説明

振動波モータ

【課題】突起の中で径方向の滑りを低減したい位置の振動の軌跡方向を、移動体の変位方向と略一致させ、摺動損失を低減することができる振動波モータを提供する。
【解決手段】振動波モータは、電気エネルギーを機械エネルギーに変換する変換素子(圧電素子1)に交流電圧を印加することによって、変換素子が結合される振動体2に進行性振動波を発生させ、進行性振動波により振動体2に接触する移動体3を摩擦駆動する。そして、振動体2は、変換素子が結合される基部2aと、基部2aに設けられ、移動体3と接触する接触面を有する突起2bとを備える。また、基部2aの移動体3との接触面側に設けられるとともに、突起2bと接続される支持部2cを備える。支持部2cは、振動体2の中心軸と突起2bの周方向の中心とから定められる面に対して、非対称の位置に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、進行性振動波により移動体を摩擦駆動する振動波モータに関し、特に、その振動体の構造に特徴のある振動波モータに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、振動波モータは、進行性振動波が形成される振動体と、振動体に加圧接触する移動体とを有し、振動体と移動体とを進行性振動波により摩擦駆動させることにより駆動力を得る。
【0003】
振動波モータにおいて、振動体と移動体の接触面におけるトルクの伝達効率が悪いと、摺動損失が増大し、エネルギー効率は著しく低下する。
【0004】
そこで、移動体の回転軸を中心とした円筒座標系での径方向と鉛直方向からなる平面で見た時の、振動体に発生する振動の軌跡方向と、移動体における接触部の変位方向とが略一致するように構成した振動波モータが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この種の振動波モータを図20に示す。
【0005】
図20において、振動体102は円環状をしており、振動体102の上部には複数の突起102bが全周にわたって設けられている。振動体102に対して移動体103は、不図示の加圧部材によって加圧接触されている。
【0006】
移動体103は、弾性部材で形成されたリング状の本体部103a、本体部103aより延出したフランジ部103b、フランジ部103bの端部から延出し、かつ振動体102に摩擦接触する摩擦面を有する接触部103cから構成されている。
【0007】
圧電セラミックス101は、振動体102の底面に接着剤にて接着され、モータ駆動時に不図示の駆動回路により位相差を有する交流電圧が印加され、進行性振動波を発生させる。進行性振動波の進行方向がθ方向正の向き(図20の矢印参照)の場合、摩擦により駆動される移動体103の移動方向は、θ方向負の向きとなっている。
【0008】
移動体103のようにフランジ部を有する構成にすることで、振動体102に発生する振動の軌跡方向と、移動体103における接触部の変位方向とが略一致し、径方向の滑りが低減し、効率の低下を防止することができる。
【特許文献1】特開昭61−224882号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1に記載された振動波モータにおいて、突起102bの振動軌跡は図21のようになる。図21(a)は、進行性振動波の進行方向とは反対側の突起102bのエッジ部102eでの振動軌跡、図21(b)は、突起102bの中央部102fでの振動軌跡、図21(c)は、進行性振動波の進行方向側の突起102bのエッジ部102gでの振動軌跡である。
【0010】
突起102bの中央部102fでの振動軌跡は、図21(b)のように略直線状になっており、振動の各時刻において、振動軌跡の方向と移動体103の変位方向とを略一致させることができる。そのため、径方向の滑りが少ない接触状態を保つことが可能となっている。
【0011】
しかしながら、突起102bの両端のエッジ部102e、102gでの振動軌跡は、図21(a)、(c)に示すように楕円状となっている。そのため、振動の各時刻において、突起102bのエッジ部の振動の軌跡方向は異なっており、ある時刻においては、移動体103の変位方向とは一致しないことがある。そのため、突起102bの両端のエッジ部102e、102gでは径方向の滑りが生じ、損失が発生している。
【0012】
振動波モータにおいて、振動波モータの駆動方向や、振動体102の曲げ振動に対する移動体103の追従性によって、突起102の中で強圧になる位置が異なってくる。
【0013】
図22は、振動体102と移動体103の接触状態を示す図である。
【0014】
例えば、図22(a)に示すように、移動体103の追従性が比較的よく、進行性振動波が同図中の矢印の向きに進行する場合、以下のようになる。即ち、振動体102と移動体103が接触を開始してから、振動体102の振動振幅が曲げ進行波の頂上近傍に達し、移動体103と離れるまでは、進行性振動波の進行方向とは反対側の突起のエッジ部102eが強圧になる。
【0015】
反対に、図22(b)に示すように、振動体102の曲げ振動に対する移動体103の追従性が比較的よくない場合、進行性振動波の進行方向側の突起のエッジ部102gが強圧になることがある。そのため、突起の両端のエッジ部102e、102gでの摺動損失が、振動波モータの性能に大きく影響する。
【0016】
しかし上述したように、従来の突起の構造では、突起の中で強圧になる位置での振動の軌跡方向と、移動体の変位方向が略一致せず、径方向の滑りによる損失が課題となっている。
【0017】
本発明の目的は、突起の中で径方向の滑りを低減したい位置の振動の軌跡方向を、移動体の変位方向と略一致させ、摺動損失を低減することができる振動波モータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために、請求項1記載の振動波モータは、電気エネルギーを機械エネルギーに変換する変換素子に交流電圧を印加することによって、前記変換素子が結合される振動体に進行性振動波を発生させ、前記進行性振動波により前記振動体に接触する移動体を摩擦駆動する振動波モータにおいて、前記振動体は、前記変換素子が結合される基部と、前記基部に設けられ、前記移動体と接触する接触面を有する突起と、前記基部の前記移動体との接触面側に設けられるとともに、前記突起と接続される支持部とを備え、前記支持部は、前記振動体の中心軸と前記突起の周方向の中心とから定められる面に対して、非対称の位置に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の振動波モータによれば、突起の中で径方向の滑りを低減したい位置の振動の軌跡方向を、移動体の変位方向と略一致させ、摺動損失を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る振動波モータの構成を示す断面図である。
【0022】
図1において、振動波モータは、円環状に形成されており、圧電素子1、振動体2、移動体3を備えている。
【0023】
圧電素子1は、電気量を機械量に変換する電気エネルギー−機械エネルギー変換素子であり、振動体2と結合されている。
【0024】
振動体2は、金属製の弾性部材であり、基部2a、突起2b、支持部2c及び基部2aから延出し、振動体2を固定するためのフランジ部2dから構成されている。突起2bの移動体3側の面が移動体3との接触面となっている。
【0025】
移動体3は、弾性部材で形成された円環状の本体部3a、本体部3aより延出したフランジ部3b、及びフランジ部3bの端部から延出し、かつ、振動体2の突起2bに摩擦接触する摩擦面を有する接触部3cから構成されている。
【0026】
移動体3は、不図示の加圧手段による加圧力により、振動体2と加圧接触するように構成されており、振動体2との摩擦によって駆動される。
【0027】
振動波モータにおいては、移動体3からの駆動力を、出力軸等を介して振動波モータ外部の装置に伝達することで、該装置を駆動する。
【0028】
図2は、図1における振動体の外観を示す斜視図である。図3は、図2の振動体の一部を拡大した斜視図である。
【0029】
図2及び図3において、突起2bは、基部2aの外径側に沿って、振動体2の中心軸に対して同心円状に配置されている。支持部2cは、基部2aの移動体3との接触面側に内径側から放射状に形成され、振動体2の中心軸と突起2bの周方向の中心とから定められる面に対して、非対称の位置で突起2bと接続されている。
【0030】
突起2bは、エッジ部2e、2g及び中央部2fを有している。
【0031】
図4は、図2における突起の振動軌跡を示す図である。
【0032】
図4(a)は、支持部2cを設けた側の突起2bのエッジ部2eでの振動軌跡、図4(b)は、突起2bの中央部2fでの振動軌跡、図4(c)は、支持部2cを設けた側とは反対側の突起2bのエッジ部2gでの振動軌跡である。
【0033】
図4(a)に示すように、支持部2cを設けた側の突起2bのエッジ部2eでの振動軌跡が略直線状となっている。
【0034】
これにより、振動の各時刻において、振動体2の摺動損失の影響の大きい突起2bのエッジ部2eでの振動の軌跡方向と、移動体3の変位方向とが略一致するため、径方向の滑りを低減することができ、振動波モータの効率の向上が可能となる。
【0035】
ここで、本実施の形態において、支持部2cを突起2bの周方向の中心に対して非対称に設けた効果について説明する。
【0036】
図5は、図2の振動体の一部を拡大した上面図である。
【0037】
図5に示すように、振動体2の支持部2cを突起2bの周方向の中心に対して非対称に設けることにより、突起2bの周方向の曲げの中立面が、支持部2cを設けた側の突起2bのエッジ部2eの方へ移動する。
【0038】
これにより、進行性振動波が支持部2cを設けた突起2bのエッジ部2eからエッジ部2gへ進行する場合、突起2bのエッジ部2e、2g、及び突起2bの中央部2fでの径方向並びに鉛直方向の振動は、図6、図7に示すようになる。
【0039】
図6は、図2における突起の径方向の振動の軌跡を示す図である。図7は、図2における突起の鉛直方向の振動の軌跡を示す図である。
【0040】
図6において、突起2bの径方向の振動は、突起2bのエッジ部2e、2g、及び突起2bの中央部2fでほぼ位相差のない振動となっている。
【0041】
これに対して、突起2bの鉛直方向の振動は、図7に示すように、突起2bのエッジ部2eから突起2bの中央部2f、突起2bのエッジ部2gへと進行性振動波が進行する順番に位相遅れを持った振動となっている。
【0042】
このため、突起2bの周方向の曲げの中立面近傍にあるエッジ部2eでは、径方向の振動と鉛直方向の振動の位相差が略180度となっているが、突起位置がエッジ部2eから離れるにつれ、位相差が180度より大きくなっていく。
【0043】
ここで、径方向と鉛直方向からなる平面で見たときの振動軌跡は、径方向と鉛直方向の振動の位相差が180度のときに略直線状となる。反対に、位相差が180度を超えたり下回ったりする場合には、振動軌跡は楕円形状となる。
【0044】
よって、図4に示すように、径方向と鉛直方向からなる振動軌跡は、中立面近傍の突起2bのエッジ部2eでは略直線状になり、中立面から離れた突起2bの中央部2fや突起2bのエッジ部2gでは楕円状となる。
【0045】
このように、突起2bの曲げの中立面を支持部2cによって移動させることで、突起の振動軌跡を変えることができる。
【0046】
図8は、第1の実施の形態に係る振動波モータの第1の変形例に係る振動体の一部を拡大した斜視図である。
【0047】
図8は、図3に対応しており、図3とは反対側の突起12bのエッジ部12gに支持部12cを形成したものである。
【0048】
図9は、図8の振動体の一部を拡大した上面図である。図10は、図8における突起の振動軌跡を示す図である。図10(a)は、支持部12cを設けた側とは反対側の12b突起のエッジ部2eでの振動軌跡、図10(b)は、突起12bの中央部12fでの振動軌跡、図10(c)は、支持部2cを設けた側の突起12bのエッジ部12gでの振動軌跡である。
【0049】
図8、図9に示すように、図3とは反対の突起12bのエッジ部12g側に支持部12cを形成した場合、突起12bの周方向の曲げの中立面は、突起12bのエッジ部12g側に移動する。
【0050】
これにより、突起12bのエッジ部12gでの径方向の振動と鉛直方向の振動の位相差が略180度となり、径方向と鉛直方向からなる平面から見たときの振動軌跡は、図10(c)に示すように略直線状となる。よって、振動の各時刻において突起12bのエッジ部12gでの振動の軌跡方向と移動体3の変位方向とを略一致させることができる。
【0051】
以上説明したように、本実施の形態によれば、突起の支持部を突起の中で径方向の滑りを低減したいエッジ部側に形成することで、突起の周方向の曲げの中立面が該エッジ部側に移動する。
【0052】
これにより、摺動損失の影響が大きい突起のエッジ部での振動の軌跡方向と、移動体3の変位方向とが略一致するため、従来よりも径方向の滑りを低減することができ、振動波モータの効率の向上が可能となる。
【0053】
尚、本実施の形態において、突起は基部の外径側に設けられているが、本発明は、これに限定されるものではなく、図11に示すように、振動体22の突起22bを基部22aの内径側に設けてもよい。また、図12に示すように、振動体32の突起32bを基部32aの内径、外径の間に設けてもよい。
【0054】
尚、図11、図12において、符号22a乃至22g、及び符号32a乃至32gは、図3、図8の符号2a乃至2g、及び符号12a乃至12gに対応している。
【0055】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態は、上述した第1の実施の形態に対して、突起や支持部を図13に示す構造とした点において相違する。本実施の形態のその他の要素(圧電素子1、移動体3)は、上述した第1の実施の形態の対応するものと同一なので、説明を省略する。
【0056】
図13は、本発明の第2の実施の形態に係る振動波モータの振動体の一部を拡大した斜視図である。図13は、図3、図8、図11、図12に対応している。
【0057】
図13において、振動体42の2つの突起42b、42hはそれぞれ基部42aの外径、内径側に沿って、振動体42の中心軸に対して同心円状に配置されている。支持部42cは、基部42aの移動体3との接触面側に放射状に形成され、振動体42の中心軸と2つの突起42b、42hの周方向の中心とから定められる面に対して、非対称の位置で2つの突起42b、42hと接続されている。
【0058】
突起42bは、エッジ部42e、42g、中央部42fを有し、突起42hは、エッジ部42i、42k、中央部42jを有する。符号42dはフランジ部である。
【0059】
図14は、図13における支持部を設けた側の外径側の突起のエッジ部での振動軌跡を示す図、図15は、図13における内径側の突起のエッジ部での振動軌跡を示す図である。
【0060】
図14、図15において、支持部42cを設けた側の突起のエッジ部42eと42iでの振動軌跡が略直線状となっている。
【0061】
本実施の形態によれば、突起を2つ設けた場合にも、振動体42の支持部42cが突起42b及び42hの周方向の中心に対して非対称に形成されているため、突起の周方向の曲げの中立面が支持部42cを設けた側に移動する。
【0062】
そのため、支持部42cを設けた側の突起のエッジ部42e及び42iの振動軌跡が略直線状になり、振動の各時刻において振動軌跡の方向と移動体3の変位方向とを略一致させることができる。
【0063】
これにより、径方向の滑りによる損失が低減され、振動波モータの効率の向上が可能となる。
【0064】
さらに、突起を2つ設けることにより、複数の移動体との接触が可能となり、接触面の面圧を高めることなく摩擦力を大きくすることができる。
【0065】
これにより、振動波モータの発生トルクを向上させることができる。また、トルクを維持したままであるならば、面圧を低減することができ、耐久性を向上させることができる。
【0066】
尚、本実施の形態において、突起は2個であったが、本発明はこれに限定されるものではなく、接続部を複数設ければ同様の効果が得られる。
【0067】
例えば、図16に示すように、3つの突起52b、52h、52mが振動体52の中心に対して同心円状に配置され、支持部52cがそれぞれの突起に対して非対称の位置で接続されてもよい。符号52aは基部、52dはフランジ部である。
【0068】
(第3の実施の形態)
本発明の第3の実施の形態は、上述した第1の実施の形態に対して、突起や支持部を図17に示す構造とした点において相違する。本実施のその他の要素(圧電素子1、移動体3)は、上述した第1の実施の形態の対応するものと同一なので、説明を省略する。
【0069】
図17は、本発明の第3の実施の形態に係る振動波モータの振動体の一部を拡大した斜視図である。図17は、図3、図8、図11、図12、図13、図16に対応している。
【0070】
図17において、支持部62cは、基部62aの移動体3との接触面側に内径側から放射状に形成されている。突起62bは振動体62と別部材となっている。
【0071】
突起62bは、エッジ部62e、62gと中央部62fを有する。符号62dはフランジ部である。
【0072】
突起62bは圧入、冷しばめ、焼きばめ、接着剤による接着等により、振動体62の中心軸と突起62bの周方向の中心とから定められる面に対して、非対称の位置で支持部62cと結合される。突起62bの移動体3との接触面は、支持部62cの移動体3側の面よりも高い位置にある。
【0073】
本実施の形態によれば、突起62bは、振動体62の支持部62cに対して、突起62bの周方向の中心から非対称の位置で結合されているため、突起62bの周方向の曲げの中立面が支持部62cと結合されている側に移動する。
【0074】
そのため、支持部62cに結合された側の突起62bのエッジ部62eの振動軌跡が略直線状になり、振動の各時刻において振動軌跡の方向と移動体3の変位方向とを略一致させることができる。
【0075】
これにより、径方向の滑りによる損失が低減され、振動波モータの効率の向上が可能となる。
【0076】
さらに、突起62bが振動体62と別部材となっているため、振動体62に比べて加工の容易な形状となる。そのため、従来は加工性が金属等と比べて劣るため、振動体の材料として使用するのが困難だった、アルミナや炭化珪素等、高い摩擦力を得ながら耐摩耗性も高い材料で突起62bを作ることができる。
【0077】
また、フッ素樹脂粉末(PTFE:ポリテトラフルオロエチレン)を主材として、添加剤としてカーボンファイバ、ポリイミド、二硫化モリブデンを用いて、焼成し作製した樹脂でも突起62bを作ることができる。
【0078】
これにより、振動波モータの発生トルクの向上と耐久性の向上を図ることができる。また、突起62b以外は移動体3と接触しないため、振動体62は、従来よりも耐摩耗性が低くても、振動特性のよい材料で作ることができるようになる。
【0079】
また、支持部62cの材料を突起62bの材料よりも剛性が高いものにすれば、突起62bの周方向の曲げの中立面がより突起62bのエッジ部62e側に移動し、突起62bのエッジ部62eの振動の軌跡方向と移動体3の変位方向を略一致させることができる。その結果、径方向の滑りによる損失が低減できる。
【0080】
ところで、振動波モータは接触面が摩耗するため、経時的な摩耗状態の変化で性能が劣化するという問題がある。このような場合、従来は、振動波モータの全体、もしくは振動体の全体の交換が必要となり、コストが高くついていた。
【0081】
しかし、本実施の形態によれば、突起62bが振動体62と別部材となっているため、摩耗した突起62bのみを交換できるようになり、振動波モータ全体等の交換を不要にできる。
【0082】
また、移動体3との接触を良好にするため、突起62bの接触面の平面度を研磨等で精度よく仕上げる必要がある。従来は、突起62bの接触面と支持部62cの移動体3側の面が同じ高さだったため、移動体3との接触に寄与しない支持部62cの面も同時に研磨され、加工に時間がかかっていた。
【0083】
しかし、本実施の形態によれば、突起62bの移動体3との接触面は、支持部62cの移動体3側の面よりも高い位置にあるため、突起62bの接触面のみ研磨され、加工時間の短縮が可能となる。
【0084】
図17において、突起62bは略四角柱状をしているが、本発明は、これに限定されるものではなく、突起62bをその他の角柱状にしてもよい。
【0085】
(第4の実施の形態)
本発明の第4の実施の形態は、上述した第1の実施の形態に対して、突起や支持部を図18に示す構造とした点において相違する。本実施の形態のその他の要素(圧電素子1、移動体3)は、上述した第1の実施の形態の対応するものと同一なので、説明を省略する。
【0086】
図18は、本発明の第4の実施の形態に係る振動波モータの振動体の一部を拡大した斜視図である。図18は、図3、図8、図11、図12、図13、図16、図17に対応している。
【0087】
図18において、支持部72cは、基部72aの移動体3との接触面側に内径側から放射状に形成されており、振動体72の中心軸と突起72bの周方向の中心とから定められる面に対して非対称の位置に、段差がないように形成されている。振動体72は鉄、鉄合金、銅合金またはアルミニウム合金の板材をプレス加工により複数の突起72bと支持部72cが形成されるように作製した。
【0088】
突起72bは、エッジ部72e、72gと中央部72fを有する。符号72dはフランジ部である。
【0089】
図19は、図18の振動体をプレス加工する前の板状ブランクの一部を示す斜視図である。
【0090】
図19において、図中点線部分を折り曲げることによって、突起72b及び支持部72cを形成する。基部72aと支持部72cは溶接や接着等で固定する。
【0091】
本実施の形態によれば、支持部72cは振動体72の突起72bに対して、突起72bの中心から非対称の位置で突起72bから折り曲げて形成されているため、突起72bの周方向の曲げの中立面が支持部72cの設けられている側に移動する。
【0092】
そのため、支持部72cに結合された側の突起のエッジ部72eの振動軌跡が略直線状になり、振動の各時刻において振動軌跡の方向と移動体3の変位方向とを略一致させることができる。
【0093】
これにより、径方向の滑りによる損失が低減され、振動波モータの効率の向上が可能となる。
【0094】
さらに、振動体72の突起72bとその支持部72cをプレス加工により形成したので、従来の切削や研削に比べて大幅に製作時間の短縮、コスト低下を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る振動波モータの構成を示す断面図である。
【図2】図1における振動体の外観を示す斜視図である。
【図3】図2の振動体の一部を拡大した斜視図である。
【図4】図2における突起の振動軌跡を示す図である。
【図5】図2の振動体の一部を拡大した上面図である。
【図6】図2における突起の径方向の振動の軌跡を示す図である。
【図7】図2における突起の鉛直方向の振動の軌跡を示す図である。
【図8】第1の実施の形態に係る振動波モータの第1の変形例に係る振動体の一部を拡大した斜視図である。
【図9】図8の振動体の一部を拡大した上面図である。
【図10】図8における突起の振動軌跡を示す図である。
【図11】第1の実施の形態に係る振動波モータの第2の変形例に係る振動体の一部を拡大した斜視図である。
【図12】第1の実施の形態に係る振動波モータの第3の変形例に係る振動体の一部を拡大した斜視図である。
【図13】本発明の第2の実施の形態に係る振動波モータの振動体の一部を拡大した斜視図である。
【図14】図13における支持部を設けた側の外径側の突起のエッジ部での振動軌跡を示す図である。
【図15】図13における内径側の突起のエッジ部での振動軌跡を示す図である。
【図16】第2の実施の形態に係る振動波モータの変形例に係る振動体の一部を拡大した斜視図である。
【図17】本発明の第3の実施の形態に係る振動波モータの振動体の一部を拡大した斜視図である。
【図18】本発明の第4の実施の形態に係る振動波モータの振動体の一部を拡大した斜視図である。
【図19】図18の振動体をプレス加工する前の板状ブランクの一部を示す斜視図である。
【図20】従来例に係る振動波モータの斜視図である。
【図21】図20における突起の振動軌跡を示す図である。
【図22】図20の振動波モータの振動体と移動体の接触状態を示す図である。
【符号の説明】
【0096】
1 圧電素子
2、12、22、32、42、52、62、72 振動体
2a、12a、22a、32a、42a、52a、62a、72a 基部
2b、12b、22b、32b、42b、42h、52b、52h、52m、62b、72b 突起
2c、12c、22c、32c、42c、52c、62c、72c 支持部
2d、12d、22d、32d、42d、52d、62d、72d フランジ部
3 移動体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気エネルギーを機械エネルギーに変換する変換素子に交流電圧を印加することによって、前記変換素子が結合される振動体に進行性振動波を発生させ、前記進行性振動波により前記振動体に接触する移動体を摩擦駆動する振動波モータにおいて、
前記振動体は、
前記変換素子が結合される基部と、
前記基部に設けられ、前記移動体と接触する接触面を有する突起と、
前記基部の前記移動体との接触面側に設けられるとともに、前記突起と接続される支持部とを備え、
前記支持部は、前記振動体の中心軸と前記突起の周方向の中心とから定められる面に対して、非対称の位置に形成されていることを特徴とする振動波モータ。
【請求項2】
前記突起は、前記振動体の中心軸に対して同心円状の位置に配置されていることを特徴とする請求項1記載の振動波モータ。
【請求項3】
前記突起は、前記振動体の径方向に対して複数設けられることを特徴とする請求項1または2記載の振動波モータ。
【請求項4】
前記突起は、前記振動体と別部材とし前記振動体に結合されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の振動波モータ。
【請求項5】
前記突起は、前記振動体に圧入もしくは接着して結合されることを特徴とする請求項4記載の振動波モータ。
【請求項6】
前記突起は、前記支持部よりも高さが高いことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の振動波モータ。
【請求項7】
前記支持部は、前記突起よりも剛性が高いことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の振動波モータ。
【請求項8】
前記振動体は、プレス加工により形成されることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の振動波モータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2010−63232(P2010−63232A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−224760(P2008−224760)
【出願日】平成20年9月2日(2008.9.2)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】