説明

減衰力可変ダンパ

【課題】 高速作動時における電力消費の抑制等を図るとともに、電力が供給されない状態でも十分な減衰力を発生するソレノイド式の減衰力可変ダンパを提供する。
【解決手段】 伸び側バルブプレート41の弁体53は伸び側第1連通油路36から流入した作動油に押圧されることで開弁するが、この際に、流量調整孔52を作動油が流通することもあいまって、伸び側蓄圧室71内では弁体53の上面側(電磁コイル43側の面)の油圧と下面側の油圧とが略等しくなる。そのため、ダンパ6が伸び側に高速で作動し、伸び側第1連通油路36からの作動油の流入速度が高くなった場合にも、伸び側バルブプレート41の弁体53の過剰な開弁が起こりにくくなる。また、伸び側バルブプレート41は、バルブスプリング82によってピストン本体30の弁座面30b側に常時付勢されているため、その開弁圧力(すなわち、伸び側減衰力)が比較的高くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のサスペンションに用いられるソレノイド式の減衰力可変ダンパに係り、詳しくは高速作動時における電力消費の抑制等を図るとともに、電力が供給されない状態でも十分な減衰力を発生する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
サスペンションは、自動車の走行安定性を左右する重要な要素であり、車体に対して車輪を上下動自在に支持させるためのリンク(アームやロッド類)と、撓むことで路面からの衝撃等を吸収するスプリングと、スプリングの振動を減衰させるダンパとを主要構成部材としている。自動車サスペンション用のダンパでは、作動油が充填された円筒状のシリンダと、シリンダ内を軸方向に摺動するピストンと、ピストンが先端に装着されたピストンロッドとを備え、ピストンの作動に伴って作動油を複数の油室間で移動させる複筒式や単筒式の筒型が一般的である。
【0003】
筒型ダンパでは、連通油路や可撓性を有するバルブプレートがピストンに設けられており、連通油路を介して油室間で移動する作動油に対してバルブプレートによって流動抵抗を与えることで減衰力を得ている。しかし、このようなダンパでは減衰特性が一定となることから、路面状態および走行状況に適した乗り心地や走行安定性を得ることができない。そこで、ピストン本体の上下面に磁性体を素材とする縮み側および伸び側のバルブプレートを設置するとともに、ピストン本体を構成するアウタヨークとインナヨークとの間に磁界を発生させる環状の電磁コイルを介装させ、電磁コイルへの通電量を増減することで磁界の強さを変化させ、これによってバルブプレートの開弁特性(すなわち、減衰力)を無段階に変化させる減衰力可変ダンパが提案されている(特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許4599422号公報
【特許文献2】特開2008−275126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1,2の減衰力可変ダンパには、ピストン本体の端面でバルブプレートを磁力吸引することに起因し、ダンパの高速作動時における電力消費量が非常に大きくなることがあった。すなわち、上述した構造のダンパでは、高速作動時に大量の作動油が連通油路を通過すると、作動油の急激な流入によって連通油路側(内側)の油圧が上昇する一方で、ピストンが離れる方向に移動することで油室側(外側)の油圧が低下し、バルブプレートが過剰に開弁することになる。そして、電磁コイルによる磁力吸引力の大きさはピストン本体(アウタヨークおよびインナヨーク)とバルブプレートとの間の距離の2乗に反比例するため、バルブプレートの開弁量が大きくなると(ピストン本体の端面からバルブプレートがある程度離れると)、目標とする減衰力を得るために電磁コイルに大きな電流を供給する必要が生じる。その結果、自動車の車載バッテリの放電が進行することや、オルタネータの発電負荷の増大によって燃費が悪化することが避けられなくなる。
【0006】
一方、上述した減衰力可変ダンパでは、電磁コイルとバルブプレートとによって減衰力を制御する都合上、例えば伸び側で小さな減衰力を生じさせる際にも電力が消費されることになり、平坦路走行時等にも上述の放電や発電負荷が常に生じる問題があった。また、何らかの原因で電磁コイルへの給電が行われなくなると、減衰力がバルブプレートの弾性だけで定まることになるために特に伸び側の減衰力が小さくなり、車体の上下動が収束しにくくなって乗り心地が著しく悪化する虞があった。
【0007】
本発明は、このような背景に鑑みなされたもので、高速作動時における電力消費の抑制等を図るとともに、電力が供給されない状態でも十分な減衰力を発生するソレノイド式の減衰力可変ダンパを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明に係る減衰力可変ダンパは、その内部に作動油が封入されたシリンダ(12)と、前記シリンダに往復動自在に保持され、当該シリンダを2つの油室に区画するピストン(16)と、前記ピストンをその先端に保持したピストンロッド(13)と、前記ピストンに形成され、前記両油室の一方に連通する第1連通油路(36)と、前記第1連通油路における一側の開口に形成された弁座(30b)に所定の圧接力をもって圧接するバルブプレート(41)と、前記ピストンに収容され、通電されることで前記バルブプレートを吸引する磁力を発生する電磁コイル(43)とを有する減衰力可変ダンパであって、前記ピストンは、前記バルブプレートの一側に形成された蓄圧室(71)と、前記両油室の他方と前記蓄圧室とを連通させる第2連通油路(61,37)と、前記バルブプレートとは別個に設けられ、当該バルブプレートを前記弁座に向けて付勢する付勢手段(81,82)とを備えた。
【0009】
第2の発明は、第1の発明に係る減衰力可変ダンパにおいて、前記ピストンは、前記第1連通油路および前記第2連通油路が設けられるとともに前記弁座面が軸方向端部に形成されたピストン本体(30)と、当該ピストン本体の軸方向端部に締結される蓄圧ハウジング(46)とを備え、前記バルブプレートは、前記ピストン本体と前記蓄圧ハウジングとの間に介装され、前記蓄圧室は、前記ピストン本体と前記蓄圧ハウジングとの間に画成され、前記付勢手段は、前記バルブプレートに当接するストッパプレート(81)と、当該ストッパプレートを当該バルブプレート側に付勢するスプリング(82)とを含み、前記蓄圧ハウジングは、前記バルブプレートの開弁作動時における前記ストッパプレートの変位を規制する変位規制手段(72,85)を有する。
【0010】
第3の発明は、第2の発明に係る減衰力可変ダンパにおいて、前記変位規制手段は、前記ピストン本体の軸心と直交する方向に対する前記ストッパプレートの傾斜を規制する傾斜規制手段(85)と、前記ストッパプレートを前記ピストン本体の軸心方向で係止することで前記バルブプレートの開弁量を規制する開弁規制手段(72)とを含み、前記ストッパプレートには、一側の面と他側の面とを連通させる連通孔(86)が穿設された。
【発明の効果】
【0011】
第1の発明によれば、ダンパのテレスコピック作動に伴ってピストンがシリンダ内を移動すると、例えば、作動油がバルブプレートを押し開けて第1連通油路から蓄圧室に流入するが、第1連通油路側の油圧と蓄圧室内の油圧とが均衡することでバルブプレートの過剰な開弁が抑制される。また、バルブプレートが付勢手段によって弁座面に付勢されるため、電磁コイルへの電力供給が絶たれた状態でのバルブプレートの開弁圧を比較的高くして、制御用電力の消費低減や電力失陥時における減衰力の確保を図ることができる。また、第2の発明によれば、スプリングのばね常数を調整することにより、電磁コイルへの通電時および非通電時における減衰力を比較的自由に設定することができる。また、変位規制手段によってストッパプレートの変位を規制するため、バルブプレートに安定した付勢力を与えることができる。また、第3の発明によれば、バルブプレートの開弁時において、傾斜規制手段によってストッパプレートの傾きが抑制されてバルブプレートによる連通孔の閉鎖が防止される一方、開弁規制手段によってバルブプレートの過剰な開弁が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態に係る自動車用リヤサスペンションの斜視図である。
【図2】実施形態に係る減衰力可変ダンパの縦断面図である。
【図3】図2中のIII部拡大図である。
【図4】実施形態に係るピストンの分解斜視図である。
【図5】実施形態に係るダンパの伸び側作動時における作用を示す要部拡大断面図である。
【図6】実施形態に係る伸び側減衰力とダンパのストローク速度との関係を示すグラフである。
【図7】実施形態に係るダンパの縮み側作動時における作用を示す要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、自動車のリヤサスペンションを構成する単筒式の減衰力可変ダンパに本発明を適用した一実施形態を詳細に説明する。なお、実施形態の部材や位置関係については、図2中の上方を「上」として説明する。
【0014】
≪実施形態の構成≫
<サスペンション>
図1に示すように、本実施形態のリヤサスペンション1は、いわゆるH型トーションビーム式サスペンションであり、左右のトレーリングアーム2,3や、両トレーリングアーム2,3の中間部を連結するトーションビーム4、懸架ばねである左右一対のコイルスプリング5、左右一対のダンパ6等から構成されており、左右のリヤホイール7,8を懸架している。ダンパ6は、電磁制御方式の減衰力可変型ダンパであり、トランクルーム内等に設置されたECU(図示せず)によってその減衰力が可変制御される。
【0015】
<ダンパ>
図2に示すように、本実施形態のダンパ6は、モノチューブ式(ド・カルボン式)であり、作動油が充填された円筒状のシリンダ12と、このシリンダ12に対して軸方向に摺動するピストンロッド13と、ピストンロッド13の先端に装着されてシリンダ12内をロッド側油室14とピストン側油室15とに区画するピストン16と、シリンダ12の下部に高圧ガス室17を画成するフリーピストン18と、ピストンロッド13等への塵埃の付着を防ぐカバー19と、フルバウンド時における緩衝を行うバンプストップ20とを主要構成要素としている。
【0016】
シリンダ12は、下端のアイピース12aに嵌挿されたボルト21を介して、車輪側部材であるトレーリングアーム2の上面に連結されている。また、ピストンロッド13は、上下一対のブッシュ22とナット23とを介して、その上部ねじ軸13aが車体側部材であるダンパベース(ホイールハウス上部)24に連結されている。
【0017】
<ピストン>
図3,図4に示すように、ピストン16は、ピストン本体30、伸び側バルブプレート41、縮み側バルブプレート42、電磁コイル43、上下一対の連結部材44,45,伸び側蓄圧ハウジング46,縮み側蓄圧ハウジング47、ピストンリング48、段付きの6角穴付きボルト(以下、単にボルトと記す)ボルト49、平板状のストッパプレート81、バルブスプリング82(円錐ばね)から構成されている。
【0018】
ピストン本体30は、フェライト系等の強磁性体を素材として粉末冶金法やダイキャスト法等によって製造された一体成型品であり、その外周面がシリンダ12の内周面に若干の空隙をもって対峙する円筒状のアウタヨーク31と、アウタヨーク31と同一の軸方向寸法を有するとともにその外周面がアウタヨーク31の内周面に空隙をもって対峙する円柱状のインナヨーク32と、ピストン16の軸方向上部でアウタヨーク31とインナヨーク32とを連結する円環状の連結部33とを有し、上下端面がそれぞれ弁座面30a,30bとなっている。インナヨーク32には、上部および下部の軸心にピストンロッド13の雄ねじ部13aとボルト49とがねじ込まれる雌ねじ孔34,35が各々形成されるとともに、どちらも軸方向に貫通する伸び側第1連通油路36と縮み側第1連通油路37とが穿設されている。また、アウタヨーク31およびインナヨーク32には、伸び側第1連通油路36の上部とアウタヨーク31の外周側とを連通させる連通孔38a,38bと、縮み側第1連通油路37の下部とアウタヨーク31の外周側とを連通させる連通孔39a,39bとが各々穿設されている。なお、ピストンリング48は、環状のものであり、アウタヨーク31の下部(連通孔38aと連通孔39aとの間)に形成された保持溝40に外嵌している。
【0019】
伸び側バルブプレート41は、弾性を有する強磁性体製の板材を打ち抜いてなる円板状のもので、ボルト孔51および流量調整孔52が穿設された円形の弁体53と、弁体53を支持するベース部54とを有しており、ベース部54がピストン本体30の下面(弁座面30b)と伸び側蓄圧ハウジング46の上端とによって挟持されている。縮み側バルブプレート42も、伸び側バルブプレート41と同様に弾性を有する強磁性体製の板材を打ち抜いてなる円板状のもので、ボルト孔55および流量調整孔56が穿設された円形の弁体57と、弁体57を支持するベース部58とを有しており、ピストン本体30の弁座面30aに縮み側蓄圧ハウジング47を介してピストンロッド13(雄ねじ部13a)によって締結されている。本実施形態の場合、伸び側バルブプレート41および縮み側バルブプレート42は、1枚または複数枚の積層とし、それぞれの厚みが連結部33の厚みよりも有意に大きく設定されている。
【0020】
電磁コイル43は、アウタヨーク31とインナヨーク32との空隙に嵌装されており、そのリード線43a,43bがピストンロッド13の軸心に配線された電力供給線60に接続されている。電力供給線60は、自動車の車室等に設置されたダンパ制御用のECUからの電力を電磁コイル43に供給する。
【0021】
連結部材44,45は、非磁性体(オーステナイト系ステンレス鋼やアルミニウム合金)を素材とする円環状のものであり、アウタヨーク31とインナヨーク32との間に嵌挿され、圧入や溶接、接着等によって両ヨーク31,32に固着されている。連結部材45には、アウタヨーク31およびインナヨーク32の連通孔39a,39bとともに第1径方向油路61を形成する連通孔45aが穿設されている。一方、連結部材44には、アウタヨーク31およびインナヨーク32の連通孔38a,38bとともに第2径方向油路62を形成する連通孔44aが穿設されている。
【0022】
伸び側蓄圧ハウジング46は、連結部材44,45と同様の非磁性体を素材とする有底円環状のものであり、その中心にボルト49が嵌入するボルト孔70が穿設されるとともに、内周側に3つのストッパプレート係止部72が突設されており、ピストン本体30との間に伸び側バルブプレート41を収容する伸び側蓄圧室71を画成する。縮み側蓄圧ハウジング47は、伸び側蓄圧ハウジング46と同様品であり、その中心にピストンロッド13の先端が嵌入するボルト孔75が穿設されており、ピストン本体30との間に縮み側バルブプレート42を収容する縮み側蓄圧室76を画成する。
【0023】
ストッパプレート81およびバルブスプリング82は伸び側蓄圧ハウジング46(すなわち、伸び側蓄圧室71)に収容されており、ストッパプレート81の下面と伸び側蓄圧ハウジング46の底面との間に介装されたバルブスプリング82がストッパプレート81を介して伸び側バルブプレート41を弁座面30b側に常時付勢している。ストッパプレート81は、その中心に形成されてボルト49の外周に摺接するガイド孔85(傾斜規制手段)と、上面側と下面側とを連通させる3つの連通孔86とを有している。また、伸び側バルブプレート41の下面には、ガイド孔85の全長を長くするための筒状部87が突設されている。なお、伸び側バルブプレート41が閉鎖した状態(図3に示す状態)では、ストッパプレート81とストッパプレート係止部72との間には所定の間隙が設けられている。
【0024】
≪実施形態の作用≫
自動車が走行を開始すると、ECUは、前後Gセンサや横Gセンサ、上下Gセンサから得られた車体の加速度や、車速センサから入力した車体速度、車輪速センサから得られた各車輪の回転速度等に基づき、ダンパ6の目標減衰力を設定して電磁コイル43に駆動電流(励磁電流)を供給する。すると、電磁コイル43が形成した磁束がアウタヨーク31およびインナヨーク32の両端に達し、伸び側バルブプレート41と縮み側バルブプレート42とが磁力吸引される。
【0025】
<伸び側テレスコピック作動時>
ダンパ6が伸び側にテレスコピック作動すると、図5に示すように、ロッド側油室14内の作動油は、第2径方向油路62と伸び側第1連通油路36とを通過し、伸び側バルブプレート41のばね力とバルブスプリング82の付勢力とに抗して伸び側バルブプレート41の弁体53を開弁させることで、伸び側蓄圧室71に流入する。伸び側蓄圧室71に流入した作動油は、伸び側バルブプレート41とピストン本体30との間隙を通過した後、縮み側第1連通油路37の下端部分と第1径方向油路61とを経由してピストン側油室15に流入する。すなわち、本実施形態においては、ダンパ6が伸び側にテレスコピック作動すると、縮み側第1連通油路37の下端部分と第1径方向油路61とが伸び側第2連通油路として機能する。
【0026】
上述したように伸び側バルブプレート41の弁体53は伸び側第1連通油路36から流入した作動油に押圧されることで開弁するが、この際に、流量調整孔52を作動油が流通することもあいまって、伸び側蓄圧室71内では弁体53の上面側(電磁コイル43側の面)の油圧と下面側の油圧とが略等しくなる。そのため、ダンパ6が伸び側に高速で作動し、伸び側第1連通油路36からの作動油の流入速度が高くなった場合にも、伸び側バルブプレート41の弁体53の過剰な開弁が起こりにくくなる。これにより、ECUは、電磁コイル43に非常に大きな電流を供給する必要がなくなるとともに、ダンパ6の作動速度にかかわらず目標電流を略同一に設定することができて減衰力の制御性も向上する。
【0027】
一方、伸び側バルブプレート41は、バルブスプリング82によってピストン本体30の弁座面30b側に常時付勢されているため、弁体53の弾性にのみ依存する場合に較べて開弁圧力(すなわち、伸び側減衰力)が高くなる。そして、電磁コイル43への通電が行われていない状態においても、伸び側バルブプレート41にはバルブスプリング82の付勢力が作用するため、平坦路走行時や失陥時等に電磁コイルへの電力供給が絶たれてもある程度の減衰力が確保される。すなわち、図6中に実線で示すように、本実施形態における伸び側減衰力は、電磁コイル43の通電時においてバルブスプリング82を備えない場合(破線で示す)に較べて有意に大きくなるだけでなく、電磁コイル43の非通電時においてもある程度大きな値を確保することができる。なお、伸び側減衰力は、バルブスプリング82の線径や巻数等を適宜設定することによって、比較的容易に増減させることができる。
【0028】
ストッパプレート81は、ボルト49とガイド孔85とによって軸方向に案内されるため、開弁した伸び側バルブプレート41に押圧されても傾斜せず、伸び側バルブプレート41と密着することがなくなる。これにより、伸び側バルブプレート41の開弁時においては、連通孔86を介してストッパプレート81の上部と下部との間を作動油が自由に流動し、伸び側蓄圧室71内の油圧が不均一となることに起因する伸び側バルブプレート41の意図しない作動が起こらなくなる。そして、ストッパプレート81の軸方向の移動がストッパプレート係止部72に当接することで規制されるため、伸び側バルブプレート41の過剰な開弁も抑制される。
【0029】
<縮み側テレスコピック作動時>
ダンパ6が縮み側にテレスコピック作動すると、図7に示すように、ピストン側油室15内の作動油は、第1径方向油路61と縮み側第1連通油路37とを通過し、縮み側バルブプレート42のばね力に抗して弁体57を開弁させて縮み側蓄圧室76に流入する。縮み側蓄圧室76に流入した作動油は、縮み側バルブプレート42とピストン本体30との間隙を通過した後、伸び側第1連通油路36の上端部分と第2径方向油路62とを経由してロッド側油室14に流入する。すなわち、本実施形態においては、ダンパ6が縮み側にテレスコピック作動すると、伸び側第1連通油路36の上端部分と第2径方向油路62とが縮み側第2連通油路として機能する。
【0030】
上述したように縮み側バルブプレート42の弁体57は伸び側第1連通油路36から流入した作動油に押圧されることで開弁するが、この際に、流量調整孔56を作動油が流通することもあいまって、縮み側蓄圧室76内では弁体57の下面側(電磁コイル43側の面)の油圧と上面側の油圧とが略等しくなる。そのため、ダンパ6が縮み側に高速で作動し、縮み側第1連通油路37からの作動油の流入速度が高くなった場合にも、縮み側バルブプレート42の弁体57の過剰な開弁が起こりにくくなる。これにより、縮み側テレスコピック作動時と同様に、ECUは、電磁コイル43に大きな電流を供給する必要がなくなるとともに、ダンパ6の作動速度にかかわらず目標電流を略同一に設定することができて減衰力の制御性も向上する。
【0031】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこれらに限られるものではない。例えば、上記実施形態はトーションビーム式リヤサスペンションに用いられる単筒式の減衰力可変ダンパに本発明を適用したものであるが、本発明は、ストラット式やダブルウッシュボーン式サスペンションの減衰力可変ダンパ、フロントサスペンション用の減衰力可変ダンパ、複筒式の減衰力可変ダンパ等にも当然に適用可能である。また、上記実施形態では、伸び側バルブプレートや縮み側バルブプレートとして単板式のものを挙げたが、円形の薄板を重ねてなる多板式のものを採用してもよい。また、上記実施形態ではバルブスプリングを円錐ばねとしたが、通常の圧縮コイルばね、竹の子ばね、皿ばね等を採用してもよいし、縮み側にもバルブスプリングを設けてもよい。また、上記実施形態ではボルトに摺接するガイド孔をストッパプレートの傾斜規制手段としたが、伸び側蓄圧室の内周面にストッパプレートの外周面を摺接させることで傾斜規制手段を構成してもよい。また、上記実施形態では、伸び側バルブプレートが伸び側第1連通油路のみを開閉するものとしたが、伸び側第2連通油路をも開閉するようにしてもよい。その他、ダンパやピストンの具体的構成や各部材の具体的形状等についても、本発明の主旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0032】
6 ダンパ
12 シリンダ
13 ピストンロッド
14 ロッド側油室
15 ピストン側油室
16 ピストン
30 ピストン本体
36 伸び側第1連通油路
37 縮み側第1連通油路
41 伸び側バルブプレート
42 縮み側バルブプレート
43 電磁コイル
46 伸び側蓄圧ハウジング
47 縮み側蓄圧ハウジング
49 ボルト
52 流量調整孔
53 弁体
56 流量調整孔
57 弁体
61 第1径方向油路(伸び側第2連通油路)
62 第2径方向油路(縮み側第2連通油路)
71 伸び側蓄圧室
72 ストッパプレート係止部(開弁規制手段)
76 縮み側蓄圧室
81 ストッパプレート(付勢手段)
82 バルブスプリング(付勢手段)
85 ガイド孔(傾斜規制手段)
86 連通孔(連通路)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その内部に作動油が封入されたシリンダと、前記シリンダに往復動自在に保持され、当該シリンダを2つの油室に区画するピストンと、前記ピストンをその先端に保持したピストンロッドと、前記ピストンに形成され、前記両油室の一方に連通する第1連通油路と、前記第1連通油路における一側の開口に形成された弁座に所定の圧接力をもって圧接するバルブプレートと、前記ピストンに収容され、通電されることで前記バルブプレートを吸引する磁力を発生する電磁コイルとを有する減衰力可変ダンパであって、
前記ピストンは、
前記バルブプレートにおける前記一側に形成された蓄圧室と、
前記両油室の他方と前記蓄圧室とを連通させる第2連通油路と、
前記バルブプレートとは別個に設けられ、当該バルブプレートを前記弁座に向けて付勢する付勢手段と
を備えたことを特徴とする減衰力可変ダンパ。
【請求項2】
前記ピストンは、前記第1連通油路および前記第2連通油路が設けられるとともに前記弁座面が軸方向端部に形成されたピストン本体と、当該ピストン本体の軸方向端部に締結される蓄圧ハウジングとを備え、
前記バルブプレートは、前記ピストン本体と前記蓄圧ハウジングとの間に介装され、
前記蓄圧室は、前記ピストン本体と前記蓄圧ハウジングとの間に画成され、
前記付勢手段は、前記バルブプレートに当接するストッパプレートと、当該ストッパプレートを当該バルブプレート側に付勢するスプリングとを含み、
前記蓄圧ハウジングは、前記バルブプレートの開弁作動時における前記ストッパプレートの変位を規制する変位規制手段を有することを特徴とする、請求項1に記載された減衰力可変ダンパ。
【請求項3】
前記変位規制手段は、前記ピストン本体の軸心と直交する方向に対する前記ストッパプレートの傾斜を規制する傾斜規制手段と、前記ストッパプレートを前記ピストン本体の軸心方向で係止することで前記バルブプレートの開弁量を規制する開弁規制手段とを含み、
前記ストッパプレートには、一側の面と他側の面とを連通させる連通路が穿設されたことを特徴とする、請求項2に記載された減衰力可変ダンパ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−87804(P2013−87804A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226371(P2011−226371)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】