説明

自己増幅型の電気機械式ディスクブレーキ

本発明は、自己増幅型の電気機械式ディスクブレーキに関する。本発明によれば、ディスクブレーキ(1)のパッド支持プレート(9)は、複合材料から製作することができる。このようにして安価で高い曲げ強さを有するパッド支持プレート(9)を製作することができる。繊維強化されたプラスチックの他に、パッド支持プレート(9)のための複合材料として、鋼で補強されたコンクリートが考えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
従来技術
本発明は、請求項1の上位概念に記載の形式の、自己増幅型の電気機械式ディスクブレーキに関する。
【0002】
電気機械式ディスクブレーキは公知である。電気機械式ディスクブレーキは、電気機械式作動装置を備えており、作動装置によって、ブレーキディスクを作動させるために、要するに制動するために、摩擦ブレーキパッドが、ブレーキディスクに押し付けられる。電気機械式作動装置は、一般的に電動モータを備えており、電動モータによって、回転/並進−変換伝動装置、たとえばねじ山伝動装置を介して、摩擦ブレーキパッドは、ブレーキディスクに押し付けられる。多種多様の形式で、電動モータと回転/並進−変換装置との間に、伝達装置が介在されている。回転/並進−変換装置の別の可能性も存在し、たとえば電動モータ、有利には伝達装置によって、カムが旋回され、カムは、摩擦ブレーキパッドを、ブレーキディスクに押し付けるか、またはラック伝動装置が用いられ、ここでは歯車が、ラックを運動させ、ラックは、摩擦ブレーキパッドを移動させる。ラックは、真っ直ぐでなくてもよい。
【0003】
自己増幅作用を得るために、ランプまたはランプセットを備えたランプ機構が公知であり、ランプ機構は、ブレーキディスクに関してテーパ(斜度)を有しており、要するに単数または複数のランプとブレーキディスクとの間の距離がブレーキディスクの接線方向または周方向で漸減する。ランプは、たとえば螺旋状の経過を有することができる。単数または複数のランプの斜度は、単数または複数のランプの延伸経過で変化させることができ、これによってディスクブレーキの作動時に自己増幅の大きさが変化する。したがって単数または複数のランプは、始端部で、比較的大きなテーパを有しており、これによって摩擦ブレーキパッドとブレーキディスクとの間の空隙は、ブレーキディスクの作動開始段階で、迅速に克服することができ、終端部で、単数または複数のランプは、比較的小さなテーパを有しており、これによって比較的高い作動−制動力で高い自己増幅が得られる。単数または複数のランプが長さにわたって一定の斜度を有していると、単数または複数のくさびおよびくさび機構とも解される。単数または複数のランプは、ブレーキキャリパおよび/または摩擦ブレーキパッドの、有利にはブレーキディスクとは反対側の背面に配置することができる。
【0004】
摩擦ブレーキパッドは、単数または複数のランプを介して、ディスクブレーキのブレーキキャリパに支持されている。ディスクブレーキを作動させるために、摩擦ブレーキパッドは、電気機械式作動装置によって、単数または複数のランプに沿って移動され、それもブレーキディスクに接触して、ブレーキディスクに押し付けられるまで移動される。回転するブレーキディスクは、摩擦力を摩擦ブレーキパッドに及ぼし、摩擦力は、摩擦ブレーキパッドを、漸増する単数または複数のテーパに向かって負荷する。単数または複数のランプにおける摩擦ブレーキパッドの支持によって、くさび原理に従って、ランプに対する垂直力が摩擦ブレーキパッドに及ぼされ、垂直力は、ブレーキディスクに対する垂直力成分を摩擦ブレーキパッドに及ぼし、摩擦ブレーキパッドを、作動装置によって及ぼされる押圧力に対して追加的にブレーキディスクに押し付ける。ブレーキディスクの押圧−制動力は、これによって増幅される。一般的に、摩擦ブレーキパッドは、パッド支持プレートの、ブレーキディスクに向いた正面に着脱可能に、または着脱不能に配置されており、摩擦ブレーキパッドの、ブレーキディスクとは反対側の背面に、ランプ機構、つまり自己増幅装置が配置されている。
【0005】
公知のディスクブレーキは、ブレーキキャリパを備えており、ブレーキキャリパに、ディスクブレーキの電気機械部分が取り付けられており、この場合電気機械部分として、作動装置の構成部材や自己増幅装置の構成部材が挙げられる。
【0006】
電気機械式ディスクブレーキのブレーキキャリパは、一般的に、もちろん絶対ではないが、浮動キャリパとして形成されており、つまりブレーキキャリパは、ブレーキディスクに対して横向きに移動される。ブレーキディスクの片側に摩擦ブレーキパッドが押し付けられると、ブレーキキャリパは、ブレーキディスクに対して横向きに移動され、別の摩擦ブレーキパッドをブレーキディスクの別の片側に押し付けるので、両方の摩擦ブレーキパッドを押し付けるために、単に1つの作動装置および自己増幅装置しか必要とされない。作動装置および自己増幅装置は、ブレーキディスクの同じ側に配置する必要はない。
【0007】
発明の利点
請求項1の特徴部に記載の構成を有する、本発明による自己増幅型の電気機械式ディスクブレーキのパッド支持プレートは、複合材料から成っている。複合材料から製作することによって、パッド支持プレートは、高い曲げ剛性およびねじり剛性を有して形成することができる。曲げ剛性およびねじり剛性は、自己増幅装置を備えたディスクブレーキでは、パッド支持プレートがブレーキピストンまたはブレーキキャリパに比較的大きな面積にわたって支持される従来慣用の油圧ディスクブレーキよりも大きな役割を担っている。自己増幅型のディスクブレーキでは、パッド支持プレートは、多くの場合単に点で支持されており、たとえばパッド支持プレートの、ブレーキディスクとは反対側の背面の、仮想の三角形の頂点に配置された3つの転動体による3点支持で支持されている。パッド支持プレートの曲げ負荷およびねじり負荷は、自己増幅装置のないディスクブレーキの、ブレーキキャリパに支持されたパッド支持プレートよりも著しく高くなっている。
【0008】
本発明の利点は、パッド支持プレートの安価な製作、摩擦ブレーキパッドからブレーキキャリパへの熱伝達を低減するパッド支持プレートの僅かな熱伝導性、および複合材料に関する良好な騒音減衰特性である。
【0009】
別の利点によれば、複合材料は、低温で処理され、つまり製作することができ、その上耐熱性を有していて、かつ製作時にぶれが僅かである。比較的小さなトレランスが維持されるので、機能面、たとえば自己増幅装置の転動体のための走行面または支承孔は、後加工する必要がない。
【0010】
従属請求項は、請求項1で記載した本発明の対象の有利な態様および改良形を表している。
【0011】
パッド支持プレートのための複合材料として、特に繊維複合材料が鑑みられ、要するに別の材料、場合によっては様々な材料から成るファイバ、繊維、ホイスカ、マット、織布またはワイヤの混入された素材(マトリックス)が鑑みられる。素材として、混入された材料として鋼補強材またはその他の補強材を有する特にプラスチックやコンクリートが考えられる。素材として金属および合金も考えられる。本発明の別の実施形態では、パッド支持プレートのための積層複合材料が設けられている。高い曲げ剛性を得るために、高い引張強さを有する材料から成る層は、高い圧縮強さを有する材料から成る層と組み合わすことができる。たとえばパッド支持プレートの、ブレーキディスクとは反対側の背面は、ブレーキディスクの作動によって、とりわけ引張負荷され、パッド支持プレートの、ブレーキディスクに向いた側の正面は、圧縮負荷されるので、たとえばパッド支持プレートの背面に、高い引張強さを有する層が配置され、正面に、高い圧縮強さを有する層が配置される。両方の層の間に中間層を設けることもできる。層は、たとえば引張負荷される領域および圧縮負荷される領域に設けることもできる。
【0012】
以下に、図面につき本発明の実施例を詳しく説明する。
【0013】
図1に示した、本発明による自己増幅型の電気機械式ディスクブレーキ1は、ブレーキキャリパ2を備えており、ブレーキキャリパ2は、浮動キャリパとして形成されており、つまりブレーキキャリパ2は、ブレーキディスクに対して横方向で移動可能にガイドされている。ブレーキキャリパ2の摺動ガイドは、図面では、ブレーキキャリパ2のアンカ4によって覆われていて、看取されない。そのような摺動ガイドは、公知であり、したがってここでは詳しい説明は省略する。
【0014】
ブレーキキャリパ2は、相互間隔を有して互いに平行に配置されたプレート5,6を備えており、プレート5,6は、ブレーキディスク3の両側に位置していて、ブレーキディスク3に対して平行に配置されている。両方のプレート5,6は、縦方向端部でアンカ4によって、互いに一体的に結合されている。アンカ4は、ブレーキディスク3に対して横向きに延びていて、かつブレーキディスク3の周の外側に配置されている。アンカ4は、プレート5,6のほぼ縦中央部分に設けられており、これによってアンカ4は、ディスクブレーキ2の作動時に、実質的に引張負荷され、場合によっては僅かに曲げ負荷され、プレート5,6は、互いに平行に維持され、ディスクブレーキ1の作動力または引張力によって互いに斜めに離間するように押圧されることはない。ブレーキディスク3の両側に配置されたプレート5,6は、アンカ4によって相互結合されており、プレート5,6によって、ブレーキキャリパ2は、いわゆるスライディングキャリパ(Rahmensattel;浮動キャリパ)を成す。
【0015】
ブレーキキャリパ2のプレート5の、ブレーキディスク3に向いた内側で、摩擦ブレーキパッド10を備えたパッド支持プレート9が、ブレーキディスク3の近くに、プレート5から間隔を有して配置されている。摩擦ブレーキパッド10を備えたパッド支持プレート9は、プレート5およびブレーキキャリパ2に対して運動可能である。パッド支持プレート9は、ブレーキディスク3とは反対側の背面にラック11を備えており、ラック11と歯車8とが噛み合う。ラック11は、ブレーキディスク3に対して角度を成して斜めに延びていて、しかもブレーキディスク3の回転軸線を中心に円弧状に延びており、つまりラック11の延伸経過は螺旋状である。
【0016】
パッド支持プレート9は、パッド支持プレート9の背面に配置されていて、かつ回動可能に支承された3つの転動体(ローラ)12を介して、テーパ(Keile)とも呼ばれるランプ13に支承されており、ランプ13は、ブレーキキャリパ2のプレート5の、ブレーキディスク3に向いた内側に配置されている。ランプ13は、ラック11と同等の斜度(ピッチ)で、螺旋状に、つまりブレーキディスク3の回転軸線を中心にブレーキディスク3に対して角度を成して延びている。転動体12は、長い底辺を有する仮想の三角形の頂点に配置されており、2つの転動体12および2つのランプ13は、ブレーキディスク3に関して、第3または中央の転動体および所属のランプよりも半径方向外側に位置しており、第3の転動体および所属のランプは、ブレーキディスク3の周方向で、つまりブレーキキャリパ2のプレート5の縦方向で、両方の別の転動体16および両方の別のランプ13の間に位置する。これによってブレーキキャリパ2において、パッド支持プレート9の静的な規定の3点支持が形成される。図2から看取されるように、ランプ13は、横勾配を有しており、この場合外向きの、半径方向で内側に位置する中央のランプ13の横勾配は、内向きの、半径方向外側のランプ13の横勾配に対向している。これによってパッド支持プレート9の縦ガイドが実現される。原則として、逆に、中央のランプ13を、ブレーキディスク3に関して、両方の別のランプ13よりも半径方向外側に配置し、かつ/またはランプ13の横勾配を逆にすることもできる。
【0017】
ディスクブレーキ2の作動は、電動モータによって行われ、電動モータは、ラック11と噛み合う歯車8を伝達装置(歯車伝動装置)を介して駆動する。電動モータおよび伝動装置は、ブレーキキャリパ2のケーシング7に内蔵されていて、したがって図面では看取されない。ラック11、およびラック11と共にパッド支持プレート9は、ブレーキディスク3に対して周方向で、正確に述べると螺旋状の軌道上を運動させられる。この場合パッド支持プレート9の転動体12は、ブレーキキャリパ2のランプ13に沿って転動する。摩擦ブレーキパッド10は、ブレーキディスク3に押し付けられ、浮動キャリパとして形成されたブレーキキャリパ2を、ブレーキディスク3に対して横向きに移動させるので、ブレーキキャリパ2の別のプレート6の、ブレーキディスク3に向いた内側に配置された固定的な第2の摩擦ブレーキパッド14が、ブレーキディスク3の別の面に押し付けられる。ブレーキディスク3は、制動される。電動モータ、伝達装置およびラック11は、ディスクブレーキ2の電気機械式の作動装置を成す。
【0018】
回転するブレーキディスク3は、摩擦力を周方向で、ブレーキディスク3に押し付けられる摩擦ブレーキパッド10,14に及ぼすので、摩擦ブレーキパッド10,14は、パッド支持プレート9を、移動方向で負荷する。ブレーキキャリパ2のランプ13に沿った、転動体12によるパッド支持プレート9の支持は、いわゆるくさび原理(Keilprinzip)に従って、ランプ13の、ブレーキディスク3に対して斜めの延伸経過に基づいて、ランプ13に対する垂直力を及ぼし、この力は、転動体12に作用する。ランプ13に対する垂直力は、ブレーキディスク3に対して横向きの成分を有しており、横向きの成分は、摩擦ブレーキパッド10を備えたパッド支持プレート9を、電動モータによって形成される押圧力に対して追加的に、ブレーキディスク3に押し付ける。これによって制動力は高められる。転動体12およびランプ13は、ディスクブレーキ2の自己増幅装置を成す。
【0019】
パッド支持プレート9は、複合材料から成る構成部材であり、図示した記載の実施例では繊維複合材料である。複合材料は、たとえば繊維強化プラスチックであってよく、この場合繊維は、マットまたは織布を成して素材(マトリックス)としてのプラスチックに埋め込むことができる(図示していない)。本発明の、図示した記載の実施例では、ブレーキ支持パッド9を形成する複合材料は、素材としてコンクリートから成っており、鋼補強材(鋼筋)を備えている。鋼補強材16は、繊維としてみなすことができ、鋼補強材16を備えたコンクリートは、繊維複合材料とみなすことができる。図面は、ハッチングを除いて同じである。
【0020】
図2に示したパッド支持プレート9では、パッド支持プレート9に、鋼補強材16を露出させる凹部が設けられている。この鋼補強材16に、中空戻しばね17が掛けられる。中空戻しばね17は、パッド支持プレート9をブレーキキャリパ2に向かって引張り、ディスクブレーキ1の非作動状態で摩擦ブレーキパッド10をブレーキディスク3から離間させる。図3には、鋼補強材16が曲げられてアイ19が形成されており、アイ19に、戻し中空ばね17が掛けられている。露出した鋼補強材16もしくはアイ19は、戻し中空ばね17を掛止するための固定エレメントを成す。鋼補強材16と一体的に形成する代わりに、アイ19またはその他の固定エレメントは、良好にベース材料、つまりパッド支持プレート9に固定するために、補強材または繊維強化プラスチックでは繊維強化材に後方から係合することができる。
【0021】
図4から判るように、ラック11は、溶接によってパッド支持プレート9の鋼補強材16と結合されている。パッド支持プレート9を製作するために、鋼補強材16は、立体的に成形して、ラック11を溶接することができる。次いで鋼補強材16は、型に導入されて、コンクリートが注入される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明による、自己増幅型の電気機械式ディスクブレーキを、半径方向外側からブレーキディスクに向かう方向でみて示す図である。
【図2】図1の区分IIの拡大図である。
【図3】図2に示した区分の変化実施例を示す図である。
【図4】図1に示したディスクブレーキのラックの横断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己増幅型の電気機械式ディスクブレーキであって、
電気機械式の作動装置が設けられており、該作動装置によって、パッド支持プレート(9)に配置された摩擦ブレーキパッド(10)が、制動のためにブレーキディスク(3)に押し付けられるようになっており、自己増幅装置(12,13)が設けられており、該自己増幅装置(12,13)が、制動時に、回転するブレーキディスク(3)から、該ブレーキディスク(3)に押し付けられる摩擦ブレーキパッド(10)に及ぼされる摩擦力を、作動装置によって及ぼされる押圧力に対して追加的に摩擦ブレーキパッド(10)をブレーキディスク(3)に押し付ける押圧力に変換するようになっている形式のものにおいて、
パッド支持プレート(9)が、複合材料から成っていることを特徴とする、自己増幅型の電気機械式ディスクブレーキ。
【請求項2】
パッド支持プレート(9)が、積層複合材料または繊維複合材料から成っている、請求項1記載の自己増幅型の電気機械式ディスクブレーキ。
【請求項3】
パッド支持プレート(9)が、耐摩耗性の材料から成る、電気機械式作動装置による駆動のためのラック(11)を備えている、請求項1記載の自己増幅型の電気機械式ディスクブレーキ。
【請求項4】
ラック(11)が、複合材料の補強材(16)と結合されている、請求項1記載の自己増幅型の電気機械式ディスクブレーキ。
【請求項5】
パッド支持プレート(9)が、固定エレメント(16,19)を備えており、該固定エレメント(16,19)が、複合材料の補強材(16)と結合されている、請求項1記載の自己増幅型の電気機械式ディスクブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−503411(P2009−503411A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−524464(P2008−524464)
【出願日】平成18年7月12日(2006.7.12)
【国際出願番号】PCT/EP2006/064121
【国際公開番号】WO2007/017333
【国際公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】