説明

小型位相シフト装置

【課題】安価で小型の位相シフト機構を提供すること。
【解決手段】従来の位相シフト機構でよく知られている、フィードバック制御機能付きピエゾステージの代わりに、(1)参照光を位相シフトする鏡にトリガ光を反射させ、(2)参照光よりもトリガ光が数倍多く位相シフトするように参照光とトリガ光の入射角を変え、(3)トリガ光で得られる干渉縞を検出する光センサーによってカメラのトリガ信号を作ることで、従来のフィードバック制御機能付きピエゾステージを使用することなく、安価・小型の位相シフト機構を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー干渉法の位相シフト法による位相解析を行う場面、例えば、変位分布計測やひずみ分布計測、三次元計測等で使用する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、構造物の変位・ひずみを計測することは、製品の設計や安全性評価、建築物の補修・長寿命化等の分野において非常に重要となっている。特に、現場で使用可能な可搬型の計測装置が必要とされてきている。
【0003】
非特許文献1には、アクチュエータでたわませた梁を使用し、平板ガラスを微小に傾けさせることによって、ガラスを透過する光路長が微小に変化することで位相シフトさせる方法が開示されている。
【0004】
特許文献1には、2光束を異なった方向から同じ入射角度で変位前後の物体に投影し、参照光の位相を書定量だけシフトさせながら撮影し、それぞれの入射光で変位によって生じた位相分布を求め、それぞれ位相分布の差と和を求めることで面内・面外変位を表す位相分布を得ることができる手法が開示されている。
【0005】
特許文献2には、計測物体に3つの異なる方向から同一波長の物体光を照射し、物体光と同一波長を有する3つの参照光と計測物体からの反射光との干渉像を、各参照光の位相を互いに異なる速度で物体光に対して変化させつつ複数枚、2次元撮像素子で撮影し、フーリエ変換を用いて位相変化速度の異なる干渉成分を抽出することで3つの物体光による干渉像を分離し、各干渉像より、各物体光の照射方向に応じた方向の計測物体の位相分布を計測することにより変位を計測する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−071584号公報
【特許文献2】特開2007−240465号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】松川仁登美、藤垣元治、松井徹、森本吉春、はりのたわみを利用した位相シフト装置の試作、第10回知能メカトロニクスワークショップ講演論文集(2005)pp120-124
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら非特許文献1では、梁を動かすためにステッピングモーターを用いる等、
大がかりな作業が必要となる。また、特許文献1と2においても、装置全体が大きく、持
ち運ぶことができない。
【0009】
本発明は、上記問題点を解決するために、安価・小型の位相シフト機構を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、上記問題を解決するために、フィードバック制御機能が付いているピエゾステージを使用する代わりに、干渉縞から発せられる明暗の信号をとらえる光センサーを付けることにより、フィードバック制御機能を用いることのないピエゾ素子を使用し、位相シフト機構を小さくすることを見出した。
【0011】
即ち、本発明の小型位相シフト機構は、入射した光を、ハーフミラーやハーフプリズムのように参照光とトリガ光に分ける第1の光学素子と、ピエゾ素子のように電圧を加えることにより、前後に伸縮する変位素子と、前記第1の光学素子により分けられた参照光を反射させる、前記変位素子に付けられた第1の鏡と、前記第1の光学素子により分けられたトリガ光を反射および透過させるハーフミラーやハーフプリズムのような第2の光学素子と、前記第2の光学素子を透過した前記第1の光学素子により分けられたトリガ光を、再度前記第2の光学素子の方向に反射させる第2の鏡と、前記第1の鏡から反射されたトリガ光と、前記第2の鏡から反射されたトリガ光によって得られる干渉縞の明暗の信号をとらえる光センサー、とを備えることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の位相シフト機構において、前記トリガ光の光路中に第3の鏡を備えることを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の位相シフト機構において、前記光センサーがとらえた信号をトリガ信号に変換するトリガ用電子回路を備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、フィードバック制御機能の付いたピエゾ素子を使用する代わりに、干渉縞の明暗の信号をとらえる光センサーを用いることにより、機構を小型化することができる。さらに光路中に鏡を備えることにより、光軸の調整を容易に行うことができ、製造を安価に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施例を示す位相シフト機構の平面図であり、装置内を通る参照光とトリガ光の光路を表す。
【図2】本発明の一実施例を示す位相シフト機構において、第3の鏡を用いる場合の平面図であり、装置内を通る参照光とトリガ光の光路を表す。
【図3】第1の鏡に入射する参照光の鏡の位相シフト前と後の光路を表す。
【図4】変位素子の変位量と、それに伴う参照光とトリガ光の位相、参照光と物体光による干渉縞輝度、トリガ干渉縞輝度、トリガ信号、カメラの露光タイミングを表す。
【図5】変位素子への電圧印加時に発生するヒステリシスを表す。
【図6】位相シフト装置を含む装置全体の平面図であり、装置内を通る物体光・参照光・トリガ光の光路を表す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施例について図面を用いて説明する。
図1は、本発明の位相シフト機構の一実施例の平面図である。位相シフト機構1は、変位素子2と、第1の鏡3と、第2の鏡3bと、第1の光学素子5と、第2の光学素子4と、光センサー6と、トリガ用電子回路16とを備えている。
【0017】
変位素子2は、電圧入力回路14によって電圧を印加することにより、素子が伸縮し、それによって第1の鏡3を前後に動かすことができる。
【0018】
第1の光学素子5は、位相シフト機構1の外から入射した光を、参照光RWとトリガ光TWに分ける。
【0019】
第1の鏡3は、変位素子2に取り付けられており、第1の光学素子5を透過した参照光を位相シフト装置1の外へ反射させる。さらに第1の鏡3は、第2の光学素子4を経て入射してきたトリガ光TWを再度第2の光学素子4の方向に反射させる。
【0020】
第2の鏡3bは、第2の光学素子4を透過したトリガ光TWを再度第2の光学素子4の方向に反射させる。
【0021】
図2に示すように、第3の鏡3cを用いて、第1の光学素子5で分けられたトリガ光を一度反射させることで、光路の方向を調整することができるため、第1の光学素子5と第2の光学素子4の向きの調整を容易に行うことが可能となる。
【0022】
(参照光位相シフトにおける干渉縞を用いた撮像トリガの原理)
ここで、本発明の計測方法で用いる原理について説明する。本発明では、参照光RWの位相が1周期変化する時、等間隔に複数回の明暗を繰り返すトリガ光TWの干渉縞を得ることで、参照光RWの位相シフト量を検知することができる。図3は、第1の鏡3に入射する参照光RWの位相シフト前と後の光路を示している。トリガ光TWを第1の鏡3に対して垂直に入射し、参照光RWは入射角qの方向から入射する。ここでは、変位素子2に取り付けられた第1の鏡3をz方向にdzだけ変位させる場合について述べる。図3において第1の鏡3は変位前を3aとし、変位後を3a’とする。参照光RWの光路は第1の鏡3の変位前LRPORおよび変位後L’RP’O’R、トリガ光TWの光路は変位前LTPOTおよび変位後LTP’OTである。参照光RWとトリガ光TWは、共に平面波とみなすことができ、さらに、第1の鏡3の変位dzは、参照光RWとトリガ光TWの幅と比較して十分小さいため、LRPはL’RP’に、PORはP’O’Rにそれぞれ平行移動するとみなすことができる。また、光源の波長をlとする。トリガ光TWの光路長の変化dtは,往復で変化するため、
【数1】

(1)
となり、このときのトリガ光TWの位相変化量Dftは、
【数2】

(2)
である。また参照光RWの光路長の変化drは、入射側と反射側で変化するため、
【数3】

(3)
となる。また、参照光RWの位相変化量Dfrは、
【数4】

(4)
である。したがって、参照光の入射角qを調整することで、参照光RWに対するトリガ光TWの任意の位相変化量の比
【数5】

(5)
を得ることができる。例えば、参照光RWのシフト回数をk回とする場合、参照光RWの位相が1周期変化する間にトリガ光TWはk周期変化する必要があるので、
【数6】

(6)
となるように入射角qを調整すればよい。
【0023】
図4は、変位素子2の変位量とそれに伴う参照光とトリガ光の位相、参照光RWと物体光OWによる干渉縞輝度、トリガ干渉縞輝度、トリガ信号、カメラの露光タイミングを表している。
【0024】
以下、計測用レーザー光源11の波長をlとし、光路長をl/4ずつシフトする場合について考える。
図1において変位素子2によって第1の鏡3を変位させることにより、参照光RWおよびトリガ光TWの位相を変化させる。以下、変位素子2が図4(a)に示すように変位する場合において考える。変位素子2に取り付けられた第1の鏡3の変位も変位素子2と同じだけ変位するため、その変位も図4(a)に示すものとなる。また、その時の参照光RWおよびトリガ光TWの位相の変化を図4(b)に示す。トリガ光TWは第1の鏡3に入射するため、第1の鏡3をl/2変位させたとき、トリガ光TWの光路長はl、つまり位相では2p変化する。参照光RWは変位素子2に取り付けられた第1の鏡3に対して入射角q = cos-1(1/4) の方向から入射しているため、参照光RWに対するトリガ光TWの位相変化量は図4(b)に示す通り、参照光の位相変化量の4倍となる。図4(c)に、図4(b)に示す参照光RWの位相に対する参照光RWの輝度を表す。また、図4(d)に、トリガ光TWの位相に対するトリガ光TWの輝度を示す。光センサー6では、図4(d)に示すトリガ光TWの輝度が観測される。この輝度変化に対して、一定の閾値(トリガ閾値)を設けることで、図4(e)に示すトリガ信号が得られる。トリガ信号の立ち下がりは図4(b)に示す参照光RWの位相がp/2変化する毎に発生する。このトリガ信号の立ち下がりによってカメラの露光が開始され、別途設定しておいた一定の露光時間の経過後に露光が終了する。この露光タイミングを図4(f)に示す。さらにその露光時間によってカメラが撮影する光量は、図4(c)の斜線部にそれぞれ示す輝度変化の積分値となる。
【0025】
このようにすることで、、図5に示すようなヒステリシスを変位素子2が持っていたとしても、参照光RWの位相がπ/2だけ変位する毎にトリガ信号が出力されることになり、正確にπ/2ずつ位相シフトされた干渉縞の画像を撮影することが可能となる。
【0026】
(実施例)
以下、図面を用いて装置全体を説明する。なお、位相シフト機構は、図2の第3の鏡3cを用いた場合とする。また、この実施例においては、変位素子として電圧を印加することで伸縮するピエゾ素子を用い、第1の光学素子、第2の光学素子、第3の光学素子としては、それぞれハーフミラーやハーフプリズムを用いることとする。
【0027】
図6は本発明の位相シフト機構1を用いた装置全体の平面図である。
まず、変位素子2に電圧印加回路14、光センサー6にトリガ用電子回路16を接続する。変位素子2に接続された電圧印加回路14の電源を入れ、変位素子2に電圧を印加する。変位素子2に電圧を印加することで、変位素子2が伸縮し、第1の鏡3が前後に動くようになる。
【0028】
次に、計測用レーザー光源11からレーザーを照射する。計測用レーザー光源11から照射されたレーザー光は、第3の光学素子5bに到達する。このとき、レーザー光は物体光OWと参照光RWに分けられる。分けられた物体光OWは、スペイシャルフィルタ12aで整えられ、レンズ13a、反射鏡15aを経て計測対象物Oに照射される。計測対象物Oに照射された物体光OWは、計測対象物Oの表面で散乱し、その散乱光の一部はガラス板17を透過して撮像装置18に到達する。
【0029】
第3の光学素子5bによって分けられた参照光RWは、図1に示す位相シフト機構1内の第1の光学素子5に到達する。この時、第1の光学素子5によってそのまま透過する参照光RWと機構1内を移動するトリガ光TWに分けられる。第1の光学素子5を透過した参照光RWは、変位素子2に取り付けられている第1の鏡3に反射され、機構1外へ出射する。その後、機構1外へ出射された参照光は、物体光OWと同じように反射鏡15b、スペイシャルフィルタ12b、レンズ13b、反射鏡15cを経て、ガラス板17で反射され、撮像装置18に到達する。この時、計測対象物Oの表面からガラス板17を透過して撮像装置18に到達した光と干渉することで、干渉パターンが形成され、その干渉パターンの明暗が撮像装置18に記録される。なお、変位素子2に取り付けられた第1の鏡3への参照光RWの入射角度については、cos-1(1/4)の角度にしているが、特に限定はしない。
【0030】
第1の光学素子5によって分けられたトリガ光TWは、図1に示す位相シフト機構1内では、第2の光学素子4がないので、直接第2の光学素子4に入射する。また、図2に示す位相シフト機構1内では第3の鏡3cに反射され、第2の光学素子4に入射する。第2の光学素子4の設置角度については、図2では45度の角度に設置されているが、特に限定はしない。
【0031】
第2の光学素子4に入射したトリガ光TWは、2つのトリガ光TWとして装置内を移動する。1つ目のトリガ光TWは、第2の光学素子4によって第1の鏡3に入射し、第2の光学素子の方向に反射され、第2の光学素子4を透過する。2つ目のトリガ光TWは、第2の光学素子4を透過して第2の鏡3bに入射し、第2の光学素子4の方向に反射され、第2の光学素子4で再び反射される。
【0032】
1つ目のトリガ光TWと2つ目のトリガ光TWが重なり、干渉する。干渉によって得られる明暗の信号を光センサー6がとらえ、トリガ信号に変換する。
【0033】
以上、具体例を挙げて本発明を詳細に説明してきたが、本発明の特許請求の範囲から逸説しない限りにおいて、あらゆる変形や変更が可能であることは当業者に明らかである。例えば、第1の鏡3への参照光の入射角度を調整することによって、1周期の間に位相シフトを4回以上行うことも可能である。また、図6に示した光学系とは異なる携帯の光学系にも適用は可能であり、この光学系の形態に限定されない。したがって、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0034】
1 位相シフト機構
2 変位素子
3 第1の鏡
3a 第1の鏡(位相シフト前)
3a’ 第1の鏡(位相シフト後)
3b 第2の鏡
3c 第3の鏡
4 第2の光学素子
5 第1の光学素子
5b 第3の光学素子
6 光センサー
11 計測用レーザー光源
12a・12b スペイシャルフィルタ
13a・13b レンズ
14 電圧印加回路
15a・15b・15c 反射鏡
16 トリガ用電子回路
17 ガラス板
18 撮像装置
MH ミラーホルダー
O 試料
OW 物体光
RW 参照光
TW トリガ光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射した光を、参照光とトリガ光に分ける第1の光学素子と、
前後に伸縮する変位素子と、
前記第1の光学素子により分けられた参照光を反射させる、前記変位素子に付けられた第1の鏡と、
前記第1の光学素子により分けられたトリガ光を反射および透過させる第2の光学素子と、
前記第2の光学素子を透過した前記第1の光学素子により分けられたトリガ光を、再度前記第2の光学素子の方向に反射させる第2の鏡と、
前記第1の鏡から反射されたトリガ光と、前記第2の鏡から反射されたトリガ光によって得られる干渉縞の明暗の信号をとらえる光センサー、
とを備えた位相シフト機構。
【請求項2】
前記トリガ光の光路中に第3の鏡を備えることを特徴とする、請求項1に記載の位相シフト機構。
【請求項3】
前記光センサーがとらえた信号をトリガ信号に変換するトリガ用電子回路を備えることを特徴とする、請求項1または2に記載の位相シフト機構。

【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−181027(P2012−181027A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42235(P2011−42235)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成23年2月16日発表 国立大学法人和歌山大学 平成22年度 和歌山大学大学院システム工学研究科 知的計測クラスタ修士論文発表会
【出願人】(504145283)国立大学法人 和歌山大学 (62)
【Fターム(参考)】