説明

土壌浄化方法

【課題】 高濃度の有機塩素系汚染土を原位置で掘削せずに、環境基準レベルまで低減することにある。
【解決手段】 本発明は、土壌環境基準の100倍以上の高濃度の有機塩素系化合物で汚染された土壌に、酸化剤を添加混合した後に、還元剤と固化材とから成る材料を添加混合することを特徴とする。酸化剤は、フェントン試薬、過酸化水素、オゾン、過マンガン酸塩、過硫酸塩、過塩素酸塩または次亜塩素酸塩である。還元剤は、金属系還元剤である。固結材は、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、硫酸カルシウム、またはこれらを主成分に含む材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌中の有機塩素系化合物の原位置分解による浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機塩素系化合物で汚染された土壌や地下水を浄化する方法としては、例えば、過酸化水素を用いた有機塩素系化合物の土壌浄化方法(例えば、特許文献1参照)、鉄粉およびまたは鉄粉スラリーと低アルカリ性固化材を用いた有機塩素系化合物の土壌浄化施工方法(例えば、特許文献2参照)、鉄粉およびまたは鉄粉スラリーと低アルカリ性固化材を用いたVOCの土壌浄化施工方法(例えば、特許文献3参照)、原位置で汚染土壌にフェントン試薬(過酸化水素+鉄塩、鉄粉)を混合し、浄化する工法(例えば、特許文献4参照)、鉄粉などの金属系還元剤の地盤中への混合・注入に伴う強度低下を生じさせない工法として、酸化鉄と石膏系固化材とを用いたVOC処理技術(非特許文献1)が提案されている。
【0003】
最近、環境基準の100〜1000倍以上の高濃度汚染土壌を原位置で短期間に環境基準以下までに分解する要望がある。この場合には、土壌に高濃度に含まれる有機塩素系化合物を分解し、環境基準レベルまで低減させる必要がある。
【特許文献1】特許第3192078号公報
【特許文献2】特開2004−154744号公報
【特許文献3】特開2000−210683号公報
【特許文献4】特開2003−251327号公報
【非特許文献1】『酸化鉄と中性系固化材を用いたVOC汚染土壌の原位置処理方法』(地下水・土壌汚染とその防止対策に関する研究集会 第10回講演集、第505頁〜第508頁、2004年7月14日〜16日大阪国際交流センター)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1では、フェントン試薬の注入または、噴射撹拌による原位置酸化処理であり、高濃度汚染を短期間で環境基準以下まで低減させることは困難であり、また、噴射撹拌を実施した場所は泥濘化し、地盤強度が極端に低下する問題点がある。
また、特許文献2では、鉄粉およびまたは鉄粉スラリーと低アルカリ性固化材を同時に混合し、浄化と地盤強度の回復を図るものであるが、高濃度汚染を短期間で環境基準以下まで低減させるのは困難である。
【0005】
また、特許文献3では、直接土壌に過酸化水素および過マンガン酸塩を散布するなどして添加するため、過酸化水素および過マンガン酸塩が均一にならないといった問題や所定の深さの土壌において充分に浄化を行うことができないといった問題があった。
また、特許文献4では、原位置でフェントン試薬をスラリー混合し浄化するものであるが、特許文献1と同様に高濃度汚染を短期間で環境基準以下まで低減させることは困難である。また、特許文献4の明細書には、「鉄粉を混合撹拌し、その後過酸化水素を添加混合」との記載があるが、この際の鉄粉はフェントン試薬の反応剤として使用されるものであり、有機塩素系物質の還元分解は狙いとはされていない。また、鉄粉⇒過酸化水素の順番では、鉄粉の還元能力が過酸化水素により消費され、長期的なかつ確実な有機塩素化合物の分解は生じ得ない。
【0006】
一方、非1特許文献1に開示される技術は、深層混合地盤改良機により石膏系固化材と鉄粉または鉄粉スラリーとを原位置混合・攪拌することで、浄化並びに強度回復を図る工法であるが、鉄粉または鉄粉スラリーは酸化鉄、固化材は石膏系固化材に限定している。
また、既往の浄化剤を用いて、環境基準の100〜1000倍以上の高濃度汚染土壌を原位置で短期間に環境基準以下までに分解することも考えられるが、以下の理由により困難である。
・酸化剤(過酸化水素)
過酸化水素に代表される酸化剤を直接、汚染土壌に混合すると、短時間で濃度を1/10程度までは低減することができるが、目標値の100倍以上の高濃度の汚染土の場合には、目標値以下まで濃度を低減することは極めて困難である。過酸化水素は、劇物、危険物であり、使用上注意が必要であるが、反応性が高く、短時間で分解し、無害な水と酸素になるため、過酸化水素混合により有害物は残留しない。フェントン反応を利用する場合には、溶解性鉄イオンが残留する。また、処理後地盤が極めて軟弱な状態になるという問題点がある。
・酸化剤(過マンガン酸カリウム)
過マンガン酸カリウムは、高濃度のものを濃度低減できるが、高濃度汚染に対しては、過剰な量が必要になる。経済的にみてペイしない。処理後には、未反応物の過マンガン酸カリウム(劇物)が残留する可能性が高い。また、反応後に不溶性の二酸化マンガンなどが残留し、黒水などの原因になるという問題点がある。
・(還元剤)鉄粉およびまたは鉄粉スラリー
鉄粉や鉄粉スラリーに代表される還元剤を直接、汚染土壌に混合すると、初期濃度が環境基準の100倍程度であれば、数週間〜半年程度で環境基準以下まで低減できるが、環境基準の100〜1000倍を大幅に超える高濃度土壌の濃度を環境基準以下に低減することは困難である。高濃度汚染に対しては、分解途中の副生成物が生じ、浄化期間が長いため周辺に拡散する可能性がある。鉄粉およびまたは鉄粉スラリーそのものは劇毒物、有害物には該当しない。
【0007】
従って、従来技術では、高濃度の有機塩素系化合物の汚染土壌の対策において、原位置で環境基準レベルまで分解できない。そこで、掘削除去または、その代替方法として汚染源をスラリー状にして入れ替えるような手段しかない。
また、単に酸化分解処理後に還元分解を行った場合について考察する。
鉄粉を先に混合し、その後過酸化水素を添加する方法は、過酸化水素+鉄塩による酸化反応:フェントン反応を利用した浄化方法である。フェントン反応後、鉄粉は酸化されてしまい鉄粉による還元効果はない。
【0008】
過酸化水素処理後に鉄粉混合処理を行うと、フェントン処理による溶解性鉄イオンが鉄粉およびまたは鉄粉スラリーの還元分解を阻害するため、鉄粉の分解効率が著しく低下し、所定の効果が期待できない。
以上の理由により、単に酸化処理後に還元処理を行うと還元剤が酸化され、期待されるような分解効果が得られないため、土壌浄化工法については、実現は不可能であると考えられていた。
【0009】
本発明は斯かる従来の問題点を解決するために為されたもので、その目的は、高濃度の有機塩素系汚染土を原位置で掘削せずに、環境基準レベルまで低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、土壌環境基準の100倍以上の高濃度の有機塩素系化合物で汚染された土壌に、酸化剤を添加混合した後に、還元剤と固化材とから成る材料を添加混合することを特徴とする。
請求項2に係る発明は、請求項1記載の土壌浄化方法において、前記酸化剤は、フェントン試薬、過酸化水素、オゾン、過マンガン酸塩、過硫酸塩、過塩素酸塩または次亜塩素酸塩であることを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項1記載の土壌浄化方法において、前記還元剤は、金属系還元剤であることを特徴とする。
請求項4に係る発明は、請求項1記載の土壌浄化方法において、前記固化材は、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、硫酸カルシウム、またはこれらを主成分に含む材であることを特徴とする。
【0012】
請求項5に係る発明は、土壌環境基準の100倍以上の高濃度の有機塩素系化合物で汚染された土壌地盤に、混合処理機の貫入時に鉄塩スラリーを吐出し、引き抜き時に過酸化水素を注入しながら混合する手順と、前記混合処理機の貫入時に金属系還元剤と固化材スラリーとを吐出し、引き抜き時に混合する手順とを有することを特徴とする。
請求項6に係る発明は、土壌環境基準の100倍以上の高濃度の有機塩素系化合物で汚染された土壌地盤に、混合処理機の貫入時にエアーを伴う水堀を行い、引き抜き時に鉄塩スラリーを吐出する手順と、前記混合処理機の貫入時に過酸化水素を注入し、引き抜き時にエアーを吐出しながら混合する手順と、前記混合処理機の貫入時に金属系還元剤と固化材スラリーとを吐出し、引き抜き時に混合する手順とを有することを特徴とする。
【0013】
請求項7に係る発明は、土壌環境基準の100倍以上の高濃度の有機塩素系化合物で汚染された土壌地盤に、混合処理機の貫入時に鉄塩スラリーを吐出し、引き抜き時に過酸化水素を注入しながら混合する手順と、前記混合処理機の貫入時に固化材スラリーとを吐出し、引き抜き時に金属系還元剤スラリーを吐出しながら混合する手順とを有することを特徴とする。
【0014】
請求項8に係る発明は、土壌環境基準の100倍以上の高濃度の有機塩素系化合物で汚染された土壌地盤に、混合処理機の貫入時にエアーを伴う水堀を行い、引き抜き時に鉄塩スラリーを吐出する手順と、前記混合処理機の貫入時に過酸化水素を注入し、引き抜き時にエアーを吐出しながら混合する手順と、前記混合処理機の貫入時に固化材スラリーとを吐出し、引き抜き時に金属系還元剤スラリーを吐出しながら混合する手順とを有することを特徴とする。
【0015】
本発明は、酸化剤混合時に添加する鉄イオン、また酸化により土壌から溶出するカルシウム、マグネシウムなどの金属イオン、炭酸イオンが金属還元剤の表面を覆うことを、固化材を併用することで防止することができる。
固化材としては、純品では、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、硫酸カルシウム、またはこれらを主成分に含む製品が使用可能である。しかし、金属還元剤(金属粉、スラリー状金属粉)では、高アルカリ性では分解に阻害のあるものがあるため、金属還元剤と固化材との種別を決めている。
【0016】
また、共存イオンによる金属還元剤の分解阻害を防ぐといった考えから、酸化剤としては、フェントン試薬、過酸化水素、オゾン、過マンガン酸塩、過硫酸塩、過塩素酸塩、次亜塩素酸塩が適用できる。
また、土壌環境基準では、有機塩素系化合物の土壌溶出量として表1のように定義されている。
【0017】
【表1】

【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、フェントン試薬混合後に、連続して金属系還元剤混合処理を行うことで、環境基準の100〜1000倍以上の高濃度汚染土壌を地上に掘り上げることなく、原位置で短期間に環境基準以下までに分解することができる。
本発明によれば、土壌の直接混合による低下した地盤強度を回復できる。通常、地盤を直接重機で混合すると、地盤中の土粒子の構造が変化し、粘着力が低下し、間隙率が増大するため地盤の強度が低下し、混合場所には重機が乗れなくなったり、重量のある建物の建設ができない。または、地盤沈下を引き起こすなどの問題が生じる場合がある。本工法では、還元剤に固化材を併用して混合することで、施工後に地盤強度を回復させ、将来の土地利用において阻害のない状態を実現している。
【0019】
本発明によれば、周囲への汚染の拡散を防ぐことができる。高濃度汚染の処理において、施工の実施により周辺に拡散する前に、酸化剤で非常に短時間に濃度を低減することで、周辺へ汚染を拡散させない。また、汚染土壌を地上へ掘削する必要がないため、掘削土の移動に伴う汚染物の敷地外への移動や大気へ漏洩の危険性がない。
本発明によれば、還元剤は、長期にわたり分解効果を維持するため、直接混合部位のみならず、混合部位の周囲に残留している汚染物質の分解が促進される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を実施形態に基づいて説明する。
(1)浄化剤の配合および施工手順
1.はじめに高濃度汚染土にフェントン試薬(過酸化水素、鉄塩)を直接混合する。
フェントン試薬:1〜50%過酸化水素25〜200L/m3 、鉄塩:例えば硫酸第一鉄・7水和物5〜25kg/m3
(期待される効果)
・処理対象物質の濃度の分解による大幅低減
・発熱により、処理対象物の分解効率が向上し、同時に移動性・揮発が促進される。
【0021】
・発泡により処理土壌が微細化し接触効率が向上する、オフガスとしても一部回収しうる。
2.過酸化水素の反応終了後に、汚染箇所に鉄粉およびまたは鉄粉スラリーと固化材(高アルカリ性セメント系、低アルカリセメント系、石灰系、石膏系)を混合スラリーまたは粉体として添加混合する。
【0022】
(期待される効果)
・鉄粉およびまたは鉄粉スラリーにより、1.で濃度が低減した汚染物質を環境基準以下まで短期間で還元分解
・固化材の作用により、軟弱化した地盤強度を回復
・鉄粉およびまたは鉄粉スラリーと固化材を適切な組み合わせで使用することにより、フェントン処理による溶解性鉄イオンによる鉄粉およびまたは鉄粉スラリーの分解阻害を防ぐ。
【0023】
フェントン処理後に鉄粉およびまたは鉄粉スラリーと固化材との組合せを表2に示す。
【0024】
【表2】

鉄粉およびまたは鉄粉スラリーとしては、下記の3つがある。
高活性鉄粉スラリー:
平均粒径が0.05〜0.50μmであってα−Fe含有量が30〜90重量%であるスラリー状の金属系還元剤
鉄粉スラリー:
平均粒径が0.5〜10μmでα−Fe含有量が25重量%以上であるスラリー状の金属系還元剤
鉄粉:
平均粒径が10μm以上であってα−Fe含有量が50重量%以上である粉体またはスラリー状の金属系還元剤
固化材についての説明(図1に固化材の分類を示す。)
固化材はセメント系、石灰系、石膏系に大別され、セメント系の固化材は高アルカリ性セメントと低アルカリ性セメントがある。高アルカリ性セメントにはポルトランドセメント(普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメントなど)、混合セメント(高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメントなど)、特殊セメント(アルミナセメント、セメント系固化材、耐海水セメント、高炉スラグ−石膏系セメント、高炉スラグ−石灰系セメント、高硫酸塩スラグセメント、エコセメントなど)、およびこれらを組み合わせたものがあり、低アルカリ性セメントにはマグネシアセメント、マグネシア系セメントなどがある。石灰系の固化材には消石灰、生石灰、ドロマイトなどがある。石膏系の固化材には無水石膏、半水石膏、二水石膏などがある。また、セメント系、石灰系、石膏系を組み合わせたものも含まれる。
(2)施工方法
汚染地盤を掘削せず、上記の有機塩素系化合物汚染土用浄化材を粉体として、または水を添加したスラリーとして汚染地盤に吐出して原位置で混合する施工方法。なお、原位置混合処理工法として、以下の公知の工法が挙げられる。
・機械攪拌式深層混合処理工法(例えばCDM工法など)
スラリー状または粉体の改良材を現地盤中に吐出または圧送し、回転軸先端の掘削攪拌翼(単軸・多軸)やチェーン式切削攪拌機、カッター式切削攪拌機などにより強制的に攪拌混合して改良体を形成する工法。なお、改良材の吐出は貫入時に行なうものや引抜き時に行なうもの、貫入・引抜き時の両工程で行なう場合がある。
・高圧噴射式深層混合処理工法(例えばJSG工法など)
スラリー状の改良材を高圧墳流体(ジェット噴流)として水平または交差させて噴射し、高圧噴流体の持つエネルギーを利用して現地盤を切削しながら土と改良材を攪拌混合して改良体を形成したり、切削形成された人為的空間に改良材を注入、あるいは地盤内の土と改良材を機械撹拌を併用して攪拌混合して改良体を形成する工法。
【0025】
なお、噴射形態や使用圧力などにより、水−空気−材料噴射系、空気−材料噴射系、材料噴射系などに分けられる。
・表層処理工法
粉体またはスラリー状の改良材を現地盤に散布、または地盤内に吐出し、バックホウやスタビライザー(表層改良機)などにより土と混合して改良体を形成する工法。
(3)浄化剤の混合手順
フェントン試薬添加混合(A工程)→金属系還元剤+固化材添加混合(B工程)のタイミングにも幾つかの方法がある。
【0026】
1.A工程実施後の翌日以降にB工程を実施する場合
A工程により、混合後数分〜30分程度をピークに反応が起き、熱やガスが発生する。施工翌日には、ほぼ酸化反応は終了するため、未反応の酸化剤によるB工程の阻害は生じない。
図2は、原位置混合による注入手順1(過酸化水素の使用量が50L/m3以下の場合)を示す。
【0027】
図3は、原位置混合による注入手順2(超高濃度汚染対応:過酸化水素の使用量が50L/m3以上の場合)を示す。
原位置混合による注入手順2では、図4に示すように平面的な施工手順を採用できる。
2.A工程実施後その直後にB工程実施する場合
A工程により、混合後数分〜30分程度をピークに反応が起き、熱やガスが発生する。A工程とB工程を連続して実施する場合は、反応のピーク直後に施工することになるために、依然フェントン酸化の効果が持続しており、B工程の実施には酸化剤の効果をキャンセルしなければならない。よって、B工程を固化材の混合を先に行い、過酸化水素の自己分解を促進し、酸化剤の効果をキャンセルして、次に金属還元剤を混合するものとする。
【0028】
図5は、原位置混合による注入手順3(過酸化水素の使用量が50L/m3以下の場合)を示す。
図6は、原位置混合による注入手順4(超高濃度汚染対応:過酸化水素の使用量が50L/m3以上の場合)を示す。
原位置混合による注入手順4では、図7に示すように平面的な施工手順を採用できる。
【実施例】
【0029】
(室内実験)
・過酸化水素単独での分解効率→環境基準までは到達しない
・鉄粉およびまたは鉄粉スラリー単独→分解が進んでいない
・過酸化水素→鉄粉(鉄粉単独では分解が進まないが、固化材と併用すると分解)
(1)酸化剤分解室内実験
1.実験方法
模擬汚染土 :粘土 含有量TCE5g/kg(溶出で500mg/L:環境基準の 1万倍)を1日当たり2kg使用
酸化剤(添加量):過マンガン酸カリウム(10〜100g/kg)、35%過酸化水素 (10〜100mL/kg)
混合方法 :密閉型ミキサーで30分撹拌→土壌溶出試験
2.実験結果
過マンガン酸カリウムは、図8(a)に示すように、添加量30g/kgで、混合直後には1mg/Lまで低減するが、添加量をそれ以上増やしても、濃度は下げ止まっている。
【0030】
過酸化水素は、図8(b)に示すように、添加量を20mL/kg→100mL/kgと増やすのに応じて濃度は低減するが、100mL/kgで1mg/Lが低減の限界であった。
酸化剤の混合のみでは、TCEの環境基準は0.03mg/Lであり、あと濃度を1/30以下に低減する必要がある。
(2)酸化剤(フェントン試薬)混合後に、鉄粉スラリーを混合した実験結果
1)実験方法
1.材料
模擬汚染土 :赤玉土 含有量TCE0.5g/kg添加
酸化剤 :フェントン試薬(過酸化水素、鉄塩)
鉄粉スラリー:高活性鉄粉スラリー
混合方法 :密閉型ミキサーで30分撹拌→土壌溶出試験
2.フェントン酸化処理 混合手順
・汚染土 4kg
・硫酸第一鉄 25kg/m3 :硫酸第一鉄・7水和物100g/水200mL
・リン酸 1kg/m3 :リン酸4g→混合2分
・過酸化水素 100L/m3 :35%過酸化水素400mL10分間混合
3.フェントン処理土サンプリング
・発泡が納まってからサンプリング(過酸化水素処理)
4.鉄粉スラリー処理土壌の調製
図9は、鉄粉スラリー処理配合を示す。表3は、実験手順を示す。
【0031】
図9に示すように、CASE1は、フェントン処理後、1日以上時間をあけ、過酸化水素が分解した後に、TCEを再添加。
図9に示すように、CASE2には、過酸化水素は添加せず、鉄粉スラリー混合時に濃度を確認し、使用。
固化材には、マグネシアセメントA、マグネシアセメントB、B種高炉セメント、固化材なしの条件で行った。
【0032】
【表3】

2)実験結果
1.過酸化水素処理結果
TCE溶出濃度
図10に示すように、処理前10mg/L→処理後0.1〜1mg/Lまで低減したが、環境基準(0.03mg/L以下)の達成は困難であった。
2.鉄粉スラリー処理結果
図11(A)〜(D)に基づいて説明する。図において、CASE1は、過酸化水素処理あり、CASE2は、過酸化水素処理なし、対照は、鉄粉スラリーなしを表す。
(A)固化材なしの場合
フェントン処理ありでは、フェントン処理なしの場合に比べ濃度の低減が遅く、鉄粉スラリーの還元作用が阻害を生じている。
(B)マグネシアセメントAを添加した場合
フェントン処理の有無に拘わらず、分解結果に違いはなく、フェントン処理の阻害が解消。
(C)マグネシアセメントBを添加した場合
フェントン処理の有無に拘わらず、分解結果に違いはなく、フェントン処理の阻害が解消。
(D)高炉B種セメントを添加した場合
フェントン処理の有無に拘わらず、分解結果に違いはなく、フェントン処理の阻害が解消。
【0033】
以上の結果より、フェントン処理を行うと、その後の鉄粉スラリーによる還元分解速度に阻害が生じることが明らかである。しかし、そこに当該鉄粉スラリーの分解に阻害をあたえない固化材(マグネシア系セメントA、マグネシア系セメントB、高炉B種セメント)を使用することで、フェントン処理による阻害を解消することができることが、実験結果により確認できる。
5.2 実工事での施工例(詳細は図12参照)
1.汚染状況
高濃度のVOCで汚染された土壌の原位置浄化
汚染状態: 原液状のPCEを含む粘性土 最大溶出濃度 174mg/L
対象深度: Aエリア(3×3m×地下2m〜12m)、およびEエリア(2×4m× 地下2m〜12m)
2.施工方法
施工機械: 地盤改良機(単軸回転撹拌翼にて浄化材スラリーを原位置混合)
施工方法:
1.硫酸第一鉄溶液混合15kg/m3
2.過酸化水素(35%)溶液を汚染箇所で原位置混合100L/m3〜200L/m3
3.反応終了後(基本的には翌日、最短で6時間後)に高活性鉄粉スラリー10kg/ m3+マグネシア系セメントA(60〜90kg/m3)に水60〜90L/m3
加えスラリー化し、汚染箇所に混合
3.実験結果
表4に示すように、PCE濃度溶出濃度は、下記の通りであった。
【0034】
処理前:PCE溶出量平均52.6mg/L(最大174mg/L)
処理後(1週間後):PCE平均0.005mg/L
(3ヶ月) :PCE平均0.0005mg/L以下
表4に示すように、TCE濃度溶出濃度は、下記の通りであった。
処理前:TCE溶出量平均7.6mg/L(最大26.2mg/L)
処理後(1週間後):TCE平均0.0002mg/L
(3ヶ月) :TCE平均0.0001mg/L以下
図12、図13(a)(b)に示すように、対策範囲については3ヶ月後には、環境基準以下を達成した。
【0035】
【表4】

4.現地の処理土を用いた室内配合試験
現地の過酸化水素処理土に対し鉄粉スラリーと固化材を混合し、濃度の低減を測定
使用した材料:配合はグラフ中に記載
・鉄粉スラリー:高活性鉄粉スラリー
・固化材:マグネシア系セメントA
結果
図14に示すように、鉄粉スラリー単独では、20日で1/10程度の低減に留まったが、固化材と併用した場合には、鉄粉スラリー3kg/m3の添加量で約10日、鉄粉スラリー6kg/m3,10kg/m3の添加量では7日後には初期値1/100以下に低減し環境基準以下となることが確認できた。
【0036】
表5は、PCE土壌溶出濃度変化を示す。
【0037】
【表5】

表5において、鉄粉スラリーは、高活性鉄粉スラリーを表す。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】固化材の分類を示す図である。
【図2】原位置混合による注入手順1を示す図である。
【図3】原位置混合による注入手順2を示す図である。
【図4】原位置混合による注入手順2における平面的な施工手順を示す図である。
【図5】原位置混合による注入手順3を示す図である。
【図6】原位置混合による注入手順4を示す図である。
【図7】原位置混合による注入手順4における平面的な施工手順を示す図である。
【図8】(a)過マンガン酸カリ添加量とTEC溶出濃度との関係を示すグラフ、(b)過酸化水素添加量とTEC溶出濃度との関係を示すグラフである。
【図9】鉄粉スラリー処理配合を示す図である。
【図10】過酸化水素添加量とTEC残存濃度との関係を示すグラフである。
【図11】鉄粉スラリー処理結果を示すグラフである。
【図12】実工事での施工例を示す図である。
【図13】(a)図12におけるPCE溶出濃度との関係を示すグラフ、(b)図13におけるTCE溶出濃度との関係を示すグラフである。
【図14】鉄粉スラリー+固化材、鉄粉スラリー単独、無添加の場合のPCE溶出濃度との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌環境基準の100倍以上の高濃度の有機塩素系化合物で汚染された土壌に、酸化剤を添加混合した後に、還元剤と固化材とから成る材料を添加混合することを特徴とする土壌浄化方法。
【請求項2】
請求項1記載の土壌浄化方法において、前記酸化剤は、フェントン試薬、過酸化水素、オゾン、過マンガン酸塩、過硫酸塩、過塩素酸塩または次亜塩素酸塩であることを特徴とする土壌浄化方法。
【請求項3】
請求項1記載の土壌浄化方法において、前記還元剤は、金属系還元剤であることを特徴とする土壌浄化方法。
【請求項4】
請求項1記載の土壌浄化方法において、前記固化材は、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、硫酸カルシウム、またはこれらを主成分に含む材であることを特徴とする土壌浄化方法。
【請求項5】
土壌環境基準の100倍以上の高濃度の有機塩素系化合物で汚染された土壌地盤に、混合処理機の貫入時に鉄塩スラリーを吐出し、引き抜き時に過酸化水素を注入しながら混合する手順と、
前記混合処理機の貫入時に金属系還元剤と固化材スラリーとを吐出し、引き抜き時に混合する手順と
を有することを特徴とする土壌浄化方法。
【請求項6】
土壌環境基準の100倍以上の高濃度の有機塩素系化合物で汚染された土壌地盤に、混合処理機の貫入時にエアーを伴う水堀を行い、引き抜き時に鉄塩スラリーを吐出する手順と、
前記混合処理機の貫入時に過酸化水素を注入し、引き抜き時にエアーを吐出しながら混合する手順と、
前記混合処理機の貫入時に金属系還元剤と固化材スラリーとを吐出し、引き抜き時に混合する手順と
を有することを特徴とする土壌浄化方法。
【請求項7】
土壌環境基準の100倍以上の高濃度の有機塩素系化合物で汚染された土壌地盤に、混合処理機の貫入時に鉄塩スラリーを吐出し、引き抜き時に過酸化水素を注入しながら混合する手順と、
前記混合処理機の貫入時に固化材スラリーとを吐出し、引き抜き時に金属系還元剤スラリーを吐出しながら混合する手順と
を有することを特徴とする土壌浄化方法。
【請求項8】
土壌環境基準の100倍以上の高濃度の有機塩素系化合物で汚染された土壌地盤に、混合処理機の貫入時にエアーを伴う水堀を行い、引き抜き時に鉄塩スラリーを吐出する手順と、
前記混合処理機の貫入時に過酸化水素を注入し、引き抜き時にエアーを吐出しながら混合する手順と、
前記混合処理機の貫入時に固化材スラリーとを吐出し、引き抜き時に金属系還元剤スラリーを吐出しながら混合する手順と
を有することを特徴とする土壌浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−88108(P2006−88108A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−280067(P2004−280067)
【出願日】平成16年9月27日(2004.9.27)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【出願人】(000150110)株式会社竹中土木 (101)
【Fターム(参考)】