説明

半導体装置、半導体装置の製造方法

【課題】 p型不純物が隣接する半導体結晶層中へ拡散することを抑え、ひいては良好で安定した特性を持つ半導体装置を提供する。
【解決手段】 P−InP基板401と、P−InP基板401に格子整合し、かつ、p型の不純物が注入されたp−ZnドープInPバッファ層402と、p−ZnドープInPバッファ層402よりも上層にあって、P−InP基板401に格子整合し、かつ、p型不純物、n型不純物のいずれか一方を含むn−SiドープInPクラッド層404、n−SiドープInGaAsキャップ層405と、を備え、n−SiドープInPクラッド層404、n−SiドープInGaAsキャップ層405に、Sbを含ませる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザ、アバランシェフォトダイオード、ヘテロバイポーラトランジスタ等の化合物半導を利用した半導体装置、この半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、半導体レーザ、アバランシェフォトダイオード、ヘテロバイポーラトランジスタといった様々な化合物半導体素子が実用化されている。このような化合物半導体素子には、化合物半導体にn型、あるいはp型の不純物が注入された層を積層した層構成が使用されている。
【0003】
図7は、上記した層構成の従来例を説明するための図であって、p型のInP基板上に作成された半導体レーザの層構成を示している。図7に示した層構成は、p型のInP基板101上にp型のInPバッファ層102、不純物が注入されていない状態のInGaAsP活性層103、n型のInPクラッド層104、n型の不純物がより高濃度に注入されたInGaAsキャップ層105が形成されている。このような層構成は、例えば、非特許文献1に記載されている。
【0004】
なお、上記した各層において、p型半導体にはp型不純物が注入されていて、n型半導体にはn型不純物が注入されている。以降、p型半導体には「p−」を付して表記し、n型半導体には「n−」を付して表記する。さらに、不純物が注入されていない半導体には、「i−」を付して表記するものとする。
【0005】
また、図8は、他の従来技術の例として、n−InP基板上に作成されたアバランシェフォトダイオードの層構成を示した図である。図8に示すように、アバランシェフォトダイオードの層構成では、n−InP基板201上に、n−InPバッファ層202、n−InAlAsバッファ層203、i−InAlAsアバランシェ層204、p−InAlAs電荷制御層205、i−InAlGaAs遷移層206、i−InGaAs吸収層207、i−InAlGaAs遷移層208、p−InAlAsキャップ層209、p−InGaAsキャップ層210が順に形成されている。
【0006】
上記した層構成は、例えば、非特許文献2に記載されている。なお、上記した層構成のうち、i−InAlGaAs遷移層206、i−InAlGaAs遷移層208には不純物が注入されていな化合物半導体層であるが、この半導体層に低濃度(1E16cm-3以下の濃度)のp型不純物を注入することも可能である。
【0007】
さらに、図9は、他の従来技術として、不純物が注入されていない基板上に作成されたヘテロバイポーラトランジスタの層構成を示した図である。図9に示すように、ヘテロバイポーラトランジスタの層構成では、i−InP基板301上に、n−InPサブコレクタ層302、InPコレクタ層303、p−InGaAsベース層304、i−InGaAsスペーサ層305、n−InPエミッタ層306、n−InPキャップ層307、n−InGaAsキャップ層308が順に形成されている。このような従来技術は、例えば、非特許文献3に記載されている。
【0008】
以上の従来技術は、いずれもp型不純物が注入された半導体層より上層にn型またはp型不純物が注入された半導体層を形成した場合、半導体層に含まれるp型不純物が隣接する半導体層の結晶層中に拡散し、素子特性を劣化させるという不具合がある。
【0009】
具体的には、例えば図7に示した半導体レーザの層構成では、p−InPバッファ層102からi−InGaAsP活性層103へのp型不純物の拡散が起こり、この拡散によって半導体レーザの発振しきい値電流及び動作電流が変動する。なお、この拡散は、n−InPクラッド層104、n−InGaAsキャップ層105が形成されている間に発生する。
【0010】
また、図8に示したアバランシェフォトダイオードの層構成では、p−InAlAs電荷制御層205からi−InAlGaAs遷移層206、i−InGaAs吸収層207、i−InAlAsアバランシェ層204へのp型不純物の拡散が起こる。この拡散により、アバランシェフォトダイオードのオン電圧及びブレークダウン電圧が変動する。なお、p型不純物の拡散は、p−InAlAsキャップ層209、p−InGaAsキャップ層210が形成されている間に発生する。
【0011】
さらに、図9に示したヘテロバイポーラトランジスタの層構成では、p−InGaAsベース層304から、i−InGaAsスペーサ層305、n−InPエミッタ層306、n−InPコレクタ層303へのp型不純物拡散が発生する。p型の不純物拡散により、ヘテロバイポーラトランジスタの電流利得が低減する。なお、このp型不純物の拡散は、n−InPエミッタ層306、n−InPキャップ層307、n−InGaAsキャップ層308が形成される間に発生する。
【0012】
上記したp型不純物拡散を防ぐため、例えば、不純物を拡散させる化合物に、p型不純物としてC(炭素)を用いる従来技術がある。炭素は、V族化合物半導体のサイトに入ってp型キャリアを発生するが、化合物半導体を構成する原子との結合力が強く、拡散が起きにくいドーパントとして知られている。この点は、例えば、非特許文献4に記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Y. Ohkura, T. Kimura, T. Nishimura, K. Mizuguchi and T. Murotani,“Low Threshold FS-BH Laser on p-InP substrate Grown by All-MOCVD”, Electronics Letters, Vol. 28, No. 19, p1844, September 1992.
【0014】
【非特許文献2】G. Karve, X. Zheng, X. Zhang, X. Li, N. Li, S. Wang, F. Ma, A. Holmes J., J. C. Campbell, G. S. Kinsey, J. C. Boisvert, T. D. Isshiki, R. Sudharsanan, D. S. Bethune and W. P. Risk, “Geier Mode Operation of an InGaAs-InAlAs Avalanche Photodiode”, Quntum Electronics, Vol. 39, No. 10, p1281, October 2003.
【0015】
【非特許文献3】T. Kobayashi, K. Kurishima and U. Gosele,“Growth temperature dependence of Zn Diffusion in InP/InGaAs Heterojunction Bipolar Transistors Grown by Metal organic Chemical Vapor Deposition”, Journal of Crystal Growth, 146, p533, January 1995.
【非特許文献4】T. F. Kuech, M. A. Tishler, P.-J. Wang, G. Scilla, R. Potemski and F. Cardone,“Controlled Carbon Doping of GaAs by Metalorganic Vapor Phase Epitaxy”, Applied Physics Letters,53(14), p.1317, October 1988.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、炭素は、水素によって不活性化しやすく、プロセス中に活性化率が変動するという不具合がある。活性化率が変動しない他のp型不純物のうち、一般的に用いられる不純物には、Zn、Be、Mg等のII属元素がある。ただし、このような不純物には拡散の問題が生じることは前述したとおりである。
【0017】
また、n型不純物としては、Siが多く用いられている。Siは結晶の成長中にIII族半導体化合物のサイトに入り、p型、n型のキャリアを発生させる。キャリアの発生が起こると、サイトに入ることが出来ないIII族原子が発生し、発生した原子がIII族インタースティシャルと呼ばれる欠陥となる。
【0018】
上記したp型不純物の拡散は、III族インタースティシャルが関連したkick−out機構やI−S(interstitial-substitutial)モデルによって説明される。なお、kick−out機構やI−Sについては、例えば、「C. Y. Tai, J. Seiler and M. Geva,“Modeling of Zn Diffusion in InP/InGaAs Materials During MOVPE Growth”, 11th International Conference on Indium Phosphide and Related Materials, p.245, May 1999.」、「N. Fujii, T. Kimura, M. Tsugami, T. Sonoda, S. Takamiya and S. Mitsui,“Zn Diffusion Mechanism in n-GaAs/Zn-AlGaAs-Se-AlGaAs Structures”, Journal of Crystal Growth, 145, P.808, December 1994.」に記載されているように、周知であるからこれ以上の説明を省く。
【0019】
これらのモデルによれば、p型不純物の異常拡散は、n型またはp型不純物が注入された層を成長する際に、発生したIII族インタースティシャルが置換されながら結晶中に拡散し、p型不純物が注入された層の不純物原子をサイトから格子間へ蹴り出すために発生すると考えられる。
【0020】
つまり、p型不純物が注入された半導体層より上層にn型またはp型不純物が注入された半導体層を形成する際に、III族インタースティシャルの発生を抑制できれば、p型不純物が隣接する化合物半導体結晶層中へ拡散することを抑制でき、素子特性も変化しないものと考えられる。III族インタースティシャルの発生は、化合物半導体層の成長表面がIII族リッチになっていることが原因であると考えられている。
【0021】
ところで、Sb(アンチモン)は、GaSb、AlSb、InSb等のSb系化合物半導体のV族元素として用いられる材料である。また、この他、Sbは、例えば、特開平11−126945号公報に記載されているように、基板に格子整合されない歪み系結晶の成長を行う際に良好な結晶得るためのサーフアクタントとして利用されている。
【0022】
また、最近では、Sb原料としてTMSb((CH33Sb)、As原料としてアルシン(AsH3)を用いたInAlAsSbの結晶成長で、結晶中に混入するSbが非常に微量であるにも関わらず、その成長表面に過剰のSbが存在し、V族リッチの状態になっていることが知られている。この内容は、例えば、「H. Yokoyama, H. Sugiyama, Y. Oda. M. Sato, N. Watanabe and T. Kobayashi,“Metalorganic Vapor Phase Epitaxy Growth of InAlAsSb on InP”, Japanese Journal of Applied Physics, Vol.43, No.8A, p.5110, August 2004.」に記載されている。
【0023】
本発明は、上記した点に鑑みてなされたものであって、化合物半導体の成長表面の状態をIII族リッチの状態からV族リッチの状態に変化させてIII族インタースティシャルの発生を抑制し、p型不純物が隣接する半導体結晶層中へ拡散することを抑え、ひいては良好で安定した特性を持つ半導体装置、この半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
以上述べた課題を解決するため、請求項1に記載の半導体装置は、化合物半導体基板(例えば図1に示したP−InP基板401)と、前記化合物半導体基板に格子整合し、かつ、p型の不純物が注入された第1化合物半導体結晶層(例えば図1に示したp−ZnドープInPバッファ層402)と、前記第1化合物半導体結晶層よりも上層にあって、前記化合物半導体基板に格子整合し、かつ、p型不純物、n型不純物のいずれか一方を含む第2化合物半導体結晶層(例えば図1に示したn−SiドープInPクラッド層404、n−SiドープInGaAsキャップ層405)と、を備え、前記第2化合物半導体結晶層は、さらに、Sbを含むことを特徴とする。
【0025】
このような発明によれば、第2化合物半導体結晶におけるインタースティシャルの発生を抑制することができる。インタースティシャルの発生が抑制されると、第1化合物半導体中においてサイトから格子間へ蹴り出されるp型不純物の数が低減するので、第1化合物半導体に隣接する化合物半導体層へ拡散するp型不純物の数を低減することができる。したがって、請求項1発明によれば、p型不純物が隣接する半導体結晶層中へ拡散することを抑え、ひいては良好で安定した特性を持つ半導体装置を提供することができる。
【0026】
請求項2に記載の半導体装置は、請求項1に記載の発明において、前記第1化合物半導体結晶層の上層、及び下層の少なくとも一方に、前記化合物半導体基板に格子整合し、かつ、不純物が注入されていない第3化合物半導体結晶層(例えば図1に示したi−InGaAsP活性層403)を備えることを特徴とする。このような発明によれば、第3化合物半導体結晶層を設けても、この中へのp型不純物の拡散を防ぐことができる。
【0027】
請求項3に記載の半導体装置は、請求項1または2において、前記化合物半導体基板が、InP、GaAsのいずれか一方であることを特徴とする。このような発明によれば、化合物半導体基板に適した材料を選択することができる。
【0028】
請求項4に記載の半導体装置は、請求項1から3のいずれか1項において、前記第1化合物半導体結晶層、前記第2化合物半導体結晶層が、GaAs、InAs、AlAs、GaP、InP、AlPの少なくとも一つを含む化合物半導体であることを特徴とする。このような発明によれば、前記第1化合物半導体結晶層、前記第2化合物半導体結晶層に適した材料を選択することができる。
【0029】
請求項5に記載の半導体装置の製造方法は、化合物半導体基板に格子整合し、かつ、p型の不純物が注入された第1化合物半導体結晶層を形成する第1化合物半導体結晶層形成工程と、前記第1化合物半導体結晶層よりも上層に、前記半導体基板に格子整合され、かつp型不純物、n型不純物のいずれか一方を含む第2化合物半導体結晶層を、原料としてSbを供給しながら形成する第2化合物半導体結晶層形成工程と、を含むことを特徴とする。
【0030】
このような発明によれば、第2化合物半導体結晶におけるインタースティシャルの発生を抑制することができる。インタースティシャルの発生が抑制されると、第1化合物半導体中においてサイトから格子間へ蹴り出されるp型不純物の数が低減するので、第1化合物半導体に隣接する化合物半導体層へ拡散するp型不純物の数を低減することができる。したがって、請求項1発明によれば、p型不純物が隣接する半導体結晶層中へ拡散することを抑え、ひいては良好で安定した特性を持つ半導体装置の製造方法を提供することができる。
【0031】
請求項6に記載の半導体装置の製造方法は、請求項5において、前記第1化合物半導体結晶層形成工程の上層、下層の少なくとも一方に、不純物が注入されない第3化合物半導体結晶層を形成する第3化合物半導体結晶層形成工程をさらに含み、前記第2化合物半導体結晶層形成工程において、前記第3化合物半導体結晶層より上層に前記第2化合物半導体結晶層が形成されることを特徴とする。このような発明によれば、第3化合物半導体結晶層を設けても、この中へのp型不純物の拡散を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0032】
以上述べたように、本発明によれば、p型不純物が注入された化合物半導体結晶層よりも上層に形成された化合物半導体層におけるインタースティシャルの発生を抑制することができる。インタースティシャルの発生が抑制されると、p型不純物が注入された化合物半導体結晶層中においてサイトから格子間へ蹴り出されるp型不純物の数が低減するので、p型不純物が注入された化合物半導体結晶層に隣接する化合物半導体層へ拡散するp型不純物の数を低減することができる。したがって、本発明によれば、p型不純物が隣接する半導体結晶層中へ拡散することを抑え、ひいては良好で安定した特性を持つ半導体装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施形態1の半導体装置の層構成を説明するための図である。
【図2】図1に示した層構成における不純物拡散の状態を、SIMSによって測定した結果を示した図である。
【図3】本発明の実施形態2の半導体装置の層構成を説明するための図である。
【図4】図3に示した層構成における不純物拡散の状態を、SIMSによって測定した結果を示した図である。
【図5】本発明の実施形態3の半導体装置の層構成を説明するための図である。
【図6】図5に示した層構成における不純物拡散の状態を、SIMSによって測定した結果を示した図である。
【図7】化合物半導体の層構成の従来例を説明するための図である。
【図8】化合物半導体の層構成の他の従来例を説明するための図である。
【図9】化合物半導体の層構成の他の従来例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態1、2、3について説明する。実施形態1、実施形態2、実施形態3は、いずれも化合物半導体の層構成を説明している。この説明においても、p型不純物が注入された半導体には「p−」を付して表記し、n型不純物が注入された半導体には「n−」を付して表記する。さらに、不純物が注入されていない半導体には、「i−」を付して表記するものとする。
【0035】
(実施形態1)
・層構成
図1は、本発明の実施形態1の半導体装置の層構成を説明するための図であって、半導体レーザの層構成を示す断面図である。実施形態1の半導体装置は、p−InP基板401、p−InP基板401上に形成されたp−ZnドープInPバッファ層402、p−ZnドープInPバッファ層402上に形成されたi−InGaAsP活性層403、i−InGaAsP活性層403上に形成されたn−SiドープInPクラッド層404、n−SiドープInPクラッド層404上に形成されたn−SiドープInGaAsキャップ層405を備えている。以上のp−ZnドープInPバッファ層402、i−InGaAsP活性層403、n−SiドープInPクラッド層404は、いずれもp−InP基板401に格子整合された半導体結晶層である。
【0036】
p−ZnドープInPバッファ層402は、p型不純物としてZnが注入されたInPでなるバッファ層である。i−InGaAsP活性層403のInGaAsPの発振波長λは1.3μmである。n−SiドープInPクラッド層404はn型不純物としてSiが注入されたInPからなるクラッド層である。n−SiドープInGaAsキャップ層405には、n型不純物としてSiがn−SiドープInPクラッド層404よりも高濃度に注入されている。
【0037】
n−SiドープInPクラッド層404、n−SiドープInGaAsキャップ層405は、Sbを含んでいる。実施形態1では、n−SiドープInPクラッド層404、n−SiドープInGaAsキャップ層405の形成時、原料ガスにTMSbを供給することにより、n−SiドープInPクラッド層404、n−SiドープInGaAsキャップ層405にSbが注入される。
【0038】
・製造方法
実施形態1では、図1に示したIII−V族化合物半導体の各層を、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法を用いて作成するものとした。この作成にあたり、III族原料にはTMA、TMIn、TEGが用いられ、V族原料にはアルシンとホスフィン(PH)が用いられている。Siの注入ガスとしてジシラン(Si26)が、Znの注入ガスとしてはDMZnが用いられている。
【0039】
実施形態1では、p−InP基板401をMOCVD装置のチャンバ内に挿入し、材料ガスを変更しながら、p−ZnドープInPバッファ層402、i−InGaAsP活性層403、n−SiドープInPクラッド層404、n−SiドープInGaAsキャップ層405が順次形成される。
【0040】
この祭、p−ZnドープInPバッファ層402の形成時には材料ガスにDMZnが供給される。また、n−SiドープInPクラッド層404、n−SiドープInGaAsキャップ層405の形成時には、材料ガスにSi26とTMSbとが供給される。
【0041】
・効果の確認
図2は、図1に示した層構成における不純物拡散の状態を、二次イオン質量分析(SIMS:Secondary Ion-microprobe Mass Spectrometer)によって測定した結果を示した図であって、図1中に矢線Aで示した方向(以降、深さ方向と記す)のZnのドーピングプロファイルを示している。図2の横軸は図1中に示した矢線Aの方向であって、縦軸はその方向にあるZnの密度を示している。
【0042】
図2中に示した実線は、n−SiドープInPクラッド層404、n−SiドープInGaAsキャップ層405の形成時にTMSbを供給した場合のドーピングプロファイルを示している。また、図2中に示した破線は、実施形態1の結果と比較するため、TMSbを供給しないで作成された層構成のZnのドーピングプロファイルを示している。
【0043】
図2によれば、n−SiドープInPクラッド層404、n−SiドープInGaAsキャップ層405の形成時にTMSbを供給しない場合には、p−ZnドープInPバッファ層402からi−InGaAsP活性層403へのZnの混入が認められる。しかし、n−SiドープInPクラッド層404、n−SiドープInGaAsキャップ層405の形成時にTMSbを供給した場合には、i−InGaAsP活性層403へのZnの混入は認められず、急峻なドーピングプロファイルが得られることが分かる。
【0044】
このような結果は、TMSbの供給によってn−SiドープInPクラッド層404、n−SiドープInGaAsキャップ層405の成長表面の状態をIII族リッチの状態からV族リッチの状態に変化させたことによって得られる。
【0045】
つまり、実施形態1によれば、TMSbの供給によってn−SiドープInPクラッド層404、n−SiドープInGaAsキャップ層405におけるIII族インタースティシャルの発生を抑制することができる。III族インタースティシャルの発生が抑制されると、p−ZnドープInPバッファ層402においてサイトから格子間へ蹴り出されるp型不純物の数が低減する。このため、隣接するi−InGaAsP層へ拡散するp型不純物の数(密度)を低減することができる。
【0046】
なお、結晶の成長表面をV族リッチの状態にする他の手法としては、AsやPといった不純物の供給量を増大させることも考えられる。しかし、AsやPの成長表面での脱離速度は速く、結果として十分にV族リッチな状態を実現することは困難であった。したがって、以上述べた実施形態1は、不純物濃度を高めるよりも効率的に結晶の成長表面をV族リッチの状態にし、P型不純物の拡散を抑制することができる。
【0047】
(実施形態2)
・層構成
図3は、本発明の実施形態2の半導体装置の層構成を説明するための図であって、アバランシェフォトダイオードの層構成を示す断面図である。実施形態2の半導体装置は、n−InP基板601上に形成されたn−SiドープInPバッファ層602、n−SiドープInPバッファ層602上に形成されたn−SiドープInAlAsバッファ層603、n−SiドープInAlAsバッファ層603上に形成されたi−InAlAsアバランシェ層604、i−InAlAsアバランシェ層604上に形成されたp−ZnドープInAlAs電界制御層605、p−ZnドープInAlAs電界制御層605上に形成されたi−InAlGaAs遷移層606、i−InAlGaAs遷移層606上に形成されたi−InGaAs吸収層607、i−InGaAs吸収層607上に形成されたi−InAlGaAs遷移層608、i−InAlGaAs遷移層608上に形成されたp−ZnドープInAlAsキャップ層609、p−ZnドープInAlAsキャップ層609上に形成されたp−ZnドープInGaAsキャップ層610を備えている。
【0048】
以上のn−SiドープInPバッファ層602、n−SiドープInAlAsバッファ層603、i−InAlAsアバランシェ層604、p−ZnドープInAlAs電界制御層605、i−InAlGaAs遷移層606、i−InGaAs吸収層607、i−InAlGaAs遷移層608、p−ZnドープInAlAsキャップ層609、p−ZnドープInGaAsキャップ層610は、いずれもn−InP基板601に格子整合された半導体結晶層である。
【0049】
また、p−ZnドープInAlAsキャップ層609、p−ZnドープInGaAsキャップ層610は、Sbを含んでいる。実施形態2では、p−ZnドープInAlAsキャップ層609、p−ZnドープInGaAsキャップ層610の形成時、原料ガスとしてTMSbを供給することにより、p−ZnドープInAlAsキャップ層609、p−ZnドープInGaAsキャップ層610にSbを注入している。
【0050】
・製造方法
実施形態2では、図3に示したIII−V族化合物半導体の各層を、MOCVD法を用いて作成するものとした。この作成にあたり、III族原料にはTMA、TMIn、TEGが用いられ、V族原料にはアルシンとホスフィン(PH)が用いられている。Siのドーピングガスとしてジシラン(Si26)が、ZnのドーピングガスとしてはDMZnが用いられている。
【0051】
すなわち、実施形態2では、n−InP基板601をMOCVD装置のチャンバ内に挿入し、材料ガスを変更しながら、n−SiドープInPバッファ層602、n−SiドープInAlAsバッファ層603、i−InAlAsアバランシェ層604、p−ZnドープInAlAs電界制御層605、i−InAlGaAs遷移層606、i−InGaAs吸収層607、i−InAlGaAs遷移層608、p−ZnドープInAlAsキャップ層609、p−ZnドープInGaAsキャップ層610が順次形成される。
【0052】
この祭、p−ZnドープInAlAs電界制御層605、p−ZnドープInAlAsキャップ層609、p−ZnドープInGaAsキャップ層610の形成時には材料ガスにDMZnが供給される。また、n−SiドープInPバッファ層602、n−SiドープInAlAsバッファ層603の形成時には、材料ガスにSi26が供給される。
【0053】
さらに、p−ZnドープInAlAsキャップ層609、p−ZnドープInGaAsキャップ層610の形成時には材料ガスにTMSbが供給される。
【0054】
・効果の確認
図4は、図3に示した層構成における不純物拡散の状態を、SIMSによって測定した結果を示した図であって、図3中に矢線Aで示した深さ方向のZnのドーピングプロファイルを示している。図4の横軸は図3中に示した矢線Aの方向であって、縦軸はその方向にあるZnの密度を示している。
【0055】
図4中に示した実線は、p−ZnドープInAlAsキャップ層609、p−ZnドープInGaAsキャップ層610の形成時にTMSbを供給した場合のドーピングプロファイルを示している。また、図4中に示した破線は、実施形態2の結果と比較するため、TMSbを供給しないで作成された層構成のZnのドーピングプロファイルを示している。
【0056】
図4によれば、p−ZnドープInAlAsキャップ層609、p−ZnドープInGaAsキャップ層610の形成時にTMSbを供給しない場合には、p−ZnドープInAlAs電界制御層605からi−InAlGaAs遷移層606、i−InGaAs吸収層607、i−InAlGaAs遷移層608及びi−InAlAsアバランシェ層604へのZnの混入が認められる。
【0057】
また、p−ZnドープInAlAsキャップ層609から、i−InAlGaAs遷移層608やi−InAlAsアバランシェ層604へのZnの混入が認められる。
【0058】
一方、p−ZnドープInAlAsキャップ層609、p−ZnドープInGaAsキャップ層610の形成時にTMSbを供給した場合、i−InAlGaAs遷移層606、i−InGaAs吸収層607、i−InAlGaAs遷移層608及びi−InAlAsアバランシェ層604へのZnの混入は認められず、急峻なドーピングプロファイルを得ることができる。
【0059】
このような結果は、p−ZnドープInAlAsキャップ層609、p−ZnドープInGaAsキャップ層610の成長表面の状態をIII族リッチの状態からV族リッチの状態に変化させたことによって得られる。
【0060】
つまり、実施形態2によれば、TMSbの供給によってp−ZnドープInAlAsキャップ層609、p−ZnドープInGaAsキャップ層610におけるIII族インタースティシャルの発生を抑制することができる。III族インタースティシャルの発生が抑制されると、p−ZnドープInAlAs電界制御層605においてサイトから格子間へ蹴り出されるp型不純物の数が低減する。このため、p−ZnドープInAlAs電界制御層605に隣接するi−InGaAs吸収層607、i−InAlAsアバランシェ層604へ拡散するp型不純物の数(密度)を低減することができる。
【0061】
(実施形態3)
・層構成
図5は、本発明の実施形態3の半導体装置の層構成を説明するための図であって、ヘテロバイポーラトランジスタの層構成を示す断面図である。実施形態3の半導体装置は、i−InP基板801上に形成されたn−SiドープInPサブコレクタ層802、n−SiドープInPサブコレクタ層802上に形成されたn−SiドープInP803、n−SiドープInPコレクタ層803上に形成されたp−ZnドープInGaAsベース層804、p−ZnドープInGaAsベース層804上に形成されたi−InGaAsスペーサ層805、i−InGaAsスペーサ層805上に形成されたn−SiドープInPエミッタ層806、n−SiドープInPエミッタ層806上に形成されたn−SiドープInPキャップ層807、n−SiドープInPキャップ層807上に形成されたn−SiドープInGaAsキャップ層808を備えている。
【0062】
以上のn−SiドープInPサブコレクタ層802、n−SiドープInPコレクタ層803、p−ZnドープInGaAsベース層804、i−InGaAsスペーサ層805n−SiドープInPエミッタ層806、n−SiドープInPキャップ層807、n−SiドープInGaAsキャップ層808は、いずれもi−InP基板801に格子整合された化合物半導体結晶層である。
【0063】
n−SiドープInPキャップ層807、n−SiドープInGaAsキャップ層808は、Sbを含んでいる。実施形態3では、n−SiドープInPキャップ層807、n−SiドープInGaAsキャップ層808の形成時、原料ガスにTMSbを供給することにより、n−SiドープInPキャップ層807、n−SiドープInGaAsキャップ層808にSbを注入している。
【0064】
・製造方法
実施形態3では、図5に示したIII−V族化合物半導体の各層を、MOCVD法を用いて作成するものとした。この作成にあたり、III族原料にはTMA、TMIn、TEGが用いられ、V族原料にはアルシンとホスフィン(PH)が用いられている。Siのドーピングガスとしてジシラン(Si26)が、ZnのドーピングガスとしてはDMZnが用いられている。
【0065】
すなわち、実施形態3では、i−InP基板801をMOCVD装置のチャンバ内に挿入し、材料ガスを変更しながら、n−SiドープInPサブコレクタ層802、n−SiドープInPコレクタ層803、p−ZnドープInGaAsベース層804、i−InGaAsスペーサ層805、n−SiドープInPエミッタ層806、n−SiドープInPキャップ層807、n−SiドープInGaAsキャップ層808が順次形成される。
【0066】
この祭、p−ZnドープInGaAsベース層804の形成時には材料ガスにDMZnが供給される。また、n−SiドープInPサブコレクタ層802、n−SiドープInPコレクタ層803、n−SiドープInPエミッタ層806、n−SiドープInPキャップ層807、n−SiドープInGaAsキャップ層808の形成時には、材料ガスにSi26が供給される。
【0067】
さらに、n−SiドープInPエミッタ層806、n−SiドープInPキャップ層807、n−SiドープInGaAsキャップ層808の形成時には材料ガスにTMSbが供給される。
【0068】
・効果の確認
図6は、図5に示した層構成における不純物拡散の状態を、SIMSによって測定した結果を示した図であって、図5中に矢線Aで示した深さ方向のZnのドーピングプロファイルを示している。図6の横軸は図5中に示した矢線Aの方向であって、縦軸はその方向にあるZnの密度を示している。
【0069】
図6中に示した実線は、n−SiドープInPキャップ層807、n−SiドープInGaAsキャップ層808の形成時にTMSbを供給した場合のドーピングプロファイルを示している。また、図6中に示した破線は、実施形態3の結果と比較するため、TMSbを供給しないで作成された層構成のZnのドーピングプロファイルを示している。
【0070】
図6によれば、n−SiドープInPキャップ層807、n−SiドープInGaAsキャップ層808の形成時にTMSbを供給しない場合には、p−ZnドープInGaAsベース層804からi−InGaAsスペーサ層805、n−InPエミッタ層806へのZnの混入が認められる。
【0071】
また、p−ZnドープInGaAsベース層804からn−SiドープInPコレクタ層803へのZnの混入が認められる。
【0072】
一方、n−SiドープInPキャップ層807、n−SiドープInGaAsキャップ層808の形成時にTMSbを供給した場合、i−InGaAsスペーサ層805、n−InPエミッタ層806、n−SiドープInPコレクタ層803へのZnの混入は認められず、急峻なドーピングプロファイルを得ることができる。
【0073】
このような結果は、n−SiドープInPキャップ層807、n−SiドープInGaAsキャップ層808の成長表面の状態をIII族リッチの状態からV族リッチの状態に変化させたことによって得られる。
【0074】
つまり、実施形態3によれば、TMSbの供給によってn−SiドープInPキャップ層807、n−SiドープInGaAsキャップ層808におけるIII族インタースティシャルの発生を抑制することができる。III族インタースティシャルの発生が抑制されると、p−ZnドープInGaAsベース層804においてサイトから格子間へ蹴り出されるp型不純物の数が低減する。このため、p−ZnドープInGaAsベース層804に隣接するi−InGaAsスペーサ層805、n−InPエミッタ層806、n−SiドープInPコレクタ層803へ拡散するp型不純物の数(密度)を低減することができる。
【0075】
さらに、TMSbが供給されたn−SiドープInPキャップ層807、n−SiドープInGaAsキャップ層808中のSb濃度を1×1020cm-3以下に制御すれば、格子不整合等、結晶品質を劣化させる問題は格別発生しなかった。
【0076】
以上述べたように、本発明の実施形態1、実施形態2、実施形態3によれば、いずれも
p型不純物が隣接する半導体結晶層中へ拡散することがない、良好で安定した特性を持つ光素子や電子素子を作成することができる。
【0077】
なお、実施形態1、実施形態2、実施形態3は、いずれもp型ドーパントとしてZnを用いているが、本発明の実施形態はこのような例に限定されるものではない。当然のことながら、MgやBeといった他の不純物を用いた場合でも同様の効果がある。さらに、実施形態1、実施形態2、実施形態3は、いずれも各化合物半導体層の成長にMOCVDを用いている。しかし、本発明の実施形態は、このような構成に限定されるものでなく、MBE(Molecular Beam Epitaxy)やMOMBE(metalorganic molecular beam epitaxy)といった他の成長方法でも同様の効果が期待できることは言うまでもない。
【0078】
また、Sbを供給する原料には、TMSbの他、TESb((C253Sb)、TDMASb(Sb[N(CH32]3)、(i−C373Sb、(CH32(t−C49)Sb等の有機金属ガスを用いることができる。また、MBEやMOMBEの場合には金属Sbを原料として用いることができる。
【符号の説明】
【0079】
401 p−InP基板
402 p−ZnドープInPバッファ層
403 i−InGaAsP活性層
404 n−SiドープInPクラッド層
405 n−SiドープInGaAsキャップ層
601 n−InP基板
602 n−SiドープInPバッファ層
603 n−SiドープInAlAsバッファ層
604 i−InAlAsアバランシェ層
605 p−ZnドープInAlAs電界制御層
606 i−InAlGaAs遷移層
607 i−InGaAs吸収層
608 i−InAlGaAs遷移層
609 p−ZnドープInAlAsキャップ層
610 p−ZnドープInGaAsキャップ層
801 i−InP基板
802 n−SiドープInPサブコレクタ層
803 n−SiドープInPコレクタ層
804 p−ZnドープInGaAsベース層
805 i−InGaAsスペーサ層
806 n−SiドープInPエミッタ層
807 n−SiドープInPキャップ層
808 n−SiドープInGaAsキャップ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物半導体基板と、
前記化合物半導体基板に格子整合し、かつ、p型の不純物が注入された第1化合物半導体結晶層と、
前記第1化合物半導体結晶層よりも上層にあって、前記化合物半導体基板に格子整合し、かつ、p型不純物、n型不純物のいずれか一方を含む第2化合物半導体結晶層と、を備え、
前記第2化合物半導体結晶層は、さらに、Sbを含むことを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記第1化合物半導体結晶層の上層、及び下層の少なくとも一方に、前記化合物半導体基板に格子整合し、かつ、不純物が注入されていない第3化合物半導体結晶層を備えることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記化合物半導体基板が、InP、GaAsのいずれか一方であることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記第1化合物半導体結晶層、前記第2化合物半導体結晶層が、GaAs、InAs、AlAs、GaP、InP、AlPの少なくとも一つを含む化合物半導体であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項5】
化合物半導体基板に格子整合し、かつ、p型の不純物が注入された第1化合物半導体結晶層を形成する第1化合物半導体結晶層形成工程と、
前記第1化合物半導体結晶層よりも上層に、前記半導体基板に格子整合され、かつp型不純物、n型不純物のいずれか一方を含む第2化合物半導体結晶層を、原料としてSbを供給しながら形成する第2化合物半導体結晶層形成工程と、
を含むことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記第1化合物半導体結晶層形成工程の上層、下層の少なくとも一方に、不純物が注入されない第3化合物半導体結晶層を形成する第3化合物半導体結晶層形成工程をさらに含み、前記第2化合物半導体結晶層形成工程において、前記第3化合物半導体結晶層より上層に前記第2化合物半導体結晶層が形成されることを特徴とする請求項5に記載の半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−54787(P2011−54787A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−202802(P2009−202802)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】