説明

炭化ケイ素チューブの製造方法

【課題】1,000℃以上の高温でも耐酸化性に優れ、耐熱性を有する炭化ケイ素チューブの製造方法を提供すること。
【解決手段】下記の(a)及び/又は(b)を満たし、平均外径が50nm以上であって、直径と長さのアスペクト比が10以上である、カーボンファイバーと、一酸化ケイ素とを、互いに混合することなく互いに離して反応容器内に載置する工程、上記反応容器を、加熱炉内において、0.1気圧以下の真空下で、1,400℃以上の温度に加熱して炭化ケイ素を反応生成させる工程、並びに、600℃以上800℃以下の大気中で反応生成物を加熱して、残存するカーボンを酸化除去する工程、を含む炭化ケイ素チューブの製造方法。
(a)グラファイト(002)面のX線回折強度の半値幅が、1°以下の強度を有すること;(b)600℃の大気中で加熱したときに重量減少が10%以下であること

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化ケイ素チューブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素は、1,000℃以上の高温でも酸化されにくく、耐熱性に優れ、また機械的強度が強く、耐摩耗性にも優れており、かつ化学的にも安定な材料である。その用途として、セラミックス焼結体として、高温用るつぼ、焼成用部材、熱交換器用部材、高温用メカニカルシール、半導体熱処理プロセス用冶具、さらに最近では、自動車排ガス用フィルター材料としても利用されている。
【0003】
一方、最近では炭素材料として、カーボンナノチューブが、中空のナノサイズのチューブとして開発され、添加剤として、炭素焼結体などの軽量化、プラスチックの導電性の付与に用いられたり、さらには、半導体の微細配線材料やバイオセンサー、また触媒を担持させて化学触媒材料としても注目されている。
そこで、炭化ケイ素においても、中空のナノチューブを作製することにより、高温用セラミックスの添加剤、アルミニウムやマグネシウム金属の添加剤として、補強及び軽量化が期待できる。またカーボンナノチューブと同様に触媒を担持させることにより高温大気中での化学触媒としての用途も検討されている。
【0004】
この炭化ケイ素ナノチューブの製造方法としては、以下が報告されている。
非特許文献1は、直径15〜50nmのカーボンナノチューブと、Siパウダーとを、アルミナるつぼ内に別々に載置した後、真空10〜7mbarのもとで、アンモニアガスを流して、炭化ケイ素ナノチューブを作製する方法を開示している。
非特許文献2は、直径40〜1,000nmのカーボンナノチューブと一酸化ケイ素とをアルミナるつぼ内に別々に載置して、真空度0.03Paのもと、1,250〜1,550℃に加熱して、炭化ケイ素によって被覆されたカーボンチューブを作製する方法を報告している。
【0005】
非特許文献3は、直径50〜100nmのカーボンナノチューブとSiパウダーとを窒化ホウ素るつぼ内に別々に載置して、真空のもと、1,200℃に加熱して、炭化ケイ素ナノチューブを作製し、大気中600℃で加熱して、未反応のカーボンナノチューブを酸化してしまう方法を開示する。
非特許文献4は、直径15〜20nmのカーボンナノチューブと、Siパウダー及びSiO2パウダーの混合物とを、アルミナるつぼ内に別々に載置して、真空0.05torrのもと、1,200〜1,400℃に加熱して、SiパウダーとSiO2パウダーの混合物を反応させて、一酸化ケイ素ガスを生じさせて、この一酸化ケイ素ガスとカーボンナノチューブを反応させて、炭化ケイ素ナノチューブを作製し、大気中600℃で加熱して、未反応のカーボンナノチューブを酸化してしまう方法を開示する。
【0006】
非特許文献5は、直径10μmのカーボンファイバーと、Siパウダー及びSiO2パウダーの混合物とをアルミナるつぼ内に別々に載置して、真空0.05torrのもと、1,200〜1,400℃に加熱して、SiパウダーとSiO2パウダーの混合物を反応させて、一酸化ケイ素を生じさせて、それとカーボンファイバーを反応させて、カーボンファイバー表面を炭化ケイ素に変化させて、大気中600℃で加熱して、未反応のカーボンファイバーを酸化してしまう方法を開示する。
非特許文献5に記載の方法は、カーボンナノチューブを使用せずに、カーボンファイバーを使用して、反応によってカーボンファイバー表面上に炭化ケイ素を被覆させてから、未反応のカーボンファイバーを600℃で酸化することで、被覆していた炭化ケイ素のみを残し、炭化ケイ素ナノチューブにする方法である。この方法は、the shape memory synthesis とも言われる。
特許文献1は、原料としてカーボンナノチューブ及びケイ素粉末を使用する炭化ケイ素ナノチューブの製造方法を開示する。
【0007】
【特許文献1】特開2004−307299号公報
【非特許文献1】Journal of Applied Physics vol.97 '05 p.056102
【非特許文献2】Journal of American Ceramic Society vol.87(5) '04 p.804
【非特許文献3】Journal of American Ceramic Society vol.88(2) '05 p.459
【非特許文献4】Journal of Catalysis vol.216 '03 p.333
【非特許文献5】Applied Catalysis A General vol.187 '99 p.255
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
炭化ケイ素ナノチューブは、上記の非特許文献1又は2に記載の方法により確かに作製できるが、カーボンナノチューブを全て炭化ケイ素ナノチューブに変換することはできず、一部、未反応のカーボンナノチューブが残ってしまう。したがって、大気中で600℃以上に加熱すると、未反応のカーボンナノチューブが酸化され、重量が減少してしまう。したがって、耐酸化性に優れた炭化ケイ素ナノチューブを作ることはできない。
さらに、直径が50nm以下のカーボンナノチューブを反応させた場合、炭化ケイ素ナノチューブに反応させるときに、20%以上の体積変化が生ずるため、直径が膨らむが、このときに、曲率が小さいため、一部、結合が、長さ方向や径方向で切れてしまい、得られる炭化ケイ素ナノチューブの長さが短くなったり、また径方向に切れてしまい、一部、粒状になったりしてしまう問題が生じる。
【0009】
非特許文献3及び4に記載の方法は、炭化ケイ素ナノチューブを作製後、未反応のカーボンナノチューブを酸化することにより、ほぼ100%の炭化ケイ素ナノチューブを残す方法である。これらの方法は、確かに、純度の高い炭化ケイ素ナノチューブを得ることは可能だが、SiパウダーとSiO2パウダーを均一に反応させて一酸化ケイ素ガスを生じさせることは困難で、カーボンの存在下では、未反応のSiO2パウダーが残ってしまう。また一酸化ケイ素ガスが分解して生ずる活性酸素によって、カーボンナノチューブが炭化ケイ素ナノチューブになる前に、結合が切れてしまい、チューブの形状を保持できずに、粒状の炭化ケイ素になってしまうことがある。
【0010】
非特許文献5に記載の方法では、カーボンファイバーを鋳型に使用する方法であり、炭化ケイ素ナノチューブの直径を自由に選択できるが、鋳型のカーボンファイバーの耐酸化性が劣っている場合、一酸化ケイ素ガスが分解して生ずる活性酸素によって、カーボンナノチューブが炭化ケイ素ナノチューブになる前に、結合が切れてしまい、チューブの形状を保持できずに、粒状の炭化ケイ素になってしまう問題がある。
また、被覆する炭化ケイ素に未反応の部分があると、600℃の大気処理工程で、その未反応の欠陥から結合が切れてしまい、チューブの形状を保持できずに、粒状の炭化ケイ素になってしまう別の問題がある。
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、1,000℃以上の高温においても耐酸化性に優れ、耐熱性を有する炭化ケイ素チューブの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の上記課題は、下記の手段(1)により解決された。好ましい実施態様である(2)及び(3)と共に以下に記載する。
(1)下記の(a)及び/又は(b)の条件を満たし、平均外径が50nm以上であって、直径と長さのアスペクト比が10以上である、カーボンファイバー又はカーボンナノチューブと、一酸化ケイ素とを、互いに混合することなく互いに離して反応容器内に載置する工程、上記反応容器を、加熱炉内において、0.1気圧以下の真空下で、1,400℃以上の温度に加熱して炭化ケイ素を反応生成させる工程、並びに、引き続いて、600℃以上800℃以下の大気中で反応生成物を加熱して、残存するカーボンを酸化除去する工程、を含むことを特徴とする炭化ケイ素チューブの製造方法、
(a)X線粉末回折測定法にて測定した、グラファイト(002)面の回折強度の半値幅が、1°以下の強度を有すること
(b)600℃の大気中で加熱したときに重量減少が10%以下であること
(2)(a)X線粉末回折測定法にて測定した、グラファイト(002)面の回折強度の半値幅が1°以下の強度を有する、カーボンファイバー又はカーボンナノチューブを使用する、(1)に記載の炭化ケイ素チューブの製造方法、
(3)(b)600℃の大気中で加熱したときの重量減少が10%以下である、カーボンファイバー又はカーボンナノチューブを使用する、(1)又は(2)に記載の炭化ケイ素チューブの製造方法。
【0013】
以下に本発明の他の好ましい実施態様を列記する。
(4)上記の(1)に記載の製造方法において、さらに引き続いて、炭化ケイ素チューブを、フッ酸を含む水溶液にて処理して、600℃以上800℃以下の大気中で加熱することで生ずる、炭化ケイ素チューブ表面の酸化膜を除去する炭化ケイ素チューブの製造方法。
このフッ酸処理により、耐酸化性に優れ、耐熱性がある、炭化ケイ素チューブとすることができる。
(5)パイロリティック窒化ホウ素製の反応容器を使用する(1)〜(4)いずれか1つに記載の炭化ケイ素チューブの製造方法。
【0014】
なお、本発明において、ナノサイズの炭化ケイ素チューブを「炭化ケイ素ナノチューブ」ともいう。また「ナノサイズ」とは、外形が50〜200nmであることをいう。炭化ケイ素チューブには炭化ケイ素ナノチューブを含む。炭化ケイ素チューブは好ましくは外形が50nm〜20μmである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、1,000℃以上の高温でも耐酸化性に優れ、耐熱性を有する、炭化ケイ素チューブを作製することが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に上記の本発明の製造方法を説明する。
本発明の炭化ケイ素チューブの製造方法において、カーボンファイバー及び/又はカーボンナノチューブ、並びに、一酸化ケイ素を原料として用意する。
カーボンファイバーとしては、種々の製造方法により得られたものが使用できるが、フェノール樹脂を炭化処理して得られるカーボンファイバーが好ましく使用できる。カーボンファイバーは、外部の平均直径が50nm以上であることが好ましく、外部の平均直径が60nm〜100μmであることが好ましく、1〜20μmであることがより好ましい。また、平均直径に対する平均長さ(アスペクト比)は、10以上であることが好ましく、100以上であることがより好ましく、100〜1,000であることが特に好ましい。
カーボンナノチューブとしては、単層カーボンナノチューブでも、多層カーボンナノチューブでも使用できるが、多層ナノチューブ(MWNT)が好ましく使用できる。
多層ナノチューブは、市販品としても入手できる。その例を挙げると、シンセンナノテクポート社からは、直径が約10nmのMWNTで高純度(95%以上)のものが市販品として入手できる。
【0017】
50nm未満の平均直径のカーボンファイバー又はカーボンナノチューブの場合、曲率が小さいために、径方向に歪があり、炭化ケイ素に反応するときに、その歪によって、ナノファイバー又はカーボンナノチューブが部分的に切れてしまうことがある。
また長さ方向では、アスペクト比が10未満では、カーボンファイバー又はカーボンナノチューブの欠陥があると、やはり炭化ケイ素に反応するときに、その欠陥のところで、カーボンファイバー又はカーボンナノチューブが切れてしまい、長さが短くなり、炭化ケイ素チューブにならずに、粒状になってしまう。
【0018】
使用するカーボンファイバー又はカーボンナノチューブは、耐酸化性である必要があり、以下の(a)及び/又は(b)の条件を満たすことが求められる。
(a)X線粉末回折測定法にて測定した、グラファイト(002)面の回折強度の半値幅が、1°以下の強度を有すること。
(b)600℃の大気中で加熱したときに重量減少が10%以下であること。
【0019】
X線回折強度に関しては、カーボンファイバー又はカーボンナノチューブが、グラファイト構造を有しているために、2θ=24〜25℃付近に(002)面の回折ピークを有する。(002)面の回折ピークが強く、その半値幅が1°以下であれば、グラファイトの結晶面がきれいに成長しており、高温での耐酸化性が強いことを示す。
【0020】
加熱重量減少に関しては、カーボンファイバー又はカーボンナノチューブを、(株)リガク製熱重量測定装置にて、大気中において、昇温速度を20°/分として900℃まで加熱して、加熱に伴う重量減少曲線を求めて、600℃での重量減少が10%以下であれば、耐酸化性であることを示す。
【0021】
また、カーボンナノチューブに含まれる金属元素不純物(例えば、鉄、ニッケル、コバルトなど)は、いずれも1%以下であることが好ましい。
【0022】
600℃での重量減少が10%を越える場合、カーボンファイバー又はカーボンナノチューブを、一酸化ケイ素ガスと反応するときに生ずる活性酸素が、カーボンファイバー又はカーボンナノチューブを酸化させて、それらの一部を切ってしまい、炭化ケイ素チューブにならずに、ナノパウダーの炭化ケイ素になってしまう。そのため、カーボンファイバー又はカーボンナノチューブは、高温での耐酸化性が強いことが好ましい。
【0023】
カーボンファイバー又はカーボンナノチューブと反応させる一酸化ケイ素粉末は、特に平均粒子径の規定はないが、10μm以下であることが好ましく、1〜10μmであることがより好ましい。金属元素不純物も1%以下であることが好ましい。
【0024】
カーボンファイバー又はカーボンナノチューブと一酸化ケイ素粉末を反応させるときの反応容器は、パイロリティック窒化ホウ素(以下、PBNともいう。)を使用することが好ましい。これはアルミナ製の反応容器等を用いた場合、反応した炭化ケイ素ナノチューブにアルミが100ppm以上混入してしまうためである。また真空下で反応させるので、アルミナの酸素が、カーボンファイバー又はカーボンナノチューブと反応してしまう。一方、パイロリティック窒化ホウ素は、酸素原子を有しないので、カーボンファイバー又はカーボンナノチューブと反応することがない。PBNは、通常の窒化ホウ素セラミックスとは異なり、金属不純物が1%以下の高純度材料である。
反応容器には、るつぼの他に反応チューブが含まれる。
【0025】
カーボンファイバー又はカーボンナノチューブと一酸化ケイ素の粉末を反応させるときの反応温度は、1,400℃以上が好ましく、1,400〜1,600℃であることがより好ましい。この温度範囲であれば、反応して得られた炭化ケイ素の欠陥を減らし、緻密化することができる。一酸化ケイ素は、真空度にもよるが、約1,000℃から昇華しはじめ、約1,200℃で昇華しおわる。昇華した一酸化ケイ素ガスとカーボンファイバー又はカーボンナノチューブが、1,000〜1,200℃で反応して炭化ケイ素になり、1,400℃以上の温度では、反応した炭化ケイ素がアニール効果により、緻密化し、結晶欠陥が低減する。それにより、次工程の600℃〜800℃の大気処理でも、炭化ケイ素チューブが酸化されにくく、切れにくくなる。
【0026】
カーボンファイバー又はカーボンナノチューブと一酸化ケイ素粉末を反応させるときの真空度は、0.1気圧(1×104Pa)以下が好ましく、1〜1,000Paがより好ましい。この真空度では、反応して得られた炭化ケイ素の欠陥を減らし、緻密化することができる。一酸化ケイ素は、真空度にもよるが、上述のように、約1,000℃から昇華しはじめ、約1,200℃で昇華しおわる。この真空度が高いほど、昇華する温度は低くなるが、あまり温度が低いと、カーボンファイバー又はカーボンナノチューブの活性度が下がるので、昇華した一酸化ケイ素ガスとカーボンファイバー又はカーボンナノチューブが反応しにくくなる。
【0027】
カーボンファイバー又はカーボンナノチューブと一酸化ケイ素粉末を反応させるときのセット方法としては、カーボンファイバー又はカーボンナノチューブと一酸化ケイ素の粉末とは混合することなく、別々に離して載置する方法がよい。この理由は、一酸化ケイ素が、真空度にもよるが、約1,000℃から昇華しはじめるが、このとき、カーボンと反応して、炭化ケイ素になると同時に、分解して活性酸素を出し、この活性酸素が別のカーボンファイバー又はカーボンナノチューブと反応して、カーボンファイバー又はカーボンナノチューブを切断してしまうことを防止することができるためであると推定される。
そのため、カーボンファイバー又はカーボンナノチューブと一酸化ケイ素粉末とは、お互いに混合せずに、別々に離して載置するのがよく、昇華した一酸化ケイ素ガスがある程度安定状態になってから、カーボンファイバー又はカーボンナノチューブと反応させることにより、カーボンファイバー又はカーボンナノチューブが切断しにくい状態を実現できると推定される。
【0028】
次に、カーボンファイバー又はカーボンナノチューブと、昇華した一酸化ケイ素との反応により炭化ケイ素が生成するが、全てのカーボンファイバー又はカーボンナノチューブが反応する前に、未反応のカーボンファイバー又はカーボンナノチューブが残る。この未反応のカーボンファイバー又はカーボンナノチューブを、600〜800℃に加熱して大気中で酸化して昇華させる。またこの工程により、残存していたカーボンファイバー又はカーボンナノチューブが昇華して中空となり、残った炭化ケイ素は炭化ケイ素ナノチューブを形成する。
【0029】
したがって、使用するカーボンファイバー又はカーボンナノチューブは、炭化ケイ素ナノチューブの鋳型のような役目を果たすことになり、鋳型の直径や長さで、炭化ケイ素ナノチューブの内径や長さがほぼ規定される。またカーボンナノチューブを鋳型にする場合は、カーボンナノチューブの外径が炭化ケイ素ナノチューブの内径にほぼ相当するので、カーボンナノチューブの内径は、任意のものであってよい。カーボンナノチューブは、中空でなく先端が閉じた形状であってもよく、このときはカーボンファイバーと同様の状態であるということになる。
【0030】
なお、残存カーボンの大気処理の温度は、600〜800℃であり、好ましくは650〜750℃である。カーボンファイバー又はカーボンナノチューブを600℃の大気中で加熱したときの重量減少が10%以下であるため、600℃未満の加熱処理では、使用するカーボンファイバー又はカーボンナノチューブが未反応のまま残ってしまい、逆に800℃を超えると、炭化ケイ素ナノチューブが一部酸化されて、切れてしまう。
また、大気中で加熱処理した炭化ケイ素ナノチューブは、表面が一部酸化されているので、酸化膜を除去するために、フッ酸を含む水溶液にて処理してもよい。このとき、フッ酸の濃度は50%以下であることが好ましく、フッ酸水溶液のみ、又はフッ酸と硝酸の混合水溶液でもよく、数十℃に加温してもよい。
【実施例】
【0031】
(実施例1)
パイロリティック窒化ホウ素(「PBN」)るつぼ200φのるつぼ底に、平均粒子径5μmの一酸化ケイ素20gを均一にセットした。その上部に、PBN仕切り板を設けて、その仕切り板の上に、平均直径10μm、平均長さ200μm(アスペクト比20)のカーボンファイバーを5gセットした。このカーボンファイバーは、(株)リガク製X線回折装置で、結晶性を評価すると、2θ=24−25°のグラファイトのピークの半値幅が0.5°であった。このようにして、一酸化ケイ素とカーボンファイバーを分離してセットできる。このカーボンファイバーを、熱重量測定装置で、900℃まで大気中で温度を上げて、重量減少量を測定したところ、600℃での重量減少量は、5%であった。
【0032】
この2つの原料をセットしたPBNるつぼを、カーボンヒータの真空加熱炉にセットした。真空加熱炉を50Paまで真空引きしてから、1,500℃まで温度を上げた。1,200℃付近まで加熱すると約500Paまで真空度が低下するが、これは一酸化ケイ素粉末が昇華してガス化するためである。その後、1,500℃まで加熱すると真空度が100Paまで低下し、安定したところで、約5時間保持して、温度を室温まで下げて、反応したサンプルを取出した。
カーボンファイバーの断面を観察すると、表面から約1.5μmの深さまで炭化ケイ素に反応しており、その内部7μmは、未反応のカーボンファイバーのまま残っていた。
【0033】
この反応したカーボンファイバーを、700℃大気中で約1時間処理すると、緑色に変色した。その断面を観察すると、内部の7μmの未反応カーボンファイバーが消失して、外径10μm、内径7μm、平均長さ180μmの炭化ケイ素ファイバーが生成されていた。これをX線回折装置で測定すると、100%のβ−SiCになって、グラファイトのピークは見られなかった。また走査型電子顕微鏡で、炭化ケイ素ファイバーを観察すると、表面は、少し凹凸はあるが、径方向、長さ方向でも、孔や亀裂などの特に大きな欠陥は見られなかった。
【0034】
次に、この炭化ケイ素ファイバーを、20%フッ酸水溶液にて処理し、(株)堀場製作所製の酸素分析装置にて、酸素濃度を分析すると、酸素量は、0.7%であった。
この得られた炭化ケイ素ファイバーを、熱重量測定装置で、1,000℃まで大気中で温度を上げて、重量減少量を測定したところ、減少量は、0.1%であった。また、グロー放電質量分析にてこの炭化ケイ素ファイバーの不純物分析を行ったところ、鉄などの金属不純物が10ppm以下であり、アルミニウムが50ppmであった。
【0035】
(実施例2)
PBNるつぼ200φのるつぼ底に、平均粒子径5μmの一酸化ケイ素20gを均一にセットした。その上部に、PBN仕切り板を設けて、その仕切り板の上に、外部の平均直径80nm(内径20nm)平均長さ4μm(アスペクト比50)のカーボンナノチューブを5gセットした。このカーボンナノチューブを、熱重量測定装置で、900℃まで大気中で温度を上げて、重量減少量を測定したところ、600℃での重量減少量は、5%であった。
【0036】
この2つの原料をセットしたPBNるつぼを、カーボンヒータの真空加熱炉にセットした。真空加熱炉を70Paまで真空引きしてから、1,500℃まで温度を上げた。1,200℃付近まで加熱すると約800Paまで真空度が低下するが、これは一酸化ケイ素粉末が昇華してガス化するためである。
その後、1,500℃まで加熱すると真空度が120Paまで低下し、安定したところで、約5時間保持して、温度を室温まで下げて、反応サンプルを取出した。カーボンナノチューブの断面を観察すると、表面から約25nmの深さまで炭化ケイ素に反応しており、その内部合計10nmは、未反応になっていた。
【0037】
この反応したカーボンナノチューブを、700℃大気中で約1時間処理すると、緑色に変色した。その断面を観察すると、未反応の内部の10nmのカーボンナノチューブが消失して、外径80nm、内径30nm平均長さ4μmの炭化ケイ素ナノチューブが生成されていた。これをX線回折装置で測定すると、100%のβ−SiCになって、グラファイトのピークは見られなかった。また走査型電子顕微鏡で、炭化ケイ素ナノチューブを観察すると、表面は、少し凹凸はあるが、特に大きな欠陥は無く、長さ方向で、切断も見られなかった。
【0038】
次に、この炭化ケイ素ナノチューブを、10%フッ酸水溶液にて処理し、(株)堀場製作所製酸素分析装置にて、酸素濃度を分析すると、酸素量は、1.0%であった。
この得られた炭化ケイ素ナノチューブを、熱重量測定装置で、1,000℃まで大気中で温度を上げて、重量減少量を測定したところ、減少量は、0.05%であった。
【0039】
(比較例1)
パイロリティック窒化ホウ素(PBN)るつぼ200φのるつぼ底に、平均粒子径5μmの一酸化ケイ素20gを均一にセットした。その上部に、PBN仕切り板を設けて、その仕切り板の上に、平均直径40nm(内径10nm)平均長さ4μm(アスペクト比100)のカーボンナノチューブを5gセットした。このカーボンナノチューブを、リガク製X線回折装置で、結晶性を評価すると、2θ=24−25°のグラファイトのピークの半値幅が2°であった。
【0040】
この2つの原料をセットしたPBNるつぼを、カーボンヒータの真空加熱炉にセットした。真空加熱炉を100Paまで真空引きしてから、1,300℃まで温度を上げた。1,200℃付近まで加熱すると約200Paまで真空度が低下するが、これは一酸化ケイ素粉末が昇華してガス化するためである。その後、1,500℃まで加熱すると真空度が150Paまで低下し、安定したところで、約5時間保持して、温度を室温まで下げて、反応したサンプルを取出した。
サンプルを走査型電子顕微鏡で観察すると、ほとんどがナノサイズの炭化ケイ素の粒子状になってしまい、炭化ケイ素ナノチューブは生成できていなかった。
【0041】
(比較例2)
PBNるつぼ200φのるつぼ底に、平均粒子径5μmの一酸化ケイ素20gを均一にセットした。その上部に、PBN仕切り板を設けて、その仕切り板の上に、平均直径10μm、平均長さ200μm(アスペクト比20)のカーボンファイバーを5gセットした。このカーボンファイバーを、熱重量測定装置で、900℃まで大気中で温度を上げて、重量減少量を測定したところ、600℃での重量減少量は、20%であった。この2つの原料をセットしたPBNるつぼを、カーボンヒータの真空加熱炉にセットした。真空加熱炉を100Paまで真空引きしてから、1,500℃まで温度を上げた。1,200℃付近まで加熱すると約200Paまで真空度が低下するが、これは一酸化ケイ素粉末が昇華してガス化するためである。
【0042】
その後、1,500℃まで加熱すると真空度が150Paまで低下し、安定したところで、約5時間保持して、温度を室温まで下げて、反応したサンプルを取出した。カーボンファイバーの断面を観察すると、表面約1μmまで炭化ケイ素に反応しており、その内部8μmは、未反応になっていた。そこで、この反応したカーボンファイバーを、700℃大気中で約1時間保持して取出すと、緑色に変色し、断面を観察すると、未反応の内部の8μmのカーボンファイバーが消失して、外径10μm、内径8μmの炭化ケイ素ファイバーが生成されたが、平均長さが50μmと短くなっていた。これをX線回折装置で測定すると、100%のβ−SiCになって、グラファイトのピークは見られなかったが、走査型電子顕微鏡で、炭化ケイ素ファイバーを観察すると、表面は、かなり凹凸が生じており、長さ方向で、破断した箇所が多く見られ、表面に孔、亀裂も見られた。またナノサイズの炭化ケイ素粒子が多く散見された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(a)及び/又は(b)の条件を満たし、平均外径が50nm以上であって、直径と長さのアスペクト比が10以上である、カーボンファイバー又はカーボンナノチューブと、一酸化ケイ素とを、互いに混合することなく互いに離して反応容器内に載置する工程、
上記反応容器を、加熱炉内において、0.1気圧以下の真空下で、1,400℃以上の温度に加熱して炭化ケイ素を反応生成させる工程、並びに、
引き続いて、600℃以上800℃以下の大気中で反応生成物を加熱して、残存するカーボンを酸化除去する工程、を含むことを特徴とする
炭化ケイ素チューブの製造方法。
(a)X線粉末回折測定法にて測定した、グラファイト(002)面の回折強度の半値幅が、1°以下の強度を有すること
(b)600℃の大気中で加熱したときに重量減少が10%以下であること
【請求項2】
(a)X線粉末回折測定法にて測定した、グラファイト(002)面の回折強度の半値幅が1°以下の強度を有する、カーボンファイバー又はカーボンナノチューブを使用する、請求項1に記載の炭化ケイ素チューブの製造方法。
【請求項3】
(b)600℃の大気中で加熱したときの重量減少が10%以下である、カーボンファイバー又はカーボンナノチューブを使用する、請求項1又は2に記載の炭化ケイ素チューブの製造方法。

【公開番号】特開2009−298610(P2009−298610A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−152490(P2008−152490)
【出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】