説明

窒化アルミニウム焼結体及びそれを用いた半導体製造装置用又は検査装置用のウエハ保持体

【課題】 常温のみならず高温においても体積抵抗率を高い値に維持することができる窒化アルミニウム焼結体、及び該窒化アルミニウム焼結体を少なくとも部分的に用いた半導体製造装置用又は検査装置用のウエハ保持体を提供する。
【解決手段】 カーボンナノチューブを内部に含んだ窒化アルミニウム粒子からなる窒化アルミニウム焼結体であって、その常温及び500℃における体積抵抗率がそれぞれ1.0×1013Ω・cm以上及び1.0×10Ω・cm以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化アルミニウム焼結体に関し、特に体積抵抗率が従来の窒化アルミニウム焼結体より高い窒化アルミニウム焼結体に関する。更には、この窒化アルミニウム焼結体を用いた半導体製造装置用又は検査装置用のウエハ保持体に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化アルミニウム焼結体は、熱伝導率が比較的高いため均熱性が得られやすいことに加えて腐食性ガスに対する耐食性が高く、従来から半導体製造装置用や検査装置用の各種ウエハ保持体に使用することが提案されており、その一部については既に実用化されている。
【0003】
たとえば、特許文献1には、窒化アルミニウム焼結体中に抵抗発熱体を埋設してヒータとし、このヒータに支持部を接合すると共に当該支持部の内側と容器との間を気密に封止する構造のウエハ保持体が開示されている。
【0004】
一方、窒化アルミニウムに焼結助剤を添加して焼結することによって、得られた焼結体の体積抵抗率を向上させたり、逆に導電性を向上させたりする技術が提案されている。例えば特許文献2には、窒化アルミニウムに焼結助剤としてマグネシウムを添加して焼結することによって、得られた窒化アルミニウム焼結体を高絶縁性にする技術が開示されている。また、特許文献3には窒化アルミニウムにカーボンナノチューブを添加して焼結することによって、窒化アルミニウム焼結体に導電性を付与する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平6−28258号公報
【特許文献2】特開2000−044345号公報
【特許文献3】特開2005−041765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、窒化アルミニウム焼結体は高い熱伝導率と優れた耐食性を有する材料であるが、高温領域ではその体積抵抗率は大幅に低下し、例えば窒化アルミニウム焼結体の内部に抵抗発熱体などの回路を埋設したヒータでは、回路間でショートする問題が生じることが有った。本願発明は、このような従来の窒化アルミニウム焼結体の問題を解決することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明が提供する窒化アルミニウム焼結体は、カーボンナノチューブを内部に含んだ窒化アルミニウム粒子からなり、その常温及び500℃における体積抵抗率がそれぞれ1.0×1013Ω・cm以上及び1.0×10Ω・cm以上であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、常温のみならず高温においても窒化アルミニウム焼結体の体積抵抗率を従来にない高い値に維持することができる。よってこの窒化アルミニウム焼結体を例えば半導体製造装置用や検査装置用のウエハ保持体に使用することにより、従来は困難であった高温領域でのウエハ処理が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例2で作製したウエハ保持体を模式的に示す縦断面図である。
【図2】実施例3で作製したウエハ保持体を模式的に示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明らは、窒化アルミニウムにカーボンナノチューブ(炭素繊維)を添加して焼結することによって窒化アルミニウム焼結体の体積抵抗率を向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。そのメカニズムについては十分に明らかになっていないが、本発明者らは以下のように推定している。即ち、カーボンナノチューブを含んだ窒化アルミニウム焼結体は、窒化アルミニウムとカーボンナノチューブとを混合して成形し、得られた成形体を脱脂した後に焼結して作製するが、その焼結の際、カーボンナノチューブを構成する炭素原子が、窒化アルミニウム粒子中の酸化物や酸窒化物に含まれる酸素を還元し、一酸化炭素等として粒子外に放出される。
【0011】
このメカニズムによって、窒化アルミニウム粒子の内部や表面の酸素量が低減していく。そして、焼結が進んだ結果、カーボンナノチューブを近傍で取り囲む窒化アルミニウム粒子は、酸素量が少なくなって極めて絶縁性の高いものになる。結果的に得られる窒化アルミニウム焼結体は、導電性のカーボンナノチューブを含有してはいるものの、全体としては高絶縁性の窒化アルミニウム焼結体になると考えられる。
【0012】
前述したように、カーボンナノチューブは導電性を有しているため、カーボンナノチューブの添加量が多くなると、カーボンナノチューブ同士が接触する確率が増加し、窒化アルミニウム焼結体の体積抵抗率は低下してしまう。これを防ぐため、窒化アルミニウム、焼結助剤およびカーボンナノチューブの添加量を合計で100重量%としたとき(以降の添加量においても同じ)、カーボンナノチューブの添加量は1.0重量%以下であることが好ましい。この程度の添加量であればカーボンナノチューブ同士が接触する確率はそれほど高くなく、高絶縁性の窒化アルミニウム焼結体が得られる。
【0013】
一方、上記したカーボンナノチューブの添加量は、0.01重量%以上であることが好ましい。もちろんこれ未満の添加量であっても、部分的に酸素量の少ない窒化アルミニウム粒子が得られると考えられるが、0.01重量%未満では、酸素量の多い窒化アルミニウム粒子が相対的に多く存在するため、全体としては、この酸素量が多くて体積抵抗率の低い窒化アルミニウム粒子の影響を大きく受けるため、体積抵抗率を向上させる効果が小さくなる。
【0014】
上記したように、カーボンナノチューブの添加量は0.01〜1.0重量%が好適であるが、特にこの添加量が0.6重量%〜1.0重量%の場合は、高温での体積抵抗に関してより一層好適となることが分かった。これは、前述したように、より多くのカーボンナノチューブを添加することによって窒化アルミニウム粒子内の多くの酸素が還元されることになるが、とりわけカーボンナノチューブ同士が接触しあう直前の添加量が、窒化アルミニウム粒子中の酸素を最も多く還元できるからである。すなわち、0.01〜1.0重量%の添加量の範囲内ではできるだけその上限に近い方が高温での体積抵抗率に関してより一層優れた効果が得られる。
【0015】
添加するカーボンナノチューブの形状については特に制約はないが、カーボンナノチューブの直径は500nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましく、50nm以下が特に好ましい。500nmよりカーボンナノチューブの直径が大きくなると、窒化アルミニウムの焼結を阻害するため好ましくない。
【0016】
また、添加するカーボンナノチューブの繊維長についても特に制約がない。但し、繊維長が長すぎる場合は、カーボンナノチューブを均一に混合することが難しくなる。従って、添加するカーボンナノチューブの直径と繊維長とのアスペクト比は概ね500以下が好ましい。
【0017】
カーボンナノチューブは、上記の如くナノスケールの微小なチューブであるため、成形体の原料となる窒化アルミニウム粉末や助剤成分との混合の際は、凝集や偏在が生じないように、超音波、ボールミル等によって十分に混合することが望ましい。この混合が不十分になると、焼結の際、窒化アルミニウム焼結体を構成する粒子群に局所的に酸素量が多い部分や逆に酸素量の少ない部分が発生し、焼結体全体として高絶縁性の焼結体を得ることができなくなるおそれがあるからである。
【0018】
著しい凝集が生じた場合は、凝集したカーボンナノチューブ近傍において窒化アルミニウムの焼結が阻害され、部分的な焼結不足(密度不足)を生じるので好ましくない。また、カーボンナノチューブの分散が不十分な場合は、カーボンナノチューブが窒化アルミニウム粒子内に存在せずに窒化アルミニウム粒界のみに偏在しやすくなり、高温での絶縁性が乏しくなるとともに、比較的少ないカーボンナノチューブの添加量で導電性を発生してしまうという問題が生じるおそれがある。
【0019】
カーボンナノチューブと窒化アルミニウム粉末との混合の際、焼結助剤を添加することも可能である。窒化アルミニウムは元々難焼結材料である上、カーボンナノチューブも焼結阻害要因となることから、緻密な焼結体を安価に得るためには、希土類、アルカリ土類金属化合物などの公知の焼結助剤を添加することが好ましい。焼結助剤の添加量には特に制約がないが、10重量%以下程度であれば窒化アルミニウムの焼結が促進され、よって熱伝導率を低下させることなく緻密な焼結体を得ることができる。
【0020】
次に、窒化アルミニウム焼結体の製造方法について説明する。先ず、窒化アルミニウム粉末に所定量のカーボンナノチューブを加え、更に所定量の焼結助剤、バインダー、分散剤、溶剤等を加えて混合することにより窒化アルミニウムスラリーを作製する。このスラリーから例えばスプレードライ法により顆粒を作製し、プレス成形することによって成形体が得られる。成形体は他の方法で作製してもよく、例えば上記窒化アルミニウムスラリーからドクターブレード法によりグリーンシートとして成形することができる。あるいは、押出成形や鋳込み成形などの成形方法で成形体を形成することもできる。
【0021】
得られた成形体は、焼結前に脱脂を行う。脱脂方法には、公知の手法を採用することができる。例えば、大気雰囲気や真空雰囲気、窒素等の不活性ガス雰囲気、又はこれらの組み合わせの雰囲気の中で成形体を加熱することにより脱脂することができる。但し、カーボンナノチューブは大気中では500℃以上で酸化するため、大気中で脱脂する場合は500℃未満の温度で脱脂処理することが望ましい。
【0022】
脱脂された成形体は、次に焼結されて焼結体となる。前述したように焼結の際は添加されているカーボンナノチューブによって窒化アルミニウム粒子の酸素量が低減していくため、添加されている助剤成分(酸化物)との濡れ性が低下する。従って、緻密な焼結体を得るためには、ホットプレスやHIP(Hot Isostatic Pressing)を使用することが好ましい。
【0023】
これらの加圧処理を施すことにより、窒化アルミニウム粒子同士、及び窒化アルミニウム粒子と助剤成分の粒子との間の粒子間距離が小さくなり、焼結が促進される。加える圧力としては、20kg/cm程度以上であれば、理論密度に対して98%程度以上の焼結体を得ることができる。好ましい焼結温度は、添加する助剤成分及びその添加量の影響を受けるが、概ね1600〜2000℃程度である。
【0024】
上記焼結によって得られた窒化アルミニウム焼結体は、色調が黒色となる。窒化アルミニウムは元々は透光性のある材料であるが、カーボンナノチューブは黒色であり、これが分解されずに残存するために黒色を呈する。このため、ウエハ等の加熱用ヒータとして使用する場合は、白色や灰色等の淡色の窒化アルミニウム焼結体と比較して熱輻射率が高くなる。その結果、より効率的で均一な加熱が可能になるという効果が得られる。
【0025】
上記方法で作製されるカーボンナノチューブを含んだ本発明の窒化アルミニウム焼結体は、体積抵抗率が室温において1.0×1013Ω・cm以上である。この値は、窒化アルミニウムの焼結体としては特段の値ではないが、本発明の焼結体は更に500℃において1.0×10Ω・cm以上の非常に高い体積抵抗率を有している。これは前述したように、カーボンナノチューブの添加によって生じたものであり、窒化アルミニウムの粒子表面における酸素が炭素と反応すると共に焼結時等の熱処理によって除去され、これにより純度の高い窒化アルミニウム粒子が形成されたためである。
【0026】
上記方法で作製されるカーボンナノチューブを含んだ窒化アルミニウム焼結体においては、焼結した窒化アルミニウム粒子の内部にもカーボンナノチューブが存在している。これは、焼結によって窒化アルミニウム粒子が粒成長する過程において、窒化アルミニウム粒子近傍に位置するカーボンナノチューブを取り込む現象によるものと推定している。このように、焼結体粒子の内部及び粒界相にカーボンナノチューブが存在するため、カーボンナノチューブを含まない通常の窒化アルミニウム焼結体よりは強度が高くなる。
【0027】
また、原料としてのカーボンナノチューブと窒化アルミニウム粒子とは互いに近接した状態で焼結されるため、焼結過程において、カーボンナノチューブが原料の窒化アルミニウム粒子の表面に存在する酸化物若しくは酸窒化物を還元しながら窒化アルミニウム粒子が粒成長していく。その結果、窒化アルミニウム粒子の内部でもこれら酸化物や酸窒化物が除去された状態となり、よって酸素量の少ない窒化アルミニウム粒子が形成されると推定している。
【0028】
酸素量の少なくなった窒化アルミニウム粒子は、希土類元素やアルカリ土類金属元素等の助剤成分との濡れ性が比較的低くなると考えられるため、助剤成分は粒界の3重点近傍に集まりやすい傾向を示す。そして、助剤成分とアルミニウム酸化物との化合物が形成され、これが粒界相として3重点に集中しやすくなる。
【0029】
かかる希土類とアルミニウム酸化物との化合物や、アルカリ土類金属とアルミニウム酸化物との化合物は、窒化アルミニウム粒子に比べて電気絶縁性の低い材料と考えられるが、これら化合物は粒界の3重点に集中しやすく、つまり独立して存在する傾向にあるため、窒化アルミニウム焼結体全体としての体積抵抗率の低下は引き起こしにくい。
【0030】
但し、焼結助剤の添加量を10重量%以上にするのは好ましくない。なぜなら、10重量%以上ではこれら助剤成分とアルミニウム酸化物との化合物の存在量が多くなりすぎ、窒化アルミニウム焼結体中の各3重点に存在する当該化合物同士が互いに接触しやすくなり、その結果、焼結体全体としての体積抵抗率の低下を引き起こす可能性が高まるからである。
【0031】
上記の方法で作製したカーボンナノチューブを含む窒化アルミニウム焼結体は、電気導電性について配向性を有することがある。例えば、成形工程においてプレス成形をした場合、プレス時の加圧方向の電気導電率は上記したように低い値が得られるが、プレス時の加圧方向に対して垂直な方向においては、体積抵抗率が低くなる傾向がある。
【0032】
これは、成形体中のカーボンナノチューブがプレス成形時の圧力により、加圧方向に対して垂直な方向に配向しやすくなるためであると考えられる。この現象はドクターブレード法によってシート成形を行った場合においても同様に生じる。この場合は、シート成形方向の体積抵抗率がシートの厚み方向の体積抵抗率に比べて若干低くなる。
【0033】
上記方法で作製された窒化アルミニウム焼結体の平均粒径は、焼結温度、焼結時間、圧力等の条件にもよるが概ね2〜20μm程度である。なお、ここでいう平均粒径とは、SEM(電子顕微鏡)写真によって焼結体を観察し、その観察された粒子の長軸方向の長さによって測定したものである。
【0034】
本発明による窒化アルミニウムは、半導体製造装置用又は検査装置用のウエハ保持体として特に好適に使用することができる。なぜなら、従来の窒化アルミニウムに比べて、例えば500℃以上の高温条件下においても体積抵抗率が高いため、回路間のショートが発生しにくくなり、よって高温領域でも安定してウエハ処理を行うことができるからである。
【0035】
具体的なウエハ保持体の加工方法としては、例えば上記のようにして作製したカーボンナノチューブを含んだ窒化アルミニウム焼結体の表面を加工して直径330mm、厚み10mmの基板を作製する。この基板に対して、一方の面に抵抗発熱体回路を、他方の面にRF電極若しくは静電チャック用電極の回路をタングステン等のペーストを用いたスクリーン印刷法により形成する。そして、この基板を窒素雰囲気の中で700℃程度の温度で脱脂処理した後、窒素雰囲気の中で1800℃程度の温度で焼成する。
【0036】
次に、上記の基板と直径が同じで厚みがそれぞれ8mmと2mmの2枚の窒化アルミニウム焼結体の基板を準備する。そして、上記した抵抗発熱体回路とRF電極若しくは静電チャック用電極の回路が形成された厚み10mmの基板の両面に窒化アルミニウムを主成分とするペーストを塗布し、上記と同様にして脱脂処理する。なお、ここではこれら厚み8mmの基板と厚み2mmの基板にカーボンナノチューブを含まない窒化アルミニウム焼結体を使用しているが、カーボンナノチューブを含んだ窒化アルミニウム焼結体を使用してもよい。
【0037】
次に、この厚み10mmの基板の発熱体側に厚み8mmの基板を、RF電極若しくは静電チャック用電極面側に厚み2mmの基板を対向させる。この状態で窒素雰囲気の中で1800℃程度の温度でホットプレスする。これにより3枚の基板が接合される。得られた接合体のウエハ載置面側にウエハを載置するための所定の機械加工を施すと共に、当該ウエハ載置面とは反対側の面に、タングステンやモリブデンなどの電極端子をロウ付けなどの手法により取り付ける。これにより、ウエハ保持体が作製される。
【0038】
なお、このウエハ保持体には、必要に応じてウエハ載置面とは反対側の面に、筒状の支持体をネジ等の機械的手段あるいはロウ付けなどの接合手段により取り付けることも可能である。このようにして作製したウエハ保持体は、RF電極若しくは静電チャック電極の回路と抵抗発熱体回路との間にカーボンナノチューブを含んだ窒化アルミニウム焼結体が介在しているので、両回路間の絶縁破壊や漏れ電流を大幅に低減することができる。
【0039】
以上説明したように、本発明のカーボンナノチューブを含んだ窒化アルミニウム焼結体からなるウエハ保持体は、特に高温においても絶縁性が高いことから、例えば800℃程度の高温条件で使用される半導体製造装置においても良好に使用することができる。
【0040】
以上、本発明の窒化アルミニウム焼結体、及びそれを用いた半導体製造装置用又は検査装置用のウエハ保持体の実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨から逸脱しない範囲内で種々の代替例や変形例を考えることができる。
【0041】
例えば、ウエハ保持体の製造方法は上記方法に限定されるものではなく、他の方法で製造してもよい。具体的には、上記したスプレードライ法で作製した顆粒をプレス機で成形して厚み12mm程度のプレス体とし、その表面に座繰り加工を施してそこにモリブデンやタングステンからなるコイル状若しくは金属箔状の抵抗発熱体を挿入する。このプレス体を抵抗発熱体が上側となるように再度プレス機に設置し、上記の顆粒をプレス機の成形金型に加えてプレス成形する。
【0042】
プレス成形した後、新たに形成された成形体の表面に、RF電極若しくは静電チャック電極としてのモリブデンやタングステン製の金属メッシュを設置し、更にその上から顆粒を加えてプレス成形する。これにより、成形体を作製することができる。この成形体を、窒素雰囲気の中で700℃程度の温度で脱脂した後、ホットプレスによる一体成形することによりウエハ保持体を作製することができる。
【0043】
このようにして得られたウエハ保持体には、上記と同様にウエハを載置するための所定の加工が表面に施されたり、タングステンやモリブデンの電極端子が取り付けられたりする。また、必要に応じて筒状の支持体も取り付けられる。なお、この方法でウエハ保持体を作製するときも、抵抗発熱体とRF電極若しくは静電チャック用電極との間だけをカーボンナノチューブを含んだ窒化アルミニウム焼結体にすることもできるし、この部分を含む全ての焼結体をカーボンナノチューブを含んだ窒化アルミニウム焼結体にすることもできる。
【実施例】
【0044】
[実施例1]
窒化アルミニウム粉末に、添加量が5重量%となるように焼結助剤としての酸化イットリウムを加え、更にバインダー及び溶剤を加えてスラリーを調製した。このスラリーを小分けし、それぞれに平均直径150nm、平均アスペクト比200のカーボンナノチューブを、添加量が0〜2.0重量%の間で少しずつ異なるように添加した。これにより、カーボンナノチューブの添加量が互いに異なる13種類の窒化アルミニウムスラリーを作製した。これら13種類の窒化アルミニウムスラリーに対して、ボールミル混合を24時間行った上、更に超音波混合を24時間行った。
【0045】
このようにして十分に混合させた13種類の窒化アルミニウムスラリーからそれぞれスプレードライ法で顆粒を作製し、更にプレス成形して13個の成形体を作製した。これら成形体をそれぞれ窒素雰囲気の中で650℃の温度で脱脂した後、ホットプレスによって50kg/cmの圧力を加え、更に窒素雰囲気の中で1850℃の温度で焼結させた。得られた焼結体を厚さ5mmに研磨加工し、両側に銅ペーストで電極を作製した。なお、電極形成面は、プレス方向に対して垂直な方向となるようにした。このようにして試料1〜13の窒化アルミニウム焼結体を作製した。
【0046】
比較のため、カーボンナノチューブの添加量が0.1重量%と0.5重量%の2種類の窒化アルミニウムスラリーを上記と同様にして作製し、これら2種類の窒化アルミニウムスラリーには超音波混合を行わずにボールミル混合のみで6時間混合した。それ以外は上記と同様にして試料14及び15の窒化アルミニウム焼結体を作製した。
【0047】
これら試料1〜15の窒化アルミニウム焼結体を、内部が窒素雰囲気になっている電気炉内に設置し、室温と500℃における体積抵抗率を測定した。その結果を、カーボンナノチューブ及び焼結助剤の添加量と共に下記の表1に示す。
【0048】
[表1]

【0049】
上記表1の結果から、カーボンナノチューブの添加量が1.0重量%以下の窒化アルミニウム焼結体は、カーボンナノチューブを添加しない焼結体よりも体積抵抗率が高いことが分かる。またカーボンナノチューブの添加量を1.5重量%以上にすると急激に体積抵抗率が低下していることが分かる。
【0050】
試料2〜13の窒化アルミニウム焼結体に対してSEM観察を行ったところ、窒化アルミニウム粒子の内部及び粒界にカーボンナノチューブが存在していた。一方、試料14及び15の窒化アルミニウム焼結体をSEM観察したところ、粒界にのみカーボンナノチューブが存在していることが分かった。これら試料3及び7と、試料14及び15との結果から、カーボンナノチューブの添加量が同じでも窒化アルミニウム粒子の内部の状態により体積抵抗率が低くなることが判明した。
【0051】
[実施例2]
カーボンナノチューブを含んだ窒化アルミニウム焼結体からなるウエハ保持体の特性を評価するため、上記実施例1の試料1及び9の焼結体と同一の組成の窒化アルミニウム焼結体を用いて図1(a)〜(c)に示すような半導体製造装置用のウエハ保持体を作製し、体積抵抗率に関する試験を行った。
【0052】
具体的には、先ず、実施例1の試料1の焼結体と同一の組成であって、研磨後において、厚み3mm直径330mmの焼結体基板1、厚み8mm直径330mmの焼結体基板2、及び厚み10mm直径330mmの焼結体基板3を作製した。そして、厚み8mmの基板2に対して、片面にスクリーン印刷にてWペーストを用いて抵抗発熱体4の回路パターンを形成し、その反対側の面に同様にしてRF電極5の回路パターンを形成した。そして、窒素雰囲気の中で750℃の温度で脱脂した後、窒素雰囲気の中で1800℃の温度で焼成した。
【0053】
次に、この厚み8mmの基板2のRF電極5を形成した面に窒化アルミニウムを主成分とするペーストをスクリーン印刷により塗布し、上記と同様にして脱脂した。また厚み10mmの基板3にも窒化アルミニウムを主成分とするペーストをスクリーン印刷にて塗布し、同様に脱脂した。
【0054】
そして、RF電極5の回路が形成された面に厚み3mmの基板1を重ね合わせ、抵抗発熱体4が形成された面に厚み10mmの基板3を窒化アルミニウムペーストの塗布面が内側になるように重ね合わせた。この状態でホットプレスにより1800℃、20kg/cmの圧力を加えて一体化させた後、その上下面を研磨した。
【0055】
一方、フランジ部を備えた外径70mm内径65mmの窒化アルミニウム製筒状体6を用意し、これに窒化アルミニウムを主成分とするペーストを塗布して脱脂した。この筒状体6の端部と上記一体化させた基板の下面とを、窒素雰囲気の中で1800℃の温度で10kg/cmの圧力を加えて接合した。
【0056】
更にRF電極5に隣接する厚み3mmの基板1側にウエハポケット1aを機械加工により形成してウエハ載置面1bを形成した。また、このウエハ載置面1bとは反対側の面に、抵抗発熱体4の回路及びRF電極5の回路に接続する電極端子が取り付けられる座繰り穴(図示せず)を形成した。そして、この座繰り穴にニッケルメッキを施したタングステン電極端子をロウ付けした。更に同じ面に熱電対用の座繰り穴(図示せず)を形成した後、熱電対を挿入した。このようにして、図1(a)に示すような試料1Aのウエハ保持体10を作製した。
【0057】
次に、実施例1の試料1に代えて試料9の焼結体と同一の組成の焼結体を用いた以外は上記試料1Aと同様にして、図1(b)に示すような試料9Aのウエハ保持体20を作製した。更に、厚みが8mmの基板2には実施例1の試料9の焼結体と同一の組成の焼結体を使用し、厚みが3mmの基板1と10mmの基板3にはカーボンナノチューブを含まない窒化アルミニウム焼結体を使用した以外は上記試料1Aと同様にして、図1(c)に示すような試料9Bのウエハ保持体30を作製した。
【0058】
このようにして作製された3種類のウエハ保持体のウエハ載置面1bに、それぞれ直径300mmの測温ウエハを搭載してチャンバー内にセットし、抵抗発熱体4に通電して当該抵抗発熱体4からRF電極5に漏れる電流を電流計により測定した。なお、RF電極5に接続される電極端子の終端部は接地している。そして測温ウエハの平均温度で300℃、400℃、500℃、600℃、700℃、及び800℃における漏れ電流値を測定した。その結果を下記の表2に示す。
【0059】
[表2]

【0060】
上記表2の結果から分かるように、少なくとも抵抗発熱体4とRF電極5との間にカーボンナノチューブを含んだ窒化アルミニウム焼結体を使用した試料9A及び9Bのウエハ保持体20及び30では、温度が上昇するに伴って多少漏れ電流が測定されたものの、許容限界値の30mAを超えることはなく、800℃までの温度範囲において良好に使用することができた。一方、カーボンナノチューブが含まれていない窒化アルミニウム焼結体を使用した試料1Aのウエハ保持体10では、500℃以上に昇温すると許容限界値の30mAを超えたので、それ以上昇温させることができなかった。
【0061】
[実施例3]
上記実施例1の試料1及び9の焼結体と同一の組成の窒化アルミニウム焼結体をそれぞれ用いて図2(a)〜(c)に示すような半導体製造装置用のウエハ保持体を作製し、体積抵抗率に関する試験を行った。具体的には、先ず、実施例1の試料1の焼結体と同一の組成の窒化アルミニウムスラリーからスプレードライ法で顆粒を作製し、これを焼結後の厚みが10mmとなるようにプレス機でプレス成形した。このプレス成形体の片面に溝加工を施し、ここに抵抗発熱体14としてのモリブデン製コイルを挿入した。
【0062】
この抵抗発熱体14が挿入されたプレス成形体を再びプレス機に設置し、抵抗発熱体14の上に、焼結後の抵抗発熱体14とRF電極15との間が8mm離間するように窒化アルミニウムの顆粒を加えて再度プレス成形した。この新たに形成されたプレス成形体の面上に、RF電極15としてのモリブデンメッシュを載置した。そして、モリブデンメッシュの上に、焼結後の厚みが3mmになるように窒化アルミニウムの顆粒を加えてプレス成形した。
【0063】
この成形体を窒素雰囲気の中で650℃の温度で脱脂し、ホットプレスにより1850℃、窒素雰囲気の中で200kg/cmの圧力を加え焼結した。そして上記実施例2と同様にして研磨加工、ウエハポケット11a及びウエハ載置面11bの形成、窒化アルミニウム製筒状体16の接合、電極端子及び熱電対の取り付けなどの所定の加工を施し、図2(a)に示すような厚み3mmの上部層11、厚み8mmの中間層12、及び厚み10mmの下部層13からなる試料1Bのウエハ保持体110を作製した。
【0064】
次に、実施例1の試料1に代えて試料9の焼結体と同一の組成の焼結体を用いた以外は上記試料1Bと同様にして、図2(b)に示すような試料9Cのウエハ保持体120を作製した。更に、抵抗発熱体14とRF電極15との間に介在する厚み8mmの中間層12に実施例1の試料9の焼結体と同一の組成の焼結体を使用し、その上下に位置する厚み3mmの上部層11と厚み10mmの下部層13にはカーボンナノチューブを含まない窒化アルミニウム焼結体を使用した以外は上記試料1Bと同様にして、図2(c)に示すような試料9Dのウエハ保持体130を作製した。
【0065】
このようにして作製された3種類のウエハ保持体に対して、実施例2と同様に抵抗発熱体14に通電して抵抗発熱体14からRF電極15に漏れる電流を電流計により測定した。その結果を下記の表3に示す。
【0066】
[表3]

【0067】
上記表3の結果から分かるように、少なくとも抵抗発熱体14とRF電極15との間にカーボンナノチューブを含んだ窒化アルミニウム焼結体を使用した試料9C及び9Dのウエハ保持体120及び130では、温度が上昇するに伴って多少漏れ電流が測定されたものの、許容限界値の30mAを超えることはなく、800℃までの温度範囲において良好に使用することができた。一方、カーボンナノチューブが含まれていない窒化アルミニウム焼結体を使用した試料1Bのウエハ保持体110では、500℃以上に昇温すると許容限界値の30mAを超えたので、それ以上昇温させることができなかった。
【符号の説明】
【0068】
1〜3 焼結体基板
4 抵抗発熱体
5 RF電極
6 筒状体
10、20、30 ウエハ保持体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブを内部に含んだ窒化アルミニウム粒子からなる窒化アルミニウム焼結体であって、その常温及び500℃における体積抵抗率がそれぞれ1.0×1013Ω・cm以上及び1.0×10Ω・cm以上であることを特徴とする窒化アルミニウム焼結体。
【請求項2】
請求項1に記載の窒化アルミニウム焼結体が少なくとも部分的に用いられていることを特徴とする半導体製造装置用又は検査装置用のウエハ保持体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−10676(P2013−10676A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145450(P2011−145450)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】