説明

農作業機

【課題】走行中は作溝器が不用意に圃場に作溝跡を作って、圃場を荒らさないようにした農作業機を提供すること。
【解決手段】ハンドル操向角度検出センサ109によりハンドル14が所定値まで操向操作されると制御装置110により、まず作溝器用油圧シリンダ89が作溝位置にある作溝器(溝切り装置)95を非作溝位置まで上昇させ、次いで播種装置用油圧シリンダ46を作動させて作業位置にある播種装置82を非作業位置まで上昇させ、また旋回終了直前又は旋回終了を判断すると、まず播種装置82が作業位置まで下降させ、次いで作溝器95を作溝位置まで下降する作動を行わせることで、作溝器95を播種装置82より先に上昇させて、また上昇した作溝器95を播種装置82より後で圃場に降ろすことで、圃場を荒らしたり、作物を傷めたりすることを防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、田んぼや圃場に種を蒔くための農作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
水稲の湛水直播栽培などに使用する農作業機は、機体の前進に伴って泥土を左右方向に押し分けて作溝する作溝器と種子を圃場に打ち込む播種装置を備えており、播種装置は、種子ホッパ内の種子を繰り出す繰出ロールと繰出ロールで繰り出された種子を放出ロータにより、その下方に設ける放出筒を経由して圃場に種子を打ち込む構成である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−148911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載されている農作業機は、その作溝器で押しのけられた土壌を側方に移行するのを防いで、作溝以後の農作業への悪影響を来さないようにする構成であるが、農作業機が走行中に不用意に作溝器が圃場面に接触した状態にあると、作溝器で圃場を荒らしたり、作物を傷めたりするおそれがある。
本発明の課題は、走行中は作溝器が不用意に圃場に作溝跡を作って、圃場を荒らさないようにした農作業機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述した課題を解決するために、以下の構成を有する。
すなわち、請求項1記載の発明は、走行車体(2)と、該走行車体(2)に連結した農作業部(82)と、農作業部(82)に連結し、圃場に落水用の溝を作る作溝器(95)と、走行車体(2)を操向する操向装置(34)を備えた農作業機において、走行車体(2)に対して農作業部(82)を昇降させる第一の昇降装置(89)と、農作業部(82)に対して作溝器(95)を昇降させる第二の昇降装置(46)と、前記操向装置(34)の操向操作に連動して、まず作溝器(95)を昇降させる第二の昇降装置(46)が、作溝位置にある作溝器(95)の上昇を開始し、次いで農作業部(82)を昇降させる第一の昇降装置(89)が、作業位置にある農作業部(82)の上昇を開始する機能を有する制御装置(110)を備えた農作業機である。
【0006】
請求項2記載の発明は、前記制御装置(110)には走行車体(2)が操向過程にあることを判定する操向過程判定装置を備え、該操向過程判定装置が、走行車体(2)の旋回終了直前又は旋回終了を判断すると、前記制御装置(110)は、まず農作業部(82)の下降を開始し、次いで作溝器(95)の下降を開始する作動を行わせる制御機能を備えている請求項1記載の農作業機である。
【発明の効果】
【0007】
請求項1記載の発明によれば、圃場の作溝が不要なときには、作溝器95を早めに上昇させることで、作溝器95で圃場を荒らしたり、作物を傷めたりするようなことが無くなる。
【0008】
請求項2記載の発明によれば、 請求項1記載の発明の効果に加えて、非作業状態にある作溝器95を遅めに下降させることで、作溝器95で圃場を荒らしたり、作物を傷めたりするようなことが無くなる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施例の農作業機の側面図である。
【図2】図1の農作業機の播種装置を田植装置に代替した場合の側面図である。
【図3】図1の農作業機の播種装置部分の機体への取付部の側面図である。
【図4】図1の農作業機の播種装置へ作溝器(溝切り装置)を取り付けた場合の側面図である。
【図5】図1の農作業機の制御ブロック図である。
【図6】図1の農作業機の旋回時に作溝器(溝切り装置)と播種装置を圃場上に下降させる手順を示すフローチャートである。
【図7】図1の農作業機の変形例の作溝器(溝切り装置)部分の斜視図(図7(a)と図7(a)の矢視図(図7(b))である。
【図8】図1の農作業機の一実施例の播種装置の側面図である。
【図9】図1の農作業機の一実施例の播種装置の側面図である。
【図10】図1の農作業機の一実施例の播種装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面に基づいてこの発明の実施例を説明する。
本実施例の農作業機は乗用4輪駆動走行形態の機械であり、図1は、施肥装置付きの乗用型の農作業機の左側面図を示すものであり、この乗用型の農作業機は、走行車体2の後側に昇降リンク装置3を介して播種装置82が昇降可能に装着され、走行車体2の後部上側に施肥装置5の本体部分が設けられている。図2には播種装置82に代えて苗植付部4を昇降リンク装置3を介して走行車体2の後部に取り付けた農作業機全体の側面図を示し、図3には播種装置82の機体取付部の拡大側面図を示す。
なお、本明細書では、農作業機の前進方向に向って左右方向をそれぞれ左、右とし、前進方向を前、後進方向を後とする。
【0011】
走行車体2は、駆動輪である各左右一対の前輪10,10及び後輪11,11を備えた四輪駆動車両であって、機体の前部にミッションケース12が配置され、そのミッションケース12の左右側方に前輪ファイナルケース(図示せず)が設けられ、該前輪ファイナルケースの操向方向を変えることができる前輪支持部から外向きに突出する前輪車軸に前輪10,10が取り付けられている。また、ミッションケース12の背面部にメインフレーム15の前端部が固着されており、そのメインフレーム15の後端左右中央部に前後水平に設けた後輪ローリング軸(図示せず)を支点にして後輪ギヤケース18,18がローリング自在に支持され、その後輪ギヤケース18,18から外向きに突出する後輪車軸に後輪11,11が取り付けられている。
【0012】
原動機となるエンジン20はメインフレーム15の上に搭載されており、該エンジン20の回転動力が第一ベルト伝動装置21などを介して静油圧式変速装置(HST)とミッションケース12内のミッションに伝達される。ミッションケース12内のミッションに伝達された回転動力は、変速された後、走行動力と外部取出動力に分離して取り出される。そして、走行動力は、一部が前輪ファイナルケース(図示せず)に伝達されて前輪10,10を駆動すると共に、残りが後輪ギヤケース18,18に伝達されて後輪11,11を駆動する。また、外部取出動力は、カウンタ軸26を介して走行車体2の後部に設けた植付クラッチケース25に伝達され、図示しない施肥伝動機構によって施肥装置5へ伝動される。
【0013】
また、植付クラッチケース25内の植付クラッチからドライブシャフト28を介してエンジン動力が播種装置82の伝動ケース29内の直播用クラッチに伝達される。そして、これら苗植付クラッチと直播クラッチは共に一方向クラッチとしている。
【0014】
エンジン20の上部はエンジンカバー30で覆われており、その上に座席31が設置されている。座席31の前方には各種操作機構を内蔵するボンネット32があり、その上方に前輪10,10を操向操作するハンドル34が設けられている。エンジンカバー30及びボンネット32の下端左右両側は水平状のフロアステップ35になっている。
【0015】
昇降リンク装置3は平行リンク構成であって、1本の上リンク40と左右一対の下リンク41,41を備えている。これらリンク40,41,41は、その基部側がメインフレーム15の後端部に立設した背面視門形のリンクベースフレーム42に回動自在に取り付けられ、その先端側に縦リンク43が連結されている。そして、メインフレーム15に固着した支持部材(図示せず)と上リンク40に一体形成したスイングアーム45の先端部との間に播種装置用昇降油圧シリンダ46が設けられており、該シリンダ46を油圧で伸縮させることにより、上リンク40が上下に回動し、播種装置82がほぼ一定姿勢のまま昇降する。
【0016】
播種装置82の下部には複数のフロート55が設けられている。フロート55を圃場の泥面に接地させた状態で機体を進行させると、フロート55が泥面を整地しつつ滑走し、その整地跡に播種装置82より種子が播かれる。各フロート55は圃場表土面の凹凸に応じて前端側が上下動するように回動自在に取り付けられており、直播作業時にはフロート55の前部の上下動がフロート55に設けられたフロート迎い角センサ36(図5)により検出され、その検出結果に応じ、前記播種装置用昇降油圧シリンダ46を制御する油圧バルブを切り替えて播種装置82を昇降させることにより、種子の播種深さを常に一定に維持する。
【0017】
施肥装置5は、肥料貯留タンク(粉粒体貯留タンク)60に貯留されている肥料(粉粒体)を走行車体2の左右方向に複数設けられた肥料繰出部(粉粒体繰出部)61によって一定量づつ繰り出し、その肥料を図示しない施肥ホース(粉粒体移送ホース)でフロート55の左右両側に取り付けた施肥ガイド(図示せず)まで導き、施肥ガイドの前側に設けた播種用作溝器64によって播種条の側部近傍に形成される施肥溝内に吐出するようになっている。図示していないが、モータで駆動されるブロアで発生させた圧力風を左右方向に長いエアチャンバを経由して施肥ホース内に吹き込み、施肥ホース内の肥料を植付部側の肥料吐出口へ強制的に移送するようになっている。
【0018】
また、フロート55の前側には整地用の整地ロータ27を設けている。
図3に示すように、整地ロータ27は、縦リンク43に着脱自在に取り付け可能な着脱ヒッチ65に設けられるロータ昇降リンク66に支持されている。ロータ昇降リンク66は、着脱ヒッチ65の基部側面に取り付けた機体横方向に伸びるロータフレーム76に「く」字状部材67の中央部を回転自在に取り付け、該「く」字状部材67の上端部には上リンク68の一端を回動自在に接続し、「く」字状部材67の下端部には下リンク69の一端を回動自在に接続している。また上リンク68の中央部にはロータ昇降レバー81側のアーム70に連結するロッド71が接続され、また下リンク69の他端は鉛直方向を向いたロータ支持フレーム73の中間部に回動自在に連結している。
ロータ支持フレーム73の上端には短いアーム74の一端が回動自在に連結し、該短いアーム74の他端が上リンク68の一端に回動自在に連結している。
【0019】
ロータ支持フレーム73の下端には整地ロータ27の駆動軸(図示せず)が取り付けられ、該駆動軸は後輪伝動ケース18からの動力が伝動軸78(図1)を経由して伝達される。また、機体横幅のセンタにあるフロート55の前方に配置されるロータ27は機体両サイドにあるフロート55の前方にあるロータ27より前方に配置され、伝動部材を収納した伝動ケース56を介してロータ27の駆動系に連結している。
【0020】
上記構成からなる整地ロータ昇降機構では、ロータ昇降レバー81を引っ張ると、上リンク68と下リンク69の各一端が、「く」字状部材67の回動中心軸であるロータフレーム76を中心に回動し、ロータ支持フレーム73と共に整地ロータ27が上昇する。
【0021】
整地ロータ27の上下位置の調整はロータ昇降レバー81により上下動させることができる。なお、ローリング軸96に設けられる水平センサ81aは整地ロータ27及び播種装置82の左右傾斜角度を検出するもので、別途設けたローリング用モータ84(図5)により整地ロータ27及び播種装置82が左右ローリングする。
【0022】
播種装置82は、上部の種子タンク85から種子を繰り出す種子繰出部87、該種子繰出部87から繰出案内される種子を下方へ空気搬送により放出する放出筒90と播種口91等からなり、左右方向に延びるフレーム83により支持されている。種子繰出部87には図示しない繰出ローラが配置され、該繰出ローラを駆動するモータ89(図5参照)の作動により所定量の種子が順次圃場面に向けて繰り出される。
【0023】
種子は、ブロア86から放出筒90に供給される空気により圃場に植え付けられる。
本実施例の播種装置82を用いると、ブロア86から供給される空気が播種口91内で上方から下方に向けて鉛直方向を向き、しかも種子の播種深度を確保するための空気流で種子の流下速度を加速させた状態で土中に種子を打ち込むことができる。
【0024】
播種装置82の下方には、播種フレーム33(図1、図4参照)の下方に吊持され、土壌面に接地して滑走するフロート55を配置しており、また、フロート55の両側には一対の播種用作溝器64と該播種用作溝器64でできた圃場の溝を埋める一対の覆土板59が設けられているので、圃場の溝内に打ち込まれた種子の上を覆土板59により土で覆うことができる。
播種装置82は図3に示すローリング軸96により圃場面に合わせて機体左右方向にローリングできる。
播種装置82には図4に示す作溝器(溝切り装置)95を取り付けることができる。
作溝器(溝切り装置)95は図4(a)の側面図、図4(b)の前端部の斜視図に示す構成を有している。
すなわち、作溝器(溝切り装置)95は伝動ケース29(図1参照)に支持された横幅方向に伸びる播種フレーム33に端部を支持固定された基盤97上にロッド98の一端を回動可能に取り付け、該ロッド98の他端部側に底面側が鋭角状になった溝切り板99を固定して取り付けた構成である。
【0025】
該溝切り板99は図4(b)に示すように縦断面がM字状に折れ曲がった板であり、中央部底面側が鋭角状になっている。またM字状の溝切り板99の上面側の両方の傾斜面に端部がそれぞれ支持された板材100が配置され、該板材100の下面にロッド98の先端部が固定されている。
【0026】
また、基盤97の基部側は播種装置82の種子繰出部87に一端が支持固定される支持部材88の他端に支持固定されている。支持部材88の中間部には作溝器用油圧シリンダ89の基部が回動自在に支持されており、該油圧シリンダ89のピストンロッドの先端はロッド98に支持固定された突起アーム98aの先端に回動自在に支持されている。
【0027】
上記構成により作溝器用油圧シリンダ89のピストンロッドが伸びると溝切り板99が圃場面の作業位置に降り(図4(a)の実線位置)、油圧シリンダ89のピストンロッドが縮むと溝切り板99が非作業位置に上昇する(図4(a)の点線位置)。
【0028】
また、板材100の上面に端部が固定された一対のL字状折れ曲がりロッド101を設け、該一対のロッド101の先端部同士にアーム102を掛け渡している。溝切り板99が図4(a)の点線位置(上方に溝切り装置95を上げた位置)にある時、アーム102を播種装置82の適宜の部材に係止させておくと、溝切り装置95を上げたまま保持できる。なお、このとき作溝器用油圧シリンダ89を作動させたままにしておくと油圧シリンダ89内の油リークがあり得るので、該シリンダ89の作動を停止させても溝切り装置95を上げた状態に保てるのと、種子を種子タンクに補給する場合にも溝切り装置95を上げた状態に保てるのでアーム102により播種装置82の適宜の部材に係止させておくことが望ましい。
【0029】
上記構成からなる農作業機は、直進走行した後に、ハンドル14の操向操作して、まずハンドル切れ角が左右共に135度になったらハンドル操舵角度センサ109が作溝器(溝切り装置)95の上昇を開始し、その後ハンドル切れ角が180度になったら播種装置82の上昇を開始するように制御装置110による播種装置82の昇降制御をする。
【0030】
このように、旋回開始時に作溝器(溝切り装置)95を播種装置82より先に上昇させることで、作溝器(溝切り装置)95が圃場を荒らしたり、作物を傷めたりすることを防止できる。
【0031】
また、圃場を荒らしたり作物(直播の場合は作物は圃場に未だないが、栽培過程における除草機や薬剤散布機等による管理作業時等では作物を圃場に植えている)を傷めるおそれがあるのは作溝器(溝切り装置)95なので、作溝器95が対地浮上する行程を長くすることで、確実に上記不具合(圃場を荒らしたり、作物を傷めたりすること)を解消できる。更にいえば、作溝器(溝切り装置)95は農作業機の機体の最後端にあるので、旋回で左右に振り回されるので、できるだけ対地浮上する行程を長くしたほうが望ましい。
【0032】
次に、上記構成からなる農作業機では、本実施例の制御装置110は旋回内側の後輪11のドライブシャフト(伝動軸)(図示せず)の回転数の検出に基づいて、旋回時の播種装置82と作溝器(溝切り装置)95を自動的に作動させる旋回連動制御について説明する。
【0033】
すなわち、ステアリングハンドル34を切り、旋回内側の後輪11のサイドクラッチが切れた状態で、左右ドライブシャフトの回転数を検出し始め、旋回時の内側の後輪11の伝動軸回転数が設定値N1を超えると播種装置82を下降させる。その後、後輪11の伝動軸回転数が設定値N2に達すると播種装置82の作動を「入り」にし、後輪11の伝動軸回転数が設定値N3に達すると作溝器(溝切り装置)95を降下させる機構である。
【0034】
図6のフローチャートでこの手順を説明する。
ステアリングハンドル34の切り角度(操舵角度)θをステアリングハンドル34のシャフトに設けたハンドル操向角度センサ(ポテンショメータ)109で検出して直進時(θ1<θ<θ2)以外の時には左右のいずれの方向に旋回中であるかを検出する。
【0035】
まず、左右の後輪11,11の伝動軸の回転数を伝動軸回転数センサ205で検出し、また設定値N1(旋回開始から機体(走行車体2)の90°旋回までの旋回内側の後輪11のドライブシャフト(伝動軸)回転信号設定値)、N2(機体90°旋回から播種装置「入り」までの前記ドライブシャフト回転信号設定値)、N3(作溝器(溝切り装置)95を降下させる伝動軸回転信号設定値N3:N3>N1>N2)、θ1((直進操作時のハンドル切り設定角度の)下限値(左旋回と判断する角度))、θ2((直進操作時のハンドル切り設定角度の)上限値(右旋回と判断する角度))をセットする。
【0036】
次いで、圃場の硬軟や水深、耕盤深さ(圃場深さ)等の圃場条件の相違に対応するために、前記回転数N1、N2、N3及びハンドル切り角度θ1、θ2の各設定値を調節する設定ダイヤル206a〜208b(図5)により、補正値n0を設定する。
【0037】
次いで、ステアリングハンドル34の切り角度(操舵角度)θをステアリングハンドル34のシャフトに設けたハンドル操向角度センサ(ポテンショメータ)109で検出して直進時(θ1<θ<θ2)以外の時には左右のいずれの方向に旋回中であるかを検出する。
【0038】
左旋回中であると左後輪11の伝動軸の回転数を検出して旋回時の内側の後輪11の伝動軸回転数が設定値N1+n0を超えると播種装置用昇降油圧シリンダ46を作動させて播種装置82を下降させる。
【0039】
その後、後輪11の伝動軸回転数が設定値N2+n0となると、播種装置82の繰出ローラの駆動モータ89の作動により播種を開始し、その後旋回内側に後輪11の伝動軸回転数が設定値N3+n0になると、作溝器(溝切り装置)95を作動させる。
【0040】
前述したとおり、播種装置82による直播作業時にはフロート55の前部の上下動が図示しないフロート迎い角センサ36により検出され、その検出結果に応じ前記油圧シリンダ46を制御する油圧バルブを切り替えて播種装置82を昇降させることにより、種子の播種深さを常に一定に維持する。
【0041】
同様に作溝器(溝切り装置)95も上下動検出機構39によりフロート55が圃場への接地されていることを検知して初めて作溝器(溝切り装置)95が圃場面に溝を作り始めるように油圧シリンダ89を制御する。
こうして作溝器(溝切り装置)95が圃場面に食い込み過ぎないようにすることで作溝作業性が良くなる。
【0042】
作溝器(溝切り装置)95の一部の部材として溝切り板99を用いるが、図7の溝切り板99の先端部に示すように溝切り板99の先端部が平面視及び側面視で鋭角状になるように、他の部分より先端側に突出させる。図7に示す構成を採用することで作溝器(溝切り装置)95が必要以上に圃場面に食い込まないようにすることができる。
【0043】
図8に播種装置82の側面図を示すように、作溝器(溝切り装置)95による圃場面に溝を作るための溝切り板99を強く圃場面に向けて付勢する引張りスプリング77をロッド98に取り付けた構成とすることができる。なお、作溝器95を使用しない場合には前記スプリング77を基板97から外し、播種装置82側に設けたロッド75に係止させるようにする。
【0044】
こうして、作溝器95の自重により圃場面上に溝を作る場合に、作溝器95の重さを十分大きくするために材料選択に制限があったが、図8に示すようなスプリングを用いる構成にすると、安価な材料を使用しても、確実に圃場面に作溝できるようになる。
【0045】
図8に播種装置82の側面図を示すように、溝切り板99をロッド98の長手方向に縮小できる構成にしておくと、溝切り板99がロッド98の長手方向に沿って後方から前方に押され、溝切り板99の後端部がフロート55の後端部とほぼ同じ位置で若干フロート55の後端よりも後側に突出する位置にあるように設計する。こうして溝切り板99がフロート55のガードを兼ねることができる。
【0046】
図10に示すように作溝器95を非作業位置に上昇させたときに、該作溝器95の上に籾が入った籾袋M(又は肥料袋)などを載置できるような構成にすることで、籾(又は肥料)をタンク85に補給し易くなる。
【0047】
また、図2に示すように苗植付部4を支持枠体62に支持させて装着することができる。苗植付部4を設ける場合には播種装置82は取り外す。上記播種装置82の着脱ヒッチ65を縦リンク43から外して、図2に示す田植用の苗植付部4を取り付けると農作業機は田植機として利用出来る。
図2に示す本実施例の苗植付部4は6条植の構成で、フレームを兼ねる伝動ケース50などを備えている。また、苗載台51の図示しない苗取出口に供給された苗を圃場に植付ける苗植付具53を有する苗植付装置52、次行程における機体進路を表土面に線引きする左右一対の線引きマーカ(図示せず)等を備えている。
【0048】
苗植付部4の下部の中央部と左右両側にはフロート55が設けられることになるが、これらフロート55を圃場の泥面に接地させた状態で機体を進行させると、フロート55が泥面を整地しつつ滑走し、その整地跡に苗植付装置52により苗が植付けられる。各フロート55は圃場表土面の凹凸に応じて前端側が上下動するように回動自在に取り付けられており、植付作業時には中央のフロート55の前部の上下動が迎い角センサ(図示せず)により検出され、その検出結果に応じ前記播種装置用昇降油圧シリンダ46を制御する油圧バルブを切り替えて苗植付部4を昇降させることにより、苗の植付深さを常に一定に維持する。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は田植機をはじめとして各種の施肥用、直播用又は薬剤散布用の粉粒体の吐出機である播種装置を備えた作業機として利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0050】
2 走行車体 3 昇降リンク装置
4 苗植付部 5 施肥装置
10 前輪 11 後輪
12 ミッションケース 15 メインフレーム
18 後輪ギヤケース 20 エンジン
21 第一ベルト伝動装置 25 植付クラッチケース
26 カウンタ軸 27 整地ロータ
28 ドライブシャフト 29 伝動ケース
30 エンジンカバー 31 座席
32 ボンネット 33 フレーム
34 ハンドル 35 フロアステップ
36 フロート迎い角センサ 39 作溝器上下動センサ
40 上リンク 41 下リンク
42 リンクベースフレーム 43 縦リンク
45 スイングアーム 46 播種装置用昇降油圧シリンダ
50 伝動ケース 51 苗載台
52 苗植付装置 53 苗植付具
55 フロート 56 伝動ケース
59 覆土板 60 肥料貯留タンク
61 肥料繰出部 62 支持枠体
64 播種用作溝器 65 着脱ヒッチ
66 ロータ昇降リンク 67 「く」字状部材
68 上リンク 69 下リンク
70 アーム 71 ロッド
73 ロータ支持フレーム 74 短いアーム
76 ロータフレーム 77 引張りスプリング
78 伝動軸 81 ロータ昇降レバー
81a 水平センサ 82 播種装置
83 フレーム 84 ローリング用モータ
85 種子タンク 86 ブロア
87 種子繰出部 88 支持部材
89 作溝器用油圧シリンダ 90 播種装置繰出ロール駆動モータ
95 作溝器(溝切り装置) 96 ローリング軸
97 基盤 98 ロッド
98a ピン 99 溝切り板
100 板材 101 折れ曲がりロッド
102 アーム 109 ハンドル操向角度センサ
110 制御装置 205 後輪伝動軸回転数センサ
206a θ1の設定ダイヤル
206b θ2の設定ダイヤル
208a N1の設定ダイヤル
208b N2の設定ダイヤル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行車体(2)と、該走行車体(2)に連結した農作業部(82)と、農作業部(82)に連結し、圃場に落水用の溝を作る作溝器(95)と、走行車体(2)を操向する操向装置(34)を備えた農作業機において、
走行車体(2)に対して農作業部(82)を昇降させる第一の昇降装置(89)と、
農作業部(82)に対して作溝器(95)を昇降させる第二の昇降装置(46)と、
前記操向装置(34)の操向操作に連動して、まず作溝器(95)を昇降させる第二の昇降装置(46)が、作溝位置にある作溝器(95)の上昇を開始し、次いで農作業部(82)を昇降させる第一の昇降装置(89)が、作業位置にある農作業部(82)の上昇を開始する機能を有する制御装置(110)
を備えたことを特徴とする農作業機。
【請求項2】
前記制御装置(110)には走行車体(2)が操向過程にあることを判定する操向過程判定装置を備え、
該操向過程判定装置が、走行車体(2)の旋回終了直前又は旋回終了を判断すると、前記制御装置(110)は、まず農作業部(82)の下降を開始し、次いで作溝器(95)の下降を開始する作動を行わせる制御機能を備えていることを特徴とする請求項1記載の農作業機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−193773(P2010−193773A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−42029(P2009−42029)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】