説明

電池システム

【課題】リチウムイオン二次電池の充電中に、負極電位がLi電位を下回っているか否かを、精度良く判定することができる電池システムを提供する。
【解決手段】電池システム6は、負極156と参照極170との間の電位差の実測値である電位差実測値Dを測定する電位差測定手段と、二次電池100の充電中に、負極156の直流抵抗によって生じる負極電位降下量Eを算出する負極電位降下量算出手段と、上記負極電位降下量Eによって電位差実測値Dを補正した補正値を算出する補正値算出手段と、当該充電中に、上記補正値が、Liに対する負極156の電位が負となる値に相当する値である否かを判定する判定手段と、上記補正値が、Liに対する負極の電位が負となる値に相当する値であると判定された場合、当該充電中に、充電電流値を低減させるまたは当該充電を停止させる制御を行う制御手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、携帯機器の電源として、また、電気自動車やハイブリッド自動車などの電源として注目されている。ところで、リチウムイオン二次電池では、負極電位がLi電位を下回ると、Liイオンが負極にインターカレートするよりも、Li金属になって負極に析出したほうが安定する。従って、リチウムイオン二次電池では、充電中に負極電位がLi電位を下回ると、負極にLi金属が析出してしまう。充電中は、負極電位が一時的に大きく低下するため、充電中に負極電位がLi電位を下回ることがあった。特に、ハイレート充電中は、特に負極電位が大きく低下するため、充電中に負極電位がLi電位を下回り易かった。近年、この問題を解決する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−218900号公報
【0004】
特許文献1では、リチウムイオン二次電池の充電中に、負極電位がLi電位を下回るのを抑制して、負極にLi金属が析出することを抑制する電池システムが開示されている。この電池システムは、正極、負極、及び、参照極を有するリチウムイオン二次電池(参照極含有リチウムイオン二次電池)と、リチウムイオン二次電池の充電中に、負極と参照極との間の電位差(実測値)を測定する電位差測定手段と、リチウムイオン二次電池の充電中に、上記電位差が「Liに対する負極の電位が負となる値に相当する値」であるか否かを判定する判定手段と、上記電位差が「Liに対する負極の電位が負となる値に相当する値」であると判定された場合、当該充電中に充電電流値を低減させるまたは当該充電を停止させる制御を行う制御手段とを備えている。
【0005】
特許文献1では、「Liに対する負極の電位が負となる値に相当する値」であるか否かを判定するための判定基準として、電位差測定手段によって測定された負極と参照極との間の電位差の実測値を用いている。すなわち、負極と参照極との間の電位差実測値に基づいて、負極電位がLi電位を下回っているか否かを判定する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、リチウムイオン二次電池の充電中に測定される上記電位差実測値には、負極の直流抵抗によって生じる負極電位降下量が含まれる。従って、電位差実測値は、負極電位と参照極との間の電位差(真の電位差の値)ではなく、負極電位から負極電位降下量だけ小さくなった値と参照極電位との差となる。負極の直流抵抗は、負極におけるLi析出には関係のない成分であるため、特許文献1のように、負極電位降下量を含んだ電位差実測値に基づいて負極電位がLi電位を下回っているか否かを判定する方法では、精度良く、負極電位がLi電位を下回っているか否かを判定することができなかった。
【0007】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、リチウムイオン二次電池の充電中に、負極電位がLi電位を下回っているか否かを、精度良く判定することができる電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、正極、負極、及び、参照極を有する、参照極含有リチウムイオン二次電池、を備える電池システムにおいて、上記負極と上記参照極との間の電位差の実測値である電位差実測値Dを測定する電位差測定手段と、上記二次電池の充電中に、充電電流値Iを測定する電流測定手段と、上記二次電池の充電中に、上記負極の直流抵抗によって生じる負極電位降下量Eを算出する負極電位降下量算出手段であって、予め上記電池システムに記憶させておいた上記負極の直流抵抗値Rに、上記充電電流値Iを乗じることによって、上記負極電位降下量Eを算出する負極電位降下量算出手段と、上記負極電位降下量Eによって上記電位差実測値Dを補正した補正値を算出する補正値算出手段であって、上記電位差測定手段が、上記電位差実測値Dとして、上記負極の電位から上記参照極の電位を差し引いた値を実測する場合、当該充電中に、当該電位差実測値Dに上記負極電位降下量Eを加算することにより、当該電位差実測値Dを補正した補正値を算出する、または、上記電位差測定手段が、上記電位差実測値Dとして、上記参照極の電位から上記負極の電位を差し引いた値を実測する場合、当該充電中に、当該電位差実測値Dから上記負極電位降下量Eを差し引くことにより、当該電位差実測値Dを補正した補正値を算出する補正値算出手段と、当該充電中に、上記補正値が、Liに対する上記負極の電位が負となる値に相当する値である否かを判定する判定手段と、上記補正値が、Liに対する上記負極の電位が負となる値に相当する値であると判定された場合、当該充電中に、充電電流値を低減させるまたは当該充電を停止させる制御を行う制御手段と、を備える電池システムである。
【0009】
上述の電池システムでは、参照極含有リチウムイオン二次電池の充電中に、予め電池システムに記憶させておいた「負極の直流抵抗値R」に、電流測定手段によって測定された充電電流値Iを乗じることによって、負極の直流抵抗によって生じる負極電位降下量E(=R×I)を算出する。
【0010】
さらに、電位差測定手段により、電位差実測値Dとして、負極の電位から参照極の電位を差し引いた値を測定する場合、補正値算出手段が、当該充電中に、当該電位差実測値Dに上記負極電位降下量Eを加算することにより、当該電位差実測値Dを補正した補正値を算出する。または、電位差測定手段により、電位差実測値Dとして、参照極の電位から負極の電位を差し引いた値を測定する場合、補正値算出手段が、当該充電中に、当該電位差実測値Dから上記負極電位降下量Eを差し引くことにより、当該電位差実測値Dを補正した補正値を算出する。
【0011】
さらに、判定手段が、当該充電中に、上記補正値が、「Liに対する負極の電位が負となる値に相当する値」である否かを判定する。そして、上記補正値が、「Liに対する負極の電位が負となる値に相当する値である」と判定した場合、制御手段が、当該充電中に、充電電流値を低減させるまたは当該充電を停止させる制御を行う。
【0012】
このように、上述の電池システムでは、「Liに対する負極の電位が負となる値に相当する値である」か否かを判定するための判定基準として、電位差実測値Dを負極電位降下量Eによって補正した補正値を用いている。すなわち、電位差実測値Dではなく、電位差実測値Dの補正値に基づいて、負極電位がLi電位を下回っているか否かを判定する。
【0013】
前述のように、電位差実測値Dは、負極電位(真の値)と参照極との間の電位差(真の電位差の値)ではなく、負極電位から負極電位降下量Eだけ小さくなった値と参照極との差の値となる。従って、電位差実測値Dを負極電位降下量Eによって補正した補正値が、真の電位差の値となる。上述の電池システムでは、この補正値を判定基準としているので、リチウムイオン二次電池(参照極含有リチウムイオン二次電池)の充電中に、負極電位がLi電位を下回っているか否かを、精度良く判定することができる。
【0014】
さらに、このような精度の高い判定に基づいて、充電電流値を低減させるまたは当該充電を停止させる制御を行うことにより、当該充電中に負極電位がLi電位を下回るのを抑制して、負極にLi金属が析出することを抑制できる。充電電流値を小さくすることで、負極電位の低下を抑制することができるからである。
【0015】
ところで、特許文献1では、電位差実測値Dを判断基準として、充電電流制限の制御を行う。このため、特許文献1では、Liに対する負極電位を、真の負極電位よりも負極電位降下量Eだけ小さい値に判断し、負極電位がLi電位に達する前に、電池の充電を停止させてしまうことがあり得る。つまり、負極電位がLi電位を下回るまで充電を行うように制御しているつもりが、実際は、それより前に充電を停止することになり得る。
【0016】
これに対し、上述の電池システムでは、負極電位がLi電位を下回っているか否かを精度良く判定することができ、このような精度の高い判定に基づいて、充電電流値を低減させるまたは当該充電を停止させる制御を行うため、負極電位がLi電位を下回るまで確実に充電を行うことができる。
【0017】
なお、参照極としては、例えば、LiFePO4、LiMnPO4 等の二層共存領域を有する金属酸化物を含む参照極や、Li金属からなる参照極などを用いることができる。ここで、「二層共存領域を有する金属酸化物」とは、結晶構造が異なる2つの結晶が共存した状態で充放電の反応が行われるSOC範囲(これを二層共存領域という)を有する金属酸化物をいい、二層共存領域では、参照極(金属酸化物)の電位は一定となる。
【0018】
参照極としてLiFePO4を有する参照極を用いた場合、Liに対する参照極の電位を3.43Vで一定に保つことができる。この場合、例えば、電位差実測値D(=負極電位−参照極電位)に負極電位降下量Eを加算した補正値が、−3.43Vとなったとき、Liに対する負極の電位が0Vになる。従って、この場合、補正値の「Liに対する負極の電位が負となる値に相当する値」は、−3.43V未満の値となる。この例では、補正値が−3.43Vを下回ったと判定された場合、充電電流値を低減させるまたは当該充電を停止させる制御を行うことになる。
【0019】
また、上述の電池システムには、複数のリチウムイオン二次電池が電気的に直列に接続して組電池を構成してなる電池システムも含まれる。この電池システムの場合、組電池を構成する複数のリチウムイオン二次電池のうち少なくとも1つのリチウムイオン二次電池が、参照極含有リチウムイオン二次電池であれば良い。組電池を構成するリチウムイオン二次電池は全て電気的に直列に接続されているので、参照極含有リチウムイオン二次電池について上述の充電制御を行うことは、組電池を構成する全てのリチウムイオン二次電池について、上述の充電制御を行うことになる。従って、この電池システムでは、組電池を構成する全てのリチウムイオン二次電池について、充電中に負極電位がLi電位を下回るのを抑制し、負極にLi金属が析出することを抑制することができる。
【0020】
さらに、上述の電池システムであって、前記二次電池は、前記正極、前記負極、及びセパレータを扁平形状に捲回してなる扁平捲回電極体を有し、上記扁平捲回電極体は、平坦部と、上記平坦部の一方端に隣接する第1弧状部と、上記平坦部の他方端に隣接する第2弧状部と、を有し、前記参照極は、上記第1弧状部または上記第2弧状部に配置されてなる電池システムとすると良い。
【0021】
上述の電池システムでは、参照極含有リチウムイオン二次電池が、扁平捲回電極体を有している。この扁平捲回電極体は、平坦部と第1弧状部と第2弧状部とを有している。ここで、平坦部とは、正極、負極、及びセパレータが平坦状をなして重なっている部位である。また、第1弧状部及び第2弧状部は、正極、負極、及びセパレータが弧状をなして重なっている部位である。扁平捲回電極体を有するリチウムイオン二次電池では、特に、第1弧状部及び第2弧状部において、Liが析出しやすいことがわかっている。
【0022】
これに対し、上述の電池システムでは、参照極を、第1弧状部または第2弧状部に配置している。このように、Liが析出しやすい部位に参照極を配置することで、Liが析出しやすい部位での電位差実測値Dを測定することができる。その結果、Liが析出しやすい部位の負極電位に基づいて充電制御(負極電位がLi電位を下回らないように充電を制御)することができるので、負極でのLi析出をより確実に抑制することができる。
【0023】
さらに、上記いずれかの電池システムであって、前記参照極は、二層共存領域を有する金属酸化物を含む金属酸化物膜が、金属線の周囲に形成された構成を有し、上記金属酸化物膜の平均厚みは、8〜12μmの範囲内であり、上記金属酸化物膜の外面において最も外側に突出している凸部と最も内側に窪んでいる凹部との凹凸寸法差は、3μm以下である電池システムとすると良い。
【0024】
上述の電池システムでは、参照極として、二層共存領域を有する金属酸化物を含む金属酸化物膜が、金属線の周囲に形成された構成を有する参照極を用いている。さらに、金属酸化物膜の平均厚みを、8〜12μmの範囲内の値としている。
【0025】
金属酸化物膜の平均厚みを、12μm以下とすることで、参照極の電位の個体差を無くすことができる。例えば、金属酸化物としてLiFePO4 を用いた場合、金属酸化物膜の平均厚みを12μm以下とすれば、いずれの参照極においても、Liに対する参照極の電位を3.43Vで一定に保つことができる。これにより、判定手段において、Liに対する参照極の電位を3.43Vと決めて、負極電位がLi電位を下回っているか否かの判定を行うことで、精度良く判定することができる。
【0026】
また、金属酸化物膜の平均厚みを、8μm以上とすることで、長期間にわたって、参照極の電位を一定に保つことができる。
【0027】
ところで、金属線の周囲に配置した金属酸化物膜の外面は、少なからず凹凸を有するものである。これに対し、上述の電池システムでは、金属酸化物膜の外面において最も外側に突出している凸部と最も内側に窪んでいる凹部との凹凸寸法差を、3μm以下としている。このように、金属酸化物膜の外面(表面)の凹凸を小さくすることで、参照極と負極(または正極)との間が短絡する不具合を防止することができる。
【0028】
具体的には、例えば、第1弧状部または第2弧状部に参照極を配置した扁平捲回電極体に対し、圧縮応力がかかった場合、金属酸化物膜の凹凸寸法差が大きい(従って、相対的に凸部の突出量が大きい)と、金属酸化物膜の凸部が電極体のセパレータを突き破り、参照極と負極(または正極)との間が短絡する虞がある。これに対し、金属酸化物膜の外面の凹凸寸法差を3μm以下と小さくすることで、上記のような短絡を防止することができる。
【0029】
さらに、上記いずれかの電池システムであって、前記参照極は、LiFePO4で表される金属酸化物を有し、SOC50%の充電状態に設定されてなり、前記電位差測定手段は、前記二次電池の充電中に、前記電位差実測値Dとして、上記負極の電位から前記参照極の電位を差し引いた値を測定し、前記補正値算出手段は、上記二次電池の充電中に、上記電位差実測値Dに前記負極電位降下量Eを加算することにより、上記電位差実測値Dを補正した補正値を算出し、前記判定手段は、上記二次電池の充電中に、上記補正値が−3.43V未満であるか否かを判定し、前記制御手段は、上記補正値が−3.43V未満であると判定された場合、当該充電中に、充電電流値を低減させるまたは当該充電を停止させる制御を行う電池システムとすると良い。
【0030】
上述の電池システムでは、参照極として、LiFePO4で表される金属酸化物(活物質)を有する参照極を用いている。LiFePO4で表される金属酸化物(活物質)を有する参照極では、Liに対する電位が、SOC(State Of Charge)20〜90%の範囲にわたって、3.43Vで一定となる。
【0031】
さらに、上述の電池システムでは、参照極をSOC50%の充電状態に設定している。このため、仮に、参照極含有リチウムイオン二次電池の使用に伴って、参照極のSOCが多少変動したとしても、参照極のSOCが20〜90%の範囲内から外れることはない。従って、上述の電池システムでは、参照極のLiに対する電位を、3.43Vで一定に保つことができる。
【0032】
さらに、上述の電池システムでは、前記二次電池の充電中に、電位差測定手段によって、電位差実測値Dとして、負極の電位から参照極の電位を差し引いた値を測定する。さらに、上記二次電池の充電中に、判定手段によって、上記電位差実測値Dに前記負極電位降下量Eを加えることによって電位差実測値Dを補正した値(補正値)が、−3.43V未満であるか否かを判定する。これにより、上記補正値が、「Liに対する負極の電位が負となる値に相当する値」であるか否かを、精度良く判定することができる。従って、負極電位がLi電位を下回っているか否かを精度良く判定することができる。
【0033】
さらに、上述の電池システムでは、判定手段によって上記補正値が−3.43V未満であると判定された場合、当該充電中に、充電電流値を低減させるまたは当該充電を停止させる制御を行う。これにより、当該充電中に負極電位がLi電位を下回るのを抑制することができ、その結果、負極にLi金属が析出することを抑制できる。
【0034】
さらに、上記いずれかの電池システムであって、複数のリチウムイオン二次電池を電気的に直列に接続してなる組電池を備え、上記組電池は、当該組電池を構成する複数の上記二次電池の1つとして、前記参照極含有リチウムイオン二次電池を有する電池システムとすると良い。
【0035】
上述の電池システムでは、組電池を構成する複数の二次電池のうちの1つとして、前記参照極含有リチウムイオン二次電池を配置している。すなわち、組電池は、1つの参照極含有リチウムイオン二次電池と、1以上のリチウムイオン二次電池(参照極を有していない電池)とによって構成している。上記組電池は、複数のリチウムイオン二次電池(参照極含有リチウムイオン二次電池と参照極を有しないリチウムイオン二次電池)を電気的に直列に接続したものである。
【0036】
これにより、組電池に含まれる1つの参照極含有リチウムイオン二次電池について、前述のように充電制御を行うことで、当該組電池を構成する全ての二次電池について、同様な充電制御を行うことができる。従って、当該組電池を構成する全ての二次電池について、当該充電中に負極電位がLi電位を下回るのを抑制することができ、その結果、負極にLi金属が析出することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】実施形態にかかるハイブリッド自動車の概略図である。
【図2】実施形態にかかる電池システムの概略図である。
【図3】実施形態にかかる参照極含有リチウムイオン二次電池の断面図である。
【図4】リチウムイオン二次電池の断面図である。
【図5】電極体の斜視図である。
【図6】正極の斜視図である。
【図7】負極の斜視図である。
【図8】実施形態にかかる参照極の断面図である。
【図9】同参照極の部分拡大断面図であり、図8のC部拡大図に相当する。
【図10】同参照極のSOCと電位(vs.Li)との関係を示す図である。
【図11】実施形態にかかる充電制御の流れを示すフローチャートである。
【図12】パルス充電を行ったときの電位差実測値Dの変動を示すグラフである。
【図13】パルス充電を行ったときの電位差実測値Dの変動と補正値(D+E)の変動を示すグラフである。
【図14】電池のSOCを50%にした状態での電位差実測値Dを示すグラフである。
【図15】拘束荷重と負極−参照極間の抵抗値との関係を示すグラフである。
【図16】電池のSOCを50%にした状態での電位差実測値Dの変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
次に、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
本実施形態にかかるハイブリッド自動車1は、図1に示すように、車体2、エンジン3、フロントモータ4、リヤモータ5、電池システム6、及びケーブル7を有し、エンジン3とフロントモータ4及びリヤモータ5との併用で駆動するハイブリッド自動車である。具体的には、このハイブリッド自動車1は、電池システム6(詳細には、電池システム6の組電池10、図2参照)をフロントモータ4及びリヤモータ5の駆動用電源として、エンジン3とフロントモータ4及びリヤモータ5とを用いて走行できるように構成されている。
【0039】
このうち、電池システム6は、ハイブリッド自動車1の車体2に取り付けられており、ケーブル7によりフロントモータ4及びリヤモータ5に接続されている。この電池システム6は、図2に示すように、複数のリチウムイオン二次電池101(単電池)及び1つの参照極含有リチウムイオン二次電池100(単電池)を互いに電気的に直列に接続した組電池10と、電池コントローラ30と、電流測定装置40と、電位差測定装置50とを備えている。
【0040】
参照極含有リチウムイオン二次電池100は、図3に示すように、直方体形状の電池ケース110と、正極端子120と、負極端子130とを備える、角形密閉式のリチウムイオン二次電池である。このうち、電池ケース110は、金属からなり、直方体形状の収容空間をなす角形収容部111と、金属製の蓋部112とを有している。電池ケース110(角形収容部111)の内部には、扁平捲回電極体150及び参照極170などが収容されている。
【0041】
扁平捲回電極体150は、断面長円状をなし、シート状の正極155、負極156、及びセパレータ157を扁平形状に捲回してなる電極体である(図5〜図7参照)。この扁平捲回電極体150は、平坦部150bと第1弧状部150cと第2弧状部150dとを有している。平坦部150bは、正極155、負極156、及びセパレータ157が平坦状をなして重なっている部位である。また、第1弧状部150c及び第2弧状部150dは、正極155、負極156、及びセパレータ157が弧状をなして重なっている部位である。
【0042】
正極155は、図6に示すように、長手方向DAに延びる帯状で、アルミニウム箔からなる正極集電部材151と、この正極集電部材151の両面に、それぞれ長手方向DAに延びる帯状に配置された2つの正極合材層152,152とを有している。正極合材層152は、正極活物質153と、アセチレンブラックからなる導電材と、PVdF(結着剤)とを含んでいる。
【0043】
正極155のうち、正極合材層152が塗工されている部位を、正極合材層塗工部155cという。一方、正極合材層152を有することなく、正極集電部材151のみからなる部位を、正極合材層未塗工部155bという。正極合材層未塗工部155bは、正極155の一方長辺に沿って、正極155の長手方向DAに帯状に延びている。この正極合材層未塗工部155bは、捲回されて渦巻き状をなし、扁平捲回電極体150の軸線方向(軸線AXに沿った方向)一方端部(図3及び図5において右端部)に位置している。
なお、本実施形態では、正極活物質153として、LiNi1/3Co1/3Mn1/32を用いている。
【0044】
また、負極156は、図7に示すように、長手方向DAに延びる帯状で、銅箔からなる負極集電部材158と、この負極集電部材158の両面に、それぞれ長手方向DAに延びる帯状に配置された2つの負極合材層159,159とを有している。負極合材層159は、負極活物質154とPVdF(結着剤)とを含んでいる。
【0045】
負極156のうち、負極合材層159が塗工されている部位を、負極合材層塗工部156cという。一方、負極合材層159を有することなく、負極集電部材158のみからなる部位を、負極合材層未塗工部156bという。負極合材層未塗工部156bは、負極156の一方長辺に沿って、負極156の長手方向DAに帯状に延びている。この負極合材層未塗工部156bは、捲回されて渦巻き状をなし、扁平捲回電極体150の軸線方向他方端部(図3及び図5において左端部)に位置している。
なお、本実施形態では、負極活物質154として、黒鉛を用いている。
【0046】
セパレータ157は、PP(ポリプロピレン)/PE(ポリエチレン)/PP(ポリプロピレン)の3層からなるセパレータである。このセパレータ157は、正極155と負極156との間に介在して、これらを離間させている。セパレータ157には、リチウムイオンを有する非水電解液140を含浸させている。
【0047】
非水電解液140は、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを混合した有機溶媒に、溶質としてLiPF6を添加した非水電解液である。なお、非水電解液140中のLiPF6の濃度は、1mol/Lとしている。
【0048】
扁平捲回電極体150の正極合材層未塗工部155bは、正極接続部材122を通じて、正極端子120に電気的に接続されている(図3参照)。負極合材層未塗工部156bは、負極接続部材132を通じて、負極端子130に電気的に接続されている。
【0049】
扁平捲回電極体150の内部には、参照極170が配置されている(図3参照)。参照極170は、図8に示すように、金属線176と、金属線176の周囲に形成された金属酸化物膜172とを有する。金属酸化物膜172は、二層共存領域を有する金属酸化物と、PVdF(結着剤)とを有している。本実施形態では、二層共存領域を有する金属酸化物として、LiFePO4 を用いている。また、金属線176として、白金線を用いている。
【0050】
この参照極170は、図10に示すように、Liに対する電位が、SOC20〜90%の範囲にわたって、3.43Vで一定となる。そこで、本実施形態では、参照極170のSOCを50%に設定している。参照極170をSOC50%の充電状態に設定しておけば、仮に、参照極含有リチウムイオン二次電池100の使用に伴って参照極170のSOCが多少変動したとしても、SOCの範囲が20〜90%の範囲から外れることはないからである。このため、参照極170のLiに対する電位を、常に3.43Vで一定に保つことができる。
【0051】
参照極170を構成する金属線176は、導線175の一部(先端部)である。導線175は、金属線176と、金属線176の周囲を被覆する被覆樹脂177とを有している。導線175のうち、金属酸化物膜172を形成する部位は、被覆樹脂177が取り除かれている。導線175は、蓋部112に設けられている貫通孔(図示省略)を通じて、参照極含有リチウムイオン二次電池100の外部に引き出され、電位差測定装置50(電圧計)の負極端子に接続されている(図2、図3参照)。
【0052】
本実施形態では、金属酸化物膜172の平均厚みを、8〜12μmの範囲内の値(例えば、10μm)としている。これにより、後述するように、長期間にわたって、参照極170の電位を一定値(3.43V)に保つことができ、負極電位がLi電位を下回っているか否かの判定を精度良く行うことができる。
【0053】
ところで、金属線の周囲に配置した金属酸化物膜の外面は、少なからず凹凸を有するものである。これに対し、本実施形態では、金属酸化物膜172の外面172cにおいて最も外側に突出している凸部172dと最も内側に窪んでいる凹部172fとの凹凸寸法差ΔTmaxを、3μm以下としている(図9参照)。これにより、後述するように、参照極170と負極156との間が短絡する不具合を防止することができる。
【0054】
また、扁平捲回電極体を有するリチウムイオン二次電池では、特に、第1弧状部及び第2弧状部において、Liが析出しやすいことがわかっている。これに対し、本実施形態では、参照極170を、第1弧状部150cに配置している(図3参照)。詳細には、参照極170を、第1弧状部150cにおいて、負極156とセパレータ157との間に配置している。なお、負極156と参照極170との間には、両者の電気的絶縁を確保するため、別途セパレータ(図示なし)を介在させている。
【0055】
上述のように、本実施形態では、Liが析出しやすい第1弧状部150cに参照極170を配置している。これにより、Liが析出しやすい部位での電位差実測値Dを測定することができる。その結果、Liが析出しやすい部位の負極電位に基づいて充電制御(負極電位がLi電位を下回らないように充電を制御)することができるので、負極156でのLi析出をより確実に抑制することができる。
【0056】
リチウムイオン二次電池101は、図4に示すように、上述の参照極含有リチウムイオン二次電池100と比較して、参照極170及び導線175を有していない点のみが異なるリチウムイオン二次電池である。
【0057】
組電池10は、複数(例えば100個)のリチウムイオン二次電池101と、1個の参照極含有リチウムイオン二次電池100とを、電気的に直列に接続した組電池である(図2参照)。この組電池10は、電池コントローラ30を通じて、インバータ及びモータ(フロントモータ4及びリヤモータ5)に接続されている。従って、組電池10を構成する参照極含有リチウムイオン二次電池100とリチウムイオン二次電池101は、電池コントローラ30を通じて、等しく充放電される。
【0058】
電位差測定装置50は、組電池10の充電中、所定時間毎(例えば、0.1秒毎)に、参照極含有リチウムイオン二次電池100の負極156と参照極170との間の電位差(電位差実測値D)を測定する。本実施形態では、電位差実測値Dとして、負極156の電位から参照極170の電位を差し引いた値を実測する。なお、電位差測定装置50の正極端子には、参照極含有リチウムイオン二次電池100の負極端子130と電気的に接続した導線185が接続されている(図2参照)。
【0059】
電流測定装置40は、組電池10の充電中(従って、参照極含有リチウムイオン二次電池100の充電中)、所定時間毎(例えば、0.1秒毎)に、電池100の充電電流値Iを測定する。
【0060】
電池コントローラ30は、図示しないROM,RAM,CPU等を有している。この電池コントローラ30は、組電池10の充電中、所定時間毎に電位差測定装置50によって測定された電位差実測値Dを、逐次入力する。さらに、電池コントローラ30は、組電池10の充電中、所定時間毎に電流測定装置40によって測定された充電電流値Iを、逐次入力する。
【0061】
さらに、電池コントローラ30は、組電池10の充電中、負極156の直流抵抗に起因する負極電位降下量Eを算出する。具体的には、予め、電池コントローラ30のROMに、負極156の直流抵抗値Rを記憶させておき、この直流抵抗値Rに、測定された充電電流値Iを乗じることによって、負極電位降下量Eを算出する。
なお、負極156の直流抵抗値Rは、公知の交流インピーダンス測定により、予め求めておくができる。
【0062】
さらに、電池コントローラ30は、組電池10の充電中、電位差実測値Dに負極電位降下量Eを加算することにより、電位差実測値Dを補正した補正値(D+E)を算出する。そして、電池コントローラ30は、当該補正値(D+E)が、「Liに対する負極156の電位が負となる値に相当する値」であるか否かを判定する。具体的には、組電池10の充電中に、補正値(D+E)<−3.43Vであるか否かを判定する。
【0063】
さらに、電池コントローラ30は、補正値(D+E)<−3.43Vであると判定した場合、当該充電中に、充電電流値を低減させる制御を行う。例えば、25Cの充電電流値Iで組電池10を充電しているときに、補正値(D+E)<−3.43Vであると判定した場合、充電電流値Iを15Cに低減する。
なお、1Cの電流値とは、SOC0%の電池を1時間でSOC100%まで定電流充電できる電流値をいう。
【0064】
さらに、電池コントローラ30は、当該充電中に、補正値(D+E)<−3.43Vでないと判定するまで、充電電流値Iを低減させる制御を行う。例えば、充電電流値を25Cから15Cに低減した後、補正値(D+E)<−3.43Vであるか否かを判定し、補正値(D+E)<−3.43Vであると判定した場合は、さらに充電電流値Iを低減する(例えば、5Cにする)制御を行う。このようにして、電池コントローラ30は、組電池10の充電中、補正値(D+E)<−3.43Vでないと判定するまで、充電電流値Iを低減させる制御を行う。
【0065】
このように、電池コントローラ30の制御により、充電電流値Iを低減させることで、当該充電中に、二次電池100,101(組電池10を構成する全てのリチウムイオン二次電池)について、負極156の電位がLi電位を下回るのを抑制することができる。従って、本実施形態の電池システム6では、二次電池100,101(組電池10を構成する全てのリチウムイオン二次電池)について、負極156にLi金属が析出することを抑制することができる。さらに、負極156にLi金属が析出することを抑制することで、電池容量の低下を抑制することができる。
【0066】
特に、本実施形態の電池システム6では、「Liに対する負極156の電位が負となる値に相当する値」であるか否かを判定するための判定基準値として、電位差実測値Dを負極電位降下量Eによって補正した補正値(D+E)を用いている。すなわち、電位差実測値Dではなく、電位差実測値Dの補正値に基づいて、負極電位がLi電位を下回っているか否かを判定する。
【0067】
前述のように、電位差実測値Dは、負極電位(真の値)と参照極との間の電位差(真の電位差の値)ではなく、負極電位から負極電位降下量Eだけ小さくなった値と参照極との差の値となる。具体的には、後述するように、負極156の電位から参照極170の電位を差し引いた電位差実測値Dは、真の電位差よりも負極電位降下量Eの分だけ小さい値となる(図13参照)。従って、電位差実測値Dに負極電位降下量Eを加算することによって電位差実測値Dを補正した補正値(D+E)が、真の電位差の値となる。
【0068】
これに対し、本実施形態の電池システム6では、前述のように、この補正値(D+E)を判定基準としている。具体的には、補正値(D+E)<−3.43Vであるか否かを判定することにより、負極156の電位がLi電位を下回っているか否かを判断する。このため、負極156の電位がLi電位を下回っているか否かを、精度良く判定することができる。
【0069】
さらに、このような精度の高い判定に基づいて、充電電流値を低減させるまたは当該充電を停止させる制御を行うことにより、当該充電中に負極電位がLi電位を下回るのを抑制して、負極にLi金属が析出することを抑制できる。充電電流値Iを小さくすることで、負極電位の低下を抑制することができるからである。
【0070】
次に、本実施形態にかかる電池システム6の充電制御について、図11を参照して説明する。
電池コントローラ30は、組電池10(二次電池100,101)の充電を開始すると、ステップS1において、所定時間毎(例えば、0.1秒毎)に、参照極含有リチウムイオン二次電池100の負極156の電位から参照極170の電位を差し引いた電位差実測値Dを測定し、この電位差実測値Dを逐次入力する。次いで、ステップS2に進み、電池コントローラ30は、所定時間毎に電池100の充電電流値Iを測定し、この充電電流値Iを逐次入力する。
【0071】
次いで、ステップS3に進み、電池コントローラ30は、負極156の直流抵抗に起因する負極電位降下量Eを算出する。具体的には、予め電池コントローラ30のROMに記憶させてある負極156の直流抵抗値Rに、測定された充電電流値Iを乗じることによって、負極電位降下量E(=R×I)を算出する。
【0072】
その後、ステップS4に進み、電池コントローラ30は、電位差実測値Dに負極電位降下量Eを加算することにより、補正値(D+E)を算出する。次いで、ステップS5に進み、電池コントローラ30は、当該補正値(D+E)が、「Liに対する負極156の電位が負となる値に相当する値」であるか否かを判定する。具体的には、補正値(D+E)<−3.43Vであるか否かを判定する。
【0073】
ステップS5において、補正値(D+E)<−3.43Vでない(No)と判定した場合は、ステップS6に進み、電池コントローラ30は、組電池10(二次電池100,101)の充電が終了したか否かを判定する。ステップS6において、組電池10(二次電池100,101)の充電が終了していない(No)と判定した場合、すなわち、組電池10の充電中である場合は、ステップS1に戻り、上述の処理を再び行う。一方、ステップS6において、組電池10(二次電池100,101)の充電が終了した(Yes)と判定した場合は、一連の処理を終了する。
【0074】
一方、ステップS5において、補正値(D+E)<−3.43Vである(Yes)と判定した場合は、ステップS7に進み、電池コントローラ30は、充電電流値Iを低減させる制御を行う。例えば、現在、25Cの充電電流値で組電池10を充電している場合、充電電流値Iを15Cに低減する。
【0075】
その後、ステップS1に戻り、上述の処理を再び行う。そして、ステップS5において、再び、補正値(D+E)<−3.43Vである(Yes)と判定した場合は、ステップS7に進み、電池コントローラ30は、充電電流値Iをさらに低減させる制御を行う。例えば、先のステップS7の処理で25Cから15Cまで低減した充電電流値Iを、さらに低減して5Cとする。このようにして、ステップS5において補正値(D+E)<−3.43Vでない(No)と判定するまで、ステップS7の処理(充電電流値Iを低減させる制御)を行う。その後、ステップS6において、組電池10(二次電池100,101)の充電が終了した(Yes)と判定すると、一連の処理を終了する。
【0076】
このようにして、本実施形態の電池システム6では、組電池10(二次電池100,101)の充電中に、二次電池100,101の負極156の電位がLi電位を下回るのを抑制することができる。従って、本実施形態の電池システム6では、二次電池100,101(組電池10を構成する全てのリチウムイオン二次電池)について、負極156にLi金属が析出することを抑制することができる。さらに、負極156にLi金属が析出することを抑制することで、電池容量の低下を抑制することができる。これにより、ハイブリッド自動車1の走行性能の低下を抑制することができる。
【0077】
なお、本実施形態の電池システム6では、電位差測定装置50が電位差測定手段に相当する。また、電流測定装置40が電流測定手段に相当する。また、ステップS3の処理を行う電池コントローラ30が、負極電位降下量算出手段に相当する。また、ステップS4の処理を行う電池コントローラ30が、補正値算出手段に相当する。また、S5の処理を行う電池コントローラ30が、判定手段に相当する。また、ステップS7の処理を行う電池コントローラ30が、制御手段に相当する。
【0078】
(充電試験)
次に、参照極含有リチウムイオン二次電池100の充電試験について説明する。具体的には、3つの二次電池100(サンプル電池A〜Cとする)を用意し、これらの電池100をSOC60%の状態とした。その後、これらの電池について、0℃の温度環境下でパルス充電サイクル試験を行って、負極156にLi金属が析出したか否かを調査した。
【0079】
なお、パルス充電サイクルは、10秒間の休止状態の後、10秒間、一定の充電電流値Iで充電を行い、その後、10秒間休止するサイクルを1サイクルとしている(図12参照)。また、サンプル電池Aでは、充電電流値Iを5Cとした。サンプル電池Bでは、充電電流値Iを25Cとした。サンプル電池Cでは、充電電流値Iを35Cとした。
【0080】
また、サンプル電池A〜Cについて、パルス充電中、電位差測定装置50によって、二次電池100の負極156と参照極170との間の電位差実測値Dを測定した。なお、電位差実測値Dとして、負極156の電位から参照極170の電位を差し引いた値を測定している。この結果を図12に示す。
【0081】
図12に示すように、充電電流値Iを5Cとしたサンプル電池Aでは、充電中、電位差実測値Dが−3.43Vを下回ることがなかった。一方、充電電流値Iを25Cとしたサンプル電池B、及び、充電電流値Iを35Cとしたサンプル電池Cでは、充電中、電位差実測値Dが−3.43Vを下回った。
【0082】
パルス充電サイクル試験後、サンプル電池A〜Cについて、負極156にLi金属が析出したか否かを調査した。その結果、サンプル電池Aとサンプル電池Bでは、負極156にLi金属が析出していなかった。一方、サンプル電池Cでは、負極156にLi金属が析出していた。
【0083】
以上の結果をまとめると、充電中、電位差実測値Dが−3.43Vを下回ることがなかったサンプル電池Aでは、負極156にLi金属が析出しなかった。すなわち、負極156の電位がLi電位を下回ることがなかった。反対に、電位差実測値Dが−3.43Vを下回ったサンプル電池Cでは、負極156にLi金属が析出した。すなわち、負極156の電位がLi電位を下回った。
【0084】
ところが、サンプル電池Bでは、電位差実測値Dが−3.43Vを下回ったにも拘わらず、負極156にLi金属が析出しなかった。すなわち、電位差実測値Dが−3.43Vを下回ったにも拘わらず、負極156の電位(真の電位)がLi電位を下回らなかった。
【0085】
以上の結果より、特許文献1のように、「Liに対する負極の電位が負となる値に相当する値」であるか否かを判定するための判定基準として、負極156と参照極170との間の電位差実測値Dを用いるのは適切でないといえる。すなわち、負極156と参照極170との間の電位差実測値Dに基づいて、負極156の電位がLi電位を下回っているか否かを判定するのは適切でないといえる。
【0086】
その理由は、電位差実測値Dは、負極156の電位(真の値)と参照極170の電位と差(真の電位差の値)ではなく、負極電位から負極電位降下量Eだけ小さくなった値と参照極電位との差の値となるからである。具体的には、負極156の電位から参照極170の電位を差し引いた電位差実測値Dは、真の電位差(D+E)よりも負極電位降下量Eの分だけ小さい値となるからである(図13参照)。
【0087】
また、サンプル電池Bについて、パルス充電中、電位差実測値Dに負極電位降下量Eを加算することによって電位差実測値Dを補正した補正値(D+E)を算出した。その結果を、電位差実測値Dと共に、図13に示す。なお、負極電位降下量Eは、前述のように、負極156の直流抵抗値Rに充電電流値Iを乗じることによって算出している。
【0088】
前述のように、電位差実測値Dに負極電位降下量Eを加算して得た補正値(D+E)が、負極156と参照極170との間の真の電位差の値であるから、負極156の電位がLi電位を下回ったか否か(すなわち、Liに対する負極156の電位が0Vを下回ったか否か)は、補正値(D+E)が−3.43Vを下回ったか否かで判断するのが適当であると考える。
【0089】
そこで、図13を検討すると、サンプル電池Bでは、充電中、電位差実測値Dは−3.43Vを下回ったが、補正値(D+E)は、−3.43Vを下回っていなかった。この結果より、負極156の電位がLi電位を下回ったか否か(すなわち、Liに対する負極156の電位が0Vを下回ったか否か)は、補正値(D+E)が−3.43Vを下回ったか否かで判断するのが適切であるといえる。これにより、負極156の電位がLi電位を下回っているか否かを、精度良く判定することができるといえる。
【0090】
(電位差測定試験)
次に、参照極170と負極156との電位差を測定することにより、金属酸化物膜172の好ましい厚みを調査した。
具体的には、まず、金属酸化物膜172の平均厚みを、10μm、12μm、20μm、30μmと異ならせた4つの二次電池100を用意した。そして、これらの電池を、それぞれ、SOC50%に調整して休止状態とし、この休止状態で、参照極170と負極156との電位差を測定した。その結果を図14に示す。
【0091】
なお、この試験では、電位差測定装置により、参照極170の電位から負極156の電位を差し引いた値(電位差)を測定した。但し、この試験では、休止状態で電位差を測定しているので、負極156の直流抵抗による電位降下は生じていないと考えることができる。
【0092】
また、二次電池100をSOC50%にした状態では、負極156の電位は、0.09Vとなることがわかっている。また、参照極170は、SOC50%に調整されているので、参照極170の電位は3.43Vとなる。従って、SOC50%にした二次電池100では、理論上、電位差=3.43−0.09=3.34Vとなる。従って、SOC50%の状態で、電位差の値が3.34Vとなる二次電池100が、理想的な電池となる。
【0093】
また、金属酸化物膜172の平均厚みとしては、例えば、参照極170の軸線方向(図8において左右方向)について10カ所の異なる測定位置(軸線方向について金属酸化物膜172の一端から他端にわたって等間隔に並ぶ測定位置)において金属酸化物膜172の厚みを測定し、この10カ所の測定値の平均値を用いることができる。
【0094】
図14の結果を検討すると、金属酸化物膜172の平均厚みを、10μmとした二次電池100及び12μmとした二次電池100では、電位差の値が3.34Vとなり、理想的な値を示した。一方、金属酸化物膜172の平均厚みを20μmとした二次電池100では、電位差の値が3.33Vとなり、理想的な値を示さなかった。また、金属酸化物膜172の平均厚みを30μmとした二次電池100では、電位差の値が3.35Vとなり、理想的な値を示さなかった。
【0095】
以上の結果より、金属酸化物膜172の平均厚みは、12μm以下とするのが好ましいといえる。金属酸化物膜172の平均厚みが12μm以下であれば、Liに対する参照極の電位を3.43Vで一定に保つことができ、参照極の電位の個体差(平均厚みの違いによる電位の違い)を無くすことができるといえる。
【0096】
次に、金属酸化物膜172の平均厚みを、7μm、8μm、10μmと異ならせた3つの二次電池100を用意した。そして、これらの電池を、それぞれ、SOC50%に調整して休止状態とし、この休止状態で、参照極170と負極156との電位差を、14日間測定した。その結果を図16に示す。
【0097】
なお、この試験でも、電位差測定装置により、参照極170の電位から負極156の電位を差し引いた値(電位差)を測定した。また、この試験でも、休止状態で電位差を測定しているので、負極156の直流抵抗による電位降下は生じていないと考えることができる。
【0098】
図16の結果を検討すると、金属酸化物膜172の平均厚みを、8μmとした二次電池100及び10μmとした二次電池100では、14日間にわたって、電位差の値が約3.34Vでほぼ一定であった。これに対し、金属酸化物膜172の平均厚みを7μmとした二次電池100では、最初の7日間は、電位差の値が3.34V程度でほぼ一定であったが、それ以降は急激に電位差が低下してしまった。
【0099】
この結果より、金属酸化物膜の平均厚みを8μm以上とすることで、長期間にわたって、参照極の電位を一定に保つことができるといえる。
以上より、金属酸化物膜の平均厚みは、8〜12μmの範囲内の値とするのが好ましいといえる。
【0100】
(加圧試験)
金属線176の周囲に配置した金属酸化物膜172の外面172cは、少なからず凹凸を有するものである。そこで、金属酸化物膜172の外面172cの凹凸寸法差ΔTmaxについて、好ましい範囲を調査した。
【0101】
具体的には、凹凸寸法差ΔTmaxを、1μm、3μm、5μm、10μmと異ならせた4つの参照極170を用意した。そして、それぞれの参照極170を、2枚のセパレータの間に配置した状態で、負極156上に配置した。このようにして、セパレータ、参照極170、セパレータ、負極の順に積層された積層体を、4つ(凹凸寸法差ΔTmaxのみが異なる4つの積層体)用意した。
【0102】
次いで、4つの積層体について、積層体の積層方向について拘束荷重(圧縮力)を加えつつ、公知の抵抗測定装置を用いて、参照極170と負極156との間の抵抗値を測定した。具体的には、積層体の積層方向についての拘束荷重(圧縮力)を徐々に上昇してゆき、拘束荷重(kgf)に対する抵抗値(kΩ)を調査した。その結果を図15に示す。
【0103】
図15に示すように、凹凸寸法差ΔTmaxを1μmとした場合は、拘束荷重(kgf)を350kgfまで上昇させていっても、抵抗値(kΩ)は大きく変動しなかった。詳細には、60〜80kΩの範囲内を維持した。凹凸寸法差ΔTmaxを1μmとした場合に、金属酸化物膜172の凸部172dによってセパレータが突き破られることがなく、セパレータによって参照極170と負極156との間の電気的絶縁が維持されていることを確認できた。
【0104】
また、凹凸寸法差ΔTmaxを3μmとした場合も、拘束荷重(kgf)を350kgfまで上昇させていっても、抵抗値(kΩ)は大きく変動しなかった。詳細には、50〜70kΩの範囲内を維持した。凹凸寸法差ΔTmaxを3μmとした場合に、金属酸化物膜172の凸部172dによってセパレータが突き破られることがなく、セパレータによって参照極170と負極156との間の電気的絶縁が維持されていることを確認できた。
【0105】
これに対し、凹凸寸法差ΔTmaxを5μmとした場合は、拘束荷重(kgf)を250kgfにまで上昇させると、抵抗値(kΩ)が急激に低下した。さらに、拘束荷重(kgf)を350kgfにまで上昇させると、抵抗値は0kΩとなった。つまり、参照極170と負極156との間が短絡した。金属酸化物膜172の凸部172dがセパレータを突き破り、参照極170と負極156との間が短絡していることが確認できた。
【0106】
また、凹凸寸法差ΔTmaxを10μmとした場合は、拘束荷重(kgf)を50kgfにまで上昇させると、抵抗値(kΩ)が急激に低下した。さらに、拘束荷重(kgf)を100kgfにまで上昇させると、抵抗値は0kΩとなった。つまり、参照極170と負極156との間が短絡した。金属酸化物膜172の凸部172dがセパレータを突き破り、参照極170と負極156との間が短絡していることが確認できた。
【0107】
以上の結果より、金属酸化物膜172の外面172cの凹凸寸法差ΔTmaxを、3μm以下とすることで、二次電池100において、参照極170と負極156との間が短絡する不具合を防止することができるといえる。例えば、二次電池100の使用時に、扁平捲回電極体150に圧縮応力がかかった場合でも、金属酸化物膜172の凸部172dが扁平捲回電極体150のセパレータ157を突き破り、参照極170と負極156との間が短絡する不具合を防止できる。
【0108】
以上において、本発明を実施形態に即して説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0109】
例えば、実施形態では、ステップS7において、充電電流値を低減させる制御を行っているが、充電を停止させる制御を行って、当該充電を終了するようにしても良い。
【0110】
また、実施形態では、電位差実測値Dとして、負極156の電位から参照極170の電位を差し引いた値を実測したが、参照極170の電位から負極156の電位を差し引いた値を実測するようにしても良い。この場合、二次電池100の充電中に、電位差実測値Dから負極電位降下量Eを差し引くことにより、電位差実測値Dを補正した補正値を算出する。さらに、当該充電中に、当該補正値が3.43Vより大きいか否かを判定する。そして、当該補正値が3.43Vより大きいと判定された場合、当該充電中に、充電電流値を低減させるまたは当該充電を停止させる制御を行う。
【符号の説明】
【0111】
1 ハイブリッド自動車
6 電池システム
10 組電池
30 電池コントローラ(負極電位降下量算出手段、補正値算出手段、判定手段、制御手段)
40 電流測定装置(電流測定手段)
50 電位差測定装置(電位差測定手段)
100 参照極含有リチウムイオン二次電池
101 リチウムイオン二次電池
140 非水電解液
150 扁平捲回電極体
150b 平坦部
150c 第1弧状部
150d 第2弧状部
155 正極
156 負極
157 セパレータ
170 参照極
172 金属酸化物膜
172d 凸部
172f 凹部
176 金属線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極、及び、参照極を有する、参照極含有リチウムイオン二次電池、を備える
電池システムにおいて、
上記負極と上記参照極との間の電位差の実測値である電位差実測値Dを測定する電位差測定手段と、
上記二次電池の充電中に、充電電流値Iを測定する電流測定手段と、
上記二次電池の充電中に、上記負極の直流抵抗によって生じる負極電位降下量Eを算出する負極電位降下量算出手段であって、予め上記電池システムに記憶させておいた上記負極の直流抵抗値Rに、上記充電電流値Iを乗じることによって、上記負極電位降下量Eを算出する負極電位降下量算出手段と、
上記負極電位降下量Eによって上記電位差実測値Dを補正した補正値を算出する補正値算出手段であって、
上記電位差測定手段が、上記電位差実測値Dとして、上記負極の電位から上記参照極の電位を差し引いた値を実測する場合、当該充電中に、当該電位差実測値Dに上記負極電位降下量Eを加算することにより、当該電位差実測値Dを補正した補正値を算出する、または、
上記電位差測定手段が、上記電位差実測値Dとして、上記参照極の電位から上記負極の電位を差し引いた値を実測する場合、当該充電中に、当該電位差実測値Dから上記負極電位降下量Eを差し引くことにより、当該電位差実測値Dを補正した補正値を算出する
補正値算出手段と、
当該充電中に、上記補正値が、Liに対する上記負極の電位が負となる値に相当する値である否かを判定する判定手段と、
上記補正値が、Liに対する上記負極の電位が負となる値に相当する値であると判定された場合、当該充電中に、充電電流値を低減させるまたは当該充電を停止させる制御を行う制御手段と、を備える
電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の電池システムであって、
前記二次電池は、前記正極、前記負極、及びセパレータを扁平形状に捲回してなる扁平捲回電極体を有し、
上記扁平捲回電極体は、平坦部と、上記平坦部の一方端に隣接する第1弧状部と、上記平坦部の他方端に隣接する第2弧状部と、を有し、
前記参照極は、上記第1弧状部または上記第2弧状部に配置されてなる
電池システム。
【請求項3】
請求項2に記載の電池システムであって、
前記参照極は、二層共存領域を有する金属酸化物を含む金属酸化物膜が、金属線の周囲に形成された構成を有し、
上記金属酸化物膜の平均厚みは、8〜12μmの範囲内であり、
上記金属酸化物膜の外面において最も外側に突出している凸部と最も内側に窪んでいる凹部との凹凸寸法差は、3μm以下である
電池システム。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の電池システムであって、
前記参照極は、
LiFePO4で表される金属酸化物を有し、
SOC50%の充電状態に設定されてなり、
前記電位差測定手段は、
前記二次電池の充電中に、前記電位差実測値Dとして、上記負極の電位から前記参照極の電位を差し引いた値を測定し、
前記補正値算出手段は、
上記二次電池の充電中に、上記電位差実測値Dに前記負極電位降下量Eを加算することにより、上記電位差実測値Dを補正した補正値を算出し、
前記判定手段は、
上記二次電池の充電中に、上記補正値が−3.43V未満であるか否かを判定し、
前記制御手段は、
上記補正値が−3.43V未満であると判定された場合、当該充電中に、充電電流値を低減させるまたは当該充電を停止させる制御を行う
電池システム。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の電池システムであって、
複数のリチウムイオン二次電池を電気的に直列に接続してなる組電池を備え、
上記組電池は、当該組電池を構成する複数の上記二次電池の1つとして、前記参照極含有リチウムイオン二次電池を有する
電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−54939(P2013−54939A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192707(P2011−192707)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】