説明

靴底および靴底の製造方法

【課題】外観性を改善させ、コストダウンを達成させ、ラバーパーツと熱可塑性樹脂との接着性を向上させ、品質を安定させ、機能性をより向上させた靴底の製造方法および靴底を提供する。
【解決手段】あらかじめ少なくとも部分的に架橋成形されたラバーパーツに、熱可塑性樹脂をオーバーモールドすることにより、前記ラバーパーツと前記熱可塑性樹脂を架橋接着することを特徴とする靴底の製造方法およびその製造方法によって得られた靴底に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は靴底の製造方法およびその製造方法によって得られた靴底に関する。
【背景技術】
【0002】
靴底の成形用素材としては、各種のものが公知である。たとえば、特許文献1には、ゴムの表面をハロゲン化した後、このハロゲン化したゴムの表面にポリウレタンエラストマーやポリアミドエラストマーなどの熱可塑性プラスチックを圧縮成形または射出成形で多色成形する運動靴のソールの製造方法が開示されている。
【0003】
しかし特許文献1に開示されている方法では、加硫成形したゴムの表面にプライマーあるいはハロゲン化などの前処理という二次的な表面活性化処理が必要となるため工程数が煩雑となり生産性がよくなかった。
【0004】
特許文献2には、熱可塑性マトリックスの中に微粒子状態で分散したゴムを動的加硫して得られる熱可塑性エラストマー(TPV)に、熱可塑性プラスチック材料が接着した複合製品、すなわち、熱可塑性プラスチックとTPVとからなる物品に関する発明が開示されている。さらに、インサート成形または2色射出成形による靴として、耐疲労性が高く、変形ヒステリシスが低く、低温特性に優れたポリエーテルエステルアミド製のソール(靴底)の上に、TPVアロイ(熱可塑性プラスチック/ゴムアロイ)を射出するインサート成形による、靴底の成形が開示されている。
【0005】
特許文献3では、ポリエーテルアミド、ポリエーテルエステル、ポリウレタンよりなる群の中から選択される軽量化されていない熱可塑性プラスチックから成る密な材料上に接着される軽量化された熱可塑性エラストマーを含む組成物の2層物品からなる靴底が開示されている。
【0006】
しかし特許文献3に開示されるように、ポリエーテルアミド、ポリエーテルエステル、ポリウレタンよりなる群の中から選択される軽量化されていない熱可塑性プラスチックから成る密な材料上に接着される、軽量化された熱可塑性エラストマーを含む組成物の2層物品からなる靴底では、軽量化された熱可塑性エラストマー自体の耐久性が低いため、製品の靴底自体の耐久性能が低下する可能性がある。
【0007】
特許文献4では、カルボン酸基を含む加硫したエラストマーを、ブロックを含む熱可塑性ポリマーと組み合わせて得られる複合構造物と、熱可塑性ポリマー上でエラストマーを加硫する運動靴の靴底の製造方法が開示されている。
【0008】
しかし特許文献4では、カルボン酸基を含む加硫したエラストマーと、ブロックを含む熱可塑性ポリマーとを組み合わせて得られる複合構造物が開示されている。熱可塑性ポリマー上でエラストマーを加硫する運動靴の靴底を製造方法が開示されているものの、具体的に靴底の製造方法については詳細に記載されていない。しかしながら、たとえばプレス成形を採用した場合には、熱可塑性ポリマー上にゴムのバリ(被膜)が形成され、外観上からも製品化できないなどの問題点を有する。
【0009】
さらに、これら前述の靴底の製造方法では、熱可塑性エラストマーシートに、熱変形温度以上の成型温度がかかるため、脱型後、熱変形と冷却時の変形が残ることになる。これらを防ぐには、本底用射出成形金型に冷却装置が必要となるため、非常に高価で複雑な設備を設置する必要があり、製造コストの点からも割高になる問題点を有していた。そのため、耐久性が良好で靴底の素材として適度な硬度と可撓性、クッション性やトラクション性を有し、しかも生産性の良好な製造コストの安価な靴底や靴底の製造方法が望まれていた。
【0010】
また、特許文献5には、熱硬化性弾性体で形成されたラバーと熱可塑性エラストマーで形成された接着層とを同時一体成形した後、熱可塑性エラストマーで形成された靴底本体である基部を射出成形することにより、接着層と同時一体成形した三層構造の靴底、および、その三層構造の靴底の製造方法が開示されている。
【0011】
しかし特許文献5に開示された三層構造の靴底は、ラバーと基部との間に接着層を介在するため、ラバーと基部との接着性は充分に向上され、しかも接着力のばらつきも大幅に減少したものであるが、金型冷却工程が必要であるため、工程が煩雑であり製造コストアップに繋がった。
【特許文献1】特開平8−294933号公報
【特許文献2】特開平7−195622号公報
【特許文献3】特表平8−505333号公報
【特許文献4】特表平8−511741号公報
【特許文献5】特開2000−41702号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上述した従来技術の問題点を克服し、外観性をさらに改善させ、コストダウンをさらに達成させ、ラバーパーツと熱可塑性樹脂との接着性を向上させ、品質を安定させ、機能性をより向上させた靴底の製造方法および靴底を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するために、本発明は以下の構成からなる靴底の製造方法およびそれを使用して製造された靴底を見出したものである。
【0014】
本発明は、あらかじめ少なくとも部分的に架橋成形されたラバーパーツに、熱可塑性樹脂をオーバーモールドすることにより、前記ラバーパーツと前記熱可塑性樹脂を架橋接着することを特徴とする靴底の製造方法に関する。
【0015】
前記オーバーモールドは射出成形によって行うことが好ましい。
前記ラバーパーツは過酸化物架橋されていることが好ましい。
【0016】
前記ラバーパーツは前記熱可塑性樹脂と相溶性の高い樹脂を含むことが好ましい。
前記熱可塑性樹脂および該熱可塑性樹脂と相溶性の高い樹脂がポリアミド樹脂、ポリアミドエラストマー、ポリウレタン樹脂およびポリウレタンエラストマーからなる群から選ばれた1種以上の化合物を含むことが好ましい。
【0017】
前記ラバーパーツのゴム成分はカルボキシル化アクリルニトリル−ブタジエンゴムを40質量%以上含むことが好ましい。
【0018】
本発明はさらに前記靴底の製造方法を用いて製造された靴底に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、あらかじめ少なくとも部分的に架橋成形されたラバーパーツを金型にインサートし、熱可塑性樹脂をオーバーモールドすることにより、ラバーパーツと熱可塑性樹脂を架橋接着するので、成形品を成型する際に金型を加熱、冷却する工程が不要となるので、靴底製造工程において大幅に作業行程が簡略化されコストダウンを達成させることが可能となった。
【0020】
本発明によれば、ラバーパーツはあらかじめ少なくとも部分的に架橋形成された後、熱可塑性樹脂をオーバーモールドしているため、熱可塑性樹脂との複合時にバリが発生せず、外観的にも改善がはかれるため、商品の付加価値も大いに向上する。
【0021】
さらに、従来のラバーパーツを熱可塑性樹脂の表面に貼り合わせ加工を施す方法で必要とされたラバーパーツのバフ加工、プライマー処理、接着剤塗布、圧着工程などの煩雑な作業が不要となるので、靴底製造工程において大幅に作業行程が簡略化されコストダウンを達成させることが可能となった。
【0022】
本発明によれば、相溶性の向上を図ることにより、ラバーパーツと熱可塑性樹脂との接着をより強固にすることができる。ラバーパーツと熱可塑性樹脂との接着を強固にすることができるため、接着のバラツキに対する安全率も高くなる。
【0023】
さらに従来の貼り合わせ加工では、ラバーに複雑な三次元立体曲面を設けた場合、接着時にスキマの発生や接着力のバラツキなどが見られたが、本発明によれば均質で高強度の接着が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の実施の形態について以下に詳述する。
<靴底>
図1は、本発明に係る靴底の平面図、側面図および断面図である。本発明に係る靴底1は、あらかじめ少なくとも部分的に架橋形成されたラバーパーツ2と、熱可塑性樹脂をオーバーモールドすることにより、ラバーパーツ2と架橋接着した熱可塑性樹脂で形成された基部3とで構成されている。
【0025】
<ラバーパーツ>
本発明におけるラバーパーツ2のゴム成分としては、たとえばNBR(アクリルニトリル−ブタジエンゴム)、X−NBR(カルボキシル化アクリルニトリル−ブタジエンゴム)、X−SBR(カルボキシル化スチレン−ブタジエンゴム)、BR(ブタジエン)、CR(クロロプレンゴム)、EPM(エチレン−プロピレンゴム)、EPDM(エチレン−プロピレン−ジエン)、SBR(スチレン−ブタジエンゴム)、NR(天然ゴム)などを用いることができる。
【0026】
極性の高いゴム成分を使用すると、より強固な密着力を得ることができる観点から、X−NBRを使用することが好ましい。また、X−NBRはラバーパーツのゴム成分中、40質量%以上含まれていることがより好ましい。
【0027】
また、前記ラバーパーツ2はあらかじめ少なくとも部分的に架橋形成されているものであり、中でも熱可塑性樹脂からなる基部3との架橋接着の観点から過酸化物架橋されていることが好ましい。
【0028】
本発明のラバーパーツ2は、融着による接着力向上の観点から、基部3の熱可塑性樹脂と相溶性の高い樹脂(以下「混入樹脂」ともいう)を含むことが好ましい。
【0029】
本発明のラバーパーツ2は接地面側の外層と熱可塑性樹脂からなる基部3に隣接する内層の2層で構成することができる。この場合、前記内層は混入樹脂を含むことが好ましい。
【0030】
また、ラバーパーツの外層は耐摩耗性、グリップ性、耐油性など、靴底の接地面に要求される特性に優れたラバーであることが好ましい。
【0031】
ラバーパーツ2の厚みは、1.0〜20.0mmであることが好ましい。またラバーパーツ2が外層と内層の2層からなる場合は、外層の厚みは0.5〜19.5mm、内層の厚みは0.5〜5.0mmであることが好ましい。
【0032】
<熱可塑性樹脂>
本発明における基部3の熱可塑性樹脂としては、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂などを使用することができ、しかもこれらの樹脂の発泡体を使用することも可能である。これらの樹脂の発泡は揮発性発泡剤や分解性発泡剤などの発泡剤を利用する方法やマイクロバルーンを利用する方法などにより行われる。また、ポリアミドエラストマー、ポリウレタンエラストマー、ポリオレフィンエラストマー(EVA系エラストマー、ポリエチレンエラストマー、ポリプロピレンエラストマーなど)、ポリスチレン系エラストマー、ポリ塩化ビニル系エラストマー、ポリエステルエラストマー、1,2−ポリブタジエン系エラストマーなどを使用することが可能である。
【0033】
ラバーパーツとのより強固な密着力を得ることができる観点から、ポリアミド樹脂、ポリアミドエラストマー、ポリウレタン樹脂、ポリウレタンエラストマーを使用することが好ましい。
【0034】
<混入樹脂>
本発明のラバーパーツ2は、前記基部3に使用する熱可塑性樹脂と相溶性の高い樹脂(混入樹脂)を含むことが好ましく、該混入樹脂としては、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリアミドエラストマー、ポリウレタンエラストマー、ポリオレフィンエラストマー(EVA系エラストマー、ポリエチレンエラストマー、ポリプロピレンエラストマーなど)、ポリスチレン系エラストマー、ポリ塩化ビニル系エラストマー、ポリエステルエラストマー、1,2−ポリブタジエン系エラストマーなどを使用することが可能である。
【0035】
前記混入樹脂は前記基部3に使用する熱可塑性樹脂と相溶性が高いものである。本発明において「熱可塑性樹脂と相溶性が高い樹脂」とは、前記熱可塑性樹脂と相溶性が良く、かつ、前記熱可塑性樹脂をオーバーモールドした時にその熱により軟化する樹脂を示す。具体的には(1)前記熱可塑性樹脂と同系の樹脂、エラストマー、(2)ソフトセグメント、あるいはハードセグメントが前記熱可塑性樹脂と同系のエラストマー、が挙げられる。前記(1)の例としては、オーバーモールドする樹脂がポリアミドエラストマーの場合に、混入樹脂がポリアミドエラストマーの場合や、オーバーモールドする樹脂がポリウレタンエラストマーの場合に、混入樹脂がポリウレタンエラストマーの場合、(2)の例としては、オーバーモールドする樹脂がポリエーテルブロックポリアミドエラストマーの場合に、混入樹脂がポリエーテルブロックポリウレタンエラストマーの場合が挙げられる。
【0036】
融着による接着性の向上の観点から、混入樹脂は基部3の熱可塑性樹脂よりも融点や軟化点が低い樹脂を使用することが好ましい。
【0037】
前記混入樹脂はペレット状またはパウダー状が好ましく、ペレット状の場合は樹脂を溶融化してラバーコンパウンド中に練り込む。ペレットの場合は平均粒子径が1mm〜7mm、パウダー状の場合は平均粒子径が10μm〜1mmであることが好ましい。パウダー状の場合、平均粒子径が10μm未満であると、ラバーパーツと熱可塑性樹脂の接着性を高めるという効果を発揮しない。また、平均粒子径が1mmを超えると、ラバーパーツの物性が低下する。パウダー状の混入樹脂の平均粒子径はさらに50〜200μmであることがより好ましい。
【0038】
前記混入樹脂はラバーパーツのゴム成分100質量部に対して1〜60質量部含むことが好ましい。混入樹脂の含有量が1質量部未満であると、ラバーパーツと熱可塑性樹脂の接着性を高めるという効果を発揮しない。また、該含有量が60質量部を超えると金型からのラバーパーツの脱型が困難となり、冷却工程が必要となるため好ましくない。該含有量はさらに5〜40質量部であることが好ましい。
【0039】
なお、前記混入樹脂はラバーパーツと熱可塑性樹脂の接着性をより強固なものとし、またラバー物性強度を向上させるという両観点から、ラバーパーツ内に均一に分散していることが好ましい。
【0040】
<架橋剤>
本発明のラバーパーツ2の架橋剤としては、過酸化物架橋を促進させる有機過酸化物を用いることが好ましい。有機過酸化物としてはアルキル系パーオキサイドやアシル系パーオキサイドがあるが、中でもDCP(ジクミルパーオキサイド)やジ−t−ブチルパーオキシ−3.3.5−トリメチルシクロヘキサンなどを使用することが好ましい。
【0041】
<その他の配合剤>
本発明のラバーパーツ2には、軟化剤、カーボンブラック、白色充填剤、界面活性剤などを含有させることが可能である。
【0042】
軟化剤は、所望により練り加工性を一層向上させるために併用するものであり、たとえば、プロセスオイル、潤滑油、パラフィン、流動パラフィン、石油アスファルト、ワセリンなどの石油系軟化剤;ヒマシ油、アマニ油、ナタネ油、ヤシ油などの脂肪油系軟化剤;トール油;サブ;蜜ロウ、カルナバロウ、ラノリンなどのワックス類;リノール酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ラウリン酸などを使用することができる。
【0043】
白色充填剤としては、たとえば、シリカ、クレー、アルミナ、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化チタンなどを使用することができ、これらは単独あるいは2種以上混合して用いることができる。特に好ましい白色充填剤としてはシリカ、クレー、水酸化アルミニウム、アルミナである。
【0044】
界面活性剤としては、たとえば、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコールなどを用いることができ、特に好ましい界面活性剤はポリエチレングリコールである。
【0045】
<靴底の製造方法>
本発明に係る靴底1の製造方法について、図2〜4を用いて説明する。
【0046】
[実施の形態1]
本発明の実施の形態1について、図2を用いて説明する。
【0047】
(ラバーパーツの作製)
まず、未架橋のゴムと混入樹脂の混練り分出しシートを型抜きしたラバーパーツ材料4aをラバーパーツ成形金型5の凹部6に配置して加圧加熱(150〜160℃)を行う(図2(a),(b))。次にラバーパーツ材料4aが少なくとも部分的に架橋された段階で金型の型開きを行う。すなわち、図4のレオメーター架橋硬化曲線のAの時間領域に該当する箇所で型開きを行うものであり、このAの時間領域は、ゴムの配合により異なり、成型品の厚み、形状により調整する必要があるが、一般的な靴底の場合、加圧加熱開始後3〜8分以内が望ましい。このようにラバーパーツ2に未分解の架橋剤を残すことにより、後に行われる基部3となる熱可塑性樹脂をオーバーモールドする工程において、該ラバーパーツ2と該熱可塑性樹脂を架橋接着することが可能となり、より強固な密着性を得ることができる。
【0048】
次に該ラバーパーツ2を脱型し、必要に応じてバリカットを行う(図2(c),(d))。
【0049】
(熱可塑性樹脂のオーバーモールド)
次に前記工程で作製したラバーパーツ2を靴底用射出成形金型7のラバーパーツ用凹部8に合致するように配置して型締めを行う(図2(e))。次に、熱可塑性樹脂をオーバーモールドする(図2(f))。
【0050】
なお、射出成形の際に、ラバーパーツ2と熱可塑性樹脂9が架橋接着されるが、この際の条件としては、各々の素材にもよるが、例えば、ポリアミドエラストマーの場合、ゴムの架橋温度および混入樹脂と熱可塑性樹脂の融解温度から、成型品の厚みや形状により調整する必要があるが、一般的な靴底の場合、180〜290℃の温度範囲で5〜20秒の射出時間が好ましい。これによりラバーパーツ2の未架橋部分と熱可塑性樹脂が架橋接着され、強固な密着性を得ることができる。
【0051】
[実施の形態2]
本発明は、靴底の要求特性により、ラバーパーツを接地面の外層と熱可塑性樹脂に隣接する内層の2層で構成することもできる。この場合、内層には前記熱可塑性樹脂層と架橋接着可能なラバーを使用し、外層には耐摩耗性、グリップ性に優れ、かつ内層と架橋接着可能なラバーを使用する。ラバーパーツが2層の場合の靴底の製造方法について図3を用いて説明する。
【0052】
(ラバーパーツの作製)
まず、外層に用いる未架橋のゴムの混練り分出しシートを型抜きしたラバーパーツ材料をラバーパーツ成型金型の凹部に配置する(図3(a),(b))。次に、内層に用いる未架橋のゴムの混練り分出しシートを外層上に配置し加圧加熱(150〜160℃)を行い、ラバーパーツ材料4bと4cが少なくとも部分的に架橋された段階で金型を型開きを行う。すなわち、図4のレオメーター架橋硬化曲線のAの時間領域に該当する箇所で型開きを行うものであり、このAの時間領域は、ゴムの配合により異なり、成型品の厚み、形状により調整する必要があるが、一般的な靴底の場合、加圧加熱開始後3〜8分以内が望ましい。このようにラバーパーツ2に未分解の架橋剤を残すことにより、後に行われる基部3となる熱可塑性樹脂をオーバーモールドする工程において、該ラバーパーツ2と該熱可塑性樹脂を架橋接着することが可能となり、より強固な密着性を得ることができる。
【0053】
(熱可塑性樹脂のオーバーモールド)
次に前記工程で作製したラバーパーツ2を靴底用射出成形金型7のラバーパーツ用凹部8に合致するように配置して型締めを行う(図3(e))。次に、熱可塑性樹脂をオーバーモールドする(図3(f))。
【0054】
なお、射出成形の際に、ラバーパーツ2と熱可塑性樹脂9が架橋接着されるが、この際の条件としては、各々の素材にもよるが、例えば、ポリアミドエラストマーの場合、ゴムの架橋温度および混入樹脂と熱可塑性樹脂の融解温度から、成型品の厚みや形状により調整する必要があるが、一般的な靴底の場合、180〜290℃の温度範囲で5〜20秒の射出時間が好ましい。これによりラバーパーツ2の未架橋部分と熱可塑性樹脂が架橋接着され、強固な密着性を得ることができる。
【実施例】
【0055】
<実施例1〜4、比較例1〜5>
(ラバーパーツ用シートの作製)
ラバーパーツ用シートとして、各種配合剤を表2の通り配合したラバー配合剤を混練りし、厚さ2mmの分出しシートを準備する。該分出しシートをを、ラバーパーツ成形金型の凹部に配置して160℃、表2に示された架橋時間で加圧加熱を行う。次に前記分出しシートが少なくとも部分的に架橋された段階で金型を型開きを行い、ラバーパーツ用シートを脱型する。
【0056】
(熱可塑性樹脂のオーバーモールド)
次に前記工程で作製したラバーパーツ用シートを熱可塑性樹脂テストシート用金型の凹部(深さ3.5mm)に合致するように配置して型締めを行う。その後、熱可塑性樹脂としてポリアミドエラストマー(アルケマ社製、PEBAX6333)を成形温度260℃、射出時間10秒で射出成形する(厚さ1.5mm)。射出後25秒保持した後、脱型する。
【0057】
このようにして得られたラバー/熱可塑性樹脂複合テストシート(サイズ200mm×50mm×3.5mm)について剥離強度および材料破壊率試験を測定する。
【0058】
(測定方法)
剥離強度は「JIS K 6256−1993 加硫ゴムの接着試験方法」に準じた試験方法により、剥離速度50mm/minで測定し、表1の基準で判定する。なお、測定値が大きいほど、接着強度が優れており耐久性が向上する。
【0059】
材料破壊率は上記の剥離強度測定後の剥離面を観察し、剥離した総面積に対するゴム層の破損の割合(%)を目視により算出する。
【0060】
【表1】

【0061】
各配合の測定結果を表2に示す。
【0062】
【表2】

【0063】
X−NBR(カルボキシル化アクリルニトリル−ブタジエンゴム):日本ゼオン社製、NX775
NBR:JSR製、NBR230SL
NR:ベトナム製、SVR−3L
SBR:JSR製、SBR1502
混入樹脂:アルケマ社製、PEBAX MX1205(平均粒子径100μm、パウダー状)
ステアリン酸:日本油脂製、ビーズステアリン酸
シリカ:エボニックデグサ製、Ultrasil Vn3
界面活性剤:全薬工業製、PEG4000
老化防止剤:大内新興化学製、ノクラックSP
架橋剤:日本油脂製、パークミルD−40
硫黄:細井化学製、微粉硫黄(200メッシュ)
加硫促進剤DM:大内新興化学製、ノクラックDM
加硫促進剤M:大内新興化学製、ノクラックM
加硫促進剤TS:大内新興化学製、ノクラックTS
(評価結果)
実施例1はラバーパーツのゴム成分がX−NBR50質量%で架橋時間が5分であり、十分な剥離強度および材料破壊率を有する。実施例2は実施例1の配合に混入樹脂を添加したものであるが、実施例1よりさらに優れた剥離強度および材料破壊率を有する。実施例3はラバーパーツのゴム成分がX−NBR40質量%含むものであり、十分な剥離強度および材料破壊率を有する。実施例4はラバーパーツのゴム成分がX−NBR80質量%含むものであり、優れた剥離強度および材料破壊率を有する。
【0064】
一方、比較例1および2のラバーパーツはそれぞれ実施例1および2と同様の配合であるが、架橋時間が10分であり、十分な剥離強度を示さない。比較例3は架橋剤として実施例で使用されている過酸化物(DCP−40)に替えて硫黄および加硫促進剤を含むが、十分な剥離強度を示さない。比較例4はラバーパーツのゴム成分がX−NBR30質量%含むものであるが、十分な剥離強度を示さない。比較例5はラバーパーツのゴム成分としてNR100質量%含むものであるが、十分な剥離強度を示さない。
【0065】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明に係る靴底を示す平面図、側面図および断面図である。
【図2】本発明に係る靴底の製造方法の一実施の形態を工程を示す断面図である。
【図3】本発明に係る靴底の製造方法の一実施の形態を示す断面図である。
【図4】本発明に係る靴底に使用するラバーパーツ材料のレオメーター架橋硬化曲線を示す説明図である。
【符号の説明】
【0067】
1 靴底、2 ラバーパーツ、3 基部、4a,4b,4c ラバーパーツ材料、5 ラバーパーツ成形金型、6,8 凹部、7 靴底用射出成形金型。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
あらかじめ少なくとも部分的に架橋成形されたラバーパーツに、熱可塑性樹脂をオーバーモールドすることにより、前記ラバーパーツと前記熱可塑性樹脂を架橋接着することを特徴とする靴底の製造方法。
【請求項2】
前記オーバーモールドは射出成形によって行うことを特徴とする請求項1記載の靴底の製造方法。
【請求項3】
前記ラバーパーツは過酸化物架橋されている請求項1または2記載の靴底の製造方法。
【請求項4】
前記ラバーパーツは前記熱可塑性樹脂と相溶性の高い樹脂を含む請求項1〜3いずれか記載の靴底の製造方法。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂および該熱可塑性樹脂と相溶性の高い樹脂がポリアミド樹脂、ポリアミドエラストマー、ポリウレタン樹脂およびポリウレタンエラストマーからなる群から選ばれた1種以上の化合物を含む請求項1〜4いずれか記載の靴底の製造方法。
【請求項6】
前記ラバーパーツのゴム成分はカルボキシル化アクリルニトリル−ブタジエンゴムを40質量%以上含む請求項1〜5いずれか記載の靴底の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6いずれか記載の靴底の製造方法を用いて製造された靴底。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−22582(P2010−22582A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−187395(P2008−187395)
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【出願人】(000005935)美津濃株式会社 (239)
【Fターム(参考)】