説明

補修用モルタルおよびこれを用いたトンネル補修工法

【課題】 トンネル覆工コンクリートの補修工事等において短時間で迅速に健全な補修ができる補修用モルタルを産業副産物を用いて得る。
【解決手段】 材齢3時間の圧縮強度6N/mm2以上を発現する補修用モルタルの配合において、セメント系結合材として粉末度5,000〜8,000cm2/gの超微粒子セメントを使用し、細骨材の50容積%以下を吸水率5%以上で絶乾密度1.4〜2.0g/cm3の人工軽量骨材砂で置換し、前記超微粒子セメントの50重量%以下をフライアッシュで置換し、水結合材比を37〜44%とし(フライアッシュは結合材に算入する)、これらの配合物を混練してフリーフロー200〜300mm、凝結始発時間が45分より後で、凝結終結時間が80分以内とした補修用モルタルである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補修用モルタルおよびこれを用いたトンネル補修工法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般トンネルや、水路トンネルおよび導水路などの覆工コンクリート表層部には、経年による磨耗・洗堀・ひび割れなどの劣化が生じているが、その補修工事として、通常は移動式のセントル型枠を設置してグラウトポンプなどでモルタル注入・充填する内巻工法が実施されている。そのさい、交通量の少ない夜間施工あるいは渇水期において、できるだけ迅速に施工できることが望まれている。とくに水力発電所では建設後50年以上経過した水理構造物が数多くあり、これに対処するには、地球環境の保全並びに資源循環型資材の使用を考慮すると、産業副産物を有効利用して補修できることが望まれる。
【0003】
水路トンネルの補修工事は、ほぼ11月〜2月の渇水期の施工環境気温10℃以下で行なわれているが、工期短縮のために移動式セントラル型枠(鋼製組立型枠)を用いて補修モルタルをグラウトポンプで注入充填したあと、打設後3時間で脱型する迅速施工が要求される。このためには、高流動性と速硬性を具備した補修モルタルの使用が不可欠である。一般に速硬性を有した高流動モルタル組成物は、流動性を高めれば硬化が遅くなる。10℃程度の低気温環境ではセメントの強度発現がさらに遅れてしまう。他方、速硬性を高めれば流動を保持している時間が短くなり、施工に必要な十分な可使時間を確保できなくなる。
【0004】
特許文献1には、凝結遅延剤を添加することなく所定時間の流動性を保持して高流動性および急硬性を有する急硬性高流動セメント組成物が記載されている。この組成物の目標とするものは、10分以上流動性を保持し、3時間以内に1N/mm2以上の強度を発現できるものである。
【0005】
特許文献2には、速硬性を有するモルタルに流動化剤を添加することによって、打設時に高度な流動性を得ながら、その後はただちに凝結して脱型ができる高流動性速硬セメント配合物が記載されている。この配合物は普通ポルトランドセメントモルタルを練り混ぜた後、経過時間30分後に、急結剤と流動化剤と遅延剤の混合物を後添加するものである。
【特許文献1】特開平7−17794号公報
【特許文献2】特開2001−146458号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、その実施例に示されているように、その流動性は10分以内ではフロー200mmを示しても、10分を超えるとフローは200mm未満になってしまう。したがって混練から10分以上の可使時間(待機時間)を採ることが困難で、混練後ただちに打設しなければならないし、3時間後の圧縮強度は最も高いもので1.68N/mm2に過ぎない。したがって、型枠への注入時間を十分にとることができず、また脱型時の強度も十分とは言い難いので、トンネルの覆工モルタルの補修に適用するには難がある。
【0007】
特許文献2では、例えばモルタル練混ぜ後30分経過してから急結材と流動化剤および遅延剤を添加するものであるから、床面での施工はできても、側面や上面の型枠内への注入施工には不向きである。また、実施例では速硬性の評価として凝結時間だけ示しているが、速硬性の評価で重要な強度データが示されていないので、この点でも、トンネル覆工モルタルの補修に適用するには難がある。
【0008】
したがって、本発明は、トンネル覆工モルタルの補修に適した高流動性を有し、その高流動性を10分以上保持できながら且つ打設後は時間を置かずに脱型できる高い強度を発現する補修モルタルを開発することを課題としたものであり、併せて、産業副産物例えばフライアッシュや高炉スラグ砂、さらには石炭灰粗粉と頁岩を原料として製造される人工軽量骨材をできるだけ多量に用いて該補修モルタルを構成することを課題とする。そして、一般トンネルはもとより水路トンネルや導水路の覆工コンクリートの補修を施工性よく且つ高品質に実施できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を解決した補修用モルタルとして、本発明によれば、材齢3時間の圧縮強度6N/mm2以上を発現する補修用モルタルの配合において,セメント系結合材として粉末度5000〜8000cm2/gの超微粒子セメントを使用し,細骨材の50容積%以下を吸水率5%以上で絶乾密度1.4〜2.0g/cm3の人工軽量骨材砂で置換し、前記超微粒子セメントの50重量%以下をフライアッシュで置換し、水結合材比を37〜44%、好ましくは39〜41%とし(フライアッシュは結合材に算入する)、これらの配合物を混練してフリーフロー200〜300mm、好ましくは240〜300mm、凝結始発時間が45分より後で、凝結終結時間が80分以内とした補修用モルタルを提供する。この補修用モルタルは、材齢28日の圧縮強度40N/mm2以上、好ましくは45N/mm2以上であることができ、前記の人工軽量骨材砂は、粒径5mm以下の細粒であるのが好ましい。細骨材としては硅砂および高炉スラグ砂の1種または2種を使用する。なお、前記のフリーフロー、凝結始発時間および凝結終結時間の測定はいずれも気温10℃、相対湿度80%の条件下で測定した場合でも、前記の値を満足することができる。
【0010】
また、前記の配合に対して、さらに混和材としてカルシウムアルミネイト系速硬材480Kg/m3以下、カルシウムアルミネイト系膨張材60Kg/m3以下、粉末度8,000cm2/g以上の無水石膏からなる超微粒子活性化材150Kg/m3以下の1種または2種以上を配合した補修用モルタルを提供する。
【0011】
また、この配合に対して、さらに混和剤として、消泡剤1Kg/m3以下、分散剤12Kg/m3以下、強度促進剤1Kg/m3以下、遅延剤1Kg/m3以下の1種または2種以上をさらに配合した補修用モルタルを提供する。
【0012】
さらに本発明によれば、一般トンネルまたは水路トンネルの内壁に型枠を設置し、該内壁と型枠との空間に補修用モルタルを充填するトンネルの内巻工法において、該補修用モルタルとして、前記の補修用モルタルを使用して施工するトンネル補修工法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明者らは、トンネルの覆工コンクリート劣化の問題に対してこれまでもその補修対策について種々の試験研究を重ねてきたが、覆工コンクリートの内側に移動式の鋼製型枠を設置して高流動性モルタルを充填して短時間に脱型しつつ充填範囲を変えて行くセントル型枠使用の内巻工法が短時間での施工性の点でも、補修品質の点でも優れることに着目し、この内巻工法に適する補修モルタルを得るべく種々の検討を行なってきた。その結果、可能なかぎり産業副産物資材を原料としながら、内巻工法の利点を十分に引き出せる補修モルタルを今回開発することができた。この補修モルタルは、超微粒子セメント、フライアッシュ、軽量人工骨材砂、硅砂および/または高炉スラグ砂を使用し、水/結合材比を39〜41%に設定して、材齢3時間の圧縮強度6N/mm2以上、フリーフロー240〜300mm、凝結始発時間45分以上、凝結終結時間80分以内を発現させることを骨子とする。
【0014】
以下に、本発明に従う補修モルタルで特定する事項を説明する。
〔超微粒子セメント〕:セメント粒子を微細化したセメントであり、実際には、粉末度2,800〜3,500cm2/gの普通ポルトランドセメントを再粉砕して粉末度を5,000〜8,000cm2/gまで高めたセメントを指す。超微粒子セメントは、その微粒子ゆえに、水との水和反応が早く、またセメントマトリックスの組織を緻密化するので、普通セメントよりも初期強度が高くなり、長期強度も増加するようになる。本発明ではこの超微粒子セメントを150Kg/m3以下、好ましくは10〜120Kg/m3、さらに好ましくは300〜600Kg/m3の配合で使用することによって、補助モルタルの速硬性と高強度化を推進させる。超微粒子セメントの配合量が10Kg/m3未満ではこの作用が十分に発揮できず、強度も不足する。他方150Kg/m3を超える配合では材齢3時間の圧縮強度6N/mm2を確保できないこともあり得るので、10〜150Kg/m3の配合で使用する。
【0015】
〔フライアッシュ〕
フライアッシュは火力発電所で発生する産業副産物として、主にセメントの原料とレディミックスコンクリート工場及び建設現場でのコンクリート製造時セメントの置換材として使用しているが、フライアッシュ発生量の全部がこれらに使用されている訳ではなく、不使用分は埋め立て用などに処理されている。本発明では、この不使用分のフライアッシュをできるだけ多量に使用することによって、トンネル覆工コンクリートの補修モルタルとして有効利用できるようにした。フライアッシュは水と直接反応するのではなく、超微粒子セメントと水との反応によって生成する水酸化カルシウムと反応して硬化作用を果たす。すなわち、本発明の補助モルタルでは、超微粒子セメントとともに結合材としての機能を果たす潜在水硬性物質として使用する。またフライアッシュはポルトランドセメントより強度発現は遅く化学抵抗性に強いという性質があり、これにより長期強度の増加を図ることができる。さらにフライアッシュはセメントマトリックスの組織を緻密化するのに寄与し、補助モルタルの高流動性と粘性に作用を及ぼす。本発明で使用するフライアッシュの粉末度は2,500〜4,500cm2/g程度である。本発明の補助モルタルでは、前記の超微粒子セメントの50重量%以下をフライアッシュで置換して使用する。具体的には400Kg/m3以下、好ましくは300Kg/m3以下の配合で使用するのがよい。400Kg/m3を超える配合では材齢3時間強度6N/mm2以上を確保するのが困難になる場合がある。
【0016】
〔人工軽量骨材砂〕
本発明で使用する人工軽量骨材砂は、吸水率が5%以上で絶乾密度が1.4〜2.0g/cm3で、平均粒径が5mm以下で、粒径5mmを超える粗粒が存在する割合(粗粒率)が7%以下、好ましくは5%以下のものであるのが好ましい。このような特性をもつ人工軽量骨材は、天然の細骨材と比べて多孔質であり、その空隙に水が含まれているのでこれをモルタルに混入すると流動性を向上させることができ、且つその含有水によって初期材齢での内部養生効果が発現し、硬化時の収縮を低減してひび割れの発生を抑制できる。
【0017】
このような人工軽量骨材砂は、例えば火力発電所副生の石炭灰粗粉(a)と頁岩の微粉末(b)とを(a):(b)の重量比が4:6〜6:4の割合で混合し、バインダーを加えて造粒したあと、これをロータリキルンで約1,100〜1,200℃で焼成し、その冷却過程においてほぼ100〜200℃から水中に急冷し、得られた焼成品は粗砕し分級して5mm以下の細骨材分を分別することによって得ることができる。
【0018】
該人工軽量骨材砂の絶乾密度が1.4g/cm3未満では圧壊荷重1000N未満となり、また該密度が2.0g/cm3を超えると十分な吸水率を確保するのが困難となるので、本発明で用いる人工軽量骨材砂の絶乾密度は1.4〜2.0 g/cm3、好ましくは1.40〜1.90g/cm3であるのがよい。吸水率については5%以下では前記の流動性および内部養生効果による収縮低減効果が十分に現れない。吸水率は20%以下であるのがよい。これより高い吸収率のものは多孔質になりすぎて強度向上に寄与し難くなる。
【0019】
本発明においては、細骨材の50容積%以下をこのような人工軽量骨材砂で置換する。50容積%よりも多く人工軽量骨材砂で細骨材を置換すると、補助モルタルの流動性および強度特性の調節を安定して制御できなくなるおそれがあるので、あまり好ましいことではない。細骨材に対する人工軽量骨材砂の置換率は、好ましくは40容積%以下、さらに好ましくは30容積%以下である。
【0020】
〔細骨材〕
本発明で使用する細骨材は硅砂および高炉スラグ砂の1種または2種であるのが好ましい。適度な粒度分布を持つ硅砂および/または高炉スラグ砂を用いることによって補修用モルタルの流動性および緻密性を向上させることができる。高炉スラグ砂は、高炉スラグを骨材として再活用したものであり、硅砂の代替材料として本発明では使用可能である。細骨材の配合は水結合材比および人工軽量骨材砂の配合量にもよるが、800〜1,800Kg/m3の範囲,好ましくは1,000〜1,500Kg/m3の範囲であるのがよい。硅砂に対する高炉スラグ砂の置換量が多いほど、産業副生物の有効利用ができることになる。
【0021】
〔水結合材比〕
本発明に従う補修モルタルは、水結合材比を37〜44%、好ましくは39〜41%として混練する。水結合材比の算出において、結合材は超微粒子セメントとフライアッシュの合計量とし、水/(超微粒子セメント+フライアッシュ)の百分率をもって表す。水結合材比が37%未満では補修用モルタルのフリーフロー200mmを安定して確保することが困難となり、44%を超えると強度を意図するところまで高めるのが困難になるし、材料分離が生じやすくなる。
【0022】
このようにして、本発明の補修用モルタルは、セメント系結合材として粉末度5,000〜8,000cm2/gの超微粒子セメントを使用し、細骨材の50容積%以下を吸水率5%以上で絶乾密度1.4〜2.0g/cm3の人工軽量骨材砂で置換し、前記超微粒子セメントの50重量%以下をフライアッシュで置換し、水結合材比を37〜43%とした基本配合を採用し、この基本配合のものを混練することにより、フリーフロー200〜300mm好ましくは240〜300mmの良好な流動性を有しながら且つ材齢3時間の圧縮強度6N/mm2以上を発現し、凝結始発時間が45分より後で、凝結終結時間が80分以内の初期硬化特性を示す。また材齢28日の圧縮強度40N/mm2以上を確保することができる。
【0023】
この基本配合の補修用モルタルによれば、10±5℃の低気温環境下においてもトンネルの内巻き工法を施工性よく実施できる。すなわち、一般トンネルまたは水路トンネルの内壁に型枠(例えばセントル型枠)を設置し、該内壁と型枠との空間に補修用モルタルを充填するするトンネルの内巻工法において、充填箇所が硬化したら脱型して次の充填箇所に型枠を移動して行くさいに、狭い充填箇所に本発明の補修用モルタルは良好に自己充填してゆき、しかも、混練から45分以内は硬化が始まらないから、混練物を注入開始するまでに十分な余裕をとることができると共に、3時間後は脱型可能な6N/mm2以上の強度を示すので、迅速に型枠の脱型移動を迅速に行うことができるなど、施工時間と時期に制限を受けるトンネル内巻工法の施工法の改善に大いに貢献できる。
【0024】
したがって、本発明によれば、一般トンネルまたは水路トンネルの内壁に型枠を設置し、該内壁と型枠との空間に補修用モルタルを充填するするトンネルの内巻工法において、前記の基本配合の補修用モルタルを用いることを特徴とするトンネル内巻工法を提供することができ、このトンネル内巻工法によれば、従来のものにはない良好な施工性が実現きると共に良好な補修品質を確保することができる。
【0025】
本発明に従う補修用モルタルは、前記の「基本配合」の補修用モルタルに対し、さらに適切な混和材および混和剤を配合してその特性をさらに改善したものを提供する。使用する混和材および混和剤は次のとおりである。
【0026】
使用する混和材
〔カルシウムアルミネート系速硬材〕:カルシウムアルミネート速硬材は石膏と混合して使用することによって、水と瞬間的に反応してエトリンガイト(Ettringite)水和物を生成する。このため、普通ポルトランドセメントでは数日〜数十日で発現する圧縮強度を数時間で得ることができる。本発明の補修用においても、このようなカルシウムアルミネート系速硬材(石膏添加のもの)を配合することにより、初期強度の発現程度を調節することができる。カルシウムアルミネート系速硬材の配合量としては480Kg/m3以下、特に150〜480Kg/m3とすることができる。
【0027】
〔カルシウムアルミネイト系膨張材〕:カルシウムアルミネイト系膨張材を配合すると、水和反応初期のセメントマトリックス組織を緻密化してセメント硬化体を膨張させる作用があり、このためにセメントの自己収縮を補償し、長期的に乾燥収縮を防止することができる。本発明の補修用モルタルにおいても、このカルシウムアルミネイト系膨張材を配合すると補修箇所の乾燥収縮が抑制されるので、長期にわたって安定した品質をもった補修ができる。本発明の補修用モルタルへのカルシウムアルミネイト系膨張材の配合量としては15〜60Kg/m3の範囲が適切である。
【0028】
〔超微粒活性化材〕:超微粒活性化材は、粉末度8,000cm2/g以上の超微粒子の無水石膏からなる。この超微粒活性化材を本発明の補修用モルタルに配合すると、超微粒子セメントおよびカルシウムアルミネート系速硬剤が水と接触して急結するのを防止することができる。このため、施工作業に必要な可使時間を安定して確保できる。一定の時間が経過した後には、この超微粒活性化材は超微粒子セメントおよびカルシウムアルミネート系速硬剤と化学反応して初期強度の確保に寄与し、組織の緻密化に有効に作用する。しかし、初期に反応しなかった未反応の無水石膏は長期間に渡って反応を起こす。本発明の補修用モルタルへの超微粒活性化材の配合量としては30〜150Kg/m3の範囲が適切である。
【0029】
〔シリカフューム〕:フライアッシュの一部をシリカフュームで置換して使用することができる。シリカフュームを使用した場合には、その量を結合材の量に算入して水/結合材比を算出する。
【0030】
これらの混和材は、いずれも補修用モルタルの強度に影響を与える結合材の1種であると言える。このため、これらの混和材を用いる場合の水結合比の算出においては、これらの混和材も結合材として算入する。また、これらの混和材のうち、カルシウムアルミネート系速硬材、カルシウムアルミネイト系膨張材および超微粒活性化材については、粉状のまま超微粒子セメントと予め混合しておき、この混合粉をセメント系結合材として使用することができる。そして水/結合材比の算出にあたっては、これらの混和材を混合したセメント系結合材をそのまま結合材の量に算入し、フライアッシュを添加するのであればそのフライアッシュも結合材の量に算入する。
【0031】
混和材配合の水結合材比:これらの混和材を配合したときの水結合材比については、基本配合で説明したとおり37〜44%、好ましくは39〜41%とするのがよい。
【0032】
使用する混和剤
施工環境によっては補修用モルタルの流動性や強度特性を適切に調節することが必要になることがある。そのような場合には、次の混和剤を添加して補修用モルタルを混練するのがよい。
〔消泡剤〕:連行空気の発生によって空気量が増加する場合に、それを抑制するために添加するもので、ポリエステル系、シリコン系、エチルアールコルおよびエチレングリコールの1種または2種以上を使用することができ、市場で入手可能なものを使用できる。添加量としては通常は1Kg/m3で十分である。
【0033】
〔分散剤〕:単位水量を過剰にすることなくモルタルの流動性を確保し、水密性向上及び凍結融解の抵抗性を改善させて耐久性を増進するのに使用する。また、フレッシュのモルタルの粘性と流動性を同時に付加し、締固め不要な流動性をもつために使用する。分散剤としては市場で入手できる高性能減水剤を使用することができ、ポリカルボン酸系、ナフタレン系、メラミン系及びリグニン系の高性能減水剤の1種または2種以上を使用することができる。添加量としては通常の場合12Kg/m3以下で目的を達成することができる。
【0034】
〔強度促進剤〕:モルタルの3時間以後の強度発現を促進することが必要なときに使用する。強度促進剤としては,硫酸ナトリウム(Na2SO4)、硝酸ナトリウム(NaNO3)、シアン化ナトリウム(NaSCN)、炭酸リチウム(LiCO3)、硝酸カルシウム(CaNO3)などを使用するが、単独あるいは混合して使用することが可能である。添加量としては1Kg/m3以下で目的を達成できる。
【0035】
〔遅延剤〕:施工時の気温や施工条件によっては練混ぜから打設までの可使時間を長くすることが必要なときがある。このような場合に速硬性超微粒子セメント及びカルシウムアルミネート系膨張剤の水和反応を遅延させることのできる遅延剤を使用する。使用する遅延剤としては、ソジウムグルコネート(Sodium Gluconate)、クエン酸(Citric Acid) 、酒石酸(Tartaric Acid) 、硼酸(Boric acid)が挙げられ、これらを単独あるいは混合して使用する。添加量としては1Kg/m3で十分である。
【0036】
混和材および混和剤を配合する改善配合の配合例を参考までに表1に示した。
【0037】
【表1】

【0038】
本発明による高性能補修用モルタルは産業副産物の石炭灰と石炭灰人工骨材及び高炉スラグ骨材を主原料として使用して高流動、速硬性、高強度、高耐久性を発現したものであり、用途としては一般トンネル、水路トンネルにおける内巻工法に特に適する。また道路及び他の構造物の補修用材料としても使用することも可能である。本発明の補修用モルタルは、一般の補修モルタルと比べると、流動性、速硬性、高強度、高耐久性のバランスが優れているので、良好な作業性のもとで高品質の補修成果が得られるし、経済的でもある。
【0039】
以下に実施例をあげる。
【実施例】
【0040】
本実施例で使用した原材料の種類とそれらの物性を表2に示した。これらの原材料を表3に示す配合で混練し、得られた各モルタルのフレッシュ試験の結果を表3に併記した。試験は、渇水期に水路トンネル内部での内巻工法を実施することを想定して、気温10℃、相対湿度80%の条件に設定した。
【0041】
結合材としてのセメントには、超微粒子セメントに、カルシウムアルミネート系速硬材と、カルシウムアルミネイト系膨張材および超微粒活性化材を予め混合した超微粒子混合セメントを使用した。本実施例で使用した超微粒子混合セメントの各材料の混合割合は超微粒子セメント:9.5重量%、カルシウムアルミネート系速硬材:67.0重量%、カルシウムアルミネイト系膨張材8.0重量%、超微粒活性化材15.0重量%のものである。表3の配合例においては、この超微粒子混合セメント中の各材料の配合割合は、モルタル1m3当りの単位重量基準で表すと、超微粒子セメント:28〜57Kg/m3、カルシウムアルミネート系速硬材:201〜402Kg/m3、カルシウムアルミネイト系膨張材25〜51Kg/m3、超微粒活性化材45〜90Kg/m3となる
【0042】
調合は,表3に示すように、配合例1〜6においては水結合材比(W/B)を41%、単位結合材量を600Kg/m3とし、超微粒子混合セメントの0〜300Kg/m3を置換水準を変えてフライアッシュで置換した。また、全骨材容積の30容積%に相当する分を人工軽量骨材砂(表2中のJS)で置換した。
【0043】
実際の現場では、施工時に単位水量を定量的に計量することは困難を伴うので、配合例7〜12において単位水量のみを加減した場合の性状変化を調べた。すなわち、フライアッシュの混入量100、150、200Kg/m3の配合において、水結合材比を39%と44%として、それらの性状変化を調べた。
【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
〔試験項目と試験方法〕
各配合例のフレッシュ試験の結果を表3および図1〜図3に示した。また、図4〜6に圧縮試験の結果を、図7に材齢と長さ変化率の関係を示す試験結果を、図8にプライマーに対する付着強度試験結果を、図9に経過時間と磨耗深さの関係を示す試験結果を示した。
【0047】
これらの試験方法は次のとおりである。
フリーフロー試験:JIS R 5201(セメントの物理試験方法のフロー試験)に準じ,落下運動をしない自由フロー値を測定した。
J14 ロート試験:JSCE−F541(充填モルタルの流動性試験)に準じた。
空気量と単位容積質量の測定:JIS A 1128(空気量の圧力による試験方法)に準じた。
凝結時間の測定:JIS A 1147(コンクリートの凝結時間試験方法)に準じた。
圧縮強度の測定:JIS A 1108(コンクリートの圧縮強度試験方法)に準じ、測定材齢を3時間、7日、28日とし、養生条件は10℃、相対湿度80%とした。
長さ変化試験:JIS A 1129-1(長さ変化試験方法−コンパレータ方法)に準じ、試験体の寸法は40×40×160mmとし、打込み後1日封緘養生を行い、直ちに10℃、相対湿度60%で養生した。
付着試験:JIS A6909(建築用仕上塗材の付着強さ試験)に準じ、600×300×60mmのJIS 舗装用平板を用いて実施した。試験体は舗装用平板の上面を目荒した後各種のプライマーを標準使用量塗布し、補修モルタルを厚10mm流し込み、材齢14日と28日で付着強度を測定した。養生条件は10℃、相対湿度80%とした。プライマーは塗布無し(水湿し)及びエチレン酢酸ビニル系2種類、アクリル系ポリマー2種類、エポキシ樹脂系1種類の6種類とした。試験体は各材齢に6個をサンプリングし、最大値および最小値を除外した試験体4個の平均値で評価した。
磨耗試験:ASTM C 779「コンクリート表面の耐磨耗試験方法」のA法( 回転円盤機) に準じて実施した。試験体は300×300×50mmの平板とし、材齢28日まで10℃水中に浸漬養生後1週間20℃、相対湿度60%で気乾養生を行い、0分、30分、60分、90分、120分までの磨耗試験を実施した。磨耗量の測定方法は試験体の四隅に測定板の脚部を固定するためのチップを貼り付け、測定板を設置し、上面から試験体上面までの深さを磨耗面24点についてデジタルゲージで平均値を求めた。
【0048】
〔試験結果〕
表3および図1〜9の試験結果に見られるように、本発明に従う補修用モルタルはこれまでのものにはない特異な特性を示すことがわかる。
1.図1に示すように、フリーフローは、フライアッシュの混入量が増加しても258〜289mmを示す。また、フライアッシュの混入量100Kg/m3と150Kg/m3において水結合材比を変化させた場合にフリーフローは、フライアッシュの混入量が増加すると大きくなる傾向にあるが、水結合材比39〜44%では257〜302mmを示す。
【0049】
2.表3のように、空気量については、全ての調合において1.4 〜2.8%の範囲であり、フライアッシュの混入量と水結合材比の変化による影響は殆んど見られない。
【0050】
3.図2には、フライアッシュの混入量によるJロートの充填流動性の結果を示すが、フライアッシュを混入した補修用モルタルでは、フライアッシュの混入量が増加することによってJロートの流下時間が遅くなる傾向があり、22〜55秒程度である。また、水結合材比が低下すると流下時間が遅くなる傾向にあり、水結合材比39%の補修用モルタルは水結合材比44%のものより2.5倍程度遅い。
【0051】
4.図3には凝結試験の結果を示すが、全ての配合において始発時間が48分〜62分、終結時間が65分〜76分であり、始発から終結まで約15分程度である。補修用モルタルの内巻工法への実用化に当っては、練り混ぜからグラウトポンプによる注入まで20分程度の時間を要するため、30分以上の可使時間の確保が必要となるが、本例のモルタルは始発時間が48分以上を示しているため、可使時間が十分確保できる。
【0052】
5.図4には圧縮強度を示す。材齢3時間の圧縮強度はフライアッシュの混入量が増加することによって低下する傾向があるが、フライアッシュ混入量300Kg/m3(配合例6)以外は6N/mm2以上である。材齢28日の圧縮強度はフライアッシュ混入量が増加すると大きく減少する傾向にあり、約25.3〜67.3N/mm2の範囲である。フライアッシュ混入量300Kg/m3(配合例6)を除いた全ての補修モルタルは40N/mm2以上である。
【0053】
6.図5に始発時間と3時間強度の関係を示す。フライアッシュが増加することによって始発時間は速くなるが、3時間圧縮強度は小さくなる傾向を示す。フライアッシュの混入量による始発時間の差は最大15分程度である。セメント量に対するフライアッシュの混入量の調整によって始発時間が調整できる。
【0054】
7.図6に結合材水比(B/Wであり、W/Bではない)の違いによる圧縮強度の変化を示す。フライアッシュの混入量100Kg/m3(配合例3)と150Kg/m3(配合例4)および200Kg/m3(配合例5)について、材齢3時間の圧縮強度は結合材水比の違いによる影響は少なく、いずれの結合材水比でも6N/mm2以上を示す。材齢28日の圧縮強度は結合材水比が増加すると大きくなる傾向にあるが、いずれも40N/mm2を上回る。本発明に従う補修用モルタルでは、フライアッシュの混入量及び単位水量の加減による水結合材比の変化に対する圧縮強度は、フライアッシュの混入量が200Kg/m3以下であれば、設定した目標値を満足することがわかる。したがって、単位水量の加減による水結合材比の許容範囲として、計画調合において水結合材比が±3%(単位水量±18Kg/m3)程度であっても、その圧縮強度の品質が確保きる。
【0055】
8.図7に長さ変化率の試験結果の一例を示すが、材齢60日から長さはほぼ安定し、材齢91日では7.9×10-4〜8.8×10-4の範囲である。また、フライアッシュ混入量による長さ変化には大きな差はない。
【0056】
9.図8に各種プライマーに対する付着強度を示す。材齢14日の付着強度は、エポキシ樹脂系プライマーを除いて、1.5N/mm2を大きく上回っている。材齢28日の付着強度は2.1N/mm2〜3.4N/mm2を示す。エポキシ樹脂系プライマーを除き、プライマーの塗布により付着強度が若干増加する傾向がある。プライマー成分に着目するとアクリル系ポリマーの付着強度が高い。アクリル系ポリマーのうち、Aプライマーの付着強度はMプライマーより若干大きい値を示し、本発明の補修用モルタルとの相性が良い。
【0057】
10.図9に磨耗試験の結果を示した。磨耗試験は、配合例3の本発明モルタルと普通セメントを用いた高強度モルタル(W/C:43%、単位セメント量570Kg/m3、S/C:2.58、天然砂使用)について行い、経過時間による磨耗量について両者を対比して示した。図9に見られるように、磨耗深さは両者共に経過時間に伴い直線的に大きくなるが、経過時間120分における磨耗深さは両者共に約2mm程度であり、また同等の傾きを示していることから、両者には有意な差はなくほぼ同等であると考えてよい。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明に従う補修用モルタルのフリーフロー試験結果を示す図である。
【図2】本発明に従う補修用モルタルのJロート充填流動試験の結果を示す図である。
【図3】本発明に従う補修用モルタルの凝結時間についての試験結果を示す図である。
【図4】本発明に従う補修用モルタルの圧縮強度についての試験結果を示す図である。
【図5】本発明に従う補修用モルタルの始発時間と3時間圧縮強度との関係を示す図である。
【図6】本発明に従う補修用モルタルの結合材水比(B/W)と圧縮強度との関係を示す図である。
【図7】本発明に従う補修用モルタルの長さ変化を示す図である。
【図8】本発明に従う補修用モルタルの各種プライマーに対する付着強度の試験結果を示す図である。
【図9】本発明に従う補修用モルタルの経過時間による磨耗量の変化を、普通の強度モルタルのそれと対比して示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
材齢3時間の圧縮強度6N/mm2以上を発現する補修用モルタルの配合において、セメント系結合材として粉末度5,000〜8,000cm2/gの超微粒子セメントを使用し、細骨材の50容積%以下を吸水率5%以上で絶乾密度1.4〜2.0グラム/cm3の人工軽量骨材砂で置換し、前記超微粒子セメントの50重量%以下をフライアッシュで置換し、水結合材比を37〜44%とし(フライアッシュは結合材に算入する)、これらの配合物を混練してフリーフロー200〜300mm、凝結始発時間が45分より後で、凝結終結時間が80分以内とした補修用モルタル。
【請求項2】
材齢28日の圧縮強度40N/mm2以上である請求項1に記載の補修用モルタル。
【請求項3】
人工軽量骨材砂は、平均粒径が5mm以下である請求項1または2に記載の補修用モルタル。
【請求項4】
細骨材は、硅砂および高炉スラグ砂の1種または2種からなる請求項1に記載の補修用モルタル。
【請求項5】
フリーフロー、凝結始発時間および凝結終結時間の測定は気温10℃、相対湿度80%の条件下で測定される値である請求項1に記載の補修用モルタル。
【請求項6】
混和材として,カルシウムアルミネイト系速硬材480Kg/m3以下、カルシウムアルミネイト系膨張材60Kg/m3以下、粉末度8,000cm2/g以上の無水石膏からなる超微粒子活性化材150Kg/m3以下の1種または2種以上をさらに配合した請求項1に記載の補修用モルタル。
【請求項7】
混和材は粉体状で超微粒子セメントに予め混合され、この混合粉がセメント系結合材を形成している請求項6に記載の補修用モルタル。
【請求項8】
混和剤として、消泡剤1Kg/m3以下、分散剤12Kg/m3以下、強度促進剤1Kg/m3以下、遅延剤1Kg/m3以下の1種または2種以上をさらに配合した請求項1または7に記載の補修用モルタル。
【請求項9】
一般トンネルまたは水路トンネルの内壁に型枠を設置し、該内壁と型枠との空間に補修用モルタルを充填するトンネルの内巻工法において、該補修用モルタルとして、請求項1、6または8に記載の補修用モルタルを使用するトンネル補修工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−184353(P2008−184353A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−18407(P2007−18407)
【出願日】平成19年1月29日(2007.1.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年7月31日 社団法人 日本建築学会発行の「2006年度大会(関東)学術講演会プログラム」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年9月30日 鹿島技術研究所発行の「鹿島技術研究所年報 第54号」に発表
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【出願人】(507031011)ドゥヨゥン ティ アンド エス コーポレーション (1)
【Fターム(参考)】