説明

靴中敷

【課題】中足骨の骨頭部に疲れや痛みを生じさせないようにする。
【解決手段】靴中敷1は、可撓性のある表面シートの裏面に、踵骨27から中足骨26a〜26eに至る領域に対応させてプラスチック板より成る支持基板3と、支持基板3が貼設された領域以外の領域にシート状の弾性材より成る先端部トップカバーとが貼設されている。先端部トップカバーの内面には、第1中足骨26aの骨頭部、拇趾の中足趾節関節25a、および第1趾骨21aの基節骨22aに対応する領域を囲むように、第2〜第5中足骨26b〜26eの骨頭部から第2〜第5趾骨21b〜21eの基節骨22b〜22eに至る領域に対応する領域と、第1趾骨21aの末節骨23aに対応する領域とに、シート状の弾性材6を貼設して、部分的に肉厚が厚い厚肉部15が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、靴やサンダルなどの履物に用いられる靴中敷に関し、特に、自然な歩行を支援して、外反拇趾などの足の障害の発生を防止し得る靴中敷に関する。
【背景技術】
【0002】
人間の歩行のメカニズムは、まず、足の踵が着地し(接床期)、その後、踵部に掛かった重心が前足部へ移動するとともに、第5中足骨の骨頭部から第1中足骨の骨頭部へ移動して安定した立位となり(立脚中期)、その後、中足趾節関節が反るような形態(背屈位)で、主として第1中足骨の骨頭部(拇趾球)を支点として床面を蹴り上げて離床するものである(離床期)。この歩行のメカニズムに沿った理想的な歩行が行われることで、身体各部への負担が少なくなり、種々の障害の発生を防止することができる。
【0003】
しかし、腓腹筋やヒラメ筋が短い、足の関節が硬いなどの理由によって特に足の親指(以下「拇趾」という。)が曲がりにくい人の場合、前記した離床期において、拇趾部分の背屈が力強くかつ円滑に行われ難いため、特に足底筋へ無理な負担がかかり、外反拇趾、アキレス腱炎、足底腱膜や拇趾の魚の目や胼胝などの障害を招くおそれがある。
この問題に鑑み、出願人は先般、自然で理想的な歩行動作を支援して、各種の足の障害の発生を防止するようにした靴中敷を提案した(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4076555号公報
【0005】
この靴中敷は、図5および図6に示すように、可撓性のある表面シート40の裏面に踵骨27から第2〜第5趾骨21b〜21eの基節骨22b〜22eに至る領域に対応させてプラスチック板より成る支持基板30が貼設されたものである。支持基板30は、第2〜第5中足骨26b〜26eの骨頭部から第2〜第5趾骨21b〜21eの基節骨22b〜22eに対応する領域Sは、荷重に対して撓むことが可能なように薄い肉厚に、その他の領域は、荷重を受けても撓まないように厚い肉厚に、それぞれ形成されている。支持基板30は、第1中足骨26aの骨頭部、拇趾の中足趾節関節25a、および第1趾骨21aの基節骨22aに対応する領域が切り欠かれている。表面シート40の裏面には、支持基板30が貼設された領域以外の領域にシート状の弾性材より成る先端部トップカバー50が貼設され、先端部トップカバー50の内面の第1趾骨21aの末節骨23aに対応する領域にシート状の弾性材60が貼設されている。
【0006】
上記した構成の靴中敷10上に足を載せると、支持基板30によって後足部および前足部が支持されるが、拇趾の中足趾節関節25aは切り欠かれた部分で沈み込むので、拇趾部分の背屈、すなわち、拇趾の中足趾節関節25aの反りが支援されて第1中足骨26aの骨頭部による床面の蹴り上げが力強くかつ円滑に行われる。これと連動して第2〜第4中足趾節関節25b〜25dから第2〜第4趾骨21b〜21dの背屈も円滑に行われる。特に、弾性材60が貼設された厚肉部16の存在によって歩行時における拇趾部分の背屈機能が一層高められるので、離床期の運動が円滑となり、歩行運動が一層円滑に行うことができる。この靴中敷によると、立脚中期から離床期までの足の運動が理想的に行われ、自然な歩行動作が実現される。その結果、足の各部へ無理な負担がかからず、特に足底筋に対するストレスが大幅に改善され、外反拇趾、アキレス腱炎、足底腱膜や拇趾の魚の目や胼胝などの障害を引き起こすのが防止される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記した靴中敷10において、プラスチック板より成る支持基板30は硬くて柔軟性がないうえ、第2〜第5中足骨26b〜26eの骨頭部から第2〜第5趾骨21b〜21eの基節骨22b〜22eに対応する領域Sは肉厚が薄いので、歩行の際の衝撃や振動は、支持基板30によって吸収されることがなく、第2〜第5中足骨26b〜26eの骨頭部に伝わる結果、第2〜第5中足骨26b〜26eの骨頭部に疲れと痛みとを発生させるおそれがある。
【0008】
この発明は、上記した問題を解決するためになされたもので、歩行の際の衝撃や振動を吸収して中足骨の骨頭部へ伝わらないようにすることにより、中足骨の骨頭部に疲れや痛みを生じさせるおそれがない靴中敷を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明による靴中敷は、可撓性のある表面シートの裏面に、踵骨から中足骨に至る領域に対応させてプラスチック板より成る支持基板と、支持基板が貼設された領域以外の領域にシート状の弾性材より成る先端部トップカバーとが貼設されたものである。前記先端部トップカバーの内面には、第1中足骨の骨頭部、拇趾の中足趾節関節、および第1趾骨の基節骨に対応する領域を囲むように、第2〜第5中足骨の骨頭部から第2〜第5趾骨の基節骨に至る領域に対応する領域と、第1趾骨の末節骨に対応する領域とに、シート状の弾性材を貼設して、部分的に肉厚が厚い厚肉部が形成されている。
【0010】
この発明による靴中敷上に足を載せると、支持基板によって後足部および前足部が支持されるが、拇趾の中足趾節関節は沈み込むので、拇趾部分の背屈、すなわち、拇趾の中足趾節関節の反りが支援されて第1中足骨の骨頭部による床面の蹴り上げが力強くかつ円滑に行われる。これと連動して第2〜第4中足趾節関節から第2〜第4趾骨の背屈も円滑に行われる。そのうえ、表面シートの裏面の第1趾骨の末節骨に対応する領域に弾性材が貼設されているので、その厚肉部によって歩行時における拇趾部分の背屈機能が一層高められ、離床期の運動が円滑となり、歩行運動が一層円滑に行うことができる。これにより立脚中期から離床期までの足の運動が理想的に行われ、自然な歩行動作が実現される。その結果、足の各部へ無理な負担がかからず、特に足底筋に対するストレスが大幅に改善され、外反拇趾、アキレス腱炎、足底腱膜や拇趾の魚の目や胼胝などの障害を引き起こすことがない。
しかも、表面シートの裏面の第2〜第5中足骨の骨頭部から第2〜第5趾骨の基節骨に至る領域に対応する領域に弾性材が貼設されているので、その厚肉部分によって歩行の際の衝撃や振動が吸収されて第2〜第5中足骨の骨頭部に伝わらず、第2〜第5中足骨の骨頭部に疲れや痛みを発生させるおそれがない。
【0011】
この発明の好ましい実施態様においては、前記弾性材は、第2〜第5中足骨の骨頭部から第2〜第5趾骨の基節骨に至る領域に対応する領域に貼設される部分と第1趾骨の末節骨に対応する領域に貼設される部分とが連続しているが、これに限らず、第2〜第5中足骨の骨頭部から第2〜第5趾骨の基節骨に至る領域に対応する領域に貼設される部分と第1趾骨に対応する領域に貼設される部分とが分離していてもよい。
【0012】
この発明のさらに好ましい実施態様においては、前記弾性材は、高密度マイクロセルウレタンフォーム(商標名「ポロン」)が用いられる。この弾性材は、高密度で、極めて微細であり、かつ均一なセル構造をもった発泡体であるから、圧縮残留歪(ヘタリ)が小さく、衝撃や振動を素早く吸収する。なお、弾性材は、高密度マイクロセルウレタンフォームに限らず、EVAスポンジや高密度マイクロセルウレタンフォームを含むスポンジなどを用いることもできる。
【発明の効果】
【0013】
この発明によると、自然で理想的な歩行動作を支援することができ、その結果、足の各部へ無理な負担がかかるのを防止でき、特に足底筋に対するストレスが大幅に改善され、外反拇趾、アキレス腱炎、足底腱膜や拇趾の魚の目や胼胝などの障害の発生を防止できる。また、歩行の際の衝撃や振動を吸収して中足骨の骨頭部へ伝わらないようにするので、中足骨の骨頭部に疲れや痛みを生じさせるおそれがない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の一実施例である靴中敷の背面図である。
【図2】図1の実施例の外形を足の骨格とともに示した平面図である。
【図3】図1の実施例の先端部トップカバーを剥がした状態の背面図である。
【図4】図1のA−A線に沿う断面図である。
【図5】従来の靴中敷の背面図である。
【図6】従来の靴中敷の外形を足の骨格とともに示した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、この発明の一実施例である靴中敷1を裏面から見た外観を示している。また、図2は、靴中敷の外形(一点鎖線で示す。)を足2の骨格とともに示したものである。図2において、21a〜21eは第1〜第5趾骨、22a〜22eおよび23a〜23eは第1〜第5趾骨21a〜21eの基節骨および末節骨、24b〜24eは第2〜第5趾骨21b〜21eの中節骨、25a〜25eは第1〜第5中足趾節関節、26a〜26eは第1〜第5中足骨、27は踵骨である。なお、図示の靴中敷1は右足用であるが、左足用についても同様の構成であり、ここでは図示並びに説明を省略する。
【0016】
図示例の靴中敷1は、図1、図3、および図4に示すように、可撓性のある柔軟な表面シート4の裏面に可撓性のない支持基板3と柔軟で弾力性のある先端部トップカバー5とが貼設されたものである。この実施例の表面シート4は人工皮革をもって靴の中底面の外形に沿う形状に形成されているが、荷重を受けて適度に撓む柔軟なものであれば、表面シート4の材質は問わない。
【0017】
前記支持基板3は、硬質のプラスチック板により足2の踵骨27から第1〜第5中足骨26a〜26eに至る領域に対応する大きさおよび形状に形成されている。支持基板3の前端縁に沿う領域は撓み易くするためにやや薄い肉厚に形成され、その他の領域は荷重を受けても容易に撓まないように厚い肉厚に形成されている。
【0018】
支持基板3の踵部位置には、円形の貫通孔13が形成されるとともに、この貫通孔13には円板状の踵支持板14が嵌め込まれて表面シート4に接合されている。前記踵支持板14は、足の踵を支持するためのもので、この踵支持板14として後述する先端部トップカバー5と同じ材質の弾性材が用いてある。踵支持板14は足の荷重により踵の形状に沿って貫通孔13内で圧縮変形するので、踵は貫通孔13内に嵌った状態で安定支持される。
【0019】
前記先端部トップカバー5は、シート状の弾性材より成るもので、表面シート4の裏面の支持基板3が貼設された領域以外の領域、すなわち、第1〜第5中足骨26a〜26eから爪先に至る領域に貼設されている。この実施例では、弾性材として、高密度マイクロセルウレタンフォーム(商標名「ポロン」)を用いているが、これに限らず、低反発弾性ウレタンフォームのようなポリウレタン樹脂を組成とした発泡体を用いることもできる。
【0020】
先端部トップカバー5の裏面には、第1中足骨26aの骨頭部、拇趾の中足趾節関節25a、および第1趾骨21aの基節骨22aに対応する領域を囲むように、第2〜第5中足骨26b〜26eの骨頭部から第2〜第5趾骨21b〜21eの基節骨22b〜22eに至る領域に対応する領域と、第1趾骨21aの末節骨23aに対応する領域とに、一連のシート状の弾性材6を貼設して、部分的に肉厚が厚い厚肉部15が形成されている。靴中敷1上に足を載せたとき、厚肉部15により囲まれた領域において、拇趾の中足趾節関節25aが沈み込むようになっている。
【0021】
上記した構成の靴中敷1上に足を載せると、支持基板3によって後足部および前足部が支持されるが、拇趾の中足趾節関節25aは沈み込むので、拇趾部分の背屈、すなわち、拇趾の中足趾節関節25aの反りが支援されて第1中足骨26aの骨頭部による床面の蹴り上げが力強くかつ円滑に行われる。これと連動して第2〜第4中足趾節関節25b〜25dから第2〜第4趾骨21b〜21dの背屈も円滑に行われる。そのうえ、表面シート4の裏面の第1趾骨21aの末節骨23aに対応する領域に弾性材6が貼設されているので、その厚肉部15によって歩行時における拇趾部分の背屈機能が一層高められ、離床期の運動が円滑となり、歩行運動が一層円滑に行うことができる。これにより立脚中期から離床期までの足の運動が理想的に行われ、自然な歩行動作が実現される。その結果、足の各部へ無理な負担がかからず、特に足底筋に対するストレスが大幅に改善され、外反拇趾、アキレス腱炎、足底腱膜や拇趾の魚の目や胼胝などの障害を引き起こすことがない。
【0022】
しかも、表面シート4の裏面の第2〜第5中足骨26b〜26eの骨頭部から第2〜第5趾骨21b〜21eの基節骨22b〜22eに至る領域に対応する領域に弾性材6が貼設されているので、その厚肉部15によって歩行の際の衝撃や振動が吸収されて第2〜第5中足骨26b〜26eの骨頭部に伝わらず、第2〜第5中足骨26b〜26eの骨頭部に疲れや痛みを発生させるおそれがない。
この実施例では、前記シート状の弾性材6として、高密度マイクロセルウレタンフォーム(商標名「ポロン」)が用いられているので、圧縮残留歪(ヘタリ)が小さく、衝撃や振動を素早く吸収する作用がある。
【符号の説明】
【0023】
1 靴中敷
3 支持基板
4 表面シート
5 先端部トップカバー
6 弾性材
15 厚肉部
2 足
25a 拇趾の中足趾節関節
21a〜21e 第1〜第5趾骨
22a〜22e 第1〜第5基節骨
23a〜23e 第1〜第5末節骨
25a〜25e 第1〜第5中足趾節関節
26a〜26e 第1〜第5中足骨
27 踵骨

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性のある表面シートの裏面に、踵骨から中足骨に至る領域に対応させてプラスチック板より成る支持基板と、支持基板が貼設された領域以外の領域にシート状の弾性材より成る先端部トップカバーとが貼設されており、前記先端部トップカバーの内面には、第1中足骨の骨頭部、拇趾の中足趾節関節、および第1趾骨の基節骨に対応する領域を囲むように、第2〜第5中足骨の骨頭部から第2〜第5趾骨の基節骨に至る領域に対応する領域と、第1趾骨の末節骨に対応する領域とに、シート状の弾性材を貼設して部分的に肉厚が厚い厚肉部が形成されて成る靴中敷。
【請求項2】
前記弾性材は、第2〜第5中足骨の骨頭部から第2〜第5趾骨の基節骨に至る領域に対応する領域に貼設される部分と第1趾骨の末節骨に対応する領域に貼設される部分とが連続している請求項1に記載された靴中敷。
【請求項3】
前記弾性材は、高密度マイクロセルウレタンフォームである請求項1または2に記載された靴中敷。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−5637(P2012−5637A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−143761(P2010−143761)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(503370723)株式会社トータルヘルスケア (9)
【Fターム(参考)】