説明

片面研磨用保持材の製造方法

【課題】液晶ディスプレイ用ガラス基板等の被研磨物について初期から加工数を重ねていっても研磨後の被研磨物の品質に影響を与える表面形状を変化させることなく、これにより一定の研磨品質を維持することができ、さらに、被研磨物の品質に影響のある保持面の表面平坦性が向上し、大型で極薄の被研磨物であっても研磨中にはこれを堅固に保持することができ、かつ、研磨後は安全かつ容易に剥がすこともできる片面研磨用保持材の製造方法を提供する。
【解決手段】発泡層と緻密な発泡による表面部分を有する樹脂シートを湿式成膜法により製造する工程と、表面に凸部を有する加熱可能なディンプルロールに樹脂シートを供給して樹脂シートの緻密な発泡による表面部分を圧接させることにより、樹脂シートを構成する材料の流動開始温度以上で熱成形加工する工程とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイ用ガラス基板等の被研磨物の片面研磨用保持材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、液晶ディスプレイ用ガラス基板等の被研磨物を回転加工装置等の研磨機を用いて研磨加工する場合には、被研磨物を研磨機の定盤に固定し、そして、この定盤と対向して設けられた定盤に研磨布を装着し、相対的に回転させるとともに、両者間に砥粒等を含む研磨液を供給することにより被研磨物の表面を研磨する。
【0003】
この際に、被研磨物を定盤に保持するための手段として、多孔質樹脂からなる保持材を用いて被研磨物を水貼りすることが行われている。
【0004】
この保持材は、一般にポリウレタン樹脂組成物を用いた湿式成膜法で製造される。例えば、ポリウレタン樹脂組成物を成膜用基材に塗布し、次いで水、ジメチルホルムアミド(DMF)混合溶液中にて湿式凝固処理を行い、成膜用基材上にポリウレタン樹脂の発泡層を生成させ、その後乾燥する工程を経て保持材が製造される。
【0005】
この発泡層は、発泡の形状を厚み方向の断面から観察すると下層部分は大きな発泡形状になり、下層部分から表面に向かうに従って緻密な発泡形状になる構造体である。そしてその表面には1μm以下の微細孔があり、表面から下層部分の発泡までは微細な連通孔にてつながっている。
【0006】
従来から、この緻密な発泡による表面部分を切削(バフィング加工)し、露出した下層部分の大きな発泡面を被研磨物の保持面とした保持材(バフ品)が知られているが、この保持材は、被研磨物に対する吸着力が弱く、被研磨物が保持材表面でずれるのを防止するために、テンプレートを使用する必要があった。
【0007】
また、上記緻密な発泡による表面部分をバフィングしないで、その表面部分をそのまま被研磨物の保持面とした保持材(ノンバフ品)も知られているが、この保持材は、保持面に、塗工精度や湿式成膜の影響による凹凸が形成されるためその表面精度が悪く、また、筋等や表面欠陥が被研磨物に転写されるといった欠点があった。
【0008】
このような欠点を解消するために、凹凸が形成されている保持面を、平坦な圧接ローラで圧接することにより、裏面に出現した凹凸をバフ処理した保持材も提案されている(特許文献1)。
【0009】
しかし、この保持材は、湿式成膜した軟質プラスチックの表面をそのまま利用するため、被研磨物の研磨に必要な保持材表面の形状安定性に乏しいものであった。
【0010】
すなわち、被研磨物の加工を連続的に行うと、研磨定盤による連続的な加圧や、加工に要するスラリー液や、研磨前後の被研磨物の着脱・保持材洗浄により、液晶ディスプレイ用ガラス基板等の被研磨物の品質に影響のある保持材の表面形状が変化し、研磨後の被研磨物の安定した品質が得られない。
【0011】
一方、保持材の表面を平坦化して被研磨物の保持性を高める技術としては、矯正用の機材を用いて、機材の平坦面を保持材の表面に転写する方法が提案されている(特許文献2〜4)。
【0012】
特許文献2は、ポリウレタン樹脂シートの保持材の表面に、平坦面を有しポリウレタン樹脂シートより硬いPET等のフィルム状基材を加圧して密着させ、これを巻き取った巻取体を所定時間加熱(30〜50℃)するものである。
【0013】
特許文献3は、保持材を定盤に装着する前に、保持材の表面に鏡面の矯正板を当接しながら、例えば90〜100℃程度で加熱加圧するものである。
【0014】
特許文献4は、特許文献3の矯正板を用いた保持材表面の凹凸矯正法を、実研磨機内で研磨液を用いて行い、その作業研磨効率を高めるものであり、当業界では「ダミーラン」と呼ばれる技術を開示するものである。
【0015】
しかしながら、特許文献2〜4の方法では、比較的低温で平坦面を転写するため、平坦化加工の直後では保持材の表面は矯正板の平坦面が転写された形状を維持するものの、湿式成膜したポリウレタン樹脂の不可逆温度領域での熱成形を行っていないため、その形状はしばらくすると平坦化加工前の形状に回復してしまう。そのため、初期から加工数が増加するとともに、保持材が形状変化を起こすため、前記したように、被研磨物の加工を連続的に行うと、研磨後の被研磨物の安定した品質が得られない。
【0016】
ところで、近年、液晶テレビやパーソナルコンピュータ用の液晶ディスプレイの大型化に伴い、その基板として用いられるガラス基板のサイズも大きくなっており、またその厚みも省エネ等の観点から極めて薄くなっているのが実情である。
【0017】
このような大型で極薄のガラス基板のような被研磨物を研磨後に保持材から剥離するに当たっては、そのサイズが大きいほど、またその厚みが薄いほど破損し易くなるため、その剥離には細心の注意が必要となり、剥離に要する時間も長くなるといった傾向がある。
【0018】
このため、大型で極薄の被研磨物であっても、研磨中にはこれを堅固に保持することができ、研磨後は安全かつ容易に剥がすことできる保持材の開発が強く望まれていたが、上記特許文献1〜4記載の保持材はいずれもこのような要求品質を満たすものではなかった。
【0019】
また、特許文献5には、「空隙のサイズが細かく緻密な層である、吸着面の表面層側より細孔をあけ、細孔の径および間隔を調整して、ガラス基板に対する吸着パッドの吸着力を制御され、研磨後のガラス基板の剥離性が改善された、保持パッド」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特許第4455230号明細書
【特許文献2】特開2008−119861号公報
【特許文献3】特開平11−151666号公報
【特許文献4】特開2004−90124号公報
【特許文献5】特開2004−154920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
しかしながら、この保持パッドは、上記特許文献1〜4と同様に、湿式成膜した軟質プラスチックの表面をそのまま利用するため、被研磨物の加工を連続的に行うと、研磨定盤による連続的な加圧や、加工に要するスラリー液や、研磨後の被研磨物の着脱・保持材洗浄により、液晶ディスプレイ用ガラス基板等の被研磨物の品質に影響のある保持材の表面形状が変化し、研磨後の被硯磨物の安定した品質が得られないといった問題を依然として包含するものであった。
【0022】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、液晶ディスプレイ用ガラス基板等の被研磨物について初期から加工数を重ねていっても研磨後の被研磨物の品質に影響を与える表面形状を変化させることなく、これにより一定の研磨品質を維持することができ、さらに、被研磨物の品質に影響のある保持面の表面平坦性が向上し、大型で極薄の被研磨物であっても研磨中にはこれを堅固に保持することができ、かつ、研磨後は安全かつ容易に剥がすこともできる片面研磨用保持材の製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の片面研磨用保持材の製造方法は、発泡層と緻密な発泡による表面部分を有する樹脂シートを湿式成膜法により製造する工程と、表面に凸部を有する加熱可能なディンプルロールに樹脂シートを供給して樹脂シートの緻密な発泡による表面部分を圧接させることにより、樹脂シートを構成する材料の流動開始温度以上で熱成形加工する工程とを含むことを特徴とする。
【0024】
この片面研磨用保持材の製造方法において、樹脂シートの緻密な発泡による表面部分を熱成形加工することにより、被研磨物の保持面のシート全体としての表面平坦性を向上させ、かつ、ディンプルロールの凸部による凹部を被研磨物の保持面に形成することが好ましい。
【0025】
この片面研磨用保持材の製造方法において、樹脂シートがポリウレタン樹脂シートであることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、ディンプルロールによる流動開始温度以上での熱成形加工により、初期から加工数を重ねていっても研磨後の被研磨物の品質に影響を与える表面形状を変化させることなく一定の研磨品質を維持することができる。さらに、被研磨物の保持面のシート全体としての表面平坦性が向上し、被研磨物の保持性を高めることができる。かつ、微視的な範囲ではディンプルロールの凸部による凹部が被研磨物の保持面に形成され、これにより研磨後の剥離性もコントロールすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】流動開始温度確認試験のサンプル形状を示した平面図である。
【図2】実施例1、2および比較例1、2のポリウレタン樹脂シートの表面形状を示すカラーレーザ顕微鏡写真である。
【図3】ディンプルロールによる熱成形加工の工程を概略的に説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明について詳細に説明する。
【0029】
本発明の片面研磨用保持材の製造方法では、最初の工程として、発泡層と緻密な発泡による表面部分を有する樹脂シートを湿式成膜法により製造する。
【0030】
樹脂シートとしては、例えば、ポリウレタン樹脂シートを用いることができる。
【0031】
湿式成膜法によれば、例えばポリウレタン樹脂等の凝固成分を水混和性の有機溶剤に溶解させたポリウレタン樹脂組成物(発泡用溶液)を成膜用基材に塗布し、次いでポリウレタン樹脂組成物を塗布した成膜用基材を水系凝固液中に浸漬して凝固成分を凝固させることにより発泡層を作製することができる。
【0032】
このようにして得られる発泡層は、発泡の形状を厚み方向の断面から観察すると下層部分は大きな発泡形状になり、下層部分から表面に向かうに従って緻密な発泡形状になる構造体である。そしてその表面には1μm以下の微細孔があり、表面から下層部分の発泡までは連通孔にてつながっている。
【0033】
ポリウレタン樹脂組成物を用いた湿式成膜法の凝固成分としては、ポリウレタン樹脂、例えば、ポリウレタンエラストマー等を用いることができる。
【0034】
ポリウレタンエラストマーは、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系あるいはこれらの共重合体等を用いることができ、目的に応じて単独でまたは2種類以上を混合して用いることができる。
【0035】
凝固成分としてのポリウレタンエラストマーを溶解する水混和性の有機溶剤としては、特に限定されないが、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、ジメチルアセトアミド、エチルアセテート、ジオキサン等が挙げられる。有機溶剤は目的に応じて単独でまたは2種類以上を混合して用いることができる。
【0036】
さらにポリウレタン樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲内において前記以外の他の成分を配合することができる。このような他の成分としては、例えば、発泡助剤、親水剤、撥水剤、顔料等が挙げられる。また、親水剤、撥水剤等の成分は、必要に応じて、湿式成膜後に後処理等の方法で加工することもできる。
【0037】
本発明に用いられる成膜用基材としては、特に限定されないが、例えば、綿、レーヨン、ポリアミド、ポリエステル、ポリアクリロニトリル等の天然繊維、再生繊維、合成繊維等の編織布または不織布、あるいはこれらにスチレンブタジエンゴム、ニトリルブタジエンゴム等のゴムまたはポリウレタンエラストマー等を充填したもの、あるいはポリエチレン、ポリプロピレンに代表されるポリオレフィンやポリエステル等の樹脂シート等が挙げられる。
【0038】
そして本発明の片面研磨用保持材の製造方法では、次の工程として、表面に凸部を有する加熱可能なディンプルロールに樹脂シートを供給して緻密な発泡による表面部分を圧接させることにより、樹脂シートを構成する材料の流動開始温度以上で熱成形加工を行う。
【0039】
このフラットなロール表面に凸部が設けられたディンプルロールを用いた熱成形加工(エンボス加工)により、被研磨物の保持面のシート全体としての表面平坦性が向上し、かつ、ディンプルロールの凸部による凹部が被研磨物の保持面に形成される。
【0040】
本発明においては、この熱成形加工の加工温度を、樹脂シートを構成する材料の流動開始温度以上とする。これにより樹脂シートは不可逆的に形状が変化し、樹脂シートの緻密な発泡による表面部分は、発泡による凹凸がシート全体として平坦化される。
【0041】
なお本明細書において「シート全体として平坦化」とは、後述の実施例のような測定範囲1m角のスケールでの厚みの平坦化(厚みのバラツキ率の減少)を意味する。本発明によれば、例えば測定範囲4000μmのスケールの微視的な範囲ではエンボスによる凹部の形成によって寧ろ平坦性が低下するが、シート全体としての大きなスケールの範囲では平坦性を高めることができる。これによって被研磨物の保持性を高め、かつ、研磨後の剥離性もコントロールすることができる。
【0042】
熱成形加工温度が流動開始温度未満では、不可逆的に樹脂シートの形状を変化させることができず、本発明の初期の目的を達成することができない。すなわち流動開始温度未満で熱成形加工をすると、その形状はしばらくすると加工前の形状に回復してしまう。そのため、初期から加工数が増加するとともに、保持材が形状変化を起こすため、被研磨物の加工を連続的に行うと、研磨後の被研磨物の安定した品質が得られない。
【0043】
熱成形加工温度の上限に特別な制約はないが、あまりにも温度が高いと緻密な発泡による表面部分に焼き付きが生じる場合もあるので、そのような事態を避ける温度以下とするのがよい。
【0044】
この流動開始温度は、樹脂シートを構成する材料(成分組成)によってそれぞれ異なるので一般化はできないが、通常のポリウレタン樹脂材料を用いた場合の熱成形加工温度は、130〜240℃が好ましい。
【0045】
本発明の片面研磨用保持材の製造方法によれば、上記のように、緻密な発泡による表面部分にその流動開始温度以上での熱成形加工が施されるが、さらに該緻密な発泡による表面部分に凹部のみが形成される。このように保持材の断面から見た場合に凹状に形成され、かつ凸状にならないような凹部を設けることで、被研磨物の保持性を確保しつつ、研磨後の剥離性をコントロールすることができる。なお、保持材の表面に凸部があると被研磨物の保持性が大きく低下する。
【0046】
このような凹部は、個々の凹部が島状に点在しそれぞれ独立していることが好ましく、例えば溝のように相互に連通していないことが好ましい。個々の凹部が連通している場合、外部からのスラリー液の裏面(保持材とガラス基板の間)に侵入を許し、基板剥がれや裏面へのスラリーの固着が発生する場合がある。
【0047】
また、その点在状態は、凹部が単位面積当たり1〜10%の範囲を占めて点在するようにしておくことが好ましい。この範囲内にすることで、被研磨物の保持性を確保しつつ、研磨後の剥離性をコントロールすることができる。
【0048】
図3は、ディンプルロールによる熱成形加工の工程の一例を概略的に説明する図である。図3(a)は全体を示し、図3(b)は樹脂シートとディンプルロールの圧接部分を拡大して示す。
【0049】
図3(a)に示すように、発泡層と緻密な発泡による表面部分を有する樹脂シート1は、ディンプルロール2に供給される。ディンプルロール2は加圧ロール3と対向して配置され、これらの間に、発泡層と緻密な発泡による表面部分をディンプルロール2側に向けて樹脂シート1が供給される。
【0050】
ディンプルロール2は、図3(b)に示すように、エンボス加工を施すための複数の凸部2aをロール表面に有している。またディンプルロール2は、ロール表面を均一な温度(樹脂シート1を構成する材料の流動開始温度以上)に加熱可能な金属ロールを用いることができる。このような金属ロールは、従来より本発明の技術分野やこれに近接する技術分野において熱ロールとして用いられているものと同種の構成のものを用いることができる。
【0051】
加圧ロール3は、例えば、ディンプルロール2との間に樹脂シート1を挟んで適度に加圧可能な弾性材料でロール表面が形成されたものを用いることができ、具体的には、ゴムロール等を用いることができる。
【0052】
図3(b)に示すように、樹脂シート1は、ロール表面が流動開始温度以上に均一に加熱されたディンプルロール2に供給される。樹脂シート1の緻密な発泡による表面部分をディンプルロール2のロール表面に圧接させると、緻密な発泡による表面部分は、樹脂シート1を構成する材料の流動開始温度以上で不可逆的に熱成形加工される。
【0053】
このように、流動開始温度以上で熱成形加工を行うため、経時的に回復することなくディンプルロールの表面形状が転写される。すなわち、ディンプルロール2による流動開始温度以上での熱成形加工により、初期から加工数を重ねていっても研磨後の被研磨物の品質に影響を与える表面形状を変化させることなく一定の研磨品質を維持することができる。
【0054】
さらに、フラットな表面に微小な凸部2aが設けられたディンプルロール2で樹脂シート1の緻密な発泡による表面部分を熱成形加工することにより、被研磨物の保持面のシート全体としての表面平坦性は、熱成形加工前よりも向上する。図3(b)に示すように、樹脂シート1の厚みは、不可逆的に、ディンプルロール2への供給前のt1からt2に小さくなり(t1>t2)、被研磨物の保持面のシート全体としての表面平坦性が向上する。これにより、後述の表4にも示されるように、被研磨物の保持性を高めることができる。
【0055】
また、微視的な範囲ではディンプルロール2の凸部2aによる凹部1aが樹脂シート1の被研磨物の保持面に形成される。これにより、研磨後の剥離性もコントロールすることができる。
【0056】
このように、ディンプルロール2を用いた熱成形加工により、被研磨物の保持面の平坦化とこの保持面への凹部1aの形成という、相矛盾する課題の解決(被研磨物の保持性向上と剥離性のコントロール)を1工程で同時に達成することができる。
【0057】
このような特有な加工温度とディンプルロールを利用した熱成形加工をすることにより、本発明では、緻密な発泡による表面部分が樹脂シートを構成する材料の流動開始温度以上で熱成形加工されていると共に該表面部分には凹部のみが形成された、従来には見出されていない新規な片面研磨用保持材を得ることができる。
【0058】
本発明により製造される片面研磨用保持材は、前記した構成からなるので、被研磨物の品質に影響のある保持面のシート全体としての表面平坦性を向上することができると共に、連続的な研磨加工作業でのスラリー液や加工後の保持材洗浄等の外乱による保持面の形状変化を抑制することができる。また、緻密な発泡による表面部分にその形状が経時的に変化しない凹部が設けられているから、大型で極薄の被研磨物であっても、研磨中にはこれを堅固に保持することができ、研磨後は安全かつ容易にこれを剥がすことできるといった数多くの利点を有するものである。
【0059】
本発明により製造される片面研磨用保持材は、発泡層を有する樹脂シートを用いた構成であれば特に限定されないが、例えば、成膜用基材を一旦剥がして別途の基材を発泡層の裏面に粘着層または接着層を介して貼り付けて構成することができる。なお、発泡層の裏面はバフィング加工を施してもよい。
【0060】
本発明により製造される片面研磨用保持材を用いた被研磨物の研磨加工は、被研磨物を保持材により保持して研磨機の定盤に固定し、この定盤と対向して設けられた定盤に研磨布を相対的に回転させると共に、両者間に砥粒等を研磨材として含むスラリー液を供給しながら行うことができる。
【0061】
本発明により製造される片面研磨用保持材は、例えば、液晶ディスプレイ用ガラス基板、シリコンウエハ、化合物半導体基板等の研磨、特に仕上げ研磨に好適である。
【実施例】
【0062】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
<実施例1>
1.流動開始温度確認試験
市販の湿式成膜用ポリウレタン樹脂DMF溶液に、保持材の配合成分として通常使用される黒色顔料やその他の添加剤を配合し、ポリウレタン樹脂組成物を調製した。このポリウレタン樹脂組成物を1.4mmのクリアランスにてガラス板上に塗布し、130℃の乾燥機(タバイエスペック社製PH-201)に30分間入れて乾燥した。得られたフィルムの膜厚は140μmであった。
【0063】
このフィルムを図1に示す形状の測定片に打ち抜き、高温槽(八島製作所製TKC-R2T)を備えたテンシロン測定機(オリエンテック社製テンシロンRTM-100)のチャック部(上下チャック間距離50mm)に設置固定し、伸び率100%(チャック間100mmの状態)の位置になるところで停止した。
【0064】
その後、高温槽を加温上昇し、引っ張りにより発生した反発弾性力が変形温度に到達し弾性低下する温度を読み取った。その結果、このフィルムの流動開始温度は142.3℃であった。
2.エンボス加工
前記のポリウレタン樹脂組成物を湿式成膜し、得られたポリウレタン樹脂シートに後述の表1の各温度(50℃、105℃、115℃、125℃、135℃、145℃、155℃)にて熱成形加工を施した。熱成形加工はロール面にディンプル(海島状の凹凸)を有するエンボスロールにより行い(ディンプル1個=平均直径98.4μm×平均深さ10.4μmのすり鉢形状、1mm×1mmに平均11.7個)、連続加工にて各温度×接圧(10kgf/cm2)×接圧時間約0.4秒にて処理した。
【0065】
その結果、135℃以上ではエンボス形状をポリウレタン樹脂シートの表面部分に転写した所望の成形が可能であった。一方、135℃未満ではエンボス形状をポリウレタン樹脂シートの表面部分に適切に転写することができなかった。
3.エンボス後水洗試験
熱成形加工の不可逆性を確認するために、熱成形加工の温度を変更し、研磨加工に見合う条件にて水洗処理を行った。
【0066】
熱成形加工は、前記と同様にロール面にディンプル(海島状の凹凸)を有するエンボスロールにより行い、連続加工にて各温度×接圧(10kgf/cm2)×接圧時間約0.4秒にて処理した。
【0067】
各温度で作成されたエンボス加工品から、各々200mm×200mmの試料を切りだし、当該試料を水洗処理30℃×24時間にて恒温水流水槽(ヤマト科学社製BK-53)を用いて行い、その後、乾燥機(タバイエスペック社製PH-201)を用いて30℃×24時間風乾した。
【0068】
熱成形加工後における水洗・乾燥前後でのポリウレタン樹脂シートの表面粗さRaを、表面粗さ計(サーフコーダーSEF3500:小坂研究所製)にて測定し、エンボス形状の水洗・風乾外力による可逆・不可逆を確認した。
【0069】
その結果を表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
このように、145℃以上の温度域では水洗・乾燥による表面粗さRaの変化が全く見られなかった。
【0072】
この結果に基づき、145℃にて連続的に、前記のエンボスロールによる熱成形加工を行い、熱成形加工後のポリウレタン樹脂シートの裏面をバフィング加工した後、この裏面に両面テープを貼り付けて保持材を作製した。この保持材に用いたポリウレタン樹脂シートの熱成形加工後の表面形状を図2に示す。なお、図2の表面形状は全てカラーレーザ顕微鏡(キーエンス社製形状測定レーザマイクロスコープ VK-9700)により測定した。このように、ポリウレタン樹脂シートの緻密な発泡による表面部分は、発泡による凹凸がシート全体として平担化され、かつ、微視的には経時的に回復することなく熱ロールのディンプルが転写されていた。
<実施例2>
熱ロール(ディンプル1個=平均直径75μm×平均高さ10.9μmの円筒形状、1mm×1mmに平均15.0個)にてポリウレタン樹脂シートに熱成形加工を施した。それ以外は実施例1と同様にして保持材を作製した。この保持材に用いたポリウレタン樹脂シートの熱成形加工後の表面形状を図2に示す。このように、ポリウレタン樹脂シートの緻密な発泡による表面部分は、発泡による凹凸がシート全体として平担化され、かつ、微視的には経時的に回復することなく熱ロールの表面形状が転写されていた。
<比較例1>
熱成形加工を施さなかった以外は実施例1と同様にして、裏面をバフィング加工した保持材を作製した。そのポリウレタン樹脂シートの表面形状を図2に示す。
<比較例2>
形状がフラット(プレーン)な状態である熱ロールにてポリウレタン樹脂シートに熱成形加工を施した。それ以外は実施例1と同様にして、裏面をバフィング加工した保持材を作製した。そのポリウレタン樹脂シートの表面形状を図2に示す。
【0073】
実施例1、2および比較例1、2におけるパッド単位面積当たりに占めるディンプル部(凹部)の面積割合(%)を表2に示す。
【0074】
【表2】

【0075】
実施例1、2、および比較例1、2の保持材について、ポリウレタン樹脂シートのシート厚み(mm)、厚みのバラツキ率(%)、硬度(°)、平均表面粗さを測定した。厚みのバラツキ率は、ポリウレタン樹脂シートの測定範囲1m角について縦横10cm間隔で厚みを測定し算出した。厚みの測定にはピーコック社卓上型厚み測定機(1/1000mm目盛)を用いた。硬度の測定は、アスカーC型硬度計を用いた。平均表面粗さは、表面粗さ計(サーフコーダーSEF3500:小坂研究所製)により測定範囲4000μmで測定した。
【0076】
その結果を表3に示す。なお、切削量はポリウレタン樹脂シート裏面のバフィング処理量を示す。
【0077】
【表3】

【0078】
次に、実施例1、2、および比較例1、2の保持材について、東洋精機製作所製の摩擦測定機TR-2を用いてロードセル荷重測定を行い、その保持性を評価した。
【0079】
下定盤面にガラス板を貼り付け、上定盤面であるスレッド(63mm×63mm)の中心位置に、1inch2(25.4mm×25.4mm)の保持材試料を貼り付けた。ガラス板面に霧吹きで水を適量ふりかけ、スレッドを置き、面圧100g/cm2にて10秒間押し付けて、滑りがないこと(貼り付いていること)を確認した。摩擦測定器を稼動し、ガラス板と下定盤を共に移動したときに保持材がずれるまでの最大荷重をロードセル出力計で読み取った。その結果を表4に示す。
【0080】
【表4】

【0081】
以上のように、流動開始温度以上の温度で熱成形加工された実施例1、2の保持材は、平坦性の高い基板研磨が可能となるとともに、形状変化への耐久性を有し、またシート厚みのバラツキ率が減少し保持性も向上した。
【0082】
次に、実施例1、2、および比較例1、2の保持材について、被研磨物の剥離性を評価した。
【0083】
100mm×100mm×0.7mmのガラス基板を、予め定盤に貼着した保持材の上に、適量の水を霧吹きでふりかけ、面圧100g/cm2にて10秒間押しつけた。そしてガラス基板端部に直径40mmの吸盤を設置し、市販のばね秤で、垂直に引き上げる方向に秤を持ち上げ、剥離する際の数値を読み取った。
【0084】
前記試験を10回繰り返し、10回の平均値を易剥離性とした。また、10回の測定での最大値と最小値の差を範囲Rとし、範囲Rを剥離平均値で割った値を、バラツキ率として評価した。
【0085】
その結果を表5に示す。
【0086】
【表5】

【0087】
エンボス加工をしていない比較例1では、表面形状が固定化されていないため、基板を剥がすに際して、バラツキが非常に大きく、不安定であった。
【0088】
プレーン形状のエンボス加工をした比較例2は、密着力が極大化し過ぎており、基板が割れたために、測定ができなかった。
【0089】
液晶基板は、所謂ガラス世代毎にサイズ(タテ×ヨコ)が大きくなりながらも、板厚自体はむしろ薄い方向にシフトしている。液晶基板研磨後、保持材から基板を剥がす際、吸着性があまりにも強いと、吸着力に対して基板強度が保たず、基板破損(割れ)が発生する。
【0090】
しかしながら、表面をエンボス加工することにより、研磨時のヨコ向きの外力には効果的な抵抗力を持ちながら(表4)、剥離(垂直方向への力)に対しては、比較的簡易に剥がすことができ、かつ、ディンプルの面積を適宜選択することにより、所望の剥離力に調整することができた。
【符号の説明】
【0091】
1 樹脂シート
1a 凹部
2 ディンプルロール
2a 凸部
3 加圧ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡層と緻密な発泡による表面部分を有する樹脂シートを湿式成膜法により製造する工程と、表面に凸部を有する加熱可能なディンプルロールに前記樹脂シートを供給して前記樹脂シートの緻密な発泡による表面部分を圧接させることにより、前記樹脂シートを構成する材料の流動開始温度以上で熱成形加工する工程とを含むことを特徴とする片面研磨用保持材の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂シートの緻密な発泡による表面部分を熱成形加工することにより、被研磨物の保持面のシート全体としての表面平坦性を向上させ、かつ、前記ディンプルロールの凸部による凹部を前記被研磨物の保持面に形成することを特徴とする請求項1に記載の片面研磨用保持材の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂シートがポリウレタン樹脂シートであることを特徴とする請求項1または2に記載の片面研磨用保持材の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−107137(P2013−107137A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247784(P2011−247784)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【特許番号】特許第4996767号(P4996767)
【特許公報発行日】平成24年8月8日(2012.8.8)
【出願人】(305006277)株式会社FILWEL (3)
【Fターム(参考)】