説明

電力変換装置

【課題】応答遅れを生じることなく、ノイズに伴って発生する電流検出手段の出力変動を抑えることができる電力変換装置を提供する。
【解決手段】モータ制御装置は、電流センサ13、14と、+5V電源回路150と、15V電源回路151と、−5V電源回路152と、コイル153とを備えている。電流センサ13、14の基準電源入力端子はコイル153を介して+5V電源回路150の電源出力端子に、+電源入力端子は15V電源回路151の電源出力端子に、−電源入力端子は−5V電源回路152の電源出力端子にそれぞれ接続されている。ノイズに伴って電源回路の出力電圧が変動しても、コイル153のインダクタンスによって、電流センサ13、14の基準電圧の変動を減衰させることができる。これにより、電流センサ13、14の基準電圧を安定し、応答遅れを生じることなく、ノイズに伴って発生する電流センサ13、14の出力変動を抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、出力電流を検出する電流検出手段を備えた電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、出力電流を検出する電流検出手段を備えた電力変換装置として、例えば特許文献1に開示されている電力変換装置がある。この電力変換装置は、インバータと、出力電流検出器とを備えている。インバータは、スイッチング素子によって構成されている。スイッチング素子をオン、オフすることで、入力される直流電力を交流電力に変換して出力する。出力電流検出器は、インバータの出力電流を検出して出力する。
【0003】
ところで、インバータを構成するスイッチング素子がオン、オフすることで、ノイズが発生する。それに伴って、出力電流検出器の出力が変動する。そのため、出力電流を正確に検出し出力できないという問題があった。
【0004】
これに対し、ノイズに伴う出力電流検出器の出力変動を抑えることができる電力変換装置として、例えば特許文献2に開示されている系統連系インバータがある。このインバータは、電流検出手段と、積分回路とを備えている。電流検出手段は、インバータの出力電流を検出して出力する。積分回路は、電流検出手段の出力端に接続され、出力変動を除去する。これにより、ノイズに伴って発生する出力変動を抑えることができる。
【特許文献1】特開2007−89261号公報
【特許文献2】特開2001−25261号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、前述した系統連系インバータでは、積分回路によって応答遅れが発生してしまう。そのため、急激な出力電流の変化を正確に検出して出力することができないという問題があった。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、応答遅れを生じることなく、ノイズに伴って発生する電流検出手段の出力変動を抑えることができる電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0007】
そこで、本発明者は、この課題を解決すべく鋭意研究し試行錯誤を重ねた結果、ノイズに伴って発生する電流検出手段の基準電圧の変動を、コイルのインダクタンスによって抑えることで、応答遅れを生じることなく、ノイズに伴って発生する電流検出手段の出力変動を抑えられることを思いつき、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、請求項1に記載の電力変換装置は、第1電圧を出力する第1電源と、第1電圧より大きい第2電圧を出力する第2電源と、第1電圧より小さい第3電圧を出力する第3電源と、スイッチング素子を有し、スイッチング素子をオン、オフすることで、入力される直流電力を交流電力に変換して出力する電力変換手段と、第1電源、第2電源及び第3電源に接続され、第1電圧、第2電圧及び第3電圧を供給されることで、第1電圧を基準電圧として作動し、電力変換手段の出力する交流電流を検出して出力する電流検出手段と、第1電源に接続され、第1電圧を供給されることで作動し、電流検出手段の検出結果に基づいて電力変換手段を制御する制御手段と、を備えた電力変換装置において、電流検出手段に接続される第1電源、第2電源及び第3電源のうち、第1電源と電流検出手段の間にのみコイルが介挿されていることを特徴とする。なお、第1〜第3電圧及び第1〜第3電源は、電圧及び電源を区別するために便宜的に導入したものである。
【0009】
この構成によれば、スイッチング素子をオン、オフすることで、ノイズが発生する。それに伴って、第1電源、第2電源及び第3電源の出力電圧が変動することとなる。しかし、第1電源と電流検出手段との間には、コイルが介挿されている。そのため、コイルのインダクタンスによって、ノイズに伴う第1電圧の変動を減衰させることができる。これにより、電流検出手段の作動の基準となる基準電圧を安定させることができる。従って、従来のように積分回路を用いる必要がないため、応答遅れを生じることなく、ノイズに伴って発生する電流検出手段の出力変動を抑えることができる。
【0010】
請求項2に記載の電力変換装置は、請求項1に記載の電力変換装置において、コイルは、電力変換手段から離れた位置に介挿されていることを特徴とする。この構成によれば、前述したように、電力変換手段のスイッチング素子がオン、オフすることで、ノイズが発生する。スイッチング素子のスイッチングに伴って発生したノイズは、空間にも放射される。しかし、コイルは、電力変換手段から離れた位置に介挿されている。そのため、コイルに対する放射ノイズの影響を抑えることができる。
【0011】
請求項3に記載の電力変換装置は、請求項1又は2のいずれか1項に記載の電力変換装置において、コイルは、外周の少なくとも一部が導体によって覆われていることを特徴とする。この構成によれば、周囲を覆う導体によって、コイルに対する放射ノイズの影響を確実に抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に実施形態を挙げ、本発明をより詳しく説明する。本実施形態では、本発明に係る電力変換装置を、車両に搭載されたモータを制御するモータ制御装置に適用した例を示す。
【0013】
まず、図1〜図4を参照してモータ制御装置の構成について説明する。ここで、図1は、本実施形態におけるモータ制御装置の回路図である。図2は、制御回路の回路図である。図3は、コイルの構成を説明するための斜視図である。図2は、モータ制御装置の構成を説明するための斜視図である。なお、図中における左右方向及び上下方向は、モータ制御装置を説明するために便宜的に導入したものである。
【0014】
図1に示すモータ制御装置1(電力変換装置)は、高電圧バッテリB1の出力する直流低電圧を3相交流電圧に変換して3相交流モータM1に供給し、3相交流モータM1を駆動する装置である。つまり、直流電力を交流電力に変換する装置である。モータ制御装置1は、平滑用コンデンサ10と、電力変換回路11と、駆動回路12と、電流センサ13、14と、制御回路15とから構成されている。
【0015】
平滑用コンデンサ10は、高電圧バッテリB10の直流電圧を平滑するための素子である。平滑用コンデンサ10の正極端子及び負極端子は、高電圧バッテリB10の正極端子及び負極端子にそれぞれ接続されている。
【0016】
電力変換回路11は、平滑用コンデンサ10によって平滑された高電圧バッテリB10の直流電圧を3相交流電圧に変換し、3相交流モータM1に供給する回路である。電力変換回路11は、IGBT110〜115によって構成されている。
【0017】
IGBT110〜115は、オン、オフすることで直流電圧を3相交流電圧に変換するためのスイッチング素子である。IGBT110、113、IGBT111、114及びIGBT112、115は、それぞれ直列接続されている。具体的には、IGBT110〜112のエミッタ端子が、IGBT113〜115のコレクタ端子にそれぞれ接続されている。直列接続された3組のIGBT110、113、IGBT111、114及びIGBT112、115は、並列接続されている。3つのIGBT110〜112のコレクタ端子は平滑用コンデンサ10の正極端子に、3つのIGBT113〜115のエミッタ端子は平滑用コンデンサ10の負極端子にそれぞれ接続されている。IGBT110〜115のゲート端子は、駆動回路12にそれぞれ接続されている。また、直列接続されたIGBT110、113、IGBT111、114及びIGBT112、115の直列接続点に形成されるU、V、W相端子は、3相交流モータM1にそれぞれ接続されている。
【0018】
駆動回路12は、制御回路13から出力される駆動信号に基づいて電力変換回路11を駆動する回路である。具体的には、IGBT110〜115毎に設けられ、駆動信号に基づいてIGBT110〜115をオン、オフする回路である。駆動回路12の出力端子は、IGBT110〜115のゲートにそれぞれ接続されている。
【0019】
電流センサ13、14は、基準電圧を中心に±10Vの電圧を供給されることで作動し、3相交流モータM1に流れるU相電流及びW相電流を検出して出力する素子である。具体的には、U相電流及びV相電流に対応した、基準電圧を中心に±10Vの範囲内の電圧を出力する素子である。電流センサ13、14は、電力変換回路11のU相配線及びV相配線にそれぞれ配設されている。電流センサ13、14の電源入力端子及び出力端子は、制御回路15にそれぞれ接続されている。
【0020】
制御回路15は、外部から入力される指令、及び、電流センサ13、14の検出結果に基づいてIGBT110〜115のオン、オフを制御するための駆動信号を出力する回路である。図2に示すように、制御回路15は、+5V電源回路150(第1電源)と、15V電源回路151(第2電源)と、−5V電源回路152(第3電源)と、コイル153と、電圧変換回路154と、マイクロコンピュータ155(制御手段)とから構成されている。
【0021】
+5V電源回路150は、低電圧バッテリB11の直流電圧を、車体の電位を基準として+5V(第1電圧)に変換して出力する回路である。+5V電源回路150の電源入力端子は、低電圧バッテリB11の正極端子及び負極端子にそれぞれ接続されている。低電圧バッテリB11の負極端子は、車体に接地されている。また、+5V電源回路150の電源出力端子は、コイル153を介して電流センサ13、14の基準電源入力端子にそれぞれ接続されている。これにより、電流センサ13、14に、基準電圧として+5Vが供給されることとなる。さらに、電源出力端子は、電圧変換回路154及びマイクロコンピュータ155の電源入力端子にもそれぞれ接続されている。
【0022】
15V電源回路151は、低電圧バッテリB11の直流電圧を、車体の電位を基準として15V(第2電圧)に変換して出力する回路である。15V電源回路151の電源入力端子は、低電圧バッテリB11の正極端子及び負極端子にそれぞれ接続されている。また、電源出力端子は、電流センサ13、14の+電源入力端子にそれぞれ接続されている。これにより、電流センサ13、14に、基準電圧+5Vを中心に+10Vが供給されることとなる。
【0023】
−5V電源回路152は、低電圧バッテリB11の直流電圧を、車体の電位を基準として−5V(第3電圧)に変換して出力する回路である。−5V電源回路152の電源入力端子は、低電圧バッテリB11の正極端子及び負極端子にそれぞれ接続されている。また、電源出力端子は、電流センサ13、14の−電源入力端子にそれぞれ接続されている。これにより、電流センサ13、14に、基準電圧+5Vを中心に−10Vが供給されることとなる。
【0024】
コイル153は、IGBT110〜115のスイッチングノイズに伴って発生する+5V電源回路152の出力電圧の変動をインダクタンスによって抑える素子である。図3に示すように、コイル153は、ケース153aを備えている。ケース153aは、導体からなる有底円筒状の部材である。ケース153aは、コイル153から絶縁された状態で、コイル153の周囲を覆うように配設されている。図2に示すように、コイル153は、+5V電源回路152と電流センサ13、14の間に介挿されている。具体的には、コイル153の一端が+5V電源回路150の電源出力端子に、他端が電流センサ13、14の基準電源入力端子にそれぞれ接続されている。
【0025】
電圧変換回路154は、+5Vの電圧を供給されることで作動し、電流センサ13、14の出力電圧を、マイクロコンピュータ155の入力可能な0〜5Vの範囲内の電圧に変換するための回路である。電圧変換回路154の電源入力端子は、+5V電源回路150の電源出力端子に接続されている。また、電圧変換回路154の入力端子は、電流センサ13、14の出力端子にそれぞれ接続されている。
【0026】
マイクロコンピュータ155は、+5Vの電圧を供給されることで作動し、外部から入力される指令、及び、電圧変換回路154によって変換された電流センサ13、14の出力電圧に基づいて、IGBT110〜115のオン、オフを制御するための駆動信号を出力する素子である。マイクロコンピュータ155の電源入力端子は、+5V電源回路の電源出力端子に接続されている。また、電圧入力端子は、電圧変換回路154の電圧出力端子にそれぞれ接続されている。さらに、駆動信号出力端子は、駆動回路12にそれぞれ接続されている。
【0027】
図4に示すように、制御回路15は、配線基板16の所定領域に実装されている。平滑用コンデンサ10の上方に形成される直方体状の空間に電力変換回路11が配置されている。配線基板16は、電力変換回路11の上方に配置されている。15V電源回路151、+5V電源回路150及び−5V電源回路152は、配線基板16上の所定領域に実装されている。具体的には、電力変換回路11が配置される直方体状の空間の上方より右方の領域に実装されている。コイル153も、配線基板16上に実装されている。具体的には、電力変換回路11が配置される直方体状の空間の上方より左方の離れた位置に実装されている。
【0028】
次に、図1及び図2を参照してモータ制御装置の動作について説明する。
【0029】
図1において、外部から指令が入力されると、モータ制御装置1は動作を開始する。制御回路15は、入力された指令、及び、電流センサ13、14の検出結果に基づいて、IGBT110〜115をオン、オフするための駆動信号を出力する。駆動回路12は、制御回路15から出力される駆動信号に基づいて、IGBT110〜115を所定のタイミングでオン、オフして、高電圧バッテリB10の直流電圧を3相交流電圧に変換し、3相交流モータM1に供給する。
【0030】
このとき、IGBT110〜115がオン、オフすることで高周波ノイズが発生する。それに伴って、15V電源回路151、+5V電源回路150及び−5V電源回路152の出力電圧が変動する。しかし、+5V電源回路150と電流センサ13、14との間には、コイル153が介挿されている。そのため、コイル153のインダクタンスによって、ノイズに伴う+5Vの電圧変動を減衰させることができる。これにより、電流センサ13、14の基準電圧を安定させることができる。従って、ノイズに伴って発生する電流センサ13、14の出力変動を抑えることができる。
【0031】
最後に、具体的効果について説明する。本実施形態によれば、前述したように、ノイズに伴って発生する電流センサ13、14の基準電圧の変動を、コイル153のインダクタンスによって抑えることができる。そのため、ノイズに伴って発生する電流センサ13、14の出力変動を抑えることができる。しかも、従来のように、積分回路を用いる必要がないため、応答遅れを生じることなく、電流センサ13、14の出力変動を抑えることができる。
【0032】
また、本実施形態によれば、IGBT110〜115がオン、オフすることで高周波ノイズが発生する。このノイズは、空間にも放射される。しかし、コイル153は、電力変換回路11の上方より左方の離れた位置に実装されている。そのため、コイル153に対する放射ノイズの影響を抑えることができる。
【0033】
さらに、本実施形態によれば、コイル153は、導体からなるケース153aによって覆われている。そのため、ケース153aによって、コイル153に対する放射ノイズの影響を確実に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本実施形態におけるモータ制御装置の回路図である。
【図2】制御回路の回路図である。
【図3】コイルの構成を説明するための斜視図である。
【図4】モータ制御装置の構成を説明するための斜視図である。
【符号の説明】
【0035】
1・・・モータ制御装置(電力変換装置)、10・・・平滑用コンデンサ、11・・・電力変換回路(電力変換手段)、110〜115・・・IGBT、12・・・駆動回路、13、14・・・電流センサ(電流検出手段)、15・・・制御回路、150・・・+5V電源回路150(第1電源)、151・・・15V電源回路151(第2電源)、152・・・−5V電源回路152(第3電源)、153・・・コイル、153a・・・ケース、154・・・電圧変換回路154、155・・・マイクロコンピュータ155(制御手段)、16・・・配線基板、B10・・・高電圧バッテリ、B11・・・低電圧バッテリ、M1・・・3相交流モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電圧を出力する第1電源と、
前記第1電圧より大きい第2電圧を出力する第2電源と、
前記第1電圧より小さい第3電圧を出力する第3電源と、
スイッチング素子を有し、前記スイッチング素子をオン、オフすることで、入力される直流電力を交流電力に変換して出力する電力変換手段と、
前記第1電源、前記第2電源及び前記第3電源に接続され、前記第1電圧、前記第2電圧及び前記第3電圧を供給されることで、前記第1電圧を基準電圧として作動し、前記電力変換手段の出力する交流電流を検出して出力する電流検出手段と、
前記第1電源に接続され、前記第1電圧を供給されることで作動し、前記電流検出手段の検出結果に基づいて前記電力変換手段を制御する制御手段と、
を備えた電力変換装置において、
前記電流検出手段に接続される前記第1電源、前記第2電源及び前記第3電源のうち、前記第1電源と前記電流検出手段の間にのみコイルが介挿されていることを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記コイルは、前記電力変換手段から離れた位置に介挿されていることを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記コイルは、外周の少なくとも一部が導体によって覆われていることを特徴とする請求項1又は2のいずれか1項に記載の電力変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−17039(P2010−17039A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−176342(P2008−176342)
【出願日】平成20年7月4日(2008.7.4)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】