説明

内燃機関の排気浄化装置

【課題】新規な方法で効率的にパティキュレートフィルタを昇温させて再生処理をする。
【解決手段】SOxトラップ触媒20及びNOx吸蔵還元触媒22を有し、これら触媒より排気通路下流にパティキュレートフィルタ25を配置した内燃機関において、SOxトラップ触媒20下流排気通路から分岐してNOx吸蔵還元触媒22を迂回してパティキュレートフィルタ25上流排気通路へ合流するバイパス通路30と、バイパス通路30入口に配置され、SOxトラップ触媒20から流出した排気ガスをNOx吸蔵還元触媒22へ導くバイパス閉位置及びバイパス通路内に導くバイパス開位置間で切替可能な切替弁31とを更に具備し、SOxトラップ触媒20がSOx放出温度以上となって捕集したSOxを放出するとき、切替弁31がバイパス開位置に切り替えられ、バイパス通路30を通った排気ガスがパティキュレートフィルタ25を昇温させて再生処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内燃機関の排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
流入する排気ガスの空燃比がリーンのときには排気ガス中に含まれるNOxを吸蔵し流入する排気ガスの空燃比が理論空燃比又はリッチになると吸蔵したNOxを還元浄化するNOx吸蔵還元触媒を機関排気通路内に配置した内燃機関が公知である。この内燃機関ではリーン空燃比の下で燃焼が行われているときに発生するNOxがNOx吸蔵還元触媒に吸蔵される。一方、NOx吸蔵還元触媒のNOx吸蔵能力が飽和に近づくと排気ガスの空燃比が一時的にリッチにされ、それによってNOx吸蔵還元触媒からNOxが還元浄化される。
【0003】
ところで燃料及び潤滑油内にはイオウが含まれており、従って排気ガス中にはSOxが含まれている。このSOxはNOxと共にNOx吸蔵還元触媒に吸蔵される。ところがこのSOxは排気ガスの空燃比を単にリッチにしただけではNOx吸蔵還元触媒から放出されず、従ってNOx吸蔵還元触媒に吸蔵されているSOxの量が次第に増大していく(以下、イオウ被毒という)。その結果としてNOx吸蔵還元触媒に吸蔵しうるNOx量が次第に減少してしまう。
【0004】
そこでNOx吸蔵還元触媒にSOxが吸蔵されるのを阻止するためにNOx吸蔵還元触媒上流の機関排気通路内にSOxトラップ触媒を配置した圧縮着火式内燃機関が公知である(特許文献1参照)。このSOxトラップ触媒は、SOxトラップ触媒に流入する排気ガスの空燃比がリーンのときには排気ガス中に含まれるSOxを捕集し、捕集された総SOx量が所定値以上となったとき、SOxトラップ触媒に流入する排気ガスの空燃比をリッチにすると共にSOxトラップ触媒の温度をSOx放出温度以上に昇温させ、捕集したSOxを放出させることでSOx捕集能力を回復させている。こうして放出されたSOxを含む排気ガスは、バイパス通路を経由することでNOx吸蔵還元触媒を迂回し、イオウ被毒が防止される。
【0005】
さらにこの内燃機関においては、排気ガス中の粒子状物質を捕集するパティキュレートフィルタを、排気ガスによって昇温させやすいようにこれら触媒の上流に配置し、さらに流入する排気ガスの酸素濃度を制御することによって、粒子状物質の酸化除去を行って再生するようにしている。
【0006】
【特許文献1】特開2000−303878号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、パティキュレートフィルタはその熱容量が大きいため排気温度がなかなか排気通路下流まで伝播せず、SOxトラップ触媒及びNOx吸蔵還元触媒をそれらの活性温度まで昇温させるのに時間がかかるため、十分な浄化性能が得られないという問題がある。
【0008】
そこで本発明は、SOxトラップ触媒及びNOx吸蔵還元触媒を有し、これら触媒より排気通路下流にパティキュレートフィルタを配置した内燃機関において、新規な方法で効率的にパティキュレートフィルタを昇温させて再生処理をする内燃機関の排気浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために請求項1に記載の発明によれば、機関排気通路内に配置され、流入する排気ガスの空燃比がリーンのときには排気ガス中に含まれるSOxを捕集する第一のSOxトラップ触媒であって、該第一のSOxトラップ触媒に流入する排気ガスの空燃比がリッチの下で当該第一のSOxトラップ触媒の温度がSOx放出温度以上であれば捕集したSOxを放出する性質を有する第一のSOxトラップ触媒と、第一のSOxトラップ触媒下流排気通路内に配置され、流入する排気ガスの空燃比がリーンのときには排気ガス中に含まれるNOxを吸蔵し流入する排気ガスの空燃比が理論空燃比又はリッチになると吸蔵したNOxを還元浄化するNOx吸蔵還元触媒と、NOx吸蔵還元触媒下流排気通路内に配置され、排気ガス中に含まれる粒子状物質を捕集するパティキュレートフィルタとを具備する内燃機関において、第一のSOxトラップ触媒下流排気通路から分岐してNOx吸蔵還元触媒を迂回してパティキュレートフィルタ上流排気通路へ合流する第一のバイパス通路と、第一のバイパス通路入口に配置され、第一のSOxトラップ触媒から流出した排気ガスをNOx吸蔵還元触媒へ導くバイパス閉位置及び第一のバイパス通路内に導くバイパス開位置間で切替可能な第一の切替弁とを更に具備し、第一のSOxトラップ触媒がSOx放出温度以上となって捕集したSOxを放出するとき、第一の切替弁がバイパス開位置に切り替えられ、第一のバイパス通路を通った排気ガスがパティキュレートフィルタを昇温させて再生処理を行う内燃機関の排気浄化装置が提供される。
【0010】
請求項1に記載の発明では、SOxトラップ触媒をSOx放出温度まで昇温させることでSOx放出処理を行い、バイパス通路を通ることによって温度低下が抑えられた高温の排気ガスがパティキュレートフィルタに流入し、パティキュレートフィルタを短時間で効率的に再生温度まで昇温させることが可能となる。
【0011】
また、請求項2に記載の発明によれば請求項1に記載の発明において、NOx吸蔵還元触媒上流排気通路内であって第一の切替弁下流に配置された第二のSOxトラップ触媒を更に具備し、第二のSOxトラップ触媒が第一のSOxトラップ触媒に比べて捕集したSOxを放出し難い性質を有する内燃機関の排気浄化装置が提供される。即ち、請求項2に記載の発明では、NOx吸蔵還元触媒排気通路上流にSOxトラップ触媒を更に配置することで、切替弁から漏れたSOxがNOx吸蔵還元触媒に流入することを確実に防止することが可能となる。
【0012】
また、請求項3に記載の発明によれば請求項1又は2に記載の発明において、第一のSOxトラップ触媒上流排気通路から分岐して第一のSOxトラップ触媒及び第一の切替弁を迂回して第一の切替弁下流排気通路内へ合流する第二のバイパス通路と、第二のバイパス通路入口に配置され、内燃機関の排気ガスのほぼ全てを第一のSOxトラップ触媒へ導くバイパス閉位置及び内燃機関の排気ガスの一部のみを第二のバイパス通路内に導くバイパス開位置間で切替可能な第二の切替弁とを更に具備し、第一の切替弁がバイパス開位置に切り替えられるとき第二の切替弁もバイパス開位置に切り替えられ、第一の切替弁がバイパス閉位置に切り替えられるとき第二の切替弁もバイパス閉位置に切り替えられる内燃機関の排気浄化装置が提供される。即ち、第二のバイパス通路からリーン空燃比の排気ガスが供給されることによって、SOxの捕集が促進されるという効果を奏する。
【0013】
また、請求項4に記載の発明によれば請求項1から3のいずれか1つに記載の発明において、パティキュレートフィルタ上流排気通路内に配置された酸化触媒を更に具備する内燃機関の排気浄化装置が提供される。即ち、パティキュレートフィルタの床温度が再生温度に満たない場合に、酸化触媒の酸化反応を利用することによって昇温させることが可能となる。
【0014】
また、請求項5に記載の発明によれば請求項4に記載の発明において、酸化触媒上流排気通路内に還元剤を供給する還元剤供給手段を更に具備する内燃機関の排気浄化装置が提供される。即ち、還元剤供給手段から供給された還元剤が酸化触媒と酸化反応することによって排気ガスを昇温させ、それによってパティキュレートフィルタを昇温させることが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
各請求項に記載の発明によれば、新規な方法で効率的にパティキュレートフィルタを昇温させて再生処理を行うことができるという共通の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1に圧縮着火式内燃機関の全体図を示す。図1を参照すると、1は機関本体、2は各気筒の燃焼室、3は各燃焼室2内にそれぞれ燃料を噴射するための電子制御式燃料噴射弁、4は吸気マニホルド、5は排気マニホルドをそれぞれ示す。吸気マニホルド4は吸気ダクト6を介して排気ターボチャージャ7のコンプレッサ7aの出口に連結され、コンプレッサ7aの入口は吸入空気量を検出するためのエアフローメータ8を介してエアクリーナ9に連結される。吸気ダクト6内にはステップモータにより駆動されるスロットル弁10が配置され、更に吸気ダクト6周りには吸気ダクト6内を流れる吸入空気を冷却するための冷却装置11が配置される。図1に示される実施形態では機関冷却水が冷却装置11内に導かれ、機関冷却水によって吸入空気が冷却される。
【0017】
排気マニホルド5と吸気マニホルド4とは排気ガス再循環(以下、EGRと称す)通路12を介して互いに連結され、EGR通路12内には電気制御式EGR制御弁13が配置される。また、EGR通路12周りにはEGR通路12内を流れるEGRガスを冷却するための冷却装置14が配置される。図1に示される実施形態では機関冷却水が冷却装置14内に導かれ、機関冷却水によってEGRガスが冷却される。一方、各燃料噴射弁3は燃料供給管15を介してコモンレール16に連結される。このコモンレール16内へは電子制御式の吐出量可変な燃料ポンプ17から燃料が供給され、コモンレール16内に供給された燃料は各燃料供給管15を介して燃料噴射弁3に供給される。
【0018】
一方、排気マニホルド5は排気ターボチャージャ7の排気タービン7bの入口に連結され、排気タービン7bの出口に連結された排気通路19内にはSOxトラップ触媒20が配置されている。さらに、SOxトラップ触媒20の出口は排気管21を介してNOx吸蔵還元触媒22に連結され、NOx吸蔵還元触媒22の出口が排気管23を介して酸化触媒24及びパティキュレートフィルタ25に連結され、パティキュレートフィルタ25の出口が排気管26に連結されている。SOxトラップ触媒20の上流排気通路19内、排気管21内及び排気管23内には排気ガス中に例えば炭化水素からなる還元剤を供給するための還元剤供給弁27,28,29がそれぞれ取付けられる。そして、排気管21からバイパス通路30が分岐しNOx吸蔵還元触媒22を迂回して排気管23に合流している。排気管21に設けられたバイパス通路30の入口の開口には、切替弁31が配置されている。切替弁31は、図1に破線で示されるように、SOxトラップ触媒20から流出した排気ガスをそのままNOx吸蔵還元触媒22へ導くバイパス閉位置と、図1に実線で示されるように、排気管21を閉鎖してSOxトラップ触媒20から流出した排気ガスをバイパス通路30内に導くバイパス開位置との間で図示しないアクチュエータによって切替可能となっている。切替弁31は通常、バイパス閉位置に保持されている。
【0019】
電子制御ユニット50はデジタルコンピュータからなり、双方向性バス51によって互いに接続されたROM(リードオンリメモリ)52、RAM(ランダムアクセスメモリ)53、CPU(マイクロプロセッサ)54、入力ポート55及び出力ポート56を具備する。SOxトラップ触媒20、NOx吸蔵還元触媒22及びパティキュレートフィルタ25にはそれぞれの床温度を検出するための温度センサ32,33,34が取り付けられる。これらの温度センサ32,33,34及びエアフローメータ8の出力信号はそれぞれ対応するAD変換器57を介して入力ポート55に入力される。また、パティキュレートフィルタ25にはパティキュレートフィルタ25の前後差圧を検出するための差圧センサ35が取付けられており、この差圧センサ35の出力信号は対応するAD変換器57を介して入力ポート55に入力される。
【0020】
アクセルペダル59にはアクセルペダル59の踏込み量Lに比例した出力電圧を発生する負荷センサ60が接続され、負荷センサ60の出力電圧は対応するAD変換器57を介して入力ポート55に入力される。更に入力ポート55にはクランクシャフトが例えば15°回転する毎に出力パルスを発生するクランク角センサ61が接続される。一方、出力ポート56は対応する駆動回路58を介して燃料噴射弁3、スロットル弁10及び切替弁31駆動用ステップモータ、還元剤供給弁27,28,29、EGR制御弁13及び燃料ポンプ17に接続される。
【0021】
次に図2(A)及び(B)を参照しつつパティキュレートフィルタ25の構造について説明する。図2(A)はパティキュレートフィルタ25の正面図を示しており、図2(B)はパティキュレートフィルタ25の側面断面図を示している。図2(A)及び(B)に示されるようにパティキュレートフィルタ25はハニカム構造をなしており、互いに平行をなして延びる複数個の排気流通路65,66を具備する。これら排気流通路は下流端が栓67により閉塞された排気ガス流入通路65と、上流端が栓68により閉塞された排気ガス流出通路66とにより構成される。なお、図2(A)においてハッチングを付した部分は栓68を示している。従って排気ガス流入通路65及び排気ガス流出通路66は薄肉の隔壁69を介して交互に配置される。言い換えると排気ガス流入通路65及び排気ガス流出通路66は各排気ガス流入通路65が4つの排気ガス流出通路66によって包囲され、各排気ガス流出通路66が4つの排気ガス流入通路65によって包囲されるように配置される。
【0022】
パティキュレートフィルタ25は例えばコージライトのような多孔質材料から形成されており、従って排気ガス流入通路65内に流入した排気ガスは図2(B)において矢印で示されるように周囲の隔壁69内を通って隣接する排気ガス流出通路66内に流出する。このとき排気ガス中に含まれる粒子状物質が隔壁69上に捕集される。捕集された一部の粒子状物質は隔壁69上で酸化除去され、残りの粒子状物質は隔壁69上に堆積する。
【0023】
隔壁69上に堆積した粒子状物質はパティキュレートフィルタ25を昇温させることによって時折酸化除去され、それによってパティキュレートフィルタ25が再生される。本発明による実施例ではパティキュレートフィルタ25の再生時に堆積した粒子状物質を容易に酸化除去するためにパティキュレートフィルタ25上流排気通路内に酸化触媒24が配置されている。昇温方法については後述する。
【0024】
次にNOx吸蔵還元触媒について説明する。NOx吸蔵還元触媒22の基体上に例えばアルミナからなる触媒担体が担持されている。図3はこの触媒担体70の表面部分の断面を図解的に示している。図3に示されるように触媒担体70の表面上には貴金属触媒71が分散して担持されており、更に触媒担体70の表面上にはNOx吸収剤72の層が形成されている。
【0025】
本発明による実施例では貴金属触媒71として白金Ptが用いられており、NOx吸収剤72を構成する成分としては例えばカリウムK、ナトリウムNa、セシウムCsのようなアルカリ金属、バリウムBa、カルシウムCaのようなアルカリ土類、ランタンLa、イットリウムYのような希土類から選ばれた少なくとも一つが用いられている。
【0026】
機関吸気通路、燃焼室2、及びSOxトラップ触媒20上流排気通路19内及びNOx吸蔵還元触媒22上流排気管21内に供給された空気及び燃料(炭化水素)の比を排気ガスの空燃比と称すると、NOx吸収剤72は排気ガスの空燃比がリーンのときにはNOxを吸収し、排気ガス中の酸素濃度が低下すると吸収したNOxを還元放出するNOxの吸放出作用を行う。
【0027】
しかしながらリーン空燃比のもとでの燃焼が継続して行われるとその間にNOx吸収剤72のNOx吸収能力が飽和してしまい、NOx吸収剤72によりNOxを吸収できなくなってしまう。そこで本発明による実施例ではNOx吸収剤72の吸収能力が飽和する前に還元剤供給弁28から還元剤を供給することによって排気ガスの空燃比を一時的にリッチにし、それによってNOx吸収剤72からNOxを放出させるようにしている。
【0028】
ところで排気ガス中にはSOx、例えばSO2が含まれており、このSO2がNOx吸蔵還元触媒22に流入するとこのSO2は白金Pt71において酸化されてSO3となる。次いでこのSO3はNOx吸収剤72内に吸収されて炭酸化バリウムBaCO3と結合しながら、硫酸イオンSO42-の形でNOx吸収剤72内に拡散し、安定した硫酸塩BaSO4を生成する。しかしながらNOx吸収剤72が強い塩基性を有するためにこの硫酸塩BaSO4は安定していて分解しづらく、排気ガスの空燃比を単にリッチにしただけでは硫酸塩BaSO4は分解されずにそのまま残る。従ってNOx吸収剤72内には時間が経過するにつれて硫酸塩BaSO4が増大することになり、時間が経過するにつれてNOx吸収剤72が吸収しうるNOx量が低下することになる。
【0029】
ところでこの場合、NOx吸蔵還元触媒22の温度を600℃以上のSOx放出温度まで上昇させた状態でNOx吸蔵還元触媒22に流入する排気ガスの空燃比をリッチにするとNOx吸収剤72からSOxが放出される。ただし、この場合NOx吸収剤72からは少しずつしかSOxが放出されない。従ってNOx吸収剤72から全ての吸収SOxを放出させるには長時間に亘って空燃比をリッチにしなければならず、多量の燃料或いは還元剤が必要になるという問題がある。
【0030】
そこで本実施例ではNOx吸蔵還元触媒22の上流にSOxトラップ触媒20を配置してこのSOxトラップ触媒20により排気ガス中に含まれるSOxを捕集し、それによってNOx吸蔵還元触媒22にSOxが流入しないようにしている。次にこのSOxトラップ触媒20について説明する。
【0031】
このSOxトラップ触媒20は例えばハニカム構造のモノリス触媒からなり、SOxトラップ触媒20の軸線方向にまっすぐに延びる多数の排気ガス流通孔を有する。図4はこの基体75の表面部分の断面を図解的に示している。図4に示されるように基体75の表面上にはコート層76が形成されており、このコート層76の表面上には貴金属触媒77が分散して担持されている。
【0032】
本発明による実施例では貴金属触媒77として白金が用いられており、コート層76を構成する成分としては例えば、弱塩基性のアルミナAl23、塩基性のジルコニアZrO2、酸性のチタニアTiO2、酸性のシリカSiO2、酸性の酸化タングステンWO3から選ばれた少なくとも一つにより構成されている。或いは、強塩基性のカリウムK、ナトリウムNa、セシウムCsのようなアルカリ金属、バリウムBa、カルシウムCaのようなアルカリ土類、ランタンLa、イットリウムYのような希土類から選ばれた少なくとも一つにより構成されていてもよい。
【0033】
排気ガス中に含まれるSOxの大部分はSO2であり、残りはSO3である。図4に示されるように排気ガス中に含まれるSO2は貴金属触媒77においてSO3に酸化され、次いでコート層76内に捕集される。コート層76内に捕集されたSO3は硫酸イオンSO42-の形でコート層76内に拡散し、硫酸塩を形成する。また、排気ガス中に含まれる一部のSOx、即ちSO2及びSO3は図4に示されるように直接コート層76内に捕集される。
【0034】
SOxトラップ触媒20は、SOxトラップ触媒20の温度を例えば600℃以上であるSOx放出温度に昇温させた状態で、SOxトラップ触媒20に流入する排気ガスの空燃比をリッチにすると捕集したSOxをSO2の形で放出する性質を有する。
【0035】
さて、上述したように通常運転時には、切替弁31はバイパス閉位置に保持されていると共にSOxトラップ触媒20に流入する排気ガスの空燃比がリーンに維持されている。従って、排気ガスに含まれるSOxは全てSOxトラップ触媒20に捕集されるため、下流にあるNOx吸蔵還元触媒22にSOxは流入しない。
【0036】
ところが、排気ガス中に含まれるSOxのうちでSOxトラップ触媒20に捕集されるSOxの割合をSOxトラップ率と称すると、初めは100パーセントに近いSOxトラップ率は、時間の経過と共に急速に低下してしまう。SOxトラップ率が低下すると、SOxトラップ触媒20によって捕集しきれなかったSOxがNOx吸蔵還元触媒22に流入してしまう。
【0037】
そこで、本実施形態では、SOxトラップ触媒20に捕集されたSOx量ΣSOXを推定し、SOxトラップ触媒20に捕集されたSOx量ΣSOXが予め定められた量を超えたときにSOxトラップ率が予め定められた率よりも低下したと判断し、切替弁31をバイパス開位置に切り替えてSOxトラップ触媒20から流出した排気ガスがNOx吸蔵還元触媒22を迂回するようにしている。
【0038】
ここで、燃料中には或る割合でイオウが含まれており、従って排気ガス中に含まれるSOx量、即ちSOxトラップ触媒20に捕集されるSOx量は燃料噴射量に比例する。燃料噴射量は要求トルク及び機関回転数の関数であり、従ってSOxトラップ触媒20に捕集されるSOx量も要求トルク及び機関回転数の関数となる。本発明による実施例ではSOxトラップ触媒20に単位時間当り捕集されるSOx量SOXAが要求トルクTQ及び機関回転数Nの関数として図5(A)に示されるようなマップの形で予めROM52内に記憶されている。
【0039】
また、潤滑油内にも或る割合でイオウが含まれており、燃焼室2内で燃焼する潤滑油量、即ち排気ガス中に含まれていてSOxトラップ触媒20に捕集されるSOx量も要求トルク及び機関回転数の関数となる。本発明による実施例では潤滑油に含まれていてSOxトラップ触媒20に単位時間当り捕集されるSOx量SOXBが要求トルクTQ及び機関回転数Nの関数として図5(B)に示されるようなマップの形で予めROM52内に記憶されており、SOx量SOXA及びSOx量SOXBの和を積算することによってSOxトラップ触媒20に捕集されているSOx量ΣSOXが算出される。
【0040】
切替弁31をバイパス開位置に切り替えたとき、低下したSOxトラップ率を回復させるべくSOx放出処理を行う。即ち、SOxトラップ触媒20の温度をSOx放出温度まで昇温させた状態で、還元剤供給弁27から還元剤を供給することによって、SOxトラップ触媒20に流入する排気ガスの空燃比をリーンからリッチにして捕集されたSOxを放出させる。或いは還元剤供給弁27を用いない空燃比の制御方法として、排気行程中に燃焼室2内に燃料を噴射することによって、SOxトラップ触媒20に流入する排気ガスの空燃比をリーンからリッチにすることも可能である。ただし、SOxトラップ触媒20から流出される排気ガスが深いリッチになると後述するパティキュレートフィルタの再生処理が効率良くできないため、SOxトラップ触媒20から流出される排気ガスの空燃比が深いリッチにならないようにする必要がある。
【0041】
図6はSOxトラップ触媒20から流出される排気ガスの空燃比がリッチにならないようにする方法を説明するため、SOxトラップ触媒20のSOx捕集量ΣSOXと、SOxトラップ触媒20に流入する排気ガスの空燃比SOX(A/F)INと、SOxトラップ触媒20から流出する排気ガスの空燃比SOX(A/F)OUTとの関係を示している。図6に示されるようにこの実施例ではSOx捕集量ΣSOXが予め定められた許容量MAXになるとSOxトラップ触媒20から流出する排気ガスの空燃比SOX(A/F)OUTを深いリッチにさせることなくSOxトラップ触媒20に流入する排気ガスの空燃比SOX(A/F)INがリーンからリッチに一時的に切り換えられる。
【0042】
SOxトラップ触媒20に流入する排気ガスの空燃比SOX(A/F)INがリッチになると、即ち排気ガス中の酸素濃度が低下するとSOxトラップ触媒20からSOxが放出され、このとき排気ガス中の還元成分によってSOxが還元される。排気ガスの空燃比SOX(A/F)INがリッチにされると供給された還元剤の一部は上述したようにSOxの還元のために使用され、また供給された還元剤はSOxトラップ触媒20内を通過する際に通過時間にばらつきを生ずる。その結果、SOxトラップ触媒20から流出する排気ガスの空燃比SOX(A/F)OUTのピーク値は図6に示されるように低くなり、また空燃比SOX(A/F)OUTは長い時間に亘ってゆっくりと変化するようになる。
【0043】
従って排気ガスの空燃比SOX(A/F)INがリッチにされたときのリッチの度合を適切に設定するとSOxトラップ触媒20から流出する排気ガスの空燃比SOX(A/F)OUTをリーンに維持することができる。なお、SOxトラップ触媒20に流入する排気ガスの空燃比SOX(A/F)INをリッチにするに当っては図7に示されるように複数のパルス状に空燃比SOX(A/F)INをリッチにすることができる。
【0044】
次にパティキュレートフィルタ25の再生処理について説明する。SOxトラップ触媒20から放出されたSOxを含む排気ガスは、SOxトラップ触媒20からの流出時は平均化すればリーン空燃比であってSOx放出温度である。その後、排気ガスはバイパス通路30を経由することによって或る程度温度低下するものの、高温のまま酸化触媒24及びパティキュレートフィルタ25に流入し、パティキュレートフィルタ25を昇温させることによって再生処理を行うことができる。
【0045】
即ち、SOxトラップ触媒20のSOx放出処理を行うと同時に、そのときに流出した高温の排気ガスを利用して、短時間で効率的にパティキュレートフィルタ25の再生処理も実施できる。仮にバイパス通路30を経由させない場合、排気ガスはNOx吸蔵還元触媒22を通過し、NOx吸蔵還元触媒22によって排気ガスの熱が吸収されてしまうためパティキュレートフィルタ25に到達する頃には低温となってしまい、再生温度まで昇温させることができない。
【0046】
なお、高温の排気ガスを利用してもパティキュレートフィルタ25の床温度Tを再生温度TSまで昇温できない場合には、還元剤供給弁29から還元剤を供給することによって酸化触媒24の酸化反応熱を利用し床温度Tを昇温させる。このとき、パティキュレートフィルタ25に流入する排気ガスの空燃比DPF(A/F)INは、前述のようにリーンに維持される。さらに、図6及び図7に示されるSOxトラップ触媒20に流入する排気ガスの空燃比をリッチにした期間以外の期間で還元剤を供給することで、パティキュレートフィルタ25に流入する排気ガスを確実にリーンにすることができるのでより好ましい。
【0047】
図8は、SOxトラップ触媒20のSOx捕集量ΣSOXが許容値MAXに達したときの、SOxトラップ触媒20に流入する排気ガスの空燃比SOX(A/F)INと、SOxトラップ触媒20から流出する排気ガスの空燃比SOX(A/F)OUTと、還元剤供給タイミングと、パティキュレートフィルタ25の前後差圧ΔPと、パティキュレートフィルタ25に流入する排気ガスの空燃比DPF(A/F)INと、パティキュレートフィルタ25の温度Tとの関係を時系列で表している。
【0048】
次に図9を参照しながら、SOxトラップ触媒21に捕集されたSOxを放出させると同時にパティキュレートフィルタ25の再生処理を同時に行う、SOx放出処理同時フィルタ再生処理操作のフローチャートについて説明する。この操作は、電子制御ユニット(ECU)50によって予め定められた設定時間毎の割り込みによって実行されるルーチンとして行われる。
【0049】
図9を参照すると、まず初めにステップ100において図5(A),(B)からそれぞれ単位時間当り捕集されるSOx捕集量SOXA及びSOMBが読み込まれる。次いでステップ101ではこれらSOXA及びSOMBの和がSOx捕集量ΣSOXに加算される。次いでステップ102ではSOx捕集量ΣSOXが許容量MAXを超えたか否かが判定され、ΣSOX>MAXとなったときにはステップ103に進む。一方、SOx捕集量ΣSOXが許容量MAX以下の場合には、SOx放出処理及びフィルタ再生処理は行わずにルーチンを終了する。
【0050】
ステップ103ではSOx放出処理の準備のため、またSOxトラップ率が低下したSOxトラップ触媒20から捕集しきれなくなったSOxがNOx吸蔵還元触媒22に流入しないように、切替弁31がバイパス開位置に切り替えられる。次いでステップ104において、昇温制御を行うと共に排気ガスの空燃比をリーンからリッチにしてSOxを放出させるSOx放出処理を行う。これによってバイパス通路30には高温の排気ガスが流入する。
【0051】
次いでステップ105では、バイパス通路30から流入した高温の排気ガスによってパティキュレートフィルタ25の床温度Tが粒子状物質を酸化除去可能な再生温度TSに達しているか否かが判定され、T≧TSの場合はステップ107に進む。一方、床温度Tが再生温度TSに達していない場合にはステップ106に進んで、還元剤供給弁29から酸化触媒24に対して還元剤が供給され、酸化反応熱によってパティキュレートフィルタ25を昇温させ、再度ステップ105で再生温度TSに達したか判定される。
【0052】
ステップ107では、パティキュレートフィルタ25の再生処理がなされ、SOx放出処理及びフィルタ再生処理が終わると、次いでステップ108では切替弁31がバイパス閉位置に切り替えられ、最後にSOx捕集量ΣSOXが0にクリアされてルーチンを終了する。
【0053】
本実施例では、図9のフローチャートでステップ102に示すように、SOxトラップ触媒20に捕集されたSOx量ΣSOXが予め定められた許容量MAXを超えたことをトリガーにSOxトラップ触媒20のSOx放出処理を行い、それによってパティキュレートフィルタ25の再生処理も同時に行った。逆に、パティキュレートフィルタ25に堆積した粒子状物質量が予め定められた量を超えたことをトリガーにしてもよい。
【0054】
具体的に言うと本実施例では差圧センサ35によって検出されたパティキュレートフィルタ25の前後差圧ΔPが許容値PXを越えたときに堆積粒子状物質の量が許容量を越えたと判断する。そしてこれをトリガーにSOxトラップ触媒20のSOx放出処理を行い、それによってパティキュレートフィルタ25の再生処理も同時に行うようにしてもよい。
【0055】
図10を参照しながら、本実施例によるSOx放出処理同時フィルタ再生処理操作のフローチャートについて説明する。図9に示すフローチャートではステップ102においてSOx捕集量ΣSOXの値を判定していたのに対して、それに相当するステップ202おいてパティキュレートフィルタ25の前後差圧ΔPが許容値PXを超えたか否かを判定している点で、これら二つのフローチャートは異なっている。その他のステップについては図9に示すフローチャートと同様である。
【0056】
さらに、SOxトラップ触媒20に捕集されたSOx量ΣSOX及びパティキュレートフィルタ25の前後差圧ΔPの両方を監視し、いずれか一方が予め定められた量に達したことをトリガーにしてもよい。
【0057】
図11を参照しながら、本実施例によるSOx放出処理同時フィルタ再生処理操作のフローチャートについて説明する。図11に示すフローチャートでは、その他の実施例におけるステップ102及びステップ202に相当するステップ302、303の部分においてその他のフローチャートと異なる。即ち、ステップ302ではSOx捕集量ΣSOXが許容量MAXを超えたか否かが判定され、ΣSOX>MAXとなったときにはステップ304に進んで切替弁31をバイパス開位置に切り替える。一方、SOx捕集量ΣSOXが許容量MAX以下の場合には、ステップ303に進んでパティキュレートフィルタ25の前後差圧ΔPが許容値PXを超えたか否かが判定され、ΔP>PXとなったときにはステップ304に進む。一方、前後差圧ΔPが許容値PX以下の場合には、SOx放出処理及びフィルタ再生処理は行わずにルーチンを終了する。
【0058】
図12は、本発明による別の実施形態を示す図である。図1に示す実施形態とは、切替弁31の下流であってNOx吸蔵還元触媒22の上流排気管21内に、温度センサ37が取り付けられたSOxトラップ触媒36を配置した点において異なる。以下、より上流側に配置されたSOxトラップ触媒20を上流側SOxトラップ触媒20と称し、それよりも下流側に配置されたSOxトラップ触媒36を下流側SOxトラップ触媒36と称す。
【0059】
切替弁31は、その弁のタイプにも依るが、バイパス開位置にある状態でも排気ガスすべてをバイパス通路30に誘導することはできず、1〜10パーセント程度の割合で排気通路下流に排気ガスが漏れてしまう場合がある。そうすると、図1に示す実施形態においてSOxトラップ触媒20からSOx放出させているときに漏れてしまうと、NOx吸蔵還元触媒22がイオウ被毒し、そのNOx吸蔵能力を低下させてしまうという問題がある。
【0060】
そこで、本実施形態では、SOxを含む排気ガスがバイパス開位置にある切替弁31をすり抜けてNOx吸蔵還元触媒22がイオウ被毒してしまうのを確実に防止するため、その上流に下流側SOxトラップ触媒36を配置している。上流側SOxトラップ触媒20は、一時的に捕集したSOxを定期的に放出する役割を果たし、下流側SOxトラップ触媒36は、流入したSOxを捕集して放出しないように保持する役割を果たしている。
【0061】
そのため、下流側SOxトラップ触媒36は、先に説明した上流側SOxトラップ触媒20と同じタイプのものであってもよいが、上流側SOxトラップ触媒20に比べて下流側SOxトラップ触媒36は、捕集したSOxを放出し難い性質を有することが好ましい。このような性質を有するSOxトラップ触媒の例として二つの実施例について説明する。
【0062】
図13は、一番目の実施例による下流側SOxトラップ触媒36の基体80の表面部分の断面を図解的に示している。図13に示されるように下流側SOxトラップ触媒36の基体80の表面上にはコート層81が形成されており、このコート層81の表面上には貴金属触媒82が分散して担持されている。
【0063】
下流側SOxトラップ触媒36のコート層81を構成する成分としては例えばカリウムK、ナトリウムNa、セシウムCsのようなアルカリ金属、バリウムBa、カルシウムCa、マグネシウムMgのようなアルカリ土類金属から選ばれた少なくとも一つが用いられている。即ち、下流側SOxトラップ触媒36のコート層81は強塩基性を呈している。
【0064】
ところで、コート層81が強塩基性を呈していると排気ガス中に含まれるSOx、即ちSO2やSO3は直接コート層81内に捕集されやすくなる。従って白金Ptほど酸化能力のない鉄Fe又は銀Agからなる卑金属触媒が使用されてもよく、或いは貴金属触媒82として上流側SOxトラップ触媒20よりも少量の白金Ptが使用される。
【0065】
このように本実施例では、下流側SOxトラップ触媒36の貴金属触媒82は上流側SOxトラップ触媒20の貴金属触媒77に比べて酸化能力の低い貴金属触媒又は卑金属触媒が使用されている。従って下流側SOxトラップ触媒36は上流側SOxトラップ触媒20に比べて塩基性が強く、酸化能力が低いことになる。
【0066】
図13においてコート層81内における濃淡は捕集されたSOxの濃度を示している。図13からわかるようにコート層81内におけるSOx濃度はコート層81の表面近傍が最も高く、奥部に行くに従って次第に低くなっていく。コート層81の表面近傍におけるSOx濃度が高くなるとコート層81の表面の塩基性が弱まり、SOxの捕集能力が弱まる。
【0067】
ところが下流側SOxトラップ触媒36の温度が機関運転中に上昇するとコート層81内の表面近傍に集中的に存在するSOxはコート層81内におけるSOx濃度が均一となるようにコート層81の奥部に向けて拡散していく。即ち、コート層81内に生成されている硫酸塩はコート層81の表面近傍に集中している不安定な状態からコート層81内の全体に亘って均一に分散した安定した状態に変化する。コート層81内の表面近傍に存在するSOxがコート層81の奥部に向けて拡散するとコート層81の表面近傍のSOx濃度が低下し、SOxの捕集能力が機関運転中に回復することになる。
【0068】
図14(A)は、二番目の実施例による下流側SOxトラップ触媒36の基体85の表面部分の断面を図解的に示している。図14(A)に示されるように下流側SOxトラップ触媒36の基体85の表面上にはコート層86が形成されており、このコート層86の表面上には貴金属触媒87が分散して担持されている。
【0069】
本実施例では貴金属触媒87として白金が用いられており、コート層86内には触媒担体上に担持されている触媒が黒い点で示されるように一様に分散されている。コート層86内において一様に分散されている触媒は主にアルカリ金属からなり、本発明による実施例ではアルカリ金属のうちでも特にリチウムLi、ナトリウムNa、カリウムKから選ばれた少なくとも一つが用いられている。
【0070】
次にSOxのトラップメカニズムについて説明する。なお、以下アルカリ金属としてカリウムKを用いた場合を例にとってSOxのトラップメカニズムについて説明するが他のアルカリ金属を用いた場合でも同様のトラップメカニズムとなる。
【0071】
図14(A)は新品のときの下流側SOxトラップ触媒36を示しており、このときにはコート層86内にカリウムKが均一に分散されている。また、このときにはコート層86内のカリウムKは大気中のCO2と結びついて炭酸塩K2CO3の形をとっている。機関が運転されると排気ガス中に多量に含まれるNOが白金Pt87において酸化され、次いで塩基性を呈しているコート層86内に取込まれて硝酸イオンNO3-の形でコート層86内に拡散する。この硝酸イオンNO3-は炭酸イオンCO3-よりも酸性が強く、従ってカリウムKに結合している炭酸イオンCO3-が硝酸イオンNO3-に置き換わるためにコート層86内には硝酸塩KNO3が生成される。
【0072】
一方、機関が運転されると排気ガス中に含まれるSOx、即ちSO2は図14(A)に示されるように白金Pt87上において酸化され、次いで塩基性を呈しているコート層86内に硫酸イオンSO42-の形で取込まれる。ところで排気ガス中に含まれるSOxの濃度はNOxの濃度に比べてかなり低く、従ってSOxが硫酸イオンSO42-の形でコート層86内に取込まれる頃にはコート層86内の多くのカリウムKは硝酸塩KNO3となっている。従ってSO2は硝酸塩KNO3が生成されているコート層86内に硫酸イオンSO42-の形で取込まれることになる。
【0073】
この場合、硫酸イオンSO42-は硝酸イオンNO3-よりも酸性が強く、従ってこのときカリウムKと結合している硝酸イオンNO3-が硫酸イオンSO42-に置き換わるためにコート層86の表面付近には硫酸塩K2SO4が生成される。このようにしてSOxが下流側SOxトラップ触媒36内に捕集される。
【0074】
コート層86の表面付近に生成される硫酸塩K2SO4が増大するとコート層86の表面付近においてSOxを取り込みうる硝酸塩KNO3が減少し、その結果SOxの捕集能力が弱まる。コート層86の表面付近に生成される硫酸塩K2SO4が増大するとそれに伴ってSOxトラップ率が低下することになる。
【0075】
このような状況下で、機関運転中に下流側SOxトラップ触媒36の温度をアルカリ金属の硝酸塩、例えばKNO3が溶融状態になる温度に保持すると、下流側SOxトラップ触媒36内の硝酸塩KNO3が短時間のうちに図14(B)に示されるように下流側SOxトラップ触媒36の表面、即ちコート層86の表面に移動して凝集し、それによってSOxトラップ率が回復する。
【0076】
即ち、SOxがコート層86の表面付近に硫酸イオンSO42-の形で取り込まれるとコート層86の表面付近の酸性が強くなる。従ってアルカリ金属の硝酸塩KNO3が溶融状態に保持されていると硝酸塩KNO3がコート層86の表面に向け移動してコート層86の表面付近に凝集する。このように硝酸塩KNO3がコート層86の表面付近に凝集すると到来したSOxはただちに硫酸イオンSO42-の形で取り込まれ、次いで硫酸塩K2SO4の形でコート層86内に捕集される。こうしてアルカリ金属の硝酸塩を溶融状態に保持するとSOxトラップ率がほぼ100パーセントまで回復することになる。
【0077】
なお、アルカリ金属の硝酸塩KNO3は溶融状態にないときでも多少はコート層86の表面に向けて移動するものと考えられる。従って正確に言うと、本実施例では機関運転中に下流側SOxトラップ触媒36の温度をアルカリ金属の硝酸塩KNO3が溶融状態となる温度に保持することにより、下流側SOxトラップ触媒36内の硝酸塩KNO3がコート層86の表面に移動して凝集する硝酸塩移動凝集作用が促進され、この硝酸塩移動凝集作用によりSOxトラップ率が回復されることになる。
【0078】
なお、図13及び図14を用いて説明した上記二つのタイプのSOxトラップ触媒は、上流側SOxトラップ触媒20として用いてもよい。ただし、上流側SOxトラップ触媒20は、一時的に捕集したSOxを定期的に放出する役割を果たし、下流側SOxトラップ触媒36は、流入したSOxを捕集して放出しないように保持する役割を果たすため、下流側SOxトラップ触媒36は上流側SOxトラップ触媒20に比べて塩基性が強く、酸化能力が低いことが望ましい。また、図9から図11に示すSOx放出処理同時フィルタ再生処理操作のフローチャートは、本実施形態にそのまま適用可能である。
【0079】
図15は、本発明による別の実施形態を示す図である。図1に示す実施形態とは、排気通路19から分岐しSOxトラップ触媒20を迂回して、切替弁31下流の排気管21に合流するバイパス通路38を備え、排気通路19に設けられたバイパス通路38の入口の開口に切替弁39が配置されている点において異なる。還元剤供給弁27は、供給した還元剤がバイパス通路38内に入らないように、排気通路19内であって切替弁39の下流に配置されている。
【0080】
切替弁39は、図15に実線で示されるように排気ガスの一部をバイパス通路38内に誘導すると共に排気ガスの残りをSOxトラップ触媒20に誘導するバイパス開位置と、図15に破線で示されるように、排気タービン7bから排出された排気ガスをそのままSOxトラップ触媒20へ導くバイパス閉位置との間で図示しないアクチュエータによって切替可能になっている。切替弁39は通常、バイパス閉位置に保持されている。
【0081】
前述のように捕集されたSOx量ΣSOXを推定し、捕集されたSOx量ΣSOXが予め定められた量を超えたとき、切替弁31及び切替弁39をバイパス開位置に切り替える。この状態で、SOxトラップ触媒20から捕集したSOxを放出させると、放出されたSOxの大部分はバイパス通路30内に誘導されるが、前述のように放出されたSOxの一部は切替弁31から排気通路下流へ漏れてしまう。
【0082】
このように漏れたSOxを含む排気ガスは、切替弁39によってバイパス通路38に誘導された一部の排気ガスと混合する。バイパス通路38を経由した排気ガスは、SOxトラップ触媒20から流出した排気ガスよりも空燃比がリーンとなっており酸素をより多く含んでいる。従って、切替弁31から漏れたSOxを含む排気ガスがNOx吸蔵還元触媒22にSOxに流入したとしても、多く含まれる酸素によってSOxの酸化が促進され、NOx吸蔵還元触媒22の入口付近においてのみイオウ被毒される。即ち、NOx吸蔵還元触媒22全体に亘ってイオウ被毒されることが避けられるため、NOx吸蔵能力の低下は最低限度に留められるという効果を奏する。
【0083】
図16は、本発明による更に別の実施形態を示す図である。本実施形態は、図12に示す実施形態と図15に示す実施形態を組み合わせた構成である。これらの構成を組み合わせると、二つのSOxトラップ触媒を直列に配置することによるNOx吸蔵還元触媒22へのSOxの流入を確実に防止することができるという効果に加え、バイパス通路38から下流側SOxトラップ触媒36に流入する排気ガスがより多くの酸素を含むことによって、SOxの酸化が促進され、下流側SOxトラップ触媒36のSOx捕集能力を向上させるという効果を奏する。
【0084】
なお、図15及び図16に示す実施形態において、図9から図11に示すSOx放出処理同時フィルタ再生処理操作のフローチャートは、切替弁31がバイパス開位置に切り替えられるとき切替弁39もバイパス開位置に切り替えられ、切替弁31がバイパス閉位置に切り替えられるとき切替弁39もバイパス閉位置に切り替えられるという点以外、これら実施形態にそのまま適用可能である。
【0085】
さらに、これら実施形態において、排気行程中に燃焼室2内に燃料を噴射することによって上流側SOxトラップ触媒20に流入する排気ガスの空燃比をリッチにすることはできない。バイパス通路38を経由して空燃比リーンの排気ガスをNOx吸蔵還元触媒22又は下流側SOxトラップ触媒36に流入させることができないからである。従って、切替弁39の下流排気通路内に配置された還元剤供給弁27から還元剤を供給することによって、上流側SOxトラップ触媒20に流入する排気ガスの空燃比をリッチにする。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】圧縮着火式内燃機関の全体図である。
【図2】パティキュレートフィルタの構造を示す図である。
【図3】NOx吸蔵還元触媒の触媒担体の表面部分の断面図である。
【図4】SOxトラップ触媒の基材の表面部分の断面図である。
【図5】SOx捕集量SOXA、SOXBのマップを示す図である。
【図6】リッチ制御を示すタイムチャートである。
【図7】リッチ制御を示すタイムチャートである。
【図8】SOx放出処理とフィルタ再生処理とを示すタイムチャートである。
【図9】SOx放出処理同時フィルタ再生処理操作を示すフローチャートである。
【図10】SOx放出処理同時フィルタ再生処理操作を示すフローチャートである。
【図11】SOx放出処理同時フィルタ再生処理操作を示すフローチャートである。
【図12】圧縮着火式内燃機関の別の実施形態を示す全体図である。
【図13】SOxトラップ触媒の基材の表面部分の断面図である。
【図14】SOxトラップ触媒の基材の表面部分の断面図である。
【図15】圧縮着火式内燃機関の更に別の実施形態を示す全体図である。
【図16】圧縮着火式内燃機関の更に別の実施形態を示す全体図である。
【符号の説明】
【0087】
4 吸気マニホルド
5 排気マニホルド
7 排気ターボチャージャ
20 SOxトラップ触媒
22 NOx吸蔵還元触媒
24 酸化触媒
25 パティキュレートフィルタ
27,29 還元剤供給弁
30 バイパス通路
31 切替弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機関排気通路内に配置され、流入する排気ガスの空燃比がリーンのときには排気ガス中に含まれるSOxを捕集する第一のSOxトラップ触媒であって、該第一のSOxトラップ触媒に流入する排気ガスの空燃比がリッチの下で当該第一のSOxトラップ触媒の温度がSOx放出温度以上であれば捕集したSOxを放出する性質を有する第一のSOxトラップ触媒と、第一のSOxトラップ触媒下流排気通路内に配置され、流入する排気ガスの空燃比がリーンのときには排気ガス中に含まれるNOxを吸蔵し流入する排気ガスの空燃比が理論空燃比又はリッチになると吸蔵したNOxを還元浄化するNOx吸蔵還元触媒と、NOx吸蔵還元触媒下流排気通路内に配置され、排気ガス中に含まれる粒子状物質を捕集するパティキュレートフィルタとを具備する内燃機関において、第一のSOxトラップ触媒下流排気通路から分岐してNOx吸蔵還元触媒を迂回してパティキュレートフィルタ上流排気通路へ合流する第一のバイパス通路と、第一のバイパス通路入口に配置され、第一のSOxトラップ触媒から流出した排気ガスをNOx吸蔵還元触媒へ導くバイパス閉位置及び第一のバイパス通路内に導くバイパス開位置間で切替可能な第一の切替弁とを更に具備し、第一のSOxトラップ触媒がSOx放出温度以上となって捕集したSOxを放出するとき、第一の切替弁がバイパス開位置に切り替えられ、第一のバイパス通路を通った排気ガスがパティキュレートフィルタを昇温させて再生処理を行う内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】
NOx吸蔵還元触媒上流排気通路内であって第一の切替弁下流に配置された第二のSOxトラップ触媒を更に具備し、第二のSOxトラップ触媒が第一のSOxトラップ触媒に比べて捕集したSOxを放出し難い性質を有する請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項3】
第一のSOxトラップ触媒上流排気通路から分岐して第一のSOxトラップ触媒及び第一の切替弁を迂回して第一の切替弁下流排気通路内へ合流する第二のバイパス通路と、第二のバイパス通路入口に配置され、内燃機関の排気ガスのほぼ全てを第一のSOxトラップ触媒へ導くバイパス閉位置及び内燃機関の排気ガスの一部のみを第二のバイパス通路内に導くバイパス開位置間で切替可能な第二の切替弁とを更に具備し、第一の切替弁がバイパス開位置に切り替えられるとき第二の切替弁もバイパス開位置に切り替えられ、第一の切替弁がバイパス閉位置に切り替えられるとき第二の切替弁もバイパス閉位置に切り替えられる請求項1又は2に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項4】
パティキュレートフィルタ上流排気通路内に配置された酸化触媒を更に具備する請求項1から3のいずれか一つに記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項5】
酸化触媒上流排気通路内に還元剤を供給する還元剤供給手段を更に具備する請求項4に記載の内燃機関の排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−108700(P2009−108700A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−279206(P2007−279206)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】