説明

車両用ドラムブレーキ

【課題】制動時にケーブルガイドの特定箇所に応力が集中することを防止し、ケーブルガイドの強度を確保して耐久性を向上させる。
【解決手段】ケーブルガイド19は、アンカーブロック6bの反バックプレート側面と同一形状のベース部19aと、ベース部19aからバックプレート周方向両側に突出して、ブレーキシューの他端を覆うブレーキシュー抑え片19bと、ベース部19aからバックプレート中心側に突出する突出片19cと、ブレーキケーブルを案内するガイド部19dとを備える。ガイド部19dは、断面U字状のケーブル保持部19gと、立上り片19hとを備える。さらに、立上り片19hと突出片19cの一部をベース部側を基端としてバックプレート中心側に切り起こした状態で突出させた抑止片19iを形成し、ブレーキシュー抑え片19bのバックプレート中心側には、ガイド部19dに接続する接続片19kを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や自動二輪車等の走行車両に用いられる車両用ドラムブレーキに係り、詳しくは、機械式操作機構のパーキングレバーを牽引するブレーキケーブルをガイドするケーブルガイドの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、機械式の作動機構を備えたドラムブレーキでは、パーキングレバーに連結したブレーキケーブルを牽引することにより、バックプレートの内部に配置された一対のブレーキシューを機械的に拡開させて制動するものがあり、前記ブレーキケーブルは、バックプレートに形成された挿通孔からバックプレートの内部側に向けて挿通され、アンカーブロックに取り付けられたケーブルガイドに案内されて、アンカーブロックの近傍を通過し、端部が前記パーキングレバーに連結されていた。
【0003】
また、このケーブルガイドとして、アンカーブロックに固着されるベース部と、該ベース部の両側部から突出して、ブレーキシューの端部を覆う一対のブレーキシュー抑え片と、ブレーキケーブルを案内するガイド部とを備えると共に、該ガイド部は、バックプレートの内側面に沿って延出するケーブル保持部と、該ケーブル保持部から立上り、ベース部と連結する立上り片とを有し、立上り片及びベース部の一部をベース部側を基端としてバックプレート中心側に切り起こした状態で突出させて抑止片を形成したものがあった(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実公平1−34998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述のケーブルガイドでは、抑止片の基端部と、ベース部の先端と、ブレーキシュー抑え片のバックプレート中心側の角部とが略一直線上に配置されていることから、例えばブレーキレバーを操作させてガイド部にブレーキケーブルからの荷重が掛かった際には、ベース部のバックプレート中心側や、ブレーキシュー抑え片の角部等の特定箇所に応力が集中してしまうことになる。そのため、剪断応力に対して強度を確保するためにケーブルガイドを肉厚にしなければならなかった。
【0006】
そこで本発明は、制動時にケーブルガイドの特定箇所に応力が集中することを防止し、強度を確保しながらケーブルガイドを薄肉に形成することができる車両用ドラムブレーキを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の車両用ドラムブレーキは、バックプレートの内部に一対のブレーキシューを対向配置し、該ブレーキシューの一端をホイルシリンダのピストンに、他端をアンカーブロックにそれぞれ当接させると共に、一方のブレーキシューに、パーキングレバーの一端を枢着し、該パーキングレバーの他端に、該パーキングレバーを牽引して前記ブレーキシューを拡開させるブレーキケーブルを連結し、前記アンカーブロックに前記ブレーキケーブルを案内するケーブルガイドを固設した車両用ドラムブレーキにおいて、前記ケーブルガイドは、前記アンカーブロックの反バックプレート側面と同一形状の矩形のベース部と、該ベース部からバックプレート周方向両側に突出して、前記ブレーキシューの他端を覆う一対のブレーキシュー抑え片と、前記ベース部からバックプレート中心側に突出する突出片と、前記ブレーキケーブルを案内するガイド部とを備え、該ガイド部は、バックプレートの内側面に沿って延出する断面U字状のケーブル保持部と、該ケーブル保持部から立上り、前記突出片の先端に連続する立上り片とを有し、該立上り片及び前記突出片の一部を前記ベース部側を基端としてバックプレート中心側に切り起こした状態で突出させた抑止片を形成すると共に、前記ブレーキシュー抑え片のバックプレート中心側に、前記ガイド部に接続する接続片を設けたことを特徴としている。
【0008】
また、前記接続片の外端面は前記立上り片に向けて直線状に形成されると共に、前記ブレーキシュー抑え片の外端面と前記接続片の外端面とで形成される角部は、鈍角の角度を有するものでも良く、前記立上り片は、前記ベース部のバックプレート周方向の幅寸法と略同一の幅寸法に形成され、前記接続部は、前記立上り片に向けて漸次幅寸法を短く形成すると好適である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の車両用ドラムブレーキによれば、ケーブルガイドは、ブレーキシュー抑え片のバックプレート中心側に、ガイド部に接続する接続片を設けたことにより、ブレーキシュー抑え片の外端面と前記接続片の外端面とで形成される角部は、アンカーブロックよりもバックプレート周方向外側にそれぞれ配置され、ケーブルガイドのガイド部に荷重が掛かった際に、前記角部に応力が集中することを防止できる。さらに、抑止片の基端部と、突出片の先端と、前記角部とは、バックプレート半径方向内外にずれた位置に配置されることから、ガイド部に荷重が掛かった際の応力が、特定箇所に集中することを防止でき、ケーブルガイドの強度を確保することができ、ケーブルガイドを薄肉にして軽量化を図ることができる。
【0010】
また、接続片の外端面を立上り片に向けて直線状に形成すると共に、ブレーキシュー抑え片の外端面と接続片の外端面とで形成される角部は、鈍角の角度を有することにより、ガイド部に荷重が掛かった場合でも、前記角部に応力が集中することを、比較的簡単な形状で効果的に防止でき、ケーブルガイドの強度を確保できる。
【0011】
さらに、立上り片は、ベース部のバックプレート周方向の幅寸法と略同一の幅寸法に形成され、接続部は、立上り片に向けて漸次幅寸法が短くなるように形成されることにより、ケーブルガイドの強度を確保しながら、ケーブルガイドを極力小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一形態例を示すドラムブレーキの正面図である。
【図2】同じく要部拡大正面図である。
【図3】同じくケーブルガイドの斜視図である。
【図4】図1のIV-IV断面図である。
【図5】図1のV-V断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は本発明の車両用ドラムブレーキの一形態例を示す図である。この車両用ドラムブレーキ1は、車体に固設されるバックプレート2の内面に弓形の一対のブレーキシュー3,4を配置し、両ブレーキシュー3,4の一端をホイルシリンダ5のピストンに、他端をアンカー6にそれぞれ当接させている。
【0014】
このドラムブレーキ1は、ブレーキシュー3,4をバックプレート2の半径方向外側へ拡開して、外周のライニング3a,4aをブレーキドラム(図示せず)に摺動させて制動作用を行うリーディング・トレーディングタイプで、一方のブレーキシュー3には、パーキングレバー7の一端が支軸8にて枢支され、該パーキングレバー7の他端には、パーキングレバー7を牽引するためのブレーキケーブル9が連結されている。
【0015】
ブレーキシュー3,4は、それぞれバックプレート2と平行に配置されるウエブ3b,4bと、該ウエブ3b,4bの外縁に交差方向に固設されるリム3c,4cと、このリム3c,4cの外周面に貼着される前記ライニング3a,4aとから成っている。ブレーキシュー3,4は、ウエブ3b,4bの略中間部がシューホールドピン10とシューホールドスプリング11とによってバックプレート2にそれぞれ弾持されている。また、両ウエブ3b,4bの間には、ホイルシリンダ5の内側とアンカー6の外側とにシュー戻しばね12,13が張設されていて、双方のブレーキシュー3,4を常時縮径方向へ付勢しており、更に、ホイルシリンダ側のシュー戻しばね12のバックプレート中心側には、制動間隙自動調整装置14が配置されている。
【0016】
制動間隙自動調整装置14は周知の構造を備えたもので、他方のブレーキシュー4に支軸15にて回動可能に軸支されるアジャストレバー16と、該アジャストレバー16とウエブ4bの他端部側に設けられるアジャストスプリング17と、一方のブレーキシュー3のウエブ3bとパーキングレバー7とに一端を嵌合し、他方のブレーキシュー4のウエブ4bとアジャストレバー16の基端側とに他端を嵌合するコネクティングロット18とを備えている。コネクティングロット18は、中間部にアジャストギア18aを備え、該アジャストギア18aにアジャストレバー16の爪片が係合した構成となっており、制動間隙が所定量以上に広がった場合に、アジャストレバー16の回動により、アジャストギアを爪片で一方向へ回転させてコネクティングロット18を伸長させ、バックプレート2の半径方向外側に拡開したブレーキシュー3,4の縮径位置を外側に規制することにより、制動間隙を自動的に調整するようにしている。
【0017】
アンカー6は、バックプレート2を内側に突出させて形成したアンカー部6aと、該アンカー部6aの内側面に固着される直方体形状のアンカーブロック6bとで形成され、該アンカーブロック6bは、ケーブルガイド19と共にリベット20,20によりアンカー部6aに固着されている。
【0018】
ケーブルガイド19は、アンカーブロック6bの反バックプレート側面と同一形状の矩形のベース部19aと、該ベース部19aからバックプレート周方向両側に突出して、ブレーキシュー3,4の他端を覆う一対のブレーキシュー抑え片19b,19bと、ベース部19aからバックプレート中心側に突出する突出片19cと、ブレーキケーブル9を案内するガイド部19dとを備えている。ベース部19aは、2つのリベット挿通孔19e,19eが形成されると共に、反バックプレート中心側面に、シュー戻しばね13に当接するばね抑え片19fが突設されている。
【0019】
ガイド部19dは、バックプレート2の内側面に沿って延出する断面U字状のケーブル保持部19gと、該ケーブル保持部19gから立上り、突出片19cの先端に連続する立上り片19hとを有し、立上り片19hは、ベース部19aのバックプレート周方向の幅寸法と略同一の幅寸法に形成される。ケーブル保持部19gは、ベース部19aよりも他方のブレーキシュー4側に突出して形成されると共に、バックプレート2に形成した挿通孔2aに向けて、バックプレート2の内側面の形状に沿って、バックプレート外面方向に傾斜して形成される。また、立上り片19h及び突出片19cの一部は、ベース部19a側を基端としてバックプレート中心側に切り起こした状態で突出させ、抑止片19iが形成される。
【0020】
各ブレーキシュー抑え片19bのバックプレート中心側には、ブレーキシュー抑え片19bの突出端部と立上り片19hの突出片19c側とを接続する接続片19kがそれぞれ形成される。各接続片19kは、立上り片19hに向けて漸次幅寸法が短く形成され、外端面が直線状に形成されると共に、ブレーキシュー抑え片19bの外端面と接続片19kの外端面とで形成される角部19mは、鈍角の角度を有している。
【0021】
このように形成されたケーブルガイド19は、リベット挿通孔19e,19eに挿通されたリベット20,20により、アンカーブロック6bと共にアンカー部6aに固着される。これにより、突出片19cと接続片19kとが、アンカーブロック6bよりもバックプレート中心側に突出し、ブレーキシュー抑え片19bの外端面と接続片19kの外端面とで形成される角部19m,19mが、アンカーブロック6bのバックプレート中心側の角部6cよりもバックプレート周方向外側にそれぞれ配置される。また、抑止片19iの基端部は、突出片19cの先端よりも反バックプレート中心側で、且つ、角部19m,19mよりもバックプレート中心側に配置される。
【0022】
ブレーキケーブル9は、他方のブレーキシュー4の他端部近傍のバックプレート2に形成された前記挿通孔2aを通して、バックプレート2の内部側に挿通され、ガイド部19d内に収容され、抑止片19iで、ガイド部19dの開口側から抜けることが防止された状態で、アンカー6の近傍を通過して、その端部9aがパーキングレバー7の連結部7aに連結される。
【0023】
上述のように形成されたドラムブレーキ1では、ブレーキケーブル9を牽引すると、ブレーキケーブル9がガイド部19dにガイドされながらスライドしてパーキングレバー7を牽引する。パーキングレバー7は支軸8を支点に回動し、コネクティングロット18を他方のブレーキシュー4側(図1の左方向)へ押動し、他方のブレーキシュー4をアンカー6を支点に拡開し、ライニング4aをブレーキドラムに摺接させる。さらに、ブレーキケーブル9を牽引すると、反作用によりパーキングレバー7が回動支点をコネクティングロット18との当接点に換えて回動して、一方のブレーキシュー3をアンカー6を支点に拡開させ、ライニング3aをブレーキドラムに摺接させて制動する。
【0024】
このようにブレーキケーブル9を牽引したときには、図5に示すようにブレーキケーブル9に引っ張り方向(矢印B1方向)の荷重が掛かるとと共に、ケーブルガイド19のガイド部19dには、ブレーキケーブル9からバックプレート方向(矢印B2方向)への荷重が掛かり、アンカーブロック6のバックプレート中心側の角部6c,6c上に配置されている突出片19c及び接続片19k,19kに応力が掛かるが、各ブレーキシュー抑え片19bの外端面と接続片19kの外端面とで形成される角部19m,19mは、アンカーブロック6bのバックプレート中心側の角部6c,6cよりもバックプレート周方向外側にそれぞれ配置されていることから、角部19m,19mに応力が集中することを防止できる。さらに、抑止片19iの基端部と、突出片19cの先端と、角部19m,19mとは、バックプレート半径方向内外にずれた位置に配置されることから、応力が特定箇所に集中することを防止して、剪断方向の応力が掛かることを抑制できる。これにより、ケーブルガイド19は、強度を確保しながら、薄肉に形成することができる。さらに、立上り片19hは、ベース部19aのバックプレート周方向の幅寸法と略同一の幅寸法であり、接続片19kは、立上り片19hに向けて漸次幅寸法が短くなるように形成されると共に、角部19m,19mは、鈍角の角度をそれぞれ有することから、ケーブルガイド19の強度を確保しながら、ケーブルガイド19を極力小型化させることができる。
【0025】
尚、本発明は上述の形態例に限るものではなく、立上り片の幅寸法は任意であり、ケーブルガイドの接続部が、立上り片に向けて漸次幅寸法が短くならなくても良い。また、ベース部にばね抑え片を備えていなくても差し支えない。さらに、制動間隙自動調整装置を備えていないドラムブレーキにも適用することができる。
【符号の説明】
【0026】
1…車両用ドラムブレーキ、2…バックプレート、3,4…ブレーキシュー、3a,4a…ライニング、3b,4b…ウエブ、3c,4c…リム、5…ホイルシリンダ、6…アンカー、6a…アンカー部、6b…アンカーブロック、6c…角部、7…パーキングレバー、8…支軸、9…ブレーキケーブル、9a…端部、10…シューホールドピン、11…シューホールドスプリング、12,13…シュー戻しばね、14…制動間隙自動調整装置、15…支軸、16…アジャストレバー、17…アジャストスプリング、18…コネクティングロット、18a…アジャストギア、19…ケーブルガイド、19a…ベース部、19b…ブレーキシュー抑え片、19c…突出片、19d…ガイド部、19e…リベット挿通孔、19f…ばね抑え片、19g…ケーブル保持部、19h…立上り片、19i…抑止片、19k…接続片、19m…角部、20…リベット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バックプレートの内部に一対のブレーキシューを対向配置し、該ブレーキシューの一端をホイルシリンダのピストンに、他端をアンカーブロックにそれぞれ当接させると共に、一方のブレーキシューに、パーキングレバーの一端を枢着し、該パーキングレバーの他端に、該パーキングレバーを牽引して前記ブレーキシューを拡開させるブレーキケーブルを連結し、前記アンカーブロックに前記ブレーキケーブルを案内するケーブルガイドを固設した車両用ドラムブレーキにおいて、前記ケーブルガイドは、前記アンカーブロックの反バックプレート側面と同一形状の矩形のベース部と、該ベース部からバックプレート周方向両側に突出して、前記ブレーキシューの他端を覆う一対のブレーキシュー抑え片と、前記ベース部からバックプレート中心側に突出する突出片と、前記ブレーキケーブルを案内するガイド部とを備え、該ガイド部は、バックプレートの内側面に沿って延出する断面U字状のケーブル保持部と、該ケーブル保持部から立上り、前記突出片の先端に連続する立上り片とを有し、該立上り片及び前記突出片の一部を前記ベース部側を基端としてバックプレート中心側に切り起こした状態で突出させた抑止片を形成すると共に、前記ブレーキシュー抑え片のバックプレート中心側に、前記ガイド部に接続する接続片を設けたことを特徴とする車両用ドラムブレーキ。
【請求項2】
前記接続片の外端面は前記立上り片に向けて直線状に形成されると共に、前記ブレーキシュー抑え片の外端面と前記接続片の外端面とで形成される角部は、鈍角の角度を有することを特徴とする請求項1記載の車両用ドラムブレーキ。
【請求項3】
前記立上り片は、前記ベース部のバックプレート周方向の幅寸法と略同一の幅寸法に形成され、前記接続部は、前記立上り片に向けて漸次幅寸法を短く形成することを特徴とする請求項2記載の車両用ドラムブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−36959(P2012−36959A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177024(P2010−177024)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】