説明

炭化珪素系多孔質成形体の製造方法

【課題】 架橋剤の添加や微粒子の分散を必要とせずに、簡単な工程で安価に微細孔を有する炭化珪素系多孔質成形体を製造する方法を提供する。
【解決手段】 架橋剤を使用せずに、ポリカルボシラン等の炭化珪素前駆体高分子を不活性気体中において400℃以下で加熱して熱的に架橋した炭化珪素前駆体を形成し、該架橋前駆体を熱処理することにより炭化珪素系多孔質成形体を製造する。
炭化珪素前駆体高分子は、不活性気体中において200〜400℃で、1時間以上加熱して熱的に架橋することが好ましく、架橋した炭化珪素前駆体は500〜1300℃で、1時間以上熱処理することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品焼成用治具、排ガス浄化装置等の分離膜や半導体製造工程におけるフイルター材、或いは金属−セラミックス複合体として半導体製造工程でのウエハ等の熱処理装置やCVD装置における構造材や部品、触媒の担持体等として利用可能な、炭化珪素系多孔質成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多孔質炭化珪素焼成体は、電子部品焼成用治具、排ガス浄化装置等の分離膜や半導体製造工程におけるフイルター材、或いは該多孔質炭化珪素焼成体の空隙にアルミニウムや珪素を含浸させてなる金属−セラミックス複合体として半導体製造工程でのウエハ等の熱処理装置やCVD装置における構造材や部品、触媒の担持体等として使用されている。
【0003】
従来、多孔質炭化珪素焼成体は、炭化珪素粉末に有機バインダと水とを添加し、混練後、成形し、アルゴンガス中で2250℃の高温下で約3時間焼成することにより製造される。また、グラファイトや有機高分子等の造孔剤を、焼成前の試料中に分散させた後に、熱処理して造孔剤を焼き飛ばすことにより、炭化珪素焼成体の多孔性を向上させることも知られている。
しかしながら、炭化珪素焼成体内に形成される細孔は、原料となる炭化珪素粉末の粒径や造孔剤の分子径よりも大きいものとなるので、微細孔を有する多孔質炭化珪素焼成体を製造することは、困難であった。
【0004】
このような問題点を解決するために、炭化珪素焼成体の前駆体として有機珪素系高分子を用い、これに架橋剤を添加した後に熱処理することにより、多孔質炭化珪素焼成体を製造することが提案されている。(例えば、特許文献1〜3、非特許文献1〜7参照)
また、熱分解・焼成前前駆体に微粒子を分散させることにより、熱処理過程で有機珪素系高分子から発生する気体間の凝集を防止し、より小さい細孔を有する多孔質炭化珪素系焼成体を得る方法が提案されている。(特許文献4参照)
しかしながら、架橋剤や微粒子の使用はそのための工程を必要とし、コストアップを招くことになる。
【特許文献1】特開2005−60493号公報
【特許文献2】特開2004−356816号公報
【特許文献3】米国特許第4,737,552号明細書
【特許文献4】米国特許第6,624,228号明細書
【非特許文献1】D. Li et al., J. Memb. Sci., 59, 331 (1991)
【非特許文献2】A. B. Shelekhin et al., J Memb. Sci., 66, 129 (1991)
【非特許文献3】K. Kusakabe et al., J Memb. Sci., 103, 175 (1995)
【非特許文献4】Z. Li et al., J Memb. Sci., 118, 159 (1996)
【非特許文献5】L-L Lee et al., J Am. Ceram. Soc., 82, 2796 (1999)
【非特許文献6】L-L Lee et al., Ind. Eng. Chem. Res., 40, 612 (2001)
【非特許文献7】C-C Chao et al., J Memb. Sci., 192, 209 (2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明は架橋剤の添加や微粒子の分散を必要とせずに、簡単な工程で安価に微細孔を有する炭化珪素系多孔質成形体を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、鋭意検討した結果、架橋剤や微粒子を使用せずに、炭化珪素系前駆体高分子を不活性気体中で熱架橋し、炭化珪素系前駆体の熱処理過程で発生する気体の凝集を防止することにより、微細孔を有する炭化珪素系多孔質成形体が得られることを見出し、本発明を完成したものである。
【0007】
すなわち、本発明は、次の構成1〜6を採用するものである。
1.架橋剤を使用せずに、炭化珪素前駆体高分子を不活性気体中において400℃以下で加熱して熱的に架橋した炭化珪素前駆体を形成し、該架橋前駆体を熱処理することを特徴とする炭化珪素系多孔質成形体の製造方法。
2.炭化珪素前駆体高分子を不活性気体中において200〜400℃で、1時間以上加熱して熱的に架橋することを特徴とする1に記載の炭化珪素系多孔質成形体の製造方法。
3.架橋した炭化珪素前駆体を500〜1300℃で、1時間以上熱処理することを特徴とする1又は2に記載の炭化珪素系多孔質成形体の製造方法。
4.炭化珪素前駆体高分子が、ポリカルボシランであることを特徴とする1〜3のいずれかに記載の炭化珪素系多孔質成形体の製造方法。
5.炭化珪素多孔質成形体が膜状体であることを特徴とする1〜4のいずれかに記載の炭化珪素系多孔質成形体の製造方法。
6.炭化珪素系多孔質成形体が、平均細孔径0.2〜2nm、平均気孔率30〜60%、比表面積(BET比表面積)10〜1000m/gの成形体であることを特徴とする1〜5のいずれかに記載の炭化珪素系多孔質成形体の製造方法。
【0008】
本発明において、炭化珪素前駆体高分子とは、主にSiとCからなる主鎖を持ち、Si-H結合、C-H結合、Si-CH3結合等Si及びCそしてHからなる側鎖を持つ高分子であり、且つ、熱分解をすることで炭化珪素系成形体に変換可能な高分子のことを指す。但し、主鎖や側鎖を構成する元素をSi、C、Hのみに限定するものではなく、また、SiとCとHのすべての元素を保持している高分子に限定するものでもない。Si、C、H以外に、主鎖や側鎖にB(ホウ素)やN(窒素)等他の元素を含む高分子も含む。また、Al(アルミナ)やZr(ジルコニア)等の金属を含んでいても良い。好ましい炭化珪素前駆体高分子としては、例えば、ポリカルボシラン、ポリメチルシラン、ポリジメチルシラン及びポリカルボシラザン等を挙げることができる。
また、炭化珪素系多孔質成形体とは、主にSiとCとHからなる多孔質の構造物を指し、炭化珪素前駆体高分子を熱分解することで得られる多孔質構造物を指す。但し、構造物の組成を、SiとCとHのみに限定するものではなく、また、SiとCとHのすべての元素を保持している構造物に限定するものでもない。また、Si、C、H以外に、構造物中にB(ホウ素)やN(窒素)そしてAl(アルミナ)やZr(ジルコニア)等他の元素を含む構造物も含む。具体例としては、例えば、炭化珪素(SiC)や窒化珪素(Si3N4)などを挙げることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電子部品焼成用治具、排ガス浄化装置等の分離膜や半導体製造工程におけるフイルター材、或いは金属−セラミックス複合体として半導体製造工程でのウエハ等の熱処理装置やCVD装置における構造材や部品、触媒の担持体等として利用可能な炭化珪素系多孔質成形体を、架橋剤の添加や微粒子の分散を必要とせずに、簡単な工程で安価に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明では、架橋剤を使用せずに、炭化珪素前駆体高分子を不活性気体中において400℃以下で加熱して熱的に架橋した炭化珪素前駆体を形成し、該架橋前駆体を熱処理することにより炭化珪素系多孔質成形体を製造する。
原料となる好ましい炭化珪素前駆体高分子としては、ポリメチルシラン〔下記、一般式(1)〕、ポリジメチルシラン〔同(2)〕、ポリシリレンメチレン〔同(3)〕及びポリカルボシラン〔同(4)〕等が挙げられる。
【化1】

【0011】
上記各式において、nは10以上の整数、通常は10〜10000程度、好ましくは100〜1000程度の整数を表す。
これらの炭化珪素前駆体高分子としては、数平均分子量(Gel permeation chromatography 示差屈折率/ポリスチレン換算)で、1000以上のものを使用することが好ましい。数平均分子量は、次の式により求めた値を指す。
数平均分子量(Mn)=系の全重量/系中の分子数=Σ(Mi×Ni)/ΣNi
(上式において、Miは分子量を表し、Niは分子量がMiの分子数を表す。)
【0012】
炭化珪素前駆体高分子は、架橋剤を使用せずに、真空中あるいは窒素、アルゴン等の不活性気体中で、400℃程度以下の温度、好ましくは200℃〜400℃の温度で、1時間以上、より好ましくは、200℃では3時間程度以上、300℃では2時間程度以上、400℃では1時間程度以上加熱することによって、熱的に架橋させた前駆体を形成する。ついで、該架橋済前駆体を500℃〜2000℃程度、好ましくは500℃〜1300℃、更に好ましくは600℃〜800℃程度の温度範囲で少なくとも1時間程度以上、例えば1〜10時間程度熱処理をすることによって、炭化珪素系多孔質成形体を製造する。なお、上記熱架橋および熱処理は、連続した工程として行なうことができる。
上記熱架橋処理は、炭化珪素前駆体高分子内の側鎖や主鎖と、他の炭化珪素前駆体高分子内の側鎖や主鎖とを緩やかに反応させ、炭化珪素前駆体高分子の主構造を保持したまま、炭化珪素前駆体高分子間に架橋構造を発達させる処理のことを指す〔図3(B)参照〕。
また、上記熱処理は、熱エネルギーを加えて、炭化珪素前駆体高分子を熱分解することによって、炭化珪素系の無機・セラミックス成形体に変換する処理のことを指す。
【0013】
図1は、本発明及び従来技術による炭化珪素系多孔質成形体の製造工程を示す模式図である。
従来技術aでは、多数の工程を必要とし、多量のエネルギーを消費する。また、得られる多孔質成形体の細孔は、原料粉末の粒径以上或いは原料粉末の粒子間距離以上の孔径を有するものとなる。従来技術bでは、従来技術aに比較して工程数は少なく、多孔質成形体の成形も容易になるが、得られる多孔質成形体の細孔は、原料粉末の粒径以上のメソ〜マクロ孔(>10nm)となり、欠陥も生成し易い。
これに対して、本発明によれば、少ない工程数で、簡単に所望の形状を有する多孔質成形体を製造することが可能となる。また、熱処理条件によって、多孔質成形体の細孔径をミクロ孔(<2nm)に制御することができる。
【0014】
本発明の炭化珪素多孔質成形体は、粉状のほか、例えば、膜状、繊維状、塊状、チューブ状等種々の形状とすることができる。
例えば、アルミナ、セラミックスなどの基材上に、炭化珪素前駆体高分子であるポリカルボシランの有機溶媒溶液を塗布し、或いは該溶液に基材を浸漬もしくは接触させた後、基材上でポリカルボシランを2段階に加熱することによって、膜状の炭化珪素系多孔質成形体を得ることができる。有機溶媒としては、例えばベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒や、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒等を使用することができる。
【0015】
本発明によれば、平均細孔径が0.2〜2nm程度、平均気孔率が30〜60%程度で、比表面積10〜1000m/g程度の微細孔を有する炭化珪素多孔質成形体を、架橋剤の添加や微粒子の分散を必要とせずに、簡単な工程で安価に製造することができる。
【実施例】
【0016】
つぎに、実施例により本発明をさらに説明するが、以下の具体例は本発明を限定するものではない。
以下の例で、窒素吸着測定は常法により、次の手順で行なった。
(1)あらかじめ吸着していると考えられる空気、水分などを取り除くために、粉状の炭化珪素系多孔質体を吸着用ガラス管に入れて、真空中、300℃で5時間脱着前処理した。
(2)次に、この前処理済炭化珪素系多孔質体に、窒素ガスをその相対圧力を変化させながら吸着させて、77Kにおける吸着等温線を得た。
(3)この得られた窒素吸着等温線を、微細孔解析法として良く用いられるH-K法によって解析して細孔径分布を得た。
また、成形体の比表面積は、常法のBET解析法によって求めた。
【0017】
(実施例1)
炭化珪素前駆体高分子として、ポリカルボシラン(PCS、日本カーボン(株)社製:NIPUSI TYPE-S、数平均分子量1580)粉体5.4gをトルエン30mlに溶解し、この溶液を室温で一昼夜乾燥した。次にアルゴン気流中(200ml/分)で昇温速度5℃/分で200℃に加熱し、この温度で10時間保持し、ポリカルボシランを熱架橋した。熱架橋に続き、アルゴン気流中(200ml/分)にて、昇温速度5℃/分で653℃に加熱し、この温度で0時間保持することによりポリカルボシランを熱分解させた後に、室温まで急冷し粉状の炭化珪素系多孔質体を得た。得られた多孔質体の窒素吸着測定を行ない、細孔径分布を調べた。
また、比較として、200℃での加熱時間を1時間とし、試料中の水分を揮発させた(この処理では熱架橋は生じていないと思われる)こと以外は、同じ処理条件で別途調製した粉状の炭化珪素系多孔質体についても同様の測定を行った。
上記2種類の炭化珪素系多孔質体の窒素吸着測定から得られた細孔径分布測定結果を図2に示す。
【0018】
図2より、熱架橋処理を施さずに作製した試料の細孔径ピークは0.84nmであり、一方、熱架橋処理を施し作製した試料の細孔径ピークは0.62nmであり、熱架橋処理を施すことで、細孔径ピーク値が減少することが判明した。
また、BET比表面積については、非架橋状ポリカルボシランで562.1[m2/g]であったのに対し、熱架橋状ポリカルボシランでは603.7[m2/g]であり、熱架橋状ポリカルボシランの方が、非架橋状ポリカルボシランより大きなBET比表面積を持つことが判明した。
【0019】
図3は、(A)非架橋状ポリカルボシランと(B)熱架橋状ポリカルボシランの、熱処理過程における気体発生の状況を表す模式図を示す。
熱架橋状ポリカルボシランにおける細孔径ピークの減少は、細孔一つあたりの生成に寄与する気体容積の減少により引き起こされたと考えられる。すなわち、非架橋状ポリカルボシランでは、熱処理過程で発生する気体が凝集し、細孔一つあたりの生成に寄与する気体の容積が大きくなり、細孔の径も大きくなる。これに対して、熱架橋状ポリカルボシランでは、架橋処理がポリカルボシランの架橋を促進し、発達したポリカルボシランの網目状ネットワークが、熱架橋処理後の熱処理過程で発生する気体の凝集を妨げ、細孔一つあたりの生成に寄与する気体の容積を減少させた結果、成形体内に生成する細孔の径が減少したと考えられる。
また、架橋状ポリカルボシランにおけるBET比表面積の増大も、細孔一つ当たりの生成に寄与する気体容積の減少により引き起こされたと考えられる。すなわち、発達したポリカルボシランの網目状ネットワークが、熱架橋処理後の熱処理過程で発生する気体の分散を促進し、細孔形成に寄与できる気体数の増加をもたらした結果、成形体内における細孔数の増加と細孔容積の増大を引きおこしたためと考えられる。
【0020】
(実施例2)
実施例1で調製したポリカルボシランのトルエン溶液に、NOK社製のアルミナ基材(平均細孔径:150nm、平均気孔率:40%、内径:0.22cm、外径0.29cm、長さ:3cm)を浸漬後、取り出した支持体を、空気中で室温乾燥した。実施例1と同様に、アルゴン気流中(200ml/分)、200℃で10時間、ポリカルボシランの熱架橋を施した後、アルゴン気流中(200ml/分)にて昇温速度5℃/分で700℃に加熱し、この温度で2時間保持することによりポリカルボシランを熱分解させた後に、降温速度5℃/分で室温まで降温した。上記と同じ手順で浸漬、乾燥、熱架橋そして熱分解を更に2回繰り返し、アルミナ基材上に膜状(膜厚:1.0μm程度)の炭化珪素系多孔質体を得た。得られた膜について、測定温度100℃でH2及びN2の透過速度を測定した。
【0021】
これとは別に比較として、200℃での加熱時間を1時間とし、試料中の水分を揮発させたこと以外は上記と同じ処理条件で、アルミナ基材上に膜状(膜厚:1.0μm程度)の炭化珪素系多孔質体を作製し、測定温度100℃でH2及びN2の透過速度を測定した。
これらの透過速度測定結果を図4に示す。なお、上記2種類の膜状炭化珪素系多孔質体は、同じ手順でそれぞれ2本ずつ作製した。
【0022】
図4にみられるように、熱架橋処理を施さなかった場合、作製した膜の水素透過速度は0.1〜0.3×10-8[mol m-2 sec-1 Pa-1]であり、水素の窒素に対する選択性は20〜200倍であった。一方、熱架橋処理を施し作製した膜の水素透過速度は1〜3×10-8[mol m-2 sec-1 Pa-1]であり、水素の窒素に対する選択性は100〜200倍となった。熱架橋処理を施すことで、水素の窒素に対する選択性を減少させることなく、水素透過速度が向上した。
水素透過速度の上昇は、細孔数の増加により引き起こされたと考えられる。これは、熱架橋処理がポリカルボシランの架橋を促進し、発達したポリカルボシランの網目状ネットワークが気体の凝集を妨げた結果、分散した気体量分の細孔が新たに生成したためと考えられる。一方、水素の窒素に対する選択分離性の増加は、水素の透過量が窒素の透過量より多くなったことを示している。これは、細孔径の減少により引き起こされたと考えられる。細孔径の減少は、細孔形成に寄与する気体の凝集防止により、引き起こされたと考えられる。
【0023】
(実施例3)
炭化珪素前駆体高分子として、実施例1〜2とは異なる分子量を持つポリカルボシラン(日本カーボン(株)社製:NIPUSI TYPE-A、数平均分子量1290)を用いたこと以外は実施例1と同様に、ポリカルボシランのトルエン溶液を調製して乾燥した後、200℃で10時間熱架橋処理を行い、引き続き653℃まで加熱することで、粉状の炭化珪素系多孔質体を作製した。得られた粉状の炭化珪素系多孔質体の窒素吸着測定を行い、細孔径分布を調べた。
これとは別に、実施例1と同様に、熱架橋を行なわずに作製した炭化珪素系多孔質体を作製し、窒素吸着測定を行った。上記2つの炭化珪素系多孔質体の窒素吸着測定から得られた細孔径分布を比較したところ、実施例1で得られた結果と同様に、熱架橋処理を施すことで、細孔径ピークは減少し、より大きなBET比表面積を持つことが示された。
【0024】
(実施例4)
実施例3で調製したポリカルボシランのトルエン溶液に、実施例2で使用したNOK社製のアルミナ基材を浸漬後、取り出した支持体を空気中で室温乾燥した。実施例2と同様に、アルゴン気流中(200ml/分)、200℃で10時間ポリカルボシランの熱架橋を施した後、アルゴン気流中(200ml/分)にて昇温速度5℃/分で700℃に加熱し、この温度で2時間保持することによりポリカルボシランを熱分解させた後に、降温速度5℃/分で室温まで降温した。上記と同じ手順で浸漬、乾燥、熱架橋そして熱分解を更に2回繰り返し、アルミナ基材上に膜状(膜厚:1.0μm程度)の炭化珪素系多孔質体を得た。得られた膜について、測定温度100℃でH2及びN2の透過速度を測定した。
これとは別に、200℃での加熱時間を1時間とし、試料中の水分を揮発させたこと以外は上記と同じ処理条件で、アルミナ基材上に膜状(膜厚:1.0μm程度)の炭化珪素系多孔質体を作製し測定温度100℃でH2及びN2の透過速度を測定した。その結果、実施例2で得られた結果と同様に、熱架橋処理を施すことで、水素の窒素に対する選択性を減少させることなく、水素透過速度が向上した。
【0025】
(実施例5)
炭化珪素前駆体高分子として、実施例1〜4とは異なる分子量を持つポリカルボシラン(日本カーボン(株)社製:NIPUSI TYPE-UH、数平均分子量1890)を用いたこと以外は実施例1と同様に、ポリカルボシランのトルエン溶液を調製して乾燥した後、200℃で10時間熱架橋処理を行い、引き続き653℃まで加熱することで、粉状の炭化珪素系多孔質体を作製した。得られた粉状の炭化珪素系多孔質体の窒素吸着測定を行い、細孔径分布を調べた。
これとは別に、実施例1と同様に、熱架橋を行なわずに作製した炭化珪素系多孔質体を作製し、窒素吸着測定を行った。上記2つの炭化珪素系多孔質体の窒素吸着測定から得られた細孔径分布を比較したところ、実施例1及び実施例3で得られた結果と同様に、熱架橋処理を施すことで、細孔径ピークは減少し、より大きなBET比表面積を持つことが示された。
【0026】
(実施例6)
実施例5で調製したポリカルボシランのトルエン溶液に、実施例2及び実施例4で使用したNOK社製のアルミナ基材を浸漬後、取り出した支持体を、空気中で室温乾燥した。実施例4と同様に、アルゴン気流中(200ml/分)、200℃で10時間ポリカルボシランの熱架橋を施した後、アルゴン気流中(200ml/分)にて昇温速度5℃/分で700℃に加熱し、この温度で2時間保持することによりポリカルボシランを熱分解させた後に、降温速度5℃/分で室温まで降温した。上記と同じ手順で浸漬、乾燥、熱架橋そして熱分解を更に2回繰り返し、アルミナ基材上に膜状(膜厚:1.0μm程度)の炭化珪素系多孔質体を得た。得られた膜について、測定温度100℃でH2及びN2の透過速度を測定した。
これとは別に、200℃での加熱時間を1時間とし、試料中の水分を揮発させたこと以外は上記と同じ処理条件で、アルミナ基材上に膜状(膜厚:1.0μm程度)の炭化珪素系多孔質体を作製し測定温度100℃でH2及びN2の透過速度を測定した。その結果、実施例2及び実施例4で得られた結果と同様に、熱架橋処理を施すことで、水素の窒素に対する選択性を減少させることなく、水素透過速度が向上した。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明及び従来技術による炭化珪素系多孔質成形体の製造工程を示す模式図である。
【図2】実施例1の炭化珪素系多孔質体の窒素吸着測定から得られた細孔径分布測定結果を示す図である。
【図3】非架橋状ポリカルボシランと熱架橋状ポリカルボシランの、熱処理過程における気体発生の状況を表す模式図である。
【図4】実施例2でH2及びN2の透過速度を測定した結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋剤を使用せずに、炭化珪素前駆体高分子を不活性気体中において400℃以下で加熱して熱的に架橋した炭化珪素前駆体を形成し、該架橋前駆体を熱処理することを特徴とする炭化珪素系多孔質成形体の製造方法。
【請求項2】
炭化珪素前駆体高分子を不活性気体中において200〜400℃で、1時間以上加熱して熱的に架橋することを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素系多孔質成形体の製造方法。
【請求項3】
架橋した炭化珪素前駆体を500〜1300℃で、1時間以上熱処理することを特徴とする請求項1又は2に記載の炭化珪素系多孔質成形体の製造方法。
【請求項4】
炭化珪素前駆体高分子が、ポリカルボシランであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の炭化珪素系多孔質成形体の製造方法。
【請求項5】
炭化珪素系多孔質成形体が膜状体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の炭化珪素系多孔質成形体の製造方法。
【請求項6】
炭化珪素系多孔質成形体が、平均細孔径0.2〜2nm、平均気孔率30〜60%、比表面積10〜1000m/gの成形体であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の炭化珪素系多孔質成形体の製造方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−22823(P2007−22823A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−203747(P2005−203747)
【出願日】平成17年7月13日(2005.7.13)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「地球温暖化防止新技術プログラム/高効率高温水素分離膜の開発 」産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】