♯が永久磁石モータによって構成されることにより、逆起電力が大きくなり短絡電流も大きくなる。
【0059】
また、電動車両10に搭載されるモータジェネレータMG♯では、車輪50の回転に伴って回転されることにより短絡電流が発生してしまう。しかしながら、異常発生時に安全確保可能な位置までの最低限の車両移動を確保するための退避走行の必要性から、パワーケーブル280がある程度までは短絡電流に耐えられるように設計する必要が生じる。このため、パワーケーブル280の径大化が必要となることにより、コストアップおよび重量アップによる通常走行時の燃費低下を招いてしまう。
【0060】
このため、本実施の形態によるモータ制御装置は、パワーケーブル280の径大化を行うことなく短絡電流による溶損を防止できるように、スイッチング素子の短絡故障に以下のように対処する。
【0061】
図6は、本発明の実施の形態によるモータ制御装置の概略構成を説明するブロック図である。
【0062】
図6を参照して、本発明によるモータ制御装置は、制御部400と短絡検知部410を含む。
【0063】
短絡検知部410は、たとえば、IPMとして設けられたインバータ240♯の異常検知機能によって実現される。すなわち、インバータを構成するスイッチング素子Q11〜Q16の故障発生については、IPMに内蔵された、過電流センサ、過電圧センサ、温度センサ等によって検知され、その情報が制御部400に送出される。あるいは、これ以外の手法により、たとえば、電流センセ241,242の検出値に基づいて短絡検知信号FLTを発生してもよい。
【0064】
制御部400は、短絡検知部410から短絡検知信号FLTが発生されると、冷却機構(図5)によるスイッチング素子の冷却能力を低下させることによって、同一の通過電流に対するスイッチング素子の温度上昇を増大させる。代表的には、図6に示すように、冷却水ポンプ350に対して停止指令STPを発生することによって、冷却能力の低下が実現される。制御部400は、MG−ECU110あるいはハイブリッドECU100によるソフトウェア処理あるいはハードェア処理により実現される。
【0065】
次に図7および図8を用いて、インバータの短絡故障発生時および開放故障発生時における短絡電流の違いについて説明する。
【0066】
図7に示すように、モータジェネレータMG♯の回転に伴って、ロータ(図示せず)に装着された永久磁石123が回転することにより、モータジェネレータMG♯のコイル巻線270U,270V,270Wに誘起電圧が発生する。
【0067】
図7には、オン状態を維持して制御不能となる短絡故障がスイッチング素子Q12に発生したケースが、インバータ240♯の短絡故障の一例として示される。
【0068】
このようなケースでは、スイッチング制御信号SG11〜SG16により、各スイッチング素子Q11〜Q16のスイッチング動作を停止(オフ状態)するように制御しても、短絡故障したスイッチング素子Q12を介した短絡経路が形成される。具体的には、コイル巻線270U〜スイッチング素子Q12(短絡故障)〜アースライン230〜ダイオードD14〜コイル巻線270V〜中性点N1〜コイル巻線270Uを経由する、アースライン230を介した短絡経路が形成される。このため、誘起電圧および当該短絡経路の電気抵抗に応じた短絡電流Iabが発生する。
【0069】
この際に、短絡電流による各素子の温度上昇量は、ジュール熱(Iab2×R)と熱抵抗との積に比例する。各スイッチング素子では熱抵抗も低く設計されており、かつ、短絡故障時の抵抗値Rも比較的低い。このため、冷却機構が通常の冷却能力を発揮している状態では、短絡電流Iabが大きくなっても、熱破壊が発生せず、短絡状態が維持される可能性がある。
【0070】
一方で、パワーケーブル280は、スイッチング素子の短絡時抵抗値Rよりも抵抗値が高く、かつ、熱抵抗を抑制する設計も通常施されないため、上記のような短絡状態が長期間維持されると、発熱が増大して溶損に至る可能性がある。また、インバータの短絡故障に対して、上述の退避走行を一定距離確保しようとすれば、パワーケーブル280を径大化する必要が生じる。
【0071】
これに対して、スイッチング素子がオフ状態を維持して制御不能となるインバータの開放故障の発生時には、図7に示すような大きな異常電流は発生しない。
【0072】
図8には、図7と同様のスイッチング素子Q12が開放故障を起こした場合における短絡電流Iabの経路が示される。
【0073】
図8を参照して、開放故障の発生時には、各スイッチング素子Q11〜Q16のスイッチング動作を停止(オフ状態)するように制御することにより、各コイル巻線およびアースライン230を含む短絡経路は形成されず、各コイル巻線に発生した誘起電圧は、上アームのダイオードD11,D13,D15を介して電源ライン220に接続された平滑コンデンサ222の充電電圧となる。このため、開放故障時に発生する異常電流Iab♯は、図7での短絡電流Iabよりも低く、この異常電流Iab♯により、パワーケーブル280が溶損に至る可能性は低い。
【0074】
したがって、本発明の実施の形態によるモータ制御装置では、図6に示した構成により、図9のフローチャートに示すような制御処理を実現する。たとえば、図9による制御処理は、図3に示したMG−ECU110あるいはハイブリッドECU100(以下、包括的にECUと表記する)によるソフトウェア処理によって実現できる。または、専用のハードウェア(電子回路)によって、図9に従う制御を実行してもよい。
【0075】
図9を参照して、ECUは、ステップS100により、インバータを構成するスイッチング素子に短絡故障が発生しているかどうかを判断する。ステップS100による処理は、たとえば図6に示した短絡検知部410からの短絡検知信号FLTの発生有無により判断される。
【0076】
そして、ECUは、短絡故障の検知時(S100のYES判定時)には、ステップS110により、スイッチング素子を開放故障に導くような温度上昇措置を実行する。上述のように、ステップS110の処理は、冷却機構(図5)における冷却水流量の低下、好ましくは、冷却水ポンプ350の停止によって実現される。
【0077】
各スイッチング素子Q11〜Q16の熱容量は小さいため、上記のように冷却能力を低下させることによって、短絡故障したスイッチング素子を、短絡電流により発生するジュール熱により速やかに熱破壊させて開放故障状態とすることができる。
【0078】
一方、ECUは、短絡故障の非検知時(S100のNO判定時)には、ステップS110の処理を実行しない。この結果、冷却機構では通常の冷却能力が確保されて、通常運転中のインバータ240,250のスイッチング素子が熱故障しないように十分な冷却能力が確保される。すなわち、ステップS100,S110による処理は、図6の制御部400の機能に相当する。
【0079】
このような構成とすることにより、インバータを構成するスイッチング素子に短絡故障が発生しても、当該スイッチング素子を温度上昇させて熱破壊による開放故障に速やかに導くことにより、図7に示したような大きな短絡電流が発生することを防止できる。
【0080】
この結果、パワーケーブル280を短絡電流に対処して径大化することなく、あるいは、短絡電流に対処するための新たなヒューズ素子等を設けることなく、短絡電流によるパワーケーブル280の溶損を防止できる。すなわち、コストアップおよび重量アップによる燃費低下を回避しつつ、インバータの短絡故障発生時にパワーケーブル280を確実に溶損から保護できる。なお、当該制御の実行時には、所定のダイアグコードを発生することにより、故障発生による部品交換対象のインバータを特定することができる。
【0081】
また、図4に示すように、インバータを構成する各スイッチング素子Q11〜Q16を、封止材320によって封止された状態でケース300内に配置することにより、熱破壊によって開放故障させても、インバータ(IPM)以外の部位に悪影響を及ぼすことを防止できる。
【0082】
なお、短絡検知部410からの短絡検知信号FLTについては、短絡故障と開放故障とを特に識別することなく、故障発生を示す信号としてもよい。このようにすると、いずれの故障形態にせよスイッチング素子の交換が必要となる点を考慮して、短絡故障および開放故障が正確に識別できなかった場合にも、パワーケーブル280の保護に関してフェールセーフ化を図ることができる。
【0083】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の実施の形態に従うモータ制御装置を搭載した電動車両の概略構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示したハイブリッド駆動装置の構成を詳細に説明するブロック図である。
【図3】図2に示されたモータジェネレータを駆動する駆動回路の電気的な構成を示す回路図である。
【図4】図3に示されたスイッチング素子の実装例を説明する断面図である。
【図5】スイッチング素子の冷却機構の構成を説明する概略図である。
【図6】本発明の実施の形態によるモータ制御装置の概略構成を説明するブロック図である。
【図7】インバータの短絡故障発生時における短絡電流の発生を説明する図である。
【図8】インバータの開放故障発生時における短絡電流の発生を説明する図である。
【図9】本発明の実施の形態によるモータ制御装置による制御処理を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0085】
10 電動車両、20 ハイブリッド駆動装置、30 ディファレンシャルギヤ、40 駆動軸、50 車輪(駆動輪)、100 ハイブリッドECU、110 MG−ECU、112 エンジン、114 ダンパ装置、118 出力部材、120 動力分割機構、120c キャリア、120s サンギヤ、120r リングギヤ、122r ロータ、123 永久磁石、124 モータ軸、126 出力歯車、128 中間軸、130 大歯車、132 小歯車、140 蓄電装置、210 直流電源、220 電源ライン、222 平滑コンデンサ、230 アースライン、240 MG1駆動回路(インバータ)、240♯ MG駆動回路(インバータ)、241,242 電流センサ、243 位置センサ、250 MG2駆動回路(インバータ)、270U,270V,270W コイル巻線、280 パワーケーブル、300 ケース、305 冷却水通路、310 基板、311〜314 構成部品、320 封止材、330 蓋部、340 固定部材、350 冷却水ポンプ、360 冷却水配管、370 ラジエータ、400 制御部、410 短絡検知部、D11〜D16 逆並列ダイオード、FLT 短絡検知信号、Iab 短絡電流、Iab♯ 異常電流、MG1,MG2,MG♯ モータジェネレータ(モータ)、N1 中性点、Q11〜Q16 電力用半導体スイッチング素子、SG11〜SG16 スイッチング制御信号、STP 停止指令(冷却水ポンプ)、T11〜T16 駆動回路(スイッチング素子)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
給電線を介してモータと接続されたインバータと、
前記インバータを構成する複数のスイッチング素子の短絡故障を検知する短絡検知部と、
前記短絡検知部による前記短絡故障の検知時に、同一の電流通過に対する各前記スイッチング素子の温度上昇を、前記短絡故障の非検知時と比較して相対的に増大させるように構成された制御部とを備える、モータ制御装置。
【請求項2】
前記複数のスイッチング素子を冷却するための冷却機構をさらに備え、
前記制御部は、前記短絡故障の検知時において、前記冷却機構による冷却能力を前記非検知時と比較して相対的に低下させる、請求項1記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記冷却機構は、
前記複数のスイッチング素子と熱交換可能に形成された循環冷媒通路と、
前記循環冷媒通路に冷媒を循環させるための冷媒供給ポンプとを含み、
前記制御部は、前記短絡故障の検知時において、前記冷媒供給ポンプによる冷媒供給量を、前記通常時と比較して相対的に減少させる、請求項2記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記短絡故障の検知時において、前記冷媒供給ポンプを停止させる、請求項3記載のモータ制御装置。
【請求項5】
各前記スイッチング素子は、封止材によって覆われた状態で、ケース内に格納される、請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記モータは、車両に搭載されて、車輪の駆動軸と前記モータの回転軸との間は相互に回転力を伝達可能に機械的に連結される、請求項1〜5のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項7】
前記モータは、ロータに永久磁石が取り付けられた永久磁石モータにより構成される、請求項1〜6のいずれか1項に記載のモータ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−106025(P2009−106025A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−273627(P2007−273627)
【出願日】平成19年10月22日(2007.10.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】