説明

ステアリング制御装置

【課題】走行モードの切換時において簡単な制御によって作業性を向上させたステアバイワイヤ方式のフォークリフトのステアリング制御装置を提供する。
【解決手段】ハンドルと、ドライブ輪と、制御手段と、走行モード切換手段と、第1および第2の走行モードにおけるハンドルの操作角度θHとドライブ輪の旋回角度θDの第1および第2の対応関係とθDの第1および第2の有効角度範囲を記憶する記憶手段とを備え、ハンドルが第1の操作角度θHに配置されてドライブ輪がθHに対応する第1の旋回角度θDに配置された状態の第1の走行モードを第2の走行モードへ切換える時、θDが第2の有効角度範囲になく、θH=θH+360×N(Nは整数)なる第2の操作角度θHに対応する第2の旋回角度θDが第2の有効角度範囲に存在する場合に、制御手段はθHを第2の有効角度範囲のθDに対応するθHに変更してθDをθDに変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリング制御装置、より詳細には、複数の走行モードを有するステアバイワイヤ方式のフォークリフトのステアリング制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、複数の走行モードを有し、ハンドルとドライブ輪(操舵輪)とが機械的に切り離されたステアバイワイヤ方式のフォークリフトのステアリング制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
このステアリング制御装置は、ハンドルセンサが設けられたハンドルと、駆動モータの駆動によって旋回可能なドライブ輪と、制御手段と、走行モード切換手段と、を備える。
このステアリング制御装置では、制御手段が、ハンドルセンサによって検出されたハンドルの操作角度θHに基づいて駆動モータを駆動してドライブ輪の旋回角度θDを制御する。また、走行モード切換手段は、複数の走行モードを切り換え可能な切換スイッチからなる。
【0003】
ところで、特許文献1には開示されていないが、このようなステアリング制御装置では、一般的に、走行モードの切り換え時において、例えば特許文献2に示されるような手順で、ドライブ輪の制御が行われていた。
次に図7Aおよび図7Bを参照して、この手順について簡単に説明する。
【0004】
ここで、図7Aにおいて、横軸はハンドルの操作角度θH[°]を示し、縦軸はドライブ輪の旋回角度θD[°]を示している。太字鎖線部分は第1の走行モード(例えば、標準モード)を示し、ハンドルの操作角度θHが−1620°〜1620°の角度範囲にあり、ドライブ輪の旋回角度θDが−120°〜120°の角度範囲にある。太字実線部分は第2の走行モード(例えば、小回りモード)を示し、ハンドルの操作角度θHが−1026°〜629°の角度範囲にあり、ドライブ輪の旋回角度θDが−46.6°〜76.0°の角度範囲にある。なお、ハンドルの操作角度θHは、ハンドルの基準位置(例えばノブの位置)からの回転方向における回転角度を意味し、例えばハンドルを基準位置から左回転方向に1回転させた場合には−360[°]、ハンドルを基準位置から右回転方向に2回転させた場合には720[°]と表される。即ち、これは、2回転、3回転と回されるハンドルの回転角度を累計した制御手段側が保有するデータである。また、ドライブ輪の旋回角度θDは、ハンドルの操作角度θHと同様に、ドライブ輪の基準位置(例えばドライブ輪の直進方向(正面前方方向)を向く位置)からの回転方向における回転角度を意味する。
また、図7Bにおいて、横軸はハンドルの位置角度[°]、縦軸はドライブ輪の旋回角度θD[°]を示している。太字鎖線部分は第1の走行モードを示し、ハンドルの位置角度は上記したハンドルの操作角度θHである−1620°〜1620°に相当する角度範囲にあり、ドライブ輪の旋回角度θDは上記と同じく−120°〜120°の角度範囲にある。また、太字実線部分は第2の走行モードを示し、ハンドルの位置角度は上記したハンドルの操作角度θHである−1026°〜629°に相当する角度範囲にあり、ドライブ輪の旋回角度θDは上記と同じく−46.6°〜76.0°の角度範囲にある。なお、ハンドルの位置角度とは、ハンドルの基準位置(例えば、ノブの位置)からの回転方向における回転角度を例えば−180°〜180°の角度範囲(あるいは0°〜360°の角度範囲)で表した、即ちハンドルの物理的な位置を表した角度を意味する。
【0005】
なお、ハンドルの操作角度θHとドライブ輪の旋回角度θDとの対応関係は、走行モード毎に定められているが、ここでは説明の簡略化のために、第1および第2の走行モードのいずれにおいても、θD=a×θH+b(但し、aおよびbは任意の数とする)なる一次関数式で表されるものとする。ここで、図7Aのハンドルの操作角度θHとドライブ輪の旋回角度θDとの対応関係(一次関数式)については、傾きaは約−0.074、切片bは0である。
また、ドライブ輪の旋回角度θDの有効角度範囲も、走行モード毎に定められている。前述したように、第1の走行モードにおけるドライブ輪の旋回角度θDの有効角度範囲は、下限値θD1MIN=−120°から上限値θD1MAX=120°までの範囲(以下、「第1の有効角度範囲」という)である。また、第2の走行モードにおけるドライブ輪の旋回角度θDの有効角度範囲は、下限値θD2MIN=−46.6°から上限値θD2MAX=76.0°までの範囲(以下、「第2の有効角度範囲」という)である。
【0006】
ここでは、図7Aおよび図7Bに示すように、第1の走行モードにおいてハンドルが例えば操作角度θH=−1575°(ハンドルの位置角度は−135°)に配置されるとともにドライブ輪が当該操作角度θHに対応する旋回角度θD=116.7°に配置された状態(同図のA点参照)から、走行モード切換手段が当該第1の走行モードを第2の走行モードへと切り換える場合について説明する。
この走行モードの切り換え時において、ドライブ輪の旋回角度θD=116.7°は上記の第2の有効角度範囲(−46.6°〜76.0°の角度範囲)にないので、当該旋回角度が第2の有効角度範囲に入るように、操作表示部がハンドルの回転すべき方向(例えば、ハンドルの右回転方向)を表示する。そして、フォークリフトの運転者が、この操作表示部の表示に従って、ハンドルの回転操作を行う(例えば、図7Aおよび図7BのA点からZ点に至る矢印線で示すように、ハンドルの操作角度θHが操作角度θH=−1575°から操作角度θH=−1026°(ハンドルの位置角度は54°)になるまで、ハンドルを約1回転半ほど右回転させる)ことによって、ドライブ輪を旋回角度θD=116.7°から例えばθD2MAX=76.0°まで旋回させる制御が行われていた。
【0007】
しかしながら、このようなステアリング制御装置では、走行モードの切り換え時において、ドライブ輪の旋回角度が有効角度範囲に入るように、運転者がその都度ハンドルの回転操作を行わなければならないので、運転者にとって当該操作が煩雑となったり、走行モードの切り換え時間も長くなったりする等、作業性が極めて悪いという問題があった。
【0008】
また、走行モードの切り換え時において、ドライブ輪の旋回角度は運転者のハンドル操作によってその都度変動するので、制御手段によるドライブ輪の制御が複雑化するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−115778号公報
【特許文献2】実用新案登録第2599328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明の課題は、走行モードの切り換え時において簡単な制御によって作業性を向上させたステアバイワイヤ方式のフォークリフトのステアリング制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は、(1)ハンドルと、前記ハンドルから機械的に切り離されたドライブ輪と、前記ハンドルの操作角度θHに基づいて前記ドライブ輪の旋回角度θDを制御する制御手段と、少なくとも第1の走行モードから第2の走行モードへと走行モードを切り換え可能な走行モード切換手段と、を備えたステアバイワイヤ方式のフォークリフトのステアリング制御装置であって、前記第1の走行モードにおける前記操作角度θHと前記旋回角度θDとの第1の対応関係と、前記第1の走行モードにおける前記旋回角度θDの第1の有効角度範囲と、前記第2の走行モードにおける前記操作角度θHと前記旋回角度θDとの第2の対応関係と、前記第2の走行モードにおける前記旋回角度θDの第2の有効角度範囲と、を記憶する記憶手段を備え、前記第1の走行モードにおいて前記ハンドルが第1の操作角度θHに配置されるとともに前記ドライブ輪が当該第1の操作角度θHに対応する第1の旋回角度θDに配置された状態から、前記走行モード切換手段が、当該第1の走行モードを前記第2の走行モードへと切り換える時において、前記第1の旋回角度θDが前記第2の有効角度範囲にない場合であって、かつ、θH=θH+360×N(但し、Nは整数とする)なる式で表される第2の操作角度θHに対応する第2の旋回角度θDが前記第2の有効角度範囲に存在する場合に、前記制御手段は、前記第1の操作角度θHを、前記第2の有効角度範囲にある前記第2の旋回角度θDに対応する前記第2の操作角度θHに変更して、前記第1の旋回角度θDを、前記第2の旋回角度θDに変更することによって、前記ハンドルの位置を変えることなく、前記ドライブ輪を制御することを特徴とするステアリング制御装置としたものである。
【0012】
ここで、ハンドルの操作角度θHは、ハンドルの基準位置(例えばノブの位置)からの回転方向における回転角度を意味し、例えばハンドルを基準位置から左回転方向に1回転させた場合には−360[°]、ハンドルを基準位置から右回転方向に2回転させた場合には720[°]と表される。また、ドライブ輪の旋回角度θDは、ハンドルの操作角度θHと同様に、ドライブ輪の基準位置(例えばドライブ輪の直進方向(正面前方方向)を向く位置)からの回転方向における回転角度を意味する。
【0013】
この構成(1)によれば、ハンドルと、ドライブ輪と、制御手段と、走行モード切換手段と、記憶手段とが備えられ、走行モード切換手段が第1の走行モードから第2の走行モードへと走行モードを切り換える時において、制御手段が、第2の有効角度範囲にない第1の旋回角度θDに対応する第1の操作角度θHを、第2の有効角度範囲にある第2の旋回角度θDに対応する第2の操作角度θH=θH+360×Nに変更して、第1の旋回角度θDを第2の旋回角度θDに変更することによって、ドライブ輪を制御するので、従来のように運転者がハンドルの回転操作を行うことなく(ハンドルの物理的な位置を変えることなく)、人手を介さず自動的に短時間で走行モードの切り換えをすることができ、結果として、簡単な制御によって作業性を向上させることができる。
【0014】
上記構成(1)において、(2)前記第2の有効角度範囲にある前記第2の旋回角度θDに対応する前記第2の操作角度θHが複数存在する場合に、前記制御手段は、前記第1の操作角度θHを、前記第1の旋回角度θDに最も近い前記第2の旋回角度θDに対応する前記第2の操作角度θHに変更することが好ましい。
【0015】
この構成(2)によれば、制御手段が、第1の操作角度θHを、第1の旋回角度θDに最も近い第2の旋回角度θDに対応する第2の操作角度θHに変更して、ドライブ輪を、第1の旋回角度θDからこれに最も近い第2の旋回角度θDまで旋回させるので、ドライブ輪の旋回量が少なくなり、ドライブ輪の摩耗を減らすことができる。
【0016】
上記構成(1)において、(3)前記第2の有効角度範囲にある前記第2の旋回角度θDに対応する前記第2の操作角度θHが複数存在する場合に、前記制御手段は、前記第1の操作角度θHを、前記第2の有効角度範囲の上限値と下限値との中間値に最も近い前記第2の旋回角度θDに対応する前記第2の操作角度θHに変更することが好ましい。
【0017】
この構成(3)によれば、制御手段が、第1の操作角度θHを、第2の有効角度範囲における中間値に最も近い第2の旋回角度θDに対応する第2の操作角度θHに変更して、ドライブ輪を、第1の旋回角度θDから第2の有効角度範囲における中間値に最も近い第2の旋回角度θDまで旋回させるので、走行モードの切り換え後にドライブ輪が中立的な位置に配置されることになり、ドライブ輪の直進性を向上させることができる。
【0018】
上記構成(1)〜(3)のいずれかにおいて、(4)前記ハンドルの操作をロックするハンドルロック手段をさらに備え、前記制御手段は、前記走行モード切換手段が前記走行モードを切り換えている間、前記ハンドルロック手段をロックすることが好ましい。
【0019】
この構成(4)によれば、走行モードが切り換っている間、制御手段がハンドルロック手段をロックして、ハンドルの回転操作ができないようになっているので、ドライブ輪の旋回角度θDは運転者のハンドル操作(ハンドルの操作角度θH)によって変動せず、制御手段によるドライブ輪の制御をより簡単にすることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、走行モードの切り換え時において簡単な制御によって作業性を向上させたステアバイワイヤ方式のフォークリフトのステアリング制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係るステアリング制御装置を採用したリーチ型フォークリフトの概略平面図である。
【図2】本発明に係るステアリング制御装置を示す概略図である。
【図3】本発明に係るステアリング制御装置の制御手段を示すブロック図である。
【図4A】ハンドルの操作角度θHとドライブ輪の旋回角度θDの対応関係を示すグラフであって、第1実施例のステアリング制御装置の動作を説明するためのグラフである。
【図4B】ハンドルの位置角度とドライブ輪の旋回角度θDの対応関係を示すグラフであって、第1実施例のステアリング制御装置の動作を説明するためのグラフである。
【図5】本発明に係るステアリング制御装置の動作を示すフローチャートである。
【図6A】ハンドルの操作角度θHとドライブ輪の旋回角度θDの対応関係を示すグラフであって、第2実施例のステアリング制御装置の動作を説明するためのグラフである。
【図6B】ハンドルの位置角度とドライブ輪の旋回角度θDの対応関係を示すグラフであって、第2実施例のステアリング制御装置の動作を説明するためのグラフである。
【図7A】ハンドルの操作角度θHとドライブ輪の旋回角度θDの対応関係を示すグラフであって、従来のステアリング制御装置の動作を説明するためのグラフである。
【図7B】ハンドルの位置角度とドライブ輪の旋回角度θDの対応関係を示すグラフであって、従来のステアリング制御装置の動作を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好ましい実施例について図面を参照しながら説明する。
ここでは、本発明に係るステアリング制御装置が、例えばリーチ型フォークリフトに採用された場合を例にとって説明する。
【0023】
(第1実施例)
図1〜図3に示すように、本発明に係るステアリング制御装置を採用したリーチ型フォークリフト1は、ハンドル2と、ドライブ輪(操舵輪となる後輪)3Dと、一対のロード輪(従属輪となる前輪)3L、3Rと、一対のストラドルアーム4L、4Rと、マスト装置Mと、フォークFと、制御手段5と、走行モード切換手段6と、ハンドルロック手段11とを備える。
【0024】
ハンドル2は、リーチ型フォークリフト1の運転者により操作されるものであって、車体本体部Bに設けられている。ハンドル2はその下端に設けられた歯車2Aを有するハンドル軸2B(図2参照)と固着され、ハンドル2の回転操作によって歯車2Aが回転するようになっている。
【0025】
ハンドル2には、ハンドルセンサ7Hが設けられている。ハンドルセンサ7Hは、ハンドル2の操作角度θHを検出する。ここで、ハンドル2操作角度θHとは、ハンドル2の基準位置(例えばノブの位置)からの回転方向における回転角度を意味し、例えばハンドル2を基準位置から左回転方向に1回転させた場合には操作角度θH=−360[°]、ハンドル2を基準位置から右回転方向に2回転させた場合には操作角度θH=720[°]と表される。即ち、これは、2回転、3回転と回されるハンドル2の回転角度を累計した制御手段5側で保有されるデータとなる。
ハンドルセンサ7Hは、例えばポテンショメータからなり、その検出軸に固着された小歯車を上記歯車2Aと噛み合わせることにより、ハンドル2の操作角度θHを電気信号として取り出すことができる。ハンドルセンサ7Hとして、ポテンショメータの代わりに、光学式、磁気式、エンコーダ式のセンサ等が使用されてもよい。
【0026】
ドライブ輪3Dは、車体本体部Bに旋回可能に取り付けられた旋回ギヤケース8Dに設けられている。旋回ギヤケース8Dは、減速機10(図2参照)を介して駆動モータ9Dと連結されている。ドライブ輪3Dは、その幅方向および径方向の中心に配置された垂直方向の中心軸Dを旋回中心点として旋回する。
【0027】
ドライブ輪3Dには、旋回角度検出センサ7Dが設けられている。旋回角度検出センサ7Dは、ドライブ輪3Dの旋回角度θDを検出する。ここで、ドライブ輪3Dの旋回角度θDは、ハンドル2の操作角度θHと同様に、ドライブ輪3Dの基準位置(例えばドライブ輪3Dの直進方向(正面前方方向)を向く位置)からの回転方向における回転角度を意味する。
旋回角度検出センサ7Dは、例えばポテンショメータからなり、旋回ギヤケース8Dに取り付けられることにより、ドライブ輪3Dの旋回角度θDを電気信号として取り出すことができる。旋回角度検出センサ7Dとして、上記ハンドルセンサ7Hと同様、他のセンサが使用されてもよい。
【0028】
一対のロード輪3L、3Rは、一対のストラドルアーム4L、4Rにそれぞれ旋回可能に取り付けられた旋回ギヤケース8L、8Rに設けられている。旋回ギヤケース8L、8Rは、それぞれ、チェーン等の伝導手段Cを介して連結された駆動モータ9L、9Rと連結されている。
【0029】
一対のロード輪3L、3Rには、それぞれ旋回角度検出センサ7L、7Rが設けられている。旋回角度検出センサ7L、7Rは、それぞれロード輪3L、3Rの旋回角度θL、θRを検出する。ここで、ロード輪3L、3Rの旋回角度θL、θRは、それぞれ、ドライブ輪3Dの旋回角度θDと同様に、ロード輪3L、3Rの基準位置(例えばロード輪3L、3Rの直進方向(正面前方方向)を向く位置)からの回転方向における回転角度を意味する。
旋回角度検出センサ7L、7Rは、例えばポテンショメータからなり、それぞれ、旋回ギヤケース8L、8Rに取り付けられることにより、ロード輪3L、3Rの旋回角度θL、θRを電気信号として取り出すことができる。旋回角度検出センサ7L、7Rとして、上記ハンドルセンサ7Hと同様、他のセンサが使用されてもよい。
【0030】
一対のストラドルアーム4L、4Rは、車体本体部Bに設けられ、その前方に突出している。マスト装置Mは、ストラドルアーム4L、4Rに沿って前後移動可能となっている。フォークFは、マスト装置Mに設けられ、当該マスト装置Mに沿って昇降動作可能な荷役機構を備える。
【0031】
制御手段5は、例えばCPU(中央演算装置)からなる演算処理手段5Aと、メモリ(ROMやRAM等)からなる記憶手段5Bとを含み、ハンドルセンサ7H、旋回角度検出センサ7D、7L、7R、および、後述する走行モード切換手段6等から出力される各種信号に基づいて、それぞれ、駆動モータ9D、9L、9R、および、後述するハンドルロック手段11等を制御するものである。制御手段5の具体的な動作については後述する。
【0032】
演算処理手段5Aは、ハンドルセンサ7Hから出力されるハンドル2の操作角度θH、旋回角度検出センサ7D、7L、7Rから出力されるドライブ輪3D、ロード輪3L、3Rの旋回角度θD、θL、θR、および、走行モード切換手段6から出力されるモード信号Msに基づいて、各旋回角度検出センサ7D、7L、7Rによって検出される当該旋回角度θD、θL、θRが目標の旋回角度になるように、各駆動モータ9D、9L、9Rをそれぞれ駆動する。
記憶手段5Bは、演算処理手段5Aの演算処理に必要な処理手順や関数等を表すデータを記憶している。記憶手段5Bには、一例として、各走行モードにおけるハンドル2の操作角度θHとドライブ輪3D旋回角度θDとの対応関係(図4Aや図6Aのグラフ参照)を表すデータ、各走行モードにおけるドライブ輪3Dの旋回角度θDの有効角度範囲を表すデータ等が記憶されている。
【0033】
走行モード切換手段6は、運転席近傍に設けられ、複数の走行モードを切り換え可能な切換スイッチからなる。走行モード切換手段6は、各走行モードに対応した信号Msを制御手段5に出力するようになっている。
走行モードとしては、例えば、車体中央を旋回中心としてドライブ輪3Dおよびロード輪3L、3Rを旋回させて車体を走行させる標準モード(スピンターンモード)、ドライブ輪3Dおよびロード輪3L、3Rを最小の旋回半径で旋回させて車体を走行させる小回りモード等の様々な走行モードがある。
走行モード切換手段6が走行モードを切り換えている間は、走行モード切換手段6の近傍に配置された表示部12が、走行モードの切り換え中であることを示す表示内容をディスプレイ画面等に表示するようになっている。
【0034】
ハンドルロック手段11は、ハンドル2をロックする公知のものであり、例えば、特許文献1に開示されているような回転機(モータ)および減速機からなるが、その詳細な説明は省略する。
【0035】
次に、このステアリング制御装置の一連の動作について、図4A、図4Bおよび図5を参照しながら、以下に詳細に説明する。
【0036】
ここで、図4Aにおいて、横軸はハンドル2の操作角度θH[°]を示し、縦軸はドライブ輪3Dの旋回角度θD[°]を示している。太字鎖線部分は標準モード(以下、「第1の走行モード」という)を示し、ハンドル2の操作角度θHが−1620°〜1620°の角度範囲にあり、ドライブ輪3Dの旋回角度θDが−120°〜120°の角度範囲にある。太字実線部分は小回りモード(以下、「第2の走行モード」という)を示し、ハンドル2の操作角度θHが−1026°〜629°の角度範囲にあり、ドライブ輪3Dの旋回角度θDが−46.6°〜76.0°の角度範囲にある。
また、図4Bにおいて、横軸はハンドル2の位置角度[°]、縦軸はドライブ輪3Dの旋回角度θD[°]を示している。太字鎖線部分は第1の走行モードを示し、ハンドル2の位置角度は上記したハンドル2の操作角度θHである−1620°〜1620°に相当する角度範囲にあり、ドライブ輪3Dの旋回角度θDは上記と同じく−120°〜120°の角度範囲にある。また、太字実線部分は第2の走行モードを示し、ハンドル2の位置角度は上記したハンドル2の操作角度θHである−1026°〜629°に相当する角度範囲にあり、ドライブ輪3Dの旋回角度θDは上記と同じく−46.6°〜76.0°の角度範囲にある。なお、位置角度とは、ハンドル2の基準位置(例えば、ノブの位置)からの回転方向における回転角度を例えば−180°〜180°の角度範囲(あるいは0°〜360°の角度範囲)で表した、所謂ハンドル2の物理的な位置を表した角度を意味する。
【0037】
なお、ハンドル2の操作角度θHとドライブ輪3Dの旋回角度θDとの対応関係は、走行モード毎に定められているが、ここでは説明の簡略化のために、第1および第2の走行モードのいずれにおいても、θD=a×θH+b(但し、aおよびbは任意の数とする)なる一次関数式で表されるものとする。ここで、図4Aのハンドル2の操作角度θHとドライブ輪3Dの旋回角度θDとの対応関係(一次関数式)においては、従来例と同様、傾きaは約−0.074、切片bは0としている。
また、ドライブ輪3Dの旋回角度θDの有効角度範囲も、走行モード毎に定められている。前述したように、第1の走行モードにおけるドライブ輪3Dの旋回角度θDの有効角度範囲は、従来例と同様、下限値θD1MIN=−120°から上限値θD1MAX=120°までの範囲(以下、「第1の有効角度範囲」という)である。また、第2の走行モードにおけるドライブ輪3Dの旋回角度θDの有効角度範囲は、下限値θD2MIN=−46.6°から上限値θD2MAX=76.0°までの範囲(以下、「第2の有効角度範囲」という)である。
【0038】
ここでは、図4Aおよび図4Bに示すように、第1の走行モードにおいてハンドル2が第1の操作角度θH=−1575°(ハンドル2の位置角度は−135°)に配置されるとともにドライブ輪3Dが当該第1の操作角度θHに対応する第1の旋回角度θD=116.7°に配置された状態(同図のA点参照)から、走行モード切換手段6が当該第1の走行モードを第2の走行モードへと切り換える場合について説明する。
この場合、図4Aから明らかなように、θH=θH+360×N(但し、Nは整数とする)なる式で表される操作角度θH(以下、「第2の操作角度θH」という)に対応する旋回角度θD(以下、「第2の旋回角度θD」という)が、第2の有効角度範囲に複数存在している(同図の点B〜F参照)。
【0039】
まず、走行モード切換手段6が、第1の走行モードから第2の走行モードへと走行モードを切り換える(図5のステップS1参照)。
次に、制御手段5がハンドルロック手段11をロックしてハンドル2をロック状態とする(図5のステップS2参照)。
【0040】
そして、制御手段5は、第1の操作角度θHに対応する第1の旋回角度θDが第2の有効角度範囲にあるか否かを判断する(図5のステップS3参照)。
この時、第1の旋回角度θD=116.7°は上記の第2の有効角度範囲(−46.6°〜76.0°の角度範囲)にないので、制御手段5は、第1の操作角度θHを、第2の有効角度範囲にある第2の旋回角度θDに対応する第2の操作角度θHに変更して(図5のステップS4参照)、第1の旋回角度θDを第2の旋回角度θDに駆動指令(変更)する(図5のステップS5参照)。即ち、制御手段5は、第1の操作角度θHを第2の操作角度θHとしてデータの書き換えを行い、第1の旋回角度θDが当該第2の操作角度θHに対応する第2の旋回角度θDになるように駆動モータ9Dを駆動して、ドライブ輪3Dを旋回制御する。
【0041】
ここで、第2の操作角度θHは複数存在しているが、制御手段5は、第1の操作角度θH=−1575°(ハンドル2の位置角度は−135°)を、第1の旋回角度θD=116.7°に最も近い第2の旋回角度θD=63.3°に対応する第2の操作角度θH=−855°(ハンドル2の位置角度は−135°)に変更する(図4Aおよび図4BのA点からB点に至る矢印線参照)。こうして、制御手段5は、駆動モータ9Dを駆動してドライブ輪3Dを旋回させ、旋回角度θDを第1の旋回角度θD=116.7°から第2の旋回角度θD=63.3°に駆動指令(変更)する。
なお、制御手段5は、第1の操作角度θHを、第2の操作角度θH=−855°以外の他の第2の操作角度θHに変更してもよい(図4Aおよび図4BのA点からC点、D点、E点およびF点の各点へ至る矢印線参照)。
また、第1の旋回角度θDが上記の第2の有効角度範囲にある場合は、後述のステップS6に進む(図5のステップS3参照)。
【0042】
次に、制御手段5は、駆動モータ9L、9Rをそれぞれ駆動して、ロード輪3L、3Rを第2の走行モードにおける適切な制御位置(ロード輪3L、3Rの旋回角度θL、θRがそれぞれ適切な制御角度となる位置)に配置させる(図5のステップS6参照)。
最後に、制御手段5は、ハンドルロック手段11を解除してハンドル2を非ロック状態とする(図5のステップS7参照)。
【0043】
以上のようにして、走行モードを第1の走行モードから第2の走行モードに切り換えることができる。なお、走行モード切換手段6が走行モードを切り換えている間(上記ステップS1〜S7を行っている期間中)、表示部12によって、走行モードが切り換え中であることを示す表示内容がディスプレイ画面等に表示される。
【0044】
したがって、このステアリング制御装置によれば、走行モード切換手段6が第1の走行モードから第2の走行モードへと走行モードを切り換える時において、制御手段5が、第2の有効角度範囲にない第1の旋回角度θDに対応する第1の操作角度θHを、第2の有効角度範囲にある第2の旋回角度θDに対応する第2の操作角度θH=θH+360×Nに変更して、第1の旋回角度θDを第2の旋回角度θDに変更して、ドライブ輪3Dを制御するので、従来のように運転者がハンドル2の回転操作を行うことなく(図4Bに示すようにハンドル2の位置角度は−135°のままで、ハンドル2の物理的な位置を変えることなく)、人手を介さず自動的に短時間で走行モードの切り換えをすることができ、結果として、簡単な制御によって作業性を向上させることができる。
【0045】
また、走行モードの切り換え時において、制御手段5が、第1の旋回角度θDに対応する第1の操作角度θHを、第1の旋回角度θDに最も近い第2の旋回角度θDに対応する第2の操作角度θHに変更して、ドライブ輪3Dを第1の旋回角度θDからこれに最も近い第2の旋回角度θDまで旋回させるので(図4Aおよび図4BのA点からB点に至る矢印線参照)、ドライブ輪3Dの旋回量が少なくなり、ドライブ輪3Dの摩耗を減らすことができる。
【0046】
さらに、走行モードが切り換わっている間、制御手段5がハンドルロック手段11をロックして、ハンドル2の回転操作ができないようになっているので、ドライブ輪3Dの旋回角度θDは運転者のハンドル操作によって変動せず、制御手段5によるドライブ輪3Dの制御をより簡単にすることができる。
【0047】
(第2実施例)
上記第1実施例のステアリング制御装置においては、制御手段5が、第1の操作角度θHを、第1の旋回角度θDに最も近い第2の旋回角度θDに対応する第2の操作角度θHに変更するようになっていたが、これ以外の第2の操作角度θHに変更するようになっていてもよい。
【0048】
すなわち、図6Aおよび図6B(A点からD点へ至る矢印線参照)に示すように、第2実施例のステアリング制御装置においては、制御手段5が、第1の操作角度θH=−1575°(ハンドル2の位置角度は−135°)を、第2の有効角度範囲の上限値(76.0°)と下限値(−46.6°)との中間値θD2MID=14.7°に最も近い第2の旋回角度θD=10.0°に対応する第2の操作角度θH=−135°(ハンドル2の位置角度は−135°)に変更する(図5のステップS4参照)。こうして、制御手段5は、駆動モータ9Dを駆動してドライブ輪3Dを旋回させ、旋回角度θDを第1の旋回角度θD=116.7°から第2の旋回角度θD=10.0°に駆動指令(変更)する(図5のステップS5参照)。
したがって、このステアリング制御装置によれば、制御手段5が、第1の操作角度θHを、第2の有効角度範囲における中間値に最も近い第2の旋回角度θDに対応する第2の操作角度θHに変更して、ドライブ輪3Dを第1の旋回角度θDから第2の有効角度範囲における中間値に最も近い第2の旋回角度θDまで旋回させるので、走行モードの切り換え後にドライブ輪3Dが中立的な位置に配置され、ドライブ輪3Dの直進性を向上させることができる。
【0049】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明の構成はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0050】
上記実施例において、標準モードおよび小回りモードの走行モードの切り換えについて説明したが、他の走行モード、例えば、平行移動モードや斜め移動モード、横移動モード等の切り換えにおいても同様の効果が得られることは言うまでもない。
なお、平行移動モードとは、ドライブ輪3Dとロード輪3L、3Rを常に平行に保って走行する走行モードであって、車体姿勢角を変えることなく走行することができる走行モードである。また、斜め移動モードとは、進行方向側のロード輪3Lまたは3Rを任意の角度に固定し、斜め向きで走行する走行モードであって、斜め向きのまま走行、旋回することができる走行モードである。また、横移動モードとは、ドライブ輪3Dの旋回角度θDとロード輪3L、3Rの旋回角度θL、θRとを90°もしくは−90°として、真横方向に走行する走行モードである。
【0051】
また、上記実施例のステアリング制御装置においては、ハンドルロック手段11が備えられているが、ハンドルロック手段11を不要とすることもできる。
【0052】
さらに、ハンドル2の操作角度θHとドライブ輪3Dの旋回角度θDとの対応関係は、第1、第2の走行モードのいずれにおいても、θD=a×θH+bなる一次関数式で表されるものとしたが、これに限定されるものではない。各走行モードにおいて、ハンドル2の操作角度θHとドライブ輪3Dの旋回角度θDとの様々な関数で表される対応関係が設定されてもよいことは言うまでもない。また、各走行モードにおけるドライブ輪3Dの旋回角度θDの有効角度範囲も、上記の第1および第2の有効角度範囲に限定されるものではなく、任意の角度範囲に設定される。
【符号の説明】
【0053】
1 フォークリフト
2 ハンドル
2A 歯車
2B ハンドル軸
3D ドライブ輪
3L、3R ロード輪
4L、4R ストラドルアーム
5 制御手段
5A 演算処理手段
5B 記憶手段
6 走行モード切換手段
7D、7L、7R 旋回角度検出センサ
7H ハンドルセンサ
8D、8L、8R 旋回ギヤケース
9D、9L、9R 駆動モータ
10 減速機
11 ハンドルロック手段
12 表示部
B 車体本体部
D ドライブ輪の中心軸
F フォーク
L、R ロード輪の中心軸
M マスト装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドルと、前記ハンドルから機械的に切り離されたドライブ輪と、前記ハンドルの操作角度θHに基づいて前記ドライブ輪の旋回角度θDを制御する制御手段と、少なくとも第1の走行モードから第2の走行モードへと走行モードを切り換え可能な走行モード切換手段と、を備えたステアバイワイヤ方式のフォークリフトのステアリング制御装置であって、
前記第1の走行モードにおける前記操作角度θHと前記旋回角度θDとの第1の対応関係と、前記第1の走行モードにおける前記旋回角度θDの第1の有効角度範囲と、前記第2の走行モードにおける前記操作角度θHと前記旋回角度θDとの第2の対応関係と、前記第2の走行モードにおける前記旋回角度θDの第2の有効角度範囲と、を記憶する記憶手段を備え、
前記第1の走行モードにおいて前記ハンドルが第1の操作角度θHに配置されるとともに前記ドライブ輪が当該第1の操作角度θHに対応する第1の旋回角度θDに配置された状態から、前記走行モード切換手段が、当該第1の走行モードを前記第2の走行モードへと切り換える時において、
前記第1の旋回角度θDが前記第2の有効角度範囲にない場合であって、かつ、θH=θH+360×N(但し、Nは整数とする)なる式で表される第2の操作角度θHに対応する第2の旋回角度θDが前記第2の有効角度範囲に存在する場合に、
前記制御手段は、前記第1の操作角度θHを、前記第2の有効角度範囲にある前記第2の旋回角度θDに対応する前記第2の操作角度θHに変更して、前記第1の旋回角度θDを、前記第2の旋回角度θDに変更することによって、前記ハンドルの位置を変えることなく、前記ドライブ輪を制御することを特徴とするステアリング制御装置。
【請求項2】
前記第2の有効角度範囲にある前記第2の旋回角度θDに対応する前記第2の操作角度θHが複数存在する場合に、
前記制御手段は、前記第1の操作角度θHを、前記第1の旋回角度θDに最も近い前記第2の旋回角度θDに対応する前記第2の操作角度θHに変更することを特徴とする請求項1に記載のステアリング制御装置。
【請求項3】
前記第2の有効角度範囲にある前記第2の旋回角度θDに対応する前記第2の操作角度θHが複数存在する場合に、
前記制御手段は、前記第1の操作角度θHを、前記第2の有効角度範囲の上限値と下限値との中間値に最も近い前記第2の旋回角度θDに対応する前記第2の操作角度θHに変更することを特徴とする請求項1に記載のステアリング制御装置。
【請求項4】
前記ハンドルの操作をロックするハンドルロック手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記走行モード切換手段が前記走行モードを切り換えている間、前記ハンドルロック手段をロックすることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のステアリング制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【公開番号】特開2013−112242(P2013−112242A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261302(P2011−261302)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000232807)日本輸送機株式会社 (320)
【Fターム(参考)】