説明

スイッチング回路

【課題】整数倍の信号成分に起因して、負荷回路やスイッチング素子に余分な電流が流れない電力効率を向上したスイッチング回路を提供する。
【解決手段】スイッチング回路1は、第1端子50a及び第2端子50bを有しており、パルス信号により駆動されて第1端子及び第2端子の導通状態をスイッチするスイッチング素子10と、スイッチング素子の第1端子13に電圧を供給する電源部30と、電源部に並列に接続される負荷回路40と、電源部と負荷回路との接続点Pと、スイッチング素子の第1端子との間に接続され、パルス信号のクロック周波数のN倍(Nは1以上の整数)の周波数において、接続点からスイッチング素子へ流れる電流を抑制する受動回路部50と、受動回路部と接続点との間に接続され、N倍の周波数において共振する共振回路部60と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチング回路に関する。
【背景技術】
【0002】
トランジスタといったスイッチング素子を利用したスイッチング回路が知られている(特許文献1参照)。特許文献1記載のスイッチング回路では、スイッチング素子の入力端子(例えば、ゲート端子)にPWM(Pulse Width Modulation)信号が供給される。PWM信号のクロック周波数(スイッチング周波数)によって、スイッチング素子のON/OFFを制御する。スイッチング素子のON/OFFによって、出力端子(例えば、ドレイン端子)とインダクタとの接続点の電圧が変動する。その結果、その接続点に一端が接続される負荷回路の駆動を制御できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−101637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、スイッチング素子のON状態で負荷回路に流れる電流とは別に、スイッチング素子がON/OFFされるクロック周波数(スイッチング周波数)の整数倍の信号成分に起因して、負荷回路やスイッチング素子に余分な電流が流れる場合があり、不要な電力消費が生じていた。
【0005】
そこで、本発明は、電力効率の向上をより図り得るスイッチング回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係るスイッチング回路は、第1端子及び第2端子を有しており、パルス信号により駆動されて第1端子及び第2端子の導通状態をスイッチするスイッチング素子と、スイッチング素子の第1端子に電圧を供給する電源部と、電源部に並列に接続される負荷回路と、電源部と負荷回路との接続点と、スイッチング素子の第1端子との間に接続され、パルス信号のクロック周波数のN倍(Nは1以上の整数)の周波数において、上記接続点からスイッチング素子へ流れる電流を抑制する受動回路部と、受動回路部と上記接続点との間に接続され、N倍の周波数において共振する共振回路部と、を備える。
【0007】
この構成では、スイッチング素子は、受動回路網及び共振回路部を介して接続点に接続されている。よって、スイッチング素子のスイッチング動作により接続点に供給される電源部からの電圧の状態を制御可能である。その結果、電源部に並列接続された負荷回路に印加される電圧状態が制御され得る。一方、パルス信号のクロック周波数のN倍の周波数において、受動回路部は、上記接続点からスイッチング素子へ流れる電流を抑制するので、余分なエネルギ消費を低減できる。更に、上記N倍の周波数において、共振回路部は共振することから、負荷回路に印加される電圧成分のうちN倍の周波数成分が低減されるので、余分なエネルギ消費が低減できる。その結果、電力効率の向上が図れる。
【0008】
一実施形態において、上記スイッチング素子側から見込んだ受動回路部のインピーダンスの虚部がゼロ以上であってスイッチング素子の出力寄生容量のリアクタンスの絶対値の2倍以下であり得る。この場合、上記スイッチング素子側から見込んだ受動回路部のインピーダンスの虚部は、N倍の周波数においてゼロ以上であってスイッチング素子の出力寄生容量のリアクタンスの絶対値の2倍以下であればよい。
【0009】
この形態では、パルス信号のクロック周波数のN倍の周波数において、受動回路部が、上記接続点からスイッチング素子へ流れる電流をより確実に抑制し得る。
【0010】
一実施形態において、上記負荷回路側から見込んだ共振回路部のインピーダンスの実部及び虚部は、N倍のクロック周波数において、負荷回路のインピーダンスよりも小さくし得る。
【0011】
この形態では、上記N倍の周波数において、負荷回路に印加される電圧をより低減でき、結果として、余分なエネルギ消費を低減できる。
【0012】
上記パルス信号は、パルス信号のパルス幅のデューティー比がクロック周波数より低い周波数成分を持つ信号により時間的に変調された信号であり得る。
【0013】
受動回路部及び共振回路部は、クロック周波数のN倍の周波数に対して作用するが、クロック周波数より低い周波数成分には実質的に作用しない。従って、その低い周波数成分の信号は、受動回路部及び共振回路部を容易に通過して負荷回路に伝達し得る。その結果、この信号成分により負荷回路に印加される電圧状態が変動することになる。
【0014】
一実施形態において、受動回路部は、少なくとも一つのリアクタンス素子で構成されており、スイッチング素子の第1端子に接続される第1端及び上記接続点に接続される第2端を有し得る。
【0015】
一実施形態において、受動回路部は、少なくとも一つの伝送線路で構成されており、スイッチング素子の第1端子に接続される第1端及び上記接続点に接続される第2端を有し得る。
【0016】
一実施形態において、共振回路部は、少なくとも一つのリアクタンス素子が直列接続されてなるM個の共振素子を備え得る。この形態では、M個の共振素子のうちの少なくとも1個の共振素子は、N倍の周波数に共振し得る。M個の共振素子は、並列接続され得る。
【0017】
一実施形態において、上記共振回路部は、M本(Mは1以上の整数)の伝送線路を備え得る。この形態では、M本の伝送線路のうち少なくとも1本の伝送線路は、クロック周波数のN倍の周波数に対応する波長の1/4の電気長を有し得る。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、電力効率の向上をより図り得るスイッチング回路を提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】一実施形態に係るスイッチング回路の概略構成を示す図面である。
【図2】図1に示したスイッチング回路を駆動する信号を説明するための図面である。
【図3】素子数が最小であって、クロック周波数に対して設計される受動回路部の設計条件を示す図面である。
【図4】クロック周波数で動作するスイッチング回路の構成の一例を示す図面である。
【図5】クロック周波数の1次及び2次高調波に対して設計される受動回路部のうち素子数が最小である受動回路部の設計条件を示す図面である。
【図6】クロック周波数の1次及び2次高調波に対して設計される受動回路部の回路構成の例を示す図面である。
【図7】クロック周波数の1次、2次及び3次高調波に対して設計される受動回路部の回路構成の例を示す図面である。
【図8】図7(a)に示す回路構成において、端子A,Bの接続状態の具体例を示す図面である。
【図9】共振回路部の他の例を含むスイッチング回路の概略構成を示す模式図である。
【図10】1本の先端開放スタブで同時に共振可能な高調波次数が複数存在することを示す図表である。
【図11】1本の伝送線路から受動回路部を構成する場合に伝送線路の配置候補を示す図面である。
【図12】2本の伝送線路から受動回路部を構成する場合に伝送線路の配置候補を示す図面である。
【図13】2本の伝送線路から受動回路部を構成した場合のシミュレーション用の回路を示す図面である。
【図14】シミュレーション結果を示す図面である。
【図15】3本の伝送線路から受動回路部を構成する場合に構成例を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
【0021】
図1及び図2を利用して、一実施形態に係るスイッチング回路について説明する。図1は、一実施形態に係るスイッチング回路1の概略構成を示す回路図である。図2は、スイッチング回路1を駆動する信号を説明するための図面である。スイッチング回路1の例は、スイッチング電源回路或いは時変電源回路である。
【0022】
スイッチング回路1は、スイッチング素子10を備える。本実施形態においてスイッチング素子10は、特に断らない限り、絶縁型電界効果トランジスタ(MOSFET)である。MOSFETの例は、パワーMOSFETを含む。この場合、スイッチング素子10は、接地されるソース端子11、信号源20に接続され信号源20から信号が供給されるゲート端子12及び電源部30に接続され、電圧Vdd(例えば、16V)が供給されるドレイン端子13を有する。スイッチング素子10には、その構成に起因する出力寄生容量Cdsが存在する。出力寄生容量Cdsは、ドレイン・ソース間の出力寄生容量を含む。図1では、出力寄生容量Cdsをキャパシタ14として示している。
【0023】
信号源20は、スイッチング素子10をスイッチングするための信号をゲート端子12に供給する。信号源20からゲート端子12に入力される信号は、PWM信号Sである。PWM信号Sについて、図2を参照して説明する。図2は、PWM信号を説明するための図面である。図2(a)には、PWM信号Sを生成するための2つの信号の例を示している。図2(b)には、PWM信号の一例を示している。PWM信号Sは、第1の周波数を有する信号(S1)が、第1の周波数より高い第2の周波数を有する三角波又はのこぎり波信号(図2(a)参照)で、パルス幅のデューティー比が変調されたパルス信号である。PWM信号Sのクロック周波数fCK、すなわち、スイッチング素子10をスイッチングさせるスイッチング周波数は、上記第2の周波数に対応する。信号源20の他端は、接地されている。
【0024】
図1に戻ってスイッチング回路1の構成を説明する。電源部30は、直流電源31を含む直流電源部である。電源部30は、スイッチング素子10の上記第1の周波数成分が直流電源31に流入することを阻止する観点からインダクタ32を備え得る。直流電源31の正極は、ドレイン端子13にインダクタ32を介して接続されている。ドレイン端子13と直流電源31とを接続するラインを、以下、信号経路と称す。直流電源31の負極は接地されている。
【0025】
電源部30に並列に負荷回路40が接続されている。負荷回路40の例は、抵抗負荷及び誘導負荷を含む。負荷回路40の一端41は、直流電源31の正極に接続されており、負荷回路40の他端42は接地される。図1に示すように、インダクタ32を備える場合には、負荷回路40の一端41は、インダクタ32の直流電源31側と反対側の端に接続されている。この接続点が出力ポートPとして機能する。
【0026】
上記構成では、信号源20から供給されるPWM信号Sがスイッチング素子10に入力されると、PWM信号Sにより、ドレイン端子13とソース端子11との導通状態がスイッチされる。これにより、出力ポートPの電圧状態が変動するので、負荷回路40に印加される電圧状態が変化する。その結果、負荷回路40に流れる電流が変動する。従って、例えば、負荷回路として高周波電力増幅器を接続すれば、電源電力効率を高く維持したまま、高周波信号の出力振幅を深い深度で変調させ得る。
【0027】
スイッチング回路1は、スイッチング動作における消費電力低減のために、スイッチング素子10と出力ポートPとの間に受動回路部50及び共振回路部60を備える。受動回路部50及び共振回路部60は、PWM信号Sにおいてクロック周波数fCKのN次高調波をカットし、クロック周波数fCKより低い周波数、すなわち、上記第1の周波数を有する信号S1を通すフィルタとして機能する。以下、受動回路部50及び共振回路部60について説明する。
【0028】
受動回路部50は、スイッチング素子10と出力ポートPとの間に配置される。受動回路部50は、ドレイン端子13に接続される第1端50aと出力ポートPに接続される第2端50bとを有する。受動回路部50は、スイッチング素子10に供給されるパルス信号のクロック周波数fCKのN倍の周波数において次の「受動回路部条件」を満たす構成を有する。以下の説明では、スイッチング素子10から見込んだ(或いはスイッチング素子10からみた場合の)受動記回路部50のインピーダンスをZとし、インピーダンスZの虚部をZimgとする。
【0029】
(受動回路部条件)
インピーダンスZの虚部Zimgがゼロ以上であり、出力寄生容量Cdsのリアクタンスの絶対値の2倍以下である。
【0030】
上記「受動回路部条件」を満たすことにより、N次高調波において、出力寄生容量Cdsと受動回路部50との合成インピーダンスが大きくなる。その結果、N倍のクロック周波数成分の電流がスイッチング素子10に流れることが、受動回路部50によって抑制される。従って、スイッチング動作によるスイッチング素子10で消費される余分な電力を低減可能である。受動回路部50は、「受動回路部条件」を満たすように構成されていれば、受動回路部50は、少なくとも一つのリアクタンス素子で構成される2ポート回路網であり得る。また、受動回路部50は、少なくとも一つの伝送線路(スタブの場合を含む)で構成された2ポート回路網であり得る。受動回路部50の具体例については、後述する。
【0031】
共振回路部60は、パルス信号としてのPWM信号Pのクロック周波数fCKのN倍の周波数において共振する回路である。共振状態の例としては、負荷回路40側から見込んだ(或いは、負荷回路40側からみた場合の)共振回路部60のインピーダンスの実部及び虚部がN倍のクロック周波数fCKにおいて、負荷回路40のインピーダンスよりも小さければよい。
【0032】
図1には、一例として、リアクタンス素子としてのインダクタ及びキャパシタが直列接続されたM個の共振素子61〜61が並列されてなる回路部を示している。各共振素子61〜61の一端は、出力ポートPとドレイン端子13とを接続する信号経路上において、第2端50bと出力ポートPとの間に接続される。各共振素子61〜61の他端は、接地される。M個の共振素子61〜61の少なくとも一つの共振素子が有するインダクタ及びキャパシタンスの各々の素子値は、クロック周波数fCKのN倍の周波数において共振する素子値である。
【0033】
この構成では、クロック周波数fCKのN倍の周波数において、スイッチング素子10がスイッチング動作した場合、共振回路部60に共振が生じる。この共振により、共振回路部60のインピーダンスの実部及び虚部が負荷回路40のインピーダンスより小さくなるので、負荷回路40より共振回路部60側に電流が流れ易い。すなわち、スイッチング素子10がスイッチング動作することで、負荷回路40にかかる電圧が有し得るクロック周波数fCKのN倍の周波数成分が、ゼロに近づく。従って、クロック周波数fCKのN次高調波において、負荷回路40による余分なエネルギ消費を低減し得る。
【0034】
以上述べたように、受動回路部50及び共振回路部60を備えたスイッチング回路1では、余分な消費電力が低減されるので、結果として、電力効率の向上が図れる。
【0035】
以下、受動回路部50及び共振回路部60の構成について種々の形態を例示しながら具体的に説明する。
【0036】
(第1の実施形態)
この実施形態では、スイッチング回路1をスイッチング回路1Aとも称す。また、受動回路部50及び共振回路部60をそれぞれ受動回路部50A及び共振回路部60Aと称す。受動回路部50Aは、抵抗を含まず少なくとも一つのリアクタンスから構成される2ポート回路網である。共振回路部60Aは、図1に例示したように、M個の共振素子61〜61の並列回路である。
【0037】
この場合、受動回路部50AのインピーダンスZは、虚部のみである。受動回路部50Aは、そのインピーダンスZの虚部Zimgが上記「受動回路部条件」を満たすように設計される。つまり、本実施形態では、受動回路部50Aは、クロック周波数fCKにおいて、受動回路部50Aと出力寄生容量Cdsとの合成インピーダンスが無限大となるように設計される。この場合、受動回路部50のインピーダンスの虚部Zimgと、出力寄生容量Cdsのリアクタンスの絶対値は等しいので、「受動回路部条件」を満たす。以下、N倍の周波数に対する受動回路部50Aのリアクタンスを、角周波数ωの関数としてX(ω)として説明する。ここでは、Nの具体的な数値を例示して受動回路部50Aを説明するが、素子の符号には同じ符号を付す場合もある。ただし、各素子の素子値は、例示したNの値に対応した数値として設定される。
【0038】
まず、N=1の場合について説明する。NとMとは必ずしも一致している必要はないが、以下の説明では、N=1且つM=1とする。図3は、素子数が最小であってN=1の場合の受動回路部の設計条件を示す図面である。図3中の横軸は角周波数ωを示し、縦軸はリアクタンス(Ω)を示している。図3中の実線は、受動回路部50AのリアクタンスX(ω)を示し、一点鎖線は、出力寄生容量Cdsのリアクタンスの絶対値に基づく出力寄生容量Cdsのリアクタンス曲線である。図3に示すリアクタンスX(ω)は、一次関数であるので、以下の式で表される。
【数1】

【0039】
式(1)に示されたリアクタンス曲線を有する受動回路部50Aは、図4に示すように一つのコイルとしてのインダクタ510から構成され得る。図4は、N=1の場合のスイッチング回路の構成の一例を示す図面である。負荷回路40は抵抗として示している。式(1)中のL510は、インダクタ510の素子値(インダクタンス)である。クロック周波数fCKに対応する角周波数をωCKとした場合、受動回路部50Aとしてのインダクタ510が満たす条件は次の通りである。
【数2】


式(2a)及び式(2b)より、式(3)が成り立つ。
【数3】

【0040】
クロック周波数fCKを200MHzとした場合、ωCK=2π×200MHzである。更に、Cds=60pFとすると、L510=10.54nHである。
【0041】
ここで、共振回路部60Aを構成する素子の素子値の算出方法の一例について説明する。M=1かつN=1の場合、図4に示すように、共振回路部60Aは、一つのインダクタ62及びキャパシタ63から構成され得る。共振素子61の共振条件は、次式で表される。
【数4】


負荷回路40の抵抗値Rを10Ωとし、Cds=60pF及びωCK=2π×200MHzとした場合、式(4)よりL6263=633.26nH・pFである。インダクタ62及びキャパシタ63の素子値L62及びC63は、L6263=633.26nH・pFを満たすように決定すればよい。
【0042】
次に、N=2の場合について説明する。ここでは、基本波(N=1の場合)から連続する次数の高調波において2次高調波まで(具体的には基本波と2次高調波)の周波数成分の電流がスイッチング素子10に流れることを抑制し得る受動回路部50Aについて説明する。この場合、前述したように、NとMとは必ずしも一致している必要はないが、共振回路部60Aもクロック周波数fCKの1倍及び2倍の周波数において共振する必要があるので、ここでは、N=2且つM=2とする。図5は、N=2の場合において素子数が最小の場合の受動回路部の設計条件を示す図面である。図5中の横軸及び縦軸並びに一点鎖線は図3の場合と同様である。
【0043】
図5に示すリアクタンスX(ω)は、式(5)で表される。
【数5】


式(5)において、ωz1は、X(ω)=0を満たす角周波数であって、直流(ω=0)から1番目の角周波数である。ωp1は、直流(すなわち、ω=0)から1番目の極の角周波数である。aは、受動回路部50Aの設計条件としての式(6a)〜式(6c)を満たすように決定される自由パラメータである。
【数6】


N=2の場合の受動回路部50Aの設計は、次のようにして実施し得る。まず、式(5)に基づいて、回路構成のトポロジ探索を実行することによって、回路構成を決定する。
【0044】
例えば、式(5)において、jω=sとすると式(5)は式(7)で表される。
【数7】


式(7)を変形すると式(8)が得られる。
【数8】


式(8)中において、L510、C520、及びL511は、受動回路部50Aが有するインダクタ510,キャパシタ520及びインダクタ511の素子値である。L510、C520、及びL511は、式(7)から式(8)への変形過程から式(9a)〜式(9c)として与えられる。
【数9】

【0045】
式(7)は、式(10)のようにも変形可能である。
【数10】


式(10)におけるL510、L511及びC520は式(7)の式(10)への変形過程から式(11a)〜式(11c)で与えられる。
【数11】

【0046】
式(8)及び式(10)は、図6(a)及び図6(b)に示す回路構成を表している。また、クロック周波数fCKの1倍及び2倍の周波数において共振回路部60Aが共振することから、その周波数において第2端50bは、短絡される(すなわち、接地される)。従って、図6(a)の変形として図6(c)の回路構成が得られ、図6(b)の変形として図6(d)の回路が得られる。
【0047】
図6(a)及び図6(b)の回路における各素子の素子値は、式(6a)〜式(6c)を満たすように、ωz1、ωp1及aを与えることによって式(9a)〜式(9c)及び式(11a)〜式(11c)に基づいて算出され得る。また、N=2且つM=2の場合、共振回路部60は、2つの共振素子61と共振素子61とが並列接続されて構成される。各共振素子61、61を構成するインダクタ及びキャパシタの素子値は、N=1の場合と同様にして算出し得る。
【0048】
N=3についても、N=2の場合と同様にして受動回路部50Aが設計され得る。ここでは、基本波(N=1の場合)から連続する次数の高調波において3次高調波まで(具体的には基本波と2次高調波と3次高調波)の周波数成分の電流がスイッチング素子10に流れることを抑制し得る受動回路部50Aについて説明する。図7(a)〜図7(n)は、N=3の場合の受動回路部50Aの構成例を示す図面である。N=3の場合、受動回路部50Aは、3つのインダクタ510,511,512と2つのキャパシタ520,521の組み合わせで構成され得る(図7(a)〜図7(k)参照)。また、N=3の場合、受動回路部50Aは、2つのインダクタ510,511と3つのキャパシタ520,521,522の組み合わせで構成され得る(図7(l),図7(m)、図7(n)参照)。図7(a)〜図7(n)は、インダクタ及びキャパシタを区別するために、便宜的に符号を付しているが、各回路におけるインダクタ及びキャパシタの素子値は、その回路において受動回路部50Aとして機能するように設定される。
【0049】
図7(a)〜図7(n)中において、端子A及び端子Bは、第2端50bに接続されるか又は接地される。具体的に、図7(a)の回路構成の場合を例示して説明する。図7(a)の端子A,Bが第2端50bに接続又は接地される構成として、図8(a)〜図8(d)が挙げられる。
【0050】
図8(a)は、端子A,Bが共に接地された構成である。図8(b)は、端子A,Bが共に第2端子に接続された構成である。図8(c)は、端子Aが接地され、端子Bが第2端子に接続された構成である。図8(d)は、端子Aが第2端子に接続され、端子Bが接地された構成である。ここでは、図7(a)の構成について具体的に説明したが、図7(b)〜図7(n)についても同様である。従って、N=3の場合、受動回路部50Aは、38個の回路構成を取り得る。
【0051】
また、N=3の場合、共振回路部60Aは、M=3として3つの共振素子61〜61が並列接続されて構成される。各共振素子61〜61を構成するインダクタ及びキャパシタの素子値は、N=1の場合と同様にして算出し得る。
【0052】
ここでは、N=1〜3の各々に対して、例示したNを最大次数としてN次高調波まで(すなわち1〜N次高調波)の周波数成分の電流がスイッチング素子10に流れることを抑制し得る受動回路部50Aの構成を中心に説明したが、Nが4以上についても同様にNを最大次数としてN次高調波の周波数成分の電流がスイッチング素子10に流れることを抑制し得る受動回路部50Aを構成し得る。また、Nが4以上の場合、共振回路部60Aが有する共振素子61〜61の各々が有するインダクタ及びキャパシタの素子値もN=1,2,3の場合と同様に算出し得る。ただし、NとMとは必ずしも一致している必要はないことは前述したとおりである。
【0053】
また、図6(a)〜図6(d)に示した回路構成では、インダクタ素子とキャパシタ素子との素子値を調整することによって、連続した次数の高調波に限らず任意の2つの高調波(例えば1次と3次)の周波数成分の電流がスイッチング素子10に流れることを抑制可能な受動回路部50Aとし得る。同様に、図7(a)〜図7(n)に示した回路構成では、インダクタ素子とキャパシタ素子との素子値を調整することによって、連続した次数の高調波に限らず任意の3つの高調波(例えば1次と3次と5次)の周波数成分の電流がスイッチング素子10に流れることを抑制可能な受動回路部50Aとし得る。
【0054】
以上述べたように、受動回路部50A及び共振回路部60Aを、いわゆる集中定数素子を用いて構成すると、クロック周波数fCKが比較的低い場合(例えば100MHz以下)に、同じ周波数に対して分布定数素子を用いた受動回路部とする場合に比べて、より小さい物理寸法で高効率化を実現し得る。
【0055】
(第2の実施形態)
図9は、共振回路部の他の例を含むスイッチング回路の概略構成を示す模式図である。スイッチング回路1Bは、共振回路部60B以外の構成は、スイッチング回路1の構成と同様とし得る。よって、共振回路部60Bの構成を中心に説明する。
【0056】
共振回路部60Bは、信号経路上において出力ポートPと第2端50bとの間に一端が接続されるM本の第1〜第Mの先端開放スタブ64〜64を含む。第1〜第Mの先端開放スタブ64〜64は、いわゆる分布定数素子である。換言すれば、第1〜第Mの先端開放スタブ64〜64は、所定のインピーダンスZ及び所定の電気長を有する伝送線路である。第1〜第Mの先端開放スタブ64〜64の電気長は、第1〜第Mの先端開放スタブ64〜64の各々で共振させるべき周波数に応じて決まる。本数Mはクロック周波数や高調波次数に関係なく決められ得るが、第1〜第Mの先端開放スタブ64〜64の少なくも一本は、クロック周波数fCKのN倍の周波数に対する信号波長λの1/4である。この場合、M本のうちの任意の先端開放スタブの電気長は、任意の高調波に対する信号波長λの1/4とし得る。以下の説明では、説明の便宜上、第1〜第Mの先端開放スタブ64〜64を先端開放スタブ64と称す場合もある。
【0057】
図10は、1本の先端開放スタブで同時に共振可能な高調波次数が複数存在することを示す図表である。例えば、N=1の場合の基本波(1次)に共振する第1の先端開放スタブ64は、1次に加えて、3次、5次、7次、・・・、(2k−1)次の高調波に同時に共振する。kは1以上の整数である。同様に、2次高調波に共振する第2の先端開放スタブ64は、6次、10次、14次、・・・、(2k−1)×2次の高調波に同時に共振する。2M−1次に共振する第Mの先端開放スタブ64は、3×2M−1次、5×2M−1次、7×2M−1次、・・・、(2k−1)×2M−1次の高調波に同時に共振する。先端開放スタブ64で共振する高調波次数Nを図10中のマーク「○」で示す。図10より、第1〜第Mの先端開放スタブ64〜64を並列に備えることによって、共振可能な連続する高調波次数Nは、2−1である。図10では、例示としてn=1〜4を用いてN=1〜15に連続して共振する組み合わせを示しているがnとNとの組み合わせはこれに限定されない。図10中の「n」は、先端開放スタブ64の総本数(M)のうちの先端開放スタブ64のインデックス番号を示している。なお、共振させる高調波次数は必ずしも連続していなくてもよい。例えば、スイッチング電圧波形に含まれる偶数次高調波成分が奇数次成分に比べて小さい場合などでは、奇数次に共振させることが効果的である。このような場合、奇数次だけに共振させればよいので、1本の先端開放スタブ64だけで十分である。
【0058】
具体的に説明する。共振回路部60Bにおいて、例えばN=1,2,3、すなわち、3次高調波まで連続して共振させるためには、第1の先端開放スタブ64と第2の先端開放スタブ64とが必要である。また、N=1,2,3,4,5,6、すなわち、クロック周波数fCKの6次高調波まで連続して共振させるためには、第1〜第3の先端開放スタブ64,64,64を並列に設ける必要があることを示している。このように1本の先端開放スタブ64に対して、複数の次数Nの高調波を同時にカバーできるのは、先端開放スタブ64において形成される定在波の形状が周期的であり、その結果、点Pから共振回路部60B側をみたインピーダンスが同じ(0Ω)になるからである。
【0059】
第1〜第Mの先端開放スタブ64〜64の各々は、いわゆる伝送線路であることからプリント基板上に導体パターンとして形成できる。つまり、インダクタ素子やキャパシタ素子等個別部品を用いることなく素子形成が容易である。そのため、第2の実施形態として説明したように、共振回路部60Bを第1〜第Mの先端開放スタブ64〜64によって構成する場合、スイッチング回路1Bの製造効率、部品コスト、信頼性及び耐電力性の向上を図れる。第1〜第Mの先端開放スタブ64〜64の各々は、伝送線路すなわちプリント基板上の導体パターンだけで形成できることから素子値の精度が高いので、スイッチング回路1Bの製造後の無調整化などにも資する。
【0060】
(第3の実施形態)
第1の実施形態では、受動回路部50A(50)は、いわゆる集中定数素子を用いて構成された。しかしながら、受動回路部50は、分布定数素子を用いて構成されてもよい。受動回路部50が分布定数素子で構成される場合の形態について説明する。ここでは、受動回路部50を受動回路部50Bと称す。
【0061】
分布定数素子である伝送線路530を含む受動回路部50Bは次のようにして設計され得る。まず、N=1の場合について説明する。一実施形態において、伝送線路530は、スタブとし得る。
【0062】
受動回路部50Bは、2ポート回路網である。2ポート回路網に対しては、インピーダンス行列Z及びその逆行列(アドミタンス行列)Yが知られている。インピーダンス行列及びアドミタンス行列Yは、角周波数ωの関数として、式(12a)及び式(12b)のように表される。
【数12】


周波数ω=0の電流、すなわち直流は、端子50aから端子50bへ電圧降下なく流れる必要がある。これを満たすには、端子50bを接地端子に短絡したときに端子50aも短絡と見なせればよい。これを数式で表すと、式(13a)で表される。更に、直流は端子50aから接地端子へ電流漏洩してはいけない。これを満たすには、端子50bを開放したときに端子50aも開放と見なせればよい。これは、式(13b)で表される。更にまた、周波数ω=ωCKの電流、すなわちクロック周波数の電流はドレイン端子12から受動回路部50B側(図1の右側)に流れないようにする。つまり、端子50bを接地に短絡したときに端子50aと出力寄生容量Cdsの並列合成アドミタンスがゼロになればよい。これは、式(13c)で表される。
【数13】


式(13a)及び式(13b)において、記号∞は、複素数の絶対値が無限大となる意味を含む。
【0063】
N=1の場合、式(13a)〜式(13c)で示されるように必要な自由度は3である。しかしながら、式(13a)及び式(13b)は、伝送線路530が直列接続された一本の伝送線路の場合同時に成立する。従って、必要な伝送線路の最小本数は1である。
【0064】
1本の伝送線路530からなる受動回路部50Bのトポロジの総数は、図11(a)〜図11(c)に示す3つである。この3つから以下の不適合条件(I)及び不適合条件(II)の少なくともどちらか一方に該当するものを除去する。
【0065】
不適合条件(I):直流的に接地される。
不適合条件(II):第2端50bを直接シャントする素子を設ける。
【0066】
不適合条件(I)に該当する回路が受動回路部50Bの回路として不適合である理由は、不適合条件(I)に該当する回路は式(13b)に反するからである。また、不適合条件(II)に該当する回路が受動回路部50Bの回路として不適合である理由は、クロック周波数fCKにおいて、第2端50bは接地されていることに対応するので、不適合条件(II)の構成では伝送線路530にはクロック周波数fCKの電圧が印加されず、自由度が不足するからである。
【0067】
3種類のトポロジに対して、不適合条件(I)及び不適合条件(II)を適用して不適切なトポロジを除くと、N=1の場合において、分布定数素子から構成される受動回路部50Bは、図11(a)に示す構成となる。
【0068】
図11(a)に示した受動回路部50Bに対して、第1の実施形態の場合と同様に、出力寄生容量Cdsと受動回路部50Bとの合成インピーダンスZc1が、クロック周波数fCKにおいて無限大になるという条件、すなわち、式(13c)を適用することによって、伝送線路530の電気長が決まる。伝送線路530の電気長は、クロック周波数fCKにおける位相差θ530で表すことが可能である。よって、以下では、電気長を電気長θ530とも称す。
【0069】
具体的には、出力寄生容量Cdsと受動回路部50Bとの合成インピーダンスZc1が、クロック周波数fCKにおいて無限大(又は合成アドミタンスが、クロック周波数fCKにおいてゼロになる)になるという条件である式(13c)は、式(14)で表される。
【数14】


式(14)中、Zは、伝送線路530の特性インピーダンスである。式(14)より、式(15)が成立する。
【数15】


例えば、Cds=60pF、ωCK=2π×200MHzとし、Z=50Ωとすると、θ530=0.2593ラジアンである。よって、クロック周波数fCKが200MHzであり、出力寄生容量Cdsが60pFである場合、N=1の場合の伝送線路530は、インピーダンスZが50Ωであり、電気長(位相差)が0.2593ラジアンとなるように構成され得る。
【0070】
N=2の場合、受動回路部50Bは、式(12b)に示したアドミタンス行列Yの要素を再度用いると、次の4つの条件を満たすように設計される。ここでは、N=2の場合の受動回路部50Bとして、クロック周波数fCKの連続した次数の高調波において2次高調波まで(すなわち、基本波(N=1の場合)と2次高調波)の周波数成分の電流がスイッチング素子10に流れることを抑制可能な受動回路部50Bについて説明する。
【数16】


式(16a),式(16c)及び式(16d)のy11(ω)はアドミタンス行列Yの第1要素であることは、式(13a)及び式(13c)の場合と同様である。
【0071】
2次高調波までに対応する受動回路部50Bの場合、式(16a)〜式(16d)で示されるように必要な自由度は4である。従って、受動回路部50Bが備える伝送線路530の最小本数は2本である、2本の伝送線路530を区別する場合には、伝送線路531,532と表記する。
【0072】
2本の伝送線路(スタブの場合を含む)からなる受動回路部50Bのトポロジの総数は図12(a)〜図12(j)に示すように、10個である。この10個から不適合条件(I)及び不適合条件(II)の少なくともどちらか一方に該当するものを除去すると、図12(a)〜図12(c)に示した構成となる。
【0073】
式(16c)及び式(16d)の条件を適用する、すなわち、基本波(N=1)及び2次高調波(N=2)において合成アドミタンスが同時にゼロになるという条件を適用することよって、各伝送線路531,532の特性インピーダンス及び電気長を得ることができる。
【0074】
図12(a)の場合について具体的に説明する。伝送線路531の特性インピーダンスをZ531とし、伝送線路531の電気長をθ531とする。同様に伝送線路532の特性インピーダンスをZ532とし、伝送線路532の電気長をθ532とする。この場合、次の式が成立する。
【数17】


531/Z532=αとすると、これらの式より次式が導かれる。
【数18】


式(17a)、式(17b)及び式(18)より、Z531及びZ532は以下のように表される。
【数19】


ここで、クロック周波数fCKを200MHzとする。この場合、ωCK=2π×200MHzとする。また、Cds=60pFとする。式(19a)及び式(19b)を数値計算した場合の解の一例は次の通りである。
【0075】
531=60.0347Ω
θ531=27°
532=21.4348Ω
θ532=144°
このように、各伝送線路531,532の特性インピーダンスZ531,Z532及び電気長θ531,θ532が得られることによって、各伝送線路531,532を構成し得る。
【0076】
上記Z531,θ531、Z532及びθ532を与えて、図13に示した回路構成においてシミュレーションを行った。図13に示した回路構成では、共振回路部60は、クロック周波数fCK及びその2倍の周波数において共振していること、つまり第2端50bは短絡(接地)されていることを仮定している。第1端50aには、信号源20から周波数f(MHz)の信号が与えられるとした。
【0077】
図14は、シミュレーション結果を示す図面である。図14中において横軸は、第1端に与える周波数fCKを示しており、縦軸は、アドミタンスを示している。図14中の実線は、受動回路部50Bと出力寄生容量Cdsの合成アドミタンスの実部であり、破線は、上記合成アドミタンスの虚部を示している。図15に示すように、周波数fCKが200MHz及びその2倍の400MHzにおいて、合成アドミタンスの実部及び虚部が0になっており、式(16c)及び式(16d)を満たしていることが理解され得る。また、周波数0に対して、合成アドミタンスの虚部が無限大になっていることから式(16a)も満たしていることが理解され得る。
【0078】
N=3以上の場合も同様にして、分布定数素子から受動回路部50Bを構成し得る。例えば、図15(a)〜図15(k)は、N=3の場合の受動回路部50Bとして、クロック周波数fCKの連続する次数の高調波において3次高調波まで(すなわち、基本波(N=1の場合)と2次高調波と3次高調波)の周波数成分の電流がスイッチング素子10に流れることを抑制可能な受動回路部50Bについて説明する。受動回路部50Bの構成例を示す図面である。図15(a)〜図15(k)において、3本の伝送線路530を区別するために、伝送線路531,532,533と称している。各伝送線路530が満たすべき条件(電気長等)は、N=2の場合と同様にして決定し得る。
【0079】
伝送線路530は、プリント基板上の導体パターンであることからインダクタやキャパシタなど個別部品を用いることないので、素子形成が容易である。その結果、第2の実施形態の場合と同様に、スイッチング回路1Cの製造効率、部品コスト、信頼性及び耐電力性の向上を図れる。また、第2の実施形態の場合と同様の理由により、伝送線路、すなわちプリント基板上の導体パターンだけで受動回路部50Bを形成できることからスイッチング回路1Cの製造後の無調整化などにも資する。
【0080】
ここでは、クロック周波数fCKの連続する次数の高調波において、Nを最大次数としてN次高調波まで(すなわち1〜N次高調波)の周波数成分の電流がスイッチング素子10に流れることを抑制し得る受動回路部50Bについて説明した。しかしながら、受動回路部50Bは、N次高調波に対して設計されていればよく、例えば、基本波(N=1の場合)からN次高調波までの1個以上の任意の次数(例えば奇数又は偶数の次数)の高調波の周波数成分の電流がスイッチング素子10に流れることを抑制するよう設計されていてもよい。
【0081】
以上述べた受動回路部50の種々の実施形態では、受動回路部50と出力寄生容量Cdsとの合成インピーダンスが、クロック周波数fCKのN倍において無限大になる(又は合成アドミタンスが、クロック周波数fCKのN倍においてゼロになる)という条件の下で、受動回路部50が有する素子値を決定した。しかしながら、受動回路部50が有する素子の素子値は、受動回路部50が、前述した「受動回路部条件」を満たす値であればよい。また、共振回路部60についても同様である。すなわち、共振回路部60の種々の実施形態では、共振回路部60を構成する素子は、クロック周波数fCKのN倍において共振回路部60のインピーダンスの実部及び虚部が0になるように設計されていた。しかしながら、現実の回路製作においては、共振回路部60のインピーダンスの実部及び虚部は必ずしも完全に0になる必要はない。つまり、共振回路部60を構成する素子の素子値は、共振状態において、共振回路部60のインピーダンスの実部及び虚部が負荷回路40のインピーダンスより小さくなる値であればよい。
【0082】
更に、これまで説明した種々の形態の受動回路部50及び共振回路部60は互いに組み合わされてもよい。例えば、受動回路部及び共振回路部をいずれも集中定数素子又は分布定数素子から構成する場合の他に、集中定数素子から構成される受動回路部と、分布定数素子から構成される共振回路部とをスイッチング回路が含んでもよい。逆に、分布定数素子から構成される受動回路部と集中定数素子から構成される共振回路部とスイッチング回路が含んでもよい。
【0083】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上述した種々の実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変形が可能である。例えば、スイッチング素子は、絶縁型電界効果型トランジスタの他に、絶縁型電界効果トランジスタ以外の電界効果トランジスタ、バイポーラトランジスタ及び絶縁ゲートトランジスタであってもよい。また、スイッチング素子を駆動する信号をPWM信号としたが、スイッチング素子をON/OFF制御可能なパルス信号であればよい。また、第2の実施形態では、共振回路部60Bは、先端開放スタブ64によって構成されるとしたが、分布定数素子としての伝送線路から構成されていればよい。
【符号の説明】
【0084】
1,1A,1B…スイッチング回路、10…スイッチング素子、11…ソース端子(第2端子)、13…ドレイン端子(第1端子)、14…キャパシタ、30…直流電源部(電源部)、40…負荷回路、41…一端、42…他端、50,50A,50B…受動回路部、50a…第1端子(受動回路部の第1端子)、50b…第2端子、(受動回路部の第2端子)、60,60A,60B…共振回路部、61〜61…共振素子、64〜64…先端開放スタブ、530,531,532,533…伝送線路、P…出力ポート(接続点)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1端子及び第2端子を有しており、パルス信号により駆動されて前記第1端子及び第2端子の導通状態をスイッチするスイッチング素子と、
前記スイッチング素子の前記第1端子に電圧を供給する電源部と、
前記電源部に並列に接続される負荷回路と、
前記電源部と前記負荷回路との接続点と、前記スイッチング素子の前記第1端子との間に接続され、前記パルス信号のクロック周波数のN倍(Nは1以上の整数)の周波数において、前記接続点から前記スイッチング素子へ流れる電流を抑制する受動回路部と、
前記受動回路部と前記接続点との間に接続され、前記N倍の周波数において共振する共振回路部と、
を備える、スイッチング回路。
【請求項2】
前記スイッチング素子側から見込んだ前記受動回路部のインピーダンスの虚部がゼロより大きく、前記スイッチング素子の出力寄生容量のリアクタンスの絶対値の2倍以下である、
請求項1記載のスイッチング回路。
【請求項3】
前記負荷回路側から見込んだ前記共振回路部のインピーダンスの実部及び虚部が前記N倍のクロック周波数において、前記負荷回路のインピーダンスよりも小さい、
請求項1又は2記載のスイッチング回路。
【請求項4】
前記パルス信号は、前記パルス信号のパルス幅のデューティー比が前記クロック周波数より低い周波数成分を持つ信号により時間的に変調された信号である、
請求項1〜3の何れか一項記載のスイッチング回路。
【請求項5】
前記受動回路部は、少なくとも一つのリアクタンス素子で構成されており、前記スイッチング素子の前記第1端子に接続される第1端及び前記接続点に接続される第2端を有する、請求項1〜4の何れか一項記載のスイッチング回路。
【請求項6】
前記受動回路部は、少なくとも一つの伝送線路で構成されており、前記スイッチング素子の前記第1端子に接続される第1端及び前記接続点に接続される第2端を有する、請求項1〜4の何れか一項記載のスイッチング回路。
【請求項7】
前記共振回路部は、少なくとも一つのリアクタンス素子が直列接続されなるM(Mは1以上の整数)個の共振素子を備え、
前記M個の共振素子のうちの少なくとも1個の共振素子は、は、前記クロック周波数のN倍の周波数に共振する、請求項1〜6の何れか一項記載のスイッチング回路。
【請求項8】
前記共振回路部は、M本(Mは1以上の整数)の伝送線路を備え、
前記M本の伝送線路の少なくとも1本の伝送線路は、前記クロック周波数のN倍の周波数に対応する波長の1/4の電気長を有する、
請求項1〜6のいずれか一項記載のスイッチング回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−9260(P2013−9260A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141988(P2011−141988)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【Fターム(参考)】