振動波モータ
【課題】 振動体の突起を軽くて剛性の高い構造にすることにより、振動体の共振周波数を高め、速度を向上させるとともに、移動体と安定した接触を保つことができる振動波モータを提供する。
【解決手段】 振動体2の突起2-1を、基部2-2から移動体との接触面まで駆動方向に連続的に接続することで、突起2-1が比剛性の高い構造になり、突起2-1の質量を低減し、振動体2の共振周波数を高め、振動波モータの速度を向上させることができる。さらに、剛性の高い接続部2-3が移動体との接触面となるため、安定した接触が可能となる。
【解決手段】 振動体2の突起2-1を、基部2-2から移動体との接触面まで駆動方向に連続的に接続することで、突起2-1が比剛性の高い構造になり、突起2-1の質量を低減し、振動体2の共振周波数を高め、振動波モータの速度を向上させることができる。さらに、剛性の高い接続部2-3が移動体との接触面となるため、安定した接触が可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、進行性振動波により移動体を摩擦駆動する振動波モータ、特にその振動体の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、振動波モータは、進行性振動波が形成される振動体と、振動体に加圧接触する移動体とを有し、振動体と移動体とを進行性振動波により相対的に移動させることにより駆動力を得る。
【0003】
振動波モータの速度を増すためには、振動体の曲げ振動の振幅を大きくすればよい。しかし、振動体の曲げ振動の振幅を大きくすると、振動体の材料の破壊、圧電素子の割れ、及び内部損失の増加等が発生し、振動波モータの速度を増すには限界がある。
【0004】
そこで、図13に示すように、振動体に駆動方向の振幅を拡大する突起を形成した振動波モータが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
図13において、振動体102は円環状をしており、移動体側で、進行性振動波の進行方向に対して横断して設けられたスリットによって突起102aに、円環状振動体102の全周にわたって等間隔に分割されており、圧電素子側では連続した基体102bとなっている。突起102aを設けることにより、振動体102の中立面から移動体との摩擦面までの距離が拡大され、駆動方向の振幅が増加し、振動波モータの速度を増すことができる。
【0006】
また、図14に示すように、プレス加工によって振動体の突起を形成し、突起に溝を設けて振動変位を拡大する振動波モータが提案されている(例えば、特許文献2参照)
図14において、振動体111は円環状金属部材112と、該部材112に接着された電気−機械エネルギー変換素子及び複数の突起を有する摩擦材114を有している。摩擦材114は鉄、鉄合金、銅合金又はアルミニウム合金の板材をプレス加工により複数の突起が形成されている。上記摩擦材114は移動体と直接摩擦接触する複数の突起114aと、該突起114aの略中央に位置する溝114bがプレス加工によって形成される。したがって、各突起114aは溝114bにより、より振動変位が拡大されることになる。
【特許文献1】特開昭59−201685号公報
【特許文献2】特開平08−298793号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された振動波モータでは、速度を増すためには突起102aの長さを長くし、中立面から振動体の摩擦面までの距離を大きくすればよい。しかし、突起102aの長さを長くすると、駆動方向の振幅は増加するが、その反面、振動体102の共振周波数が低下するという相反する状況になるため、速度の増加に限界がある。
【0008】
一方、特許文献2に記載された振動波モータでは、突起114aの略中央に位置する溝114bにより、駆動方向の振幅が拡大される。しかし、突起114aに溝114bが設けられているため、突起114aの剛性が低くなり、振動体の共振周波数が低下し、溝114bによる駆動方向の振幅を拡大する効果が制限される。
【0009】
また、突起114aの接触部の剛性が低いため、接触部で不要な振動が起こり、移動体との安定した接触が保てない恐れがある。
【0010】
本発明の目的は、振動体の突起を軽くて剛性の高い構造にすることにより、振動体の共振周波数を高め、速度を向上させるとともに、移動体と安定した接触を保つことができる振動波モータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の目的を達成するために、本発明の振動波モータは、電気−機械エネルギー変換素子に交流電圧を印加することによって、前記変換素子と弾性体とから構成される振動体に進行性振動波を発生させ、前記振動波により前記振動体に接触する移動体を摩擦駆動する振動波モータにおいて、前記振動体は、前記変換素子を有する基部と、前記移動体との接触側に設けられた複数の突起と、前記突起のうち少なくとも2つを前記移動体の駆動方向に接続した接続部を備え、前記接続部は前記突起の前記移動体との接触側の面から前記基部まで連続的に形成されており、少なくとも前記接続部の前記移動体との接触側の面を、前記移動体との接触面とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、振動体の突起を基部から接触面まで駆動方向に連続的に接続することで、突起が比剛性の高い構造になり、突起の質量を低減し、振動体の共振周波数を高め、振動波モータの速度を向上させることができる。さらに、剛性の高い接続部が移動体との接触面となるため、安定した接触が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、本発明の詳細を実施例の記述に従って説明する。
【実施例1】
【0014】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る振動波モータの構成を示す断面図である。
【0015】
図1において、振動波モータは円環状に形成されており、圧電素子1、振動体2、移動体3を備えている。圧電素子1は、電気量を機械量に変換する電気−機械エネルギー変換素子であり、振動体2と接合されている。振動体2は、放射状の突起を持つ金属製の弾性部材であり、突起2-1、基部2-2及び接続部2-3から構成されている。接続部2-3が移動体3との接触部となる。
【0016】
移動体3は、不図示の加圧手段による加圧力により、振動体2と加圧接触するように構成されている。また、移動体3は、振動体2との摩擦によって駆動される。振動波モータにおいては、移動体3からの駆動力を、出力軸等を介して振動波モータ外部の装置に伝達することで、該装置を駆動する。
【0017】
図2は、図1に示す振動波モータの振動体2の外観を示す斜視図である。図3は、図2に示す振動波モータの振動体2の一部を拡大した斜視図である。
【0018】
図2及び図3において、複数の突起2-1(本実施の形態では2つの突起2a、2b)は、移動体3との接触面から基部2-2まで、接続部2-3によって連続的に接続されている。接続部2-3は、基部2-2の中心に対して同心円上の位置に配置されている。
【0019】
本実施の形態によれば、従来の突起より薄い複数の突起2-1を基部2-2から移動体3との接触面まで駆動方向に連続的に接続しているので、突起2-1の質量を大きく増加することなく突起2-1の剛性を高めることができ、突起2-1を比剛性の高い構造とすることができる。これにより、振動体2の共振周波数を高め、振動波モータの速度を向上させることができる。
【0020】
また、剛性の高い接続部2-3が移動体3との接触面となるため、安定した接触が可能となる。
【実施例2】
【0021】
本発明の第2の実施の形態は、上述した第1の実施の形態に対して、接続部を図4、図5および図6に示す構造とした点において相違する。本実施のその他の要素(圧電素子1、移動体3)は、上述した第1の実施の形態の対応するものと同一なので、説明を省略する。
【0022】
図4、図5および図6は、本実施の形態に係る振動波モータの振動体の一部を拡大した斜視図である。
【0023】
図4において、接続部12-3は振動体12と別部材となっている。接続部12-3は圧入、冷しばめ、焼きばめ、接着剤による接着等により、突起12-1と結合され、複数の突起12-1を移動体3の駆動方向に接続している。振動体12は、接続部12-3で移動体3と接触する。
【0024】
本実施の形態によれば、接続部12-3が振動体に比べ加工の容易な形状となる。そのため、従来は加工性が金属などと比べて劣るため、振動体の材料として使用するのが困難だった、アルミナや炭化珪素など、高い摩擦力を得ながら耐摩耗性も高い材料で接続部12-3を作ることができる。これにより、振動波モータの発生トルクの向上と耐久性の向上ができる。また、接続部12-3以外は移動体3と接触しないため、振動体12は、従来よりも耐摩耗性が低くても、振動特性のよい材料で作ることができるようになる。
【0025】
さらに、振動波モータは接触面が摩耗するため、経時的な摩耗状態の変化で性能が劣化するという問題がある。このような場合、従来は振動波モータの全体、もしくは振動体の全体の交換が必要となり、コストが高くついてしまった。しかし、本実施の形態によれば、接続部12-3が振動体12と別部材となっているため、摩耗した接続部12-3のみを交換できるようになり、振動波モータ全体等の交換を不要にできる。
【0026】
図4において、接続部12-3は四角柱状をしているが、本発明は、これに限定されるものではなく、接続部12-3をその他の角柱状にしてもよい。
【0027】
さらに、図5に示すように、接続部22-3を円柱状にして複数の突起22-1を接続してもよい。
【0028】
また、図6に示すように、突起32-1に接続部32-3を螺合して振動体を形成してもよい。接続部32-3には雄ねじを形成し、これと同径同ピッチの雌ねじを突起32-1に備えている。このとき、接着剤等でゆるみ止めを施してもよい。図6の構成によれば、接続部32-3の交換がより容易になる。
【実施例3】
【0029】
本発明の第3の実施の形態は、上述した第1の実施の形態に対して、突起42-1を図7に示す構造とした点において相違する。本実施のその他の要素(圧電素子1、移動体3)は、上述した第1の実施の形態の対応するものと同一なので、説明を省略する。
【0030】
図7は、本実施の形態に係る振動波モータの振動体の一部を拡大した斜視図である。
【0031】
図7において、突起42-1は台形形状となっている。複数の台形形状の突起42-1は、移動体3との接触面から基部42-2まで、接続部42-3によって連続的に接続されている。接続部42-3は、基部42-2の中心に対して同心円上の位置に配置されている。
【0032】
本実施の形態によれば、突起42-1の曲げ剛性にあまり寄与しない部分を除去することにより、突起42-1がより軽量化され、振動体42の共振周波数を高め、振動波モータの速度を向上させることができる。
【0033】
また、突起42-1は台形形状となっているため、突起形状が従来のものに比べ、振動体42に曲げ進行波が形成されたときの中立面から移動体3までの距離が大きくなる。これにより、振動体42に同一の曲げ振幅を起こしても、駆動方向の振幅の拡大率が増加するため、振動波モータの速度を向上させることができる。
なお、図7において、突起42-1は台形形状をしているが、本発明は、これに限定されるものではなく、突起の移動体3との接触側の面の面積が、基部側の面の面積より小さければ、同様の効果が得られる。
【実施例4】
【0034】
本発明の第4の実施の形態は、上述した第1の実施の形態に対して、突起52-1を図8に示す構造とした点において相違する。本実施のその他の要素(圧電素子1、移動体3)は、上述した第1の実施の形態の対応するものと同一なので、説明を省略する。
【0035】
図8は、本実施の形態に係る振動波モータの振動体の一部を拡大した斜視図である。
【0036】
図8において、複数の突起52-1は、移動体3との接触面から基部52-2まで、接続部52-3によって連続的に接続されている。接続部52-3は、基部52-2の中心に対して同心円上の位置に配置されており、突起52-1の最外周部を接続している。突起52-1は内径側に向かって斜めに除去されている。振動体52は鉄、鉄合金、銅合金またはアルミニウム合金の板材をプレス加工により複数の突起と接続部が形成されるように作製した。
【0037】
図9は、図8に示す振動波モータの振動体52をプレス加工する前の板状ブランクの一部を示した斜視図である。
【0038】
図9において、図中点線部分を折り曲げることによって、突起52a、52b及び接続部52-3を形成する。基部52-2と突起52a、52bは溶接や接着等で固定する。
【0039】
本実施の形態によれば、振動体52の複数の突起52-1とその接続部52-3をプレス加工により形成したので、従来の切削や研削に比べて大幅に製作時間の短縮、コスト低下を果たすことができる。また、剛性の高い接続部52-3で移動体3と接触するため、安定した接触が可能となっている。
【実施例5】
【0040】
本発明の第5の実施の形態は、上述した第1の実施の形態に対して、接続部を図10、図11に示す構造とした点において相違する。本実施のその他の要素(圧電素子1、移動体3)は、上述した第1の実施の形態の対応するものと同一なので、説明を省略する。
【0041】
図10、および図11は、本実施の形態に係る振動波モータの振動体の一部を拡大した斜視図である。
【0042】
図10において、2つの接続部62-3が突起62-1を移動体3の駆動方向に接続している。2つの接続部62-3はそれぞれ基部62-2の中心に対して同心円状に配置されており、それぞれが移動体3と接触する構成となっている。
【0043】
また、図11においては、3つの接続部72-3が突起72-1を移動体3の駆動方向に接続している。3つの接続部72-3はそれぞれ基部72-2の中心に対して同心円状に配置されており、それぞれが移動体3と接触する構成となっている。
【0044】
本実施の形態によれば、移動体3との接触部を複数設けることにより、接触面の面圧を高めることなく摩擦力を大きくすることができる。これにより、振動波モータの発生トルクを向上させることができる。また、トルクを維持したままであるならば、面圧を低減することができ、耐久性を向上させることができる。
【0045】
なお、本実施例において、接続部は2、3個であったが、本発明はこれに限定されるものではなく、接続部を複数設ければ同様の効果が得られる。
【実施例6】
【0046】
本発明の第6の実施の形態は、上述した第1の実施の形態に対して、接続部を図12に示す構造とした点において相違する。本実施のその他の要素(圧電素子1、移動体3)は、上述した第1の実施の形態の対応するものと同一なので、説明を省略する。
【0047】
図12は本実施の形態に係る振動波モータの振動体の一部を拡大した斜視図である。
【0048】
図12において、複数の突起82-1は、移動体3との接触面から基部82-2まで、接続部82-3によって連続的に接続されている。接続部82-3は、基部82-2の中心に対して同心円上の位置に配置されている。摩擦部材84は接続部82-3に接着され、移動体3と接触する。摩擦部材84は、フッ素樹脂粉末(PTFE:ポリテトラフルオロエチレン)を主材として、添加剤としてカーボンファイバ、ポリイミド、二硫化モリブデンを用いて、焼成し作製した。
【0049】
本実施の形態によれば、耐摩耗性の優れた摩擦部材84が移動体3と接触するため、振動波モータの接触部が摩耗性に優れ、安定した駆動が可能になり、耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る振動波モータの構成を示す断面図である。
【図2】図1に示す振動波モータの振動体の外観を示す斜視図である。
【図3】図2に示す振動波モータの振動体の一部を拡大した斜視図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係る振動波モータの振動体の一部を拡大した斜視図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係る振動波モータの振動体の一部を拡大した斜視図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係る振動波モータの振動体の一部を拡大した斜視図である。
【図7】本発明の第3の実施の形態に係る振動波モータの振動体の一部を拡大した斜視図である。
【図8】本発明の第4の実施の形態に係る振動波モータの振動体の一部を拡大した斜視図である。
【図9】図8に示す振動波モータの振動体をプレス加工する前の板状ブランクの一部を示した斜視図である。
【図10】本発明の第5の実施の形態に係る振動波モータの振動体の一部を拡大した斜視図である。
【図11】本発明の第5の実施の形態に係る振動波モータの振動体の一部を拡大した斜視図である。
【図12】本発明の第6の実施の形態に係る振動波モータの振動体の一部を拡大した斜視図である。
【図13】従来例に係る振動波モータの振動体の斜視図である。
【図14】従来例に係る振動波モータの振動体の要部拡大斜視図である。
【符号の説明】
【0051】
1 圧電素子
2、12、22、32、42、52、62、72、82 振動体
2-1、12-1、22-1、32-1、42-1、52-1、62-1、72-1、82-1 突起
2-2、12-2、22-2、32-2、42-2、52-2、62-2、72-2、82-2 基部
2-3、12-3、22-3、32-3、42-3、52-3、62-3、72-3、82-3 接続部
3 移動体
84 摩擦部材
【技術分野】
【0001】
本発明は、進行性振動波により移動体を摩擦駆動する振動波モータ、特にその振動体の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、振動波モータは、進行性振動波が形成される振動体と、振動体に加圧接触する移動体とを有し、振動体と移動体とを進行性振動波により相対的に移動させることにより駆動力を得る。
【0003】
振動波モータの速度を増すためには、振動体の曲げ振動の振幅を大きくすればよい。しかし、振動体の曲げ振動の振幅を大きくすると、振動体の材料の破壊、圧電素子の割れ、及び内部損失の増加等が発生し、振動波モータの速度を増すには限界がある。
【0004】
そこで、図13に示すように、振動体に駆動方向の振幅を拡大する突起を形成した振動波モータが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
図13において、振動体102は円環状をしており、移動体側で、進行性振動波の進行方向に対して横断して設けられたスリットによって突起102aに、円環状振動体102の全周にわたって等間隔に分割されており、圧電素子側では連続した基体102bとなっている。突起102aを設けることにより、振動体102の中立面から移動体との摩擦面までの距離が拡大され、駆動方向の振幅が増加し、振動波モータの速度を増すことができる。
【0006】
また、図14に示すように、プレス加工によって振動体の突起を形成し、突起に溝を設けて振動変位を拡大する振動波モータが提案されている(例えば、特許文献2参照)
図14において、振動体111は円環状金属部材112と、該部材112に接着された電気−機械エネルギー変換素子及び複数の突起を有する摩擦材114を有している。摩擦材114は鉄、鉄合金、銅合金又はアルミニウム合金の板材をプレス加工により複数の突起が形成されている。上記摩擦材114は移動体と直接摩擦接触する複数の突起114aと、該突起114aの略中央に位置する溝114bがプレス加工によって形成される。したがって、各突起114aは溝114bにより、より振動変位が拡大されることになる。
【特許文献1】特開昭59−201685号公報
【特許文献2】特開平08−298793号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された振動波モータでは、速度を増すためには突起102aの長さを長くし、中立面から振動体の摩擦面までの距離を大きくすればよい。しかし、突起102aの長さを長くすると、駆動方向の振幅は増加するが、その反面、振動体102の共振周波数が低下するという相反する状況になるため、速度の増加に限界がある。
【0008】
一方、特許文献2に記載された振動波モータでは、突起114aの略中央に位置する溝114bにより、駆動方向の振幅が拡大される。しかし、突起114aに溝114bが設けられているため、突起114aの剛性が低くなり、振動体の共振周波数が低下し、溝114bによる駆動方向の振幅を拡大する効果が制限される。
【0009】
また、突起114aの接触部の剛性が低いため、接触部で不要な振動が起こり、移動体との安定した接触が保てない恐れがある。
【0010】
本発明の目的は、振動体の突起を軽くて剛性の高い構造にすることにより、振動体の共振周波数を高め、速度を向上させるとともに、移動体と安定した接触を保つことができる振動波モータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の目的を達成するために、本発明の振動波モータは、電気−機械エネルギー変換素子に交流電圧を印加することによって、前記変換素子と弾性体とから構成される振動体に進行性振動波を発生させ、前記振動波により前記振動体に接触する移動体を摩擦駆動する振動波モータにおいて、前記振動体は、前記変換素子を有する基部と、前記移動体との接触側に設けられた複数の突起と、前記突起のうち少なくとも2つを前記移動体の駆動方向に接続した接続部を備え、前記接続部は前記突起の前記移動体との接触側の面から前記基部まで連続的に形成されており、少なくとも前記接続部の前記移動体との接触側の面を、前記移動体との接触面とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、振動体の突起を基部から接触面まで駆動方向に連続的に接続することで、突起が比剛性の高い構造になり、突起の質量を低減し、振動体の共振周波数を高め、振動波モータの速度を向上させることができる。さらに、剛性の高い接続部が移動体との接触面となるため、安定した接触が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、本発明の詳細を実施例の記述に従って説明する。
【実施例1】
【0014】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る振動波モータの構成を示す断面図である。
【0015】
図1において、振動波モータは円環状に形成されており、圧電素子1、振動体2、移動体3を備えている。圧電素子1は、電気量を機械量に変換する電気−機械エネルギー変換素子であり、振動体2と接合されている。振動体2は、放射状の突起を持つ金属製の弾性部材であり、突起2-1、基部2-2及び接続部2-3から構成されている。接続部2-3が移動体3との接触部となる。
【0016】
移動体3は、不図示の加圧手段による加圧力により、振動体2と加圧接触するように構成されている。また、移動体3は、振動体2との摩擦によって駆動される。振動波モータにおいては、移動体3からの駆動力を、出力軸等を介して振動波モータ外部の装置に伝達することで、該装置を駆動する。
【0017】
図2は、図1に示す振動波モータの振動体2の外観を示す斜視図である。図3は、図2に示す振動波モータの振動体2の一部を拡大した斜視図である。
【0018】
図2及び図3において、複数の突起2-1(本実施の形態では2つの突起2a、2b)は、移動体3との接触面から基部2-2まで、接続部2-3によって連続的に接続されている。接続部2-3は、基部2-2の中心に対して同心円上の位置に配置されている。
【0019】
本実施の形態によれば、従来の突起より薄い複数の突起2-1を基部2-2から移動体3との接触面まで駆動方向に連続的に接続しているので、突起2-1の質量を大きく増加することなく突起2-1の剛性を高めることができ、突起2-1を比剛性の高い構造とすることができる。これにより、振動体2の共振周波数を高め、振動波モータの速度を向上させることができる。
【0020】
また、剛性の高い接続部2-3が移動体3との接触面となるため、安定した接触が可能となる。
【実施例2】
【0021】
本発明の第2の実施の形態は、上述した第1の実施の形態に対して、接続部を図4、図5および図6に示す構造とした点において相違する。本実施のその他の要素(圧電素子1、移動体3)は、上述した第1の実施の形態の対応するものと同一なので、説明を省略する。
【0022】
図4、図5および図6は、本実施の形態に係る振動波モータの振動体の一部を拡大した斜視図である。
【0023】
図4において、接続部12-3は振動体12と別部材となっている。接続部12-3は圧入、冷しばめ、焼きばめ、接着剤による接着等により、突起12-1と結合され、複数の突起12-1を移動体3の駆動方向に接続している。振動体12は、接続部12-3で移動体3と接触する。
【0024】
本実施の形態によれば、接続部12-3が振動体に比べ加工の容易な形状となる。そのため、従来は加工性が金属などと比べて劣るため、振動体の材料として使用するのが困難だった、アルミナや炭化珪素など、高い摩擦力を得ながら耐摩耗性も高い材料で接続部12-3を作ることができる。これにより、振動波モータの発生トルクの向上と耐久性の向上ができる。また、接続部12-3以外は移動体3と接触しないため、振動体12は、従来よりも耐摩耗性が低くても、振動特性のよい材料で作ることができるようになる。
【0025】
さらに、振動波モータは接触面が摩耗するため、経時的な摩耗状態の変化で性能が劣化するという問題がある。このような場合、従来は振動波モータの全体、もしくは振動体の全体の交換が必要となり、コストが高くついてしまった。しかし、本実施の形態によれば、接続部12-3が振動体12と別部材となっているため、摩耗した接続部12-3のみを交換できるようになり、振動波モータ全体等の交換を不要にできる。
【0026】
図4において、接続部12-3は四角柱状をしているが、本発明は、これに限定されるものではなく、接続部12-3をその他の角柱状にしてもよい。
【0027】
さらに、図5に示すように、接続部22-3を円柱状にして複数の突起22-1を接続してもよい。
【0028】
また、図6に示すように、突起32-1に接続部32-3を螺合して振動体を形成してもよい。接続部32-3には雄ねじを形成し、これと同径同ピッチの雌ねじを突起32-1に備えている。このとき、接着剤等でゆるみ止めを施してもよい。図6の構成によれば、接続部32-3の交換がより容易になる。
【実施例3】
【0029】
本発明の第3の実施の形態は、上述した第1の実施の形態に対して、突起42-1を図7に示す構造とした点において相違する。本実施のその他の要素(圧電素子1、移動体3)は、上述した第1の実施の形態の対応するものと同一なので、説明を省略する。
【0030】
図7は、本実施の形態に係る振動波モータの振動体の一部を拡大した斜視図である。
【0031】
図7において、突起42-1は台形形状となっている。複数の台形形状の突起42-1は、移動体3との接触面から基部42-2まで、接続部42-3によって連続的に接続されている。接続部42-3は、基部42-2の中心に対して同心円上の位置に配置されている。
【0032】
本実施の形態によれば、突起42-1の曲げ剛性にあまり寄与しない部分を除去することにより、突起42-1がより軽量化され、振動体42の共振周波数を高め、振動波モータの速度を向上させることができる。
【0033】
また、突起42-1は台形形状となっているため、突起形状が従来のものに比べ、振動体42に曲げ進行波が形成されたときの中立面から移動体3までの距離が大きくなる。これにより、振動体42に同一の曲げ振幅を起こしても、駆動方向の振幅の拡大率が増加するため、振動波モータの速度を向上させることができる。
なお、図7において、突起42-1は台形形状をしているが、本発明は、これに限定されるものではなく、突起の移動体3との接触側の面の面積が、基部側の面の面積より小さければ、同様の効果が得られる。
【実施例4】
【0034】
本発明の第4の実施の形態は、上述した第1の実施の形態に対して、突起52-1を図8に示す構造とした点において相違する。本実施のその他の要素(圧電素子1、移動体3)は、上述した第1の実施の形態の対応するものと同一なので、説明を省略する。
【0035】
図8は、本実施の形態に係る振動波モータの振動体の一部を拡大した斜視図である。
【0036】
図8において、複数の突起52-1は、移動体3との接触面から基部52-2まで、接続部52-3によって連続的に接続されている。接続部52-3は、基部52-2の中心に対して同心円上の位置に配置されており、突起52-1の最外周部を接続している。突起52-1は内径側に向かって斜めに除去されている。振動体52は鉄、鉄合金、銅合金またはアルミニウム合金の板材をプレス加工により複数の突起と接続部が形成されるように作製した。
【0037】
図9は、図8に示す振動波モータの振動体52をプレス加工する前の板状ブランクの一部を示した斜視図である。
【0038】
図9において、図中点線部分を折り曲げることによって、突起52a、52b及び接続部52-3を形成する。基部52-2と突起52a、52bは溶接や接着等で固定する。
【0039】
本実施の形態によれば、振動体52の複数の突起52-1とその接続部52-3をプレス加工により形成したので、従来の切削や研削に比べて大幅に製作時間の短縮、コスト低下を果たすことができる。また、剛性の高い接続部52-3で移動体3と接触するため、安定した接触が可能となっている。
【実施例5】
【0040】
本発明の第5の実施の形態は、上述した第1の実施の形態に対して、接続部を図10、図11に示す構造とした点において相違する。本実施のその他の要素(圧電素子1、移動体3)は、上述した第1の実施の形態の対応するものと同一なので、説明を省略する。
【0041】
図10、および図11は、本実施の形態に係る振動波モータの振動体の一部を拡大した斜視図である。
【0042】
図10において、2つの接続部62-3が突起62-1を移動体3の駆動方向に接続している。2つの接続部62-3はそれぞれ基部62-2の中心に対して同心円状に配置されており、それぞれが移動体3と接触する構成となっている。
【0043】
また、図11においては、3つの接続部72-3が突起72-1を移動体3の駆動方向に接続している。3つの接続部72-3はそれぞれ基部72-2の中心に対して同心円状に配置されており、それぞれが移動体3と接触する構成となっている。
【0044】
本実施の形態によれば、移動体3との接触部を複数設けることにより、接触面の面圧を高めることなく摩擦力を大きくすることができる。これにより、振動波モータの発生トルクを向上させることができる。また、トルクを維持したままであるならば、面圧を低減することができ、耐久性を向上させることができる。
【0045】
なお、本実施例において、接続部は2、3個であったが、本発明はこれに限定されるものではなく、接続部を複数設ければ同様の効果が得られる。
【実施例6】
【0046】
本発明の第6の実施の形態は、上述した第1の実施の形態に対して、接続部を図12に示す構造とした点において相違する。本実施のその他の要素(圧電素子1、移動体3)は、上述した第1の実施の形態の対応するものと同一なので、説明を省略する。
【0047】
図12は本実施の形態に係る振動波モータの振動体の一部を拡大した斜視図である。
【0048】
図12において、複数の突起82-1は、移動体3との接触面から基部82-2まで、接続部82-3によって連続的に接続されている。接続部82-3は、基部82-2の中心に対して同心円上の位置に配置されている。摩擦部材84は接続部82-3に接着され、移動体3と接触する。摩擦部材84は、フッ素樹脂粉末(PTFE:ポリテトラフルオロエチレン)を主材として、添加剤としてカーボンファイバ、ポリイミド、二硫化モリブデンを用いて、焼成し作製した。
【0049】
本実施の形態によれば、耐摩耗性の優れた摩擦部材84が移動体3と接触するため、振動波モータの接触部が摩耗性に優れ、安定した駆動が可能になり、耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る振動波モータの構成を示す断面図である。
【図2】図1に示す振動波モータの振動体の外観を示す斜視図である。
【図3】図2に示す振動波モータの振動体の一部を拡大した斜視図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係る振動波モータの振動体の一部を拡大した斜視図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係る振動波モータの振動体の一部を拡大した斜視図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係る振動波モータの振動体の一部を拡大した斜視図である。
【図7】本発明の第3の実施の形態に係る振動波モータの振動体の一部を拡大した斜視図である。
【図8】本発明の第4の実施の形態に係る振動波モータの振動体の一部を拡大した斜視図である。
【図9】図8に示す振動波モータの振動体をプレス加工する前の板状ブランクの一部を示した斜視図である。
【図10】本発明の第5の実施の形態に係る振動波モータの振動体の一部を拡大した斜視図である。
【図11】本発明の第5の実施の形態に係る振動波モータの振動体の一部を拡大した斜視図である。
【図12】本発明の第6の実施の形態に係る振動波モータの振動体の一部を拡大した斜視図である。
【図13】従来例に係る振動波モータの振動体の斜視図である。
【図14】従来例に係る振動波モータの振動体の要部拡大斜視図である。
【符号の説明】
【0051】
1 圧電素子
2、12、22、32、42、52、62、72、82 振動体
2-1、12-1、22-1、32-1、42-1、52-1、62-1、72-1、82-1 突起
2-2、12-2、22-2、32-2、42-2、52-2、62-2、72-2、82-2 基部
2-3、12-3、22-3、32-3、42-3、52-3、62-3、72-3、82-3 接続部
3 移動体
84 摩擦部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気−機械エネルギー変換素子に交流電圧を印加することによって、前記変換素子に接合した振動体に進行性振動波を発生させ、前記振動波により前記振動体に接触する移動体を摩擦駆動する振動波モータにおいて、
前記振動体は、
前記変換素子を有する基部と、
前記移動体との接触側に設けられた複数の突起と、
前記突起のうち、少なくとも2つを前記移動体の駆動方向に接続した接続部を備え、
前記接続部は、前記突起の前記移動体との接触側の面から前記基部まで連続的に形成されており、
少なくとも前記接続部の前記移動体との接触側の面を、前記移動体との接触面とすることを特徴とする振動波モータ。
【請求項2】
前記接続部を前記振動体と別部材とし、前記振動体に結合することを特徴とする請求項1に記載の振動波モータ。
【請求項3】
前記接続部を前記振動体に圧入、もしくは接着して結合することを特徴とする請求項2に記載の振動波モータ。
【請求項4】
前記接続部を前記振動体に螺合して結合することを特徴とする請求項2に記載の振動波モータ。
【請求項5】
前記突起の前記移動体との接触側の面の面積が、前記基部側の面の面積より小さいことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の振動波モータ。
【請求項6】
前記振動体をプレス加工により形成することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の振動波モータ。
【請求項7】
前記接続部は前記振動体の中心に対して同心円状の位置に配置されていることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載の振動波モータ。
【請求項8】
前記接続部を、同一の組合せの前記突起に複数設けることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれかに記載の振動波モータ。
【請求項9】
前記接続部の前記接触面に摩擦部材を設けることを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれかに記載の振動波モータ。
【請求項1】
電気−機械エネルギー変換素子に交流電圧を印加することによって、前記変換素子に接合した振動体に進行性振動波を発生させ、前記振動波により前記振動体に接触する移動体を摩擦駆動する振動波モータにおいて、
前記振動体は、
前記変換素子を有する基部と、
前記移動体との接触側に設けられた複数の突起と、
前記突起のうち、少なくとも2つを前記移動体の駆動方向に接続した接続部を備え、
前記接続部は、前記突起の前記移動体との接触側の面から前記基部まで連続的に形成されており、
少なくとも前記接続部の前記移動体との接触側の面を、前記移動体との接触面とすることを特徴とする振動波モータ。
【請求項2】
前記接続部を前記振動体と別部材とし、前記振動体に結合することを特徴とする請求項1に記載の振動波モータ。
【請求項3】
前記接続部を前記振動体に圧入、もしくは接着して結合することを特徴とする請求項2に記載の振動波モータ。
【請求項4】
前記接続部を前記振動体に螺合して結合することを特徴とする請求項2に記載の振動波モータ。
【請求項5】
前記突起の前記移動体との接触側の面の面積が、前記基部側の面の面積より小さいことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の振動波モータ。
【請求項6】
前記振動体をプレス加工により形成することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の振動波モータ。
【請求項7】
前記接続部は前記振動体の中心に対して同心円状の位置に配置されていることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載の振動波モータ。
【請求項8】
前記接続部を、同一の組合せの前記突起に複数設けることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれかに記載の振動波モータ。
【請求項9】
前記接続部の前記接触面に摩擦部材を設けることを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれかに記載の振動波モータ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2009−136068(P2009−136068A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−309009(P2007−309009)
【出願日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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