説明

イグニッションスイッチの操作規制装置

【課題】装置全体の小型化及び消費電力コストの低廉化を図ることができるイグニッションスイッチの操作規制装置を提供する。
【解決手段】操作規制装置100は、第1の位置及び第2の位置にそれぞれ規制孔50,係止レバー71を有するシリンダ34と、シリンダ34内に回転可能に配置され、第1の位置及び第2の位置を含む領域を回転するイグニッションロータ33と、イグニッションロータ33の第2の位置から第1の位置への第1の回転、及び第1の位置から第2の位置への第2の回転を規制するための摺動ピン45と、摺動ピン45の移動面内で動作可能又は動作不能に配置され、ソレノイド31の切り替えによってイグニッションロータ33の第1の回転及び第2の回転を許容するための揺動プレート54とを備え、シリンダ34は、回転規制部のうち第2の位置に配置された回転規制部がイグニッションロータ33の回転面内で回転する係止レバーからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イグニッションスイッチの操作規制装置に関し、特に車両等におけるイグニッションスイッチの回転操作を規制する機能を備えたイグニッションスイッチの操作規制装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両用キーの電気的な信号(IDコード:Identificationコード)によりその照合を行う電子キーシステムが提案されている。
【0003】
このような電子キーシステムでは、車両用キーからの送信信号に含まれるIDコードと車両の送受信装置に予め登録されたIDコードとが一致すると、イグニッションスイッチの操作ノブ(スイッチ切替部材)の操作が可能となる。このため、乗員がスイッチ切替部材を回転させることにより、車両のエンジン等を始動することができる。
【0004】
従来、この種の電子キーシステムが採用された車両のイグニッションスイッチの操作規制装置として、車両用キーの非照合によりスイッチ切替部材の「LOCK(ロック)」位置から「ACC(アクセサリ)」位置への切り替え操作を阻止する第1ロック機構(ノブロック機構)と、車両のシフトレバーがパーキングポジション(Pポジション)以外のポジション(ニュートラルポジション:Nポジション,ドライブポジション:Dポジション)に切り替えられている場合にスイッチ切替部材の「ACC」位置から「LOCK」位置に切り替え操作を阻止する第2ロック機構(インターロック機構)とを備えたものがある(特許文献1)。
【0005】
第1ロック機構は、第1ソレノイドの非通電によってスイッチ切替部材の「LOCK」位置から「ACC」位置への切り替え操作を阻止する状態とし、また第1ソレノイドの通電によってスイッチ切替部材の「LOCK」位置から「ACC」位置への切り替え操作を可能な状態とする。
【0006】
第1ソレノイドは、その通電によって吸引方向に移動する第1プランジャ、及び第1プランジャに吸引方向と反対の方向の弾撥力を付与する第1スプリングを有する吸引型ソレノイドからなる。
【0007】
第2ロック機構は、第2ソレノイドの非通電によってスイッチ切替部材の「ACC」位置から「LOCK」位置への切り替え操作を可能な状態とし、また第2ソレノイドの通電によってスイッチ切替部材の「ACC」位置から「LOCK」位置への切り替え操作を阻止する状態とする。
【0008】
第2ソレノイドは、その通電によって吸引方向に移動する第2プランジャ、及び第2プランジャに吸引方向と反対の方向の弾撥力を付与する第2スプリングを有する吸引型ソレノイドからなる。
【0009】
これにより、第1ソレノイドが通電状態とされ、第1ロック機構が作動すると、スイッチ切替部材が「LOCK」位置から「ACC」位置への切り替え操作が可能となる。また、第1ソレノイドが非通電状態とされ、第1ロック機構が作動すると、スイッチ切替部材が「LOCK」位置から「ACC」位置への切り替え操作が阻止される。
【0010】
一方、第2ソレノイドが通電状態とされ、第2ロック機構が作動すると、スイッチ切替部材が「ACC」位置から「LOCK」位置への切り替え操作が阻止される。また、第2ソレノイドが非通電状態とされ、第2ロック機構が作動すると、スイッチ切替部材が「ACC」位置から「LOCK」位置への切り替え操作が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−295089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、特許文献1に示すイグニッションスイッチの操作規制装置によると、LOCK位置への操作及びLOCK位置からの操作を規制するアクチュエータとして2つのソレノイドを必要とし、装置全体が大型化するばかりか、消費電力コストが嵩むという問題があった。
【0013】
従って、本発明の目的は、装置全体の小型化及び消費電力コストの低廉化を図ることができるイグニッションスイッチの操作規制装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記目的を達成するために、(1)〜(3)のイグニッションスイッチの操作規制装置を提供する。
【0015】
(1)車両の電源状態を操作部材の回転操作によって切り替えるイグニッションスイッチの操作規制装置において、円周方向に並列する第1の位置及び第2の位置にそれぞれ回転規制部を有するボディと、前記ボディ内に回転可能に配置され、前記第1の位置及び前記第2の位置を含む領域を前記操作部材の回転操作によって回転するロータと、前記ロータにその回転面内で移動可能に保持され、前記ロータの前記第2の位置側から前記第1の位置側への第1の回転、及び前記第1の位置側から前記第2の位置側への第2の回転を規制するためのロックピンと、前記ロックピンの移動面内で動作可能又は動作不能に配置され、アクチュエータの切り替えによって前記ロータの前記第1の回転及び前記第2の回転を許容するためのプレートとを備え、前記ボディは、前記回転規制部のうち前記第2の位置に配置された回転規制部が前記ロータの回転面内で回転する回転レバーからなるイグニッションスイッチの操作規制装置。
【0016】
(2)上記(1)に記載のイグニッションスイッチの操作規制装置において、前記回転レバーは、前記アクチュエータの通電状態において前記ロータの前記第2の回転によって前記ロックピンを係止する係止レバーによって形成されている。
【0017】
(3)上記(1)又は(2)に記載のイグニッションスイッチの操作規制装置において、前記ロックピンは、前記ボディ及び前記プレートを押圧する弾撥力が第1のスプリングによって付与され、前記プレートは、前記ロックピンの押圧力を受ける方向に前記第1のスプリングの弾撥力よりも小さい弾撥力が第2のスプリングによって付与されている。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、装置全体の小型化及び消費電力コストの低廉化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態に係るイグニッションスイッチの操作規制装置が適用された電子キーシステムを説明するために示すブロック図。
【図2】本発明の実施の形態に係るイグニッションスイッチの操作規制装置が適用されたスイッチ装置を説明するために示す正面図。
【図3】図2のA−A断面図。
【図4】図3のB−B断面図。
【図5】図4における部分Aを説明するために示す斜視図である。
【図6】本発明の実施の形態に係るイグニッションスイッチの操作規制装置においてイグニッションロータのLOCK位置からの回転が規制された状態を示す断面図。
【図7】本発明の実施の形態に係るイグニッションスイッチの操作規制装置においてイグニッションロータのLOCK位置への回転が規制された状態を示す断面図。
【図8】本発明の実施の形態に係るイグニッションスイッチの操作規制装置においてシフトレバー及びイグニッションロータの位置に対応したソレノイドの通電状態を示す表。
【図9】(a)〜(c)は、本発明の実施の形態に係るイグニッションスイッチの操作規制装置においてイグニッションロータのLOCK位置からACC位置への回転動作を説明するために示す断面図。
【図10】(a)〜(c)は、本発明の実施の形態に係るイグニッションスイッチの操作規制装置においてイグニッションロータのACC位置からLOCK位置への回転動作を説明するために示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[実施の形態]
〔電子キーシステムの全体構成〕
図1は電子キーシステムを示す。図1に示すように、電子キーシステム1では、ユーザに携帯される操作部材としての電子キー10と、自動車に搭載される車載機20とを備え、電子キー10と車載機20との間で双方向通信が行われる。
【0021】
(電子キー10の構成)
電子キー10は、車載機20との間で電波を送受信するLF(Low Frequency)通信部12と、トランスポンダ制御装置11とを備える。
【0022】
トランスポンダ制御装置11はメモリ11aを有する。メモリ11aにはトランスポンダコードが登録されている。ユーザが電子キー10を車載機20のイモビライザ通信機22に近づけることで、LF通信部12にてイモビライザ通信機22からの駆動電波を受信してトランスポンダ制御装置11が起動する。そして、トランスポンダ制御装置11は、トランスポンダコードを含むトランスポンダ信号をLF通信部12から発信する。
【0023】
(車載機20の構成)
車載機20は、自身の統括制御を行う車載制御装置21を備える。そして、車載機20は、LF通信部12からのトランスポンダ信号をイモビライザ通信機22で受信すると、トランスポンダ信号に含まれるトランスポンダコードと車載制御装置21のメモリ21aに記憶されたトランスポンダコードとの照合を行う。当該照合が成立した場合、車載制御装置21は、ソレノイド31への通電によってイグニッションスイッチ32の切り替えを許可又は規制する。
【0024】
車載制御装置21にはブレーキセンサ23が電気的に接続されている。車載制御装置21は、ブレーキセンサ23を通じてブレーキ操作の有無を認識する。そして、車載制御装置21は、ブレーキ操作があるときに限り、イモビライザ通信機22を通じてLF帯の無線信号である駆動電波を発信する。駆動電波は、イモビライザ通信機22からの近距離、例えば数十センチの範囲に発信される。
【0025】
また、車載制御装置21にはシフトポジションセンサ26が電気的に接続されている。シフトポジションセンサ26は、シフトレバーがドライブ位置(D位置),パーキング位置(P位置)等のうち何れの位置に存在するかを検出する。車載制御装置21は、シフトポジションセンサ26を通じてシフトレバーの位置を認識することができる。
【0026】
車載制御装置21には、ユーザの操作を通じてエンジン24の始動及び停止等を要求するスイッチ装置30が接続されている。
【0027】
次に、スイッチ装置30の構成について説明する。図2はスイッチ装置を示す。図3及び図4はイグニッションスイッチの操作規制装置を示す。図5は揺動プレート及びシリンダを示す。図6はイグニッションロータのLOCK位置から回転が規制された状態を示す。図7はイグニッションロータのLOCK位置への回転が規制された状態を示す。図2に示すスイッチ装置30は、図3に示すように、ソレノイド31及びイグニッションスイッチ32を有する。スイッチ装置30を通じて車載制御装置21(図1に示す)がエンジン24(図1に示す)の始動又は停止を要求する旨を認識すると、それに応じてエンジン24を始動又は停止する。
【0028】
ソレノイド31は、図4に示すように、樹脂からなるケース47と、ケース47から突出するプランジャ42とを有する保持型ソレノイドからなる。
【0029】
プランジャ42は棒状の磁性部材によって形成されている。ケース47には、プランジャ42を挿入する挿入孔41が設けられている。挿入孔41の内周面にはコイル40が固定されている。挿入孔41の底面であって、プランジャ42の端面と接触可能な位置には固定鉄心36が配置されている。
【0030】
コイル40が通電されてない非通電状態においては、ねじりコイルばね59(後述)の弾撥力によってプランジャ42が固定鉄心36に当接した状態で保持され、かつケース47に対して自由に移動可能である。コイル40が通電された通電状態においては、コイル40の形成する磁界によりプランジャ42を固定鉄心36に吸着する磁力が生じる。
【0031】
これにより、ソレノイド31において、コイル40への通電でプランジャ42が固定鉄心36に当接した位置から固定鉄心36に吸着される。このため、ソレノイド31は、吸引型ソレノイドと比べて通電時間が少なくて済むため、消費電力を低減することができる。また、コイル40への通電時間が少ないため、通電に伴う発熱が少なくなり、発熱を抑制するための機構等を省略することができる。
【0032】
プランジャ42には、その先端側の外周面に両側から突出する円柱状の軸部39が設けられている。プランジャ42は、軸部39を介してケース47に対する挿入方向(図4右方)にねじりコイルばね59によって押圧される。このため、ソレノイド31の非通電状態において、プランジャ42が固定鉄心36に当接した状態に保たれる。
【0033】
イグニッションスイッチ32は、図3に示すように、ユーザが電子キー10をキー孔35に挿入してイグニッションロータ33(後述)を回転操作すると、イグニッションロータ33の回転位置(図2に示すLOCK位置,ACC位置,ON位置,START位置)に対応して「LOCK」,「ACC」,「ON」,「START」となる接点の接続状態が切り替え可能とされている。
【0034】
イグニッションスイッチ32の接続状態に基づき、車載制御装置21によって各種車載機器及びエンジン24の状態が切り替えられる。具体的には、イグニッションスイッチ32の接点の接続状態がLOCK状態である場合には全ての車載機器に電力が供給されない。ACC状態においてはオーディオ等の一部車載機器に電力が供給され、ON状態においては全ての車載機器に電力が供給される。また、START状態となると、エンジン24が始動される。その後にON状態からACC状態とされると、エンジン24が停止される。
【0035】
また、スイッチ装置30は、上述したソレノイド31及びイグニッションスイッチ32に加え、ボディとしてのシリンダ34と、シリンダ34内に回転可能に配置される円柱状のイグニッションロータ33とを有する。スイッチ装置30には、イグニッションスイッチ32の操作規制装置100が配置されている。
【0036】
イグニッションスイッチ32の操作規制装置100は、イグニッションロータ33,シリンダ34,摺動ピン45,付勢ばね48,揺動プレート54及び係止レバー71を備えている。
【0037】
イグニッションロータ33には、シリンダ34外に露出する端面に開口し、かつ電子キー10を差し込み可能としたキー孔35が設けられている。ユーザは、電子キー10をキー孔35に差し込んだ状態で回転操作することでイグニッションロータ33を回転させることができる。
【0038】
イグニッションロータ33におけるキー孔35の反対側にはイグニッションスイッチ32が接続されている。上述したように、イグニッションロータ33の回転位置に対応してイグニッションスイッチ32の接点の接続状態が「LOCK」,「ACC」,「ON」,「START」となる位置で切り替わる。LOCK状態となるイグニッションロータ33の位置をLOCK位置とする。同様に、ACC状態,ON状態,START状態となるイグニッションロータ33の位置をそれぞれACC位置,ON位置,START位置とする。
【0039】
電子キー10を用い、図4に示すように、シリンダ34における第1の位置に配置される回転規制部としての規制孔50、及び第2の位置に配置される回転規制部としての係止レバー71を含む領域、すなわちLOCK位置,ACC位置,ON位置,START位置にイグニッションロータ33を回転操作することで、自動車の電源状態を切り替えることができる。
【0040】
イグニッションロータ33の外周囲にはリング状の復帰ばね(図示せず)が配置されている。復帰ばねの一端はシリンダ34の内周面に、また他端はイグニッションロータ33の外周面にそれぞれ固着される。イグニッションロータ33がSTART位置に回転操作された後、その操作力が解除されたとき、イグニッションロータ33は復帰ばねの弾撥力によりON位置に戻される。
【0041】
イグニッションロータ33がLOCK位置にあるとき、ステアリングロックが作動してステアリングの回転が規制される。また、イグニッションロータ33がLOCK位置からACC位置に回転されたとき、ステアリングロックが解除され、ステアリングの回転が許容される。
【0042】
イグニッションロータ33には、その外周面に開口し、かつその径方向に貫く略円柱状のピン通孔44が設けられている。
【0043】
ピン通孔44は、図4の上側に配置される小径孔部44aと、下側に配置される大径孔部44bとからなる。大径孔部44bの口径は、小径孔部44aの口径よりも大きい寸法に設定されている。ピン通孔44には、ロックピンとしての摺動ピン45が挿通されている。
【0044】
シリンダ34には、その内周面に開口し、摺動ピン45の第1の先端部45a(後述)が嵌合する回転規制部としての規制孔50が設けられている。規制孔50は、図5に示すように、第1の規制部51及び第2の規制部52により形成されている。
【0045】
第1の規制部51は、イグニッションロータ33の軸方向において対向する略台形状の規制片51a,51bからなる。規制片51a,51bの間隔は、第1の先端部45aの外径よりも小さく設定されている。規制片51a,51bの上面は、シリンダ34の内周面に沿う緩やかな曲面で形成されている。規制片51a,51bにおける規制孔50を形成する側面は、第1の先端部45aの球面に応じた曲面で形成されている。
【0046】
両規制片51a,51bにおける規制孔50の反対側には、摺動ピン45(図4に示す)の第1の先端部45a(図4に示す)を摺動させる緩やかな傾斜面51cが設けられている。傾斜面51cは、シリンダ34の内周面を基準面として規制孔50に向かって高くなる傾斜面で形成されている。
【0047】
第2の規制部52は、シリンダ34の内周方向に沿う略直方体状に形成されている。第2の規制部52における規制孔50を形成する側面は、第1の先端部45aの球面に応じた曲面で形成されている。
【0048】
これにより、イグニッションロータ33の回転は、摺動ピン45の第1の先端部45aが規制孔50を形成する両規制部51,52の側面に当接することで規制される。
【0049】
また、シリンダ34の外周囲であって、規制孔50に円周方向に所定の間隔をもって並列する位置に回転規制部としての係止レバー71が配置されている。
【0050】
係止レバー71は、イグニッションロータ33の回転面内で回転する回転レバーからなり、ばね72の弾撥力によりイグニッションロータ33の外周面に押し付けられ、支持ピン73を中心にして回転するように構成されている。ばね72は、係止レバー71の一方端部と収容孔70の底面との間に配置されている。
【0051】
係止レバー71の先端(他方端部)におけるイグニッションロータ33のLOCK位置側には傾斜面71aが設けられている。
【0052】
イグニッションロータ33がLOCK位置からACC位置へ回転すると、第1の先端部45aが揺動プレート54の傾斜面57a(図5に示す)を介して当接面56(図5に示す)に至る。これに伴い、摺動ピン45が付勢ばね48の弾撥力に抗してイグニッションロータ33側に変位する。
【0053】
すると、第2の先端部45bがイグニシッションロータ33の外周面から第1の規制部51の高さ分だけ突出する。この突出した第2の先端部45bは、イグニッションロータ33がACC位置に至る過程において傾斜面71aに当接する。この当接した状態におけるイグニッションロータ33のACC位置側への回転に伴い、係止レバー71が傾斜面71aを介してばね72の弾撥力に抗して反時計方向に回転する。
【0054】
これにより、第2の先端部45bがLOCK位置から係止レバー71を乗り越え、イグニッションロータ33のACC位置への回転が可能となる。第2の先端部45bが係止レバー71を乗り越えると、係止レバー71はばね72の弾撥力により時計方向に回転してイグニシッションロータ33の外周面に当接し、初期位置に復帰する。
【0055】
係止レバー71の先端におけるACC位置側には、イグニッションロータ33の外周面に対し略垂直である規制面71bが設けられている。
【0056】
第2の先端部45bがイグニッションロータ33の外周面から突出した状態において、イグニッションロータ33のACC位置からLOCK位置側へ回転すると、第2の先端部45bが規制面71bにその面垂直方向から当接する。このとき、イグニッションロータ33の回転方向に係止レバー71を押圧する力が生じるものの、係止レバー71を回転させる力は生じない。よって、イグニッションロータ33のACC位置からLOCK位置への回転(第1の位置側から第2の位置側への第2の回転)が規制される。
【0057】
シリンダ34の内周面には、傾斜面51cに連続し、かつ揺動プレート54(当接面56及び傾斜面57a,57b)と共に節度面を構成するピン受面34bが設けられている。
【0058】
シリンダ34の内周面における両規制片51a,51b間には、イグニッションロータ33の回転方向に延び、かつ揺動プレート54の摺接部55をシリンダ34外から挿入するプレート通孔53が設けられている。
【0059】
摺動ピン45は、小径孔部44aの内径と略同一外径の円柱状をなすとともに、その軸方向における一部に大径孔部44bの内径と略同一外径の摺動部46が設けられている。そして、摺動ピン45は、イグニッションロータ33にその回転面内で移動可能に保持され、摺動部46が大径孔部44b内を摺動することでピン通孔44内を移動し得るように構成されている。
【0060】
また、摺動ピン45は、規制孔50の側面に当接してイグニッションロータ33のLOCK位置からACC位置へ(図4の時計方向)の回転(第2の位置側から第1の位置側への第1の回転)を規制するように構成されている。
【0061】
摺動ピン45の軸方向の長さは、イグニッションロータ33の外径よりも大きい。ここで、摺動ピン45において、付勢ばね48によってシリンダ34の内周面に押圧される先端部を第1の先端部45aとし、第1の先端部45aの反対側の先端部を第2の先端部45bとする。第1の先端部45aは球面で、また第2の先端部45bは周面でそれぞれ形成されている。
【0062】
付勢ばね48は、圧縮コイルスプリングからなり、摺動ピン45の外周囲に配置され、かつピン通孔44内に収容されている。
【0063】
また、付勢ばね48は、摺動部46の上端面と、この上端面に対向する大径孔部44bの内頂面との間に介在されている。これにより、摺動ピン45には付勢ばね48の弾撥力がシリンダ34の内周面側に常時付与される。
【0064】
揺動プレート54は、摺動ピン45の移動面内で動作可能又は動作不能に配置され、かつソレノイド31にリンク60を介して連結されている。そして、揺動プレート54は、リンク60及びソレノイド31からなるリンク機構によりシリンダ34に対する移動が許可又は規制される。
【0065】
揺動プレート54の下部には、その厚さ方向に対向する1対の連結部63(図5に示す)が設けられている。1対の連結部63間には、その対面方向に延びる円柱状の軸部64が設けられている。
【0066】
摺接部55の先端面(図5のシリンダ34側の面)にはシリンダ34の内周面に沿う曲面状の当接面56が、またその両側には傾斜面57a,57bがそれぞれ設けられている。当接面56及び傾斜面57a,57bは、第1の回転が許容される場合に摺動ピン45との間で節度機構を構成するピン受面として機能する。
【0067】
一方の傾斜面57aは摺接部55の規制孔50側に、また他方の傾斜面57bはその反対側にそれぞれ配置されている。摺接部55がプレート通孔53に挿入によって嵌合された状態においては、第1の傾斜面57aから当接面56を介して傾斜面57bに、又はその逆の順序で摺動することができる。
【0068】
摺接部55の幅は、その挿入側端部と反対側の端部がプレート通孔53よりも大きく設定されている。このため、摺接部55がプレート通孔53に外方から挿入されると、傾斜面57a,57bがプレート通孔53の周縁部に当接した嵌合状態となる。これにより、摺接部55の挿入位置が決まる。また、この状態において、摺接部55におけるシリンダ34の内周面から突出した高さが第1の規制部51の高さと略同じになるように、傾斜面57a,57bの傾斜面角度及びプレート通孔53の長さ等が設定されている。
【0069】
リンク60は、その中間部に軸60cを有し、シリンダ34側に軸60cを中心として回転可能に支持され、全体が略L字状の板部材によって形成されている。
【0070】
リンク60の右端には、軸部64が嵌合するU字状のリンク溝60bが設けられている。リンク60の下端には、プランジャ42の先端部を互いに反対側から挟み込む1対の連結部68が設けられている。1対の連結部68には、軸部39が嵌合するU字状のリンク溝60aが設けられている。リンク60のリンク溝60bに軸部64を嵌め込むとともに、1対の連結部68がプランジャ42を介して対向する態様でリンク溝60aに軸部39を嵌め込むことにより、プランジャ42,リンク60及び揺動プレート54が連結される。
【0071】
また、リンク60は、一方の軸部39を中心にプランジャ42に対して、他方の軸部64を中心に揺動プレート54に対してそれぞれ相対回転可能に連結されている。リンク60の軸60cにはねじりコイルばね(第2のスプリング)59が保持されている。
【0072】
ねじりコイルばね59は、一端がスイッチ装置30(図3に示す)のケースの壁面62に、また他端がリンク60の突部61にそれぞれ係止されている。そして、ねじりコイルばね59は、リンク60に対して図4の反時計方向に、すなわち揺動プレート54が摺動ピン45の押圧力を受ける方向に付勢ばね48の弾撥力よりも小さい弾撥力を付与するように構成されている。これにより、揺動プレート54がプレート通孔53に嵌合した状態に保たれる。
【0073】
上記リンク60を有するリンク機構においては、揺動プレート54に対してシリンダ34の外方向への外力(付勢ばね48の弾撥力)が摺動ピン45を介して印加された場合、リンク60のリンク溝60bが軸部64を介して下方へ押圧される。すると、リンク60がねじりコイルばね59の弾撥力に抗して軸60cを中心に時計方向に回転する。プランジャ42にはリンク溝60aに係合する軸部39を介してケース47から突出する(図4の左方)への外力が印加される。
【0074】
このとき、イグニッションロータ33がLOCK位置に配置され、ソレノイド31が非通電状態であれば、プランジャ42は軸方向に移動可能である。このため、イグニッションロータ33がLOCK位置に配置されている場合には、揺動プレート54が摺動ピン45の押圧力を受けてシリンダ34の外方向に変位する。よって、図6に示すように摺動ピン45の第1の先端部45aが規制孔50内に保持され、イグニッションロータ33のLOCK位置からACC位置への回転が規制される。
【0075】
ソレノイド31が通電状態であれば、プランジャ42はケース47に対して固定されている。このため、イグニッションロータ33がACC位置に配置されている場合には、プランジャ42が左方へ変位することはない。よって、揺動プレート54が摺動ピン45の押圧力を受けてもシリンダ34の外方に変位せず、図7に示すように第2の先端部45bが係止レバー71の規制面71bに係止され、イグニッションロータ33のACC位置からLOCK位置への回転が規制される。
【0076】
〔イグニッションスイッチの操作規制装置の動作〕
次に、イグニッションスイッチ32の操作規制装置100の動作につき、図8〜図10を用いて説明する。図8は、シフトレバー及びイグニッションロータの位置に対応したソレノイドの通電状態を示した表である。図9(a)〜(c)はイグニッションロータのLOCK位置からACC位置への回転操作を示す。図10(a)〜(c)はイグニッションロータのACC位置からLOCK位置への回転操作を示す。車載制御装置21(図1に示す)は、図8の表に従ってソレノイド31の通電状態を切り替える。なお、車載制御装置21は、イグニッションスイッチ32の接点の接続状態を通じてイグニッションロータ33の回転位置を検出可能である。
【0077】
ユーザは、エンジン24を始動させるにあたり、先ず電子キー10をキー孔35に差し込む。このとき、自動車は駐車されているため、シフトレバーはP位置に存在し、イグニッションロータ33はLOCK位置に存在する。
【0078】
電子キー10がキー孔35に差し込まれていない状態や、キー孔35に差し込まれた電子キーが正規のキーでない場合には、車載制御装置21によるトランスポンダコードの照合が成立しないため、ソレノイド31が通電されない。
【0079】
ソレノイド31の非通電状態においては、プランジャ42がケース47に対して移動可能である。よって、イグニッションロータ33がLOCK位置からACC位置側に回転された場合、第1の先端部45aが傾斜面57aを介して揺動プレート54を外方へ押し下げる。これにより、第1の先端部45aが規制孔50を形成する第1の規制部51の側面に当接するため、イグニッションロータ33の回転が規制される。また、LOCK位置からACC位置と反対側へのイグニッションロータ33の回転が第2の規制部52により常時規制される。
【0080】
このように、電子キー10がキー孔35に差し込まれていない状態等におけるイグニッションロータ33の回転が規制される。
【0081】
電子キー10が正規のキーである場合、図8の表に示すように、車載制御装置21はトランスポンダコードの照合が成立した旨判断し、ソレノイド31に通電する。
【0082】
ソレノイド31の通電状態においては、図9(a)〜(c)に示すように、プランジャ42がケース47に対して固定されるため、揺動プレート54がシリンダ34に対して固定された状態となる。
【0083】
この状態において、イグニッションロータ33がLOCK位置からACC位置側に回転された場合、第1の先端部45aが付勢ばね48の弾撥力に抗しつつ、摺接部55の傾斜面57aに沿って移動する。そして、図9(a)に示すように、第1の先端部45aが当接面56に到達する。このとき、第2の先端部45bがイグニッションロータ33の外周面から突出して係止レバー71の傾斜面71aに当接する。
【0084】
イグニッションロータ33がさらに回転すると、第1の先端部45aが当接面56に沿って移動する。このとき、第2の先端部45bが傾斜面71aを介して係止レバー71をばね72の弾撥力に抗して反時計方向に回転させる。そして、図9(b)に示すように、第2の先端部45bが係止レバー71を乗り越え、イグニッションロータ33がACC位置となる。
【0085】
ACC位置のイグニッションロータ33がON位置及びSTART位置に回転が可能となる。図8の表に示すように、イグニッションロータ33がLOCK位置からACC位置に回転されたとき、シフトレバーがP位置に存在するため、ソレノイド31への通電が停止される。
【0086】
例えば、図9(c)に示すように、電子キー10を通じてイグニッションロータ33がSTART位置に回転操作された場合、エンジン24が始動する。エンジン24の始動後には、復帰ばねの弾撥力によりイグニッションロータ33のON位置に復帰する。なお、ソレノイド31は非通電状態に維持される。
【0087】
そして、自動車を走行させるにあたり、ユーザはシフトレバーをP位置からD位置に操作する。図8の表に示すように、図10(a)に示すイグニッションロータ33のON位置においてシフトレバーがP位置からD位置に操作された場合、ソレノイド31が通電される。
【0088】
この通電状態においては、揺動プレート54の外方への変位が規制され、イグニッションロータ33のLOCK位置への操作が規制される。
【0089】
図10(b)に示すように、イグニッションロータ33をACC位置からLOCK位置に回転させようとすると、第1の先端部45aが揺動プレート54の傾斜面57bを上った分だけイグニッションロータ33の外周面から突出する。
【0090】
この状態でイグニッションロータ33がLOCK位置側へ回転すると、第2の先端部45bが係止レバー71の規制面71bに当接する。これにより、シフトレバーがP位置以外にあるときのイグニッションロータ33のLOCK位置への回転が規制される。
【0091】
ユーザは、イグニッションロータ33をLOCK位置へ回転させる際にシフトレバーをD位置等からP位置に移動させる。図8の表に示すように、シフトレバーがD位置等からP位置に操作されたときには、ソレノイド31への通電が停止される。このため、揺動プレート54がシリンダ34の外方へ変位可能となる。
【0092】
この状態でイグニッションロータ33がACC位置からLOCK位置側へ回転操作されると、第1の先端部45aが傾斜面57b及び当接面56を介して揺動プレート54を外方へ押し下げつつ、シリンダ34の内周面を摺動する。このとき、摺動ピン45が揺動プレート54の反対側に変位することがないため、第2の先端部45bがイグニッションロータ33の外周面から突出することもない。よって、図10(c)に示すように、第2の先端部45bが係止レバー71を乗り越え、LOCK位置側にイグニッションロータ33と共に回転する。
【0093】
イグニッションロータ33がLOCK位置側に回転することで、第1の先端部45aは第1の規制部51の傾斜面51c及びその上面に沿って移動し、規制孔50に嵌合した状態となる。すなわち、イグニッションロータ33はLOCK位置に戻される。そして、上述したように、照合が成立したときに再びソレノイド31が通電される。
【0094】
[実施の形態の効果]
以上説明した実施の形態によれば、次に示す効果が得られる。
【0095】
(1)ソレノイド31の非通電時にイグニッションロータ33のLOCK位置からACC位置への回転が規制される。また、ソレノイド31の通電時にイグニッションロータ33のACC位置からLOCK位置への回転が規制される。これにより、単一のソレノイド31の通電又は非通電の切り替えによってイグニッションロータ33の回転操作を規制することができ、複数のソレノイドを用いる場合よりも装置全体の小型化・簡素化及び消費電力コストの低廉化を図ることができる。
【0096】
(2)ソレノイド31のコイル40への通電でプランジャ42が固定鉄心36に当接した位置から固定鉄心36に吸着される。このため、吸引型ソレノイドと比べてソレノイド31の通電時間が少なくて済み、消費電力を低減することができる。
【0097】
(3)コイル40への通電時間が少ないため、通電に伴う発熱が少なくなり、発熱を抑制するための機構等を省略することができる。
【0098】
以上、本発明のイグニッションスイッチの操作規制装置を上記の実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能であり、例えば次に示すような変形も可能である。
【0099】
(1)実施の形態では、電子キー10をキー孔35に差し込んで、イモビライザ通信(トランスポンダ通信)によりID認証が行われる場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、電子キーをキー孔に差し込まないで、携帯機に備えた受発信機による電子キーシステム(いわゆるスマートキーシステム)を用いた無線方式の通信によりID認証を行うものでもよい。
【0100】
(2)実施の形態では、自動車に適用する場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、他の車両にも同様に適用可能である。
【符号の説明】
【0101】
1…電子キーシステム、10…電子キー、12…LF通信部、20…車載機、21…車載制御装置、21a…メモリ、22…イモビライザ通信機、23…ブレーキセンサ、24…エンジン、26…シフトポジションセンサ、30…スイッチ装置、31…ソレノイド、32…イグニッションスイッチ、33…イグニッションロータ、34…シリンダ、34a…突出部、34b…ピン受面、340b…凸部、341b,342b…凹部、35…キー孔、36…固定鉄心、39…軸部、40…コイル、41…挿入孔、42…プランジャ、43…溝、44…ピン通孔、44a…小径孔部、44b…大径孔部、45…摺動ピン、45a…第1の先端部、45b…第2の先端部、46…摺動部、47…ケース、48…付勢ばね、50…規制孔、51…第1の規制部、51a,51b…規制片、51c…傾斜面、52…第2の規制部、53…プレート通孔、54…揺動プレート、55…摺接部、56…当接面、57a,57b…傾斜面、59…ねじりコイルばね、60…リンク、60a,60b…リンク溝、60c…軸、61…突部、62…壁面、63…連結部、64…軸部、68…連結部、70…収容孔、71…係止レバー、71a…傾斜面、71b…規制面、72…ばね、73…支持ピン、100…操作規制装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の電源状態を操作部材の回転操作によって切り替えるイグニッションスイッチの操作規制装置において、
円周方向に並列する第1の位置及び第2の位置にそれぞれ回転規制部を有するボディと、
前記ボディ内に回転可能に配置され、前記第1の位置及び前記第2の位置を含む領域を前記操作部材の回転操作によって回転するロータと、
前記ロータにその回転面内で移動可能に保持され、前記ロータの前記第2の位置側から前記第1の位置側への第1の回転、及び前記第1の位置側から前記第2の位置側への第2の回転を規制するためのロックピンと、
前記ロックピンの移動面内で動作可能又は動作不能に配置され、アクチュエータの切り替えによって前記ロータの前記第1の回転及び前記第2の回転を許容するためのプレートとを備え、
前記ボディは、前記回転規制部のうち前記第2の位置に配置された回転規制部が前記ロータの回転面内で回転する回転レバーからなる
イグニッションスイッチの操作規制装置。
【請求項2】
前記回転レバーは、前記アクチュエータの通電状態において前記ロータの前記第2の回転によって前記ロックピンを係止する係止レバーによって形成されている請求項1に記載のイグニッションスイッチの操作規制装置。
【請求項3】
前記ロックピンは、前記ボディ及び前記プレートを押圧する弾撥力が第1のスプリングによって付与され、
前記プレートは、前記ロックピンの押圧力を受ける方向に前記第1のスプリングの弾撥力よりも小さい弾撥力が第2のスプリングによって付与されている請求項1又は2に記載のイグニッションスイッチの操作規制装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−235862(P2011−235862A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111382(P2010−111382)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)
【Fターム(参考)】