説明

モータ装置、回転子の駆動方法及び軸部材の駆動方法

【課題】高トルクを発生させることができる、小型のモータ装置、回転子の駆動方法及び軸部材の駆動方法を提供すること。
【解決手段】第1部材と、前記第1部材を取り囲んで設けられる第2部材と、前記第1部材に接続され、前記第2部材の内面の少なくとも一部に対して当接状態及び離間状態とすることが可能に設けられた伝達部材と、前記伝達部材に接続され、前記伝達部材を前記当接状態として前記第1部材及び前記第2部材のうち少なくとも一方に回転力を付与する駆動部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ装置、回転子の駆動方法及び軸部材の駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば旋回系機械を駆動させるアクチュエータとして、モータ装置が用いられている。このようなモータ装置として、例えば電動モータや超音波モータなど、比較的に高トルクを発生させることが可能なモータ装置が広く知られている。近年では、ヒューマノイドロボットの関節部分など、より精密な部分を駆動させるモータ装置が求められており、電動モータや超音波モータなどの既存のモータにおいても小型化、トルクの制御性等、細密で高精度な駆動を行うことができる構成が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−311237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、例えば、電動モータや超音波モータにおいては、高トルクを発生させるためには減速機を取り付ける必要があるため、小型化には限界がある。
【0005】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、高トルクを発生させることができる、小型のモータ装置、回転子の駆動方法及び軸部材の駆動方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るモータ装置(MTR、MTR3、MTR4)は、第1部材(SF)と、前記第1部材を取り囲んで設けられる第2部材(CY)と、前記第1部材に接続され、前記第2部材の内面(20)の少なくとも一部に対して当接状態及び離間状態とすることが可能に設けられた伝達部材(BT、BT1〜BT3、TR1〜TR3)と、前記伝達部材に接続され、前記伝達部材を前記当接状態として前記第1部材及び前記第2部材のうち少なくとも一方に回転力を付与する駆動部(AC、AC1〜AC3)とを備えることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る回転子の駆動方法は、軸部材(SF)に接続された伝達部材(BT)を、前記軸部材を取り囲んで設けられる回転子(CY)の内面(20)の少なくとも一部に対して当接状態として前記回転子に回転力を付与する駆動ステップと、前記伝達部材を前記回転子の前記内面に対して離間状態として前記伝達部材を所定の位置に戻す復帰ステップとを含むことを特徴とする。
【0008】
本発明に係る軸部材の駆動方法は、軸部材(SF)に接続された伝達部材(BT)を、前記軸部材を取り囲んで設けられる固定子(CY)の内面(20)の少なくとも一部に対して当接状態として前記軸部材に回転力を付与する駆動ステップと、前記伝達部材を前記固定子の前記内面に対して離間状態として前記伝達部材を所定の位置に戻す復帰ステップとを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高トルクを発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1実施形態に係るモータ装置の構成を示す斜視図。
【図2】本実施形態におけるモータ装置の一部の構成を示す図。
【図3】本実施形態におけるモータ装置の一部の構成を示す図。
【図4】本実施形態におけるモータ装置の制御部の構成を示す図。
【図5】本実施形態におけるモータ装置の特性を示すグラフ。
【図6】本実施形態におけるモータ装置の動作を示す図。
【図7】本実施形態におけるモータ装置の動作を示す図。
【図8】本実施形態におけるモータ装置の動作を示す図。
【図9】本実施形態におけるモータ装置の動作を示す図。
【図10】本発明の第2実施形態に係るモータ装置の動作を示す図。
【図11】本実施形態におけるモータ装置の動作を示す図。
【図12】本実施形態におけるモータ装置の動作を示す図。
【図13】本実施形態におけるモータ装置の動作を示す図。
【図14】本実施形態におけるモータ装置の動作を示す図。
【図15】本実施形態におけるモータ装置の動作を示す図。
【図16】本発明の第3実施形態に係るモータ装置の構成を示す模式図。
【図17】本実施形態におけるモータ装置の一部の構成を示す図。
【図18】本発明の第4実施形態に係るモータ装置の構成を示す模式図。
【図19】本実施形態におけるモータ装置の一部の構成を示す図。
【図20】本実施形態におけるモータ装置の一部の構成を示す図。
【図21】本実施形態に係るモータ装置の動作を示す図。
【図22】本実施形態におけるモータ装置の動作を示す図。
【図23】本実施形態におけるモータ装置の動作を示す図。
【図24】本実施形態に係るモータ装置の他の構成を示す図。
【図25】本発明の第5実施形態に係るモータ装置の動作を示す図。
【図26】本実施形態におけるモータ装置の動作を示す図。
【図27】本発明の第6実施形態に係るモータ装置の適用例を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面に基づき、本発明の実施の形態を説明する。
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態を説明する。図1は、本実施形態に係るモータ装置MTRの一例を示す概略構成図である。
同図に示すように、モータ装置MTRは、軸部材SF、円筒部材CY、伝達部材BT、駆動部AC及び制御部CONTを有している。本実施形態に係るモータ装置MTRは、軸部材SFを囲うように配置された円筒部材CYが回転子として回転するようになっている。制御部CONTは駆動部ACに接続されており、当該駆動部ACに対して制御信号を供給可能になっている。
【0012】
図2は、軸部材SFの構成を示す図である。
同図に示すように、軸部材SFは、円柱状に形成されており、軸部11と、突出部12とを有している。軸部11は、例えば不図示の固定部に固定されている。突出部12は、軸部11に径方向に突出している部分である。突出部12は、軸部11の円柱高さ方向に沿って例えば板状に形成されている。突出部12の板面12a及び板面12bのそれぞれには、駆動部ACが固定されている。軸部材SFは、例えばアルミニウムなどの導電材料によって構成されている。
【0013】
図3は、モータ装置MRTの構成を示す断面図である。
図3に示すように、円筒部材CYは、軸部材SFの中心軸周りを囲うように設けられている。円筒部材CYは、軸部材SFの中心軸周りに回転可能に設けられている。円筒部材CYは、円筒部材CYの中心軸と軸部材SFの軸部11の中心軸とが一致するように配置されている。したがって、円筒部材CYの回転の中心軸は、軸部11の中心軸と一致することとなる。円筒部材CYの中心軸と軸部11の中心軸とがずれないように、例えば不図示のベアリング機構を配置させるようにしても構わない。円筒部材CYは、回転重心位置がばらつかないように、例えば径方向の寸法(厚さ)が均一に形成されている。
【0014】
伝達部材BTは、帯状に形成されており、円筒部材CYの内面20に沿って設けられている。伝達部材BTは、円筒部材CYの内面に押圧可能に形成されている。伝達部材BTは、内面20に沿って配置させたときに形状が崩れない程度の剛性を有すると共に、内面20に押圧させたときに内面20の形状に従って変形し当該内面20との間に摩擦力が生じる程度の弾性を有するように形成されている。伝達部材BTと円筒部材CYの内面との間の摩擦係数は、それぞれ例えば0.3となるように形成されている。伝達部材BTには、例えばスチールなどの導電材料が含まれている。伝達部材BTは、両端部が折り曲げられた状態になっている。伝達部材BTのうち当該折り曲げ部21は、それぞれ駆動部ACに接続されている。
【0015】
駆動部ACは、電歪素子32を有している。電歪素子32は、軸部材SFの突出部12の板面12a上及び板面12b上に1つずつ設けられている。以下、板面12a上に配置された電歪素子32を第1電歪素子32Aと表記し、板面12b上に配置された電歪素子32を第2電歪素子32Bと表記する。
【0016】
第1電歪素子32A及び第2電歪素子32Bは、突出部12の長手方向に沿って例えば角柱状に形成されている。第1電歪素子32A及び第2電歪素子32Bは、突出部12の先端12cを挟むように配置されている。したがって、第1電歪素子32A及び第2電歪素子32Bは、突出部12の先端を基準位置としたときに、当該基準位置を挟むように一対設けられていることになる。第1電歪素子32A及び第2電歪素子32Bは、基準位置である先端12cに対して互いに反対方向へ変形するように形成されている。
【0017】
第1電歪素子32A及び第2電歪素子32Bのうち変形方向の先端部は、上記の伝達部材BTの折り曲げ部21に接続されている。第1電歪素子32A及び第2電歪素子32Bが変形することにより、当該第1電歪素子32A及び第2電歪素子32Bの先端は、円筒部材CYの内面の接線方向に変位する。第1電歪素子32A及び第2電歪素子32Bは、伝達部材BTの折り曲げ部21を当該接線方向に移動させるようになっている。第1電歪素子32A及び第2電歪素子32Bとしては、例えばピエゾ素子などが用いられる。
【0018】
第1電歪素子32A及び第2電歪素子32Bに電気信号を供給しない場合、図3に示すように、円筒部材CYの内面20と伝達部材BTとの間に隙間が形成された状態となる。この状態から第1電歪素子32A及び第2電歪素子32Bに電気信号を供給すると、当該第1電歪素子32A及び第2電歪素子32Bが膨張するように変形し、当該変形による力が先端12cから離れる方向(以下、「外側」と表記する)に対して作用する。この力は、伝達部材BTの折り曲げ部21を内面20側へ押圧する。このため、伝達部材BTの折り曲げ部21は外側に移動し、伝達部材BTの全体が内面20に接触した状態となる(図中破線で示す状態)。
【0019】
一方、この状態から第1電歪素子32A及び第2電歪素子32Bに電気信号の供給を停止すると、当該第1電歪素子32A及び第2電歪素子32Bが収縮するように変形し、折り曲げ部21が基準位置に近づく方向(以下、「内側」と表記する)に移動する。この結果、伝達部材BTの折り曲げ部21が元の位置に戻ることになる。
【0020】
図4は、制御部CONTの構成を示すブロック図である。
制御部CONTは、位置指令部81と、演算部82と、コントローラ83と、アンプ84とを有している。上記モータ装置MTRは、回転子(例、円筒部材CYなど)の位置をエンコーダによって検出できるようになっている。制御部CONTは、当該エンコーダの検出値に基づき、第1電歪素子32A及び第2電歪素子32Bの変形量、変形の速度誤差を推力に変換して駆動部ACに対する指令値とする。
【0021】
次に、円筒部材CYの駆動動作を図5〜図9で説明する。
本実施形態に係るモータ装置MTRにおいて、円筒部材CYを駆動させる原理を説明する。円筒部材CYを駆動させる際には、円筒部材CYの内面20に伝達部材BTを押圧した状態で有効押圧力を生じさせ、当該有効押圧力によって円筒部材CYにトルクを伝達する。
【0022】
オイラーの摩擦ベルト理論により、円筒部材CYに押圧された伝達部材BTの第1端部22A側の押圧力T1及び第2端部22B側の押圧力T2が下記[数1]を満たすとき、伝達部材BTと円筒部材CYとの間で摩擦力が生じ、伝達部材BTが円筒部材CYに対して滑りを生じることの無い状態(当接状態)で円筒部材CYと共に移動する。この移動により、円筒部材CYにトルクが伝達される。ただし、[数1]において、μは伝達部材BTと円筒部材CYとの間の見かけ上の摩擦係数であり、θは円筒部材CYの内面20のうち当接状態となっている部分の有効押し付け角である。
【0023】
【数1】

【0024】
このとき、トルクの伝達に寄与する有効押圧力は、(T1−T2)によって表される。上記[数1]に基づいて有効押圧力(T1−T2)を求めると、[数2]のようになる。[数2]は、T1を用いて有効押圧力を表す式である。
【0025】
【数2】

【0026】
上記[数2]より、円筒部材CYに伝達されるトルクは第1電歪素子32Aの押圧力T1によって一意に決定されることがわかる。[数2]の右辺のT1の係数部分は、伝達部材BTと円筒部材CYとの間の摩擦係数μ及び伝達部材BTの有効押し付け角θにそれぞれ依存する。図5は、摩擦係数μを変化させたときの有効押し付け角θと係数部分の値との関係を示すグラフである。グラフの横軸は有効押し付け角θを示しており、グラフの縦軸は係数部分の値を示している。
【0027】
図5に示すように、例えば摩擦係数μが0.3の場合には、有効押し付け角θが300°以上のときに係数部分の値が0.8以上となっている。このことから、摩擦係数μが0.3の場合には、有効押し付け角θを300°以上とすることにより、第1電歪素子32Aによる押圧力T1の80%以上の力が円筒部材CYのトルクに寄与することがわかる。この有効押し付け角の他、図5のグラフから、例えば伝達部材BTと円筒部材CYとの間の摩擦係数を大きくするほど、係数部分の値が大きくなることが推定される。
【0028】
このように、トルクの大きさは第1電歪素子32Aの押圧力T1によって一意に決定されることになり、例えば伝達部材BTの移動距離などには無関係であることがわかる。したがって、例えば第1電歪素子32A及び第2電歪素子32Bに用いられるピエゾ素子などは、数ミリ程度の小型素子であっても、数百ニュートン以上の力を出すことができるのでとても大きな回転力を付与することができる。
【0029】
このような原理に基づいて、制御部CONTは、図6に示すように、まず第1端部22A及び第2端部22Bがそれぞれ外側に移動するように第1電歪素子32A及び第2電歪素子32Bを変形させる。この動作により、伝達部材BTの第1端部22A側には押圧力T1が発生し、伝達部材BTの第2端部22B側には押圧力T2が発生する。したがって、伝達部材BTに有効押圧力(T1−T2)が発生する。
【0030】
制御部CONTは、伝達部材BTに有効押圧力を発生させた状態を保持しつつ、図7に示すように、伝達部材BTの第1端部22Aが外側に移動するように、かつ、第2端部22Bが内側に移動するように第1電歪素子32A及び第2電歪素子32Bを変形させる(駆動ステップ)。この動作において、制御部CONTは、第1端部22Aの移動距離と第2端部22Bの移動距離とを等しくさせる。この動作により、伝達部材BTと円筒部材CYとの間に摩擦力が発生した状態で伝達部材BTが移動し、当該移動と共に円筒部材CYが図中θ方向に回転する。
【0031】
本実施形態では、伝達部材BTと円筒部材CYとの間の摩擦係数μが0.3であり、伝達部材BTが円筒部材CYの突出部12に例えば300°程度押圧された状態になっている。したがって、図4のグラフを参照すると、第1電歪素子32Aの押圧力T1の80%程度の力がトルクとして円筒部材CYに伝達されることになる。
【0032】
制御部CONTは、第1端部22A及び第2端部22Bを所定距離だけ移動させた後、図8に示すように、第1端部22Aが駆動の開始位置(所定位置)へ戻るように、かつ、第2端部22Bが移動しないように、第1電歪素子32Aだけを変形させる。この動作により、第1端部22Aが内側へ移動し、伝達部材BTの押し付けが解除された状態(離間状態)になる。つまり、伝達部材BTに付加されていた有効押圧力が解除された状態になる。この状態においては、伝達部材BTと円筒部材CYとの間に摩擦力は発生せず、円筒部材CYは慣性によって回転し続けることになる。
【0033】
制御部CONTは、伝達部材BTの押し付けを緩ませた後、図9に示すように、第1端部22A及び第2端部22Bが駆動の開始位置(所定位置)へ戻るように第1電歪素子32A及び第2電歪素子32Bを変形させる。この動作により、伝達部材BTの押し付けが緩んだまま、すなわち、有効押圧力が発生しないまま、伝達部材BTの第1端部22A及び第2端部22Bが駆動の開始位置(所定位置)へ戻っていく(復帰ステップ)。
【0034】
第1端部22A及び第2端部22Bが駆動開始位置に戻される直前になったら、制御部CONTは、第1電歪素子32A及び第2電歪素子32Bを変形させて第1端部22A及び第2端部22Bを外側へ移動させる。この動作により、第1端部22A側に押圧力T1が発生し、第2端部22B側に押圧力T2が発生する。これにより、駆動開始時に伝達部材BTに有効押圧力を付加させた状態(図6の状態)と同様の状態となる。
【0035】
伝達部材BTに有効押圧力が付加された後、制御部CONTは、伝達部材BTの第1端部22Aが外側に移動するように第1電歪素子32Aを変形させ、第2端部22Bが内側に移動するように第2電歪素子32Bを変形させる(駆動ステップ)。このとき、第1端部22Aの移動距離と第2端部22Bの移動距離とを等しくさせる。この動作により、伝達部材BTと円筒部材CYとの間に摩擦力が発生した状態で伝達部材BTが移動し、当該移動と共に円筒部材CYがθ方向に回転する。
【0036】
この後、制御部CONTは、伝達部材BTに付加されていた有効押圧力を再度解除させる。制御部CONTは、有効押圧力を解除させた後、伝達部材BTの第1端部22A及び第2端部22Bが開始位置に戻るように移動させる(復帰ステップ)。このように制御部CONTが上記駆動動作と復帰動作とを駆動部ACに繰り返し行わせることにより、円筒部材CYがθ方向に回転し続けることになる。
【0037】
このように、本実施形態によれば、軸部材SFと、当該軸部材SFを取り囲んで設けられる円筒部材CYと、軸部材SFに接続され円筒部材CYの内面の少なくとも一部に対して当接状態及び離間状態とすることが可能に設けられた伝達部材BTと、当該伝達部材BTに接続され伝達部材BTを当接状態として円筒部材CYに回転力を付与する駆動部ACとを備えることとしたので、オイラーの摩擦ベルト理論により、伝達部材BTに付加する一方の押圧力によってトルクが一意に決定されることになる。したがって、減速機等を取り付けなくても、また、小型の駆動部ACであっても高いトルクを円筒部材CYに付加させることが可能となる。これにより、高トルクを発生させることができる小型のモータ装置MTRを得ることができる。また、小型の駆動部ACであっても高効率で円筒部材CYを回転させることが可能となる。
【0038】
また、本実施形態によれば、第1電歪素子32Aによる押圧力T1の大きさを制御することによって円筒部材CYに伝達されるトルクを制御することができるので、トルク制御を容易に行うことができる。
【0039】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態を説明する。
本実施形態では、モータ装置MTRの動作の際、伝達部材BTの弾性変形を利用する点で、第1実施形態とは異なっている。したがって、モータ装置MTRの構成については、伝達部材BTが弾性変形可能になっている点以外は、第1実施形態と同一の構成を用いることができる。
【0040】
本実施形態では、伝達部材BTのばね定数をkとする。ここで、オイラーの摩擦ベルト理論により、円筒部材CYの保持力Tを下記[数3]のように設定する。この保持力Tとは、静止している円筒部材CYを動き出させるために必要な力である。また、第1端部22A側の目標押圧力をT1e、第2端部22B側の目標押圧力をT2e、目標有効押圧力をTgoalとすると、以下の[数4]及び[数5]を満たす。
【0041】
【数3】

【0042】
【数4】

【0043】
【数5】

【0044】
以下、図10〜図15に基づいて、円筒部材CYの駆動動作を中心に説明する。本実施形態では、説明をわかりやすくするため、モータ装置の構成を模式的に示している。したがって、例えば伝達部材BTの押し付け角など、実際の構成とは異なるように記載されている。
【0045】
以下の説明においては、伝達部材BTに押圧力が付加されることなく当該伝達部材BTが円筒部材CYに当接された状態となるような伝達部材BTの第1端部22A及び第2端部22Bのそれぞれの位置を原点位置0とする。したがって、伝達部材BTの第1端部22A及び第2端部22Bが共に原点位置0に配置されている状態においては、伝達部材BTと円筒部材CYとの間に摩擦力は発生しない。
【0046】
<駆動動作>
まず、制御部CONTは、図10に示すように、伝達部材BTの第1端部22Aが原点位置0からXだけ外側に移動するように第1電歪素子32Aを変形させる。また、制御部CONTは、伝達部材BTの第2端部22Bが原点位置0からXだけ外側に移動するように第2電歪素子32Bを変形させる。この状態を駆動動作の初期状態とする。このとき、X及びXについては、下記[数6]を満たす。
【0047】
【数6】

【0048】
この状態から、図11に示すように、制御部CONTは、第1電歪素子32Aを変形させて、伝達部材BTの第1端部22A側の押圧力T1が目標押圧力T1eとなるように第1端部22AをΔX外側に移動させる。また、制御部CONTは、第2電歪素子32Bを変形させて、第2端部22B側の押圧力T2が目標押圧力T2eとなるように第2端部22BをΔX内側に移動させる。この動作により、伝達部材BTから円筒部材CYにトルクが伝達される。このとき、ΔX1とΔX2との間には、[数7]の関係が成立する。
【0049】
【数7】

【0050】
伝達部材BTから円筒部材CYにトルクが伝達されると、円筒部材CYが回転し、伝達部材BTの弾性変形が初期状態と同一の状態になる。図12に示すように、このため伝達部材BTの第1端部22A側の押圧力Tと第2端部22B側の押圧力Tとが保持力Tとなってつり合う。このとき有効押圧力については、Tgoalからゼロへと近似的に線形に変化するため、伝達部材BTに付加されている実効的な有効押圧力は、Tgoal/2となる。また、伝達部材BTによって円筒部材CYに伝達するトルクはゼロになる。
【0051】
<復帰動作>
次に、図13に示すように、制御部CONTは、第1端部22Aが原点位置0まで移動すると共に第2端部22Bが原点位置0よりも内側へ移動するように、第1電歪素子32Aと第2電歪素子32Bとを同時に変形させる。第1電歪素子32Aと第2電歪素子32Bとを同時に変形させることにより、伝達部材BTが2ΔXだけ緩むこととなり、この結果、伝達部材BTと円筒部材CYとの間に隙間が生じる。円筒部材CYは、伝達部材BTによって摩擦力を受けることなく、慣性回転している状態となる。
【0052】
伝達部材BTと円筒部材CYとの間に隙間が生じている間に、図14に示すように、制御部CONTは、第1端部22Aを移動させること無く第2端部22Bのみが原点位置0に戻るように第2電歪素子32Bを変形させる。この動作により、第1端部22A及び第2端部22Bが共に原点位置0に戻ることになる。この状態においても、円筒部材CYは伝達部材BTによって摩擦力を受けることなく、慣性回転している状態となる。このように、復帰動作では、円筒部材CYに摩擦力による抵抗を与えることなく、当該円筒部材CYを回転させた状態で第1端部22A及び第2端部22Bを原点位置0まで移動させる。
【0053】
<駆動動作(慣性回転状態)>
制御部CONTは、円筒部材CYに設けられた検出器(例、エンコーダ)により、円筒部材CYの回転速度vを検出する。制御部CONTは、検出結果に基づき、第1端部22A及び第2端部22Bの移動距離を決定する。円筒部材CYが静止している状態の上記駆動動作では、第1端部22Aの初期位置をX、第2端部22Bの初期位置をXとした。円筒部材CYが慣性回転している状態で、上記同様の目標有効押圧力を伝達部材BTに付加するには、円筒部材CYの静止状態と同一の環境が必要である。すなわち、円筒部材CYの回転速度と伝達部材BTとの相対速度をゼロにする必要がある。このため、第1端部22Aの初期位置及び第2端部22Bの初期位置を決定するに当たり、円筒部材CYの例えばある一点における所定時間当たりの移動距離を考慮する必要がある。具体的には、第1端部22Aの初期位置をX+vΔt、第2端部22Bの初期位置をX−vΔtとして設定する。ここで、Δtとしては、例えば制御部CONTのサンプリングタイムなどが挙げられる。
【0054】
この状態から、図15に示すように、制御部CONTは、第1電歪素子32Aを変形させて、伝達部材BTの第1端部22A側の押圧力T1が目標押圧力T1eとなるように第1端部22Aを外側に移動させる。また、制御部CONTは、第2電歪素子32Bを変形させて、第2端部22B側の押圧力T2が目標押圧力T2eとなるように第2端部22Bを内側に移動させる。この動作により、伝達部材BTから円筒部材CYにトルクが伝達される。このときの第1端部22Aは原点位置0に対してX+vΔt+ΔXだけ外側の位置へ移動した状態となる。また、このときの第2端部22Bは原点位置に対してX−vΔt−ΔXだけ外側の位置へ移動した状態となる。
【0055】
<復帰動作>
この後、制御部CONTは、第1端部22Aが原点位置0まで移動すると共に第2端部22Bが原点位置0よりも内側へ移動するように第1電歪素子32Aと第2電歪素子32Bとを同時に変形させ、伝達部材BTと円筒部材CYとの間に隙間が生じている間に、第1端部22Aを移動させること無く第2端部22Bのみが原点位置0に戻るように第2電歪素子32Bを変形させる。この動作により、第1端部22A及び第2端部22Bが共に原点位置0に戻ることになる。復帰動作は、円筒部材CYの回転速度によらず同一の動作として行うことができる。
【0056】
以下、駆動動作と復帰動作とを繰り返すことにより、円筒部材CYをさせることができる。円筒部材CYが慣性回転状態になっている場合において、上記X+vΔt+ΔXの値が第1電歪素子32Aの最大変形量を超えない限り、駆動動作及び復帰動作を繰り返すことで、円筒部材CYにトルクを伝達させ続けることができる。
【0057】
次に、本実施形態の円筒部材CYの駆動動作におけるトルク制御について説明する。
本実施形態における実効トルクNは、駆動動作と復帰動作とを1サイクル行うのに要する時間tall、有効押圧力の伝達開始から円筒部材CYが慣性状態になるまでの時間t、目標有効押圧力Tgoal、円筒部材CYの半径Rに依存する。具体的には、下記[数8]によって示される。
【0058】
【数8】

【0059】
[数8]に示すように、実効トルクNを制御するパラメータとしては、tall、t、Tgoalの3つが挙げられる。駆動動作と復帰動作の1サイクルの時間tallについては円筒部材CYの駆動制御を行う上で一定に設定される場合があるため、t、Tgoalの2つの値を変化させることで実効トルクNの制御を行うことが好ましい。
【0060】
このように、本実施形態によれば、伝達部材BTの弾性変形を利用し、円筒部材CYの回転速度と伝達部材BTとの相対速度をゼロにして伝達部材BTの有効押圧力を円筒部材CYに伝達する駆動動作と、第1端部22A及び第2端部22Bを同時に内側へ移動させる復帰動作とを繰り返し行うことにより、円筒部材CYを加速あるいは減速させながらダイナミックに回転させることができる。また、小型の駆動部ACであっても高効率で円筒部材CYを回転させることが可能となる。
【0061】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態を説明する。図16は、本実施形態に係るモータ装置MTR3の構成を示す概略斜視図である。図17は、モータ装置MTR3の構成を示す断面図である。
【0062】
図16及び図17に示すように、本実施形態に係るモータ装置MTR3は、軸部材SF、伝達部材BT1〜BT3、駆動部AC1〜AC3及び制御部CONTを有している。本実施形態では、伝達部材及び駆動部の組み合わせが軸部材SFの軸方向に沿って複数、例えば3組(伝達部材BT1〜BT3、駆動部AC1〜AC3)配置された構成になっている。したがって、本実施形態に係るモータ装置MTR3は、三相構造となっている。
【0063】
駆動部AC1〜AC3は、円筒部材CYの回転方向に120°ずつずれた位置に配置されている。伝達部材BT1〜BT3は、駆動部AC1〜AC3の配置に合わせてそれぞれ接続されている。制御部CONTは、各駆動部AC1〜AC3に対して独立して制御信号を供給可能になっている。3つの伝達部材BT1〜BT3の構成及び3つの駆動部AC1〜AC3の個々の構成については、それぞれ同一に形成されている。
【0064】
上記のように構成されたモータ装置MTR3は、当該三相の伝達部材BT1〜BT3及び駆動部AC1〜AC3を、例えば1相毎に順に駆動させるようにすることができる。このように三相で交互に駆動を行う場合、各伝達部材BT1〜BT3による押圧力の振動幅が小さく抑えられることになり、安定した駆動を行うことが可能である。
【0065】
[第4実施形態]
次に、本発明の第4実施形態を説明する。本実施形態では、伝達部材の構成が上記各実施形態とは異なっているため、当該相違点を中心に説明する。図18は、本実施形態に係るモータ装置MTR4の構成を示す概略斜視図である。図19は、伝達部材の構成を示す断面図である。図19では、切断面をモータ装置MTR4における回転軸方向に見たときの状態を示している。
【0066】
図18に示すように、本実施形態に係るモータ装置MTR4は、軸部材SF、伝達部材TR1〜TR3、駆動部AC1〜AC3、連結機構CN及び制御部CONTを有している。本実施形態では、伝達部材及び駆動部の組み合わせが軸部材SFの軸方向に沿って複数、例えば3組(伝達部材TR1〜TR3、駆動部AC1〜AC3)配置された構成になっている。したがって、本実施形態に係るモータ装置MTR4においても、三相構造となっている。加えて、本実施形態では、伝達部材TR1〜TR3と駆動部AC1〜AC3の各組が連結機構CNによって連結された構成になっている。
【0067】
図19に示すように、伝達部材TR1〜TR3は例えば弾性変形可能な金属材料などを用いて円筒状に形成されている。伝達部材TR1〜TR3には、切り欠き部60、連結穴61、溝部62、支持部63及び嵌合穴64が設けられている。切り欠き部60は、伝達部材TR1〜TR3を例えば回転軸方向視で扇形に切り欠くように形成されている。
【0068】
連結穴61は、回転軸方向視で扇形の要の位置に設けられている。このように、伝達部材TR1〜TR3は、切り欠き部60及び連結穴61によって2つの足端部65に分かれている構成になっている。嵌合穴64は、2つの足端部65に1つずつ配置されている。嵌合穴64の穴径は、連結穴61の穴径よりも小さくなるように形成されている。各伝達部材TR1〜TR3において、連結穴61及び2つの嵌合穴64は、回転軸方向視で正三角形の頂点の位置に配置されている。
【0069】
伝達部材TR1〜TR3は、モータ装置MTR4の回転方向に120°ずつずれるように配置されているため、3つの伝達部材TR1〜TR3を重ねた状態においては、回転軸方向視で各伝達部材TR1〜TR3の連結穴61がそれぞれ正三角形の頂点に配置されることとなる。また、各伝達部材TR1〜TR3に設けられる連結穴61は、回転軸方向視で他の伝達部材TR1〜TR3に設けられる2つの嵌合穴64の一方に重なるように配置されることとなる。
【0070】
支持部63は、駆動部AC1〜AC3のそれぞれを挟むように設けられている。支持部63は、駆動部AC1〜AC3の伸縮方向の両端に接するように駆動部AC1〜AC3を挟んだ状態になっている。支持部63は、弾性変形可能に形成されている。具体的には、足端部65の一部に形成された溝部62によって、支持部63が当該隙間内を弾性的に移動可能になっている。
【0071】
連結機構CNは、固定板51及び連結軸52を有している。固定板51は、軸部材SFに固定され、回転軸方向視で正三角形に形成された板状部材である。連結軸52は、固定板51に固着されており、回転軸方向に延在するように形成されている。連結軸52は、回転軸方向視で固定板51の正三角形の各頂点に1つずつ、計3つ設けられている。図18においては、固定板51の3つの頂点のうち図中上側の頂点に接続される連結軸52及び図中下側の頂点に接続される連結軸52は示されているが、固定板51の図中上下方向の中央の頂点に接続される連結軸52については、軸部材SFの奥側に隠れた状態になっており、図示されていない。
【0072】
各連結軸52は、伝達部材TR1〜TR3の連結穴61内及び嵌合穴64内を連通するように設けられている。連結軸52の軸径は、嵌合穴64の穴径と同一となるように形成されている。したがって、連結軸52は、嵌合穴64内を隙間なく貫通した状態になっている。このため、嵌合穴64において連結軸52と各伝達部材TR1〜TR3は固定された状態になっている。
【0073】
本実施形態では、1本の連結軸52が2つの伝達部材を固定している。例えば図18の図中下側の連結軸52は、伝達部材TR1の嵌合穴64及び伝達部材TR2の嵌合穴64を貫通している。このため、当該連結軸52は、伝達部材TR1と伝達部材TR2とを固定していることになる。
【0074】
例えば図18の図中上側の連結軸52は、伝達部材TR1の嵌合穴64及び伝達部材TR3の嵌合穴64を貫通している。このため、当該連結軸52は、伝達部材TR1と伝達部材TR3とを固定していることになる。同様に、例えば図18の図中軸部材SFの奥側に設けられる連結軸52(図18において軸部材SFに隠れている部分)は、伝達部材TR2と伝達部材TR3とを固定している。
【0075】
これに対して、連結穴61と連結軸52との間は、隙間が形成された状態になっている。このため、連結穴61において、各伝達部材TR1〜TR3は、当該隙間が形成される範囲内で移動可能になっている。隙間の寸法としては、例えば駆動部AC1〜AC3の伸縮幅よりも十分に大きい寸法に設定されている。
【0076】
図20は、駆動部AC1〜AC3が伸長した状態を示す図である。
同図に示すように、駆動部AC1〜AC3が伸長することにより、駆動部AC1〜AC3の圧力が支持部63を介して伝達部材TR1〜TR3の全体に伝達され、伝達部材TR1〜TR3の足端部65が分岐方向にそれぞれ広がるようになっている。伝達部材TR1〜TR3の足端部65広がると、伝達部材TR1〜TR3が円筒部材CYの内面20(図18等参照)に沿って弾性変形しつつ当該内面20を押圧するようになっている。
【0077】
次に、図21から図23を参照して、上記のように構成されたモータ装置MTR4の動作を説明する。図21から図23では、簡単化のため円筒部材CYの図示を省略して示している。
図21に示すように、例えば駆動部AC1を収縮させると共に、駆動部AC2及び駆動部AC3を伸長させた場合、図中上側の連結軸52が上側に移動する。この動作により、伝達部材TR2の足端部65及び伝達部材TR3の足端部65が円筒部材CYの内面に当接状態となる。
【0078】
この状態から、図22に示すように、駆動部AC3を収縮させると共に、駆動部AC1を伸長させた場合、図中上側の連結軸52は、当該図中上側の連結穴61に沿って反時計回りに回転する。この動作では、伝達部材TR2の足端部65及び伝達部材TR3の足端部65によって、円筒部材CYに対して反時計回り方向への回転のトルクが伝達され、円筒部材CYが反時計回りに回転する。また、図22に示すように、当該駆動を行った場合、図中右側の連結軸52が右側に移動する。このため、伝達部材TR3の足端部65及び伝達部材TR1の足端部65が円筒部材CYの内面に当接状態となる。
【0079】
この状態から、図23に示すように、駆動部AC2を収縮させると共に、駆動部AC3を伸長させた場合、図中右側の連結軸52は、当該図中右側の連結穴61に沿って反時計回りに回転する。この動作では、伝達部材TR3の足端部65及び伝達部材TR1の足端部65によって、円筒部材CYに対して反時計回りの方向への回転のトルクが伝達され、円筒部材CYが反時計回りに回転する。また、図23に示すように、当該駆動を行った場合、図中左側の連結軸52が左側に移動する。このため、伝達部材TR1の足端部65及び伝達部材TR2の足端部65が円筒部材CYの内面に当接状態となる。
【0080】
このように、図21〜図23の動作を繰り返すことにより、円筒部材CYを連続的に回転させることができる。なお、本実施形態においては、伝達部材TR1〜TR3の構成を弾性ヒンジとして形成したが、これに限られることは無く、例えば図24に示すように、2つの部材をヒンジ部70において回転可能に結合させる構成であっても構わない。
【0081】
[第5実施形態]
次に、本発明の第5実施形態を説明する。本実施形態に係るモータ装置は、第1実施形態に係るモータ装置MTRと同一の構成要素を用いている。したがって、各構成要素の符号は第1実施形態と共通させて説明する。本実施形態では、円筒部材CYを固定させ、軸部材SFを回転させる点で、第1実施形態とは異なっている。
【0082】
図25及び図26は、本実施形態の構成において、駆動部ACを駆動させた場合の動作を説明するための図である。
図25に示すように、制御部CONTは、第1端部22A及び第2端部22Bがそれぞれ外側に移動するように第1電歪素子32A及び第2電歪素子32Bを変形させる。この動作により、伝達部材BTの第1端部22A側には押圧力T1が発生し、伝達部材BTの第2端部22B側には押圧力T2が発生する。したがって、伝達部材BTに有効押圧力(T1−T2)が発生する。ここまでの動作は、第1実施形態と同様である。
【0083】
次に、制御部CONTは、伝達部材BTに有効押圧力を発生させた状態を保持しつつ、伝達部材BTの第1端部22Aが外側に移動するように、かつ、第2端部22Bが内側に移動するように第1電歪素子32A及び第2電歪素子32Bを変形させる。この動作において、制御部CONTは、第1端部22Aの移動距離と第2端部22Bの移動距離とを等しくさせる。この動作により、図26に示すように、固定された円筒部材CYとの間に摩擦力が発生しているため伝達部材BTは移動せず、突出部12の先端12cの方が、変形による反作用によって、軸部材SFを中心として図中時計回りに回転移動する。
【0084】
このように、本実施形態では、円筒部材CYを固定して軸部材SFを固定させない構成とすることにより、上述の実施形態と比べて回転対象を変更させることができる。
なお、本実施形態におけるモータ装置MTRは、上述の第3実施形態のように三相構造にしてもよいし、上述の第4実施形態のような切り欠き部や連結穴などを有する構成としてもよい。
【0085】
[第6実施形態]
次に、本発明の第6実施形態を説明する。
本実施形態では、上記のモータ装置の適用例を説明する。
図27は、モータ装置MTRを例えばロボットアームに適用させた構成を示す図である。
【0086】
同図に示すように、モータ装置MTRがカップリングCPLを介してロボットアームARMに接続されている。上記実施形態のモータ装置MTRは、小型で高トルクを出力可能であるため、ロボットアームARMを高精度に駆動させることができる。また、上記実施形態のモータ装置MTRは、ロボットの関節部分や工作機械の駆動部などにも応用することができる。
【0087】
加えて、本実施形態においては、例えば円筒部材CYの内部に配線71などを配置させることができる。このように、円筒部材CYを配線配管として用いることも可能である。
【0088】
本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。
例えば、円筒部材CY及び軸部材SFの回転軸方向に伝達部材BTがずれるのを防ぐため、位置ずれ抑制部を設ける構成としても構わない。また、例えば第3実施形態のように伝達部材BTを複数設ける場合、伝達部材BTごとに円筒部材CYの内径が異なるように形成されていても構わない。この構成によれば、伝達部材BTごとにトルクの伝達を異ならせることができるため、幅広い駆動が可能となる。
【0089】
上記実施形態では、円筒部材CYの内面が平坦な構成を例に挙げて説明したが、これに限定されることは無く、例えば円筒部材CYの内面に溝部として溝が形成されている構成としても構わない。また、上記実施形態では、伝達部材BTの表面が平坦な構成を例に挙げて説明したが、これに限られることは無く、例えば伝達部材BTの表面に溝部として溝が形成されている構成としても構わない。上記の円筒部材CYの内面に形成された溝と伝達部材BTの表面に形成された溝とのうち少なくとも一方の溝により、伝達部材BTと円筒部材CYとの間に空気の流路が形成されることになるため、伝達部材BTが円筒部材CYに固着されるのを防ぐことができ、伝達部材BTを円筒部材CYに対して容易に着脱させることができる。また、上記のように溝を設けることで、回転時に発生する伝達部材BTと円筒部材CYとの擦れによる塵などを溝に入れることができ、伝達部材BTと円筒部材CYとの間の摩擦力を一定にし、安定な回転を得ることができる。なお、例えば、円筒部材CYの表面に溝部が設けられる方向は、特に限定されることは無く、ランダムな方向、円筒部材CYの回転軸方向、や円筒部材CYの円周方向、などでよい。
【0090】
上記実施形態では、伝達部材BTと円筒部材CYとの少なくとも一部を係合させた状態を当接状態としてもよい。例えば、伝達部材BTには凸部が設けられており、当該凸部と噛み合うように円筒部材CYに凹部が設けられている。また、例えば、円筒部材CYには凸部が設けられており、当該凸部と噛み合うように伝達部材BTに凹部が設けられている。このように、凸部と凹部とを係合させることで回転力を伝達する構成であっても構わない。なお、例えば、円筒部材CYに凸部が形成される方向は、特に限定されることは無く、ランダムな方向、円筒部材CYの回転軸方向、や円筒部材CYの円周方向、などでよい。ここで、本実施形態における係合とは、例えば、伝達部材BTの凹部と円筒部材CYの凸部とが噛み合うこと、伝達部材BTの凹部と円筒部材CYの凸部とが嵌め合うこと、伝達部材BTの凹部と円筒部材CYの凸部とが継なぎ合うこと、なども含むものであって、伝達部材BTの凹部と円筒部材CYの凸部とが完全に係合している必要はない。
【0091】
上記実施形態では、伝達部材BTが帯状に形成された例を説明したが、これに限られることは無く、例えば線状、鎖状に形成されていても構わない。
【0092】
上記実施形態では、第1電歪素子32Aと第2電歪素子32Bとの変位によって張力を制御できるので、駆動停止時においても保持トルクの制御が可能である。
【0093】
上記実施形態では、伝達部材BTを移動させる駆動部ACが電歪素子を有する構成を例に挙げて説明したが、これに限られることは無く、例えば移動部が電歪素子に代えて磁歪素子、電磁石、VCM(ボイスコイルモータ)など、他のアクチュエータを用いる構成であっても構わない。例えば磁歪素子を用いた場合、推力を高くすることができる。電磁石を用いた場合は、高推力、長ストロークの駆動が可能である。VCMを用いた場合、長ストロークの駆動が可能であり、トルク制御が容易となる。
【0094】
上記実施形態では、軸部材SFを取り囲む第2部材として、円筒部材CYを例に挙げて説明したが、円筒形状に限られず、伝達部材を当接状態にすることができる態様であれば他の形状であっても構わない。
【符号の説明】
【0095】
MTR、MTR3、MTR4…モータ装置 SF…軸部材 CY…円筒部材 BT、BT1〜BT3、TR1〜TR3…伝達部材 AC、AC1〜AC3…駆動部 CONT…制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材と、
前記第1部材を取り囲んで設けられる第2部材と、
前記第1部材に接続され、前記第2部材の内面の少なくとも一部に対して当接状態及び離間状態とすることが可能に設けられた伝達部材と、
前記伝達部材に接続され、前記伝達部材を前記当接状態として前記第1部材及び前記第2部材のうち少なくとも一方に回転力を付与する駆動部と
を備えることを特徴とするモータ装置。
【請求項2】
前記第2部材と前記伝達部材との間を前記当接状態として前記伝達部材を一定距離移動させる駆動動作及び前記第2部材と前記伝達部材との間を前記離間状態として前記伝達部材を所定位置に移動させる復帰動作を前記駆動部に行わせる制御部
を備えることを特徴とする請求項1に記載のモータ装置。
【請求項3】
前記第1部材は、軸部材であり、
前記第2部材は、回転子であり、
前記駆動部は、前記回転子に回転力を付与する
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のモータ装置。
【請求項4】
前記軸部材は、前記回転子の回転軸上に設けられている
ことを特徴とする請求項3に記載のモータ装置。
【請求項5】
前記回転子は、筒状に形成されている
ことを特徴とする請求項3又は請求項4に記載のモータ装置。
【請求項6】
前記駆動部は、電歪素子を有する
ことを特徴とする請求項3から請求項5のうちいずれか一項に記載のモータ装置。
【請求項7】
前記伝達部材は、線状、帯状及び鎖状のうちいずれかの形状に形成されている
ことを特徴とする請求項3から請求項6のうちいずれか一項に記載のモータ装置。
【請求項8】
前記伝達部材は、弾性変形可能に形成されている
ことを特徴とする請求項3から請求項7のうちいずれか一項に記載のモータ装置。
【請求項9】
前記伝達部材は、弾性力によって前記駆動部を挟むように形成されている
ことを特徴とする請求項8に記載のモータ装置。
【請求項10】
前記伝達部材は、導電性材料を含む
ことを特徴とする請求項3から請求項9のうちいずれか一項に記載のモータ装置。
【請求項11】
前記回転子は、前記内面に形成される溝部を有する
ことを特徴とする請求項3から請求項10のうちいずれか一項に記載のモータ装置。
【請求項12】
前記回転子は、前記伝達部材に対して回転軸方向上に位置ずれ抑制部を有する
ことを特徴とする請求項3から請求項11のうちいずれか一項に記載のモータ装置。
【請求項13】
前記駆動部は、基準位置を挟む位置に設けられた一対の電歪素子を有し、
前記電歪素子は、それぞれ前記基準位置に対して互いに反対方向へ歪むように設けられ、
前記伝達部材の端部は、前記電歪素子の歪み方向の先端側に接続されている
ことを特徴とする請求項3から請求項12のうちいずれか一項に記載のモータ装置。
【請求項14】
前記駆動部は、基準位置を挟む位置に設けられた一対の電歪素子を有し、
前記電歪素子により発生する力の方向と、前記内面の前記基準位置における接線方向とが、ほぼ一致した状態となっている
ことを特徴とする請求項3から請求項12のうちいずれか一項に記載のモータ装置。
【請求項15】
前記軸部材は、回転軸方向に交差する方向に突出部を有し、
前記基準位置は、前記突出部上に設けられる
ことを特徴とする請求項13又は請求項14に記載のモータ装置。
【請求項16】
前記伝達部材は、複数設けられている
ことを特徴とする請求項3から請求項15のうちいずれか一項に記載のモータ装置。
【請求項17】
前記駆動部は、複数の前記伝達部材ごとに設けられ、
複数の前記駆動部は、前記回転子の回転方向にずれた位置に配置されている
ことを特徴とする請求項16に記載のモータ装置。
【請求項18】
前記回転子は、複数の前記伝達部材ごとに内径が異なっている
ことを特徴とする請求項16又は請求項17に記載のモータ装置。
【請求項19】
複数の前記駆動部は、前記回転子の回転方向に等角度でずれた位置に配置されている
ことを特徴とする請求項16から請求項18のうちいずれか一項に記載のモータ装置。
【請求項20】
複数の前記伝達部材は、互いに接続されている
ことを特徴とする請求項16から請求項19のうちいずれか一項に記載のモータ装置。
【請求項21】
前記当接状態は、前記伝達部材と前記内面との間に摩擦力を生じさせた状態である
ことを特徴とする請求項3から請求項20のうちいずれか一項に記載のモータ装置。
【請求項22】
前記離間状態は、前記伝達部材と前記内面との間に摩擦力が生じていない状態である
ことを特徴とする請求項3から請求項21のうちいずれか一項に記載のモータ装置。
【請求項23】
前記第1部材は、軸部材であり、
前記第2部材は、固定子であり、
前記駆動部は、前記軸部材に回転力を付与する
を備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のモータ装置。
【請求項24】
前記固定子は、筒状に形成されている
ことを特徴とする請求項23に記載のモータ装置。
【請求項25】
前記駆動部は、電歪素子を有する
ことを特徴とする請求項23又は請求項24に記載のモータ装置。
【請求項26】
前記伝達部材は、線状、帯状及び鎖状のうちいずれかの形状に形成されている
ことを特徴とする請求項23から請求項25のうちいずれか一項に記載のモータ装置。
【請求項27】
前記伝達部材は、弾性変形可能に形成されている
ことを特徴とする請求項23から請求項26のうちいずれか一項に記載のモータ装置。
【請求項28】
前記伝達部材は、導電性材料を含む
ことを特徴とする請求項23から請求項27のうちいずれか一項に記載のモータ装置。
【請求項29】
前記固定子は、前記内面に形成される溝部を有する
ことを特徴とする請求項23から請求項28のうちいずれか一項に記載のモータ装置。
【請求項30】
前記固定子は、前記伝達部材に対して回転軸方向上に位置ずれ抑制部を有する
ことを特徴とする請求項23から請求項29のうちいずれか一項に記載のモータ装置。
【請求項31】
前記駆動部は、基準位置を挟む位置に設けられた一対の電歪素子を有し、
前記電歪素子は、それぞれ前記基準位置に対して互いに反対方向へ歪むように設けられ、
前記伝達部材の端部は、前記電歪素子の歪み方向の先端側に接続されている
ことを特徴とする請求項23から請求項30のうちいずれか一項に記載のモータ装置。
【請求項32】
前記駆動部は、基準位置を挟む位置に設けられた一対の電歪素子を有し、
前記電歪素子により発生する力の方向と、前記内面の前記基準位置における接線方向とが、ほぼ一致した状態となっている
ことを特徴とする請求項23から請求項30のうちいずれか一項に記載のモータ装置。
【請求項33】
前記軸部材は、回転軸方向に交差する方向に突出部を有し、
前記基準位置は、前記突出部上に設けられる
ことを特徴とする請求項31又は請求項32に記載のモータ装置。
【請求項34】
前記伝達部材は、複数設けられている
ことを特徴とする請求項23から請求項33のうちいずれか一項に記載のモータ装置。
【請求項35】
前記駆動部は、複数の前記伝達部材ごとに設けられ、
複数の前記駆動部は、前記軸部材の回転方向にずれた位置に配置されている
ことを特徴とする請求項34に記載のモータ装置。
【請求項36】
前記軸部材は、複数の前記伝達部材ごとに異なる径を有する
ことを特徴とする請求項35に記載のモータ装置。
【請求項37】
複数の前記駆動部は、前記軸部材の回転方向に等角度でずれた位置に配置されている
ことを特徴とする請求項35又は請求項36のうちいずれか一項に記載のモータ装置。
【請求項38】
前記当接状態は、前記伝達部材と前記固定子の前記内面との間に摩擦力を生じさせた状態である
ことを特徴とする請求項33から請求項37のうちいずれか一項に記載のモータ装置。
【請求項39】
前記離間状態は、前記伝達部材と前記固定子の前記内面との間に摩擦力が生じていない状態である
ことを特徴とする請求項23から請求項38のうちいずれか一項に記載のモータ装置。
【請求項40】
軸部材に接続された伝達部材を、前記軸部材を取り囲んで設けられる回転子の内面の少なくとも一部に対して当接状態として前記回転子に回転力を付与する駆動ステップと、
前記伝達部材を前記回転子の前記内面に対して離間状態として前記伝達部材を所定の位置に移動させる復帰ステップと
を含むことを特徴とする回転子の駆動方法。
【請求項41】
軸部材に接続された伝達部材を、前記軸部材を取り囲んで設けられる固定子の内面の少なくとも一部に対して当接状態として前記軸部材に回転力を付与する駆動ステップと、
前記伝達部材を前記固定子の前記内面に対して離間状態として前記伝達部材を所定の位置に移動させる復帰ステップと
を含むことを特徴とする軸部材の駆動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2010−259182(P2010−259182A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−104928(P2009−104928)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】