説明

内燃機関の排気浄化装置

【課題】排気中の粒子状物質を捕捉するフィルタを備えた排気浄化装置において、従来に比してより低温且つ短時間でフィルタを再生可能な排気浄化装置を提供すること。
【解決手段】DPF32に捕捉されて堆積したPMが浄化触媒と密に接触しているか否かを、エンジン1の排気の状態を示すパラメータに基づいて判定する堆積状態判定部42と、再生処理の実行を制御する再生制御部43と、を備え、再生制御部43は、堆積状態判定部42により、DPF32に捕捉されて堆積したPMが浄化触媒と密に接触していると判定された場合に、再生処理の実行を許可することを特徴とする排気浄化装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気浄化装置に関する。詳しくは、内燃機関から排出される排気中の粒子状物質を捕捉するフィルタを備えた内燃機関の排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などに搭載される内燃機関、特に圧縮着火式内燃機関においては、排出される排気中に多量の粒子状物質(Particulate Matter)が含まれる。この粒子状物質は人体に有害であり、またエミッション規制対象物質である。このため、粒子状物質を除去するためのフィルタが、上記内燃機関の排気通路に設けられているのが一般的である。
【0003】
上記フィルタとしては、DPF(Diesel Particulate Filter)や、DPFに酸化触媒を担持させたCSF(Catalyzed Soot Filter)が用いられている。これらのフィルタでは、粒子状物質が堆積するとフィルタの上流側と下流側との間で差圧が生じ、出力の低下や燃費の悪化を招く。このため、粒子状物質がある程度堆積した段階で、堆積した粒子状物質を燃焼除去する再生処理を実行する必要がある。これにより、フィルタの継続使用が可能となる。
【0004】
ところで、粒子状物質の燃焼には、550℃〜650℃の高温が必要であるとされており、上記CSFのように触媒を用いた場合であっても、粒子状物質を低温で効率良く燃焼できていないのが現状である。これは、粒子状物質と触媒との反応が固体−固体反応であり、触媒との接触状態が良好でない粒子状物質の燃焼反応が進行し難いためである。
【0005】
例えば、CSFに捕集される粒子状物質の量と燃焼除去される粒子状物質の量とを、内燃機関の運転状態から推定するとともに、その推定結果に基づいて粒子状物質の堆積量を推定し、推定された堆積量が所定の堆積量を超えたときに再生処理を実行する連続再生型ディーゼルパティキュレートフィルタ装置が開示されている(特許文献1参照)。
この特許文献1に開示された発明によれば、粒子状物質の堆積状態を監視することにより、フィルタの目詰まりを確実に防止でき、効率良く粒子状物質を除去できるとされている。
【0006】
また、排気中に含まれるNOからNOを生成させるNO生成触媒を有するフィルタを備え、NO生成触媒により生成されたNOとの接触反応により、フィルタに堆積した粒子状物質を燃焼除去する排気浄化方法が開示されている(特許文献2参照)。
この特許文献2に開示された発明では、NOと粒子状物質との固体−気体反応が利用されるため、NO生成触媒と粒子状物質との接触状態によらず、フィルタに堆積した粒子状物質を比較的低温下で効率良く燃焼除去できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許3951619号
【特許文献2】特許3012249号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1では、多量に捕集した粒子状物質の燃焼熱によってフィルタが溶損するのを回避すべく、捕集可能な粒子状物質の量が制限されている。このため、再生処理の頻度が増加し、燃費が悪化する。
また、上述したように、粒子状物質と触媒との反応が固体−固体反応であるにも関わらず、粒子状物質と触媒との接触状態を考慮せずに再生処理を実行するため、低温下での燃焼除去が困難であり、再生処理に長時間を要する。また、高温下で再生処理を実行する必要があるため、システムが複雑化し、コストの増加にも繋がる。
【0009】
一方、上述したように特許文献2では、粒子状物質とNOとの固体−気体反応が利用されるため、比較的低温下で粒子状物質を燃焼させることができるものの、その燃焼速度は低く、再生処理に長時間を要する。
【0010】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、排気中の粒子状物質を捕捉するフィルタを備えた排気浄化装置において、従来に比してより低温且つ短時間でフィルタを再生可能な排気浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため請求項1記載の発明は、内燃機関(1)の排気通路に設けられ、当該内燃機関の排気中の粒子状物質を捕捉するとともに、捕捉した粒子状物質を浄化するための浄化触媒を有するフィルタ(32)を備えた内燃機関の排気浄化装置において、前記フィルタに流入する排気の温度を昇温させることにより、当該フィルタに捕捉されて堆積した粒子状物質を燃焼除去する再生処理を実行する再生手段(9,21,31,40,41)と、前記フィルタに捕捉されて堆積した粒子状物質が前記浄化触媒と密に接触しているか否かを、前記内燃機関の排気の状態を示すパラメータに基づいて判定する堆積状態判定手段(22,40,42)と、前記再生処理の実行を制御する再生制御手段(40,43)と、を備え、前記再生制御手段は、前記堆積状態判定手段により、前記フィルタに捕捉されて堆積した粒子状物質が前記浄化触媒と密に接触していると判定された場合に、前記再生処理の実行を許可することを特徴とする。
【0012】
上述したように、従来では、粒子状物質と浄化触媒との接触状態を考慮せずに再生処理を実行していた。このため、粒子状物質が浄化触媒と良好な接触性を確保できる量をはるかに超えた量の粒子状物質を燃焼させていたため、高温且つ長時間の再生処理が必要であった。
これに対して、請求項1記載の発明では、フィルタに捕捉されて堆積した粒子状物質が、当該フィルタに担持されている浄化触媒と密に接触していると判定された場合に、再生処理の実行を許可する。これにより、フィルタに捕捉されて堆積した粒子状物質のうち、浄化触媒と密に接触している粒子状物質のみを燃焼させることができる。従って、本発明によれば、浄化触媒が本来有する浄化性能を十分に発揮させることができ、従来に比して、より低温且つ短時間で粒子状物質を燃焼させてフィルタを再生できる。ひいては、再生処理に伴うエネルギーロスを低減でき、燃費の悪化を抑制できる。
【0013】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の内燃機関の排気浄化装置において、前記内燃機関の排気の状態を示すパラメータは、前記フィルタの上流側と下流側との間の差圧、及び当該差圧が生じた時間の累積時間であることを特徴とする。
【0014】
請求項2記載の発明では、フィルタの上流側と下流側との間の差圧、及び当該差圧が生じた時間の累積時間に基づいて、フィルタに捕捉されて堆積した粒子状物質が浄化触媒と密に接触しているか否かを判定する。
後述するように、フィルタに捕捉されて堆積した粒子状物質と浄化触媒との接触状態は、フィルタの上流側と下流側との間の差圧と、この差圧が生じた時間の累積時間とによって決定される。このため、本発明によれば、フィルタに生じた差圧と、この差圧が生じた時間の累積時間とに基づいて粒子状物質の堆積状態を判定するため、粒子状物質が浄化触媒と密に接触しているか否かを正確に判定できる。従って、浄化触媒と密に接触している粒子状物質のみを確実に燃焼させることができ、請求項1記載の発明の効果がより高く発揮される。
【0015】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の内燃機関の排気浄化装置において、前記堆積状態判定手段により、前記フィルタに捕捉されて堆積した粒子状物質が前記浄化触媒と密に接触していると判定された場合に、粒子状物質の堆積量が、前記フィルタの細孔内に堆積し得る最大堆積量に達しているか否かを判定する堆積量判定手段(40,44)をさらに備え、前記再生制御手段は、前記堆積量判定手段により、前記フィルタに捕捉されて堆積した粒子状物質の堆積量が前記最大堆積量に達していると判定されたときに、前記再生処理の実行を許可することを特徴とする。
【0016】
請求項3記載の発明では、フィルタに捕捉されて堆積した粒子状物質が浄化触媒と密に接触していると判定された場合であって、粒子状物質の堆積量が、フィルタの細孔内に堆積し得る最大堆積量に達していると判定されたときに、再生処理の実行を許可する。
これは、粒子状物質が浄化触媒と密に接触できるのは、粒子状物質がフィルタの細孔内に捕捉されて堆積した場合であることに基づく。即ち、フィルタの表面に堆積した粒子状物質は、フィルタの細孔内に堆積した粒子状物質とは異なり、浄化触媒に密に接触することができない。このため、粒子状物質の堆積量が、フィルタの細孔内に堆積し得る最大堆積量に達した後は、フィルタの表面に粒子状物質が堆積していくだけであり、浄化触媒と密に接触できる粒子状物質の量は飽和に達しているため、再生処理を実行するのである。従って、本発明によれば、飽和量に達した、浄化触媒と密に接触している粒子状物質のみを燃焼させることができるため、再生処理の頻度をより低減でき、燃費の悪化をより抑制できる。
【0017】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の内燃機関の排気浄化装置において、前記再生制御手段は、前記浄化触媒と密に接触している粒子状物質を燃焼除去するのに必要な時間が経過したときに、前記再生処理の実行を禁止することを特徴とする。
【0018】
請求項4記載の発明では、フィルタに捕捉されて堆積した粒子状物質が浄化触媒と密に接触し、且つ粒子状物質の堆積量がフィルタの細孔内に堆積し得る最大堆積量に達していると判定されて再生処理を実行した場合において、浄化触媒と密に接触している粒子状物質を燃焼除去するのに必要な時間が経過したときに、再生処理の実行を禁止する。
これにより、浄化触媒と密に接触している粒子状物質が燃焼除去されたところで再生処理の実行を中止することができる。従って、本発明によれば、再生処理に伴うエネルギーロスをさらに低減でき、燃費の悪化をさらに抑制できる。
ここで、本発明における「浄化触媒と密に接触している粒子状物質を燃焼除去するのに必要な時間」は、所定の実験を行うことにより、予め算出される。具体的には、再生温度に応じた粒子状物質の燃焼速度と、フィルタの細孔内に堆積し得る粒子状物質の最大堆積量とから算出される。浄化触媒と密に接触している粒子状物質は、フィルタの細孔内でしか生じないからである。
【0019】
請求項5記載の発明は、請求項1から4いずれか記載の内燃機関の排気浄化装置において、前記再生手段は、主噴射量の増量、前記フィルタの上流側に酸化触媒を設けたうえでのポスト噴射の実行、又はヒータによる加熱により、前記フィルタに流入する排気の温度を昇温させて前記再生処理を実行することを特徴とする。
【0020】
請求項5記載の発明では、主噴射量を増量してフィルタに流入する排気の温度を昇温させることにより、再生処理を実行する。あるいは、ポスト噴射を実行して排気中に燃料成分を含有させ、フィルタの上流側に設けた酸化触媒で燃料成分を酸化反応させることにより、発生する熱を利用して再生処理を実行する。あるいは、ヒータを利用してフィルタを加熱することにより、再生処理を実行する。従って、本発明によれば、これらの再生処理により、浄化触媒と密に接触している粒子状物質を確実に燃焼除去でき、請求項1から4いずれか記載の発明の効果が確実に発揮される。
【0021】
請求項6記載の発明は、請求項1から5いずれか記載の内燃機関の排気浄化装置において、前記浄化触媒は、酸素放出能を有する複合酸化物に、Ag及びPdを担持してなることを特徴とする。
【0022】
請求項6記載の発明では、酸素放出能を有する複合酸化物に、Ag及びPdを担持してなる浄化触媒を用いる。Agは低温下で優れたPM燃焼性能を有し、酸素放出能を有する複合酸化物やPdを併用することによって、低温下でより優れたPM浄化性能が得られる。
【0023】
請求項7記載の発明は、請求項1から6いずれか記載の内燃機関の排気浄化装置において、前記フィルタは、排気中のNOからNOを生成させるNO生成触媒をさらに有することを特徴とする。
【0024】
請求項7記載の発明では、浄化触媒に加えて、NO生成触媒を有するフィルタを用いる。NO生成触媒の作用により排気中のNOから生成されるNOは、優れたPM酸化性能を有する。このため、浄化触媒とNO生成触媒との相乗効果によって、低温下で非常に優れたPM浄化性能が得られる。
【0025】
請求項8記載の発明は、請求項7記載の内燃機関の排気浄化装置において、前記NO生成触媒は、高比表面積担体に、Pt、Pd、及びRhからなる群より選択される少なくとも1種を担持してなることを特徴とする。
【0026】
請求項8記載の発明では、高比表面積担体に、Pt、Pd、及びRhからなる群より選択される少なくとも1種を担持してなるNO生成触媒を用いる。これら貴金属元素は、NO生成能に優れることから、請求項7記載の発明の効果がより高く発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態に係る内燃機関の排気浄化装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態で用いられるDPFの断面模式図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る再生制御の手順を示すフローチャートである。
【図4】タイトコンタクトPMの模式図である。
【図5】ルーズコンタクトPMの模式図である
【図6】タイトコンタクト領域を示す図である。
【図7】差圧ΔPと堆積PM量との関係を示す図である。
【図8】Ag系浄化触媒のTG−DTAチャートである。
【図9】再生温度と再生時間との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0029】
図1は、本発明の一実施形態に係る内燃機関の排気浄化装置の構成を示す図である。内燃機関(以下、エンジン)1は、各気筒7の燃焼室内に燃料を直接噴射するディーゼルエンジンであり、各気筒7には図示しない燃料噴射弁が設けられている。これら燃料噴射弁は、電子制御ユニット(以下、ECU)40により電気的に接続されており、燃料噴射弁の開弁時間および閉弁時間は、ECU40により制御される。
【0030】
エンジン1には、吸気が流通する吸気管2と、排気が流通する排気管4と、排気の一部を吸気に還流するEGR通路6と、吸気管2に吸気を圧送する過給機8と、が設けられている。
【0031】
吸気管2は、吸気マニホールド3の複数の分岐部を介してエンジン1の各気筒7の吸気ポートに接続されている。排気管4は、排気マニホールド5の複数の分岐部を介してエンジン1の各気筒7の排気ポートに接続されている。
【0032】
過給機8は、排気管4に設けられたタービン81と、吸気管2に設けられたコンプレッサ82と、を備える。タービン81は、排気管4を流通する排気の運動エネルギにより駆動される。コンプレッサ82は、タービン81の回転により駆動され、吸気を加圧し吸気管2内へ圧送する。また、タービン81は、図示しない複数の可変ベーンを備えており、可変ベーンの開度を変化させることにより、タービンの回転速度を変更できるように構成されている。ベーン開度は、ECU40により電磁的に制御される。
【0033】
吸気管2のうち過給機8の上流側には、エンジン1の吸入空気量を制御するスロットル弁9が設けられている。このスロットル弁9は、アクチュエータを介してECU40に接続されており、その開度はECU40により電磁的に制御される。スロットル弁9により制御された吸入空気量は、エアフローメータ21により検出される。
【0034】
EGR通路6は、排気マニホールド5と吸気マニホールド3とを接続し、タービン81の上流の排気の一部を、吸気管2のうちコンプレッサ82の下流に還流する。EGR通路6には、還流する排気の流量を制御するEGR弁11が設けられている。EGR弁11は、図示しないアクチュエータを介してECU40に接続されており、その弁開度はECU40により電磁的に制御される。
【0035】
また、排気管4のうちタービン81の下流には、酸化触媒31とDPF32とが、上流側からこの順で設けられている。
【0036】
酸化触媒31は、後述するポスト噴射によって排気中に導入される燃料成分を酸化させ、発生する熱で排気を昇温する。この酸化触媒31としては、例えば、触媒として作用する白金(Pt)を、アルミナ(Al)担体に担持させたものに、HCの吸着作用に優れたゼオライトと、HCの水蒸気改質作用に優れたロジウム(Rh)を加えて構成されたものが用いられる。
【0037】
DPF32は、排気がフィルタの細孔を通過する際に、粒子状物質(Particulate Matter、以下「PM」という)をフィルタの表面及びフィルタの細孔内に堆積させることによって捕集する。例えば、炭化珪素(SiC)などのセラミックス多孔体からなるハニカム構造体を利用したウォールフロー型DPFが使用される。ウォールフロー型DPFは、下流側が目封止された排気流入路と、排気流入路に隣接し上流側が目封止された排気流出路と、排気流入路と排気流出路とを区画するフィルタ壁と、から構成される。
なお、DPF32では、PMが捕集されていくにつれて排気管4の圧損が増大するため、捕集したPMを燃焼させる後述の再生処理が実行される。
【0038】
DPF32には、フィルタに捕捉されて堆積したPMを浄化するための浄化触媒が担持されている。浄化触媒としては、堆積したPMを燃焼させるPM燃焼触媒が用いられる。
具体的には、浄化触媒として、酸素放出能を有する複合酸化物に、Ag及びPdを担持してなるPM燃焼触媒が好ましく用いられる。
酸素放出能を有する複合酸化物としては、ペロブスカイト型、スピネル型、ルチル型、デラフォサイト型、マグネトプランバイト型、イルメナイト型、及びフルオライト型からなる群より選択される少なくとも1種の結晶構造を備える複合酸化物が好ましく用いられる。これらの結晶構造を備える複合酸化物のうち、Al、Si、Ti、Ce、及びZrからなる群より選択される少なくとも1種の元素を主要構成元素とする複合酸化物が好ましく用いられる。
また、上記複合酸化物に、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類、遷移金属、及び貴金属からなる群より選択される少なくとも1種の元素を添加したものがより好ましく用いられる。これらの元素を複合酸化物に添加することにより、構成元素の価数が変化して酸素の吸収及び放出が可能となる。
【0039】
上記浄化触媒の調製方法及び担持方法については特に限定されず、例えば、従来公知のウォッシュコート法を採用することができる。具体的には、上記浄化触媒を構成する材料を含むスラリーを調製し、このスラリー中に上記ハニカム構造体を所定時間、浸漬させる。所定時間経過後、ハニカム構造体を引き上げて余分なスラリーを除去して乾燥させることにより、浄化触媒をハニカム構造体に担持させることができる。
【0040】
また、DPF32には、上記浄化触媒に加えて、排気中に含まれるNOからNOを生成させるNO生成触媒が担持されていることが好ましい。
NO生成触媒としては、高比表面積担体に、Pt、Pd、及びRhからなる群より選択される少なくとも1種を担持してなるNO生成触媒が好ましく用いられる。
高比表面積担体としては特に限定されず、従来公知の酸化物や複合酸化物が用いられる。
【0041】
また、本実施形態では、図2に示すような、DPF32を構成するフィルタ壁33上に形成された浄化触媒層34と、この浄化触媒層34上に形成されたNO生成触媒層35とを有する2層構造体が好ましく用いられる。
この2層構造のDPF32は、ウォッシュコート法により、フィルタ壁33上に浄化触媒層34、NO生成触媒層35を順次形成することにより得られる。
【0042】
図1に戻って、DPF32の上流側及び下流側の排気管4には、圧力導入管23を介して接続された差圧センサ22が設けられている。この差圧センサ22により、DPF32の上流側圧力と下流側圧力との差圧が検出される。差圧センサ22は、後述のECU40に接続されており、その検出信号がECU40に供給される。
【0043】
ECU40は、各種センサからの入力信号波形を整形し、電圧レベルを所定のレベルに修正し、アナログ信号値をデジタル信号値に変換するなどの機能を有する入力回路と、中央演算処理ユニット(以下、CPUという)とを備える。この他、ECU40は、CPUで実行される各種演算プログラムおよび演算結果などを記憶する記憶回路と、スロットル弁9、エンジン1の燃料噴射弁、及びDPF32を加熱するためのヒータ(図示せず)などに制御信号を出力する出力回路と、を備える。
【0044】
以上のようなハードウェア構成により、ECU40には、再生部41、堆積状態判定部42、再生制御部43、及び堆積量判定部44の各モジュールが構成される。
再生部41は、DPF32に流入する排気の温度を昇温させることにより、DPF32に捕捉されて堆積したPMを燃焼除去する再生処理を実行する。
堆積状態判定部42は、DPF32に捕捉されて堆積したPMが、浄化触媒と密に接触しているか否かを、エンジン1の排気の状態を示すパラメータに基づいて判定する。
堆積量判定部44は、堆積状態判定部42により、DPF32に捕捉されて堆積したPMが、上記浄化触媒と密に接触していると判定された場合に、PMの堆積量が、DPF32の細孔内に堆積し得る最大堆積量に達しているか否かを判定する。
再生制御部43は、堆積状態判定部42により、DPF32に堆積したPMが浄化触媒と密に接触していると判定された場合において、堆積量判定部44によりDPF32に捕捉されて堆積したPMの堆積量が、DPF32の細孔内に堆積し得る最大堆積量に達していると判定されたときに、再生処理の実行を許可する。
【0045】
図3は、本実施形態の再生制御の手順を示すフローチャートである。この再生制御は、上述のECU40により繰り返し実行される。
【0046】
ステップS11では、先ず、DPF32の上流側圧力と下流側圧力との差圧ΔPを、差圧センサ22により検出する。次いで、差圧ΔPの検出値から、平均差圧ΔPAveを算出する。
また、差圧ΔPが生じた時間の累積時間Tpを計測する。計測後、ステップS12に移る。
【0047】
ステップS12では、ステップS11で算出した平均差圧ΔPAveと、ステップS11で計測した差圧ΔPが生じた時間の累積時間Tpに基づいて、DPF32に堆積したPMが浄化触媒と密に接触している(以下、「タイトコンタクト」という)か否かを判定する。
具体的には、後述するタイトコンタクト領域判定マップを参照することにより、DPF32に堆積したPMがタイトコンタクト化しているか否かを判定する。この判定がYESの場合にはステップS13に移り、NOの場合には再びステップS11に戻ることとなる。
【0048】
ここで、タイトコンタクトPMと、浄化触媒と密に接触していない(以下、「ルーズコンタクト」という)PMについて説明する。
図4は、タイトコンタクトPMを模式的に示した図である。また、図5は、ルーズコンタクトPMを模式的に示した図である。図4に示されるように、タイトコンタクトPMは、DPF32に担持された浄化触媒(図4に示す例では、CeZrOにAg及びPdを担持してなるPM燃焼触媒)と密に接触しているため、燃焼反応がスムーズに進行する結果、低温且つ短時間で燃焼除去される。一方、図5に示されるように、ルーズコンタクトPMでは、浄化触媒との間に隙間が形成されているため、燃焼反応がスムーズに進行せず、燃焼には高温且つ長時間を必要とする。図5に示すようなルーズコンタクトPMは、再生処理によりタイトコンタクトPMを燃焼除去した直後などに見られる。
本発明は、このタイトコンタクトPMとルーズコンタクトPMの特性の違いに着目してなされたものであり、本発明では、タイトコンタクトPMのみを燃焼させることにより、低温且つ短時間での再生処理を可能としている。
【0049】
次に、タイトコンタクト領域判定マップについて説明する。
図6は、Agを含有する浄化触媒を担持したDPF32の平均差圧ΔPAveと、差圧ΔPが生じた時間の累積時間(以下、「PM圧縮時間」という)Tpとによって決定されるタイトコンタクト領域の判定マップである。この判定マップは、所定の差圧になるまでDPF32にPMを堆積させ、Nガスを用いて所定時間PMを圧縮した後、Airガスに切り替えたときを試験開始時として試験開始から30秒間で燃焼したPMからPM燃焼速度を算出し、算出されたPM燃焼速度が飽和燃焼速度となった結果を基に作成されたものである。この判定マップは、上記実験により予め作成され、ECU40に格納されている。
図6に示す通り、DPF32に堆積したPMと浄化触媒との接触性が飽和に達する条件は、DPF32の平均差圧ΔPAveと、PM圧縮時間Tpとによって決定される。図6の曲線の右上の領域が、PMがタイトコンタクト化するための平均差圧ΔPAve及びPM圧縮時間Tpの条件である。図6に示すように、DPF32の平均差圧ΔPAveが大きく、PM圧縮時間Tpが長いほど、DPF32に堆積したPMはタイトコンタクト化する。
ここで、「PMがタイトコンタクト化する」とは、PMと浄化触媒との接触性が飽和に達することを意味する。
【0050】
図3に戻って、ステップS13では、DPF32に堆積した堆積PM量Wが、DPF32の細孔内に堆積し得る最大堆積量Wpに達しているか否かを判定する。この判定がNOの場合には再びステップS11に戻ることとなる。また、YESの場合には、ステップS14に移って、再生処理が実行されることとなる。
これは、タイトコンタクトPMの燃焼は、DPF32の細孔内でのみ起こることを本発明者らが見出したことに基づく。即ち、DPF32の表面に堆積したPMは、細孔内に堆積したPMとは異なり、浄化触媒に密に接触することができない。このため、堆積PM量Wが、DPF32の細孔内に堆積し得る最大堆積量Wpに達した後は、DPF32の表面にPMが堆積していくこととなるため、再生処理を実行するのである。
【0051】
ここで、DPF32に堆積した堆積PM量Wは、差圧センサ22により検出されたDPF32の差圧ΔPに基づいて、図7に示すマップを参照することにより算出される。図7に示すマップは、Agを含有する浄化触媒を用いたときのDPF32の差圧ΔPと堆積PM量との関係を示しており、予め所定の実験により作成され、ECU40に格納されている。
また、DPF32の細孔内に堆積し得る最大堆積量Wpは、予め所定の実験により算出され、ECU40に格納されている。具体的には、図7の曲線において、差圧ΔPの上昇が緩やかとなるPにおける堆積PM量である。即ち、図7の曲線のPまではDPF32の差圧ΔPが急激に上昇しているが、これは、DPF32の細孔内にPMが捕捉されて堆積し、僅かな堆積PM量で圧損が大きく上昇するためである。従って、図7の曲線のPにおける堆積PM量が、DPF32の細孔内に堆積し得る最大堆積量Wpである。
【0052】
ステップS14では、DPF32に流入する排気の温度を昇温させることにより、DPF32に捕捉されて堆積したPMを燃焼除去する再生処理を実行する。再生処理の実行を開始した後、ステップS15に移る。
具体的には、スロットル弁9、エンジン1の燃料噴射弁、又はDPF32を加熱するためのヒータに制御信号を出力することにより、吸入空気量の減量、主噴射量の増量、ポスト噴射の実行、又はヒータによる加熱を行い、DPF32に流入する排気の温度を昇温させて再生処理を実行する。
【0053】
本実施形態の再生処理では、浄化触媒が本来有する浄化性能を十分に発揮でき、タイトコンタクトPMを高い燃焼速度で燃焼できる温度まで昇温させることが好ましい。
以下、具体例を挙げて説明する。
CeZrOに対してAgを30質量%、Pdを1質量%担持させた浄化触媒のTG−DTAチャートを図8に示す。図8は、PM粉末を触媒粉末に対して5質量%となるように乳鉢で混合してタイトコンタクト化させた後、Airを流して20℃/分の条件で昇温させたときのTG−DTAチャートである。
図8に示すように、温度T1でPMの燃焼が開始され、温度T2で燃焼速度が劇的に高くなり、温度T3で燃焼速度がピークに達する。従って、本実施形態の再生処理では、PMの燃焼開始温度であるT1以上の所定温度まで上昇させることが好ましい。また、PMの燃焼速度が劇的に高くなり始めるT2以上の所定温度まで上昇させることがより好ましく、PMの燃焼ピーク温度T3以上の所定温度まで上昇させることがさらに好ましい。
【0054】
ステップS15では、タイトコンタクトPMを燃焼除去するのに必要な時間が経過した後、再生処理の実行を禁止する。
タイトコンタクトPMを燃焼除去するのに必要な時間は、予め所定の実験により算出され、ECU40に格納されている。具体的には、タイトコンタクトPMを燃焼除去するのに必要な時間は、再生温度に応じたPMの燃焼速度と、DPF32の細孔内に堆積し得るPMの最大堆積量とから算出される。タイトコンタクトPMは、DPF32の細孔内でしか生じないからである。
図9は、Agを含有する浄化触媒を用い、所定量のタイトコンタクトPMのみを燃焼させて再生処理を実行したときの再生温度と、再生時間との関係を示す図である。このように、各再生温度におけるPMの燃焼速度に基づいて、タイトコンタクトPMの燃焼に必要な時間、即ち再生時間が求められる。
【0055】
以下、本実施形態に係る内燃機関の排気浄化装置の効果について説明する。
上述したように、従来では、PMと浄化触媒との接触状態を考慮せずに再生処理を実行していた。このため、PMが浄化触媒と良好な接触性を確保できる量をはるかに超えた量のPMを燃焼させていたため、高温且つ長時間の再生処理が必要であった。
これに対して、本実施形態では、DPF32に捕捉されて堆積したPMが、タイトコンタクト化していると判定された場合に、再生処理の実行を許可する。これにより、DPF32に捕捉されて堆積したPMのうち、タイトコンタクトPMのみを燃焼させることができる。
従って、本実施形態によれば、浄化触媒が本来有する浄化性能を十分に発揮させることができ、従来に比して、より低温且つ短時間でPMを燃焼させてDPF32を再生できる。具体的には、タイトコンタクトPMのみを燃焼させる再生処理を実行することで、従来では550℃〜650℃の高温が必要とされていた再生処理を、400℃以下の低温で実行可能である(図9参照)。このため、再生処理に伴うエネルギーロスを低減でき、燃費の悪化を抑制できる。
【0056】
また、本実施形態では、DPF32の上流側と下流側との間の差圧、及び当該差圧が生じた時間の累積時間に基づいて、DPF32に捕捉されて堆積したPMがタイトコンタクト化しているか否かを判定する。
上述したように、DPF32に捕捉されて堆積したPMと浄化触媒との接触状態は、DPF32の上流側と下流側との間の差圧と、この差圧が生じた時間の累積時間とによって決定される。このため、本実施形態によれば、DPF32に生じた差圧と、この差圧が生じた時間の累積時間とに基づいてPMの堆積状態を判定するため、PMがタイトコンタクト化しているか否かを正確に判定できる。従って、タイトコンタクトPMのみを確実に燃焼させることができ、上記の効果がより高く発揮される。
【0057】
また、本実施形態では、DPF32に捕捉されて堆積したPMがタイトコンタクト化していると判定された場合であって、PMの堆積量が、DPF32の細孔内に堆積し得る最大堆積量に達していると判定されたときに、再生処理の実行を許可する。
これは、PMがタイトコンタクト化できるのは、PMがDPF32の細孔内に捕捉されて堆積した場合であることに基づく。即ち、DPF32の表面に堆積したPMは、DPF32の細孔内に堆積したPMとは異なり、タイトコンタクト化できない。このため、PMの堆積量が、DPF32の細孔内に堆積し得る最大堆積量に達した後は、DPF32の表面にPMが堆積していくだけであり、タイトコンタクトPM量は既に飽和に達しているため、再生処理を実行するのである。従って、本実施形態によれば、飽和量に達した、タイトコンタクトPMのみを燃焼させることができるため、再生処理の頻度をより低減でき、燃費の悪化をより抑制できる。
【0058】
また、本実施形態では、DPF32に捕捉されて堆積したPMがタイトコンタクト化し、且つPMの堆積量がDPF32の細孔内に堆積し得る最大堆積量に達していると判定されて再生処理が実行された場合において、タイトコンタクトPMを燃焼除去するのに必要な時間が経過したときに、再生処理の実行を禁止する。
これにより、タイトコンタクトPMが燃焼除去されたところで再生処理の実行を中止することができる。従って、本実施形態によれば、再生処理に伴うエネルギーロスをさらに低減でき、燃費の悪化をさらに抑制できる。
【0059】
また、本実施形態では、主噴射量の増量、DPF32の上流側に酸化触媒31を設けたうえでのポスト噴射の実行、又はヒータによる加熱により、DPF32に流入する排気の温度を昇温させて再生処理を実行する。従って、本実施形態によれば、これらの再生処理により、浄化触媒と密に接触しているPMを確実に燃焼除去でき、上記効果が確実に発揮される。
【0060】
また、本実施形態では、酸素放出能を有する複合酸化物に、Ag及びPdを担持してなる浄化触媒を用いる。Agは低温下で優れたPM燃焼性能を有し、酸素放出能を有する複合酸化物やPdを併用することによって、低温下でより優れたPM浄化性能が得られる。
【0061】
また、本実施形態では、浄化触媒に加えて、NO生成触媒を有するDPF32を用いる。NO生成触媒の作用により排気中のNOから生成されるNOは、優れたPM酸化性能を有する。このため、浄化触媒とNO生成触媒との相乗効果によって、低温下で非常に優れたPM浄化性能が得られる。
【0062】
また、本実施形態では、高比表面積担体に、Pt、Pd、及びRhからなる群より選択される少なくとも1種を担持してなるNO生成触媒を用いる。これら貴金属元素は、NO生成能に優れることから、上記効果がより高く発揮される。
【0063】
本実施形態では、ECU40が、本発明の再生手段、堆積状態判定手段、再生制御手段、及び堆積量判定手段を構成する。具体的には、再生部41が再生手段に相当し、堆積状態判定部42が堆積状態判定手段に相当し、再生制御部43が再生制御手段に相当し、堆積量判定部44が堆積量判定手段に相当する。また、図3のステップS12の実行に係る手段が堆積状態判定手段に相当し、ステップS13の実行に係る手段が堆積量判定手段に相当し、ステップS14の実行に係る手段が再生手段及び再生制御手段に相当し、ステップS15の実行に係る手段が再生制御手段に相当する。
【0064】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良などは本発明に含まれる。
【実施例】
【0065】
次に、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0066】
<単体PM燃焼性能評価>
[実施例1:Ag系触媒]
(Ag系触媒の調製)
CeZrOに対して、Agが30質量%、Pdが1質量%となるように、所定量の硝酸銀及び硝酸Pdを水に溶解させた。次いで、ナスフラスコ中にCeZrO粉末、硝酸銀、及び硝酸Pd混合水溶液を入れ、ロータリーエバポレータで蒸発乾固させた。これを700℃×2時間焼成することにより、AgPd/CeZrOを作製した。
【0067】
(ウォールフロー型DPFへの触媒担持)
上記で調製したAgPd/CeZrOに対し、SiOゾルを所定量の水とともに加え、ボールミルで攪拌してスラリーとした。300セルのSiC−DPFハニカムを準備し、このハニカムをスラリー中に浸漬させた。浸漬後、ハニカムを引き上げて余分なスラリーをエアーナイフで良く切った後、200℃での乾燥を所定の重量になるまで繰り返し行い、セル内にスラリー乾固物で担持されるようにした。次いで、700℃×2時間の焼成を行うことにより、触媒付DPF1L当たり60g/Lの触媒が担持された触媒付DPFを得た。
【0068】
(PM燃焼性能評価)
以下の条件でPM燃焼試験を実施した。なお、試験は初期状態、即ち、上記で得られた触媒付DPFをそのまま用いて実施した。
PMの捕集は、ディーゼル発電機の排気を15ccの触媒付DPFに流通させることで行った。捕集と同時に、触媒付DPFに堆積したPMを5〜10kPaで60分間圧縮することにより、PMと触媒とをタイトコンタクト化させた。捕集したPMの重量は、捕集前後の触媒付DPFの重量を測定することにより求めた。また、重量測定は、水やHCの影響を除外するために、200℃×15分間、乾燥器内で乾燥させてから行った。
PM捕集後の触媒付DPFのテストピースについて、PM燃焼性能評価装置を用いて、PMが燃焼する際に生成するCO及びCOの濃度を測定することにより、PM燃焼性能評価を行った。具体的には、PMが燃焼しないようにNガスで400℃まで昇温した後、ガス組成を、O:25%、NOx:700ppm、N:バランス(線速度SV=50000h−1)に切り替えたときを燃焼開始時とし、燃焼開始から30秒間、タイトコンタクトPMが燃焼するときの高い燃焼速度をタイトコンタクト燃焼速度とし、その後PMの90%が燃焼するまでのPM燃焼速度をルーズコンタクト燃焼速度として、PM燃焼性能を評価した。
【0069】
[実施例2:Ag/Pt系触媒]
(Ag系触媒の調製)
Ag系触媒は、触媒の比表面積を増加させてタイトコンタクト化できるPM量を増加させるべく、スラリー調製時にクエン酸を混合した以外は実施例1と同様にして調製した。
【0070】
(Pt系触媒の調製)
Alに対して、Ptが9.3質量%、Pdが4.7質量%となるように、所定量の硝酸Pt及び硝酸Pdを水に溶解させた。次いで、ナスフラスコ中にAl粉末、硝酸Pt、及び硝酸Pd混合水溶液を入れ、ロータリーエバポレータで蒸発乾固させた。これを700℃×2時間焼成することにより、PtPd/Alを作製した。
【0071】
(ウォールフロー型DPFへの触媒担持)
実施例1と同様にして作製したAg系触媒付DPFの上層に、上記Pt系触媒をDPF1L当たり20g/L担持させた以外は、実施例1と同様の操作を行い、Ag/Pt系触媒付DPFを得た。
【0072】
(PM燃焼性能評価)
得られた触媒付DPFについて、実施例1と同様のPM燃焼性能評価を実施した。
【0073】
[比較例1:Pt系触媒]
市販のPt/Al触媒を用い、実施例1と同様のPM燃焼性能評価を実施した。
【0074】
<実機PM燃焼性能評価>
[実施例3:Ag系触媒]
(Ag系触媒の調製)
触媒の比表面積を増加させてタイトコンタクト化できるPM量を増加させるべく、スラリー調製時にクエン酸を混合した以外は、実施例1と同様の操作を行い、Ag系触媒を作製した。
【0075】
(ウォールフロー型DPFへの触媒担持)
ウォールフロー型DPFへの触媒担持は、DPF容量を2.1Lとした以外は、実施例1と同様の操作を行い、触媒付DPFを得た。
【0076】
(PM燃焼性能評価)
以下の条件でPM燃焼試験を実施した。なお、試験は初期状態、即ち、上記で得られた触媒付DPFをそのまま用いて実施した。
自動車用ディーゼルエンジンを用いて、触媒付DPF直前の温度が400℃程度となるようにエンジン回転数及びトルクを制御し、排気を触媒付DPFに導入した。このときの差圧(圧損)は、5〜10kPa程度であった。排気の導入時間を30分間に設定してタイトコンタクト化させなかったものと、排気の導入時間を120分間に設定してタイトコンタクト化させたものとの2種類について、排気導入前後の重量を測定することにより、PM燃焼性能評価を行った。なお、重量測定は、水やHCの影響を除外するために、200℃×2.5時間乾燥させてから行った。
【0077】
[比較例2:Pt系触媒]
比較例1と同様に市販のPt/Al触媒を用い、実施例3と同様のPM燃焼性能評価を実施した。
【0078】
<単体PM燃焼性能評価結果:実施例1〜2、比較例1>
実施例1〜2、比較例1のPM燃焼性能評価結果を表1に示す。実施例1と比較例1との比較により、試験開始後30秒間のPM燃焼速度、即ちタイトコンタクトPM燃焼速度は、Ag系触媒の方が高かった。これは、DPFの細孔内において、タイトコンタクトPMが燃焼することにより、Ag系触媒が本来的に有する高い浄化性能が発揮された結果である。
これに対して、試験開始30秒経過後、PMの90%が燃焼するまでの燃焼速度、即ちルーズコンタクトPM燃焼速度は、Ag系触媒とPt系触媒とでは、有意差は認められなかった。これは、ルーズコンタクトPMが燃焼することにより、主にNOを利用した燃焼反応が進行する結果である。このため、触媒の浄化性能の相違による影響や、PMと触媒との接触状態による影響が殆ど見られず、いずれもほぼ同等のPM燃焼速度が得られたものと考えられる。
この結果から、特にAg系触媒においては、PMと触媒とをタイトコンタクト化させることにより、高いPM燃焼速度が得られることが判った。
【0079】
また、実施例1と実施例2との比較により、PM燃焼触媒であるAg系触媒単独よりも、NO生成触媒であるPt系触媒を組み合わせた方が高いPM燃焼速度が得られた。これは、Ag系触媒とPMとが密に接している界面で進行するタイトコンタクトPM燃焼に、PM酸化性能に優れたNOが加わったことによる相乗効果によるものと考えられた。
また、ルーズコンタクトPM燃焼速度は、実施例1と実施例2とでは有意差は認められなかった。この要因としては、PMは主にNOによって燃焼しており、PMと触媒との接触状態による影響が限りなく小さいためと考えられた。
【0080】
【表1】

【0081】
<実機PM燃焼性能評価:実施例3、比較例2>
実施例3及び比較例2のPM燃焼性能評価結果を表2に示す。実施例3における排気導入時間30分のときのPM燃焼率は0%であった。これは、平均差圧3.8kPa、排気導入時間、即ちPM圧縮時間30分の条件では、タイトコンタクト領域外であるため、PMの燃焼反応が進行しなかったものと考えられた(図6参照)。一方、排気導入時間120分のときのPM燃焼率は40%であった。これは、平均圧損3.9kPa、排気導入時間、即ちPM圧縮時間120分の条件が、タイトコンタクト領域内であるため、PMの燃焼反応が進行したものと考えられた(図6参照)。
これに対して、比較例2における排気導入時間30分のときのPM燃焼率は6%であった。これは、比較例2ではPt系触媒を用いているため、主にNOによる気体−固体反応によってPMが燃焼しているため、PMと触媒との接触状態による影響が殆ど無いためと考えられた。また、排気導入時間120分のときのPM燃焼率は17%であり、実施例3の排気導入時間120分のときに比して半分以下しか燃焼していなかった。これは、Ag系触媒がPMとタイトコンタクトしたときの燃焼性能が、NOによる燃焼よりも高い燃焼性能を有しているためと考えられた。
【0082】
【表2】

【符号の説明】
【0083】
1…エンジン(内燃機関)
9…スロットル弁(再生手段)
21…エアーフローメータ(再生手段)
22…差圧センサ(堆積状態判定手段)
31…酸化触媒(再生手段)
32…DPF(フィルタ)
40…ECU(再生手段、堆積状態判定手段、再生制御手段、堆積量判定手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられ、当該内燃機関の排気中の粒子状物質を捕捉するとともに、捕捉した粒子状物質を浄化するための浄化触媒を有するフィルタを備えた内燃機関の排気浄化装置において、
前記フィルタに流入する排気の温度を昇温させることにより、当該フィルタに捕捉されて堆積した粒子状物質を燃焼除去する再生処理を実行する再生手段と、
前記フィルタに捕捉されて堆積した粒子状物質が前記浄化触媒と密に接触しているか否かを、前記内燃機関の排気の状態を示すパラメータに基づいて判定する堆積状態判定手段と、
前記再生処理の実行を制御する再生制御手段と、を備え、
前記再生制御手段は、前記堆積状態判定手段により、前記フィルタに捕捉されて堆積した粒子状物質が前記浄化触媒と密に接触していると判定された場合に、前記再生処理の実行を許可することを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】
前記内燃機関の排気の状態を示すパラメータは、前記フィルタの上流側と下流側との間の差圧、及び当該差圧が生じた時間の累積時間であることを特徴とする請求項1記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項3】
前記堆積状態判定手段により、前記フィルタに捕捉されて堆積した粒子状物質が前記浄化触媒と密に接触していると判定された場合に、粒子状物質の堆積量が、前記フィルタの細孔内に堆積し得る最大堆積量に達しているか否かを判定する堆積量判定手段をさらに備え、
前記再生制御手段は、前記堆積量判定手段により、前記フィルタに捕捉されて堆積した粒子状物質の堆積量が前記最大堆積量に達していると判定されたときに、前記再生処理の実行を許可することを特徴とする請求項1又は2記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項4】
前記再生制御手段は、前記浄化触媒と密に接触している粒子状物質を燃焼除去するのに必要な時間が経過したときに、前記再生処理の実行を禁止することを特徴とする請求項3記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項5】
前記再生手段は、主噴射量の増量、前記フィルタの上流側に酸化触媒を設けたうえでのポスト噴射の実行、又はヒータによる加熱により、前記フィルタに流入する排気の温度を昇温させて前記再生処理を実行することを特徴とする請求項1から4いずれか記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項6】
前記浄化触媒は、酸素放出能を有する複合酸化物に、Ag及びPdを担持してなることを特徴とする請求項1から5いずれか記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項7】
前記フィルタは、排気中のNOからNOを生成させるNO生成触媒をさらに有することを特徴とする請求項1から6いずれか記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項8】
前記NO生成触媒は、高比表面積担体に、Pt、Pd、及びRhからなる群より選択される少なくとも1種を担持してなることを特徴とする請求項7記載の内燃機関の排気浄化装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−265754(P2010−265754A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−115372(P2009−115372)
【出願日】平成21年5月12日(2009.5.12)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】