説明

球状炭化ケイ素質微粒子、非晶質炭化ケイ素質セラミックス、及びそれらの製造方法

【課題】高純度で単分散の球状炭化ケイ素質微粒子。耐環境性、耐熱性、耐酸化性に優れた非晶質の炭化ケイ素質セラミックスの製造の提供。
【解決手段】平均粒径が50〜100,000nmの範囲で真球度が0.9〜1.0の球状炭化ケイ素質微粒子。(a)下記式で表される主鎖骨格を有するポリカルボシラン又は変性ポリカルボシランからなる有機ケイ素前駆体高分子を提供する工程;(b)前駆体高分子を貧溶媒と混合し加熱して溶解させた後、この溶液を冷却して前駆体高分子を析出させ、析出物を濾別して球状前駆体高分子の微粒子を得る工程;(c)球状前駆体高分子微粒子を酸素含有雰囲気中で不融化処理を行う工程;(d)球状前駆体高分子の微粒子を真空中、不活性ガス雰囲気中で焼成する工程。得られる非晶質の球状炭化ケイ素質微粒子を原料として加熱焼結する非晶質炭化ケイ素質セラミックス焼結体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体封止材用のフィラー、或いは機械部品や電子部品製造のための焼結用原料等に有用な、高純度で単分散の球状炭化ケイ素質微粒子と、結晶質の炭化ケイ素よりも低温で焼結可能であり、耐環境性、耐熱性、耐酸化性に優れた非晶質の炭化ケイ素質セラミックス、及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス粉末を半導体封止材のフィラー、或いは機械部品や電子部品製造のための焼結用原料等に用いる場合、出発原料であるセラミックス粉末の純度が製品の性能に影響を与えることは周知の通りである。しかし、純度のみではなく原料粉末の粒子形状、粒度分布、凝集の程度といった物性もセラミックスを使用する製品の性能に大きな影響を与える。
【0003】
近年、電子機器の小型軽量化、高性能化の動向に対応して、デバイスの複雑化、半導体パッケージの小型化、薄型化、狭ピッチ化がますます加速している。また、その実装方法も配線基板等への高密度実装に好適な表面実装が主流になりつつある。このように半導体封止材料においても高性能化、特に耐半田耐熱性、耐湿性、低熱膨張性、機械的特性、電気絶縁性等の機能向上が要求されている。これらの要求を満たすために、エポキシ樹脂に上記の特性を有する無機質粉末をフィラーとして充填した半導体封止材料が一般的に使用されている。この半導体封止材料に充填される無機質粉末は半田耐熱性、耐湿性、低熱膨張、機械的強度向上の観点から、エポキシ樹脂に高充填されることが望ましい。より小型化、薄型化していく電子部品の半導体封止材料には、フィラーを高充填しても流動性、成形性を損なわないことが求められる。このためには、フィラーは球形で適当な粒度分布を持ち、且つ凝集が少ないことが好ましい。
【0004】
セラミックス粉末を成形、焼結してセラミックス焼結体を得るに際して、出発原料であるセラミックス粉末の純度が、セラミックス焼結体の特性に大きな影響を与えることは周知の通りである。しかし、純度のみではなくセラミックス粉末の粒子形状、粒子サイズ、比表面積、凝集の程度といった物性もセラミックス焼結体の特性に大きな影響を与える。例えば、粒子形状については、一般に球形であることが望ましい。即ち、インゴットの粉砕等で調製された粉末は粒子形状に異方性があるので、一般的には球形から形がずれてくると成形体の相対密度が低くなるとともに、密度の不均質が生じる。このような成形体を焼結しても、焼結体の密度が上がらないばかりか、焼結時の収縮に異方性が生じ、反りや割れが起こる。
【0005】
真球度の高いセラミックス微粒子を得る方法は、転動造粒法、噴霧乾燥法、火炎溶融法等がある。転動造粒法とは、回転皿・回転円筒・回転円錐形状のドラムに、液体バインダーを混ぜて回転運動をさせ、大きな造粒物を排出させ、小さな造粒物を得る方法である。転動造粒法は比較的多量に粉末を得ることができるが、焼結に適したミクロンサイズ以下の微粒子を得ることは難しい。また、壁面からの不純物の混入やバインダーの残留等の問題もあり、高純度のミクロンサイズの粉末を得るのには適さない。
【0006】
噴霧乾燥法は、一般に高温気流中にスラリー等の液状物を噴霧して高速で乾燥させて微粒子を得る方法である。多量の微粒子を製造することができるが、焼結に適したミクロンサイズ以下の微粒子を得ることが難しいことと、粒子が多孔質になりやすいこと、凝集が起こりやすいこと等の問題がある。
【0007】
火炎溶融法は、原料粉末を高温の火炎中に供給し、溶融した液滴を冷却して捕集して微粒子を得る方法であり、球状の微粒子を得るのには適しているといえる。しかしながら、高温の火炎を使用することから火炎温度が上がりすぎると溶融塊ができる、或いはバーナーの閉塞が起こるという問題があり、安定製造が難しい。さらに、壁面からの不純物の混入や低沸点組成物の揮発による組成ズレが起こることがあり、高純度の粉末を得る上で最適であるとはいえない。また、溶融火炎法はシリカ、アルミナ、ムライトのような酸化物セラミックスを得るためには好適であるが、非酸化物セラミックスを得るには適さないし、炭化ケイ素セラミックスのように明確な融点を示さない材料に適用することは難しい。
【0008】
従って、本発明は、第1の側面において、半導体封止材用のフィラー、或いは機械部品や電子部品製造のための焼結用原料等に有用な、高純度で単分散の球状炭化ケイ素質微粒子とその製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
また、Si、M、C及びOを主成分とする非晶質の炭化ケイ素質セラミックス(Mはホウ素、ハフニウム、モリブデン、ニオブ、タンタル、チタン、バナジウム、タングステン、ジルコニウム、クロム、鉄、イリジウム、オスミウム、プラチナ、レニウム、ロジウム、ルテニウムから選択される少なくとも一種の金属元素)は、1000℃以上の高温での耐環境性、耐熱性、耐摩耗性に優れ、且つ高剛性、高熱伝導、低熱膨張、低比重と優れた特性をもつ材料である。
【0010】
Si、M、C及びOを主成分とする非晶質の炭化ケイ素質セラミックスと同等の高温特性を示す材料として、炭素とケイ素を主成分とする結晶質の炭化ケイ素セラミックスがある。結晶質炭化ケイ素セラミックスは、焼結助剤を用いた常圧焼結法、雰囲気加圧焼結法、ホットプレス法(HP法)、熱間等方プレス法(HIP法)、化学気相蒸着法(CVD法)、反応焼結法等で製造される。炭化ケイ素は共有結合性の安定した結晶で、上記のように高温での耐熱性に優れている半面、焼結温度が高いことが欠点である。例えば、炭化ホウ素化合物BC系助剤の常圧焼結では2000〜2200℃が必要であり、HP法やHIP法によっても2000℃以上となる。一方、CVD法は低温で炭化ケイ素セラミックスを製造することができるが、薄膜形状に限られることが欠点である。反応焼結法はケイ素と炭素を反応させながら緻密化させる方法で焼結温度は約1500℃と比較的低温であるが、どうしても焼結体内部に未反応の遊離ケイ素が残ってしまうため、機械的強度や耐熱性に劣ってしまう。
【0011】
上述のように炭化ケイ素セラミックスは高温構造材料として優れた特性を有する反面、焼結温度が高いことで特別な焼結設備が必要となり、それが原因でコスト高となり、その適用範囲が限られているのが現状である。炭化ケイ素の高温特性を保持したまま焼結温度を下げることができれば、製造コストを下げることができ、適用範囲を大幅に広げることができる。
【0012】
これに対し、Si、M、C及びOを主成分とする非晶質の炭化ケイ素質セラミックスは、室温からそれ自身の分解温度に至るまでの範囲での耐環境性、耐熱性、耐酸化性は結晶質の炭化ケイ素セラミックスと同等である。さらに、非晶質の炭化ケイ素質セラミックスを得るための焼結温度は、結晶質の炭化ケイ素セラミックスの焼結温度よりも大幅に低くすることが可能である。
【0013】
Si、M、C及びOを主成分とする非晶質の炭化ケイ素質セラミックスは、非晶質の炭化ケイ素質微粒子を原料粉末として、それを成形し、結晶化温度以下の温度で加熱焼結することで得られる。原料粉末である非晶質の炭化ケイ素質微粒子を得る方法としては、トリメチルシランの気相熱分解等の気相反応法が挙げられる。しかしながら、気相反応法の微粒子は粒子径が小さく比較的粒子径分布も小さいのであるが嵩密度が低く、十分に成形体の相対密度を上げることが難しい。このような成形体を焼結しても、焼結時に割れや反りが起こりやすく、良質の焼結体を得ることが困難である。高品質の炭化珪素質セラミックス焼結体を得るためには、十分に粒子径が小さく且つ分散性、充填性、流動性に優れた非晶質の炭化珪素質微粒子が不可欠である。
【0014】
本発明の第2の側面は、結晶質の炭化ケイ素よりも低温で焼結可能であり、且つ高温での優れた耐環境性、耐熱性、耐酸化性を有する高温構造材料或いは高温耐熱フィルター等として有用なSi、M、C及びOを主成分とする非晶質の炭化ケイ素質セラミックスとその製造方法を提供することを目的とする。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記課題を解決するために下記を提供する。
〔1〕平均粒径が50〜100,000nmの範囲で、且つ真球度が0.9〜1.0の範囲にあることを特徴とする球状炭化ケイ素質微粒子。
【0016】
〔2〕粒子径変動係数(CV値)が20%以下であることを特徴とする上記〔1〕に記載の球状炭化ケイ素質微粒子。
【0017】
〔3〕平均粒径が50〜2,000nmの範囲であることを特徴とする上記〔2〕記載の球状炭化ケイ素質微粒子。
【0018】
〔4〕(a)主として一般式
【0019】
【化1】

【0020】
(但し、式中のRは水素原子、低級アルキル基又はフェニル基を示す。)
で表される主鎖骨格を有する数平均分子量が200〜10,000のポリカルボシラン、又は前記ポリカルボシランを有機金属化合物で修飾した構造を有する変性ポリカルボシランからなる有機ケイ素前駆体高分子を提供する工程と、
(b)前記有機ケイ素前駆体高分子を貧溶媒と混合し加熱することで溶解させた後、該溶液を冷却することで前駆体高分子を析出させ、析出物を濾別することで球状前駆体高分子の微粒子を得る工程と、
(c)前記球状前駆体高分子微粒子を、酸素を含む雰囲気中で予備加熱を行い、不融化処理を行う工程と、
(d)前記不融化処理した球状前駆体高分子微粒子を真空中或いは不活性ガス雰囲気中で焼成する工程を有することを特徴とする球状炭化ケイ素質微粒子の製造方法。
【0021】
〔5〕(a)主として一般式
【0022】
【化2】

【0023】
(但し、式中のRは水素原子、低級アルキル基又はフェニル基を示す。)
で表される主鎖骨格を有する数平均分子量が200〜10,000のポリカルボシラン、又は前記ポリカルボシランを有機金属化合物で修飾した構造を有する変性ポリカルボシランからなる有機ケイ素前駆体高分子を提供する工程と、
(b)前記有機ケイ素前駆体高分子を良溶媒に溶解させた溶液と、前記有機ケイ素前駆体高分子の貧溶媒とを混合することで前駆体高分子を析出させ、析出物を濾別することで球状前駆体高分子の微粒子を得る工程と、
(c)前記球状前駆体高分子微粒子を、酸素を含む雰囲気中で予備加熱を行い、不融化処理を行う工程と、
(d)前記不融化処理した球状前駆体高分子微粒子を真空中或いは不活性ガス雰囲気中で焼成する工程を有することを特徴とする球状炭化ケイ素質微粒子の製造方法。
【0024】
〔6〕前記変性ポリカルボシランがポリメタロカルボシランである上記〔4〕又は〔5〕に記載の球状炭化ケイ素質微粒子の製造方法。
【0025】
〔7〕上記〔3〕記載の球状炭化ケイ素質微粒子を原料として、不活性ガス雰囲気下1400〜1600℃で加熱焼結することを特徴とする非晶質炭化ケイ素質セラミックス焼結体の製造方法。
【0026】
〔8〕上記〔7〕記載の方法で得られ、相対密度が98%以上であることを特徴とする非晶質炭化ケイ素質セラミックス焼結体。
【0027】
〔9〕上記〔7〕記載の方法で得られ、平均気孔径が50〜500nmの範囲であり、且つ気孔率が30〜60%を有することを特徴とする炭化珪素質セラミックス多孔体。
【0028】
〔10〕原料球状炭化ケイ素質微粒子が実質的にSi、M、C及びOからなる非晶質の球形炭化ケイ素質微粒子(Mはホウ素、ハフニウム、モリブデン、ニオブ、タンタル、チタン、バナジウム、タングステン、ジルコニウム、クロム、鉄、イリジウム、オスミウム、プラチナ、レニウム、ロジウム、ルテニウムから選択される少なくとも一種の金属元素)であり、炭化ケイ素質セラミックス焼結体がSi、M、C及びOを主成分とする非晶質の炭化ケイ素質セラミックス焼結体である上記〔8〕又は〔9〕に記載の非晶質炭化ケイ素質セラミックス焼結体。
【発明の効果】
【0029】
本発明の第1の側面によれば、半導体封止材用のフィラー、或いは機械部品や電子部品製造のための焼結用原料等に有用な、高純度で単分散の球状炭化ケイ素質微粒子を大量に製造することができる。
【0030】
また、本発明の第2の側面によれば、平均粒径が50〜2,000nmの範囲で、且つ真球度が0.9〜1.0の範囲にあり、粒子径変動係数(CV値)が20%以下であることを特徴とする分散性、充填性、流動性の高い非晶質の球状炭化ケイ素質微粒子を原料粉末にすることにより、十分に成形体密度を上げることができ、結晶質炭化ケイ素よりも低い焼結温度で高温特性に優れたSi、M、C及びOを主成分とする非晶質の炭化ケイ素質セラミックスを得ることができる。また、結晶質炭化ケイ素よりも低温で焼結可能であり、耐環境性、耐熱性、耐酸化性に優れ、高温構造材料或いは高温耐熱フィルター等として有用な非晶質の炭化ケイ素質セラミックスを低コストで得ることができ、さらに、その適用範囲を大幅に広げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
(炭化ケイ素質微粒子とその製造方法)
本発明の第1の側面で製造される炭化ケイ素質微粒子は、SiC、SiCxy、SiMxyz(Mは金属元素)等であるが、ケイ素と炭素を含むものであれば、これらに限定されるものではない。
【0032】
(a)主として一般式
【0033】
【化3】

【0034】
(但し、式中のRは好ましくは水素原子、低級アルキル基又はフェニル基を示す。)
で表される主鎖骨格を有する数平均分子量が200〜10,000のポリカルボシラン、又は前記ポリカルボシランを有機金属化合物で修飾した構造を有する変性ポリカルボシランからなる有機ケイ素前駆体高分子を提供する工程。
(b)前駆体高分子を貧溶媒と混合し加熱することで溶解させた後、この溶液を冷却することで前駆体高分子を析出させ、析出物を濾別することで球状前駆体高分子の微粒子を得る工程。
(c)球状前駆体高分子微粒子を、酸素を含む雰囲気中で予備加熱を行い、不融化処理を行う工程。
(d)球状前駆体高分子の微粒子を真空中或いは不活性ガス雰囲気中で焼成する工程。
【0035】
本発明の炭化ケイ素質微粒子は、あるいは、下記の工程から製造される。
(a)主として一般式
【0036】
【化4】

【0037】
(但し、式中のRは水素原子、低級アルキル基又はフェニル基を示す。)
で表される主鎖骨格を有する数平均分子量が200〜10,000のポリカルボシラン、又は前記ポリカルボシランを有機金属化合物で修飾した構造を有する変性ポリカルボシランからなる有機ケイ素前駆体高分子を提供する工程と、
(b)前記有機ケイ素前駆体高分子を良溶媒に溶解させた溶液と、前記有機ケイ素前駆体高分子の貧溶媒とを混合することで前駆体高分子を析出させ、析出物を濾別することで球状前駆体高分子の微粒子を得る工程と、
(c)前記球状前駆体高分子微粒子を、酸素を含む雰囲気中で予備加熱を行い、不融化処理を行う工程と、
(d)前記不融化処理した球状前駆体高分子微粒子を真空中或いは不活性ガス雰囲気中で焼成する工程とを有することを特徴とする球状炭化ケイ素質微粒子の製造方法。
【0038】
以下に、さらに詳しく説明する。
【0039】
微粒子製造第1工程(a)は最終製品である球状炭化ケイ素質微粒子の前駆体となる高分子を製造する工程である。
【0040】
目的とする球状微粒子がSiCxy(式中、xは1以上の数、yは0以上2未満の数)の場合、主として一般式
【0041】
【化5】

【0042】
(但し、式中のRは好ましくは水素原子、低級アルキル基又はフェニル基を示す。)
で表される主鎖骨格を有する数平均分子量が200〜10,000のポリカルボシランを前駆体高分子として用いることができる。低級アルキル基の炭素原子数は1〜4が好ましい。数平均分子量は1000〜5000が好ましい。
【0043】
目的とする球状微粒子がSiMxyz(Mはホウ素、ハフニウム、モリブデン、ニオブ、タンタル、チタン、バナジウム、タングステン、ジルコニウム、クロム、鉄、イリジウム、オスミウム、プラチナ、レニウム、ロジウム、ルテニウムから選択される少なくとも一種の金属元素であり、xは0より大きく1未満の数、yは1以上の数、zは0以上2未満の数)なる組成の場合、前記ポリカルボシランの有機金属化合物で修飾した構造を有する変性ポリカルボシランを前駆体高分子に採用することができる。
【0044】
ポリカルボシランを修飾する有機金属化合物としては、特に限定されないが、例えば、特公昭61−49335号公報に開示してある手法によるポリメタロカルボシランを前駆体高分子に採用することができる。この手法で得られるポリメタロカルボシランは、上記一般式で表されるポリカルボシランと、チタンアルコキシドまたはジルコニウムアルコキシドとを不活性雰囲気下に加熱反応させて、ポリカルボシランのケイ素原子の少なくとも一部を上記アルコキシドのチタンまたはジルコニウムと酸素原子を介して結合させることにより生成される、数平均分子量が1,000〜50,000のポリチタノカルボシラン或いはポリジルコノカルボシランである。
【0045】
チタンアルコキシドTi(OR)4またはジルコニウムアルコキシドZr(OR)3の有機基Rは第3工程で分解除去されるものであれば特に限定されないが、それぞれ独立に水素原子、アルキル基(炭素数1〜20、より好ましくは1〜4であるが、少なくとも1つのRは水素原子ではない。)が好ましい。生成するポリチタノカルボシラン或いはポリジルコノカルボシランは、上記一般式のポリカルボシランのSi原子にチタンアルコキシドまたはジルコニウムアルコキシドの酸素原子を介してチタンあるいはジルコニウム原子が結合した構造を有する。このSi原子に酸素原子を介して結合したチタンあるいはジルコニウム原子の残りの結合手はアルコキシド基のままであるか、一部又は全部が再び酸素原子を介して他のSi原子に結合してポリカルボシランの架橋構造を形成することができる。ポリカルボシランとチタンアルコキシドまたはジルコニウムアルコキシドの間の上記反応は公知であり、特開昭56−74126号公報に記載されている。また、特開昭56−74126号公報では金属アルコキシドとしてチタンおよびジルコニニウムのアルコキシドだけを記載しているが他の金属(例えばホウ素、ハフニウム、モリブデン、ニオブ、タンタル、チタン、バナジウム、タングステン、ジルコニウム、クロム、鉄、イリジウム、オスミウム、プラチナ、レニウム、ロジウム、ルテニウムから選択される少なくとも一種の金属元素)のアルコキシドでも同様に用いることができることは明らかである。
【0046】
ポリカルボシランを修飾するその他の有機金属化合物としては、一般式MRx(Mはホウ素、ハフニウム、モリブデン、ニオブ、タンタル、チタン、バナジウム、タングステン、ジルコニウム、クロム、鉄、イリジウム、オスミウム、プラチナ、レニウム、ロジウム、ルテニウムから選択される少なくとも一種の金属元素、Rはアセチルアセトナート基、xは1より大きい整数)を基本構造とする金属アセチルアセトナートを用いることもできる。この場合も、特公昭61−49335号公報に開示してある手法と同様に、上記一般式で表されるポリカルボシランと金属アセチルアセトナートを不活性雰囲気下で加熱反応させることにより、ポリカルボシランのケイ素原子の少なくとも一部を上記金属アセチルアセトナートの金属原子と酸素を介して結合した数平均分子量1,000〜50,000のポリメタロカルボシランを製造することができる。
【0047】
微粒子製造の第2工程(b)は、前駆体高分子を貧溶媒と混合し加熱することで溶解させた後、この溶液を冷却することで前駆体高分子を析出させ、析出物を濾別することで球状前駆体高分子の微粒子を得る工程であり、いわゆる冷却晶析による微粒子析出現象を利用する。
【0048】
本発明で使用できる貧溶媒は、室温付近では前駆体高分子を溶解できないが、貧溶媒の沸点付近に加熱することによって溶解することができるという特性をもつ溶媒である。つまり、加熱−冷却を繰り返すことにより、前駆体高分子を溶解−析出できる溶媒であれば良い。使用可能な溶媒としては、n−ブタノール、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、酢酸エチル、メチルエチルケトン、炭酸ジエチル、メタノール、n−プロパノール、イソプロピルアルコール、メタノール、N,N−ジメチルホルムアミド、酢酸ブチル、アセトン、イソプロピルエーテル、アセトニトリル、炭酸ジメチル等がある。または、これらの2種以上を組み合わせたものも使用できる。しかし、本発明で使用される溶媒は、ここの列挙した溶媒に限定されるものではない。
【0049】
本発明で使用する晶析装置は特に限定されるものではないが、効率的に微粒子を形成し濾過操作で効率的に微粒子を回収することが可能な攪拌型の晶析装置が好ましい。本発明では冷却操作により前駆体高分子微粒子を析出させるのであるが、冷却方法は自己蒸発、外部循環冷却、ジャケット冷却を採用することができるが、攪拌条件や微粒子の付着などを考慮するとジャケット冷却が好ましい。
【0050】
晶析槽の攪拌翼はパドル翼、プロペラ翼、タービン翼、マックスブレンド翼、フルゾーン翼、カネカ翼、H翼、アンカー翼などを使用することができる。晶析で得られる前駆体高分子の粒度分布は前駆体高分子溶液の温度や濃度の均質性に依存する。また、晶析した前駆体高分子微粒子の形状は界面張力により球形になる。粒径分布を小さくするためには強く攪拌した方が良いが、攪拌のせん断応力が大きくなりすぎると析出した前駆体高分子の合体や破壊が起こり、真球度が低下してしまう。高い真球度を保ちつつ効率よく溶液を攪拌するためには、マックスブレンド翼やフルゾーン翼で攪拌することが好ましい。
【0051】
冷却晶析により得られる前駆体高分子微粒子の粒径は、前駆体高分子溶液の冷却速度により制御することができる。晶析現象は極簡単に言えば、過飽和溶液中での核発生現象と核成長現象の組合せである。小さな微粒子を得る場合には、冷却速度を速くすると過飽和度が大きくなり核発生数が大きくなって粒子の成長が抑制されることで小粒子が得られる。一方、大粒径の微粒子を得る場合には、冷却速度を小さくすることで過飽和度が小さくなり核発生数が小さくなって粒子の成長が促進されることで大粒子が得られる。また、核が発生する時点において溶液の温度を一定に保つ操作を加えることにより、過飽和度を小さくする方法も有効である。温度を一定にする保持する時間は通常1〜100分間である。保持時間は1分程度でも効果があるが、より効果的に粒子径を大きくするためには保持時間を30分以上にすることが好ましい。冷却晶析法では50〜10,000nmの前駆体高分子微粒子を得ることができる。
【0052】
また、本発明で使用できるもうひとつの晶析装置の例として、マイクロリアクタ法も採用することができる。マイクロリアクタにも種々のタイプがあるが、ここでは一例として二重管マイクロリアクタ法について説明する。
【0053】
二重管マイクロリアクタとは内径2mm程度の外管の内部に内径0.5mm程度の内管を挿入したもので、内管から前駆体高分子の良溶媒溶液を外管から貧溶媒を流すことにより、両液の混合部分で前駆体高分子の微粒子を析出させるものである。両液の混合部分を層流混合状態に保つことにより、単分散で真球状の微粒子を得ることができる。前駆体溶液と貧溶媒の比で制御することにより、50〜100,000nmの前駆体高分子微粒子を得ることができる。
【0054】
前駆体高分子微粒子の濾過は、公知の手法を採用することができる。例えば、濾過膜を使用する方法では濾過膜の公称孔径は0.1〜1μm、好ましくは0.2〜0.5μmであり、濾過膜の材質は、特に制限されるものではないが、例えばコロジオン、セロファン、アセチルセルロース、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリイミド、ポリビニリデンフロライド等の有機系の膜、あるいは黒鉛、セラミックス、多孔質ガラス等の無機系の膜が挙げられる。また、実験室規模であればPTFEメンブランフィルター等の濾過材が使用できる。この濾過操作は、減圧または加圧下でおこなうこともできるが、特に制限されるものではない。
【0055】
濾過操作で回収された前駆体高分子微粒子は乾燥することで残留溶媒を除去するが、乾燥方法は特に限定されるものではない。例えば、自然乾燥、熱風乾燥、減圧乾燥、凍結乾燥、超臨界乾燥等を採用することができる。
【0056】
微粒子製造第3工程(c)は、球状前駆体高分子微粒子を、酸素を含む雰囲気中で予備加熱を行い、不融化処理を行う。この工程は、後工程の焼成の際に微粒子が溶融せず、且つ隣接の微粒子と接着しないこと目的として行うものである。処理温度並びに処理時間は組成により異なり、特に規定しないが、一般に50〜400℃の範囲で数時間〜30時間の処理条件が選択される。また、上記酸化雰囲気中には、水分、窒素酸化物、オゾン等微粒子の酸化力を高めるものが含まれていてもよく、酸素分圧を意図的に変えても良い。
【0057】
微粒子製造の第4工程(d)は、球状前駆体高分子微粒子を真空或いは不活性ガス中で焼成する工程である。
【0058】
球状炭化ケイ素質微粒子は、500〜2000℃の範囲で不活性ガス中或いは酸素を含む雰囲気中で焼成することにより得ることができ、球状炭化ケイ素質微粒子の組成は焼成温度と焼成雰囲気により制御することができる。
【0059】
原料前駆体高分子がポリカルボシランの場合、真空或いは不活性ガス中で500〜1600℃の範囲で焼成すると、SiCxy微粒子(式中、xは1以上の数、yは0より大きく2以下の数)が得られる。一方、1600℃以上で焼成するとSiOガスとCOガスの分解脱離で酸素が脱離することによりSiC微粒子が得られる。
【0060】
原料前駆体高分子がポリメタロカルボシランの場合、真空或いは不活性ガス中で500〜1600℃の範囲で焼成するとSiMxyz微粒子(式中、Mはホウ素、ハフニウム、モリブデン、ニオブ、タンタル、チタン、バナジウム、タングステン、ジルコニウム、クロム、鉄、イリジウム、オスミウム、プラチナ、レニウム、ロジウム、ルテニウムから選択される少なくとも一種の金属元素、xは0より大きく1未満の数、yは1以上の数、zは0より大きく2以下の数)が得られる。一方、1600℃以上で焼成するとSiOガスとCOガスの分解脱離で酸素が脱離することによりSixyC微粒子(式中、Mはホウ素、ハフニウム、モリブデン、ニオブ、タンタル、チタン、バナジウム、タングステン、ジルコニウム、クロム、鉄、イリジウム、オスミウム、プラチナ、レニウム、ロジウム、ルテニウムから選択される少なくとも一種の金属元素、x、yはx+y=1を満たす正の数)が得られる。焼成装置は特に限定されるものではなく、焼成雰囲気を制御できるものであれば良い。
【0061】
本発明では、炭化ケイ素質微粒子の真球度を、粒子の最大径(DL)と、これと直交する短径(DS)との比(DS/DL)とした。このような真球度は、まず微粒子の電界放射型走査電子顕微鏡(日立製作所(株)製:S−4200)写真を撮影し、非球状の微粒子が存在しないことを確認した後、任意の微粒子10個についてそれぞれ短径(DS)と最大径(DL)を求め、その比(DS/DL)の平均値を真球度とした。
【0062】
炭化ケイ素質微粒子の平均粒径と粒径変動は以下のようにして求めた。まず、微粒子の電界放射型走査電子顕微鏡写真(日立製作所(株)製:S−4200)写真を撮影し、この画像の200個についてフェレー径を測定し、この値から平均粒径を求めた。粒径の変動係数(CV値)は、200個の粒子の粒径を用いて次式により求めた。
【0063】
CV値(%)=(粒径標準偏差(σ)/平均粒径(Dn))×100
【0064】
【数1】

【0065】
本発明に係る球状炭化ケイ素質微粒子では、平均粒径が50〜100,000nmの範囲で、且つ真球度が0.9〜1.0の範囲にあることが好ましい。また、粒子径変動係数(CV値)が20%以下であることが好ましい。平均粒径は50〜5,000nm、さらに好ましくは50〜2,000nmの範囲がより好ましい。真球度は0.95〜1.0の範囲にあることがより好ましい。粒子径変動係数(CV値)は18%以下であることがより好ましい。
【0066】
本発明の球状炭化ケイ素質微粒子の平均粒径は、微粒子製造第2工程(b)の条件により制御されるが、球状炭化ケイ素質微粒子の平均粒径が50〜50,000nmの範囲であると真球度が高く単分散で凝集のない微粒子を得ることができる。一方、平均粒径が50nm未満の場合は粒径が小さすぎて凝集が起こり、単分散の球状微粒子としての特徴を活かすことができなくなる。また、濾過膜の目詰まりなどから濾過が難しくなる。
【0067】
本発明の球状セラミックス微粒子の真球度が0.9より小さい場合、あるいは粒子径変動係数(CV値)が20%を超える場合、小型、薄膜の電子部品等に用いる半導体封止材として使用するときにおける高充填性、流動性や成形性に劣る。また、セラミックス焼結体の原料として使用するときには、成形体の相対密度の低下や密度の不均質が起こり良質の焼結体を得ることができなくなる。
【0068】
(非晶質炭化ケイ素質セラミックス及びその製造方法)
本発明の第2の側面で製造するSi、M、C及びOを主成分とする非晶質の炭化ケイ素質セラミックスを構成する各元素の割合は、通常、Si:30〜60重量%、M:0.5〜35重量%、好ましくは1〜10重量%、C:25〜40重量%、O:0.01〜30重量%である。
【0069】
本発明のSi、M、C及びOを主成分とする非晶質の炭化ケイ素質セラミックスは、平均粒径が50〜2,000nmの範囲で、且つ真球度が0.9〜1.0の範囲にあり、粒子径変動係数(CV値)が20%以下である非晶質の球状炭化ケイ素質微粒子を1400〜1600℃の範囲で焼結させることで得られる。
【0070】
とりわけ、この原料である非晶質の球状炭化ケイ素質微粒子は、実質的にSi、M、C及びOからなる非晶質の球形炭化ケイ素質微粒子(Mはホウ素、ハフニウム、モリブデン、ニオブ、タンタル、チタン、バナジウム、タングステン、ジルコニウム、クロム、鉄、イリジウム、オスミウム、プラチナ、レニウム、ロジウム、ルテニウムから選択される少なくとも一種の金属元素)であることが好ましい。この原料を用いることで、Si、M、C及びOを主成分とする非晶質の炭化ケイ素質セラミックス焼結体を得ることができる。
【0071】
本発明の原料粉末として好適な非晶質の炭化ケイ素質微粒子は、上記の本発明の第1の側面で記載した炭化ケイ素質微粒子の製造方法により得ることができるが、特に下記の如くすることで好適に得ることができる。
【0072】
本発明の第1の側面で記載した炭化ケイ素質微粒子の製造方法において、微粒子製造の第4工程(d)は、球状前駆体高分子微粒子を真空或いは不活性ガス中で焼成する工程であるが、非晶質の球状炭化ケイ素質微粒子は、第4工程(d)において、500〜1600℃の範囲で不活性ガス中或いは酸素を含む雰囲気中で焼成することにより好ましく得ることができ、球状炭化ケイ素質微粒子の組成は焼成温度と焼成雰囲気により制御することができる。
【0073】
原料前駆体高分子がポリカルボシランの場合、真空或いは不活性ガス中で500〜1600℃の範囲で焼成すると、SiCxOy微粒子(式中、xは1以上の数、yは0より大きく2以下の数)が得られる。一方、1600℃以上で焼成するとSiOガスとCOガスの分解脱離で酸素が脱離することにより結晶質のSiC微粒子となり、本発明の原料粉末として好適ではなくなる。
【0074】
原料前駆体高分子がポリメタロカルボシランの場合、真空或いは不活性ガス中で500〜1600℃の範囲で焼成するとSiMxCyOz微粒子(式中、Mはホウ素、ハフニウム、モリブデン、ニオブ、タンタル、チタン、バナジウム、タングステン、ジルコニウム、クロム、鉄、イリジウム、オスミウム、プラチナ、レニウム、ロジウム、ルテニウムから選択される少なくとも一種の金属元素、xは0より大きく1未満の数、yは1以上の数、zは0より大きく2以下の数)が得られる。一方、1600℃以上で焼成するとSiOガスとCOガスの分解脱離で酸素が脱離することにより結晶質のSixMyC微粒子(式中、Mはホウ素、ハフニウム、モリブデン、ニオブ、タンタル、チタン、バナジウム、タングステン、ジルコニウム、クロム、鉄、イリジウム、オスミウム、プラチナ、レニウム、ロジウム、ルテニウムから選択される少なくとも一種の金属元素、x、yはx+y=1を満たす正の数)となり、本発明の原料粉末として好適でなくなる。焼成装置は特に限定されるものではなく、焼成雰囲気を制御できるものであれば良い。
【0075】
本発明の第2の側面においては、原料粉末である上述の非晶質球状炭化ケイ素質微粒子をプレス成形法等の公知の成形法によって所要の形状に成形する。
【0076】
本発明に好適な原料粉末である非晶質球状炭化ケイ素質微粒子は、平均粒径が50〜2,000nmの範囲で、且つ真球度が0.9〜1.0の範囲にあることが好ましい。平均粒径は50〜1,000nm、さらに好ましくは50〜500nmの範囲がより好ましい。真球度は0.95〜1.0の範囲にあることがより好ましい。また、粒子径変動係数(CV値)が20%以下であることが好ましい。粒子径変動係数(CV値)は18%以下であることがより好ましい。
【0077】
本発明の原料粉末となる非晶質の球状炭化ケイ素質微粒子の平均粒径は、微粒子製造第2工程(b)の条件により制御されるが、球状炭化ケイ素質微粒子の平均粒径が50〜2,000nmの範囲であると真球度が高く単分散で凝集のない微粒子を得ることができる。一方、平均粒径が50nm未満の場合は粒径が小さすぎて粒子の凝集が起こり、成形体の相対密度が十分に上げることができなくなり、良質の焼結体を得ることができない。また、平均粒径が2,000nmを超える場合は、粒子が大きすぎて焼結が進行しなくなり、十分な強度を持った焼結体を得ることができない。
【0078】
本発明の球状セラミックス微粒子の真球度が0.9より小さい場合、あるいは粒子径変動係数(CV値)が20%を超える場合も、成形時における充填性、流動性に劣り、成形体の相対密度を十分に上げることができなくなり、良質の焼結体を得ることができない。
【0079】
本発明においては、原料粉末である上述の非晶質球状炭化ケイ素質微粒子をプレス成形法等の公知の成形法によって所要の形状に成形する。
【0080】
その後、上記成形体を不活性ガスの非加圧雰囲気中にて、1400℃〜1600℃の温度で焼結させることにより、目的とする炭化ケイ素質セラミックスが得られる。
【0081】
焼結温度が1400℃付近の場合には、原料粉末がネッキングした多孔質の炭化ケイ素質焼結体が得られるが、これは耐熱フィルターや環境触媒などの用途に適用することができる。多孔質の炭化ケイ素質焼結体の平均気孔径は50〜500nm、気孔率は30〜60%が好ましい。多孔質炭化ケイ素質焼結体の平均気孔径が50nmより小さいと、連通気孔の割合が小さくなり、セラミックス多孔体中における流体透過特性等が低下し、多孔体としての機能を果たすことができなくなる。一方、平均気孔径が0.5μmより大きいと、使用上求められる十分な強度を得ることができない。同様に、気孔率が30%より小さいと、連通気孔の割合が小さくなり、セラミックス多孔体中における流体透過特性等が低下し、多孔体としての機能を果たすことができなくなる。一方、気孔率が60%より大きいと、使用上求められる十分な機械的強度を得ることができない。
多孔質の炭化ケイ素質焼結体は高温でも使用できるガスフィルタ、気体の分離膜、バクテリアなどの微粒子を除去する液体のフィルタなどに有用である。
【0082】
焼結温度を1600℃付近まで上げると緻密な焼結体が得られる。より緻密な焼結体を得るために、その他の焼成法、例えば雰囲気加圧焼結法、ホットプレス法、熱間静水圧焼結法(HIP)等の適用をすることもできる。
緻密な炭化ケイ素質焼結体は、高温で使用する構造材料、耐腐食材料、摺動材料など、例えば、半導体製造装置用部材、真空装置部材、発熱体などに有用である。
【0083】
以下に、本発明の実施例を示す。
【実施例】
【0084】
参考例1
数平均分子量1200のポリカルボシラン16gにトルエン100gとテトラブトキシジルコニウム64gを加え、100℃で1時間予備加熱させた後、150℃までゆっくり昇温してトルエンを留去させてそのまま5時間反応させ、さらに340℃まで昇温して5時間反応して変性ポリカルボシランを合成した。この変性ポリカルボシランをキシレンに溶解させ固形分濃度50重量%のキシレン溶液を調製した。
【0085】
実施例1
参考例1の変性ポリカルボシランのキシレン溶液60gを125℃に加熱した400gの1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンに滴下し、静置した状態にて0.5時間で25℃まで冷却し、さらに攪拌しながら0.5時間で5℃まで冷却した。生成した懸濁液を濾過し、約30gの変性ポリカルボシラン微粒子を得た。変性ポリカルボシラン微粒子を空気中で段階的に150℃まで加熱し不融化させた後、1300℃のアルゴンガス中で1時間焼成し、原料粉末である平均粒径50nmの炭化ケイ素質微粒子を得た。この微粒子の真球度は0.97で、CV値は16%であった。
【0086】
実施例2
参考例1の変性ポリカルボシランのキシレン溶液60gを125℃に加熱した300gの1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンに滴下し、静置した状態にて24時間で5℃まで冷却した。生成した懸濁液を濾過し、約30gの変性ポリカルボシラン微粒子を得た。変性ポリカルボシラン微粒子を空気中で段階的に150℃まで加熱し不融化させた後、1300℃のアルゴンガス中で1時間焼成し、原料粉末である平均粒径4,500nmの炭化ケイ素質微粒子を得た。この微粒子の真球度は0.96で、CV値は19%であった。
【0087】
実施例3
実施例1で得られた炭化ケイ素質微粒子100重量部にバインダー約5重量部を添加して造粒した後、 1ton/cmの成形圧で成形体を作製した。この後、上記成形体に対してアルゴンガス雰囲気中で脱脂を施した後、1600℃×3時間の条件で焼結を行い、緻密質の炭化ケイ素質焼結体を得た。この炭化ケイ素質セラミックスの相対密度は98.8%であった。また、この炭化ケイ素質セラミックスのX線回折測定を行ったが、β−SiC、或いはZrCに相当する明確な回折ピークは観察されず、実質的に非晶質であることが確認された。
【0088】
実施例4
実施例1で得られた炭化ケイ素質微粒子100重量部にバインダー約5重量部を添加して造粒した後、 1ton/cmの成形圧で成形体を作製した。この後、上記成形体に対してアルゴンガス雰囲気中で脱脂を施した後、1400℃×3時間の条件で焼結を行い、多孔質の炭化ケイ素質焼結体を得た。この多孔質の炭化ケイ素質セラミックスは平均気孔径が50nmで、気孔率が34%を有するものであった。また、この炭化ケイ素質セラミックスのX線回折測定を行ったが、β−SiC、或いはZrCに相当する明確な回折ピークは観察されず、実質的に非晶質であることが確認された。
【0089】
参考例1
実施例2で得られた炭化ケイ素質微粒子100重量部にバインダー約5重量部を添加して造粒した後、 1ton/cmの成形圧で成形体を作製した。この後、上記成形体に対してアルゴンガス雰囲気中で脱脂を施した後、1600℃×3時間の条件で焼結をおこなったが、緻密化が進行せず形状を保持する焼結体は得られなかった。
【0090】
比較例1
トリメチルシランを気相熱分解させた気相反応法の炭化珪素質微粒子(平均粒径0.03μm)100重量部にバインダー約5重量部を添加して造粒した後、 1ton/cmの成形圧で成形体を作製した。この後、上記成形体に対してアルゴンガス雰囲気中で脱脂を施した後、1600℃×3時間の条件で焼結を行ったが、形状を保持する焼結体は得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が50〜100,000nmの範囲で、且つ真球度が0.9〜1.0の範囲にあることを特徴とする球状炭化ケイ素質微粒子。
【請求項2】
粒子径変動係数(CV値)が20%以下であることを特徴とする請求項1の球状炭化ケイ素質微粒子。
【請求項3】
平均粒径が50〜2,000nmの範囲であることを特徴とする請求項2記載の球状炭化ケイ素質微粒子。
【請求項4】
(a)主として一般式
【化1】

(但し、式中のRは水素原子、低級アルキル基又はフェニル基を示す。)
で表される主鎖骨格を有する数平均分子量が200〜10,000のポリカルボシラン、又は前記ポリカルボシランを有機金属化合物で修飾した構造を有する変性ポリカルボシランからなる有機ケイ素前駆体高分子を提供する工程と、
(b)前記有機ケイ素前駆体高分子を貧溶媒と混合し加熱することで溶解させた後、該溶液を冷却することで前駆体高分子を析出させ、析出物を濾別することで球状前駆体高分子の微粒子を得る工程と、
(c)前記球状前駆体高分子微粒子を、酸素を含む雰囲気中で予備加熱を行い、不融化処理を行う工程と、
(d)前記不融化処理した球状前駆体高分子微粒子を真空中或いは不活性ガス雰囲気中で焼成する工程とを有することを特徴とする球状炭化ケイ素質微粒子の製造方法。
【請求項5】
(a)主として一般式
【化2】

(但し、式中のRは水素原子、低級アルキル基又はフェニル基を示す。)
で表される主鎖骨格を有する数平均分子量が200〜10,000のポリカルボシラン、又は前記ポリカルボシランを有機金属化合物で修飾した構造を有する変性ポリカルボシランからなる有機ケイ素前駆体高分子を提供する工程と、
(b)前記有機ケイ素前駆体高分子を良溶媒に溶解させた溶液と、前記有機ケイ素前駆体高分子の貧溶媒とを混合することで前駆体高分子を析出させ、析出物を濾別することで球状前駆体高分子の微粒子を得る工程と、
(c)前記球状前駆体高分子微粒子を、酸素を含む雰囲気中で予備加熱を行い、不融化処理を行う工程と、
(d)前記不融化処理した球状前駆体高分子微粒子を真空中或いは不活性ガス雰囲気中で焼成する工程を有することを特徴とする球状炭化ケイ素質微粒子の製造方法。
【請求項6】
前記変性ポリカルボシランがポリメタロカルボシランである請求項4又は5に記載の球状炭化ケイ素質微粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項3記載の球状炭化ケイ素質微粒子を原料として、不活性ガス雰囲気下1400〜1600℃で加熱焼結することを特徴とする非晶質炭化ケイ素質セラミックス焼結体の製造方法。
【請求項8】
請求項7記載の方法で得られ、相対密度が98%以上であることを特徴とする非晶質炭化ケイ素質セラミックス焼結体。
【請求項9】
請求項7記載の方法で得られ、平均気孔径が50〜500nmの範囲であり、且つ気孔率が30〜60%を有することを特徴とする非晶質炭化珪素質セラミックス多孔体。
【請求項10】
原料球状炭化ケイ素質微粒子が実質的にSi、M、C及びOからなる非晶質の球形炭化ケイ素質微粒子(Mはホウ素、ハフニウム、モリブデン、ニオブ、タンタル、チタン、バナジウム、タングステン、ジルコニウム、クロム、鉄、イリジウム、オスミウム、プラチナ、レニウム、ロジウム、ルテニウムから選択される少なくとも一種の金属元素)であり、炭化ケイ素質セラミックス焼結体がSi、M、C及びOを主成分とする非晶質の炭化ケイ素質セラミックス焼結体である請求項8又は9に記載の非晶質炭化ケイ素質セラミックス焼結体。

【公開番号】特開2007−112693(P2007−112693A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−42733(P2006−42733)
【出願日】平成18年2月20日(2006.2.20)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】