説明

緩衝器

【課題】減衰力特性を一層詳細に制御可能な緩衝器の提供。
【解決手段】ピストン11の移動により2室12,13間を作動流体が流れるように連通する第1通路60a,60bと、2室12,13のうちの一方の室12に連通される第2通路130と、を備え、第1通路60a,60bは、ピストン11の移動によって生じる作動流体の流れを抑制して減衰力を発生させる減衰バルブ62a,62bを有し、第2通路130は、ピストンロッド16が伸び方向に移動したとき弾性部材32によって面積が調整される可変オリフィス122と、可変オリフィス122と直列に設けられた圧力室125と、ピストン11の移動により圧力室125の容積を可変にするフリーピストン87と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩衝器に関する。
【背景技術】
【0002】
緩衝器には、ピストンロッドがストローク端付近まで伸長すると、内部のスプリングが縮んでピストンの衝突を抑制するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−177531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ピストンロッドの伸び切りを抑制する部材、例えば特許文献1に示すようなスプリングを緩衝器の内部に用いた場合、スプリングが縮んでいるときと自然状態のときとでは、ばね定数が増加した分、車体の制振性が不足する、つまり緩衝器の減衰力が不足する場合があることに気付いた。
【0005】
したがって、本発明は、ピストンロッドの伸び切りを抑制する部材を用いた場合であっても所望の減衰力を発生する緩衝器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、ピストンの移動により2室間を作動流体が流れるように連通する第1通路と、前記2室のうちの一方の室に連通される第2通路と、を備え、前記第1通路は、前記ピストンの移動によって生じる前記作動流体の流れを抑制して減衰力を発生させる減衰バルブを有し、前記第2通路は、ピストンロッドが伸び方向に移動したとき弾性部材によって面積が調整される可変オリフィスと、前記可変オリフィスと直列に設けられた圧力室と、前記ピストンの移動により前記圧力室の容積を可変にするフリーピストンと、を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ピストンロッドの伸び切りを抑制する部材を用いた場合であっても所望の減衰力を発生可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係る第1実施形態の緩衝器を示す断面図である。
【図2】本発明に係る第1実施形態の緩衝器の要部を示す断面図である。
【図3】緩衝器におけるストローク位置とスプリング反力との関係を示す特性線図である。
【図4】本発明に係る第1実施形態の緩衝器の油圧回路図である。
【図5】本発明に係る第1実施形態の緩衝器等の周波数と減衰力との関係を示す特性線図である。
【図6】本発明に係る第1実施形態の緩衝器等のストローク位置と減衰力との関係を示す特性線図である。
【図7】本発明に係る第1実施形態の緩衝器を用いた場合のシミュレーション結果を示す特性線図である。
【図8】本発明に係る第2実施形態の緩衝器の要部を示す断面図である。
【図9】本発明に係る第2実施形態の緩衝器の油圧回路図である。
【図10】本発明に係る第2実施形態の緩衝器の周波数と減衰力との関係を示す特性線図である。
【図11】本発明に係る第3実施形態の緩衝器の要部を示す断面図である。
【図12】本発明に係る第3実施形態の緩衝器の油圧回路図である。
【図13】本発明に係る第4実施形態の緩衝器の要部を示す断面図である。
【図14】本発明に係る第4実施形態の緩衝器の油圧回路図である。
【図15】本発明に係る第4実施形態の緩衝器の周波数と減衰力との関係を示す特性線図である。
【図16】本発明に係る第5実施形態の緩衝器の要部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下で説明の実施の形態は、上述の発明が解決しようとする課題の欄や発明の効果の欄に記載した内容に止まること無くその他にもいろいろな課題を解決し、効果を呈している。以下の実施の形態が解決する課題の主なものを、上述の欄に記載した内容をも含め、次に列挙する。
〔特性改善〕
振動状態に応じて減衰力特性(ピストン速度に対する減衰力)を変更する際に、より滑らかに変更する等の特性設定が求められている。これは、小さな減衰力が発生する特性と、大きな減衰力が発生する特性の切り替わりが唐突に起こると、実際に発生する減衰力も唐突に切り替わるので、車両の乗り心地が悪化し、さらには減衰力の切り替わりが車両の操舵中に発生すると、車両の挙動が不安定となり、運転者が操舵に対して違和感を招く恐れがあるためである。そのため、先に示した特許文献1に示すようにより滑らかに変更する特性設定が検討されているが、さらなる特性改善が望まれている。
〔大型化の抑制〕
先に示した特許文献1に示されるように、シリンダ内の2室を仕切り、減衰力を発生する機構を有するピストンに加え、ピストンの一端側に設けられ、ハウジング内を上下動するフリーピストンを備えることにより、振動周波数の広い領域に対応した減衰力特性が得られるように改善が図られたシリンダ装置は種々開発されている。これらのシリンダ装置に共通する課題として、フリーピストンが上下動する領域が必要であるため、軸方向に長くなるということがあげられる。シリンダ装置が大型化すると、車体への取付け自由度が低下するため、シリンダ装置の軸方向長の増加は、大きな課題である。
〔部品数の低減〕
先に示した特許文献1に示されるように、ピストンに加え、ハウジングやフリーピストンなどの構成部品が備えられるため、部品数は増えることになる。部品数が増えると、生産性、耐久性、信頼性などに影響がでるため、所望の特性、つまり振動周波数の広い領域に対応した減衰力特性が得られるような特性を出しつつ、部品数の低減が望まれている。
以下、本発明に係る各実施形態について図面を参照して説明する。
【0010】
「第1実施形態」
本発明に係る第1実施形態を図1〜図7に基づいて説明する。以下の説明では理解を助けるために、図の下側を一方側とし、逆に図の上側を他方側として定義する。
【0011】
第1実施形態の緩衝器は、図1に示すように、いわゆるモノチューブ式の油圧緩衝器で、作動流体としての油液が封入される有底円筒状のシリンダ10を有している。シリンダ10内には、ピストン11が摺動可能に嵌装され、このピストン11により、シリンダ10内が上室12および下室13の2室に区画されている。ピストン11は、ピストン本体14と、その外周面に装着される円環状の摺動部材15と、ピストン本体14に連結されるピストンロッド16のピストン本体14への挿通部分とによって構成されている。
【0012】
ピストン本体14は、ピストンロッド16の一端部に連結されており、ピストンロッド16の他端側は、シリンダ10の開口側に装着されたロッドガイド17およびオイルシール18等に挿通されてシリンダ10の外部へ延出されている。シリンダ10の開口側は内側に加締められており、これによりオイルシール18およびロッドガイド17を係止している。
【0013】
ピストンロッド16は、シリンダ10内への挿入先端側に、ピストン本体14が取り付けられる取付軸部20が形成されており、他の部分が取付軸部20よりも大径の主軸部21となっている。取付軸部20には、主軸部21とは反対側の外周側にオネジ19が形成されている。主軸部21の取付軸部20近傍の位置には、係止溝22が形成されており、この係止溝22には、主軸部21よりも径方向外側に広がるリテーナ23の内周部がかしめ固定されている。
【0014】
リテーナ23のピストン11とは反対には円環状のバネ受24が配置されており、バネ受24のリテーナ23とは反対にコイルスプリングからなる補助スプリング26が配置されている。また、補助スプリング26のバネ受24とは反対には円環状の中間ストッパ28が配置されており、中間ストッパ28の補助スプリング26とは反対にコイルスプリングからなるリバウンドスプリング本体29が配置されている。さらに、リバウンドスプリング本体29の中間ストッパ28とは反対には円環状のバネ受30が配置されており、このバネ受30のリバウンドスプリング本体29とは反対に円環状の弾性材料からなる緩衝体31が設けられている。なお、バネ受24、補助スプリング26、中間ストッパ28、リバウンドスプリング本体29、バネ受30および緩衝体31は、ピストンロッド16に対して軸方向移動可能に設けられている。
【0015】
ここで、ピストンロッド16がシリンダ10から突出する方向に移動すると、ピストンロッド16に固定されたリテーナ23とともにバネ受24、補助スプリング26、中間ストッパ28、リバウンドスプリング本体29、バネ受30および緩衝体31がロッドガイド17側に移動することになり、所定位置で緩衝体31がロッドガイド17に当接する。さらにピストンロッド16が突出方向に移動すると、緩衝体31およびバネ受30が、シリンダ10に対して停止状態となり、その結果、移動するリテーナ23とバネ受30とが近接する。これにより、バネ受30と中間ストッパ28とがこれらの間のリバウンドスプリング本体29を縮長させることになり、中間ストッパ28とバネ受24とがこれらの間の補助スプリング26を縮長させることになる。このようにして、シリンダ10内に設けられたリバウンドスプリング本体29および補助スプリング26が、ピストンロッド16に弾性的に作用してピストンロッド16の伸び切りを抑制することになり、これらがピストンロッド16の伸び切りを抑制するリバウンドスプリング(弾性部材)32を構成している。なお、このようにリバウンドスプリング32がピストンロッド16の伸び切りの抵抗となることで、車両旋回時の内周側の車輪の浮き上がりを抑制して車体のロール量を抑えることになる。中間ストッパ28は最大限リテーナ23側に移動すると、リテーナ23に係止されたバネ受24に当接してピストンロッド16に対して停止することになる。
【0016】
ピストン11よりもシリンダ10の底部側には、下室13を画成するための区画体33がシリンダ10内を摺動可能に設けられている。シリンダ10内の上室12および下室13内には、油液が封入されており、区画体33により下室13と画成された室34には高圧(20〜30気圧程度)のガスが封入されている。
【0017】
上述の緩衝器の例えば一方側は車体により支持され、上記緩衝器の他方側に車輪側が固定される。具体的には、ピストンロッド16にて車体側に連結され、シリンダ10のピストンロッド16の突出側とは反対側の底部に取り付けられた取付アイ36にて車輪側に連結される。その際に、シリンダ10のピストンロッド16の突出側に固定されたバネ受37には車体との間に図示略の懸架スプリングが介装される。また、上記とは逆に緩衝器の他方側が車体により支持され緩衝器の一方側に車輪側が固定されるようにしても良い。
【0018】
車輪が走行に伴って振動すると該振動に伴ってシリンダ10とピストンロッド16との位置が相対的に変化するが、上記変化はピストン11に形成された流路の流体抵抗により抑制される。以下で詳述するごとくピストン11に形成された流路の流体抵抗は振動の速度や振幅により異なるように作られており、振動を抑制することにより、乗り心地が改善される。上記シリンダ10とピストンロッド16との間には、車輪が発生する振動の他に、車両の走行に伴って車体に発生する慣性力や遠心力も作用する。例えばハンドル操作により走行方向が変化することにより車体に遠心力が発生し、この遠心力に基づく力が上記シリンダ10とピストンロッド16との間に作用する。以下で説明するとおり、本実施形態の緩衝器は車両の走行に伴って車体に発生する力に基づく振動に対して良好な特性を有しており、車両走行における高い安定性が得られる。
【0019】
図2に示すように、バネ受24は、略円筒形状の円筒状部40と、円筒状部40の軸方向一端側から径方向外方に突出する円環状のフランジ部41とを有している。また、円筒状部40の内周面には軸方向に伸びる溝43が周方向に間隔をあけて複数形成されている。バネ受24は、フランジ部41をリテーナ23側にしており、円筒状部40の内周側にピストンロッド16の主軸部21が挿入される。これにより、バネ受24は、ピストンロッド16の主軸部21に摺動可能に支持される。また、バネ受24は、フランジ部41および円筒状部40においてリテーナ23に当接する一方、補助スプリング26の一端部をフランジ部41のリテーナ23とは反対側に当接させる。
【0020】
中間ストッパ28は、略円筒形状の円筒状部46と、円筒状部46の軸方向の中央位置から径方向外方に突出する円環状のフランジ部47とを有している。また、円筒状部46の内周面には、軸方向の中央位置に環状溝48が、径方向外方に凹んで円環状に形成されている。環状溝48内にはシールリング49が配置されており、中間ストッパ28の円筒状部46およびシールリング49の内周側にピストンロッド16の主軸部21が挿入される。これにより、中間ストッパ28は、ピストンロッド16の主軸部21に摺動可能に支持される。中間ストッパ28は、補助スプリング26の他端部をフランジ部47の軸方向の一端面に当接させる。また、中間ストッパ28は、リバウンドスプリング本体29の一端部をフランジ部47の軸方向の他端面に当接させる。
【0021】
バネ受30は、図1に示すように、テーパ状の筒状部52と、筒状部52の大径側から径方向外方に突出する円環状のフランジ部53とを有している。バネ受30は、フランジ部53をリバウンドスプリング本体29とは反対側にして、筒状部52の内側にピストンロッド16の主軸部21が挿入される。これにより、バネ受30は、ピストンロッド16の主軸部21に摺動可能に支持される。バネ受30は、リバウンドスプリング本体29の他端部をフランジ部53に当接させる。
【0022】
図2に示すように、ピストン本体14には、上室12と下室13とを連通させ、ピストン11の上室12側への移動、つまり伸び行程において上室12から下室13に向けて油液が流れ出す複数(図2では断面とした関係上一カ所のみ図示)の通路(第1通路)60aと、ピストン11の下室13側への移動、つまり縮み行程において下室13から上室12に向けて油液が流れ出す複数(図2では断面とした関係上一カ所のみ図示)の通路(第1通路)60bが設けられている。これらのうち半数を構成する通路60aは、円周方向において、それぞれ間に一カ所の通路60bを挟んで等ピッチで形成されており、ピストン11の軸方向一側(図1の上側)が径方向外側に軸方向他側(図1の下側)が径方向内側に開口している。
【0023】
そして、これら半数の通路60aに、減衰力を発生する減衰バルブ62aが設けられている。減衰バルブ62aは、ピストン11の軸線方向の下室13側に配置されている。通路60aは、ピストンロッド16がシリンダ10外に伸び出る伸び側にピストン11が移動するときに油液が通過する伸び側の通路を構成しており、これらに対して設けられた減衰バルブ62aは、伸び側の通路60aの油液の流動を規制して減衰力を発生させる伸び側の減衰バルブとなっている。
【0024】
また、残りの半数を構成する通路60bは、円周方向において、それぞれ間に一カ所の通路60aを挟んで等ピッチで形成されており、ピストン11の軸線方向他側(図1の下側)が径方向外側に軸線方向一側(図1の上側)が径方向内側に開口している。
【0025】
そして、これら残り半数の通路60bに、減衰力を発生する減衰バルブ62bが設けられている。減衰バルブ62bは、ピストン11の軸線方向の上室12側に配置されている。通路60bは、ピストンロッド16がシリンダ10内に入る縮み側にピストン11が移動するときに油液が通過する縮み側の通路を構成しており、これらに対して設けられた減衰バルブ62bは、縮み側の通路60bの油液の流動を規制して減衰力を発生させる縮み側の減衰バルブとなっている。
【0026】
ピストンロッド16には、取付軸部20のピストン11よりもさらに端側に減衰力可変機構65が取り付けられている。
【0027】
ピストン本体14は、略円板形状をなしており、その中央には、軸方向に貫通して、上記したピストンロッド16の取付軸部20を挿通させるための挿通穴68が形成されている。
【0028】
ピストン本体14の下室13側の端部には、伸び側の通路60aの一端開口位置に、減衰バルブ62aを構成するシート部71aが、円環状に形成されている。ピストン本体14の上室12側の端部には、縮み側の通路60bの一端の開口位置に、減衰バルブ62bを構成するシート部71bが、円環状に形成されている。
【0029】
ピストン本体14において、シート部71aの挿通穴68とは反対側は、シート部71aよりも軸線方向高さが低い環状の段差部72bとなっており、この段差部72bの位置に縮み側の通路60bの他端が開口している。また、同様に、ピストン本体14において、シート部71bの挿通穴68とは反対側は、シート部71bよりも軸線方向高さが低い環状の段差部72aとなっており、この段差部72aの位置に伸び側の通路60aの他端が開口している。
【0030】
減衰バルブ62aは、上記したシート部71aと、シート部71aの全体に同時に着座可能な環状のディスク75aとからなっており、ディスクバルブとなっている。ディスク75aは複数枚の環状の単体ディスクが重ね合わせられることで構成されている。ディスク75aのピストン本体14とは反対側には、ディスク75aよりも小径の環状のバルブ規制部材77aが配置されている。
【0031】
減衰バルブ62aには、シート部71aとディスク75aとの間に、これらが当接状態にあっても通路60aを下室13に連通させる固定オリフィス78aが、シート部71aに形成された溝あるいはディスク75aに形成された開口によって形成されている。ディスク75aは、シート部71aから離座することで通路60aを開放する。バルブ規制部材77aはディスク75aの開方向への規定以上の変形を規制する。減衰バルブ62aは、通路60aに設けられ、ピストン11の摺動によって生じる油液の流れを抑制して減衰力を発生させる。
【0032】
同様に、減衰バルブ62bは、上記したシート部71bと、シート部71bの全体に同時に着座可能な環状のディスク75bとからなっており、ディスクバルブとなっている。ディスク75bも複数枚の環状の単体ディスクが重ね合わせられることで構成されている。ディスク75bのピストン本体14とは反対側には、ディスク75bよりも小径の環状のバルブ規制部材77bが配置されている。バルブ規制部材77bはディスク75bの開方向への規定以上の変形を規制する。バルブ規制部材77bは、ピストンロッド16の主軸部21の取付軸部20側の端部の軸段部80に当接している。
【0033】
減衰バルブ62bには、シート部71bとディスク75bとの間に、これらが当接状態にあっても通路60bを上室12に連通させる固定オリフィス78bが、シート部71bに形成された溝あるいはディスク75bに形成された開口によって形成されている。ディスク75bは、シート部71bから離座することで通路60bを開放する。バルブ規制部材77bはディスク75bの開方向への規定以上の変形を規制する。減衰バルブ62bは、通路60bに設けられ、ピストン11の摺動によって生じる油液の流れを抑制して減衰力を発生させる。
【0034】
第1実施形態では、減衰バルブ62a,62bが内周クランプのディスクバルブである例を示したが、これに限らず、減衰力を発生する機構であればよく、例えば、ディスクバルブをコイルバネで付勢するリフトタイプのバルブとしてもよく、また、ポペット弁であってもよい。
【0035】
ピストンロッド16の先端部のオネジ19には、周波数(振動状態)により外部から制御されることなく減衰力を可変とする周波数感応部である減衰力可変機構65が螺合されている。減衰力可変機構65は、ピストンロッド16のオネジ19に螺合されるメネジ81が形成された蓋部材82と、この蓋部材82にその一端開口側が閉塞されるように取り付けられる略円筒状のハウジング本体83とからなるハウジング85と、このハウジング85内に摺動可能に嵌挿されるフリーピストン87と、フリーピストン87とハウジング85の蓋部材82との間に介装されてフリーピストン87がハウジング85に対し軸方向の蓋部材82側へ移動したときに圧縮変形する縮み側の弾性体であるOリング88と、フリーピストン87とハウジング85のハウジング本体83との間に介装されてフリーピストン87がハウジング85に対し上記とは反対側へ移動したときに圧縮変形する伸び側の弾性体であるOリング89とで構成されている。なお、図2においては便宜上自然状態のOリング88,89を図示している。特にOリング89は、シールとしても機能するので、取り付けられた状態で常時、変形(断面非円形)しているように配置されることが望ましい。上記したOリング88はフリーピストン87が一方向へ移動したときに圧縮変形してフリーピストン87の変位に対し抵抗力を発生する抵抗要素となっており、Oリング89はフリーピストン87が他方向へ移動したときに圧縮変形してフリーピストン87の変位に対し抵抗力を発生する抵抗要素となっている。
【0036】
蓋部材82は、切削加工を主体として形成されるもので、略円筒状の蓋内筒部91と、この蓋内筒部91の軸方向の端部から径方向外側に延出する円板状の蓋基板部92と、蓋基板部92の外周側から蓋内筒部91と同方向に延出する蓋外筒部93と、蓋内筒部91の先端側を覆うとともにオリフィス94が形成された蓋先板部95を有している。
【0037】
蓋内筒部91の内周部には、上記したメネジ81が形成されている。蓋外筒部93の内周面は、蓋基板部92側から順に、円筒面部96および曲面部97を有している。円筒面部96は一定径をなしており、円筒面部96に繋がる曲面部97は、円筒面部96から離れるほど大径の円環状となっている。曲面部97は蓋部材82の中心軸線を含む断面が円弧状をなしている。蓋外筒部93の外周面には、オネジ98が形成されている。
【0038】
ハウジング本体83は、切削加工を主体として形成されるもので、軸方向一側に径方向内方に突出する内側環状突起100が形成された略円筒状をなしている。ハウジング本体83の内周面には、軸方向一側から順に、小径円筒面部101、曲面部102、大径円筒面部103およびメネジ104が形成されている。小径円筒面部101は一定径をなしており、小径円筒面部101に繋がる曲面部102は、小径円筒面部101から離れるほど大径の円環状となっており、曲面部102に繋がる大径円筒面部103は、小径円筒面部101より大径の一定径をなしている。曲面部102はハウジング本体83の中心軸線を含む断面が円弧状をなしており、小径円筒面部101と曲面部102とが、内側環状突起100に形成されている。なお、ハウジング本体83を円筒状と記述しているが、内周面は断面円形となることが望ましいが、外周面は、多角形等断面非円形であってもよい。
【0039】
このようなハウジング本体83のメネジ104に、蓋部材82のオネジ98が螺合されることでこれらが一体化されてハウジング85となる。蓋部材82の蓋外筒部93はハウジング85において大径円筒面部103よりも径方向内側に突出する内側環状突起を構成しており、この部分に曲面部97がハウジング本体83の内側環状突起100の曲面部102と軸方向に対向するように配置されている。
【0040】
フリーピストン87は、切削加工を主体として形成されるもので、略円筒状のピストン筒部108と、このピストン筒部108の軸方向の端部側を閉塞するピストン閉板部109とを有しており、ピストン筒部108には径方向外方に突出する円環状の外側環状突起110が軸方向の中央に形成されている。
【0041】
ピストン筒部108の外周面には、軸方向のピストン閉板部109側から順に、小径円筒面部113、曲面部114、大径円筒面部115、曲面部116および小径円筒面部117が形成されている。曲面部114、大径円筒面部115および曲面部116は、外側環状突起110に形成されている。
【0042】
小径円筒面部113は一定径となっており、この小径円筒面部113に繋がる曲面部114は小径円筒面部113から離れるほど大径の円環状となっている。曲面部114に繋がる大径円筒面部115は、小径円筒面部113より大径の一定径をなしている。曲面部114はフリーピストン87の中心軸線を含む断面が円弧状をなしている。
【0043】
大径円筒面部115に繋がる曲面部116は、大径円筒面部115から離れるほど小径の円環状をなしている。曲面部116に小径円筒面部117が繋がっており、この小径円筒面部117は、小径円筒面部113と同径の一定径となっている。曲面部116はフリーピストン87の中心軸線を含む断面が円弧状をなしている。外側環状突起110はその軸線方向の中央位置を通る平面に対して対称形状をなしている。フリーピストン87は、外側環状突起110の軸方向の中央位置に、外側環状突起110を径方向に貫通する通路穴118がフリーピストン87の周方向に間隔をあけて複数箇所形成されている。
【0044】
フリーピストン87は、ハウジング85内に配置された状態で、大径円筒面部115においてハウジング本体83の大径円筒面部103に摺動可能に嵌挿されることになる。また、フリーピストン87は、一方の小径円筒面部113がハウジング本体83の小径円筒面部101に、他方の小径円筒面部117が蓋部材82の蓋外筒部93の円筒面部96に、それぞれ摺動可能に嵌挿されている。ハウジング85内に配置された状態で、ハウジング本体83の曲面部102とフリーピストン87の曲面部114とがこれらの径方向において位置を重ね合わせることになる。よって、ハウジング本体83の曲面部102と、フリーピストン87の曲面部114とがフリーピストン87の移動方向で対向する。加えて、蓋部材82の蓋外筒部93の曲面部97とフリーピストン87の曲面部116とがこれらの径方向において位置を重ね合わせることになる。よって、蓋部材82の曲面部97と、フリーピストン87の曲面部116とがフリーピストン87の移動方向で対向する。
【0045】
そして、フリーピストン87の小径円筒面部113および曲面部114と、ハウジング本体83の曲面部102および大径円筒面部103との間に、言い換えれば、フリーピストン87の外側環状突起110とハウジング85の一方の内側環状突起100との間に、Oリング89(図2において自然状態を図示)が配置されている。このOリング89は、自然状態にあるとき、中心軸線を含む断面が円形状をなし、内径がフリーピストン87の小径円筒面部113よりも小径で、外径がハウジング本体83の大径円筒面部103よりも大径となっている。つまり、Oリング89は、フリーピストン87およびハウジング85の両方に対してこれらの径方向に締め代をもって嵌合される。
【0046】
また、ハウジング85の大径円筒面部103および曲面部97と、フリーピストン87の曲面部116および小径円筒面部117との間に、言い換えれば、フリーピストン87の外側環状突起110とハウジングの他方の内側環状突起である蓋外筒部93との間に、Oリング88(図2において自然状態を図示)が配置されている。このOリング88は、自然状態にあるとき、中心軸線を含む断面が円形状をなしており、内径がフリーピストン87の小径円筒面部117よりも小径で、外径がハウジング85の大径円筒面部103よりも大径となっている。つまり、Oリング88も、フリーピストン87およびハウジング85の両方に対してこれらの径方向に締め代をもって嵌合される。
【0047】
両方のOリング88,89は、同じ大きさのものであり、フリーピストン87をハウジング85に対して所定の中立位置に保持するとともにフリーピストン87のハウジング85に対する軸方向の上室12側および下室13側の両側への軸方向移動を許容する。
【0048】
フリーピストン87においては、Oリング88が小径円筒面部117、曲面部116に接触することになり、これらのうち曲面部116は、フリーピストン87の移動方向に対し傾斜している。また、ハウジング85においては、Oリング88がハウジング85の大径円筒面部103および曲面部97に接触することになり、これらのうち曲面部97は、フリーピストン87の移動方向に対し傾斜している。
【0049】
言い換えれば、フリーピストン87の外周部に外側環状突起110を設け、この外側環状突起110の軸方向両面は、曲面部114と曲面部116とを構成し、ハウジング85の内周における、外側環状突起110の両側の位置に、曲面部102を有する内側環状突起100と、曲面部97を有する内側環状突起を構成する蓋外筒部93とを設け、外側環状突起110と、内側環状突起100および内側環状突起を構成する蓋外筒部93との間にそれぞれOリング89およびOリング88を設けている。
【0050】
そして、フリーピストン87の小径円筒面部113、曲面部114において、Oリング89に接触している部分であるフリーピストン接触面と、ハウジング85の大径円筒面部103および曲面部102において、Oリング89に接触している部分であるハウジング接触面とが、フリーピストン87の移動によってOリング89に接触している部分のOリングの中心を通る最短距離が変化し、最短距離となる部分を結ぶ線分の向きが変化する。言い換えれば、フリーピストン87のフリーピストン接触面と、ハウジング85のハウジング接触面と、それぞれのうちOリング89が接触している部分の最短距離を結ぶ線分の向きが変化するように小径円筒面部113および曲面部114と大径円筒面部103および曲面部102との形状が設定されている。具体的に、フリーピストン87がハウジング85に対して軸方向の上室12側(図2の上側)に位置するとき、フリーピストン接触面とハウジング接触面と、それぞれのうちOリング89が接触している部分の最短距離は大径円筒面部103と小径円筒面部113との半径差である(大径円筒面部103と小径円筒面部113との半径差よりもOリング89の外径と内径の半径差の方が大であるため、Oリング89がその差分潰れ、その部分、つまり最短距離の線分は傾斜角0となる)。一方フリーピストン87がハウジング85に対して軸方向の下室13側(図2の下側)に移動すると、Oリング89との接触部分は曲面部114と曲面部102となり、最もOリング89が潰される位置、つまり最短距離の線分の傾斜角が斜めになる。
【0051】
同様に、フリーピストン87の小径円筒面部117および曲面部116において、Oリング88に接触している部分であるフリーピストン接触面と、ハウジング85の大径円筒面部103および曲面部97において、Oリング88に接触している部分であるハウジング接触面とが、フリーピストン87の移動によってOリング88に接触している部分の最短距離が変化し、最短距離となる部分を結ぶ線分の向きが変化する。言い換えれば、フリーピストン87のフリーピストン接触面と、ハウジング85のハウジング接触面と、それぞれのうちOリング88が接触している部分の最短距離を結ぶ線分の向きが変化するように小径円筒面部117および曲面部116と、大径円筒面部103および曲面部97との形状が設定されている。具体的に、フリーピストン87がハウジング85に対して軸方向の下室13側(図2の下側)に位置するとき、フリーピストン接触面とハウジング接触面と、それぞれのうちOリング88が接触している部分の最短距離は大径円筒面部103と小径円筒面部117との半径差である(大径円筒面部103と小径円筒面部117との半径差よりもOリング88の外径と内径の半径差の方が大であるため、Oリング88がその差分潰れ、その部分、つまり最短距離の線分は傾斜角0となる)。一方フリーピストン87がハウジング85に対して軸方向の上室12側(図2の上側)に移動すると、Oリング88との接触部分は曲面部97と曲面部116となり、最もOリング88が潰される位置、つまり最短距離の線分の傾斜角が斜めになる。
【0052】
なお、減衰力可変機構65は、例えばハウジング本体83内に曲面部102の位置までOリング89を挿入し、これらハウジング本体83およびOリング89の内側にフリーピストン87を嵌合し、ハウジング本体83とフリーピストン87との間に曲面部116の位置までOリング88を挿入して、蓋部材82をハウジング本体83に螺合させることにより、組み立てられることになる。そして、このように予め組み立てられた減衰力可変機構65がピストンロッド16の取付軸部20のオネジ19にメネジ81を螺合させて取り付けられることになり、その際に、ハウジング85の蓋基板部92がバルブ規制部材77aに当接することになる。減衰力可変機構65の外径つまりハウジング85の外径は、シリンダ10の内径よりも流路抵抗とならない程度に小さく設定されている。
【0053】
ピストンロッド16には、主軸部21の、リテーナ23に当接するバネ受24と、セット状態にある補助スプリング26によりバネ受24から所定距離離間する中間ストッパ28との間位置に、径方向に沿う通路穴120が形成されており、この通路穴120に連通し先端部に開口する、通路穴120より大径の通路穴121が軸方向に沿って形成されている。中間ストッパ28は、補助スプリング26を伸縮させながらピストンロッド16上を、バネ受24に近接・離間するように移動可能となっている。中間ストッパ28は、バネ受24に近接することで通路穴120を、バネ受24側に近づくほど閉塞量を大きくするように閉塞する。中間ストッパ28は最大限リテーナ23側に移動すると、リテーナ23に係止されたバネ受24に当接してピストンロッド16に対して停止することになり、この状態では通路穴120を全閉する。このように、中間ストッパ28と通路穴120とが、通路面積が調整される可変オリフィス122を構成している。ピストンロッド16の通路穴120,121およびオリフィス94によって、上室12が、減衰力可変機構65のハウジング85内に形成された圧力室125に連通している。なお、圧力室125は、ハウジング85とOリング88,89とフリーピストン87とで画成されている。
【0054】
上記したようにフリーピストン87の外側環状突起110の軸方向の中央位置に、外側環状突起110を径方向に貫通する通路穴118が複数形成されている。これにより、圧力室125は、通路穴118を介して、ハウジング85とOリング88とOリング89とフリーピストン87とで囲まれた室128に常時連通する。言い換えれば、通路穴118は、一方のOリング88と他方のOリング89との間の室128に圧力室125から油液を導く。なお、通路穴118は、フリーピストン87の外側環状突起110の位置に形成されていることから、フリーピストン87のハウジング85に対する移動範囲の全域において、一方のOリング88および他方のOリング89のいずれにも接触することはない。
【0055】
通路穴120,121、オリフィス94および圧力室125が、上室12および下室13のうちの一方である上室12に連通されて、ピストン11の上室12側への移動によりシリンダ10内の上室12から油液が流れ出す通路(第2通路)130を構成している。よって、中間ストッパ28と通路穴120とで構成される可変オリフィス122は、この通路130に設けられており、この可変オリフィス122は、圧力室125と直列に設けられている。フリーピストン87とハウジング85との間に設けられ、フリーピストン87の摺動方向両側に配置されたOリング88,89は、このフリーピストン87の変位に対し抵抗力を発生する。つまり、Oリング88は、フリーピストン87がハウジング85に対し一方の上室12側へ移動すると弾性力を発生することになり、Oリング89は、フリーピストン87がハウジング85に対し他方の下室13側へ移動すると弾性力を発生する。
【0056】
ここで、ピストンロッド16が伸び側に移動する伸び行程では、上室12から通路60aを介して下室13に油液が流れることになるが、ピストン速度が微低速域の場合は、上室12から通路60aに導入された油液が、基本的に、シート部71aとシート部71aに当接するディスク75aとの間に形成された常時開口の固定オリフィス78aを介して下室13に流れ、その際オリフィス特性(減衰力がピストン速度の2乗にほぼ比例する)の減衰力が発生する。また、ピストン速度が上昇して低速域に達すると、上室12から通路60aに導入された油液が、基本的にディスク75aを開きながらディスク75aとシート部71aとの間を通って下室13に流れることになる。このため、バルブ特性(減衰力がピストン速度にほぼ比例する)の減衰力が発生する。
【0057】
ピストンロッド16が縮み側に移動する縮み行程では、下室13から通路60bを介して上室12に油液が流れることになるが、ピストン速度が微低速域の場合は、下室13から通路60bに導入された油液が、基本的に、シート部71bとシート部71bに当接するディスク75bとの間に形成された常時開口の固定オリフィス78bを介して上室12に流れ、その際オリフィス特性(減衰力がピストン速度の2乗にほぼ比例する)の減衰力が発生する。また、ピストン速度が上昇して低速域に達すると、下室13から通路60bに導入された油液が、基本的にディスク75bを開きながらディスク75bとシート部71bとの間を通って上室12に流れることになる。このため、バルブ特性(減衰力がピストン速度にほぼ比例する)の減衰力が発生する。
【0058】
ここで、ピストン速度が遅いとき、つまり微低速域(例えば0.05m/s)の周波数が比較的高い領域(例えば7Hz以上)は、例えば路面の細かな表面の凹凸から生じる振動であり、このような状況では減衰力を下げるのが好ましい。また、同じくピストン速度が遅いときであっても、上記とは逆に周波数が比較的低い領域(例えば2Hz以下)は、いわゆる車体のロールによるぐらつき等の振動であり、このような状況では減衰力を上げるのが好ましい。
【0059】
これに対応して、上記した減衰力可変機構65が、ピストン速度が同じように遅い場合でも、周波数に応じて減衰力を可変とする。つまり、ピストン速度が遅い時、ピストン11の往復動の周波数が高くなると、その伸び行程では、上室12の圧力が高くなって、ピストンロッド16の通路穴120,121およびオリフィス94を介して減衰力可変機構65の圧力室125に上室12から油液を導入させながら、フリーピストン87が軸方向の下室13側にあるOリング89の付勢力に抗してハウジング85に対して軸方向の下室13側に移動する。このようにフリーピストン87が軸方向の下室13側に移動することにより、圧力室125に上室12から油液を導入することになり、上室12から通路60aに導入され減衰バルブ62aを通過して下室13に流れる油液の流量が減ることになる。これにより、減衰力が下がる。このように、フリーピストン87は、ピストン11の移動により圧力室125の容積を可変にする。
【0060】
続く縮み行程では、下室13の圧力が高くなるため、オリフィス94およびピストンロッド16の通路穴120,121を介して圧力室125から上室12に油液を排出させながら、それまで軸方向の下室13側に移動していたフリーピストン87が軸方向の上室12側にあるOリング88の付勢力に抗してハウジング85に対して軸方向の上室12側に移動する。このようにフリーピストン87が軸方向の上室12側に移動することにより、下室13の容積を拡大することになり、下室13から通路60bに導入され減衰バルブ62bを通過して上室12に流れる油液の流量が減ることになる。これにより、減衰力が下がる。
【0061】
そして、ピストン11の周波数が高い領域では、フリーピストン87の移動の周波数も追従して高くなり、その結果、上記した伸び行程の都度、上室12から圧力室125に油液が流れ、縮み行程の都度、下室13の容積がフリーピストン87の移動の分拡大することになって、上記のように、減衰力が下がった状態に維持されることになる。
【0062】
他方で、ピストン速度が遅い時、ピストン11の周波数が低くなると、フリーピストン87の移動の周波数も追従して低くなるため、伸び行程の初期に、上室12から圧力室125に油液が流れるものの、その後はフリーピストン87がOリング89を圧縮してハウジング85に対して軸方向の下室13側で停止し、上室12から圧力室125に油液が流れなくなるため、上室12から通路60aに導入され減衰バルブ62aを通過して下室13に流れる油液の流量が減らない状態となり、減衰力が高くなる。
【0063】
続く縮み行程でも、その初期に、下室13の容積がハウジング85に対するフリーピストン87の移動の分拡大することになるものの、その後はフリーピストン87がOリング88を圧縮してハウジング85に対し軸方向の上室12側で停止し、下室13の容積に影響しなくなるため、下室13から通路60bに導入され減衰バルブ62bを通過して上室12に流れる油液の流量が減らない状態となり、減衰力が高くなる。
【0064】
そして、本実施形態においては、上記したように、フリーピストン87に中立位置へ戻すように付勢力を与える部品としてゴム材料からなるOリング88,89を用いており、フリーピストン87の中立位置では、フリーピストン87とハウジング85との間にあるOリング88が、ハウジング本体83の大径円筒面部103と、フリーピストン87の小径円筒面部117との間に、Oリング89が、ハウジング本体83の大径円筒面部103と、フリーピストン87の小径円筒面部113との間に位置する。
【0065】
この中立位置から例えば伸び行程でフリーピストン87がハウジング85に対して軸方向の下室13側に移動すると、ハウジング85の大径円筒面部103とフリーピストン87の小径円筒面部113とがOリング89を、相互間で転動つまり内径側と外径側とが逆方向に移動するように回転させてハウジング85に対して軸方向の下室13側に移動させることになり、その後、ハウジング85の曲面部102の軸方向の上室12側と、フリーピストン87の曲面部114の軸方向の下室13側とが、Oリング89を転動させながらフリーピストン87の軸方向および径方向に圧縮し、続いてハウジング85の曲面部102の軸方向の下室13側と、フリーピストン87の曲面部114の軸方向の上室12とが、Oリング89をフリーピストン87の軸方向および径方向に圧縮する。なお、この中立位置から伸び行程でフリーピストン87がハウジング85に対して軸方向の下室13側に移動すると、ハウジング85の大径円筒面部103とフリーピストン87の小径円筒面部117とがOリング88を、相互間で転動させてハウジング85に対して軸方向の下室13側に移動させることになる。
【0066】
このとき、ハウジング85の大径円筒面部103とフリーピストン87の小径円筒面部113との間でOリング89を転動させる領域と、ハウジング85の曲面部102とフリーピストン87の曲面部114との間でOリング89を転動させる領域とが、フリーピストン87の移動領域のうち下流側端部から離間した位置において、Oリング89が転動する転動領域であり、下流側端部から離間した位置において、Oリング89がフリーピストン87の移動方向にハウジング85とフリーピストン87と双方に接触した状態で移動する移動領域となっている。この移動とは、Oリング89の少なくともフリーピストン移動方向下流端位置(図2における下端位置)が移動することを言う。
【0067】
また、ハウジング85の曲面部102とフリーピストン87の曲面部114との間でOリング89を圧縮する領域が、フリーピストン87の移動領域のうち下流側端部側において、Oリング89をフリーピストン87の移動方向に弾性変形させる移動方向変形領域となっている。この移動方向変形領域における弾性変形とは、Oリング89のフリーピストン移動方向上流端位置(図2における上端位置)が移動し、下流端位置が移動しない変形のことである。ここでは、転動領域および移動領域が、移動方向変形領域の一部とラップしている。
【0068】
続く縮み行程でフリーピストン87がハウジング85に対して軸方向の上室12側に移動すると、ハウジング85の曲面部102の軸方向の下室13側と、フリーピストン87の曲面部114の軸方向の上室12とが、Oリング89の圧縮を解除し、続いて、ハウジング85の曲面部102の軸方向の上室12側と、フリーピストン87の曲面部114の軸方向の下室13側とが、Oリング89を転動させながら圧縮をさらに解除することになり、続いて、ハウジング85の大径円筒面部103とフリーピストン87の小径円筒面部113とがOリング89を、相互間で転動させながらハウジング85に対して軸方向の上室12側に移動させることになる。なお、このとき、Oリング88についても、ハウジング85の大径円筒面部103とフリーピストン87の小径円筒面部117とが、相互間で転動させてハウジング85に対して軸方向の上室12側に移動させることになる。そして、その後、ハウジング85の曲面部97の軸方向の下室13側と、フリーピストン87の曲面部116の軸方向の上室12側とが、Oリング88を転動させながらフリーピストン87の軸方向および径方向に圧縮し、続いてハウジング85の曲面部97の軸方向の上室12側と、フリーピストン87の曲面部116の軸方向の下室13側とが、Oリング88をフリーピストン87の軸方向および径方向に圧縮する。
【0069】
このとき、ハウジング85の大径円筒面部103とフリーピストン87の小径円筒面部117との間でOリング88を転動させる領域と、ハウジング85の曲面部97とフリーピストン87の曲面部116との間でOリング88を転動させる領域とが、フリーピストン87の移動領域のうち上流側端部から離間した位置において、Oリング88が転動する転動領域であり、上流側端部から離間した位置において、Oリング88がフリーピストン87の移動方向にハウジング85とフリーピストン87と双方に接触した状態で移動する移動領域となっている。この移動とは、Oリング88の少なくともフリーピストン移動方向上流端位置(図2における上端位置)が移動することを言う。
【0070】
また、ハウジング85の曲面部97とフリーピストン87の曲面部116との間でOリング88を圧縮する領域が、フリーピストン87の移動領域のうち下流側端部側において、Oリング88をフリーピストン87の移動方向に弾性変形させる移動方向変形領域となっている。この移動方向変形領域における弾性変形とは、Oリング88のフリーピストン移動方向下流端位置(図2における下端位置)が移動し、上流端位置が移動しない変形のことである。ここでは、転動領域および移動領域が、移動方向変形領域の一部とラップしている。
【0071】
上記に続く伸び行程では、ハウジング85の曲面部97の上室12側とフリーピストン87の曲面部116の下室13側とがOリング88の圧縮を解除し、続いて、ハウジング85の曲面部97の下室13側とフリーピストン87の曲面部116の上室12側とがOリング88を転動させながら圧縮をさらに解除することになり、続いて、ハウジング85の大径円筒面部103とフリーピストン87の小径円筒面部117とがOリング88を、相互間で転動させてハウジング85に対して軸方向の下室13側に移動させることになる。このとき、Oリング89についても、ハウジング85の大径円筒面部103とフリーピストン87の小径円筒面部113とが、相互間で転動させてハウジング85に対して軸方向の下室13側に移動させることになる。そして、フリーピストン87が中立位置を通過すると、Oリング88,89を上記と同様に、動作させる。
【0072】
以上により、Oリング88,89は、移動方向変形領域において移動方向につぶされる。
【0073】
ここで、ゴム材料からなるOリング88,89によるフリーピストン87の変位に対する荷重の特性は、非線形の特性となる。つまり、フリーピストン87の中立位置の前後の所定範囲では線形に近い特性となり、この範囲を超えると、変位に対して滑らかに荷重の増加率が増大するようになる。上記のように、ピストン11の作動周波数が高い領域では、ピストン11の振幅も小さいため、フリーピストン87の変位も小さくなり、中立位置前後の線形の特性範囲で動作することになる。これにより、フリーピストン87は動きやすくなり、ピストン11の振動に追従して振動して減衰バルブ62a,62bの発生する減衰力の低減に寄与する。
【0074】
他方で、ピストン11の作動周波数が低い領域では、ピストン11の振幅が大きくなるため、フリーピストン87の変位が大きくなり、非線形の特性範囲で動作することになる。これにより、フリーピストン87は徐々に滑らかに、動き難くなり、減衰バルブ62a,62bの発生する減衰力を低減し難くなる。
【0075】
リバウンドスプリングは、上記したように車両旋回時の内周側の車輪の浮き上がりを抑制して車体のロール量を抑えることができる効果がある。図3は、リバウンドスプリングを有する緩衝器のストローク位置に対する、バネ受37と車体との間に介装された図示略の懸架スプリングおよびリバウンドスプリングのスプリング反力の関係を示すものである。図3に示すように、スプリング反力は、縮み側の限界位置であるフルボトムの位置Pfbで最も高く、このフルボトムPfbの位置から1Gの位置(車体を水平とする位置)P0までのバウンドストロークSbと、1Gの位置P0から縮み側のリバウンドストロークSrのうちのリバウンドスプリングが作用し始める伸び側の所定位置P1までのバッファクリアランスBCとについては、バネ受37と車体との間に介装された図示略の懸架スプリングのバネ定数Ksに基づく比例関係となる。また、リバウンドストロークSrのうち、リバウンドスプリングが作用する、伸び側の所定位置P1から伸び側の限界位置であるフルリバウンドの位置Pfrまでのリバウンドスプリング作動範囲Rは、懸架スプリングとリバウンドスプリングとが並列で作用することになるため、懸架スプリングのバネ定数Ksとリバウンドスプリングのバネ定数Krとを加算したバネ定数Ks+Krによる比例関係となる。このため、リバウンドスプリング作動範囲Rにおいては、車体のロール量を小さく抑えることができるものの、リバウンドスプリングの分だけバネ定数が大きくなり、これにより、緩衝器における減衰力が低下してしまう。その結果、車両のバネ上の制振性が不足することになり、リバウンドスプリング作動範囲Rにおける操舵時の乗り心地性能が低下してしまう。
【0076】
これに対し、本実施形態では、ピストンロッド16における通路穴120の上室12への開口部が、リテーナ23に当接するバネ受24と、セット状態にある補助スプリング26によりバネ受24と離間する中間ストッパ28との間に配置されており、この通路穴120が中間ストッパ28とで通路面積が可変となる可変オリフィス122を構成している。これにより、例えば車両の旋回走行時の車体のロールにより旋回内側のサスペンションに含まれる緩衝器のピストンロッド16が伸び側に移動し、しかも、この伸び行程において、ピストンロッド16が伸び側に所定量以上移動して、緩衝体31をロッドガイド17に当接させて、リバウンドスプリング作動範囲Rに入ると、バネ受30がピストンロッド16上を摺動しつつリバウンドスプリング本体29を中間ストッパ28との間で、補助スプリング26を中間ストッパ28、バネ受24およびリテーナ23との間で縮長させることになり、中間ストッパ28を、バネ受24の方向に移動させて、通路穴120を閉じる。
【0077】
このとき、リバウンドスプリング32を構成するリバウンドスプリング本体29と補助スプリング26とは同時進行で弾性変形することになり、中間ストッパ28を、リバウンドスプリング本体29および補助スプリング26の縮み量(ピストンロッド16のシリンダ10からの突出量)が大きくなるほど、通路穴120の開口量を小さくし、しかもフルリバウンド近傍の所定位置からフルリバウンドの位置までの範囲では通路穴120を全部閉塞するように移動させる。つまり、可変オリフィス122は、ピストンロッド16が伸び方向に移動したとき、リバウンドスプリング本体29および補助スプリング26からなりリバウンドスプリング32によって開口面積(流路面積)が調整される。具体的には、ピストンロッド16が伸び方向に移動したときリバウンドスプリング32によって開口面積が減少するように調整される。
【0078】
これにより、ピストンロッド16が、伸び行程にてフルリバウンドに向けて伸び出ると、上室12から通路穴120,121およびオリフィス94、つまり通路130を介して減衰力可変機構65の圧力室125に向けて流れる油液が、中間ストッパ28によってピストンロッド16のシリンダ10からの伸び出し量に応じて制限されることになり、その結果、上室12から減衰バルブ62aを介して下室13に流れ出る油液は、ピストンロッド16のシリンダ10からの伸び出し量に応じて多くなる。よって、緩衝器は、リバウンドスプリング作動範囲Rにおいて、ピストンロッド16のシリンダ10からの伸び出し量に応じて減衰力が高くなる。そして、フルリバウンド近くまでピストンロッド16が伸び出ると、減衰力可変機構65が機能しない状態となり、上室12からの油液がすべて減衰バルブ62aを介して下室13に流れることになる。つまり、周波数により外部から制御されることなく減衰力を可変とする周波数感応の減衰力可変機構65がない緩衝器と等価になる。
【0079】
また、例えば、フルリバウンドからピストンロッド16が縮み側に移動する縮み行程にでは、上記とは逆に、その初期には、圧力室125から上室12側に流れ出る油液がなく、フリーピストン87がハウジング85に対して移動しないためフリーピストン87の移動による下室13の容積拡大がなく、下室13からすべて減衰バルブ62bを介して上室12に油液が流れることになって、減衰力が高くなる。その後は、中間ストッパ28を、リバウンドスプリング本体29および補助スプリング26の伸び量(ピストンロッド16のシリンダ10への進入量)が大きくなるほど、通路穴120の開口量を大きくし、しかも、リバウンドスプリング本体29および補助スプリング26の付勢力が作用しなくなる所定距離手前から、通路穴120を全開するように移動させることになり、徐々に圧力室125から上室12側に油液が流れ、下室13から減衰バルブ62bを介して上室12に流れ出る油液の油量が減り、減衰力が低くなる。
【0080】
以上の構成の第1実施形態の油圧回路図は図4に示すようになっている。つまり、上室12および下室13の間に並列に、伸び側の減衰バルブ62a、縮み側の減衰バルブ62bおよび減衰力可変機構65が設けられており、減衰力可変機構65の上室12側に、リバウンドスプリング32で制御される可変オリフィス122が設けられている。
【0081】
以上により、第1実施形態によれば、リバウンドスプリング作動範囲Rにおける減衰力可変機構65の作動を制限することで、減衰力の低下を抑制できる。つまり、図5に破線で示す減衰力可変機構65の作動を制限しない場合と比べて、減衰力可変機構65の作動を制限することで、図5に実線で示すように減衰力の低下を抑制できることになる。その結果、車体ロール時の旋回内側の緩衝器において、フルリバウンド近傍まで伸び切った後の減衰力の立ち上がり応答性を向上できる。このように、減衰力特性を一層詳細に制御可能となり、搭載車両の操舵安定性および乗り心地を改善できる。
【0082】
つまり、減衰力可変機構65は、直進時の乗り心地を重視するためにバネ上共振周波数以上にあたる高周波入力に対して減衰力低減率を大きくとった設定にできるが、減衰力低減率を大きくして減衰力可変機構65による周波数感応の機能を強めすぎると、その背反として乗り心地がソフトに切り替わるカットオフ周波数に近いバネ上共振付近の低周波入力に対しては、減衰力の立ち上がりの応答が悪くなり、バネ上の制振性の悪化を招く性質をもっている。よって、上記のように、リバウンドスプリング作動範囲Rにおいて可変オリフィス122を絞り周波数感応の機能を弱めることで、図6に実線で示すバネ上共振周波数での減衰力リサージュ波形から分かるように、図6に破線で示す周波数感応の機能を弱めない場合と比べて、図6に範囲Aで示すように、減衰力の立ち上がりの応答性が良くなり、バネ上の制振性が向上する。
【0083】
図7は、上記効果を検証するためのシミュレーションの結果であり、図7(a)は搭載車両の操舵角、図7(b)は旋回内側のバネ上の上下加速度であり、図7(c)は旋回内側のバネ上の上下変位を示している。この解析は、図7(a)に示すように、直進時から左旋回(55km/h,0.4G相当の舵角)後、そのままの状態での旋回中に、図7(c)に鎖線で示すように路面入力(±5mm,2Hz)が入力された場合のシミュレーションである。旋回内側のバネ上の上下加速度が、図7(b)に破線で示す減衰力可変機構65の作動を制限しない場合と比べて、図7(b)に実線で示すように減衰力可変機構65の作動を制限することで、範囲B1から範囲B2へと抑えられる。また、旋回内側のバネ上の上下変位の大きさも、図7(c)に破線で示す減衰力可変機構65の作動を制限しない場合と比べて、減衰力可変機構65の作動を制限することで、図7(c)に実線で示すように抑えられることになる。よって、バネ上の制振性が向上することがわかる。その結果、搭載車両の乗り心地を改善できる。
【0084】
以上により、リバウンドスプリング32が作動しない搭載車両の直進時は周波数感応の機能を十分に働かせて乗り心地を向上し、リバウンドスプリング32が作動する操舵時は、減衰力立ち上がりの応答性を上げて路面または操舵からの大入力に対するバネ上制振性を向上することで操縦安定性を向上でき、さらにバネ定数の増加によるバネ上制振性の悪化を防ぐことができる。
【0085】
上記した特許文献1に記載のものでは、リバウンドスプリングが縮長すると、ピストンロッドに固定されたバネ受のプランジャが、ピストンロッドに対して可動側のバネ受に嵌合してピストンロッドとの間に油室を形成し、この油室からプランジャに形成されたオリフィスを介して油液を流出させることで流体力を発生させてリバウンド時の衝撃および騒音を低減するようになっている。
【0086】
これに対し、第1実施形態は、上室12に連通する通路130に、ピストン11の移動により圧力室125の容積を可変にするフリーピストン87が設けられて周波数に感応して減衰力を可変とするものにおいて、通路130にリバウンドスプリング32によって面積が可変とされる可変オリフィス122を設けた。言い換えれば、リバウンドスプリング32の撓み量に依存して可変オリフィス122の面積を調整できる構造にした。これにより、入力周波数に応じて減衰力を下げる周波数感応の機能の強弱を、リバウンドスプリング32の作動範囲において調整でき、減衰力特性を可変とすることができる。その結果、リバウンドスプリング32の作動時のバネ上制振の調整を行うことができる。したがって、減衰力特性を一層詳細に制御可能となる。
【0087】
具体的に、可変オリフィス122は、ピストンロッド16が伸び方向に移動したときリバウンドスプリング32によって面積が減少するよう調整されるため、リバウンドスプリング32の作動範囲では、ピストンロッド16が伸び方向に移動するほど、圧力室125に対する油液の出入りを制限し周波数感応の機能を弱めて、上室12と下室13とを繋ぎ減衰バルブ62a,62bを有する通路60a,60bを流れる液量を上げることになる。したがって、リバウンドスプリング32が作動することによる減衰力の低下を抑制することができる。これにより、操舵時の減衰力の立ち上がりの応答性が向上し、路面からの低周波入力に対するバネ上制振性が向上する。
【0088】
また、可変オリフィス122は、ピストンロッド16が伸び方向に移動したときリバウンドスプリング32によって面積が減少するよう調整されるため、リバウンドスプリング32の付勢力が大きくなるほど、圧力室125に対する油液の出入りを制限し周波数感応の機能を弱めることができる。したがって、リバウンドスプリング32の付勢力が大きくなるほど、減衰バルブ62a,62bが設けられた通路60a,60bに油液を多く流すことができ、減衰力を上げることができる。
【0089】
「第2実施形態」
次に、第2実施形態を主に図8〜図10に基づいて第1実施形態との相違部分を中心に説明する。なお、第1実施形態と共通する部位については、同一称呼、同一の符号で表す。
【0090】
第2実施形態においては、ピストン本体14の下室13側の端部には、伸び側の通路60aの一端開口位置の外側に、環状の内側シート部140aが形成されている。この内側シート部140aの径方向の外側には、軸方向の高さを内側シート部140aよりも高くして環状の外側シート部141aが形成されている。外側シート部141aの挿通穴68とは反対側が、シート部141aよりも軸線方向高さが低い、第1実施形態と同様の環状の段差部72bとなっており、この段差部72bの位置に縮み側の通路60bの下室13側が開口している。内側シート部140aには、通路60aとは連通しない位置に、径方向に貫通する通路溝142aが形成されている。
【0091】
ピストン本体14の上室12側の端部には、縮み側の通路60bの一端開口位置の外側に、環状の内側シート部140bが形成されている。この内側シート部140bの径方向の外側には、軸方向の高さを内側シート部140bよりも高くして環状の外側シート部141bが形成されている。外側シート部141bの挿通穴68とは反対側は、シート部141bよりも軸線方向高さが低い、第1実施形態と同様の環状の段差部72aとなっており、この段差部72aの位置に伸び側の通路60aの上室12側が開口している。内側シート部140bには、通路60bとは連通しない位置に、径方向に貫通する溝142bが形成されている。
【0092】
そして、ピストン本体14とバルブ規制部材77aとの間に、内側シート部140aに当接する内側ディスク143aと、外側シート部141aに当接する外側ディスク144aとが設けられている。また、ピストン本体14とバルブ規制部材77bとの間にも、内側シート部140bに当接する内側ディスク143bと、外側シート部141bに当接する外側ディスク144bとが設けられている。
【0093】
内側ディスク143aと内側シート部140aとが、ディスクバルブである伸び側の減衰バルブ(第1減衰バルブ)145aを構成している。減衰バルブ145aには、内側ディスク143aと内側シート部140aとの間に、これらが当接状態にあっても通路60aを内側シート部140aの外側の中間室146aに連通させる固定オリフィス(第1の固定オリフィス)147aが、シート部140aに形成された溝あるいは内側ディスク143aに形成された開口によって形成されている。
【0094】
ピストンロッド16には、通路穴121を通路溝142aに連通させるオリフィスとしての通路穴150が径方向にそって形成されている。この通路穴150と通路溝142aと中間室146aとからなるピストン内通路151は常時連通状態にある。
【0095】
外側ディスク144aと外側シート部141aとが、ディスクバルブである伸び側の減衰バルブ(第2減衰バルブ)148aを構成している。減衰バルブ148aには、外側ディスク144aと外側シート部141aとの間に、これらが当接状態にあっても中間室146aを下室13に連通させる固定オリフィス(第2の固定オリフィス)149aが、外側シート部141aに形成された溝あるいは外側ディスク144aに形成された開口によって形成されている。
【0096】
以上により、ピストン内通路151は、通路穴120と通路穴121とを有する通路130と、減衰バルブ145a,148aとを介して上室12と下室13とを連通可能となっている。また、内側の減衰バルブ145aおよび外側の減衰バルブ148aは、ピストン内通路151に直列に配されて伸び行程において減衰力を発生させるものであり、ピストン内通路151は、通路穴150と通路溝142aとによって、内側の減衰バルブ145aと外側の減衰バルブ148aとの間の中間室146aが、可変オリフィス122の下流側に連通する。
【0097】
縮み側の中間室146bは、通路穴120と通路穴121とからなる通路130には連通していない。よって、縮み側は、内側ディスク143bおよび内側シート部140bと、外側ディスク144bおよび外側シート部141bとが、ディスクバルブである縮み側の一つの減衰バルブ145bを構成している。内側の減衰バルブ145bには、内側ディスク143bと内側シート部140bとの間に、これらが当接状態にあっても通路60bを内側シート部140bの外側の中間室146bに連通させる固定オリフィス147bが、シート部140aに形成された溝あるいは内側ディスク143aに形成された開口によって形成されている。また、外側ディスク144bと外側シート部141bとの間にも、これらが当接状態にあっても中間室146bを上室12に連通させる固定オリフィス149bが、外側シート部141bに形成された溝あるいは外側ディスク144bに形成された開口によって形成されている。
【0098】
以上の構成の第2実施形態は、リバウンドスプリング作動範囲R以外では、ピストンロッド16が伸び側に移動する伸び行程において、上室12の油液が、通路130とピストン内通路151とを介して、外側の減衰バルブ148aを通過しつつ下室13に流れるとともに、通路60aを介して内側の減衰バルブ145aおよび外側の減衰バルブ148aを通過しつつ下室13に流れ、さらに、通路130を介して減衰力可変機構65の圧力室125に導入可能になる。よって、減衰力が下がることになる。
【0099】
これに対して、リバウンドスプリング作動範囲Rでは、可変オリフィス122の通路穴120が中間ストッパ28で閉塞されると、第1実施形態と同様、その閉塞量に応じて減衰力可変機構65への上室12から通路130を介しての油液の導入が制限されることになって、減衰力可変機構65は機能が弱められる。その上、上室12から通路130およびピストン内通路151を介して外側の減衰バルブ148aを通過する油液も制限されることになるため、上室12からの油液の多くが、通路60aを介して内側の減衰バルブ145aおよび外側の減衰バルブ148aを通過しつつ下室13に流れることになり、減衰力が上がることになる。
【0100】
以上の構成の第2実施形態の油圧回路図は、図9に示すようになっており、伸び側に、内側の減衰バルブ145aと外側の減衰バルブ148aとが直列に設けられ、これらの間の可変オリフィス122の下流側がピストン内通路151を介して連通することになる。
【0101】
以上、第2実施形態によれば、内側の減衰バルブ145aと外側の減衰バルブ148aとの間の中間室146aと可変オリフィス122の下流側とが連通するため、第1実施形態と同様にリバウンドスプリング作動範囲Rにおける減衰力可変機構65の作動を制限することに加えて、伸び側の一方の外側の減衰バルブ148aの流路を制限することになり、さらに減衰力を上げることができる。よって、第1実施形態よりも効果的にバネ上制振性を上げることが可能となり、さらなる操縦安定性および乗り心地の改善ができる。
【0102】
図10は、第2実施形態における周波数に対する減衰力の特性を、可変オリフィス122の流路面積毎に示すものであり、流路面積が小さい場合が線C1、流路面積が中間の場合が線C2、流路面積が大きい場合が線C3となっている。図10に示すように、乗り心地がソフトに切り替わるカットオフ周波数Fc1,Fc2,Fc3を可変オリフィス122の流路面積に応じて、当該流路面積が狭くなるほど低周波側となるように変更できる。また、伸び側の減衰力周波数特性は、可変オリフィス122を閉じることで、減衰力可変機構65では変化しないバネ上共振周波数Fu以下の低周波数に対しても減衰力を上昇させることができる。
【0103】
また、固定オリフィス147aを有する内側の減衰バルブ145aと、固定オリフィス149aを有する外側の減衰バルブ148aとを直列に配し、これら減衰バルブ145aおよび減衰バルブ148aの間と、可変オリフィス122の下流側とが連通する構成とした。これにより、直列に並べられた内側の減衰バルブ145aと外側の減衰バルブ148aとの間に導入される油液の量を、可変オリフィス122で調整できるため、開弁特性を容易に変更できる。
【0104】
第2実施形態では、伸び側に、内側シート部140aおよび外側シート部141aを有する二重シートの減衰バルブ145aおよび減衰バルブ148aを用いた。これにより、ピストン11の軸方向の長さを延ばすことなく、所望の特性を得ることができる。なお、ピストン11の軸方向の長さは長くなるものの2つの減衰バルブが直列に配置された二段の減衰バルブとしても良い。
【0105】
「第3実施形態」
次に、第3実施形態を主に図11〜図12に基づいて第2実施形態との相違部分を中心に説明する。なお、第2実施形態と共通する部位については、同一称呼、同一の符号で表す。
【0106】
第3実施形態においては、バネ受24が、リテーナ23と中間ストッパ28との間ではなく、リテーナ23とピストン11との間に設けられており、中間ストッパ28が直接リテーナ23に当接するようになっている。また、バネ受24にはフランジ部41の外周縁部からピストン11の方向に突出する円環状のバルブ押圧部155が形成されている。バネ受24は、縮み側の減衰バルブ145bの外側ディスク144bに、ピストン11とは反対側から当接することになり、外側ディスク144bは、このバネ受24を介してリバウンドスプリング32等を押しながら開くことになる。
【0107】
以上の構成の第3実施形態では、ピストンロッド16が縮み側に移動する縮み行程において、減衰バルブ145bが開弁する際には、バネ受24のバルブ押圧部155に当接する外側ディスク144bおよびその内側の内側ディスク143bがバネ受24を押圧してピストンロッド16に対して移動させる必要がある。リバウンドスプリング作動範囲R以外では、バネ受24は、リバウンドスプリング32の付勢力は基本的に受けないため、減衰バルブ145bの内側ディスク143bおよび外側ディスク144bを開きながら通路60bを介して下室13から上室12に流れる油液は、流れやすく、よって、減衰力は下がることになる。
【0108】
これに対して、リバウンドスプリング作動範囲Rでは、ピストンロッド16が縮み側に移動する縮み行程において、リバウンドスプリング32を構成するリバウンドスプリング本体29および補助スプリング26が縮むことになり、これらの付勢力が、バネ受24のバルブ押圧部155から外側ディスク144bおよびその内側の内側ディスク143bに加わることになる。このため、減衰バルブ145bの内側ディスク143bおよび外側ディスク144bを開きながら通路60bを介して下室13から上室12に流れる油液は、流れにくく、よって、減衰力は上がることになる。しかも、ピストンロッド16が伸び切り側に位置するほど、リバウンドスプリング本体29および補助スプリング26による減衰バルブ145bの外側ディスク144bおよび内側ディスク143bへの付勢力が高まることになり、よって、減衰力が上がることになる。
【0109】
以上の構成の第3実施形態の油圧回路図は、図12に示すようになっており、リバウンドスプリング32が、可変オリフィス122に加えて、縮み側の減衰バルブ145bを制御する。
【0110】
以上により、第3実施形態によれば、リバウンドスプリング作動範囲Rにおいて、第2実施形態と同様に減衰力可変機構65の作動を制限するとともに上室12から伸び側の減衰バルブ148aへの流路を制限して伸び行程の減衰力を高めることに加えて、縮み側の減衰バルブ62bの減衰力を高めることができる。よって、第2実施形態よりもさらに効果的にバネ上制振性を上げることが可能となり、さらなる操縦安定性および乗り心地の改善ができる。
【0111】
「第4実施形態」
次に、第4実施形態を主に図13〜図15に基づいて第1,第3実施形態との相違部分を中心に説明する。なお、第1,第3実施形態と共通する部位については、同一称呼、同一の符号で表す。
【0112】
第4実施形態では、縮み側に第1実施形態と略同様の減衰バルブ62bを有しており、この減衰バルブ62bのディスク75bに第3実施形態のバネ受24のバルブ押圧部155が当接している。
【0113】
第4実施形態では、中間ストッパ28のリテーナ23から離間する方向の移動を規制するストッパリング190がピストンロッド16に係合されている。そして、ピストンロッド16には、ストッパリング190のリテーナ23とは反対側に、通路穴121を常時上室12に連通させるようにピストンロッド16の径方向に沿って通路穴191が形成されている。また、ピストンロッド16には、ストッパリング190の通路穴191とは反対側に、通路穴121を上室12に連通可能とする通路穴192がピストンロッド16の径方向に沿って形成されている。この通路穴192は、中間ストッパ28がストッパリング190に当接した状態にあるとき中間ストッパ28で閉塞されることになり、中間ストッパ28がリテーナ23側に移動すると開かれることになる。
【0114】
通路穴191,192が、上室12と減衰力可変機構65の圧力室125とを連通させる通路130を構成する。よって、中間ストッパ28と通路穴191,192とが、通路130に設けられて、ピストンロッド16が伸び方向に移動したときリバウンドスプリング32によって面積が調整される可変オリフィス193を構成することになる。中間ストッパ28は、ピストンロッド16が伸び方向に移動しリバウンドスプリング32が縮んだときに、リテーナ23側に移動して通路穴192を開くことになる。つまり、可変オリフィス193は、ピストンロッド16が伸び方向に移動したときに、リバウンドスプリング32によって面積が増加するよう調整される。
【0115】
また、第4実施形態では、伸び側に減衰力発生機構195が設けられている。第4実施形態の減衰力発生機構195は、軸方向の上室12側つまりピストン本体14側から順に、小径のディスク200と、これよりも大径の減衰バルブ本体202と、バルブ部材203と、小径のディスクバルブ205と、これよりも大径のディスクバルブ206と、上記と同様のバルブ規制部材77aとを有している。ディスクバルブ200と減衰バルブ本体202とが、ピストン本体14の通路60aとバルブ部材203の通路215との間に設けられてピストン11の摺動によって生じる油液の流れを規制して減衰力を発生させる減衰バルブ208を構成している。つまり、減衰バルブ208はディスクバルブとなっている。なお、減衰バルブ208としては、ディスクバルブ以外の例えばポペットバルブを用いても良い。
【0116】
バルブ部材203は、軸直交方向に沿う有孔円板状の底部210と、底部210の内周側に形成された軸方向に沿う円筒状の内側円筒状部211と、底部210の外周側に形成された軸方向に沿う円筒状の外側円筒状部212とを有している。底部210には軸方向に貫通する複数の貫通孔213が形成されており、貫通孔213の外側に円環状の小径シート部214が軸方向に突出して形成されている。複数の貫通孔213を含むこのバルブ部材203の内側円筒状部211と外側円筒状部212との間の空間は、ピストン本体14の通路60aに連通することで、上室12と下室13とを連通可能であり、ピストン11の上室12側への移動によって上室12から下室13に向けて油液が流れ出す通路(第1通路)215を構成している。また、外側円筒状部212には、その軸方向の下室13側に、円環状の大径シート部216が形成されている。
【0117】
減衰バルブ208は、その減衰バルブ本体202が、ピストン本体14の通路60aとバルブ部材203の通路215との間に設けられてピストン11の摺動によって生じる油液の流れを規制して減衰力を発生させることになる。減衰バルブ本体202は、ピストン本体14のシート部71aに着座可能な有孔円板状のディスク222と、ディスク222のピストン本体14とは反対の外周側に固着されたゴム材料からなる円環状のシール部材223とからなっている。シール部材223はバルブ部材203の外側円筒状部212の内周面に接触して、減衰バルブ本体202とバルブ部材203の外側円筒状部212との隙間をシールする。バルブ部材203の外側円筒状部212、底部210および内側円筒状部211と、減衰バルブ本体202との間の空間は、減衰バルブ本体202に、シート部71aに当接させる閉弁方向に内圧を作用させる背圧室225となっている。また、減衰バルブ本体202は、ピストン本体14のシート部71aから離座して開くと、通路60aからの油液をピストン本体14とバルブ部材203との間の径方向の流路227を介して下室13に流す。
【0118】
小径のディスクバルブ205は、バルブ部材203の小径シート部214に着座可能な環状をなしており、大径のディスクバルブ206は、バルブ部材203の大径シート部216に着座可能な環状をなしている。ディスクバルブ205が小径シート部214から離座し、ディスクバルブ206が大径シート部216から離座すると、背圧室225が開放されることになる。バルブ規制部材77aは、ディスクバルブ206の開方向への規定以上の変形を規制する。ディスクバルブ205とバルブ部材203の小径シート部214との間には、常時開口する排出オリフィス229が形成されており、ディスクバルブ206とバルブ部材203の大径シート部216との間にも、常時開口する排出オリフィス230が形成されている。
【0119】
バルブ部材203の内側円筒状部211には、径方向に貫通する通路溝231が形成されており、ピストンロッド16のオリフィスとしての通路穴150は、この通路溝231に連通している。通路穴150および通路溝231は、背圧室225にシリンダ10内の上室12から油液を導入する背圧室流入油路232となっている。
【0120】
以上の構成の第4実施形態は、リバウンドスプリング作動範囲R以外では、ピストンロッド16が伸び側に移動する伸び行程において、ピストン速度が遅い時、上室12からの油液は、背圧室流入油路232および背圧室225を含む通路215と、バルブ部材203の小径シート部214およびディスクバルブ205の間に形成された常時開口する図示略の排出オリフィスと、バルブ部材203の大径シート部216およびディスクバルブ206の間に形成された常時開口する図示略の排出オリフィスと、を介して下室13に流れ、オリフィス特性(減衰力がピストン速度の2乗にほぼ比例する)の減衰力が発生する。このため、ピストン速度に対する減衰力の特性は、ピストン速度の上昇に対して比較的減衰力の上昇率が高くなる。また、ピストン速度が速くなると、上室12からの油液は、背圧室流入油路232および背圧室225を含む通路215とを介して、ディスクバルブ205,206を開きながら、ディスクバルブ205と小径シート部214との間を通り、ディスクバルブ206と大径シート部216との間を通って、下室13に流れることになり、バルブ特性(減衰力がピストン速度にほぼ比例する)の減衰力が発生する。このため、ピストン速度に対する減衰力の特性は、ピストン速度の上昇に対して減衰力の上昇率はやや下がることになる。
【0121】
また、ピストン速度がさらに高速の領域になると、減衰バルブ208に作用する力(油圧)の関係は、通路60aから加わる開方向の力が背圧室流入油路232を通って背圧室225から加わる閉方向の力よりも大きくなる。よって、この領域では、ピストン速度の増加に伴い減衰バルブ208が開くことになり、ディスクバルブ205と小径シート部214との間からディスクバルブ206と大径シート部216との間を通る下室13への流れに加え、ピストン本体14とバルブ部材203との間の流路227を介して下室13に油液を流すため、減衰力の上昇を抑えることになる。このときのピストン速度に対する減衰力の特性は、ピストン速度の上昇に対して減衰力の上昇率はほとんどないことになる。
【0122】
また、インパクトショックの発生後には、発生時と同等の周波数で、振幅が小さくなりピストン速度が遅くなるが、この領域では、減衰バルブ208に作用する力の関係は、通路60aから加わる開方向の力が背圧室流入油路232を通って背圧室225から加わる閉方向の力よりも小さくなり、減衰バルブ208が閉弁方向に移動することになる。よって、減衰バルブ208が開弁することによる上室12から下室13への流れが減少し、ディスクバルブ205と小径シート部214との間からディスクバルブ206と大径シート部216との間を通る下室13への流れが主体となるため、ピストン速度の上昇に対する減衰力の上昇率が上がることになる。これにより、インパクトショック発生後のバネ下のバラツキを抑える。
【0123】
以上に対して、リバウンドスプリング作動範囲Rでは、中間ストッパ28がリテーナ23側に移動することで通路穴192が開かれ、可変オリフィス193が、通路穴191に加えて通路穴192の開口量で通路130に油液を流通させることになるため、上室12と圧力室125とを連通させる通路130の流路面積が拡大することになって、減衰力可変機構65による周波数感応の機能が高くなる。加えて、第3実施形態と同様に縮み行程にて減衰力が高まる上、伸び行程においても、通路130の流路面積が拡大することから、減衰力発生機構195の減衰バルブ208に作用する力の関係は、通路60aから加わる開方向の力よりも、背圧室流入油路232を通って背圧室225から加わる閉方向の力が強くなり、減衰バルブ208がさらに閉弁方向に押圧されることになって、減衰力が高まることになる。つまり、リバウンドスプリング作動範囲Rでは、減衰力可変機構65による周波数感応の機能が強くなり、伸び側および縮み側の両方向で減衰力が高くなる。
【0124】
以上の構成の第4実施形態の油圧回路図は、図14に示すようになっており、伸び側に上記した減衰力発生機構195が設けられている。
【0125】
以上に述べた第4実施形態によれば、可変オリフィス193が、ピストンロッド16が伸び方向に移動したときリバウンドスプリング32によって面積が増加するよう調整される構成とした。これにより、リバウンドスプリング32の付勢力が大きくなるほど、減衰力可変機構65の圧力室125に対する油液の出入りを多くすることができる。したがって、リバウンドスプリング作動範囲Rにおいて、周波数に感応して減衰力を可変とする機能を強めることができる。よって、リバウンドスプリング作動範囲Rの減衰力可変機構65による周波数感応の機能を強めて、リバウンドスプリング作動範囲Rの伸び側および縮み側の両方向で減衰力を高くすることができる。
【0126】
図15は、第4実施形態における周波数に対する減衰力の特性を、可変オリフィス193の流路面積毎に示すものであり、線D1、線D2、線D3、線D4の順に流路面積が大きくなっている。図15に示すように、伸び側の減衰力周波数特性において、リバウンドスプリング作動範囲Rで可変オリフィス193の流路面積が増大するほど、減衰力可変機構65による周波数感応の機能では変化しないバネ上共振周波数Fu以下の低周波数領域での減衰力が、第3実施形態と同様に上昇することになる。他方、高周波数領域では、第3実施形態とは逆に、リバウンドスプリング作動範囲Rでの減衰力可変機構65による周波数感応の機能が高まるため、減衰力は低くなる。また、縮み側の特性も、低周波数では減衰力が上昇するが、高周波数ではリバウンドスプリング作動範囲Rでの減衰力の上昇率は低くなる。そして、減衰力の可変幅が、流路面積が最小のときの可変幅W1に対して、流路面積が最大のときの可変幅W2が大きくなる。
【0127】
このような機能により、リバウンドスプリング32が作動しない直進時は、減衰力可変機構65による周波数感応の機能を高めて乗り心地を維持し、その上で、リバウンドスプリング32が作動する操舵時でも、路面または操舵からの大入力に対するバネ上制振性と操舵安定性を重視しながら、周波数感応の機能を強めることで乗り心地を改善できる。
【0128】
「第5実施形態」
次に、第5実施形態を主に図16に基づいて第1〜第4実施形態との相違部分を中心に説明する。なお、第1〜第4実施形態と共通する部位については、同一称呼、同一の符号で表す。
【0129】
第5実施形態においては、第1〜第4実施形態とは異なる減衰力可変機構250が用いられている。減衰力可変機構250は、第1〜第4実施形態の減衰力可変機構65と同様、周波数(振動状態)により外部から制御されることなく減衰力を可変とする周波数感応部であり、第1〜第4実施形態のいずれに対しても減衰力可変機構65にかえて適用可能となっている。
【0130】
減衰力可変機構250は、ピストンロッド16のオネジ19に螺合されるメネジ249が形成された蓋部材251と、この蓋部材251にその一端開口側が閉塞されるように取り付けられる略有底円筒状のハウジング本体252とからなるハウジング253と、このハウジング253内に摺動可能に嵌挿されるフリーピストン255と、フリーピストン255とハウジング253の蓋部材251との間に介装されてフリーピストン255がハウジング253に対し軸方向の蓋部材251側へ移動したときに圧縮変形する縮み側の弾性体であるコイルスプリング256と、フリーピストン255とハウジング253のハウジング本体252との間に介装されてフリーピストン255がハウジング253に対し上記とは反対側へ移動したときに圧縮変形する伸び側の弾性体であるコイルスプリング257と、フリーピストン255に保持されてハウジング253との隙間をシールするシールリング258とを有している。コイルスプリング256はフリーピストン255が一方向へ移動したときに圧縮変形してフリーピストン255の変位に対し抵抗力を発生する抵抗要素となっており、コイルスプリング257はフリーピストン255が他方向へ移動したときに圧縮変形してフリーピストン255の変位に対し抵抗力を発生する抵抗要素となっている。
【0131】
蓋部材251は、切削加工を主体として形成されるもので、メネジ249が形成された略円筒状の蓋円筒状部261と、この蓋円筒状部261の軸方向の中間部から径方向外側に延出する円板状の蓋フランジ部262とを有している。
【0132】
ハウジング本体252は、切削加工を主体として形成されるもので、円筒状部264の軸方向一側に底部265が形成された略有底円筒状をなしている。ハウジング本体252の円筒状部264の内周面には、底部265側から順に、小径円筒面部266、これより大径の中間円筒面部267、これより大径の大径円筒面部268が形成されている。ハウジング本体252の円筒状部264には、中間円筒面部267の位置に径方向に貫通するオリフィス269が形成されている。また、底部265にも軸方向に貫通するオリフィス270が形成されている。
【0133】
このようなハウジング本体252の大径円筒面部268に、蓋部材251の蓋フランジ部262が嵌合されることになり、この状態でハウジング本体252の蓋部材251よりも外側が加締められることで、ハウジング本体252と蓋部材251とが一体化されてハウジング253を構成する。
【0134】
フリーピストン255は、切削加工を主体として形成されるもので、略円筒状のピストン筒部274と、このピストン筒部274の軸方向の端部側を閉塞するピストン底部275とを有している。ピストン筒部274には、ピストン底部275とは反対側の外周面に、シールリング258を保持するシール溝276が形成されており、ピストン底部275側の外周面には、円環状の環状溝277と環状溝277からピストン底部275側に抜ける軸方向溝278とが形成されている。
【0135】
フリーピストン255は、ハウジング253内に配置された状態で、ハウジング本体252の中間円筒面部257に摺動可能に嵌挿されることになる。フリーピストン255のピストン筒部274の内側において、ピストン底部275と蓋フランジ部262との間にコイルスプリング256が配置されており、ハウジング本体252の小径円筒面部266の内側において、ハウジング本体252の底部265とピストン底部275との間にコイルスプリング257が配置されている。コイルスプリング256,257の付勢力によってフリーピストン255は、ハウジング253内の所定の中立位置に位置することになり、このとき、ハウジング本体252のオリフィス269が、フリーピストン255の環状溝277に対向する。
【0136】
フリーピストン255とハウジング本体252の円筒状部264と蓋部材251とシールリング258とで囲まれて通路穴121に連通する部分が上室12(図16では図示略)に連通可能な圧力室280となり、フリーピストン255とハウジング本体252の底部265側とシールリング258とで囲まれた部分がオリフィス270を介して下室13に連通する下室連通室281となっている。
【0137】
第5実施形態の減衰力可変機構250においては、例えば伸び行程では、圧力室280に通路130を介して上室12側の油液を導入可能な状態にあれば、上室12の圧力上昇および下室13の圧力降下によって、軸方向の上室12側のコイルスプリング256を伸ばし軸方向の下室13側のコイルスプリング257を縮めながらフリーピストン255をハウジング253に対して軸方向の下室13側に移動させて、圧力室280に上室12側の油液を導入するとともに下室連通室281からオリフィス270を介して下室13に油液を排出する。
【0138】
また、縮み行程では、圧力室280から通路130を介して上室12側に油液を排出可能な状態にあれば、下室13の圧力上昇および上室12の圧力降下によって、軸方向の下室13側のコイルスプリング257を伸ばし軸方向の上室12側のコイルスプリング256を縮めながらフリーピストン255を軸方向の上室12側に移動させて、下室連通室281にオリフィス270を介して下室13側の油液を導入するとともに圧力室280の油液を通路130を介して上室12側に排出する。
【0139】
以上の第5実施形態によれば、コイルバネ256,257によってフリーピストン255の変位に対し抵抗力を発生するため、耐久性を向上できる。
【0140】
以上に述べた実施形態によれば、作動流体が封入されたシリンダと、前記シリンダ内に摺動可能に嵌装され、該シリンダ内を2室に区画するピストンと、前記ピストンに連結されると共に前記シリンダの外部に延出されたピストンロッドと、前記シリンダ内に設けられ、前記ピストンロッドに弾性的に作用して前記ピストンロッドの伸び切りを抑制する弾性部材と、前記ピストンの移動により前記2室間を作動流体が流れるように連通する第1通路と、前記2室のうちの一方の室に連通される第2通路と、を備え、前記第1通路は、前記ピストンの移動によって生じる前記作動流体の流れを抑制して減衰力を発生させる減衰バルブを有し、前記第2通路は、前記ピストンロッドが伸び方向に移動したとき前記弾性部材によって面積が調整される可変オリフィスと、前記可変オリフィスと直列に設けられた圧力室と、前記ピストンの移動により前記圧力室の容積を可変にするフリーピストンと、を有する構成とした。つまり、一方の室に連通する第2通路に、ピストンの移動により圧力室の容積を可変にするフリーピストンが設けられて周波数に感応して減衰力を可変とするものにおいて、第2通路に弾性部材によって面積が可変とされる可変オリフィスを設けた。これにより、周波数に感応して減衰力を可変とする機能の強弱を調整できる。したがって、減衰力特性を一層詳細に制御可能となる。
【0141】
また、前記可変オリフィスは、前記ピストンロッドが伸び方向に移動したとき前記弾性部材によって面積が減少するよう調整される構成とした。これにより、弾性部材の付勢力が大きくなるほど、圧力室に対する作動流体の出入りを制限することができる。したがって、弾性部材の付勢力が大きくなるほど、減衰バルブが設けられた第1通路に作動流体を多く流すことができ、減衰力を上げることができる。
【0142】
また、前記可変オリフィスは、前記ピストンロッドが伸び方向に移動したとき前記弾性部材によって面積が増加するよう調整される構成とした。これにより、弾性部材の付勢力が大きくなるほど、圧力室に対する作動流体の出入りを多くすることができる。したがって、周波数に感応して減衰力を可変とする機能の強弱を調整できる。
【0143】
また、前記減衰バルブは、第1の固定オリフィスを有する第1減衰バルブと、第2の固定オリフィスを有する第2減衰バルブと、を直列に配し、前記第1減衰バルブと前記第2減衰バルブとの間と、前記可変オリフィスの下流側とが連通する構成とした。これにより、直列に並べられた第1減衰バルブと第2減衰バルブとの間に導入される作動流体の量を、可変オリフィスで調整できるため、減衰バルブの開弁特性を変更できる。
【0144】
上記各実施の形態は、モノチューブ式の油圧緩衝器に本発明を用いた例を示したが、これに限らず、シリンダの外周に外筒を設け、外筒とシリンダの間にリザーバを設けた複筒式油圧緩衝器に用いてもよく、あらゆる緩衝器に用いることができる。また、複筒式油圧緩衝器の場合、シリンダのボトムに下室とリザーバとを連通するボトムバルブを設け、このボトムバルブに上記ハウジングを設けることで、ボトムバルブに本発明を適用することも可能である。また、シリンダの外部にシリンダ内と連通する油通路を設け、この油通路に減衰力発生機構を設ける場合は、上記ハウジングをシリンダ外部に設けることになる。
なお、上記実施の形態では、油圧緩衝器を例に示したが、流体として水や空気を用いることもできる。
さらに、上記第1〜第4実施形態では、Oリングを2個の例を示したが、必要に応じて同様の技術思想で、1個または3個以上としてもよい。
また、上記第1〜第4実施形態では、弾性体としてゴム(樹脂)製のリングを用いた例を示したが、ゴム製の球を周方向に間隔をもって複数も設けてもよく、また、本発明に用いることのできる弾性体は、一の軸方向に弾性を有するもではなく、複数の軸方向に対して弾性を有するものであれば、ゴムでなくともよい。
【符号の説明】
【0145】
10 シリンダ
11 ピストン
12 上室(室)
13 下室(室)
16 ピストンロッド
32 リバウンドスプリング(弾性部材)
60a,60b 通路(第1通路)
62a,62b,208 減衰バルブ
87,255 フリーピストン
122 可変オリフィス
125,280 圧力室
130 通路(第2通路)
145a 減衰バルブ(第1減衰バルブ)
147a 固定オリフィス(第1の固定オリフィス)
148a 減衰バルブ(第1減衰バルブ)
149a 固定オリフィス(第2の固定オリフィス)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体が封入されたシリンダと、
前記シリンダ内に摺動可能に嵌装され、該シリンダ内を2室に区画するピストンと、
前記ピストンに連結されると共に前記シリンダの外部に延出されたピストンロッドと、
前記シリンダ内に設けられ、前記ピストンロッドに弾性的に作用して前記ピストンロッドの伸び切りを抑制する弾性部材と、
前記ピストンの移動により前記2室間を作動流体が流れるように連通する第1通路と、
前記2室のうちの一方の室に連通される第2通路と、を備え、
前記第1通路は、前記ピストンの移動によって生じる前記作動流体の流れを抑制して減衰力を発生させる減衰バルブを有し、
前記第2通路は、前記ピストンロッドが伸び方向に移動したとき前記弾性部材によって面積が調整される可変オリフィスと、前記可変オリフィスと直列に設けられた圧力室と、前記ピストンの移動により前記圧力室の容積を可変にするフリーピストンと、を有することを特徴とする緩衝器。
【請求項2】
前記可変オリフィスは、前記ピストンロッドが伸び方向に移動したとき前記弾性部材によって面積が減少するよう調整されることを特徴とする請求項1に記載の緩衝器。
【請求項3】
前記可変オリフィスは、前記ピストンロッドが伸び方向に移動したとき前記弾性部材によって面積が増加するよう調整されることを特徴とする請求項1に記載の緩衝器。
【請求項4】
前記減衰バルブは、第1の固定オリフィスを有する第1減衰バルブと、第2の固定オリフィスを有する第2減衰バルブと、を直列に配し、前記第1減衰バルブと前記第2減衰バルブとの間と、前記可変オリフィスの下流側とが連通する構成としたことを特徴とする請求項1に記載の緩衝器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−215239(P2012−215239A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80771(P2011−80771)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】