説明

多関節マニピュレータの先端位置制御方法および多関節マニピュレータ

【課題】多関節マニピュレータの先端を所定の位置に精度よく位置制御することのできる多関節マニピュレータの先端位置制御方法を提供する。
【解決手段】軸回りに回転する複数の関節軸2,4と、これらの関節軸2,4からその径方向に延伸する複数のアーム1,3とを備えた多関節マニピュレータ5の先端を位置制御する方法であって、アーム1,3の各先端部に装着されたジャイロセンサ9,10の出力から関節軸2,4の回転角度と回転速度を求めて多関節マニピュレータ5の先端を位置制御するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業用ロボット、特に据付型産業用ロボットの多関節ロボットアームとして用いられる多関節マニピュレータの先端位置制御方法および多関節マニピュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
産業用ロボットの多関節ロボットアームとして用いられる多関節マニピュレータは、一般に、鉛直または水平な軸回りに回転する複数の関節軸と、これらの関節軸からその径方向に延伸する複数のアームとを備えた構成となっている。
このような多関節マニピュレータの先端を所定の位置に位置制御する方法としては、各関節軸の軸トルクをアームのリスト部に装着された力覚センサにより検出すると共に、各関節軸の角度を関節角度センサにより検出して、多関節マニピュレータの先端を位置制御する方法が知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平1−289688号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、関節軸の軸トルクをアームのリスト部に装着された力覚センサにより検出しようとすると、アームが鉛直方向に回動動作した場合には力覚センサが重力の影響を受けてしまうため、多関節マニピュレータの先端を精度よく位置制御することは困難である。
本発明は上述した問題点に鑑みてなされたもので、多関節マニピュレータの先端を所定の位置に精度よく位置制御することのできる多関節マニピュレータの先端位置制御方法を提供することを目的とするものである。また、本発明は各アームの先端を所定の位置に精度よく位置制御することのできる多関節マニピュレータを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するため、本発明の一態様による多関節マニピュレータの先端位置制御方法は、軸回りに回転する複数の関節軸と、これらの関節軸から該関節軸の径方向に延伸する複数のアームとを備えた多関節マニピュレータの先端を位置制御する方法であって、前記アームに装着されたジャイロセンサの出力から前記関節軸の回転角度と回転速度を求めて前記多関節マニピュレータの先端を位置制御するようにしたことを特徴とするものである。
【0005】
本発明の一態様による多関節マニピュレータの先端位置制御方法によると、アームの角速度を検出する手段して加速度センサを用いた場合のようにアームが鉛直方向に回動動作しても重力の影響を受けることがないので、多関節マニピュレータの先端を所定の位置に精度よく位置制御することができる。
また、関節軸の回転位置をエンコーダやレゾルバ等の位置検出器の出力から求める必要がなく、位置検出器が不要となるので、多関節マニピュレータの先端を比較的簡単な構成により位置制御することができる。
【0006】
本発明の一態様による多関節マニピュレータは、軸回りに回転する複数の関節軸と、これらの関節軸から該関節軸の径方向に延伸する複数のアームとを備えた多関節マニピュレータであって、前記アームに装着された複数のジャイロセンサと、これらジャイロセンサの出力が前記関節軸の回転角度及び回転速度を求めて前記多関節マニピュレータの先端を位置制御する位置制御手段とを設けたことを特徴とするものである。
【0007】
本発明の一態様による多関節マニピュレータは、アームの角速度を検出する手段して加速度センサを用いた場合のようにアームが鉛直方向に回動動作しても重力の影響を受けることがないので、各アームの先端位置を所定の位置に精度よく位置制御することができる。
また、関節軸の回転位置をエンコーダやレゾルバ等の位置検出器の出力から求める必要がなく、位置検出器が不要となるので、各アームの先端を比較的簡単な構成により位置制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
本発明に係る多関節マニピュレータの先端位置制御方法が適用される産業用ロボットの一例を図1及び図2に示す。図1及び図2に示される産業用ロボットは、アーム1,3、関節軸2,4、固定基台6、関節軸駆動モータ7,8およびジャイロセンサ9,10を備えている。
アーム1は先端部を有しており、このアーム1の先端部と反対側の端部に、鉛直な軸回りに回転する関節軸2が設けられている。
アーム3は関節軸2を介してアーム1に連結された先端部を有しており、このアーム3の先端部と反対側の端部に、鉛直な軸回りに回転する関節軸4が設けられている。
固定基台6はアーム1,3および関節軸2,4から形成される多関節マニピュレータ5を図示しない固定物に据え付けるためのものであり、この固定基台6の図中上端部に関節軸4が鉛直に設けられている。
【0009】
関節軸駆動モータ7は図示しない減速機構を介して関節軸2を鉛直な軸回りに駆動するものであり、図1及び図2に示される産業用ロボットでは、アーム1の内部に関節軸駆動モータ7が設けられている。
関節軸駆動モータ8は図示しない減速機構を介して関節軸4を鉛直な軸回りに駆動するものであり、図1及び図2に示される産業用ロボットでは、固定基台6の内部に関節軸駆動モータ8が設けられている。
ジャイロセンサ9,10はアーム1,3の角速度(関節軸2,4の回転角度)を検出するためのものであり、これらのジャイロセンサ9,10はアーム1,3の先端部に装着されている。
なお、アーム1の先端部には中空軸11が軸回りに回転可能に且つ軸方向に移動可能に設けられ、この中空軸11の下端部にエンドエフェクタ等が下端部に装着されるようになっている。
【0010】
多関節マニピュレータ5の先端を位置制御する位置制御回路の一例を図3に示す。図3に示される位置制御回路13は、第1の目標位置指示器14、第1の積分器15、第1の減算器16、第1の位置補償器17、第1の目標速度指示器18、第1の加減算器19、第1の速度補償器20、第1の電流制御器21、第2の目標位置指示器22、第1の加算器23、第2の積分器24、第2の減算器25、第2の位置補償器26、第2の目標速度指示器27、第2の加算器28、第2の加減算器29、第2の速度補償器30、第2の電流制御器31、電力増幅器32,33を備えている。
第1の目標位置指示器14はアーム3の先端目標位置(関節軸4の目標回転角度)を指示するものであり、この第1の目標位置指示器14で指示された先端目標位置は、目標位置指令信号として第1の減算器16に供給されるようになっている。
【0011】
第1の積分器15はジャイロセンサ10の出力を積分してアーム3の実際の先端位置(関節軸4の実際の回転角度)を算出するものであり、この第1の積分器15で算出されたアーム3の実際の先端位置は、実位置信号として第1の減算器16に供給されるようになっている。
第1の減算器16は第1の目標位置指示器14で指示されたアーム3の先端目標位置と第1の積分器15で算出されたアーム3の実際の先端位置との位置偏差を算出するものであり、この第1の減算器16で算出された位置偏差は、位置偏差信号として第1の位置補償器17に供給されるようになっている。
第1の位置補償器17は第1の減算器16で算出された位置偏差を補償するアーム3の位置補償速度を算出するものであり、この第1の位置補償器17で算出されたアーム3の位置補償速度は、位置補償信号として第1の加減算器19に供給されるようになっている。
【0012】
第1の目標速度指示器18はアーム3の先端目標速度(関節軸4の目標回転速度)を指示するものであり、この第1の目標速度指示器18で指示されたアーム3の先端目標速度は、目標速度指令信号として第1の加減算器19に供給されるようになっている。
第1の加減算器19は第1の位置補償器17で算出されたアーム3の位置補償速度と第1の目標速度指示器18で指示されたアーム3の先端目標速度との加算値からジャイロセンサ10で検出された角速度を差し引いた速度偏差を算出するものであり、この第1の加減算器19で算出された速度偏差は、速度偏差信号として第1の速度補償器20に供給されるようになっている。
第1の速度補償器20は第1の加減算器19で算出された速度偏差を補償するトルクを算出するものであり、この第1の速度補償器20で算出されたトルクは、トルク指令信号として第1の電流制御器21に供給されるようになっている。
【0013】
第2の目標位置指示器22はアーム1の先端目標位置(関節軸3の目標回転角度)を指示するものであり、この第2の目標位置指示器22で指示されたアーム1の先端目標位置は、目標位置信号として第1の加算器23に供給されるようになっている。
第1の加算器23は第1の目標位置指示器14で指示されたアーム3の先端目標位置と第2の目標位置指示器22で指示されたアーム1の先端目標位置との合計目標位置を算出するものであり、この第1の加算器23で算出された先端目標位置は、目標位置指令信号として第2の減算器25に供給されるようになっている。
第2の積分器24はジャイロセンサ9の出力を積分してアーム1の実際の先端位置(関節軸2の実際の回転角度)を算出するものであり、この第2の積分器24で算出されたアーム1の先端位置は、実位置信号として第2の減算器25に供給されるようになっている。
【0014】
第2の減算器25は第1の加算器23で算出された合計目標位置と第2の積分器24で算出されたアーム1の先端位置との位置偏差を算出するものであり、この第2の減算器25で算出された位置偏差は、位置偏差信号として第2の位置補償器26に供給されるようになっている。
第2の位置補償器26は第2の減算器25で算出された位置偏差を補償するアーム1の位置補償速度を算出するものであり、この第2の位置補償器26で算出されたアーム1の位置補償速度は、位置補償信号として第2の加減算器29に供給されるようになっている。
第2の目標速度指示器27はアーム1の先端目標速度(関節軸2の目標回転速度)を指示するものであり、この第2の目標速度指示器27で指示されたアーム1の先端目標速度は、目標速度信号として第2の加算器28に供給されるようになっている。
【0015】
第2の加算器28は第1の目標速度指示器18で指示されたアーム3の先端目標速度と第2の目標速度指示器27で指示されたアーム1の先端目標速度との合計目標速度を算出するものであり、この第2の加算器28で算出された合計目標速度は、合計目標速度指令信号として第2の加減算器29に供給されるようになっている。
第2の加減算器29は第2の位置補償器26で算出されたアーム1の位置補償速度と第2の加算器28で算出された合計目標速度との加算値からジャイロセンサ9で検出された角速度を差し引いた速度偏差を算出するものであり、この第2の加減算器29で算出された速度偏差は、速度偏差信号として第2の速度補償器30に供給されるようになっている。
【0016】
第2の速度補償器30は第2の加減算器29で算出された速度偏差を補償するトルクを算出するものであり、この第2の速度補償器30で算出されたトルクは、トルク指令信号として第2の電流制御器31に供給されるようになっている。
第1の電流制御器21及び第2の電流制御器31は電力増幅器32、33を介して関節軸駆動モータ7,8を制御するものであり、従って、図3に示される位置制御回路13は、アーム1,3の各先端部に装着されたジャイロセンサ9,10の出力から関節軸2,4の回転角度と回転速度を求めて多関節マニピュレータ5の先端を位置制御するように構成されている。
【0017】
上述のように、アーム1,3の各先端部に装着されたジャイロセンサ9,10の出力から関節軸2,4の回転角度と回転速度を求めて多関節マニピュレータ5の先端を位置制御すると、アーム1,3の角速度を検出する手段して加速度センサを用いた場合のようにアームが鉛直方向に回動動作しても重力の影響を受けることがないので、多関節マニピュレータ5の先端を所定の位置に精度よく位置制御することができる。
また、関節軸2,4の回転位置をエンコーダやレゾルバ等の位置検出器の出力から求める必要がなく、位置検出器が不要となるので、多関節マニピュレータ5の先端を比較的簡単な構成により位置制御することができる。
【0018】
なお、本発明に係る多関節マニピュレータの先端位置制御方法が適用される産業用ロボットとして、関節軸2,4が鉛直な軸回りに回転するものを例示したが、これに限られるものではなく、関節軸が水平な軸回りに回転する多関節マニピュレータについても本発明を適用できることは勿論である。
また、多関節マニピュレータ5の先端を位置制御する位置制御回路の構成についても図3に示されるものに限られるものではない。例えば、アームの撓り量を加味して多関節マニピュレータの先端を位置制御してもよいし、多関節マニピュレータ先端の既知位置を撮像装置や近接センサを用いて検出し、検出した既知位置を基に積分器の累積誤差を補正して多関節マニピュレータの先端を位置制御してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る多関節マニピュレータの先端位置制御方法が適用される産業用ロボットの一例を示す斜視図である。
【図2】図1に示す産業用ロボットの側面図である。
【図3】多関節マニピュレータの先端を位置制御する位置制御回路の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0020】
1,3…アーム、2,4…関節軸、5…多関節マニピュレータ、6…固定基台、7,8…関節軸駆動モータ、9,10…ジャイロセンサ、11…中空軸、13…位置制御回路、14…第1の目標位置指示器、15…第1の積分器、16…第1の減算器、17…第1の位置補償器、18…第1の目標速度指示器、19…第1の加減算器、20…第1の速度補償器、21…第1の電流制御器、22…第2の目標位置指示器、23…第1の加算器、24…第2の積分器、25…第2の減算器、26…第2の位置補償器、27…第2の目標速度指示器、28…第2の加算器、29…第2の加減算器、30…第2の速度補償器、31…第2の電流制御器、32、33…電力増幅器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸回りに回転する複数の関節軸と、これらの関節軸から該関節軸の径方向に延伸する複数のアームとを備えた多関節マニピュレータの先端位置を位置制御する方法であって、
前記アームに装着されたジャイロセンサの出力から前記関節軸の回転角度と回転速度を求めて前記多関節マニピュレータの先端を位置制御するようにしたことを特徴とする多関節マニピュレータの先端位置制御方法。
【請求項2】
軸回りに回転する複数の関節軸と、これらの関節軸から該関節軸の径方向に延伸する複数のアームとを備えた多関節マニピュレータであって、
前記アームに装着された複数のジャイロセンサと、これらジャイロセンサの出力が前記関節軸の回転角度と回転速度を求めて前記多関節マニピュレータの先端を位置制御する位置制御手段とを設けたことを特徴とする多関節マニピュレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−120109(P2010−120109A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−295271(P2008−295271)
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】