説明

アクチュエータおよびそれを用いた位置決め装置

【課題】 簡単な構造で装置の低背化と移動ストロークの拡大が可能なだけでなく、直進性が良く精密な位置決め可能な自走式アクチュエータおよびそれを用いた位置決め装置を提供する。
【解決手段】 一方の電気機械変換素子の変位の振動による移動体61の共振周波数frxと他方の電気機械変換素子の変位の振動による移動体61の共振周波数fryが5%以上異なるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機械変換素子の変位の往復時の速度を異ならせて振動させることで移動部材を移動させるためのインパクト式アクチュエータおよび当該アクチュエータを用いた位置決め装置に係り、平面上をX−Y方向に移動可能な駆動機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、X−Yテーブルなどの平面上の位置決め装置としては、ステッピングモータやボイスコイルモータなどの電磁方式による駆動が一般的に用いられていたが、近年の電子機器の小型化に伴い、アクチュエータとして圧電素子などの電気機械変換素子を駆動方式に用いることで、位置決め装置そのものを小型化しようとする開発が活発に行われている。
【0003】
たとえば、特許文献1および特許文献2に開示されているように、圧電素子を伸びと縮みの速度を異ならせて振動させることで、被駆動部材を移動させるアクチュエータが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−110919号公報
【特許文献2】特開2006−81348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に開示されている方法においては、駆動部材の長さに被駆動部材の可動範囲が限定され、動作ストロークを大きくできないという問題があった。また、X−Yの2次元に移動可能とするために、固定部材に対して2つの駆動部材と被駆動部材が必要であり、各々を独立して駆動するので、積層して構成する必要があり、同一平面上に設置できないため(特許文献2の図9参照)、駆動装置の厚さを薄くすることが困難であった。
【0006】
本発明者は、上記に鑑みて新たに平面上をX−Y方向に移動可能で自走可能な駆動機構への適用が好適なアクチュエータおよびそれを用いた位置決め装置を開発し、移動ストロークを大きくでき、かつ、簡単な構造により同一平面上で駆動させることができるため、装置の低背化が可能な発明を出願している。
【0007】
図3は、参考例のアクチュエータの基本構成を示す。図3(a)は上面方向からの外観平面図、図3(b)は図3(a)の側面図(A1方向矢視図)である。略直方体の磁石231の直交する2面の各々に、電気機械変換素子としての積層型圧電セラミックによるX軸方向の圧電セラミック素子211およびY軸方向の圧電セラミック素子221の各変位方向の一端を、エポキシ樹脂等を用いて接着してなる駆動体251と、これと同じ構成の駆動体252(磁石232とX軸方向の圧電セラミック素子212、Y軸方向の圧電セラミック素子222からなる)と、これらの圧電セラミック素子211、212、221、222の各変位方向の他端がエポキシ樹脂等を用いて接着されている被駆動部材241と、磁石231、232に対して磁力によって吸着可能な固定部材246とから構成されている。圧電セラミック素子211、212、221、222の伸びと縮みの速度を異ならせて振動させることにより、被駆動部材241と駆動体251、252からなる移動体261を、固定部材246に対して移動させる機構を有している。すなわち、同じ平面に配置された駆動体251、252によって、固定部材246の平面上をX−Y方向の2次元に並進移動可能な自走型のアクチュエータ271である。
【0008】
駆動方法について、図4を使用して詳細に説明する。図4は、参考例のアクチュエータの駆動方法を説明する図を示したもので、図4(a)は移動状況の簡略図、図4(b)は圧電セラミック素子221のタイムチャート、図4(c)は圧電セラミック素子222のタイムチャート、図4(d)は移動体のタイムチャートである。Y方向の移動させる場合について説明する。Y軸方向の圧電セラミック素子221,222に、図4(b)、図4(c)のタイムチャートのように、t1の時間において駆動電圧を印加すると、図面左下のY軸方向の圧電セラミック素子221が伸び、右上のY軸方向の圧電セラミック素子222が縮み、移動体261はゆっくり+Y方向に移動する。このとき磁石231,232は、固定部材246と磁力により吸着された状態で移動しない。また、Y軸方向の圧電セラミック素子221,222に、図4(b)、図4(c)のタイムチャートのように、t2の時間において駆動電圧を印加すると、左下のY軸方向の圧電セラミック素子221が縮み、右上のY軸方向の圧電セラミック素子222が伸びるが、磁石231,232と固定部材246との最大静止摩擦力以上の加速度でY軸方向の圧電セラミックス素子221,222の急速な変化のため、磁石231,232と固定部材246との間で滑りが生じるために移動体261は−Y方向に移動することはできない。よって、図4(d)に示す移動体261の移動になる。なお、駆動方向を反転させるには、Y軸方向の圧電セラミック素子221,222に印加する駆動電圧の極性を反対にすれば良い。同様に、X軸方向の圧電セラミックス素子211,212により、X方向の移動を行うことができる。
【0009】
図4では、三角波状の入力電圧(駆動電圧)波形を与えた場合の駆動について説明したが、これは駆動方法の1例であって、各部品形状に応じて周波数を調整した矩形波状の入力電圧(駆動電圧)を印加するようにしても、同様に圧電セラミック素子を振動させることができる。
【0010】
しかしながら、このように参考技術では低背化を達成しているが、一平面上で2次元の駆動を行う為の難しさがある。たとえば、参考技術は、矩形波形の電圧でインパクト駆動させる場合、駆動体の共振周波数に応じた駆動周波数で圧電セラミック素子を駆動させると効率が良く、移動体を速く移動させることができる。2つの駆動体251、252を構成する圧電セラミック素子211、212、221、222が同寸法の場合、各々の圧電セラミック素子の伸縮振動による移動体261の共振周波数は同じとなる。しかしながら、効率よくセラミック素子を駆動させるために、共振周波数に応じた駆動周波数で駆動すると、一つの磁石に対して駆動源となる圧電セラミック素子が磁石の直交する2面にそれぞれ固定されているため、一方の駆動軸に移動させるべく、圧電セラミック素子を駆動させた場合、直交する他方の圧電セラミック素子が干渉して励振してしまい、その結果、駆動軸と直交成分の変位が生じ、移動体が直進せずに正確な位置決めができなくなるという課題が残っていた。また、この課題を解決しようとして、移動体が直進するためのガイド機構を設けようとすると、構造が複雑かつ製造コストが高くなるという課題が生じていた。
【0011】
そこで本発明は前述の課題を解決し、単純な構造により安価に製造できで、かつ、所望の駆動軸に対して直進性がよく、移動速度が速く正確な位置決めが可能となるアクチュエータおよびこのアクチュエータを用いた位置決め装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、本発明は、2つの電機機械変換素子(圧電セラミック素子)が互いに干渉して励振しないように、一方の電気機械変換素子の変位の振動による移動体の共振周波数frxと他方の電気機械変換素子の変位の振動による移動体の共振周波数fryが5%以上異なるように構成した、アクチュエータおよびそれを用いた位置決め装置である。
【0013】
本発明によれば、少なくとも2つの電気機械変換素子と該電気機械変換素子の各々の一端が接続された磁石とを備えた駆動部材と、前記電気機械変換素子の各々の前記一端との相対位置が変位する他端が固定されている被駆動部材とを有する移動体と、前記磁石により吸着可能な固定部材とを備え、前記電気機械変換素子の前記変位の方向により速度を異ならせて振動させることにより、前記移動体が、前記固定部材に対して移動するアクチュエータであって、一方の電気機械変換素子の変位の振動による前記移動体の共振周波数frxと他方の電気機械変換素子の変位の振動による前記移動体の共振周波数fryが5%以上異なるアクチュエータが得られる。
【0014】
本発明によれば、重錘部材を介して、前記磁石と前記被駆動部材が固定されてなるアクチュエータが得られる。
【0015】
本発明によれば、前記磁石が、直方体の磁石からなるアクチュエータが得られる。
【0016】
本発明によれば、アクチュエータを有するアクチュエータを用いた位置決め装置が得られる。
【発明の効果】
【0017】
本発明におけるアクチュエータおよびそれを用いた位置決め装置において、一方の電気機械変換素子の変位の振動による移動体の共振周波数frxと他方の電気機械変換素子の変位の振動による移動体の共振周波数fryが5%以上違うので、効率よく移動体を速く移動させるために共振周波数に応じた駆動周波数で圧電セラミック素子を駆動しても、他方の圧電セラミック素子と干渉しないので駆動軸と直交成分の変位が生じることがない。そのため、移動体を直進させるためのガイド機構を設けることなく、所望の駆動軸に対して移動体を直進性良くかつ速く移動させつつ位置決めすることができる。
【0018】
以上のように、本発明により、簡単な構造で安価に製造でき、装置の低背化と移動ストロークの拡大が可能なだけでなく、移動速度が大きく、精密な位置決めが可能な自走式アクチュエータおよびそれを用いた位置決め装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態1に係るアクチュエータの基本構成を示す。図1(a)は上面方向からの外観平面図、図1(b)は図1(a)の側面図(A1方向矢視図)である。
【図2】本発明の実施の形態2に係るアクチュエータの基本構成を示す。図2(a)は上面方向からの外観平面図、図2(b)は図2(a)の側面図(A1方向矢視図)である。
【図3】参考例のアクチュエータの基本構成を示す。図3(a)は上面方向からの外観平面図、図3(b)は図3(a)の側面図(A1方向矢視図)である。
【図4】参考例のアクチュエータの駆動方法を説明する図を示したもので、図4(a)は移動状況の簡略図、図4(b)は圧電セラミック素子221のタイムチャート、図4(c)は圧電セラミック素子222のタイムチャート、図4(d)は移動体のタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のアクチュエータおよびそれを用いた位置決め装置は、一方の電気機械変換素子の変位の振動による移動体の共振周波数frxと他方の電気機械変換素子の変位の振動による移動体の共振周波数fryが5%以上異なるように構成されている。
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて、電気機械変換素子の変位の振動が伸縮振動の場合で説明する。
【0022】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係るアクチュエータの基本構成を示す。図1(a)は上面方向からの外観平面図、図1(b)は図1(a)の側面図(A1方向矢視図)である。図1において、略直方体の磁石31の直交する2面の各々に、電気機械変換素子としてのX軸方向の圧電セラミック素子11およびY軸方向の圧電セラミック素子21の各変位方向の一端を、エポキシ樹脂等を用いて接着してなる駆動体51と、これと同じ構成の駆動体52(磁石32とX軸方向の圧電セラミック素子12、Y軸方向の圧電セラミック素子22からなる)と、これらの圧電セラミック素子11、12、21、22の各変位方向の他端がエポキシ樹脂等を用いて接着されている被駆動部材41と、磁石に対して磁力によって吸着可能な固定部材46とから構成される。電気機械変換素子と磁石、被駆動部材は、少なくとも各電気機械変換素子の変位の方向には拘束されるように、接続することにより、大きく振動させることができる。圧電セラミック素子11、12、21、22の伸びと縮みの速度を異ならせて振動させることにより、被駆動部材41と駆動体51、52からなる移動体61を固定部材46に対して移動させる機構を有している。上記により、本発明の実施の形態1のアクチュエータ71を構成している。
【0023】
磁石31、32は、同じ材質からなり、同じ形状で、同じ表面粗さと同じ吸着力を有することが望ましい。磁石31、32の材質は特に限定されないが、強い吸着力が発生可能なネオジウム系またはサマリウム系の希土類磁石とすることが好ましい。
【0024】
圧電セラミック素子は、所定の変位を発生できれば材質や構造を適宜選択できるものであるが、小型で駆動電圧を小さくできることから積層型圧電セラミックを用いるものが望ましい。この図で言えば、一方の駆動体51のX軸方向に駆動する圧電セラミック素子11と他方の駆動体52のX軸方向に駆動する圧電セラミック素子12は同じ形状であり、変位はX軸方向に伸縮し、かつ、所定の電圧に対する変位量も同じである。また、一方の駆動体51のY軸方向に駆動する圧電セラミック素子21と他方の駆動体52のY軸方向に駆動する圧電セラミック素子22は同じ形状であり、変位はY軸方向に伸縮し、かつ、所定の電圧に対する変位量も同じである。X軸方向の圧電セラミック素子11、12とY軸方向の圧電セラミック素子21、22は違う長さで構成されており、そのため移動体61のX軸方向の圧電セラミック素子11、12とY軸方向の圧電セラミック素子21、22(図1中に図示)の伸縮振動による共振周波数が異なるように構成される。
【0025】
図1に示したように駆動体は2個である必要はなく、移動体の1角に1個もしくは移動体の4角に1個ずつ計4個というように構成してもよい。
【0026】
(実施の形態2)
図2は、本発明の実施の形態2に係るアクチュエータの基本構成を示す。図2(a)は上面方向からの外観平面図、図2(b)は図2(a)の側面図(A1方向矢視図)である。図2において、略直方体の磁石131の直交する2面の各々に、電気機械変換素子としてのX軸方向の圧電セラミック素子111およびY軸方向の圧電セラミック素子121の各変位方向の一端をエポキシ樹脂等で接着し、かつ、各変位方向の他端にエポキシ樹脂等を用いて接着されたX軸方向の重錘部材181、Y軸方向の重錘部材191からなる駆動体151と、これと同じ構成の駆動体152(磁石132とX軸方向の圧電セラミック素子112、Y軸方向の圧電セラミック素子122とX軸方向の重錘部材182、Y軸方向の重錘部材192からなる)と、これらの駆動体151、152の重錘部材がエポキシ樹脂等で接着されている被駆動部材141と、磁石に対して磁力によって吸着可能な固定部材146とから構成され、X軸方向の圧電セラミック素子111、112、とY軸方向の圧電セラミック素子121、122の各伸びと縮みの速度を異ならせて振動させることにより、被駆動部材141と駆動体151、152からなる移動体161を固定部材146に対して移動させる機構を有している。上記により、本発明の実施の形態2のアクチュエータ171を構成している。
【0027】
磁石131、132は、同じ材質からなり、同じ形状で、同じ表面粗さと同じ吸着力を有することが望ましい。磁石131、132の材質は特に限定されないが、強い吸着力が発生可能なネオジウム系またはサマリウム系の希土類磁石とすることが好ましい。
【0028】
これら4つの圧電セラミック素子111、112、121、122は、同じ形状であり、かつ、所定の電圧に対する変位量も同じである。所定の変位を発生できれば材質や構造を適宜選択できるものであるが、小型で駆動電圧を小さくできることから積層型圧電セラミックを用いるものとする。
【0029】
重錘部材181、182、191、192の材質は特に限定されないが、圧電セラミック素子の変位を磁石側に効率よく伝えるために重錘部材の重量は大きい方が望ましく、かつ、小型化のためには比重の大きな材質、例えばタングステンを主成分とする合金を用いるのが好ましい。一方の駆動体151のX軸方向に駆動する圧電セラミック素子111の重錘部材181と他方の駆動体152のX軸方向に駆動する圧電セラミック素子112の重錘部材182は同じ重量で構成される。また、一方の駆動体151のY軸方向に駆動する圧電セラミック素子121の重錘部材191と他方の駆動体152のY軸方向に駆動する圧電セラミック素子122の重錘部材192は同じ重量で構成される。
【0030】
移動体161のX軸方向の圧電セラミック素子111、112とY軸方向の圧電セラミック素子121、122(図2中に図示)の伸縮振動の共振周波数が異なるようにするため、実施の形態1と同様にX軸方向の圧電セラミック素子111、112とY軸方向の圧電セラミック素子121、122を違う長さで構成してもよいが、本実施の形態2においてはX軸方向の重錘部材181、182とY軸方向の重錘部材191、192は異なる重量で構成することで、移動体161のX軸方向の圧電セラミック素子111、112とY軸方向の圧電セラミック素子121、122の伸縮振動の共振周波数が異なるようにすることも可能となっている。
【0031】
図2に示したように駆動体は2個である必要はなく、移動体の1角に1個もしくは移動体の4角に1個ずつ計4個というように構成してもよい。変位のモードを伸縮モードで説明したが、例えば、伸縮モードに限らずに弧状の圧電素子の両端を接続して曲げモードを用いれば接続端間の距離を変位できる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例を挙げ、本発明のアクチュエータについて、図面を参照して具体的に、電気機械変換素子の変位の振動が伸縮振動の場合で説明する。
【0033】
(実施例1)
本発明の実施の形態1に係る実施例1のアクチュエータ71について説明する。アクチュエータ71の構造は実施の形態1で説明した図1と同様である。X軸方向の圧電セラミック素子11、12として断面寸法が0.9mm×0.9mm、長さ1.4mm の圧電積層型セラミックを準備した。Y軸方向の圧電セラミック素子21、22として断面寸法が0.9mm×0.9mm、長さ0.8mm の圧電積層型セラミックを準備した。これらの圧電セラミック素子11、12,21,22の各変位発生方向は、積層方向である。磁石31、32として、断面寸法が1.2mm×1.2mm、高さ1.5mmのネオジム系磁石を準備した。磁石31の直交する2面に、X軸方向の圧電セラミック素子11、Y軸方向の圧電セラミック素子21の、各変位発生方向の一方の端面で熱硬化性エポキシ樹脂を用いて接着して、駆動体51とした。駆動体52については、X軸方向の圧電セラミック素子12、Y軸方向の圧電セラミック素子22と磁石32により、同様にして作製した。
【0034】
これらの駆動体51、52を、図1に示す配置で、被駆動部材41にエポキシ樹脂を用いて接着して移動体61とした。被駆動部材41は、ポリカーボネート製で、22mm×22mm×厚さ2.0mmの矩形の平板から、駆動体51、52を配置する部分として対角上の6mm×6mmの部分を矩形に切り取った形状にした。
【0035】
移動体61は、磁石に吸着可能なSUS430からなる固定部材46に、磁石31、32の磁力により吸着しており、X軸方向の圧電セラミック素子11に伸びと縮みの速度を異ならせるような駆動電圧を印加し、同時に、X軸方向の圧電セラミック素子12にX軸方向の圧電セラミック素子11と伸びと縮みの速度が反転するように駆動電圧を印加することで、移動体61は固定部材46に対して、図1のX方向へと移動する。同様に、Y軸方向の圧電セラミック素子21に伸びと縮みの速度を異ならせるような駆動電圧を印加し、同時に、Y軸方向の圧電セラミック素子22にY軸方向の圧電セラミック素子21と伸びと縮みの速度が反転するように駆動電圧を印加すると、移動体61は固定部材46に対して、図1のY方向へと移動する。
【0036】
移動体61の共振周波数は、インピーダンス・アナライザ(ヒューレッド・パッカード製:型番4194A)を用いて、圧電セラミック素子に周波数を変えながら交流電圧を印加して、その時のインピーダンスの値を測定して求めた。その結果、X軸方向の圧電セラミック素子11、12の伸縮振動による移動体の共振周波数は321kHz、Y軸方向の圧電セラミック素子21、22の伸縮振動による移動体の共振周波数は345kHzであった。
【0037】
本実施例では、X軸方向の圧電セラミック素子11に、駆動電圧±3V、共振成分の変位に合わせて駆動電圧の極性を変えると安定した変位を得ることが出来るので、移動体の共振周波数の約2/3である214kHzとし、それに合わせるように、デューティー比70%とした矩形波を駆動信号とした。また、X軸方向の圧電セラミック素子12にはX軸方向の圧電セラミック素子11と180°位相をずらした駆動信号を入力して、X軸に駆動した。同様にY軸に駆動する場合には、Y軸方向の圧電セラミック素子21に、駆動電圧±3V、駆動体の共振周波数の約2/3である230kHz、デューティー比70%の矩形波を、Y軸方向の圧電セラミック素子22にはY軸方向の圧電セラミック素子21と180°位相をずらした駆動信号を入力した。移動体61の移動速度は、レーザー変位計によって測定した移動量と移動時間から求めた。
【0038】
表1に、本実施例のX軸方向の圧電セラミック素子11、12の寸法とX軸方向の圧電セラミック素子の伸縮振動による移動体の共振周波数frxと、Y軸方向の圧電セラミック素子21、22の寸法とY軸方向の圧電セラミック素子の伸縮振動による移動体の共振周波数fry、およびfryとfrxの比を示す。また、参考例1として圧電セラミック素子が全て同じ寸法(断面が0.9×0.9mm、長さ1.4mm)の場合と、比較例としてY軸方向の圧電セラミック素子21、22の長さを1.0、1.2、1.6、1.8、2.0mmの場合(それぞれ比較例1、2、3、4、5とする)について、同様に示す。
【0039】
表2に、実施例1、参考例1、比較例1、2、3、4、5の各々について、X軸方向の圧電セラミック素子によるX軸駆動と、Y軸方向の圧電セラミック素子によるY軸駆動の時の移動速度と、10mm移動させた場合の駆動軸に対する他軸方向の移動量を示す。参考例および比較例の場合の駆動周波数は、実施例同様、共振周波数の2/3に統一して測定を行った。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
本実施例1の場合、表2に示すように、X軸に前述の条件で駆動した時の移動速度は2.7mm/secで、10mm移動させた時の他(Y)軸移動量は0.001mmで、駆動方向に対する移動量比率は、0.01%であった。Y軸駆動の時の移動速度は2.9mm/secで、10mm移動させた時の他(X)軸移動量は0.001mmで、駆動方向に対する移動量比率は、0.01%であった。このように、本実施例1の場合にはガイド機構がなくてもX軸駆動、Y軸駆動とも直進性が非常に良く移動体を移動させることができている。
【0043】
一方、参考例1の場合、表2に示すように、X軸に駆動した時の移動速度は2.5mm/secで、10mm移動させた時の他(Y)軸移動量は0.150mmで、駆動方向に対する移動量比率は、1.5%であった。Y軸に駆動した時の移動速度は2.5mm/secで、10mm移動させた時の他(X)軸移動量は0.150mmで、駆動方向に対する移動量比率は、1.5%であり、実施例1と比較するとX軸駆動、Y軸駆動共に直進性が150倍悪く、所望の位置決めが困難となっている。
【0044】
比較例1乃至5の結果をみると、frxとfryとの差が大きくなるにつれ(fry/frxが1より大きくなるもしくは小さくなるにつれ)、駆動軸に対する他軸の移動量が小さくなり、直進性が良くなっている。なお、各例における移動速度の違いは、移動体の構成が同じならば、移動速度が駆動周波数(共振周波数)に依存するので違いが生じているものであり、特性の優劣を示しているわけではない。
【0045】
(実施例2)
本発明の実施の形態2に係る実施例2のアクチュエータについて説明する。アクチュエータ171の構造は実施の形態2で説明した図2と同様である。圧電セラミック素子111、112、121、122として断面寸法が0.9mm×0.9mm、長さ1.4mm の圧電積層型セラミックを準備した。これらの圧電セラミック素子の各変位発生方向は、積層方向である。磁石131、132として、断面寸法が1.2mm×1.2mm、高さ1.5mmのネオジム系磁石を準備した。重錘部材181、182、191、192の材料としてタングステンを98重量%以上含むタングステン合金を用いた。この材料を使用して、X軸方向の重錘部材181、182は断面寸法0.9mm×1.5mm、高さ0.8mm、重量19.4mgのタングステン合金を用意した。Y軸方向の重錘部材191、192は断面寸法0.9mm×1.5mm、高さ1.4mm、重量34.5mgのタングステン合金を用意した。磁石131の直交する2面に、X軸方向の圧電セラミック素子111、Y軸方向の圧電セラミック素子121を、各変位発生方向の一方の端面で熱硬化性エポキシ樹脂を用いて接着し、X軸方向の圧電セラミック素子111の変位発生方向の他端とX軸方向の重錘部材181、Y軸方向の圧電セラミック素子121の変位発生方向の他端とY軸方向の重錘部材191を熱硬化性エポキシ樹脂を用いて接着して駆動体151とした。駆動体152については、X軸方向の圧電セラミック素子112、Y軸方向の圧電セラミック素子122と磁石132とX軸方向の重錘部材182、Y軸方向の重錘部材192により、同様にして作製した。
【0046】
これらの駆動体151、152を、図2に示す配置で、被駆動部材141にエポキシ樹脂を用いて接着して移動体161とした。被駆動部材141は、ポリカーボネート製で、縦22mm×横22mm×厚さ2.0mmの矩形の平板から、駆動体151、152を配置する部分として対角上の6mm×6mmの部分を矩形に切り取った形状にした。
【0047】
移動体161は、磁石に吸着可能なSUS430からなる固定部材146に、磁石131、132の磁力により吸着しており、X軸方向の圧電セラミック素子111に伸びと縮みの速度を異ならせるような駆動電圧を印加し、同時に、X軸方向の圧電セラミック素子112にX軸方向の圧電セラミック素子111と伸びと縮みの速度が反転するように駆動電圧を印加することで、移動体161は固定部材146に対して、図2のX向へと移動する。同様に、Y軸方向の圧電セラミック素子121に伸びと縮みの速度を異ならせるような駆動電圧を印加し、同時に、Y軸方向の圧電セラミック素子122にY軸方向の圧電セラミック素子121伸びと縮みの速度が反転するように駆動電圧を印加すると、移動体161は固定部材146に対して、図2のY方向へと移動する。
【0048】
移動体161の共振周波数は、インピーダンス・アナライザ(ヒューレッド・パッカード製:型番4194A)を用いて、圧電セラミック素子に周波数を変えながら交流電圧を印加して、その時のインピーダンスの値を測定して求めた。その結果、X軸方向の圧電セラミック素子111、112の伸縮振動による移動体の共振周波数は287kHz、Y軸方向の圧電セラミック素子121、122の伸縮振動による移動体の共振周波数は261kHzであった。
【0049】
本実施例では、X軸方向の圧電セラミック素子111に、駆動電圧±3V、共振成分の変位に合わせて駆動電圧の極性を変えると安定した変位を得ることが出来るので、移動体の共振周波数の約2/3である191kHzとし、それに合わせるように、デューティー比70%の矩形波を駆動信号とした。また、X軸方向の圧電セラミック素子112にはX軸方向の圧電セラミック素子111と180°位相をずらした駆動信号を入力して、X軸に駆動した。同様にY軸に駆動する場合には、Y軸方向の圧電セラミック素子121に、駆動電圧±3V、駆動体の共振周波数の約2/3である174kHz、デューティー比70%の矩形波を、Y軸方向の圧電セラミック素子122にはY軸方向の圧電セラミック素子121と180°位相をずらした駆動信号を入力した。移動体161の移動速度は、レーザー変位計によって測定した移動量と移動時間から求めた。
【0050】
表3に、本実施例のX軸方向とY軸方向の重錘部材の寸法と重量、およびX軸方向とY軸方向の圧電セラミック素子の伸縮振動による移動体の共振周波数frxとfry、およびfryとfrxの比を示す。また、参考例2としてすべての重錘部材が、同じ寸法、重量(断面が0.9×1.5mm、高さ0.8mm、重量19.4mg)の場合と、比較例としてY軸方向の重錘部材191、192の高さを0.2、0.4、0.6、1.0、1.2mmの場合(それぞれ比較例6、7、8、9、10とする)について、同様に示す。
【0051】
表4に、実施例2、参考例2、比較例6、7、8、9、10の各々について、X軸方向の圧電セラミック素子によるX軸駆動と、Y軸方向の圧電セラミック素子によるY軸駆動の時の移動速度と、10mm移動させた場合の駆動軸に対する他軸方向の移動量を示す。参考例および比較例の場合の駆動周波数は、実施例同様、共振周波数の2/3に統一して測定を行った。
【0052】
【表3】

【0053】
【表4】

【0054】
本実施例2の場合、表4に示すように、X軸に前述の条件で駆動した時の移動速度は7.5mm/secで、10mm移動させた時の他(Y)軸移動量は0.001mmで、駆動方向に対する移動量比率は、0.01%であった。Y軸駆動の時の移動速度は6.9mm/secで、10mm移動させた時の他(X)軸移動量は0.001mmで、駆動方向に対する移動量比率は、0.01%であった。このように、本実施例1の場合にはガイド機構がなくてもX軸駆動、Y軸駆動とも直進性が非常に良く移動体を移動させることができている。
【0055】
一方、参考例2の場合、表4に示すように、X軸に駆動した時の移動速度は7.8mm/secで、10mm移動させた時の他(Y)軸移動量は0.185mmで、駆動方向に対する移動量比率は、18.5%であった。Y軸に駆動した時の移動速度は7.8mm/secで、10mm移動させた時の他(X)軸移動量は0.185mmで、駆動方向に対する移動量比率は、18.5%であり、実施例2と比較するとX軸駆動、Y軸駆動共に直進性が185倍悪く、所望の位置決めが困難となっている。
【0056】
比較例6乃至10の結果をみると、frxとfryとの差が大きくなるにつれ(fry/frxが1より大きくなるもしくは小さくなるにつれ)、駆動軸に対する他軸の移動量が小さくなり、直進性が良くなっている。また、実施例1と実施例2の結果を併せて考えてみると、frxとfryの差が5%以上あれば、駆動軸に対する他軸の移動が0.05%以下となっており、ガイド機構がなくても直進性に優れたアクチュエータが得られることが分かる。
【0057】
以上、実施例を用いて、この発明の実施の形態を説明したが、この発明は、これらの実施例に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても本発明に含まれる。すなわち、当業者であれば、当然なしえるであろう各種変形、修正もまた本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
上記した実施形態では、本発明の各アクチュエータはX−Yテーブルなどの平面上の位置決め装置に適用可能である旨説明したが、本発明は、何等、これに限定されることなく、位置決めを行う必要があるすべての構造に適用することができる。
【符号の説明】
【0059】
11、12、21、22 圧電セラミック素子
31、32 磁石
41 被駆動部材
46 固定部材
51、52 駆動体
61 移動体
71 アクチュエータ
111、112、121、122 圧電セラミック素子
131、132 磁石
141 被駆動部材
146 固定部材
151、152 駆動体
161 移動体
171 アクチュエータ
181、182、191、192 重錘部材
211、212、221、222 圧電セラミック素子
231、232 磁石
241 被駆動部材
246 固定部材
251、252 駆動体
261 移動体
271 アクチュエータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの電気機械変換素子と該電気機械変換素子の各々の一端が接続された磁石とを備えた駆動部材と、前記電気機械変換素子の各々の前記一端との相対位置が変位する他端が固定されている被駆動部材とを有する移動体と、前記磁石により吸着可能な固定部材とを備え、前記電気機械変換素子の前記変位の方向により速度を異ならせて振動させることにより、前記移動体が、前記固定部材に対して移動するアクチュエータであって、
一方の電気機械変換素子の変位の振動による前記移動体の共振周波数frxと他方の電気機械変換素子の変位の振動による前記移動体の共振周波数fryが5%以上異なることを特徴とするアクチュエータ。
【請求項2】
重錘部材を介して、前記磁石と前記被駆動部材が固定されてなることを特徴とする請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項3】
前記磁石が、直方体の磁石からなることを特徴とする請求項1〜2に記載のアクチュエータ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のアクチュエータを有することを特徴とするアクチュエータを用いた位置決め装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−213537(P2010−213537A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−59592(P2009−59592)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】