説明

Thermococcus属から分離された新規な水素化酵素、これを暗号化する遺伝子及びその遺伝子を有する微生物を用いて水素を産生する方法

本発明は、Thermococcus属に属する高好熱性新菌株から分離した新規な水素化酵素、これを暗号化する遺伝子及びこれを用いて水素を産生する方法に関する。本発明の水素の産生方法によれば、前記菌株を特定の培養条件下で培養するだけで多量の水素を産生することができることから、既存の水素の産生方法に比べて経済的で且つ効率的であり、しかも、高温下でも水素を産生することができるというメリットがある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はThermococcus属に属する新菌株から発見した新規な水素化酵素、これを暗号化する遺伝子、及びこれらを用いて水素を産生する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素エネルギーは重量当たりの発熱量が石油よりも3倍以上高いつつも、二酸化炭素、NOx、SOxなど環境に悪影響を及ぼしうる物質を排出しないことから、今後化石エネルギーに替えうるエネルギーとして脚光を浴びている。
【0003】
従来より用いられてきている水素の産生方法には、水の電気分解、天然ガスやナフサの熱分解または水蒸気改質法などがある。しかしながら、これらの方法はさらに化石燃料を用いて高温・高圧の条件を造成しなければならないという不都合があり、一酸化炭素を含む混合ガスを発生するため、そのようなガスから一酸化炭素を除去しなければならないという難点を発生する。
【0004】
これに対し、微生物を用いた生物学的な水素の産生方法は、別途のエネルギーを投入して高温・高圧の条件を造成する必要がなく、生成されたガスに一酸化炭素を含んでいないというメリットがある。このような生物学的な水素の産生方法は、大きく光合成微生物を利用する方法と、非光合成微生物(主として、嫌気性微生物)を利用する方法と、に大別できる。前者に属する例として、例えば、下記の特許文献1の「高い塩分濃度における、水素生成能に優れた光合成細菌ロドシュードモナス・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)菌株を用いた水素の産生方法」などがある。
【0005】
しかしながら、光をエネルギー源として用いる光合成細菌の高濃度培養技術が未だ十分に開発されておらず、従来の光合成細菌は高い分圧の基質がある場合に基質阻害が深刻であるという欠点がある。なお、これらは光が存在する場合にしか水素生成能を持続することができないといった不都合がある。
【0006】
このため、有機炭素を用いて水素を産生可能な微生物を用いて水素を産生しようとする試みが絶えずなされてきており、その例として、例えば、下記の特許文献2の「シトロバクター属菌株Y19及びこれによる水素産生」、例えば、下記の特許文献3の「ロドシュードモナス・パルストリス(Rhodopseudomonas palustris」P4及びこれによる水素産生」などがある。
【0007】
本発明者らは高好熱性新菌株Thermococcus onnurineus NA1(寄託番号:KCTC 10859BP)の新規なタンパク質及びこれを暗号化する遺伝子について2008年9月5日付けにて特許出願を行った(例えば、下記の特許文献4参照)。本発明は、これらの特許出願されたタンパク質及び遺伝子のうち特に水素生成と関連するものに関する。本発明者らは、前記菌株の水素生成能力と関連する実験を行った結果、前記菌株が高温の環境下でも多量の水素を生成することを見出し、特に、一酸化炭素(CO)またはホルム酸塩を添加した培養条件下で多量発現する新規な水素化酵素を見出し、本発明を完成するに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】大韓民国登録特許第10−0680624号公報
【特許文献2】大韓民国登録特許第10−0315663号公報
【特許文献3】大韓民国登録特許第10−0315662号公報
【特許文献4】大韓民国特許出願第10−2008−0087794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、高温の環境下でも水素を産生可能な高好熱性Thermococcus spp.の水素化酵素及びこれを暗号化する遺伝子を提供し、これを用いて効率よく水素を産生する方法を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するための手段として、本発明は、嫌気的培養条件下で水素を産生可能な高好熱性Thermococcus spp.菌株が有している水素化酵素及びこれを暗号化する遺伝子を提供する。なお、本発明は、前記菌株を培養して水素を産生する方法及び前記遺伝子を用いて水素を産生する方法を提供する。
【0011】
第1態様として、本発明は、高好熱性新菌株Thermococcus onnurineus NA1(寄託番号:KCTC 10859BP)が産生する水素化酵素を提供する。T. onnurineus NA1は8種類の新規な水素化酵素遺伝子クラスターを有しており、ここに属する水素化酵素に対するアミノ酸配列は配列番号1乃至配列番号8の通りである。
【0012】
第2態様として、本発明は、前記アミノ酸を暗号化する遺伝子を提供する。これに制限されるものではないが、好ましくは、前記遺伝子は、配列番号12乃至配列番号19である(前記配列番号1乃至配列番号8のアミノ酸がそれぞれ配列番号12乃至19の遺伝子に対応する)。
【0013】
第3態様として、本発明は、Thermococcus spp.を培養して水素を産生する方法を提供する。前記方法は、1)培養容器に培地を生成するステップと、2)Thermococcus spp.を前記培養容器において培養するステップと、3)前記培養容器から水素を抽出するステップと、を含むことを特徴とする。前記Thermococcus spp.は、好ましくは、Thermococcus onnurineus NA1(寄託番号:KCTC 10859BP)である。
【0014】
さらに、前記培地は、一酸化炭素、ホルム酸塩及び澱粉よりなる群から選ばれるいずれか一種以上の物質が添加された培地であってもよい。また、前記培養は、80℃の高温下で行われてもよく、嫌気的条件下で行われてもよい。
【0015】
第4態様として、本発明は、配列番号9乃至配列番号11よりなる群から選ばれるいずれか一種以上のアミノ酸配列からなる脱水素化酵素を提供する。
【0016】
第5態様として、本発明は、前記脱水素化酵素を暗号化する遺伝子を提供し、好ましくは、これは、配列番号20乃至配列番号22である(前記配列番号9乃至11のアミノ酸がそれぞれ配列番号20乃至22に対応する)。
【0017】
第6態様として、本発明は、T. onnurineus NA1のCODH−MCH−MNH3水素化酵素クラスターを構成する遺伝子がいずれも作動可能に連結された組換えベクターを提供する。好ましくは、これに制限されるものではないが、前記遺伝子は、配列番号21(CODH脱水素化酵素)及び配列番号16(MCH水素化酵素)の遺伝子を含む。加えて、本発明は、前記組換えベクターで形質転換された宿主細胞を提供する。
【0018】
また、本発明は、培養容器に培地を生成するステップと、前記培養容器のガス層に一酸化炭素を供給するステップと、前記形質転換体を前記培養容器において培養するステップと、前記培養容器から水素を抽出するステップと、を含むことを特徴とする前記形質転換体を用いて水素を産生する方法を提供する。
【0019】
第7態様として、本発明は、T. onnurineus NA1のFDH2−MFH2−MNH2水素化酵素クラスターを構成する遺伝子がいずれも作動可能に連結された組換えベクターを提供する。好ましくは、これに制限されるものではないが、前記遺伝子は、配列番号22(FDH2脱水素化酵素)及び配列番号18(MFH2水素化酵素)の遺伝子を含む。加えて、本発明は、前記組換えベクターで形質転換された宿主細胞を提供する。
【0020】
さらに、本発明は、培養容器にホルム酸塩を含む培地を生成するステップと、前記形質転換体を前記培養容器において培養するステップと、前記培養容器から水素を抽出するステップと、を含むことを特徴とする前記形質転換体を用いて水素を産生する方法を提供する。
【0021】
第8態様として、本発明は、T. onnurineus NA1のFDH1−MFH1−MNH1水素化酵素クラスターを構成する遺伝子がいずれも作動可能に連結された組換えベクターを提供する。好ましくは、これに制限されるものではないが、前記遺伝子は、配列番号20(FDH1脱水素化酵素)及び配列番号13(MFH1水素化酵素)の遺伝子を含む。加えて、本発明は、前記組換えベクターで形質転換された宿主細胞を提供する。
【0022】
さらに、本発明は、培養容器に澱粉を含む培地を生成するステップと、前記形質転換体を前記培養容器において培養するステップと、前記培養容器から水素を抽出するステップと、を含むことを特徴とする前記形質転換体を用いて水素を産生する方法を提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る水素の産生方法は、従来の化学的な産生方法とは異なり、高温・高圧の条件を必要とせず、且つ、常温・常圧の条件下で水素を発生することができ、有害な副産物を発生しないというメリットがある。なお、微生物を用いて水素を産生する従来の技術と比較しても、高純度の水素を高効率にて産生することができ、高温条件下でも水素を産生することができるというメリットがある。
【0024】
このため、石油精製工程などにおいて排出される高温の一酸化炭素を別途の冷却過程なしに直ちに捕獲して水素生成に活用することができるという経済的な利点があり、空気浄化の側面からも有効に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】Thermococcales strains、T. onnurineus NA1 (NA1)、T. kodakaraensis、P. furiosus及びP. abyssi.のプロテオームの共通領域及び特異領域を示すベン図である。前記菌株に対するタンパク質組はNCBIのRefSeq collectionから求めた。
【図2】Aは、T. onnurineus NA1の8個の水素化酵素遺伝子クラスターの代表図である。A、B、C、D;膜内水素化酵素及び細胞質内NiFe−水素化酵素。S1、S2、S3;T. onnurineus NA1.遺伝子に特異的な水素化酵素をCOG機能カテゴリによって彩色した。TON_0051−0055は配列番号1から5、TON_0486−0498は配列番号35から47、TON_0533−0544は配列番号48から59、TON_1583−1595は配列番号100から112、TON_0261−0289は配列番号6から34、TON_1016−1031は配列番号60から75、TON_1559−1582は配列番号76から99を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1乃至配列番号8よりなる群から選ばれたいずれか一種以上のアミノ酸配列からなる水素化酵素。
【請求項2】
請求項1に記載の水素化酵素を暗号化する遺伝子。
【請求項3】
前記遺伝子は、配列番号12乃至配列番号19よりなる群から選ばれたいずれか一種以上の塩基配列を含むことを特徴とする請求項2に記載の水素化酵素を暗号化する遺伝子。
【請求項4】
培養容器に培地を生成するステップと、Thermococcus spp.を前記培養容器において培養するステップと、前記培養容器から水素を抽出するステップと、を含むことを特徴とするThermococcus spp.から水素を産生する方法。
【請求項5】
前記Thermococcus spp.は、Thermococcus onnurineus NA1(寄託番号:KCTC 10859BP)であることを特徴とする請求項4に記載の水素を産生する方法。
【請求項6】
前記培地は、一酸化炭素、ホルム酸塩及び澱粉よりなる群から選ばれるいずれか一種以上の物質が添加された培地であることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記培養は80℃の高温において行われることを特徴とする請求項4から請求項6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記培養は嫌気的条件下で行われることを特徴とする請求項4から請求項6のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
配列番号9乃至配列番号11よりなる群から選ばれたいずれか一種以上のアミノ酸配列からなる脱水素化酵素。
【請求項10】
請求項9に記載の脱水素化酵素を暗号化する遺伝子。
【請求項11】
前記遺伝子は、配列番号20乃至配列番号22よりなる群から選ばれたいずれか一種以上の塩基配列を含むことを特徴とする請求項10に記載の水素化酵素を暗号化する遺伝子。
【請求項12】
配列番号21及び配列番号16(CODH−MCH−MNH3クラスターを構成する遺伝子)の遺伝子が作動可能に連結された組換えベクター。
【請求項13】
請求項12に記載の組換えベクターで形質転換された宿主細胞。
【請求項14】
請求項13に記載の形質転換体を用いて水素を産生する方法において、
培養容器に培地を生成するステップと、前記培養容器のガス層に一酸化炭素を供給するステップと、前記形質転換体を前記培養容器において培養するステップと、前記培養容器から水素を抽出するステップと、を含むことを特徴とする方法。
【請求項15】
配列番号22及び配列番号18(FDH2−MFH2−MNH2クラスターを構成する遺伝子)の遺伝子が作動可能に連結された組換えベクター。
【請求項16】
請求項15に記載の組換えベクターで形質転換された宿主細胞。
【請求項17】
請求項16に記載の形質転換体を用いて水素を産生する方法において、
培養容器にホルム酸塩を含む培地を生成するステップと、
前記形質転換体を前記培養容器において培養するステップと、
前記培養容器から水素を抽出するステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項18】
配列番号20及び配列番号13(FDH1−MFH1−MNH1クラスターを構成する遺伝子)の遺伝子が作動可能に連結された組換えベクター。
【請求項19】
請求項18に記載の組換えベクターで形質転換された宿主細胞。
【請求項20】
請求項19に記載の形質転換体を用いて水素を産生する方法において、
培養容器に澱粉を含む培地を生成するステップと、
前記形質転換体を前記培養容器において培養するステップと、
前記培養容器から水素を抽出するステップと、
を含むことを特徴とする方法。




【図2】BはT. onnurineus NA1のゲノム上において3−モジュール遺伝子クラスターを有する3個の水素化酵素遺伝子クラスター(fdh1−mfh1−mnh1、fdh2−mfh2−mnh2及びcodh−mch−mnh)の遺伝子構成を示すものである。同じサブクラスターに属する遺伝子は同じ色にて表示した。
【図3】31個の古細菌遺伝体の水素化酵素遺伝子クラスターの分布及び保存パターンを示す。青色のクロチェット(下から1番目、3番目、5番目のクロチェット)にて表示した部分は31個の古細菌遺伝体のCDSに対して低い(<25%)類似度を示すCDSを示す。黒色にて表示した部分はP. abyssiの水素化酵素4に類似するCDSを示す。1番から31番に相当する古細菌遺伝子は、以下の表1の通りである。
【図4】CODHとF420水素化酵素タンパク質のアルファサブユニットを比較したものである。図4はCODHの系統樹である。系統樹上、それぞれのタンパク質の同族体はNCBI nrデータベースから得た。
【図5】CODHとF420水素化酵素タンパク質のアルファサブユニットを比較したものである。図5はF420水素化酵素アルファサブユニットの系統樹である。系統樹上、それぞれのタンパク質の同族体はNCBI nrデータベースから得た。
【図6】COに依存するT. onnurineus NA1の成長分析表である。T. onnurineus NA1をCO(2、正三角形)、硫黄(3、四角形)または両者とも(4、逆三角形)添加された培地1において生長させた。対照群として、添加物なし培地(1、円)とYPS培地(C)において培養したものを表示した。フィルター上のDAPI染色された細胞を蛍光顕微鏡により直接的に計数した。a.様々な酵母抽出物(yeast extract、YE)濃度の培地組成による効果。b.他の補充物が添加された培地1におけるT. onnurineus NA1の成長曲線。c.CODH遺伝子の転写分析。
【図7】YPS(A)またはCO含有培地(B)におけるT. onnurineus NA1の成長及び水素生成を示す。開円は成長を示し、閉円は水素生成を示す。
【図8】YPS(A)またはCO含有培地(B)におけるT. onnurineus NA1の水素化酵素遺伝子クラスターの発現をマイクロアレイ(A)及びRT−PCR(B)により分析したものである。(A)はT. onnurineus NA1の8反復の水素化酵素遺伝子クラスターのマイクロアレイ分析である。COにおけるmRNA変化の階層的クラスターリングと、対照区としてYPS成長条件におけるものとを比較した。上向き調節及び下向き調節はそれぞれ赤色と緑色にて表示した。成長条件はクラスターリングの上端に表示した。クラスターリングの右側に、codh−mch−mnh3、fdh1−mfh1−mnh1またはfdh2−mfh2−mnh2それぞれのORFを棒にて表示した。YE:酵母抽出物。(B)はmbh(TON_1593)、mbx(TON0489)、frh(TON_1560)、sulfI(TON_0534)、mch(TON_1023)、mfh2(TON_1569)、またはmfh1(TON_0276)水素化酵素の大きなサブユニットそれぞれのCOまたはYPS条件における定量的RT−PCR分析結果である。T. onnurineus NA1のcha(シャペロニン−暗号化遺伝子)が対照区であって、発現レベルを標準化する上で用いられた。
【図9】mch(TON_1023)及びmfh2(TON_1569)水素化酵素それぞれの大きなサブユニットの標的遺伝子破壊を示す。(A)はT. onnurineus NA1のcodh−mch−mnh3及びfdh2−mfh2−mnh2クラスターそれぞれの遺伝子構成である。Pgdh、T. kodakaraensis KOD1のグルタメート脱水素化酵素遺伝子の5’−上流地域のプロモータ;hmgPfu、Pyrococcus furiosusの3−ヒドロキシ−メチルグルタリルコエンザイムA還元酵素遺伝子。(B)はPCRによる遺伝子欠損の確認を示す。左パネルは過発現カセット(Pgdh−hmgPfu)領域に対するプライマーを用いたPCR増幅を示す。右パネルはmchTNA1またはmfh2TNA1水素化酵素それぞれの大きなサブユニット領域に対するプライマーを用いたPCR増幅を示す。M;サイズマーカー(1kb ladder)、W;野生型、レーン1−2;それぞれの突然変異菌株。
【図10】YPSまたはCO含有培地における△mchTNA1または△mfh2NA1突然変異菌株の成長及び水素生成を示す。開円;成長、閉円;水素生成。
【発明を実施するための形態】
【0026】
【表1】
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【0027】
第1態様として、本発明は、嫌気性条件下で水素を産生する高好熱性新菌株Thermococcus onnurineus NA1(寄託番号:KCTC 10859BP)が産生する水素化酵素を提供する。前記菌株は、イースト・マヌス・バシン(East Manus Basin)にあるパークマヌス地域の深海熱水噴出口から分離したものであり、大韓民国生命工学研究院生物資源センター(KCTC)に2005年10月7日付けにて寄託して、2005年10月20日付けにてKCTC 10859BPの寄託番号を付与された。前記菌株の特徴及び培養方法などについては、本出願の基礎出願である大韓民国特許出願第10−2007−0127255号公報に記載されている。
T. onnurineus NA1は8種類の新規な水素化酵素遺伝子クラスターを有している。前記水素化酵素は水素分子(H)の代謝に関連する核心的酵素であって、2H+2e⇔Hの可逆的反応に触媒作用をする。好ましくは、前記クラスターに属する水素化酵素は配列番号1乃至配列番号8よりなる群から選ばれるいずれか一種以上のアミノ酸配列を含むタンパク質及びこの機能的な同等物を提供する。「機能的同等物」には前記タンパク質においてその一部または全部が置換されたり、アミノ酸の一部が欠失または付加されたアミノ酸配列変形体が含まれる。アミノ酸の置換は、好ましくは、保存的置換である。天然に存在するアミノ酸の保存的置換の例は、下記の通りである;脂肪族アミノ酸(Gly、Ala、Pro)、疎水性アミノ酸(Ile、Leu、Val)、芳香族アミノ酸(Phe、Tyr、Trp)、酸性アミノ酸(Asp、Glu)、塩基性アミノ酸(His、Lys、Arg、Gln、Asn)及び硫黄含有アミノ酸(Cys、Met)。アミノ酸の欠失は、好ましくは、水素化酵素の活性に直接的に関与しない部分に位置する。
【0028】
第2態様として、本発明は、前記アミノ酸を暗号化する遺伝子を提供する。これに制限されるものではないが、好ましくは、前記遺伝子は、配列番号12乃至配列番号19である(前記配列番号1乃至配列番号8のアミノ酸がそれぞれ配列番号12乃至19の遺伝子に対応する)。
【0029】
第3態様として、本発明は、Thermococcus spp.を培養して水素を産生する方法を提供する。前記方法は、1)培養容器に培地を生成するステップと、2)Thermococcus spp.を前記培養容器において培養するステップと、3)前記培養容器から水素を抽出するステップと、を含むことを特徴とする。前記Thermococcus spp.は、好ましくは、Thermococcus onnurineus NA1(寄託番号:KCTC 10859BP)である。
【0030】
加えて、前記培地は、一酸化炭素、ホルム酸塩及び澱粉よりなる群から選ばれるいずれか一種以上の物質が添加された培地であってもよい。なお、前記培養は80℃の高温において行われてもよく、嫌気的な条件下で行われてもよい。
【0031】
第4態様として、本発明は、配列番号9乃至配列番号11よりなる群から選ばれるいずれか一種のアミノ酸配列からなる脱水素化酵素を提供する。
【0032】
第5態様として、本発明は、前記脱水素化酵素を暗号化する遺伝子を提供し、好ましくは、これは、配列番号20乃至配列番号22である(前記配列番号9乃至11のアミノ酸がそれぞれ配列番号20乃至22に対応する)。
【0033】
第6態様として、本発明は、T. onnurineus NA1のCODH−MCH−MNH3水素化酵素クラスターを構成する遺伝子がいずれも作動可能に連結された組換えベクターを提供する。好ましくは、これに制限されるものではないが、前記遺伝子は、配列番号21(CODH脱水素化酵素)及び配列番号16(MCH水素化酵素)の遺伝子を含む。前記「ベクター」とは、他の核酸をそこに結合して移送可能な核酸分子を意味する。前記ベクターにより運ばれる各組換え型遺伝子により暗号化されるタンパク質を合成可能な「発現ベクター」としてプラスミド、コスミドまたはファージなどを利用することができる。好適なベクターは、それが結合された核酸を自己複製及び発現可能なベクターである。
【0034】
加えて、本発明は、前記組換えベクターで形質転換された宿主細胞を提供する。前記組換えベクターは、原核生物、カビ、植物、動物細胞などの細胞を形質転換させて高い効率にて水素を産生可能な形質転換細胞を製造するのに利用可能である。「形質転換」という用語は、外来DNAまたはRNAが細胞に吸収されて細胞の遺伝型が変化されることを言う。
【0035】
また、本発明は、培養容器に培地を生成するステップと、前記培養容器のガス層に一酸化炭素を供給するステップと、前記形質転換体を前記培養容器において培養するステップと、前記培養容器から水素を抽出するステップと、を含むことを特徴とする前記形質転換体を用いて水素を産生する方法を提供する。
【0036】
第7態様として、本発明は、T. onnurineus NA1のFDH2−MFH2−MNH2水素化酵素クラスターを構成する遺伝子がいずれも作動可能に連結された組換えベクターを提供する。好ましくは、これに制限されるものではないが、前記遺伝子は、配列番号22(FDH2脱水素化酵素)及び配列番号18(MFH2水素化酵素)の遺伝子を含む。加えて、本発明は、前記組換えベクターで形質転換された宿主細胞を提供する。
【0037】
前記「ベクター」、「形質転換」及び「宿主細胞」に関する事項は、前記第6態様に記述されている通りである。
【0038】
さらに、本発明は、培養容器にホルム酸塩を含む培地を生成するステップと、前記形質転換体を前記培養容器において培養するステップと、前記培養容器から水素を抽出するステップと、を含むことを特徴とする前記形質転換体を用いて水素を産生する方法を提供する。
【0039】
第8態様として、本発明は、T. onnurineus NA1のFDH1−MFH1−MNH1水素化酵素クラスターを構成する遺伝子がいずれも作動可能に連結された組換えベクターを提供する。好ましくは、これに制限されるものではないが、前記遺伝子は、配列番号20(FDH1脱水素化酵素)及び配列番号13(MFH1水素化酵素)の遺伝子を含む。加えて、本発明は、前記組換えベクターで形質転換された宿主細胞を提供する。
【0040】
前記「ベクター」、「形質転換」及び「宿主細胞」に関する事項は、前記第6態様に記述されている通りである。
【0041】
さらに、本発明は、培養容器に澱粉を含む培地を生成するステップと、前記形質転換体を前記培養容器において培養するステップと、前記培養容器から水素を抽出するステップと、を含むことを特徴とする前記形質転換体を用いて水素を産生する方法を提供する。
【0042】
以下、本発明を実施例によって一層詳述する。但し、下記の実施例は本発明を例示するものであり、本発明の内容が実施例により限定されることはない。
【実施例】
【0043】
1.Thermococcus onnurineus NA1菌株の水素化酵素遺伝子分析
(1)実験方法
1)培養条件
一般的な培養条件として、80℃の嫌気性環境においてYPS(yeast extract-peptone-sulfur)培地に細胞を培養させた(Holden et al. 2001)。生理的特性に対する試験は、1.0ml微量元素混合物、1mlビタミン溶液(Balch, W. E., G. E. Fox, L. J. Magrum, C. R. Woese, and R. S. Wolfe. 1979. Methanogens: reevaluation of a unique biological group. Microbiol. Rev. 43:260-296.)、NaCl(30gl−1)及び酵母抽出物(0.5gl−1)を追加した変形培地1(Sokolova, T. G., C. Jeanthon, N. A Kostrikina, N. A. Chernyh, A. V. Lebedinsky, E. Stackebrandt, and E. A. Bonch-Osmolovskaya. 2004. The first evidence of anaerobic CO oxidation coupled with H2 production by a hyperthermophilic archaeon isolated from a deep-sea hydrothermal vent. Extremophiles 8:317-323.)を用いて行った。pHはNaOHを用いて8.0に調整した。嫌気的条件下で製造した培地を25ml血清瓶に入れ、残りのガス層(15ml)をN/CO(80:20、1bar)または100%COにより満たした。ホルム酸塩や澱粉により培養する場合には、加圧滅菌する前にそれぞれ10gL−1のホルム酸塩ナトリウム(Sigma社製)や5gL−1の可溶性澱粉(Sigma社製)を培地に添加した。生理的な試験のための培養はいずれも80℃において2日間行った。
【0044】
2)遺伝子配列分析
T. onnurineus NA1の遺伝体配列は全ゲノムショットガンシークエンス法及びパイロシークエンス法を用いて決定した。キャピラリーシークエンスのために、2−から3−kbサイズの挿入ライブラリ(11,028クローン)、40−kbの挿入ライブラリ(1,870クローン)、及び35−kbの挿入ライブラリ(288クローン)を製作し、ABI 3730XLシーケンサー(Applied Biosystems社製)を用いて配列分析した。パイロシークエンスのために、GS−20シーケンサー(454 Life Sciences)を用いて581,990個のDNA断片に対して配列分析を行った。両配列分析機により生成されたコンティグを組み合わせ、クローンワーキング及びPCRシークエンスによりシークエンス間隔を埋めた。タンパク質を暗号化するORF及びRNA遺伝子はGlimmer 3.0(University of Maryland)、GSFinder及びRBSFinderの組み合わせとmanual ORF fitting processを通じて予測した。全てのORFを決定した後に、NCBI nrタンパク質データベース、KEGG(Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes)及びCOGs(Clusters of Orthologous Groups of proteins)データベースに対してBLASTp検索(Tatusova, R. L., D. A. Natale, I. V. Garkavtsev, T. A. Tatusova, U. T. Shankavaram, B. S. Rao, B. Kiryutin, M. Y. Galperin, N. D. Fedorova, and E. V. Koonin. 2001. The COG database: new developments in phylogenetic classification of proteins from complete genomes. Nucleic Acids Res. 29:22-28.)を用いてタンパク質配列をさらに分析した。tRNA−暗号化部位はtRNA scan−SEを用いて予測した(Lowe, T. M., and S. R. Eddy. 1997. tRNAscan-SE: a program for improved detection of transfer RNA genes in genomic sequence. Nucleic Acids Res. 25:955-964.)。
【0045】
3)タンパク質分析
T. onnurineus NA1細胞を4%SDS及び4mM EDTAが含まれている100mM Tris−HClバッファ(pH6.8)に浮遊させ、10分間沸騰した後、22,000gにて20分間遠心分離した。12%SDS−PAGEを用いて細胞溶解物を分離し、分子サイズに基づいて30個の分画を得た。その後、トリプシン(Promega, USA)を用いてそれをイン−ゲル分解させ(Kim, Y. H., K. Cho, S. H. Yun, J. Y. Kim, K. H. Kwon, J. S. Yoo, and S. I. Kim. 2006. Analysis of aromatic catabolic pathways in Pseudomonas putida KT 2440 by combined proteomic approach: 2-DE/MS and cleavable ICAT analysis. Proteomics 6:1301-1318.)、質量分析計(Thermo Finnigan LTQ IT)により分析するためにトリプシンにより分解した物質を0.5%トリフルオロ酢酸溶液に溶かした。ペプチド同定はシーケストプログラム(Thermo Finnigan, San Jose, CA)を用いて行った。
【0046】
4)総RNA分離及びRT−PCR分析
50mlのT. onnurineus NA1培養液をN/CO(80:20, 1bar)または100%CO気体相において様々な濃度の酵母抽出物を添加した変形培地1において半指数成長段階まで生長した。6,000xgにて30分間遠心分離して細胞を得た。500μlのトリゾール試薬(Invitrogen, Carlsbad, CA)を添加した50μlの50mM Tris−HClバッファ(pH7.5)にペレットを再懸濁させた。その細胞を冷凍と解凍過程を通じて溶解させ、200μlのクロロホルムを用いて試料を抽出した。総RNAを含む水溶液相はエタノール沈殿を通じてさらに処理した後、蒸留水に再懸濁させた。RNAの濃度及び完全性は0.8%アガロースゲル分析と260及び280nmにおける吸光度測定を通じて決定した。製品使用説明書による方法によりSuperScriptTM II逆転写酵素(Invitrogen)を用いて逆転写及びPCR増幅を行った。対照群として、一酸化炭素デヒドロゲナーゼ(CODH:carbon monooxide dehydrogenase)及びHsp60(chaperonine)の増幅のために下記の2組のプライマーを使用した。
【0047】
CODH gene(順方向、5’−GGACCATGTAGAATCGAYCCGTTY−3’(配列番号23)及び逆方向、5’−TTCRTTTCCGGTACAGCA−3’(配列番号24))
Hsp60 gene(順方向、5’−ATGGCACAGCTTAGTGGACAG−3’(配列番号25)及び逆方向、5’−CAAGGATTTCCTGGGCTTTCTC−3’(配列番号26))。
【0048】
5)コンピュータ分析
アミノ酸配列の相同性検索はNCBIの非冗長なタンパク質データベースに対してBLASTプログラムを用いて行った。グループ4水素化酵素のL1信号(C[GS][ILV]C[AGNS]xxH、xはあるアミノ酸を表示)を持つタンパク質のためのモチーフ検索は、NCBIの非冗長なタンパク質データベースに対してProteinFinderプログラム(Ensoltek, Korea)を用いて行った。タンパク質に対する多重配列整列はClustalWプログラム(Thompson, J.D., Higgins, D.G. and Gibson, T.J. (1994) CLUSTAL W: improving the sensitivity of progressive multiple sequence alignment through sequence weighting, position-specific gap penalties and weight matrix choice. Nucleic Acids Res. 22, 4673-4680.)を用いて行い、系統学的ツリーはMolecular Evolutionary Genetics Analysis (Mega 4.1) ソフトウェア(Tamura, K., Dudley, J., Nei, M. and Kumar, S. (2007) MEGA4: Molecular Evolutionary Genetics Analysis (MEGA) software version 4.0. Mol. Biol. Evol. 24, 1596-1599.)を用いて構築した。16S rRNA配列の系統学ツリーはRibosomalデータベースサイト(http://rdp.cme.msu.edu/index.jsp)から得たプレアライン配列を用いて製造した。
【0049】
6)配列ロゴの生成
ロゴ表示は、関連配列により共有される与えられたモチーフそれぞれの位置と関連する情報を視覚化するために用いられた。グラフィック表示において、それぞれの位置の全体的な高さはその位置(ビットにて表示)における保存度と関連があるのに対し、ある位置内のシンボルの相対的なサイズはそれらの相対的な頻度を示す。ロゴ分析は、Berkeley Structural Genomics Center (http://weblogo.berkeley.edu/)において行われた。
【0050】
(2)分析結果
1)T. onnurineus NA1遺伝子の一般的特徴
熱水噴出孔地域においてThermococcus spp.が成功的な優占種になった理由を明らかにするために、T. onnurineus NA1の遺伝体配列を任意的な全ゲノムショットガンシークエンス法及びパイロシークエンスを組み合わせて決定した。その結果、T. onnurineus NA1は別途の染色体外構成要素がなく、一つの環状染色体(1,847,607bp)を有していることを明らかにし、合計1,976個の暗号化DNA配列(coding DNA sequences, CDSs)を同定した(表1及び図1)。1104個のCDS(55.8%)は相同性及びドメイン検索を通じてアノテーションすることができるが、残りの872個のCDSの機能は1次構造から予測することができなかった。遺伝体スケールにてタンパク質類似度を検索したとき、T. onnurineus NA1タンパク質の82.7%がThermococcalesのものと類似性を示した。
【0051】
【表2】
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【0052】
2)水素化酵素クラスター
T. onnurineus NA1の遺伝体において水素化酵素及びそれと関連するタンパク質の割合が高いことを見出し(5.5%)、これは、CO脱水素酵素及びホルム酸塩脱水素酵素を含む酸化還元酵素と関連する還元力の保存または再循環の増加を示す。
【0053】
水素化酵素はそれらの触媒金属中心に基づいて[NiFe]−水素化酵素、[FeFe]−水素化酵素及び[Fe]−水素化酵素に分類することができる。前記それぞれの水素化酵素群内に保存された特徴的な機能性中心に基づくとき、一つの水素化酵素を除くT. onnurineus NA1内の全ての水素化酵素は[NiFe]−水素化酵素に属すると認められる。Vignais et al.の分類体系によれば、T. onnurineus NA1の[NiFe]−水素化酵素はグループ3(一つのF420還元及び2つのNADP還元水素化酵素)またはグループ4(4個の膜関連水素化酵素)に属する(Silva, P.J., van den Ban, E.C., Wassink, H., Haaker, H., de Castro, B., Robb, F.T. and Hagen, W.R. (2000) Enzymes of hydrogen metabolism in Pyrococcus furiosus. Eur. J. Biochem. 267, 6541-6551)。グループ4に属する水素化酵素はエネルギー転換水素化酵素(energy-converting hydrogenases, Ech)と命名され、バクテリア及び古細菌の間に広く分布されている。
【0054】
水素化酵素代謝の分子的基礎を理解するために、水素化酵素遺伝子クラスターを比較分析した。前記水素化酵素の系統学的分析結果、グループ4水素化酵素を2つのサブグループの4a及び4bに分類することができ、グループ4bの全ての配列に共通する1対のモチーフパターンを発見することができた。
【0055】
図2に示すように、Pyrococcus spp.及びT. kodakaraensis KOD1において報告された2つの膜内水素化酵素であるMbh(TON_1590−1595、配列番号8)、Mbx(TON_0489−0486、配列番号3)及び2つの細胞質内NiFe−水素化酵素であるSulf−I(TON_0533−0544、配列番号4)、Sulf−II(TON_0051−0055、配列番号1)と一緒にT. onnurineus NA1遺伝体において3個のさらなる水素化酵素クラスターFDH1−MFH1−MNH1(Hyg4−I、S1:TON_0279−0274、MFH1:配列番号2)、CODH−MCH−MNH3(Hyg4−II、S2:TON_1021−1024、MCH:配列番号5)、FDH2−MFH2−MNH2(Hyg4−III、S3:TON_1565−1571、MFH2:配列番号7)とFrh(TON_1559−1562、配列番号6)水素化酵素を発見した。31個の古細菌遺伝体のCDSにより水素化酵素の遺伝子クラスター分析をした結果、FDH1−MFH1−MNH1(Hyg4−I)、CODH−MCH−MNH3(Hyg4−II)及びFDH2−MFH2−MNH2(Hyg4−III)は一次配列が特異的であり、これは、P. abyssi及びR. rubrumの水素化酵素−4の構成要素との類似度が低いことを示す(図3)。さらなる水素化酵素と同様に、FDH2−MFH2−MNH2(Hyg4−III)クラスター(TON_1559−1582、配列番号76から99)は遺伝体においてF420水素化酵素(TON_1559−1561、配列番号76から78)のa/β/γサブユニットを含んでいた。F420水素化酵素のa/β/γサブユニットは特異的な一次配列を有し、これは、Methanococcus maripaludisの補酵素F420還元ヒドロゲナーゼ(YP_001097176)(33%)及びMethanococcus maripaludis S2の補酵素F420還元ヒドロゲナーゼ(NP_987940)(33%)との類似性を示す(図3及び図5)。ThermococcalesのF420ヒドロゲナーゼに相同性を示すものは未だ報告されていない。
【0056】
3)3モジュール遺伝子クラスターの構成
[NiFe]−水素化酵素のグループ4に属する前記3個のEch水素化酵素(MFH1、MFH2、MCH)それぞれは、TON_266−TON_282、TON_1563−TON_1580及びTON_1016−TON_1031ORFs(オープン・リーディング・フレーム)よりなる大きな17−または18−遺伝子クラスター(fdh1−mfh1−mnh1、fdh2−mfh2−mnh2及びcodh−mch−mnh3)の一部であることが判明された(図2のB)。クラスター内のORFは3個のサブクラスターに分けられる。1番目の部分は、ホルム酸塩脱水素化酵素(Fdh1(配列番号9)またはFdh2(配列番号11))または一酸化炭素脱水素化酵素(Codh(配列番号10))などの酸化還元酵素を暗号化している。2番目の部分は、5個から7個のサブユニットを有する多重膜−結合水素化酵素(MFH1、MFH2またはMCH)を暗号化する。最後の部分は、Na/Hアンチポーターなどの陽イオン/水素イオンアンチポーターを暗号化する。このような3モジュール遺伝子クラスターは未だ報告されていない。
【0057】
実施例2.ガス組成の分析
(1)分析方法
水素ガスはHP−PLOT Molesieve column (Agilent)及びTCD検出器を備えたgas chromatograph HP 5890 series II (Hewlett Packard)を用いて測定した。アルゴンをガス運搬体として用いた。水素ガスを定量化するために窒素にそれぞれの成分(CO、CO、H、CH及びO)1%(w/w)が含まれているGas calibration standard (Supleco)を使用した。
【0058】
(2)様々な物質を用いた水素生成
反復された多数の水素化酵素が様々な環境下においてT. onnurineus NA1に水素を効率的に産生せしめるかどうかを調べるために、様々なエネルギー源を用いて水素生成率を分析した(表2)。その結果、NA1菌株は硫黄無し条件下でも澱粉、CO、及びホルム酸塩を用いて水素を生成することができた。特に、CO及びホルム酸塩は水素を効率的に産生する上で極めて優れたエネルギー源であった。
【0059】
【表3】
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【0060】
回分式培養におけるNA1菌株の水素産生性は、T. kodakaraensis KOD1及びPyrococcus furiosusの連続式培養におけるそれとほとんど同様である。高好熱性古細菌は低い体積産生性にも拘わらず、中温性細菌の発酵や光合成原核生物による水素生成に比べて高い特異的産生率を示し、高純度の水素産生など種々のメリットを有している。この明細書に記載されている高い水素生成率は、培養条件及び処理過程設計の最適化または代謝工学により一層向上する余地が高い。
【0061】
実施例3.Thermococcus onnurineus NA1によるCO−依存的H生成:CO−反応水素化酵素の同定
(1)CODH遺伝子クラスター及び一酸化炭素栄養成長
上述したように、T. onnurineus NA1は特異的な遺伝子クラスターを有していることを見出し(CODH−MCH−MNH3)、この遺伝子クラスターは水素化酵素(mch、TON_1021−1024、配列番号5)と一緒に暫定的な転写調節因子(TON_1016)、CODH付属タンパク質(CooC、TON_1019)、CODH触媒サブユニット(CooS、TON_1018)、及び電子伝達タンパク質(CooF、TON_1017)を暗号化する塩基配列から構成されている(図2のB)。微生物の一酸化炭素(CO)代謝の中心酵素であるCooS(TON_1018)は、Methanosarcina acetivorans C2AのCODH(AAM06652)(60%)及びMethanosarcina mazei Go1のCODH(AAM29817)(59%)などのCO−酸化メタン生成古細菌のCODHとかなり高い類似度を示している(図3及び図4)。これは、両機能を有するCODH/ACS酵素のアセチル−CoA合成/切断活性がない単一機能のCODH(Bonam, D., L. Lehman, G. P. Roberts, and P. W. Ludden. 1989. Regulation of carbon monoxide dehydrogenase and hydrogenase in Rhodospirillum rubrum: effects of CO and oxygen on synthesis and activity. J. Bacteriol. 171:3102-3107.およびWu, M. Q. Ren, A. S. Durkin, S. C. Daugherty, L. M Brinkac, R. J. Dodson, R. Madupu, S. A. Sullivan, J. F. Kolonay, W. C. Nelson, L. J. Tallon, K. M. Jones, L. E. Ulrich, J. M. Gonzalez, I. B. Zhulin, F. T. Robb, and J. A. Eisen. 2005. Life in hot carbon monoxide: the complete genome sequence of Carboxydothermus hydrogenoformans Z-2901. PLoS Genet. 1:e65.)であると認められる。Fox et al. (Fox, J. D., R. L. Kerby, G. P. Roberts, and P. W. Ludden. 1996. Characterization of the CO-induced, CO-tolerant hydrogenase from Rhodospirillum rubrum and the gene encoding the large subunit of the enzyme. J. Bacteriol. 178:1515-1524.)によれば、Rhodospirillum rubrumの単一機能CODH/水素化酵素複合体は、細胞膜を横切って発生する水素イオン濃度勾配にてエネルギーが保存されるCO−誘発陽性子呼吸に関与する。この観点から、CODHクラスターがCOを酸化させることによりエネルギー保存に類似する役割を果たすことができるという点を説明するために、本発明者らは、T. onnurineus NA1がCOを利用することができるかどうかを試験した。その結果、前記菌株は、実際に、YPS培地よりはやや成長率が落ちるとしても(図6a)、基本培地よりも培地1において硫黄があるかないCO気体環境において一層上手く成長するということを見出した(図6a、b)。CO気体環境における成長はCooS遺伝子の転写と関連されており、その遺伝子はCOの存在により誘導可能である(図6c)。硫黄の添加はCooS遺伝子の転写を減少させるという点に注目する必要がある。これらの結果は、T. onnurineus NA1がCOからエネルギーを発生するという仮説を裏付ける。以下、前記仮説を検証するための具体的な実験方法及び結果をさらに述べる。
【0062】
(2)実験方法
1)培養条件
YPS(yeast extract-peptone-sulfur)培地において80℃の嫌気性条件下でT. onnurineus NA1を培養した。突然変異菌株の生長特性を調べるために、基本培地として30.0g/LのNaClを添加した変形培地1を使用した(Uffen, R. L. 1976. Anaerobic growth of a Rhodopseudomonas species in the dark with carbon monoxide as sole carbon and energy substrate. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 73:3298-3302)。前記培地を加圧滅菌した後、嫌気性チャンバーにおいて1.0ml/Lのビタミン溶液(Balch, W. E., G. E. Fox, L. J. Magrum, C. R. Woese, and R. S. Wolfe. 1979. Methanogens: reevaluation of a unique biological group. Microbiol. Rev. 43:260-296)及び0.5g/Lの酵母抽出物を変形培地1に添加した。前記基本培地に1N NaOHを添加してpHを8.0に調整した。準備された培地30mlを150ml培養瓶に分配し、ガス層(120ml)は100%CO(10Pa)に交換した。生理学的実験のためのすべての培養は80℃の嫌気性条件下で24時間行われ、前記実験は重複して行った。
【0063】
2)RNA抽出及びマイクロアレイ設計
培養物を4℃において3,500×gにて10分間遠心分離し、生産者のプロトコール(Invitrogen, Carlsbad, California)に従ってTRIZOL試薬により総RNAを抽出した。総RNA試料はNanoDrop分光器(ND−1000, Thermo Scientific)及び電気泳動により定量及び定性分析した。この実験に供されたマイクロアレイは、Roche NimbleGenマイクロアレイであった。簡略に、総31,994個の独立した60merオリゴヌクレオチドを設計し、光脱分解を用いて、インサイチュにて合成した。それぞれの独立したオリゴヌクレオチドはアレイ上において2回反復された(総〜72,000features)。
【0064】
3)cDNA合成及び混成化条件
マイクロアレイ実験は生産者のプロトコールに従って実施した。それぞれの総RNA試料(5μg)は逆転写酵素、SuperScrip II (Invitrogen, Carlsbad, California)を用いた逆転写反応によりシアニン(Cy5)結合dCTP(Amersharm, Piscataway, NJ)にて標識された。その後、前記標識されたcDNA混合物をエタノール沈殿法を用いて濃縮させた。濃縮されたCy5標識cDNAsを30μlの混成化溶液(GenoCheck, Korea)に懸濁させた。標識されたcDNAをマイクロアレイに位置させた後、MAUI Mixer X4 hybridization chamber mixers (BioMicro systems, Salt Lake City, UT)により覆った。前記スライドをMAUI 12−bay systems (BioMicro systems, Salt Lake City, UT)により42℃において12時間混成化させた。前記混成化されたスライドを室温において2XSSC、0.1%SDSにおいて2分、1XSSCにおいて3分、その後、0.2XSSCにおいて2分間洗浄した。前記スライドを乾燥するために、1, 000xgにて20秒間遠心分離した。
【0065】
4)スライドスキャニング、標準化、及びデータ分析
アレイはGenePix 4000B scanner (Molecular Devices Corporation, Union City, CA)を用いてスキャンし、データはNimbleScan 2.4ソフトウェアを用いて抽出した。アレイ標準化はメディアンポリッシュ及びクォンタイル標準化方法を用いて行った(Amaratunga, D., and J. Cabrera. 2001. Statistical analysis of viral microchip data. J. Am. Stat. Assoc. 96:1161-1170)。個別的なプローブに対する標準化された発現値は、Irizarry et al. (Karl, D. M. 1995. The microbiology of deep-sea hydrothermal vents. CRC Press, Boca Raton, FL)に記述されたRMA(robust multi-array average)方法を用いて、与えられたORFに対する発現値を得るのに用いられた。最後に、試料から特定の遺伝子のために得たRMA処理された発現値(RMA calls)を用いてn倍変化率(R)を計算した。データ分析は、GeneSpring GX 7.3.1 (Agilent technologies, CA)を用いて行った。フォールド変化フィルターは上向き調節される遺伝子に対しては少なくとも対照区の200%、下向き調節される遺伝子に対しては対照区の50%以下で現れるべきであるという条件を含めた。データは、GeneSpring GX 7.3.1 (Agilent technologies, CA)を用いた実験において類似に行動する遺伝子グループ内にクラスターさせた。類似するパターンの遺伝子を分離するためにユークリッド距離及び平均結合法に基づくアルゴリズムを用いた。
【0066】
5)定量的RT−PCR
T. onnurineus NA1(Genbank accession number,CP000855)の遺伝体配列から遺伝子特異的プライマーを設計した。プライマー配列は、下記表3に記載されている。
【0067】
cDNAは逆転写酵素、SuperScrip II (Invitrogen, Carlsbad, California)を用いて生産者のプロトコールに従って350ngの総RNAから合成した。PCR反応はT1 thermocycler (Biometra)を用いてrTaq(Takara)DNA重合酵素により行った。前記反応は、1次鎖反応cDNA、10pmolのプライマー、250μM dNTPs及び生産者のバッファを含む50μl混合物において行われた。94℃において2分間の変性段階後に、変性(30秒、94℃)、アニーリング(30秒、56℃)及び伸張反応(1分、72℃)が25サイクル行われた。PCR産物は0.8%アガロースゲル電気泳動を用いて分析した。発現レベルは,GelPro32.EXE v4.6 (Media Cybernetics, Inc.)を用いて測定した。chaと命名されたシャペロニン−暗号化遺伝子を発現レベルを標準化するための対照区として用いた。
【0068】
【表4A】
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【表4B】
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【0069】
6)標的遺伝子除去
T. onnurineus NA1の生体内における水素化酵素の機能を分析するために、高好熱性古細菌であるT. kodakaraensis KOD1に用いられた遺伝子除去システムを用いて(Sapra, R., K. Bagramyan, and M. W. W. Adams. 2003. A simple energy-conserving system: Proton reduction coupled to proton translocation. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100:7545-7550)、mchまたはmfh2水素化酵素の大きなサブユニットの挿入不活性突然変異を製作した。具体的に、mch及びmfh2水素化酵素それぞれの大きなサブユニット(TON_023及びTON_1569)の隣接地域を含むDNA断片をFlk−mchまたはFlk−mfh2に対するプライマー組(表3)を用いてT. onnurineus NA1のゲノムDNAから増幅させた。それぞれの増幅された断片はHincIIで切断されたpUC118に接合させた。その後、鋳型(Flk−mch_pUC118またはFlk−mfh2_pUC118組換えプラスミド)からプライマー組(Ivs−mchまたはIvs−mfh2)(表3)を用いて逆PCRを行い、次いで、Pgdh−hmgPfuカセットに接合させた(Sapra, R., K. Bagramyan, and M. W. W. Adams. 2003. A simple energy-conserving system: Proton reduction coupled to proton translocation. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100:7545-7550)。その後、前記接合された結果物をEscherichia coli DH5a細胞に形質転換させた。組換えプラスミド(mch::Pgdh−hmgPfu及びmfh2::gdh−hmgPfu)はプラスミドミニキット(Qiagen, Hilden, Germany)により準備した。最後に、前記プラスミドをSato et al.(Sato, T., T. Fukui, H. Atomi, and T. Imanaka. 2003. Targeted gene disruption by homologous recombination in the hyperthermophilic archaeon Thermococcus kodakaraensis KOD1. J. Bacteriol. 185:210-220., Sato, T., T. Fukui, H. Atomi, and T. Imanaka. 2005. Improved and versatile transformation system allowing multiple genetic manipulations of the hyperthermophilic archaeon Thermococcus kodakaraensis. Appl. Environ. Microbiol. 71:3889-3899)の僅かな変形された方法によりT. onnurineus NA1に形質転換させた。形質転換体は10μMシンバスタチンの存在下でASW−YT−S培地によりスクリーニングされ(Matsumi, R., K. Manabe, T. Fukui, H. Atomi, T. Imanaka. 2007. Disruption of a sugar transporter gene cluster in a hyperthermophilic archaeon using a host-marker system based on antibiotic resistance. J. Bacteriol. 189:2683-2691)、標的遺伝子が除去されたと思われる候補群はPCR増幅を通じて標的地域内Pgdh−hmgPfuカセットの存在有無により除去有無を確認することができた。
【0070】
7)成長及び水素生成に関する動力学的分析
成長は目視確認した。試料を海塩(30.0g/L)、ホルマリン(2.5%)、及び4’−6’−ジアミジノ−2−フェニルインドール(0.01%)を含む滅菌水に希釈させ(Sato, T., T. Fukui, H. Atomi, and T. Imanaka. 2005. Improved and versatile transformation system allowing multiple genetic manipulations of the hyperthermophilic archaeon Thermococcus kodakaraensis. Appl. Environ. Microbiol. 71:3889-3899)、ブラックポリカーボネート膜フィルターによりろ過した後(孔径;0.2μm, Whatman)、位相差顕微鏡(Zeiss Axioplan)により計数した。水素ガスはHP−PLOT Molesieve column (Agilent)及びTCD検出器を備えたガスクロマトグラフHP5890series II(Hewlett Packard)を用いて測定した。アルゴンがガス運搬体として用いられた。オーブンの温度は40℃であった。分析のための10μlのガス試料は培養瓶のブチルゴムを通じてガスタイトシリンジにより取り出した。検出された水素ガスの測定はピーク面積を、窒素に40%水素を含む標準ガスを用いた回帰分析により行われた補正曲線と比較することにより計算された。
【0071】
(3)実験結果
1)T. onnurineus NA1水素化酵素のイン・シリコ分析
先のT. onnurineus NA1の遺伝体分析は8反復の水素化酵素遺伝子クラスターの存在を示し(Porter, K. G. and Y. S. Feig. 1980. The use of DAPI for identifying and counting microflora. Limnol. Oceanogr. 25:943-948)、5個の膜結合[NiFe]−水素化酵素(Mbh,TON_1583−1595;Mbx,TON_0486−0498;Mfh1,TON_0273−0278;Mfh2,TON_1566−1573;Mch,TON_1021−1024)、及び3個の細胞質内[NiFe]−水素化酵素(Fru,TON_1559−1562;SulfI,TON_0533−0544;SulfII,TON_0051−0055)を含む。ゲノムシークエンスが完了したThermococcales菌株との水素化酵素遺伝子クラスターの比較分析結果をみるとき、Mfh1、Mfh2、またはMchクラスターに相同性があるクラスターは極めて稀であると考えられ、T. barophilus MP(Mfh1、Mch相同遺伝子)、Thermococcus sp. AM4(Mfh1、Mch相同遺伝子)(Unfinished sequence, GenBank accession number, ABXN00000000)、及びT. gammatolerans(Mfh1及びMfh2相同性)(GenBank accession number、CP001398)のように最近にゲノム配列が決定されたThermococcales菌株から発見される。T. onnurineus NA1のfdh1−mfh1−mnh1(Lee, H. S., S. G. Kang, S. S. Bae, J. K. Lim, Y. Cho, Y. J. Kim, J. H. Jeon, S.-S. Cha, K. K. Kwon, H.-T. Kim, C.-J. Park, H.-W. Lee, S. I. Kim, J. Chun, R. R. Colwell, S.-J. Kim,及びJ.-H. Lee. 2008. The complete genome sequence of Thermococcus onnurineus NA1 reveals a mixed heterotrophic and carboxydotrophic metabolism. J. Bacteriol. 190:7491-7499.の論文においてHyg4−Iと命名される。)、fdh2−mfh2−mnh2(Hyg4−III)、及びcodh−mch−mnh3(Hyg4−II)クラスターの配列分析は前記クラスターがそれぞれホルム酸塩脱水素化酵素(FDH)及びCO脱水素化酵素(Codh)などの酸化還元酵素を含むということを示す。特に、CO条件における成長により現れる一酸化炭素栄養代謝はCOを酸化させることにより水素生成経路においてエネルギーを提供するCodh−Mch−Mnh3の機能的役割を示唆する。
【0072】
2)CO−誘導成長条件下における水素化酵素遺伝子の発現
T. onnurineus NA1がCO条件下で成長しながら水素を産生することができるかどうかを調べてみた。図7に示すように、YPS培地においては水素産生を探知することができなかったが、COが添加された培地1においては培養時間が長くなるにつれて総水素ガスと細胞数が増大した。
【0073】
その後、いかなる水素化酵素が一酸化炭素栄養成長中に水素生成に関与するかを調べるために、CO含有成長条件または複合培地(YPS)における水素化酵素遺伝子の発現レベルを分析した。下記表4、表5及び図8Aに示すように、codh−mch−mnh3クラスターの一部ORF(16個のうち10個のORF)の発現レベルはCOを含む生長条件下でYPSに比べて2倍以上上向き調節された。加えて、fdh2−mfh2−mnh2クラスター内の複数のORF(TON_1563、TON_1569−1571)の発現レベルもまた1gの酵母抽出物を含むCO条件下で上向き調節された。codh−mch−mnh3クラスター内のORFの発現レベルもまた酵母抽出物の量に応じて様々であるということに注目する必要があり、これは、CO−誘導代謝作用における異化作用の抑制または活性への関連性を示唆する(表4及び表5)。これに対し、他の水素化酵素遺伝子クラスターの発現は大きな変化がないのに対し、fdh1−mfh1−mnh1クラスターの遺伝子(29個のORFのうち20個の遺伝子)は下向き調節を示した。水素化酵素それぞれの大きなサブユニットに対する定量的RT−PCRデータもまたマイクロアレイデータと一致した。mch及びmfh2水素化酵素の大きなサブユニット(TON_1023及びTON_1569)の発現は2倍以上増大したのに対し(図8B)、mfh1水素化酵素の大きなサブユニット(TON_0276)の発現は抑制され、他の大きなサブユニット(mbh、mbx、frh、及びsulfI)は両方条件下でいずれも一定に維持された。これらの結果は、codh−mch−mnh3またはfdh2−mfh2−mnh2クラスターがCOにより誘導可能であり、一酸化炭素栄養代謝と関連する水素生成過程に関連する可能性があるという点を示唆する。
【0074】
【表5A】
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【表5B】
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【表5C】
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【0075】
【表6A】
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【表6B】
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【表6C】
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【0076】
3)遺伝子破壊及び突然変異の形質分析
転写体分析は、codhと近くにクラスターされたmch水素化酵素が(図9A)T. onnurineus NA1において一酸化炭素栄養水素の生成過程に重要な役割を果しうるということを示唆する。しかしながら、fdh2−mfh2−mnh2クラスターの上向き調節及び他の水素化酵素mRNAの多くの反復数はcodh−mch−mnh3が単独にて前記過程に関与するものであるか、それとも、他の水素化酵素が脱水素化酵素と複合体を形成したり脱水素化酵素と連合してFADHやNADHなどの電子運搬体を再活用することによりmchに対して代替的経路になりうるかに関して疑問を引き起こす。このため、本発明者らは、mchまたはmfh2水素化酵素それぞれの大きなサブユニットの欠損突然変異を製造した(Matsumi, R., K. Manabe, T. Fukui, H. Atomi, T. Imanaka. 2007. Disruption of a sugar transporter gene cluster in a hyperthermophilic archaeon using a host-marker system based on antibiotic resistance. J. Bacteriol. 189:2683-2691)。製作方法は、図9Aに示してある。標的領域における相同組換えによるPgdh−hmgPfuカセットの挿入不活性化及びそれによるhmg−CoA遺伝子の過発現によりMchまたはMfh2水素化酵素遺伝子クラスターそれぞれの大きなサブユニットが破壊される。標的遺伝子破壊は、10μMシンバスタチンが添加されたYPS培地における生存により候補群を選別した後、PCR増幅を通じてのPgdh−hmgPfuカセットの存在により確認された(図9B)。破壊候補群(△mchTNA1及び△mfh2TNA1)においてPgdh−hmgPfuが増幅可能であるのに対し、mchまたはmfh2の大きなサブユニットの増幅には失敗した。これらの結果は、T. kodakaraensis KOD1(Sapra, R., K. Bagramyan, and M. W. W. Adams. 2003. A simple energy-conserving system: Proton reduction coupled to proton translocation. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100:7545-7550)に報告された遺伝子破壊システムがT. onnurinues NA1にも適用可能であることを示す。
【0077】
YPS培地において欠損突然変異ΔmchTNA1及びΔmfh2TNA1を得ることができたため、MchまたはMfh2がYPS培地の代謝消費に必須ではないということが分かる。図10から明らかなように、突然変異菌株ΔmchTNA1及びΔmfh2TNA1の成長及び形態変化は、YPS培地上において前記遺伝子が必ずしも必須ではないということを確認させる。加えて、CO成長条件下でΔmfh2TNA1菌株は野生型菌株と類似するレベルに成長して水素を生成した(図7及び10)。これに対し、ΔmchTNA1突然変異はCO成長条件下で成長することができず、水素も産生することができなかった(図10)。これは、Mch大きなサブユニットの不在がCO下においてT. onnurineus NA1の一酸化炭素栄養の生存能力を完全に破壊するということを示す。この結果をも考慮すると、COが基質に供給された場合にMch水素化酵素だけが成長及び水素の生成に関与すると認められる。
[配列表]
【図4】
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【図5】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12A】
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【図12B】
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【図13A】
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【図13B】
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【図14】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2012−501645(P2012−501645A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−525990(P2011−525990)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【国際出願番号】PCT/KR2009/005060
【国際公開番号】WO2010/027233
【国際公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(509342876)コリア・オーシャン・リサーチ・アンド・ディベロップメント・インスティテュート (2)
【Fターム(参考)】