酸化触媒の機能診断装置及び排気浄化装置
【課題】燃料噴射量を大幅に増加させることなく、酸化触媒の浄化効率を、連続的あるいは段階的に判定できるようにした酸化触媒の機能診断装置及び排気浄化装置を提供する。
【解決手段】酸化触媒が劣化していないと仮定して、所定期間に酸化触媒に吸蔵される正常時HC吸蔵量を推定し、正常時HC吸蔵量相当のHCを酸化するための必要酸素量を演算し、所定期間に実際に吸蔵されたHCを酸化するために消費された実酸素消費量を演算し、必要酸素量と実酸素消費量との比に基づいて酸化触媒の浄化効率を判定する。
【解決手段】酸化触媒が劣化していないと仮定して、所定期間に酸化触媒に吸蔵される正常時HC吸蔵量を推定し、正常時HC吸蔵量相当のHCを酸化するための必要酸素量を演算し、所定期間に実際に吸蔵されたHCを酸化するために消費された実酸素消費量を演算し、必要酸素量と実酸素消費量との比に基づいて酸化触媒の浄化効率を判定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気通路に設けられたHC吸蔵型の酸化触媒の機能診断をするための酸化触媒の機能診断装置及びそのような酸化触媒の機能診断装置を備えた排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両等に搭載される内燃機関の排気通路には、排気の浄化に用いられる酸化触媒が備えられている。この酸化触媒の一態様として、排気中のHC(未燃燃料)を触媒上で酸化(燃焼)して浄化するものがある。
【0003】
酸化触媒は、活性温度以上の状態でHCを効率的に酸化する一方、活性温度未満の所定温度(以下、「吸蔵上限温度」と称する。)以下の状態ではHCを吸蔵する特性を有している。酸化触媒によるHCの酸化効率や吸蔵量は、酸化触媒の劣化が進行するにつれて低下するため、酸化触媒の劣化が進行すると排気の浄化効率が低下することになる。そのため、酸化触媒の異常を検出する装置が種々提案されている。
【0004】
例えば、酸化触媒が異常であるかの判定時期が内燃機関の運転状態によって制限されることなく、異常判定が正確に行われる触媒異常検出装置が提案されている。具体的には、排気温度調整手段が、内燃機関を制御することにより、酸化触媒の上流側排気温度を、酸化触媒が正常であると活性化し異常であると活性化しない判定許可温度に調整し、上流側排気温度が判定許可温度になると、未燃燃料供給手段が未燃燃料を酸化触媒に供給し、判定手段が、酸化触媒の上流側排気温度に対する下流側排気温度の変化量を求めて、かかる変化量が判定値よりも小さい場合に酸化触媒が異常であると判定するように構成した触媒異常検出装置が開示されている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−203238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年、環境対策への関心が高まっていることに伴って排気浄化基準がより高められている。そのため、排気浄化装置の自己診断(On Board Diagnosis)の基準においても、より高精度に、かつ、より詳細に排気浄化装置の異常状態を把握することが求められ始めている。特に、酸化触媒の状態については、異常が生じているか否かだけでなく、浄化効率を詳細に把握することが求められ始めている。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された触媒異常検出装置では、酸化触媒の上流側排気温度に対する下流側排気温度の変化量が所定量以上か否かを判定するのみであって、酸化触媒が異常であるか否かをオンオフ的に判定することしかできない。特許文献1以外に従来提案されている種々の異常検出装置についても、酸化触媒が異常であるか否かをオンオフ的に判定するものであり、連続的あるいは段階的な浄化効率の判定を行うことができない。換言すれば、従来の酸化触媒の異常検出装置は、現在の酸化触媒の浄化効率がどの程度であるかを詳細に把握することができないものであるため、排気浄化装置の自己診断基準の要求を満足することができないおそれがある。
【0008】
また、特許文献1に記載された触媒異常検出装置は、酸化触媒の異常判定を実施する際に供給する未燃燃料の酸化による発熱反応を利用するものであり、比較的多量の未燃燃料を酸化触媒に供給する必要があるため、燃料噴射量を増大させる必要があるとともに、診断に長時間を費やすことができない。
【0009】
本発明の発明者らはこのような問題にかんがみて、酸化触媒でHCを酸化するために消費される酸素消費量を用いて浄化効率を判定することによりこのような問題を解決できることを見出し、本発明を完成させたものである。すなわち、本発明は、燃料噴射量を大幅に増やすことなく、酸化触媒の浄化効率を連続的あるいは段階的に判定できるようにした酸化触媒の機能診断装置及び排気浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、内燃機関の排気通路に設けられたHC吸蔵型の酸化触媒の浄化効率を診断するための酸化触媒の機能診断装置において、前記酸化触媒が劣化していないと仮定して、所定期間に前記酸化触媒に吸蔵される正常時HC吸蔵量を推定する正常時HC吸蔵量推定手段と、前記正常時HC吸蔵量相当のHCを酸化するための必要酸素量を演算する必要酸素量演算手段と、前記所定期間に実際に吸蔵されたHCを酸化するために消費された実酸素消費量を推定する実酸素消費量推定手段と、前記必要酸素量と前記実酸素消費量との比に基づいて前記酸化触媒の浄化効率を判定する判定手段と、を備えることを特徴とする酸化触媒の機能診断装置が提供され、上述した問題を解決することができる。
【0011】
すなわち、本発明の酸化触媒の機能診断装置は、酸化触媒が劣化していないと仮定した場合に酸化触媒の非活性状態において所定期間に吸蔵されると推定される正常時HC吸蔵量を酸化するための必要酸素量と、酸素濃度に基づいて求められる、所定期間に実際に吸蔵された実HC吸蔵量を酸化するために消費された実酸素消費量との比に基づいて、酸化触媒の浄化効率を判定するように構成されている。かかる構成の酸化触媒の機能診断装置によれば、多量の燃料噴射を伴うことなく酸化触媒の浄化効率を連続的にあるいは段階的に判定することができ、排気浄化装置の自己診断基準を満足させることを可能にすることができる。
【0012】
また、本発明の酸化触媒の機能診断装置において、前記所定期間を、前記内燃機関の冷間始動時から前記酸化触媒が吸蔵上限温度に到達するまでの期間とすることが好ましい。
【0013】
このように、冷間始動時に酸化触媒に吸蔵されるHCの量をもとにして得られる必要酸素量と実酸素消費量との比に基づいて酸化触媒の浄化効率を判定することにより、排気中のHCを強制的に増加させることなく酸化触媒の浄化効率を診断することを可能にすることができる。また、冷間始動時に浄化効率を診断することとすれば、内燃機関を運転するごとに少なくとも1回の診断を実行する機会を確保することができる。
【0014】
また、本発明の酸化触媒の機能診断装置において、前記正常時HC吸蔵量推定手段は、前記内燃機関の冷間始動時に前記酸化触媒が吸蔵上限温度に到達するまでの瞬時吸蔵量を積算することにより、前記正常時HC吸蔵量を推定することが好ましい。
【0015】
このように正常時HC吸蔵量を推定することとすれば、正常時HC吸蔵量を比較的正確に、かつ、容易に推定することを可能にすることができる。
【0016】
また、本発明の酸化触媒の機能診断装置において、前記正常時HC吸蔵量推定手段は、排気温度センサを用いて検出される前記酸化触媒よりも上流側の排気温度に応じて前記瞬時吸蔵量を求めることが好ましい。
【0017】
このように冷間始動時の酸化触媒の瞬時吸蔵量を求めることにより、瞬時吸蔵量が正確に推定され、ひいては、正常時HC吸蔵量を正確に推定することを可能にすることができる。
【0018】
また、本発明の酸化触媒の機能診断装置において、前記実酸素消費量推定手段は、前記内燃機関の燃料噴射量に基づいて求められる前記酸化触媒よりも上流側での酸素濃度と、前記酸化触媒よりも下流側での酸素濃度と、の差を積算することにより、前記実酸素消費量を演算することが好ましい。
【0019】
このように実酸素消費量を演算することにより、酸化触媒において現実に消費された実酸素消費量を比較的正確に算出することを可能にすることができる。
【0020】
また、本発明の酸化触媒の機能診断装置において、前記実酸素消費量推定手段は、前記上流側での酸素濃度と前記下流側での酸素濃度との差が所定の第1閾値以上になったときに前記積算を開始するとともに、前記酸素濃度の差が所定の第2閾値以下になったときに前記積算を終了することが好ましい。
【0021】
このように実酸素消費量を推定することにより、所定期間に吸蔵されたHCが酸化され始めたときから、当該酸化が終了するまでの期間に、当該HCの酸化に用いられた実酸素消費量の推定精度を高めることを可能にすることができる。
【0022】
また、本発明の別の態様は、内燃機関の排気通路に設けられたHC吸蔵型の酸化触媒の浄化効率を診断するための酸化触媒の機能診断装置において、所定期間に前記酸化触媒に流入するHC流入量を推定するHC流入量推定手段と、前記所定期間に前記酸化触媒で実際に消費された実酸素消費量を推定する実酸素消費量推定手段と、前記実酸素消費量に基づいて前記所定期間に前記酸化触媒で実際に酸化されたHC酸化量を推定するHC酸化量推定手段と、前記HC流入量と前記HC酸化量との比に基づいて前記酸化触媒の浄化効率を判定する判定手段と、を備えることを特徴とする酸化触媒の機能診断装置である。
【0023】
すなわち、本発明の別の態様にかかる酸化触媒の機能診断装置は、酸化触媒が劣化していないと仮定した場合に所定期間に酸化触媒に流入したHC流入量と、酸素濃度に基づいて求められる、所定期間に酸化触媒で実際に酸化されたHC酸化量との比に基づいて、酸化触媒の浄化効率を判定するように構成されている。かかる構成の酸化触媒の機能診断装置によれば、燃料消費量を大幅に増やすことなく酸化触媒の浄化効率を連続的にあるいは段階的に判定することができ、排気浄化装置の自己診断基準を満足させることを可能にすることができる。
【0024】
また、本発明のさらに別の態様は、上述したいずれかの酸化触媒の機能診断装置を備えた排気浄化装置である。
【0025】
すなわち、本発明の排気浄化装置によれば、燃料消費量を大幅に増やすことなく酸化触媒の浄化効率を連続的にあるいは段階的に判定可能な酸化触媒の機能診断装置を備えているために、排気浄化装置の自己診断基準に沿った適切な浄化効率を把握することができ、排気浄化効率を維持可能な排気浄化装置の提供を可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置が備えられた内燃機関の排気浄化装置の構成を概略的に説明するために示す図である。
【図2】第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置の構成を説明するために示す図である。
【図3】酸化触媒の温度とHC吸蔵量との関係について説明するために示す図である。
【図4】正常時HC吸蔵量の演算方法について説明するために示す図である。
【図5】実酸素消費量の演算方法を概念的に示す図である。
【図6】酸化触媒の温度とHC浄化率との関係について説明するために示す図である。
【図7】浄化効率の判定方法について説明するために示す図である。
【図8】酸化触媒の機能診断方法について説明するために示すタイミングチャート図である。
【図9】第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置によって実行される酸化触媒の機能診断方法を説明するために示すフローチャート図である。
【図10】正常時HC吸蔵量の演算方法の一例を説明するために示すフローチャート図である。
【図11】実酸素消費量の演算方法の一例を説明するために示すフローチャート図である。
【図12】第2の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置が備えられた内燃機関の排気浄化装置の構成を概略的に説明するために示す図である。
【図13】第2の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置の構成を説明するために示す図である。
【図14】第2の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置によって実行される酸化触媒の機能診断方法を説明するために示すフローチャート図である
【図15】HC流入量の演算方法の一例を説明するために示すフローチャート図である。
【図16】実酸素消費量の演算方法の一例を説明するために示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明にかかる酸化触媒の機能診断装置及び排気浄化装置に関する実施の形態について、図面に基づいて具体的に説明する。
なお、それぞれの図中において同じ符号が付されているものは、特に説明がない限り同一の構成要素を示しており、適宜説明が省略されている。
【0028】
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置及び排気浄化装置は、内燃機関の冷間始動時に酸化触媒にHCが吸蔵されることを利用して、酸化触媒の浄化効率を判定するように構成されたものである。
【0029】
図1は、第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置が備えられた内燃機関の排気浄化装置の構成を概略的に説明するために示す図である。図2は、第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置の構成を説明するために示す図である。図3は、酸化触媒の温度とHC吸蔵量との関係について説明するために示す図である。図4は、正常時HC吸蔵量の演算方法について説明するために示す図である。図5は、実酸素消費量の演算方法を概念的に示す図である。図6は、酸化触媒の温度とHC浄化率との関係について説明するために示す図である。図7は、浄化効率の判定方法について説明するために示す図である。図8は、酸化触媒の機能診断方法について説明するために示すタイミングチャート図である。図9〜図11は、第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置によって実行される酸化触媒の機能診断方法を説明するために示すフローチャート図である。
【0030】
1.排気浄化装置の全体的構成
図1において、内燃機関1は、代表的にはディーゼルエンジンであって、複数の燃料噴射弁5を備えるとともに、排気を流通させる排気管3が接続されている。燃料噴射弁5は電子制御装置30によって通電制御されるものであり、電子制御装置30は、機関回転数Neやアクセル操作量Acc、その他の情報に基づいて目標燃料噴射量Qを演算するとともに、算出された目標燃料噴射量Qに基づいて燃料噴射弁5の通電時期及び通電時間を決定し、燃料噴射弁5の通電制御を実行するようになっている。
【0031】
内燃機関1に接続された排気管3には排気浄化装置10が設けられている。排気浄化装置10は、排気管3の上流側から順に備えられた酸化触媒11とパティキュレートフィルタ12とNOX浄化触媒13とを有している。また、酸化触媒11の上流側には第1の排気温度センサ17が設けられ、酸化触媒11とパティキュレートフィルタ12との間には下流側酸素濃度センサ18が設けられ、パティキュレートフィルタ12とNOX浄化触媒13との間には第2の排気温度センサ15が設けられている。第1の実施の形態にかかる排気浄化装置10においては、下流側酸素濃度センサ18としてラムダセンサを用いているが、特に限定されるものではない。これらのセンサのセンサ信号は電子制御装置30に入力されるようになっている。
【0032】
酸化触媒11は、活性状態においては排気中に含まれるCOやHCを酸化(燃焼)する機能を有するとともに、非活性状態においては排気中に含まれるHCを吸蔵する機能を有している。この酸化触媒11は、排気を浄化するだけでなく、パティキュレートフィルタ12の再生制御時において、HCの酸化に伴って発生する酸化熱によって排気温度を上昇させることにも用いられる。使用することができる酸化触媒11は、公知のディーゼル酸化触媒であれば得に限定されるものではない。
【0033】
パティキュレートフィルタ12は、内燃機関1から排出される排気中に含まれる煤等の微粒子(以下、「PM(Particulate Material)」と称する。)を捕集する機能を有するフィルタである。パティキュレートフィルタ12は、代表的にはハニカム構造を有するフィルタが用いられるが、このようなフィルタに限定されるものではない。
【0034】
NOX浄化触媒13は、排気中に含まれる窒素酸化物を分解する機能を有する触媒である。NOX浄化触媒13としては、主にNOX選択還元触媒又はNOX吸蔵触媒などが用いられる。図1に示す排気浄化装置10に備えられたNOX浄化触媒13は、ポンプ23及び還元剤噴射弁25を有する還元剤供給装置20から供給される還元剤を用いて窒素酸化物を選択的に還元するNOX選択還元触媒である。還元剤としては、尿素水溶液や未燃燃料が用いられるが、これ以外の還元剤を用いることもできる。
【0035】
第2の排気温度センサ15は直接的には排気温度T2を検出するものであるが、検出された排気温度T2は、NOX浄化触媒13の温度Tscrの推定などにも用いられるようになっている。また、推定されるNOX浄化触媒13の温度Tscrは、例えば、還元剤供給装置20による還元剤噴射制御に用いられる。具体的には、NOX浄化触媒13における還元剤成分等の最大吸着量は触媒温度Tscrに応じて変化するとともに、最大吸着量に対する現在の吸着量に応じて窒素酸化物の浄化効率も変化する。そのため、還元剤供給装置20は、第2の排気温度センサ15によって検出される排気温度T2から推定される触媒温度Tscrに基づいて、還元剤の噴射の可否や噴射量を制御するように構成されている。
【0036】
第1の排気温度センサ17は、直接的には酸化触媒11よりも上流側の排気温度T1を検出するものであるが、検出される排気温度T1は、酸化触媒11の温度Tdocの推定にも用いられるようになっている。また、下流側酸素濃度センサ18は、酸化触媒11よりも下流側の酸素濃度O2_Dを検出するために用いられる。具体的に、第1の実施の形態にかかる排気浄化装置10においては、下流側酸素濃度センサ18によってラムダ値が検出されるため、電子制御装置30では、ラムダ値を基にして下流側酸素濃度O2_Dを求めるようになっている。求められる酸素濃度O2_Dは、燃料噴射システムの状態のモニタリングや、内燃機関1の噴射系の異常の有無の診断等に用いられる。
【0037】
第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置においては、第1の排気温度センサ17及び下流側酸素濃度センサ18を用いて、酸化触媒11の浄化効率ηの判定を行うようになっている。
【0038】
2.電子制御装置(機能診断装置)
(1)装置の構成
図2は、排気浄化装置10に備えられた電子制御装置30の構成のうち、燃料噴射制御、及び、酸化触媒11の機能診断に関連する部分を機能的なブロックで表したものである。この電子制御装置30が酸化触媒の機能診断装置としての機能を有している。
【0039】
電子制御装置30は、公知のマイクロコンピュータを中心に構成されたものであり、目標燃料噴射量演算手段31と、燃料噴射弁制御手段33と、正常時HC吸蔵量推定手段37と、必要酸素量演算手段39と、実酸素消費量推定手段41と、判定手段43とを備えている。具体的に、これらの各手段は、マイクロコンピュータによるプログラムの実行によって実現されるものとなっている。
【0040】
また、電子制御装置30には、RAMやROM等の記憶素子からなる図示しない記憶手段、及び、燃料噴射弁5への通電を行うための燃料噴射弁駆動回路35が備えられている。記憶手段には、制御プログラム及び種々の演算マップがあらかじめ記憶されるとともに、上記した各手段による演算結果等が書き込まれるようになっている。
【0041】
目標燃料噴射量演算手段31は、例えば、機関回転数Neの情報S1やアクセル操作量Accの情報S2から燃料噴射量マップに基づいて目標燃料噴射量Qを演算する。具体的な演算方法は限定されるものではなく、従来公知の演算方法を採用することができる。また、燃料噴射弁制御手段33は、目標燃料噴射量Q、その他の内燃機関1の運転条件に基づいて、燃料噴射弁5への通電時期及び通電時間を決定し、燃料噴射弁駆動回路35に出力する指示信号を生成する。
【0042】
正常時HC吸蔵量推定手段37は、内燃機関1の冷間始動時において、酸化触媒11が劣化していないと仮定して、酸化触媒11の温度Tdocが吸蔵上限温度Tdoc_Aに到達するまでの期間に酸化触媒11に吸蔵されると考えられる正常時HC吸蔵量Vhc_0を推定する。第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置の正常時HC吸蔵量推定手段37は、エンジンスタートフラグの情報S3、内燃機関1の冷却水の温度Tclの情報S4、及び触媒温度Tdocの情報S5に基づき、エンジンスタートフラグがOnであり、冷却水の温度Tclが所定の閾値Tcl0以下であり、かつ、触媒温度Tdocが吸蔵上限温度Tdoc_A未満のときにHC吸蔵量の積算を継続する。これらの条件は、内燃機関1が冷間始動の状態にあるか否かを判別するための条件であって、冷却水の温度Tclの閾値Tcl0は、シミュレーション等によって求められる最適な値とすることができる。
【0043】
一方、正常時HC吸蔵量推定手段37は、触媒温度Tdocが吸蔵上限温度Tdoc_Aに到達したときにHC吸蔵量の積算を終了して、そのときの積算値を正常時HC吸蔵量Vhc_0として記憶するように構成されている。
【0044】
具体的に、酸化触媒11は、吸蔵上限温度Tdoc_A未満の状態においてHCを吸蔵する特性を有するとともに、ある時点における瞬時吸蔵量は、図3(a)に示すように、触媒温度Tdocが上昇するにつれて減少する特性を有している。酸化触媒11の劣化状態にかかわらず吸蔵上限温度Tdoc_Aは150℃弱でほぼ一定であるために、内燃機関1を停止した後、比較的短時間の間に再始動するような場合を除き、冷間始動時における触媒温度Tdocは吸蔵上限温度Tdoc_A未満となっている。また、内燃機関1の冷間始動時においては、内燃機関1の温度が低いために燃料燃焼効率が低く、排気中に含まれるHC量が比較的多い状態となっており、始動後のしばらくの間、酸化触媒11にHCが吸蔵されることになる。
【0045】
通常、排気中のHC量が増加する冷間始動時のおいては、HC量が酸化触媒11のHC吸蔵量よりも大きい値となるため、吸蔵されるHCの総量は、酸化触媒11のHC吸蔵量を積分することによって推定することができる。例えば、図3(b)に示すように、触媒温度TdocがT1のときに内燃機関1が始動されたとすると、触媒温度Tdocが吸蔵上限温度Tdoc_Aに到達するまでのHC吸蔵量を積分した斜線の領域が正常時HC吸蔵量Vhc_0を表すことになる。
【0046】
図4は、正常時HC吸蔵量Vhc_0の演算ロジックの一例を示している。この例では、正常時HC吸蔵量推定手段37は、第1の排気温度センサ17を用いて推定される触媒温度Tdocに基づいて単位時間当たりのHC吸蔵量を求め、このHC吸蔵量に酸化触媒11の容量をかけることにより酸化触媒11全体での単位時間当たりのHC吸蔵量を求める。そこで得られた単位時間当たりのHC吸蔵量を演算周期tで割ることで演算周期tごとのHC吸蔵量を求めて、これを積算することによって正常時HC吸蔵量を求めるようになっている。
【0047】
必要酸素量演算手段39は、正常時HC吸蔵量推定手段37で推定された正常時HC吸蔵量Vhc_0分のHCを酸化するための必要酸素量Vo2_0を演算により求める。例えば、内燃機関1がディーゼルエンジンの場合には、理論空燃比が14.5であるため、内燃機関1への吸入空気量Aは、A=14.5×燃料噴射量(Q)となる。したがって、空気中の酸素質量濃度をαとすると、正常時HC吸蔵量Vhc_0分のHCを酸化するための必要酸素量Vo2_0は以下の式(1)を用いて算出することができる。
【0048】
Vo2_0=α×14.5×Vhc_0 …(1)
Vo2_0:必要酸素量(g)
α:空気中の酸素質量濃度(%)
Vhc_0:正常時HC吸蔵量(g)
【0049】
実酸素消費量推定手段41は、冷間始動時において、触媒温度Tdocが吸蔵上限温度Tdoc_Aに到達するまでに酸化触媒11が実際に吸蔵したHCを酸化するために消費された実酸素消費量Vo2_actを推定する。第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置の実酸素消費量推定手段41は、目標燃料噴射量Qに基づいて推定される酸化触媒11よりも上流側の酸素濃度O2_0から、下流側酸素濃度センサ18からのセンサ信号S6に基づいて求められる下流側の酸素濃度O2_Dを減算し、得られる値ΔO2を積算することによって実酸素消費量Vo2_actを演算するように構成されている。
【0050】
目標燃料噴射量Qに基づいて求められる上流側の酸素濃度O2_0は、酸化触媒11中で酸素が消費されなかった場合における下流側の酸素濃度とみなすことができるため、下流側酸素濃度センサ18に基づいて求められる下流側の酸素濃度O2_Dとの差分ΔO2が、酸化触媒11で実際に消費された酸素量とみなすことができる。したがって、図5に示すように、上流側の酸素濃度O2_0と下流側の酸素濃度O2_Dとの差分ΔO2を積分した斜線の領域が、酸化触媒11で消費された実酸素消費量Vo2_actを表すことになる。
【0051】
また、第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置の実酸素消費量推定手段41は、酸化触媒11が吸蔵上限温度Tdoc_Aに到達した後、酸素濃度の差分ΔO2が第1の閾値ΔO2_thre1に到達したときに積算を開始するとともに、その後、差分ΔO2が第2の閾値ΔO2_thre2以下になったときに積算を終了するように構成されている。ただし、触媒温度Tdocが吸蔵上限温度Tdoc_Aに到達してから所定時間以上経過しても酸素濃度の差分ΔO2が第1の閾値ΔO2_thre1に到達しない場合には、実酸素消費量推定手段41による実酸素消費量Vo2_actの演算は中断される。
【0052】
判定手段43は、必要酸素量Vo2_0に対する実酸素消費量Vo2_actの比に基づいて酸化触媒11の浄化効率ηを判定する。すなわち、必要酸素量Vo2_0と実酸素消費量Vo2_actとの差は、正常時HC吸蔵量Vhc_0と酸化触媒11に実際に吸蔵されていた実HC吸蔵量Vhc_actとの差に比例することから、必要酸素量Vo2_0に対する実酸素消費量Vo2_actの比によって、そのときの酸化触媒11の浄化効率ηを連続的に把握することができる。
【0053】
図6は、HC吸蔵型の酸化触媒11の排気エミッション(主としてCO,HC)の浄化率の特性を示す図である。触媒温度Tdocが吸蔵上限温度Tdoc_Aよりも低い状態においては、排気中のHCが酸化触媒11に吸蔵され、HC濃度が低減される。一方、触媒温度Tdocが上昇して吸蔵上限温度Tdoc_Aを超えると、酸化触媒11に吸蔵されていたHCや排気中のCO,HCが酸化され始める。特に、触媒温度Tdocが活性温度Tdoc_LO以上になると、COやHCの酸化効率が著しく高くなる。このとき、吸蔵されていたHCが酸化されるときに大量の酸素が消費される。
【0054】
また、図6に示すように、酸化触媒11の浄化率は、酸化触媒11の劣化状態に応じて変化する。すなわち、触媒温度Tdocが吸蔵上限温度Tdoc_A以下の領域において、劣化が進行している酸化触媒11の浄化率(破線)は、正常状態の酸化触媒11の浄化率(実線)に比べて低くなる。そこで、第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置では、酸化触媒11で消費される実酸素消費量Vo2_actを、下流側酸素濃度センサ18を用いて推定し、酸化触媒11が正常な状態での酸素消費量モデル(必要酸素量Vo2_0)と比較することで、触媒温度Tdocが吸蔵上限温度Tdoc_Aに到達するまでの期間におけるHC吸蔵量の減少度合いを推定し、酸化触媒11の浄化効率ηを判定する。
【0055】
酸化触媒11が劣化していない場合には、正常時HC吸蔵量Vhc_0は、内燃機関1の冷間始動時に触媒温度Tdocが吸蔵上限温度Tdoc_Aに到達するまでの間に酸化触媒11に吸蔵されるHC量Vhc_actに相当するため、実酸素消費量Vo2_actの値は必要酸素量Vo2_0に近似する値を示すことになる。
【0056】
一方、酸化触媒11が劣化している場合には、内燃機関1の冷間始動時に触媒温度Tdocが吸蔵上限温度Tdoc_Aに到達するまでの間に酸化触媒11に吸蔵されるHC量Vhc_actは、正常時HC吸蔵量Vhc_0よりも少なくなる。そのため、消費される実酸素消費量Vo2_actの値は必要酸素量Vo2_0よりも小さくなる。このことを利用して、必要酸素量Vo2_0に対する実酸素消費量Vo2_actの比によって、そのときの酸化触媒11の浄化効率ηを判定することができる。
【0057】
ただし、演算によって求められる浄化効率ηは、診断時における種々の外乱の影響を受けて誤差を生じるおそれがあり、浄化効率ηを連続的に判定することは困難な場合が多い。そこで、第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置においては、図7に示すように、浄化効率ηを判定閾値Thre1〜Thre3によって複数の段階に分けることによって浄化効率ηの判定を段階的に行うように構成されている。
【0058】
(2)フローチャート
次に、第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置としての電子制御装置30によって実行される酸化触媒11の機能診断方法を、図8のタイミングチャート図及び図9〜図11のフローチャート図に沿って説明する。以下に説明する機能診断方法のルーチンは、内燃機関1の始動時において、常時、又は所定の回数ごとに割り込むことによって実行されるようになっている。
【0059】
まず、図9のステップS1において、電子制御装置30が機関回転数Neなどに基づいて内燃機関1の始動を検出するとエンジンスタートフラグをOnにする(図8のt1の時点)。次いで、ステップS2において、電子制御装置30は、酸化触媒11が正常であると仮定して、触媒温度Tdocが吸蔵上限温度Tdoc_Aに到達するまでに酸化触媒11に吸蔵されると想定される正常時HC吸蔵量Vhc_0を推定する(図8のt1〜t2の期間)。
【0060】
図10のフローチャート図は、正常時HC吸蔵量Vhc_0を推定するための演算方法の一例を示している。この例では、まず、ステップS11において、電子制御装置30はエンジンスタートフラグがOnであり、かつ、内燃機関1の冷却水の温度Tclが閾値Tcl0以下であるか否かを判別する。これらの条件を満たしていなければ(Noの場合)、内燃機関1が冷間始動状態にはなく、排気中のHC量が少ない状態であるために、電子制御装置30は、ステップS17に進んでHC吸蔵量の積算値をリセットして診断を中止する。
【0061】
一方、ステップS11で条件成立と判定された場合(Yesの場合)には、電子制御装置30は、ステップS12に進んで触媒温度Tdocが吸蔵上限温度Tdoc_A以上となっているか否かを判別する。触媒温度Tdocが吸蔵上限温度Tdoc_A未満であれば(Noの場合)、酸化触媒11にHCが吸蔵される状態にあるため、電子制御装置30は、ステップS15に進み、触媒温度Tdocに基づいて、今回の演算周期tでのHC吸蔵量を求めた後、ステップS16においてHC吸蔵量の積算を行う。HC吸蔵量の積算は、記憶されている積算値に対して、今回の演算周期tにおけるHC吸蔵量を加算することによって行われる。HC吸蔵量の積算後は、再びステップS11に戻ってこれまでのステップを繰り返し行う。
【0062】
一方、ステップS12において、触媒温度Tdocが吸蔵上限温度Tdoc_Aに到達している場合(Yesの場合)、電子制御装置30は、ステップS13に進み記憶されている積算値が所定の閾値Vhc_thre1以上であるか否かを判別する。積算値が閾値Vhc_thre1未満の場合(Noの場合)には、精度よく診断を行えるだけのHC量が排出されていないと考えられるため、この場合においてもステップS17で積算値をリセットして診断を中止する。
【0063】
ステップS13において、積算値が閾値Vhc_thre1以上である場合(Yesの場合)には、電子制御装置30は、ステップS14に進み積算値を正常時HC吸蔵量Vhc_0に設定して正常時HC吸蔵量Vhc_0の演算を終了する。
【0064】
図9に戻り、触媒温度Tdocが吸蔵上限温度Tdoc_Aに到達するまでに酸化触媒11に吸蔵される正常時HC吸蔵量Vhc_0の演算が終了すると、電子制御装置30は、ステップS3において、正常時HC吸蔵量Vhc_0を酸化させるために必要な必要酸素量Vo2_0を、上述の式(1)に基づき演算により求める。
【0065】
次いで、ステップS4において、電子制御装置30は実際に酸化触媒11に吸蔵されたHCを酸化させるために消費される実酸素消費量Vo2_actを演算により求める(図8のt3〜t4の期間)。
【0066】
図11のフローチャート図は、実酸素消費量Vo2_actを求めるための演算方法の一例を示している。この例では、電子制御装置30は、まずステップS21において目標燃料噴射量Qを読み込んだ後、ステップS22において、ステップS21で読み込んだ目標燃料噴射量Qに基づいて、酸化触媒11よりも上流側の酸素濃度O2_0を求める。次いで、電子制御装置30は、ステップS23において、下流側酸素濃度センサ18のセンサ値に基づいて酸化触媒11よりも下流側の酸素濃度O2_Dを求める。
【0067】
次いで、電子制御装置30は、ステップS24において、積算開始フラグがOnになっているか否かを判別する。積算開始フラグがOnになっていなければ(Noの場合)、ステップS28に進み、電子制御装置30は上流側の酸素濃度O2_0から下流側の酸素濃度O2_Dを減算した差分ΔO2が、第1の閾値ΔO2_thre1以上であるか否かを判別する。酸素濃度の差分ΔO2が第1の閾値ΔO2_thre1以上の場合には(Yesの場合)、酸化触媒11において酸素が消費され始めたと推定され、電子制御装置30はステップS29において積算開始フラグをOnにした後、ステップS30において酸素濃度の差分ΔO2を時間積算してステップS21に戻る。
【0068】
一方、ステップS28において、酸素濃度の差分ΔO2が第1の閾値ΔO2_thre1未満の場合には(Noの場合)、電子制御装置30はステップS31においてカウンタ値を+1にした上で、ステップS32においてカウンタ値が閾値C0以上になったか否かを判別する。カウンタ値が閾値C0未満の場合には(Noの場合)そのままステップS21に戻る。一方、カウンタ値が閾値C0に到達した場合には(Yesの場合)、触媒温度Tdocが吸蔵上限温度Tdoc_Aに到達した後、所定の時間が経過しても酸素の消費が見られず、診断結果の信頼性が低いために、診断を中止する。
【0069】
また、上述のステップS24において積算開始フラグがすでにOnになっている場合には(Yesの場合)、電子制御装置30はステップS25に進み酸素濃度の差分ΔO2が第2の閾値ΔO2_thre2以下であるか否かを判別する。酸素濃度の差分ΔO2が第2の閾値ΔO2_thre2を超える場合には(Noの場合)、酸化触媒11中で酸素が消費されている状態であることから、電子制御装置30はステップS33に進み酸素濃度の差分ΔO2である酸素消費量を積算して記憶し、ステップS21に戻る。
【0070】
一方、酸素濃度の差分ΔO2が第2の閾値ΔO2_thre2未満の場合には(Yesの場合)、酸化触媒11における酸素の消費が終了したと推定されるため、電子制御装置30はステップS26において積算開始フラグをOffにした後、ステップS27において、記憶されている積算値を実酸素消費量Vo2_actに設定して、実酸素消費量Vo2_actの推定を終了する。
【0071】
図9に戻り、ステップS4において実酸素消費量Vo2_actの演算が終了すると(図8のt4の時点)、電子制御装置30は、ステップS5において、ステップS3で求めた必要酸素量Vo2_0とステップS4で求めた実酸素消費量Vo2_actとを用いて、酸化触媒11の浄化効率ηを判定する。第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置においては、必要酸素量Vo2_0に対する実酸素消費量Vo2_actの比を、判定閾値Thre1〜Thre3と比較して、浄化効率ηを4つの領域に当てはめて段階的に浄化効率ηが判定される。
【0072】
以上説明したように、第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置及び排気浄化装置は、内燃機関1の冷間始動時において、酸化触媒11が劣化していないと仮定した場合に触媒温度Tdocが吸蔵上限温度Tdoc_Aに到達するまでの期間に吸蔵されると推定される正常時HC吸蔵量Vhc_0を酸化するための必要酸素量Vo2_0と、同期間に実際に酸化触媒11に吸蔵された実HC吸蔵量Vo2_actを酸化するために消費された実酸素消費量Vo2_actとの比に基づいて、酸化触媒11の浄化効率ηを判定するように構成されている。したがって、酸化触媒11の浄化効率ηを連続的にあるいは段階的に判定することができるようになって、排気浄化装置の自己診断基準を満足させることを可能にすることができる。
【0073】
また、第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置及び排気浄化装置によれば、従来の排気浄化装置の構成を大きく変更することなく、また、敢えて燃料噴射制御を変更する等して診断モードを形成することなく、酸化触媒11の浄化効率ηを判定することができる。
【0074】
また、第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置及び排気浄化装置によれば、内燃機関1の冷間始動時における、触媒温度Tdocが吸蔵上限温度Tdoc_Aに到達するまでの期間における正常時HC吸蔵量Vhc_0を酸化するための必要酸素量Vo2_0と、実際に吸蔵された実HC吸蔵量Vo2_actを酸化するために消費された実酸素消費量Vo2_actとの比に基づいて、酸化触媒11の浄化効率ηを判定するようにしている。そのため、燃料噴射量を増加させるなどして排気中のHCを強制的に増加させることなく酸化触媒11の浄化効率を判定することを可能にすることができる。また、内燃機関1の冷間始動時における必要酸素量Vo2_0と実酸素消費量Vo2_actとを用いて酸化触媒11の機能診断を行うこととしているため、内燃機関1を運転するごとに少なくとも1回の診断を実行する機会を確保することができる。
【0075】
また、第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置及び排気浄化装置によれば、内燃機関1の始動時における正常時HC吸蔵量Vhc_0を推定するにあたり、酸化触媒11が吸蔵上限温度Tdoc_Aに到達するまでのHC吸蔵量を積算するようにしているため、正常時HC吸蔵量Vhc_0を比較的正確に、かつ、容易に推定することが可能になっている。
【0076】
また、第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置及び排気浄化装置によれば、内燃機関の燃料噴射量に基づいて求められる酸化触媒11よりも上流側での酸素濃度O2_0と、下流側酸素濃度センサ18を用いて求められる酸化触媒11よりも下流側での酸素濃度O2_Dとの差を積算して実酸素消費量O2_Dを算出するようにしているために、酸化触媒11において現実に消費された実酸素消費量Vo2_actを比較的正確に算出することが可能になっている。
【0077】
また、第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置及び排気浄化装置によれば、実酸素消費量Vo2_actを算出するにあたり、酸素濃度の差ΔO2が所定の第1の閾値ΔO2_thre1以上になったときに積算を開始するとともに、所定の第2の閾値ΔO2_thre2以下になったときに積算を終了することにより、酸化触媒11に吸蔵されたHCが酸化され始めたときから、当該酸化が終了するまでの間に消費された酸素量を精度よく算出することが可能になっている。
【0078】
[第2の実施の形態]
本発明の第2の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置は、診断の基本的原理が第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置の場合と同様に酸素消費量を用いるものであるものの、酸化触媒の浄化効率ηの判定を、内燃機関の冷間始動時ではなく、通常のドライビングサイクル内で実行する点で、第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置とは異なっている。以下、第2の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置及び排気浄化装置について、第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置及び排気浄化装置と異なる点を中心に説明する。
【0079】
図12は、第2の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置が備えられた内燃機関の排気浄化装置10Aの構成を概略的に説明するために示す図である。図13は、第2の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置の構成を説明するために示す図である。図14〜図16は、第2の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置によって実行される酸化触媒の機能診断方法を説明するために示すフローチャート図である。
【0080】
1.排気浄化装置の全体的構成
第2の実施の形態にかかる内燃機関の排気浄化装置10Aは、酸化触媒11よりも上流側に上流側酸素濃度センサ19が設けられている点と、電子制御装置50による酸化触媒の具体的な機能診断方法とにおいて、第1の実施の形態にかかる内燃機関の排気浄化装置10の構成とは異なっている。
【0081】
第2の実施の形態にかかる排気浄化装置10Aにおいて、上流側酸素濃度センサ19は、下流側酸素濃度センサ18と同様にラムダセンサが用いられており、電子制御装置50は、上流側酸素濃度センサ19のセンサ値に基づいて酸化触媒11よりも上流側の酸素濃度O2_Uを算出する。第2の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置においては、第1の排気温度センサ17及び下流側酸素濃度センサ18と併せて、上流側酸素濃度センサ19を用いて、酸化触媒11の浄化効率ηの判定を行うようになっている。
【0082】
2.電子制御装置(機能診断装置)
(1)装置の構成
図13は、電子制御装置50の構成のうち、燃料噴射制御、及び、酸化触媒11の機能診断に関連する部分を機能的なブロックで表したものであって、第1の実施の形態にかかる電子制御装置と同様に、公知のマイクロコンピュータを中心に構成されている。この電子制御装置50が、酸化触媒の機能診断装置としての機能を有している。
【0083】
電子制御装置50は、目標燃料噴射量演算手段51と、燃料噴射弁制御手段53と、HC流入量推定手段57と、実酸素消費量推定手段59と、HC酸化量演算手段61と、判定手段63とを備えるとともに、燃料噴射弁5への通電を行うための燃料噴射弁駆動回路55を備えている。
【0084】
目標燃料噴射量演算手段51及び燃料噴射弁制御手段53は、基本的に、第1の実施の形態にかかる電子制御装置の場合と同様に構成することができる。ただし、第2の実施の形態にかかる電子制御装置50は、メイン噴射に遅れて行われる補助噴射であって、排気中のHC量を増加させるための補助噴射を実行可能になっている。この補助噴射は、いわゆるポスト噴射であり、主として、パティキュレートフィルタ12に捕集されたPMを燃焼してパティキュレートフィルタ12を再生させる際に実行されるようになっている。
【0085】
このため、目標燃料噴射量演算手段51は、パティキュレートフィルタ12の再生の実行指示が生成されたときには、パイロット噴射やメイン噴射等の燃焼させるための燃料噴射量Vinj_cmbと併せて補助噴射量Vinj_HCを演算する。また、燃料噴射弁制御手段53は、パイロット噴射やメイン噴射と併せて補助噴射が行われるよう、燃料噴射弁駆動回路55に出力する指示信号を生成する。
【0086】
パティキュレートフィルタ12の再生の実行指示は、例えば、パティキュレートフィルタ12よりも上流側の圧力と下流側の圧力との差が所定の閾値に到達したときや、積算されるPMの捕集量が所定の閾値に到達したときに生成される。
【0087】
HC流入量推定手段57は、燃料噴射弁5による補助噴射が実行されている期間において酸化触媒11に流入するHC流入量Vhc_inを推定する。このHC流入量Vhc_inは、内燃機関1に噴射された全燃料のうちの未燃焼分である。第2の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置のHC流入量推定手段57は、補助噴射が開始された時点から終了する時点までの期間において、未燃焼分のHC量を積算することによってHC流入量Vhc_inを推定するように構成されている。
【0088】
具体的に、内燃機関1に噴射されたHC総量Vhc_totと、そのうちの完全燃焼分のHC量Vhc_cmbと、未燃焼分のHC量Vhc_ncとの関係は、以下の式(2)で表すことができる。
Vinj_tot=Vinj_cmb+Vinj_nc …(2)
【0089】
ここで、上流側酸素濃度センサ19がラムダセンサである場合、ラムダセンサのセンサ値λuは、理論空燃比に対する実際の空燃比の比となる。例えば、内燃機関1がディーゼルエンジンの場合には、ラムダセンサのセンサ値λuは以下の式(3)で表すことができる。
λu=(A/Vinj_com)/14.5 …(3)
A:シリンダ吸入空気量
【0090】
上記式(3)より、完全燃焼分のHC量Vinj_cmbは以下の式(4)で表すことができる。
Vinj_cmb=A/(14.5×λu) …(4)
【0091】
したがって、上記式(2)及び式(4)より、未燃焼分のHC量Vinj_ncは、HC総量Vinj_totと、吸入空気量Aと、上流側酸素濃度センサ19のセンサ値λuとを用いて、以下の式(5)によって計算することができる。
Vinj_nc=Vinj_tot−A/(14.5×λu) …(5)
【0092】
この式(5)で計算される未燃焼分のHC量Vinj_ncは、演算周期t当たりのHC量であるため、第2の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置のHC流入量推定手段57は、所定期間に上記式(5)によって計算される未燃焼分のHC量Vinj_ncを積算することによって、HC流入量Vhc_inを推定する。
【0093】
実酸素消費量推定手段59は、実際に酸化触媒11で消費された実酸素消費量Vo2_actを推定する。酸化触媒11中で消費された実酸素消費量Vo2_actは、上流側酸素濃度O2_Uと下流側酸素濃度O2_Dとの差分ΔO2を積算することで推定することができる。上流側酸素濃度O2_U及び下流側酸素濃度O2_Dは、それぞれ上流側酸素濃度センサ19及び下流側酸素濃度センサ18のセンサ値に基づいて求めることができる。
【0094】
HC酸化量推定手段61は、実酸素消費量推定手段59で推定された実酸素消費量Vo2_actに基づき、実際に酸化触媒11中で酸化されたHC酸化量Vhc_actを推定する。具体的には、内燃機関1がディーゼルエンジンの場合には、理論空燃比=吸入空気量A/燃料量F=14.5であり、酸素量=酸素質量濃度α×吸入空気量Aとすると、酸化触媒11で酸化されたHC酸化量Vhc_actと、HCの酸化のために消費された実酸素消費量Vo2_actとの関係は下記式(6)で表すことができる。
(Vo2_act/酸素質量濃度α)/Vhc_act=14.5 …(6)
【0095】
すなわち、HC酸化量推定手段61は、以下の式(7)によってHC酸化量Vo2_actを計算する。
Vo2_act=14.5×酸素質量濃度α×Vhc_act …(7)
【0096】
判定手段61は、HC流入量推定手段57で推定されたHC流入量Vhc_inに対する、HC酸化量推定手段61で推定されたHC酸化量Vhc_actの比に基づいて、酸化触媒11の浄化効率ηを判定する。すなわち、酸化触媒11に流入したHC量のうちの酸化されたHC量の比によって、そのときの酸化触媒11の浄化効率ηを連続的に把握することができる。
【0097】
第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置は、図6に示す酸化触媒11の排気エミッションの浄化効率の特性のうち、触媒温度Tdocが吸蔵上限温度Tdoc_A以下の、酸化触媒11にHCが吸蔵される領域で酸化触媒11の機能診断を行うものであるのに対して、第2の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置は、触媒温度Tdocが正常時の活性温度Tdoc_LO以上の、酸化触媒11でHCが酸化される領域で酸化触媒11の機能診断を行うものである。
【0098】
図6に示すように、触媒温度Tdocが吸蔵上限温度Tdoc_A以上の領域において、劣化が進行している酸化触媒11の浄化率(破線)は、正常状態の酸化触媒11の浄化率(実線)に比べて低くなる。同時に、劣化が進行している酸化触媒11の活性温度Tdoc_LO´、Tdoc_LO´´は正常状態の酸化触媒11の活性温度Tdoc_LOに比べて上昇する。すなわち、酸化触媒11の劣化状態によって酸化触媒11の浄化効率ηが変化する。そこで、第2の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置では、酸化触媒11で消費される実酸素消費量Vo2_actからHC酸化量Vhc_actを推定し、HC流入量Vhc_inと比較することで、酸化触媒11の浄化効率ηを判定する。
【0099】
ただし、演算によって求められる浄化効率ηは、診断時における種々の外乱の影響を受けて誤差を生じるおそれがあり、浄化効率ηを連続的に判定することは困難な場合が多い。そこで、第2の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置においても、図7に示すように、浄化効率ηを判定閾値Thre1〜Thre3によって複数の段階に分けることによって浄化効率ηの判定を段階的に行うように構成されている。
【0100】
(2)フローチャート
次に、第2の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置としての電子制御装置50によって実行される酸化触媒11の機能診断方法を、図14〜図16のフローチャート図に沿って説明する。以下に説明する機能診断方法のルーチンは、内燃機関1の運転中において、常時、又は所定の期間ごとに割り込むことによって実行されるようになっている。
【0101】
まず、図14のステップS41において、電子制御装置50は酸化触媒11の触媒温度Tdocが正常時の活性温度Tdoc_LO以上になっていることを判定した後、ステップS42において補助噴射を開始する。例えば、補助噴射を開始するか否かは、パティキュレートフィルタ12の再生時期であるか否かによって判定され、例えば、パティキュレートフィルタ12の上流側と下流側の差圧や、PMの推定捕集量等に基づいて決定される。補助噴射を開始した後は、電子制御装置50は、ステップS43において、所定期間に酸化触媒11に流入するHC流入量Vhc_inを推定する。
【0102】
図15のフローチャート図は、HC流入量Vhc_inを推定するための演算方法の一例を示している。この例では、電子制御装置30は、まずステップS51においてタイマをスタートした後、ステップS52において、上流側酸素濃度センサ19によって検出されるラムダ値λu及び吸入空気量A、目標燃料噴射量Qを読み込む。さらに、電子制御装置50は、ステップS53において、ステップS52で読み込んだ情報に基づいて、上記式(5)から、今回の演算周期tでのHC流入量を算出する。
【0103】
次いで、電子制御装置50は、ステップS54においてHC流入量を積算した後、ステップS55においてタイマ値が所定の閾値T0に到達したか否かを判別する。所定期間を定義する閾値T0の値は、診断精度が確保される程度にHC流入量Vhc_inが得られるように最適な値に設定することができる。
【0104】
タイマ値が閾値T0に到達していない場合(Noの場合)には、ステップS52に戻ってここまでの各ステップを繰り返す。一方、タイマ値が閾値T0に到達した場合(Yesの場合)には、ステップS56に進み、電子制御装置50は、記憶されている積算値が所定の閾値Vhc_in_thre1以上であるか否かを判別する。積算値が閾値Vhc_in_thre1未満の場合(Noの場合)には、精度よく診断を行えるだけのHC流入量が得られていないと考えられるため、ステップS58で積算値をリセットして診断を中止する。
【0105】
ステップS56において、積算値が閾値Vhc_in_thre1以上である場合(Yesの場合)には、電子制御装置50は、ステップS57に進み積算値をHC流入量Vhc_inに設定してHC流入量Vhc_inの推定を終了する。
【0106】
図14に戻り、ステップS43におけるHC流入量Vhc_inの推定と平行して、ステップS44において、電子制御装置50は酸化触媒11中でHCを酸化させるために消費される実酸素消費量Vo2_actを演算により求める。
【0107】
図16のフローチャート図は、実酸素消費量Vo2_actを求めるための演算方法の一例を示している。この例では、電子制御装置50は、まずステップS61においてタイマをスタートした後、ステップS62において、上流側酸素濃度センサ19のセンサ値に基づいて、酸化触媒11よりも上流側の酸素濃度O2_Uを求める。次いで、電子制御装置50は、ステップS63において、下流側酸素濃度センサ18のセンサ値に基づいて酸化触媒11よりも下流側の酸素濃度O2_Dを求める。
【0108】
次いで、電子制御装置50は、ステップS64において、上流側の酸素濃度O2_Uから下流側の酸素濃度O2_Dを減算した差分ΔO2を求めた後、ステップS65において、酸素濃度の差分ΔO2を時間積算する。
【0109】
次いで、電子制御装置50は、ステップS66においてタイマ値が所定の閾値T0に到達したか否かを判別する。タイマ値が閾値T0に到達していない場合(Noの場合)には、ステップS62に戻ってここまでの各ステップを繰り返す。一方、タイマ値が閾値T0に到達した場合(Yesの場合)には、ステップS67に進み、電子制御装置50は、記憶されている積算値を実酸素消費量Vo2_actとして記憶して、実酸素消費量Vo2_actの推定を終了する。
【0110】
図14に戻り、ステップS44において実酸素消費量Vo2_actの演算が終了すると、電子制御装置50は、ステップS45において、ステップS44で求めた実酸素消費量Vo2_actに基づいて、上記式(7)から、所定期間に酸化触媒11で酸化されたHC酸化量Vhc_actを推定する。
【0111】
次いで、電子制御装置50は、ステップS46において、ステップS43で求めたHC流入量Vhc_inとステップS45で求めたHC酸化量Vhc_actとを用いて、酸化触媒11の浄化効率ηを判定する。第2の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置においては、HC流入量Vhc_inに対するHC酸化量Vhc_actの比を、判定閾値Thre1〜Thre3と比較して、浄化効率ηを4つの領域に当てはめて段階的に浄化効率ηが判定される。
【0112】
以上説明したように、第2の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置及び排気浄化装置は、内燃機関1の運転中において、所定期間に酸化触媒11に流入するHC流入量Vhc_inと、上流側酸素濃度O2_Uと下流側酸素濃度O2_Dとの差分ΔO2に基づき推定される所定期間におけるHC酸化量Vhc_actとの比に基づいて、酸化触媒11の浄化効率ηを判定するように構成されている。したがって、酸化触媒11の浄化効率ηを連続的にあるいは段階的に判定することができるようになって、排気浄化装置の自己診断基準を満足させることを可能にすることができる。
【0113】
また、第2の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置及び排気浄化装置によれば、従来の排気浄化装置の構成を大きく変更することなく、また、敢えて燃料噴射制御を変更する等して診断モードを形成することなく、酸化触媒11の浄化効率ηを判定することができる。
【0114】
また、第2の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置及び排気浄化装置によれば、パティキュレートフィルタ12の再生制御における補助噴射によってHC流入量Vhc_inが増加する時期を利用して、酸化触媒11の浄化効率ηを判定するようにしている。そのため、診断のために燃料噴射量を増加させることなく酸化触媒11の浄化効率ηを判定することを可能にすることができる。また、パティキュレートフィルタ12の再生時期を利用して酸化触媒11の機能診断を行うこととしているため、定期的な診断機会を確保することができる。
【0115】
また、第2の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置及び排気浄化装置によれば、上流側酸素濃度センサ19を用いて求められる上流側酸素濃度O2_Uと、下流側酸素濃度センサ18を用いて求められる下流側酸素濃度O2_Dとの差ΔO2を積算して求められる実酸素消費量O2_Dに基づいてHC酸化量Vhc_actを算出するようにしているために、酸化触媒11において現実に酸化されたHC酸化量Vhc_actを比較的正確に算出することが可能になっている。
【0116】
[他の実施の形態]
以上説明した第1及び第2の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置及び排気浄化装置は、本発明の一態様を示すものであってこの発明を限定するものではなく、それぞれの実施の形態は本発明の範囲内で任意に変更することが可能である。第1及び第2の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置及び排気浄化装置は、例えば、以下のように変更することができる。
【0117】
(1)第1及び第2の実施の形態において説明した内燃機関の排気系を構成する各構成要素や、電子制御装置30,50の設定値、設定条件はあくまでも一例であって、任意に変更することが可能である。
【0118】
(2)第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置及び排気浄化装置においては、必要酸素量Vo2_0と実酸素消費量Vo2_actとの比に基づいて酸化触媒11の浄化効率ηの判定を行っているが、正常時HC吸蔵量Vhc_0と実HC吸蔵量Vhc_actに置き換えて酸化触媒11の浄化効率ηを判定するように構成することもできる。このような判定を行うことによっても、第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置等と同様の効果を得ることができる。
【0119】
(3)第2の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置及び排気浄化装置においては、タイマ値が所定の閾値T0を経過するまでの期間を所定期間として判定を行っているが、所定期間をタイマ値によって定義する以外にも、HC流入量Vhc_inが所定の閾値に到達するまでの期間として所定期間を定義してもよい。あるいは、パティキュレートフィルタの再生制御の実行期間を所定期間として定義してもよい。このように構成することによっても、第2の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置等と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0120】
1:内燃機関、3:排気管、5:燃料噴射弁、10,10A:排気浄化装置、11:酸化触媒、12:パティキュレートフィルタ、13:NOX浄化触媒、15:第2の排気温度センサ、17:第1の排気温度センサ、18:下流側酸素濃度センサ、19:上流側酸素濃度センサ、20:還元剤供給装置、23:ポンプ、25:還元剤噴射弁、30:電子制御装置(機能診断装置)、31:目標燃料噴射量演算手段、33:燃料噴射弁制御手段、35:燃料噴射弁駆動回路、37:正常時HC吸蔵量推定手段、39:必要酸素量演算手段、41:実酸素消費量推定手段、43:判定手段、50:電子制御装置(機能診断装置)、51:目標燃料噴射量演算手段、53:燃料噴射弁制御手段、55:燃料噴射弁駆動回路、57:HC流入量推定手段、59:実酸素消費量演算手段、61:HC酸化量推定手段、63:判定手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気通路に設けられたHC吸蔵型の酸化触媒の機能診断をするための酸化触媒の機能診断装置及びそのような酸化触媒の機能診断装置を備えた排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両等に搭載される内燃機関の排気通路には、排気の浄化に用いられる酸化触媒が備えられている。この酸化触媒の一態様として、排気中のHC(未燃燃料)を触媒上で酸化(燃焼)して浄化するものがある。
【0003】
酸化触媒は、活性温度以上の状態でHCを効率的に酸化する一方、活性温度未満の所定温度(以下、「吸蔵上限温度」と称する。)以下の状態ではHCを吸蔵する特性を有している。酸化触媒によるHCの酸化効率や吸蔵量は、酸化触媒の劣化が進行するにつれて低下するため、酸化触媒の劣化が進行すると排気の浄化効率が低下することになる。そのため、酸化触媒の異常を検出する装置が種々提案されている。
【0004】
例えば、酸化触媒が異常であるかの判定時期が内燃機関の運転状態によって制限されることなく、異常判定が正確に行われる触媒異常検出装置が提案されている。具体的には、排気温度調整手段が、内燃機関を制御することにより、酸化触媒の上流側排気温度を、酸化触媒が正常であると活性化し異常であると活性化しない判定許可温度に調整し、上流側排気温度が判定許可温度になると、未燃燃料供給手段が未燃燃料を酸化触媒に供給し、判定手段が、酸化触媒の上流側排気温度に対する下流側排気温度の変化量を求めて、かかる変化量が判定値よりも小さい場合に酸化触媒が異常であると判定するように構成した触媒異常検出装置が開示されている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−203238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年、環境対策への関心が高まっていることに伴って排気浄化基準がより高められている。そのため、排気浄化装置の自己診断(On Board Diagnosis)の基準においても、より高精度に、かつ、より詳細に排気浄化装置の異常状態を把握することが求められ始めている。特に、酸化触媒の状態については、異常が生じているか否かだけでなく、浄化効率を詳細に把握することが求められ始めている。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された触媒異常検出装置では、酸化触媒の上流側排気温度に対する下流側排気温度の変化量が所定量以上か否かを判定するのみであって、酸化触媒が異常であるか否かをオンオフ的に判定することしかできない。特許文献1以外に従来提案されている種々の異常検出装置についても、酸化触媒が異常であるか否かをオンオフ的に判定するものであり、連続的あるいは段階的な浄化効率の判定を行うことができない。換言すれば、従来の酸化触媒の異常検出装置は、現在の酸化触媒の浄化効率がどの程度であるかを詳細に把握することができないものであるため、排気浄化装置の自己診断基準の要求を満足することができないおそれがある。
【0008】
また、特許文献1に記載された触媒異常検出装置は、酸化触媒の異常判定を実施する際に供給する未燃燃料の酸化による発熱反応を利用するものであり、比較的多量の未燃燃料を酸化触媒に供給する必要があるため、燃料噴射量を増大させる必要があるとともに、診断に長時間を費やすことができない。
【0009】
本発明の発明者らはこのような問題にかんがみて、酸化触媒でHCを酸化するために消費される酸素消費量を用いて浄化効率を判定することによりこのような問題を解決できることを見出し、本発明を完成させたものである。すなわち、本発明は、燃料噴射量を大幅に増やすことなく、酸化触媒の浄化効率を連続的あるいは段階的に判定できるようにした酸化触媒の機能診断装置及び排気浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、内燃機関の排気通路に設けられたHC吸蔵型の酸化触媒の浄化効率を診断するための酸化触媒の機能診断装置において、前記酸化触媒が劣化していないと仮定して、所定期間に前記酸化触媒に吸蔵される正常時HC吸蔵量を推定する正常時HC吸蔵量推定手段と、前記正常時HC吸蔵量相当のHCを酸化するための必要酸素量を演算する必要酸素量演算手段と、前記所定期間に実際に吸蔵されたHCを酸化するために消費された実酸素消費量を推定する実酸素消費量推定手段と、前記必要酸素量と前記実酸素消費量との比に基づいて前記酸化触媒の浄化効率を判定する判定手段と、を備えることを特徴とする酸化触媒の機能診断装置が提供され、上述した問題を解決することができる。
【0011】
すなわち、本発明の酸化触媒の機能診断装置は、酸化触媒が劣化していないと仮定した場合に酸化触媒の非活性状態において所定期間に吸蔵されると推定される正常時HC吸蔵量を酸化するための必要酸素量と、酸素濃度に基づいて求められる、所定期間に実際に吸蔵された実HC吸蔵量を酸化するために消費された実酸素消費量との比に基づいて、酸化触媒の浄化効率を判定するように構成されている。かかる構成の酸化触媒の機能診断装置によれば、多量の燃料噴射を伴うことなく酸化触媒の浄化効率を連続的にあるいは段階的に判定することができ、排気浄化装置の自己診断基準を満足させることを可能にすることができる。
【0012】
また、本発明の酸化触媒の機能診断装置において、前記所定期間を、前記内燃機関の冷間始動時から前記酸化触媒が吸蔵上限温度に到達するまでの期間とすることが好ましい。
【0013】
このように、冷間始動時に酸化触媒に吸蔵されるHCの量をもとにして得られる必要酸素量と実酸素消費量との比に基づいて酸化触媒の浄化効率を判定することにより、排気中のHCを強制的に増加させることなく酸化触媒の浄化効率を診断することを可能にすることができる。また、冷間始動時に浄化効率を診断することとすれば、内燃機関を運転するごとに少なくとも1回の診断を実行する機会を確保することができる。
【0014】
また、本発明の酸化触媒の機能診断装置において、前記正常時HC吸蔵量推定手段は、前記内燃機関の冷間始動時に前記酸化触媒が吸蔵上限温度に到達するまでの瞬時吸蔵量を積算することにより、前記正常時HC吸蔵量を推定することが好ましい。
【0015】
このように正常時HC吸蔵量を推定することとすれば、正常時HC吸蔵量を比較的正確に、かつ、容易に推定することを可能にすることができる。
【0016】
また、本発明の酸化触媒の機能診断装置において、前記正常時HC吸蔵量推定手段は、排気温度センサを用いて検出される前記酸化触媒よりも上流側の排気温度に応じて前記瞬時吸蔵量を求めることが好ましい。
【0017】
このように冷間始動時の酸化触媒の瞬時吸蔵量を求めることにより、瞬時吸蔵量が正確に推定され、ひいては、正常時HC吸蔵量を正確に推定することを可能にすることができる。
【0018】
また、本発明の酸化触媒の機能診断装置において、前記実酸素消費量推定手段は、前記内燃機関の燃料噴射量に基づいて求められる前記酸化触媒よりも上流側での酸素濃度と、前記酸化触媒よりも下流側での酸素濃度と、の差を積算することにより、前記実酸素消費量を演算することが好ましい。
【0019】
このように実酸素消費量を演算することにより、酸化触媒において現実に消費された実酸素消費量を比較的正確に算出することを可能にすることができる。
【0020】
また、本発明の酸化触媒の機能診断装置において、前記実酸素消費量推定手段は、前記上流側での酸素濃度と前記下流側での酸素濃度との差が所定の第1閾値以上になったときに前記積算を開始するとともに、前記酸素濃度の差が所定の第2閾値以下になったときに前記積算を終了することが好ましい。
【0021】
このように実酸素消費量を推定することにより、所定期間に吸蔵されたHCが酸化され始めたときから、当該酸化が終了するまでの期間に、当該HCの酸化に用いられた実酸素消費量の推定精度を高めることを可能にすることができる。
【0022】
また、本発明の別の態様は、内燃機関の排気通路に設けられたHC吸蔵型の酸化触媒の浄化効率を診断するための酸化触媒の機能診断装置において、所定期間に前記酸化触媒に流入するHC流入量を推定するHC流入量推定手段と、前記所定期間に前記酸化触媒で実際に消費された実酸素消費量を推定する実酸素消費量推定手段と、前記実酸素消費量に基づいて前記所定期間に前記酸化触媒で実際に酸化されたHC酸化量を推定するHC酸化量推定手段と、前記HC流入量と前記HC酸化量との比に基づいて前記酸化触媒の浄化効率を判定する判定手段と、を備えることを特徴とする酸化触媒の機能診断装置である。
【0023】
すなわち、本発明の別の態様にかかる酸化触媒の機能診断装置は、酸化触媒が劣化していないと仮定した場合に所定期間に酸化触媒に流入したHC流入量と、酸素濃度に基づいて求められる、所定期間に酸化触媒で実際に酸化されたHC酸化量との比に基づいて、酸化触媒の浄化効率を判定するように構成されている。かかる構成の酸化触媒の機能診断装置によれば、燃料消費量を大幅に増やすことなく酸化触媒の浄化効率を連続的にあるいは段階的に判定することができ、排気浄化装置の自己診断基準を満足させることを可能にすることができる。
【0024】
また、本発明のさらに別の態様は、上述したいずれかの酸化触媒の機能診断装置を備えた排気浄化装置である。
【0025】
すなわち、本発明の排気浄化装置によれば、燃料消費量を大幅に増やすことなく酸化触媒の浄化効率を連続的にあるいは段階的に判定可能な酸化触媒の機能診断装置を備えているために、排気浄化装置の自己診断基準に沿った適切な浄化効率を把握することができ、排気浄化効率を維持可能な排気浄化装置の提供を可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置が備えられた内燃機関の排気浄化装置の構成を概略的に説明するために示す図である。
【図2】第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置の構成を説明するために示す図である。
【図3】酸化触媒の温度とHC吸蔵量との関係について説明するために示す図である。
【図4】正常時HC吸蔵量の演算方法について説明するために示す図である。
【図5】実酸素消費量の演算方法を概念的に示す図である。
【図6】酸化触媒の温度とHC浄化率との関係について説明するために示す図である。
【図7】浄化効率の判定方法について説明するために示す図である。
【図8】酸化触媒の機能診断方法について説明するために示すタイミングチャート図である。
【図9】第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置によって実行される酸化触媒の機能診断方法を説明するために示すフローチャート図である。
【図10】正常時HC吸蔵量の演算方法の一例を説明するために示すフローチャート図である。
【図11】実酸素消費量の演算方法の一例を説明するために示すフローチャート図である。
【図12】第2の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置が備えられた内燃機関の排気浄化装置の構成を概略的に説明するために示す図である。
【図13】第2の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置の構成を説明するために示す図である。
【図14】第2の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置によって実行される酸化触媒の機能診断方法を説明するために示すフローチャート図である
【図15】HC流入量の演算方法の一例を説明するために示すフローチャート図である。
【図16】実酸素消費量の演算方法の一例を説明するために示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明にかかる酸化触媒の機能診断装置及び排気浄化装置に関する実施の形態について、図面に基づいて具体的に説明する。
なお、それぞれの図中において同じ符号が付されているものは、特に説明がない限り同一の構成要素を示しており、適宜説明が省略されている。
【0028】
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置及び排気浄化装置は、内燃機関の冷間始動時に酸化触媒にHCが吸蔵されることを利用して、酸化触媒の浄化効率を判定するように構成されたものである。
【0029】
図1は、第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置が備えられた内燃機関の排気浄化装置の構成を概略的に説明するために示す図である。図2は、第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置の構成を説明するために示す図である。図3は、酸化触媒の温度とHC吸蔵量との関係について説明するために示す図である。図4は、正常時HC吸蔵量の演算方法について説明するために示す図である。図5は、実酸素消費量の演算方法を概念的に示す図である。図6は、酸化触媒の温度とHC浄化率との関係について説明するために示す図である。図7は、浄化効率の判定方法について説明するために示す図である。図8は、酸化触媒の機能診断方法について説明するために示すタイミングチャート図である。図9〜図11は、第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置によって実行される酸化触媒の機能診断方法を説明するために示すフローチャート図である。
【0030】
1.排気浄化装置の全体的構成
図1において、内燃機関1は、代表的にはディーゼルエンジンであって、複数の燃料噴射弁5を備えるとともに、排気を流通させる排気管3が接続されている。燃料噴射弁5は電子制御装置30によって通電制御されるものであり、電子制御装置30は、機関回転数Neやアクセル操作量Acc、その他の情報に基づいて目標燃料噴射量Qを演算するとともに、算出された目標燃料噴射量Qに基づいて燃料噴射弁5の通電時期及び通電時間を決定し、燃料噴射弁5の通電制御を実行するようになっている。
【0031】
内燃機関1に接続された排気管3には排気浄化装置10が設けられている。排気浄化装置10は、排気管3の上流側から順に備えられた酸化触媒11とパティキュレートフィルタ12とNOX浄化触媒13とを有している。また、酸化触媒11の上流側には第1の排気温度センサ17が設けられ、酸化触媒11とパティキュレートフィルタ12との間には下流側酸素濃度センサ18が設けられ、パティキュレートフィルタ12とNOX浄化触媒13との間には第2の排気温度センサ15が設けられている。第1の実施の形態にかかる排気浄化装置10においては、下流側酸素濃度センサ18としてラムダセンサを用いているが、特に限定されるものではない。これらのセンサのセンサ信号は電子制御装置30に入力されるようになっている。
【0032】
酸化触媒11は、活性状態においては排気中に含まれるCOやHCを酸化(燃焼)する機能を有するとともに、非活性状態においては排気中に含まれるHCを吸蔵する機能を有している。この酸化触媒11は、排気を浄化するだけでなく、パティキュレートフィルタ12の再生制御時において、HCの酸化に伴って発生する酸化熱によって排気温度を上昇させることにも用いられる。使用することができる酸化触媒11は、公知のディーゼル酸化触媒であれば得に限定されるものではない。
【0033】
パティキュレートフィルタ12は、内燃機関1から排出される排気中に含まれる煤等の微粒子(以下、「PM(Particulate Material)」と称する。)を捕集する機能を有するフィルタである。パティキュレートフィルタ12は、代表的にはハニカム構造を有するフィルタが用いられるが、このようなフィルタに限定されるものではない。
【0034】
NOX浄化触媒13は、排気中に含まれる窒素酸化物を分解する機能を有する触媒である。NOX浄化触媒13としては、主にNOX選択還元触媒又はNOX吸蔵触媒などが用いられる。図1に示す排気浄化装置10に備えられたNOX浄化触媒13は、ポンプ23及び還元剤噴射弁25を有する還元剤供給装置20から供給される還元剤を用いて窒素酸化物を選択的に還元するNOX選択還元触媒である。還元剤としては、尿素水溶液や未燃燃料が用いられるが、これ以外の還元剤を用いることもできる。
【0035】
第2の排気温度センサ15は直接的には排気温度T2を検出するものであるが、検出された排気温度T2は、NOX浄化触媒13の温度Tscrの推定などにも用いられるようになっている。また、推定されるNOX浄化触媒13の温度Tscrは、例えば、還元剤供給装置20による還元剤噴射制御に用いられる。具体的には、NOX浄化触媒13における還元剤成分等の最大吸着量は触媒温度Tscrに応じて変化するとともに、最大吸着量に対する現在の吸着量に応じて窒素酸化物の浄化効率も変化する。そのため、還元剤供給装置20は、第2の排気温度センサ15によって検出される排気温度T2から推定される触媒温度Tscrに基づいて、還元剤の噴射の可否や噴射量を制御するように構成されている。
【0036】
第1の排気温度センサ17は、直接的には酸化触媒11よりも上流側の排気温度T1を検出するものであるが、検出される排気温度T1は、酸化触媒11の温度Tdocの推定にも用いられるようになっている。また、下流側酸素濃度センサ18は、酸化触媒11よりも下流側の酸素濃度O2_Dを検出するために用いられる。具体的に、第1の実施の形態にかかる排気浄化装置10においては、下流側酸素濃度センサ18によってラムダ値が検出されるため、電子制御装置30では、ラムダ値を基にして下流側酸素濃度O2_Dを求めるようになっている。求められる酸素濃度O2_Dは、燃料噴射システムの状態のモニタリングや、内燃機関1の噴射系の異常の有無の診断等に用いられる。
【0037】
第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置においては、第1の排気温度センサ17及び下流側酸素濃度センサ18を用いて、酸化触媒11の浄化効率ηの判定を行うようになっている。
【0038】
2.電子制御装置(機能診断装置)
(1)装置の構成
図2は、排気浄化装置10に備えられた電子制御装置30の構成のうち、燃料噴射制御、及び、酸化触媒11の機能診断に関連する部分を機能的なブロックで表したものである。この電子制御装置30が酸化触媒の機能診断装置としての機能を有している。
【0039】
電子制御装置30は、公知のマイクロコンピュータを中心に構成されたものであり、目標燃料噴射量演算手段31と、燃料噴射弁制御手段33と、正常時HC吸蔵量推定手段37と、必要酸素量演算手段39と、実酸素消費量推定手段41と、判定手段43とを備えている。具体的に、これらの各手段は、マイクロコンピュータによるプログラムの実行によって実現されるものとなっている。
【0040】
また、電子制御装置30には、RAMやROM等の記憶素子からなる図示しない記憶手段、及び、燃料噴射弁5への通電を行うための燃料噴射弁駆動回路35が備えられている。記憶手段には、制御プログラム及び種々の演算マップがあらかじめ記憶されるとともに、上記した各手段による演算結果等が書き込まれるようになっている。
【0041】
目標燃料噴射量演算手段31は、例えば、機関回転数Neの情報S1やアクセル操作量Accの情報S2から燃料噴射量マップに基づいて目標燃料噴射量Qを演算する。具体的な演算方法は限定されるものではなく、従来公知の演算方法を採用することができる。また、燃料噴射弁制御手段33は、目標燃料噴射量Q、その他の内燃機関1の運転条件に基づいて、燃料噴射弁5への通電時期及び通電時間を決定し、燃料噴射弁駆動回路35に出力する指示信号を生成する。
【0042】
正常時HC吸蔵量推定手段37は、内燃機関1の冷間始動時において、酸化触媒11が劣化していないと仮定して、酸化触媒11の温度Tdocが吸蔵上限温度Tdoc_Aに到達するまでの期間に酸化触媒11に吸蔵されると考えられる正常時HC吸蔵量Vhc_0を推定する。第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置の正常時HC吸蔵量推定手段37は、エンジンスタートフラグの情報S3、内燃機関1の冷却水の温度Tclの情報S4、及び触媒温度Tdocの情報S5に基づき、エンジンスタートフラグがOnであり、冷却水の温度Tclが所定の閾値Tcl0以下であり、かつ、触媒温度Tdocが吸蔵上限温度Tdoc_A未満のときにHC吸蔵量の積算を継続する。これらの条件は、内燃機関1が冷間始動の状態にあるか否かを判別するための条件であって、冷却水の温度Tclの閾値Tcl0は、シミュレーション等によって求められる最適な値とすることができる。
【0043】
一方、正常時HC吸蔵量推定手段37は、触媒温度Tdocが吸蔵上限温度Tdoc_Aに到達したときにHC吸蔵量の積算を終了して、そのときの積算値を正常時HC吸蔵量Vhc_0として記憶するように構成されている。
【0044】
具体的に、酸化触媒11は、吸蔵上限温度Tdoc_A未満の状態においてHCを吸蔵する特性を有するとともに、ある時点における瞬時吸蔵量は、図3(a)に示すように、触媒温度Tdocが上昇するにつれて減少する特性を有している。酸化触媒11の劣化状態にかかわらず吸蔵上限温度Tdoc_Aは150℃弱でほぼ一定であるために、内燃機関1を停止した後、比較的短時間の間に再始動するような場合を除き、冷間始動時における触媒温度Tdocは吸蔵上限温度Tdoc_A未満となっている。また、内燃機関1の冷間始動時においては、内燃機関1の温度が低いために燃料燃焼効率が低く、排気中に含まれるHC量が比較的多い状態となっており、始動後のしばらくの間、酸化触媒11にHCが吸蔵されることになる。
【0045】
通常、排気中のHC量が増加する冷間始動時のおいては、HC量が酸化触媒11のHC吸蔵量よりも大きい値となるため、吸蔵されるHCの総量は、酸化触媒11のHC吸蔵量を積分することによって推定することができる。例えば、図3(b)に示すように、触媒温度TdocがT1のときに内燃機関1が始動されたとすると、触媒温度Tdocが吸蔵上限温度Tdoc_Aに到達するまでのHC吸蔵量を積分した斜線の領域が正常時HC吸蔵量Vhc_0を表すことになる。
【0046】
図4は、正常時HC吸蔵量Vhc_0の演算ロジックの一例を示している。この例では、正常時HC吸蔵量推定手段37は、第1の排気温度センサ17を用いて推定される触媒温度Tdocに基づいて単位時間当たりのHC吸蔵量を求め、このHC吸蔵量に酸化触媒11の容量をかけることにより酸化触媒11全体での単位時間当たりのHC吸蔵量を求める。そこで得られた単位時間当たりのHC吸蔵量を演算周期tで割ることで演算周期tごとのHC吸蔵量を求めて、これを積算することによって正常時HC吸蔵量を求めるようになっている。
【0047】
必要酸素量演算手段39は、正常時HC吸蔵量推定手段37で推定された正常時HC吸蔵量Vhc_0分のHCを酸化するための必要酸素量Vo2_0を演算により求める。例えば、内燃機関1がディーゼルエンジンの場合には、理論空燃比が14.5であるため、内燃機関1への吸入空気量Aは、A=14.5×燃料噴射量(Q)となる。したがって、空気中の酸素質量濃度をαとすると、正常時HC吸蔵量Vhc_0分のHCを酸化するための必要酸素量Vo2_0は以下の式(1)を用いて算出することができる。
【0048】
Vo2_0=α×14.5×Vhc_0 …(1)
Vo2_0:必要酸素量(g)
α:空気中の酸素質量濃度(%)
Vhc_0:正常時HC吸蔵量(g)
【0049】
実酸素消費量推定手段41は、冷間始動時において、触媒温度Tdocが吸蔵上限温度Tdoc_Aに到達するまでに酸化触媒11が実際に吸蔵したHCを酸化するために消費された実酸素消費量Vo2_actを推定する。第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置の実酸素消費量推定手段41は、目標燃料噴射量Qに基づいて推定される酸化触媒11よりも上流側の酸素濃度O2_0から、下流側酸素濃度センサ18からのセンサ信号S6に基づいて求められる下流側の酸素濃度O2_Dを減算し、得られる値ΔO2を積算することによって実酸素消費量Vo2_actを演算するように構成されている。
【0050】
目標燃料噴射量Qに基づいて求められる上流側の酸素濃度O2_0は、酸化触媒11中で酸素が消費されなかった場合における下流側の酸素濃度とみなすことができるため、下流側酸素濃度センサ18に基づいて求められる下流側の酸素濃度O2_Dとの差分ΔO2が、酸化触媒11で実際に消費された酸素量とみなすことができる。したがって、図5に示すように、上流側の酸素濃度O2_0と下流側の酸素濃度O2_Dとの差分ΔO2を積分した斜線の領域が、酸化触媒11で消費された実酸素消費量Vo2_actを表すことになる。
【0051】
また、第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置の実酸素消費量推定手段41は、酸化触媒11が吸蔵上限温度Tdoc_Aに到達した後、酸素濃度の差分ΔO2が第1の閾値ΔO2_thre1に到達したときに積算を開始するとともに、その後、差分ΔO2が第2の閾値ΔO2_thre2以下になったときに積算を終了するように構成されている。ただし、触媒温度Tdocが吸蔵上限温度Tdoc_Aに到達してから所定時間以上経過しても酸素濃度の差分ΔO2が第1の閾値ΔO2_thre1に到達しない場合には、実酸素消費量推定手段41による実酸素消費量Vo2_actの演算は中断される。
【0052】
判定手段43は、必要酸素量Vo2_0に対する実酸素消費量Vo2_actの比に基づいて酸化触媒11の浄化効率ηを判定する。すなわち、必要酸素量Vo2_0と実酸素消費量Vo2_actとの差は、正常時HC吸蔵量Vhc_0と酸化触媒11に実際に吸蔵されていた実HC吸蔵量Vhc_actとの差に比例することから、必要酸素量Vo2_0に対する実酸素消費量Vo2_actの比によって、そのときの酸化触媒11の浄化効率ηを連続的に把握することができる。
【0053】
図6は、HC吸蔵型の酸化触媒11の排気エミッション(主としてCO,HC)の浄化率の特性を示す図である。触媒温度Tdocが吸蔵上限温度Tdoc_Aよりも低い状態においては、排気中のHCが酸化触媒11に吸蔵され、HC濃度が低減される。一方、触媒温度Tdocが上昇して吸蔵上限温度Tdoc_Aを超えると、酸化触媒11に吸蔵されていたHCや排気中のCO,HCが酸化され始める。特に、触媒温度Tdocが活性温度Tdoc_LO以上になると、COやHCの酸化効率が著しく高くなる。このとき、吸蔵されていたHCが酸化されるときに大量の酸素が消費される。
【0054】
また、図6に示すように、酸化触媒11の浄化率は、酸化触媒11の劣化状態に応じて変化する。すなわち、触媒温度Tdocが吸蔵上限温度Tdoc_A以下の領域において、劣化が進行している酸化触媒11の浄化率(破線)は、正常状態の酸化触媒11の浄化率(実線)に比べて低くなる。そこで、第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置では、酸化触媒11で消費される実酸素消費量Vo2_actを、下流側酸素濃度センサ18を用いて推定し、酸化触媒11が正常な状態での酸素消費量モデル(必要酸素量Vo2_0)と比較することで、触媒温度Tdocが吸蔵上限温度Tdoc_Aに到達するまでの期間におけるHC吸蔵量の減少度合いを推定し、酸化触媒11の浄化効率ηを判定する。
【0055】
酸化触媒11が劣化していない場合には、正常時HC吸蔵量Vhc_0は、内燃機関1の冷間始動時に触媒温度Tdocが吸蔵上限温度Tdoc_Aに到達するまでの間に酸化触媒11に吸蔵されるHC量Vhc_actに相当するため、実酸素消費量Vo2_actの値は必要酸素量Vo2_0に近似する値を示すことになる。
【0056】
一方、酸化触媒11が劣化している場合には、内燃機関1の冷間始動時に触媒温度Tdocが吸蔵上限温度Tdoc_Aに到達するまでの間に酸化触媒11に吸蔵されるHC量Vhc_actは、正常時HC吸蔵量Vhc_0よりも少なくなる。そのため、消費される実酸素消費量Vo2_actの値は必要酸素量Vo2_0よりも小さくなる。このことを利用して、必要酸素量Vo2_0に対する実酸素消費量Vo2_actの比によって、そのときの酸化触媒11の浄化効率ηを判定することができる。
【0057】
ただし、演算によって求められる浄化効率ηは、診断時における種々の外乱の影響を受けて誤差を生じるおそれがあり、浄化効率ηを連続的に判定することは困難な場合が多い。そこで、第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置においては、図7に示すように、浄化効率ηを判定閾値Thre1〜Thre3によって複数の段階に分けることによって浄化効率ηの判定を段階的に行うように構成されている。
【0058】
(2)フローチャート
次に、第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置としての電子制御装置30によって実行される酸化触媒11の機能診断方法を、図8のタイミングチャート図及び図9〜図11のフローチャート図に沿って説明する。以下に説明する機能診断方法のルーチンは、内燃機関1の始動時において、常時、又は所定の回数ごとに割り込むことによって実行されるようになっている。
【0059】
まず、図9のステップS1において、電子制御装置30が機関回転数Neなどに基づいて内燃機関1の始動を検出するとエンジンスタートフラグをOnにする(図8のt1の時点)。次いで、ステップS2において、電子制御装置30は、酸化触媒11が正常であると仮定して、触媒温度Tdocが吸蔵上限温度Tdoc_Aに到達するまでに酸化触媒11に吸蔵されると想定される正常時HC吸蔵量Vhc_0を推定する(図8のt1〜t2の期間)。
【0060】
図10のフローチャート図は、正常時HC吸蔵量Vhc_0を推定するための演算方法の一例を示している。この例では、まず、ステップS11において、電子制御装置30はエンジンスタートフラグがOnであり、かつ、内燃機関1の冷却水の温度Tclが閾値Tcl0以下であるか否かを判別する。これらの条件を満たしていなければ(Noの場合)、内燃機関1が冷間始動状態にはなく、排気中のHC量が少ない状態であるために、電子制御装置30は、ステップS17に進んでHC吸蔵量の積算値をリセットして診断を中止する。
【0061】
一方、ステップS11で条件成立と判定された場合(Yesの場合)には、電子制御装置30は、ステップS12に進んで触媒温度Tdocが吸蔵上限温度Tdoc_A以上となっているか否かを判別する。触媒温度Tdocが吸蔵上限温度Tdoc_A未満であれば(Noの場合)、酸化触媒11にHCが吸蔵される状態にあるため、電子制御装置30は、ステップS15に進み、触媒温度Tdocに基づいて、今回の演算周期tでのHC吸蔵量を求めた後、ステップS16においてHC吸蔵量の積算を行う。HC吸蔵量の積算は、記憶されている積算値に対して、今回の演算周期tにおけるHC吸蔵量を加算することによって行われる。HC吸蔵量の積算後は、再びステップS11に戻ってこれまでのステップを繰り返し行う。
【0062】
一方、ステップS12において、触媒温度Tdocが吸蔵上限温度Tdoc_Aに到達している場合(Yesの場合)、電子制御装置30は、ステップS13に進み記憶されている積算値が所定の閾値Vhc_thre1以上であるか否かを判別する。積算値が閾値Vhc_thre1未満の場合(Noの場合)には、精度よく診断を行えるだけのHC量が排出されていないと考えられるため、この場合においてもステップS17で積算値をリセットして診断を中止する。
【0063】
ステップS13において、積算値が閾値Vhc_thre1以上である場合(Yesの場合)には、電子制御装置30は、ステップS14に進み積算値を正常時HC吸蔵量Vhc_0に設定して正常時HC吸蔵量Vhc_0の演算を終了する。
【0064】
図9に戻り、触媒温度Tdocが吸蔵上限温度Tdoc_Aに到達するまでに酸化触媒11に吸蔵される正常時HC吸蔵量Vhc_0の演算が終了すると、電子制御装置30は、ステップS3において、正常時HC吸蔵量Vhc_0を酸化させるために必要な必要酸素量Vo2_0を、上述の式(1)に基づき演算により求める。
【0065】
次いで、ステップS4において、電子制御装置30は実際に酸化触媒11に吸蔵されたHCを酸化させるために消費される実酸素消費量Vo2_actを演算により求める(図8のt3〜t4の期間)。
【0066】
図11のフローチャート図は、実酸素消費量Vo2_actを求めるための演算方法の一例を示している。この例では、電子制御装置30は、まずステップS21において目標燃料噴射量Qを読み込んだ後、ステップS22において、ステップS21で読み込んだ目標燃料噴射量Qに基づいて、酸化触媒11よりも上流側の酸素濃度O2_0を求める。次いで、電子制御装置30は、ステップS23において、下流側酸素濃度センサ18のセンサ値に基づいて酸化触媒11よりも下流側の酸素濃度O2_Dを求める。
【0067】
次いで、電子制御装置30は、ステップS24において、積算開始フラグがOnになっているか否かを判別する。積算開始フラグがOnになっていなければ(Noの場合)、ステップS28に進み、電子制御装置30は上流側の酸素濃度O2_0から下流側の酸素濃度O2_Dを減算した差分ΔO2が、第1の閾値ΔO2_thre1以上であるか否かを判別する。酸素濃度の差分ΔO2が第1の閾値ΔO2_thre1以上の場合には(Yesの場合)、酸化触媒11において酸素が消費され始めたと推定され、電子制御装置30はステップS29において積算開始フラグをOnにした後、ステップS30において酸素濃度の差分ΔO2を時間積算してステップS21に戻る。
【0068】
一方、ステップS28において、酸素濃度の差分ΔO2が第1の閾値ΔO2_thre1未満の場合には(Noの場合)、電子制御装置30はステップS31においてカウンタ値を+1にした上で、ステップS32においてカウンタ値が閾値C0以上になったか否かを判別する。カウンタ値が閾値C0未満の場合には(Noの場合)そのままステップS21に戻る。一方、カウンタ値が閾値C0に到達した場合には(Yesの場合)、触媒温度Tdocが吸蔵上限温度Tdoc_Aに到達した後、所定の時間が経過しても酸素の消費が見られず、診断結果の信頼性が低いために、診断を中止する。
【0069】
また、上述のステップS24において積算開始フラグがすでにOnになっている場合には(Yesの場合)、電子制御装置30はステップS25に進み酸素濃度の差分ΔO2が第2の閾値ΔO2_thre2以下であるか否かを判別する。酸素濃度の差分ΔO2が第2の閾値ΔO2_thre2を超える場合には(Noの場合)、酸化触媒11中で酸素が消費されている状態であることから、電子制御装置30はステップS33に進み酸素濃度の差分ΔO2である酸素消費量を積算して記憶し、ステップS21に戻る。
【0070】
一方、酸素濃度の差分ΔO2が第2の閾値ΔO2_thre2未満の場合には(Yesの場合)、酸化触媒11における酸素の消費が終了したと推定されるため、電子制御装置30はステップS26において積算開始フラグをOffにした後、ステップS27において、記憶されている積算値を実酸素消費量Vo2_actに設定して、実酸素消費量Vo2_actの推定を終了する。
【0071】
図9に戻り、ステップS4において実酸素消費量Vo2_actの演算が終了すると(図8のt4の時点)、電子制御装置30は、ステップS5において、ステップS3で求めた必要酸素量Vo2_0とステップS4で求めた実酸素消費量Vo2_actとを用いて、酸化触媒11の浄化効率ηを判定する。第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置においては、必要酸素量Vo2_0に対する実酸素消費量Vo2_actの比を、判定閾値Thre1〜Thre3と比較して、浄化効率ηを4つの領域に当てはめて段階的に浄化効率ηが判定される。
【0072】
以上説明したように、第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置及び排気浄化装置は、内燃機関1の冷間始動時において、酸化触媒11が劣化していないと仮定した場合に触媒温度Tdocが吸蔵上限温度Tdoc_Aに到達するまでの期間に吸蔵されると推定される正常時HC吸蔵量Vhc_0を酸化するための必要酸素量Vo2_0と、同期間に実際に酸化触媒11に吸蔵された実HC吸蔵量Vo2_actを酸化するために消費された実酸素消費量Vo2_actとの比に基づいて、酸化触媒11の浄化効率ηを判定するように構成されている。したがって、酸化触媒11の浄化効率ηを連続的にあるいは段階的に判定することができるようになって、排気浄化装置の自己診断基準を満足させることを可能にすることができる。
【0073】
また、第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置及び排気浄化装置によれば、従来の排気浄化装置の構成を大きく変更することなく、また、敢えて燃料噴射制御を変更する等して診断モードを形成することなく、酸化触媒11の浄化効率ηを判定することができる。
【0074】
また、第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置及び排気浄化装置によれば、内燃機関1の冷間始動時における、触媒温度Tdocが吸蔵上限温度Tdoc_Aに到達するまでの期間における正常時HC吸蔵量Vhc_0を酸化するための必要酸素量Vo2_0と、実際に吸蔵された実HC吸蔵量Vo2_actを酸化するために消費された実酸素消費量Vo2_actとの比に基づいて、酸化触媒11の浄化効率ηを判定するようにしている。そのため、燃料噴射量を増加させるなどして排気中のHCを強制的に増加させることなく酸化触媒11の浄化効率を判定することを可能にすることができる。また、内燃機関1の冷間始動時における必要酸素量Vo2_0と実酸素消費量Vo2_actとを用いて酸化触媒11の機能診断を行うこととしているため、内燃機関1を運転するごとに少なくとも1回の診断を実行する機会を確保することができる。
【0075】
また、第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置及び排気浄化装置によれば、内燃機関1の始動時における正常時HC吸蔵量Vhc_0を推定するにあたり、酸化触媒11が吸蔵上限温度Tdoc_Aに到達するまでのHC吸蔵量を積算するようにしているため、正常時HC吸蔵量Vhc_0を比較的正確に、かつ、容易に推定することが可能になっている。
【0076】
また、第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置及び排気浄化装置によれば、内燃機関の燃料噴射量に基づいて求められる酸化触媒11よりも上流側での酸素濃度O2_0と、下流側酸素濃度センサ18を用いて求められる酸化触媒11よりも下流側での酸素濃度O2_Dとの差を積算して実酸素消費量O2_Dを算出するようにしているために、酸化触媒11において現実に消費された実酸素消費量Vo2_actを比較的正確に算出することが可能になっている。
【0077】
また、第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置及び排気浄化装置によれば、実酸素消費量Vo2_actを算出するにあたり、酸素濃度の差ΔO2が所定の第1の閾値ΔO2_thre1以上になったときに積算を開始するとともに、所定の第2の閾値ΔO2_thre2以下になったときに積算を終了することにより、酸化触媒11に吸蔵されたHCが酸化され始めたときから、当該酸化が終了するまでの間に消費された酸素量を精度よく算出することが可能になっている。
【0078】
[第2の実施の形態]
本発明の第2の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置は、診断の基本的原理が第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置の場合と同様に酸素消費量を用いるものであるものの、酸化触媒の浄化効率ηの判定を、内燃機関の冷間始動時ではなく、通常のドライビングサイクル内で実行する点で、第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置とは異なっている。以下、第2の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置及び排気浄化装置について、第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置及び排気浄化装置と異なる点を中心に説明する。
【0079】
図12は、第2の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置が備えられた内燃機関の排気浄化装置10Aの構成を概略的に説明するために示す図である。図13は、第2の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置の構成を説明するために示す図である。図14〜図16は、第2の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置によって実行される酸化触媒の機能診断方法を説明するために示すフローチャート図である。
【0080】
1.排気浄化装置の全体的構成
第2の実施の形態にかかる内燃機関の排気浄化装置10Aは、酸化触媒11よりも上流側に上流側酸素濃度センサ19が設けられている点と、電子制御装置50による酸化触媒の具体的な機能診断方法とにおいて、第1の実施の形態にかかる内燃機関の排気浄化装置10の構成とは異なっている。
【0081】
第2の実施の形態にかかる排気浄化装置10Aにおいて、上流側酸素濃度センサ19は、下流側酸素濃度センサ18と同様にラムダセンサが用いられており、電子制御装置50は、上流側酸素濃度センサ19のセンサ値に基づいて酸化触媒11よりも上流側の酸素濃度O2_Uを算出する。第2の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置においては、第1の排気温度センサ17及び下流側酸素濃度センサ18と併せて、上流側酸素濃度センサ19を用いて、酸化触媒11の浄化効率ηの判定を行うようになっている。
【0082】
2.電子制御装置(機能診断装置)
(1)装置の構成
図13は、電子制御装置50の構成のうち、燃料噴射制御、及び、酸化触媒11の機能診断に関連する部分を機能的なブロックで表したものであって、第1の実施の形態にかかる電子制御装置と同様に、公知のマイクロコンピュータを中心に構成されている。この電子制御装置50が、酸化触媒の機能診断装置としての機能を有している。
【0083】
電子制御装置50は、目標燃料噴射量演算手段51と、燃料噴射弁制御手段53と、HC流入量推定手段57と、実酸素消費量推定手段59と、HC酸化量演算手段61と、判定手段63とを備えるとともに、燃料噴射弁5への通電を行うための燃料噴射弁駆動回路55を備えている。
【0084】
目標燃料噴射量演算手段51及び燃料噴射弁制御手段53は、基本的に、第1の実施の形態にかかる電子制御装置の場合と同様に構成することができる。ただし、第2の実施の形態にかかる電子制御装置50は、メイン噴射に遅れて行われる補助噴射であって、排気中のHC量を増加させるための補助噴射を実行可能になっている。この補助噴射は、いわゆるポスト噴射であり、主として、パティキュレートフィルタ12に捕集されたPMを燃焼してパティキュレートフィルタ12を再生させる際に実行されるようになっている。
【0085】
このため、目標燃料噴射量演算手段51は、パティキュレートフィルタ12の再生の実行指示が生成されたときには、パイロット噴射やメイン噴射等の燃焼させるための燃料噴射量Vinj_cmbと併せて補助噴射量Vinj_HCを演算する。また、燃料噴射弁制御手段53は、パイロット噴射やメイン噴射と併せて補助噴射が行われるよう、燃料噴射弁駆動回路55に出力する指示信号を生成する。
【0086】
パティキュレートフィルタ12の再生の実行指示は、例えば、パティキュレートフィルタ12よりも上流側の圧力と下流側の圧力との差が所定の閾値に到達したときや、積算されるPMの捕集量が所定の閾値に到達したときに生成される。
【0087】
HC流入量推定手段57は、燃料噴射弁5による補助噴射が実行されている期間において酸化触媒11に流入するHC流入量Vhc_inを推定する。このHC流入量Vhc_inは、内燃機関1に噴射された全燃料のうちの未燃焼分である。第2の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置のHC流入量推定手段57は、補助噴射が開始された時点から終了する時点までの期間において、未燃焼分のHC量を積算することによってHC流入量Vhc_inを推定するように構成されている。
【0088】
具体的に、内燃機関1に噴射されたHC総量Vhc_totと、そのうちの完全燃焼分のHC量Vhc_cmbと、未燃焼分のHC量Vhc_ncとの関係は、以下の式(2)で表すことができる。
Vinj_tot=Vinj_cmb+Vinj_nc …(2)
【0089】
ここで、上流側酸素濃度センサ19がラムダセンサである場合、ラムダセンサのセンサ値λuは、理論空燃比に対する実際の空燃比の比となる。例えば、内燃機関1がディーゼルエンジンの場合には、ラムダセンサのセンサ値λuは以下の式(3)で表すことができる。
λu=(A/Vinj_com)/14.5 …(3)
A:シリンダ吸入空気量
【0090】
上記式(3)より、完全燃焼分のHC量Vinj_cmbは以下の式(4)で表すことができる。
Vinj_cmb=A/(14.5×λu) …(4)
【0091】
したがって、上記式(2)及び式(4)より、未燃焼分のHC量Vinj_ncは、HC総量Vinj_totと、吸入空気量Aと、上流側酸素濃度センサ19のセンサ値λuとを用いて、以下の式(5)によって計算することができる。
Vinj_nc=Vinj_tot−A/(14.5×λu) …(5)
【0092】
この式(5)で計算される未燃焼分のHC量Vinj_ncは、演算周期t当たりのHC量であるため、第2の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置のHC流入量推定手段57は、所定期間に上記式(5)によって計算される未燃焼分のHC量Vinj_ncを積算することによって、HC流入量Vhc_inを推定する。
【0093】
実酸素消費量推定手段59は、実際に酸化触媒11で消費された実酸素消費量Vo2_actを推定する。酸化触媒11中で消費された実酸素消費量Vo2_actは、上流側酸素濃度O2_Uと下流側酸素濃度O2_Dとの差分ΔO2を積算することで推定することができる。上流側酸素濃度O2_U及び下流側酸素濃度O2_Dは、それぞれ上流側酸素濃度センサ19及び下流側酸素濃度センサ18のセンサ値に基づいて求めることができる。
【0094】
HC酸化量推定手段61は、実酸素消費量推定手段59で推定された実酸素消費量Vo2_actに基づき、実際に酸化触媒11中で酸化されたHC酸化量Vhc_actを推定する。具体的には、内燃機関1がディーゼルエンジンの場合には、理論空燃比=吸入空気量A/燃料量F=14.5であり、酸素量=酸素質量濃度α×吸入空気量Aとすると、酸化触媒11で酸化されたHC酸化量Vhc_actと、HCの酸化のために消費された実酸素消費量Vo2_actとの関係は下記式(6)で表すことができる。
(Vo2_act/酸素質量濃度α)/Vhc_act=14.5 …(6)
【0095】
すなわち、HC酸化量推定手段61は、以下の式(7)によってHC酸化量Vo2_actを計算する。
Vo2_act=14.5×酸素質量濃度α×Vhc_act …(7)
【0096】
判定手段61は、HC流入量推定手段57で推定されたHC流入量Vhc_inに対する、HC酸化量推定手段61で推定されたHC酸化量Vhc_actの比に基づいて、酸化触媒11の浄化効率ηを判定する。すなわち、酸化触媒11に流入したHC量のうちの酸化されたHC量の比によって、そのときの酸化触媒11の浄化効率ηを連続的に把握することができる。
【0097】
第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置は、図6に示す酸化触媒11の排気エミッションの浄化効率の特性のうち、触媒温度Tdocが吸蔵上限温度Tdoc_A以下の、酸化触媒11にHCが吸蔵される領域で酸化触媒11の機能診断を行うものであるのに対して、第2の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置は、触媒温度Tdocが正常時の活性温度Tdoc_LO以上の、酸化触媒11でHCが酸化される領域で酸化触媒11の機能診断を行うものである。
【0098】
図6に示すように、触媒温度Tdocが吸蔵上限温度Tdoc_A以上の領域において、劣化が進行している酸化触媒11の浄化率(破線)は、正常状態の酸化触媒11の浄化率(実線)に比べて低くなる。同時に、劣化が進行している酸化触媒11の活性温度Tdoc_LO´、Tdoc_LO´´は正常状態の酸化触媒11の活性温度Tdoc_LOに比べて上昇する。すなわち、酸化触媒11の劣化状態によって酸化触媒11の浄化効率ηが変化する。そこで、第2の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置では、酸化触媒11で消費される実酸素消費量Vo2_actからHC酸化量Vhc_actを推定し、HC流入量Vhc_inと比較することで、酸化触媒11の浄化効率ηを判定する。
【0099】
ただし、演算によって求められる浄化効率ηは、診断時における種々の外乱の影響を受けて誤差を生じるおそれがあり、浄化効率ηを連続的に判定することは困難な場合が多い。そこで、第2の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置においても、図7に示すように、浄化効率ηを判定閾値Thre1〜Thre3によって複数の段階に分けることによって浄化効率ηの判定を段階的に行うように構成されている。
【0100】
(2)フローチャート
次に、第2の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置としての電子制御装置50によって実行される酸化触媒11の機能診断方法を、図14〜図16のフローチャート図に沿って説明する。以下に説明する機能診断方法のルーチンは、内燃機関1の運転中において、常時、又は所定の期間ごとに割り込むことによって実行されるようになっている。
【0101】
まず、図14のステップS41において、電子制御装置50は酸化触媒11の触媒温度Tdocが正常時の活性温度Tdoc_LO以上になっていることを判定した後、ステップS42において補助噴射を開始する。例えば、補助噴射を開始するか否かは、パティキュレートフィルタ12の再生時期であるか否かによって判定され、例えば、パティキュレートフィルタ12の上流側と下流側の差圧や、PMの推定捕集量等に基づいて決定される。補助噴射を開始した後は、電子制御装置50は、ステップS43において、所定期間に酸化触媒11に流入するHC流入量Vhc_inを推定する。
【0102】
図15のフローチャート図は、HC流入量Vhc_inを推定するための演算方法の一例を示している。この例では、電子制御装置30は、まずステップS51においてタイマをスタートした後、ステップS52において、上流側酸素濃度センサ19によって検出されるラムダ値λu及び吸入空気量A、目標燃料噴射量Qを読み込む。さらに、電子制御装置50は、ステップS53において、ステップS52で読み込んだ情報に基づいて、上記式(5)から、今回の演算周期tでのHC流入量を算出する。
【0103】
次いで、電子制御装置50は、ステップS54においてHC流入量を積算した後、ステップS55においてタイマ値が所定の閾値T0に到達したか否かを判別する。所定期間を定義する閾値T0の値は、診断精度が確保される程度にHC流入量Vhc_inが得られるように最適な値に設定することができる。
【0104】
タイマ値が閾値T0に到達していない場合(Noの場合)には、ステップS52に戻ってここまでの各ステップを繰り返す。一方、タイマ値が閾値T0に到達した場合(Yesの場合)には、ステップS56に進み、電子制御装置50は、記憶されている積算値が所定の閾値Vhc_in_thre1以上であるか否かを判別する。積算値が閾値Vhc_in_thre1未満の場合(Noの場合)には、精度よく診断を行えるだけのHC流入量が得られていないと考えられるため、ステップS58で積算値をリセットして診断を中止する。
【0105】
ステップS56において、積算値が閾値Vhc_in_thre1以上である場合(Yesの場合)には、電子制御装置50は、ステップS57に進み積算値をHC流入量Vhc_inに設定してHC流入量Vhc_inの推定を終了する。
【0106】
図14に戻り、ステップS43におけるHC流入量Vhc_inの推定と平行して、ステップS44において、電子制御装置50は酸化触媒11中でHCを酸化させるために消費される実酸素消費量Vo2_actを演算により求める。
【0107】
図16のフローチャート図は、実酸素消費量Vo2_actを求めるための演算方法の一例を示している。この例では、電子制御装置50は、まずステップS61においてタイマをスタートした後、ステップS62において、上流側酸素濃度センサ19のセンサ値に基づいて、酸化触媒11よりも上流側の酸素濃度O2_Uを求める。次いで、電子制御装置50は、ステップS63において、下流側酸素濃度センサ18のセンサ値に基づいて酸化触媒11よりも下流側の酸素濃度O2_Dを求める。
【0108】
次いで、電子制御装置50は、ステップS64において、上流側の酸素濃度O2_Uから下流側の酸素濃度O2_Dを減算した差分ΔO2を求めた後、ステップS65において、酸素濃度の差分ΔO2を時間積算する。
【0109】
次いで、電子制御装置50は、ステップS66においてタイマ値が所定の閾値T0に到達したか否かを判別する。タイマ値が閾値T0に到達していない場合(Noの場合)には、ステップS62に戻ってここまでの各ステップを繰り返す。一方、タイマ値が閾値T0に到達した場合(Yesの場合)には、ステップS67に進み、電子制御装置50は、記憶されている積算値を実酸素消費量Vo2_actとして記憶して、実酸素消費量Vo2_actの推定を終了する。
【0110】
図14に戻り、ステップS44において実酸素消費量Vo2_actの演算が終了すると、電子制御装置50は、ステップS45において、ステップS44で求めた実酸素消費量Vo2_actに基づいて、上記式(7)から、所定期間に酸化触媒11で酸化されたHC酸化量Vhc_actを推定する。
【0111】
次いで、電子制御装置50は、ステップS46において、ステップS43で求めたHC流入量Vhc_inとステップS45で求めたHC酸化量Vhc_actとを用いて、酸化触媒11の浄化効率ηを判定する。第2の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置においては、HC流入量Vhc_inに対するHC酸化量Vhc_actの比を、判定閾値Thre1〜Thre3と比較して、浄化効率ηを4つの領域に当てはめて段階的に浄化効率ηが判定される。
【0112】
以上説明したように、第2の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置及び排気浄化装置は、内燃機関1の運転中において、所定期間に酸化触媒11に流入するHC流入量Vhc_inと、上流側酸素濃度O2_Uと下流側酸素濃度O2_Dとの差分ΔO2に基づき推定される所定期間におけるHC酸化量Vhc_actとの比に基づいて、酸化触媒11の浄化効率ηを判定するように構成されている。したがって、酸化触媒11の浄化効率ηを連続的にあるいは段階的に判定することができるようになって、排気浄化装置の自己診断基準を満足させることを可能にすることができる。
【0113】
また、第2の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置及び排気浄化装置によれば、従来の排気浄化装置の構成を大きく変更することなく、また、敢えて燃料噴射制御を変更する等して診断モードを形成することなく、酸化触媒11の浄化効率ηを判定することができる。
【0114】
また、第2の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置及び排気浄化装置によれば、パティキュレートフィルタ12の再生制御における補助噴射によってHC流入量Vhc_inが増加する時期を利用して、酸化触媒11の浄化効率ηを判定するようにしている。そのため、診断のために燃料噴射量を増加させることなく酸化触媒11の浄化効率ηを判定することを可能にすることができる。また、パティキュレートフィルタ12の再生時期を利用して酸化触媒11の機能診断を行うこととしているため、定期的な診断機会を確保することができる。
【0115】
また、第2の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置及び排気浄化装置によれば、上流側酸素濃度センサ19を用いて求められる上流側酸素濃度O2_Uと、下流側酸素濃度センサ18を用いて求められる下流側酸素濃度O2_Dとの差ΔO2を積算して求められる実酸素消費量O2_Dに基づいてHC酸化量Vhc_actを算出するようにしているために、酸化触媒11において現実に酸化されたHC酸化量Vhc_actを比較的正確に算出することが可能になっている。
【0116】
[他の実施の形態]
以上説明した第1及び第2の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置及び排気浄化装置は、本発明の一態様を示すものであってこの発明を限定するものではなく、それぞれの実施の形態は本発明の範囲内で任意に変更することが可能である。第1及び第2の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置及び排気浄化装置は、例えば、以下のように変更することができる。
【0117】
(1)第1及び第2の実施の形態において説明した内燃機関の排気系を構成する各構成要素や、電子制御装置30,50の設定値、設定条件はあくまでも一例であって、任意に変更することが可能である。
【0118】
(2)第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置及び排気浄化装置においては、必要酸素量Vo2_0と実酸素消費量Vo2_actとの比に基づいて酸化触媒11の浄化効率ηの判定を行っているが、正常時HC吸蔵量Vhc_0と実HC吸蔵量Vhc_actに置き換えて酸化触媒11の浄化効率ηを判定するように構成することもできる。このような判定を行うことによっても、第1の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置等と同様の効果を得ることができる。
【0119】
(3)第2の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置及び排気浄化装置においては、タイマ値が所定の閾値T0を経過するまでの期間を所定期間として判定を行っているが、所定期間をタイマ値によって定義する以外にも、HC流入量Vhc_inが所定の閾値に到達するまでの期間として所定期間を定義してもよい。あるいは、パティキュレートフィルタの再生制御の実行期間を所定期間として定義してもよい。このように構成することによっても、第2の実施の形態にかかる酸化触媒の機能診断装置等と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0120】
1:内燃機関、3:排気管、5:燃料噴射弁、10,10A:排気浄化装置、11:酸化触媒、12:パティキュレートフィルタ、13:NOX浄化触媒、15:第2の排気温度センサ、17:第1の排気温度センサ、18:下流側酸素濃度センサ、19:上流側酸素濃度センサ、20:還元剤供給装置、23:ポンプ、25:還元剤噴射弁、30:電子制御装置(機能診断装置)、31:目標燃料噴射量演算手段、33:燃料噴射弁制御手段、35:燃料噴射弁駆動回路、37:正常時HC吸蔵量推定手段、39:必要酸素量演算手段、41:実酸素消費量推定手段、43:判定手段、50:電子制御装置(機能診断装置)、51:目標燃料噴射量演算手段、53:燃料噴射弁制御手段、55:燃料噴射弁駆動回路、57:HC流入量推定手段、59:実酸素消費量演算手段、61:HC酸化量推定手段、63:判定手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられたHC吸蔵型の酸化触媒の浄化効率を診断するための酸化触媒の機能診断装置において、
前記酸化触媒が劣化していないと仮定して、所定期間に前記酸化触媒に吸蔵される正常時HC吸蔵量を推定する正常時HC吸蔵量推定手段と、
前記正常時HC吸蔵量相当のHCを酸化するための必要酸素量を演算する必要酸素量演算手段と、
前記所定期間に実際に吸蔵されたHCを酸化するために消費された実酸素消費量を推定する実酸素消費量推定手段と、
前記必要酸素量と前記実酸素消費量との比に基づいて前記酸化触媒の浄化効率を判定する判定手段と、
を備えることを特徴とする酸化触媒の機能診断装置。
【請求項2】
前記所定期間を、前記内燃機関の冷間始動時から前記酸化触媒が活性温度に到達するまでの期間とすることを特徴とする請求項1に記載の酸化触媒の機能診断装置。
【請求項3】
前記正常時HC吸蔵量推定手段は、前記内燃機関の冷間始動時に前記酸化触媒が活性温度に到達するまでの瞬時吸蔵量を積算することにより前記正常時HC吸蔵量を推定することを特徴とする請求項1又は2に記載の酸化触媒の機能診断装置。
【請求項4】
前記正常時HC吸蔵量推定手段は、排気温度センサを用いて検出される前記酸化触媒よりも上流側の排気温度に応じて前記瞬時吸蔵量を求めることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の酸化触媒の機能診断装置。
【請求項5】
前記実酸素消費量推定手段は、前記内燃機関の燃料噴射量に基づいて求められる前記酸化触媒よりも上流側での酸素濃度と、前記酸化触媒よりも下流側での酸素濃度と、の差を積算することにより、前記実酸素消費量を推定することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の酸化触媒の機能診断装置。
【請求項6】
前記実酸素消費量推定手段は、前記上流側での酸素濃度と前記下流側での酸素濃度との差が所定の第1閾値以上になったときに前記積算を開始するとともに、前記酸素濃度の差が所定の第2閾値以下になったときに前記積算を終了することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の酸化触媒の機能診断装置。
【請求項7】
内燃機関の排気通路に設けられたHC吸蔵型の酸化触媒の浄化効率を診断するための酸化触媒の機能診断装置において、
所定期間に前記酸化触媒に流入するHC流入量を推定するHC流入量推定手段と、
前記所定期間に前記酸化触媒でHCを酸化するために実際に消費された実酸素消費量を演算する実酸素消費量推定手段と、
前記実酸素消費量に基づいて前記所定期間に前記酸化触媒で実際に酸化されたHC酸化量を推定するHC酸化量推定手段と、
前記HC流入量と前記HC酸化量との比に基づいて前記酸化触媒の浄化効率を判定する判定手段と、
を備えることを特徴とする酸化触媒の機能診断装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載された酸化触媒の機能診断装置を備えた排気浄化装置。
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられたHC吸蔵型の酸化触媒の浄化効率を診断するための酸化触媒の機能診断装置において、
前記酸化触媒が劣化していないと仮定して、所定期間に前記酸化触媒に吸蔵される正常時HC吸蔵量を推定する正常時HC吸蔵量推定手段と、
前記正常時HC吸蔵量相当のHCを酸化するための必要酸素量を演算する必要酸素量演算手段と、
前記所定期間に実際に吸蔵されたHCを酸化するために消費された実酸素消費量を推定する実酸素消費量推定手段と、
前記必要酸素量と前記実酸素消費量との比に基づいて前記酸化触媒の浄化効率を判定する判定手段と、
を備えることを特徴とする酸化触媒の機能診断装置。
【請求項2】
前記所定期間を、前記内燃機関の冷間始動時から前記酸化触媒が活性温度に到達するまでの期間とすることを特徴とする請求項1に記載の酸化触媒の機能診断装置。
【請求項3】
前記正常時HC吸蔵量推定手段は、前記内燃機関の冷間始動時に前記酸化触媒が活性温度に到達するまでの瞬時吸蔵量を積算することにより前記正常時HC吸蔵量を推定することを特徴とする請求項1又は2に記載の酸化触媒の機能診断装置。
【請求項4】
前記正常時HC吸蔵量推定手段は、排気温度センサを用いて検出される前記酸化触媒よりも上流側の排気温度に応じて前記瞬時吸蔵量を求めることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の酸化触媒の機能診断装置。
【請求項5】
前記実酸素消費量推定手段は、前記内燃機関の燃料噴射量に基づいて求められる前記酸化触媒よりも上流側での酸素濃度と、前記酸化触媒よりも下流側での酸素濃度と、の差を積算することにより、前記実酸素消費量を推定することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の酸化触媒の機能診断装置。
【請求項6】
前記実酸素消費量推定手段は、前記上流側での酸素濃度と前記下流側での酸素濃度との差が所定の第1閾値以上になったときに前記積算を開始するとともに、前記酸素濃度の差が所定の第2閾値以下になったときに前記積算を終了することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の酸化触媒の機能診断装置。
【請求項7】
内燃機関の排気通路に設けられたHC吸蔵型の酸化触媒の浄化効率を診断するための酸化触媒の機能診断装置において、
所定期間に前記酸化触媒に流入するHC流入量を推定するHC流入量推定手段と、
前記所定期間に前記酸化触媒でHCを酸化するために実際に消費された実酸素消費量を演算する実酸素消費量推定手段と、
前記実酸素消費量に基づいて前記所定期間に前記酸化触媒で実際に酸化されたHC酸化量を推定するHC酸化量推定手段と、
前記HC流入量と前記HC酸化量との比に基づいて前記酸化触媒の浄化効率を判定する判定手段と、
を備えることを特徴とする酸化触媒の機能診断装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載された酸化触媒の機能診断装置を備えた排気浄化装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−241594(P2012−241594A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111500(P2011−111500)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(000003333)ボッシュ株式会社 (510)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(000003333)ボッシュ株式会社 (510)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]