説明

触媒装置

【課題】DPF機能及びSCR触媒機能のそれぞれを両立しながら、DPFとSCR触媒と酸化触媒とを一体化した触媒装置を提供する。
【解決手段】触媒装置4は、ウォールフロー型の担体14を有している。担体14は、多孔質性の基材11から構成されている。基材11の内部の細孔内には、NOxを還元するためのSCR触媒が担持されている。基材11のディーゼルエンジン1側の表面11aには、排気ガス中のPMを捕集する捕集層12がコーティングされている。基材11の反対側の表面11bには、酸化触媒からなる酸化触媒層13がコーティングされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、触媒装置に係り、特に、尿素SCR(Selective Catalytic Reduction)システムを利用した排気ガス浄化装置に用いられる触媒装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンの排気ガスに含まれる窒素酸化物(NOx)を低減するために、尿素SCRシステムが開発されている。尿素SCRシステムの基本構成は、一酸化窒素(NO)を酸化して二酸化窒素(NO)にするための酸化触媒と、酸化触媒の下流側に設けられ、尿素水から生成したアンモニアとNOxとの化学反応により、NOxを窒素及び水に還元するためのSCR触媒と、SCR触媒に尿素水を添加するための尿素添加システムと、SCR触媒の下流側に設けられ、SCR触媒における化学反応で消費されずに残ったアンモニアを酸化するための酸化触媒とから構成される。NOを酸化する酸化触媒とSCR触媒との間に、パティキュレートマター(PM)を除去するためのディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)を設けることもできる。
【0003】
2つの酸化触媒と、SCR触媒と、DPFとからなる従来の尿素SCRシステムは、システム全体として大きくなり、SCR触媒がエンジンから遠くに配置されることになるため、SCR触媒に到達するまでに排気ガスの温度が低下し、SCR触媒での浄化性能が低くなってしまうという問題点があった。この問題点を解決するために、SCR触媒とDPFと酸化触媒とを一体化した触媒装置を使用して尿素SCRシステム全体の大きさを小さくし、触媒装置をできるだけエンジンの近くに配置したものが特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−19221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、SCR触媒とDPFと酸化触媒とを一体化するために、DPFに相当するフィルタにSCR触媒及び酸化触媒をコーティングしているが、これでは圧損が高くなり燃費のロスにつながるという問題点があった。圧損を低減するためにSCR触媒のコーティング量を下げると、NOxの浄化性能が低下してしまうので、フィルタとして高気孔率基材を使用する必要がある。しかしこれでは、PM捕集性能が低下してしまう。したがって、DPF機能及びSCR触媒機能のそれぞれを両立することは困難であった。
【0006】
この発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、DPF機能及びSCR触媒機能のそれぞれを両立しながら、DPFとSCR触媒と酸化触媒とを一体化した触媒装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る触媒装置は、内燃機関から排出された排気ガスを浄化する触媒装置であって、排気ガス中のNOxを還元するSCR触媒が内部に担持された多孔質性の基材と、基材の内燃機関側の表面にコーティングされた、排気ガス中のPMを捕集する捕集層と、基材の内燃機関側とは反対側の表面にコーティングされた酸化触媒を含む酸化触媒層とを有する。SCR触媒は、多孔質性の基材の内部に担持されているので、コーティング量を下げて圧損を低減する必要がない。また、捕集層は、基材の内燃機関側の表面にコーティングされているので、高気孔率基材を使用して圧損を低減する必要がない。
基材の気孔率が捕集層の気孔率よりも大きく、かつ、酸化触媒層の気孔率が基材の気孔率以上であり、基材の平均細孔径が捕集層の平均細孔径よりも大きく、かつ、酸化触媒層の平均細孔径が基材の平均細孔径以上であり、基材の厚さが、捕集層の厚さ及び酸化触媒層の厚さのいずれよりも大きい。
基材及び酸化触媒層の気孔率は、55%以上かつ70%以下であり、捕集層の気孔率は、20%以上かつ55%未満である。基材及び酸化触媒層の平均細孔径は、15μm以上かつ100μm以下であり、捕集層の平均細孔径は、6μm以上かつ15μm未満である。基材の厚さは、200μm以上かつ400μm以下であり、捕集層の厚さは、10μm以上かつ200μm未満であり、酸化触媒層の厚さは、0.1μm以上かつ200μm未満である。
酸化触媒層はさらに第2のSCR触媒を含んでもよい。
捕集層は、SCR触媒によってNOxを還元するために触媒装置に添加される還元剤を加水分解する加水分解触媒を含んでもよい。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、SCR触媒は、多孔質性の基材の内部に担持されているので、コーティング量を下げて圧損を低減する必要がなく、捕集層は、基材の内燃機関側の表面にコーティングされているので、高気孔率基材を使用して圧損を低減する必要がない。従って、DPF機能及びSCR触媒機能のそれぞれを両立しながら、DPFとSCR触媒と酸化触媒とを一体化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の実施の形態に係る触媒装置を備えた排気ガス浄化装置の構成模式図である。
【図2】この実施の形態に係る触媒装置の担体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
この発明の実施の形態に係る触媒装置を備えた排気ガス浄化装置の構成模式図を図1に示す。ディーゼルエンジン1から排出された排気ガスが流通する排気管2に、酸化触媒装置3と、排気ガスを浄化する触媒装置4とが設けられている。酸化触媒装置3と触媒装置4との間には、還元剤である尿素水を噴射する噴射ノズル7が設けられており、噴射ノズル7は、配管8を介して、尿素水を貯留する尿素水タンク9に連通している。配管8には、尿素水タンク9内の尿素水を噴射ノズル7に供給するための尿素水添加システム6が設けられている。尿素水添加システム6は、制御装置であるECU5に電気的に接続されている。
【0011】
図2に示されるように、触媒装置4は、ウォールフロー型の担体14を有している。担体14は、多孔質性の基材11から構成されている。基材11の材質としては、コージェライト、アルミナ、炭化珪素等の、通常のフィルタ基材として用いられるセラミックス材料が利用できる。基材11の内部の細孔内には、NOxを還元するためのSCR触媒が担持されている。基材11のディーゼルエンジン1側の表面11aには、排気ガス中のPMを捕集する捕集層12がコーティングされている。捕集層12の材質としても基材11と同様の材料が利用可能である。基材11の反対側の表面11bには、酸化触媒からなる酸化触媒層13がコーティングされている。
【0012】
基材11の厚さXは、捕集層12の厚さX及び酸化触媒層13の厚さXのいずれよりも大きくなっている。基材11の厚さXは、200μm以上かつ400μm以下が好ましい。また、捕集層12の厚さXは、10μm以上かつ200μm未満が好ましく、酸化触媒層13の厚さXは、0.1μm以上かつ200μm未満が好ましい。
上記のような厚さの関係とすることにより、捕集層12での圧力損失を抑制できると共に、NOx浄化に必要なSCR触媒のコーティング量に適した基材(多孔質性基材内部のコーティング可能面積)とすることができる。
【0013】
基材11の気孔率は捕集層12の気孔率よりも大きく、かつ、酸化触媒層13の気孔率は基材11の気孔率以上となっている。基材11及び酸化触媒層13の気孔率は55%以上かつ70%以下が好ましく、捕集層12の気孔率は20%以上かつ55%未満が好ましい。
【0014】
基材11の平均細孔径は捕集層12の平均細孔径よりも大きく、かつ、酸化触媒層13の平均細孔径は基材11の平均細孔径以上となっている。基材11及び酸化触媒層13の平均細孔径は15μm以上かつ100μm以下が好ましく、捕集層12の平均細孔径は6μm以上かつ15μm未満が好ましい。
上記のような気孔率・平均細孔径の関係とすることにより、捕集層12より下流において圧力損失を抑制できると同時に排気ガスと触媒との良好な接触ができる。
【0015】
次に、この実施の形態に係る触媒装置を備えた排気ガス浄化装置の動作について説明する。
図1に示されるように、ディーゼルエンジン1から排出された排気ガスは、排気管2を流通する。排気ガスが酸化触媒装置3に流入すると、排気ガス中のNOがNOに酸化される。続いて、排気ガスは触媒装置4に流入する。ECU5は、適切なタイミングで尿素水添加システム6を作動させ、尿素水タンク9内の尿素水を、配管8を介して噴射ノズル7に供給し、噴射ノズル7から尿素水が触媒装置4に添加される。
【0016】
触媒装置4に流入した排気ガスは、図2に示されるように、捕集層12を通過する際に、排ガス中のPMが捕集層12に捕捉される。続いて、排気ガスが基材11内の細孔内を拡散する。触媒装置4に添加された尿素水は、排気ガスの熱によって加水分解されてアンモニアと二酸化炭素となり、生成したアンモニアは、基材11内の細孔内に担持されたSCR触媒によって、細孔内を拡散する排ガス中のNOxと反応して、NOxを窒素及び水に還元する。基材11において消費されずに残ったアンモニアは、酸化触媒層13内の酸化触媒において酸化され、浄化された排気ガスが大気中へ排出される。
【0017】
時間の経過と共に、捕集層12に捕捉されたPMの量が増加する。触媒装置4の前後の差圧を検知すること等により、捕捉されたPMの量が規定量以上になったと判定されたら、排気ガスに燃料を添加する等の周知の方法により、捕集層12の再生を行うことができる。捕集層12の再生中、炭化水素及び一酸化炭素は、酸化触媒層13内の酸化触媒により酸化される。
【0018】
このように、SCR触媒は、多孔質性の基材11の内部に担持されているので、コーティング量を下げて圧損を低減する必要がなく、捕集層12は、基材11のディーゼルエンジン1側の表面11aにコーティングされているので、高気孔率基材を使用して圧損を低減する必要がない。従って、DPF機能及びSCR触媒機能のそれぞれを両立しながら、DPFとSCR触媒と酸化触媒とを一体化することができる。
【0019】
この実施の形態において、捕集層12に、尿素を加水分解する加水分解触媒として、アルミナ、チタニア、ゼオライト、シリカ等をコーティングしてもよい。尿素は、排気ガスの熱により加水分解することが可能であるが、ディーゼルエンジン1の起動直後のように、排気ガスの温度が低い場合でも、加水分解触媒によって尿素を確実に加水分解することができる。また、酸化触媒層13中に、基材11の内部に担持されているSCR触媒とは別に、さらに第2のSCR触媒を含ませてもよい。これにより、酸化触媒層13においてもNOxの還元が可能となり、NOxの浄化能力を向上することができる。
【実施例】
【0020】
次に、この発明に係る触媒装置の効果を実施例で説明する。
表1に、この発明に係る触媒装置である実施例1〜3の構成と、比較例1〜9に係る触媒装置(ただし、比較例1は、DPFと、SCR触媒と、酸化触媒とを別体にした従来の尿素SCRシステム)の構成とを示す。
【0021】
【表1】

【0022】
実施例1〜3は、加水分解触媒としてAlをコーティングした捕集層と、SCR触媒としてFe−ZSM5を内部の細孔内に担持した多孔質性の基材と、第2のSCR触媒としてFe−ZSM5及び酸化触媒としてPtPd/Alを含んだ酸化触媒層とからなる、実施の形態で説明した3層構造を有している。尚、各層における気孔率と平均細孔径と厚さと、基材におけるSCR触媒のコーティング量は、表1に示されている。
【0023】
比較例1は、既に述べたように、DPFと、SCR触媒と、酸化触媒とを別体にした従来の尿素SCRシステムである。比較例2〜4は、多孔質性の基材の細孔内にSCR触媒としてFe−ZSM5を担持した1層構造を有している。比較例5〜9は、加水分解触媒としてAlをコーティングした捕集層と、SCR触媒としてFe−ZSM5を内部の細孔内に担持した多孔質性の基材とからなる2層構造を有している。尚、各層における気孔率と平均細孔径と厚さと、基材におけるSCR触媒のコーティング量は、表1に示されている。
【0024】
実施例1〜3及び比較例2〜9の触媒装置を、図1に示された排気ガス浄化装置の触媒装置4として配置したものを用いて、また、比較例1として従来の尿素SCRシステムを用いて、触媒装置の性能評価を行い、その評価結果を表2に示した。尚、評価結果は、優れていることを示す二重丸と、良好を示す一重丸と、問題があることを示すバツ印との定性的な3段階の評価とした。
【0025】
【表2】

【0026】
DPFと、SCR触媒と、酸化触媒とを別体にした従来の尿素SCRシステムである比較例1に比べて、実施例1〜3及び比較例2〜9は一体型の触媒装置を用いているので、コンパクト性は優れている。PM捕集性及びPMの堆積による圧損並びにNOx浄化率については、DPF機能及びSCR触媒機能のそれぞれの両立性に関係する。比較例2〜4は捕集層がなく、基材でPM捕集を行っているが、比較例2の様にPM捕集性とPMの堆積による圧損を良好にしようとするとSCR触媒のコーティング量が減り、NOx浄化率が悪化する。比較例3の様に比較例2に対してSCR触媒のコーティング量を増やすと、PMの堆積による圧損が悪化する。さらに比較例4の様に比較例3に対して圧損を改善するために気孔率・平均細孔径を調整すると、PM捕集性が悪化する。比較例5はPMの堆積による圧損が劣っている。比較例6ではSCR触媒のコーティング量を減らすことで、PMの堆積による圧損については改善されているが、NOx浄化率が低下している。また、比較例8,9は捕集層の厚さを300μm、基材の厚さを70μmとしている。比較例8,9の結果から、このような厚さの関係では必要なSCR触媒のコーティング量(NOx浄化率)とPMの堆積による圧損との両立が難しいことが判る。
また、アンモニアのスリップ性と、PM再生中の炭化水素及び一酸化炭素のすり抜け性とについては、アンモニアと炭化水素と一酸化炭素とを酸化する酸化触媒からなる酸化触媒層を持たない比較例2〜9は、問題ありとの結果となっている。
すなわち、比較例1〜9はそれぞれ、いずれか1つの項目についてバツ印があるが、実施例1〜3については、いずれの項目についても、優れているかあるいは良好となっている。従って、実施例1〜3に係る触媒装置は、DPF機能及びSCR触媒機能のそれぞれを両立していると言える。従って、この発明に係る触媒装置の具体的形態である実施例1〜3は、DPF機能と、SCR触媒機能と、酸化触媒機能とを良好に発揮しながら、これらを一体化している。つまり、PMの高捕集(低圧損)とSCR触媒の高コーティング量(高NOx浄化率)を実現できる。さらに、酸化触媒層をコーティングすることで更なる体格低減ができる。
【符号の説明】
【0027】
1 ディーゼルエンジン(内燃機関)、4 触媒装置、11 基材、11a,11b (基材の)表面、12 捕集層、13 酸化触媒層、X (基材の)厚さ、X (捕集層の)厚さ、X (酸化触媒層の)厚さ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関から排出された排気ガスを浄化する触媒装置であって、
前記排気ガス中のNOxを還元するSCR触媒が内部に担持された多孔質性の基材と、
該基材の前記内燃機関側の表面にコーティングされた、前記排気ガス中のPMを捕集する捕集層と、
前記基材の前記内燃機関側とは反対側の表面にコーティングされた酸化触媒を含む酸化触媒層と
を有する触媒装置。
【請求項2】
前記基材の気孔率が前記捕集層の気孔率よりも大きく、かつ、前記酸化触媒層の気孔率が前記基材の気孔率以上であり、
前記基材の平均細孔径が前記捕集層の平均細孔径よりも大きく、かつ、前記酸化触媒層の平均細孔径が前記基材の平均細孔径以上であり、
前記基材の厚さが、前記捕集層の厚さ及び前記酸化触媒層の厚さのいずれよりも大きい、請求項1に記載の触媒装置。
【請求項3】
前記基材及び前記酸化触媒層の気孔率は、55%以上かつ70%以下であり、前記捕集層の気孔率は、20%以上かつ55%未満である、請求項1または2に記載の触媒装置。
【請求項4】
前記基材及び前記酸化触媒層の平均細孔径は、15μm以上かつ100μm以下であり、前記捕集層の平均細孔径は、6μm以上かつ15μm未満である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の触媒装置。
【請求項5】
前記基材の厚さは、200μm以上かつ400μm以下であり、前記捕集層の厚さは、10μm以上かつ200μm未満であり、前記酸化触媒層の厚さは、0.1μm以上かつ200μm未満である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の触媒装置。
【請求項6】
前記酸化触媒層はさらに第2のSCR触媒を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の触媒装置。
【請求項7】
前記捕集層は、前記SCR触媒によってNOxを還元するために前記触媒装置に添加される還元剤を加水分解する加水分解触媒を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の触媒装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−237282(P2012−237282A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108165(P2011−108165)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】