説明

作業車

【課題】 作業走行を終えて次の作業箇所に旋回走行して移動するとともに次の作業箇所に自走車体を位置合わせするに当たり、迅速に移動することができ、かつ、精度よく容易に位置合わせすることができる作業車を提供する。
【解決手段】 主変速装置17に連係された制御手段21に、走行速度検出手段22を連係させるとともに旋回角度計測手段30を備えてある。旋回角度計測手段30による計測旋回角度が設定旋回角度になると、制御手段21は、自走車体が低速設定手段24による設定低速度で走行するように、主変速装置17を減速操作する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車に関する。
【背景技術】
【0002】
トラクタにおいて、従来、たとえば特許文献1に示されるものがあった。特許文献1に示されるものは、次のものである。
ハンドル切れ角センサ11によってハンドル操作量を検出して制御部10へ送信する。変速装置は、主変速装置1及び副変速装置2を備えている。主変速装置1は、四段変速可能に構成されたシンクメッシュギア式の変速装置であり、制御部10により切替制御弁3と切替制御弁4が切替えられてプッシュプルシリンダー57,58の伸縮により変速する。副変速装置2は、四段変速可能な油圧式変速装置で構成され、制御部10により比例圧力制御弁5,6,7,8の内の一つが励磁されて中速クラッチCM、高速クラッチCM、低速クラッチCL、超低速クラッチCLLのいずれか一つが接続される構成となっている。
【0003】
制御部10は、ハンドル操作を検出し続け、この切れ角が設定角度a以上に操作されるかどうかを検出する。設定角度a以上に操作されると、変速アクチュエータ3〜8に通電を行って変速位置を現変速位置より1段下げる操作を行う。さらに、ハンドル26の切れ角を検出し続け、角度aよりも大きい設定角度b以上の切れ角を検出するかどうかを判定し、YESの場合、変速後の変速位置よりも更に1段変速位置を下げる操作を行う。旋回半ばを越え直進走行へ復帰するとき、設定角度b以下の切れ角を検出するのを待ちこの検出が有ると、変速段を1段上昇復帰させる。設定角度a以下にハンドル切れ角が復帰するまで待ち、この検出があると、一定時間を経過後に変速位置を1段上げて元の変速位置に復帰する。
このように、旋回時にハンドル切れ角度を検出し、この角度に応じて変速位置を段階的に下げて減速し、旋回が半ばを越え直進走行に移行するとき、段階的に変速位置を上げて増速するものである。
【0004】
【特許文献1】特開平9−290662号公報(段落〔0011〕、〔0012〕、〔0017〕、〔0018〕、図1、図7)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
たとえば耕耘機で作業を行う場合、図3に示すように、作業箇所Aの作業走行を終えると、枕地BでUターンして次の作業箇所Cに移動する旋回走行が行われる。この旋回走行の終了前の旋回終盤範囲Zでは、次の作業箇所Cを作業走行する際に作業箇所Cと先の作業箇所Aの間に耕耘漏れができないように自走車体を作業箇所Cに対して位置合わせする操向操作が行われる。このため、旋回終盤範囲Zでは、高速で走行するよりも低速で走行するほうが、適切な操向操作が行いやすく、自走車体の次の作業箇所Cに対する位置合わせを精度よくかつ容易に行うことができる。
【0006】
上記した従来の走行制御技術を採用すると、旋回走行を行えば、自走車体が旋回走行の当初から減速して直進走行に復帰するまで減速走行し、旋回終了前において、作業走行のときよりも低速で走行しながら操向操作を行うことができる。ところが、たとえば耕耘機の場合、作業時も比較的低速で走行し、作業走行時と同様の走行速度で旋回走行しても特に問題なく旋回することができることから、旋回走行を開始してから旋回終盤範囲に至るまでの間においても減速走行する分、旋回走行に時間が掛かっていた。
【0007】
本発明の目的は、旋回終了前の位置合わせを精度よくかつ操作容易に行うことができながら、旋回走行を迅速に終了することができる作業車を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本第1発明による作業車にあっては、自走車体の走行速度を検出する走行速度検出手段、自走車体の旋回角度を計測する旋回角度計測手段、自走車体の位置合わせ走行の設定低速度を設定する低速設定手段を設け、
前記旋回角度計測手段による計測旋回角度が設定旋回角度になると、自走車体が前記設定低速度で走行するように、前記走行速度検出手段による検出情報、及び前記旋回角度計測手段による計測情報を基に自走車体の走行変速を行う制御手段を設けてある。
【0009】
自走車体を旋回走行させると、自走車体の旋回角度が旋回角度計測手段によって計測され、この計測旋回角度が設定旋回角度になると、制御手段が走行速度検出手段による検出情報、及び旋回角度計測手段による計測情報を基に自走車体の走行変速を行い、自走車体が低速設定手段によって設定された設定低速度で走行していくものである。これにより、設定旋回角度、及び設定低速度を適切な角度や速度に設定しておくことにより、作業走行を終えた自走車体を次の作業箇所に移動するように旋回走行させる際、自走車体が旋回終了前の旋回終盤範囲に到達するまでは、作業走行時と同様の走行速度など、旋回終盤範囲に達してからの走行速度よりも高速の走行速度で旋回走行させ、旋回終盤範囲に到達すると自動的に変速操作され、旋回終盤範囲では、自走車体を作業箇所に位置合わせする操向操作が行いやすい設定低速度の走行速度で旋回走行させることができる。
【0010】
従って、本第1発明によると、作業走行を終えて次の作業箇所に旋回走行させるに当たり、旋回終盤範囲に到達するまでは、作業走行と同様の走行速度など、旋回終盤範囲での走行速度よりも高速の走行速度で旋回走行させて次の作業箇所に迅速に移動させ、旋回終盤範囲では、低速で走行させながら操向操作して次の作業箇所に精度よくかつ操作容易に位置合わせし、作業箇所間に作業漏れができにくいなど仕上がりのよい作業を能率よく行うことができる。
【0011】
本第2発明にあっては、本第1発明の構成において、
前記制御手段を、前記旋回角度計測手段による計測旋回角度が設定旋回角度になり、かつ、前記旋回角度計測手段による計測旋回角度が設定旋回角度になった時の前記走行速度検出手段による検出走行速度が前記設定低速度よりも高速であると、自走車体が前記設定低速度で走行するように、自走車体の走行変速を行うように構成してある。
【0012】
制御手段を、旋回角度計測手段による計測旋回角度が設定旋回角度になった時の走行速度検出手段による検出走行速度が設定低速度よりも高速であると、自走車体の走行変速を行うように構成してあるものだから、旋回角度計測手段による計測旋回角度が設定旋回角度になった時の検出走行速度だけを基にした変速制御のための情報処理を行わせることにより、自走車体の走行変速を行わせることができる。
【0013】
従って、本第2発明によると、制御手段に行わせる情報処理の簡略化を図り、構造面やコスト面などで有利に得ることができる。
【0014】
本第3発明にあっては、本第1又は第2発明の構成において、
自走車体が前記低速設定手段による設定低速度での走行を開始してから経過した時間を計測する経過時間計測手段を設け、
前記制御手段を、前記経過時間計測手段による計測経過時間が設定経過時間になると、自走車体が前記設定低速度に変速した時より前の走行速度に変速して走行するように、前記経過時間計測手段による計測情報を基に自走車体の走行変速を行うように構成してある。
【0015】
すなわち、前記設定経過時間を適切に設定すれば、自走車体が旋回終盤範囲に到達して設定低速度での走行を開始し、自走車体を低速走行させながら操向操作して次の作業箇所に位置合わせし、この位置合わせが終了すると、経過時間計測手段による計測経過時間が設定経過時間になって制御手段が経過時間計測手段による計測情報を基に自走車体の走行変速を行い、自走車体が設定低速度での走行を行う前の走行速度を復帰させて走行していくものである。これにより、旋回走行が終了し、かつ、次の作業箇所に対する位置合わせが終了すると、自走車体が作業用の走行速度に自動的に復帰してこの作業用走行速度で次の作業箇所を走行していくようにすることができる。
【0016】
従って、本第3発明によると、旋回終盤範囲で位置合わせしやすいように設定低速度で走行させるものでありながら、位置合わせが終了すると、走行速度を低速走行前の走行速度に自動的に復帰させ、操作面で楽に作業走行を再開していくことができる。
【0017】
本第4発明にあっては、本第1又は第2発明のいずれか一つの構成において、
自走車体が前記低速設定手段による設定低速度での走行を開始してから走行した走行距離を計測する走行距離計測手段を設け、
前記制御手段を、前記走行距離計測手段による計測走行距離が設定走行距離になると、自走車体が前記設定低速度に変速した時より前の走行速度に変速して走行するように、前記走行距離計測手段による計測情報を基に自走車体の走行変速を行うように構成してある。
【0018】
すなわち、前記設定走行距離を適切に設定すれば、自走車体が旋回終盤範囲に到達して設定低速度での走行を開始し、自走車体を低速走行させながら操向操作して次の作業箇所に位置合わせし、この位置合わせが終了すると、走行距離計測手段による計測走行距離が設定走行距離になって制御手段が走行距離計測手段による計測情報を基に自走車体の走行変速を行い、自走車体が設定低速度での走行を行う前の走行速度を復帰させて走行していくものである。これにより、旋回走行が終了し、かつ、次の作業箇所に対する位置合わせが終了すると、自走車体が作業用の走行速度に自動的に復帰してこの作業用走行速度で次の作業箇所を走行していくようにすることができる。
【0019】
従って、本第4発明によると、旋回終盤範囲で位置合わせしやすいように設定低速度で走行させるものでありながら、位置合わせが終了すると、走行速度を低速走行前の走行速度に自動的に復帰させ、操作面で楽に作業走行を再開していくことができる。
【0020】
本第5発明にあっては、本第1又は第2発明の構成において、
下降作業状態と上昇非作業状態に昇降操作自在に連結された作業装置の下降操作を検出する下降操作検出手段を設け、
前記制御手段を、前記旋回角度計測手段による計測旋回角度が設定旋回角度になり、かつ、前記下降操作検出手段が検出状態になると、自走車体が前記設定低速度に変速した時より前の走行速度に変速して走行するように、前記旋回角度計測手段による計測情報、及び前記下降操作検出手段による検出情報を基に自走車体の走行変速を行うように構成してある。
【0021】
自走車体が旋回終盤範囲に到達して設定低速度での走行を開始すると、自走車体を低速走行させながら操向操作して次の作業箇所に位置合わせし、この位置合わせが終了すると、作業装置を下降作業状態に下降させて作業箇所を作業走行していくという要領で作業を行われる。作業装置を下降操作すると、下降操作検出手段によって検出され、制御手段が旋回角度計測手段による計測情報、及び下降操作検出手段による検出情報を基に自走車体の走行変速を行い、自走車体が設定低速度での走行を行う前の走行速度を復帰させて走行していくものである。これにより、旋回走行が終了するとともに次の作業箇所に対する位置合わせが終了して作業装置を下降操作すると、自走車体が作業用の走行速度に自動的に復帰してこの作業用走行速度で次の作業箇所を走行していくようにすることができる。
【0022】
従って、本第5発明によると、旋回終盤範囲で位置合わせしやすいように設定低速度で走行させるものでありながら、位置合わせが終了すると、作業装置の下降操作を行えば、特別な変速手間を掛けなくとも走行速度が低速走行前の走行速度に復帰し、操作面で楽に作業走行を再開していくことができる。
【0023】
本第6発明にあっては、本第1〜第5発明のいずれか一つの構成において、
前記低速設定手段を、前記設定低速度の変更設定が可能なように人為操作自在に構成してある。
【0024】
すなわち、低速設定手段を人為操作すると、設定低速度が変更設定され、自走車体が旋回終盤範囲で低速走行する速度が変化するものである。これにより、たとえば枕地の地面が荒れている場合、設定低速度を適切に変更設定すれば、旋回終盤範囲での操向操作が枕地状況にかかわらず適切にかつ迅速に行うことができるように走行速度を調節することができる。
【0025】
従って、本第6発明によると、枕地の状況によって設定低速度を変更設定することにより、旋回終盤範囲で現出される走行速度を操向操作しやすいものに調節し、枕地の状況如何にかかわらず位置合わせを適切かつ迅速に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、左右一対の操向操作及び駆動自在な前車輪1、左右一対の駆動自在な後車輪2を備えた自走車体に、車体フレーム3の前部に設けたエンジン4が装備された原動部、左右前輪1を操向操作するように原動部の後側に設けた操縦ハンドル5や、車体後部に設けた運転座席6が装備された運転部を備えさせ、前記車体フレーム3の後部を構成しているミッションケース7に左右一対のリフトアーム8、及び動力取り出し軸9を設けてトラクタを構成し、このトラクタの車体後部に、前記左右一対のリフトアーム8を利用したリンク機構10を介してロータリ耕耘装置11を連結するとともに、前記エンジン4の駆動力を前記動力取り出し軸9から回転軸12を介してロータリ耕耘装置11に伝達するように構成して、乗用型耕耘機を構成してある。
【0027】
この耕耘機は耕耘作業を行うものであり、運転部に設けた昇降レバー15を揺動操作すると、前記ミッションケース7の内部に位置する昇降シリンダ16が左右一対のリフトアーム8を上下に揺動操作してリンク機構10を車体フレーム3に対して上下に揺動操作することにより、ロータリ耕耘装置11を耕耘ロータ11aが接地した下降作業状態と、耕耘ロータ11aが地面上から高く上昇した上昇非作業状態とに昇降操作する。ロータリ耕耘装置11を下降作業状態にしてトラクタを走行させると、ロータリ耕耘装置11が回転駆動される耕耘ロータ11aによって地面を耕起していく。
【0028】
前記エンジン4の出力軸からの駆動力が前記ミッションケース7の前部に設けた主変速装置17に入力され、この主変速装置17の出力がミッションケース7の内部に位置する副変速装置(図示せず)を介して左右後輪2に伝達され、前記副変速装置からの出力が、ミッションケース7から回転軸18を介して前輪駆動ケース19に入力されて左右前輪1に伝達されるように構成してある。前記主変速装置17は、エンジン4からの駆動力が入力される可変容量形の油圧ポンプ(図示せず)、この油圧ポンプからの圧油によって駆動されて前記副変速装置に出力する油圧モータ(図示せず)を備えて構成してあり、静油圧式無段変速装置になっている。
【0029】
これにより、主変速装置17における油圧ポンプの斜板角が変更操作されることにより、エンジン4からの駆動力が主変速装置17によって前進側と後進側の駆動力に変更して、かつ、前進側においても後進側においても無段階に変速して左右後輪2及び左右前輪1に伝達され、自走車体が前進や後進走行するとともに前進側においても後進側においても無段階に変速して走行する。
【0030】
図2に示すように、前記主変速装置17に連動させた変速アクチュエータ20に制御手段21を連係させ、この制御手段21には、前記ミッションケース7に設けた走行速度検出手段22、前記操縦ハンドル5に連動させた切れ角センサ23、運転部に設けた低速設定手段24及びモード選択手段25、前記昇降レバー15に連動させた下降操作検出手段26を連係させてある。主変速装置17に設けた変速センサ27も制御手段21に連係させてある。
【0031】
前記変速アクチュエータ20は、主変速装置17の変速操作部(図示せず)に連動されており、この変速操作部を操作することにより、主変速装置17の油圧ポンプの斜板角を変更操作して主変速装置17を変速操作する。
【0032】
主変速装置17の変速センサ27は、主変速装置17における変速操作部の操作位置に基づいて主変速装置17の変速状態を検出し、この検出変速状態を電気信号にして制御手段21にフィードバックする。
【0033】
走行速度検出手段22は、ミッションケース7に副変速装置からの出力を前後輪1,2に伝達するように位置する回転軸(図示せず)に検出作用する回転センサで成り、前記回転軸の回転数を自走車体の走行速度として検出し、この検出結果を電気信号にして制御手段21に出力する。
【0034】
切れ角センサ23は、操縦ハンドル5の回転角を前車輪1の直進向きから横向きへの切れ角として検出し、この検出結果を電気信号にして制御手段21に出力する。
【0035】
図3に示すように、作業箇所Aの耕耘走行を終えた自走車体を次の作業箇所Cに向けて旋回走行させ、旋回終盤範囲Zで自走車体を操向操作して次の作業箇所Cに位置合わせする際、低速度で走行すれば位置合わせが行いやすくなる。これにより、低速設定手段24は、その位置合わせが行いやすいものとしての低速の走行速度を設定し、この設定低速度Vbを電気信号にして制御手段21に出力する。
また、低速設定手段24は、操作具24aを人為操作するように備えた人為操作自在な回転ポテンショメータによって構成してあり、操作具24aが回転操作されることによって設定低速度Vbを速度値が異なるものに変更して設定する。
【0036】
下降操作検出手段26は、前記昇降レバー15に連動された回転ポテンショメータで成り、昇降レバー15の「下降」側への揺動を検出することによってロータリ耕耘装置11の下降操作が行われたと検出し、この検出結果を電気信号にして制御手段21に出力する。
【0037】
モード選択手段25は、操作具25aの回転操作によって「切り」、「時間モード」、「距離モード」、「下降モード」の4つの操作位置に切り換え自在な切り換えスイッチで成り、切り換え操作された操作位置に対応した指令を電気信号にして制御手段21に出力する。
すなわち、「切り」に切り換え操作されると、制御手段21による変速制御をオフにさせる切り指令を出力する。「時間モード」に切り換え操作されると、制御手段21による時間モードでの変速制御をオンにさせる入り指令を出力する。「距離モード」に切り換え操作されると、制御手段21による距離モードでの変速制御をオンにさせる入り指令を出力する。「下降モード」に切り換え操作されると、制御手段21による下降モードでの変速制御をオンにさせる入り指令を出力する。
【0038】
制御手段21には、マイクロコンピュータを利用して構成した旋回角度計測手段30、経過時間計測手段31、走行距離計測手段32を備えてある。
【0039】
図3に示すように、左右前輪1が直進向きから横向き側に操向操作された状態で自走車体が走行すると、自走車体が旋回していき、左右前輪1が操向操作された旋回開始点STからの自走車体の旋回角度は、自走車体が走行していくに伴って増加していく。これにより、旋回角度計測手段30は、制御手段21による指令に基づいて計測作動し、自走車体が旋回走行していくに伴い、タイマーを利用して走行時間を計測し、この計測走行時間、切れ角センサ23による検出切れ角、走行速度検出手段22による検出走行速度を基に、自走車体の旋回開始点STからの旋回角度Dを計測していく。
【0040】
経過時間計測手段31は、制御手段21による指令に基づいて計測作動し、自走車体が旋回終盤範囲Z(図3参照)に到達して設定低速度Vbで走行し始めてから経過した時間を計測していく。
【0041】
走行距離計測手段32は、制御手段21による指令に基づいて計測作動し、タイマーを利用して走行時間を計測し、この計測走行時間、及び走行速度検出手段22による検出走行速度を基に、自走車体が旋回終盤範囲Zに到達して設定低速度Vbで走行し始めてから走行した走行距離を計測していく。
【0042】
制御手段21は、マイクロコンピュータを利用して構成してあり、図5に示すように、モード選択手段25が「切り」に操作されていると、モード選択手段25からの切り指令を基に変速制御オフの状態になり、切れ角センサ23などの情報に基づく主変速装置17の変速制御を停止する。モード選択手段25が「時間モード」に操作されていると、モード選択手段25からの入り指令を基に時間モード変速制御オンの状態になり、モード選択手段25が「距離モード」に操作されていると、モード選択手段25からのオン指令を基に距離モード変速制御オンの状態になり、モード選択手段25が「下降モード」に操作されていると、モード選択手段25からの入り指令を基に下降モード変速制御オンの状態になる。
【0043】
時間モード変速制御オンの状態になった制御手段21は、図6に示す如く作動する。
すなわち、走行速度検出手段22による走行速度を読み続け、かつ、切れ角センサ23による検出切れ角を読み続け、旋回角度計測手段30による計測旋回角度Daが記憶部に入力された設定旋回角度Db(約135度)と等しいか否かを判断し、計測旋回角度Daが設定旋回角度Dbに等しいと判断した場合、この判断を行った時の走行速度検出手段22による検出走行速度Vaが低速設定手段24による設定低速度Vbよりも大であるか否かを判断する。検出走行速度Vaが設定低速度Vbよりも大ではないと判断した場合、主変速装置17の減速操作を行わない。検出走行速度Vaが設定低速度Vbよりも大であると判断した場合、検出走行速度Vaを記憶部に記憶させ、かつ、主変速装置17を人為的に変速操作するための主変速レバー35(図2参照)の操作位置を検出するポテンショメータ37(図2参照)からの検出情報に優先して、走行速度検出手段22による検出走行速度Vaが設定低速度Vbになるように主変速装置17を減速操作し、さらに、経過時間計測手段31に計測作動を行わせる。経過時間計測手段31による計測経過時間Taが経過時間設定手段38(図2参照)によって設定された設定経過時間Tbに等しくなるまで、検出走行速度Vaが設定低速度Vbになる変速状態に主変速装置17を維持操作する。経過時間計測手段31による計測経過時間Taが設定経過時間Tbに等しくなると、走行速度検出手段22による検出走行速度Vaが記憶部による記憶検出走行速度になるように主変速装置17を減速前の変速状態に復帰操作し、これとともに記憶部による記憶検出走行速度の記憶を解除する。
【0044】
距離モード変速制御オンの状態になった制御手段21は、図7に示す如く作動する。
すなわち、走行速度検出手段22による走行速度を読み続け、かつ、切れ角センサ23による検出切れ角を読み続け、旋回角度計測手段30による計測旋回角度Daが記憶部に入力された設定旋回角度Db(約135度)と等しいか否かを判断し、計測旋回角度Daが設定旋回角度Dbに等しいと判断した場合、この判断を行った時の走行速度検出手段22による検出走行速度Vaが低速設定手段24による設定低速度Vbよりも大であるか否かを判断する。検出走行速度Vaが設定低速度Vbよりも大ではないと判断した場合、主変速装置17の減速操作を行わない。検出走行速度Vaが設定低速度Vbよりも大であると判断した場合、検出走行速度Vaを制記憶部に記憶させ、かつ、主変速レバー35の前記ポテンショメータ37からの検出情報に優先して、走行速度検出手段22による検出走行速度Vaが設定低速度Vbになるように主変速装置17を減速操作し、さらに、走行距離計測手段32に計測作動を行わせる。走行距離計測手段32による計測走行距離Laが走行距離設定手段39(図2参照)によって設定された設定走行距離Lbに等しくなるまで、検出走行速度Vaが設定低速度Vbになる変速状態に主変速装置17を維持操作する。走行距離計測手段32による計測走行距離Laが設定走行距離Lbに等しくなると、走行速度検出手段22による検出走行速度Vaが記憶部による記憶検出走行速度になるように主変速装置17を減速前の変速状態に復帰操作し、これとともに記憶部による記憶検出走行速度の記憶を解除する。
【0045】
下降モード変速制御オンの状態になった制御手段21は、図8に示す如く作動する。
すなわち、走行速度検出手段22による走行速度を読み続け、かつ、切れ角センサ23による検出切れ角を読み続け、旋回角度計測手段30による計測旋回角度Daが記憶部に入力された設定旋回角度Db(約135度)と等しいか否かを判断し、計測旋回角度Daが設定旋回角度Dbに等しいと判断した場合、この判断を行った時の走行速度検出手段22による検出走行速度Vaが低速設定手段24による設定低速度Vbよりも大であるか否かを判断する。検出走行速度Vaが設定低速度Vbよりも大ではないと判断した場合、主変速装置17の減速操作を行わない。検出走行速度Vaが設定低速度Vbよりも大であると判断した場合、検出走行速度Vaを記憶部に記憶させ、かつ、主変速レバー35の前記ポテンショメータ37からの検出情報に優先して、走行速度検出手段22による検出走行速度Vaが設定低速度Vbになるように主変速装置17を減速操作する。下降操作検出手段26による検出情報を基にロータリ耕耘装置11の下降操作が行われたと判断するまで、検出走行速度Vaが設定低速度Vbになる変速状態に主変速装置17を維持操作する。ロータリ耕耘装置11の下降操作が行われたと判断すると、走行速度検出手段22による検出走行速度Vaが記憶部による記憶検出走行速度になるように主変速装置17を減速前の変速状態に復帰操作し、これとともに記憶部による記憶検出走行速度の記憶を解除する。
【0046】
前記経過時間設定手段38も、前記走行距離設定手段39も、経過時間設定手段38による設定経過時間Taや、走行距離設定手段39による設定走行距離Laを時間長さや距離長さが異なるものに変更して設定することができるように、人為操作自在な設定手段に構成してある。
【0047】
つまり、耕耘作業を行うに当たり、図3に示す如く作業箇所Aでの耕耘走行を終えると、自走車体を枕地Bで旋回走行させて先の作業箇所Aに隣接した次の作業箇所Cに向けて移動させ、旋回終盤範囲Zにおいて、自走車体を操向操作して次の作業箇所Cに対して位置合わせし、次の作業箇所Cにおいて、ロータリ耕耘装置11が作業箇所Cに対して適切に位置して作業箇所Cと先の作業箇所Aの間に耕耘漏れができないようにしながら耕耘走行をしていく。この耕耘機にあっては、作業箇所Aの耕耘走行を終えたとき、耕耘走行時の走行速度のままで旋回走行に入っても、モード選択手段25を「時間モード」、「距離モード」、「下降モード」のいずれかの操作位置に操作してあれば、制御手段21が変速制御オンの状態になっていて旋回角度計測手段30が自走車体の旋回角度を計測していき、自走車体が旋回開始点STから約135度の旋回を行って旋回終盤範囲Zに到達すると、旋回角度計測手段30による計測旋回角度Daが設定旋回角度Dbになって制御手段21が変速アクチュエー20を操作して主変速装置17を耕耘走行時よりも低速の変速状態に変速操作し、自走車体が低速設定手段24によって設定された耕耘走行速度よりも低速の設定低速度Vbに自動的に減速して走行していき、自走車体を低速走行させながら操向操作することができて自走車体を次の作業箇所Cに精度よく容易に位置合わせすることができる。
【0048】
そして、モード選択手段25を「時間モード」に操作しておいた場合、自走車体が旋回終盤範囲Zに到達して設定低速度Vbに減速して走行し始めると、経過時間計測手段31が作動し、自走車体が旋回終盤範囲Zの走行を終了して次の作業箇所Cの始端付近に到達すると、経過時間計測手段31による計測経過時間Taが経過時間設定手段38による設定経過時間Tbになって制御手段21が変速アクチュエータ20を操作して主変速装置17を先に旋回終盤範囲Zで減速操作した時よりも前の変速状態に復帰操作し、自走車体の走行速度が前記設定低速度Vbに変速した時よりも前の走行速度に自動的に復帰し、自走車体の次の作業箇所Cに対する位置合わせが終了していて次の作業箇所Cと先の作業箇所Aの間に耕耘漏れが発生しにくいようにして、かつ、自走車体が先の作業箇所Aを耕耘走行した時と同じ耕耘用の走行速度で次の作業箇所Cを耕耘走行するようにして次の作業箇所Cを耕耘していくことができる。
【0049】
モード選択手段25を「距離モード」に操作しておいた場合、自走車体が旋回終盤範囲Zに到達して設定低速度Vaに減速して走行し始めると、走行距離計測手段32が作動し、自走車体が旋回終盤範囲Zの走行を終了して次の作業箇所Cの始端付近に到達すると、走行距離計測手段32による計測走行距離Laが走行距離設定手段39による設定走行距離Lbになって制御手段21が変速アクチュエータ20を操作して主変速装置17を先に旋回終盤範囲Zで減速操作した時よりも前の変速状態に復帰操作し、自走車体の走行速度が前記設定低速度Vbに変速した時よりも前の走行速度に自動的に復帰し、自走車体の次の作業箇所Cに対する位置合わせが終了していて次の作業箇所Cと先の作業箇所Aの間に耕耘漏れが発生しにくいようにして、かつ、自走車体が先の作業箇所Aを耕耘走行した時と同じ耕耘用の走行速度で次の作業箇所Cを耕耘走行するようにして次の作業箇所Cを耕耘していくことができる。
【0050】
モード選択手段25を「下降モード」に操作しておいた場合、旋回終盤範囲Zにおいて、自走車体が設定低速度Vbで走行する状態で自走車体の次の作業箇所Cに対する位置合わせを行い、この位置合わせが終了して次の作業箇所Cの耕耘走行に入る際、昇降レバー15を操作して耕耘装置11の下降操作を行うと、下降操作検出手段26が検出状態になって制御手段21が変速アクチュエータ20を操作して主変速装置17を先に旋回終盤範囲Zで減速操作した時よりも前の変速状態に復帰操作し、自走車体の走行速度が前記設定低速度Vbに変速した時よりも前の走行速度に自動的に復帰し、次の作業箇所Cと先の作業箇所Aの間に耕耘漏れが発生しにくいようにして、かつ、自走車体が先の作業箇所Aを耕耘走行した時と同じ耕耘用の走行速度で次の作業箇所Cを耕耘走行するようにして次の作業箇所Cを耕耘していくことができる。
【0051】
前記エンジン4は、コモンレール式ディーゼルエンジンに構成してあり、図4に示す如き特性を備えている。図2に示すように、このエンジン4の調速機構40を前記制御手段21に連係させてある。
【0052】
制御手段21は、切れ角センサ23による検出情報を基に前車輪1の操向状態を検出し、前車輪1が直進向きや、直進向きから横向き側にわずかに揺動した操向状態にあれば、自走車体が作業走行状態にあると判断し、前車輪1が設定角以上に横向きに揺動した操向状態にあれば、自走車体が旋回走行状態にあると判断する。自走車体が作業走行状態にあると判断した場合、エンジン4が最大トルクTmを発揮する回転数naよりも高速の回転数域nzで回転するように調速機構40を高速側に操作し、自走車体が旋回走行状態にあると判断した場合、エンジン4が最大トルクTmを発揮する回転数na、又は最大トルクTmの90%を発揮する回転数nbになるように調速機構40を減速操作する。
【0053】
すなわち、作業時には、高駆動負荷が発生してエンジン回転数が低下しても、エンジンストップが発生しにくいように、エンジン4を最大トルク点よりも高速側の回転数で駆動する。旋回走行時では、走行負荷が作業負荷よりも軽く、負荷増大が発生してエンジン回転数が低下してもエンジンストップが発生しにくいことにより、エンジン音が極力静かになるように、かつ、消費燃料が少なくて済むようにエンジン4を作業時よりも低回転数の状態にして駆動するようになっている。
【0054】
〔別実施例〕
上記実施例の如く切れ角センサ23による検出情報、及び車速を基に旋回角度を計測する旋回角計測手段30を採用する他、旋回を検出する角速度センサによる検出情報を元に旋回角度を計測するように構成した旋回角計測手段や、切れ角センサ23による検出情報、車速、前輪1を揺動操向可能に支持している前輪支持機構が備えるアッカーマンの原理を基に旋回角度を計測するように構成した旋回角計測手段を採用して実施してもよく、いずれの場合も本発明の目的を達成することができる。
【0055】
上記実施例の如く、主変速装置17を減速操作することによって旋回終盤範囲Zでの自走車体の減速を可能にする他、副変速装置を減速操作したり、エンジン4の回転数を低下操作したりすることによって旋回終盤範囲Zでの自走車体の減速を可能にしても、本発明の目的を達成することができるのであり、いずれの構成を採用して実施してもよい。
【0056】
耕耘機の他、田植など各種の作業を行う車両にも本発明を適用できるのであり、耕耘機、田植機などを総称して作業車と呼称し、ロータリ耕耘装置11や苗植付け装置などを総称して作業装置11と呼称する。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】乗用型耕耘機の全体側面図
【図2】ブロック図
【図3】旋回走行の説明図
【図4】エンジン特性図
【図5】変速制御のフロー図
【図6】変速制御のフロー図
【図7】変速制御のフロー図
【図8】変速制御のフロー図
【符号の説明】
【0058】
11 作業装置
21 制御手段
22 走行速度検出手段
24 低速設定手段
26 下降操作検出手段
30 旋回角度計測手段
31 経過時間計測手段
32 走行距離計測手段
Da 計測旋回角度
Db 設定旋回角度
La 計測走行距離
Lb 設定走行距離
Ta 計測経過時間
Tb 設定経過時間
Va 検出走行速度
Vb 設定低速度


【特許請求の範囲】
【請求項1】
自走車体の走行速度を検出する走行速度検出手段、自走車体の旋回角度を計測する旋回角度計測手段、自走車体の位置合わせ走行の設定低速度を設定する低速設定手段を設け、
前記旋回角度計測手段による計測旋回角度が設定旋回角度になると、自走車体が前記設定低速度で走行するように、前記走行速度検出手段による検出情報、及び前記旋回角度計測手段による計測情報を基に自走車体の走行変速を行う制御手段を設けてある作業車。
【請求項2】
前記制御手段を、前記旋回角度計測手段による計測旋回角度が設定旋回角度になり、かつ、前記旋回角度計測手段による計測旋回角度が設定旋回角度になった時の前記走行速度検出手段による検出走行速度が前記設定低速度よりも高速であると、自走車体が前記設定低速度で走行するように、自走車体の走行変速を行うように構成してある請求項1記載の作業車。
【請求項3】
自走車体が前記低速設定手段による設定低速度での走行を開始してから経過した時間を計測する経過時間計測手段を設け、
前記制御手段を、前記経過時間計測手段による計測経過時間が設定経過時間になると、自走車体が前記設定低速度に変速した時より前の走行速度に変速して走行するように、前記経過時間計測手段による計測情報を基に自走車体の走行変速を行うように構成してある請求項1又は2記載の作業車。
【請求項4】
自走車体が前記低速設定手段による設定低速度での走行を開始してから走行した走行距離を計測する走行距離計測手段を設け、
前記制御手段を、前記走行距離計測手段による計測走行距離が設定走行距離になると、自走車体が前記設定低速度に変速した時より前の走行速度に変速して走行するように、前記走行距離計測手段による計測情報を基に自走車体の走行変速を行うように構成してある請求項1又は2記載の作業車。
【請求項5】
下降作業状態と上昇非作業状態に昇降操作自在に連結された作業装置の下降操作を検出する下降操作検出手段を設け、
前記制御手段を、前記旋回角度計測手段による計測旋回角度が設定旋回角度になり、かつ、前記下降操作検出手段が検出状態になると、自走車体が前記設定低速度に変速した時より前の走行速度に変速して走行するように、前記旋回角度計測手段による計測情報、及び前記下降操作検出手段による検出情報を基に自走車体の走行変速を行うように構成してある請求項1又は2記載の作業車。
【請求項6】
前記低速設定手段を、前記設定低速度の変更設定が可能なように人為操作自在に構成してある請求項1〜5のいずれか1項に記載の作業車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−162816(P2007−162816A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−359220(P2005−359220)
【出願日】平成17年12月13日(2005.12.13)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】