説明

光応用計測装置

【課題】
本発明は、縞解析を用いた光応用計測装置の高速化を目的とする。
【解決手段】
縞走査により強度が時間的に振動する信号光を生成し、信号光の振動数と同じ周波数であるが、互いに位相が異なる透過率変化を示す複数の光学素子を通して、複数の検出器により信号光をある時間露光し得られる値を用いて、信号光の振動振幅と位相を求める。
【効果】
従来不可能であった、一回の計測での信号光の振動振幅、位相演算が可能となり、縞解析が高速化できる。特に低コヒーレンス干渉計測においては、振動振幅のピークを求めることが簡単にできることになり大幅な高速化が実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光を用いて物体の表面形状などの物理特性を計測する光応用計測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
縞を解析することにより、物体の変位や表面の形状を計測する各種の技術が存在する。2光束干渉計、格子パターン投影表面形状測定機などである。2光束干渉計は、古くから精密計測の要の手法として利用されており、また格子パターン投影表面形状測定機も自動車、半導体、飛行機などの形状計測技術として広く普及してきている。
【0003】
2光束干渉計は、2光束の分岐のさせ方に数え切れないほどのバリエーションがあるが、基本的に2光束を干渉させるという意味では共通なのでここでは分岐のさせ方については問題としない。その他のバリエーションとしては低コヒーレンス干渉計と高コヒーレンス光を用いた干渉計(一般的な言葉ではないが以下では高コヒーレンス干渉計と呼ぶ)に分けて考えることができる。低コヒーレンス干渉計は、干渉させる2光束の光路(一つ一つを以下では腕と呼ぶことにする)の光路長が一致したときに現れるいわゆる0次の干渉縞を検出することで、急峻で大きな起伏のある物体の表面形状や物体内部の層間間隔の計測などに利用されている。高コヒーレンス干渉計は、レンズ表面のように段差のないなだらかな曲面や平坦な物体の計測に用いられる。構造上の大きな違いは低コヒーレンス干渉計では2つの腕の光路長が同じでなければならず、高コヒーレンス干渉計は2つの腕は必ずしも等光路長である必要はない。コヒーレンス度が高ければ何十mも差があっても干渉縞を観測することができる。
【0004】
低コヒーレンス干渉計は、腕の一方の光路長を変化させて、2つの腕の光路長が正確に一致する位置を0次の干渉縞から求める手法である。図9にマイケルソン干渉計を用いた低コヒーレンス干渉計の構造を示す。Zテーブル116を用いて一方の腕の光路長を変化させながらCCDカメラ108の、ある画素の値を観測すると図2のような波形が観測される。両腕の光路長が等しくなる付近で干渉縞が発生し激しく振動している。振動振幅(干渉振幅)の最大の位置が求めるべき等光路長の位置、0次干渉の位置である。0次干渉の位置をすべての画素について求めれば物体の表面形状を求めることができる。
【0005】
高コヒーレンス干渉計は、コヒーレント長が長いから一方の腕を変化させても干渉の振幅はほとんど変化せず、図10のような波形が観測される。この場合0次干渉縞を特定することは不可能であるから物体表面の絶対位置を特定することはできないが、縞一本に相当する光路差であるλ/2のレンジで、Aの画素はBの画素より何nm高いといった形で相対的に表面形状を求めることができる。具体的には、一方の腕を数回規定量変化させて、少なくとも3枚の縞がシフトしたデータを得て、それらのデータから縞の初期位相を各画素毎に求めることで実現される。位相が表面形状高さに比例している。このような手法は縞走査法あるは位相シフト法と呼ばれる。以下では位相シフト法と称する。
【0006】
格子パターン投影法は、光の波としての干渉現象を用いるわけではなく、たとえば透過率あるいは反射率が周期的に変化して縞状になったパターンの像を照明光源とレンズを用いて物体の表面上に投影する手法である。縞を斜め方向から物体に投影して、投影方向とは異なる方向から縞を観察すると物体の起伏に応じて縞が歪んで観測される。縞の歪みに物体の起伏情報が含まれていることになるので、2光束干渉計とは原理的には異なるが同じように縞の位相を求めることで物体の表面形状高さを計測することが可能になる。具体的には高コヒーレンス干渉計と同様に縞を規定量シフトさせて位相を求める位相シフト法をもちいて実現される。
【0007】
以上簡単に従来の干渉計および格子パターン投影法の得失を解説したが、詳しくはたとえば非特許文献1に述べられている。
【非特許文献1】吉澤徹編著「最新光三次元計測」朝倉書店、2006年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これらの手法の、課題の一つは、計測の高速性である。近年、精密計測を生産工程中であるいは加工マシン上で実施する、インライン計測あるいはオンマシン計測が普及してきている。これらの計測においては精度のみでなく、それ以上に速度が重要であることは言を俟たない。特に非常に汎用性が高く重要な測定法である低コヒーレンス干渉計測法は、非常に多くのデータを必要とし、計測時間が著しくかかる典型的な手法である。
【0009】
一般に、デジタルデータ入力のためにはサンプリング定理に従う必要がある。サンプリング定理によれば最高周波数の少なくとも倍の周波数でサンプリングをする必要がある。つまり図2の一回の明暗の変化内で2回以上データをとらなければならない、一回の明暗がλ/2であるから、λ=550nmとして130nm以下の間隔でデータをとる必要がある。一般的には精度を重視して数十nm間隔でサンプリングされることが多い。100nmと考えても100μm程度を計測するためには1000点を超えるデータが必要となる。これでは高速な計測は難しい。
【0010】
近年、高速化のために一般的なサンプリング定理を満たさない粗い間隔でデータをとっても、もとの波形を復元することができる手法が開発され実用化されている。低コヒーレンス干渉の波形は、一般波形と異なり、高周波成分が制限されているだけでなく、低周波成分も制限されているいわゆる峡帯域波形であるから、一般的なサンプリング定理を満たしていなくても元の波形を復元することができるのである。
【0011】
このような高速手法であっても現実的にはなかなか精度を保ちながら十分な高速化を実現することは難しいのが実情である。実際の計測においては、一方の腕の光路長を連続的に変化させながらある間隔、例えば100nm間隔毎にデータを取得することになるが、表面形状計測の場合データとしては画像であり、CCDあるいはCMOS等の2次元検出器を使用することになり、これら2次元検出器で画像を得る場合はある程度の露光時間(シャッター時間)を確保する必要があるが、露光時間中に光路長が大きく移動すると、良いサンプル値が得られなくなる。例えば、極端な場合露光時間中に明暗一周期分移動したとすると、干渉縞がえられないのと同等となってしまい計測不可能なる。そこまで行かないにしても、平滑化の効果でコントラストが低下してしまい、好ましくない。逆に露光時間を小さくしてしまうと十分なS/Nを持った信号光が得られないためやはり精度、信頼性的にも好ましくない。結局は、高速化により精度の低下を招くか、または、移動速度を低くして低速で計測をすることになる。
【0012】
高コヒーレンス干渉法に関しては、通常縞の位相を機械的にシフトさせた、それぞれ時間的にずれのある3枚以上の画像を用いるが、偏光を利用して位相がシフトした3枚の画像を同時に得ることができるリアルタイム位相シフト干渉計が提案されている。しかしながら、格子パターン投影法においてはそのような高速化手法がないのが実情である。
【0013】
本発明は、このような高速化の課題の解決を与えるものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この課題を解決するために、
強度が時間軸上で周期的に変化するような信号光を生成する周期変化信号光発生手段と、
前記周期変化信号光を直線偏光化し、その偏光方位を変化させる直線偏光変化手段と、
前記直線偏光変化手段を通過した光を少なくとも2つの異なる直線偏光成分に分割する検光手段と、
分割された入射光のそれぞれを受光し、光量に応じて光電変換し、電気信号として出力する、同期した動作を行う少なくとも2つの蓄積型検出器と、
前記蓄積型検出器から出力された複数の信号を解析する解析装置とから構成され、
前記周期変化信号光の周波数と、前記直線偏光変化手段および検光手段の組み合わせによる透過率の変化周波数とを近い値とし、前記蓄積型検出器により前記周期変化信号光の少なくとも一周期の信号光を露光蓄積し得られた複数の電気信号から、前記解析装置により前記周期的変化信号光の振幅に比例する値もしくは位相もしくはその両方を演算する周期変化信号光解析処理を実施するように光応用計測装置を構成する。
【0015】
前記蓄積型検出器を、2次元のアレイ状に検出器が配列された蓄積型画像検出器とし、前記解析装置により画像の各画素毎に前記周期変化信号光解析処理が実施されるようにすることもできる。
【0016】
前記検光手段を、前記蓄積型画像検出器の各画素毎に取り付け、隣接する画素が異なる偏光方向の光を受光するようにすることもできる。
【0017】
または、強度が時間軸上で周期的に変化するような信号光を生成する周期変化信号光発生手段と、
前記周期変化信号光を受光し光量に応じて光電変換して得られる信号と、自身で生成あるいは外部から与えられる基底電気信号との積に比例する信号を出力する少なくとも2つの相関検出器と、
前記複数の相関検出器から出力された信号を解析する解析装置とから構成され、
前記周期変化信号光の周波数と、前記基底電気信号の変化周波数とを近い値とし、前記相関検出器により前記周期変化信号光の少なくとも一周期の信号光を相関検出して得られた複数の電気信号から、前記解析装置により前記周期変化信号光の振幅に比例する値もしくは位相もしくはその両方を演算する周期変化信号光解析処理を実施するように光応用計測装置を構成する。
【0018】
前記相関検出器を、2次元のアレイ状に検出器が配列された相関画像検出器とし、前記解析装置により画像の各画素毎に前記周期変化信号光解析処理が実施されるようにすることもできる。
【0019】
前記周期変化信号光発生手段は、
光源と、光源からの光を2分岐して参照鏡からの反射光と物体から反射光を重ねあわせて干渉させる2光束干渉計と、
2つの光路のうち、少なくとも一方の光路長を変更可能な光路長変化手段とにより構成され、
光路長変化手段による定速の光路長変化により干渉の強度値を周期的に変化させることで周期変化信号光を生成するように光応用計測装置を構成する。
【0020】
前記光源は低コヒーレントな光を射出する光源であり、前記2光束干渉計の2つの光路の光路長はほぼ等しい等光路長干渉計であり、前記光路長変化手段により一方の光路の光路長を定速で変化させながら前記解析装置により前記周期変化信号光解析処理を複数回繰り返し、2つの光路が正確に等光路長となる位置を検出することで対象物体表面の起伏形状を求めるようにする。
【0021】
前記周期変化信号光解析処理は、2つの光路の光路長が等しい位置付近で観測される干渉区間の中で、3回から10回程度となるよう間隔をあけて実施し、2つの光路の光路長が正確に一致する位置は、前記周期変化信号光解析処理により得られる振幅が最大となる位置を、補間法によって前記間隔より細かい分解能で求めるようにして高速化する。
【0022】
前記周期変化信号光解析処理は、2つの光路の光路長が等しい位置付近で観測される干渉区間の中で、3回から10回程度となるよう間隔をあけて実施し、2つの光路の光路長が正確に一致する位置は、前記周期変化信号光解析処理により得られる振幅と位相を用いて、振幅が最大でかつ位相が変化のピークを示す位置を求めるようにして高速化しても良い。
【0023】
あるいは、前記光源は高コヒーレントな光を射出する光源であり、前記2光束干渉計の、2つの光路の光路長は必ずしも等光路長ではない干渉計であり、前記光路長変化手段により一方の光路の光路長を定速で変化させて前記解析装置により前記周期変化信号光解析処理を実施し、演算された位相情報から対象物体表面の起伏形状を求めるようにする。
【0024】
このとき、前記周期変化信号光発生手段は、
光源と、光源からの照明光を格子縞パターンとして物体に投影する格子パターン投影機と、
投影される格子パターンを連続的にシフトさせる位相シフト機構とにより構成され、
位相シフト機構による定速の格子パターン位相のシフトにより、対象物体上の各点の輝度を周期的に変化させることで周期変化信号光を生成する機能を有するように光応用計測装置を構成する。
【0025】
前記位相シフト機構により格子縞パターンを定速で変化させて前記解析装置により前記周期変化信号光解析処理を実施し、演算された位相情報から対象物体表面の起伏形状を求めるように光応用計測装置を構成することもできる。
【発明の効果】
【0026】
以上のように構成することで、高速性に優れた光応用計測装置が実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下では、本発明を具体的に実施するにあたり最良と思われる実施形態について述べる。
【実施例1】
【0028】
まず、本発明を具現化した実施形態の第一の例を、図1を参照して説明する。
【0029】
光源101は、放電タイプあるいはフィラメントタイプの広帯域光源あるいはLED、またはコヒーレント長の短い比較的帯域幅の広いレーザであり、帯域幅をコントロールするために帯域フィルタ102を有している。帯域フィルタ102により帯域がコントロールされた照明光は、ハーフミラー103によって対物レンズ104方向へ向かい、対物レンズ104を通過して物体106方向に照射される。対物レンズ104と物体106との間にあるハーフミラー105により照明光は物体方向と参照ミラー107方向に分けられ、それぞれで反射してきた光が再びハーフミラー105によって重ね合わされ再び対物レンズ104を通過し、ハーフミラー103を透過して蓄積型画像検出器であるCCDカメラ108の方へ向かう。
【0030】
CCDカメラ108は2台用意されている。ハーフミラー109によりCCDカメラ108へ入射する光を分岐することで光学的にはどちらも同一位置と見なせるように配置されている。それぞれのCCDカメラ108a、108bの前には偏光フィルタ(以下検光子と称する)110a、110bが配置され、2台のCCDカメラ108a、108bはそれぞれに対しπ/4異なる偏光成分を受光するように構成されている。ハーフミラー109は偏光に関係なく、光の強度を2等分するだけの機能を持つ無偏光ハーフミラーである。
【0031】
ハーフミラー103とハーフミラー109の間には、回転直線偏光を生成する機構が挿入されている。
偏光フィルタ(以下偏光子と称する)111により直線偏光とし、その後λ/4位相差板112により円偏光とし、さらにもう一枚のλ/4位相差板113をベアリング中空部に配置して内側軌道輪(以下内輪と称する)をモータ114により回転させて、回転する直線偏光を得ている。
【0032】
回転直線偏光を生成する機構も色々と考えられる。もっとも単純な実現方法は、偏光板を回転させる手法である。先ほどと同様にベアリングの中空部に偏光板を取り付け、内輪をモータにより回転させることで実現できる。ただしこの場合は、偏光板への入射光が完全に無偏光状態であれば良いが、偏光していると偏光の方向によって透過光強度が変化してしまう。先の例では、偏光方向の変化により透過強度が変化してしまうことはない。
【0033】
あるいは、偏光子により直線偏光化した光を、液晶などの旋光性を有する電気光学素子を用いて電気的に回転させることも可能である。偏光の方位を、ある方位から直交する方位へと変化させ、またもとの方位へ変化させる動作を繰り返せば、回転直線偏光と同じことになる。
【0034】
変化する偏光方位の速度は角速度ωで表すことができ、角速度ωで回転する直線偏光が2つのCCDカメラ108a、108b前面の検光子110a、110bを透過する透過率の変化はπ/2の位相差を持つ正弦波K(1+Cos(2ωt))、K(1+Sin(2ωt))で表すことができる。ここにtは時間を、Kは偏光素子の特性によって決まる実透過率に合わせるための係数を示している。Kは固定値である。
【0035】
物体106は、光軸方向へ移動可能なZテーブル116上に載っており、Zテーブル116の移動によりハーフミラー103によって分けられた2つの腕の光路長差を変化させることが可能である。Zテーブル116を移動させることでハーフミラー103により重ね合わされCCDカメラ108に向かう反射光が干渉する。両腕からの光の位相差が0あるいは波長λの倍数n・λ(nは整数)であれば正の干渉で強め合い、位相差が半波長λ/2あるいは半波長+波長の倍数(1/2+n)λずれていれば負の干渉で弱め合う。Zテーブル116を一定速度で移動させると、位相差が連続的に変化することになるから正の干渉と負の干渉が移動量λ/2(位相差は移動量の倍)の周期で繰り返す振動波形が得られることになる。Zテーブル116の移動速度をvとすれば、信号光の強度はa+b×Cos(4πvt/λ+φ)と表される。ここに、aは干渉が無い(しない)場合の光強度であり、bは振動振幅(いわゆる干渉縞のビジビリティ)を表している。φは初期位相であり物体の起伏に応じて位置(XY座標値)によって異なる値を持つ。
【0036】
ここで、Zテーブル116の速度および回転直線偏光の回転速度(角速度)を調節してω=2πv/λとすれば、CCDカメラそれぞれで得られる信号V1およびV2は、(a+b×Cos(2ωt+φ))×K(1+Cos(2ωt))と(a+b×Cos(2ωt+φ))×K(1+Sin(2ωt))とをそれぞれ露光時間Δt積分した以下の式となる。
【0037】
【数1】

【0038】
また、露光時間Δtを適切に選んで2ωΔt=2π・nとなるようにすればSin(n・2ωt)、Cos(n・2ωt)の積分は0となり、結局以下のように表すことができる。
【0039】
【数2】

【0040】
さらにKaΔtが別に何らかの形で得られるとすれば、得られた信号値V1,V2からそれぞれKaΔtを引くことで、bおよびφの値は以下の式により簡単に求めることができる。
【0041】
【数3】

【0042】
今、ある程度帯域の広い帯域フィルタ102により図2のようないわゆる低コヒーレンス干渉波形が得られる場合を考えてみる。この場合、波長λを帯域の中心(重心)波長と考え、0次の干渉位置から離れるほど、コヒーレンスが低下することにより減衰するモデルで考えることができる。この場合、0次の干渉位置から十分離れ振動波形が現れない位置(すなわちコヒーレント長を超える光路長差がある領域)では、振動波形の振幅を表すbは0であるから、直接KaΔtの値が得られることになる。KaΔtの値が得られれば上記の式から振動振幅bの値あるいは初期位相φを求めることができることになる。
【0043】
今、KaΔtは既に得られているものとすれば、図2にv・Δtで示すような数周期の振動分を露光して得られるV1、V2を用いてその位置での振動振幅bを求めることができる。振動振幅は露光時間内で一定ではないが、その露光範囲内での平均のbが得られると考えることができる。
【0044】
図3は、このようにして得られる図2の振動波形の局所振幅b(z)の値の変化を描いたものである。
例えば、図3の黒丸ように一定間隔でbの値を求めていけば、その最大値を示す位置がほぼ0次の干渉位置であるとわかる。さらに、補間法を用いれば最大位置をより精度良く推定することもできる。例えば、bの最大の値b(z0)とその前後の値b(z1)、b(z−1)の3点からガウス関数にフィッティングして最大位置Zpeakを推定することを考えると以下のように計算することができる。
【0045】
【数4】

【0046】
低コヒーレンス干渉計測は先に述べたように高速化が難しいが、このような手法を用いれば、大幅な高速化が可能になる。例えば、コヒーレント長30μmの照明光を使用した場合を考えてみる。正確ではないがここではコヒーレント長が図3の山の、裾野の長さに相当すると考えることにする。このコヒーレント長内で最低3点のbの値が得られれば(数4)より0次干渉の位置を求めることができるから、10μm間隔で値を取得すればよい、しかも露光中に振動波形が変化するのが前提であるから、Zテーブル116を高速で移動しても十分露光時間をとることができる。
【0047】
例えば100μmの計測範囲を計測するのには、十数枚程度の画像の取得だけでことたりるから、30フレーム/秒のフレームレートの、通常のTVカメラを用いたとしても、データ取得のためにわずか0.4s程度しか必要としない。従来手法に比較すれば桁違いの高速化が可能となる。
【0048】
振動波形の振幅bだけでも前記のように0次干渉位置を特定できるが、位相を考慮すればさらに高精度な計測が可能になる。0次の干渉位置は、正の干渉が最大の位置であるから位相は特定されている。すなわちCos波で考えるとφ=2π・nの位置である。bの値から概略の0次干渉位置を推定し、その近辺で上記を満たす位相を与える位置を最終結果とすればさらに精度が上がると考えられる。
【0049】
ここでは、検出器としてCCDカメラを想定したが、蓄積型検出器であればなんでもよい。2次元検出器である必要さえなく、いわゆるラインセンサと呼ばれる1次元検出器でも良いし、1点のみを検出する0次元検出器であっても良い。
【0050】
また、Zテーブル116により物体106を移動させることを考えたが、対物レンズ104のNAが小さくデフォーカスが大きく問題にならないのであれば、参照ミラー107を移動させる構造としても良い。また、干渉計をマイケルソンタイプとしているが、ミロー干渉計であってもリニック干渉計であっても良い。低コヒーレンス干渉計として機能する干渉計であれば何でも良い。検出器の数や、補間演算の方法などもここでは一例を示しただけであり、他の手法であっても良い。
【0051】
次に、帯域フィルタ102を著しく絞って、あるいは、コヒーレンシイの高いレーザを用いて高コヒーレンス干渉計とした場合を考えてみる。高コヒーレンス干渉計では0次の干渉位置は求められないが、初期位相を求めることにより相対計測が可能であることは先に述べた通りである。低コヒーレンス干渉では、広い計測レンジに渡り、ある間隔毎に振動波形の振幅・位相を求めたが、高コヒーレンス干渉では、初期位相を求めるだけでよい(逆に言えばそれしかできない)から、わずか1回の計測のみで良い。
【0052】
低コヒーレンス干渉のときと同様にZテーブル116を移動し初期位相を求めれば良いわけであるが、この場合は、前記のaΔtに相当する値はわからないから、低コヒーレンス干渉のときと同様の計算手法では初期位相は求められない。この場合は、検出器は少なくとも3台必要となる。例えば、図4に示すように1:2の強度比に光を分割する光学素子401とハーフミラー109とを組み合わせて、強度が1/3ずつにわかれるように構成し、それぞれ異なる偏光方向を透過(例えば、0度、π/3、2π/3の方位角の偏光光を透過)する検光子110a,110b,110cを、3つの検出器108a,108b,108cに前置して構成する。(数3)の未知数はa、b、φの3つであるから3つ以上のデータが得られれば初期位相φを求めることができる。
【0053】
または、図5に示すようにCCDカメラの隣接する4画素にそれぞれ異なる偏光方位の検光子をつけることでも同様のことが実現できる。この場合、画素数が1/4で、それぞれの偏光方向が異なる4枚の画像が得られると考えることができる。画素に入射する結像光のスポットサイズは通常サンプリング定理を満たすように数画素レベルのサイズを持たせるのが普通であるから、このような位置による偏光分割でも基本的に問題はない。
【実施例2】
【0054】
図6は、実施例1を示す図1とほぼ同じであるが、検出器周辺部分のみが異なっている。実施例1においては入射光の時間的な振動波形に対し、回転直線偏光生成機構と検光子により周期的に透過率を変化させ、露光時間分積分処理を行っていた。これは、入射光に、正弦波を乗じて時間積分していることであるから、つまり入射時間変化波形と正弦波との相関値を求めていることになる。複数の検出器に前置される検光子の方向が異なることにより、透過率の変化波形の周波数は同じで、位相が異なる正弦波で複数の相関値を同時に求めていることになる。例えば、2台の検出器とπ/4偏光軸の異なる検光子を用いた場合、π/2位相が異なる正弦波、つまり、Sin波、Cos波との相関を同時に検出することになる。いわゆる直交関数による展開となる。
【0055】
このような、相関検出は実施例1のように光学的に行うこともできるが、電気的に行うことも可能である。つまり、入射光に比例して発生するフォトダイオードの電流信号に、電気的に正弦波信号を乗じ、ある時間積算する回路を作ればよい。このような機能を持つ素子を、2次元的に並べることで2次元相関検出器117が製作できる。さらに、互いに位相の異なる複数の正弦波信号と相関検出が同時にできるように、1つのフォトダイオードに対して複数の相関検出回路を持つようにすれば、実施例1と全く同じことが電気的にできることになる。
【実施例3】
【0056】
次に、格子パターン投影法による実施例を図7と図8を用いて示す。マスクパターン118は、図8のような正弦波状の透過率分布を持つ正弦波格子パターンであり、照明光源101により透過照明され、照明光学系により物体106上に投影されている。
【0057】
物体106に投影された格子パターンは、照明光学系とは異なる方向の光軸を持つ結像光学系により撮像される。対物レンズ104による結像光路中に、実施例1と同様に、偏光板111、λ/4位相差板112、モータ114により定速回転するλ/4位相差板113が挿入され、光量を1/3づつに分割するプリズム401,109、およびそれぞれ異なる偏光方位角を有する検光子110a,110b,110cとCCDカメラ108a、108b、108cとにより構成されている。
【0058】
基本的な動作、演算等、実施例1における高コヒーレンス干渉計の場合と全く同様である。異なる点は、Zテーブルを移動させたときに、時間的に振動する波形を得るために、実施例1においては光波干渉という物理原理を用いたのに対し、ここでは、あらかじめ透過率が振動波形状となったマスクパターン118の結像投影によっているという点だけである。
【0059】
すなわち、Zテーブル116を移動することにより、物体106上の各点の輝度は、マスクパターン118の透過率変化に伴って正弦波的に上下する。その周期と、結像光学系の透過率変化の周期とを一致させた状態で、一定時間露光すると、3つのCCDカメラ108a、108b、108cそれぞれの同一座標値の値は、それぞれ位相の異なる正弦波により相関検出した結果が得られることになる。それらの結果から、投影された格子パターンの初期位相φを演算できる。初期位相φは物体106の起伏情報を含んでいるため、表面形状計測が可能となる。
【0060】
格子パターン投影法に関しても図5のような偏光分割が可能であるし、また、実施例2と同様に相関検出部分は、電気的に行うことも可能である。
【0061】
この例では、時間的に振動する波形を得るために、Zテーブル116の移動を行っているが、他の手法ももちろん考えることができる。例えばマスクパターン118を、リニアアクチュエータを用いて移動させることでも可能であるし、照明光学系全体をリニアに移動させるようなことでも実現できる。その手法は何でも良い。
【産業上の利用可能性】
【0062】
インラインやオンマシン計測のように、高速であることに価値のある用途において本発明は大きな需要があると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の第一の実施例を示した図である。
【図2】低コヒーレンス干渉波形を説明するための図である。
【図3】図2の波形の、振動振幅の変化を示す図である。
【図4】3種類の偏光方向に分離する方法を説明するための図である。
【図5】複数種類に偏光方向を分離する他の手法を説明するための図である。
【図6】本発明の第二の実施例を示した図である。
【図7】本発明の第三の実施例を示した図である。
【図8】マスクパターンを説明するための図である。
【図9】従来の低コヒーレンス干渉計測を説明するための図である。
【図10】高コヒーレンス光による干渉波形を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
101…光源
102…帯域フィルタ
103…ハーフミラー
104…対物レンズ
105…ハーフミラー
106…物体
107…参照ミラー
108a、108b、108c…CCDカメラ
109…ハーフミラー
110a、110b、110c…検光子
111…偏光フィルタ
112…λ/4位相差板
113…λ/4位相差板
114…モータ
115…解析装置
116…Zテーブル
117…2次元相関検出器
118…マスクパターン
401…光学素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強度が時間軸上で周期的に変化するような信号光を生成する周期変化信号光発生手段と、
前記周期変化信号光を直線偏光化し、その偏光方位を変化させる直線偏光変化手段と、
前記直線偏光変化手段を通過した光を少なくとも2つの異なる直線偏光成分に分割する検光手段と、
分割された入射光のそれぞれを受光し、光量に応じて光電変換し、電気信号として出力する、同期した動作を行う少なくとも2つの蓄積型検出器と、
前記蓄積型検出器から出力された複数の信号を解析する解析装置とから構成され、
前記周期変化信号光の周波数と、前記直線偏光変化手段および検光手段の組み合わせによる透過率の変化周波数とを近い値とし、前記蓄積型検出器により前記周期変化信号光の少なくとも一周期の信号光を露光蓄積し得られた複数の電気信号から、前記解析装置により前記周期的変化信号光の振幅に比例する値もしくは位相もしくはその両方を演算する周期変化信号光解析処理を実施することを特徴とする光応用計測装置。
【請求項2】
前記蓄積型検出器は、2次元のアレイ状に検出器が配列された蓄積型画像検出器であり、前記解析装置により画像の各画素毎に前記周期変化信号光解析処理が実施されることを特徴とする請求項1記載の光応用計測装置。
【請求項3】
前記検光手段は、前記蓄積型画像検出器の各画素毎に取り付けられ、隣接する画素が異なる偏光方向の光を受光することを特徴とする請求項2記載の光応用計測装置。
【請求項4】
強度が時間軸上で周期的に変化するような信号光を生成する周期変化信号光発生手段と、
前記周期変化信号光を受光し光量に応じて光電変換して得られる信号と、自身で生成あるいは外部から与えられる基底電気信号との積に比例する信号を出力する少なくとも2つの相関検出器と、
前記複数の相関検出器から出力された信号を解析する解析装置とから構成され、
前記周期変化信号光の周波数と、前記基底電気信号の変化周波数とを近い値とし、前記相関検出器により前記周期変化信号光の少なくとも一周期の信号光を相関検出して得られた複数の電気信号から、前記解析装置により前記周期変化信号光の振幅に比例する値もしくは位相もしくはその両方を演算する周期変化信号光解析処理を実施することを特徴とする光応用計測装置。
【請求項5】
前記相関検出器は、2次元のアレイ状に検出器が配列された相関画像検出器であり、前記解析装置により画像の各画素毎に前記周期変化信号光解析処理が実施されることを特徴とする請求項4記載の光応用計測装置。
【請求項6】
前記周期変化信号光発生手段は、
光源と、光源からの光を2分岐して参照鏡からの反射光と物体から反射光を重ねあわせて干渉させる2光束干渉計と、
2つの光路のうち、少なくとも一方の光路長を変更可能な光路長変化手段とにより構成され、
光路長変化手段による定速の光路長変化により干渉の強度値を周期的に変化させることで周期変化信号光を生成する機能を有することを特徴とする請求項1から5のいずれかの項記載の光応用計測装置。
【請求項7】
前記光源は低コヒーレントな光を射出する光源であり、前記2光束干渉計の2つの光路の光路長はほぼ等しい等光路長干渉計であり、前記光路長変化手段により一方の光路の光路長を定速で変化させながら前記解析装置により前記周期変化信号光解析処理を複数回繰り返し、2つの光路が正確に等光路長となる位置を検出することで対象物体表面の起伏形状を求めることを特徴とする請求項6記載の光応用計測装置。
【請求項8】
前記周期変化信号光解析処理は、2つの光路の光路長が等しい位置付近で観測される干渉区間の中で、3回から10回程度となるよう間隔をあけて実施し、2つの光路の光路長が正確に一致する位置は、前記周期変化信号光解析処理により得られる振幅が最大となる位置を、補間法によって前記間隔より細かい分解能で求めることを特徴とする請求項7記載の光応用計測装置。
【請求項9】
前記周期変化信号光解析処理は、2つの光路の光路長が等しい位置付近で観測される干渉区間の中で、3回から10回程度となるよう間隔をあけて実施し、2つの光路の光路長が正確に一致する位置は、前記周期変化信号光解析処理により得られる振幅と位相を用いて、振幅が最大でかつ位相が変化のピークを示す位置を求めることを特徴とする請求項7記載の光応用計測装置。
【請求項10】
前記光源は高コヒーレントな光を射出する光源であり、前記2光束干渉計の2つの光路の光路長は必ずしも等光路長ではない干渉計であり、前記光路長変化手段により一方の光路の光路長を定速で変化させて前記解析装置により前記周期変化信号光解析処理を実施し、演算された位相情報から対象物体表面の起伏形状を求めることを特徴とする請求項6記載の光応用計測装置。
【請求項11】
前記周期変化信号光発生手段は、
光源と、光源からの照明光を格子縞パターンとして物体に投影する格子パターン投影機と、
投影される格子パターンを連続的にシフトさせる位相シフト機構とにより構成され、
位相シフト機構による定速の格子パターン位相のシフトにより、対象物体上の各点の輝度を周期的に変化させることで周期変化信号光を生成する機能を有すること特徴とする請求項1から5のいずれかの項記載の光応用計測装置。
【請求項12】
前記位相シフト機構により格子縞パターンを定速で変化させて前記解析装置により前記周期変化信号光解析処理を実施し、演算された位相情報から対象物体表面の起伏形状を求めることを特徴とする請求項6記載の光応用計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−197370(P2010−197370A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−129962(P2009−129962)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000002842)株式会社高岳製作所 (72)
【Fターム(参考)】