説明

医療用マニピュレータ

【課題】マニピュレータを電気メスとして使用する場合であっても、先端動作部での通電経路を適切に確保して、その動作や手技を円滑に行うことができる医療用マニピュレータを提供する。
【解決手段】マニピュレータ10は、ワイヤ80bの進退駆動によって従動回転される歯車体126等により、少なくとも軸線方向を中心とするロール方向への回転動作が可能な先端動作部12を備える。先端動作部12は、高周波電源23から、第1通電経路E1及び第2通電経路E2を介してそれぞれ通電されることにより、その間で生体に通電可能な一対のグリッパ部材308、309を有する。先端動作部12における第1通電経路E1及び第2通電経路E2は、ロール方向へと先端支持部材161と共に回転可能なスリップリングR1、R2を含む第1構造部S1と、第1構造部S1より基端側に設けられて通電ピンP1、P2を有し、ロール方向には回転しない基端部材402を含む第2構造部S2とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達部材を介して先端動作部を動作させる医療用マニピュレータに関し、より詳細には、生体に通電可能な電極部材を先端動作部に有する医療用マニピュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡下外科手術(又は腹腔鏡下手術とも呼ばれる。)においては、患者の腹部等に複数の孔を開け、器具の通過ポートとしてトラカール(筒状の器具)を挿入した後、シャフトを有する鉗子の先端部をトラカールを通じて体腔内に挿入して患部の手術を行っている。鉗子の先端部には、作業部として、生体組織を把持するためのグリッパや、鋏、電気メスのブレード等が取り付けられている。
【0003】
トラカールから挿入される鉗子として、先端の作業部に関節を持たない一般的な鉗子に加えて、作業部に複数の関節を有する鉗子、いわゆるマニピュレータの開発が行われている(例えば、特許文献1参照)。このようなマニピュレータによれば、体腔内で自由度の高い動作が可能であり、手技が容易となり、適用可能な症例が多くなる。
【0004】
マニピュレータは、細長いシャフトの先端に設けられた先端動作部(エンドエフェクタとも呼ばれる。)を備える作業部を有し、ワイヤによって当該先端動作部を駆動するアクチュエータが本体部(操作部)に設けられている。そして、該アクチュエータの駆動により、ワイヤを介して先端動作部に対し、軸方向を中心とするロール方向の回転動作や、軸方向に交差するヨー(ピッチ)方向の揺動動作を付与することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−105451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、腹腔鏡下手術等に用いる鉗子を電気メスとして利用する場合には、操作部近傍に設けられた端子に電源を接続し、電線を延ばして先端部のグリッパ、ブレードやフック等の作用部に通電して所望の処置を行っている。
【0007】
一方、上記のようなマニピュレータを電気メスとして利用する場合においても、通常の鉗子の場合と同様に、操作部側から先端動作部側へと所定の高電圧を通電する必要があり、上記のようにその基端から先端まで絶縁被覆された電線(ケーブル)を配線することが考えられる。
【0008】
ところが、マニピュレータの先端動作部は、ロール方向の回転動作やヨー方向の揺動動作を行うため、その動作時にケーブルが捩れる可能性がある。そこで、このケーブルの捩れを防止すべく、該ケーブルを十分に余裕を持って撓ませておくことも考えられるが、この撓んだケーブルが手技の際、体内で邪魔になることが想定される。
【0009】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、マニピュレータを電気メスとして使用する場合であっても、先端動作部での通電経路を適切に確保して、その動作や手技を円滑に行うことができる医療用マニピュレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る医療用マニピュレータは、中空のシャフト(18)と、前記シャフト(18)内に挿通される複数の動力伝達部材(80a、80b)と、前記シャフト(18)の一端側に設けられ、前記動力伝達部材(80a、80b)を軸線方向に進退駆動する駆動機構部(14、32)と、前記シャフト(18)の他端側に設けられ、前記動力伝達部材(80b)の前記進退駆動によって従動回転される複数の回転体により、少なくとも軸線方向を中心とするロール方向への回転動作とが可能な先端動作部(12、12a、12b)とを備える医療用マニピュレータであって、前記先端動作部(12、12a、12b)は、前記駆動機構部(14、32)側に接続される電源(23)から、所定の通電経路(E1)を介してそれぞれ通電されることにより、生体に通電可能な電極部材(308)を有し、該電極部材(308)は、前記ロール方向へと回転可能な先端支持部材(161)により、該ロール方向へと回転可能に支持されており、前記先端動作部(12、12a、12b)における前記通電経路(E1)は、前記ロール方向へと前記先端支持部材(161)と共に回転可能な第1構造部(S1、S10、S100)と、前記第1構造部(S1、S10、S100)より基端側に設けられ、前記ロール方向には回転しない第2構造部(S2、S20、S200)とを備え、前記第1構造部(S1、S10、S100)及び前記第2構造部(S2、S20、S200)のうち、一方には、他方側に向けて突出する通電凸部(P1、P100b)が設けられ、他方には、前記通電凸部(P1、P100b)が摺接可能に接触する通電面(R1a、R10a、R100a)が設けられ、前記第1構造部(S1、S10、S100)に設けられる前記通電凸部(P1、P100b)又は前記通電面(R1a、R10a、R100a)が、前記電極部材(308)に対して通電可能に設置され、前記第2構造部(S2、S20、S200)に設けられる前記通電面(R1a、R10a、R100a)又は前記通電凸部(P1、P100b)が、前記駆動機構部(14、32)側に対して通電可能に設置されることを特徴とする。
【0011】
このような構成によれば、前記先端動作部では、電源と電極部材の間を通電可能に接続する通電経路として、ロール方向へと回転可能な第1構造部と、ロール方向には回転しない第2構造部とを備え、第1構造部及び第2構造部のうち、一方には通電凸部を設け、他方には通電面を設けると共に、第1構造部側を電極部材に対して通電可能に設置し、第2構造部側を駆動機構部側に対して通電可能に設置する。これにより、先端動作部にロール軸動作が付与された際には、第1構造部と第2構造部との間で、一方の通電凸部が他方の通電面上を摺動しながら、互いの通電状態を維持することができる。従って、例えば、先端動作部の可動部に、余裕を持って撓ませたケーブル等を配線せずに、通電経路を確保することができるため、該先端動作部でのロール軸動作を円滑に行うことができると共に、前記ケーブルの撓み部分が外部に突出せず、該撓み部分が手技の邪魔になることもなく、手技を円滑に行うことができる。なお、括弧書きの符号は、本発明の理解の容易化のために添付図面中の符号に倣って付したものであり、本発明がその符号を付けたものに限定して解釈されるものではなく、以下同様である。
【0012】
また、本発明に係る医療用マニピュレータは、中空のシャフト(18)と、前記シャフト(18)内に挿通される複数の動力伝達部材(80a、80b)と、前記シャフト(18)の一端側に設けられ、前記動力伝達部材(80a、80b)を軸線方向に進退駆動する駆動機構部(14、32)と、前記シャフト(18)の他端側に設けられ、前記動力伝達部材(80b)の前記進退駆動によって従動回転される複数の回転体により、少なくとも軸線方向を中心とするロール方向への回転動作とが可能な先端動作部(12、12a、12b)とを備える医療用マニピュレータであって、前記先端動作部(12、12a、12b)は、前記駆動機構部(14、32)側に接続される電源(23)から、第1通電経路(E1)及び第2通電経路(E2)を介してそれぞれ通電されることにより、その間で生体に通電可能な一対の電極部材(308、309)を有し、該一対の電極部材(308、309)は、前記ロール方向へと回転可能な先端支持部材(161)により、該ロール方向へと一体的に回転可能に支持されており、前記先端動作部(12、12a、12b)における前記第1通電経路(E1)及び前記第2通電経路(E2)は、前記ロール方向へと前記先端支持部材(161)と共に回転可能な第1構造部(S1、S10、S100)と、前記第1構造部(S1、S10、S100)より基端側に設けられ、前記ロール方向には回転しない第2構造部(S2、S20、S200)とを備え、前記第1構造部(S1、S10、S100)及び前記第2構造部(S2、S20、S200)のうち、一方には、他方側に向けて突出する一対の通電凸部(P1、P2、P100b、P200b)が設けられ、他方には、前記一対の通電凸部(P1、P2、P100b、P200b)がそれぞれ摺接可能に接触する一対の通電面(R1a、R2a、R10a、R20a、R100a、R200a)が設けられ、前記第1構造部(S1、S10、S100)に設けられる前記通電凸部(P1、P2、P100b、P200b)又は前記通電面(R1a、R2a、R10a、R20a、R100a、R200a)が、前記一対の電極部材(308、309)に対して通電可能に設置され、前記第2構造部(S2、S20、S200)に設けられる前記通電面(R1a、R2a、R10a、R20a、R100a、R200a)又は前記通電凸部(P1、P2、P100b、P200b)が、前記駆動機構部(14、32)側に対して通電可能に設置されることを特徴とする。
【0013】
このような構成によれば、前記先端動作部では、電源と一対の電極部材の間を通電可能に接続する第1通電経路及び第2通電経路として、ロール方向へと回転可能な第1構造部と、ロール方向には回転しない第2構造部とを備え、第1構造部及び第2構造部のうち、一方には一対の通電凸部を設け、他方には一対の通電面を設けると共に、第1構造部側を電極部材に対して通電可能に設置し、第2構造部側を駆動機構部側に対して通電可能に設置する。これにより、先端動作部にロール軸動作が付与された際には、第1構造部と第2構造部との間で、一方の各通電凸部が他方の各通電面上をそれぞれ摺動しながら、互いの通電状態を維持することができる。従って、例えば、先端動作部の可動部に、余裕を持って撓ませたケーブル等を配線せずに、通電経路を確保することができるため、該先端動作部でのロール軸動作を円滑に行うことができると共に、前記ケーブルの撓み部分が外部に突出せず、該撓み部分が手技の邪魔になることもなく、手技を円滑に行うことができる。
【0014】
この場合、前記通電面(R1a、R2a、R10a、R20a、R100a、R200a)が、前記ロール方向に沿った円弧形状であると、ロール方向への回転に沿って通電凸部と通電面とを確実に摺動させることができる。
【0015】
前記第2構造部(S200)は、前記駆動機構部(14、32)側から配線接続される前記一対の通電面(R100a、R200a)が設けられた基端側通電部材(R100、R200)を有し、前記第1構造部(S100)は、前記一対の通電面(R100a、R200a)に接触する前記一対の通電凸部(P100b、P200b)、及び該一対の通電凸部(P100b、P200b)の背面側に突出する一対の第2通電凸部(P100a、P200a)が設けられて、前記ロール方向に回転自由な回転リング(442)と、前記第2通電凸部(P100a、P200a)がそれぞれ摺接可能に接触する一対の第2通電面(R1a、R2a)が設けられて、前記一対の電極部材(308、309)に配線接続されると共に、前記先端支持部材(161)と一体的に前記ロール方向に回転可能な先端側通電部材(R1、R2)とを有する構成とすると、第1構造部を回転リングと先端側通電部材とで構成したことにより、回転リングの回転分だけ第1構造部と第2構造部との間のロール方向での通電範囲を拡げることができる。
【0016】
この場合、前記先端側通電部材(R1、R2)及び前記基端側通電部材(R100、R200)は、周方向で2つの断裂部を持つ分割リングであり、前記分割リングは、絶縁性のホルダ(404、444)に収納保持されると、第1通電経路と第2通電経路の絶縁状態をより確実に維持することができる。また、ホルダが絶縁カバーとして機能することから、分割リングから先端動作部の外部への短絡を防止することができる。
【0017】
前記第2構造部(S20)は、前記駆動機構部(14、32)側から配線接続される前記一対の通電凸部(P1、P2)が設けられた基端部材(402)を有し、前記第1構造部(S10)は、前記一対の通電凸部(P1、P2)が接触する前記一対の通電面(R10a、R20a)、及び該一対の通電面(R10a、R20a)の背面側に突出する一対の第2通電凸部(P10、P20)が設けられて、前記ロール方向に回転自由な第1回転通電部材(R10、R20)と、前記一対の第2通電凸部(P10、P20)が摺接可能に接触する一対の第2通電面(R1a、R2a)が設けられて、前記一対の電極部材(308、309)に配線接続されると共に、前記先端支持部材(161)と一体的に前記ロール方向に回転可能な第2回転通電部材(R1、R2)とを有する構成とすると、第1構造部を第1回転通電部材と第2回転通電部材とで構成したことにより、第2回転通電部材の回転分だけ第1構造部と第2構造部との間のロール方向での通電範囲を拡げることができる。
【0018】
この場合、前記第1回転通電部材(R10、R20)及び前記第2回転通電部材(R1、R2)は、周方向で2つの断裂部を持つ分割リングであり、前記分割リングは、絶縁性のホルダ(404、430)に収納保持される構成としてもよい。
【0019】
前記第2構造部(S2)は、前記駆動機構部(14、32)側から配線接続される前記一対の通電凸部(P1、P2)が設けられた基端部材(402)を有し、前記第1構造部(S1)は、前記一対の通電凸部(P1、P2)が接触する前記一対の通電面(R1a、R2a)が設けられて、前記一対の電極部材(308、309)に配線接続されると共に、前記先端支持部材(161)と一体的に前記ロール方向に回転可能な回転通電部材(R1、R2)を有する構成とすると、第1構造部と第2構造部との間で通電状態を確実に維持しつつ、先端動作部をロール方向へと円滑に回転させることができる。
【0020】
この場合、前記回転通電部材(R1、R2)は、周方向で2つの断裂部を持つ分割リングであり、前記分割リングは、絶縁性のホルダ(404)に収納保持される構成としてもよい。
【0021】
前記先端動作部(12b)は、さらに、前記先端支持部材(161)の基端側に設けられた揺動軸(112)により、軸線方向に交差するヨー方向乃至ピッチ方向への揺動動作が可能であり、前記第2構造部(S2、S20、S200)は、前記先端動作部(12b)の前記ヨー方向乃至ピッチ方向への揺動動作に伴って一体的に揺動可能な状態で、前記揺動軸(112)によって軸支されていてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、先端動作部にロール軸動作が付与された際には、第1構造部と第2構造部との間で、一方の通電凸部が他方の通電面上を摺動しながら、互いの通電状態を維持することができる。従って、例えば、先端動作部の可動部に、余裕を持って撓ませたケーブル等を配線せずに、通電経路を確保することができるため、該先端動作部でのロール軸動作を円滑に行うことができると共に、前記ケーブルの撓み部分が外部に突出せず、該撓み部分が手技の邪魔になることもなく、手技を円滑に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に係るマニピュレータの斜視図である。
【図2】作業部と操作部とを分離した状態でのマニピュレータの一部断面側面図である。
【図3】図3Aは、操作部の一部省略底面図であり、図3Bは、作業部の一部省略平面図である。
【図4】作業部の一部省略断面平面図である。
【図5】マニピュレータの複合入力部及びその周辺部の一部省略斜視図である。
【図6】トリガレバーを十分に引いたときの、先端動作部の模式側面図である。
【図7】トリガレバーを押し出したときの、先端動作部の模式側面図である。
【図8】先端動作部の模式構造図である。
【図9】先端動作部の斜視図である。
【図10】先端動作部の底面図である。
【図11】先端動作部を関節部でヨー方向に揺動させた状態での底面図である。
【図12】先端動作部をロール方向に回転させた状態での要部拡大底面図である。
【図13】先端動作部の分解斜視図である。
【図14】先端動作部の通電構造を示す一部分解斜視図である。
【図15】先端動作部の側面断面図である。
【図16】グリッパを閉じた状態での先端動作部の平面断面図である。
【図17】グリッパを開いた状態での先端動作部の平面断面図である。
【図18】図18Aは、通電ピンの構成例を示す側面断面図であり、図18Bは、図18Aに示す通電ピンのプローブを後退させた状態での側面断面図である。
【図19】図19Aは、図16中のXIX−XIX線に沿う一部省略断面図であり、図19Bは、図19Aに示す状態からロール方向への回転動作を行った状態での一部省略断面図である。
【図20】第1変形例に係る先端動作部の通電構造を示す一部分解斜視図である。
【図21】図20に示す先端動作部の一部省略側面断面図である。
【図22】図20に示す先端動作部の一部省略平面断面図である。
【図23】図23Aは、図20に示す先端動作部のロール軸動作時の通電機構の状態を模式的に示す斜視説明図であり、図23Bは、図23Aに示す状態からロール軸動作を行った状態を模式的に示す斜視説明図である。
【図24】第2変形例に係る先端動作部の通電構造を示す一部分解斜視図である。
【図25】図24に示す先端動作部の一部省略側面断面図である。
【図26】図24に示す先端動作部の一部省略平面断面図である。
【図27】図27Aは、先端動作部のロール軸動作時の通電機構の状態を模式的に示す斜視説明図であり、図27Bは、図27Aに示す状態からロール軸動作を行った状態を模式的に示す斜視説明図である。
【図28】グリッパ駆動機構の一部を示す模式構造図である。
【図29】受動ワイヤの端部の接続箇所の模式断面平面図である。
【図30】一実施形態に係るマニピュレータをロボットアームの先端に接続した手術用ロボットシステムの概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る医療用マニピュレータについて好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら説明する。
【0025】
1.マニピュレータの全体構成の説明
図1に示すように、本発明の一実施形態に係るマニピュレータ(医療用マニピュレータ)10は、シャフト18の先端に設けられた先端動作部12で生体の一部を把持・剥離し、又は生体に触れて所定の熱処置を行うことができる医療用の電気メスであり、把持鉗子や剥離鉗子等とも呼ばれる医療用器具を電気メスとして構成したものである。
【0026】
以下の説明では、図1における幅方向をX方向、高さ方向をY方向、及びシャフト18の延在方向をZ方向と規定する。また、先端側から見て右方をX1方向、左方をX2方向、上方向をY1方向、下方向をY2方向と規定し、さらに、シャフト18の前方(先端側)をZ1方向、後方(基端側)をZ2方向と規定する。なお、特に断りのない限り、これらの方向の記載はマニピュレータ10が基準姿勢(中立姿勢)である場合を基準として表すものとする。これらの方向は説明の便宜上のものであり、マニピュレータ10は任意の向きで(例えば、上下を反転させて)使用可能であることは勿論である。
【0027】
マニピュレータ10は、人手によって把持及び操作されるハンドルである操作部(本体、基部)14と、該操作部14に対して着脱自在な作業部16とを有し、グリップ26の下端から延びた接続ケーブル28がコントローラ(制御部)29に接続されてマニピュレータシステムを構成している。
【0028】
このようなマニピュレータ10は、操作部14側に装着される電極プラグ21によって所定の高周波電源(電源)23に接続され、該電極プラグ21が装着される電極棒71(図2参照)から延びて互いに絶縁された第1通電経路E1及び第2通電経路E2(以下、まとめて「通電経路E」とも呼ぶ)によって先端動作部12側へと通電し、これにより患部の熱処置を行うことができるバイポーラ電気メス(バイポーラ把持鉗子、バイポーラ剥離鉗子)として機能する。
【0029】
図1及び図2に示すように、操作部14は、Z1方向及びY2方向に延びた略L字状に構成され、Z方向に略対称に分割された一対の上部カバー25a、25bを筐体として、その内部に駆動部(アクチュエータ部)30等が収納されると共に、基端側でY2方向に延びた部分が人手によって把持されるグリップ26として構成されている。グリップ26は、人手によって把持されるのに適した長さであり、上部の傾斜面26aに複合入力部24が設けられている。
【0030】
操作部14のY1方向頂部近傍には、上部カバー25bから露出してマスタスイッチ34が設けられ、マスタスイッチ34のZ1方向で視認しやすい箇所にLED35が設けられ、操作部14のZ1方向端近傍で電極プラグ21がY1方向に突出している。
【0031】
作業部16は、作業を行う先端動作部12と、該先端動作部12を先端に設けた長尺且つ中空のシャフト(連結シャフト)18と、該シャフト18の基端側が固定されるプーリボックス32と、プーリボックス32のZ2方向端から延びたトリガレバー支持部33に軸支されるトリガレバー36とを有する。作業部16は、Z方向で略対称に分割された一対の下部カバー37a、37bを筐体として、その内部にプーリボックス32を収納している。トリガレバー支持部33は、プーリボックス32のZ2側端面からZ2方向に平行に延びた一対のプレートであり、該プレート間に渡ったトリガ軸39により、トリガレバー36を回動可能に軸支している(図4参照)。
【0032】
このような作業部16は、操作部14に設けられた左右一対の着脱レバー40、40によって当該操作部14と連結・固定されると共に、着脱レバー40の開放操作によって操作部14から分離可能であり、特別な器具を用いることなく、手術現場で容易に交換作業等を行うことができる。
【0033】
図1に示すように、先端動作部12及びシャフト18は細径に構成されており、患者の腹部等に設けられた円筒形状のトラカール20から体腔22内に挿入可能であり、複合入力部24及びトリガレバー36の操作によって体腔22内で患部切除、把持、剥離、縫合及び結紮等の様々な手技を行うことができ、さらに高周波電源23からの通電による熱処置が可能となっている。
【0034】
複合入力部24及びトリガレバー36の操作に基づいて動作する先端動作部12は、その間で生体を把持し通電可能な一対の電極部材として機能する一対のグリッパ部材308、309を備えたグリッパ300を備え(図9及び図13参照)、Y軸を基準に傾動するヨー軸動作(又はピッチ軸動作)、先端を指向する軸(中立姿勢時にはZ軸)を基準に回転するロール軸動作、及び、開閉可能なグリッパ軸動作(開閉動作)からなる3軸の動作が可能である。
【0035】
本実施形態の場合、ヨー軸動作及びロール軸動作は、複合入力部24の操作に基づいて電気的に駆動され、グリッパ軸動作はトリガレバー36の操作に基づいて機械的に駆動される。ここで機械的とは、ワイヤ、チェーン、タイミングベルト、リンク、ロッド、ギア等を介して駆動する方式であり、主に、動力伝達方向に非弾性な固体の機械部品を介してマニュアル駆動する方式である。ワイヤやチェーン等は、張力により不可避的な多少の伸びが発生する場合があるが、これらは非弾性な固体の機械部品とする。
【0036】
2.マニピュレータの各構成部分の説明
2.1.互いに着脱可能な駆動部及びプーリボックスの説明
駆動部30及びプーリボックス32は、互いに着脱可能であり、これにより操作部14から作業部16へと駆動力を伝達することができる。
【0037】
図1及び図2に示すように、駆動部30は、X方向に並んだ2つのモータ(アクチュエータ)50a、50bと、該モータ50a、50bを支持するブラケット52と、モータ50a、50bの回転方向を変換して作業部16側に伝達するギア機構部54とを有する。
【0038】
モータ50a、50bは円柱形状であり、図示しない減速機によって減速される出力軸56a、56bがブラケット52の一面を貫通し、該出力軸56a、56bに対してギア機構部54を構成する駆動傘歯車58a、58bが固定されている。モータ50a、50bは、例えばDCモータであり、図示しない角度センサとしてロータリエンコーダ等が設けられる。
【0039】
図2に示すように、ギア機構部54は、ブラケット52内の空間に設けられ、X方向に並んだ2本の駆動シャフト(駆動軸)60a、60bと、各駆動シャフト60a、60bに固定され、駆動傘歯車58a、58bと噛み合う2つの従動傘歯車62a、62bとを有する。モータ50a、50bの出力軸56a、56b、駆動シャフト60a、60b等は図示しないベアリングによってブラケット52に軸支されている。
【0040】
駆動シャフト60a(60b)の下端側は、ブラケット52の下面から突出しており、その先端には、例えばコイルばね63によって下方に付勢支持された係合凸部64a(64b)が設けられている。係合凸部64a(64b)は、軸中心から放射状に延びた円弧状の5つの凸部として、1つの大凸部と4つの小凸部とを有する略花びら形状の凸部となっている(図3A参照)。
【0041】
図2及び図4に示すように、プーリボックス32は、X方向両側が開口した空洞部66と、該空洞部66に収納されたプーリ(従動軸)70a、70b及びワイヤガイド部72a、72bとを有し、空洞部66のZ1側に貫通した孔部でシャフト18が固定・支持されている。
【0042】
プーリ70a、70bは、駆動シャフト60a、60bに対して同軸であり、その上端側には、駆動シャフト60a、60b側の係合凸部64a、64bと係合可能な係合凹部74a、74bが設けられている。係合凹部74a、74bは、前記係合凸部64a、64bが係合(嵌合)可能であり、例えば軸中心から放射状に延びた円弧状の5つの凹部として、1つの大凹部と4つの小凹部とを有する略花びら形状の凹部となっている(図3B参照)。すなわち、図3A及び図3Bから諒解されるように、係合凸部64a(64b)と係合凹部74a(74b)は、互いに所定の位相でのみ係合可能である。
【0043】
従って、操作部14と作業部16との装着時、モータ50a(50b)が適宜駆動制御されることにより、所定の位相において係合凸部64a(64b)と係合凹部74a(74b)とが係合し、これにより、駆動シャフト60a(60b)からの回転駆動力をプーリ70a(70b)へと伝達することができる。この際、例えば操作部14には、操作部14と作業部16の着脱を検出する着脱検出センサ(図示せず)や、駆動シャフト60aの位相を検出する位相検出センサ(図示せず)や、係合凸部64a、64bと係合凹部74a、74bとの係合状態を検出するカップリングセンサ(図示せず)等を設けてもよい。勿論、係合凸部64aや係合凹部74aの係合構造は他の構造であってもよい。
【0044】
図2及び図4から諒解されるように、ワイヤガイド部72a(72b)は、プーリ70a(70b)のZ1側に配設されると共に、その間隔が狭く設定されており、プーリ70a(70b)と先端動作部12の歯車体126(図8及び13参照)等との間に巻き掛けられたワイヤ(動力伝達部材)80a(80b)をガイドして、シャフト18内へと円滑に導く機能を有する。
【0045】
図2に示すように、プーリボックス32のZ1方向上端からは、電極棒71がY1方向に突出し、上部カバー25bに形成された貫通孔73を挿通可能に設けられている。電極棒71には、高周波電源23に接続された2本の電源ケーブル(電線)E01、E02の先端に設けられた電極プラグ21が外嵌装着される。
【0046】
各電源ケーブルE01、E02は、電極棒71の図示しない内部配線により、第1通電経路E1及び第2通電経路E2を構成する第1ケーブルE1a及び第2ケーブルE2a(以下、まとめて「ケーブルEa」とも呼ぶ)へとそれぞれ導通される。電極棒71からの第1ケーブルE1a及び第2ケーブルE2aは、プーリボックス32の上面に開口する孔部69から空洞部66へと引き込まれ、シャフト18内を先端動作部12側へと配線される。これら第1ケーブルE1a及び第2ケーブルE2aは、第1通電経路E1及び第2通電経路E2の全経路うち、電極棒71からシャフト18を介して先端動作部12の基端側部分までの通電経路を担当する(図14参照)。
【0047】
詳細は後述するが、第1ケーブルE1a及び第2ケーブルE2aは、図14に示すように、先端動作部12に設けられる第1通電機構E1b及び第2通電機構E2b(以下、まとめて「通電機構Eb」とも呼ぶ)にそれぞれ接続され、これら第1通電機構E1b及び第2通電機構E2bは、グリッパ部材308、309への第1先端ケーブルE1c及び第2先端ケーブルE2c(以下、まとめて「先端ケーブルEc」とも呼ぶ)にそれぞれ接続される。これらケーブルEa及び先端ケーブルEcは、導線を絶縁被覆した可撓性を有する電線(絶縁被覆電線)で構成すればよく、生体に通電される電圧や生体適合性等を考慮して適切な仕様の電線を用いればよい。
【0048】
プーリボックス32の空洞部66には、さらに、棒状又は線状の動力伝達部材であるY方向に並んだ2本のロッド82a、82bがZ方向に貫通している。ロッド82a、82bは、例えば、十分に強く且つ細いステンレスパイプ又は中実ロッドである。ロッド82a、82bのZ1方向は、空洞部66を貫通してシャフト18内へと延び、ワイヤ252a、252b(図8参照)を介して先端動作部12内のアイドルプーリ140a等に巻き掛けられ、Z2方向は、プーリボックス32を貫通してトリガレバー支持部33へと延び、ロッド85及びワイヤ87(図8参照)を介してトリガレバー36に接続されている。
【0049】
図2及び図4に示すように、プーリボックス32のZ2側には、Z方向を基準として対称な一対のピン穴84、84が形成されている。各ピン穴84、84には、作業部16と操作部14との装着時、ブラケット52の底面からY1方向に突出した一対のガイドピン86、86が挿入され、これにより、操作部14と作業部16とが位置決めされ且つ高い剛性で装着される。
【0050】
作業部16では、ワイヤ80a、80bは、それぞれプーリ70a、70b側と先端動作部12側との間で往復していることから、シャフト18の中空空間内には、延べ4本のワイヤ80a、80bと2本のロッド82a、82bとが挿通される。例えば、ロッドに代えてワイヤのみで全ての動力伝達機構を構成してもよい。なお、ワイヤ80a、80bは、それぞれ同種又は異種、同径又は異径のものを用いることができ、可撓性を有する湾曲可能な線材で構成される。ワイヤ80a、80bにおいて、シャフト18内を通過する部分であって可撓性を要しない直線部分には、図示しない高剛性の補強ロッドを囲繞して、補強することもできる。
【0051】
このようなマニピュレータ10では、複合入力部24が操作されてモータ50a、50bが駆動されることにより、駆動シャフト60a、60bからプーリ70a、70bを介してワイヤ80a、80bが往復駆動され、先端動作部12にロール方向及びヨー方向の動作が付与される。さらに、トリガレバー36が回動操作されることにより、ロッド82a、82bが機械的に往復駆動され、先端動作部12のグリッパ300に開閉動作が付与される。
【0052】
操作部14及びプーリボックス32に配設される各駆動要素、つまり、プーリ70a、70b(モータ50a、50b)及びトリガレバー36は、動力伝達部材であるワイヤ80a、80b及びロッド82a、82bに駆動力を付与し、先端動作部12を動作させる駆動機構部として機能する。より詳細には、プーリ70a、70b(モータ50a、50b)は、ワイヤ80a、80bに駆動力を付与し、先端動作部12にロール方向及びヨー方向の動作を付与する電動機構部として機能する。また、トリガレバー36は、ロッド82a、82bに駆動力を付与し、先端動作部12にグリッパ開閉動作を付与する手動機構部として機能する。
【0053】
2.2.先端動作部を電気的に駆動するための複合入力部の説明
図5に示すように、先端動作部12を電気的に駆動する複合入力部24は、Z軸(Y軸)を中心としてX1及びX2方向に対称な構造であり、先端動作部12に対してロール方向(軸回転方向)及びヨー方向(左右方向)の回転指令を与える複合的な入力部である。
【0054】
複合入力部24は、傾斜面26aに配置されたセンサホルダ88によって支持されており、傾斜面26aのZ1側(Y1側)の回転操作部90と、そのZ2側(Y2側)に設けられた傾動操作部92と、傾動操作部92の下部側面にそれぞれ配設された3つのスイッチ操作子94a〜94cとを有する。これら回転操作部90等への入力は、センサホルダ88内に設けられたスイッチ基板(図示せず)等によってその操作量が検出され、モータ50a、50bがコントローラ29の制御下に適宜駆動制御される。
【0055】
2.3.先端動作部の説明
次に、本実施形態に係るマニピュレータ10の先端で所定の作業を行う先端動作部12について説明する。
【0056】
以下、先端動作部12の最先端で作業を行うエンドエフェクタとしてグリッパ300を採用した構造を例示して先端動作部12を説明する。なお、エンドエフェクタとしては、グリッパ300のような電極部材を備えた電気メスを構成可能なものであればよく、例えば、はさみ等によるバイポーラ電気メスでもよい。また、マニピュレータ10では、上記のように、先端動作部12をシャフト18の先端に設けた作業部16が、操作部14に着脱可能であることから、エンドエフェクタの種類(グリッパやはさみ)を容易に変更することができる。
【0057】
先端動作部12では、シャフト18内を挿通したケーブルEaが、当該先端動作部12の基端側部分にて通電機構Ebに接続され、該通電機構Ebが接続される先端ケーブルEcが、グリッパ300を構成する一対のグリッパ部材(電極部材)308、309に接続されており、これにより、電源23(電極棒71)からグリッパ300への通電経路となる通電経路Eが形成されている。そして、先端動作部12では、基端側のケーブルEaと、中間の通電機構Ebと、先端側の先端ケーブルEcとを備えることにより、グリッパ開閉動作、ヨー軸動作及びロール軸動作の作動状態に対して通電経路Eが邪魔をすることがなく、所望の姿勢で所望の通電対象に、グリッパ部材308、309間で適切に通電可能である。以下、先端動作部の構造と、その通電構造について、順に説明する。
【0058】
2.3.1.先端動作部の構造の説明
先ず、先端動作部12での通電構造の説明に先立ち、先端動作部12にグリッパ軸動作、ヨー軸動作及びロール軸動作を付与する基本的な構造の一例について説明する。
【0059】
図6〜図8に示すように、先端動作部12には、ロッド82a、受動ワイヤ252a、アイドルプーリ140a、ガイドプーリ142a、受動プーリ156aを含む第1グリッパ駆動機構(第1エンドエフェクタ駆動機構)320aと、これに対応した第2グリッパ駆動機構(第2エンドエフェクタ駆動機構)320bとが設けられている。第1グリッパ駆動機構320a及び第2グリッパ駆動機構320bは、グリッパ300を開閉させる基本的な構成である。
【0060】
第1グリッパ駆動機構320aにおける構成要素には符号にaを付し、第2グリッパ駆動機構320bにおける構成要素には符号にbを付して区別する。第1グリッパ駆動機構320aにおける構成要素と第2グリッパ駆動機構320bにおける構成要素で同じ機能のものについては、煩雑とならないよう、代表的に第1グリッパ駆動機構320aについてのみ説明する場合がある。
【0061】
図6及び図7では、理解の容易のため、第1グリッパ駆動機構320aと第2グリッパ駆動機構320bとを紙面上で並列して図示しているが、実際のマニピュレータ10に適用する場合には、図8に示すように、各プーリの軸方向(つまりY方向)に並列させ、アイドルプーリ140a及び140bと、ガイドプーリ142a及び142bの回転軸は、それぞれ同軸上に配置するとよい。つまり、アイドルプーリ140a及び140bは軸110(図8参照)に共通的に軸支することができ、ガイドプーリ142a及び142bは軸112に共通的に軸支することができる。ガイドプーリ142a及び142bを同軸構成とすることにより、軸112を回転軸(揺動軸)とするヨー軸動作機構が簡便な構成となる。
【0062】
図9〜図13に示すように、先端動作部12は、ワイヤ受動部100と、複合機構部102と、グリッパ300とを有し、Y方向の第1回転軸(ヨー軸、ピッチ軸)Oyを中心として、それよりも先の部分がヨー方向に揺動(回動)する第1自由度と、第2回転軸(ロール軸)Orを中心としてロール方向に回転する第2自由度と、第3回転軸(グリッパ軸、開閉軸)Ogを中心として先端のグリッパ300が開閉する第3自由度とを有する合計3自由度の機構となっている。
【0063】
第1回転軸Oyによるヨー軸動作の機構は、シャフト18の延在方向に沿う軸線に対して交差する方向に揺動可能に設定され、例えば±70°程度以上の稼動範囲を有する揺動機構(傾動機構)である(図10及び図11参照)。第2回転軸Orによるロール方向動作の機構は、先端動作部12における先端部(つまりグリッパ300)の延在方向の軸線を中心として該先端部を回転可能に設定され、例えば±160°程度以上の稼動範囲を有する回転機構である(図10及び図12参照。図9中に2点鎖線で示すグリッパ300参照)。第3回転軸Ogによるグリッパ開閉動作の機構(グリッパ300)は、例えば30°程度以上開くことのできる開閉機構である(図16及び図17参照)。
【0064】
グリッパ300は、手術において実際の作業を行う部分であり、第1回転軸Oy及び第2回転軸Orは、作業を行い易いようにグリッパ300の姿勢を変えるための姿勢変更機構を構成する姿勢軸である。
【0065】
図13及び図15〜図17に示すように、ワイヤ受動部100は、段付き円筒状の基端支持部材(基端カバー)116の先端側に突出した一対の舌片部159、159間に設けられ、ワイヤ80a、80bのそれぞれの往復動作を回転動作に変換して複合機構部102に伝達する部分である。
【0066】
ワイヤ受動部100は、軸孔160a、160aに挿入される軸110と、軸孔160b、160bに挿入される軸112とを有する。軸110及び112は、軸孔160a、160bに対して、例えば圧入もしくは溶接により固定される。舌片部159の先端側の軸112は、ヨー軸となる第1回転軸Oyの軸上に配置される。つまり、軸112が、先端動作部12の基端側の関節部114の支軸となる。
【0067】
関節部114を構成する軸112のY方向両端には、Y方向に対称形状の歯車体(回転体)126及びプーリ(回転体)130が設けられる。歯車体126は、筒体132と、該筒体132の上部に同心状に設けられた歯車134とを有する。プーリ130は、筒体132と略同径且つ略同形状である。歯車134は、後述するギア体146のフェイスギア165に噛合する。
【0068】
プーリ130及び筒体132には、ワイヤ80a及び80bが所定の固定手段によって一部が固定されて巻き掛けられている(図15参照)。ワイヤ80a及び80bの巻き掛けられる角度は、例えば1.5回転(540°)である。プーリ130は、主軸部材144の基端部側に一体的に設けられており、この主軸部材144は、軸112によって第1回転軸Oy(ヨー軸)を中心に回動(傾動)自在に支持されている。
【0069】
ワイヤ80aを往復動作(進退動作)させることにより、プーリ130と一体的に設けられた主軸部材144が第1回転軸Oyを中心に回動し、ヨー軸動作が行われる。ワイヤ80bを往復動作(進退動作)させることにより、歯車体126が軸112に対して回転し、ギア体146が第2回転軸Orを基準として回転し、ロール軸動作が行われる。歯車体126とプーリ130をそれぞれ回転させると、ヨー方向動作とロール回転動作の複合動作が行われる。先端動作部12の機構は、このように、ワイヤ80bが歯車134を介してフェイスギア165を駆動するのに対し、ワイヤ80aは主軸部材144を直接的に回転駆動する形式に限らず、例えば、特開2008−253463号公報における図23に示される構成に相当するような差動機構であってもよい。
【0070】
軸110の略中央部にはアイドルプーリ140a、140bが回転自在に軸支されており、軸112の略中央部にはガイドプーリ142a、142bが回転自在に軸支されている。アイドルプーリ140a、140bは、ガイドプーリ142a、142bに巻きかける受動ワイヤ(可撓性部材、伝達部材)252a、252bの巻き掛け角度を常に一定(両側あわせて約180°)に保つためのものである。アイドルプーリ140a、140bの代わりに、ガイドプーリ142a、142bに受動ワイヤ252a、252b(図8参照)を1巻き以上してもよい。ガイドプーリ142a、142bは、姿勢変更機構におけるヨー軸となる第1回転軸Oyに設けられている。
【0071】
図13及び図15に示すように、第1回転軸Oyを構成する軸112には、ガイドプーリ142a、142bを2枚の補助板144b、144b間に挟み、そのY2側にプーリ130が突設された主軸部材144が回転自在に軸支されている。主軸部材144は、複合機構部102に向けて突出する筒部を有する(図13参照)。主軸部材144の軸心部には方形の孔144aが設けられている。主軸部材144のZ2方向端部には、ガイドプーリ142aのY方向上面及びガイドプーリ142bのY方向下面を保持すると共に、軸112が挿通する孔を有する2枚の補助板144bが設けられている。補助板144bはZ1方向に向かって幅広となる山形であって、大きく開いた関節部114(図9及び図10参照)からの糸等の異物の侵入を防止することができる。
【0072】
次に、複合機構部102は、グリッパ300の開閉動作機構と、該グリッパ300の姿勢を変化させる姿勢変更機構とを含む複合的な機構部である。
【0073】
図13及び図15〜図17に示すように、複合機構部102は、主軸部材144の筒部周面に対して回転自在に嵌挿されたギア体146と、主軸部材144の先端ねじ部に締結されるナット体148と、Z2方向端部が主軸部材144の孔144aに挿入される断面四角の伝達部材152と、伝達部材152のZ2方向端部に対してピン154により回転自在に軸支される受動プーリ156aと、両端がZ2方向に突出した平板状の受動板158と、略中央部が拡径した円筒状の先端支持部材(先端カバー)161とを有する。
【0074】
主軸部材144におけるギア体146と当接する部分には、樹脂製のスラスト軸受部材144cが設けられている。ナット体148におけるギア体146と当接する部分には、樹脂製のスラスト軸受部材148aが設けられている。スラスト軸受部材144c、148aは低摩擦材であって、当接部分の摩擦及びトルクを低減すると共に、フェイスギア165に負荷が直接的にかかることを防止する。スラスト軸受部材144c、148aは、いわゆる滑り軸受であるが、転がり軸受を設けてもよい。これにより、グリッパ300を強く閉じた場合や開いた場合、すなわちギア体146が主軸部材144に強く当接する場合でも、ロール回転動作を円滑に行うことができる。
【0075】
ギア体146は、段付き筒形状であって、Z2方向の大径部162と、Z1方向の小径部164と、大径部162のZ2方向端面に設けられたフェイスギア165とを有する。フェイスギア165は、歯車体126の歯車134に噛合する。ギア体146は、ナット体148により主軸部材144に対する抜け止めがなされている。大径部162の外周には、ねじが設けてある。
【0076】
受動板158は、Z2方向の凹部166と、該凹部166の底面に設けられた係合部168と、Y方向両面にそれぞれ設けられた軸方向のリブ170、170と、リンク孔172、172とを有する。係合部168は、伝達部材152の先端に設けられたきのこ状の突起174に係合する形状である。この係合により、受動板158と伝達部材152は、相対的なロール軸の回転が可能になる。受動板158の幅は先端支持部材161の内径に略等しい。
【0077】
先端支持部材161は、複合機構部102の略全体を覆う大きさであり、複合機構部102に異物(生体組織、薬剤、糸等)が入り込むことを防止している。図13及び図16に示すように、先端支持部材161の内面には、受動板158の2つのリブ170、170が嵌る軸方向の2本の溝175、175が対向して設けられている。溝175にリブ170が嵌ることにより受動板158が軸方向にガイドされる。受動板158の係合部168には、伝達部材152先端の突起174が係合することから、受動プーリ156aは主軸部材144の孔144a内において、受動板158及び伝達部材152と共に軸方向に進退可能であり、且つ伝達部材152を基準としてロール回転が可能である。先端支持部材161は、ギア体146の大径部162に対して螺入、圧入等の手段により固定されている。
【0078】
図15に示すように、先端支持部材161は、その基端部がギア体146に外嵌されて結合(螺合、圧入等)されており、先端支持部材161及びグリッパ300は、ギア体146の回転と共にロール軸動作を行う。
【0079】
グリッパ300において、一方のグリッパ部材308の基端側のレバー部310と受動板158は、グリッパリンク220により連接されており、他方のグリッパ部材309の基端側のレバー部310と受動板158は、グリッパリンク221により連接されている。つまり、各グリッパリンク220、221の一端の孔220aは、レバー部310の孔218と共にピン222が挿入され、他端の孔220bは、受動板158のリンク孔172と共にピン224が挿入されて連接されている。
【0080】
詳細は後述するが、グリッパ部材308、309には、それぞれ第1先端ケーブルE1c及び第2先端ケーブルE2cが接続されるため、レバー部310間は、樹脂等により形成されて絶縁性を有する段付き円筒形状の絶縁筒体400を挟んで絶縁されている(図13及び図15参照)。
【0081】
図28に示すように、アイドルプーリ140aは、同軸上の第1層アイドルプーリ232と第2層アイドルプーリ234の2枚が並列して構成されており、ガイドプーリ142aは、同軸上の第1層ガイドプーリ236と第2層ガイドプーリ238の2枚が並列して構成されている。
【0082】
図8に示すように、ロッド82aのZ1方向端部は、ワイヤ係合部250aによって受動ワイヤ(可撓性部材)252aの両端部に接続されている。
【0083】
図29に示すように、ワイヤ係合部250aは、ロッド82aの先端部260にローラ262が設けられ、該ローラ262に受動ワイヤ252aが巻き掛けられている。ローラ262はピン264に軸支されており回転自在である。これにより、受動ワイヤ252aはローラ262に巻きかけられながら適度に進退し、ロッド82aをZ2方向に引くときに、特にヨー軸が屈曲しないような状態でも、受動ワイヤ252aをX方向にバランスよく引くことができる。先端部260は、ロッド82aに螺設されている。
【0084】
図8及び図28に示すように、受動ワイヤ252aは、一部がワイヤ係合部250aに接続された環状の可撓性部材であり、ワイヤ以外にもロープ、樹脂線、ピアノ線及びチェーン等を用いることができる。
【0085】
受動ワイヤ252aは、駆動部材のロッド82aから、アイドルプーリ140aのX1方向(第1の側方)を通り、X2方向(第2の側方)に向かい、ガイドプーリ142aのX2方向の面を通り受動プーリ156aのX2方向の面に至る。受動ワイヤ252aは、さらに、受動プーリ156aのZ1方向の面に半周巻き掛けられてX1方向の面に至り、ガイドプーリ142aのX1方向の面を通り、X2方向に向かいアイドルプーリ140aのX2方向を通りワイヤ係合部250aに至る経路で配設されている。
【0086】
つまり、受動ワイヤ252aは、ワイヤ係合部250aを基点及び終点とする一巡の経路を構成し、アイドルプーリ140aの両側方を通り、受動プーリ156aに巻き掛けられ、アイドルプーリ140aとガイドプーリ142aとの間で交差して、略8字形状をなす。これにより、ワイヤ係合部250a及び受動ワイヤ252aは、ロッド82aを介してトリガレバー36に対して機械的に接続されていることになる。
【0087】
アイドルプーリ140a、ガイドプーリ142a及び受動プーリ156aは略同径であり、受動ワイヤ252aがあまり屈曲しないように、レイアウト上の可能な範囲で適度に大径にしている。ワイヤ係合部250aは、受動ワイヤ252aが過度に屈曲しないように、アイドルプーリ140aよりも適度に離れた位置に設けられており、受動ワイヤ252aの両端部はワイヤ係合部250aを頂部として鋭角を形成している。アイドルプーリ140aとガイドプーリ142aとの間は狭く、例えば、受動ワイヤ252aの幅と略等しい隙間が形成されている。
【0088】
図8から諒解されるように、第1グリッパ駆動機構320aでは、基端側から先端側に向かって、受動ワイヤ252a、アイドルプーリ140a、ガイドプーリ142a及び受動プーリ156aが中心線に沿って配置されている。なお、グリッパ300は、伝達部材152等を介して受動プーリ156aに連結されている(図13及び図15参照)。
【0089】
このように構成される第1グリッパ駆動機構320aでは、ロッド82a(図8参照)をZ2方向に引き寄せると、平面視で、第1層アイドルプーリ232及び第2層ガイドプーリ238は反時計方向に回転し、第2層アイドルプーリ234及び第1層ガイドプーリ236は時計方向に回転する。このように、アイドルプーリ140a及びガイドプーリ142aは、それぞれ同軸上で2枚のプーリが並列する構成であることから、当接する受動ワイヤ252aの動きに従って逆方向に回転可能であり、円滑な動作が可能である。
【0090】
次に、グリッパ300について具体的に説明する。
【0091】
図13及び図15〜図17に示すように、グリッパ300は、一対の把持部302、302が動作をするいわゆる両開き型である。グリッパ300は、先端支持部材161に形成された一対のグリッパベース304、304と、該グリッパベース304に設けられた軸孔305に挿入されるピン(軸部材)196を基準にして動作する一対のグリッパ部材308、309と、一対のグリッパリンク220、221とを有する。各グリッパベース304の軸孔305部分を含む内面には、浅い凹部304aがそれぞれ形成されている。各凹部304aには、ピン196が挿通する孔部311aを設けた板状の導電板311がワッシャ313を内面側に挟んでそれぞれ配設される。各導電板311は、上記の第1先端ケーブルE1c及び第2先端ケーブルE2cがそれぞれ接続されることにより、各グリッパ部材308、309に通電するための端子である。
【0092】
グリッパ部材308、309は、多少屈曲してZ1方向に延在した最先端の把持部302と、把持部302に対して略35°に曲がって延在するレバー部310とを有する。各レバー部310の把持部302寄りには孔216が設けられ、レバー部310の端部近傍には孔218が設けられている。
【0093】
図15に示すように、孔216にピン196が挿入されることにより、一対のグリッパ部材308、309は第3回転軸Ogを中心として揺動自在となる。なお、各グリッパ部材308、309の孔216では、ピン196との間に絶縁筒体400が介在している。
【0094】
各グリッパ部材308、309は、各グリッパリンク220、221と共に受動板158のリンク孔172に嵌挿されるピン224、224に連接されている。グリッパ300を開閉するリンクとして機能する受動板158では、リンク孔172がY方向対称位置に2つ設けられており、一対のグリッパリンク220、221は側面視で交差する配置である(図13及び図15参照)。
【0095】
図8、図13及び図15に示すように、第2グリッパ駆動機構320bは、第1グリッパ駆動機構320aに対し、基本的には、折り返しプーリ350が付加された構成である。受動プーリ156a及び受動プーリ156bは同軸構成となっている。
【0096】
図13及び図15に示すように、主軸部材144には、ピン352が挿入及び固定される径方向の軸孔354が設けられている。軸孔354は、孔144aを経由して主軸部材144の筒部を貫通している。
【0097】
伝達部材152には、ピン352が挿通可能な幅で軸方向に延在する長孔356が設けられている(図13参照)。図15に示すように、伝達部材152は、基端支持部材116(シャフト18)の軸心よりY1方向にややオフセットした位置に設けられるが、先端の突起174だけは軸心に配置させるとよい(図15参照)。もちろん、伝達部材152は中心に配置してもよい。
【0098】
ピン154は、伝達部材152を通り抜けてY2方向に突出し受動プーリ156bを軸支する。受動プーリ156bは、受動ワイヤ252bが2巻き可能な幅を有する。主軸部材144の孔144aは、受動プーリ156a、156b及び伝達部材152が挿入可能な高さを有する。受動プーリ156a及び156bは、孔144a内でピン154によって同軸に軸支されており、独立的に回転自在である。
【0099】
ピン352は、孔144a内でY1方向からY2方向に向かって、長孔356及び折り返しプーリ350の中心孔に挿入されて、伝達部材152と受動プーリ156a及び156bが軸方向に進退可能である。折り返しプーリ350はピン352に軸支されて回転自在であり、位置は固定である。折り返しプーリ350は受動ワイヤ252bが2巻き可能な幅を有する。
【0100】
図6〜図8及び図15〜図17に示すように、第2グリッパ駆動機構320bにおいては、受動プーリ156bよりも先端側に折り返しプーリ350が設けられ、受動ワイヤ252bは、受動プーリ156bと折り返しプーリ350とに渡って巻き掛けられている。つまり、受動ワイヤ252bは、駆動部材のロッド82bのワイヤ係合部250bから、アイドルプーリ140bのX1方向を通り、X2方向に向かい、ガイドプーリ142bのX2方向を通り受動プーリ156bのX2方向の面に至る。受動ワイヤ252bはそのままZ1方向に向かって延在し、折り返しプーリ350のX2方向の面に達し、該折り返しプーリ350のZ1方向の面に半回転巻き付けられてZ2方向に折り返す。
【0101】
受動ワイヤ252bは、受動プーリ156bのZ2方向の面に半回転巻き付けられてX2側を通って再度折り返しプーリ350に至り、再び該折り返しプーリ350のZ1方向の面に半回転巻き付けられてZ2方向に折り返す。この後、受動ワイヤ252bはガイドプーリ142bのX1方向からアイドルプーリ140bのX2方向に至り、ロッド82bのワイヤ係合部250bに接続される。ワイヤ係合部250a及び受動ワイヤ252aは、ロッド82aを介してトリガレバー36に対して機械的に接続されていることになる。
【0102】
このように構成される先端動作部12では、図6及び図16に示すように、人手によりトリガレバー36を十分に引くと、ロッド82aは受動ワイヤ252aを引き寄せ、受動プーリ156a、伝達部材152をZ2方向に移動させることからグリッパ300を閉じさせることができる。つまり、ロッド82aや受動ワイヤ252a、受動プーリ156a等の伝達部材が牽引されることによりグリッパ300が閉じられる。この場合、第2グリッパ駆動機構320bについては、ロッド82bは、押し出されるように配置されているため、伝達部材152の動作を阻害しない。
【0103】
また、図7及び図17に示すように、人手によりトリガレバー36を十分に押し出すと、伝達部材152及び受動プーリ156aは先端側にZ1方向に移動してグリッパ300を開くことができる。グリッパ300には、トリガレバー36を人手によって押し出す力が第2グリッパ駆動機構320bによって機械的に直接伝えられることから、弾性体のような所定の力ではなく任意の強い力で開くことができる。従って、グリッパ300の外側面を用いて生体組織を剥離させ、又は孔部を拡開させるような手技に対して好適に用いることができる。
【0104】
また、グリッパ300の外側面に対象物が接触した場合には、受動ワイヤ252b、ロッド82b及びトリガレバー36もそれ以上Z1方向に動かなくなり、操作者はグリッパ300の外側面が対象物に接触したこと、及び該対象物の硬さ等を指先で知覚することができる。
【0105】
先端動作部12は、さらに、ヨー軸動作及びロール軸動作が可能である。図10及び図11に示すように、先端動作部12では、ヨー軸動作をする場合、ガイドプーリ142a及びガイドプーリ142bの軸112を中心にして、それよりも先端の複合機構部102及びグリッパ300がヨー方向に揺動する。先端動作部12は、非干渉機構であることから、ヨー軸動作をしてもグリッパ300の開度が変化することはなく、逆にグリッパ300の開度を変化させてもヨー軸が動作することはない。グリッパ300とロール軸の関係についても同様である。
【0106】
2.3.2.先端動作部での通電構造の説明
次に、先端動作部12での第1通電経路E1及び第2通電経路E2による通電構造の一例について説明する。
【0107】
先端動作部12では、上記の通り、一対の電極部材として機能するグリッパ部材308、309に対し、それぞれ第1通電経路E1及び第2通電経路E2が接続され、これにより高周波電源23からの電流をグリッパ部材308、309間で把持した生体に通電することができる。
【0108】
ところが、先端動作部12は、上記の各軸動作(ヨー軸動作、ロール軸動作、グリッパ開閉動作)を行うため、第1通電経路E1及び第2通電経路E2は、これら各動作を邪魔しない構造であることが必要である。仮に、先端動作部12での第1通電経路E1及び第2通電経路E2を全てケーブル(電線)で構成した場合には、前記各軸動作の確保のため、該ケーブルを十分な余裕を持って撓ませておく必要等があるが、ケーブルを十分に撓ませた場合には、その撓み部分が外部に飛び出し、トラカール20の入口や体腔22内の生体組織に引っ掛かり、手技の邪魔になる可能性がある。
【0109】
そこで、本実施形態に係るマニピュレータ10では、先端動作部12の動作やこれを用いた手技の円滑な実行を可能とする通電構造を先端動作部12に採用している。
【0110】
すなわち、図14に示すように、先端動作部12は、シャフト18内を挿通されたケーブルEaが接続保持される基端部材(揺動部材)402と、先端ケーブルEcの途中を結束保持する先端支持部材161と、先端支持部材161の基端側円筒部の外周面161bに外嵌固定されるホルダ404と、ホルダ404の内側に嵌合されることで前記外周面161b上に外嵌固定される半リング(分割リング)状で一対のスリップリング(回転通電部材)R1、R2とを有する。つまり、スリップリングR1、R2は、2個1組のダブルスリップリングである。基端部材402と、スリップリングR1、R2(及びホルダ404)とは、先端支持部材161の外周面161b上に配置されることにより、ケーブルEaと先端ケーブルEcの間を繋ぐ通電機構Ebを構成する。
【0111】
基端部材402は、先端支持部材161の外周面161bの基端周縁部に周方向に摺動可能に外嵌されるリング部408と、リング部408のZ2側面から突出した一対の突出片412、412とを有する。リング部408のZ1側面には、一対の通電ピン(通電凸部)P1、P2がY方向で対称に突設される。
【0112】
通電ピンP1、P2は、例えば、図18Aに示すように、シリンダ422内でスプリング424によって弾性支持されたプローブ426を備えた構造、いわゆるコンタクトプローブとして構成するとよい。図18Bに示すように、プローブ426は、通電面R1a、R2aに接触した状態で、スプリング424によってZ方向に弾性的に進退可能である。このため、例えば、スリップリングR1、R2の回転時、その製造誤差等によって通電面R1a、R2aのZ方向位置がずれた場合であっても、その接触状態を確実に維持することができる。勿論、通電ピンP1、P2は、上記のような進退構造を持たない単なるピンであってもよい。
【0113】
通電ピンP1、P2は、金属等の導電性材料によって形成するとよく、上記コンタクトプローブの場合には、シリンダ422とプローブ426の間で通電可能な接触状態が維持される必要があるが、例えば、シリンダ422に図示しない孔部を設け、プローブ426にケーブルEaを直接的に接続した構成等であってもよい。なお、基端部材402の通電ピンP1、P2以外の部分は樹脂等の非導電性(絶縁性)材料によって形成するとよく、又は、基端部材402のリング部(408)及び突出片412と通電ピンP1、P2とは絶縁されているとよい。これにより、通電ピンP1、P2からスリップリングR1、R2に流れる電流が、他の構造部材や生体組織に接触して短絡することが防止され、また、基端部材402の外面を覆う絶縁カバー等が不要となる。
【0114】
各突出片412は、基端支持部材116の各舌片部159の外面に配置されると共に、その端部の軸孔412aに軸112が嵌挿・軸支される(図9、図10及び図15参照)。また、各通電ピンP1、P2には、基端支持部材116内部からY2側の突出片412の内面を通して、リング部408内へと配線された第1ケーブルE1a及び第2ケーブルE2aがそれぞれ接続される(図9及び図10参照)。
【0115】
従って、図10及び図11に示すように、基端部材402は、第1回転軸Oy(軸112)を軸心とする先端支持部材161のヨー方向への揺動動作に伴って、該先端支持部材161と共に一体的に揺動する。一方、図15から諒解されるように、基端部材402は、軸112によって軸孔412aが軸支されているため、第2回転軸Orを軸心とする先端支持部材161のロール方向への回転動作に対しては、リング部408の内面で先端支持部材161の外周面161bが周方向に摺動することになり、ロール方向へは回転しない。
【0116】
ホルダ404は、先端支持部材161の外周面161b上に固定されるリング状の部材である。ホルダ404のZ2側には、各スリップリングR1、R2の形状に対応し、スリップリングR1、R2をそれぞれ嵌合可能な半リング状で一対の凹部414、415が形成され、ホルダ404のZ1側面には、凹部414、415に連通する一対の孔部416、417が貫通形成される。ホルダ404は樹脂等の非導電性材料によって形成されるとよく、そうすると、内部に収納する導電性のスリップリングR1、R2の絶縁カバーとして機能する。
【0117】
各凹部414、415は、ホルダ404の円弧形状に沿って形成された断面略L字状の凹みであり(図14及び図16参照)、各凹部414、415の周方向両端がそれぞれ対応する部分にはストッパ片404a、404bが形成されている。ストッパ片404a、404bは、凹部414、415の深さ(Z方向幅)に対応して該凹部414、415の間を仕切る小型のブロックである。
【0118】
スリップリングR1、R2は、金属等の導電性材料によって形成され、断面角型のリングの一部を切り取った形状、つまり、2つの断裂部を持って形成された分割リングであり、ホルダ404の凹部414、415にそれぞれ嵌合されて収納保持される。
【0119】
図14に示すように、スリップリングR1のZ1側面には、第1先端ケーブルE1cが孔部416を通して接続され、スリップリングR2のZ1側面には、第2先端ケーブルE2cが孔部417を通して接続される。
【0120】
図14及び図16に示すように、スリップリングR1のZ2側面は、第1ケーブルE1aからの通電ピンP1が摺接可能に接触する円弧形状の通電面R1aを構成し、スリップリングR2のZ2側面は、第2ケーブルE2aからの通電ピンP2が摺接可能に摺接する円弧形状の通電面R2aを構成する。これにより、ホルダ404が先端支持部材161のロール方向への回転に伴って回転すると、これと一体的にスリップリングR1、R2もロール方向に回転することから、通電面R1a、R2aもロール方向に回転し、このため、通電ピンP1、P2は通電面R1a、R2a上をロール方向に沿って摺動する。
【0121】
スリップリングR1、R2の板厚(Z方向幅)は、凹部414、415及びストッパ片404a、404bの深さ(Z方向幅)よりも小さく、つまり、凹部414、415に嵌合された状態で、スリップリングR1、R2の通電面R1a、R2aは、ホルダ404のZ2側面よりもZ1側にオフセットされた位置(凹んだ位置)に設定される(図16参照)。そこで、基端部材402の通電ピンP1、P2は、その先端がホルダ404の凹部414、415内に挿入された位置でスリップリングR1、R2の通電面R1a、R2aに接触配置される。このため、通電ピンP1、P2は、通電面R1a、R2a上をその円弧形状に沿って摺動すると、最終的にはストッパ片404a、404bの側面(X方向面)に当接し、その摺動、つまりスリップリングR1、R2の回転が規制される。
【0122】
先端支持部材161は、拡径部161aの周方向一部を軸方向に切欠き、第1先端ケーブルE1c及び第2先端ケーブルE2cが挿通・保持される結束部418を有する。本実施形態の場合、結束部418は、第1先端ケーブルE1c及び第2先端ケーブルE2cにそれぞれ対応する一対の切欠通路を並列配置した構成であるが(図10及び図14参照)、先端ケーブルEcをまとめて挿通・保持する構成や、拡径部161aにトンネル状の貫通孔を設けた構成等であってもよい。
【0123】
なお、図10及び図15に示すように、先端動作部12では、先端支持部材161の結束部418より先端側に、先端支持部材161(グリッパベース304)の外面上での先端ケーブルEcの外部露出を防止するカバー部材405を設けてもよく、同様に、基端支持部材116の先端側(舌片部159の周囲)に、基端支持部材116(舌片部159)の外面上でのケーブルEaの外部露出を防止するカバー部材407を設けてもよい。これらカバー部材405、407としては、例えば、樹脂等の薄い円筒部材や、ゴム等の可撓性を持つチューブ部材等を用いるとよい。
【0124】
また、カバー部材405、407に代えて、図10中に2点差線で示すように、先端支持部材161や基端支持部材116に、その内外面を貫通する孔部409、411を設け、この孔部409、411に先端ケーブルEc、ケーブルEaを挿通させて先端支持部材161や基端支持部材116の内側に引き込むことで、その外部露出を防止してもよい。
【0125】
以上の構成に基づき、先端動作部での通電構造について具体的に説明する。
【0126】
先ず、図8及び図10に示すように、電極棒71(図2参照)からの第1ケーブルE1a及び第2ケーブルE2aは、ヨー軸動作を駆動するプーリ130に巻き掛けられたワイヤ80aの往路及び復路にそれぞれ固定部材420によって一体的に固定され、シャフト18内を配線されて先端動作部12に至る。固定部材420としては、例えば熱収縮チューブや接着テープを用いるとよい。
【0127】
図10、図14及び図15に示すように、シャフト18内を配線された第1ケーブルEa1及び第2ケーブルE2aは、それぞれ基端支持部材116のZ1側の開口部から、一方(Y2側)の舌片部159の両脇を通って該舌片部159の外面へと通されると共に、軸112の周囲を回り込み、基端部材402の一方(Y2側)の突出片412の内側からリング部408内の図示しない通路へと配線されて通電ピンP1、P2に接続される(図9及び図10参照)。
【0128】
図14及び図16に示すように、第1ケーブルE1a及び第2ケーブルE2aが接続される第1通電機構E1b及び第2通電機構E2bでは、基端部材402の通電ピンP1、P2の先端が、ホルダ404に収納保持されたスリップリングR1、R2の通電面R1a、R2aに摺接可能に接触することで、通電ピンP1、P2とスリップリングR1、R2との間の導通が確保される。また、スリップリングR1、R2には、それぞれ第1先端ケーブルE1c及び第2先端ケーブルE2cが接続されることで、通電機構Ebは先端側の先端ケーブルEcに接続されている。
【0129】
そして、第1通電機構E1b及び第2通電機構E2bと接続された第1先端ケーブルE1c及び第2先端ケーブルE2cは、その途中が結束部418で一体的に保持された後、それぞれ先端支持部材161の一方(Y2側)のグリッパベース304の両脇から該グリッパベース304の内側に引き込まれ(図10及び図14参照)、各グリッパ部材308、309に対応する各導電板311へと接続される(図10、図13及び図14参照)。
【0130】
この際、図15に示すように、一方のグリッパ部材308と、他方のグリッパ部材309との間は、レバー部310、310間にピン196の周囲も囲繞する絶縁筒体400を挟持し、該絶縁筒体400を絶縁性を有する樹脂等によって形成し、さらに一方のグリッパリンク221を絶縁性を有する樹脂等によって形成することで絶縁される。これら絶縁性を有する部材には、例えば、PEEK等の樹脂やセラミック等の絶縁性を有する材質を用いるとよい。
【0131】
なお、一方のグリッパ部材308と他方のグリッパ部材309の絶縁方法に関しては、本実施形態の構成に限定されることは勿論ない。例えば、グリッパリンク220、221が非絶縁部材であると共に、グリッパ部材308、309間が非絶縁状態であっても、受動板158が絶縁部材であるか又は絶縁部材でコーティング若しくはカバーされて、一方のグリッパ部材308・グリッパリンク220と、他方のグリッパ部材309・グリッパリンク221とが、互いに絶縁され且つ受動板158と絶縁されていればよい。すなわち、一方のグリッパ部材308と、他方のグリッパ部材309と、構造部材・動力伝達部材との3者が絶縁状態に構成されていればよい。
【0132】
2.3.3.先端動作部が動作した際の通電状態の説明
先ず、先端動作部12が第2回転軸Orを中心とするロール軸動作を行った場合の通電機構Ebの状態について、図19A及び図19Bを参照して説明する。
【0133】
図19Aは、図16中のXIX−XIX線に沿う一部省略断面図であり、図19Bは、図19Aに示す状態からロール方向への回転動作を行った状態での一部省略断面図である。なお、図19A及び図19Bでは、理解の容易のため、先端支持部材161及びその内部に配置される受動板158等の構造部材を省略して図示している。
【0134】
先端動作部12がロール軸動作をしていない中立姿勢(ロール中立姿勢)では(図10参照)、図19Aに示すように、ホルダ404はストッパ片404a、404bがY方向に沿って並んだ位置にあり、基端部材402の各通電ピンP1、P2が各スリップリングR1、R2の通電面R1a、R2aの円弧形状の略中心に接触している。図19Aでは、この状態でのロール軸動作の回転角度を0°として、その回転中心(第2回転軸Or)から一方のストッパ片404bに向かう方向を初期位置A0として図示している。
【0135】
続いて、例えば、先端動作部12に回転角度θ1(例えば、80°)(図19A参照)のロール軸動作が付与されると(図12参照)、先端支持部材161が回転角度θ1だけ回転するため、ホルダ404及びこれに固定されたスリップリングR1、R2も、回転角度θ1だけ回転する。一方、基端部材402は先端支持部材161の外周面161b上を滑り、ロール回転しないことから、通電ピンP1、P2の位置は変化しない。つまり、図19Aに示すように、通電ピンP1、P2が通電面R1a、R2aに摺接しながら、スリップリングR1、R2が回転角度θ1だけ回転し、初期位置A0は回転位置A1まで回転可能である。勿論、スリップリングR1、R2は、図19B中の回転角度θ1とは逆方向にも同角度回転可能である。
【0136】
ここで、当該先端動作部12の通電機構Ecでは、各スリップリングR1、R2の周方向で両端部間(断裂部)に、ホルダ404のストッパ片404a、404bを設けていることから、各通電ピンP1、P2の摺動範囲は、それぞれ対応する通電面R1a、R2aの範囲内に確実に規制されている。このため、例えば、一方の通電ピンP1が対応するスリップリングR1の通電面R1aを越えて、他方のスリップリングR2の通電面R2a側に接触すること等が確実に防止され、第1通電経路E1と第2通電経路E2とが短絡することが確実に防止される。
【0137】
なお、当該マニピュレータ10では、駆動部30及びプーリボックス32側での構造や制御により、先端動作部12のロール回転範囲を適切に制限制御しているため、上記のストッパ片404a、404bは省略することも可能であるが、ストッパ片404a、404bを設けることで、上記のように、第1通電経路E1と第2通電経路E2との短絡を一層確実に防止することができる。
【0138】
以上のように、当該先端動作部12では、ケーブルEaと先端ケーブルEcとの間を繋ぐ通電機構Ebとして、先端ケーブルEcが接続されてロール回転するスリップリングR1、R2と、ケーブルEaが接続されてロール回転しない基端部材402とを備え、基端部材402から突出する通電ピンP1、P2と、スリップリングR1、R2の通電面R1a、R2aとを摺接可能に接触させている。
【0139】
すなわち、図14に示すように、先端動作部12における通電経路Eを構成する通電機構Ebは、ロール方向へと先端支持部材161と共に回転可能な第1構造部S1として、スリップリングR1、R2(及びホルダ404)を備え、該第1構造部S1より基端側に設けられ、ロール方向には回転しない第2構造部S2として、基端部材402を備え、スリップリングR1、R2の通電面R1a、R2aと、基端部材402に設置される通電ピンP1、P2とを通電可能且つ摺接可能な状態で接触させている。
【0140】
従って、先端動作部12にロール軸動作が付与された際には、基端部材402に対してスリップリングR1、R2が相対的にロール方向に回転し、通電面R1a、R2a上を通電ピンP1、P2がそれぞれ摺動しつつ、互いの通電状態が維持される。このため、ロール軸動作を行う先端動作部12の可動部に、余裕を持って撓ませたケーブル等を配線せずに、通電経路を確保することができる。これにより、先端動作部12でのロール軸動作を円滑に行うことができると共に、前記ケーブルの撓み部分が外部に突出することもなく、該撓み部分が手技の邪魔になることもない。
【0141】
なお、基端部材402とスリップリングR1、R2とは、一方に通電ピンP1、P2が設けられ、他方に通電面R1a、R2aが設けられ、互いに摺動しながら通電可能な構成であればよいことから、例えば、基端部材402に第1ケーブルE1a及び第2ケーブルE2aが接続される通電面R1a、R2aを設け、スリップリングR1、R2に通電ピンP1、P2を設けた構成としてもよい。
【0142】
スリップリングR1、R2を収納保持するホルダ404は、省略してもよく、この場合には、例えば、スリップリングR1、R2の断裂部を、ストッパ片404a、404bの形状絶縁性の樹脂等で連結して先端支持部材161の外周面161b上に外嵌固定し、スリップリングR1、R2の周囲に絶縁カバー(図示せず)を設けた構成としてもよい。なお、ホルダ404を設け、その凹部414、415にスリップリングR1、R2を収納する構成の場合には、ホルダ404がスリップリングR1、R2の外部への短絡を防止する絶縁カバーとして機能するという利点がある。
【0143】
先端動作部12では、電極部材としてグリッパ300を備えたことにより、生体組織をグリッパ300で確実に挟み込んで通電することができる。従って、通電による凝固能を高めることができ、他の組織への損傷を可及的に低減することができる。
【0144】
次に、先端動作部12が第1回転軸Oyを中心とするヨー軸動作を行った場合のケーブルEa及び通電機構Ebの状態について、図10及び図11を参照して説明する。
【0145】
上記のように、電極棒71(図2参照)からの第1ケーブルE1a及び第2ケーブルE2aは、ヨー軸動作を駆動する軸112上のプーリ130に巻き掛けられたワイヤ80aの往路及び復路にそれぞれ固定部材420によって一体的に固定される。
【0146】
従って、図10に示すように、先端動作部12がヨー軸動作をしていない中立姿勢(ヨー中立姿勢)から、図11に示すように、ヨー軸動作を行った場合には、プーリ130で折り返されているワイヤ80aの往路と復路がそれぞれZ方向で逆方向に進退し、これに伴い、第1ケーブルE1a及び第2ケーブルE2aもZ方向で逆方向に進退する。
【0147】
すなわち、図11に示すように、例えば、先端動作部12がX2方向に揺動動作された場合には、プーリ130(つまり主軸部材144)を図11で反時計方向に回転させるため、ワイヤ80aの往路部分(図10中のX1側の部分)がZ2方向に引き寄せられ、復路部分(図10中のX2側の部分)がZ1方向に押し出され、これら往路部分及び復路部分にそれぞれ固定されている第2ケーブルE2a及び第1ケーブルE1aも一体的にZ2方向及びZ1方向に移動される。このため、ケーブルEaが当該ヨー軸動作の邪魔をすることが回避され、さらにヨー軸動作によって撓みを生じることも回避される。
【0148】
勿論、ヨー軸動作は、上記の通り、例えば±70°程度に設定され、ロール軸動作に比べて動作範囲が比較的狭いため、固定部材420によってケーブルEをワイヤ80aに固定せず、基端支持部材116の内部で多少撓ませておく構成としても、該撓ませたケーブルEが先端動作部12の外部に大きく飛び出すことはなく、先端動作部12の動作が阻害されることも少ない。
【0149】
なお、当該先端動作部12の場合、ロール軸動作の回転範囲は、スリップリングR1(R2)と通電ピンP1(P2)の摺動範囲によって制限を受け、例えば±80°程度の範囲となる(図19A及び図19B参照)。マニピュレータ10の仕様や用途によっては、このロール軸動作範囲(±80°程度)であっても問題なく用いることができるが、ロール軸動作範囲をさらに拡大し、例えば、上記した±160°程度以上の動作範囲を確保すれば、先端動作部での作業自由度を一層向上させることができる。
【0150】
2.3.4.先端動作部での通電構造の変形例の説明
次に、本実施形態に係るマニピュレータ10に適用される先端動作部12での通電構造の変形例として、ロール軸動作範囲を拡大した通電機構Ebの構成例を順に説明する。以下、図1〜図19、図28、図29に示される参照符号を付した構成要素と同一又は同様な構成要素には同一の参照符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0151】
2.3.4.(1)先端動作部での通電構造の第1変形例の説明
図20は、第1変形例に係る先端動作部12aの通電構造を示す一部分解斜視図である。
【0152】
図20に示すように、先端動作部12aは、図14に示す先端動作部12と比べて、基端部材402とホルダ404及びスリップリング(第2回転通電部材)R1、R2との間に、新たなホルダ430及びスリップリング(第1回転通電部材)R10、R20を追加した構成となっている。つまり、先端動作部12aでは、先端支持部材161の外周面161b上に配置される基端部材402と、スリップリングR10、R20(及びホルダ430)と、スリップリングR1、R2(及びホルダ404)とが、ケーブルEaと先端ケーブルEcの間を繋ぐ通電機構Ebを構成する多段ダブルスリップリング構造となっている。
【0153】
図20、図21及び図22に示すように、ホルダ430は、孔部416、417を有さず、Y方向で対称位置に一対の孔部432、433を有する以外の基本的な構造は、ホルダ404と同様である。孔部432、433は、ホルダ404の凹部414、415と連通する貫通孔である。但し、ホルダ430は、ホルダ404とは異なり、先端支持部材161の外周面161b上に回転自由な状態で嵌合されている。つまり、ホルダ430及びスリップリングR10、R20は、外力を受けることで、該外力に従って外周面161bでロール方向に自由に回転可能である。
【0154】
スリップリングR10、R20は、スリップリングR1、R2側(Z1側)の面に、Y方向で対称位置に一対の通電ピン(第2通電凸部)P10、P20が突設されている以外の基本的な構造は、スリップリングR1、R2と同様である。通電ピンP10、P20は、図18Aに示す通電ピンP1、P2と同様な構成であり、その先端は、ホルダ430の孔部432、433を挿通してスリップリングR1、R2の通電面R1a、R2aに摺接可能に接触する。
【0155】
また、スリップリングR10、R20の基端部材402側(Z2側)の面には、スリップリングR1、R2の通電面R1a、R2aと同様な通電面(第2通電面)R10a、R20aが設けられ、各通電面R10a、R20aに対して、基端部材402の通電ピンP1、P2がそれぞれ摺接可能に接触する。
【0156】
従って、先端動作部12aにおいて、第1ケーブルE1a及び第2ケーブルE2aが接続される第1通電機構E1b及び第2通電機構E2bでは、基端部材402の通電ピンP1、P2の先端が、ホルダ430に収納保持されたスリップリングR10、R20の通電面R10a、R20aに摺接可能に接触することで、通電ピンP1、P2とスリップリングR10、R20との間の導通が確保される。さらに、スリップリングR10、R20の通電ピンP10、P20の先端が、ホルダ404に収納保持されたスリップリングR1、R2の通電面R1a、R2aに摺接可能に接触することで、通電ピンP10、P20とスリップリングR1、R2との間の導通が確保される。そして、スリップリングR1、R2には、それぞれ第1先端ケーブルE1c及び第2先端ケーブルE2cが接続されることで、通電機構Ebは先端側の先端ケーブルEcに接続されている。
【0157】
すなわち、図20に示すように、先端動作部12aにおける通電経路Eを構成する通電機構Ebは、ロール方向へと先端支持部材161と共に回転可能な第1構造部S10として、スリップリングR1、R2(及びホルダ404)とスリップリングR10、R20(及びホルダ430)とを備え、該第1構造部S10より基端側に設けられ、ロール方向には回転しない第2構造部S20として、基端部材402を備える。そして、スリップリングR10、R20の通電面R10a、R20aと、基端部材402に設置される通電ピンP1、P2とを通電可能且つ摺接可能な状態で接触させ、さらに、スリップリングR10、R20に設置される通電ピンP10、P20と、スリップリングR1、R2の通電面R1a、R2aとを通電可能且つ摺接可能な状態で接触させている。
【0158】
次に、先端動作部12aが第2回転軸Orを中心とするロール軸動作を行った場合の通電機構Ebの状態について、図23A及び図23Bを参照して説明する。
【0159】
図23Aは、先端動作部12aのロール軸動作時の通電機構Ebの状態を模式的に示す斜視説明図であり、図23Bは、図23Aに示す状態からロール軸動作を行った状態を模式的に示す斜視説明図である。図23A及び図23Bでは、理解の容易のため、通電機構Ebの構成要素のうち、通電ピンP1、P2、P10、P20及びスリップリングR1、R2、R10、R20のみを抽出して図示している。さらに、図23A及び図23Bでは、先端動作部12aがロール軸動作をしていないロール中立姿勢での通電ピンP1、P2、P10、P20の位置を図中の上下方向に沿って図示すると共に、この状態でのロール軸動作の回転角度を0°として、その回転中心(第2回転軸Or)から一方の通電ピンP2、P20に向かう方向を初期位置A0、B0として図示し、また、一方のスリップリングR2、R20の通電面R2a、R20aには、斑点模様を付すことでその動作位置をより明確なものとしており、図27A及び図27Bについても略同様である。
【0160】
図23Aに示すように、先端動作部12aがロール中立姿勢にある状態から、回転角度θ2(例えば、160°)のロール軸動作を付与すると、先端支持部材161が回転角度θ2だけロール回転しようとするため、ホルダ404及びこれに固定されたスリップリングR1、R2も、回転角度θ2だけ回転しようとする。
【0161】
この際、スリップリングR1、R2は、そのストッパ片404a、404bと通電ピンP10、P20との関係から、例えば、回転角度θ2の半分程度(例えば、80°程度)で回転が制限されそうになる。ところが、通電ピンP10、P20は、スリップリングR10、R20に固定されているため、スリップリングR1、R2の通電面R1a、R2aと通電ピンP10、P20との摺動抵抗により、又は、ストッパ片404a、404bと通電ピンP10、P20との当接により、スリップリングR1、R2の回転に伴ってスリップリングR10、R20も連れ回りされる。その結果、スリップリングR1、R2は、隣接するスリップリングR10、R20のストッパ片404a、404bと、基端部材402の通電ピンP1、P2との間で回転が制限されるまでロール軸動作を行うことができる。
【0162】
つまり、図23Bに示すように、先端動作部12aでは、スリップリングR10、R20は、通電面R10a、R20aが通電ピンP1、P2と摺接した状態で、回転角度θ1(例えば、80°)までロール回転して初期位置A0から回転位置A1まで回転可能であり、同時に、スリップリングR1、R2は、通電面R1a、R2aが通電ピンP10、P20と摺接した状態で、回転角度θ2(例えば、160°)までロール回転して初期位置B0から回転位置B1まで回転可能である。
【0163】
勿論、スリップリングR10、R20は、図23B中の回転角度θ1とは逆方向にも同角度回転可能であり、スリップリングR1、R2も、図23B中の回転角度θ2とは逆方向にも同角度回転可能である。
【0164】
以上のように、当該先端動作部12aでは、スリップリングR1、R2と、基端部材402との間に、ロール方向に回転自由なスリップリングR10、R20を配置した簡便な構成で、先端支持部材161と共に回転するスリップリングR1、R2のロール軸動作範囲を、例えば±160°程度の範囲とすることができ(図23A及び図23B参照)、上記先端動作部12の2倍程度に拡大することができる。
【0165】
2.3.4.(2)先端動作部での通電構造の第2変形例の説明
図24は、第2変形例に係る先端動作部12bの通電構造を示す一部分解斜視図である。
【0166】
図24に示すように、先端動作部12bは、図14に示す先端動作部12と比べて、基端部材402に代えて、スリップリング(基端側通電部材)R100、R200を保持する基端部材440を有し、該基端部材440と、ホルダ404及びスリップリング(先端側通電部材)R1、R2との間に、回転リング442を備えた構成となっている。つまり、先端動作部12bでは、先端支持部材161の外周面161b上に配置される基端部材440に保持されるスリップリングR100、R200と、回転リング442と、スリップリングR1、R2(及びホルダ404)とが、ケーブルEaと先端ケーブルEcの間を繋ぐ通電機構Ebを構成する多段ダブルスリップリング構造となっている。
【0167】
図24、図25及び図26に示すように、基端部材440は、先端支持部材161の外周面161bの基端周縁部に周方向に摺動可能に外嵌されるリング状のホルダ444と、ホルダ444のZ2側面から突出した一対の突出片412、412とを有する。ホルダ444は、凹部414、415がZ1側に開口し、Z2側に突出片412が設けられている以外の基本的な構造は、上記のホルダ404と同様な構成であり、凹部414、415にスリップリングR100、R200が嵌合固定される。基端部材440は、樹脂等の非導電性(絶縁性)材料によって形成するとよく、又は、基端部材440とスリップリングR100、R200とは絶縁されているとよい。これにより、スリップリングR100、R200に流れる電流が、他の構造部材や生体組織に接触して短絡することが防止され、また、基端部材440の外面を覆う絶縁カバー等が不要となる。
【0168】
スリップリングR100、R200は、上記のスリップリングR1、R2と同様な構成であり、ホルダ444の凹部414、415にそれぞれ嵌合されることで収納保持される。図24に示すように、スリップリングR100のZ2側面には、第1ケーブルE1aがホルダ444の孔部416を通して接続され、スリップリングR200のZ2側面には、第2ケーブルE2aがホルダ444の孔部417を通して接続される。
【0169】
回転リング442は、先端支持部材161の外周面161b上に回転自由な状態で嵌合されたリング形状であり、Y方向で対称位置に該回転リング442を板厚方向(Z方向)に貫通する一対の通電ピンP100、P200が固定されている。通電ピンP100、P200は、導電性材料によって形成され、回転リング442の他の部分は非導電性材料によって形成するとよい。そうすると、回転リング442の外面が絶縁性に形成されるため、その外周を覆う絶縁カバー等が不要となる。
【0170】
通電ピンP100、P200は、図18Aに示す通電ピンP1、P2をその底面同士で連結して双方向に先端を設けた構成である。すなわち、通電ピンP100、P200は、Z1方向に延びたプローブが、通電ピン(第2通電凸部)P100a、P200aとして構成されてスリップリングR1、R2の通電面R1a、R2aに摺接可能に接触し、Z2方向に延びたプローブが、通電ピン(通電凸部)P100b、P200bとして構成されてスリップリングR100、R200の通電面R100a、R200aに摺接可能に接触する。勿論、通電ピンP100a、P100b間と、通電ピンP200a、P200b間とは、それぞれ導通している。なお、通電ピンP100、P200についても、進退構造を持たず回転リング442を貫通する単なるピンであってもよい。
【0171】
従って、先端動作部12bにおいて、第1ケーブルE1a及び第2ケーブルE2aが接続される第1通電機構E1b及び第2通電機構E2bでは、基端部材440のホルダ444に保持されたスリップリングR100、R200の通電面R100a、R200aと、スリップリングR1、R2の通電面(第2通電面)R1a、R2aとの間が、回転リング442の通電ピンP100(P100a、P100b)、P200(P200a、P200b)によって接続されることで、その導通が確保されている。
【0172】
すなわち、図24に示すように、先端動作部12bにおける通電経路Eを構成する通電機構Ebは、ロール方向へと先端支持部材161と共に回転可能な第1構造部S100として、スリップリングR1、R2(及びホルダ404)と回転リング442とを備え、該第1構造部S100より基端側に設けられ、ロール方向には回転しない第2構造部S200として、スリップリングR100、R200と基端部材440とを備える。そして、スリップリングR1、R2の通電面R1a、R2aと、回転リング442に設置される通電ピンP100a、P200aとを通電可能且つ摺接可能な状態で接触させ、さらに、回転リング442に設置される通電ピンP100b、P200bと、スリップリングR100、R200の通電面R100a、R200aとを通電可能且つ摺接可能な状態で接触させている。
【0173】
次に、先端動作部12bが第2回転軸Orを中心とするロール軸動作を行った場合の通電機構Ebの状態について、図27A及び図27Bを参照して説明する。
【0174】
図27Aは、先端動作部12bのロール軸動作時の通電機構Ebの状態を模式的に示す斜視説明図であり、図27Bは、図27Aに示す状態からロール軸動作を行った状態を模式的に示す斜視説明図である。
【0175】
図27Aに示すように、先端動作部12bがロール中立姿勢にある状態から、回転角度θ2(例えば、160°)のロール軸動作を付与すると、先端支持部材161が回転角度θ2だけロール回転しようとするため、ホルダ404及びこれに固定されたスリップリングR1、R2も、回転角度θ2だけ回転しようとする。
【0176】
この際、スリップリングR1、R2は、そのストッパ片404a、404bと通電ピンP100a、P200aとの関係から、例えば、回転角度θ2の半分程度(80°程度)で回転が制限されそうになる。ところが、通電ピンP100a、P200aは、回転リング442に固定されているため、スリップリングR1、R2の通電面R1a、R2aと通電ピンP100a、P200aとの摺動抵抗により、又は、ストッパ片404a、404bと通電ピンP100a、P200aとの当接により、スリップリングR1、R2の回転に伴って回転リング442も連れ回りされる。その結果、スリップリングR1、R2は、回転リング442の他方の通電ピンP100b、P200bが、ホルダ444に保持されたスリップリングR100、R200の通電面R100a、R200a上を摺動し、該ホルダ444のストッパ片404a、404bにより、回転リング442の回転が制限されるまでロール軸動作を行うことができる。
【0177】
つまり、図27Bに示すように、先端動作部12bでは、回転リング442は、通電ピンP100b、P200bがスリップリングR100、R200の通電面R100a、R200aと摺接した状態で、回転角度θ1(例えば、80°)までロール回転して初期位置A0から回転位置A1まで回転可能であり、同時に、スリップリングR1、R2は、通電面R1a、R2aが通電ピンP100a、P200aと摺接した状態で、回転角度θ2(例えば、160°)までロール回転して初期位置B0から回転位置B1まで回転可能である。
【0178】
勿論、回転リング442は、図27B中の回転角度θ1とは逆方向にも同角度回転可能であり、スリップリングR1、R2も、図27B中の回転角度θ2とは逆方向にも同角度回転可能である。
【0179】
以上のように、当該先端動作部12bでは、スリップリングR1、R2と、基端部材440のホルダ444に保持されたスリップリングR100、R200との間に、ロール方向に回転自由な回転リング442を配置した簡便な構成で、先端支持部材161と共に回転するスリップリングR1、R2のロール軸動作範囲を、例えば±160°程度の範囲とすることができ(図27A及び図27B参照)、上記先端動作部12の2倍程度に拡大することができる。
【0180】
3.手術用ロボットシステムの説明
本発明は、例えば、図30に示すような手術用ロボットシステム500に適用することもできる。
【0181】
手術用ロボットシステム500は、多関節型のロボットアーム502と、ロボットアーム502の駆動を制御するコンソール(コントローラ)504とを有し、ロボットアーム502の先端には前記のマニピュレータ10と同様な機構が設けられている。ロボットアーム502の先端部508には、操作部14に代えて、内部に駆動部30を収納した基部14aが固定され、該基部14aに対して、前記の先端動作部12(12a、12b)が設けられた作業部16が着脱可能に取り付けられる。
【0182】
ロボットアーム502は、作業部16を移動させる手段であればよく、据置型に限らず、例えば自律移動型でもよい。ロボットアーム502は、独立的な6以上の関節(回転軸やスライド軸等)を有すると、作業部16の位置及び向きを任意に設定できて好適である。先端のマニピュレータ10を構成する基部14aは、ロボットアーム502の先端部508と一体化している。ロボットアーム502は、コンソール504の作用下に動作し、プログラムによる自動動作や、コンソール504に設けられたジョイスティック506に倣った操作、及びこれらの複合的な動作をする構成にしてもよい。
【0183】
コンソール504は、前記のコントローラ29の機能を含んでいる。コンソール504には、操作指令部としての2つのジョイスティック506と、モニタ510が設けられている。図示を省略するが、2つのジョイスティック506により、2台のロボットアーム502を個別に操作することが可能である。2つのジョイスティック506は、両手で操作し易い位置に設けられている。モニタ510には、軟性鏡による画像等の情報が表示される。コンソール504は、テーブル型、制御盤型等の構成を採り得る。
【0184】
ジョイスティック506は、上下動作、左右動作、捻り動作、及び傾動動作が可能であり、これらの動作に応じてロボットアーム502を動かすことができる。ジョイスティック506はマスターアームであってもよい。ロボットアーム502とコンソール504との間の通信手段は、有線、無線、ネットワーク又はこれらの組合せでよい。ジョイスティック506には、トリガレバー36が設けられており、該トリガレバー36を操作することにより、図示しないモータ(人手によって操作する入力部に連動するアクチュエータ)を介して2本のロッド82a、82b(図2参照。図30中には図示せず)が進退駆動することができる。
【0185】
このような手術用ロボットシステム500においても、上記の第1通電経路E1及び第2通電経路E2を設けた構成を備えることにより、容易にマニピュレータ10をバイポーラ電気メスとして使用することができる。
【0186】
本発明は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成乃至工程を採り得ることは勿論である。
【0187】
例えば、上記実施形態は、バイポーラ電気メスとして用いる構成を例示して本発明の医療用マニピュレータを説明したが、本発明は、モノポーラ電気メスに適用することも可能である。
【0188】
そこで、例えば、上記実施形態に係るマニピュレータ10をモノポーラ電気メスとして機能させるためには、通電経路Eを1系統のみで構成するとよく、例えば、第1ケーブルE1a、第1通電機構E1b及び第1先端ケーブルE1cからなる第1通電経路E1のみで構成するとよい。但し、この場合には、例えば、図14に示す先端動作部12について、通電ピンP2を省略し、通電ピンP1のみからなる構成とすることができるため、スリップリングR1、R2の断裂部を1箇所のみとし、つまり、C字状に1箇所のみが断裂したスリップリングを設け、そこに1つのストッパ片404aを配置することにより、当該先端動作部12であっても、例えば±160°程度のロール軸動作範囲を有する構成とすることができる。また、上記の先端動作部12、12a、12bと同様に、通電経路Eを2系統で構成してもよいが、この場合には第1ケーブルE1a及び第2ケーブルE2aの間と、第1通電機構E1b及び第2通電機構E2bの間と、第1先端ケーブルE1c及び第2先端ケーブルE2cの間とについては、それぞれ必ずしも互いに絶縁されている必要はない。
【0189】
さらに、モノポーラ電気メスの場合には、各グリッパ部材308、309間での絶縁は不要となるが、一方のグリッパ部材308と、他方のグリッパ部材309と、構造部材・動力伝達部材とは、互いに絶縁する必要がある(但し、これら各部材は、体内組織に接触しない金属部材とは、必ずしも絶縁する必要はない)。
【0190】
また、電極部材としては、グリッパ形状のみならず、はさみ形状とすることで、凝固・止血を行いながらのはさみによる切断も可能となる。
【0191】
さらに、先端支持部材161等の円筒面に、図示しない開口部(洗浄窓)を設けてもよい。該開口部を設けることにより、先端支持部材161の内部の空間部分等、先端動作部内部のブラッシングや流水等の洗浄を容易に行うことができる。
【符号の説明】
【0192】
10…マニピュレータ 12、12a、12b…先端動作部
14…操作部 16…作業部
18…シャフト 30…駆動部
80a、80b…ワイヤ 82a、82b…ロッド
161…先端支持部材 300…グリッパ
308、309…グリッパ部材 402、440…基端部材
404、430、444…ホルダ 442…回転リング
E1…第1通電経路 E2…第2通電経路
P1、P2、P10、P20、P100、P100a、P100b、P200、P200a、P200b…通電ピン
R1、R2、R10、R20、R100、R200…スリップリング
R1a、R2a、R10a、R20a、R100a、R200a…通電面
S1、S10、S100…第1構造部 S2、S20、S200…第2構造部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空のシャフトと、
前記シャフト内に挿通される複数の動力伝達部材と、
前記シャフトの一端側に設けられ、前記動力伝達部材を軸線方向に進退駆動する駆動機構部と、
前記シャフトの他端側に設けられ、前記動力伝達部材の前記進退駆動によって従動回転される複数の回転体により、少なくとも軸線方向を中心とするロール方向への回転動作とが可能な先端動作部と、
を備える医療用マニピュレータであって、
前記先端動作部は、前記駆動機構部側に接続される電源から、所定の通電経路を介してそれぞれ通電されることにより、生体に通電可能な電極部材を有し、該電極部材は、前記ロール方向へと回転可能な先端支持部材により、該ロール方向へと回転可能に支持されており、
前記先端動作部における前記通電経路は、前記ロール方向へと前記先端支持部材と共に回転可能な第1構造部と、
前記第1構造部より基端側に設けられ、前記ロール方向には回転しない第2構造部と、
を備え、
前記第1構造部及び前記第2構造部のうち、一方には、他方側に向けて突出する通電凸部が設けられ、他方には、前記通電凸部が摺接可能に接触する通電面が設けられ、
前記第1構造部に設けられる前記通電凸部又は前記通電面が、前記電極部材に対して通電可能に設置され、
前記第2構造部に設けられる前記通電面又は前記通電凸部が、前記駆動機構部側に対して通電可能に設置されることを特徴とする医療用マニピュレータ。
【請求項2】
中空のシャフトと、
前記シャフト内に挿通される複数の動力伝達部材と、
前記シャフトの一端側に設けられ、前記動力伝達部材を軸線方向に進退駆動する駆動機構部と、
前記シャフトの他端側に設けられ、前記動力伝達部材の前記進退駆動によって従動回転される複数の回転体により、少なくとも軸線方向を中心とするロール方向への回転動作とが可能な先端動作部と、
を備える医療用マニピュレータであって、
前記先端動作部は、前記駆動機構部側に接続される電源から、第1通電経路及び第2通電経路を介してそれぞれ通電されることにより、その間で生体に通電可能な一対の電極部材を有し、該一対の電極部材は、前記ロール方向へと回転可能な先端支持部材により、該ロール方向へと一体的に回転可能に支持されており、
前記先端動作部における前記第1通電経路及び前記第2通電経路は、前記ロール方向へと前記先端支持部材と共に回転可能な第1構造部と、
前記第1構造部より基端側に設けられ、前記ロール方向には回転しない第2構造部と、
を備え、
前記第1構造部及び前記第2構造部のうち、一方には、他方側に向けて突出する一対の通電凸部が設けられ、他方には、前記一対の通電凸部がそれぞれ摺接可能に接触する一対の通電面が設けられ、
前記第1構造部に設けられる前記通電凸部又は前記通電面が、前記一対の電極部材に対して通電可能に設置され、
前記第2構造部に設けられる前記通電面又は前記通電凸部が、前記駆動機構部側に対して通電可能に設置されることを特徴とする医療用マニピュレータ。
【請求項3】
請求項2記載の医療用マニピュレータにおいて、
前記通電面は、前記ロール方向に沿った円弧形状を有することを特徴とする医療用マニピュレータ。
【請求項4】
請求項2又は3記載の医療用マニピュレータにおいて、
前記第2構造部は、前記駆動機構部側から配線接続される前記一対の通電面が設けられた基端側通電部材を有し、
前記第1構造部は、前記一対の通電面に接触する前記一対の通電凸部、及び該一対の通電凸部の背面側に突出する一対の第2通電凸部が設けられて、前記ロール方向に回転自由な回転リングと、
前記第2通電凸部がそれぞれ摺接可能に接触する一対の第2通電面が設けられて、前記一対の電極部材に配線接続されると共に、前記先端支持部材と一体的に前記ロール方向に回転可能な先端側通電部材とを有することを特徴とする医療用マニピュレータ。
【請求項5】
請求項4記載の医療用マニピュレータにおいて、
前記先端側通電部材及び前記基端側通電部材は、周方向で2つの断裂部を持つ分割リングであり、
前記分割リングは、絶縁性のホルダに収納保持されることを特徴とする医療用マニピュレータ。
【請求項6】
請求項2又は3記載の医療用マニピュレータにおいて、
前記第2構造部は、前記駆動機構部側から配線接続される前記一対の通電凸部が設けられた基端部材を有し、
前記第1構造部は、前記一対の通電凸部が接触する前記一対の通電面、及び該一対の通電面の背面側に突出する一対の第2通電凸部が設けられて、前記ロール方向に回転自由な第1回転通電部材と、
前記一対の第2通電凸部が摺接可能に接触する一対の第2通電面が設けられて、前記一対の電極部材に配線接続されると共に、前記先端支持部材と一体的に前記ロール方向に回転可能な第2回転通電部材とを有することを特徴とする医療用マニピュレータ。
【請求項7】
請求項6記載の医療用マニピュレータにおいて、
前記第1回転通電部材及び前記第2回転通電部材は、周方向で2つの断裂部を持つ分割リングであり、
前記分割リングは、絶縁性のホルダに収納保持されることを特徴とする医療用マニピュレータ。
【請求項8】
請求項2又は3記載の医療用マニピュレータにおいて、
前記第2構造部は、前記駆動機構部側から配線接続される前記一対の通電凸部が設けられた基端部材を有し、
前記第1構造部は、前記一対の通電凸部が接触する前記一対の通電面が設けられて、前記一対の電極部材に配線接続されると共に、前記先端支持部材と一体的に前記ロール方向に回転可能な回転通電部材を有することを特徴とする医療用マニピュレータ。
【請求項9】
請求項8記載の医療用マニピュレータにおいて、
前記回転通電部材は、周方向で2つの断裂部を持つ分割リングであり、
前記分割リングは、絶縁性のホルダに収納保持されることを特徴とする医療用マニピュレータ。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の医療用マニピュレータにおいて、
前記先端動作部は、さらに、前記先端支持部材の基端側に設けられた揺動軸により、軸線方向に交差するヨー方向乃至ピッチ方向への揺動動作が可能であり、
前記第2構造部は、前記先端動作部の前記ヨー方向乃至ピッチ方向への揺動動作に伴って一体的に揺動可能な状態で、前記揺動軸によって軸支されていることを特徴とする医療用マニピュレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【公開番号】特開2012−70857(P2012−70857A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217077(P2010−217077)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】