説明

移植機における施肥装置の取付構造

【課題】 機体メンテナンス性が高い移植機における施肥装置の取付構造を提供することを課題としている。
【解決手段】 走行機体1と、後方に連結された植付作業機9との間に、後方への回動時に、上昇状態の植付作業機9と走行機体1との間の空間に収納されるように、後方側に設けた回動支点27を中心に後方回動自在に施肥装置41を支持して取り付けた。また施肥装置41の肥料の繰出し部43への駆動力を出力する走行機体1側の出力軸56を施肥装置41の後方側に配置し、出力軸56から繰出し部43に駆動力を伝動する伝動軸59と出力軸56とを繋ぐジョイント61を繰出し部43と回動支点27との間の前後位置に配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗用田植機等の移植機における施肥装置の取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
走行機体の後方に植付作業機を昇降自在に連結し、走行機体と植付作業機との間に圃場内に肥料を施肥する施肥装置を設けた乗用田植機が公知となっている(例えば特許文献1参照)。該乗用田植機は、座席の周囲が機体フレーム側に取り付けられる機体カバーによって覆われている。機体カバーは座席の前方のフロアや、座席後方の泥よけ等を構成している。座席の後方の機体カバー上にはリヤステップが設けられている。そして機体カバーを前方に回動させて開き、機体カバー内の機構のメンテナンス等を行なうことが可能となっている。
【特許文献1】特開平10−108512号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記機体カバーを開く場合は、施肥装置が妨げとなる。このため上記乗用田植機は施肥装置を後方上方に向かってスライド移動させることができるように構成されている。機体カバーを開く際には、予め施肥装置をスライド移動させる。しかし施肥装置のスライド移動は容易ではない他、スライド移動のためのスペースが必要となるという欠点がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するための本発明の移植機における施肥装置の取付構造は、走行機体1の後方に植付作業機9を昇降自在に連結し、走行機体1と植付作業機9との間に圃場内に肥料を施肥する施肥装置41を設けた移植機において、施肥装置41を走行機体1側に、施肥装置41の後方側に設けた回動支点27を中心に後方回動自在に支持して取り付け、後方への回動時に、上昇状態の植付作業機9と走行機体1との間の空間に収納されるように設けたことを第1の特徴としている。
【0005】
第2に、施肥装置41における肥料の繰出し部43への駆動力を出力する出力軸56を走行機体1側に設け、出力軸56を施肥装置41の後方側に配置し、出力軸56から繰出し部43に駆動力を伝動する伝動軸59を設け、該伝動軸59を伸縮自在とし、上記出力軸56と伝動軸59とを繋ぐジョイント61を繰出し部43と回動支点27との間の前後位置に配置したことを第1の特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
以上のように構成される本発明の構造によると、上昇状態の植付作業機と走行機体との間の空間を施肥装置の収納に有効に利用することができる他、施肥装置を後方に回動させて収納することによって、走行機体の後方側に設けられたリヤステップ等の取り外しを容易に行うこともできるという効果がある。
【0007】
また施肥装置における肥料の繰出し部への駆動力を出力する出力軸を走行機体側に設け、出力軸を施肥装置の後方側に配置し、出力軸から繰出し部に駆動力を伝動する伝動軸を設け、該伝動軸を伸縮自在とし、上記出力軸と伝動軸とを繋ぐジョイントを繰出し部と回動支点との間の前後位置に配置することにより、ジョイントが回動支点に近接するため、施肥装置を回動させた場合の伝動軸の伸縮量を小さくすることができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1,図2は本発明の取付構造によって施肥装置を取り付けることができる乗用田植機の側面図及び平面図である。該乗用田植機は従来同様前後輪2,3を備えた走行機体1の前方側にボンネット4が設けられている。ボンネット4の後方には運転席6が設けられている。運転席6内には座席7が備えられている。
【0009】
走行機体1の後方には昇降リンク機構8を介して植付作業機9が支持されている。植付作業機9には植付け用の苗を載置する苗載せ台11が設けられている。苗載せ台11は上端が座席7側に向かうように傾斜している。そして左右方向に複数設けられたプランタケース12の左右両側方に回転駆動される植付部13が設けられている。
【0010】
上記構造により、作業者が座席7に座り、植付作業機9を圃場に接地させながら走行機体1を走行させ、植付作業機9を作動させることによって、植付部13が苗載せ台11から苗を掻き取り、圃場に苗を植え付けることができる。
【0011】
機体フレーム1aには機体カバー14が取り付けられている。機体カバー14は座席7の前方のフロア17や、座席7の後方側方の泥よけ等を構成している。座席7は座席フレーム16によってフロア17より上方位置に設けられている。座席7の後方の機体カバー上には、座席7の底面と概ね同じ高さ位置にリヤステップ18が設けられている。機体カバー14は前方に回動、又は取り外すことができる。機体カバー14を前方に回動、又は取り外すことによって開いて機体カバー14内の機構等のメンテナンスを行うことができる。
【0012】
図3,図4に示されるように、上記座席フレーム16は、施肥装置の装着フレーム21を着脱自在に取り付けることができるように構成されている。装着フレーム21は、座席フレーム14にボルト等によって着脱自在に固定される左右の取付ブラケット22と、各取付ブラケット22から左又は右に突出する左右の横フレーム23と、左右の取付ブラケット22を連結する連結パイプ24を備えている。
【0013】
装着フレーム21が座席フレーム16に取り付けられた状態では、上記横フレーム23は、機体カバー14より後方に位置し、走行機体1と植付作業機9との間に位置する。左右の横フレーム23の端部には前後方向の支持フレーム26が一体的に設けられている。図5に示されるように、上記支持フレーム26には後端に支点軸27が設けられ、該支点軸27に回動ブラケット28の後端側が回動自在に軸支されている。回動ブラケット28は支点軸27を中心に後方回動自在となっている。
【0014】
回動ブラケット28には前後方向の長孔29が設けられており、該長孔29にボルト31が設けられている。該ボルト31は支持フレーム26に形成された円弧状の長孔(ガイド孔)32に挿入され、締緩自在となっている。該ガイド孔32は上端が前方に向かって突出している。ボルト31を緩めることによって、回動ブラケット28を回動させることができる。ボルト31はガイド孔32内をスライドして回動ブラケット28の回動を案内する。
【0015】
回動ブラケット28を所定の角度回動させてボルト31を締めることによって回動ブラケット28が所定の揺動角度で位置決め固定される。揺動の上下限はガイド孔32の上下端によって規制される。ボルト31がガイド孔32の上端に位置するように回動ブラケット28を回動させるとボルト31をガイド孔32の前方への突出部33に移動させることができる。ボルト31をガイド孔32の前方への突出部33に移動させて締めることによって、位置ずれを防止して回動ブラケット28の位置を固定することができる。
【0016】
回動ブラケット28には、下方に向かって開口する凹部34が設けられている。該凹部34は横フレーム23に上方側から係合することができる。凹部34を横フレーム23に係合させると、上面が概ね水平となるように回動ブラケット28が位置決めされ、ボルト31がガイド孔32の下端部分に位置する。
【0017】
回動ブラケット28には縦枠板36が一体的に固定されている。左右の縦枠板36の上端にわたって角パイプ状の横メインフレーム37が設けられている。横メインフレーム37は縦枠板36に固定されている。上記両縦枠板36の間には、左右の取付ブラケット22より若干外側に位置して2つ縦枠板36が、上端部分で横メインフレーム37に固定されて設けられている。全ての縦枠板36下方は1本の横パイプ39によって連結されている。
【0018】
横メインフレーム37には、各植付部13に対応して施肥装置41が左右方向に複数取り付けられている。施肥装置41は、肥料を収容する肥料タンク42と、該肥料タンク42から肥料を繰り出す繰出し部43とが設けられている。繰出し部43の駆動によって肥料タンク42から肥料を繰出して施肥作業を行う構造となっている。
【0019】
上記構造により、図6に示されるように、施肥装置41が座席7の後方における、走行機体1と上昇状態の植付作業機9との間の苗載せ台11の前方のスペースS内に配置される。ただし施肥装置41はリヤステップ18の上方に、平面視で一部リヤステップ18と重複する。そして上記苗載せ台11の前方の従来空スペースである部分(スペースS)に省スペースで配置される施肥装置41によって各植付条毎に施肥を行なうことが可能となっている。
【0020】
上記4つの縦枠板36の側面には、補強板44が一体的に固定されている。上記中央寄りの2つの縦枠板36の下方間には、断面が略ゲート状をなす左右方向の下フレーム板46が、連結フレーム45を介して上記中央寄りの縦枠板36に固定されて設けられている。上記のように縦枠板36と横メインフレーム37と下フレーム板46とが一体となって施肥装置41の取付フレームを構成している。
【0021】
そして外側の縦枠板36が回動ブラケット28に一体的に固定されていることにより、上記取付フレームは回動ブラケット28に一体的に取り付けられており、回動ブラケット28と一体で固定ブラケット26に対して後方への回動が可能となっている。
【0022】
一方前述の連結パイプ24の左右両側には、背面視で逆L字状をなし、上方に突出する支持ブラケット47が固設されている。該支持ブラケット47の上方に、取付フレームの下フレーム板46が位置する。前述のように回動ブラケット28の凹部34を横フレーム23に係合させ、回動ブラケット28の上面が概ね水平となるように回動ブラケット28を位置決めすると、下フレーム板46と支持ブラケット47とが接する。
【0023】
下フレーム板46と支持ブラケット47とはボルトを介して固定することができるように構成されている。上記のように下フレーム板46と支持ブラケット47とが接する状態で、下フレーム板46と支持ブラケット47とをボルトによって固定し、前述のように回動ブラケット28を位置決め固定することによって、施肥装置41が作業状態で位置決め固定される。
【0024】
そして下フレーム板46と支持ブラケット47との固定を解除し、回動ブラケット28の位置決め用のボルト31を緩めることによって、回動ブラケット28と一体的に施肥装置41の取付フレームを後方に回動させることができる。これにより図7に示されるように、施肥装置41全体を、施肥装置41より後方に位置する回動支点(支点軸27)を中心に回動させ、機体カバー14(リヤステップ18)の上方側を空けることができる。
【0025】
施肥装置41は最後方に回動した状態でも、図7に示されるように、座席7の後方における、走行機体1と上昇状態の植付作業機9との間の苗載せ台11の前方のスペースS内に収容される。施肥装置41は最後方に回動させると回動ブラケット26のボルト31は、支持ブラケット26のガイド孔32の上端に位置し、ボルト31をガイド孔32の前方への突出部33に移動させて締めることができる。突出部33でのボルト31の固定によって施肥装置41の前方への落下回動が規制され、施肥装置41は安定して後方回動状態で収納される。
【0026】
上記のように施肥装置41全体を後方に回動させ、リヤステップ18の上方側を空けることによって、上記のように施肥装置41を取り付けた後であっても、機体カバー14の前方への回動、又は取り外しを容易に行うことができ、走行機体のメンテナンス性を損なうことはない。
【0027】
このとき施肥装置41の回動操作は、上下方向で固定される下フレーム板46と支持ブラケット47との固定を解除し、ボルト31を緩めるのみであるため、容易に行うことができる。また施肥装置41の作業状態での固定は、固定される下フレーム板46と支持ブラケット47との固定を上下方向で行い、ボルト31を締めるのみで簡単に行うことができる。
【0028】
なお回動ブラケット28をスプリング等の弾性部材によって後方回動方向に付勢するように構成することによって、施肥装置41の後方回動操作を、弾性部材のアシストによってさらに容易に行うことができる。ただし施肥装置41の作業状態での回動ブラケット28の固定は、上記回動ブラケット28の後方への付勢力に抗して行なう必要がある。
【0029】
一方走行機体1の機体フレーム1aの後方には、図8に示されるように、施肥装置41(繰出し部43)の駆動部51が設けられている。なお図4,5においては、該駆動部51は省略されている。上記のように機体カバー14を取り外すことによって駆動部51のメンテナンスを容易に行うことができる。
【0030】
駆動部51は機体フレーム1a上に設けられるギヤケース52と、該ギヤケース52の後方から上方に向かって突出する駆動軸53と、該駆動軸53に接続される駆動力伝動用のチェンケース54とからなる。ギヤケース52はエンジン側から駆動力が伝動されている。チェンケース54は作業状態の施肥装置41より後方に延出し、後端部から上方に向かって駆動力の出力軸56が突設されている。
【0031】
各施肥装置41の繰出し部43は一本の軸に57よって連結されている。該軸57が回転駆動されることによって各施肥装置41の繰出し部43に駆動力が伝動される。該軸57の左右方向の中央部分には、該軸57への駆動力の入力用の入力軸58がベベルギヤ等を介して設けられている。該入力軸58は下方に向かって突出している。
【0032】
上記入力軸56と出力軸58とは伝動軸59によって連結され、出力軸58から入力軸56に駆動力が伝動されている。ただし施肥装置41が上記のように後方に回動するため、伝動軸59は伸縮自在な軸が使用されている。そして伝動軸59と出力軸56とはユニバーサルジョイント61を介して連結されている。
【0033】
上記入力軸58は縦枠板36の前後方向の略中央近傍に位置している。また上記出力軸58は、繰出し部43の入力軸58より後方、且つ回動ブラケット28の回動支点(支点軸27)より前方で、支点軸27の前後位置に近接する前後位置に配置されている。これにより上記ユニバーサルジョイント61の前後位置が、支点軸27の前後位置の前方近傍に配置され、施肥装置41の上記回動時の伝動軸59の伸縮量を小さく抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】施肥装置が取り外された状態の乗用田植機の側面図である。
【図2】施肥装置が取り外された状態の乗用田植機の平面図である。
【図3】座席後方部分の要部平面図である。
【図4】乗用田植機に取り付けられた状態の施肥装置の背面図である。
【図5】回動ブラケット部分の要部側面図である。
【図6】作業状態の施肥装置の取り付け状態を示す要部側面図である。
【図7】後方回動状態の施肥装置の取り付け状態を示す要部側面図である。
【図8】施肥装置への伝動構造を示す要部側面図である。
【符号の説明】
【0035】
1 走行機体
9 植付作業機
41 施肥装置
27 支点軸(回動支点)
43 繰出し部
56 出力軸
59 伝動軸
61 ユニバーサルジョイント(ジョイント)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体(1)の後方に植付作業機(9)を昇降自在に連結し、走行機体(1)と植付作業機(9)との間に圃場内に肥料を施肥する施肥装置(41)を設けた移植機において、施肥装置(41)を走行機体(1)側に、施肥装置(41)の後方側に設けた回動支点(27)を中心に後方回動自在に支持して取り付け、後方への回動時に、上昇状態の植付作業機(9)と走行機体(1)との間の空間に収納されるように設けた移植機における施肥装置の取付構造。
【請求項2】
施肥装置(41)における肥料の繰出し部(43)への駆動力を出力する出力軸(56)を走行機体(1)側に設け、出力軸(56)を施肥装置(41)の後方側に配置し、出力軸(56)から繰出し部(43)に駆動力を伝動する伝動軸(59)を設け、該伝動軸(59)を伸縮自在とし、上記出力軸(56)と伝動軸(59)とを繋ぐジョイント(61)を繰出し部(43)と回動支点(27)との間の前後位置に配置した請求項1の移植機における施肥装置の取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−42680(P2006−42680A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−228263(P2004−228263)
【出願日】平成16年8月4日(2004.8.4)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】