説明

光信号処理装置

【課題】従来、空間光学系を含む光信号処理装置において、信号処理素子は、同一形状の要素素子が等間隔に配置されていた。例えば、液晶素子の電極は等間隔に配置されていたが、このような電極構成では、等周波数間隔の通信波長グリッドに正確に適合した信号処理を行なうことができなかった。また、集光レンズの歪曲収差のため、信号処理素子上の実際の集光点と電極位置とにずれが生じて、信号処理の精度が劣化していた。
【解決手段】信号処理素子の電極を非等間隔に配置することによって、等周波数間隔の通信波長グリッドに適合するように、光信号を波長ごとにスイッチ、遮断などの信号処理することができる。歪曲収差を補償するように電極配置間隔および電極幅を設定することで、信号処理の精度を上げることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光信号処理装置に関する。より詳細には、空間光信号系を含む光信号処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信ネットワークの高速化、大容量化が進み、波長分割多重(WDM:Wavelength Division Multiplexing)伝送信号の処理に代表されるような光信号処理装置へのニーズも高まっている。例えば、多重化された光信号をノード間で経路切り替えする機能が要請されている。光−電気変換を経ないで、光信号のまま経路変換を行なうことで、光信号処理装置の高速化が進められている。
【0003】
一方、信号処理装置の小型化・集積化の点から、導波路型光回路(PLC:Planar Lightwave Circuit)の開発研究が進められている。PLCでは、例えばシリコン基板上に石英ガラスを材料としたコアを形成して1つのチップに多様な機能を集積し、低損失で信頼性の高い光機能デバイスが実現されている。さらには、複数のPLCチップと他の光機能部品を組み合わせた複合的な光信号処理部品(装置)も登場している。
【0004】
例えば、特許文献1には、AWGなどを含む導波路型光回路(PLC)と液晶素子などの空間変調素子を組み合わせた、光信号処理装置が開示されている。より具体的には、液晶素子を中心として対称に配置されたPLC、コリメートレンズからなる波長ブロッカをはじめ、波長イコライザ、分散補償器などの検討が進められている。これらの光信号処理装置では、異なる波長を持つ複数の光信号に対して、波長毎に独立して光信号処理を行う。
【0005】
図5は、光信号処理装置の一例を概念図で示したものである。この光信号処理装置では、分光素子51を経由して光信号が入出力される。分光素子51は、異なる波長を持つ複数の光信号を、その波長に応じた出射角度θで分波する。分波された光信号は、集光レンズ52へ向かって出射する。集光レンズ52によって集光された光信号は、出射角度θに対応して、強度変調、位相変調または偏向する機能を持つ信号処理素子53上の所定の各位置に集光される。すなわち、入力光信号の波長に応じて、信号処理素子の異なる位置に光信号が集光されることに留意されたい。信号処理素子53は、例えば複数の要素素子(ピクセル)からなる液晶素子などである。各要素素子の透過率などの制御によって、各波長の光信号は強度変調などを受け、波長毎に所定の信号処理機能が実現される。信号処理された光信号は、ミラー54で反射されて進行方向を反転し、再び集光レンズ53を通って、分光素子51において合波される。合波された各波長の光信号は、出力光として、再び光信号処理装置外へ出力される。
【0006】
図5において、分光素子51は概念的に示したものであり、波長に応じて光信号を分波および合波ができるものであれば良い。例えば、グレーティング、プリズム、アレイ導波路回折格子(AWG:Arrayed Waveguide Grating)などがある。信号処理素子は、光信号の強度もしくは位相、または強度および位相を変調できるもの、または光信号の進行方向を偏向できるものであれば良い。例えば、液晶素子、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ミラー、非線形結晶などがある。
【0007】
図5に示した光信号処理装置は、ミラーを使用して光信号を折り返すことで、1つの分光素子によって光信号の分波および合波の両方を行なう構成である。この構成は、一般に反射型と呼ばれている。波長ブロック等の光信号処理は、この構成だけに限られない。例えば、ミラーを使用せずに、図5の信号処理素子を対称軸の位置として、入射光光軸の延長線上であって入射系の反対側に、もう一つのレンズおよび分光素子からなる出射系を配置した構成も可能である。この構成は、独立した入射系および出射系を経由して、それぞれ光信号の分波および合波を行なう構成であり、透過型と呼ばれている。さらに、図5に示した装置構成において、ミラーの向きを変えることによって、任意の位置に配置した、もう一つのレンズおよび分光素子からなる出射系によって光信号の合波を行う構成も可能である。例えば、ミラー反射面を光信号の入射光路に対して45度傾けて、入射光路に対して垂直方向に配置されたレンズおよび分光素子により出射系を構成することも可能である。さらに、信号処理素子が偏向機能を持つ場合は、複数の出射系を備えることもできる。
【0008】
図5において、分光素子51と集光レンズ52とは、前焦点距離FFLだけ離して配置され、信号処理素子53と集光レンズ52とは後焦点距離BFLだけ離して配置される。集光レンズ52によって集光される光の焦点は、使用するすべての波長においてミラー54の面上になくてはならない。ミラー面上からずれると、入出力光間の結合損失を生じる問題が起こる。同時に、集光された光信号の信号処理素子面におけるビームスポット径が大きくなることから、波長分解能が低下する問題が生じる。
【0009】
また、信号処理素子53は、光信号の波長ごとに選択的に変調を行なうために、空間的に周期的な構造を備えている必要がある。例えば、信号処理素子53が液晶素子の場合、液晶素子の要素素子の構造は、分光素子および集光レンズの光学特性に合わせて設計されなければならない。
【0010】
より具体的には、信号処理素子上における集光位置の波長依存性は、分光素子の角度分散値に集光レンズの焦点距離を乗じたものに従うことが知られている。集光位置の波長依存性は、分光光学系の線分散値とも呼ばれる。分光素子および集光レンズによって決定される光学系の線分散値は、信号処理素子の構造の設計に用いた線分散値と、十分に一致している必要がある。これらの線分散値の間にずれがあれば、光信号の実際の集光点位置は信号処理素子の個々の要素素子(例えば、液晶シャッター素子のピクセル)の位置と一致しなくなる。この不一致のため、処理される光信号の波長誤差が生じる。
【0011】
【特許文献1】特開2002−250828号公報(第16頁、19頁、第20図、第27図、第29D図など)
【特許文献2】特開2004−239991号公報
【非特許文献1】OPTICAL REVIEW, Vol.11, No.2 (2004) pp.132-139
【非特許文献2】ITU Recommedation G.694.1
【非特許文献3】Introduction to lens design, Joseph M. Geary, Willmann-Bell, Inc, Chapter 15
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、従来の光信号処理装置では、信号処理素子の要素が等間隔に配置されており、目的とする波長に正確に一致した、精度の高い光信号の制御ができないという問題があった。従来技術においては、信号処理素子の各要素素子は等間隔に配置されていた。例えば、非特許文献1に開示されているように、代表的な信号処理素子である液晶素子の電極は、同一形状の電極が等間隔に配置されているものであった。
【0013】
光通信分野においては、一般に、等周波数間隔で個々の通信チャネルが配置されている。例えば、非特許文献2に開示されているように、Cバンド、LバンドのDWDM通信システムにおいては、個々の通信チャネルは一定の周波数間隔(12.5、25、50、100GHz)で配置されるよう規定されている。個々の通信チャネルが等周波数間隔に並べられているチャンネル配置構成は、等周波数間隔の通信波長グリッドとも呼ばれる。これに対し、信号処理素子の要素素子が等間隔に配置されている場合には、これら要素素子によって等波長間隔のチャネル配置構成に相当するように光信号の制御が行われるという問題があった。
【0014】
図6は、光信号処理装置における分光素子からの出射角度と集光点の関係を説明する図である。図6aでは、分光素子として回折格子55について、図6bでは、分光素子としてAWG56の場合について検討する。図6a、図6bにはいずれも、集光レンズ52、信号処理素子53およびミラー54を含む反射型の光信号処理装置の構成が示されている。信号処理素子53は、簡単のため例示的に6つの要素素子からなっているものとする。集光レンズ52の主光路をz軸、信号処理素子53の要素素子が配列される方向をy軸としている。分光素子により、信号光は、波長に応じてy−z面内で分波される。
【0015】
図6aにおいて、mを回折格子の回折次数、dを回折格子の格子間隔、θiを回折格子の法線からの入射角度、θmを回折格子の法線からの出射角度、θdを回折格子の傾き角度、fを集光レンズの焦点距離とする。主光路軸z軸と出射光との成す角度θおよび光信号の波長λの間に、次の2式が成り立つ。
d・sin(θm)=m・λ−d・sin(θi) 式(1)
θ=θm−θd 式(2)
ここで、θ≒0、sinθ=θの近似により、式(1)および式(2)から、θおよびλの関係として、次式が得られる。
θ=m・λ/d−(θi+θd) 式(3)
したがって、信号処理素子53上の集光点の位置yは、次式によって表される。
y=f×θ=f×{m・λ/d−(θi+θd)} 式(4)
式(4)によれば、集光点の位置yは、光信号の波長λと線形関係になり、波長λと線形となる位置に集光する。すなわち、複数の光信号の波長間隔が一定ならば、これら光信号の集光点yの各位置は等間隔に並ぶことがわかる。
【0016】
同様に、図6bにおいて、mをAWGの回折次数、dをAWGのアレイ導波路間隔、θをAWGからの出射角度、ngをAWGのアレイ導波路の等価屈折率、ΔLをAWGのアレイ導波路の中の隣接する2本の導波路長の差、fを集光レンズの焦点距離とする。主光路軸z軸と出射光との成す角度θおよび光信号の波長λの間に、次式が成り立つ。
d・sin(θ)=m・λ−ng・ΔL 式(5)
近似により、式(5)から、θおよびλの関係として、次式が得られる。
θ=(m・λ−ng・ΔL)/d 式(6)
同様にして、信号処理素子53上の集光点の位置yは、次式で表される。
y=f×θ=f×(m・λ−ng・ΔL)/d 式(7)
式(7)によれば、集光点の位置yは、光信号の波長λと線形関係になり、波長λと線形となる位置に集光する。すなわち、複数の光信号の波長間隔が一定値ならば、これらの光信号の集光点yの各位置はy軸上で等間隔に並ぶことがわかる。
【0017】
以上に述べたように、信号処理素子の要素素子が等間隔で配置されている場合は、このような要素素子による光信号の制御は、等価的に波長軸上で等間隔に配置された光信号を制御することと同じである。前述のように、光通信システムにおいては、光周波数軸上で等間隔にチャンネルが配置された等周波数間隔の通信波長グリッドに適合して光信号を制御する必要がある。それにもかかわらず、従来の等間隔に配置された要素素子からなる信号処理素子は、波長軸上で等波長間隔に配置された光信号として信号処理を行なうこととなる。例えば、等間隔に配置された液晶素子によって選択される波長は、ほぼ等波長間隔になる。
【0018】
図7は、従来の等間隔に配置された電極構成による通信チャネルの中心光周波数と帯域幅の計算例を示す。Lバンドにおいて100GHz間隔のITU等周波数間隔の通信波長グリッドに適合させようとした波長ブロッカに対する計算結果である。本計算例では、電極幅が一定(0.06mm)で、等間隔(0.1mm)に配置された電極により処理される光信号の中心周波数、各電極により処理される波長換算の帯域幅をそれぞれ計算したものである。nはチャンネル番号を示す(n=−23〜24で、全48チャンネル)。n=0において、中心周波数νをITUグリッドの188.600THzちょうどに合わせ、チャンネル間隔は、n=0近傍で100GHzとしたものである。
【0019】
図7からわかるように、中心光周波数は、n=0近傍のチャンネルでは通信波長グリッドに一致している。しかし、両端の通信チャンネルのn=−23、24では、中心光周波数νのずれ量は、100GHz等周波数間隔の波長グリッドから約30GHzにも達している。さらに、1つの電極あたりの波長換算の信号処理帯域幅BWnは、チャンネル毎に異なる。このように、等間隔に電極が配置された構成では、幅広い周波数範囲に渡って、実際に信号処理される光信号の中心周波数および帯域幅を、等周波数間隔の通信波長グリッドに正確に一致させることはできない。通信波長グリッドに適合した、波長毎の光信号のスイッチや遮断を正確に行なうことは困難である。電極毎に制御可能な波長帯域幅も異なるため、信号処理の精度が劣化する。
【0020】
また、多チャンネル数のWDM通信などにおいて、波長分解能の高い制御を必要とする場合には、集光レンズの歪曲収差の影響を無視できない(非特許文献3を参照)。集光レンズの歪曲収差が原因で、信号処理を行なおうとする波長の信号光の実際の集光点は、分光素子の線分散値特性およびレンズの焦点距離などに基づいて決定された電極位置からずれた位置に集光する。このため、通信波長グリッドに合致した通信チャンネルの波長ごとに、光信号のスイッチ、遮断等の信号処理を、精度良く行なう点で問題がある。
【0021】
集光レンズとして安価に使用できるトリプレット程度のレンズを選定すると、一般的に0.1%以上の歪曲収差が存在する。1つの通信波長帯が4700GHzの帯域幅を持つ場合を考える。この帯域幅の中心で集光位置と電極位置を合わせても、通信波長帯の端においては、実際に処理が行われる光信号の周波数は、4700/2+0.1%=2.4GHzの誤差をもつことになる。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、このような目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、異なる波長を有する複数の光信号の波長に応じて、分光面内の出射角度/入射角度で前記光信号を分波または合波する分光手段と、前記分光手段からの出射光を集光し、または、集光された前記光信号を平行化して前記分波手段への光結合させる集光手段と、前記分光面に含まれる分光軸上に沿って配列された複数の要素素子を持ち、前記集光手段によって、前記出射角度に応じて異なる集光位置に集光した光信号を前記複数の要素素子によってそれぞれ変調する信号処理素子であって、前記分光軸上の前記複数の要素素子の中心位置は非等間隔に配置されていることとを備えたことを特徴とする光信号処理装置である。
【0023】
請求項2の発明は、請求項1に記載の光信号処理装置であって、n番目の通信チャンネルの中心波長をλnとして、λnが非等間隔である場合に、前記分光軸上における前記複数の要素素子の中心位置を、前記λnと線形関係となる位置としたことを特徴とする。
【0024】
請求項3の発明は、請求項1に記載の光信号処理装置であって、n番目の通信チャンネルの中心光周波数をνnとして、νnが等間隔である場合に、前記分光軸上における前記複数の要素素子の中心位置を、1/νnと線形関係となる位置としたことを特徴とする。
【0025】
請求項4の発明は、請求項1に記載の光信号処理装置であって、n番目の通信チャンネルの中心波長をλnとして、前記λnに対応する分光素子の前記集光手段の光軸に対する出射角度または入射角度をθn、前記集光手段の焦点距離をfすると、前記要素素子の前記分光軸上の位置y(λn)を、yn(λn)=f・tan(θn)としたことを特徴とする。
【0026】
請求項5の発明は、請求項1に記載の光信号処理装置であって、n番目の通信チャンネルの中心波長をλnとして、前記λnに対応する分光素子の出射角度または入射角度をθn、前記集光手段は集光レンズであってその焦点距離をf、前記集光レンズの歪曲収差D(θn)すると、前記要素素子の前記分光軸上の位置y(λn)を、yn(λn)=f・{D(θn)+1}・tan(θn)としたことを特徴とする。
【0027】
請求項6の発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の光信号処理装置であって、前記各要素素子の前記分光軸方向の幅が、一定でないことを特徴とする。
【0028】
請求項7の発明は、請求項2乃至5のいずれかに記載の光信号処理装置であって、前記各要素素子の前記分光軸方向の幅は、λn2に比例することを特徴とする。
【0029】
請求項8の発明は、請求項1乃至7のいずれかに記載の光信号処理装置であって、前記信号処理素子は、液晶素子であることを特徴とする。
【0030】
請求項9の発明は、請求項1乃至8のいずれかに記載の光信号処理装置であって、前記信号処理素子によって変調された光を反射して光路を曲げるミラーをさらに含ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
以上説明したように、本発明によれば、通信波長グリッドに適合した、波長毎の光信号のスイッチや遮断を正確に行なうことができる。信号処理素子の各電極により制御される波長帯域幅が一定であるため、信号処理の精度を波長ごとに均一とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明の光信号処理装置は、光信号を変調する信号処理素子の要素素子を、非等間隔に配置しているところに特徴がある。強度位相素子は、個々の要素素子が分光素子の分光面に含まれる軸に沿って配列されている。各要素素子によって、分光素子において波長ごとに分波された光信号の信号処理を行なう。個々の要素素子は、波長毎に独立して信号処理が可能である。信号処理素子としては、具体的には、液晶素子、MEMS、非線型光学結晶などがあるが、これに限定されない。尚、本発明の光信号処理装置は、等周波数間隔の波長グリッドで規定される通信システムに特に有効であるが、これに限定されない。信号処理素子の、要素素子の間隔が非等間隔であることによる本発明の効果が得られるものであれば、どのような光信号処理システムにも適応できる。具体的には、波長ブロッカ、波長選択スイッチ、ゲイン等価器、分散補償器、光信号シンセサイザなどに適応できる。
【0033】
図1は、本発明の光信号処理装置における信号処理素子の要素素子の構成を示す図である。図1は、信号処理素子を集光レンズ側からみた図である。光信号は、図1の手前から垂直に入射して、強度位相変調を受ける。縦軸は、分光素子により分波される分波面に含まれるy軸である。矩形の要素素子1a、1b、1c、1d、1e、1fは、y軸方向に配置されている。各要素素子のy軸上の中心位置は、順にy3、y2、y1、y0、y-1、y-2であり、各要素素子のy軸方向の幅は、順にW3、W2、W1、W0、W-1、W-2である。要素素子は、簡単のため6つのみを記載しているが、これに限定されないのは言うまでもない。
【0034】
本発明に係る信号処理素子の要素素子は、各要素素子が非等間隔に配置されており、また、各要素素子の幅が一定でないところに特徴がある。すなわち、各中心位置y3、y2、y1、y0、y-1、y-2は非等間隔に並んでいる。また、各要素素子の幅W3、W2、W1、W0、W-1、W-2は、一定値ではない。図1に示す構成は、例えば、液晶素子のピクセルの電極構成に適用できる。また、MEMSミラーの個々のミラーに適用できる。
【0035】
従来技術のように同一形状の要素素子を等間隔に配置せずに、図1に示すような要素素子の配置構成とすることにより、等周波数間隔の通信波長グリッドに適合させた信号処理が可能となる。例えば、所定の信号処理を行なうチャンネル番号nの通信チャンネルにおいて、その中心波長がλnであって、λnが等間隔でない場合、各中心波長λnに対応するy軸上の位置に各要素素子の中心位置が一致するような間隔で、各要素素子を配置すれば良い。
【0036】
また、所定の信号処理を行なうチャンネル番号nの通信チャンネルにおいて、その中心光周波数がνnであって、νnが等間隔に配置されている場合、中心光周波数の逆数1/νnに比例する中心波長λnに対応するy軸上の位置に各要素素子の中心位置が一致するような間隔で、各要素素子を配置すれば良い。
【0037】
1つの要素素子のy軸方向の幅Wnは、その要素素子で一括して制御する光信号の波長幅λwを決定する。ここで、Wnは、次式のように、ynの波長微分値にλwを乗じたものとなる。
Wn=(dyn/dλn)λw 式(8)
y軸方向の集光位置と信号光の波長は線形関係を持つことから、要素素子の幅と制御される波長幅は比例することとなる。すなわち、次式のように表される。
yn(λn)=a・λn+b 式(9)
Wn=(dyn/dλn)λw=a・λw 式(10)
νnが等間隔となる様な光信号において高精度な制御を行うためには、1つの要素素子によって制御する周波数幅νwを一定とする必要がある。要素素子の幅と周波数幅の関係は、次式から求められる。
Wn=(dyn/dνn)νw=−a/νn2・νw=−a・λn2・νw 式(11)
上式から、各要素素子の幅をその中心波長の2乗に比例させることによって、1つの要素素子で制御する周波数幅を一定として高精度な光信号処理が可能となることを見出した。
次に、本発明に係る光信号処理装置における信号処理素子のより具体的な構成について説明する。
【0038】
実施例1: 図2は、本発明の光信号処理装置における信号処理素子の具体的な電極構成による、通信チャネルの中心光周波数と帯域幅の計算例を示す。Lバンドにおいて100GHz間隔のITU等周波数間隔の通信波長グリッドに適合させる波長ブロッカについての計算結果である。本計算例では、電極幅が一定(0.06mm)とした。nはチャンネル番号を示し(n=−23〜24で、全48チャンネル)、n=0において、中心周波数νをITUグリッドの188.600THzにちょうどに合わせ、チャンネル間隔は、n=0近傍で100GHzとしたものである。
【0039】
本実施例では、n番目の通信チャンネルに対応するn番目の電極の中心位置ynを、yn(λn)=f・tan(θn)を満たす位置とした。ここで、λn=c/νn(cは光速)であり、λnとθnとの関係は、式(1)および式(2)または式(5)に基づく。
【0040】
図2から明らかなように、両端の通信チャンネルのn=−23、24では、中心光周波数νnのずれ量は、100GHzの等周波数間隔の通信波長グリッドから、最大でも±6GHzに止まっている。図7で示した等間隔に要素素子を配置した場合の計算例ではずれ量が30GHzに達していたのと比べ、大幅に小さくなっている。従来技術と比べて、通信波長グリッドに適合した、より正確な波長毎の光信号のスイッチや遮断を行なうことできる。次に、集光レンズの歪曲収差を考慮した本発明に係る信号処理素子の電極構成を説明する。
【0041】
実施例2: 図3は、集光レンズの歪曲収差の一例を説明する図である。図3は、光線追跡シミュレータを用いて求めた集光レンズの歪曲を示している。横軸は、D歪み(%)を示し、縦軸は、集光レンズへの入射角θ(度)を示す。図6に示したような空間光学系を含む光信号処理装置において、集光レンズの歪曲はレンズ形状から予め知ることができる。そこで、n番目の通信チャンネルに対応する波長λnの信号光が、分光素子の角度分散値により決定される出射角度θnで出射し、歪曲収差特性D(θn)および焦点距離fを持つ集光レンズに入射する場合を考える。この時、波長λnの信号光に対する信号処理素子のn番目の要素素子の中心位置をyn(λn)とすると、次式の関係が成り立つように要素素子を配置する。
yn(λn)=f・{1+D(θn)}・tan(θn) 式(12)
D(θn)の値は、図3の歪曲収差特性から、θとDの関係で一意に決定できる。
【0042】
図4は、歪曲収差を考慮した電極構成による通信チャネルの中心光周波数と帯域幅の計算例を示す。図2と場合と同様に、Lバンドにおいて100GHz間隔のITU等周波数間隔の通信波長グリッドに適合させようとした波長ブロッカに対する計算結果である。nは、チャンネル番号を示す(n=−23〜24で、全48チャンネル)。n=0において、中心光周波数νをITUグリッドの周波数188.600THzにちょうどに合わせ、チャンネル間隔は、n=0近傍で100GHzとしたものである。
【0043】
図4から明らかなように、両端の通信チャンネルのn=−23、24では、中心光周波数νnのずれ量は、100GHzの等周波数間隔の通信波長グリッドから、±1GHz未満に抑えられている。本実施例では、同時に、各電極の幅をλn2に比例するように変化させた。これにより、各電極における波長換算の帯域幅BWnは、いずれもほぼ60GHzとなり、チャンネル間の偏差は0.1GHz以内に抑えられている。
【0044】
このように、歪曲収差を考慮した電極を非等間隔に配置した構成によれば、幅広い光周波数範囲に渡って、実際に信号処理される光信号の中心周波数を、等周波数間隔の通信波長グリッドに正確に一致させることができる。さらに、電極幅Wをλn2に比例するように変化させたことにより、帯域幅のチャンネル間偏差を極めて小さく抑えることができる。
【0045】
通信波長グリッドに適合した、波長毎の光信号のスイッチや遮断を正確に行なうことができる。信号処理素子の各電極により制御される波長帯域幅が一定であるため、信号処理の精度を波長ごとに均一とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係る信号処理素子の要素素子の構成を示す図である。
【図2】本発明に係る信号処理素子の電極構成による通信チャンネルの中心光周波数を示す図である。
【図3】集光レンズの歪曲収差の一例を説明する図である。
【図4】歪曲収差を考慮した電極構成による通信チャネルの中心光周波数と帯域幅を示す図である。
【図5】従来の光信号処理装置の概念的な構成図である。
【図6】分光素子からの出射角度と集光点位置の関係を説明する図である。
【図7】従来の電極構成による中心光周波数と帯域幅の計算例を示す図である。
【符号の説明】
【0047】
1a、1b、1c、1d、1e、1f 電極
51 分光素子
52 集光レンズ
53 信号処理素子
54 ミラー
55 回折格子
56 AWG

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる波長を有する複数の光信号の波長に応じて、分光面内の出射角度/入射角度で前記光信号を分波または合波する分光手段と、
前記分光手段からの出射光を集光し、または、集光された前記光信号を平行化して前記分波手段への光結合させる集光手段と、
前記分光面に含まれる分光軸上に沿って配列された複数の要素素子を持ち、前記集光手段によって、前記出射角度に応じて異なる集光位置に集光した光信号を前記複数の要素素子によってそれぞれ変調する信号処理素子であって、前記分光軸上の前記複数の要素素子の中心位置は非等間隔に配置されていることと
を備えたことを特徴とする光信号処理装置。
【請求項2】
n番目の通信チャンネルの中心波長をλnとして、λnが非等間隔である場合に、前記分光軸上における前記複数の要素素子の中心位置を、前記λnと線形関係となる位置としたことを特徴とする請求項1に記載の光信号処理装置。
【請求項3】
n番目の通信チャンネルの中心光周波数をνnとして、νnが等間隔である場合に、前記分光軸上における前記複数の要素素子の中心位置を、1/νnと線形関係となる位置としたことを特徴とする請求項1に記載の光信号処理装置。
【請求項4】
n番目の通信チャンネルの中心波長をλnとして、前記λnに対応する分光素子の前記集光手段の光軸に対する出射角度または入射角度をθn、前記集光手段の焦点距離をfすると、前記要素素子の前記分光軸上の位置y(λn)を、
yn(λn)=f・tan(θn)
としたことを特徴とする請求項1に記載の光信号処理装置。
【請求項5】
n番目の通信チャンネルの中心波長をλnとして、前記λnに対応する分光素子の出射角度または入射角度をθn、前記集光手段は集光レンズであってその焦点距離をf、前記集光レンズの歪曲収差D(θn)すると、前記要素素子の前記分光軸上の位置y(λn)を、
yn(λn)=f・{D(θn)+1}・tan(θn)
としたことを特徴とする請求項1に記載の光信号処理装置。
【請求項6】
前記各要素素子の前記分光軸方向の幅が、一定でないことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の光信号処理装置。
【請求項7】
前記各要素素子の前記分光軸方向の幅は、λn2に比例することを特徴とする請求項2乃至5のいずれかに記載の光信号処理装置。
【請求項8】
前記信号処理素子は、液晶素子であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の光信号処理装置。
【請求項9】
前記信号処理素子によって変調された光を反射して光路を曲げるミラーをさらに含ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の光信号処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−292924(P2008−292924A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−140507(P2007−140507)
【出願日】平成19年5月28日(2007.5.28)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】