説明

把持部を有するロボットハンドシステム

【課題】把持部を有するロボットハンドシステムにおいて、センサを複数必要とせずに、最小限の把持力で対象物を把持することを可能とすることである。
【解決手段】ロボットハンドシステム10のハードウェアの部分は、1つの昇降アクチュエータ12と、複数の把持アクチュエータ14と、複数の多関節部17の各先端の把持端部にそれぞれ設けられる探触子20を含んで構成される。探触子20に接続される接触・滑り度検出部50は、探触子20に対象物が全く接触していない非接触状態と、探触子20と対象物が相対的に移動していない接触把持状態と、探触子20と対象物が相対的に移動していわゆる滑っている滑り状態とを区別して検出する機能を有する。この機能を用いて、制御部70は、最小限の把持力で対象物を把持するように、把持アクチュエータ14を駆動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、把持部を有するロボットハンドシステムに係り、特に、対象物に対し相対的に移動して対象物を把持する把持部を有するロボットハンドシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
対象物に対し作業工具等を搭載するアームを任意の位置に移動して作業を行なうために、多関節ロボットが用いられる。また、対象物を把持して、例えば任意の場所に運ぶ等の作業を行なうために多関節指を有するロボットハンドが用いられる。そして、把持部を有するロボットハンドとしては、対象物をしっかり把持するために、指先である把持部と対象物との間の滑りを検出する必要が出てくる。
【0003】
例えば、特許文献1には、ロボットハンドの指表面の滑り検知装置として、柔軟構造を有する指表面に複数の圧力センサからなる触覚センサを配置し、把持対象物の把持開始時の指先に働く法線接触力と初期圧力重心位置を測定することが開示されている。そして、把持対象物を持ち上げる際に柔軟構造は把持対象物に働く外力である重力に応じて変形するために圧力重心位置が変化するので、この圧力重心位置の移動量に基いて滑りの発生を予想し、滑り発生時には把持力を増やすことが述べられている。
【0004】
また、本発明に関連する技術として、特許文献2には、超音波を用いて対象物の硬さを精度よく測定する技術が開示されている。この技術は、物質に超音波を入射する振動子と物質からの反射波を検出する振動検出センサと、振動検出センサの信号出力端に入力端が接続された増幅器と、増幅器の出力端と振動子の信号入力端との間に設けられ、振動子への入力波形と振動検出センサからの出力波形との間に位相差が生じるときは、周波数を変化させて位相差をゼロにシフトする位相シフト回路と、位相差をゼロにシフトさせるための周波数変化量を検出する周波数変化量検出手段とを含む構成である。ここでは、周波数変化量検出手段において、硬さの相違による位相差をゼロにシフトさせてこれを周波数変化量に変換している。この変換は、周波数に対する反射波の振幅ゲインと位相の関係を示す基準伝達関数を予め求めておいてこれを用いている。
【0005】
【特許文献1】特開2006−297542号公報
【特許文献2】特開平9−145691号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
把持部を有するロボットハンドシステムで対象物を把持する際に、過度に強い把持力であると対象物を損傷することがある。例えば、豆腐等のように柔らかく、過度に強く把持すると形状が損傷してしまうものを対象とする場合には、把持力を最小限度にする必要がある。特許文献1の方法を用いると、最初に小さい把持力からスタートして必要な把持力にする可能性が期待されるが、複数の圧力センサを指表面に配置する必要があり、複雑な構造と把持部である指が大型化する。
【0007】
本発明の目的は、センサを複数必要とせずに、最小限の把持力で対象物を把持することを可能とする把持部を有するロボットハンドシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、特許文献2の硬さ測定技術の応用で、物質に超音波を入射する振動子と物質からの反射波を検出する振動検出センサとを有する探触子が対象物に接触すると、接触前と比べて、入射波と反射波との間の位相差が生じることに気づいたことに基く。すなわち、特許文献2の硬さ測定技術は、探触子が対象物に接触させたときの入射波と反射波との間の位相差が対象物の硬さと相関関係があることに基くものであるが、硬さに換算する以前に、探触子が対象物に接触した瞬間に、入射波と反射波との間の位相差が生じる。つまり、接触圧がほとんどゼロの状態、探触子と対象物との間の接触を検出できる。
【0009】
特許文献2の硬さ測定技術では、基準伝達関数を用いて位相差を周波数変化に換算している。したがって、換算された周波数変化を観察していれば、探触子と対象物とが接触していない非接触時の周波数から、周波数が変化したときに接触が生じたことを検出できる。接触が検出されたときの周波数を接触時周波数とすると、一旦接触しても、探触子と対象物とが離れれば、接触時周波数から非接触時周波数に戻ることになる。
【0010】
このことから、探触子から対象物が滑ったときに周波数変化が生じるのではないか、と考え、実験したところ、接触状態のときに接触時周波数であったものが、探触子から対象物が滑ったときに、その周波数は非接触時周波数の方に変化することが確認された。したがって、特許文献2の硬さ測定技術を応用することで、探触子と対象物との間の接触検出と、滑り検出ができる。本発明は、この原理を実現するため、以下に述べる具体的手段を構成して、把持部を有するロボットハンドシステムとしたものである。
【0011】
すなわち、本発明に係る把持部を有するロボットハンドシステムは、対象物に対し相対的に移動して対象物を把持する把持部と、把持部に設けられ、対象物に振動を入射する振動子と、対象物からの反射波を検出する振動検出センサとを有する探触子と、振動検出センサの出力端に入力端が接続された増幅器と、増幅器の出力端と振動子の入力端との間に設けられ、振動子への入力波形と振動検出センサからの出力波形の間に位相差が生じるときは、振動子への入力振動の周波数を変化させて位相差をゼロにシフトし、位相差がゼロとなったときの振動子への入力周波数を出力する位相シフト回路と、位相シフト回路が出力する周波数について、把持部に対象物がない状態の非接触状態周波数から、予め定めた接触把持閾値周波数を超えて周波数が変化したときに、把持部が対象物に接触し把持したことを検出する接触状態検出部と、位相シフト回路が出力する周波数について、接触把持閾値周波数を超えている接触把持状態から、非接触状態周波数の方向に周波数が変化するときに、把持部に対し対象物が接触把持状態から変化して滑っている滑り状態として検出する滑り状態検出部と、把持部の対象物に対する相対的な移動である把持移動を制御する制御部と、を備え、制御部は、把持部に対象物が接触していない状態から対象物に接触する方向に把持部を対象物に対し把持移動させ、接触状態検出部が把持部と対象物との接触把持を検出したときに把持移動を停止させる接触状態停止手段と、接触把持を検出して把持移動を停止した状態のままで、把持部に対し対象物が相対的に重力方向に移動して滑り状態検出部が滑り状態を検出するときに、位相シフト回路が出力する周波数の変化量に応じて、把持部が対象物を滑り状態から接触把持状態に戻す方向にさらに把持部を把持移動させる滑り対応手段と、滑り状態検出部が滑り状態を検出しなくなったときに、把持部の把持移動を停止させる把持維持手段と、を含むことを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る把持部を有するロボットハンドシステムにおいて、滑り状態検出部は、位相シフト回路が出力する周波数を微分する微分手段を有し、微分手段の出力に基いて、位相シフト回路が出力する周波数の変化による滑り検出を行うことが好ましい。
【0013】
また、本発明に係る把持部を有するロボットハンドシステムにおいて、把持維持手段の処理で滑り状態検出部が滑り状態を検出しなくなったときの位相シフト回路が出力する周波数変化に基き、予め求められた周波数変化と硬さの関係を用いて、対象物の硬さを出力する硬さ出力手段を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
上記構成により、把持部を有するロボットハンドシステムは、特許文献2に述べられている位相シフト回路を含む構成に加えて、位相シフト回路が出力する周波数について、把持部に対象物がない状態の非接触状態周波数から、予め定めた接触把持閾値周波数を超えて周波数が変化したときに、把持部が対象物に接触把持したことを検出し、また、接触把持閾値周波数を超えている接触把持状態から、非接触状態周波数の方向に周波数が変化するときに、把持部に対し対象物が接触状態から変化して滑っている滑り状態として検出する。
【0015】
そして、把持部の対象物に対する把持移動を制御する制御部は、把持部に対象物が接触していない状態から対象物に接触する方向に把持部を対象物に対し相対的に把持移動させ、把持部と対象物との接触把持を検出したときに把持移動を停止させ、また、接触把持を検出して相対的移動を停止した状態のままで、把持部に対し対象物が相対的に重力方向に移動して滑り状態が検出されるときに、位相シフト回路が出力する周波数の変化量に応じて、把持部が対象物を滑り状態から接触把持状態に戻す方向にさらに把持部を把持移動させて滑りに対応し、滑り状態検出部が滑り状態を検出しなくなったときに、把持部の対象物に対する相対的な把持移動を停止させて把持維持を行う。
【0016】
接触把持を検出するときの探触子と対象物との間の接触圧あるいは把持力の大きさは接触把持閾値周波数の設定で定めることができるので、小さい値、例えば数グラムの把持力、場合によっては1グラム以下の把持力とすることができる。そして、ロボットハンドシステムが対象物を持ち上げ、あるいは対象物が容器の場合にその中に水等の別の物体を付加して、対象物が探触子に対し滑りを生じたときは、滑りが検出されなくなるまで、把持力を増加させることができる。したがって、把持部1つに対しセンサを複数必要とせずに探触子1つで、最小限の把持力で対象物を把持することが可能となる。
【0017】
また、把持部を有するロボットハンドシステムにおいて、滑り状態検出部は、位相シフト回路が出力する周波数を微分する微分手段を有し、微分手段の出力に基いて、位相シフト回路が出力する周波数の変化による滑り検出を行う。これによって滑り検出を確実に行うことができる。
【0018】
また、把持部を有するロボットハンドシステムにおいて、把持維持手段の処理で滑り状態検出部が滑り状態を検出しなくなったときの位相シフト回路が出力する周波数変化に基き、予め求められた周波数変化と硬さの関係を用いて、対象物の硬さを出力する。これによって、把持されている対象物の軟らかさ硬さを知ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき詳細に説明する。以下では、対象物として、シリコンゴムの塊を説明するが、これは適度に軟らかく、過度に把持力を加えると外形が損傷する一例として用いたものであって、勿論、これ以外のもの、例えば、生体組織、豆腐、ゴムボール等を対象物としてもよい。また、剛体の容器のように、一旦把持している状態で容器中に他の収容物が付加されることで把持部と対象物との間に滑りが生じる場合のときの容器等であってもよい。以下で説明する材料、形状、寸法、数値等は例示であって、使用目的に応じ、これらの内容を適宜変更できる。
【0020】
以下では、対象物を把持する把持部として、昇降アクチュエータと把持アクチュエータによって駆動されるアーム、3つの多関節部を説明するが、これは手首と親指、人指し指、中指の動作を模擬したハードウェアの例であって、これ以外の構成であっても、対象物に対し相対的に移動して対象物を把持するものであればよい。最も簡単な構成では、固定壁に対し相対的に移動して対象物を把持する1つの可動アームで把持部を構成するものとしてもよい。このように、対象物を挟む可動部の数は1以上であればよい。また、対象物を挟む可動アームの関節の数も、2以上として多関節とすることが好ましいが、場合によっては、1関節であってもよい。
【0021】
以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
【0022】
図1は、把持部を有するロボットハンドシステム10の構成を説明する図である。把持部を有するロボットハンドシステム10は、親指、人指し指、中指の3本の指と手首の動作を模擬的に再現できるロボットハンドのハードウェアの部分と、ロボットハンドの動作を制御するソフトウェアを実行する制御部分とで構成される。制御部分は制御部70として図示されている。以下では、把持部を有するロボットハンドシステム10を、特に断らない限り、単にロボットハンドシステム10と呼ぶことにする。
【0023】
ロボットハンドシステム10のハードウェアの部分は、手首の動作を模擬的に再現する1つの昇降アクチュエータ12と、親指、人指し指、中指の多関節部17の動作を模擬的に再現する複数の把持アクチュエータ14と、親指、人指し指、中指の多関節部17の各先端の把持端部にそれぞれ設けられる探触子20を含んで構成される。これら全体が、対象物に対し相対的に移動して対象物を把持するものとしての広義の把持部に相当する。
【0024】
昇降アクチュエータ12は、ベース11に設けられた回転中心軸の周りに回転可能な2組のアーム13を回転して、手のひらに相当する平板部15をベース11が配置される水平面に対し垂直な方向に昇降する機能を有する駆動機構である。このように、昇降アクチュエータ12は、手のひらに相当する平板部15を昇降することで、親指、人指し指、中指の各多関節部17を一度に同じように移動させて、あたかも手首のように、その動作を再現することができる。
【0025】
かかる昇降アクチュエータ12としては、適当な小型モータを用いることができる。ここでは、小型ステッピングモータを用いるものとする。ステッピングモータは、駆動信号としてのパルス信号の1つごとに、単位角度だけ回転中心軸の周りに回転させることができる。したがって、昇降アクチュエータ12の駆動信号のパルス数が手のひらに相当する平板部15の昇降ステップ数となり、昇降量の大小は、駆動信号のパルス数で制御することができる。
【0026】
把持アクチュエータ14は、手のひらに相当する平板部15にそれぞれ回転可能に取り付けられた3つの多関節部17を、それぞれ独立に駆動する機能を有する。ここで、3つの多関節部17は、図1に示されるように、平板部15の先において1つの関節を有して親指の動作を再現できる1つと、2つの関節を有して人指し指、中指の動作をそれぞれ再現できる2つである。親指の動作を再現する1つの多関節部17と、人指し指、中指の動作を再現する2つの多関節部17とは、人の手と同様に、相互に向かい合って配置される。これら3つの多関節部17が実際に対象物を挟んで把持することになるので、これらが狭義の把持部と考えることができる。
【0027】
したがって、把持アクチュエータ14は、内部的には、親指に相当する多関節部17の
駆動を行うものと、人指し指に相当する多関節部17の駆動を行うものと、中指に相当する多関節部17の駆動を行うものの3系統のアクチュエータを含む。さらに、例えば親指に相当する多関節部17の系統のアクチュエータは、平板部15に対する回転駆動と、その先の1つの関節部の回転駆動とを行う2つの独立の回転駆動をそれぞれ行う2つのサブアクチュエータと含む。人指し指に相当する多関節部17の系統のアクチュエータと、人指し指に相当する多関節部17の系統のアクチュエータは、親指に相当する多関節部17よりもさらに関節部が1つ多いので、それぞれ3つの独立した回転駆動を行う3つのサブアクチュエータを含む。
【0028】
かかる把持アクチュエータ14としては、昇降アクチュエータ12と同様に、適当な小型モータを用いることができる。ここでは、昇降アクチュエータ12と同様に、小型ステッピングモータを用いるものとする。上記のように、ステッピングモータは、駆動信号としてのパルス信号の1つごとに、単位角度だけ回転中心軸の周りに回転させることができる。
【0029】
各多関節部17は複数の関節部を有するが、把持の最終段階では各多関節部17のうちの一部、例えば、親指に対応する多関節部17の最先端の関節部を回転駆動するだけとなることが多い。したがって、把持の最終段階では、その最先端の関節部を駆動する把持アクチュエータ14の駆動信号のパルス数が、例えば親指に相当する多関節部17の最先端の関節部の回転ステップ数となり、把持量、または把持力の大小は、この駆動信号のパルス数で制御することができる。
【0030】
探触子20は、向かい合って配置される3つの多関節部17のそれぞれの最先端の関節部の先端部に1つずつ配置される部品である。それぞれの探触子20は、3つの多関節部17によって対象物を挟み込むときに、対象物に実際に接触して把持する接触部を構成すると共に、対象物との間の接触、滑りを検出し、また、対象物の硬さを検出するためのセンサ部を構成する。
【0031】
図2は、探触子20周りの詳細図である。探触子20は、第1基台22の上に振動子24と振動検出センサ26が、さらにその上に略半球状のプラスチック製の接触ボール28が積層されて構成される接触・滑り度検出センサ部の部分と、第2基台32の上に圧力センサ34が搭載される圧力検出センサ部の部分と、接触・滑り度検出センサ部の第1基台22に設けられ、圧力センサ34の表面に接触する押付ボール30とを含んで構成される。これらの各要素は、一体化樹脂部36によって全体として一体化される。探触子20は、圧力検出センサ部の第2基台32の側を底面側として、各多関節部17の最先端の関節部の先端部に接着等で固定される。
【0032】
振動子24は、対象物に入射波を入射する機能を有し、振動検出センサ26は、対象物からの反射波を検出する機能を有する素子である。振動子24と、振動検出センサ26は、それぞれ圧電素子を用いることができる。すなわち、前者の場合は電気信号を入力して振動を生じさせる電気−機械変換機能を用い、後者は、振動信号を入力して電気信号を生じさせる機械−電気変換機能を用いるものとすることができる。
【0033】
図2では、振動子24に電気信号を供給する入力端子38と、振動検出センサ26からの電気信号を取り出す出力端子40が示されている。この入力端子38と出力端子40は適当な信号線によって、接触・滑り度検出部50に接続される。
【0034】
なお、振動子24と振動検出センサ26の積層順は、図2のように対象物側を振動検出センサ26とすることが好ましいが、これを逆にして、振動子24を対象物側に配置するものとしてもよい。また、振動子24と振動検出センサ26を図2のように積層する構成とせずに、場合によっては、振動子24と振動検出センサ26を同心円状に配置する構成としてもよい。
【0035】
振動検出センサ26の上に設けられる接触ボール28は、例えばナイロン樹脂等のプラスチック樹脂で成形され、その半球状の表面で対象物にスムーズに圧接する機能を有する部材である。半球の半径は、例えば5mm程度を用いることができる。押付ボール30も同様な構成とすることができる。
【0036】
圧力センサ34は、探触子20が対象物に圧接されるときの押付圧を検出する機能を有する素子である。押付圧は、探触子20が対象物に接触したことを補助的に検出する機能を有する。したがって、場合によって、圧力センサ34を省略した構成としてもよい。
【0037】
圧力センサ34としては、例えばひずみゲージを用いることができる。ひずみゲージを用いる場合は、所定のゲージ接着剤等を用いて第2基台32に固定できる。圧力センサ34がひずみゲージの場合は、押付圧に応じて抵抗値が変化するので、抵抗の両端の端子に適当な信号線を接続し、その信号線を制御部70に接続して、制御部70において抵抗値の変化から押付圧を算出するものとできる。
【0038】
第1基台22は、振動子24、振動検出センサ26、接触ボール28の積層体を保持する機能を有する固定板である。かかる第1基台22は、適当な基板で構成することができ、場合によって、振動子24への入力端子38、振動検出センサ26からの出力端子40をこの第1基台22に設けるものとすることができる。
【0039】
同様に、第2基台32は、圧力センサ34を保持する機能を有する固定板である。かかる第2基台32も、適当な基板で構成することができ、場合によって、圧力センサ34の端子をこの第2基台32に設けるものとすることができる。
【0040】
一体化樹脂部36は、探触子20を全体として一体化するために、樹脂で全体を包むものである。この場合に、振動子24、振動検出センサ26の振動を過度に規制しないように考慮が払われる。かかる一体化樹脂部36としては、例えばシリコン樹脂を用いてモールドによって全体を一体化する構成とすることができる。
【0041】
再び図1に戻り、昇降アクチュエータI/F44は、昇降アクチュエータ12と制御部70との間に設けられるインタフェース回路である。昇降アクチュエータ12にその駆動回路が含まれる場合には、昇降アクチュエータI/F44は、信号レベルの整合を図るバッファ回路、波形整形回路、レベルシフト回路等で構成するものとできる。昇降アクチュエータ12にその駆動回路を含まないものとするときは、昇降アクチュエータI/F44にその駆動回路を含めるものとできる。
【0042】
同様に、把持アクチュエータI/F46は、複数の把持アクチュエータ14と制御部70との間に設けられるインタフェース回路である。各把持アクチュエータ14にその駆動回路が含まれる場合には、把持アクチュエータI/F46は、各把持アクチュエータ14ごとに信号レベルの整合を図るバッファ回路、波形整形回路、レベルシフト回路等で構成するものとできる。また、各把持アクチュエータ14にその駆動回路を含まないものとするときは、把持アクチュエータI/F46に、それらの駆動回路をそれぞれ含めるものとできる。
【0043】
接触・滑り度検出部50は、各探触子20と接続されて、各探触子20と対象物との間の把持状態を検出する回路である。接触・滑り度検出部50は、各探触子20ごとに設けられる回路によって構成されるが、各回路の内容は同じであるので、以下では、1つの探触子20についての1つの接触・滑り度検出部50の内容について説明する。
【0044】
探触子20と対象物との間の関係としては、探触子20に対象物が全く接触していない非接触状態と、探触子20に対象物が接触している接触状態があり、接触状態には、探触子20と対象物が相対的に移動していない接触把持状態と、探触子20と対象物が相対的に移動していわゆる滑っている滑り状態とがある。接触・滑り度検出部50はこれらの各状態を区別して検出する機能を有する。さらに、接触・滑り度検出部50は、接触把持状態における対象物の硬さを検出する機能も有する。
【0045】
図3は、接触・滑り度検出部50の構成を説明するブロック図である。接触・滑り度検出部50は、探触子20における振動子24の入力端子38と接続される端子39と、振動検出センサ26の出力端子40に接続される端子41を備える。また、接触・滑り度検出部50は、端子41に入力端が接続される増幅器52と、増幅器52の出力端と端子39との間に設けられ、振動子24への入力波形と振動検出センサ26からの出力波形の間に位相差が生じるときは、周波数を変化させてその位相差をゼロにシフトする位相シフト回路54とを備える。
【0046】
位相シフト回路54は、振動子24への入力波形と振動検出センサ26からの出力波形との間に位相差が生じるときは、振動子24への入力振動の周波数を変化させて位相差をゼロにシフトし、位相差がゼロとなったときの振動子24への入力周波数を出力する。このように、位相シフト回路54は、対象物の物質特性に関連する位相差をゼロにする振動子24への入力周波数f1を出力するが、この周波数f1は、最初に振動子24への入力波形と振動検出センサ26からの出力波形との間に位相差が生じないときの振動子24への入力周波数f0とは異なっている。位相差の精度よい測定は困難であるが、周波数変化dfは高精度で測定が可能であるので、対象物の物質特性はこの周波数変化dfで高精度に評価することができる。
【0047】
かかる機能を持つ位相シフト回路54の内容については、上記特許文献2である特開平9−145691号公報に詳しく述べられている。このように、振動子24への入力波形と振動検出センサ26からの出力波形との間に位相差が生じるときとは、対象物に振動子24から振動が入射され、対象物から反射されてきた振動を振動検出センサ26で検出するとき等である。
【0048】
上記特許文献2では、探触子20を対象物に押し付けて、周波数変化dfから対象物の物質特性である硬さを測定することが述べられているが、周波数変化dfは、探触子20が対象物に接触したときにも接触の前後において生じ、また、探触子20と対象物との間に滑りが発生しても滑り発生の前後において生じる。したがって、周波数変化dfによって、探触子20と対象物との間の接触・滑りを検出することができる。
【0049】
このような構成で、振動子24、振動検出センサ26と対象物を含む閉ループの共振状態を維持しつつ、探触子20と対象物との間の接触関係等が変化することで生ずる周波数変化dfを、df検出回路56で検出する。検出されたdfデータは、微分回路58によって微分され、dfデータよりもさらに感度のよい接触・滑り度を示すデータとして、端子59から制御部70に伝送される。
【0050】
また、検出されたdfデータは硬さ算出部60によって対象物の硬さデータに変換されて端子61を介して制御部70に伝送される。周波数変化dfを対象物の硬さに変換するには、例えば較正テーブル等を用いることができる。較正テーブルは、硬さの基準とできる基準物質を探触子20の接触ボール28の先端に押し当て、そのときの周波数変化dfを得ることで作成できる。基準物質として、例えば、硬さを表すヤング率、せん断弾性係数と予め対応関係を求めてある各種の硬さを有するシリコンゴム等の標準物質を用いることができる。この機能は、特許文献2で既に述べられているものである。
【0051】
なお、振動子24、振動検出センサ26と対象物を含む閉ループの共振状態における振動の周波数は、位相シフト回路54により周波数を変化させることができるように、振動子24においてQの高い固有振動数以外の周波数に選ばれるのが好ましい。例えば、振動子24において、1次固有振動数が1MHzとすると、この周波数を避けて、400kHz等に設定することが好ましい。
【0052】
接触・滑り度検出部50が探触子20と対象物との間の接触関係等をどのように区別して検出するかを図4と図5を用いて説明する。図4と図5は、横軸に時間をとり、縦軸に4つの状態をとって、これら4つの状態の時間変化の様子を示す図である。4つの状態としては、各図において、上方から下方に向かって順に、昇降アクチュエータ12の駆動パルスのステップ数である昇降ステップ数、把持アクチュエータ14の駆動パルスのステップ数である把持ステップ数、df検出回路56の出力である周波数変化df、微分回路58の出力であるdf/dtである。ここで、把持アクチュエータ14の駆動パルスのステップ数は、把持の最終段階として、1つの多関節部17の最先端の関節部の回転のために用いられるアクチュエータについて示されている。
【0053】
図4は、探触子20と対象物が全く接触していない非接触状態から、探触子20が対象物に接触する接触状態となり、その状態から探触子20を昇降させて対象物を持ち上げようとするときの様子を説明する図である。例えば作業台の上に置かれている対象物を複数の探触子20で挟み込み、その後対象物を作業台から持ち上げようとするときの各状態の変化を示す図である。
【0054】
時刻t0は初期状態であり、このときは探触子20に対象物がなく、全く接触が行われていない非接触状態である。したがって、振動子24への入力波形と振動検出センサ26からの出力波形との間に位相差が生じることがなく、位相シフト回路54において周波数変化が生じない。つまり周波数変化df=0である。
【0055】
時刻t1は、把持アクチュエータ14を対象物に向かって移動駆動し、全ての多関節部17のそれぞれの最先端の関節部にそれぞれ設けられている探触子20が対象物に接触してさらに進んだときである。このように、探触子20を対象物に対し接触させるためには、把持部である多関節部17を対象物に対し移動駆動させるので、これを把持移動のための制御と呼ぶことができる。
【0056】
分かりやすい説明の例としては、時刻t1は、人指し指に相当する多関節部17と中指に相当する多関節部17をそれぞれ移動駆動してそれぞれの探触子20と対象物とを接触させ、その状態からさらに親指に相当する多関節部17の最先端の関節部を移動駆動して対象物に接触させ、さらに移動駆動させたときである。なお、この場合において、図4の周波数変化dfは、この親指に相当する多関節部17に設けられた探触子20についての様子が示される。
【0057】
探触子20が対象物に接触すると、接触した瞬間に、振動子24への入力波形と振動検出センサ26からの出力波形との間に位相差が生じ、位相シフト回路54において周波数変化が生じ、df検出回路56においてその周波数変化dfが出力される。周波数変化dfは、非接触状態のときの周波数からの偏差でもあるので、非接触状態における周波数からの周波数変化を示すものとなる。
【0058】
接触した瞬間は不安定であるので、接触を確実に検出するには、周波数変化dfとして、非接触状態の周波数から少しでも周波数が変化した瞬間ではなく、周波数変化dfについて予め閾値を定めて、検出されたdfがその閾値を超えたときに接触したものと判断することが好ましい。つまり、非接触状態における非接触状態周波数から、ある閾値を超えた周波数となったときに接触したものと判断することが好ましい。
【0059】
このように、閾値を設定すると、厳密には接触した瞬間ではなく、閾値に対応するいくらかの接触圧で探触子20が対象物に接触し、いわば軽い把持状態となるときを接触状態として検出することになる。そこで、この状態を接触把持状態と呼ぶことにして、閾値を接触把持閾値周波数と呼ぶことができる。すなわち、非接触状態周波数からこの接触把持閾値周波数を超えて周波数が変化したときに、接触把持状態として判断するものとする。dfについて閾値を定めるときは、非接触状態周波数とこの接触把持閾値周波数との差の周波数差がdf閾値となる。
【0060】
接触圧はこの接触把持閾値周波数で定まるので、接触把持閾値周波数を適当に設定することで、接触圧を大きくも小さくもできる。例えば、例えば数グラムの把持力、場合によっては1グラム以下の把持力とすることができる。
【0061】
図4では、時刻t1においてdfがdf閾値となって、接触把持状態とされるので、ここで把持アクチュエータ14は、把持移動を停止させる。これによって、作業台の上の対象物が把持部である複数の多関節部17によって接触把持された状態となってその状態が維持される。
【0062】
図4では、時刻t1から時刻t2まで把持ステップ数は一定値に維持され、その間は、上記のように、把持部と対象物の間は接触把持状態が継続される。時刻t2において、昇降ステップ数が変更される。ここでは、昇降アクチュエータ12に、対象物を持ち上げるように昇降指令が出されたものとする。すると、対象物は作業台の上から上方に引き上げられようとするが、把持しているときの圧力は接触把持閾値周波数で定まる接触圧であるので、接触面積にこの接触圧を乗じた把持力が対象物の質量に基く重力方向の力よりも小さいと、探触子20に対し対象物が相対的に重力方向に移動し、探触子20と対象物との間に滑りが発生する。
【0063】
滑りが発生すると、滑りがない接触把持状態のときの周波数から、非接触状態周波数の方へ周波数が変化する。図4では、時刻t2において、周波数変化dfが、再びゼロに向かって変化する様子が示される。そして、昇降ステップ数が対象物を持ち上げる方に増大するに従い、周波数変化dfが次第にゼロに近づき、時刻t3において、周波数変化df=0つまり、周波数が非接触状態周波数となり、探触子20と対象物との間の関係が非接触状態となったことが示される。
【0064】
このような滑りの検出は、周波数変化dfよりも、微分回路58によってdfを時間で微分したdf/dtの変化によってさらに確実に検出できる。滑りが発生した瞬間は、接触把持された状態が維持されているときの周波数から周波数が変化した瞬間であるので、図4に示されるように、df/dtがゼロから急変するときである。したがって、df・dtに対し適当な閾値を設定し、その閾値を超えたときに、滑り発生を検出したものとできる。
【0065】
図4は、把持ステップ数の大きさについて接触把持を検出した状態のままで維持する場合であるので、接触把持閾値周波数の設定によっては、上記のように、探触子20と対象物との間に滑りが発生する。図5は、滑り発生が検出されたときに、把持ステップ数を変更して、滑り発生を抑制する様子を示す図である。図5の横軸の内容、縦軸の各状態の内容は図4と同様である。また、時刻t0,t1,t2の内容も図4と同じである。すなわち、時刻t0からt2までの内容は、図4と同じである。
【0066】
時刻t2において、昇降ステップ数が変更され、昇降アクチュエータ12に、対象物を持ち上げるように昇降指令が出されたものとするところも図4と同じである。そして、df/dtに示されるように、時刻t2において探触子20と対象物との間に滑りが発生している。
【0067】
図4の場合と相違して、ここで、この滑りの大きさに応じて、把持ステップ数が変更される。具体的には、滑り状態が検出されると、位相シフト回路54が出力する周波数の変化量に応じて、把持アクチュエータ14が対象物を滑り状態から接触把持状態に戻す方向に把持ステップ数を変更する。すなわち、把持力を増大させるように、探触子20を対象物側に移動させる把持移動の制御を行う。これによって滑りに対応する。
【0068】
この把持ステップ数の変更は、位相シフト回路54が出力する周波数が接触把持状態における周波数に戻るまで続けられる。図5では、時刻t4まで、把持ステップ数が順次大きくなるように変更が続けられる。そして、接触把持状態における周波数に戻れば、接触把持状態に戻り、滑り状態が検出しなくなったことになるので、把持ステップ数の変更を停止し、その状態を維持する。このときは、接触把持閾値周波数で定まる接触圧で、探触子20によって対象物が作業台の上方において接触把持されている。つまり、最小限度の把持力で対象物が把持されていることになる。
【0069】
再び図1に戻ると、制御部70は、ロボットハンドシステム10のハードウェア部分を構成する各要素の動作を全体として制御する機能を有する。制御部70は、上記のように、昇降アクチュエータI/F44、把持アクチュエータI/F46、接触・滑り度検出部50と適当な信号線等で接続される。また、制御部70は、キーボード等の入力部42、ディスプレイ、プリンタ等の出力部43と接続される。かかる制御部70は、適当なコンピュータ等で構成することができる。
【0070】
制御部70は、接触状態停止モジュール72と、滑り対応モジュール74と、把持維持モジュール76と、硬さ表示モジュール78とを含んで構成される。
【0071】
ここで接触状態停止モジュール72は、図4、図5における時刻t1における処理を実行する機能を有する。すなわち、把持部を構成する探触子20に対象物が接触していない状態から対象物に接触する方向に探触子20を対象物に対し把持移動させ、接触・滑り度検出部50が探触子20と対象物との接触把持を検出したときに把持移動を停止させる機能を有する。
【0072】
また、滑り対応モジュール74は、図5における時刻t2からt4までの期間における処理を実行する機能を有する。すなわち、接触把持を検出して把持移動を停止した状態のままで、探触子20に対し対象物が相対的に重力方向に移動して、接触・滑り度検出部50が滑り状態を検出するときに、位相シフト回路54が出力する周波数の変化量に応じて、探触子20が対象物を滑り状態から接触把持状態に戻す方向にさらに把持部を構成する探触子20を把持移動させる機能を有する。
【0073】
また、把持維持モジュール76は、図5における時刻t4における処理を実行する機能を有する。すなわち、接触・滑り度検出部50が滑り状態を検出しなくなったときに、把持部を構成する探触子20の把持移動を停止させる機能を有する。
【0074】
また、硬さ表示モジュール78は、図4の時刻t2または図5の時刻t4において、対象物の硬さを表示する機能を有する。例えば、図5の時刻t4の場合では、把持維持モジュール76の機能によって処理が実行され、接触・滑り度検出部50が滑り状態を検出しなくなったときの位相シフト回路54が出力する周波数変化に基き、予め求められた周波数変化と硬さの関係を用いて、対象物の硬さを出力する機能を有する。
【0075】
制御部70の上記の各機能は、ソフトウェアで実現でき、具体的には、ロボットハンド制御プログラムを実行することで実現できる。勿論、ソフトウェアで実現される機能の一部をハードウェアで実現するものとしてもよい。
【0076】
上記構成の作用、特に制御部70の各機能の内容を図6、図7を用いて詳細に説明する。図6、図7は、ロボットハンドシステム10において、対象物を最小限度の把持力で把持する処理の手順を示すフローチャートである。これらの各手順は、ロボットハンド制御プログラムの各処理手順にそれぞれ対応する。
【0077】
ロボットハンドシステム10において対象物を最小限度の把持力で把持する処理を実行するには、まず、ロボットハンドシステム10を起動し、ロボットハンド制御プログラムを立ち上げる。そして、作業台の上に対象物をセットして、把持指令を取得する(S10)。把持指令は、入力部42を介して取得することができる。
【0078】
次にこの把持指令に従って、把持アクチュエータ14が把持移動される。ここでは、上記のように、まず、人指し指に相当する多関節部17と中指に相当する多関節部17をそれぞれ移動駆動してそれぞれの探触子20と対象物とを接触させ、その状態からさらに親指に相当する多関節部17の最先端の関節部を移動駆動して対象物に接触させ、さらに移動駆動させるものとする。この場合で、親指に相当する多関節部17の最先端の関節部を移動駆動させる把持アクチュエータ14を単位駆動させる(S12)。単位駆動とは、図4、図5で説明した把持ステップ数を1つ進めることで、ステッピングモータの駆動パルスを1つ出力することに相当する。
【0079】
次に、接触把持を検出したか否かが判断される(S14)。具体的には、接触・滑り度検出部50において、位相シフト回路54が出力する周波数と、予め定めた接触把持閾値周波数とが比較され、接触把持閾値周波数を超える周波数であるときに、接触把持が検出されたと判断される。換言すれば、探触子20に対象物がない状態の非接触状態周波数から、予め定めた接触把持閾値周波数を超えて周波数が変化したときに、探触子20が対象物に接触し把持したと判断される。
【0080】
S14で判断が否定されるとS12に戻り、さらに把持アクチュエータ14が単位駆動される。すなわち、さらにステッピングモータの駆動パルスが1つ出力される。そして再びS14の判断が行われる。これをS14の判断が肯定されるまで繰り返す。S14の判断が肯定されると、もはや把持アクチュエータ14の単位駆動が行われない。すなわち、接触把持の状態で停止が行われる(S16)。ここまでの工程は、制御部70の接触状態停止モジュール72の機能によって実行される。S16の状態が、図4、図5のt1の状態である。
【0081】
S16の次は、図7のS20に進む。すなわち、昇降指令が取得される(S20)。実際には、S10において、入力部42から把持指令を取得したときに、昇降指令、つまり、対象物を把持して持ち上げる指示が含まれているが、その指令を受け取っても、S16の状態になるまで、対象物を持ち上げる処理は行われない。したがって、昇降指令とは、ロボットハンドシステム10の制御部70における内部処理として、昇降に関する処理はS16の状態になったときに実行されるものとして取り扱われる処理である。
【0082】
昇降指令が取得されると、これに従って、昇降アクチュエータ12が単位駆動される(S22)。単位駆動の意味はS12で述べたものと同様で、ここでは、昇降アクチュエータ12のステッピングモータに、駆動パルスが1つ供給される。これにより、平板部15が単位量だけ上方に持ち上げられる。
【0083】
そして、滑り度検出が行われる(S24)。具体的には、位相シフト回路54が出力する周波数について、接触把持閾値周波数を超えている接触把持状態から、非接触状態周波数の方向に周波数が変化するときに、把持部を構成する探触子20に対し対象物が接触把持状態から変化して滑っている滑り状態として検出される。さらに具体的には、周波数の変化を微分回路58によってdf/dtとして取得する。
【0084】
そして、滑り度が予め定めた閾値を超えるか否かが判断される(S26)。探触子20に対する対象物の滑りは、位相シフト回路54が出力する周波数が変化した瞬間に生じるが、実際には、周波数変化の検出精度にも限界があるので、測定誤差等を考慮して閾値を設けることが好ましい。具体的には、接触把持状態の周波数から適当な周波数差だけ離れた周波数を閾値周波数とし、位相シフト回路54が出力する周波数が接触把持状態の周波数から閾値周波数を超えて変化したときにS26の判断が肯定されるものとできる。
【0085】
また、図4、図5で説明したように、微分回路58の出力を用いるときは、df/dtに対し適当な閾値を設定し、その閾値を超えたときにS26の判断が肯定されるものとしてもよい。
【0086】
S26で判断が否定されるとS22に戻り、昇降アクチュエータ12がさらに単位駆動される。すなわち、昇降アクチュエータ12のステッピングモータにさらに1つの駆動パルスが供給され、昇降ステップ数が1つ大きくされる。そして再びS24を経てS26の判断が行われる。S26の判断が肯定されるまでこれが繰り返される。
【0087】
S26で判断が肯定されると、探触子20に対し、対象物が相対的に重力方向に移動して滑りが発生していることになるので、次に把持アクチュエータ14が単位駆動される(S28)。把持アクチュエータ14の単位駆動の意味はS12で説明した内容と同じである。すなわち、探触子20が対象物に向かって、さらに把持ステップ数を1つ増やして把持移動駆動される。
【0088】
そして、滑り度が閾値を超えるか否かが判断される(S30)。この内容はS26と同じである。S30で判断が肯定されると、滑りがまだ継続していることになるので、S28に戻り、さらに把持ステップ数を1つ増やす。そして再びS30の判断が行われる。S30の判断が否定されるまで、これが繰り返される。
【0089】
S30の判断が否定されると、滑りがなくなったことになるので、次に、昇降量が指令値未満であるか否かが判断される(S32)。S32の判断が肯定されると、最初に指示された昇降量まで対象物が持ち上げられていないことになるので、S22に戻り、昇降アクチュエータ12がさらに単位駆動される。つまり、昇降ステップ数がさらに1つ増加され、対象物が単位量さらに持ち上げられる。
【0090】
そして、S24以下の肯定が繰り返され、再び滑りがなくなった状態とされたら、再度S32の判断が行われる。S32の判断が否定されるまで、上記の工程が繰り返される。S32で判断が否定されると、昇降量が指令値以上となって、しかも滑りがなくなっていることになる。すなわち、最小限の把持力で対象物が持ち上げられ、滑らずに把持されている。
【0091】
そこで、昇降ステップ数の変更も把持ステップ数の変更も停止され、その状態で把持が継続して維持される(S34)。そして、その状態における位相シフト回路54から出力される周波数に基いて、硬さ算出部60によって対象物の硬さが算出され、適当なディスプレイ等の出力部43に表示される(S36)。
【0092】
このようにして、位相シフト回路54の機能を利用して、探触子20と対象物との間の接触検出、滑り検出を行い、対象物を重力方向の相対的移動を生じないように、最小限度の把持力で把持することができる。また把持している対象物の硬さを表示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明に係る実施の形態において、把持部を有するロボットハンドシステムの構成を説明する図である。
【図2】本発明に係る実施の形態において、探触子周りの詳細図である。
【図3】本発明に係る実施の形態において、接触・滑り度検出部の構成を説明するブロック図である。
【図4】本発明に係る実施の形態において、探触子と対象物が全く接触していない非接触状態から、探触子が対象物に接触する接触状態となり、その状態から探触子を昇降させて対象物を持ち上げようとするときの各要素の状態の様子を説明する図である。
【図5】本発明に係る実施の形態において、滑り発生が検出されたときに、把持ステップ数を変更して、滑り発生を抑制する様子を示す図である。
【図6】本発明に係る実施の形態のロボットハンドシステムにおいて、対象物を最小限度の把持力で把持する処理の前半部分の手順を示すフローチャートである。
【図7】図6に引き続く処理の後半部分の手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0094】
10 (把持部を有する)ロボットハンドシステム、11 ベース、12 昇降アクチュエータ、13 アーム、14 把持アクチュエータ、15 平板部、17 多関節部、20 探触子、22 第1基台、24 振動子、26 振動検出センサ、28 接触ボール、30 押付ボール、32 第2基台、34 圧力センサ、36 一体化樹脂部、38 入力端子、39,41,59,61 端子、40 出力端子、42 入力部、43 出力部、44 昇降アクチュエータI/F、46 把持アクチュエータI/F、50 接触・滑り度検出部、52 増幅器、54 位相シフト回路、56 df検出回路、58 微分回路、60 硬さ算出部、70 制御部、72 接触状態停止モジュール、74 滑り対応モジュール、76 把持維持モジュール、78 硬さ表示モジュール。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物に対し相対的に移動して対象物を把持する把持部と、
把持部に設けられ、対象物に振動を入射する振動子と、対象物からの反射波を検出する振動検出センサとを有する探触子と、
振動検出センサの出力端に入力端が接続された増幅器と、
増幅器の出力端と振動子の入力端との間に設けられ、振動子への入力波形と振動検出センサからの出力波形との間に位相差が生じるときは、振動子への入力振動の周波数を変化させて位相差をゼロにシフトし、位相差がゼロとなったときの振動子への入力周波数を出力する位相シフト回路と、
位相シフト回路が出力する周波数について、把持部に対象物がない状態の非接触状態周波数から、予め定めた接触把持閾値周波数を超えて周波数が変化したときに、把持部が対象物に接触し把持したことを検出する接触状態検出部と、
位相シフト回路が出力する周波数について、接触把持閾値周波数を超えている接触把持状態から、非接触状態周波数の方向に周波数が変化するときに、把持部に対し対象物が接触把持状態から変化して滑っている滑り状態として検出する滑り状態検出部と、
把持部の対象物に対する相対的な移動である把持移動を制御する制御部と、
を備え、
制御部は、
把持部に対象物が接触していない状態から対象物に接触する方向に把持部を対象物に対し把持移動させ、接触状態検出部が把持部と対象物との接触把持を検出したときに把持移動を停止させる接触状態停止手段と、
接触把持を検出して把持移動を停止した状態のままで、把持部に対し対象物が相対的に重力方向に移動して滑り状態検出部が滑り状態を検出するときに、位相シフト回路が出力する周波数の変化量に応じて、把持部が対象物を滑り状態から接触把持状態に戻す方向にさらに把持部を把持移動させる滑り対応手段と、
滑り状態検出部が滑り状態を検出しなくなったときに、把持部の把持移動を停止させる把持維持手段と、
を含むことを特徴とする把持部を有するロボットハンドシステム。
【請求項2】
請求項1に記載の把持部を有するロボットハンドシステムにおいて、
滑り状態検出部は、位相シフト回路が出力する周波数を微分する微分手段を有し、微分手段の出力に基いて、位相シフト回路が出力する周波数の変化による滑り検出を行うことを特徴とする把持部を有するロボットハンドシステム。
【請求項3】
請求項1に記載の把持部を有するロボットハンドシステムにおいて、
把持維持手段の処理で滑り状態検出部が滑り状態を検出しなくなったときの位相シフト回路が出力する周波数変化に基き、予め求められた周波数変化と硬さの関係を用いて、対象物の硬さを出力する硬さ出力手段を備えることを特徴とする把持部を有するロボットハンドシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−149262(P2010−149262A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−332712(P2008−332712)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、文部科学省、都市エリア産学官連携促進事業(発展型)委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】