車両の旋回挙動制御装置
【課題】車両の旋回性能を向上させつつドライブフィールのよい車両の旋回挙動制御装置を提供する。
【解決手段】第1及び第2のヨー運動調整手段31,33を制御して、車両のヨー運動を抑制する場合、ヨー運動調整手段31、33に制御量を配分し、旋回内輪の駆動力が増加するように第1のヨー運動調整手段31を制御しながら旋回外輪の制動力が増加するように第2のヨー運動調整手段を制御し、車両のヨー運動を促進する場合、両ヨー運動調整手段に制御量を配分して、旋回外輪の駆動力が増加するように第1のヨー運動調整手段31を制御しながら旋回内輪の制動力が増加するように第2のヨー運動調整手段33を制御し、車両が加速の場合に、第1のヨー運動調整手段31に配分する制御量の割合を、減速の場合の割合よりも大きくし、減速の場合に、第2のヨー運動調整手段33に配分する制御量の割合を、加速の場合の割合よりも大きくする。
【解決手段】第1及び第2のヨー運動調整手段31,33を制御して、車両のヨー運動を抑制する場合、ヨー運動調整手段31、33に制御量を配分し、旋回内輪の駆動力が増加するように第1のヨー運動調整手段31を制御しながら旋回外輪の制動力が増加するように第2のヨー運動調整手段を制御し、車両のヨー運動を促進する場合、両ヨー運動調整手段に制御量を配分して、旋回外輪の駆動力が増加するように第1のヨー運動調整手段31を制御しながら旋回内輪の制動力が増加するように第2のヨー運動調整手段33を制御し、車両が加速の場合に、第1のヨー運動調整手段31に配分する制御量の割合を、減速の場合の割合よりも大きくし、減速の場合に、第2のヨー運動調整手段33に配分する制御量の割合を、加速の場合の割合よりも大きくする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の旋回挙動制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から旋回している車両の安定化を図り、車両の安全性を向上させるための技術が開発されている。例えば、以下の特許文献1には、車両のヨーレイトに基づいて、車両の左輪と右輪との間の駆動力差および各輪に対する制動力をフィードバック制御する技術や、前輪と後輪との差動制限の程度を可変とするセンターデファレンシャルギア(以下、「センターデフ」という)の電子制御LSD(Limited Slip Differential)を車両のヨーレイトに基づいてフィードバック制御する技術が開示されている。
【0003】
しかしながら、旋回中の車両に生じたオーバーステアを、単に旋回内輪の駆動力が増大するように制御するだけで抑制することが困難である場合がある。つまり、車両旋回中は旋回外輪に対する荷重が増大し、相対的に旋回内輪に対する荷重が減少していることから、路面に対する旋回内輪のグリップ力、即ち、旋回内輪のトラクションが低下するため、旋回内輪に対する駆動力を増大させても内輪はスリップし、オーバーステアを抑制するヨーモーメントを十分に発生させることができない場合がある。なお、この傾向は旋回中の車両が加速している場合に顕著となる。
【0004】
また、旋回中の車両が減速している場合は、旋回内輪のトラクションが低下するだけではなく、前輪に対する荷重が増大し、相対的に後輪に対する荷重が減少し、後輪のトラクションが低下するため、後輪側の左右輪間の駆動力制御を行ったとしても、アンダーステアやオーバーステアを抑制するヨーモーメントを十分に発生させることができない場合が生じる。
【0005】
4輪駆動方式の車両が旋回している場合にアンダーステアが生じた場合、センターデフによる前後輪間の差動制限を弱めて車両の回頭性を向上させることで、アンダーステアを抑制するという手法が考えられるものの、この手法によれば、車両全体としてのトラクションが減少するため、車両の加速性能は低下してしまう。つまり、センターデフによる前後輪間の差動が制限されていない状態で車両の後輪がスリップしたと仮定すると、この場合、後輪はさらに回転することとなり、本来は前輪に伝達されるべきトルクがスリップ中の後輪に伝達されることとなってしまい、車両の加速が制限されるのである。
【0006】
そこで、このような不具合を解決するために、本出願人は、特許文献1において、ヨーレイトフィードバック制御を適用して、前後差動制限装置による前後輪間の差動制限や、左右輪トルク差発生装置による車両の左輪と右輪との間の駆動力制御およびブレーキ装置の統合制御を行い、オーバーステア抑制に限り,車両の左輪と右輪との間の駆動力の制御と並行してセンターデフによる前後輪間の差動制御による拘束力を強める様に制御する内容を提案している。
【0007】
【特許文献1】特開2007−131229号公法
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、従来構成のように、ブレーキ装置(4輪独立ブレーキ装置)によるブレーキ力でヨー制御を行う場合、減速感というデメリットがあり、特に加速中のブレーキ力の付加はヨー制御時にドライバの意思(=加速したい)と逆な方向への制御となるので減速感が顕著になる傾向となる。また、急加速中のオーバーステアを抑制する場合、駆動力で横力の低下した前輪を制動することで横力が復帰するため、逆にオーバーステアを助長する可能性がある。車両が低速の場合、ヨーレイト偏差が大きく出やすいため,アンダーステア抑制やオーバーステア抑制を実行する場合、過剰に抑制してしまう場合が想定される。
【0009】
従来構成のように、左右輪トルク差発生装置によるヨー制御を行う場合、減速中は後輪荷重が抜けるため、制御能力が低下するとともに、後輪左右のトルク差によるオーバーステアの抑制は、後輪横力の低下により逆にオーバーステアを助長する場合がある。
【0010】
前後差動制限装置によるヨー制御を行う場合、アンダーステア挙動の出た車両は状況によりヘッドイン/ヘッドアウトするため,トルク移動方向の把握が困難であり,前後差動制限装置による差動制限によるアンダーステアの抑制は難しい。また、オーバーステア挙動の出た車両は常にヘッドアウトするため、前後差動制限装置による差動制限により、前輪には駆動力、後輪には制動力が付加されることから、減速中にオーバーステアを抑制するための差動制限を行うと、制動中の後輪をさらに制動することになり、オーバーステアを助長する要因となり兼ねない。
【0011】
本発明はこのような課題に鑑み案出されたもので、車両の旋回性能を向上させつつも、ドライブフィールのよい車両の旋回挙動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、請求項1の車両の旋回挙動制御装置は、前後左右輪を備える車両の旋回挙動制御装置であって、前輪または後輪の少なくとも一方における該左右輪の駆動力を調整する第1のヨー運動調整手段と、前輪または後輪の少なくとも一方における該左輪および該右輪に対するブレーキ装置の制動力を調整する第2のヨー運動調整手段と、第1のヨー運動調整手段と第2のヨー運動調整手段を制御して該車両のヨー運動を制御するヨー運動制御手段と、車両の加減速を検出する加減速検出手段とを備え、ヨー運動制御手段は、車両のヨー運動を抑制する場合、両ヨー運動調整手段に制御量を配分して、旋回内輪の駆動力が増加するように該第1のヨー運動調整手段を制御しながら旋回外輪の制動力が増加するように第2のヨー運動調整手段を制御し、車両のヨー運動を促進する場合、両ヨー運動調整手段に制御量を配分して、旋回外輪の駆動力が増加するように第1のヨー運動調整手段を制御しながら旋回内輪の制動力が増加するように第2のヨー運動調整手段を制御するとともに、加減速検出手段による検出結果が加速の場合に、第1のヨー運動調整手段に配分する制御量の割合を、減速の場合の割合よりも大きくし、加減速検出手段による検出結果が減速の場合に、第2のヨー運動調整手段に配分する制御量の割合を、加速の場合の割合よりも大きくすることを特徴としている。
【0013】
請求項2の発明は、請求項1記載の車両の旋回挙動制御装置において、車両の速度を検出する車速検出手段を備え、ヨー運動制御手段は、車速検出手段による検出結果が低速の場合に、第1のヨー運動調整手段に配分する制御量の割合を、高速の場合の割合よりも大きくし、速速検出手段による検出結果が高速の場合に、第2のヨー運動調整手段に配分する制御量の割合を、低速の場合の割合よりも大きくすることを特徴としている。
【0014】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載の車両の旋回挙動制御装置において、ヨー運動制御手段は、車両のヨー運動を促進する場合に、第1のヨー運動調整手段に配分する制御量の割合を、車両のヨー運動を抑制する場合の割合よりも大きくし、車両のヨー運動を抑制する場合に、前記第2のヨー運動調整手段に配分する制御量の割合を、前記車両のヨー運動を促進する場合の割合よりも大きくすることを特徴としている。
【0015】
請求項4の発明は、請求項1,2または3記載の車両の旋回挙動制御装置において、前後輪間での差動制限度合を調整する第3のヨー運動調整手段を備え、ヨー運動制御手段は、第1のヨー運動調整手段と第2のヨー運動調整手段と第3のヨー運動調整手段のうちの少なくとも2つのヨー運動調整手段を制御して該車両のヨー運動を制御し、加減速検出手段による検出結果が減速の場合における第3のヨー運動調整手段による制御配分量を、前記加減速検出手段による検出結果が加速の場合における該第3のヨー運動調整手段による制御配分量よりも小さくすることを特徴としている。
【0016】
請求項5の発明は、請求項1,2または3記載の車両の旋回挙動制御装置において、車両の目標とするヨー運動量に相関する値である目標ヨー運動量相関値を検出する目標ヨー運動量相関値検出手段を有し、ヨー運動制御手段は、車両のヨー運動を抑制する場合であり且つ第1のヨー運動調整手段と第3のヨー運動調整手段とを制御してもなお目標ヨー運動量相関値を満たせない場合には旋回外輪の制動力が増加するように第2のヨー運動調整手段を制御することを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明の請求項1に記載の車両の旋回挙動制御装置によれば、オーバーステアが発生して車両のヨー運動を抑制する場合、旋回内輪の駆動力を増加するとともに旋回外輪の制動力を増加させ、アンダーステアが発生して車両のヨー運動を促進する場合には旋回外輪の駆動力を増加し、旋回内輪の制動力を増加させるので、車両の旋回性能を向上させることができる。加減速検出手段による検出結果が加速の場合に、第1のヨー運動調整手段に配分する制御量の割合を、減速の場合の割合よりも大きくするので、車輪の接地荷重が高くなる加速時に駆動力をより増加させてより効率よくヨー運動制御を実施することができ、加速時の減速感を低減しながら旋回性能を安定させることができ、よりドライブフィールを高めることができる。また、加減速検出手段による検出結果が減速の場合に、第2のヨー運動調整手段に配分する制御量の割合を、加速の場合の割合よりも大きくするので、減速により車輪荷重が抜けた場合でも、左右輪間駆動力差の増大による車輪横力の低下を抑制できるので減速時の旋回性能を安定することができる。
【0018】
本発明の請求項2に記載の車両の旋回挙動制御装置によれば、速検出手段による検出結果が低速の場合に、第1のヨー運動調整手段に配分する制御量の割合を、高速の場合の割合よりも大きくし、車速速検出手段による検出結果が高速の場合に、第2のヨー運動調整手段に配分する制御量の割合を、低速の場合の割合よりも大きくするので、過剰な制動力の増加による減速感を抑制しながら、アンダーステアやオーバーステアを適正に抑制することができ、車両の旋回性能を向上させることができる。
【0019】
本発明の請求項3に記載の車両の旋回挙動制御装置によれば、車両のヨー運動を促進する場合に、第1のヨー運動調整手段に配分する制御量の割合を、車両のヨー運動を抑制する場合の割合よりも大きくして、接地荷重の高い旋回外輪の駆動力をより増加さて効率よくヨー運動制御を実施し、車両のヨー運動を抑制する場合に、第2のヨー運動調整手段に配分する制御量の割合を、車両のヨー運動を促進する場合の割合よりも大きくして、接地荷重の高い旋回外輪の制動力をより増加させて効率よくヨー運動制御を実施し、旋回性能を安定させることができる。
【0020】
本発明の請求項4に記載の車両の旋回挙動制御装置によれば、第3のヨー運動調整手段による制御配分量を、車両加速時よりも車両減速時に小さくするので、減速中のヨー運動の抑制時における差動制限が少なく後輪に対する制動を軽減できるので、効率よくオーバーステアを抑制することができ、特に減速時における車両の旋回性能の安定化を図ることができる。
【0021】
本発明の請求項5に記載の車両の旋回挙動制御装置によれば、第1のヨー運動調整手段と第3のヨー運動調整手段とによってもなお車両のヨー運動を十分に抑制することができない場合に第2のヨー運動調整手段により旋回外輪の制動力を増加させるので、加速性能の低下をできるかぎり抑制しながら、車両の旋回性能を向上させることができ、ドライブフィールを高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態について図面を用いて説明する。図1に示す旋回挙動制御装置は、4輪駆動方式の車両1に適されるものである。車両1に搭載されたエンジン2の出力はトランスミッション3及び中間ギア機構4からフロントディファレンシャル(以下、フロントデフ)6および車軸7L,7Rを介して前左右輪8L,8Rにそれぞれ伝達されるとともに、前輪側ハイポイドギヤ機構9、プロペラシャフト10、後輪側ハイポイドギヤ機構11、リヤディファレンシャル(以下、「リアデフ」と記す)12および車軸13L,13Rを介して後輪14の左右輪14L,14Rに伝達されるようになっている。このリアデフ12には、詳しくは後述する左右輪間駆動力移動機構15が備えられている。
【0023】
フロントデフ6には、エンジン2から入力されたトルクの大きさに応じて、左右輪8L,8Rの差動を機械的に制限するトルク感応式のディファレンシャルギアが適用されている。
【0024】
次に、後輪14側の駆動系について説明すると、この後輪14には左右輪14L,14R間の差動を許容するリアデフ12が設けられ、また、このリアデフ12には、左右輪14L,14Rに伝達される駆動力の差を適宜変更することができる左右輪間駆動力移動機構15が設けられている。
【0025】
このリアデフ12におけるケース12Aの外周にはプロペラシャフト10の後端のピニオンギア10Aと噛合するクラウンギア16が設けられ、また、このケース12Aの内側には遊星歯車機構12Bが備えられている。そして、この遊星歯車機構12Bにより、左右の後輪14L,14Rの差動が許容されるようになっている。したがって、エンジン2からプロペラシャフト10,ピニオンギア10A等を通じてクラウンギア16へ入力されたトルクは、遊星歯車機構12Bによって左側の後輪14Lと右側の後輪14Rとの差動を許容しながら両輪14L,14Rに伝達されるようになっている。
【0026】
左右輪間駆動力移動機構15は、変速機構15Aと伝達容量可変制御式のトルク伝達機構15Bとから構成され、車両1に搭載されているECU40からの指令によって左輪14Lと右輪14Rとの間の駆動力(即ち、トルク)の差を、車両の走行状況等に応じて適宜変更できるようになっている。このうち、変速機構15Aは、左右輪のうちの一方の車輪(ここでは左輪14L)の回転速度を増速させたり減速させたりしてトルク伝達機構15Bに出力するものである。
【0027】
この伝達容量可変制御式のトルク伝達機構15Bは、ECU40によって制御された駆動系油圧ユニットから入力される油圧に応じて、伝達トルク容量を調整できる湿式油圧多板クラッチ機構であって、変速機構15Aにより増速または減速された回転速度と、左右輪のうちの他方の車輪(本実施形態においては右輪14R)の回転速度との回転速度差を利用して、左右輪14L,14Rの間でトルクの授受を行なうことにより、一方の車輪の駆動トルクを増大または減少させ、他方の車輪の駆動トルクを減少または増大させることができるようになっている。なお、上述の、遊星歯車機構12B,変速機構15A,トルク伝達機構15Bは公知の技術であるので、これらの各構造についての詳細な説明は省略する。また、駆動系油圧ユニットから左右輪間駆動力移動機構15に入力される油圧は、リアデフコントローラ31によって制御されるようになっているが、この制御の内容については後述する。
【0028】
したがって、例えば、車両1が右旋回しながら前進している場合に、所定の油圧が駆動系油圧ユニット(図示略)からリアデフ12の左右輪間駆動力移動機構15に入力され、右後輪14Rに伝達されるトルクが減少されると、右後輪14Rが減速する。また、このとき、左後輪14Lに伝達されるトルクが増大されるとともに左後輪14Lが増速する。したがって、車両1に右回り(時計回り)のヨーモーメントを生じさせることが可能となる。
【0029】
なお、上述の図示しない駆動系油圧ユニットには、いずれも図示しない、アキュムレータ、アキュムレータ内の作動油を所定圧に加圧するモータポンプ、モータポンプで加圧された油圧を監視する圧力センサと、モータポンプによって圧力調整されたアキュムレータ内の油圧をさらに圧力調整しながら出力する電磁制御弁と、この電磁制御弁で調整された油圧の供給先を、左右輪間駆動力移動機構15の所定の油室(図示略)および前後輪間差動制限機構19の所定の油室(図示略)に切り換える方向切換弁などがそなえられて構成されている。
【0030】
リアデフコントローラ31(第1のヨー運動調整手段)は、いずれも図示しないインタフェイス,メモリ,CPU等がそなえられた電子制御ユニットであって、後左輪14Lと後右輪14Rとの間での駆動力差に応じた油圧およびその出力先を示す信号(駆動力配分信号)を駆動系油圧ユニットへ送信し、この駆動力差信号を受けた駆動系油圧ユニットがリアデフ12の左右輪間駆動力移動機構15に対する油圧を適宜制御することで、後左輪14Lと後右輪14Rとの間での駆動力差を調整するものである。
【0031】
車両1の車輪8L,8R,14L,14Rには、それぞれ、ブレーキ装置21L,21R,22L,22Rが設けられており、また、これらのブレーキ装置21L,21R,22L,22Rのそれぞれに独立して油圧を供給する制動系油圧ユニットが設けられている。この車両1には、ブレーキ装置コントローラ(第2のヨー運動調整手段)33が備えられている。このブレーキ装置コントローラ33は、いずれも図示しないインタフェイス,メモリ,CPU等がそなえられた電子制御ユニットであって、各輪8L,8R,14L,14Rに設けられた4つのブレーキ装置21L,21R,22L,22Rのそれぞれに対して増減されるべき油圧を示す信号(ブレーキ増減圧信号)を制動系油圧ユニット(図示略)に対して送信し、このブレーキ増減圧信号を受けた制動系油圧ユニットが各ブレーキ装置21L,21R,22L,22Rに入力される油圧を適宜制御するようになっている。この制動系油圧ユニットには、ブレーキ液圧を調整するためのモータポンプと、電磁制御弁などが備えられており、ブレーキ装置21L,21R,22L,22Rのそれぞれに対して、ブレーキ装置コントローラ33からの指示に応じて所定の油圧を入力するようになっている。そして、上述のようにリアデフコントローラ31とブレーキ装置コントローラ33は、それぞれECU40と信号線を介し接続されていて、ECU40からの制御信号に基づいて作動するようになっている。
【0032】
ECU40は、いずれも図示しないインタフェイス,メモリ,CPU等がそなえられた電子制御ユニットであって、いずれも車輪速センサ(車速検出手段)45L,45R,46L,46R,舵角センサ47,Gセンサ(加減速検出手段)48,ヨーレイトセンサ49による検出結果を読み込むことができるようになっている。
【0033】
このECU40は、図示しないメモリ内に記録されたプログラムとして、制御ヨーモーメント算出部41,アンダーステア/オーバーステア判定部(以下「US/OS判定部」と記す)42およびヨー運動制御部(ヨー運動制御手段)43を備えている。また、このメモリには、ヨー運動制御部43によって用いられるヨー運動制御マップ44が記録されている。これらのうち、制御ヨーモーメント算出部41は、ドライバが意図している旋回半径で車両1が旋回するために付加すべきヨーモーメントである制御ヨーモーメントを求めるものである。
【0034】
つまり、図2に示すように、この制御ヨーモーメント算出部41は、舵角センサ47によって測定された舵角と、各車輪速センサによって検出された車速とに基づいて、理論上の目標ヨーレイト(目標ヨー運動量相関値)を計算し、さらに、この理論上の目標ヨーレイトに対して、ヨーレイトセンサ49によって測定された実ヨーレイトと比較することにより補正を加える制御、即ち、実ヨーレイトに基づくフィードバック制御を実行することで、制御ヨーモーメントを算出するようになっている。
【0035】
US/OS判定部42は、旋回中の車両1の旋回状態を判定するものであって、制御ヨーモーメント算出部41によって得られた制御ヨーモーメントと、Gセンサ49によって測定された車両1の横方向の加速度とに基づき、旋回中の車両1が、アンダーステア(US)が生じている状態(アンダーステア状態)にあるのか、実質的にアンダーステア(US)もオーバーステアも(OS)生じていない状態(ニュートラルステア状態)にあるのか、或いは、オーバーステア(OS)が生じている状態(オーバーステア状態)にあるのかを判定するようになっている。
【0036】
ヨー運動制御部43は、車両1の旋回状態に応じて、リアデフコントローラ31とブレーキ装置コントローラ33を制御することで、制御ヨーモーメントに対応するヨーモーメントを車両1に発生させるものである。つまり、ヨー運動制御部43は、制御ヨーモーメント算出部41によって得られた制御ヨーモーメントと、US/OS判定部42による判定結果(車両1の旋回状態)と、Gセンサ49によって検出〔測定〕された車両1の前後方向の加速度(前後加速度)とに基づき、ヨー運動制御マップ44に対して適用することにより、リアデフコントローラ31およびブレーキ装置コントローラ33に対する制御値を得るようになっている。
【0037】
ここで、リアデフコントローラ31に対する制御値とは、リアデフ12の左右輪間駆動力移動機構15による左右輪14L,14R間の駆動力移動の度合を示す値であって、具体的には、左右輪間駆動力移動機構15の油圧値である。また、ブレーキ装置コントローラ33に対する制御値とは、各ブレーキ装置21L,21R,22L,22Rの制動力増減の度合を示す値であって、具体的には、各ブレーキ装置21L,21R,22L,22Rの油圧増減値である。
【0038】
次にヨー運動制御マップ44について説明すると、本形態において、ヨー運動制御マップ44は、図4(a)〜(e)に示すように、複数のマップから構成されている。図4(a)のマップを基本とし、図4(b)は車両加速時、図4(c)は車両減速度、図4(d)は車両高速時、図4(e)は車両低速時にそれぞれ選択されるマップである。各マップを代表して図4(a)を用いてマップの基本的な構成について説明すると、このヨー運動制御マップ44の横軸には車両1の旋回状態、即ち、制御ヨーモーメント算出部41によって得られた制御ヨーモーメントとUS/OS判定部42による判定結果から求められる、車両1に生じているアンダーステア(US)の度合、或いは、オーバーステア(OS)の度合が規定されている。他方、その縦軸には、リアデフコントローラ31およびブレーキ装置コントローラ33に対する制御値の絶対値が規定されている。
【0039】
このヨー運動制御マップ44には、図2に示すように、主に、オーバーステア抑制領域44Aと、アンダーステア抑制領域44Bとが規定されている。このオーバーステア抑制領域44Aには制御ヨーモーメントが小さい方から順番に、リアデフ制御領域44A1と、ブレーキ制御領域44A2とが規定されている。また、アンダーステア抑制領域44Bには、制御ヨーモーメントが小さい方から順番に、リアデフ制御領域44B1と、ブレーキ制御領域44B2とが規定されている。
【0040】
したがって、ヨー運動制御部43は、車両1のヨー運動を抑制する場合、即ち、車両1に発生しているオーバーステア(OS)を抑制する場合には、まず、左右輪14L,14Rのうち、旋回中心側に位置しているほうの車輪(即ち、旋回内輪)の駆動力が増加するようにリアデフコントローラ31を制御するようになっている。また、このヨー運動制御部43は、車両1に発生しているオーバーステア(OS)を抑制する場合であり、且つ、リアデフコントローラ31による左右輪間駆動制御を実行してもなお、制御ヨーモーメントを発生させることができない場合に限り、旋回内輪の制動力よりも旋回外輪の制動力が大きくなるようにブレーキ装置コントローラ33を制御するようになっている。
【0041】
他方、このヨー運動制御部43は、車両1のヨー運動を促進する場合、即ち、車両1に発生しているアンダーステア(US)を抑制する場合には、左右輪14L,14Rのうち、旋回内輪とは反対側の車輪(即ち、旋回外輪)の駆動力が増加するようにリアデフコントローラ31を制御するようになっている。また、このヨー運動制御部43は、車両1に発生しているアンダーステア(US)を抑制する場合であり、且つ、リアデフコントローラ31による左右輪間駆動力制御を実行してもなお、制御ヨーモーメントを発生させることができない場合に限り、旋回外輪の制動力よりも旋回内輪の制動力が大きくなるようにブレーキ装置コントローラ33を制御するようになっている。
【0042】
つまり、ヨー運動制御部43は、前記車両のヨー運動を抑制する場合(OS発生時)には、リアデフコントローラ31とブレーキ装置コントローラ33に制御量を配分して、旋回内輪の駆動力が増加するようにリアデフコントローラ31を制御しながら旋回外輪の制動力が増加するようにブレーキ装置コントローラ33を制御し、車両のヨー運動を促進する場合(US発生時)には、リアデフコントローラ31とブレーキ装置コントローラ33に制御量を配分して、旋回外輪の駆動力が増加するようにリアデフコントローラ31を制御しながら旋回内輪の制動力が増加するようにブレーキ装置コントローラ33を制御するとともに、車両のヨー運動を促進する場合(US発生時)に、リアデフコントローラ31に配分する制御量の割合を、車両のヨー運動を抑制する場合(OS発生時)の割合よりも大きくし、車両のヨー運動を抑制する場合(OS発生時)に、ブレーキ装置コントローラ33に配分する制御量の割合を、車両のヨー運動を促進する場合(US発生時)の割合よりも大きくするような制御特性の各ヨー運動制御マップ44を備えている。
【0043】
各ヨー運動制御マップ44を用いた場合の基本制御特性は上述のとおりであるが、各ヨー運動制御マップ44は、アンダーステア(US)やオーバーステア(OS)の場合だけでなく、図4に示すよう、車両の加減速や速度に応じて制御の絶対値や、左右輪間駆動力移動機構15とブレーキ装置の制御配分量(ヨー運動制御に対する双方の使用バランス)が可変制御できるように更に細かく設定されている。つまり、リアデフコントローラ31とブレーキ装置コントローラ33の制御量配分が車両の加減速や速度に応じて変更できるように構成されている。この制御量配分の特性は、図4に示す各ヨー運動制御マップ44によって予め設定されている。
【0044】
ヨー運動制御マップ44は、Gセンサ49による検出結果が加速(図4b)の場合に、リアデフコントローラ31に配分する制御量の割合を、減速の場合(図4c)の割合よりも大きくし、Gセンサ49による検出結果が減速の場合(図4c)に、ブレーキ装置コントローラ33に配分する制御量の割合を、加速の場合(図4b)の割合よりも大きくするような設定されているとともに、各車輪速センサによる検出結果が低速(図4e)の場合に、リアデフコントローラ31に配分する制御量の割合を、高速の場合(図4d)の割合よりも大きくし、各車輪速センサによる検出結果が高速の場合(図4e)に、ブレーキ装置コントローラ33に配分する制御量の割合を、低速の場合(図4e)の割合よりも大きくするような特性とされている。また、制御量の強弱の特性については、図3に示す。リアデフはリヤデフコントローラ31〔左右輪間駆動力移動機構15〕を、ブレーキはブレーキ装置コントローラ33(ブレーキ装置21L,21R,22L,22R)をそれぞれ示す。また、「大」、「中」、「小」は各装置の絶対値の高さ、すなわち、各装置の油圧値の大小関係であり、これら「大」、「中」、「小」の値は予めECU40内に記憶されている。
【0045】
本発明の一実施形態に係る車両の旋回挙動制御装置は上述のように構成されているので、以下のような作用および効果を奏する。この内容について図5〜図7に示すフローチャートに沿って説明する。
【0046】
図5に示すように、ステップS11において、制御ヨーモーメント算出部41が、舵角センサ47により検出された舵角と、各車速センサ45により検出された車速と、ヨーレイトセンサ48により検出された実ヨーレイトとを読み込むとともに、US/OS判定部42がGセンサ49により検出された横加速度を読み込む。
【0047】
ステップS12において、制御ヨーモーメント算出部41は、読み込んだ舵角および車速に基づいて目標ヨーレイトを算出し、この目標ヨーレイトと実ヨーレイトとの比較により制御ヨーモーメントを算出する。その後、ステップS13において速度と加減速に応じたマップ(図4a〜図4e)を選択する。
【0048】
ステップS14,S16では、US/OS判定部42が制御ヨーモーメントと横加速度とに基づいて、車両1にオーバーステア(OS)が生じている状態にあるのか、或いはアンダーステア(US)が生じている状態にあるのか、或いは実質的にアンダーステア(US)もオーバーステア(OS)も生じていない状態にあるのかを判定する。そして、US/OS判定部42が車両1はオーバーステアが発生している状態にあると判定した場合には、ステップS15に進んでサブルーチンであるOS抑制制御が実行される。US/OS判定部42がステップS16でアンダーステアが発生している状態であると判定した場合には、ステップS17に進んでサブルーチンであるUS抑制制御が実行される。また、US/OS判定部42が実質的にアンダーステアもオーバーステアも生じていない状態であると判定した場合には、そのままリターンする。
【0049】
次に、サブルーチンであるOS抑制制御とUS抑制制御について説明する。図6に示すOS抑制制御は、ステップS21において、リアデフコントローラ31による後左右輪14L,14R間でのトルク移動制御(「リアデフ制御」という)を実行することにより、制御ヨーモーメントを満たすことができるか否かが判定される。
【0050】
ここで、リアデフ制御を実行することにより、制御ヨーモーメントを満たすことができると判定された場合には、ステップS22において、選択されたマップの特性に応じたリアデフ制御を実行することで後左右輪14L,14R間のトルク差を調整し、車両1に生じているオーバーステアを抑制する。
【0051】
一方、リアデフ制御を実行してもなお制御ヨーモーメントを満たすことができないと判定された場合には、ステップS23において、選択されたマップの特性に応じたリアデフ制御に加え、旋回外輪に対する制動力を旋回内輪に対する制動力よりも大きくするブレーキ装置コントローラ33による制御(「ブレーキ制御」という)を実行することで、車両1に生じているオーバーステアを抑制する。
【0052】
図7に示すUS抑制制御について説明すると、ステップS31において、リアデフ制御を実行することにより、制御ヨーモーメントを満たすことができるか否かが判定される。ここで、リアデフ制御を実行することにより、制御ヨーモーメントを満たすことができると判定された場合には、ステップS32において、選択されたマップの特性に応じたリアデフ制御を実行することで後左右輪14L,14R間のトルク差を調整し、車両1に生じているアンダーステアを抑制する。
【0053】
一方、リアデフ制御を実行しただけでは、制御ヨーモーメントを満たすことができないと判定された場合には、ステップS33において、リアデフ制御に加え、選択されたマップの特性に応じたブレーキ制御を実行することで、車両1に生じているアンダーステアを抑制する。
【0054】
このように、本形態では、車両1のヨー運動を抑制する場合、旋回内輪の駆動力を増加するとともに旋回外輪の制動力を増加させ、車両のヨー運動を促進する場合には旋回外輪の駆動力を増加し、旋回内輪の制動力を増加させるので、車両の旋回性能を向上させることができる。また、ヨー運動の抑制時とヨー運動の促進時における、リアデフコントローラ31とブレーキ装置コントローラ33の制御配分量を可変制御するので、制御配分量が固定的なものよりもフレキシブルに車両の状態に対応でき、ドライブフィールを高めることができる。
【0055】
つまり、車両のヨー運動を促進する場合(US発生時)に、リアデフコントローラ31に配分する制御量の割合を、車両のヨー運動を抑制する場合(OS発生時)の割合よりも大きくして接地荷重の高い旋回外輪の駆動力をより増加さて効率よくヨー運動制御を実施し、車両1のヨー運動を抑制する場合(OS発生時)に、ブレーキ装置コントローラ33に配分する制御量の割合を、車両1のヨー運動を促進する場合(US発生時)の割合よりも大きくして接地荷重の高い旋回外輪の制動力をより増加させて効率よくヨー運動制御を実施し、旋回性能を安定させることができる。
【0056】
本形態では、車両1が加速時で、図5のステップS13において図4(b)のマップが選択された場合には、リアデフコントローラ31に配分する制御量の割合を、図4(c)に示す減速の場合の割合よりも大きくするので、車輪の接地荷重が高くなる加速時に駆動力をより増加させてより効率よくヨー運動制御を実施することができ、加速時の減速感を低減しながら旋回性能を安定させることができ、よりドライブフィールを高めることができる。また、車両1が減速時で、図5のステップS13において図4(c)のマップが選択された場合、ブレーキ装置コントローラ33に配分する制御量の割合を、図4(c)に示す加速の場合の割合よりも大きくするので、減速により車輪荷重が抜けた場合でも、左右輪間駆動力差の増大による車輪横力の低下を抑制できるので減速時の旋回性能を安定することができる。
【0057】
本形態では、車速が低速で、図5のステップS13において図4(e)のマップが選択された場合には、リアデフコントローラ31に配分する制御量の割合を、図4(d)に示す高速の場合の割合よりも大きくし、車速が高速で、図5のステップS13において図4(d)のマップが選択された場合には、ブレーキ装置コントローラ33に配分する制御量の割合を、図4(e)に示す低速の場合の割合よりも大きくするので、過剰な制動力の増加による減速感を抑制しながら、アンダーステアやオーバーステアを適正に抑制することができ、車両の旋回性能を向上させることができる。
(第2の実施形態)
次に、図8〜図14を用いて本発明の第2の実施形態について図面を用いて説明する。図8に示す本形態にかかる車両1Aは、第1の実施形態の構成に対して、センターデフ5、前後輪間差動制限機構19、前後輪間差動制限機構19を制御して前後輪間での差動制限度合を調整するセンターデフコントローラ32(第3のヨー運動調整手段)を備えている点が、ハードウェア構成として異なっているとともに、車両1Aに搭載されている制御手段となるECU40Aによる制御内容が異なっている。このため、第1の実施形態と同一の構成や機能をする部材には、同形態と同一の符号を付して詳細な説明は省略し、異なる構成部分と制御内容を中心に説明する。
【0058】
輪駆動方式の車両1に搭載されたエンジン2の出力はトランスミッション3及び中間ギア機構4を介してセンターデフ5に伝達されるようになっている。
【0059】
センターデフ5には、詳しくは後述する前後輪間差動制限機構19が備えられている。このセンターデフ5の出力は、フロントディファレンシャル(以下、フロントデフ)6および車軸7L,7Rを介して前左右輪8L,8Rにそれぞれ伝達されるとともに、前輪側ハイポイドギヤ機構9,プロペラシャフト10,後輪側ハイポイドギヤ機構11,リヤディファレンシャル(以下、リアデフ)12および車軸13L,13Rを介して後輪14の左右輪14L,14Rに伝達されるようになっている。
【0060】
センターデフ5は、デファレンシャルピニオン5A,5Bと、これらのデファレンシャルピニオン5A,5Bと噛合するサイドギヤ5C,5Dとから構成され、デファレンシャルピニオン5A,5Bから入力されたトルクは、一方のサイドギヤ5Cを介して前輪8へ伝達されるとともに、他方のサイドギヤ5Dを介しプロペラシャフト10などを経て後輪14へ伝達される。また、このとき、このセンターデフ5によって前輪8と後輪14との間の差動が許容されることによって、車両1の回頭性が妨げられないようになっている。
【0061】
このセンターデフ5には、前輪8と後輪14との間で許容された差動を可変に制限しながら、エンジン2から出力されたトルクを前後輪8,14に対して可変に配分できる前後輪間差動制限機構19が備えられている。
【0062】
前後輪間差動制限機構19は、湿式油圧多板クラッチ機構によって構成され、駆動系油圧ユニット(図示略)から入力された油圧に応じて、前輪8および後輪14との間での差動制限の度合を調整することができるようになっており、前輪8および後輪14に対して伝達されるトルク(駆動力)の配分を適宜変更できるようになっている。なお、駆動系油圧ユニットから前後輪間差動制限機構19に入力される油圧は、センターデフコントローラ32によって制御されるようになっているが、この点については後述する。
【0063】
したがって、この前後輪間差動制限機構19によれば、前輪8と後輪14との差動制限の度合を調整することによって、車両1のトラクション性能を向上させたり、他方、前輪8と後輪14との差動を許容して、車両1の回頭性能を向上させたりできるようになっている。
【0064】
センターデフコントローラ32(第3のヨー運動調整手段)は、いずれも図示しないインタフェイス,メモリ,CPU等がそなえられた電子制御ユニットであって、前輪8と後輪14との間での差動制限の度合に応じた油圧およびその出力先を示す信号(前後輪間差動制限信号)を駆動系油圧ユニットへ送信し、この前後輪間差動制限信号を受けた駆動系油圧ユニットがセンターデフ5の前後輪間差動制限機構19に対する油圧を適宜制御することで、前輪8と後輪14との間での差動制限の度合を調整するものである。
【0065】
ECU40Aは、いずれも図示しないインタフェイス,メモリ,CPU等がそなえられた電子制御ユニットであって、いずれも車輪速センサ(車速検出手段)45L,45R,46L,46R,舵角センサ47,Gセンサ(加減速検出手段)48,ヨーレイトセンサ49による測定結果を読み込むことができるようになっている。
【0066】
このECU40Aは、図示しないメモリ内に記録されたプログラムとして、制御ヨーモーメント算出部41,アンダーステア/オーバーステア判定部(以下「US/OS判定部」と記す)42およびヨー運動制御部(ヨー運動制御手段)43Aを備えている。このメモリには、ヨー運動制御部43Aによって用いられるヨー運動制御マップ440が記録されている。なお、制御ヨーモーメント算出部41とUS/OS判定部42の機能は、第1の実施形態と同一機能であるので、その説明は省略する。
【0067】
ヨー運動制御部43Aは、車両1の旋回状態に応じて、リアデフコントローラ31,センターデフコントローラ32およびブレーキ装置コントローラ33を制御することで、制御ヨーモーメントに対応するヨーモーメントを車両1Aに発生させるものである。
【0068】
つまり、ヨー運動制御部43Aは、制御ヨーモーメント算出部41によって得られた制御ヨーモーメントとUS/OS判定部42による判定結果(車両1の旋回状態)とGセンサ49によって測定された車両1の前後方向の加速度(前後加速度)とに基づき、ヨー運動制御マップ440に対して適用することにより、リアデフコントローラ31、センターデフコントローラ32およびブレーキ装置コントローラ33に対する制御値を得るようになっている。
【0069】
リアデフコントローラ31に対する制御値とは左右輪間駆動力移動機構15の油圧値あり、ブレーキ装置コントローラ33に対する制御値とは各ブレーキ装置21L,21R,22L,22Rの油圧増減値である。また、センターデフコントローラ32に対する制御値とは、センターデフ5の前後輪間差動制限機構19による前後輪間の差動規制の度合を示す値であって、さらに具体的には、前後輪間差動制限機構19の油圧値である。
【0070】
次にヨー運動制御マップ440について説明すると、本形態において、ヨー運動制御マップ440は、図11(a)〜(e)に示すように、複数のマップから構成されている。図11(a)のマップを基本とし、図11(b)は車両加速時、図11(c)は車両減速度、図11(d)は車両高速時、図11(e)は車両低速時にそれぞれ選択されるマップである。各マップを代表して図11(a)を用いてマップの基本的な構成について説明すると、このヨー運動制御マップ440の横軸には車両1の旋回状態、即ち、制御ヨーモーメント算出部41によって得られた制御ヨーモーメントとUS/OS判定部42による判定結果から求められる、車両1に生じているアンダーステア(US)の度合、或いは、オーバーステア(OS)の度合が規定されている。他方、その縦軸には、リアデフコントローラ31、センターデフコントローラ32およびブレーキ装置コントローラ33に対する制御値の絶対値が規定されている。
【0071】
このヨー運動制御マップ440には、図9に示すように、主に、オーバーステア抑制領域440Aと、アンダーステア抑制領域440Bとが規定されている。このオーバーステア抑制領域440Aには制御ヨーモーメントが小さい方から順番に、リアデフ制御領域440A1と、センターデフ制御領域440A2、ブレーキ制御領域440A3とが規定されている。また、アンダーステア抑制領域440Bには、制御ヨーモーメントが小さい方から順番に、リアデフ制御領域440B1と、ブレーキ制御領域440B2とが規定されている。
【0072】
ヨー運動制御部43Aは、車両1のヨー運動を抑制する場合、即ち、車両1に発生しているオーバーステアを抑制する場合には、まず、左右輪14L,14Rのうち、旋回中心側に位置しているほうの車輪(即ち、旋回内輪)の駆動力が増加するようにリアデフコントローラ31を制御し、次に、前後輪8,14間の差動制限を強めるようにセンターデフコントローラ32を制御するようになっている。また、ヨー運動制御部43Aは、車両1Aに発生しているオーバーステアを抑制する場合であり、且つ、リアデフコントローラ31による左右輪間駆動力制御を実行するとともに、センターデフコントローラ32による前後輪間差動制限制御を実行してもなお、制御ヨーモーメントを発生させることができない場合に限り、旋回内輪の制動力よりも旋回外輪の制動力が大きくなるようにブレーキ装置コントローラ33を制御するようになっている。
【0073】
つまり、ヨー運動制御部43Aはリアデフコントローラ31、センターデフコントローラ32およびブレーキ装置コントローラ33のうちの少なくとも1つのヨー運動調整手段を制御して車両1Aのヨー運動を制御するヨー運動制御マップ440を備え、これらリアデフコントローラ31と、センターデフコントローラ32とブレーキ装置コントローラ33の制御量配分を変更可能とされていて、制御量配分の特性は、図11(a)〜(e)に示す各ヨー運動制御マップ440によって予め設定されている。
【0074】
本形態のヨー運動制御部43Aは、Gセンサ49の検出結果が減速(図11c)の場合には、センターデフコントローラ32による制御配分量を、加速(図11b)の場合におけるセンターデフコントローラ32による制御配分量よりも小さくするとともに、車両1Aのヨー運動を抑制する場合(OS発生時)であり且つリアデフコントローラ31とセンターデフコントローラ32とを制御してもなお目標ヨー運動量相関値を満たせない場合には旋回外輪の制動力が増加するようにブレーキ装置コントローラ33を制御するように構成されている。この点が第1の実施形態のヨー運動制御部43と異なる点となる。
【0075】
これ以外の、車両の加減速や速度に応じた制御の絶対値や、左右輪間駆動力移動機構15とブレーキ装置の制御配分量(ヨー運動制御に対するそれぞれの使用バランス)については、第1の実施形態と同様である。
【0076】
すなわち、ヨー運動制御マップ440は、Gセンサ49による検出結果が加速の場合(図11b)に、リアデフコントローラ31に配分する制御量の割合を、減速の場合(図11c)の割合よりも大きくし、Gセンサ49による検出結果が減速の場合(図11c)に、ブレーキ装置コントローラ33に配分する制御量の割合を、加速の場合(図11b)の割合よりも大きくするような設定されているとともに、各車輪速センサによる検出結果が低速(の場合図11e)に、リアデフコントローラ31に配分する制御量の割合を、高速の場合(図11d)の割合よりも大きくし、各車輪速センサによる検出結果が高速の場合(図11e)に、ブレーキ装置コントローラ33に配分する制御量の割合を、低速の場合(図11e)の割合よりも大きくするような特性とされている。
【0077】
また、制御量の強弱の特性については、図10に示す。リアデフはリヤデフコントローラ31〔左右輪間駆動力移動機構15〕を、センターデフはセンターデフコントローラ32(前後輪間差動制限機構19)を、ブレーキはブレーキ装置コントローラ33(ブレーキ装置21L,21R,22L,22R)をそれぞれ示す。また、「大」、「中」、「小」は各装置の絶対値の高さ、すなわち、各装置の油圧値の大小関係であり、これら「大」、「中」、「小」の値は予めECU40A内に記憶されている。
【0078】
本発明の第2の実施形態に係る車両の旋回挙動制御装置は上述のように構成されているので、以下のような作用および効果を奏する。この内容について図12〜図14に示すフローチャートに沿って説明する。
【0079】
図12に示すように、ステップS41において、制御ヨーモーメント算出部41が、舵角センサにより検出された舵角と、各車速センサ45により検出された車速と、ヨーレイトセンサ48により検出された実ヨーレイトとを読み込むとともに、US/OS判定部42がGセンサ49により検出された横加速度を読み込む。
【0080】
そして、ステップS42において、制御ヨーモーメント算出部41は、読み込んだ舵角および車速に基づいて目標ヨーレイトを算出し、この目標ヨーレイトと実ヨーレイトとの比較により制御ヨーモーメントを算出する。
【0081】
その後、ステップS43において速度と加減速に応じたマップ(図11a〜図11e)を選択する。そして、ステップS44,S46において、US/OS判定部42が制御ヨーモーメントと横加速度とに基づいて、車両1にオーバーステア(OS)が生じている状態にあるのか、或いはアンダーステア(US)が生じている状態にあるのか、或いは実質的にアンダーステア(US)もオーバーステア(OS)も生じていない状態にあるのかを判定する。
【0082】
そして、US/OS判定部42が、車両1Aはオーバーステアが発生している状態にあると判定した場合には、ステップS45に進んでサブルーチンであるOS抑制制御が実行される。一方、US/OS判定部42が、ステップS46でアンダーステアが発生している状態であると判定した場合には、ステップS47に進んでサブルーチンであるUS抑制制御が実行される。また、US/OS判定部42が、実質的にアンダーステアもオーバーステアも生じていない状態であると判定した場合には、そのままリターンする。
【0083】
次に、OS抑制制御とUS抑制制御について説明する。図13に示すOS抑制制御は、ステップS51において、リアデフコントローラ31による後左右輪14L,14R間でのトルク移動制御(「リアデフ制御」という)を実行することにより、制御ヨーモーメントを満たすことができるか否かが判定される。
【0084】
ここで、リアデフ制御を実行することにより、制御ヨーモーメントを満たすことができると判定された場合には、ステップS52において、リアデフ制御を実行することで後左右輪14L,14R間のトルク差を調整し、車両1Aに生じているオーバーステアを抑制する。
【0085】
一方、リアデフ制御を実行してもなお制御ヨーモーメントを満たすことができないと判定された場合には、ステップS53において、リアデフ制御およびセンターデフコントローラ32による前後輪8,14間での差動制限度合の制御(「センターデフ制御」という)を実行することにより、制御ヨーモーメントを満たすことができるか否かが判定される。
【0086】
ここで、リアデフ制御とセンターデフ制御を実行することにより、制御ヨーモーメントを満たすことができると判定された場合には、ステップS54においてリアデフ制御およびセンターデフ制御を実行することで後左右輪14L,14R間のトルク差および前後輪8,14間の差動制限を調整し、車両1Aに生じているオーバーステアを抑制する。
【0087】
一方、リアデフ制御およびセンターデフ制御を実行してもなお制御ヨーモーメントを満たすことができないと判定された場合には、ステップS55において、リアデフ制御およびセンターデフ制御に加え、さらに、旋回外輪に対する制動力を旋回内輪に対する制動力よりも大きくするブレーキ装置コントローラ33による制御(「ブレーキ制御」という)を実行することで、車両1Aに生じているオーバーステアを抑制する。
【0088】
図14に示すUS抑制制御について説明すると、ステップS61において、リアデフ制御を実行することにより、制御ヨーモーメントを満たすことができるか否かが判定される。ここで、リアデフ制御を実行することにより、制御ヨーモーメントを満たすことができると判定された場合にはステップS62においてリアデフ制御を実行することで後左右輪14L,14R間のトルク差を調整し、車両1Aに生じているアンダーステアを抑制する。
【0089】
一方、リアデフ制御を実行しただけでは、制御ヨーモーメントを満たすことができないと判定された場合には、ステップS63において、リアデフ制御に加え、ブレーキ制御を実行することで、車両1に生じているアンダーステアを抑制する。
【0090】
このように、本形態では、センターデフコントローラ32による制御配分量を、車両加速時よりも車両減速時に小さく設定することで、減速中のヨー運動の抑制時における差動制限が少なく、後輪14R、14Lに対する制動が軽減されるので、効率よくオーバーステアを抑制することができ、特に減速時における車両の旋回性能の安定化を図ることができる。
【0091】
また、リアデフコントローラ31とセンターデフコントローラ32とによってもなお車両1Aのヨー運動を十分に抑制することができない場合には、ブレーキ装置コントローラ33により旋回外輪の制動力を増加させるので、加速性能の低下をできるかぎり抑制しながら、車両1Aの旋回性能を向上させることができ、ドライブフィールを高めることができる。
【0092】
本形態では、第1の実施形態と同様に、車両1Aのヨー運動を抑制する場合、旋回内輪の駆動力を増加するとともに旋回外輪の制動力を増加させ、車両のヨー運動を促進する場合には旋回外輪の駆動力を増加し、旋回内輪の制動力を増加させるので、車両の旋回性能を向上させることができる。また、ヨー運動の抑制時とヨー運動の促進時における、リアデフコントローラ31とブレーキ装置コントローラ33の制御配分量も可変制御するので、制御配分量が固定的なものよりもフレキシブルに車両の状態に対応でき、ドライブフィールを高めることができる。
【0093】
つまり、車両のヨー運動を促進する場合(US発生時)に、リアデフコントローラ31に配分する制御量の割合を、車両のヨー運動を抑制する場合(OS発生時)の割合よりも大きくして接地荷重の高い旋回外輪の駆動力をより増加さて効率よくヨー運動制御を実施し、車両1のヨー運動を抑制する場合(OS発生時)に、ブレーキ装置コントローラ33に配分する制御量の割合を、車両1のヨー運動を促進する場合(US発生時)の割合よりも大きくして接地荷重の高い旋回外輪の制動力をより増加させて効率よくヨー運動制御を実施し、旋回性能を安定させることができる。
【0094】
また、車両1Aが加速時で、図12のステップS43において図11(b)のマップが選択された場合には、リアデフコントローラ31に配分する制御量の割合を、図11(c)に示す減速の場合の割合よりも大きくするので、車輪の接地荷重が高くなる加速時に駆動力をより増加させてより効率よくヨー運動制御を実施することができ、加速時の減速感を低減しながら旋回性能を安定させることができ、よりドライブフィールを高めることができる。また、車両1Aが減速時で、図12のステップS43において図11(c)のマップが選択された場合、ブレーキ装置コントローラ33に配分する制御量の割合を、図11(b)に示す加速の場合の割合よりも大きくするので、減速により車輪荷重が抜けた場合でも、左右輪間駆動力差の増大による車輪横力の低下を抑制できるので減速時の旋回性能を安定することができる。
【0095】
本形態では、車速が低速で、図12のステップ43において図11(e)のマップが選択された場合には、リアデフコントローラ31に配分する制御量の割合を、図11(d)に示す高速の場合の割合よりも大きくし、車速が高速で、図12のステップS43において図11(d)のマップが選択された場合には、ブレーキ装置コントローラ33に配分する制御量の割合を、図11(e)に示す低速の場合の割合よりも大きくするので、過剰な制動力の増加による減速感を抑制しながら、アンダーステアやオーバーステアを適正に抑制することができ、車両の旋回性能を向上させることができる。
【0096】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は係る実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【0097】
上述の実施形態においては、フロントデフ6は、エンジン2から入力されたトルクの大きさに応じて、左右輪8R,8Lの差動を機械的に制限するトルク感応式のディファレンシャルギアが適用されている場合について説明したが、このような構成に限定するものではない。例えば、上述の実施形態における左右輪間駆動力移動機構15を、リアデフ12に装備するだけではなくフロントデフ6にも装備する構成としてもよいし、フロントデフ6のみに装備する構成としてもよい。
【0098】
また、上述の実施形態においては、車両1が4輪駆動車である場合を例にとって説明したが、特に4輪駆動車に限定するものではなく、前輪駆動車であってもよいし、後輪駆動車であってもよい。
【0099】
上述の実施形態においては、リアデフコントローラ31が左右輪間駆動力移動機構15を制御することで、エンジン1から後左右輪14L,14Rに伝達されるトルクの差が調整される場合を例にとって説明したが、このような構成に限定するものではない。例えば、前輪側あるいは後輪側の左右輪にそれぞれ設けられた電気モータの駆動力をそれぞれ独立して調整するようにしてもよい。なお、この場合、電気モータのほかに、エンジンなどの他の駆動源を車載するか否かは適宜選択可能である。
【0100】
左右輪間駆動力移動機構15の代わりに、左右輪間で駆動力を配分する機構に換えてもよく、例えば、左右輪にそれぞれクラッチ機構を設け、このクラッチ機構による締結力を調整することで、左右輪に伝達される駆動力の大きさを可変とする構成としてもよい。さらに、これを後輪側あるいは前輪側に設けてもよい。
【0101】
また、上述の実施形態においては、アンダーステア/オーバーステアの判定を、制御ヨーモーメント算出部41によって得られた制御ヨーモーメントと、Gセンサ49によって測定された車両1の横方向の加速度とに基づいて行っているが、このような形態に限定されるものではなく、車両の旋回状態を判定しうるものであれば、どのような構成でもよい。
【0102】
また、上述の実施形態においては、速度情報を車輪速センサ45L,45R,46L,46Rで検出しているが、このような形態に限定されるものではなく、例えば、ハンドル角センサ47からの検出情報から低速コーナー/高速コーナーを推定し、この推定値からマップを選択するようにしてもよい。
【0103】
また、上述の実施形態においては、前後方向の加速度をGセンサ49で検出しているが、このような形態に限定されるものではなく、例えば、車速を微分することによって前後加速度を推定し、この推定値からマップを選択するようにしてもよいし、エンジン2の出力トルク、トランスミッション3の総減速比およびブレーキ装置21L,21R,22L,22Rの制動トルクから前後加速度を推定し、この推定値からマップを選択するようにしてもよい。
【0104】
上述の実施形態においては、前後輪間差動制限機構19を歯車式のものとしたが、これに何ら限定されるものではなく、同様の機能を有するものであればよいことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る車両の旋回挙動制御装置の全体構成を示す模式的なブロック構成図である。
【図2】第1の実施形態に係る車両の旋回挙動制御装置の制御を主に示す模式的な制御ブロック図である。
【図3】第1の実施形態に係る車両の旋回挙動制御装置の制御量の強弱の特性を示す表である。
【図4】第1の一実施形態に係る車両の旋回挙動制御装置の制御特性マップの一例を示す図である。
【図5】第1の実施形態に係る車両の旋回挙動制御装置の制御を示すフローチャートである。
【図6】第1の実施形態に係る車両の旋回挙動制御装置の制御を示すフローチャートであって、OS抑制制御のサブルーチンを示す。
【図7】第1の本発明の一実施形態に係る車両の旋回挙動制御装置の制御を示すフローチャートであって、US抑制制御のサブルーチンを示す。
【図8】本発明の第2の実施形態に係るセンターデフを備えた車両の旋回挙動制御装置の全体構成を示す模式的なブロック構成図である。
【図9】第2の実施形態に係る車両の旋回挙動制御装置の制御を主に示す模式的な制御ブロック図である。
【図10】第2の一実施形態に係る車両の旋回挙動制御装置の制御量の強弱の特性を示す表である。
【図11】第2の実施形態に係る車両の旋回挙動制御装置の制御特性マップの一例を示す図である。
【図12】第2の実施形態に係る車両の旋回挙動制御装置の制御を示すフローチャートである。
【図13】第2の実施形態に係る車両の旋回挙動制御装置の制御を示すフローチャートであって、OS抑制制御のサブルーチンを示す。
【図14】第1の本発明の一実施形態に係る車両の旋回挙動制御装置の制御を示すフローチャートであって、US抑制制御のサブルーチンを示す。
【符号の説明】
【0106】
1、1A 車両
8L 前左輪(前輪,左輪)
8R 前右輪(前輪,右輪)
14L 後左輪(後輪,左輪)
14R 後右輪(後輪,右輪)
21L,21R,22L,22R ブレーキ装置
31 リアデフコントローラ(第1のヨー運動調整手段)
33 ブレーキ装置コントローラ(第2のヨー運動調整手段)
43、43A ヨー運動制御部(ヨー運動制御手段)
45L,45R,46L,46R 車速検出手段
48 加減速検出手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の旋回挙動制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から旋回している車両の安定化を図り、車両の安全性を向上させるための技術が開発されている。例えば、以下の特許文献1には、車両のヨーレイトに基づいて、車両の左輪と右輪との間の駆動力差および各輪に対する制動力をフィードバック制御する技術や、前輪と後輪との差動制限の程度を可変とするセンターデファレンシャルギア(以下、「センターデフ」という)の電子制御LSD(Limited Slip Differential)を車両のヨーレイトに基づいてフィードバック制御する技術が開示されている。
【0003】
しかしながら、旋回中の車両に生じたオーバーステアを、単に旋回内輪の駆動力が増大するように制御するだけで抑制することが困難である場合がある。つまり、車両旋回中は旋回外輪に対する荷重が増大し、相対的に旋回内輪に対する荷重が減少していることから、路面に対する旋回内輪のグリップ力、即ち、旋回内輪のトラクションが低下するため、旋回内輪に対する駆動力を増大させても内輪はスリップし、オーバーステアを抑制するヨーモーメントを十分に発生させることができない場合がある。なお、この傾向は旋回中の車両が加速している場合に顕著となる。
【0004】
また、旋回中の車両が減速している場合は、旋回内輪のトラクションが低下するだけではなく、前輪に対する荷重が増大し、相対的に後輪に対する荷重が減少し、後輪のトラクションが低下するため、後輪側の左右輪間の駆動力制御を行ったとしても、アンダーステアやオーバーステアを抑制するヨーモーメントを十分に発生させることができない場合が生じる。
【0005】
4輪駆動方式の車両が旋回している場合にアンダーステアが生じた場合、センターデフによる前後輪間の差動制限を弱めて車両の回頭性を向上させることで、アンダーステアを抑制するという手法が考えられるものの、この手法によれば、車両全体としてのトラクションが減少するため、車両の加速性能は低下してしまう。つまり、センターデフによる前後輪間の差動が制限されていない状態で車両の後輪がスリップしたと仮定すると、この場合、後輪はさらに回転することとなり、本来は前輪に伝達されるべきトルクがスリップ中の後輪に伝達されることとなってしまい、車両の加速が制限されるのである。
【0006】
そこで、このような不具合を解決するために、本出願人は、特許文献1において、ヨーレイトフィードバック制御を適用して、前後差動制限装置による前後輪間の差動制限や、左右輪トルク差発生装置による車両の左輪と右輪との間の駆動力制御およびブレーキ装置の統合制御を行い、オーバーステア抑制に限り,車両の左輪と右輪との間の駆動力の制御と並行してセンターデフによる前後輪間の差動制御による拘束力を強める様に制御する内容を提案している。
【0007】
【特許文献1】特開2007−131229号公法
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、従来構成のように、ブレーキ装置(4輪独立ブレーキ装置)によるブレーキ力でヨー制御を行う場合、減速感というデメリットがあり、特に加速中のブレーキ力の付加はヨー制御時にドライバの意思(=加速したい)と逆な方向への制御となるので減速感が顕著になる傾向となる。また、急加速中のオーバーステアを抑制する場合、駆動力で横力の低下した前輪を制動することで横力が復帰するため、逆にオーバーステアを助長する可能性がある。車両が低速の場合、ヨーレイト偏差が大きく出やすいため,アンダーステア抑制やオーバーステア抑制を実行する場合、過剰に抑制してしまう場合が想定される。
【0009】
従来構成のように、左右輪トルク差発生装置によるヨー制御を行う場合、減速中は後輪荷重が抜けるため、制御能力が低下するとともに、後輪左右のトルク差によるオーバーステアの抑制は、後輪横力の低下により逆にオーバーステアを助長する場合がある。
【0010】
前後差動制限装置によるヨー制御を行う場合、アンダーステア挙動の出た車両は状況によりヘッドイン/ヘッドアウトするため,トルク移動方向の把握が困難であり,前後差動制限装置による差動制限によるアンダーステアの抑制は難しい。また、オーバーステア挙動の出た車両は常にヘッドアウトするため、前後差動制限装置による差動制限により、前輪には駆動力、後輪には制動力が付加されることから、減速中にオーバーステアを抑制するための差動制限を行うと、制動中の後輪をさらに制動することになり、オーバーステアを助長する要因となり兼ねない。
【0011】
本発明はこのような課題に鑑み案出されたもので、車両の旋回性能を向上させつつも、ドライブフィールのよい車両の旋回挙動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、請求項1の車両の旋回挙動制御装置は、前後左右輪を備える車両の旋回挙動制御装置であって、前輪または後輪の少なくとも一方における該左右輪の駆動力を調整する第1のヨー運動調整手段と、前輪または後輪の少なくとも一方における該左輪および該右輪に対するブレーキ装置の制動力を調整する第2のヨー運動調整手段と、第1のヨー運動調整手段と第2のヨー運動調整手段を制御して該車両のヨー運動を制御するヨー運動制御手段と、車両の加減速を検出する加減速検出手段とを備え、ヨー運動制御手段は、車両のヨー運動を抑制する場合、両ヨー運動調整手段に制御量を配分して、旋回内輪の駆動力が増加するように該第1のヨー運動調整手段を制御しながら旋回外輪の制動力が増加するように第2のヨー運動調整手段を制御し、車両のヨー運動を促進する場合、両ヨー運動調整手段に制御量を配分して、旋回外輪の駆動力が増加するように第1のヨー運動調整手段を制御しながら旋回内輪の制動力が増加するように第2のヨー運動調整手段を制御するとともに、加減速検出手段による検出結果が加速の場合に、第1のヨー運動調整手段に配分する制御量の割合を、減速の場合の割合よりも大きくし、加減速検出手段による検出結果が減速の場合に、第2のヨー運動調整手段に配分する制御量の割合を、加速の場合の割合よりも大きくすることを特徴としている。
【0013】
請求項2の発明は、請求項1記載の車両の旋回挙動制御装置において、車両の速度を検出する車速検出手段を備え、ヨー運動制御手段は、車速検出手段による検出結果が低速の場合に、第1のヨー運動調整手段に配分する制御量の割合を、高速の場合の割合よりも大きくし、速速検出手段による検出結果が高速の場合に、第2のヨー運動調整手段に配分する制御量の割合を、低速の場合の割合よりも大きくすることを特徴としている。
【0014】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載の車両の旋回挙動制御装置において、ヨー運動制御手段は、車両のヨー運動を促進する場合に、第1のヨー運動調整手段に配分する制御量の割合を、車両のヨー運動を抑制する場合の割合よりも大きくし、車両のヨー運動を抑制する場合に、前記第2のヨー運動調整手段に配分する制御量の割合を、前記車両のヨー運動を促進する場合の割合よりも大きくすることを特徴としている。
【0015】
請求項4の発明は、請求項1,2または3記載の車両の旋回挙動制御装置において、前後輪間での差動制限度合を調整する第3のヨー運動調整手段を備え、ヨー運動制御手段は、第1のヨー運動調整手段と第2のヨー運動調整手段と第3のヨー運動調整手段のうちの少なくとも2つのヨー運動調整手段を制御して該車両のヨー運動を制御し、加減速検出手段による検出結果が減速の場合における第3のヨー運動調整手段による制御配分量を、前記加減速検出手段による検出結果が加速の場合における該第3のヨー運動調整手段による制御配分量よりも小さくすることを特徴としている。
【0016】
請求項5の発明は、請求項1,2または3記載の車両の旋回挙動制御装置において、車両の目標とするヨー運動量に相関する値である目標ヨー運動量相関値を検出する目標ヨー運動量相関値検出手段を有し、ヨー運動制御手段は、車両のヨー運動を抑制する場合であり且つ第1のヨー運動調整手段と第3のヨー運動調整手段とを制御してもなお目標ヨー運動量相関値を満たせない場合には旋回外輪の制動力が増加するように第2のヨー運動調整手段を制御することを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明の請求項1に記載の車両の旋回挙動制御装置によれば、オーバーステアが発生して車両のヨー運動を抑制する場合、旋回内輪の駆動力を増加するとともに旋回外輪の制動力を増加させ、アンダーステアが発生して車両のヨー運動を促進する場合には旋回外輪の駆動力を増加し、旋回内輪の制動力を増加させるので、車両の旋回性能を向上させることができる。加減速検出手段による検出結果が加速の場合に、第1のヨー運動調整手段に配分する制御量の割合を、減速の場合の割合よりも大きくするので、車輪の接地荷重が高くなる加速時に駆動力をより増加させてより効率よくヨー運動制御を実施することができ、加速時の減速感を低減しながら旋回性能を安定させることができ、よりドライブフィールを高めることができる。また、加減速検出手段による検出結果が減速の場合に、第2のヨー運動調整手段に配分する制御量の割合を、加速の場合の割合よりも大きくするので、減速により車輪荷重が抜けた場合でも、左右輪間駆動力差の増大による車輪横力の低下を抑制できるので減速時の旋回性能を安定することができる。
【0018】
本発明の請求項2に記載の車両の旋回挙動制御装置によれば、速検出手段による検出結果が低速の場合に、第1のヨー運動調整手段に配分する制御量の割合を、高速の場合の割合よりも大きくし、車速速検出手段による検出結果が高速の場合に、第2のヨー運動調整手段に配分する制御量の割合を、低速の場合の割合よりも大きくするので、過剰な制動力の増加による減速感を抑制しながら、アンダーステアやオーバーステアを適正に抑制することができ、車両の旋回性能を向上させることができる。
【0019】
本発明の請求項3に記載の車両の旋回挙動制御装置によれば、車両のヨー運動を促進する場合に、第1のヨー運動調整手段に配分する制御量の割合を、車両のヨー運動を抑制する場合の割合よりも大きくして、接地荷重の高い旋回外輪の駆動力をより増加さて効率よくヨー運動制御を実施し、車両のヨー運動を抑制する場合に、第2のヨー運動調整手段に配分する制御量の割合を、車両のヨー運動を促進する場合の割合よりも大きくして、接地荷重の高い旋回外輪の制動力をより増加させて効率よくヨー運動制御を実施し、旋回性能を安定させることができる。
【0020】
本発明の請求項4に記載の車両の旋回挙動制御装置によれば、第3のヨー運動調整手段による制御配分量を、車両加速時よりも車両減速時に小さくするので、減速中のヨー運動の抑制時における差動制限が少なく後輪に対する制動を軽減できるので、効率よくオーバーステアを抑制することができ、特に減速時における車両の旋回性能の安定化を図ることができる。
【0021】
本発明の請求項5に記載の車両の旋回挙動制御装置によれば、第1のヨー運動調整手段と第3のヨー運動調整手段とによってもなお車両のヨー運動を十分に抑制することができない場合に第2のヨー運動調整手段により旋回外輪の制動力を増加させるので、加速性能の低下をできるかぎり抑制しながら、車両の旋回性能を向上させることができ、ドライブフィールを高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態について図面を用いて説明する。図1に示す旋回挙動制御装置は、4輪駆動方式の車両1に適されるものである。車両1に搭載されたエンジン2の出力はトランスミッション3及び中間ギア機構4からフロントディファレンシャル(以下、フロントデフ)6および車軸7L,7Rを介して前左右輪8L,8Rにそれぞれ伝達されるとともに、前輪側ハイポイドギヤ機構9、プロペラシャフト10、後輪側ハイポイドギヤ機構11、リヤディファレンシャル(以下、「リアデフ」と記す)12および車軸13L,13Rを介して後輪14の左右輪14L,14Rに伝達されるようになっている。このリアデフ12には、詳しくは後述する左右輪間駆動力移動機構15が備えられている。
【0023】
フロントデフ6には、エンジン2から入力されたトルクの大きさに応じて、左右輪8L,8Rの差動を機械的に制限するトルク感応式のディファレンシャルギアが適用されている。
【0024】
次に、後輪14側の駆動系について説明すると、この後輪14には左右輪14L,14R間の差動を許容するリアデフ12が設けられ、また、このリアデフ12には、左右輪14L,14Rに伝達される駆動力の差を適宜変更することができる左右輪間駆動力移動機構15が設けられている。
【0025】
このリアデフ12におけるケース12Aの外周にはプロペラシャフト10の後端のピニオンギア10Aと噛合するクラウンギア16が設けられ、また、このケース12Aの内側には遊星歯車機構12Bが備えられている。そして、この遊星歯車機構12Bにより、左右の後輪14L,14Rの差動が許容されるようになっている。したがって、エンジン2からプロペラシャフト10,ピニオンギア10A等を通じてクラウンギア16へ入力されたトルクは、遊星歯車機構12Bによって左側の後輪14Lと右側の後輪14Rとの差動を許容しながら両輪14L,14Rに伝達されるようになっている。
【0026】
左右輪間駆動力移動機構15は、変速機構15Aと伝達容量可変制御式のトルク伝達機構15Bとから構成され、車両1に搭載されているECU40からの指令によって左輪14Lと右輪14Rとの間の駆動力(即ち、トルク)の差を、車両の走行状況等に応じて適宜変更できるようになっている。このうち、変速機構15Aは、左右輪のうちの一方の車輪(ここでは左輪14L)の回転速度を増速させたり減速させたりしてトルク伝達機構15Bに出力するものである。
【0027】
この伝達容量可変制御式のトルク伝達機構15Bは、ECU40によって制御された駆動系油圧ユニットから入力される油圧に応じて、伝達トルク容量を調整できる湿式油圧多板クラッチ機構であって、変速機構15Aにより増速または減速された回転速度と、左右輪のうちの他方の車輪(本実施形態においては右輪14R)の回転速度との回転速度差を利用して、左右輪14L,14Rの間でトルクの授受を行なうことにより、一方の車輪の駆動トルクを増大または減少させ、他方の車輪の駆動トルクを減少または増大させることができるようになっている。なお、上述の、遊星歯車機構12B,変速機構15A,トルク伝達機構15Bは公知の技術であるので、これらの各構造についての詳細な説明は省略する。また、駆動系油圧ユニットから左右輪間駆動力移動機構15に入力される油圧は、リアデフコントローラ31によって制御されるようになっているが、この制御の内容については後述する。
【0028】
したがって、例えば、車両1が右旋回しながら前進している場合に、所定の油圧が駆動系油圧ユニット(図示略)からリアデフ12の左右輪間駆動力移動機構15に入力され、右後輪14Rに伝達されるトルクが減少されると、右後輪14Rが減速する。また、このとき、左後輪14Lに伝達されるトルクが増大されるとともに左後輪14Lが増速する。したがって、車両1に右回り(時計回り)のヨーモーメントを生じさせることが可能となる。
【0029】
なお、上述の図示しない駆動系油圧ユニットには、いずれも図示しない、アキュムレータ、アキュムレータ内の作動油を所定圧に加圧するモータポンプ、モータポンプで加圧された油圧を監視する圧力センサと、モータポンプによって圧力調整されたアキュムレータ内の油圧をさらに圧力調整しながら出力する電磁制御弁と、この電磁制御弁で調整された油圧の供給先を、左右輪間駆動力移動機構15の所定の油室(図示略)および前後輪間差動制限機構19の所定の油室(図示略)に切り換える方向切換弁などがそなえられて構成されている。
【0030】
リアデフコントローラ31(第1のヨー運動調整手段)は、いずれも図示しないインタフェイス,メモリ,CPU等がそなえられた電子制御ユニットであって、後左輪14Lと後右輪14Rとの間での駆動力差に応じた油圧およびその出力先を示す信号(駆動力配分信号)を駆動系油圧ユニットへ送信し、この駆動力差信号を受けた駆動系油圧ユニットがリアデフ12の左右輪間駆動力移動機構15に対する油圧を適宜制御することで、後左輪14Lと後右輪14Rとの間での駆動力差を調整するものである。
【0031】
車両1の車輪8L,8R,14L,14Rには、それぞれ、ブレーキ装置21L,21R,22L,22Rが設けられており、また、これらのブレーキ装置21L,21R,22L,22Rのそれぞれに独立して油圧を供給する制動系油圧ユニットが設けられている。この車両1には、ブレーキ装置コントローラ(第2のヨー運動調整手段)33が備えられている。このブレーキ装置コントローラ33は、いずれも図示しないインタフェイス,メモリ,CPU等がそなえられた電子制御ユニットであって、各輪8L,8R,14L,14Rに設けられた4つのブレーキ装置21L,21R,22L,22Rのそれぞれに対して増減されるべき油圧を示す信号(ブレーキ増減圧信号)を制動系油圧ユニット(図示略)に対して送信し、このブレーキ増減圧信号を受けた制動系油圧ユニットが各ブレーキ装置21L,21R,22L,22Rに入力される油圧を適宜制御するようになっている。この制動系油圧ユニットには、ブレーキ液圧を調整するためのモータポンプと、電磁制御弁などが備えられており、ブレーキ装置21L,21R,22L,22Rのそれぞれに対して、ブレーキ装置コントローラ33からの指示に応じて所定の油圧を入力するようになっている。そして、上述のようにリアデフコントローラ31とブレーキ装置コントローラ33は、それぞれECU40と信号線を介し接続されていて、ECU40からの制御信号に基づいて作動するようになっている。
【0032】
ECU40は、いずれも図示しないインタフェイス,メモリ,CPU等がそなえられた電子制御ユニットであって、いずれも車輪速センサ(車速検出手段)45L,45R,46L,46R,舵角センサ47,Gセンサ(加減速検出手段)48,ヨーレイトセンサ49による検出結果を読み込むことができるようになっている。
【0033】
このECU40は、図示しないメモリ内に記録されたプログラムとして、制御ヨーモーメント算出部41,アンダーステア/オーバーステア判定部(以下「US/OS判定部」と記す)42およびヨー運動制御部(ヨー運動制御手段)43を備えている。また、このメモリには、ヨー運動制御部43によって用いられるヨー運動制御マップ44が記録されている。これらのうち、制御ヨーモーメント算出部41は、ドライバが意図している旋回半径で車両1が旋回するために付加すべきヨーモーメントである制御ヨーモーメントを求めるものである。
【0034】
つまり、図2に示すように、この制御ヨーモーメント算出部41は、舵角センサ47によって測定された舵角と、各車輪速センサによって検出された車速とに基づいて、理論上の目標ヨーレイト(目標ヨー運動量相関値)を計算し、さらに、この理論上の目標ヨーレイトに対して、ヨーレイトセンサ49によって測定された実ヨーレイトと比較することにより補正を加える制御、即ち、実ヨーレイトに基づくフィードバック制御を実行することで、制御ヨーモーメントを算出するようになっている。
【0035】
US/OS判定部42は、旋回中の車両1の旋回状態を判定するものであって、制御ヨーモーメント算出部41によって得られた制御ヨーモーメントと、Gセンサ49によって測定された車両1の横方向の加速度とに基づき、旋回中の車両1が、アンダーステア(US)が生じている状態(アンダーステア状態)にあるのか、実質的にアンダーステア(US)もオーバーステアも(OS)生じていない状態(ニュートラルステア状態)にあるのか、或いは、オーバーステア(OS)が生じている状態(オーバーステア状態)にあるのかを判定するようになっている。
【0036】
ヨー運動制御部43は、車両1の旋回状態に応じて、リアデフコントローラ31とブレーキ装置コントローラ33を制御することで、制御ヨーモーメントに対応するヨーモーメントを車両1に発生させるものである。つまり、ヨー運動制御部43は、制御ヨーモーメント算出部41によって得られた制御ヨーモーメントと、US/OS判定部42による判定結果(車両1の旋回状態)と、Gセンサ49によって検出〔測定〕された車両1の前後方向の加速度(前後加速度)とに基づき、ヨー運動制御マップ44に対して適用することにより、リアデフコントローラ31およびブレーキ装置コントローラ33に対する制御値を得るようになっている。
【0037】
ここで、リアデフコントローラ31に対する制御値とは、リアデフ12の左右輪間駆動力移動機構15による左右輪14L,14R間の駆動力移動の度合を示す値であって、具体的には、左右輪間駆動力移動機構15の油圧値である。また、ブレーキ装置コントローラ33に対する制御値とは、各ブレーキ装置21L,21R,22L,22Rの制動力増減の度合を示す値であって、具体的には、各ブレーキ装置21L,21R,22L,22Rの油圧増減値である。
【0038】
次にヨー運動制御マップ44について説明すると、本形態において、ヨー運動制御マップ44は、図4(a)〜(e)に示すように、複数のマップから構成されている。図4(a)のマップを基本とし、図4(b)は車両加速時、図4(c)は車両減速度、図4(d)は車両高速時、図4(e)は車両低速時にそれぞれ選択されるマップである。各マップを代表して図4(a)を用いてマップの基本的な構成について説明すると、このヨー運動制御マップ44の横軸には車両1の旋回状態、即ち、制御ヨーモーメント算出部41によって得られた制御ヨーモーメントとUS/OS判定部42による判定結果から求められる、車両1に生じているアンダーステア(US)の度合、或いは、オーバーステア(OS)の度合が規定されている。他方、その縦軸には、リアデフコントローラ31およびブレーキ装置コントローラ33に対する制御値の絶対値が規定されている。
【0039】
このヨー運動制御マップ44には、図2に示すように、主に、オーバーステア抑制領域44Aと、アンダーステア抑制領域44Bとが規定されている。このオーバーステア抑制領域44Aには制御ヨーモーメントが小さい方から順番に、リアデフ制御領域44A1と、ブレーキ制御領域44A2とが規定されている。また、アンダーステア抑制領域44Bには、制御ヨーモーメントが小さい方から順番に、リアデフ制御領域44B1と、ブレーキ制御領域44B2とが規定されている。
【0040】
したがって、ヨー運動制御部43は、車両1のヨー運動を抑制する場合、即ち、車両1に発生しているオーバーステア(OS)を抑制する場合には、まず、左右輪14L,14Rのうち、旋回中心側に位置しているほうの車輪(即ち、旋回内輪)の駆動力が増加するようにリアデフコントローラ31を制御するようになっている。また、このヨー運動制御部43は、車両1に発生しているオーバーステア(OS)を抑制する場合であり、且つ、リアデフコントローラ31による左右輪間駆動制御を実行してもなお、制御ヨーモーメントを発生させることができない場合に限り、旋回内輪の制動力よりも旋回外輪の制動力が大きくなるようにブレーキ装置コントローラ33を制御するようになっている。
【0041】
他方、このヨー運動制御部43は、車両1のヨー運動を促進する場合、即ち、車両1に発生しているアンダーステア(US)を抑制する場合には、左右輪14L,14Rのうち、旋回内輪とは反対側の車輪(即ち、旋回外輪)の駆動力が増加するようにリアデフコントローラ31を制御するようになっている。また、このヨー運動制御部43は、車両1に発生しているアンダーステア(US)を抑制する場合であり、且つ、リアデフコントローラ31による左右輪間駆動力制御を実行してもなお、制御ヨーモーメントを発生させることができない場合に限り、旋回外輪の制動力よりも旋回内輪の制動力が大きくなるようにブレーキ装置コントローラ33を制御するようになっている。
【0042】
つまり、ヨー運動制御部43は、前記車両のヨー運動を抑制する場合(OS発生時)には、リアデフコントローラ31とブレーキ装置コントローラ33に制御量を配分して、旋回内輪の駆動力が増加するようにリアデフコントローラ31を制御しながら旋回外輪の制動力が増加するようにブレーキ装置コントローラ33を制御し、車両のヨー運動を促進する場合(US発生時)には、リアデフコントローラ31とブレーキ装置コントローラ33に制御量を配分して、旋回外輪の駆動力が増加するようにリアデフコントローラ31を制御しながら旋回内輪の制動力が増加するようにブレーキ装置コントローラ33を制御するとともに、車両のヨー運動を促進する場合(US発生時)に、リアデフコントローラ31に配分する制御量の割合を、車両のヨー運動を抑制する場合(OS発生時)の割合よりも大きくし、車両のヨー運動を抑制する場合(OS発生時)に、ブレーキ装置コントローラ33に配分する制御量の割合を、車両のヨー運動を促進する場合(US発生時)の割合よりも大きくするような制御特性の各ヨー運動制御マップ44を備えている。
【0043】
各ヨー運動制御マップ44を用いた場合の基本制御特性は上述のとおりであるが、各ヨー運動制御マップ44は、アンダーステア(US)やオーバーステア(OS)の場合だけでなく、図4に示すよう、車両の加減速や速度に応じて制御の絶対値や、左右輪間駆動力移動機構15とブレーキ装置の制御配分量(ヨー運動制御に対する双方の使用バランス)が可変制御できるように更に細かく設定されている。つまり、リアデフコントローラ31とブレーキ装置コントローラ33の制御量配分が車両の加減速や速度に応じて変更できるように構成されている。この制御量配分の特性は、図4に示す各ヨー運動制御マップ44によって予め設定されている。
【0044】
ヨー運動制御マップ44は、Gセンサ49による検出結果が加速(図4b)の場合に、リアデフコントローラ31に配分する制御量の割合を、減速の場合(図4c)の割合よりも大きくし、Gセンサ49による検出結果が減速の場合(図4c)に、ブレーキ装置コントローラ33に配分する制御量の割合を、加速の場合(図4b)の割合よりも大きくするような設定されているとともに、各車輪速センサによる検出結果が低速(図4e)の場合に、リアデフコントローラ31に配分する制御量の割合を、高速の場合(図4d)の割合よりも大きくし、各車輪速センサによる検出結果が高速の場合(図4e)に、ブレーキ装置コントローラ33に配分する制御量の割合を、低速の場合(図4e)の割合よりも大きくするような特性とされている。また、制御量の強弱の特性については、図3に示す。リアデフはリヤデフコントローラ31〔左右輪間駆動力移動機構15〕を、ブレーキはブレーキ装置コントローラ33(ブレーキ装置21L,21R,22L,22R)をそれぞれ示す。また、「大」、「中」、「小」は各装置の絶対値の高さ、すなわち、各装置の油圧値の大小関係であり、これら「大」、「中」、「小」の値は予めECU40内に記憶されている。
【0045】
本発明の一実施形態に係る車両の旋回挙動制御装置は上述のように構成されているので、以下のような作用および効果を奏する。この内容について図5〜図7に示すフローチャートに沿って説明する。
【0046】
図5に示すように、ステップS11において、制御ヨーモーメント算出部41が、舵角センサ47により検出された舵角と、各車速センサ45により検出された車速と、ヨーレイトセンサ48により検出された実ヨーレイトとを読み込むとともに、US/OS判定部42がGセンサ49により検出された横加速度を読み込む。
【0047】
ステップS12において、制御ヨーモーメント算出部41は、読み込んだ舵角および車速に基づいて目標ヨーレイトを算出し、この目標ヨーレイトと実ヨーレイトとの比較により制御ヨーモーメントを算出する。その後、ステップS13において速度と加減速に応じたマップ(図4a〜図4e)を選択する。
【0048】
ステップS14,S16では、US/OS判定部42が制御ヨーモーメントと横加速度とに基づいて、車両1にオーバーステア(OS)が生じている状態にあるのか、或いはアンダーステア(US)が生じている状態にあるのか、或いは実質的にアンダーステア(US)もオーバーステア(OS)も生じていない状態にあるのかを判定する。そして、US/OS判定部42が車両1はオーバーステアが発生している状態にあると判定した場合には、ステップS15に進んでサブルーチンであるOS抑制制御が実行される。US/OS判定部42がステップS16でアンダーステアが発生している状態であると判定した場合には、ステップS17に進んでサブルーチンであるUS抑制制御が実行される。また、US/OS判定部42が実質的にアンダーステアもオーバーステアも生じていない状態であると判定した場合には、そのままリターンする。
【0049】
次に、サブルーチンであるOS抑制制御とUS抑制制御について説明する。図6に示すOS抑制制御は、ステップS21において、リアデフコントローラ31による後左右輪14L,14R間でのトルク移動制御(「リアデフ制御」という)を実行することにより、制御ヨーモーメントを満たすことができるか否かが判定される。
【0050】
ここで、リアデフ制御を実行することにより、制御ヨーモーメントを満たすことができると判定された場合には、ステップS22において、選択されたマップの特性に応じたリアデフ制御を実行することで後左右輪14L,14R間のトルク差を調整し、車両1に生じているオーバーステアを抑制する。
【0051】
一方、リアデフ制御を実行してもなお制御ヨーモーメントを満たすことができないと判定された場合には、ステップS23において、選択されたマップの特性に応じたリアデフ制御に加え、旋回外輪に対する制動力を旋回内輪に対する制動力よりも大きくするブレーキ装置コントローラ33による制御(「ブレーキ制御」という)を実行することで、車両1に生じているオーバーステアを抑制する。
【0052】
図7に示すUS抑制制御について説明すると、ステップS31において、リアデフ制御を実行することにより、制御ヨーモーメントを満たすことができるか否かが判定される。ここで、リアデフ制御を実行することにより、制御ヨーモーメントを満たすことができると判定された場合には、ステップS32において、選択されたマップの特性に応じたリアデフ制御を実行することで後左右輪14L,14R間のトルク差を調整し、車両1に生じているアンダーステアを抑制する。
【0053】
一方、リアデフ制御を実行しただけでは、制御ヨーモーメントを満たすことができないと判定された場合には、ステップS33において、リアデフ制御に加え、選択されたマップの特性に応じたブレーキ制御を実行することで、車両1に生じているアンダーステアを抑制する。
【0054】
このように、本形態では、車両1のヨー運動を抑制する場合、旋回内輪の駆動力を増加するとともに旋回外輪の制動力を増加させ、車両のヨー運動を促進する場合には旋回外輪の駆動力を増加し、旋回内輪の制動力を増加させるので、車両の旋回性能を向上させることができる。また、ヨー運動の抑制時とヨー運動の促進時における、リアデフコントローラ31とブレーキ装置コントローラ33の制御配分量を可変制御するので、制御配分量が固定的なものよりもフレキシブルに車両の状態に対応でき、ドライブフィールを高めることができる。
【0055】
つまり、車両のヨー運動を促進する場合(US発生時)に、リアデフコントローラ31に配分する制御量の割合を、車両のヨー運動を抑制する場合(OS発生時)の割合よりも大きくして接地荷重の高い旋回外輪の駆動力をより増加さて効率よくヨー運動制御を実施し、車両1のヨー運動を抑制する場合(OS発生時)に、ブレーキ装置コントローラ33に配分する制御量の割合を、車両1のヨー運動を促進する場合(US発生時)の割合よりも大きくして接地荷重の高い旋回外輪の制動力をより増加させて効率よくヨー運動制御を実施し、旋回性能を安定させることができる。
【0056】
本形態では、車両1が加速時で、図5のステップS13において図4(b)のマップが選択された場合には、リアデフコントローラ31に配分する制御量の割合を、図4(c)に示す減速の場合の割合よりも大きくするので、車輪の接地荷重が高くなる加速時に駆動力をより増加させてより効率よくヨー運動制御を実施することができ、加速時の減速感を低減しながら旋回性能を安定させることができ、よりドライブフィールを高めることができる。また、車両1が減速時で、図5のステップS13において図4(c)のマップが選択された場合、ブレーキ装置コントローラ33に配分する制御量の割合を、図4(c)に示す加速の場合の割合よりも大きくするので、減速により車輪荷重が抜けた場合でも、左右輪間駆動力差の増大による車輪横力の低下を抑制できるので減速時の旋回性能を安定することができる。
【0057】
本形態では、車速が低速で、図5のステップS13において図4(e)のマップが選択された場合には、リアデフコントローラ31に配分する制御量の割合を、図4(d)に示す高速の場合の割合よりも大きくし、車速が高速で、図5のステップS13において図4(d)のマップが選択された場合には、ブレーキ装置コントローラ33に配分する制御量の割合を、図4(e)に示す低速の場合の割合よりも大きくするので、過剰な制動力の増加による減速感を抑制しながら、アンダーステアやオーバーステアを適正に抑制することができ、車両の旋回性能を向上させることができる。
(第2の実施形態)
次に、図8〜図14を用いて本発明の第2の実施形態について図面を用いて説明する。図8に示す本形態にかかる車両1Aは、第1の実施形態の構成に対して、センターデフ5、前後輪間差動制限機構19、前後輪間差動制限機構19を制御して前後輪間での差動制限度合を調整するセンターデフコントローラ32(第3のヨー運動調整手段)を備えている点が、ハードウェア構成として異なっているとともに、車両1Aに搭載されている制御手段となるECU40Aによる制御内容が異なっている。このため、第1の実施形態と同一の構成や機能をする部材には、同形態と同一の符号を付して詳細な説明は省略し、異なる構成部分と制御内容を中心に説明する。
【0058】
輪駆動方式の車両1に搭載されたエンジン2の出力はトランスミッション3及び中間ギア機構4を介してセンターデフ5に伝達されるようになっている。
【0059】
センターデフ5には、詳しくは後述する前後輪間差動制限機構19が備えられている。このセンターデフ5の出力は、フロントディファレンシャル(以下、フロントデフ)6および車軸7L,7Rを介して前左右輪8L,8Rにそれぞれ伝達されるとともに、前輪側ハイポイドギヤ機構9,プロペラシャフト10,後輪側ハイポイドギヤ機構11,リヤディファレンシャル(以下、リアデフ)12および車軸13L,13Rを介して後輪14の左右輪14L,14Rに伝達されるようになっている。
【0060】
センターデフ5は、デファレンシャルピニオン5A,5Bと、これらのデファレンシャルピニオン5A,5Bと噛合するサイドギヤ5C,5Dとから構成され、デファレンシャルピニオン5A,5Bから入力されたトルクは、一方のサイドギヤ5Cを介して前輪8へ伝達されるとともに、他方のサイドギヤ5Dを介しプロペラシャフト10などを経て後輪14へ伝達される。また、このとき、このセンターデフ5によって前輪8と後輪14との間の差動が許容されることによって、車両1の回頭性が妨げられないようになっている。
【0061】
このセンターデフ5には、前輪8と後輪14との間で許容された差動を可変に制限しながら、エンジン2から出力されたトルクを前後輪8,14に対して可変に配分できる前後輪間差動制限機構19が備えられている。
【0062】
前後輪間差動制限機構19は、湿式油圧多板クラッチ機構によって構成され、駆動系油圧ユニット(図示略)から入力された油圧に応じて、前輪8および後輪14との間での差動制限の度合を調整することができるようになっており、前輪8および後輪14に対して伝達されるトルク(駆動力)の配分を適宜変更できるようになっている。なお、駆動系油圧ユニットから前後輪間差動制限機構19に入力される油圧は、センターデフコントローラ32によって制御されるようになっているが、この点については後述する。
【0063】
したがって、この前後輪間差動制限機構19によれば、前輪8と後輪14との差動制限の度合を調整することによって、車両1のトラクション性能を向上させたり、他方、前輪8と後輪14との差動を許容して、車両1の回頭性能を向上させたりできるようになっている。
【0064】
センターデフコントローラ32(第3のヨー運動調整手段)は、いずれも図示しないインタフェイス,メモリ,CPU等がそなえられた電子制御ユニットであって、前輪8と後輪14との間での差動制限の度合に応じた油圧およびその出力先を示す信号(前後輪間差動制限信号)を駆動系油圧ユニットへ送信し、この前後輪間差動制限信号を受けた駆動系油圧ユニットがセンターデフ5の前後輪間差動制限機構19に対する油圧を適宜制御することで、前輪8と後輪14との間での差動制限の度合を調整するものである。
【0065】
ECU40Aは、いずれも図示しないインタフェイス,メモリ,CPU等がそなえられた電子制御ユニットであって、いずれも車輪速センサ(車速検出手段)45L,45R,46L,46R,舵角センサ47,Gセンサ(加減速検出手段)48,ヨーレイトセンサ49による測定結果を読み込むことができるようになっている。
【0066】
このECU40Aは、図示しないメモリ内に記録されたプログラムとして、制御ヨーモーメント算出部41,アンダーステア/オーバーステア判定部(以下「US/OS判定部」と記す)42およびヨー運動制御部(ヨー運動制御手段)43Aを備えている。このメモリには、ヨー運動制御部43Aによって用いられるヨー運動制御マップ440が記録されている。なお、制御ヨーモーメント算出部41とUS/OS判定部42の機能は、第1の実施形態と同一機能であるので、その説明は省略する。
【0067】
ヨー運動制御部43Aは、車両1の旋回状態に応じて、リアデフコントローラ31,センターデフコントローラ32およびブレーキ装置コントローラ33を制御することで、制御ヨーモーメントに対応するヨーモーメントを車両1Aに発生させるものである。
【0068】
つまり、ヨー運動制御部43Aは、制御ヨーモーメント算出部41によって得られた制御ヨーモーメントとUS/OS判定部42による判定結果(車両1の旋回状態)とGセンサ49によって測定された車両1の前後方向の加速度(前後加速度)とに基づき、ヨー運動制御マップ440に対して適用することにより、リアデフコントローラ31、センターデフコントローラ32およびブレーキ装置コントローラ33に対する制御値を得るようになっている。
【0069】
リアデフコントローラ31に対する制御値とは左右輪間駆動力移動機構15の油圧値あり、ブレーキ装置コントローラ33に対する制御値とは各ブレーキ装置21L,21R,22L,22Rの油圧増減値である。また、センターデフコントローラ32に対する制御値とは、センターデフ5の前後輪間差動制限機構19による前後輪間の差動規制の度合を示す値であって、さらに具体的には、前後輪間差動制限機構19の油圧値である。
【0070】
次にヨー運動制御マップ440について説明すると、本形態において、ヨー運動制御マップ440は、図11(a)〜(e)に示すように、複数のマップから構成されている。図11(a)のマップを基本とし、図11(b)は車両加速時、図11(c)は車両減速度、図11(d)は車両高速時、図11(e)は車両低速時にそれぞれ選択されるマップである。各マップを代表して図11(a)を用いてマップの基本的な構成について説明すると、このヨー運動制御マップ440の横軸には車両1の旋回状態、即ち、制御ヨーモーメント算出部41によって得られた制御ヨーモーメントとUS/OS判定部42による判定結果から求められる、車両1に生じているアンダーステア(US)の度合、或いは、オーバーステア(OS)の度合が規定されている。他方、その縦軸には、リアデフコントローラ31、センターデフコントローラ32およびブレーキ装置コントローラ33に対する制御値の絶対値が規定されている。
【0071】
このヨー運動制御マップ440には、図9に示すように、主に、オーバーステア抑制領域440Aと、アンダーステア抑制領域440Bとが規定されている。このオーバーステア抑制領域440Aには制御ヨーモーメントが小さい方から順番に、リアデフ制御領域440A1と、センターデフ制御領域440A2、ブレーキ制御領域440A3とが規定されている。また、アンダーステア抑制領域440Bには、制御ヨーモーメントが小さい方から順番に、リアデフ制御領域440B1と、ブレーキ制御領域440B2とが規定されている。
【0072】
ヨー運動制御部43Aは、車両1のヨー運動を抑制する場合、即ち、車両1に発生しているオーバーステアを抑制する場合には、まず、左右輪14L,14Rのうち、旋回中心側に位置しているほうの車輪(即ち、旋回内輪)の駆動力が増加するようにリアデフコントローラ31を制御し、次に、前後輪8,14間の差動制限を強めるようにセンターデフコントローラ32を制御するようになっている。また、ヨー運動制御部43Aは、車両1Aに発生しているオーバーステアを抑制する場合であり、且つ、リアデフコントローラ31による左右輪間駆動力制御を実行するとともに、センターデフコントローラ32による前後輪間差動制限制御を実行してもなお、制御ヨーモーメントを発生させることができない場合に限り、旋回内輪の制動力よりも旋回外輪の制動力が大きくなるようにブレーキ装置コントローラ33を制御するようになっている。
【0073】
つまり、ヨー運動制御部43Aはリアデフコントローラ31、センターデフコントローラ32およびブレーキ装置コントローラ33のうちの少なくとも1つのヨー運動調整手段を制御して車両1Aのヨー運動を制御するヨー運動制御マップ440を備え、これらリアデフコントローラ31と、センターデフコントローラ32とブレーキ装置コントローラ33の制御量配分を変更可能とされていて、制御量配分の特性は、図11(a)〜(e)に示す各ヨー運動制御マップ440によって予め設定されている。
【0074】
本形態のヨー運動制御部43Aは、Gセンサ49の検出結果が減速(図11c)の場合には、センターデフコントローラ32による制御配分量を、加速(図11b)の場合におけるセンターデフコントローラ32による制御配分量よりも小さくするとともに、車両1Aのヨー運動を抑制する場合(OS発生時)であり且つリアデフコントローラ31とセンターデフコントローラ32とを制御してもなお目標ヨー運動量相関値を満たせない場合には旋回外輪の制動力が増加するようにブレーキ装置コントローラ33を制御するように構成されている。この点が第1の実施形態のヨー運動制御部43と異なる点となる。
【0075】
これ以外の、車両の加減速や速度に応じた制御の絶対値や、左右輪間駆動力移動機構15とブレーキ装置の制御配分量(ヨー運動制御に対するそれぞれの使用バランス)については、第1の実施形態と同様である。
【0076】
すなわち、ヨー運動制御マップ440は、Gセンサ49による検出結果が加速の場合(図11b)に、リアデフコントローラ31に配分する制御量の割合を、減速の場合(図11c)の割合よりも大きくし、Gセンサ49による検出結果が減速の場合(図11c)に、ブレーキ装置コントローラ33に配分する制御量の割合を、加速の場合(図11b)の割合よりも大きくするような設定されているとともに、各車輪速センサによる検出結果が低速(の場合図11e)に、リアデフコントローラ31に配分する制御量の割合を、高速の場合(図11d)の割合よりも大きくし、各車輪速センサによる検出結果が高速の場合(図11e)に、ブレーキ装置コントローラ33に配分する制御量の割合を、低速の場合(図11e)の割合よりも大きくするような特性とされている。
【0077】
また、制御量の強弱の特性については、図10に示す。リアデフはリヤデフコントローラ31〔左右輪間駆動力移動機構15〕を、センターデフはセンターデフコントローラ32(前後輪間差動制限機構19)を、ブレーキはブレーキ装置コントローラ33(ブレーキ装置21L,21R,22L,22R)をそれぞれ示す。また、「大」、「中」、「小」は各装置の絶対値の高さ、すなわち、各装置の油圧値の大小関係であり、これら「大」、「中」、「小」の値は予めECU40A内に記憶されている。
【0078】
本発明の第2の実施形態に係る車両の旋回挙動制御装置は上述のように構成されているので、以下のような作用および効果を奏する。この内容について図12〜図14に示すフローチャートに沿って説明する。
【0079】
図12に示すように、ステップS41において、制御ヨーモーメント算出部41が、舵角センサにより検出された舵角と、各車速センサ45により検出された車速と、ヨーレイトセンサ48により検出された実ヨーレイトとを読み込むとともに、US/OS判定部42がGセンサ49により検出された横加速度を読み込む。
【0080】
そして、ステップS42において、制御ヨーモーメント算出部41は、読み込んだ舵角および車速に基づいて目標ヨーレイトを算出し、この目標ヨーレイトと実ヨーレイトとの比較により制御ヨーモーメントを算出する。
【0081】
その後、ステップS43において速度と加減速に応じたマップ(図11a〜図11e)を選択する。そして、ステップS44,S46において、US/OS判定部42が制御ヨーモーメントと横加速度とに基づいて、車両1にオーバーステア(OS)が生じている状態にあるのか、或いはアンダーステア(US)が生じている状態にあるのか、或いは実質的にアンダーステア(US)もオーバーステア(OS)も生じていない状態にあるのかを判定する。
【0082】
そして、US/OS判定部42が、車両1Aはオーバーステアが発生している状態にあると判定した場合には、ステップS45に進んでサブルーチンであるOS抑制制御が実行される。一方、US/OS判定部42が、ステップS46でアンダーステアが発生している状態であると判定した場合には、ステップS47に進んでサブルーチンであるUS抑制制御が実行される。また、US/OS判定部42が、実質的にアンダーステアもオーバーステアも生じていない状態であると判定した場合には、そのままリターンする。
【0083】
次に、OS抑制制御とUS抑制制御について説明する。図13に示すOS抑制制御は、ステップS51において、リアデフコントローラ31による後左右輪14L,14R間でのトルク移動制御(「リアデフ制御」という)を実行することにより、制御ヨーモーメントを満たすことができるか否かが判定される。
【0084】
ここで、リアデフ制御を実行することにより、制御ヨーモーメントを満たすことができると判定された場合には、ステップS52において、リアデフ制御を実行することで後左右輪14L,14R間のトルク差を調整し、車両1Aに生じているオーバーステアを抑制する。
【0085】
一方、リアデフ制御を実行してもなお制御ヨーモーメントを満たすことができないと判定された場合には、ステップS53において、リアデフ制御およびセンターデフコントローラ32による前後輪8,14間での差動制限度合の制御(「センターデフ制御」という)を実行することにより、制御ヨーモーメントを満たすことができるか否かが判定される。
【0086】
ここで、リアデフ制御とセンターデフ制御を実行することにより、制御ヨーモーメントを満たすことができると判定された場合には、ステップS54においてリアデフ制御およびセンターデフ制御を実行することで後左右輪14L,14R間のトルク差および前後輪8,14間の差動制限を調整し、車両1Aに生じているオーバーステアを抑制する。
【0087】
一方、リアデフ制御およびセンターデフ制御を実行してもなお制御ヨーモーメントを満たすことができないと判定された場合には、ステップS55において、リアデフ制御およびセンターデフ制御に加え、さらに、旋回外輪に対する制動力を旋回内輪に対する制動力よりも大きくするブレーキ装置コントローラ33による制御(「ブレーキ制御」という)を実行することで、車両1Aに生じているオーバーステアを抑制する。
【0088】
図14に示すUS抑制制御について説明すると、ステップS61において、リアデフ制御を実行することにより、制御ヨーモーメントを満たすことができるか否かが判定される。ここで、リアデフ制御を実行することにより、制御ヨーモーメントを満たすことができると判定された場合にはステップS62においてリアデフ制御を実行することで後左右輪14L,14R間のトルク差を調整し、車両1Aに生じているアンダーステアを抑制する。
【0089】
一方、リアデフ制御を実行しただけでは、制御ヨーモーメントを満たすことができないと判定された場合には、ステップS63において、リアデフ制御に加え、ブレーキ制御を実行することで、車両1に生じているアンダーステアを抑制する。
【0090】
このように、本形態では、センターデフコントローラ32による制御配分量を、車両加速時よりも車両減速時に小さく設定することで、減速中のヨー運動の抑制時における差動制限が少なく、後輪14R、14Lに対する制動が軽減されるので、効率よくオーバーステアを抑制することができ、特に減速時における車両の旋回性能の安定化を図ることができる。
【0091】
また、リアデフコントローラ31とセンターデフコントローラ32とによってもなお車両1Aのヨー運動を十分に抑制することができない場合には、ブレーキ装置コントローラ33により旋回外輪の制動力を増加させるので、加速性能の低下をできるかぎり抑制しながら、車両1Aの旋回性能を向上させることができ、ドライブフィールを高めることができる。
【0092】
本形態では、第1の実施形態と同様に、車両1Aのヨー運動を抑制する場合、旋回内輪の駆動力を増加するとともに旋回外輪の制動力を増加させ、車両のヨー運動を促進する場合には旋回外輪の駆動力を増加し、旋回内輪の制動力を増加させるので、車両の旋回性能を向上させることができる。また、ヨー運動の抑制時とヨー運動の促進時における、リアデフコントローラ31とブレーキ装置コントローラ33の制御配分量も可変制御するので、制御配分量が固定的なものよりもフレキシブルに車両の状態に対応でき、ドライブフィールを高めることができる。
【0093】
つまり、車両のヨー運動を促進する場合(US発生時)に、リアデフコントローラ31に配分する制御量の割合を、車両のヨー運動を抑制する場合(OS発生時)の割合よりも大きくして接地荷重の高い旋回外輪の駆動力をより増加さて効率よくヨー運動制御を実施し、車両1のヨー運動を抑制する場合(OS発生時)に、ブレーキ装置コントローラ33に配分する制御量の割合を、車両1のヨー運動を促進する場合(US発生時)の割合よりも大きくして接地荷重の高い旋回外輪の制動力をより増加させて効率よくヨー運動制御を実施し、旋回性能を安定させることができる。
【0094】
また、車両1Aが加速時で、図12のステップS43において図11(b)のマップが選択された場合には、リアデフコントローラ31に配分する制御量の割合を、図11(c)に示す減速の場合の割合よりも大きくするので、車輪の接地荷重が高くなる加速時に駆動力をより増加させてより効率よくヨー運動制御を実施することができ、加速時の減速感を低減しながら旋回性能を安定させることができ、よりドライブフィールを高めることができる。また、車両1Aが減速時で、図12のステップS43において図11(c)のマップが選択された場合、ブレーキ装置コントローラ33に配分する制御量の割合を、図11(b)に示す加速の場合の割合よりも大きくするので、減速により車輪荷重が抜けた場合でも、左右輪間駆動力差の増大による車輪横力の低下を抑制できるので減速時の旋回性能を安定することができる。
【0095】
本形態では、車速が低速で、図12のステップ43において図11(e)のマップが選択された場合には、リアデフコントローラ31に配分する制御量の割合を、図11(d)に示す高速の場合の割合よりも大きくし、車速が高速で、図12のステップS43において図11(d)のマップが選択された場合には、ブレーキ装置コントローラ33に配分する制御量の割合を、図11(e)に示す低速の場合の割合よりも大きくするので、過剰な制動力の増加による減速感を抑制しながら、アンダーステアやオーバーステアを適正に抑制することができ、車両の旋回性能を向上させることができる。
【0096】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は係る実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【0097】
上述の実施形態においては、フロントデフ6は、エンジン2から入力されたトルクの大きさに応じて、左右輪8R,8Lの差動を機械的に制限するトルク感応式のディファレンシャルギアが適用されている場合について説明したが、このような構成に限定するものではない。例えば、上述の実施形態における左右輪間駆動力移動機構15を、リアデフ12に装備するだけではなくフロントデフ6にも装備する構成としてもよいし、フロントデフ6のみに装備する構成としてもよい。
【0098】
また、上述の実施形態においては、車両1が4輪駆動車である場合を例にとって説明したが、特に4輪駆動車に限定するものではなく、前輪駆動車であってもよいし、後輪駆動車であってもよい。
【0099】
上述の実施形態においては、リアデフコントローラ31が左右輪間駆動力移動機構15を制御することで、エンジン1から後左右輪14L,14Rに伝達されるトルクの差が調整される場合を例にとって説明したが、このような構成に限定するものではない。例えば、前輪側あるいは後輪側の左右輪にそれぞれ設けられた電気モータの駆動力をそれぞれ独立して調整するようにしてもよい。なお、この場合、電気モータのほかに、エンジンなどの他の駆動源を車載するか否かは適宜選択可能である。
【0100】
左右輪間駆動力移動機構15の代わりに、左右輪間で駆動力を配分する機構に換えてもよく、例えば、左右輪にそれぞれクラッチ機構を設け、このクラッチ機構による締結力を調整することで、左右輪に伝達される駆動力の大きさを可変とする構成としてもよい。さらに、これを後輪側あるいは前輪側に設けてもよい。
【0101】
また、上述の実施形態においては、アンダーステア/オーバーステアの判定を、制御ヨーモーメント算出部41によって得られた制御ヨーモーメントと、Gセンサ49によって測定された車両1の横方向の加速度とに基づいて行っているが、このような形態に限定されるものではなく、車両の旋回状態を判定しうるものであれば、どのような構成でもよい。
【0102】
また、上述の実施形態においては、速度情報を車輪速センサ45L,45R,46L,46Rで検出しているが、このような形態に限定されるものではなく、例えば、ハンドル角センサ47からの検出情報から低速コーナー/高速コーナーを推定し、この推定値からマップを選択するようにしてもよい。
【0103】
また、上述の実施形態においては、前後方向の加速度をGセンサ49で検出しているが、このような形態に限定されるものではなく、例えば、車速を微分することによって前後加速度を推定し、この推定値からマップを選択するようにしてもよいし、エンジン2の出力トルク、トランスミッション3の総減速比およびブレーキ装置21L,21R,22L,22Rの制動トルクから前後加速度を推定し、この推定値からマップを選択するようにしてもよい。
【0104】
上述の実施形態においては、前後輪間差動制限機構19を歯車式のものとしたが、これに何ら限定されるものではなく、同様の機能を有するものであればよいことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る車両の旋回挙動制御装置の全体構成を示す模式的なブロック構成図である。
【図2】第1の実施形態に係る車両の旋回挙動制御装置の制御を主に示す模式的な制御ブロック図である。
【図3】第1の実施形態に係る車両の旋回挙動制御装置の制御量の強弱の特性を示す表である。
【図4】第1の一実施形態に係る車両の旋回挙動制御装置の制御特性マップの一例を示す図である。
【図5】第1の実施形態に係る車両の旋回挙動制御装置の制御を示すフローチャートである。
【図6】第1の実施形態に係る車両の旋回挙動制御装置の制御を示すフローチャートであって、OS抑制制御のサブルーチンを示す。
【図7】第1の本発明の一実施形態に係る車両の旋回挙動制御装置の制御を示すフローチャートであって、US抑制制御のサブルーチンを示す。
【図8】本発明の第2の実施形態に係るセンターデフを備えた車両の旋回挙動制御装置の全体構成を示す模式的なブロック構成図である。
【図9】第2の実施形態に係る車両の旋回挙動制御装置の制御を主に示す模式的な制御ブロック図である。
【図10】第2の一実施形態に係る車両の旋回挙動制御装置の制御量の強弱の特性を示す表である。
【図11】第2の実施形態に係る車両の旋回挙動制御装置の制御特性マップの一例を示す図である。
【図12】第2の実施形態に係る車両の旋回挙動制御装置の制御を示すフローチャートである。
【図13】第2の実施形態に係る車両の旋回挙動制御装置の制御を示すフローチャートであって、OS抑制制御のサブルーチンを示す。
【図14】第1の本発明の一実施形態に係る車両の旋回挙動制御装置の制御を示すフローチャートであって、US抑制制御のサブルーチンを示す。
【符号の説明】
【0106】
1、1A 車両
8L 前左輪(前輪,左輪)
8R 前右輪(前輪,右輪)
14L 後左輪(後輪,左輪)
14R 後右輪(後輪,右輪)
21L,21R,22L,22R ブレーキ装置
31 リアデフコントローラ(第1のヨー運動調整手段)
33 ブレーキ装置コントローラ(第2のヨー運動調整手段)
43、43A ヨー運動制御部(ヨー運動制御手段)
45L,45R,46L,46R 車速検出手段
48 加減速検出手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後左右輪を備える車両の旋回挙動制御装置であって、
前記前輪または後輪の少なくとも一方における該左右輪の駆動力を調整する第1のヨー運動調整手段と、
前記前輪または後輪の少なくとも一方における該左輪および該右輪に対するブレーキ装置の制動力を調整する第2のヨー運動調整手段と、
前記第1のヨー運動調整手段と第2のヨー運動調整手段を制御して該車両のヨー運動を制御するヨー運動制御手段と、
前記車両の加減速を検出する加減速検出手段とを備え、
前記ヨー運動制御手段は、
前記車両のヨー運動を抑制する場合、前記両ヨー運動調整手段に制御量を配分して、旋回内輪の駆動力が増加するように該第1のヨー運動調整手段を制御しながら旋回外輪の制動力が増加するように第2のヨー運動調整手段を制御し、
前記車両のヨー運動を促進する場合、前記両ヨー運動調整手段に制御量を配分して、旋回外輪の駆動力が増加するように該第1のヨー運動調整手段を制御しながら旋回内輪の制動力が増加するように第2のヨー運動調整手段を制御するとともに、
前記加減速検出手段による検出結果が加速の場合に、前記第1のヨー運動調整手段に配分する制御量の割合を、減速の場合の割合よりも大きくし、
前記加減速検出手段による検出結果が減速の場合に、前記第2のヨー運動調整手段に配分する制御量の割合を、加速の場合の割合よりも大きくすることを特徴とする、車両の旋回挙動制御装置。
【請求項2】
前記車両の速度を検出する車速検出手段を備え、
前記ヨー運動制御手段は、
前記車速検出手段による検出結果が低速の場合に、前記第1のヨー運動調整手段に配分する制御量の割合を、高速の場合の割合よりも大きくし、
前記車速速検出手段による検出結果が高速の場合に、前記第2のヨー運動調整手段に配分する制御量の割合を、低速の場合の割合よりも大きくすることを特徴とする請求項1記載の車両の旋回挙動制御装置。
【請求項3】
前記ヨー運動制御手段は、
前記車両のヨー運動を促進する場合に、前記第1のヨー運動調整手段に配分する制御量の割合を、前記車両のヨー運動を抑制する場合の割合よりも大きくし、
前記車両のヨー運動を抑制する場合に、前記第2のヨー運動調整手段に配分する制御量の割合を、前記車両のヨー運動を促進する場合の割合よりも大きくすることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の車両の旋回挙動制御装置。
【請求項4】
前記前後輪間での差動制限度合を調整する第3のヨー運動調整手段を備え
前記ヨー運動制御手段は、
前記第1のヨー運動調整手段と第2のヨー運動調整手段と第3のヨー運動調整手段のうちの少なくとも2つのヨー運動調整手段を制御して該車両のヨー運動を制御し、
前記加減速検出手段による検出結果が減速の場合における前記第3のヨー運動調整手段による制御配分量を、前記加減速検出手段による検出結果が加速の場合における該第3のヨー運動調整手段による制御配分量よりも小さくすることを特徴とする請求項1,2または3記載の車両の旋回挙動制御装置。
【請求項5】
該車両の目標とするヨー運動量に相関する値である目標ヨー運動量相関値を検出する目標ヨー運動量相関値検出手段を有し、
前記ヨー運動制御手段は、
前記車両のヨー運動を抑制する場合であり且つ前記第1のヨー運動調整手段と該第3のヨー運動調整手段とを制御してもなお目標ヨー運動量相関値を満たせない場合には旋回外輪の制動力が増加するように該第2のヨー運動調整手段を制御することを特徴とする、請求項4記載の車両の旋回挙動制御装置。
【請求項1】
前後左右輪を備える車両の旋回挙動制御装置であって、
前記前輪または後輪の少なくとも一方における該左右輪の駆動力を調整する第1のヨー運動調整手段と、
前記前輪または後輪の少なくとも一方における該左輪および該右輪に対するブレーキ装置の制動力を調整する第2のヨー運動調整手段と、
前記第1のヨー運動調整手段と第2のヨー運動調整手段を制御して該車両のヨー運動を制御するヨー運動制御手段と、
前記車両の加減速を検出する加減速検出手段とを備え、
前記ヨー運動制御手段は、
前記車両のヨー運動を抑制する場合、前記両ヨー運動調整手段に制御量を配分して、旋回内輪の駆動力が増加するように該第1のヨー運動調整手段を制御しながら旋回外輪の制動力が増加するように第2のヨー運動調整手段を制御し、
前記車両のヨー運動を促進する場合、前記両ヨー運動調整手段に制御量を配分して、旋回外輪の駆動力が増加するように該第1のヨー運動調整手段を制御しながら旋回内輪の制動力が増加するように第2のヨー運動調整手段を制御するとともに、
前記加減速検出手段による検出結果が加速の場合に、前記第1のヨー運動調整手段に配分する制御量の割合を、減速の場合の割合よりも大きくし、
前記加減速検出手段による検出結果が減速の場合に、前記第2のヨー運動調整手段に配分する制御量の割合を、加速の場合の割合よりも大きくすることを特徴とする、車両の旋回挙動制御装置。
【請求項2】
前記車両の速度を検出する車速検出手段を備え、
前記ヨー運動制御手段は、
前記車速検出手段による検出結果が低速の場合に、前記第1のヨー運動調整手段に配分する制御量の割合を、高速の場合の割合よりも大きくし、
前記車速速検出手段による検出結果が高速の場合に、前記第2のヨー運動調整手段に配分する制御量の割合を、低速の場合の割合よりも大きくすることを特徴とする請求項1記載の車両の旋回挙動制御装置。
【請求項3】
前記ヨー運動制御手段は、
前記車両のヨー運動を促進する場合に、前記第1のヨー運動調整手段に配分する制御量の割合を、前記車両のヨー運動を抑制する場合の割合よりも大きくし、
前記車両のヨー運動を抑制する場合に、前記第2のヨー運動調整手段に配分する制御量の割合を、前記車両のヨー運動を促進する場合の割合よりも大きくすることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の車両の旋回挙動制御装置。
【請求項4】
前記前後輪間での差動制限度合を調整する第3のヨー運動調整手段を備え
前記ヨー運動制御手段は、
前記第1のヨー運動調整手段と第2のヨー運動調整手段と第3のヨー運動調整手段のうちの少なくとも2つのヨー運動調整手段を制御して該車両のヨー運動を制御し、
前記加減速検出手段による検出結果が減速の場合における前記第3のヨー運動調整手段による制御配分量を、前記加減速検出手段による検出結果が加速の場合における該第3のヨー運動調整手段による制御配分量よりも小さくすることを特徴とする請求項1,2または3記載の車両の旋回挙動制御装置。
【請求項5】
該車両の目標とするヨー運動量に相関する値である目標ヨー運動量相関値を検出する目標ヨー運動量相関値検出手段を有し、
前記ヨー運動制御手段は、
前記車両のヨー運動を抑制する場合であり且つ前記第1のヨー運動調整手段と該第3のヨー運動調整手段とを制御してもなお目標ヨー運動量相関値を満たせない場合には旋回外輪の制動力が増加するように該第2のヨー運動調整手段を制御することを特徴とする、請求項4記載の車両の旋回挙動制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2009−12707(P2009−12707A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−179643(P2007−179643)
【出願日】平成19年7月9日(2007.7.9)
【特許番号】特許第4179391号(P4179391)
【特許公報発行日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月9日(2007.7.9)
【特許番号】特許第4179391号(P4179391)
【特許公報発行日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】
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