半導体装置及び半導体装置の製造方法
【課題】良好な電流増幅率が得られる半導体装置及び半導体装置の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る半導体装置は、半導体基板と、半導体基板上に設けられ、炭化ケイ素から形成される第1導電型の第1伝導層12と、第1伝導層12上に設けられ、第1伝導層12の不純物濃度より低い不純物濃度を有し、炭化ケイ素から形成される第1導電型の第2伝導層14と、第2伝導層14中に設けられ、第1導電型とは異なる導電型の第2導電型のベース領域16と、ベース領域16中に設けられ、表面がベース領域16の表面と同一平面にあると共に、5×1017cm−3以上5×1019cm−3以下の不純物濃度を有する第1導電型のエミッタ領域18とを備える。
【解決手段】本発明に係る半導体装置は、半導体基板と、半導体基板上に設けられ、炭化ケイ素から形成される第1導電型の第1伝導層12と、第1伝導層12上に設けられ、第1伝導層12の不純物濃度より低い不純物濃度を有し、炭化ケイ素から形成される第1導電型の第2伝導層14と、第2伝導層14中に設けられ、第1導電型とは異なる導電型の第2導電型のベース領域16と、ベース領域16中に設けられ、表面がベース領域16の表面と同一平面にあると共に、5×1017cm−3以上5×1019cm−3以下の不純物濃度を有する第1導電型のエミッタ領域18とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置及び半導体装置の製造方法に関する。特に、本発明は、炭化ケイ素系半導体を用いたプレーナ型バイポーラトランジスタとしての半導体装置及び半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素(以下、「SiC」という場合がある)等のワイドバンドギャップ化合物半導体は、Si半導体、GaAs等の化合物半導体に比べ、高耐圧、高出力、高温度等の過酷な環境下で動作する電子デバイス材料として注目されている。また、窒化ガリウム(GaN)等の窒化物系化合物半導体に比べてSiCは、不純物添加によって容易にp型化できる。したがって、p型半導体層とn型半導体層とを要するバイポーラトランジスタへ応用することができる。
【0003】
従来、n+型SiC基板と、n+型SiC基板上に形成されるn−型SiCエピタキシャル領域と、n−型SiCエピタキシャル領域中に形成されるp型ベース領域と、p型ベース領域中に形成されるn+型エミッタ領域と、p型ベース領域中であってn+型エミッタ領域の隣に形成されるp+型ベースコンタクト領域とを備え、p型ベース領域内に空乏層が形成されないときのp型ベース領域内のフリーキャリア濃度が、p型ベース領域に空乏層が形成されるときの空乏層内の空間電荷濃度よりも小さくなるようにしたバイポーラトランジスタが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1に記載のバイポーラトランジスタは、上記構成を備えることにより、高い電流増幅率を発揮することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−247545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
バイポーラトランジスタの性能としては、コレクタ電流のベース電流に対する比である電流増幅率が重要である。電流増幅率は、主としてエミッタ注入効率に基づいて決定される。エミッタ注入効率は、ベース正孔電流とエミッタ電子電流とに基づいて決定され、ベース正孔電流はエミッタ不純物濃度とエミッタ深さとに基づいて決定される。更に、エミッタ電子電流は、ベース不純物濃度とベース幅とに基づいて決定される。しかし、特許文献1に記載のバイポーラトランジスタは、エミッタ領域の不純物濃度、及びベース領域の不純物濃度の最適化を図っておらず、バイポーラトランジスタの性能の向上には限界がある。
【0007】
したがって、本発明の目的は、良好な電流増幅率が得られる半導体装置及び半導体装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するため、半導体基板と、半導体基板上に設けられ、炭化ケイ素から形成される第1導電型の第1伝導層と、第1伝導層上に設けられ、第1伝導層の不純物濃度より低い不純物濃度を有し、炭化ケイ素から形成される第1導電型の第2伝導層と、第2伝導層中に設けられ、第1導電型とは異なる導電型の第2導電型のベース領域と、ベース領域中に設けられ、表面がベース領域の表面と同一平面にあると共に、5×1017cm−3以上5×1019cm−3以下の不純物濃度を有する第1導電型のエミッタ領域とを備える半導体装置が提供される。
【0009】
また、上記半導体装置は、ベース領域は、1×1017cm−3以上1×1019cm−3以下の不純物濃度を有することが好ましい。
【0010】
また、上記半導体装置は、エミッタ領域の表面の一部に設けられるエミッタ電極を更に備え、エミッタ電極の端部から、ベース領域とエミッタ領域との境界までの距離が、エミッタ領域中の少数キャリアの平均の拡散距離以上にすることもできる。
【0011】
また、上記半導体装置は、ベース領域に接するエミッタ領域の表面濃度が、ベース領域とエミッタ領域との間に形成される真性ベース領域に接するエミッタ領域の濃度よりも低くすることもできる。
【0012】
また、本発明は、上記目的を達成するため、半導体基板を準備する工程と、半導体基板上に炭化ケイ素から形成される第1導電型の第1伝導層を形成する工程と、第1伝導層上に第1伝導層の不純物濃度より低い不純物濃度を有し、炭化ケイ素から形成される第1導電型の第2伝導層を形成する工程と、第2伝導層の一部の領域に、加速エネルギーを段階的に変化させつつ第1導電型とは異なる導電型の第2導電型の不純物原子をイオン注入してベース領域を形成する工程と、表面がベース領域の表面と同一平面上にあると共に、ベース領域の一部の領域に加速エネルギーを段階的に変化させつつ第1導電型の不純物原子をイオン注入して5×1017cm−3以上5×1019cm−3以下の不純物濃度を有するエミッタ領域を形成する工程とを備える半導体装置の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る半導体装置及び半導体装置の製造方法によれば、良好な電流増幅率が得られる半導体装置及び半導体装置の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態に係る半導体装置の断面図である。
【図2】本実施の形態に係る半導体装置において、エミッタ濃度及びベース濃度を様々に変化させた場合における電流増幅率の分布図である。
【図3A】本発明の実施の形態に係る半導体装置の製造工程の流れを示す図である。
【図3B】本発明の実施の形態に係る半導体装置の製造工程の流れを示す図である。
【図4】実施例に係る半導体装置の断面図である。
【図5】(a)は、図4のX1−X2方向における不純物濃度の分布図であり、(b)は、図4のY1−Y2方向における不純物濃度の分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[実施の形態]
(半導体装置の構成)
図1は、本発明の実施の形態に係る半導体装置の断面の概要を示す。
【0016】
本実施の形態に係る半導体装置1は、一例として、IV−IV族のワイドギャップ半導体としてのSiC系半導体から主として形成されるプレーナ型バイポーラトランジスタである。具体的に、半導体装置1は、半導体基板としてのSiC基板10と、SiC基板10上に設けられ、SiCから形成される第1導電型の第1伝導層12と、第1伝導層12上に設けられ、第1伝導層12の不純物濃度より低い不純物濃度を有してSiCから形成される第1導電型の第2伝導層14と、第2伝導層14中に設けられ、第1導電型とは異なる導電型の第2導電型のベース領域16と、ベース領域16中に設けられ、表面がベース領域16の表面と同一平面にある第1導電型のエミッタ領域18とを備える。更に、半導体装置1は、ベース領域16の表面の一部に設けられるベース電極20と、エミッタ領域18の表面の一部に設けられるエミッタ電極2と、SiC基板10の第1伝導層12と接している側の反対側の表面(以下、「SiC基板10の裏面」ということがある)に設けられる裏面電極25とを備える。
【0017】
SiC基板10は、3C型、2H型、4H型、6H型等のポリタイプのSiC基板を用いることができる。例えば、SiC基板10として、4H−SiC{0001}オフ基板、6H−SiC{0001}オフ基板等を用いることができる。SiC基板10のオフ角は、3度以上10度以下の範囲から選択することが好ましい。なお、3C型、2H型、4H型、6H型の数字はc軸方向の繰返し周期を示しており、Cは立方晶、Hは六方晶を示す。
【0018】
第1伝導層12は、SiCから形成されると共に、第1導電型としてのn型の不純物が添加されたn+型SiC層である。n型の不純物としては、リン(P)、窒素(N)、ヒ素(As)等を用いることができる。また、第2伝導層14は、SiCから形成されると共にn型の不純物が添加されたn型SiC層、又はn−型SiC層である。第2伝導層14の不純物濃度は、少なくとも第1伝導層12の不純物濃度より低い濃度である。また、第2伝導層14は、第1伝導層12の抵抗率より高い抵抗率を有する。したがって、第2伝導層14は、第1伝導層12に対して高抵抗層としての機能を有する。なお、第1伝導層12及び第2伝導層14はそれぞれ、化学気相蒸着法(Chemical Vapor Deposition法:CVD法)、分子線エピタキシー法(Molecular Beam Epitaxy法:MBE法)、溶液成長法等の結晶成長技術を用いて形成することができる。したがって、第1伝導層12及び第2伝導層14はそれぞれ、SiC基板10のポリタイプに応じたポリタイプを有して形成される。
【0019】
ベース領域16は、第2導電型としてのp型の不純物が添加されたSiCから形成される。p型の不純物としては、アルミニウム(Al)等を用いることができる。そして、エミッタ領域18は、n型の不純物が添加されたSiCから形成される。エミッタ領域18はベース領域16中に形成されるので、上面視にてエミッタ領域18は、ベース領域16の面積より小さい面積を有する。更に、ベース電極20は、ベース領域16の表面の一部の領域にオーミック接触して設けられる。同様に、エミッタ電極22は、エミッタ領域18の表面の一部の領域にオーミック接触して設けられる。
【0020】
ベース電極20及びエミッタ電極22はそれぞれ、金属材料の単層構造、又は積層構造から構成することができる。例えば、ベース電極20及びエミッタ電極22はそれぞれ、ニッケル層とアルミニウム層との2層構造を有して形成することができる。なお、ベース電極20及びエミッタ電極22はそれぞれ、n層構造(nは、3以上の整数)を有して形成することもできる。
【0021】
また、エミッタ電極22は、エミッタ電極22の端部22aから、ベース領域16とエミッタ領域18との境界17までの距離(以下、単に「当該距離」という)が、エミッタ領域18中の少数キャリアであるホールの平均の拡散距離以上となるエミッタ領域18の表面の位置に端部22aが配置されるように形成される。ここで、本発明者は、当該距離が10μmの場合、半導体装置1の電流増幅率が50であり、当該距離が3μmの場合、電流増幅率が15であり、当該距離が2μmの場合、電流増幅率が10であり、当該距離が1μmの場合、電流増幅率が5であるという実験結果を得た。これにより、本実施の形態では、電流増幅率を向上させることを目的として、一例として、エミッタ電極22は、端部22aと境界17との距離が2μm以上となるエミッタ領域18の表面の位置に形成することが好ましい。なお、本実施の形態に係る境界17は、半導体装置1の表面に位置する境界である。
【0022】
ここで、本実施の形態において、エミッタ領域18の不純物濃度は5×1017cm−3以上5×1019cm−3以下であることが好ましい。これは、本発明者が得た以下の知見に基づくものである。
【0023】
まず、バイポーラトランジスタのエミッタ電子電流密度(Jn)及びベース正孔電流密度(Jp)は、以下の式(1)及び式(2)で表すことができる。
【0024】
【数1】
【0025】
【数2】
【0026】
ここで、qは電荷量、niは真性キャリア濃度、Dpは正孔の拡散係数、Dnは電子の拡散係数、VBEはベース−エミッタ間の順方向電圧、kはボルツマン定数、Tは温度、Naはアクセプタ濃度、Ndはドナー濃度、WEはエミッタ幅、WBはベース幅である。また、EEvはエミッタ−ベース接合領域におけるエミッタの伝導帯エネルギー準位であり、EBvはエミッタ−ベース接合領域におけるベースの伝導帯エネルギー準位である。更に、EEcはエミッタ−ベース接合領域におけるエミッタの価電子帯エネルギー準位であり、EBcはエミッタ−ベース接合領域におけるベースの価電子帯エネルギー準位である。実際のエミッタ電流の値は、エミッタ電子電流密度にエミッタ領域の面積を乗じて求められ、実際のベース電流の値は、ベース正孔電流密度にベース領域の面積を乗じて求められる。
【0027】
ここで、コレクタ電流の値は、ベース領域内でキャリアの再結合が実質的に発生しない場合、エミッタ電流の値と略同一である。よって、エミッタ電子電流密度とベース正孔電流密度との比が電流増幅率として算出される。したがって、上記式(1)及び式(2)を参照すると明らかなように、電流増幅率は、エミッタ領域の不純物濃度、及びベース領域の不純物濃度、並びに、エミッタの伝導帯とベースの伝導帯との伝導帯エネルギー差と、エミッタの価電子帯とベースの価電子帯との価電子帯エネルギー差とに依存して決定される。
【0028】
そして、通常、エミッタ領域の不純物濃度及びベース領域の不純物濃度は、エミッタ領域及びベース領域を低抵抗化してバイポーラトランジスタの特性を向上させるべく、可能な限り高い濃度にされる。また、通常、エミッタ領域の不純物濃度をベース領域の不純物濃度より高い濃度にすることで電流増幅率の向上を図っている。しかしながら、本発明者は、SiCにおいては、SiCに不純物原子を添加してSiCの不純物濃度を高濃度化すると、エミッタの伝導帯及び価電子帯のエネルギー準位が狭バンドギャップ効果により変化して(すなわち、バンドギャップが狭まって)、電流増幅率が低下する知見を得た。そこで、本発明者は、図1に示すようなバイポーラトランジスタにおいて、ベース濃度及びエミッタ濃度を様々に変化させて、バイポーラトランジスタの電流増幅率の変化を測定した。
【0029】
図2は、本実施の形態に係る半導体装置において、エミッタ濃度及びベース濃度を様々に変化させた場合における電流増幅率の分布を示す。
【0030】
図2を参照すると、良好な電流増幅率(例えば、電流増幅率が1以上)が安定的に得られるエミッタ濃度には最適な濃度範囲があることを本発明者は発見した。すなわち、ベース領域の不純物濃度(図2におけるベース濃度)が1×1017cm−3以上1×1019cm−3以下であって、エミッタ領域の不純物濃度(図2におけるエミッタ濃度)が5×1017cm−3以上5×1019cm−3以下の不純物濃度であれば、電流増幅率が良好な値になることを、本発明者は発見した。
【0031】
より詳細には、上記式(1)を参照すると、エミッタ濃度であるドナー濃度(Nd)が高く、エミッタ深さであるエミッタ幅(WE)が広い場合、ベース電流であるベース正孔電流密度(Jp)は小さくなる。しかしながら、Ndを高くした場合、エミッタの価電子帯エネルギー準位(EEv)が低下して、正孔に対するエミッタの障壁が小さくなるので、Jpが増加する効果も生じる。したがって、Jpを低下させるためには、Ndを決定してWEを広くすることを要する。
【0032】
同様に上記式(2)を参照すると、ベース濃度であるアクセプタ濃度(Na)が低く、ベース幅(WB)が狭い場合、エミッタ電流であるエミッタ電子電流密度(Jn)は大きくなる。しかしながら、Naを低くした場合、WBを狭くすると耐圧が低下して、半導体装置1の動作が困難になる場合がある。したがって、Jnを増加させるためには、Naを決定してWBを狭くすることを要する。そして、電流増幅率(Jn/Jp)を増加させるには、Ndを高めるか、又はWEを広くするか、若しくは、Naを低くするか、又はWBを狭くすることを要するが、Ndを高くすると電流増幅率が増加しない場合がある。
【0033】
図2においては、WEを0.2μm、WBを0.3μmに設定して、良好な電流増幅率が安定的に得られるエミッタ濃度を検討した。この場合、WEを広げるか、又はWBを狭くすることにより、電流増幅率は上昇する。具体的に、WE又はWBは5μm以下程度であるので、エミッタ濃度の範囲は、5×1017cm−3以上5×1019cm−3以下であることが好ましいとの知見を、本発明者は得た。本発明の実施の形態に係る半導体装置1は、斯かる知見に基づくものである。
【0034】
また、本実施の形態においては、ベース領域16に接するエミッタ領域18の表面濃度を、真性ベース領域に接するエミッタ領域18の濃度よりも低くする、又は同程度にすることができる。ここで、表面濃度とは、エミッタ領域18の表面近傍における濃度であり、好ましくは、外部に露出している表面から1nm〜10nm程度、エミッタ領域18の内側における濃度である。また、真性ベース領域とは、エミッタ領域18直下のベース領域16である。図1を参照すると真性ベース領域は、一例として、エミッタ領域18とベース領域16とが接している面のうち半導体装置1の表面に略平行な領域に該当する(例えば、図1では、エミッタ電極22の下方であって、ベース領域16とエミッタ領域18とが接している領域が、真性ベース領域である)。そして、真性ベース領域に接するエミッタ領域18とは、真性ベース領域とエミッタ領域18とが接合する接合面の領域である。
【0035】
本実施の形態のようにベース領域16に接するエミッタ領域18の表面濃度を、真性ベース領域に接するエミッタ領域18の濃度よりも低くする又は同程度にすると、半導体装置1の表面側からSiC基板10の底部側に向かって不純物濃度が下がることがないので、SiC基板10に不純物を導入して半導体装置1を製造した場合であっても、バンドギャップナローイング効果を抑制することができる。
【0036】
なお、エミッタ領域18の不純物濃度は、半導体装置1の表面から裏面電極25側に向けて変化させることができる。例えば、エミッタ領域18の表面側から裏面電極25側に向けて徐々に不純物濃度を大きくすることができる。換言すると、エミッタ領域18の表面における不純物濃度(以下、「表面濃度」という)を、ベース領域16とエミッタ領域18との界面であって、エミッタ領域18の表面から半導体装置1の深さ方向に沿って最も離れた(つまり、最も深い)ベース領域16(以下、「真性ベース領域」という)に接するエミッタ領域18の不純物濃度よりも低くすることができる。
【0037】
(半導体装置の製造工程)
図3A及びBは、本発明の実施の形態に係る半導体装置の製造工程の流れの一例を示す。
【0038】
まず、所定のポリタイプを有するSiC基板10を準備する。次に、準備したSiC基板10上にn+型の第1伝導層12とn型の第2伝導層14とをこの順に結晶成長させる。これにより、図3Aの(a)に示すような半導体積層構造体1aが得られる。
【0039】
続いて、図3Aの(b)に示すように、半導体積層構造体1aの第2伝導層14の表面に、形成すべきベース領域16に対応する部分に開口30aを有するマスク30をフォトリソグラフィー法を用いて形成する。そして、イオン注入法を用いて開口30aから第2伝導層14の表面に向けてp型用の不純物原子を打ち込む。これにより、図3Aの(b)に示すように、第2伝導層14内にp型伝導領域としてのベース領域16が形成された半導体積層構造体1bが得られる。ここで、本実施の形態においてイオン注入は、加速エネルギーを段階的に変化させつつp型用の不純物原子を第2伝導層14の一部の領域に打ち込むことにより実施する。具体的には、加速エネルギーを段階的に小さくして(すなわち、加速エネルギーが段階的に小さくなる方向に変化させて)、不純物原子を第2伝導層14に打ち込むことにより、第2伝導層14中にベース領域16を形成する。
【0040】
例えば、イオン注入は、以下のように実施できる。まず、第1の加速エネルギーで、不純物イオンが第1のドーズ量となるように1段階目のイオン注入を実施する。次に、第1の加速エネルギーよりも小さい第2の加速エネルギーで、不純物イオンが第1のドーズ量よりも少ない第2のドーズ量となるように2段階目のイオン注入を実施する。そして、第2の加速エネルギーよりも小さい第3の加速エネルギーで、不純物イオンが第2のドーズ量よりも少ない第3のドーズ量となるように3段階目のイオン注入を実施する。なお、イオン注入は、3段階に限られず、n段階(但し、nは4以上の整数)実施することができる。
【0041】
次に、マスク30を除去して半導体積層構造体1bを洗浄する。そして、図3Bの(a)に示すように、マスク30を除去した半導体積層構造体1bの第2伝導層14の表面に、形成すべきエミッタ領域18に対応する部分に開口31aを有するマスク31をフォトリソグラフィー法を用いて形成する。そして、イオン注入法を用いて開口31aからベース領域16の表面に向けてn型用の不純物原子を打ち込む。これにより、図3Bの(a)に示すように、第2伝導層14内であると共にベース領域16内の一部の領域に、n型伝導領域としてのエミッタ領域18が形成された半導体積層構造体1cが得られる。ここで、エミッタ領域18を形成する場合に用いるイオン注入法も、ベース領域16を形成する場合と同様に、加速エネルギーを段階的に変化させて実施する。具体的には、エミッタ領域18を形成する場合も加速エネルギーを段階的に小さくして、n型用の不純物原子をベース領域16に打ち込むことにより実施する。
【0042】
続いて、マスク31を除去して半導体積層構造体1cを洗浄する。そして、フォトリソグラフィー法、真空蒸着法(又は、スパッタ法等の成膜技術)等を用いて、ベース領域16の表面の一部にベース電極20と、エミッタ領域18の表面の一部にエミッタ電極22とを形成する。更に、SiC基板10の裏面に裏面電極25を形成する。これにより、図3Bの(b)に示すような半導体装置1が得られる。
【0043】
なお、ベース領域16及びエミッタ領域18をイオン注入法を用いて形成した後、マスク31を除去した半導体積層構造体1cに対して、所定の雰囲気下、所定の温度、所定の時間のアニール処理を施すこともできる。また、ベース電極20とベース領域16との間、エミッタ電極22とエミッタ領域18との間、及び裏面電極25とSiC基板10の裏面との間のそれぞれをオーミック接触させるべく、所定の加熱処理を施すこともできる。
【0044】
(実施の形態の効果)
本実施の形態に係る半導体装置1は、SiC基板10内にイオン注入法により形成されたベース領域16及びエミッタ領域18を有すると共に、エミッタ領域18の不純物濃度が5×1017cm−3以上5×1019cm−3以下に制御されているので、SiCの狭バンドギャップ効果による影響を低減でき、良好な電流増幅率を発揮することができる。
【0045】
また、本実施の形態に係る半導体装置1の製造方法によれば、イオン注入法によりベース領域16及びエミッタ領域18を形成するので、半導体装置1の表面を実質的に平坦な表面(すなわち、凹凸の少ない表面)にすることができる。これにより、半導体装置1の表面に電極配線を施した場合であっても、配線の断線等を低減させることができるので、半導体装置1の製造歩留りを大幅に向上させることができる。また、例えば、SiC基板10上にベース領域及びエミッタ領域を連続的に結晶成長させ、エミッタ領域及びベース領域の一部をエッチング除去した後に除去した領域にエミッタ電極及びベース電極をそれぞれ形成する場合に比べ、本実施の形態に係る半導体装置1の製造方法はエッチング工程を要さないので、半導体装置1の製造工程を簡略化でき、半導体装置1の歩留りを向上させることができる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明の実施例に係る半導体装置について説明する。
【0047】
図4は、実施例に係る半導体装置の断面の概要を示す。
【0048】
実施例に係る半導体装置2は、図1に示す実施の形態に係る半導体装置1と略同様の構成を備える。よって、相違点を除き詳細な説明は省略する。
【0049】
半導体装置2は、4度オフのSiC基板10と、SiC基板10上に設けられるn+型SiC伝導層11と、n+型SiC伝導層11上に設けられ、5μmの厚さを有するn型SiC伝導層13と、n型SiC伝導層13中に設けられ、3μmの深さを有するp型のベース領域16と、ベース領域16中に設けられ、表面がベース領域16の表面と同一平面にあると共に1.2μmの深さを有するn型のエミッタ領域18とを備える。また、半導体装置2は、ベース領域16の表面の一部の領域に設けられるベース電極20と、エミッタ領域18の表面の一部の領域に設けられるエミッタ電極22と、SiC基板10の裏面に設けられる裏面電極25とを備える。
【0050】
半導体装置2のベース領域16は、イオン注入法を用い、加速エネルギーを20keVから300keVまで段階的に変化させて不純物原子としてのAlをn型SiC伝導層13に打ち込むことにより形成した。具体的に、まず、加速エネルギーを150keVに設定して、ドーズ量が1×1013cm−2となるように不純物であるアルミニウムイオン(Alイオン)をイオン注入した。次に、加速エネルギーを100keVに設定して、ドーズ量が4×1012cm−2となるようにAlイオンをイオン注入した。更に、加速エネルギーを50keVに設定して、ドーズ量が2×1012cm−2となるようにAlイオンをイオン注入した。その後、1700℃から1900℃の範囲の温度、アルゴン又は真空中でアニールを施した。
【0051】
また、エミッタ領域18も、不純物原子としてのPを用いてベース領域16と同様にしてイオン注入法を用いて形成した。また、ベース電極20及びエミッタ電極22はそれぞれ、ニッケル層とアルミニウム層との2層の金属層構造で形成した。そして、エミッタ電極22の端部X1からベース領域16とエミッタ領域18との境界17までの距離は2μmとした。
【0052】
図5は、実施例に係る半導体装置の不純物濃度分布を示し、具体的には、図5(a)は、図4のX1−X2方向(半導体装置の表面に水平な方向)における不純物濃度の分布を示し、図5(b)は、図4のY1−Y2方向(半導体装置の厚さに沿った方向)における不純物濃度の分布を示す。
【0053】
ここで、ベース領域16の不純物濃度、エミッタ領域18の不純物濃度を様々に変化させて半導体装置を製造した。以下に述べるエミッタ領域18の不純物濃度の値は、図5(a)及び図5(b)に示す「エミッタ濃度」に該当する値である。すなわち、図5(a)及び図5(b)に示すように、エミッタ濃度分布とベース濃度分布との交点に該当する部分の濃度を「エミッタ濃度」とした。このエミッタ濃度が、「真性ベース領域に接するエミッタ領域の濃度」に該当する。なお、「エミッタ濃度」においては、エミッタ濃度とベース濃度とが略同一の値となる。ただし、本実施例において「エミッタ濃度とベース濃度とが略同一」とは、エミッタ濃度(又はベース濃度)を基準としてベース濃度(又はエミッタ濃度)が、エミッタ濃度(又はベース濃度)の2〜3倍程度の濃度差であることを含むものとする。
【0054】
実施例に係る半導体装置2においては、「エミッタ濃度」は、エミッタ電極22の端部であるX1からベース電極20のエミッタ電極22側の端部であるX2に向かって3μmの距離であって、エミッタ電極22とエミッタ領域18との界面、すなわちエミッタ領域18の表面の位置Y1からSiC基板10の裏面Y2に向かって1.2μmの深さの位置の濃度である。
【0055】
その結果、エミッタ領域18の不純物濃度(エミッタ濃度)が5×1017cm−3未満の場合、エミッタ抵抗が非常に高いか、若しくは、半導体装置2に電流が実質的に流れず、電流増幅率が1未満であった。また、エミッタ濃度が5×1019cm−3を超える場合、エミッタ抵抗は低い値であったものの電流増幅率が1未満であった。一方、エミッタ濃度が5×1017cm−3以上5×1019cm−3以下の範囲内であれば、電流増幅率が1以上である半導体装置2を安定的に製造することができた。
【0056】
以上の結果は、エミッタ濃度を5×1017cm−3未満の低濃度にした場合、エミッタガンメル数が低下することに伴うベース電流密度の増加によって電流増幅率が低下したと考えられた。また、エミッタ濃度を5×1019cm−3を超える高濃度にすると、狭バンドギャップ効果によってベース電流密度が増加すると共にエミッタ電子電流も減少することにより、電流増幅率が低下したと考えられた。
【0057】
また、エミッタ電極22の端部X1と境界17との距離を様々に変化させたところ、当該距離が2μm未満の場合、電流増幅率が低下した。これは、n型のエミッタ領域18内に注入された少数キャリアである正孔の平均の拡散距離が多数キャリアの平均の拡散距離より大きいことに起因して、ベース電流密度が増大したことが原因と考えられた。
【0058】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0059】
1、2 半導体装置
1a、1b、1c 半導体積層構造体
10 SiC基板
11 n+型SiC伝導層
12 第1伝導層
13 n型SiC伝導層
14 第2伝導層
16 ベース領域
17 境界
18 エミッタ領域
20 ベース電極
22 エミッタ電極
22a 端部
30、31 マスク
30a、31a 開口
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置及び半導体装置の製造方法に関する。特に、本発明は、炭化ケイ素系半導体を用いたプレーナ型バイポーラトランジスタとしての半導体装置及び半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素(以下、「SiC」という場合がある)等のワイドバンドギャップ化合物半導体は、Si半導体、GaAs等の化合物半導体に比べ、高耐圧、高出力、高温度等の過酷な環境下で動作する電子デバイス材料として注目されている。また、窒化ガリウム(GaN)等の窒化物系化合物半導体に比べてSiCは、不純物添加によって容易にp型化できる。したがって、p型半導体層とn型半導体層とを要するバイポーラトランジスタへ応用することができる。
【0003】
従来、n+型SiC基板と、n+型SiC基板上に形成されるn−型SiCエピタキシャル領域と、n−型SiCエピタキシャル領域中に形成されるp型ベース領域と、p型ベース領域中に形成されるn+型エミッタ領域と、p型ベース領域中であってn+型エミッタ領域の隣に形成されるp+型ベースコンタクト領域とを備え、p型ベース領域内に空乏層が形成されないときのp型ベース領域内のフリーキャリア濃度が、p型ベース領域に空乏層が形成されるときの空乏層内の空間電荷濃度よりも小さくなるようにしたバイポーラトランジスタが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1に記載のバイポーラトランジスタは、上記構成を備えることにより、高い電流増幅率を発揮することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−247545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
バイポーラトランジスタの性能としては、コレクタ電流のベース電流に対する比である電流増幅率が重要である。電流増幅率は、主としてエミッタ注入効率に基づいて決定される。エミッタ注入効率は、ベース正孔電流とエミッタ電子電流とに基づいて決定され、ベース正孔電流はエミッタ不純物濃度とエミッタ深さとに基づいて決定される。更に、エミッタ電子電流は、ベース不純物濃度とベース幅とに基づいて決定される。しかし、特許文献1に記載のバイポーラトランジスタは、エミッタ領域の不純物濃度、及びベース領域の不純物濃度の最適化を図っておらず、バイポーラトランジスタの性能の向上には限界がある。
【0007】
したがって、本発明の目的は、良好な電流増幅率が得られる半導体装置及び半導体装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するため、半導体基板と、半導体基板上に設けられ、炭化ケイ素から形成される第1導電型の第1伝導層と、第1伝導層上に設けられ、第1伝導層の不純物濃度より低い不純物濃度を有し、炭化ケイ素から形成される第1導電型の第2伝導層と、第2伝導層中に設けられ、第1導電型とは異なる導電型の第2導電型のベース領域と、ベース領域中に設けられ、表面がベース領域の表面と同一平面にあると共に、5×1017cm−3以上5×1019cm−3以下の不純物濃度を有する第1導電型のエミッタ領域とを備える半導体装置が提供される。
【0009】
また、上記半導体装置は、ベース領域は、1×1017cm−3以上1×1019cm−3以下の不純物濃度を有することが好ましい。
【0010】
また、上記半導体装置は、エミッタ領域の表面の一部に設けられるエミッタ電極を更に備え、エミッタ電極の端部から、ベース領域とエミッタ領域との境界までの距離が、エミッタ領域中の少数キャリアの平均の拡散距離以上にすることもできる。
【0011】
また、上記半導体装置は、ベース領域に接するエミッタ領域の表面濃度が、ベース領域とエミッタ領域との間に形成される真性ベース領域に接するエミッタ領域の濃度よりも低くすることもできる。
【0012】
また、本発明は、上記目的を達成するため、半導体基板を準備する工程と、半導体基板上に炭化ケイ素から形成される第1導電型の第1伝導層を形成する工程と、第1伝導層上に第1伝導層の不純物濃度より低い不純物濃度を有し、炭化ケイ素から形成される第1導電型の第2伝導層を形成する工程と、第2伝導層の一部の領域に、加速エネルギーを段階的に変化させつつ第1導電型とは異なる導電型の第2導電型の不純物原子をイオン注入してベース領域を形成する工程と、表面がベース領域の表面と同一平面上にあると共に、ベース領域の一部の領域に加速エネルギーを段階的に変化させつつ第1導電型の不純物原子をイオン注入して5×1017cm−3以上5×1019cm−3以下の不純物濃度を有するエミッタ領域を形成する工程とを備える半導体装置の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る半導体装置及び半導体装置の製造方法によれば、良好な電流増幅率が得られる半導体装置及び半導体装置の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態に係る半導体装置の断面図である。
【図2】本実施の形態に係る半導体装置において、エミッタ濃度及びベース濃度を様々に変化させた場合における電流増幅率の分布図である。
【図3A】本発明の実施の形態に係る半導体装置の製造工程の流れを示す図である。
【図3B】本発明の実施の形態に係る半導体装置の製造工程の流れを示す図である。
【図4】実施例に係る半導体装置の断面図である。
【図5】(a)は、図4のX1−X2方向における不純物濃度の分布図であり、(b)は、図4のY1−Y2方向における不純物濃度の分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[実施の形態]
(半導体装置の構成)
図1は、本発明の実施の形態に係る半導体装置の断面の概要を示す。
【0016】
本実施の形態に係る半導体装置1は、一例として、IV−IV族のワイドギャップ半導体としてのSiC系半導体から主として形成されるプレーナ型バイポーラトランジスタである。具体的に、半導体装置1は、半導体基板としてのSiC基板10と、SiC基板10上に設けられ、SiCから形成される第1導電型の第1伝導層12と、第1伝導層12上に設けられ、第1伝導層12の不純物濃度より低い不純物濃度を有してSiCから形成される第1導電型の第2伝導層14と、第2伝導層14中に設けられ、第1導電型とは異なる導電型の第2導電型のベース領域16と、ベース領域16中に設けられ、表面がベース領域16の表面と同一平面にある第1導電型のエミッタ領域18とを備える。更に、半導体装置1は、ベース領域16の表面の一部に設けられるベース電極20と、エミッタ領域18の表面の一部に設けられるエミッタ電極2と、SiC基板10の第1伝導層12と接している側の反対側の表面(以下、「SiC基板10の裏面」ということがある)に設けられる裏面電極25とを備える。
【0017】
SiC基板10は、3C型、2H型、4H型、6H型等のポリタイプのSiC基板を用いることができる。例えば、SiC基板10として、4H−SiC{0001}オフ基板、6H−SiC{0001}オフ基板等を用いることができる。SiC基板10のオフ角は、3度以上10度以下の範囲から選択することが好ましい。なお、3C型、2H型、4H型、6H型の数字はc軸方向の繰返し周期を示しており、Cは立方晶、Hは六方晶を示す。
【0018】
第1伝導層12は、SiCから形成されると共に、第1導電型としてのn型の不純物が添加されたn+型SiC層である。n型の不純物としては、リン(P)、窒素(N)、ヒ素(As)等を用いることができる。また、第2伝導層14は、SiCから形成されると共にn型の不純物が添加されたn型SiC層、又はn−型SiC層である。第2伝導層14の不純物濃度は、少なくとも第1伝導層12の不純物濃度より低い濃度である。また、第2伝導層14は、第1伝導層12の抵抗率より高い抵抗率を有する。したがって、第2伝導層14は、第1伝導層12に対して高抵抗層としての機能を有する。なお、第1伝導層12及び第2伝導層14はそれぞれ、化学気相蒸着法(Chemical Vapor Deposition法:CVD法)、分子線エピタキシー法(Molecular Beam Epitaxy法:MBE法)、溶液成長法等の結晶成長技術を用いて形成することができる。したがって、第1伝導層12及び第2伝導層14はそれぞれ、SiC基板10のポリタイプに応じたポリタイプを有して形成される。
【0019】
ベース領域16は、第2導電型としてのp型の不純物が添加されたSiCから形成される。p型の不純物としては、アルミニウム(Al)等を用いることができる。そして、エミッタ領域18は、n型の不純物が添加されたSiCから形成される。エミッタ領域18はベース領域16中に形成されるので、上面視にてエミッタ領域18は、ベース領域16の面積より小さい面積を有する。更に、ベース電極20は、ベース領域16の表面の一部の領域にオーミック接触して設けられる。同様に、エミッタ電極22は、エミッタ領域18の表面の一部の領域にオーミック接触して設けられる。
【0020】
ベース電極20及びエミッタ電極22はそれぞれ、金属材料の単層構造、又は積層構造から構成することができる。例えば、ベース電極20及びエミッタ電極22はそれぞれ、ニッケル層とアルミニウム層との2層構造を有して形成することができる。なお、ベース電極20及びエミッタ電極22はそれぞれ、n層構造(nは、3以上の整数)を有して形成することもできる。
【0021】
また、エミッタ電極22は、エミッタ電極22の端部22aから、ベース領域16とエミッタ領域18との境界17までの距離(以下、単に「当該距離」という)が、エミッタ領域18中の少数キャリアであるホールの平均の拡散距離以上となるエミッタ領域18の表面の位置に端部22aが配置されるように形成される。ここで、本発明者は、当該距離が10μmの場合、半導体装置1の電流増幅率が50であり、当該距離が3μmの場合、電流増幅率が15であり、当該距離が2μmの場合、電流増幅率が10であり、当該距離が1μmの場合、電流増幅率が5であるという実験結果を得た。これにより、本実施の形態では、電流増幅率を向上させることを目的として、一例として、エミッタ電極22は、端部22aと境界17との距離が2μm以上となるエミッタ領域18の表面の位置に形成することが好ましい。なお、本実施の形態に係る境界17は、半導体装置1の表面に位置する境界である。
【0022】
ここで、本実施の形態において、エミッタ領域18の不純物濃度は5×1017cm−3以上5×1019cm−3以下であることが好ましい。これは、本発明者が得た以下の知見に基づくものである。
【0023】
まず、バイポーラトランジスタのエミッタ電子電流密度(Jn)及びベース正孔電流密度(Jp)は、以下の式(1)及び式(2)で表すことができる。
【0024】
【数1】
【0025】
【数2】
【0026】
ここで、qは電荷量、niは真性キャリア濃度、Dpは正孔の拡散係数、Dnは電子の拡散係数、VBEはベース−エミッタ間の順方向電圧、kはボルツマン定数、Tは温度、Naはアクセプタ濃度、Ndはドナー濃度、WEはエミッタ幅、WBはベース幅である。また、EEvはエミッタ−ベース接合領域におけるエミッタの伝導帯エネルギー準位であり、EBvはエミッタ−ベース接合領域におけるベースの伝導帯エネルギー準位である。更に、EEcはエミッタ−ベース接合領域におけるエミッタの価電子帯エネルギー準位であり、EBcはエミッタ−ベース接合領域におけるベースの価電子帯エネルギー準位である。実際のエミッタ電流の値は、エミッタ電子電流密度にエミッタ領域の面積を乗じて求められ、実際のベース電流の値は、ベース正孔電流密度にベース領域の面積を乗じて求められる。
【0027】
ここで、コレクタ電流の値は、ベース領域内でキャリアの再結合が実質的に発生しない場合、エミッタ電流の値と略同一である。よって、エミッタ電子電流密度とベース正孔電流密度との比が電流増幅率として算出される。したがって、上記式(1)及び式(2)を参照すると明らかなように、電流増幅率は、エミッタ領域の不純物濃度、及びベース領域の不純物濃度、並びに、エミッタの伝導帯とベースの伝導帯との伝導帯エネルギー差と、エミッタの価電子帯とベースの価電子帯との価電子帯エネルギー差とに依存して決定される。
【0028】
そして、通常、エミッタ領域の不純物濃度及びベース領域の不純物濃度は、エミッタ領域及びベース領域を低抵抗化してバイポーラトランジスタの特性を向上させるべく、可能な限り高い濃度にされる。また、通常、エミッタ領域の不純物濃度をベース領域の不純物濃度より高い濃度にすることで電流増幅率の向上を図っている。しかしながら、本発明者は、SiCにおいては、SiCに不純物原子を添加してSiCの不純物濃度を高濃度化すると、エミッタの伝導帯及び価電子帯のエネルギー準位が狭バンドギャップ効果により変化して(すなわち、バンドギャップが狭まって)、電流増幅率が低下する知見を得た。そこで、本発明者は、図1に示すようなバイポーラトランジスタにおいて、ベース濃度及びエミッタ濃度を様々に変化させて、バイポーラトランジスタの電流増幅率の変化を測定した。
【0029】
図2は、本実施の形態に係る半導体装置において、エミッタ濃度及びベース濃度を様々に変化させた場合における電流増幅率の分布を示す。
【0030】
図2を参照すると、良好な電流増幅率(例えば、電流増幅率が1以上)が安定的に得られるエミッタ濃度には最適な濃度範囲があることを本発明者は発見した。すなわち、ベース領域の不純物濃度(図2におけるベース濃度)が1×1017cm−3以上1×1019cm−3以下であって、エミッタ領域の不純物濃度(図2におけるエミッタ濃度)が5×1017cm−3以上5×1019cm−3以下の不純物濃度であれば、電流増幅率が良好な値になることを、本発明者は発見した。
【0031】
より詳細には、上記式(1)を参照すると、エミッタ濃度であるドナー濃度(Nd)が高く、エミッタ深さであるエミッタ幅(WE)が広い場合、ベース電流であるベース正孔電流密度(Jp)は小さくなる。しかしながら、Ndを高くした場合、エミッタの価電子帯エネルギー準位(EEv)が低下して、正孔に対するエミッタの障壁が小さくなるので、Jpが増加する効果も生じる。したがって、Jpを低下させるためには、Ndを決定してWEを広くすることを要する。
【0032】
同様に上記式(2)を参照すると、ベース濃度であるアクセプタ濃度(Na)が低く、ベース幅(WB)が狭い場合、エミッタ電流であるエミッタ電子電流密度(Jn)は大きくなる。しかしながら、Naを低くした場合、WBを狭くすると耐圧が低下して、半導体装置1の動作が困難になる場合がある。したがって、Jnを増加させるためには、Naを決定してWBを狭くすることを要する。そして、電流増幅率(Jn/Jp)を増加させるには、Ndを高めるか、又はWEを広くするか、若しくは、Naを低くするか、又はWBを狭くすることを要するが、Ndを高くすると電流増幅率が増加しない場合がある。
【0033】
図2においては、WEを0.2μm、WBを0.3μmに設定して、良好な電流増幅率が安定的に得られるエミッタ濃度を検討した。この場合、WEを広げるか、又はWBを狭くすることにより、電流増幅率は上昇する。具体的に、WE又はWBは5μm以下程度であるので、エミッタ濃度の範囲は、5×1017cm−3以上5×1019cm−3以下であることが好ましいとの知見を、本発明者は得た。本発明の実施の形態に係る半導体装置1は、斯かる知見に基づくものである。
【0034】
また、本実施の形態においては、ベース領域16に接するエミッタ領域18の表面濃度を、真性ベース領域に接するエミッタ領域18の濃度よりも低くする、又は同程度にすることができる。ここで、表面濃度とは、エミッタ領域18の表面近傍における濃度であり、好ましくは、外部に露出している表面から1nm〜10nm程度、エミッタ領域18の内側における濃度である。また、真性ベース領域とは、エミッタ領域18直下のベース領域16である。図1を参照すると真性ベース領域は、一例として、エミッタ領域18とベース領域16とが接している面のうち半導体装置1の表面に略平行な領域に該当する(例えば、図1では、エミッタ電極22の下方であって、ベース領域16とエミッタ領域18とが接している領域が、真性ベース領域である)。そして、真性ベース領域に接するエミッタ領域18とは、真性ベース領域とエミッタ領域18とが接合する接合面の領域である。
【0035】
本実施の形態のようにベース領域16に接するエミッタ領域18の表面濃度を、真性ベース領域に接するエミッタ領域18の濃度よりも低くする又は同程度にすると、半導体装置1の表面側からSiC基板10の底部側に向かって不純物濃度が下がることがないので、SiC基板10に不純物を導入して半導体装置1を製造した場合であっても、バンドギャップナローイング効果を抑制することができる。
【0036】
なお、エミッタ領域18の不純物濃度は、半導体装置1の表面から裏面電極25側に向けて変化させることができる。例えば、エミッタ領域18の表面側から裏面電極25側に向けて徐々に不純物濃度を大きくすることができる。換言すると、エミッタ領域18の表面における不純物濃度(以下、「表面濃度」という)を、ベース領域16とエミッタ領域18との界面であって、エミッタ領域18の表面から半導体装置1の深さ方向に沿って最も離れた(つまり、最も深い)ベース領域16(以下、「真性ベース領域」という)に接するエミッタ領域18の不純物濃度よりも低くすることができる。
【0037】
(半導体装置の製造工程)
図3A及びBは、本発明の実施の形態に係る半導体装置の製造工程の流れの一例を示す。
【0038】
まず、所定のポリタイプを有するSiC基板10を準備する。次に、準備したSiC基板10上にn+型の第1伝導層12とn型の第2伝導層14とをこの順に結晶成長させる。これにより、図3Aの(a)に示すような半導体積層構造体1aが得られる。
【0039】
続いて、図3Aの(b)に示すように、半導体積層構造体1aの第2伝導層14の表面に、形成すべきベース領域16に対応する部分に開口30aを有するマスク30をフォトリソグラフィー法を用いて形成する。そして、イオン注入法を用いて開口30aから第2伝導層14の表面に向けてp型用の不純物原子を打ち込む。これにより、図3Aの(b)に示すように、第2伝導層14内にp型伝導領域としてのベース領域16が形成された半導体積層構造体1bが得られる。ここで、本実施の形態においてイオン注入は、加速エネルギーを段階的に変化させつつp型用の不純物原子を第2伝導層14の一部の領域に打ち込むことにより実施する。具体的には、加速エネルギーを段階的に小さくして(すなわち、加速エネルギーが段階的に小さくなる方向に変化させて)、不純物原子を第2伝導層14に打ち込むことにより、第2伝導層14中にベース領域16を形成する。
【0040】
例えば、イオン注入は、以下のように実施できる。まず、第1の加速エネルギーで、不純物イオンが第1のドーズ量となるように1段階目のイオン注入を実施する。次に、第1の加速エネルギーよりも小さい第2の加速エネルギーで、不純物イオンが第1のドーズ量よりも少ない第2のドーズ量となるように2段階目のイオン注入を実施する。そして、第2の加速エネルギーよりも小さい第3の加速エネルギーで、不純物イオンが第2のドーズ量よりも少ない第3のドーズ量となるように3段階目のイオン注入を実施する。なお、イオン注入は、3段階に限られず、n段階(但し、nは4以上の整数)実施することができる。
【0041】
次に、マスク30を除去して半導体積層構造体1bを洗浄する。そして、図3Bの(a)に示すように、マスク30を除去した半導体積層構造体1bの第2伝導層14の表面に、形成すべきエミッタ領域18に対応する部分に開口31aを有するマスク31をフォトリソグラフィー法を用いて形成する。そして、イオン注入法を用いて開口31aからベース領域16の表面に向けてn型用の不純物原子を打ち込む。これにより、図3Bの(a)に示すように、第2伝導層14内であると共にベース領域16内の一部の領域に、n型伝導領域としてのエミッタ領域18が形成された半導体積層構造体1cが得られる。ここで、エミッタ領域18を形成する場合に用いるイオン注入法も、ベース領域16を形成する場合と同様に、加速エネルギーを段階的に変化させて実施する。具体的には、エミッタ領域18を形成する場合も加速エネルギーを段階的に小さくして、n型用の不純物原子をベース領域16に打ち込むことにより実施する。
【0042】
続いて、マスク31を除去して半導体積層構造体1cを洗浄する。そして、フォトリソグラフィー法、真空蒸着法(又は、スパッタ法等の成膜技術)等を用いて、ベース領域16の表面の一部にベース電極20と、エミッタ領域18の表面の一部にエミッタ電極22とを形成する。更に、SiC基板10の裏面に裏面電極25を形成する。これにより、図3Bの(b)に示すような半導体装置1が得られる。
【0043】
なお、ベース領域16及びエミッタ領域18をイオン注入法を用いて形成した後、マスク31を除去した半導体積層構造体1cに対して、所定の雰囲気下、所定の温度、所定の時間のアニール処理を施すこともできる。また、ベース電極20とベース領域16との間、エミッタ電極22とエミッタ領域18との間、及び裏面電極25とSiC基板10の裏面との間のそれぞれをオーミック接触させるべく、所定の加熱処理を施すこともできる。
【0044】
(実施の形態の効果)
本実施の形態に係る半導体装置1は、SiC基板10内にイオン注入法により形成されたベース領域16及びエミッタ領域18を有すると共に、エミッタ領域18の不純物濃度が5×1017cm−3以上5×1019cm−3以下に制御されているので、SiCの狭バンドギャップ効果による影響を低減でき、良好な電流増幅率を発揮することができる。
【0045】
また、本実施の形態に係る半導体装置1の製造方法によれば、イオン注入法によりベース領域16及びエミッタ領域18を形成するので、半導体装置1の表面を実質的に平坦な表面(すなわち、凹凸の少ない表面)にすることができる。これにより、半導体装置1の表面に電極配線を施した場合であっても、配線の断線等を低減させることができるので、半導体装置1の製造歩留りを大幅に向上させることができる。また、例えば、SiC基板10上にベース領域及びエミッタ領域を連続的に結晶成長させ、エミッタ領域及びベース領域の一部をエッチング除去した後に除去した領域にエミッタ電極及びベース電極をそれぞれ形成する場合に比べ、本実施の形態に係る半導体装置1の製造方法はエッチング工程を要さないので、半導体装置1の製造工程を簡略化でき、半導体装置1の歩留りを向上させることができる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明の実施例に係る半導体装置について説明する。
【0047】
図4は、実施例に係る半導体装置の断面の概要を示す。
【0048】
実施例に係る半導体装置2は、図1に示す実施の形態に係る半導体装置1と略同様の構成を備える。よって、相違点を除き詳細な説明は省略する。
【0049】
半導体装置2は、4度オフのSiC基板10と、SiC基板10上に設けられるn+型SiC伝導層11と、n+型SiC伝導層11上に設けられ、5μmの厚さを有するn型SiC伝導層13と、n型SiC伝導層13中に設けられ、3μmの深さを有するp型のベース領域16と、ベース領域16中に設けられ、表面がベース領域16の表面と同一平面にあると共に1.2μmの深さを有するn型のエミッタ領域18とを備える。また、半導体装置2は、ベース領域16の表面の一部の領域に設けられるベース電極20と、エミッタ領域18の表面の一部の領域に設けられるエミッタ電極22と、SiC基板10の裏面に設けられる裏面電極25とを備える。
【0050】
半導体装置2のベース領域16は、イオン注入法を用い、加速エネルギーを20keVから300keVまで段階的に変化させて不純物原子としてのAlをn型SiC伝導層13に打ち込むことにより形成した。具体的に、まず、加速エネルギーを150keVに設定して、ドーズ量が1×1013cm−2となるように不純物であるアルミニウムイオン(Alイオン)をイオン注入した。次に、加速エネルギーを100keVに設定して、ドーズ量が4×1012cm−2となるようにAlイオンをイオン注入した。更に、加速エネルギーを50keVに設定して、ドーズ量が2×1012cm−2となるようにAlイオンをイオン注入した。その後、1700℃から1900℃の範囲の温度、アルゴン又は真空中でアニールを施した。
【0051】
また、エミッタ領域18も、不純物原子としてのPを用いてベース領域16と同様にしてイオン注入法を用いて形成した。また、ベース電極20及びエミッタ電極22はそれぞれ、ニッケル層とアルミニウム層との2層の金属層構造で形成した。そして、エミッタ電極22の端部X1からベース領域16とエミッタ領域18との境界17までの距離は2μmとした。
【0052】
図5は、実施例に係る半導体装置の不純物濃度分布を示し、具体的には、図5(a)は、図4のX1−X2方向(半導体装置の表面に水平な方向)における不純物濃度の分布を示し、図5(b)は、図4のY1−Y2方向(半導体装置の厚さに沿った方向)における不純物濃度の分布を示す。
【0053】
ここで、ベース領域16の不純物濃度、エミッタ領域18の不純物濃度を様々に変化させて半導体装置を製造した。以下に述べるエミッタ領域18の不純物濃度の値は、図5(a)及び図5(b)に示す「エミッタ濃度」に該当する値である。すなわち、図5(a)及び図5(b)に示すように、エミッタ濃度分布とベース濃度分布との交点に該当する部分の濃度を「エミッタ濃度」とした。このエミッタ濃度が、「真性ベース領域に接するエミッタ領域の濃度」に該当する。なお、「エミッタ濃度」においては、エミッタ濃度とベース濃度とが略同一の値となる。ただし、本実施例において「エミッタ濃度とベース濃度とが略同一」とは、エミッタ濃度(又はベース濃度)を基準としてベース濃度(又はエミッタ濃度)が、エミッタ濃度(又はベース濃度)の2〜3倍程度の濃度差であることを含むものとする。
【0054】
実施例に係る半導体装置2においては、「エミッタ濃度」は、エミッタ電極22の端部であるX1からベース電極20のエミッタ電極22側の端部であるX2に向かって3μmの距離であって、エミッタ電極22とエミッタ領域18との界面、すなわちエミッタ領域18の表面の位置Y1からSiC基板10の裏面Y2に向かって1.2μmの深さの位置の濃度である。
【0055】
その結果、エミッタ領域18の不純物濃度(エミッタ濃度)が5×1017cm−3未満の場合、エミッタ抵抗が非常に高いか、若しくは、半導体装置2に電流が実質的に流れず、電流増幅率が1未満であった。また、エミッタ濃度が5×1019cm−3を超える場合、エミッタ抵抗は低い値であったものの電流増幅率が1未満であった。一方、エミッタ濃度が5×1017cm−3以上5×1019cm−3以下の範囲内であれば、電流増幅率が1以上である半導体装置2を安定的に製造することができた。
【0056】
以上の結果は、エミッタ濃度を5×1017cm−3未満の低濃度にした場合、エミッタガンメル数が低下することに伴うベース電流密度の増加によって電流増幅率が低下したと考えられた。また、エミッタ濃度を5×1019cm−3を超える高濃度にすると、狭バンドギャップ効果によってベース電流密度が増加すると共にエミッタ電子電流も減少することにより、電流増幅率が低下したと考えられた。
【0057】
また、エミッタ電極22の端部X1と境界17との距離を様々に変化させたところ、当該距離が2μm未満の場合、電流増幅率が低下した。これは、n型のエミッタ領域18内に注入された少数キャリアである正孔の平均の拡散距離が多数キャリアの平均の拡散距離より大きいことに起因して、ベース電流密度が増大したことが原因と考えられた。
【0058】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0059】
1、2 半導体装置
1a、1b、1c 半導体積層構造体
10 SiC基板
11 n+型SiC伝導層
12 第1伝導層
13 n型SiC伝導層
14 第2伝導層
16 ベース領域
17 境界
18 エミッタ領域
20 ベース電極
22 エミッタ電極
22a 端部
30、31 マスク
30a、31a 開口
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板と、
前記半導体基板上に設けられ、炭化ケイ素から形成される第1導電型の第1伝導層と、
前記第1伝導層上に設けられ、前記第1伝導層の不純物濃度より低い不純物濃度を有し、炭化ケイ素から形成される第1導電型の第2伝導層と、
前記第2伝導層中に設けられ、前記第1導電型とは異なる導電型の第2導電型のベース領域と、
前記ベース領域中に設けられ、表面が前記ベース領域の表面と同一平面にあると共に、5×1017cm−3以上5×1019cm−3以下の不純物濃度を有する第1導電型のエミッタ領域と
を備える半導体装置。
【請求項2】
前記ベース領域は、1×1017cm−3以上1×1019cm−3以下の不純物濃度を有する請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記エミッタ領域の表面の一部に設けられるエミッタ電極
を更に備え、
前記エミッタ電極の端部から、前記ベース領域と前記エミッタ領域との境界までの距離が、前記エミッタ領域中の少数キャリアの平均の拡散距離以上である請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記ベース領域に接する前記エミッタ領域の表面濃度が、前記ベース領域と前記エミッタ領域との間に形成される真性ベース領域に接する前記エミッタ領域の濃度よりも低い請求項3に記載の半導体装置。
【請求項5】
半導体基板を準備する工程と、
前記半導体基板上に炭化ケイ素から形成される第1導電型の第1伝導層を形成する工程と、
前記第1伝導層上に前記第1伝導層の不純物濃度より低い不純物濃度を有し、炭化ケイ素から形成される第1導電型の第2伝導層を形成する工程と、
前記第2伝導層の一部の領域に、加速エネルギーを段階的に変化させつつ前記第1導電型とは異なる導電型の第2導電型の不純物原子をイオン注入してベース領域を形成する工程と、
表面が前記ベース領域の表面と同一平面上にあると共に、前記ベース領域の一部の領域に加速エネルギーを段階的に変化させつつ前記第1導電型の不純物原子をイオン注入して5×1017cm−3以上5×1019cm−3以下の不純物濃度を有するエミッタ領域を形成する工程と
を備える半導体装置の製造方法。
【請求項1】
半導体基板と、
前記半導体基板上に設けられ、炭化ケイ素から形成される第1導電型の第1伝導層と、
前記第1伝導層上に設けられ、前記第1伝導層の不純物濃度より低い不純物濃度を有し、炭化ケイ素から形成される第1導電型の第2伝導層と、
前記第2伝導層中に設けられ、前記第1導電型とは異なる導電型の第2導電型のベース領域と、
前記ベース領域中に設けられ、表面が前記ベース領域の表面と同一平面にあると共に、5×1017cm−3以上5×1019cm−3以下の不純物濃度を有する第1導電型のエミッタ領域と
を備える半導体装置。
【請求項2】
前記ベース領域は、1×1017cm−3以上1×1019cm−3以下の不純物濃度を有する請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記エミッタ領域の表面の一部に設けられるエミッタ電極
を更に備え、
前記エミッタ電極の端部から、前記ベース領域と前記エミッタ領域との境界までの距離が、前記エミッタ領域中の少数キャリアの平均の拡散距離以上である請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記ベース領域に接する前記エミッタ領域の表面濃度が、前記ベース領域と前記エミッタ領域との間に形成される真性ベース領域に接する前記エミッタ領域の濃度よりも低い請求項3に記載の半導体装置。
【請求項5】
半導体基板を準備する工程と、
前記半導体基板上に炭化ケイ素から形成される第1導電型の第1伝導層を形成する工程と、
前記第1伝導層上に前記第1伝導層の不純物濃度より低い不純物濃度を有し、炭化ケイ素から形成される第1導電型の第2伝導層を形成する工程と、
前記第2伝導層の一部の領域に、加速エネルギーを段階的に変化させつつ前記第1導電型とは異なる導電型の第2導電型の不純物原子をイオン注入してベース領域を形成する工程と、
表面が前記ベース領域の表面と同一平面上にあると共に、前記ベース領域の一部の領域に加速エネルギーを段階的に変化させつつ前記第1導電型の不純物原子をイオン注入して5×1017cm−3以上5×1019cm−3以下の不純物濃度を有するエミッタ領域を形成する工程と
を備える半導体装置の製造方法。
【図1】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図2】
【公開番号】特開2010−192710(P2010−192710A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−35824(P2009−35824)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】
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