説明

履物

【課題】 外表面に付着した細菌等を死滅させたり繁殖を抑制したりして、履いたまま移動したとしも、細菌等の拡散を防ぐ。
【解決手段】 有機窒素硫黄系化合物の抗菌剤を含有した塩化ビニル樹脂を用いて、インジェクション成型により、アッパー1および外底2を一体にした長靴を製造する。外部の異物に接する外表面には、抗菌剤が存在する。外表面に細菌等が付着したとき、抗菌剤により細菌等が死滅あるいは不活化され、場所を移動しても細菌等は拡散しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細菌、ウイルスやかび等の多い場所での使用に適した抗菌性の履物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に汚れの多い場所や湿った場所では、長靴が使用される。このような場所は、細菌、ウイルスやかび等(以下、これらを総称して細菌等と称する)の繁殖しやすい環境でもある。長靴内部は、通気性が乏しく、細菌等が侵入すると、悪臭が発生したり、足が不衛生となる。そこで、特許文献1に記載されているように、防臭や抗菌処理を施した編布を裏布とし、軟質ゴムのシートに貼着している。これによって、長靴内部を衛生的にできる。
【特許文献1】特開2002−101909号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のように内部で抗菌効果を有する履物であっても、アッパーや外底といった外表面にも細菌等は付着する。しかし、内部に抗菌処理が施されていると、外表面の細菌等に対する抗菌効果が得られない。そのため、汚れの多い場所や湿った場所で使用した履物を履いたまま、清浄な場所に移動すると、履物の外表面に付着した細菌やかびも移動する。これによって、細菌等が広範囲に拡散されることになる。
【0004】
本発明は、上記に鑑み、外表面に細菌等が付着しても、死滅させたり繁殖を抑制したりして、細菌等の拡散を防げる履物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、外部の異物と接する外表面が、抗菌剤を含有する材料によって形成されたものである。すなわち、アッパーおよび外底が、有機窒素硫黄系化合物の抗菌剤を含有したゴムあるいは合成樹脂によって形成される。あるいは、アッパーが、有機窒素硫黄系化合物の抗菌剤を含有した塗料により染色された革によって形成される。
【0006】
アッパーや外底といった外表面に抗菌剤が存在することになり、細菌等が付着しても、死滅したり、不活化したりして、繁殖しない。したがって、履物を履いたまま場所を移動しても、細菌等を拡散させることはない。
【0007】
そして、外底に、前端あるいは後端に向かう縦溝が形成され、該縦溝から左右の側端に向かう横溝が形成される。このような溝の構造にすることにより、溝の目詰まりが起こりにくくなる。そのため、外底に付着した細菌等は排除され、細菌等が他の場所に移動しない。
【0008】
また、履物内部にはカップインソールが設けられ、該カップインソールの表面に、光触媒を含有した繊維に金属イオンをコーティングした殺菌脱臭シートが装着される。金属イオンは、通常は酸化物粒子あるいは金属粒子といった形で繊維表面上に存在している。履物を履いたとき、湿気等によって湿潤状態になったときに金属イオンとして存在する。このとき、金属イオンの作用により、細菌等が不活化され、繁殖が抑制されて、殺菌効果が得られる。また、臭気成分の発生の原因である細菌等が死滅するので、消臭効果も得られる。履物を履いていないときには、太陽光や蛍光灯の下に履物を曝すことにより、光触媒が履物内部に存在する臭気成分を分解する。履物内部が無臭化され、消臭効果が得られる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、履物の外表面に細菌等が付着しても、細菌等が死滅したりして、履物とともに移動することはない。したがって、そのまま履物を履いて移動したとしても、細菌等が広範囲に拡散することを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本実施形態の抗菌性を有する履物を図1に示す。この履物は、長靴であり、抗菌剤を含有する軟質材料によってアッパー1および外底2が一体成型される。すなわち、塩化ビニル樹脂(PVC)に抗菌剤を混合し、インジェクション成型によって、長靴を製造する。そして、長靴内面には、伸縮性のあるメリヤス等で靴下状に編んだ裏地3が貼られ、その上にカップインソール4が内装されている。
【0011】
抗菌剤として、有機窒素硫黄系化合物が用いられ、軟質材料重量に対して1%添加する。なお、軟質材料は、天然ゴム、合成ゴム、エラストマとしてもよい。ここで、上記の長靴材料に対して、JIS Z2801(抗菌加工製品−抗菌試験方法・抗菌効果)による抗菌試験を行った結果、抗菌効果を確認できた。
【0012】
カップインソール4は、EVA(エチレン酢酸ビニル共重合体)スポンジ、熱可塑性ウレタンゴム等の弾性材料からなり、外底2の形状に合わせて形成される。カップインソール4の踵側の周縁が盛り上がるように形成され、踵を包み込むようになっている。カップインソール4には、表面から裏面に貫通した複数の通気孔が形成され、表面に殺菌脱臭シート5が装着されている。
【0013】
殺菌脱臭シート5は、光触媒を含有した繊維に金属イオン、特に銀イオンをコーティングした糸を撚り合わせて、織布、編布あるいは不織布にしたものであり、通気性を有する。光触媒を含有した繊維は、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン等の合成繊維の表面、あるいは木綿、羊毛等の天然繊維の表面に、酸化チタン等の酸化物半導体からなる光触媒を担持させて製造される。
【0014】
そして、光触媒を含有した繊維に対して、銀、銅、ニッケル等の抗菌性を有する金属を添加して、光触媒および金属イオンを含有した繊維を形成する。すなわち、銀、銅、ニッケル等の金属の微粒子を繊維の表面に接着剤によって付着させることにより、金属粒子がコーティングされる。あるいは、酸化銀、硫化銀等の金属化合物を粒状化して、繊維の表面に接着剤によって付着させてもよい。
【0015】
このように、光触媒を含有した繊維では、光触媒により繊維表面に微細な凹凸が形成される。この凹凸のある繊維表面に金属を付着させることにより、金属に対する接着強度を高めることができる。したがって、履いているときに足が殺菌脱臭シート5に接触しても、繊維に担持された金属がはがれにくくなり、殺菌、消臭効果を長期間維持できる。また、繊維の表面積が大きくなるので、担持される金属量を多くでき、殺菌、消臭効果を高めることができる。
【0016】
殺菌消臭シート5は、上記のようにして製造した繊維を糸にして、この糸を織り合わせてシートとされ、カップインソール4の形状に合わせて切断される。そして、殺菌脱臭シート5は、接着剤によってカップインソール4に貼着される。
【0017】
また、外底2の下面には、図2に示すように、つま先側と踵側の2箇所に縦溝6、7および横溝8、9が、通常の長靴の溝よりも太く形成されている。つま先側の縦溝6は、つま先側の前端から後端に達するように形成され、この縦溝6に対して横溝8が左右の側端に達するように形成される。同様に、踵側の縦溝7も、踵側の前端から後端に達するように形成され、この縦溝7に対して横溝9が左右の側端に達するように形成される。
【0018】
このように、抗菌剤を含有した材料によって長靴を製造することにより、外部の細菌等を含む異物と触れる外表面に抗菌剤が存在し、外表面全体に抗菌処理を施したことになる。長靴を細菌等が多い場所で履いたとき、アッパー1や外底2に細菌等が付着する。しかし、抗菌剤の効果により、細菌等が死滅したり、不活化したりして、細菌等が減っていく。したがって、長靴を履いて他の場所に移動しても、細菌等の移動は阻止でき、細菌等の拡散を防止できる。
【0019】
そして、外底2の溝に泥や土といった異物が詰まっても、溝幅が太く、しかも各溝は外方向に向かっているので、水はけもよく、詰まった異物も排出されやすい。したがって、歩いているうちに異物が除去され、外底に細菌等が付着したままの状態を回避できる。特に、細菌等の存在する場所から退出するときに長靴を洗浄しておけば、外底2に付着した細菌等を完全に排除でき、外部への細菌等の移動を防止できる。また、長靴を使用して、外表面が磨耗しても、内部に含有されている抗菌剤が次々に露出してくるので、抗菌効果を永続的に維持できる。
【0020】
また、長靴内部では、通気性のある裏地3に覆われているだけなので、十分に抗菌効果が得られる。しかも、殺菌脱臭効果を有するカップインソール4が内装されているので、長靴内部を常に清潔な状態に維持できる。さらに、長靴にカップインソール4を装着することにより、はきやすくなって、衝撃吸収性がよくなり、長時間履いても足にかかる負担が減り、足が疲れにくくなる。
【0021】
他の履物の形態として、短靴、スニーカ等の革製の履物にも抗菌処理を施す。すなわち、革を染色するための塗料に抗菌剤を含有させる。抗菌剤は、有機窒素硫黄系化合物とされる。このように染色された革を用いて、アッパーを形成する。なお、外底をゴム製とする場合、上記と同様に抗菌剤を含有した材料によって形成するとよい。また、上記と同様のカップインソールが内装される。
【0022】
これによっても、革に抗菌剤が浸透しているので、アッパーの外表面に抗菌剤が存在することになり、抗菌効果を発揮できる。
【0023】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で上記実施形態に多くの修正および変更を加え得ることは勿論である。パンプス、さらにはサンダル、スリッパ、ブーツに上記の抗菌剤を含有した材料を適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の抗菌性を有する長靴の断面図
【図2】長靴の外底を示す図
【符号の説明】
【0025】
1 アッパー
2 外底
3 裏地
4 カップインソール
5 殺菌脱臭シート
6、7 縦溝
8、9 横溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部の異物と接する外表面が、抗菌剤を含有する材料によって形成されたことを特徴とする履物。
【請求項2】
アッパーおよび外底が、有機窒素硫黄系化合物の抗菌剤を含有したゴムあるいは合成樹脂によって形成されたことを特徴とする履物。
【請求項3】
アッパーが、有機窒素硫黄系化合物の抗菌剤を含有した塗料により染色された革によって形成されたことを特徴とする履物。
【請求項4】
カップインソールが内装され、該カップインソールの表面に、光触媒を含有した繊維に金属イオンをコーティングした殺菌脱臭シートが装着されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の履物。
【請求項5】
外底に、前端あるいは後端に向かう縦溝が形成され、該縦溝から左右の側端に向かう横溝が形成されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の履物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−254931(P2006−254931A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−72228(P2005−72228)
【出願日】平成17年3月15日(2005.3.15)
【出願人】(390014085)株式会社ミヤタ (2)
【Fターム(参考)】