説明

非水電解質電池用集電体、非水電解質電池用電極体及びその製造方法、並びに非水電解質電池

【課題】非水電解質電池に用いられる集電体で、成膜過程に起因する集電体の反りを防止でき、成膜後に集電体の外周縁部の切断等の作業が不要である集電体を提供する。
【解決手段】非水電解質電池用集電体100は、金属箔で形成され、少なくとも片面に電極層が成膜されて電極体2を構成する基体部20と、その基体部20から引き出される集電用のリード部30とを備える。基体部20とリード部30とは一体形成されている。基体部は、電極層が成膜される成膜領域21と、その基体部20の外周縁から内側に向かって成膜領域21までの幅が1.5mm以下の余尺領域22とを備えており、その余尺領域22は、成膜時に集電体100を保持する集電体ホルダ200に対する位置決め用に、複数の切欠部23を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質電池用集電体、非水電解質電池用電極体及びその製造方法、並びに非水電解質電池に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯機器といった比較的小型の電気機器の電源に非水電解質電池が利用されている。この非水電解質電池は、集電機能を有する集電体の上に、正極層と負極層、及びこれら電極層の間に配される電解質層とを備える。このような非水電解質電池の代表例として、正極層と負極層との間で電解質層を介してリチウムイオンをやり取りすることによって充放電を行うリチウムイオン二次電池(以下、単にリチウム二次電池と呼ぶ)が挙げられる。
【0003】
このリチウム二次電池を作製するには、集電体の上に、正極層を形成した正極体を作製し、その正極体の上に、さらに固体電解質層、負極層、負極集電体を順次形成すると良い。特許文献1には、この電池を構成する各層を気相法(例えばスパッタリング法や真空蒸着法等)により形成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009‐163993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術では、各層の形成方法(気相法による成膜)は確立されているが、その成膜方法で成膜を行うにあたり、被成膜基板である集電体の保持方法等の詳細は十分には検討されていない。
【0006】
所定の寸法の集電体の上に電極層を気相法により成膜すると、その成膜過程に起因する圧縮方向又は引張方向の膜応力が発生し、成膜した集電体に反りが発生する。よって、その反りの発生を防止するために、集電体をその変形を防止するホルダ等で保持して成膜を行うことが考えられる。そのホルダの形状として、例えば、集電体上で電極層が成膜される成膜領域を露出させて外周縁部を保持する枠体が挙げられる。この枠体を2つ用意し、2つの枠体で集電体を挟み込み、成膜を行うことで集電体の反りを防止することができる。
【0007】
しかし、集電体をホルダに保持するために、集電体の外周縁部にその保持箇所となる余尺を設ける必要がある。保持方法として、ホルダと同じ外寸の集電体を用意し、集電体の余尺と両枠体の各々における互いの重複箇所にボルト孔を形成し、それらのボルト孔にボルトを嵌めて枠体間で集電体の余尺同士を圧接する方法が挙げられる。この場合、集電体のボルト孔は、枠体同士を圧接するボルトが貫通するためと枠体に対する集電体の位置決めのためとに利用することができる。成膜後、ボルト孔を有する余尺を残すと製品寸法が大きくなるため、その余尺を切断する必要があるが、成膜後の切断は、集電体上の成膜領域に成膜された成膜面に影響を及ぼし電池の性能が低下する。また、電極から電気を取り出すためのリード部を集電体に設ける場合、集電体の外寸がホルダの外寸と同じであるため、成膜後に集電体の余尺を切断する際に、所望のリード形状に余尺を切断してリード部を形成する必要がある。もしくは、リード部を集電体とは別途用意し、余尺の切断後に集電体とリード部とを接合する方法も考えられるが、どちらも生産性が悪い。そのため、成膜を行うにあたり、電池の性能や生産性を向上させるために、成膜時の集電体の固定方法等を具体的に確立する必要がある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、非水電解質電池に用いられる集電体で、成膜過程に起因する集電体の反りを防止でき、成膜後に集電体の外周縁部の余尺部の切断等の作業が不要である集電体と、その集電体を用いた電極体及びその製造方法、並びに非水電解質電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意研究した結果、被成膜基板である集電体の形状を改良することで、集電体の余尺を狭くすることができ、成膜後にその余尺の切断等の作業が不要になることを見出した。つまり、本発明の集電体は、初めから最終部品形状として成膜作業が行える。
【0010】
本発明は以上の知見に基づいてなされたものである。以下、本発明について説明する。
【0011】
本発明の非水電解質電池用集電体は、金属箔で形成され、少なくとも片面に電極層が成膜されて電極体を構成する基体部と、その基体部から引き出される集電用のリード部とを備える非水電解質電池用集電体に係るものである。上記基体部と上記リード部とは一体形成されている。上記基体部は、上記電極層が成膜される成膜領域と、その基体部の外周縁から内側に向かって上記成膜領域までの幅が1.5mm以下の余尺領域とを備えており、その余尺領域は、上記成膜時に上記集電体を保持する集電体ホルダに対する位置決め用に、複数の切欠部を有する。
【0012】
本発明の非水電解質電池用集電体によれば、その外周縁部には、集電体ホルダに対する位置決めのための切欠部を複数設け、集電体ホルダの枠体(後述する固定体)同士を接合するためのボルト孔は設けていない。そのため、ボルトを貫通させる程度の大きな孔を集電体に設ける必要がなく、集電体ホルダに保持される余尺領域を狭めることができる。よって、成膜後に余尺領域を切断する必要がなくなり、集電体上の成膜領域に成膜された成膜面に影響を及ぼさず、電池の性能を向上させることができる。
【0013】
この集電体ホルダは、例えば集電体の余尺領域とリード部とを挟む一対の固定体を有しており、この固定体の少なくとも1つは集電体上の成膜領域を露出させる開口部を有し、また少なくとも1つは上記切欠部に嵌る凸部を有する。集電体に設けられた切欠部に上記凸部を嵌めることで、集電体をこの固定体に対して正確に位置決めを行うことができる。集電体の位置決め後、一対の固定体で集電体を挟み、その一対の固定体が接する領域でそれらを圧接することで、集電体を集電体ホルダに対して正確な位置で保持することができる。保持することによって、上記成膜時、成膜した集電体に反りが発生することを防止することができる。
【0014】
また、集電体の基体部とリード部とが一体形成されていることで、本発明の集電体は、成膜後に余尺領域を切断する必要がなく、更に、リード部を集電体とは別途用意して後付けする必要もない。つまり、本発明の集電体は、初めから最終部品形状として成膜作業を行うことができるので、生産性を向上させることができる。
【0015】
本発明の一形態として、上記集電体の厚みが5〜50μmであることが挙げられる。
【0016】
集電体が厚すぎると、非水電解質電池に占める集電体の割合が大きくなり、電池の容量が小さくなることがある。集電体の厚みは薄い程、電池を小型化することができ、この電池を使用した携帯機器の小型化を可能にすることができる。しかし、集電体が薄すぎると機械的強度が小さくなるので、成膜時に集電体を集電体ホルダに保持し難くなる。
【0017】
本発明の一形態として、上記切欠部の平面形状が円状であり、その円状の直径が0.1〜1.5mmであることが挙げられる。
【0018】
切欠部の平面形状が円状のとき、その円状の直径が1.5mm以下であることで、集電体の余尺領域を狭くすることができる。また、その直径が0.1mm以上であることで、切欠部の加工と集電体ホルダに設けられた凸部の加工とが行い易くなる。
【0019】
本発明の一形態として、上記切欠部はエッチングによって形成されていることが挙げられる。
【0020】
切欠部を化学的な腐食を利用したエッチングによって形成することによって、バリや歪みのない高精度な加工で集電体を形成することができる。
【0021】
本発明の一形態として、上記で述べた非水電解質電池用集電体の上に、正極又は負極の一方の電極層を備える形態が挙げられる。
【0022】
本発明の集電体は、初めから最終部品形状として成膜作業を行える基板であるので、その集電体の上に電極層を成膜すると、その電極層は成膜後の基板の切断等の影響を受けることはなく、電池の性能を向上させることができる。
【0023】
本発明の一形態として、上記で述べた非水電解質電池用集電体の上に、順次、正極又は負極の一方の電極層、固体電解質層、他方の電極層を備える形態が挙げられる。
【0024】
本発明の集電体は、初めから最終部品形状として成膜作業を行える基板であるので、その集電体の上に各層を成膜すると、その電極層は成膜後の基板の切断等の影響を受けることはなく、電池の性能を向上させることができる。また、本発明の集電体の上に各層を成膜すれば、その後に加工を行う必要がないため、生産性が向上する。
【0025】
一方、本発明の非水電解質電池用集電体の上に、正極又は負極の一方の電極層を成膜して電極体を構成する非水電解質電池用電極体の製造方法は、次の過程を備えることを特徴とする。
(1)集電体ホルダとして、集電体の余尺領域とリード部とを挟む一対の固定体を有し、この固定体の少なくとも1つは上記成膜領域を露出させる開口部を有し、また少なくとも1つは上記余尺領域に設けられた切欠部に嵌る凸部を有する集電体ホルダを用意する準備過程。
(2)この一対の固定体で上記集電体を挟み、上記切欠部に上記凸部を嵌めて上記集電体と上記固定体との位置を合わせる位置決め過程。
(3)上記一対の固定体同士が接し、上記固定体と上記集電体とが接さない外側領域でその一対の固定体を接合させる接合過程。
(4)上記集電体の上に電極層を気相法により成膜する成膜過程。
(5)成膜後、上記集電体ホルダから上記集電体を取り外す撤去過程。
【0026】
上記製造方法を用いると、初めから最終部品形状とされた集電体に対して成膜作業を行えるので、集電体の上に電極層を成膜した後に加工作業が不要であり、その電極層は切断等の影響を受けることはなく、電池の性能は向上する。
【0027】
また、集電体の余尺領域に集電体ホルダで保持するための構成(例えば、ボルト孔)を設けず、集電体ホルダによる集電体の保持は一対の固定体に集電体を挟み、その固定体を接合するので、集電体の上に成膜後、集電体を集電体ホルダから容易に取り外すことができる。そして、その取り外し後には集電体の切断等の加工は不要であるため、電極体の生産性も向上する。
【0028】
更に、本発明の一形態として、上記固定体の外側領域はボルト孔を複数有し、上記接合過程において、この各ボルト孔にボルトを嵌めて一対の固定体を圧接する形態が挙げられる。
【0029】
この構成によれば、ボルトによる締め付けという簡易な手法にて、確実に両固定体を圧接することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の非水電解質電池用集電体は、成膜過程に起因する集電体の反りを防止でき、成膜後に集電体の外周縁部の余尺領域の切断等の作業が不要であるため、集電体上の成膜領域に成膜された成膜面に影響を及ぼさず、電池の性能を向上させることができる。また、本発明の非水電解質電池用電極体の製造方法は、初めから最終部品形状である集電体に対して成膜作業を行うことができるので、電池の生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施形態に係る非水電解質電池の概略構成図である。
【図2】実施形態に係る本発明の非水電解質電池用集電体の平面図である。
【図3】実施形態に係る本発明の非水電解質電池用電極体の製造方法を示し、(a)は集電体を保持する集電体ホルダの平面図であり、(b)は集電体ホルダに集電体を保持した状態の平面図であり、(c)は集電体ホルダから集電体を取り外した成膜後の集電体の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明についての実施形態を図面に基づいて説明する。図面において同一符号は同一部材を示す。
【0033】
<実施形態>
本発明に係る非水電解質電池1について、図1に基づいて説明する。この非水電解質電池1は、正極集電体11の上に、正極層13、固体電解質層15、負極層14、負極集電体12の順に積層された積層構造を有している。以下、この非水電解質電池1を構成する各構成層について説明する。
【0034】
[各構成部]
(集電体)
図2に示す非水電解質電池用集電体100は、厚さ10μmの金属製の薄板であり、後述する各層を支持する基板の役割を兼ねている。この集電体100は、少なくとも片面に電極層が成膜されて電極体を構成する基体部20と、その基体部20から引き出される集電用のリード部30とを備える。
【0035】
集電体100は、1枚の金属箔からエッチングによって形成されており、基体部20とリード部30とは一体となっている。そのため、基体部20とリード部30の側面と端面には、打ち抜きによって形成した場合にできるバリや歪みなどの切断痕はなく、エッチングによる浸食痕が見られる。基体部20の上に正極層13を成膜する場合、正極集電体11(集電体100)の材質として、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、金(Au)又はこれらの合金もしくはステンレスが挙げられる。一方、基体部の上に負極層14を成膜する場合、負極集電体12(集電体100)の材質として、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、クロム(Cr)又はこれらの合金が挙げられる。
【0036】
本実施例では、基体部20は平面形状が矩形であり、リード部30は基体部20からの引き出し箇所が基体部20の短辺の幅よりも狭い幅の矩形である。基体部20の平面形状は矩形以外に、円形、楕円形、多角形など種々の形状が採用できる。リード部30の形状は、非水電解質電池1の充放電に伴う電流に応じた容量の確保と機械的強度の確保ができれば特に制限はなく、基体部20から電池の端子(図示略)に至る電流経路に応じて、適宜屈曲形状や折り曲げ形状であってもよい。
【0037】
また、基体部20は、電極層が成膜される成膜領域21と、その基体部20の外周縁から内側に向かって成膜領域21までの幅が1.5mm以下の余尺領域22とを備える。図2において、成膜領域21と余尺領域22との境界を破線で図示しているが、実際は、成膜領域21と余尺領域22とは連続する平面である。また、本例では枠状の余尺領域21としているが、基体部20の長辺及び短辺の少なくとも一方に沿った長尺状であっても構わない。そして、余尺領域22は、後述する集電体を保持する集電体ホルダ200に対する位置決め用の切欠部23として、平面形状が直径1.0mmである円孔を複数有する。この切欠部23もエッチングによって形成されており、切欠部23の縁にはエッチングによる浸食痕が見られる。本実施例では、この切欠部23は、余尺領域22の4隅に1箇所ずつと、両短辺中央に1箇所ずつ設けられている。切欠部23の位置と数とは、集電体100を集電体ホルダ200に対して正確に位置決めできれば特に制限はないが、基体部20の形状が矩形の場合、4隅に各1箇所切欠部23を設ける方が好ましい。
【0038】
(正極層)
正極層13(図1参照)は、正極活物質を含む。正極活物質としては、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、及びオリビン型鉄リン酸リチウム(LiFePO4)、から選択される1種のリチウム金属酸化物や、酸化マンガン(MnO2)、などが挙げられる。その他、硫黄(S)や、硫化鉄(FeS)、二硫化鉄(FeS2)、硫化リチウム(Li2S)、及び硫化チタニウム(TiS2)から選ばれる1種の硫化物を用いてもよい。中でも、リチウム金属酸化物、特にLiCoO2は、電子伝導性に優れており、好適である。
【0039】
(負極層)
負極層14(図1参照)は、負極活物質を含む。負極活物質としては、金属リチウム(Li金属単体)又はリチウム合金(Liと添加元素からなる合金)の他、例えばグラファイトなどの炭素(C)や、シリコン(Si)、インジウム(In)が挙げられる。中でも、リチウムを含む材料、特に金属リチウムは、電池の高容量化、高電圧化の点で優位であり、好適である。リチウム合金の添加元素としては、アルミニウム(Al)、シリコン(Si)、錫(Sn)、ビスマス(Bi)、亜鉛(Zn)及びインジウム(In)などを用いることができる。
【0040】
(固体電解質層)
固体電解質層15(図1参照)は、固体電解質で構成されており、リチウムイオン伝導性の高い硫化物系固体電解質で構成されていることが好ましい。硫化物固体電解質としては、Li2S-P2S5系、Li2S-SiS2系、Li2S-B2S3系などが挙げられ、更にP2O5やLi3PO4が添加されてもよい。その他、LiPONなどの酸化物系固体電解質で構成してもよい。
【0041】
これら正極層13、負極層14及び固体電解質層15は、公知の成膜技術、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法及びパルスレーザデポジション(PLD)法といった物理的蒸着(PVD)法や、化学的蒸着(CVD)法といった気相法により形成されている。このような成膜技術を用いて形成することで、各層の薄膜化、ひいては非水電解質電池1の薄型化が可能となる。
【0042】
(その他)
本実施例では図示を省略しているが、正極層13と固体電解質層15との間に、これら両層の界面抵抗を低減する中間層を備えることが好ましい。例えば正極層13の材料に酸化物(例、LiCoO2)、固体電解質層15に硫化物を利用した場合、酸化物と硫化物とが反応し、正極層13と固体電解質層15との界面の界面抵抗が増大することがある。そこで、正極層13と固体電解質層15との界面近傍における両層間の相互拡散を抑制して反応を抑制する中間層を設けることで、界面抵抗を低減することができる。中間層としては、LiNbO3、LiTaO3、Li4Ti5O12、LiXLa(2-X)/3TiO3(X=0.1〜0.5)、Li7+XLa3Zr2O12+(X/2)(-5≦X≦3)、Li3.6Si0.6P0.4O4、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3、Li1.8Cr0.8Ti1.2(PO4)3、Li1.4In0.4Ti1.6(PO4)3などが挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
[非水電解質電池用電極体の製造方法]
次に、上記集電体100の上に、正極層13又は負極層14の一方の電極層を成膜して電極体を構成する非水電解質電池用電極体2の製造方法について、図3に基づいて以下詳細に説明する。
【0044】
≪準備過程≫
成膜時に集電体100を保持する集電体ホルダ200を用意する。集電体100を集電体ホルダ200で保持することによって、集電体100の上に電極層を成膜する際に、後述する成膜過程に起因する膜応力による集電体100の反りを防止する。この集電体ホルダ200について、図3(a)に基づいて説明する。
【0045】
(集電体ホルダ)
集電体ホルダ200は、集電体100の余尺領域22とリード部30とを挟む一対の固定体40a、40bを有している。本実施例では、固定体40a、40bとして、図3(a)に示すように、金属製の薄板でできた2つの枠状の板を用いている。各固定体40a、40bは、ともに集電体100上の成膜領域21を露出させる開口部41が形成されている。集電体ホルダ200に集電体100を挟持したとき、集電体ホルダ200の開口部41以外の領域は、集電体100と接触する領域(内側領域42)と集電体100とは接触せず一対の固定体40a、40bが接触する領域(外側領域43)とに分けられる。図3(a)において、内側領域42と外側領域43との境界を破線で図示しているが、実際は、内側領域42と外側領域43とは連続する平面である。一方の固定体40aの内側領域42には、図2で示す非水電解質電池用集電体100に設けられた6箇所の切欠部23に嵌る凸部44が、4隅に1箇所ずつと、両短辺中央に1箇所ずつ設けられている。凸部44は、固定体40a、40bと集電体100との位置決めさえできればよいので、後述するボルト47ほど太くする必要はなく、ピンなどの細い突片で構成できる。そして、他方の固定体40bの内側領域42には、一対の固定体40a、40bで集電体100を挟持したとき、固定体40aに設けられた凸部44に対向する位置に、その凸部44が嵌り込むことができる凹部45が設けられている。また、2つの固定体40a、40bともに、外側領域43の4隅に1箇所ずつ直径2mmのボルト孔46が設けられている。このボルト孔46は、後述する接合過程において、一対の固定体40a、40bを圧接するためにボルト47を嵌める孔である。ボルト孔47のサイズは、固定体40a、40bの接合に必要な締付力が得られるボルトの径に対応させればよく、例えば直径2〜6mmとすることが挙げられる。このボルト孔46や後述するマグネット等のような固定体の接合機構は、上記外側領域43に設ければよい。
【0046】
本実施例では、開口部41を固定体40a、40bの2つともに設けて、いずれの固定体40a、40bも枠体としたが、開口部41は一対の固定体40a、40bのうち一方の固定体にのみ設けて、他方の固定体は開口部41のない板材でもよい。固定体40a、40bの2つともに開口部41が設けてあると、集電体100の成膜領域21の両面に成膜することが可能である。一方の固定体にのみ開口部41が設けられている場合、一度の成膜で集電体100の片面にしか成膜できないが、集電体100の裏面(成膜されない面)を板材の固定体で支持することで、薄い集電体が波打ったりすることを抑制しやすい。
【0047】
ボルト孔46の位置と数は、一対の固定体40a、40bを圧接することができれば特に制限はないが、集電体ホルダ200の形状が矩形の場合、4隅に各1箇所ボルト孔46を設ける方が均一に圧接できて好ましい。本実施例では、ボルト47による締め付けで一対の固定体40a、40bを圧接するために、集電体ホルダ200の外側領域43にボルト孔46を設けたが、後述する接合過程に応じて、その接合するための構成を備える。例えば、テープやクリップによる接合を行う場合は、集電体ホルダ200には接合のための加工は必要ない。
【0048】
≪位置決め過程≫
次に、図3(b)に示すように、上記の集電体ホルダ200の一対の固定体40a、40bで本発明の非水電解質電池用集電体100を挟む。まず、集電体100に設けられた6つの切欠部23に固定体40aに設けられた6つの凸部44を嵌める。次に、集電体100が備えられた固定体40aに固定体40bを合わせる。その際、固定体40bに設けられた凹部45に凸部44を嵌めこむ。集電体100に設けられた切欠部23に固定体40a、40bの凸部44を嵌めることによって、集電体100と固定体40a、40bとの位置を嵌合部24で合わせる。
【0049】
≪接合過程≫
一対の固定体40a、40bで集電体100を挟んだ状態で、固定体40a、40bが接し、固定体40a、40bと集電体100とが接さない外側領域43でその一対の固定体40a、40bを接合させる。このとき、固定体40a、40bのそれぞれに設けられた凸部44と凹部45とは嵌った状態となっている。接合方法は、固定体40a、40bのボルト孔46にボルト47を嵌めて圧接させる。圧接方法は、ボルト47による締め付け以外にも、一般的な固定方法、例えばマグネットによる磁力を用いた接合やテープによる接合などが採用できる。その際、リード部30も一対の固定体40a、40bで挟んで固定を行う。
【0050】
≪成膜過程≫
本発明の非水電解質電池用集電体100を集電体ホルダ200に保持したら、集電体100の成膜領域21に電極層を気相法により成膜する。本実施例においては、開口部41を有した2つの固定体40a、40bで集電体100を挟み込んで保持しているので、集電体100の両面の成膜領域21に成膜することが可能である。その成膜手順は、まず集電体100の一方の面に正極層13を成膜し、次に集電体100の他方の面に正極層13を成膜する。以後、残りの層についても成膜するのであれば、集電体100の一方の面と他方の面に各層を交互に順次成膜することが挙げられる。もしくは、集電体100の一方の面に正極層13、固体電解質層15、負極層14を順次成膜した後、集電体100の他方の面に正極層13、固体電解質層15、負極層14を順次成膜してもよい。または、集電体100の一方の面と他方の面に同時に正極層13を成膜してもよい。
【0051】
≪撤去過程≫
集電体100の上に正極層13を成膜後、一対の固定体40a、40bを接合していたボルト47を外して、集電体100を集電体ホルダ200から取り外す。取り外した集電体100は、図3(c)に示すように、集電用のリード部30と基体部20の余尺領域22に6箇所の切欠部23とを有して、基体部20の成膜領域21に正極層13が成膜されている。
【0052】
[作用効果]
上記の非水電解質電池用集電体100によれば、集電体100は集電体ホルダ200に対する位置決めのためだけの切欠部23を有することで、集電体ホルダ200に保持される余尺領域22を狭くすることができる。集電体ホルダ200による集電体100の保持は、一対の固定体40a、40bで集電体100を挟み、集電体100と集電体ホルダ200との位置決めは集電体100に設けられた切欠部23で行い、保持は固定体40a、40bの接合で行うので、集電体100への成膜後、集電体100を集電体ホルダ200から容易に取り外すことができる。そして、その取り外し後には、集電体100の余尺領域22を切断する必要がないので、集電体100上の成膜領域21に成膜された成膜面に影響を及ぼさず、電池の性能を向上させることができる。集電体100を集電体ホルダ200で保持する際、集電体100に設けられた切欠部23によって正確な位置で保持することができ、成膜時、成膜した集電体100に反りが発生することを防止することができる。
【0053】
また、集電体100の基体部20とリード部30とが一体形成されていることで、成膜後に集電体100の余尺領域22を切断してリード部30を形成したり、リード部30を集電体100とは別途用意して後付けしたりする必要がない。つまり、本発明の集電体100は、初めから最終部品形状として成膜作業を行うことができるので、生産性を向上させることができる。
【0054】
更に、集電体100に設けた切欠部23は、集電体100の上に、正極又は負極の一方の電極層、固体電解質層、他方の電極層の順に積層された積層構造を複数有する際の組み立ての位置決めとして用いることもできる。
【0055】
上述した実施形態は、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であり、本発明の範囲は上述した構成に限定されるものではない。例えば、非水電解質電池用集電体の余尺領域に設けられた切欠部は、孔の代わりに基体部の外縁から矩形などの切片を除去して形成してもよい。その際、集電体ホルダに設ける凸部の形状は切欠部の形状に適合していることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の非水電解質電池用集電体、非水電解質電池用電極体及びその製造方法、並びに非水電解質電池は、例えば全固体リチウム二次電池の分野に好適に利用することができる。また、本発明の非水電解質電池用集電体を用いた非水電解質電池は、携帯電話、ノートパソコン、デジタルカメラの他、電気自動車などの電源に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 非水電解質電池 2 非水電解質電池用電極体
11 正極集電体 12 負極集電体
13 正極層 14 負極層 15 固体電解質層
100 非水電解質電池用集電体
20 基体部 30 リード部
21 成膜領域 22 余尺領域 23切欠部 24 嵌合部
200 集電体ホルダ
40a、40b 固定体
41 開口部 42内側領域 43外側領域
44 凸部 45 凹部 46 ボルト孔 47 ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔で形成され、
少なくとも片面に電極層が成膜されて電極体を構成する基体部と、
前記基体部から引き出される集電用のリード部とを備える非水電解質電池用集電体であって、
前記基体部と前記リード部とが一体形成されており、
前記基体部は、
前記電極層が成膜される成膜領域と、
前記基体部の外周縁から内側に向かって前記成膜領域までの幅が1.5mm以下の余尺領域とを備え、
前記余尺領域は、前記成膜時に前記集電体を保持する集電体ホルダに対する位置決め用に、複数の切欠部を有することを特徴とする非水電解質電池用集電体。
【請求項2】
前記集電体の厚みが5〜50μmであることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質電池用集電体。
【請求項3】
前記切欠部の平面形状が円状であり、その円状の直径が0.1〜1.5mmであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の非水電解質電池用集電体。
【請求項4】
前記切欠部はエッチングによって形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の非水電解質電池用集電体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載された集電体の上に、正極又は負極の一方の電極層を備えることを特徴とする非水電解質電池用電極体。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載された集電体の上に、順次、正極又は負極の一方の電極層、固体電解質層、他方の電極層を備えることを特徴とする非水電解質電池。
【請求項7】
基板の上に、正極又は負極の一方の電極層を成膜して電極体を構成する非水電解質電池用電極体の製造方法であって、
前記基板として請求項1〜4のいずれか1項に記載された集電体を用い、
前記集電体ホルダとして、前記余尺領域と前記リード部とを挟む一対の固定体を有し、この固定体の少なくとも1つは前記成膜領域を露出させる開口部を有し、また少なくとも1つは前記切欠部に嵌る凸部を有する集電体ホルダを用意する準備過程と、
この一対の固定体で前記集電体を挟み、前記切欠部に前記凸部を嵌めて前記集電体と前記固定体との位置を合わせる位置決め過程と、
前記一対の固定体同士が接し、前記固定体と前記集電体とが接さない外側領域でその一対の固定体を接合させる接合過程と、
前記集電体の上に電極層を気相法により成膜する成膜過程と、
成膜後、前記集電体ホルダから前記集電体を取り外す撤去過程とを備える非水電解質電池用電極体の製造方法。
【請求項8】
前記固定体の外側領域はボルト孔を複数有し、
前記接合過程において、この各ボルト孔にボルトを嵌めて一対の固定体を圧接することを特徴とする請求項7に記載の非水電解質電池用電極体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−198625(P2011−198625A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−64343(P2010−64343)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】