説明

作業靴

【課題】 足の運動や姿勢を阻害しない地下足袋のような履き心地および装着中におけるフィット感を有し、地下足袋よりも耐久性に優れかつ歩行面から伝わる衝撃を緩和することができる作業靴を提供すること。
【解決手段】 足を収容し保持する足入れ部を有するアッパー体と当該アッパー体の底部に形成した靴底を有する作業靴であって、前記足入れ部を靴先部を除いて織布または編布によって形成するとともに、当該織布または編布によって形成した足入れ部の足入口となる開口縁を踝の下方に設け、左右の踝部分およびアキレス腱部分を個々に覆うクッション素材を内包した保護パッドを前記足入口の開口縁から上方に向かって設け、前記靴底を接地部を構成する非発泡素材によるアウトソールと当該アウトソールと前記アッパー体との間に充填される発泡素材によるミッドソールによって形成したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設現場等で使用する作業靴に関するものであり、特に高所作業における使用を目的とした作業靴に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高層ビルを建築する場合、組み上げた鉄骨の上を歩いたり、不安定な足場で鉄筋結束を行う等の作業が必要になる。このような高所作業に従事する作業者の多くは、地下足袋を愛用している。地下足袋は、靴底が薄く足を入れる袋部分(アッパー)も柔らかい布で形成されているので全体的に柔軟性が高く、収容した足の運動を阻害しにくいという特徴を有している。また、靴底から伝わる感触によって路面の状況を感じ取りやすいことも地下足袋が愛用される理由のひとつである。
【0003】
一方、地下足袋は靴底を形成するゴム層が薄く形成されているので、コンクリートや鉄骨などの硬い歩行面上で作業を行うと、靴底で吸収しきれない衝撃が膝や腰に伝わり作業者は疲労を感じやすくなる。
また、鉄骨の上を歩いたり格子状に敷き詰めた鉄筋の間を移動しながら鉄筋結束作業等を行う場合も多く、着用した履き物には鉄骨の尖った金属部位との接触、コンクリートに対する擦りつけ等の様々なストレスが作用する。したがって、地下足袋を着用した場合には、足を入れる袋部分の布が擦り切れたり、爪先部分が擦り切れて内蔵した先芯が露出する等の耐久性の点で問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第2582992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記課題に鑑み発明されたものであって、足の運動や姿勢を阻害しない地下足袋のような履き心地および装着中におけるフィット感を有し、地下足袋よりも耐久性に優れかつ歩行面から伝わる衝撃を緩和することができる作業靴を提供することを課題とするものである。
特に、高所作業では起伏に富んだ様々な形状の足場を歩行したり、鉄骨を登攀するような作業を行う場合もある。したがって、足首部分における様々な運動を阻害しない自由度の高い靴を着用することが望ましい。本発明は、足首部における足の自由度が高く、かつ上記した地下足袋のような履き心地とフィット感を有し、かつ耐久性と衝撃緩和について効果のある作業靴を提供することを課題とするものである。
【0006】
なお、本発明は上記課題の全ておよび明細書中に記載した各種の課題を解決することを目的とするものであるが、特許請求の各請求項に記載した発明特定事項のみによって上記全ての課題を解決するわけではなく、作業靴若しくは安全靴として当然に備えている他の構成を前提として解決されるものである。また、特許請求の範囲に記載した発明特定事項は、特許発明として成立しうる必須の構成を記載したものである。したがって、特許請求の範囲に記載した発明特定事項以外は不要であるということではないし、上記課題と請求項に記載した発明特定事項が逐一対応していないからといって特許請求の範囲に記載した発明が不明確になることはなく、そのことのみを理由として拒絶されるべきものでないことはいうまでもない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明は以下の構成を有する。すなわち第1の手段は、
足を収容し保持する足入れ部を有するアッパー体と当該アッパー体の底部に形成した靴底を有する作業靴であって、
前記足入れ部を靴先部を除いて織布または編布によって形成するとともに、当該織布または編布によって形成した足入れ部の足入口となる開口縁を踝の下方に設け、
左右の踝部分およびアキレス腱部分を個々に覆うクッション素材を内包した保護パッドを前記足入口の開口縁から上方に向かって設け、
前記靴底を接地部を構成する非発泡素材によるアウトソールと当該アウトソールと前記アッパー体との間に充填される発泡素材によるミッドソールによって形成したことを特徴とする作業靴。
【0008】
また、第2の手段は以下の構成を有する。すなわち、
前記足入口の開口縁の左右両側部を下方に向かって湾曲するように形成するとともに、前記左右の保護パッドの下端を当該足入口の開口縁部分の形状に合わせて湾曲した形状に形成し、両者を結合したことを特徴とする上記構成の作業靴。
【0009】
また、第3の手段は以下の構成を有する。すなわち、
足入れ部の内面の踵部の周囲と接する部位に摩擦による損傷防止と足入れ部の形状保持を目的とした補強シートを設けるとともに、当該補強シートの後部上方部分を前記足入れ部の開口縁よりも突出するように形成し、
当該突出した補強シートの後部上方部分によって、前記アキレス腱部分を覆う保護パッド内側面側の被覆を形成したことを特徴とする上記何れかの構成の作業靴。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る作業靴は、足入れ部を構成するアッパー体の主要部を繊維糸による織布または編布によって形成している。したがって、布の柔軟性によって足首の屈曲動作を妨げないものとなっている。
また、先芯を内蔵した先端部分を除き、アッパー体の主要部を織布または編布によって形成しているので、天然皮革等によってアッパー体を形成した安全靴と比較して重量を軽くすることができ、前記アッパー体の柔軟性との相乗効果により作業性のよい作業靴を提供できるものとなっている。
また、靴先に硬質の先芯を内蔵した靴は、靴先を硬いものにぶつけると先芯を覆う表皮が損傷しやすいものである。本発明に係る作業靴は先端の先芯を覆うカバーのみを、アッパー体の他の部位を構成する織布または編布によるものとは異なり、表面を起毛させた皮革によって形成している。先芯は屈曲しないので、当該部位に強度の高い皮革素材を用いても靴全体としての柔軟性に影響はない。本発明に係る作業靴は、先芯を覆うカバーのみに皮革素材を用いることで、靴全体としての柔軟性を損なうことなく先芯を保護することができるという特徴を有している。
【0011】
また、本発明に係る作業靴は、アッパー体を織布または編布および起毛した皮革素材によって形成している。したがって、素材自体の接着性がよいので靴底との接着性を高めるために必要となる起毛処理を要せず、作業工程を簡略化することができるという特徴を有している。
また、本発明に係る作業靴は、靴の柔軟性と靴底の耐摩耗性、耐滑性を満たす条件の範囲内で前足底部分の靴底をできるだけ薄く形成するとともに踵部分の靴底を厚く形成し、かつミッドソールの肉厚を柔軟性を損なわない限度でできるだけ厚く形成している。このような条件のもと本発明に係る作業靴は、踵から脚部に対する衝撃を緩和するとともに足の屈曲動作に応じて変形しやすく、かつ靴底面から伝わる歩行面の感触を感知しやすいという特徴を有している。
また、本発明に係る作業靴は、アッパー体が単に屈曲しやすいだけではなく、屈曲に影響しない踵周囲を帯状補強片や帯状補強布によって補強することで形状を崩れにくくしている。これによって、靴内における足の移動を制限(足をホールド)することができるので、足と靴の一体感を向上させることができるようになっている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る作業靴の内足側から見た側面図である。
【図2】本発明に係る作業靴の背面図である。
【図3】本発明に係る作業靴の断面図である。
【図4】本発明に係る作業靴の背面側から見た踵部の断面図である。
【図5】本発明に用いる帯状補強片の説明図である。
【図6】本発明に用いる帯状補強片の他の実施例を表す説明図である。
【図7】本発明に用いる帯状補強布の実施例を表す説明図である。
【図8】本発明に用いる踵部補強体の説明図である。
【図9】従来の作業靴に用いられている月形補強片の外観図である。
【図10】本発明に係る作業靴の先端部における平面図と中底付近の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。図1は本発明の一実施例である作業靴1の内足側から見た側面図を表し、図2は同作業靴1の背面図を表している。また、図3は作業靴1を側面側から見た状態の中央部分における断面図を表し、図4は同作業靴1の背面側から見た状態の踵部における断面図を表している。
本実施の形態に係る作業靴1は、踝(くるぶし)のやや上方の足首部分までを覆う短靴タイプの靴として形成されたものである。当該作業靴1は、主な構成としてアッパー体2と当該アッパー体2の底部に形成された靴底3を有している。アッパー体2は、足を収容し保持する足入れ部4を有しており、当該足入れ部4は靴先部を除いて織布または編布によって形成されている。足入れ部4は、足を挿脱するための開口となる足入口5を有している。
【0014】
前述したように足入れ部4は織布または編布等の布生地によって形成されており、当該布生地によって形成された足入れ部4の開口である足入口5は、足の踝の下部に沿うような位置に設けられている。
具体的に説明すると、足の両側部における前記足入口5の開口縁部分は踝の下部に沿って下方に湾曲するように形成されている。当該湾曲するように形成された開口縁部分には、下端の形状を当該開口縁部分の形状に合わせて湾曲させた保護パッド(43、44)が縫着されるようになっている。保護パッドの詳細について後述する。
【0015】
足入れ部4を形成する素材として繊維糸による布生地を用いたのは、歩行や作業時に生じる足の様々な屈曲動作や姿勢を阻害することなく撓むことができ、かつ皮革に比べて軽量だからである。
また、上記足入れ部4に用いる布生地には、一例として線径が0.5mm程度の太繊維により形成した厚手の織布と線径が0.1〜0.2mm程度の細繊維により形成した薄手の織布を重ね合わせた2層構造のものを用いている。当該2層構造の布を用いたのは、外側の表面に厚織布を用いることで鋭利な突起物等によって生じる引き裂きや摩耗に対する強度を高めるとともに、引き裂きが生じた場合であっても当該引き裂きの進行を内側に貼り付けた薄織布によって阻止し、かつ摩耗によって厚織布に穴が開いた場合であっても内部まで直ちに貫通するのを防止するためである。
【0016】
舌(タン)部に相当するアッパー体2の上面中央には、マチ状の撓み部分6が設けられており、足入口5の拡縮が行えるようになっている。なお、撓み部分6は、足甲部に当接
する一般的な舌部とは異なり、足入れ部4との間に隙間を形成せず足甲部からの埃等の侵入を防止するようになっている。
また、アッパー体2の表面には、前記撓み部分6を跨ぐようにベルト7が配置されている。当該ベルト7の基端部はアッパー体2の左右何れかの面に固定されており、当該基端部の表面には面ファスナーの雌側シート(微細ループを多数設けた締結具)が設けられている。
また、ベルト7の先端には面ファスナーの雄側シート(微細フックを多数設けた締結具)を設けており、前記基端部の反対面に設けたリング状金具8に挿通させた後に折り返し、前記ベルト7の先端の雄側シートと前記基端部の雌側シートとを対向させ結合させることができるようになっている。
【0017】
足入れ部4は、足首付近から足先までを覆う袋状の部分として形成された部分であり、足の甲部から側方部分に亘る布生地で形成した部位と、当該部位の先端に縫合した靴先を覆うカバー13を有している。
カバー13は、バックスキン、床革といった表面が起毛した皮革によって形成されている。表面が起毛した皮革は、柔らかくクッション性があるので、鉄骨などの堅いものにぶつけても損傷しにくいという特徴を有している。本実施例に係る作業靴1は、靴の先端に足先を保護するための硬質の先芯を内蔵した作業靴として形成されたものである。したがって、靴先を鉄骨などの堅いものにぶつけると、その部分が先芯との間に挟まれるかたちとなって裂ける等の損傷が起きやすくなる。本実施例ではこのような観点から先芯を覆う靴先のカバー13として表面に起毛を有する皮革を用いている。
【0018】
また、カバー13の裏面には、足先部分を覆う不織布等によって形成された先裏布14が設けられている(図3参照)。先裏布14は、足入れ部4の布生地部分の先端を延長するようなかたちで縫着されたものであり、足甲部から爪先までを覆うように立体的に形成(縫製)されたものである。
上記足入れ部4を構成する各布部分とカバー13および先裏布14を縫着して結合すると下端に開口を有した筒のような形状になる。そして、この下端開口を塞ぐように下端縁と中底15の周囲を縫着することで袋状の足入れ部4が形成される。中底15はフェルトシート、織布、不織布等を積層して押し固め、1〜2mmの厚さに形成した板状片である。
【0019】
上記中底15を縫着する際、中底15とカバー13の下端は縫着せず、カバー13と先裏布14との間に下端開口の隙間を形成するようになっている。当該隙間は、先芯16を収容する部位であり、先芯16を収容した後にカバー13の下端を中底15側につり込み(引っ張り)、当該つり込んだ下端部位を靴底を形成する際に同時に固定するようになっている。
なお、前記中底15の裏面にはバネ性を有する鋼板またはステンレス鋼板によって形成された肉厚約0.5mm程度の踏み抜き防止板を貼り付けてもよい。踏み抜き防止板は釘、ネジ、その他鋭利な金属、ガラス片などが靴底を介して足裏に刺さらないように防御する板であり、中底15よりもやや小さく形成されたものである。
【0020】
アッパー体2の構造について詳しく説明する。図3は上記作業靴1を内足面側から表した中央断面図であり、図4は図1に示したA−A’線における断面図を表している。
アッパー体2を構成する足入れ部4の背面部には、上下方向に亘って所定幅の帯状の布片(以下「背面補強片」という)18が縫着されている。足入れ部4は、両側面を構成する2枚の布片の端部を背面部において接合および縫着しており、その縫着部が脚部の背面(アキレス腱側)において上下に亘って設けられている。背面補強片18は、上記背面側に表出する縫着部を覆うことで縫い糸の損傷を防止する作用を有している。当該背面補強片18には前述した2層構造の布を用いている。
【0021】
また、背面補強片18は、やや円弧状に湾曲した状態で長手方向(上下方向)に沿って取り付けられるため、布製ではあるものの屈曲に抗する剛性が生じる。背面補強片18は、この剛性によってアッパー体2の形状を保つ形状保持作用も有している。
作業靴1は、柔軟性を有していることが好ましいのであるが、踵部周辺にある程度の剛性がないと足入口5の開口状態を維持できず、足の出し入れを円滑に行えなくなる。また、アッパー体2に最低限の剛性を付与することで、上記着脱時の利便性とともに、着用時のフィット感、足のホールド性を得ることができるようになっているものである。当該観点から作業靴1に背面補強片18を設けている。
【0022】
また、足入れ部4の内側下端には、踵の外周を取り巻くように所定幅の帯状補強片19が設けられている。当該帯状補強片19の下端はアッパー体2の下端と一致しており、アッパー体2の下端とともに中底15に対して縫着されている。
当該帯状補強片19は、踵に沿って円弧状に湾曲させることができる程度の剛性を有した所定幅の帯状片であり図5に示す形状を成している。本実施の形態に用いる帯状補強片19は、天然皮革を高圧で押し固めたシートを、大凡3cm程度の幅となるように形成したものである。本実施の形態における帯状補強片19は、大凡1.5cmの細幅片20と大凡3cmの太幅片21を重ねて一枚の帯状補強片として形成したものを用いているが、図6に示すようなシート単体によって形成したもの(帯状補強片19a)であっても差し支えがないものである。
【0023】
また、アッパー体2の下端部には、両側方から踵にかけて配置される帯状補強布22が設けられている。帯状補強布22は図7に示す形状を成しており、前記帯状補強片19と同様の幅に形成されており、踵の外周部では前記帯状補強片19と重なり合った状態で中底15に対して縫着されている。また、踵よりも前方の部分では、帯状補強片19の下端はアッパー体2の下端と一致しており、アッパー体2の下端とともに中底15に対して縫着されている。本実施の形態に係る帯状補強布22には足入れ部4を形成した2層構造の布地と同じものを用いている。
【0024】
足入れ部4内の踵部には、図8に示す形状の踵部補強体40が設けられている。当該踵部補強体40は、引っ張りや摩擦に強く柔らかい人工皮革や不織布等のシートを主要素材とするものであり、足入れ部4の内側面に縫い付けられる補強シート41と足入れ部4の上方に突出する後部保護パッド42を有したものとなっている。
補強シート41は、半円若しくは半楕円状に形成された部位であり、足入れ部4の踵部内側面に縫い付けられることによって、後方のやや高い位置から踝の下部を通り前方に向かって下降傾斜するように設けられるものである。
足入れ部4内の踵部は、歩行や作業の際に踵と摩擦を繰り返す部分であり、擦り切れる等の摩耗が生じやすい部分である。作業靴1は、当該踵部を摩擦に強い素材によって補強することで、靴としての耐久性を向上させている。
【0025】
また、踵部補強体40の上部には、足入れ部4の上端縁を超えて延出する後部保護パッド42が設けられている。後部保護パッド42は、4〜3cm程度の幅を有する厚さ1cm程度のクッション体として形成した部位であり、踵部補強体40と連続する一体的なシート素材の上部に収容部を形成し、スポンジ等の緩衝素材を封入することで厚みのある膨出部として形成したものである。
前述のように、踵部補強体40の補強シート41および後部保護パッド42の内面(足に接する側の面)は、補強シート41から連続する継ぎ目のない一枚のシートによって形成されている。後部保護パッド42は、外部からの衝撃に対してアキレス腱を保護するものであるが、同時に作業靴1を履く際に足を導く靴べらのような機能を付加したものである。このため、後部保護パッド42に接した踵を作業靴1内に円滑に導けるように、補強
シート41および後部保護パッド42の内面を摩擦に強くある程度滑りやすい一枚のシートによって形成している。
なお、上記のように補強シート41および後部保護パッド42の内面を継ぎ目のない一枚のシートによって形成することにより、破断、縫い糸の擦り切れ、解れ等が生じにくいようになっている。
【0026】
上記後部保護パッド42は足入口5のアキレス腱側に配置された部材であるが、足入口5の左右の上端部にも踝部分を覆う保護パッドとしてサイドパッド43、44が設けられている。
サイドパッド43、44は前後方向にやや長い楕円形状に形成された肉厚が約1cm程度のクッション体である。サイドパッド43、44は、ニット状の素材若しくは柔らかい合成皮革素材によって表面層を形成し、発泡ウレタンなどの緩衝部材を内部に詰めたものであり、自立的に形状を維持できる程度の剛性を有した柔らかい部材として形成されている。
【0027】
足入口5左右の開口縁は、上記楕円形状に形成されたサイドパッド43、44の下端縁と同様に下方に湾曲した形状を成している。 踝の下方に足入口5の開口縁を設けたのは、足首の屈曲は主として踝付近よりも上方で行われるからである。すなわち、踝の下方に開口縁を設けることで、足入れ部4によって足首部の屈曲動作を妨げないようにするためである。
また、足入れ部4の左右の開口縁を湾曲形状とし、かつ当該部位に取り付けられるサイドパッド43、44を当該湾曲形状に沿う形状としたのは、サイドパッド43、44の倒れを防止しアッパー体2の形状を保つためである。
なお、本実施の形態では左右のサイドパッド43、44は、後方部において平面視でU字形状を成すように細幅部45を介して互いに連結されている。このように連結することで、柔軟性を保ちつつ左右のサイドパッド43、44の自立をさらに確かなものとしている。
【0028】
上述した後部保護パッド42および一部において連結したサイドパッド43、44は足入れ部4の開口縁上においてそれぞれ独立して立設するとことで、開口縁部分において独立して屈曲できるようになっている。したがって、アキレス腱や踝等の足首部周辺を保護しつつ、足の動作を阻害しないようになっている。
【0029】
また、上記構成を有するアッパー体2の底部には、射出成形によって形成された靴底3が設けられている。靴底3は、所謂2層底と称されている形態の靴底であり、非発泡のゴムにより形成した接地面を有するアウトソール25と、当該アウトソール25とアッパー体2との中間に設けられた発泡ゴム、発泡ウレタン等のクッション性のある発泡素材により形成したミッドソール26によって形成されたものである。
なお、ミッドソールの成形材料としては、好ましくは発泡ゴムが最適である。その理由として、ゴムによって靴底3を形成することで加水分解を生じることがなく、耐熱性にも優れた靴底を得ることができるからである。
【0030】
靴底3の形成に関する詳細な説明は省略するが、各種パーツ、中底15の縫着を完了したアッパー体2の内部に足の形を成した靴型を装着し、当該靴型を装着したアッパー体2先端のカバー13内に先芯16を装着し、靴底を形成するための金型にアッパー体2を装着して底部に靴底3を形成するものである。当該靴底3の形成には2工程あり、初めに靴底形成用の金型にミッドソールの表面形状を有したダミー型を装着してアウトソール25を形成し、次いで前記ダミー型を取り去った後に靴型を装着したアッパー体2を前記アウトソール25の上に配置し、アウトソール25とアッパー体2の周囲をサイドモールドで囲んでできた空間に発泡ゴムを注入し、ミッドソール26を形成するという手順で行われ
る。アウトソール25とアッパー体2の間に注入された発泡ゴムは、発泡による膨張圧力を利用して金型内に充填され、アウトソール25とアッパー体2を強固に接着しつつクッション層を形成するようになっている。
【0031】
図4は、中底15上に載置される中敷き28を外した状態の作業靴1における踵部分の断面図を表している。踵部分は靴底が減りやすく、前足底部分よりも屈曲性が求められない部分なので、他の部位と比較してアウトソール25が厚く形成されている。また、ミッドソール26は、アッパー体2の下部を包むように靴底全周に亘って起立部29を有しており、当該起立部29の上端30の位置はアッパー体2内部の直近の中底15面よりも高い位置となるように形成されている。
【0032】
上述した中底15面に対する起立部29の上端30の高さh1は、アッパー体2外周の全ての箇所で等しいわけではなく、部位によって異なっている。すなわち、屈曲性が要求される部分における高さh1は低く、比較的屈曲性が要求されない部分における高さh1は高く形成されている。具体的には、土踏まずから前方部分においては比較的低く、踵付近においては高く形成されている。本実施の形態に係る作業靴1の場合、中底15面に対するミッドソール26の起立部29の高さh1は5mm〜1.5cm程度の範囲内となるように形成されている。
【0033】
また、中底15面に対する前述した帯状補強片19と帯状補強布22の上端位置の高さh2は大凡2cm程度を超えない高さとなるように形成されている。そして、帯状補強片19と帯状補強布22の上端位置の高さh2は、少なくとも中底15面に対するミッドソール26の高さh1よりも高くなるように形成されている。
従来一般の靴の場合、踵部には図9に示すような所謂月形補強片100が装着されていた。これに対して本発明に係る作業靴は、月形補強片に相当する帯状補強片19の高さが低く形成されている。具体的には、中底15面に対する帯状補強片19の上端の高さは、着用者の足底と踝との中間位置程度の高さとなるのが好ましいことから、前述したように大凡2cm程度であり、中底15面に対してほぼ平行を成すように設定されている。
【0034】
上記のように、月形補強片100に換えてほぼ等しい幅の帯状補強片19を用いたのは、踵部における足の屈曲運動を妨げないためである。踵周辺における足の構造は、踝よりも下の部分ではほぼ屈曲しないようになっている。したがって、踵周辺の下側に、当該踵を取り巻くように補強片を設けても足の屈曲性を妨げることはない。したがって、本願発明においては、足の屈曲性を妨げることなく踵部を補強するために上記形状の帯状補強片19を用いている。
また、本発明に係る作業靴は、靴の左右両側それぞれに帯状補強布22を設けている。当該帯状補強布22の後端部位は、踵部の周囲において前記帯状補強片19と上端の高さを同じくして重なり合うように設けられている。また、各帯状補強布22の先端部は、表面を起毛させた肉厚の皮革であるカバー13の後端と近接する位置まで設けられている。
【0035】
上記のように、アッパー体2の下方部分は、布地の重ね合わせ若しくは肉厚の皮革素材で形成しているので、当該部分は肉厚方向にやや弾力性を有するようになっている。靴底を形成する際、アッパー体2の内部にラストと称される靴型を挿入し、当該ラストを挿入したアッパー体2を金型に装着して射出成形を行っている。この際、アッパー体2の下方部分をラストと金型の開口部によって挟むことで、開口部からの樹脂の漏洩を防止するようになっている。
しかし、前記アッパー体2を挟む力が弱いと金型内に射出された樹脂がアッパー体2の表面と金型の開口部との隙間から漏れだしてしまうので、射出された樹脂が漏れないように強い力で加圧しなければならない。一方、金型によって挟まれる部分の布地が薄いと、この挟む力が局部的に集中して布地を切断してしまう場合がある。
そこで、本発明に係る作業靴は、金型の挟む力を弾性的に受け止めて、布地の切断等を生じることがないように、アッパー体2下方全周を他の部位よりも肉厚に形成している。
【0036】
また、本発明に係る作業靴は、安全靴として靴先に硬質の先芯を内蔵したものである。硬質の先芯を内蔵した靴は、外皮に張力をかけて先芯の表面に密着させる必要があるので、通常の靴の場合アッパー体の下端全周を靴底裏面方向に引っ張るつりこみという工程を必要とする。
これに対して本発明に係る作業靴は、カバー13の下端27のみをつり込めばよく、布地で形成した部分をつり込む必要がない。したがって、アッパー体の下端全周をつり込む必要がないので、製造時の工程を簡略化することができるという構造的な特徴を有している。
【0037】
また、射出成型によって靴底を形成する場合、アッパー体とミッドソールを強固に接着する必要がある。このため、光沢のある銀面を表皮として有する天然皮革を使用した一般的な安全靴の場合、ミッドソールとの接着性を高めるために光沢面にヤスリをかける等の起毛処理が必要となる。
これに対して本発明は、靴底との接着部位に起毛処理を必要とする素材を使用していない。具体的に説明すると、本発明に係る作業靴は、先芯を覆うカバー13にはすでに表面が起毛した肉厚(1〜2mm)の床革等を用い、足入れ部4には繊維糸を織って(若しくは編んで)形成した布体を用いている。これらの各素材は、すでに表面が起毛しているのと同様であるので、射出成形される樹脂との接着性が極めて良好である。
したがって、本発明に係る作業靴は、従来靴底を形成する際に必要としていた起毛処理を必要としないという特徴を有している。
【0038】
以上説明した本発明に係る作業靴は、足入れ部4を織布等を用いて形成することで柔軟性を確保し、足首部を保護する靴でありながら足の運動や作業時に生じる様々な足の屈曲動作や姿勢を阻害しないという特徴を有している。
【0039】
一方、本発明に係る作業靴は、衝撃吸収層として作用する踵部分のミッドソールを厚く形成したものであり、重量物を持って歩行する場合や鉄骨、コンクリート等の硬い部位を歩行する場合であっても足に伝わる衝撃を軽減することができるという特徴を有している。
しかし、踵部分のミッドソールを厚くするということは、踵の位置を床面から高くすることなので、高所作業での安全性を求められる靴にとって安定性を損なう要素となりかねないものである。本発明に係る作業靴は、当該事情を考慮し、踵部分のミッドソールを厚く形成したにもかかわらず、踵の周囲に設けた帯状補強片19の作用によって踵のホールドと足入れ部4の型くずれ、腰砕けのような変形を防止し、着用時の安定性も確保できるようになっているものである。また、帯状補強片19は、前述のように従来一般的に用いている月形補強片とは異なるものであるから、上記着用時の安定性を確保しつつ足首の屈曲運動を阻害しないという特徴を有している。
【0040】
次に、先芯16と当該先芯16を覆うカバー13について説明する。
前述したように、本実施の形態に係る作業靴1は靴先に先芯16を内蔵したものである。先芯16は、鋼鉄若しくは繊維強化プラスチック等の硬質樹脂素材により形成されているので硬く変形しにくいものである。一方、本実施の形態に係る作業靴1は高所などでの作業に支障が生じないように足に対する追従性、履き心地、軽量化を考慮してアッパー体2を構成する足入れ部4の素材に布生地を用いたものである。
すなわち、作業靴1はアッパー体2の主要部を布生地によって形成した先芯16内蔵の作業靴(安全靴)というわけである。しかし、先芯16の表面を布生地によって覆うと、前述したように布生地が損傷してしまうので、アッパー体2の先端に起毛した天然皮革若
しくは合成皮革によるカバー13を設けている。
【0041】
先芯16の後端縁50は略半円状の開口となっている。当該後端縁50は、靴の内側から見ると足入れ部4内において継ぎ目となる部分である。そのため、後端縁50は靴内面において肉厚の差による極端な段差が生じないように先細り状に形成されている。その結果、先芯16の後端縁50は、アッパー体の表面近くにおいて比較的尖った形状のエッジを有した形状になっている。この後端縁50のエッジ部上に足入れ部4の布生地が乗り上げるように配置されると、後端縁50との接触部分において布生地の微細な屈曲が繰り返し生じ、亀裂を生じるようになる。
図10(a)は、靴先部分におけるカバー13と先芯16の位置関係を表した平面図であり、図10(b)は中底15付近における上方から見た状態(図1におけるB−B’線断面)の断面図を表している。本実施の形態に係る作業靴1は、繰り返しの屈曲に強いカバー13を先芯16の後端縁50を超える位置まで延ばしている。これによって、先芯16の後端縁50によるアッパー体の破損を防止することができ、作業靴の耐久性を向上させている。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、高所作業に適した作業靴に利用可能である。
【符号の説明】
【0043】
1 作業靴
2 アッパー体
3 靴底
4 足入れ部
5 足入口
6 撓み部分
7 ベルト
8 リング状金具
13 カバー
14 先裏布
15 中底
16 先芯
18 背面補強片
19 帯状補強片
19a 帯状補強片
20 細幅片
21 太幅片
22 帯状補強布
25 アウトソール
26 ミッドソール
27 下端
28 中敷き
29 起立部
30 上端
40 踵部補強体
41 補強シート
42 後部保護パッド
43、44 サイドパッド
45 細幅部
50 後端縁
h1 高さ
h2 高さ
100 月形補強片


【特許請求の範囲】
【請求項1】
足を収容し保持する足入れ部を有するアッパー体と当該アッパー体の底部に形成した靴底を有する作業靴であって、
前記足入れ部を靴先部を除いて織布または編布によって形成するとともに、当該織布または編布によって形成した足入れ部の足入口となる開口縁を踝の下方に設け、
左右の踝部分およびアキレス腱部分を個々に覆うクッション素材を内包した保護パッドを前記足入口の開口縁から上方に向かって設け、
前記靴底を接地部を構成する非発泡素材によるアウトソールと当該アウトソールと前記アッパー体との間に充填される発泡素材によるミッドソールによって形成したことを特徴とする作業靴。
【請求項2】
前記足入口の開口縁の左右両側部を下方に向かって湾曲するように形成するとともに、前記左右の保護パッドの下端を当該足入口の開口縁部分の形状に合わせて湾曲した形状に形成し、両者を結合したことを特徴とする請求項1記載の作業靴。
【請求項3】
足入れ部の内面の踵部の周囲と接する部位に摩擦による損傷防止と足入れ部の形状保持を目的とした補強シートを設けるとともに、当該補強シートの後部上方部分を前記足入れ部の開口縁よりも突出するように形成し、
当該突出した補強シートの後部上方部分によって、前記アキレス腱部分を覆う保護パッド内側面側の被覆を形成したことを特徴とする請求項1または2記載の作業靴。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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