説明

イグニッションスイッチの操作規制機構

【課題】異なる回動操作の規制範囲を単一のアクチュエータで実現することで、コンパクトに構成することにある。
【解決手段】ソレノイド31は、ロックピース54を固定状態及び可動状態間で切り替えることで、ロータ33の回動を規制する。可動状態とすることで、摺動ピン45の第1の先端部45aが第1の規制部51の側面に当接し、LOCK位置からのACC位置側への回動が規制される。固定状態とすることで、第1の先端部45aがロックピース54の傾斜面57aを介して第1の規制部51を越えるため、ACC位置への回動が許容される。ロータ33の回動が許容されたとき、固定状態であれば、ロータ33がLOCK位置側へ操作されると第2の先端部45bがロータ33のピン通孔44から突出する。この突出した第2の先端部45bがロックピン71の規制面71bに当接することで、LOCK位置へのロータ33の回動が規制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、イグニッションスイッチの操作規制機構に関する。
【背景技術】
【0002】
車載されるスイッチ装置では、シリンダ内に回動可能に保持されるイグニッションロータが設けられており、このロータがLOCK位置、ACC(accessory)位置、ON位置、START位置のいずれかに切り替えられることにより、各種車載機器及びエンジンの始動、停止が可能となる。具体的には、ロータがLOCK位置にあるときは全ての車載機器に電力が供給されていない状態となる。ロータがACC位置にあるときはオーディオ等の一部車載機器に電力が供給され、ロータがON位置にあるときは全ての車載機器に電力が供給されている状態となる。また、ロータがSTART位置となるとエンジンが始動され、このエンジン始動状態においてON位置からACC位置となるとエンジンが停止される。
【0003】
スイッチ装置としては、電子キー及び車両間でのID照合が成立したとき、操作ノブを通じてロータを回動操作させるタイプと、ロータにキーが差し込まれるキー穴が形成され、キー及びキー穴の機械的照合が成立したとき、キーのグリップを通じて回動操作させるタイプとがある。
【0004】
キー穴を備えるスイッチ装置は、セキュリティ性の観点からLOCK位置以外の位置におけるキーのキー穴からの抜き出しを規制する機構を備えている。また、このスイッチ装置はシフトレバーがパーキング位置以外でのキーの抜け出しを防止するキーインターロックを備えている。キーインターロックは、上記両スイッチ装置において、シフトレバーがパーキング位置以外の位置に保持されているとき、キーがLOCK位置となる操作を規制する構成にて実現されている。
【0005】
また、操作ノブを備えるスイッチ装置は、電子キー及び車両間のIDコード照合が成立しないときにはLOCK位置における操作ノブの回動操作を規制するノブロックを備えている。ノブロックにより、車両のセキュリティ性を高めることができる。
【0006】
操作ノブを備えるスイッチ装置としては、例えば、特許文献1に示されるように、吸引型ソレノイドを採用した構成が知られている。
詳しくは、図11に示すように、スイッチ装置は、エンジン始動時等に回動操作される操作ノブ102と、同操作ノブ102の回動操作に伴い筒状のシリンダ103内を回動するイグニッションロータ104と、を備える。操作ノブ102の回動操作によりイグニッションロータ104の先端側に設けられるイグニッションスイッチ105の状態がLOCK、ACC、ON、START間で切り替わる。
【0007】
また、イグニッションロータ104の回動を許容及び規制する一対のソレノイド106,107がイグニッションロータ104の軸方向において異なる位置に設けられている。また、図12(a)及び(b)に示すように、イグニッションロータ104の軸方向からみて各ソレノイド106,107は、所定の角度をなして設けられている。両ソレノイド106,107は、いわゆる吸引型が採用されている。両ソレノイド106,107は、通電されている間だけ、そのばね110,111の弾性力に抗してプランジャ108が突出する。
【0008】
図12(a)に示すように、イグニッションロータ104には、その軸中心を通過する同図の上下方向に延びる中心線に沿って挿通孔114が形成されている。当該挿通孔114には、ロックピース115がほぼ隙間なく嵌合する。ロックピース115は、前記中心線に対し垂直とされる面115aを有する階段状に形成される。イグニッションロータ104の内部には、面115aに対向する面104aが形成されている。そして、ロックピース115側の面115aと、イグニッションロータ104側の面104aとの間には、ばね116が設けられている。非通電状態では、ばね116の弾性力により、図12(a)に示すように、ロックピース115は、イグニッションロータ104の周面から第1のソレノイド106側に突出する。この状態においては、ロックピース115の端部がシリンダ103に当接することでイグニッションロータ104の回動が規制される。
【0009】
図12(b)に示されるように、第1のソレノイド106が通電されることで、プランジャ108がロックピース115をばね110の弾性力に抗してイグニッションロータ104側に押圧する。これにより、プランジャ108とロックピース115との境界部分がシリンダ103とイグニッションロータ104との境界部分に一致する。すなわち、ロックピース115がイグニッションロータ104の周面から突出しないので、イグニッションロータ104はロックピース115と一体で回動可能となる。以上のように、操作ノブ102の回動操作を許容及び規制するノブロック機構が構成される。
【0010】
また、図13に示すように、第2のソレノイド107は、イグニッションロータ104のLOCK位置への回動を規制するべく、ON位置に対応する位置に設けられている。イグニッションロータ104の外周面には、規制穴119が形成されている。この規制穴119は、その内にプランジャ108が位置している状態で、イグニッションロータ104をACC位置、ON位置およびSTART位置に回動可能となる範囲に形成される。よって、ソレノイド107が通電されて、プランジャ108が規制穴119内に変位すると、イグニッションロータ104はACC位置、ON位置及びSTART位置の範囲での回動が可能となる。すなわち、プランジャ108が規制穴119の内面に係合することによりLOCK位置への回動が規制される。ソレノイド107の通電が解除されると、プランジャ108は規制穴119から抜け出し、イグニッションロータ104のLOCK位置への回動が可能な状態となる。以上のように、操作ノブ102がLOCK位置となる回動操作を規制するインターロック機構が構成される。
【0011】
このように、ノブロック機構においては第1のソレノイド106の非通電時にLOCK位置からのイグニッションロータ104の回動が規制され、インターロック機構においては第2のソレノイド107の非通電時にLOCK位置へのイグニッションロータ104の回動が許可される。これにより、例えば、車両の電気系統の故障により、ソレノイド106,107への通電が不能となった場合であっても、車両のセキュリティ性を保つことができる。具体的には、イグニッションロータ104がLOCK位置に位置するとき、それに連動してステアリングの回動を規制するステアリングロックが機能する。
【0012】
従って、ノブロック機構においては、非通電状態でイグニッションロータ104のLOCK位置からの回動が規制されるため、電気系統故障時にステアリングロックが解除されるおそれがない。
【0013】
また、イグニッションロータ104がLOCK位置以外の位置に存在する場合に非通電状態となったときには、イグニッションロータ104のLOCK位置への回動が許可される。従って、電気系統が故障したときにもLOCK位置への回動が可能となる。特に、上記キー穴を備えるスイッチ装置においては、LOCK位置においてキーの抜き出しが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2003−343406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記スイッチ装置では、LOCK位置への操作及びLOCK位置からの操作を規制するべく2つのソレノイド106,107を設ける必要があった。当該スイッチ装置は、例えば、ステアリングコラムに内蔵されるところ、設置スペースには限りがあり、よりコンパクトに構成されることが望まれていた。
【0016】
この発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、異なる回動操作の規制範囲を単一のアクチュエータで実現することで、コンパクトに構成したイグニッションスイッチの操作規制機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について説明する。
請求項1に記載の発明は、シリンダ内に回動可能に保持されるロータの回動操作を通じて車両の電源状態を切り替えるイグニッションスイッチの操作規制機構において、前記ロータの径方向に摺動可能に貫通されるとともに、自身の2つの端部のうち第1の端部を前記ロータの外周面に対して突出させる方向へ付勢されて、ロータが第1の位置にあるとき、前記第1の端部は前記シリンダの内周面に摺動可能に当接する一方で、第2の端部は前記ロータ内に保たれる摺動ピンと、前記シリンダの内周面に形成され、前記ロータの外周面から突出する前記第1の端部の第1の位置からの回動を同第1の端部が同第1の位置側の一方の側面に当接することで規制するとともに、前記第1の端部の第1の位置への回動を同第1の端部が前記一方の側面の反対側の他方の側面に沿うことで許容する規制部と、前記シリンダの周壁を貫通して挿抜可能に設けられるとともに、前記シリンダの内部に挿入された挿入状態において前記ロータの軸方向からみたとき、前記規制部をその両側にはみ出す態様で包含し、それらはみ出す部分には前記ロータの内周面へ向かって傾斜する第1の傾斜面が形成され、前記第1の傾斜面を含む先端縁が前記ロータの回転に伴う前記第1の端部の移動経路上に位置するように設けられ、前記挿入状態における前記シリンダの内周面からの突出高さが前記第2の端部と前記ロータの外周面との間の距離より大きく設定されるロックピースと、前記ロックピースに作動連結されてその状態を前記挿入状態に保持する固定状態と、同じく挿抜可能とする可動状態との間で切り替えるアクチュエータと、
前記ロータを介して前記ロックピースと対向する位置であって、前記シリンダと前記ロータとの間に設けられ、同ロータの外周面側に付勢されるとともに、その前記ロータ側の端部であって、前記ロータが回転したときに前記摺動ピンの第2の端部が近接する側の部分には第2の傾斜面が、同第2の傾斜面と反対側には前記付勢される方向に沿って延びる規制面が形成されてなるロックピンと、を備え、前記アクチュエータは、前記ロータの回動を許容する場合、前記ロータの第1の位置から前記第2の端部が前記ロックピンを超えた位置に設定される第2の位置側に回転されるときには前記固定状態とし、前記第2の位置から前記第1の位置へ向けて回転されるときには可動状態とし、前記ロータの回動を規制する場合、前記第1の位置から前記第2の位置に回転されるときには前記可動状態とし、前記第2の位置から前記第1の位置へ向けて回転されるときには前記固定状態とすることをその要旨としている。
【0018】
同構成によれば、アクチュエータがロックピースを固定状態及び可動状態間で切り替えることで、ロータの回動が許容又は規制される。具体的には、ロータが第1の位置にある場合、アクチュエータがロックピースを可動状態とすることで、摺動ピンの第1の端部が規制部に当接可能となる。これにより、ロータが回転したとき、第1の端部が第1の位置から規制部を越えて第2の位置とされるロータの回動が規制される。また、ロータが第1の位置にある場合、アクチュエータがロックピースを固定状態とすることで、第2の位置側への回動に伴い摺動ピンの第1の端部がロックピースの第1の傾斜面を介して規制部を越えるため、上記のように、第1の端部が規制部に当接しない。また、このとき、第1の端部が固定状態とされたロックピースに沿って移動するため、摺動ピンがロックピースのシリンダの内周面に対する突出高さの分だけ第2の端部側に移動する。これにより、第2の端部がロータの外周面から突出する。この突出した第2の端部がロックピンの第2の傾斜面を介して、同ロックピンを押し退けることで、第1の位置から第2の端部がロックピンを超えた位置に設定される第2の位置へのロータの回動が許容される。
【0019】
ロータが前記第2の位置に存在する場合にロックピースが固定状態とされているとき、ロータが第1の位置側へ操作されると摺動ピンの第1の端部がロックピース上に位置する。これにより、第2の端部はロータの外周面から突出した状態に保持される。この突出した第2の端部がロックピンの規制面に当接することで、第2の位置から第1の位置へのロータの回動が規制される。
【0020】
また、ロックピースの状態が固定状態から可動状態に切り替えられた場合に、ロータが第2の位置から第1の位置側へ回動されたとき、第1の端部はロックピースをシリンダの外方へ押し出しつつシリンダの内周面に沿って移動する。このため、第2の端部はロータの外周面から突出することがないので、ロータは第1の位置に戻ることが可能となる。以上のように、異なる回動操作の規制範囲を単一のアクチュエータで実現できる。よって、イグニッションスイッチの操作規制機構をコンパクトに構成することができる。
【0021】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のイグニッションスイッチの操作規制機構において、前記ロータが前記第1の位置から前記第2の位置側に回動されたときに、これに連動してステアリングロックが解除され、前記アクチュエータは保持型ソレノイドであって、前記保持型ソレノイドは前記ロックピースを前記シリンダに対する挿入方向へ常時付勢した上で前記ロックピースに連結されるとともに、同保持型ソレノイドの本体に対して進退移動するプランジャを備え、前記保持型ソレノイドに通電されているときには、前記プランジャが前記保持型ソレノイドの本体に対して固定されることで前記ロックピースは前記固定状態となり、前記保持型ソレノイドに通電されていないときには、前記プランジャが前記保持型ソレノイドの本体に対して移動可能とされることで前記ロックピースは前記可動状態となることをその要旨としている。
【0022】
電気系統の故障時においては、保持型ソレノイドは非通電状態となる。上記構成によれば、保持型ソレノイドが非通電状態の場合には、ロックピースは可動状態となる。すなわち、電気系統の故障時においてロータが第2の位置に存在する場合、ロックピースは可動状態であるため、ロータを第1の位置まで操作することができる。また、電気系統の故障時においてロータが第1の位置に存在する場合、ロックピースは可動状態であるため、ロータの第2の位置への操作が規制される。よって、ステアリングロックが解除されることが防止され、セキュリティ性が高い。
【0023】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のイグニッションスイッチの操作規制機構において、前記保持型ソレノイドは、前記シリンダの外側において、前記プランジャの軸線と前記ロックピースの挿抜方向とが交わるように配設し、前記プランジャ及び前記ロックピース間に設けられる、同ロックピースの挿抜方向における直線運動を前記プランジャの軸方向への直線運動に変換するリンク機構を備えたことをその要旨としている。
【0024】
同構成によれば、プランジャがソレノイドの本体に対して移動可能な状態である場合、ロックピースがシリンダに対する挿抜方向に変位すると、リンク機構を介してプランジャはソレノイドの本体に対してその軸方向に変位する。プランジャがソレノイドの本体に固定された状態である場合、ロックピースの挿抜方向への変位は規制される。このように、プランジャの軸線とロックピースの挿抜方向とが交わるように、ソレノイドを配設した場合であれ、ソレノイドの通電を通じてロックピースの状態を切り替えることができる。よって、例えば、プランジャの軸線とロックピースの挿抜方向とを一致させた構成に比べ、ソレノイド及びそのプランジャの設置位置や方向の自由度を向上させることができる。これにより、イグニッションスイッチの操作規制機構をよりコンパクトに構成することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、イグニッションスイッチの操作規制機構において、異なる回動操作の規制範囲を単一のアクチュエータで実現することで、コンパクトに構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本実施形態における電子キーシステムの構成図。
【図2】本実施形態におけるスイッチ装置の正面図。
【図3】図2のA−A線断面図。
【図4】図3のB−B線断面図。
【図5】図4の範囲Aにおける斜視図。
【図6】本実施形態におけるLOCK位置からの回動が規制された状態における図3のB−B線断面図。
【図7】本実施形態における(a)〜(d)は、LOCK位置からACC位置への回動時における図3のB−B線断面図。
【図8】本実施形態におけるLOCK位置への回動が規制された状態における図3のB−B線断面図。
【図9】本実施形態における(a)及び(b)は、ACC位置からLOCK位置への回動時における図3のB−B線断面図。
【図10】本実施形態におけるシフトレバー及びイグニッションロータの位置に対応したソレノイドの通電状態を示した表。
【図11】従来におけるスイッチ装置の断面図。
【図12】(a)及び(b)は回動規制及び許可時における図11のC−C線断面図。
【図13】図11のD−D線断面図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明にかかるイグニッションスイッチの操作規制機構を電子キーシステムに具体化した第1の実施形態について図1〜図10を参照して説明する。
図1に示すように、電子キーシステム1では、車両に備えられる車載機20とユーザに携帯される電子キー10との間で双方向通信が行われる。
【0028】
車載機20は、自身の統括制御を行う車載制御装置21を備える。車載制御装置21には、ブレーキセンサ23が電気的に接続されている。車載制御装置21は、ブレーキセンサ23を通じてブレーキ操作の有無を認識する。そして、車載制御装置21は、ブレーキ操作があるときに限り、イモビライザ通信機22を通じて、LF帯の無線信号である駆動電波を発信する。駆動電波は、イモビライザ通信機22から近距離、例えば数十センチの範囲に発信される。また、車載制御装置21には、メモリ21aが備えられ、同メモリ21aにはトランスポンダコード等が記憶されている。
【0029】
車載制御装置21には、シフトポジションセンサ26が電気的に接続されている。シフトポジションセンサ26は、シフトレバーがドライブ位置(D位置)、パーキング位置(P位置)等のうち、何れの位置に存在するかを検出する。車載制御装置21は、シフトポジションセンサ26を通じてシフトレバーの位置を認識することができる。
【0030】
また、車載制御装置21には、ユーザの操作を通じてエンジンの始動及び停止等を要求するスイッチ装置30が接続されている。スイッチ装置30は、ソレノイド31及びイグニッションスイッチ32を備える。車載制御装置21は、スイッチ装置30を通じて、エンジンの始動又は停止を要求する旨を認識すると、それに応じてエンジン24を始動又は停止する。
【0031】
電子キー10は、駆動電波を送受信するLF通信部12と、トランスポンダ制御装置11とを備える。トランスポンダ制御装置11はメモリ11aを備え、同メモリ11aには、トランスポンダコードが登録されている。電子キー10をイモビライザ通信機22に近づけることで、LF通信部12にて駆動電波を受信してトランスポンダ制御装置11が起動する。そして、トランスポンダ制御装置11は、トランスポンダコードを含むトランスポンダ信号をLF通信部12から発信する。車載機20は、このトランスポンダ信号をイモビライザ通信機22で受信すると、トランスポンダ信号に含まれるトランスポンダコードと、メモリ21aに記憶されるトランスポンダコードとの照合を行う。当該照合が成立した場合、車載制御装置21は、ソレノイド31への通電を通じて、イグニッションスイッチ32の切り替えを許可又は規制する。
【0032】
イグニッションスイッチ32は、LOCK、ACC、ON、START間で接点の接続状態が切り替え可能とされている。車載制御装置21は、イグニッションスイッチ32の接続状態に基づき、各種車載機器及びエンジン24の状態を切り替える。具体的には、イグニッションスイッチ32の接点の接続状態がLOCK状態である場合には全ての車載機器に電力が供給されない。ACC状態においてはオーディオ等の一部車載機器に電力が供給され、ON状態においては全ての車載機器に電力が供給される。また、START状態となるとエンジン24が始動されて、その後にON状態からACC状態とされるとエンジン24が停止される。
【0033】
次に、スイッチ装置30の構成について説明する。当該スイッチ装置30には、上記従来技術において説明した両回動操作規制機構と同様の機能を奏するロック機構が設けられている。
【0034】
図3に示すように、スイッチ装置30は、上述したソレノイド31及びイグニッションスイッチ32に加え、筒状のシリンダ34と、同シリンダ34内に摺動回転可能に設けられる円柱状のイグニッションロータ33と、を備える。
【0035】
イグニッションロータ33のシリンダ34から露出する端面には、電子キー10を差し込み可能としたキー穴35が形成されている。ユーザは、電子キー10をキー穴35に差し込んだ状態で、電子キー10を回動操作することで、イグニッションロータ33を回動させることができる。また、イグニッションロータ33におけるキー穴35の反対側には、イグニッションスイッチ32が接続されている。イグニッションロータ33の回転位置に対応して、イグニッションスイッチ32の接点の接続状態がLOCK、ACC、ON、START間で切り替わる。LOCK状態となるイグニッションロータ33の位置をLOCK位置とする。同様に、ACC状態、ON状態、START状態となるイグニッションロータ33の位置をそれぞれACC位置、ON位置、START位置とする。図2に示すように、電子キー10を介してイグニッションロータ33の位置をLOCK位置、ACC位置、ON位置及びSTART位置に回動操作することで、車両の電源状態を切り替えることができる。なお、図2では、イグニッションロータ33の回転位置は、イグニッションロータ33の上下方向へ延びる中心軸の位置を示す。
【0036】
また、図示しない位置保持機構により、イグニッションロータ33はLOCK位置、ACC位置及びON位置の各位置に保持される。また、図3に示すように、イグニッションロータ33の外周にはリング状の復帰ばね37が装着されている。復帰ばね37の一端はシリンダ34の内周面に固着されるとともに、他端はイグニッションロータ33の周面に固着される。イグニッションロータ33がSTART位置に回動操作された後、その操作力が解除されたとき、イグニッションロータ33は復帰ばね37の弾性力によりON位置に戻される。
【0037】
ここで、イグニッションロータ33の回動位置に連動してステアリングの回動を規制するステアリングロックが作動する。具体的には、イグニッションロータ33がLOCK位置にあるときステアリングロックが作動して、ステアリングの回動が規制される。また、イグニッションロータ33がLOCK位置からACC位置に回動されたときステアリングロックが解除されて、ステアリングの回動が許容される。
【0038】
図4は、イグニッションロータ33がLOCK位置に保持された状態を示す。同図に示すように、イグニッションロータ33の外周面には円環状の溝43が形成されている。溝43の底面には同イグニッションロータ33をその軸方向に対し垂直方向に貫く略円柱状のピン通孔44が形成されている。このピン通孔44は、溝43の底面からイグニッションロータ33の軸中心を通過するとともに、図4の上下方向に沿って形成されている。ピン通孔44は、内径が異なる2つの部分からなっている。詳しくは、ピン通孔44は、図4の上側に形成される小径孔部44aと、下側に形成される大径孔部44bとからなる。ピン通孔44には摺動ピン45が挿通されている。摺動ピン45は、小径孔部44aの内径と略同一外径の円柱状をなすとともに、その軸方向における一部に大径孔部44bの内径と略同一外径の摺動部46が形成されている。摺動ピン45は、摺動部46が大径孔部44b内を摺動することで、ピン通孔44内を移動可能である。
【0039】
また、摺動ピン45の軸方向の長さは、イグニッションロータ33における溝43の径より大きく、同溝43以外の位置におけるイグニッションロータ33の外径より小さい。よって、摺動ピン45がピン通孔44内を摺動することにより、摺動ピン45の両先端部45a,45bは溝43の底面から突出可能である。先端部45aは、厚板状に形成されるとともに、その先端面が曲面状に形成されている。この先端部45aの先端面がシリンダ34の内周面を摺動することになる。また、先端部45bは球面状に形成されている。
【0040】
また、ピン通孔44内における摺動ピン45の外周面にはコイル状の付勢ばね48が設けられている。付勢ばね48は、摺動部46の上端面、及び同端面に対向する大径孔部44bの内頂面間に設けられる。そして、摺動ピン45は付勢ばね48の弾性力により、シリンダ34の内周面側(図4の下側)に常時付勢される。ここで、摺動ピン45において、付勢ばね48によってシリンダ34の内周面側に付勢される先端部を第1の先端部45aとし、同第1の先端部45aの反対側の先端部を第2の先端部45bとする。
【0041】
図4に示すように、シリンダ34の内周面には、摺動ピン45の第1の先端部45aが嵌合する規制穴50が形成されている。この規制穴50は、図5に示すように、シリンダ34の内周面に形成される第1の規制部51及び第2の規制部52により形成される。すなわち、シリンダ34の周方向における第1の規制部51と第2の規制部52との間の部分が規制穴50となる。
【0042】
第1の規制部51は、略台形板状の一対の規制片51a、51bからなる。規制片51a、51bは、イグニッションロータ33の軸方向において対面している。規制片51a、51bの間隔は、第1の先端部45aの外径よりも小さく設定されている。規制片51a、51bの上面は、シリンダ34の内周面に沿う緩やかな曲面状に形成されている。規制片51a、51bにおける規制穴50を形成する側面は、第1の先端部45aとの当接を通じて摺動ピン45の第1の規制部51側への回動を規制する態様にて形成されている。第2の規制部52は、シリンダ34の内周方向に沿う略直方体状に形成されるとともに、上記同様、規制穴50を形成する側面は、第1の先端部45aとの当接を通じて第2の規制部52側への摺動ピン45の回動を規制する態様にて形成されている。よって、イグニッションロータ33の回動は、摺動ピン45の第1の先端部45aが規制穴50を形成する両規制部51,52の側面に当接することで規制される。なお、第1の先端部45aが規制穴50に嵌合しているとき、第2の先端部45bが溝43内に突出しない程度に摺動ピン45の長さが設定されている。
【0043】
また、両規制片51a、51bにおける規制穴50の反対側には、摺動ピン45の第1の先端部45aが摺動する緩やかな傾斜面51cが形成されている。この傾斜面51cは、シリンダ34の内周面を基準面として規制穴50に向かうにつれて高くなる態様にて形成されている。
【0044】
シリンダ34の内周面における両規制片51a、51b間には、イグニッションロータ33の回動方向に延びるピース通孔53が形成されている。このピース通孔53には、略矢印板状のロックピース54の上部に形成される摺接部55がシリンダ34の外方から挿入される。
【0045】
摺接部55の先端面(図5のシリンダ34側の面)には、シリンダ34の内周面に沿う曲面状の当接面56が、またその両側には傾斜面57a、57bが形成されている。一方の傾斜面57aは規制穴50側に形成され、他方の傾斜面57bはその反対側に形成される。摺接部55がピース通孔53に嵌合された状態においては、シリンダ34の内周面から両傾斜面57a、57bに連続した面が形成される。よって、第1の先端部45aは、傾斜面57aから当接面56を介して傾斜面57bに、又はその逆の順序にて摺動することができる。当接面56は、イグニッションロータ33がLOCK位置からACC位置まで回動されたときの第1の先端部45aの回転距離と同程度の長さとされている。
【0046】
一方、図5に示すように、ロックピース54の下部には、そのシリンダ34に対する挿入方向に直交する方向において、対面する一対の板状でなる連結部63が形成されている。連結部63間には、同連結部63の対面方向に延びる円柱状の軸部64が形成されている。
【0047】
摺接部55の幅は、ピース通孔53よりも大きく設定されている。このため、摺接部55がピース通孔53に外方から挿入されると、傾斜面57a、57bがピース通孔53の周縁部に当接した嵌合状態となる。これにより、摺接部55の挿入位置が決まる。また、この状態において、摺接部55におけるシリンダ34の内周面から突出した高さが第1の規制部51のそれとほぼ同じになるように、傾斜面57a、57bの傾斜面角度及びピース通孔53の長さ等が設定されている。
【0048】
図4に示すように、ロックピース54は、リンク60を介して、ソレノイド31に連結されている。このリンク60及びソレノイド31からなるリンク機構によりロックピース54はシリンダ34に対する移動が許可又は規制される。
【0049】
ソレノイド31は、樹脂でなるケース47と、同ケース47から突出するプランジャ42とを備える。プランジャ42は磁性体により棒状に形成されている。ケース47には、プランジャ42が挿入される挿入穴41が形成されている。この挿入穴41の周面にはコイル40が固定されている。また、挿入穴41の底面であって、プランジャ42の端面と接触可能な位置には、固定鉄心36が設置されている。コイル40に通電がされていない、すなわち非通電状態においては、プランジャ42はケース47に対して自由に移動することができる。
【0050】
コイル40に通電された通電状態においては、コイル40の形成する磁界によりプランジャ42及び固定鉄心36間では互いに引き付けあう磁力が生じる。これにより、プランジャ42が固定鉄心36に吸着された状態で固定される。すなわち、本例では非通電状態においてプランジャ42が自己の位置を保持する保持型ソレノイドが採用されている。この保持型ソレノイドは、上記背景技術において説明した吸引型ソレノイドに比べて、通電時間が少なくて済むため消費電力を低減できる。また、保持型ソレノイドは、通電時間が少ないため通電に伴う発熱が少なく、発熱を抑制する機構等を省略できる。従って、コンパクトに構成することができる。
【0051】
また、プランジャ42の先端側における周面には、図4に拡大して示すように、円柱状の軸部39がその軸方向に対して垂直方向に両側から突出して設けられている。図4に2点鎖線で示されるように、リンク60は、略L字の板状に形成されるとともに、その中間部に設けられる軸60cを中心として回転可能に支持されている。リンク60の右端には軸部64が嵌合するU字状のリンク溝60bが形成されている。また、リンク60の下端には、プランジャ42の先端部を互いに反対側から挟み込む一対の板状の連結部68が形成されている。それら連結部68の下面には軸部39が嵌合するU字状のリンク溝60aが形成されている。リンク60のリンク溝60bに軸部64を嵌め込むとともに、2つの連結部68がプランジャ42を介して対向する態様でリンク溝60aに軸部39を嵌め込むことにより、プランジャ42、リンク60及びロックピース54が連結される。リンク60は、一方の軸部39を中心にプランジャ42に対して相対回転可能に、他方の軸部64を中心にロックピース54に対して相対回転可能に連結される。
【0052】
また、リンク60の軸60cには、ねじりコイルばね59が挿通されている。当該ねじりコイルばね59は、その一端が図4に一点鎖線で示すスイッチ装置30のケースの壁面62に係止されるとともに、その他端がリンク60に形成される突部61に係止される。このねじりコイルばね59の弾性力により、リンク60は、軸60cを中心に反時計方向(左回転方向)に付勢される。ロックピース54は、軸部64を介して上方(シリンダ34方向)へ押圧される。このため、ロックピース54はピース通孔53に嵌合した状態に保たれる。また、プランジャ42は、軸部39を介してケース47に対する挿入方向(右方向)へ押圧される。このため、プランジャ42は、その内端部が固定鉄心36に当接した状態に保たれる。
【0053】
上記リンク機構においては、摺動ピン45を介してロックピース54に対してシリンダ34の外方向への外力(付勢ばね48の弾性力)が印加された場合、リンク60のリンク溝60bは、軸部64を介して下方へ押圧される。すると、リンク60はねじりコイルばね59の弾性力に抗して、軸60cを中心に時計方向(右回転方向)へ回転する。プランジャ42にはリンク溝60aに係合する軸部39を介して、ケース47に対して突出する方向(左方向)への外力が印加される。このとき、ソレノイド31が非通電状態であれば、プランジャ42が軸方向に移動可能である。よって、ロックピース54はシリンダ34の外方向に変位する。一方、ソレノイド31が通電状態であれば、プランジャ42はケース47に対して固定されている。このため、プランジャ42は左方へ変位することなく、同ロックピース54は嵌合状態に維持される。
【0054】
図4に示すように、シリンダ34には、LOCK位置及びACC位置間において、外側に突出する突出部34aが形成されている。突出部34aには、シリンダ34の内周面に開口する円柱状の収納穴70が形成されている。収納穴70内には、略角柱状のロックピン71が収納されている。ロックピン71と収納穴70の底面との間には、ばね72が設けられている。このばね72の弾性力によりロックピン71はイグニッションロータ33における溝43の底面に押し付けられる。ロックピン71は、イグニッションロータ33のACC位置とLOCK位置との間に位置している。
【0055】
ロックピン71の先端におけるLOCK位置側には、傾斜面71aが形成されている。イグニッションロータ33がLOCK位置からACC位置へ回動されると、第1の先端部45aは、傾斜面51cを介して第1の規制部51(規制片51a、51b)の上面に至る。これに伴い、摺動ピン45は付勢ばね48の弾性力に抗して第1の規制部51と反対側へ変位する。すると、第2の先端部45bは溝43の内底面から第1の規制部51の高さ分だけ突出する。突出した第2の先端部45bは、イグニッションロータ33がACC位置に至る過程において、傾斜面71aに当接する。この当接した状態におけるイグニッションロータ33のACC位置側への回動に伴い、ロックピン71は、自身の傾斜面71aを介して、ばね72の弾性力に抗して収納穴70内に押し上げられる。これにより、LOCK位置からロックピン71を超えてACC位置への回動が可能となる。第2の先端部45bがロックピン71を超えた後、ロックピン71は、ばね72の弾性力により溝43の内底面に当接した原位置に復帰する。
【0056】
また、ロックピン71の先端におけるACC位置側には、溝43の底面に対し略垂直である規制面71bが形成されている。図8に示すように、第2の先端部45bが溝43の底面から突出した状態において、イグニッションロータ33がACC位置からLOCK位置側へ回動されると、同第2の先端部45bは規制面71bにその面垂直方向から当接する。このとき、イグニッションロータ33の回動方向にロックピン71を押す力は生じるものの、同ロックピン71をばね72の弾性力に抗して押し上げる力は生じない。よって、イグニッションロータ33のACC位置からLOCK位置への回動が規制される。
【0057】
次に、前述のように構成したロック機構の動作態様について、図6〜図10を参照して説明する。なお、図10は、シフトレバー及びイグニッションロータ33の位置に対応したソレノイド31の通電状態を示した表である。車載制御装置21は、図10の表に従って、ソレノイド31の通電状態を切り替える。なお、車載制御装置21は、イグニッションスイッチ32の接点の接続状態を通じてイグニッションロータ33の回転位置を検出可能である。
【0058】
ユーザは、エンジン24を始動させるにあたり、まず電子キー10をキー穴35に差し込む。なお、このとき、車両は駐車されているためシフトレバーはP位置に存在し、イグニッションロータ33はLOCK位置に存在する。電子キー10がキー穴35に差し込まれていない状態やキー穴35に差し込まれた電子キーが正規のキーでない場合には、車載制御装置21によるトランスポンダコードの照合が成立しないため、ソレノイド31に通電されない。非通電状態においては、上述のように、プランジャ42はケース47に対して移動可能である。よって、図6に示すように、イグニッションロータ33がLOCK位置からACC位置側に回動された場合、第1の先端部45aは傾斜面57aを介して、ロックピース54を外方へ押し下げる。これにより、第1の先端部45aは規制穴50を形成する第1の規制部51の側面に当接するため、イグニッションロータ33の回動が規制される。また、LOCK位置からACC位置と反対側へのイグニッションロータ33の回動は第2の規制部52により常時規制されている。このように、電子キー10がキー穴35に差し込まれていない状態等におけるイグニッションロータ33の回動が規制される。
【0059】
電子キー10が正規のキーである場合、図10の表に示すように、車載制御装置21は、トランスポンダコードの照合が成立した旨判断し、ソレノイド31に通電する。通電状態においては、上述のように、プランジャ42はケース47に対して固定されるため、ロックピース54はシリンダ34に対して固定された状態となる。この状態において、図7(a)に示すように、イグニッションロータ33がLOCK位置からACC位置側に回動された場合、第1の先端部45aは付勢ばね48の弾性力に抗しつつ、摺接部55の傾斜面57aに沿って移動する。そして、図7(b)に示すように、第1の先端部45aは当接面56に到達する。このとき、第2の先端部45bは溝43の底面から突出して、ロックピン71の傾斜面71aに当接する。
【0060】
図7(c)に示すように、イグニッションロータ33がさらに回転されると、第1の先端部45aは当接面56に沿って移動する。このとき、第2の先端部45bは、傾斜面71aを介してロックピン71をばね72の弾性力に抗して収納穴70内に押し上げる。そして、第2の先端部45bはロックピン71を超えてイグニッションロータ33はACC位置となる。ACC位置のイグニッションロータ33は、図7(d)に示すように、ON位置及びSTART位置に回動が可能となる。図10の表に示すように、イグニッションロータ33がLOCK位置からACC位置に回動されたとき、シフトレバーはP位置に存在するため、ソレノイド31への通電が停止される。
【0061】
そして、例えば、電子キー10を通じてイグニッションロータ33がSTART位置に回動操作された場合、エンジン24が始動する。エンジン24の始動後には、復帰ばね37の弾性力によりイグニッションロータ33はON位置に復帰する。なお、ソレノイド31は非通電状態に維持される。そして、車両を走行させるにあたり、ユーザはシフトレバーをP位置からD位置に操作する。図10の表に示すように、ON位置においてシフトレバーがP位置から他の位置へ操作された場合、ソレノイド31に通電される。
【0062】
この通電状態においては、LOCK位置への操作が規制される。通電状態では、ロックピース54は外方への変位が規制される。図8に示すように、イグニッションロータ33をACC位置からLOCK位置に回動させようとすると、第1の先端部45aがロックピース54の傾斜面57bに沿って摺接部55側へ移動するため、摺動ピン45の第2の先端部45bは、傾斜面57bを登った分だけイグニッションロータ33の溝43の底面から突出する。この状態にて、イグニッションロータ33はLOCK位置側へ回動されると、第2の先端部45bがロックピン71の規制面71bに当接する。これにより、シフトレバーがP位置以外にあるときのイグニッションロータ33のLOCK位置への回動が規制される。
【0063】
ユーザは、イグニッションロータ33をLOCK位置へ回動させる際には、シフトレバーをD位置等からP位置に移動させる。図10の表に示すように、シフトレバーがD位置等からP位置に操作されたときには、ソレノイド31への通電は停止される。このため、ロックピース54は、シリンダ34の外方へ変位可能となる。この状態で、イグニッションロータ33がACC位置からLOCK位置側へ回動操作されると、図9(a)に示すように、第1の先端部45aは傾斜面57b及び当接面56を介して、ロックピース54を外方へ押し下げつつ、シリンダ34の内周面を摺動する。このとき、摺動ピン45はロックピース54の反対側に変位することはないため、第2の先端部45bがイグニッションロータ33の溝43の底面から突出することもない。よって、図9(b)に示すように、第2の先端部45bはロックピン71を超えて、LOCK位置側にイグニッションロータ33とともに回動することができる。さらに、イグニッションロータ33がLOCK位置側に回動されることで、第1の先端部45aは、第1の規制部51の傾斜面51c及び上面に沿って移動し、図6に示したように、規制穴50に嵌合した状態となる。すなわち、イグニッションロータ33はLOCK位置に戻される。そして、上述したように、照合が成立したときに再びソレノイド31が通電される。
【0064】
以上のように、単一のソレノイド31の通電状態の切り替えを通じて、LOCK位置からの操作(右回転操作)及びLOCK位置への操作(左回転操作)を規制することができる。よって、スイッチ装置30をコンパクトに構成することができる。また、ソレノイド31を単一とした場合、複数のソレノイドを使用する場合に比べ、それに係る消費電力を抑制することができる。
【0065】
ソレノイド31の非通電時にLOCK位置からのイグニッションロータ33の回動が規制される。また、ソレノイド31の非通電時にLOCK位置へのイグニッションロータ33の回動が許可される。これにより、上記背景技術で説明したように、電気系統故障時においてもステアリングロックの解除を防ぐことができるとともに、LOCK位置への戻し操作が可能となる。
【0066】
また、リンク機構においては、リンク60により、ロックピース54の外方への変位は、この変位方向に対して交わるプランジャ42の軸方向の変位に変換される。よって、ソレノイド31の設置の自由度を向上させることができ、スイッチ装置30をよりコンパクトに構成できる。
【0067】
さらに、第1の規制部51は、一対の規制片51a、51bからなる。よって、ロックピース54が外方へ変位可能な状態であっても、第1の先端部45aは両規制片51a、51b間に安定的に支持されている。従って、第1の先端部45aは安定的に第1の規制部51上を摺動することができる。
【0068】
また、イグニッションロータ33の溝43内において、摺動ピン45と、ロックピン71、ロックピース54及び両規制部51,52とが当接することで、イグニッションロータ33の回動が規制又は許可されている。よって、摺動ピン45が溝43を除くイグニッションロータ33の周面から突出等することはない。従って、スイッチ装置30をよりコンパクトに構成することができる。
【0069】
以上、説明した実施形態によれば、以下の作用効果を奏することができる。
(1)ソレノイド31は、ロックピース54をピース通孔53内で固定された固定状態及びロックピース54をピース通孔53から脱出可能とされた可動状態間で切り替え可能である。固定状態及び可動状態を切り替えることで、イグニッションロータ33の回動を許容及び規制する。具体的には、ソレノイド31がロックピース54を可動状態とすることで、摺動ピン45の第1の先端部45aが第1の規制部51の側面に当接し、LOCK位置からの第1の規制部51側へのイグニッションロータ33の回動が規制される。また、ソレノイド31がロックピース54を固定状態とすることで、摺動ピン45の第1の先端部45aがロックピース54の傾斜面57aを介して第1の規制部51を越えるため、上記のように、第1の先端部45aが第1の規制部51の側面に当接せず、すなわちイグニッションロータ33の回動が規制されない。また、このとき、第1の先端部45aがイグニッションロータ33の回動方向におけるロックピース54に沿って移動するため、摺動ピン45がロックピース54のイグニッションロータ33の径方向における高さに応じて移動する。これにより、第2の先端部45bがピン通孔44から突出する。この突出した第2の先端部45bがロックピン71の傾斜面71aを介して、ロックピン71を押し退けることで、LOCK位置からの第1の規制部51側へのイグニッションロータ33の回動が許容される。
【0070】
このように、イグニッションロータ33の回動が許容されたとき、固定状態であれば、イグニッションロータ33がLOCK位置側へ操作されると摺動ピン45の第1の先端部45aがピース通孔53に嵌合した状態で固定されるロックピース54上に位置する。これにより、摺動ピン45がピン通孔44内において、第2の先端部45b側に変位し、第2の先端部45bがイグニッションロータ33のピン通孔44から突出する。この突出した第2の先端部45bがロックピン71の規制面71bに当接することで、LOCK位置へのイグニッションロータ33の回動が規制される。
【0071】
また、固定状態から可動状態に切り替えられた場合においては、ロックピース54はピース通孔53からソレノイド31側に変位可能となる。よって、第2の先端部45bはイグニッションロータ33のピン通孔44から突出することなく、イグニッションロータ33がLOCK位置に戻ることが可能となる。このように、異なる回動操作の規制範囲を単一のソレノイド31で実現できる。よって、スイッチ装置30をコンパクトに構成することができる。
【0072】
(2)ソレノイド31の非通電時にイグニッションロータ33がLOCK位置に存在する場合、LOCK位置からのイグニッションロータ33の回動(右回転)が規制される。また、ソレノイド31の非通電時にイグニッションロータ33がLOCK位置以外に存在する場合、LOCK位置へのイグニッションロータ33の回動(左回転)が許可される。従って、電気系統故障時においても不正なステアリングロックの解除を防ぐことができるとともに、LOCK位置以外の位置からLOCK位置への戻し操作が可能となる。これにより、車両のセキュリティ性を向上させることができる。
【0073】
(3)リンク60によりロックピース54のイグニッションロータ33の軸方向に対し垂直方向に加わる力がプランジャ42の軸方向への力に変換される。よって、ソレノイド31及びそのプランジャ42の設置位置や方向の自由度を向上させることができる。よって、スイッチ装置30をよりコンパクトに構成することができる。
【0074】
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することができる。
・上記実施形態においては、イグニッションロータ33には溝43が形成されていたが、これを省略してもよい。この場合、溝43と同様の空間を、シリンダ34を変形させることを通じてイグニッションロータ33の周面との間に形成する。
【0075】
・上記実施形態においては、第1の規制部51は、一対の規制片51a、51bにて形成されていた。しかし、第1の規制部は一枚の板状に形成されていてもよい。この場合には、ロックピース54が外方へ変位可能な状態であっても、第1の先端部45aが当該規制部の上面を安定的に摺動するように、同第1の先端部45aの形状等を、適宜、変更する必要がある。
【0076】
・上記実施形態においては、ロックピース54は、リンク60を介して、ソレノイド31に連結されていた。しかし、リンク60を省略してもよい。この場合、例えば、
プランジャ42の変位方向がロックピース54の変位方向と一致するように、ソレノイド31を設置した上で、プランジャ42を直接ロックピース54に連結する。ソレノイド31が通電されているときには、ロックピース54はピース通孔53からソレノイド31側に脱出した状態に維持されるように、非通電のときにはロックピース54(摺接部55)がピース通孔53に挿入されて前記嵌合状態に維持されるようにソレノイド31の配置等を維持する。このようにした場合であれ、上記実施形態と同様の作用効果が得られる。
・上記実施形態においては、アクチュエータとしてソレノイド31を採用し、ソレノイド31の通電状態に応じて、プランジャ42を固定又は移動可能としていた。しかし、アクチュエータとして同様の作用が実現可能であれば、上記ソレノイド31に限らない。
【0077】
次に、前記実施形態から把握できる技術的思想をその効果と共に記載する。
(イ)請求項1〜3の何れか一項に記載のイグニッションスイッチの操作規制機構において、前記ロータは前記シリンダ内に摺動回転可能に設けられるとともに、その周面には円環状の溝が形成されてなり、前記溝の内部には前記摺動ピンの両端部、前記ロックピンの前記ロータ側の端部、前記規制部及び前記ロックピースの先端部が存在可能とされ、前記溝の深さは、前記摺動ピンの軸方向における移動距離より大きく形成されているイグニッションスイッチの操作規制機構。
【0078】
同構成によれば、溝内において、摺動ピンが変位するとともに、ロックピース、ロックピン及び規制部と当接等する。また、溝の深さは摺動ピンの軸方向における移動距離より大きく形成されているため、摺動ピンがイグニッションロータの周面における溝を除く部分から突出することはない。このため、ロータをシリンダ内に摺動回転可能に設けた場合であれ、前述のように、ロータの回動を許容又は規制することができる。従って、ロータとシリンダとの間に大きな隙間を形成する必要がないので、イグニッションスイッチの操作規制機構をよりコンパクトに構成することができる。
【0079】
(ロ)請求項1〜3、上記項(イ)の何れか一項に記載のイグニッションスイッチの操作規制機構において、前記規制部は前記第1の端部の外径より小さい間隔にて前記シリンダの軸方向において、対面する一対の板状の規制片からなり、前記シリンダの内周面における前記規制片間に前記ロックピースが挿入されるイグニッションスイッチの操作規制機構。
【0080】
同構成によれば、第1の先端部は両規制片間に安定的に支持される。よって、第1の先端部は安定的に規制部上を摺動することができる。
【符号の説明】
【0081】
1…電子キーシステム、10…電子キー、11…トランスポンダ制御装置、20…車載機、21…車載制御装置、30…スイッチ装置、31…ソレノイド、33…イグニッションロータ、34…シリンダ、42…プランジャ、45…摺動ピン、45a…第1の先端部、45b…第2の先端部、50…規制穴、51…第1の規制部、52…第2の規制部、54…ロックピース、60…リンク、70…収納穴、71…ロックピン、71a…傾斜面、71b…規制面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ内に回動可能に保持されるロータの回動操作を通じて車両の電源状態を切り替えるイグニッションスイッチの操作規制機構において、
前記ロータの径方向に摺動可能に貫通されるとともに、自身の2つの端部のうち第1の端部を前記ロータの外周面に対して突出させる方向へ付勢されて、ロータが第1の位置にあるとき、前記第1の端部は前記シリンダの内周面に摺動可能に当接する一方で、第2の端部は前記ロータ内に保たれる摺動ピンと、
前記シリンダの内周面に形成され、前記ロータの外周面から突出する前記第1の端部の第1の位置からの回動を同第1の位置側の一方の側面に同第1の端部が当接することで規制するとともに、前記第1の端部の第1の位置への回動を前記一方の側面の反対側の他方の側面に同第1の端部が沿うことで許容する規制部と、
前記シリンダの周壁を貫通して挿抜可能に設けられるとともに、前記シリンダの内部に挿入された挿入状態において前記ロータの軸方向からみたとき、前記規制部をその両側にはみ出す態様で包含し、それらはみ出す部分には前記ロータの内周面へ向かって傾斜する第1の傾斜面が形成され、前記第1の傾斜面を含む先端縁が前記ロータの回転に伴う前記第1の端部の移動経路上に位置するように設けられ、前記挿入状態における前記シリンダの内周面からの突出高さが前記第2の端部と前記ロータの外周面との間の距離より大きく設定されるロックピースと、
前記ロックピースに作動連結されてその状態を前記挿入状態に保持する固定状態と、同じく挿抜可能とする可動状態との間で切り替えるアクチュエータと、
前記ロータを介して前記ロックピースと対向する位置であって、前記シリンダと前記ロータとの間に設けられ、同ロータの外周面側に付勢されるとともに、その前記ロータ側の端部であって、前記ロータが回転したときに前記摺動ピンの第2の端部が近接する側の部分には第2の傾斜面が、同第2の傾斜面と反対側には前記付勢される方向に沿って延びる規制面が形成されてなるロックピンと、を備え、
前記アクチュエータは、前記ロータの回動を許容する場合、前記ロータの第1の位置から前記第2の端部が前記ロックピンを超えた位置に設定される第2の位置側に回転されるときには前記固定状態とし、前記第2の位置から前記第1の位置へ向けて回転されるときには可動状態とし、前記ロータの回動を規制する場合、前記第1の位置から前記第2の位置に回転されるときには前記可動状態とし、前記第2の位置から前記第1の位置へ向けて回転されるときには前記固定状態とするイグニッションスイッチの操作規制機構。
【請求項2】
請求項1に記載のイグニッションスイッチの操作規制機構において、
前記ロータが前記第1の位置から前記第2の位置側に回動されたときに、これに連動してステアリングロックが解除され、
前記アクチュエータは保持型ソレノイドであって、
前記保持型ソレノイドは前記ロックピースを前記シリンダに対する挿入方向へ常時付勢した上で前記ロックピースに連結されるとともに、同保持型ソレノイドの本体に対して進退移動するプランジャを備え、
前記保持型ソレノイドに通電されているときには、前記プランジャが前記保持型ソレノイドの本体に対して固定されることで前記ロックピースは前記固定状態となり、
前記保持型ソレノイドに通電されていないときには、前記プランジャが前記保持型ソレノイドの本体に対して移動可能とされることで前記ロックピースは前記可動状態となるイグニッションスイッチの操作規制機構。
【請求項3】
請求項2に記載のイグニッションスイッチの操作規制機構において、
前記保持型ソレノイドは、前記シリンダの外側において、前記プランジャの軸線と前記ロックピースの挿抜方向とが交わるように配設し、
前記プランジャ及び前記ロックピース間に設けられる、同ロックピースの挿抜方向における直線運動を前記プランジャの軸方向への直線運動に変換するリンク機構を備えたイグニッションスイッチの操作規制機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−236652(P2011−236652A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109370(P2010−109370)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)
【Fターム(参考)】