説明

Qスイッチ式ファイバレーザ

【課題】Qスイッチ式ファイバレーザから、パルスエネルギーが高く、かつパルス幅が100ns〜500ns程度と広い光パルスを得るために、共振器内を伝搬する光パルスの周回時間を長くした場合に生じる出力光パルスのうねりをなくし、うねりのない出力光パルスを生成するQスイッチ式ファイバレーザを提供する。
【解決手段】Qスイッチ式ファイバレーザの共振器内に、分岐手段と伝搬距離延長手段とを有する部分的フィードバック光路を設け、前記分岐手段は、前記部分的フィードバック光路に入射した光パルスを一定の光パワー比で、部分的フィードバック光路から出射して、前記共振器内に戻る光パルスと前記伝搬距離延長手段に出射する光パルスとに分岐させるように構成され、また伝搬距離延長手段は、入射してきた光パルスを一定の光路長内で伝搬させることにより伝搬距離を延長して、再び前記分岐手段に入射させるように構成されていることとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工装置の光源などに使用される光パルスとして、パルスエネルギーが高く、しかも広いパルス幅(例えば100ns〜500ns程度)である光パルスを生成するQスイッチ式ファイバレーザに関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体レーザからパルスエネルギーの高い出力光パルスを得る方法として、Qスイッチ法がある。Qスイッチ法においては、利得媒体内でポンピングの行われている間は、共振器の品質因子Qを低い値にすることにより、発振しない状態で高い利得が得られるが、前記共振器の品質因子Qを高い値に戻すことにより、上位準位に励起されていた原子に蓄えられていたエネルギーが急激に共振器内の光子に変換され、高パルスエネルギーの出力光パルスを得ることができる。このようなQスイッチ法に基づいたQスイッチ式ファイバレーザは、工業用材料の溶接、切断、穴あけなどの加工、すなわちレーザ加工に広く使われている。このようなレーザ加工装置の光源として使用される光パルスとしては、パルスエネルギーが高く、かつパルス幅が100ns〜500ns程度に広いものが望まれる。
【0003】
高パルスエネルギーの光パルスを出力するQスイッチ式ファイバレーザにより、出力光パルスのパルス幅を広くする方法としては、共振器長を長くすることにより、共振器内を伝搬する光パルスの周回時間を長くする方法が公知である。例えば、非特許文献1には、『レーザロッドが同じであり、共振器両端のミラーの反射率および励起光のパワーが等しく、共振器長が異なる2つのQスイッチ式レーザにおいては、共振器長が長いQスイッチ式レーザの方が、共振器の寿命時間が長くなり、パルス幅が広くなる』ことが記載されている(非特許文献1の図26.9参照)。
【0004】
Qスイッチ式ファイバレーザの共振器長を長くすることにより、共振器内を伝搬する光パルスの周回時間を長くする方法では、共振器出力パルス形状のパルス幅は比較的広くなるが、周回時間に対応した小信号光パルスが複数重ねあわされた形状となるため、周回時間が長い場合、周回時間に相当した周期で発生する小信号光パルスの足し合わせにより、パルス形状全体に山と谷の部分ができ、共振器出力パルス形状に比較的大きな変動(以下、“うねり”と記載する)が発生する(図11)。この小信号光パルスの発生周期は、共振器内を光が周回する時間に相当する。
【0005】
前述のような、Qスイッチ式ファイバレーザからの出力光パルスに生じるうねりは、製品製造時における各製品ごとの出力光パルスの特性のばらつきを大きくする。その結果、Qスイッチ式ファイバレーザ内に装着されている半導体レーザの励起光パワーの調節に長時間を要するようになり、また製品の規格内に出力光パルスのパルス幅や出力パワーを調整できない場合もある。
【0006】
ところで、ファイバレーザの出力光パルスの安定化を図った公知文献に示される従来技術としては、光ソリトン効果により、パルス幅や繰り返し周波数が変わらない超短光パルスを得る方法(例えば、特許文献1参照。)や、光カプラで光パルスを分岐した後にファイバ長を変化させることによりパルス出力を得る方法(例えば、特許文献2参照。)、音響光学素子をQスイッチ装置として用いたファイバレーザにおいて、種光パルスが発生してから、パルス増幅までのタイミングを調整し、光パルスの安定化を図る方法(例えば、特許文献3参照。)、ポンプコンバイナを用いて励起光をパワー増幅部に効率的に導入することにより10W級の出力光パルスを得る方法(例えば、非特許文献2参照。)がある。
【0007】
しかしながら、上述の各文献に示されるいずれの従来技術においても、Qスイッチ式ファイバレーザで生成された出力光パルスに表れるうねりの発生を防止することは考慮されていなかったのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−102582号公報
【特許文献2】特開平10−125983号公報
【特許文献3】特開2007−234943号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「LASERS」、University Science Books、1986年、P1016
【非特許文献2】「フジクラ技報」、株式会社フジクラ、2006年、P5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述のように、従来のQスイッチ式ファイバレーザにおいては、出力光パルスのパルスエネルギーを高い状態に保ったうえで、Qスイッチ式ファイバレーザの共振器長を長くすることにより、共振器内を伝搬する光パルスの周回時間を長くして、パルス幅を100ns〜500ns程度まで広げようとした場合、出力光パルスにうねりが生じるという問題があった。
【0011】
本発明は、上述の事情を背景としてなされたもので、パルスパワーが高く、パルス幅が広い(例えば100ns〜500ns)光パルスを対象として、パルス形状に現れるうねりをなくすことを課題とするものである。また本発明は、このような光パルスを出力するQスイッチ式ファイバレーザを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、出力光パルスにうねりが発生することを防ぐことができる部分的フィードバック光路を、Qスイッチ式ファイバレーザの共振器内に設けることによって、前記課題を解決することとした。
【0013】
次に、本発明における第1〜第8の態様のQスイッチ式ファイバレーザについて説明する。
【0014】
本発明の第1の態様のQスイッチ式ファイバレーザは、光パルス増幅用の希土類添加光ファイバと、Qスイッチ装置とを備え、自然放出光または誘導放出光を共振させるための共振器を有するQスイッチ式ファイバレーザにおいて、分岐手段と伝搬距離延長手段とを有する部分的フィードバック光路が前記共振器内に設けられており、前記分岐手段は、前記部分的フィードバック光路に入射した光を一定の光パワー比で、共振器用光ファイバに出射する光と、前記伝搬距離延長手段に出射する光とに分離するように構成され、また前記伝搬距離延長手段は、入射してきた光を一定の光路長内で伝搬させることにより、前記光の伝搬距離を延長して、再び前記分岐手段に入射させるように構成されていることを特徴とするものである。
【0015】
上述の第1の態様のQスイッチ式ファイバレーザにおいては、共振器内部に分岐手段と伝搬距離延長手段を有する部分的フィードバック光路を設けることにより、部分的フィードバック光路に設けられた伝搬距離延長手段にて、分岐手段において伝搬距離延長手段の方向に分岐された光の伝搬距離が延長される。これは、実質的に光路長の異なる共振器を多重に構成することと等価になり、その結果として、共振器内での周回時間に応じた周期で発生する複数の小信号光パルスが出力光パルスに重ね合わされ、出力光パルスのうねりの谷の部分がなくなり、Qスイッチ式ファイバレーザからうねりのないパルス形状の光パルスを得ることができる。
【0016】
本発明の第2の態様によるQスイッチ式ファイバレーザは、前記第1の態様のQスイッチ式ファイバレーザにおける部分的フィードバック光路の分岐手段および伝搬距離延長手段として、それぞれ光ファイバカプラおよび光ファイバを設け、前記光ファイバの両端が前記光ファイバカプラの入射導波路と出射導波路に接続されていることを特徴とするものである。
【0017】
第2の態様のQスイッチ式ファイバレーザにおいては、部分的フィードバック光路の分岐手段および伝搬距離延長手段として光ファイバカプラおよび光ファイバを設けることにより、構成が単純で、比較的安価に共振器を構成することができる。
【0018】
本発明の第3の態様によるQスイッチ式ファイバレーザは、前記第2の態様のQスイッチ式ファイバレーザにおいて、光ファイバカプラから光ファイバに分岐される光のパワー比率が60%±20%の範囲内にあるように構成したことを特徴とするものである。
【0019】
第3の態様のQスイッチ式ファイバレーザにおいては、部分的フィードバック光路の光ファイバカプラから、伝搬距離延長手段用の光ファイバに分岐される光パルスの光パワー比率を60%±20%の範囲内とすることにより、Qスイッチ式ファイバレーザから出力される光パルスの形状を、うねりのない滑らかなパルス形状にすることができる。
【0020】
本発明の第4の態様によるQスイッチ式ファイバレーザは、前記第1の態様のQスイッチ式ファイバレーザにおいて、部分的フィードバック光路の分岐手段として、ファイバブラッググレーティングを設け、ファイバブラッググレーティングで反射され、前記共振器内を伝搬し、再びファイバブラッググレーティングに入射するまで光の伝搬経路を、伝搬距離延長手段として機能させるように構成したことを特徴とするものである。
【0021】
第4の態様のQスイッチ式ファイバレーザにおいては、部分的フィードバック光路の分岐手段として、ファイバブラッググレーティングを設け、ファイバブラッググレーティングで反射され、前記共振器内を伝搬し、再びファイバブラッググレーティングに入射するまで光の伝搬経路を、伝搬距離延長手段として機能させることにより、部分的フィードバック光路設置に必要なスペースが縮小され、Qスイッチ式ファイバレーザの共振器全体の小型化が実現できる。
【0022】
本発明の第5の態様によるQスイッチ式ファイバレーザは、前記第4の態様のQスイッチ式ファイバレーザにおいて、ファイバブラッググレーティングの反射率が1%〜10%の範囲内にあるように構成したことを特徴とするものである。
【0023】
第5の態様のQスイッチ式ファイバレーザにおいては、部分的フィードバック光路のファイバブラッググレーティングの反射率を1%〜10%の範囲内とすることにより、Qスイッチ式ファイバレーザから出力される光パルスの形状を、うねりのない滑らかなパルス形状にすることができる。
【0024】
本発明の第6の態様によるQスイッチ式ファイバレーザは、前記第1の態様〜第5の態様のいずれかのQスイッチ式ファイバレーザにおいて、Qスイッチ装置として音響光学素子を設けたことを特徴とするものである。
【0025】
第6の態様のQスイッチ式ファイバレーザにおいては、Qスイッチ装置として音響光学素子を設けることにより、Qスイッチの損失を精密に制御することができ、さらに駆動時間を短くすることができるため、Qスイッチ式ファイバレーザからの出力光パルスの応答を高速にすることができる。
【0026】
本発明の第7の態様によるQスイッチ式ファイバレーザは、前記第1の態様〜第6の態様のいずれかのQスイッチ式ファイバレーザにおいて、共振器としてファブリーペロー型共振器を設けたことを特徴とするものである。
【0027】
第7の態様のQスイッチ式ファイバレーザにおいては、Qスイッチ式ファイバレーザにファブリーペロー型共振器を設けることにより、共振器のファイバ長を短くし、構成部品の数を減らすことができる。
【0028】
本発明の第8の態様によるQスイッチ式ファイバレーザは、第1の態様〜第3の態様のいずれかのQスイッチ式ファイバレーザにおいて、共振器としてリング型共振器を設けたことを特徴とするものである。
【0029】
第8の態様のQスイッチ式ファイバレーザにおいては、Qスイッチ式ファイバレーザにおいて、リング型共振器を設けることにより、共振器内の損失を低くすることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明のQスイッチ式ファイバレーザによれば、パルス形状にうねりのない光パルスを発生させることができ、特にパルスエネルギーも高く、かつパルス幅が広い光パルスを得る場合でも、うねりのない光パルスを発生させることができ、そのためQスイッチ式ファイバレーザ製品を実際に製造した場合の製品ごとの調節に時間がかかるという問題や、調節が不可能になるという問題も解決する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1の実施形態によるQスイッチ式ファイバレーザの全体構成を示す略解図である。
【図2】本発明の第2の実施形態によるQスイッチ式ファイバレーザの全体構成を示す略解図である。
【図3】本発明の第3の実施形態によるQスイッチ式ファイバレーザにおいて、部分的フィードバック光路の分岐手段として光ファイバカプラを設け、前記部分的フィードバック光路の伝搬距離延長手段として光ファイバを設けたものの全体構成を示す略解図である。
【図4】本発明の第3の実施形態によるQスイッチ式ファイバレーザにおいて、部分的フィードバック光路の分岐手段としてファイバブラッググレーティングを設け、前記部分的フィードバック光路の伝搬距離延長手段として前記ファイバブラッググレーティングで反射され、前記共振器内を伝搬し、再びファイバブラッググレーティングに入射するまで光の伝搬経路を機能させたものの全体構成を示す略解図である。
【図5】本発明の第4の実施形態によるQスイッチ式ファイバレーザにおいて、部分的フィードバック光路の分岐手段として光ファイバカプラを設け、前記部分的フィードバック光路の伝搬距離延長手段として光ファイバを設けたものの全体構成を示す略解図である。
【図6】実施例1で使用したQスイッチ式ファイバレーザの全体構成を示す略解図である。
【図7】実施例1におけるQスイッチ式ファイバレーザからの出力光パルスの時間に対する光パワーの関係を示したグラフである。
【図8】実施例2におけるQスイッチ式ファイバレーザにおける出力光パルスの時間に対する光パワーの関係を示したグラフである。
【図9】実施例3におけるQスイッチ式ファイバレーザにおける出力光パルスの時間に対する光パワーの関係を示したグラフである。
【図10】実施例4におけるQスイッチ式ファイバレーザにおける出力光パルスの時間に対する光パワーの関係を示したグラフである。
【図11】従来のQスイッチ式ファイバレーザにおいて、共振器長を長くすることで、共振器内を伝搬する光パルスの周回時間を長くした場合の、出力光パルスの時間に対する光パワーの関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に、本発明の実施の形態について、図1〜図5を参照して以下で説明する。
【0033】
図1には、本発明の第1の実施形態のQスイッチ式ファイバレーザを示す。このQスイッチ式ファイバレーザは、自然放出光または誘導放出光を共振させるための共振器として、共振器用光ファイバ8に配置した高反射率構造1と低反射率構造2から成るファブリーペロー型共振器を有し、高反射率構造1と低反射率構造2との間に、希土類添加光ファイバ3と、部分的フィードバック光路5と、共振器内のエネルギーを十分に蓄えてから、瞬間的に光パルスを放出させるためのQスイッチ装置4とを設けている。また、部分的フィードバック光路5の分岐手段5Aとしては、光ファイバカプラ5aが配置され、伝搬距離延長手段5Bとしては光ファイバ5bが配置されている。光ファイバカプラ5aの入射導波路には、共振器用光ファイバ8と、伝搬距離延長手段5Bの機能を有する光ファイバ5bの片端が接続されており、光ファイバカプラ5aの出射導波路には、共振器用光ファイバ8と、伝搬距離延長手段5Bの機能を有する光ファイバ5bのもう一方の端が接続されており、出射導波路と接続されている光ファイバ5bの端は、光ファイバカプラ5aの入射導波路に通じる構造となっている。
なお、実際のQスイッチ式ファイバレーザにおいては、励起光源やQスイッチ装置に図示しないドライバ(駆動手段)が設けられるが、そのドライバ自体の構成は、従来と同様であればよい。
光ファイバカプラ5aおよび光ファイバ5bの挿入位置は、希土類添加光ファイバ3とQスイッチ装置4との間、あるいはQスイッチ装置4と低反射率構造2との間であれば、いずれでも良い。また、光ファイバカプラ5aおよび光ファイバ5bを、高反射率構造1と希土類添加光ファイバ3との間に挿入することもでき、その場合は分岐手段における励起光の透過率が100%に近いことが望ましい。
【0034】
次に、図1に示した第1の実施形態のQスイッチ式ファイバレーザの動作および機能を説明する。Qスイッチ式ファイバレーザのファブリーペロー型共振器に入射した励起光は、共振器用光ファイバ8内を伝搬し、高反射率構造1を通り、Qスイッチ装置4により共振器のQ値は低く設定された状態で、希土類添加光ファイバ3に入射し、希土類添加光ファイバ3の希土類元素を励起する。希土類添加光ファイバの反転分布率が高くなった状態で、Qスイッチ装置4により共振器のQ値を高くすることにより、励起状態の希土類添加光ファイバ3で発生した自然放出光が、高反射率構造1または低反射率構造2により共振器内部へ反射され、その反射光が励起状態の希土類添加光ファイバ3へ入射することで誘導放出が発生し、光増幅され、部分的フィードバック光路5に入射する。部分的フィードバック光路5に入射した光パルスは、光ファイバカプラ5aにて、一定の光パワー比で光Aと光Bに分岐され、光Aは共振器用光ファイバ8を介して、Qスイッチ装置4を通り、低反射率構造2で反射される。一方、光Bは部分的フィードバック光路5の光ファイバ5bに入射し、伝搬することにより光ファイバ5b一周分の伝搬距離を延長され、再び光ファイバカプラ5aに戻る。光ファイバカプラ5aに戻された光Bは一定のパワー比で光Cと光Dに分岐され、光CはQスイッチ装置4に伝搬する。もう一方の光Dは再度、光ファイバ5bに入射し、光ファイバ5b一周分の伝搬距離を延長され、再び光ファイバカプラ5aに戻る。この部分的フィードバック動作が繰り返され、フィードバック回数に応じて光の伝搬距離が延長される。そして、共振器内での周回時間に応じた周期で発生する複数の小信号光パルスが出力光パルスに重ね合わされた結果、共振器用光ファイバ8を介して、低反射率構造2からパルス形状にうねりのない光パルスが出力される。
【0035】
なお図1の実施形態において、光ファイバカプラ5aにおける、光ファイバ5bへ分岐する光のパワー比率(光ファイバカプラ5aに入射する光のパワーに対する分岐光のパワー比率)は、60%±20%の範囲内であることが望ましい。前記パワー比率が60%±20%の範囲内であれば、Qスイッチ式ファイバレーザからの光パルスの形状が極めて滑らかになる。前記パワー比率が40%未満では、パルス形状のうねりが改善しない状態となり、80%を超えてもパルス形状のうねりが改善しない状態となる。
また、希土類添加光ファイバ3における反転分布率を高めることにより、光パルスの増幅が促進され、前記光パルスのパルスエネルギーが高まる。実施可能性から考えると、希土類元素の添加密度は2.0×1025〜4.0×1025[/m]の範囲内とすることが望ましい。前記添加密度が低くなると、出力光パルスのパルスパワーが低下してしまう。
【0036】
図2には、本発明の第2の実施形態のQスイッチ式ファイバレーザを示す。なお、図2において、図1に示したQスイッチ式ファイバレーザと同一の構成の部分については同一の符号を付し、その説明は省略し、以下の各図においても同様とする。
図2に示す第2の実施形態のQスイッチ式ファイバレーザにおいては、部分的フィードバック光路5の分岐手段5Aとしてファイバブラッググレーティング5cを設けており、ファイバブラッググレーティング5cで反射され、共振器内を伝搬して高反射率構造1で反射されて、再びファイバブラッググレーティング5cに入射するまで光の伝搬経路を、伝搬距離延長手段5Bとして機能させた構造となっている。なお、光ファイバブラッググレーティング5cの挿入位置は、Qスイッチ装置4と低反射率構造2との間でなければならない。
【0037】
次に、図2に示した第2の実施形態のQスイッチ式ファイバレーザにおける部分的フィードバック光路の動作および機能を説明する。部分的フィードバック光路5に入射した光は、ファイバブラッググレーティング5cの反射率に応じて、光Eと光Fに分岐され、光Eはファイバブラッググレーティング5cを透過し、低反射率構造2で反射される。光Fはファイバブラッググレーティング5cで反射され、共振器用光ファイバ8中を伝搬し、Qスイッチ装置4および希土類添加光ファイバ3を通って高反射率構造1で反射され、再び希土類添加光ファイバ3に入射する。そして、光Fは希土類添加光ファイバ3で誘導放出光を発生させ、Qスイッチ装置4を通り、ファイバブラッググレーティング5cに再び入射する。したがって、図2の実施形態の部分的フィードバック光路5における伝搬距離延長手段5Bは、高反射率構造1の出射端面から、共振器用光ファイバ8を介して希土類添加光ファイバ3およびQスイッチ装置を通り、ファイバブラッググレーティング5cで反射される位置までの光の伝搬経路となり、延長される伝搬距離は前記伝搬経路の往復距離となる。部分的フィードバック光路5としての前述の動作により、フィードバック回数に応じて光の伝搬距離が延長される。そして、共振器内での周回時間に応じた周期で発生する複数の小信号光パルスが出力光パルスに重ね合わされた結果、共振器用光ファイバ8を介して、低反射率構造2からパルス形状にうねりのない光パルスが出力される。
【0038】
なお図2の実施形態において、ファイバブラッググレーティング5cの反射率(ファイバブラッググレーティング5cに入射する光のパワーに対する、ファイバブラッググレーティング5cで反射する光のパワーの比率)は、1%〜10%の範囲内であることが望ましい。前記反射率が1%〜10%の範囲内であれば、Qスイッチ式ファイバレーザからの光パルスの形状のうねりがなくなる。前記反射率が1%未満では、フィードバックの回数が少ないため、パルス形状のうねりが改善されない結果となり、一方10%を超えれば共振器出力パワーが低くなることによりパルスエネルギーの低下が生じることがある。
【0039】
図3には、本発明の第3の実施形態のQスイッチ式ファイバレーザを示す。
図3に示す第3の実施形態のQスイッチ式ファイバレーザは、Qスイッチ装置4として音響光学素子4aを配置した構成となっている。
【0040】
図3において、音響光学素子4aの材料にあった高周波信号の振幅を変化させることによって、音響光学素子4aの回折効率が変化し、音響光学素子4aが含まれるモジュールの損失が変化する。音響光学素子4aに入射した光パルスのパワーは、前記モジュールの損失の制御状態に応じて変化し、出射する。音響光学素子4aにより共振器損失が高い状態になっているときに、希土類添加光ファイバ3が励起され、反転分布率が所定のレベルよりも高くなったときに、音響光学素子4aにより共振器損失を低くすることで、パルスパワーが高い光パルスが出射される。
【0041】
図4には、図3に示す第3の実施形態のQスイッチ式ファイバレーザにおいて、部分的フィードバック光路5の分岐手段5Aとしてファイバブラッググレーティング5cを設け、ファイバブラッググレーティング5cで反射され、前記共振器内を伝搬し高反射率構造1で反射されて、再びファイバブラッググレーティングに入射するまで光の伝搬経路を、伝搬距離延長手段5Bとして機能させた、本発明の第3の実施形態のQスイッチ式ファイバレーザを示す。なお、ファイバブラッググレーティング5cの挿入位置は、図4に示すように音響光学素子4aと低反射率構造2との間でなければならない。
【0042】
図5には、本発明の第4の実施形態のQスイッチ式ファイバレーザを示す。このQスイッチ式ファイバレーザは自然放出光または誘導放出光を共振させるための共振器として、共振器用光ファイバ8に配置した励起カプラ1aと出力カプラ2aから成るリング型共振器を有し、励起カプラ1aに近い側から希土類添加光ファイバ3と、バンドパスフィルタ6と、Qスイッチ装置4と、分岐手段5Aとしての光ファイバカプラ5aおよび伝搬距離延長手段5Bとしての光ファイバ5bを有する部分的フィードバック光路5とを配置した構成になっている。
【0043】
なお、この部分的フィードバック光路5の挿入位置は、希土類添加光ファイバ3とバンドパスフィルタ6との間、またはバンドパスフィルタ6とQスイッチ装置4との間か、またはQスイッチ装置4と出力カプラ2aとの間、あるいは出力カプラ2aと励起カプラ1aとの間であれば、いずれでも良い。
この実施形態において、バンドパスフィルタ6とQスイッチ装置4の配置を入れ替えても、本発明の効果が得られ、Qスイッチ装置4と出力カプラ2aの配置を入れ替えても、本発明の効果が得られる。
【0044】
次に、図5に示した第4の実施形態のQスイッチ式ファイバレーザの動作および機能を説明する。このリング型共振器に入射した励起光は、励起カプラ1aを通り、希土類添加光ファイバ3に入射し、希土類元素を励起する。励起状態の希土類添加光ファイバ3で発生した光は、バンドパスフィルタ6およびQスイッチ装置4を通り、部分的フィードバック光路5に入射する。入射した光は、部分的フィードバック光路5の分岐手段5Aである光ファイバカプラ5aにて一定の光パワー比で光Aと光Bに分岐され、光Aは出力カプラ2aに伝搬する。一方、光Bは伝搬距離延長手段5Bである光ファイバ5bに入射し、一定の光路長を伝搬することにより、伝搬距離を延長され、再び光ファイバカプラ5aに戻る。光ファイバカプラ5aに戻された光Bは一定の光パワー比で光Cと光Dに分岐され、光Cは出力カプラ2aに伝搬し、もう一方の光パルスDは再度、光ファイバ5bに入射し、一定の光路長を伝搬することにより、伝搬距離を延長され、再び光ファイバカプラ5aに戻る。また、出力カプラ2aに入射した光パルスは一定の光パワー比で分岐され、一方の光パルスは共振器からの出力光パルスとして出射し、もう一方の光パルスは再び励起カプラ1aを通り、希土類添加光ファイバ3に入射する。このとき、希土類添加光ファイバ3内で誘導放出光が発生し、誘導放出光がリング状の共振器用光ファイバ8内を励振する。共振器用光ファイバ8を伝搬する光が再び励起状態の希土類添加光ファイバ3へ入射することで光パルスが発生し、共振器内での周回時間に応じた周期で発生する複数の小信号光パルスが出力光パルスに重ね合わされた結果、パルス形状にうねりのない光パルスが出力される。
【実施例】
【0045】
実施例1
この実施例1で使用したQスイッチ式ファイバレーザの全体構成を図6に示す。このQスイッチ式ファイバレーザは、第1の実施形態のQスイッチ式ファイバレーザの構成に基づき、高反射率構造1としての高反射ファイバブラッググレーティング1bと、低反射率構造2としての低反射ファイバブラッググレーティング2bと、希土類添加光ファイバ3としてのYb添加光ファイバ3aと、Qスイッチ装置4としての音響光学素子4aと、部分的フィードバック光路5の分岐手段5Aとしての光ファイバカプラ5aと、部分的フィードバック光路5の伝搬距離延長手段5Bとしての光ファイバ5bとを同一の共振器用光ファイバ8上に配置し、励起光用光源として半導体レーザ7を設けたものである。なお、半導体レーザ7および音響光学素子4aは図示しないドライバを装備している。
【0046】
図6に示すQスイッチ式ファイバレーザにおいては、半導体レーザ7から出射した励起光は、高反射ファイバブラッググレーティング1bを通り、音響光学素子4aでQ値を低く設定した状態で、Yb添加光ファイバ3aに入射し、Yb元素を励起する。これにより、Yb添加光ファイバ3aの反転分布が高くなり、この状態で音響光学素子4aにより共振器のQ値を高くすると、Yb添加光ファイバ3aで発生した自然放出光が、高反射ファイバブラッググレーティング1bと低反射ファイバブラッググレーティング2bにより、共振器内に反射される。前記反射光が励起状態のYb添加光ファイバ3aへ入射することで誘導放出光が発生し、前記誘導放出光が高反射ファイバブラッググレーティング1bと低反射ファイバブラッググレーティング2bにより、共振器内に反射される。前記反射光が再び励起状態のYb添加光ファイバ3aへ入射することで、光パルスが発生する。光パルスの発生途中で部分的フィードバック光路5に入射した光は、部分的フィードバック光路5の光ファイバカプラ5aにて一定の光パワー比で光Aと光Bに分岐され、光Aは音響光学素子4aに伝搬する。一方、光Bは部分的フィードバック光路5の光ファイバ5bに伝搬し、一定の光路長を伝搬することにより、伝搬距離を延長され、再び光ファイバカプラ5aに戻る。光ファイバカプラ5aに戻された光Bは一定の光パワー比で光Cと光Dに分岐され、光Cは音響光学素子4aに伝搬する。もう一方の光Dは再度、光ファイバ5bに伝搬され、一定の光路長を伝搬することにより、伝搬距離を延長され、再び光ファイバカプラ5aに戻る。この部分的フィードバック動作が繰り返され、フィードバック回数に応じて光の伝搬距離が延長される。前述のQスイッチ式ファイバレーザの動作により、共振器内での周回時間に応じた周期で発生する複数の小信号光パルスが出力光パルスに重ね合わされた結果、低反射ファイバブラッググレーティング2bから、パルス形状にうねりのない光パルスが出力される。
【0047】
図6に示すQスイッチ式ファイバレーザにおいて、表1に示す光学特性の光部品を配置して構成したときに得られた出力光パルスを図7に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
以上のように実施例1の部分的フィードバック光路を設けたQスイッチ式ファイバレーザによれば、パルスパワーが高く、パルス幅が100ns〜500nsであり、かつ小信号パルスやうねりのない滑らかなパルス形状を有する光パルスが生成されることが確認された。
【0050】
実施例2
実施例1と同様の構成のQスイッチ式ファイバレーザにおいて、部分的フィードバック光路5の光ファイバカプラ5aにおいて、伝搬距離延長手段5Bである光ファイバ5bに分岐される光パワーを、部分的フィードバック光路5に入射する光パルスの30%、70%、90%と変化させたときの、出力光パルス波形を図8に示す。また、共振器用光ファイバ8に側圧を加えたときの出力光パルスのパルス幅の変動、および平均パワーの変動の測定結果を表2に示す。
【0051】
【表2】

【0052】
以上の実施例2に示すように、Qスイッチ式ファイバレーザの部分的フィードバック光路における部分的フィードバック光路への入射光に対する伝搬距離延長手段への光のパワー分岐量を70%とすることにより、出力光パルスのパルス幅のうねり、および平均パワーの側圧に対する変動を著しく小さくし得ることが確認された。
【0053】
実施例3
実施例1と同様の構成のQスイッチ式ファイバレーザにおいて、部分的フィードバック光路5の光ファイバカプラ5aにおいて、伝搬距離延長手段5Bである光ファイバ5bに分岐される光パワーを部分的フィードバック光路5に入射する光パルスの70%に固定し、光ファイバ5bの長さ(フィードバック長)を1000mm、2000mm、3000mmと変化させたときの、出力光パルス波形を図9に示す。Qスイッチ式ファイバレーザの部分的フィードバック光路の光ファイバ5bの長さを1000mm、2000mm、3000mmと変化させたときのいずれの出力光パルス波形においても、中心のパワーのピークが崩れることなく、大きなうねりも発生していない。
さらに、共振器用光ファイバ8に側圧を加えたときの出力光パルスのパルス幅の変動、および平均パワーの変動の測定結果を表3に示す。出力光パルスの平均パワーの変動は、Qスイッチ式ファイバレーザの共振器長2000mmに対して、部分的フィードバック光路の光ファイバ5bの長さを1000mmとしたときに著しく低くなっている。
【0054】
【表3】

【0055】
以上の実施例3に示すように、Qスイッチ式ファイバレーザの部分的フィードバック光路において、伝搬距離延長手段5Bである光ファイバ5bに分岐される光パワーが部分的フィードバック光路5に入射する光パルスの70%である場合には、フィードバック長によらず、うねりのない出力光パルスが得られた。特に、共振器長2000mmに対して部分的フィードバック光路のフィードバック長を1000mmとすることにより、出力光パルス形状を極めて滑らかにし、出力光パルスの平均パワーの側圧に対する変動を著しく小さくし得ることが確認された。なお、共振器長2000mmに対して部分的フィードバック光路のフィードバック長は500mm〜1500mmの範囲内が好適であることが確認されているが、共振器長が異なる場合には、フィードバック長はその共振器長に応じて適切に選択する必要がある。
【0056】
実施例4
実施例4で使用したQスイッチ式ファイバレーザは、第2の実施形態のQスイッチ式ファイバレーザの構成に基づき、部分的フィードバック光路の分岐手段として反射率4%のファイバブラッググレーティングを設け、ファイバブラッググレーティング5cで反射され、共振器内を伝搬して高反射率構造1で反射されて、再びファイバブラッググレーティング5cに入射するまで光の伝搬経路を、伝搬距離延長手段5Bとして機能させたものである。このQスイッチ式ファイバレーザから得られた出力光パルス波形を図10に示す。
【0057】
図10に示すように、実施例4の場合も出力光パルス形状のうねりがなくなることが確認された。
【符号の説明】
【0058】
1 高反射率構造
1a 励起カプラ
1b 高反射ファイバブラッググレーティング
2 低反射率構造
2a 出力カプラ
2b 低反射ファイバブラッググレーティング
3 希土類添加光ファイバ
3a Yb添加光ファイバ
4 Qスイッチ装置
4a 音響光学素子
5 部分的フィードバック光路
5A 分岐手段
5B 伝搬距離延長手段
5a 光ファイバカプラ
5b 光ファイバ
5c ファイバブラッググレーティング
6 バンドパスフィルタ
7 半導体レーザ
8 共振器用光ファイバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光パルス増幅用の希土類添加光ファイバとQスイッチ装置とを備え、自然放出光または誘導放出光を共振させるための共振器を有するQスイッチ式ファイバレーザにおいて、
分岐手段と伝搬距離延長手段とを有する部分的フィードバック光路が前記共振器内に設けられており、前記分岐手段は前記部分的フィードバック光路に入射した光を一定の光パワー比で、共振器用光ファイバに出射する光と、前記伝搬距離延長手段に出射する光とに分離するように構成され、また前記伝搬距離延長手段は、入射してきた光を一定の光路長内で伝搬させることにより前記光の伝搬距離を延長して、再び前記分岐手段に入射させるように構成されていることを特徴とするQスイッチ式ファイバレーザ。
【請求項2】
請求項1に記載のQスイッチ式ファイバレーザにおいて、
前記部分的フィードバック光路の分岐手段および伝搬距離延長手段として、それぞれ光ファイバカプラおよび光ファイバを設け、前記光ファイバの両端が前記光ファイバカプラの入射導波路と出射導波路に接続されていることを特徴とするQスイッチ式ファイバレーザ。
【請求項3】
請求項2に記載のQスイッチ式ファイバレーザにおいて、
前記光ファイバカプラから前記光ファイバに分岐される光のパワー比率が60%±20%の範囲内にあるように構成したことを特徴とするQスイッチ式ファイバレーザ。
【請求項4】
請求項1に記載のQスイッチ式ファイバレーザにおいて、
前記部分的フィードバック光路の分岐手段として、ファイバブラッググレーティングを設け、ファイバブラッググレーティングで反射され、前記共振器内を伝搬し、再びファイバブラッググレーティングに入射するまで光の伝搬経路を、伝搬距離延長手段として機能させることを特徴とする光Qスイッチ式ファイバレーザ。
【請求項5】
請求項4に記載のQスイッチ式ファイバレーザにおいて、
前記ファイバブラッググレーティングの反射率が1%〜10%の範囲内にあるように構成したことを特徴とするQスイッチ式ファイバレーザ。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のうちのいずれかの請求項に記載のQスイッチ式ファイバレーザにおいて、
前記Qスイッチ装置として、音響光学素子を設けたことを特徴とするQスイッチ式ファイバレーザ。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のうちのいずれかの請求項に記載のQスイッチ式ファイバレーザにおいて、
前記共振器として、ファブリーペロー型共振器を設けたことを特徴とするQスイッチ式ファイバレーザ。
【請求項8】
請求項1〜請求項3のうちのいずれかの請求項に記載のQスイッチ式ファイバレーザにおいて、
前記共振器として、リング型共振器を設けたことを特徴とするQスイッチ式ファイバレーザ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−164860(P2012−164860A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−24833(P2011−24833)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】