説明

ディスクブレーキ

【課題】 一対のパッド4aをキャリパに低コストで支持できる構造で、インナ側のパッド4aのサポート41aからの脱落を有効に防止する。
【解決手段】 上記キャリパの一部にパッドピン35の両端寄り部分を挿通支持すると共に、上記各パッド4aを構成するプレッシャプレート13に形成した第二の通孔33に上記パッドピン35の中間部を挿通する。このパッドピン35の長さ方向一端部にフランジ部を設けると共に、中間部2個所位置にクリップを係止する事により、上記パッドピン35のキャリパからの脱落を阻止する。上記インナ側のパッド4aの上記第二の通孔33と反対側の端部に設けた第二のパッド腕部32aを、サポート41aに形成した凹部45に摺動自在に係合すると共に、このサポート41aに一体形成した壁部50により、上記インナ側のパッド4aがロータから離れる方向に変位するのを阻止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明に係るディスクブレーキは、例えば、自動二輪車等の車両の制動に利用する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車等に組み付けるディスクブレーキとして、例えば特許文献1に記載された様な構造が従来から知られている。この特許文献1に記載されたディスクブレーキは、図22〜23に示す様に、キャリパ1を、車体を構成するチューブ2に対し、ロータ3の軸方向(図22の表裏方向、図23の左右方向)の変位自在に支持すると共に、一対のパッド4a、4bをキャリパ1により、上記ロータ3の軸方向の変位自在に支持している。
【0003】
上記キャリパ1を上記チューブ2に対し、ロータ3の軸方向の変位自在に支持する為に、このキャリパ1の片側(図22の左側)に設けた耳部18に第一の摺動ピン6の基端部を結合固定している。又、上記チューブ2に固定したブラケット5の上端部に設けた支持筒(図示せず)に、上記第一の摺動ピン6の先半部を摺動自在に挿通している。又、上記キャリパ1の下端部に摺動孔8(図23)を形成すると共に、上記ブラケット5の下端部にその基端部を固定した第二の摺動ピン7の先半部を、この摺動孔8に内嵌した伸縮ブーツ9内に、摺動自在に挿通している。
【0004】
又、上記一対のパッド4a、4bを上記キャリパ1により、上記ロータ3の軸方向の変位自在に支持する為に、このキャリパ1の、このロータ3を挟んで両側に設けた爪部10とシリンダ部11との間に、パッドピン12を掛け渡し、このパッドピン12の長さ方向一端部(図23の右端部)を上記シリンダ部11にねじ止めにより固定している。上記各パッド4a、4bは、プレッシャプレート13、13の片面にライニング17、17を添設して成り、これら各プレッシャプレート13、13の上端部に形成した通孔14、14に、上記パッドピン12の中間部を摺動自在に挿通している。
【0005】
上述の様に構成する特許文献1に記載されたディスクブレーキの制動時には、上記シリンダ部11に設けた給油ポート15(図23)を通じてこのシリンダ部11内に圧油を送り込む。そして、この送り込みに基づいてこのシリンダ部11内に嵌装したピストン16を押し出す事により、上記一対のパッド4a、4bのうち、インナ側(車両の幅方向内側で、図22の表側、図23の右側)のパッド4aのライニング17を、前記ロータ3の片側面(図22の表側面、図23の右側面)に押し付ける。すると、この押し付けの反作用として、上記キャリパ1が上記ピストン16の押し出し方向と反対方向(図22の表側、図23の右側)に変位する。そして、このキャリパ1に設けた前記爪部10により、上記一対のパッド4a、4bのうち、アウタ側(車両の幅方向外側で、図22の裏側、図23の左側)のパッド4bのライニング17を、上記ロータ3の他側面(図22の裏側面、図23の左側面)に押し付ける。この結果、上記1対のパッド4a、4bが上記ロータ3の両側面に押し付けられて、これら両パッド4a、4bのライニング17、17とロータ3の両側面とが摩擦係合する。
【0006】
上述の様な特許文献1に記載されたディスクブレーキでは、キャリパ1に一対のパッド4a、4bを支持する為に、パッドピン12の長さ方向一端部に設けた雄ねじ部19を上記キャリパ1に形成した雌ねじ部20に螺合する事により、このキャリパ1にこのパッドピン12を固定している。そして、このパッドピン12の中間部に、パッド4a、4bの一部を摺動自在に挿通支持している。但し、この様な構造の場合、パッドピン12及びキャリパ1にねじ部19、20を形成する必要があり、ディスクブレーキの製造時にねじ加工の工程が増える為、製造コストが嵩む原因となっている。
【0007】
一方、キャリパに対するパッドピンの脱落を防止する為の構造として、2個の脱落防止機構を設けた二重安全構造を採用する事も、従来から考えられている。例えば、パッドピンをキャリパに、ねじ止め結合部により成る1個の脱落防止機構と、このパッドピンに形成した係止孔にクリップ等の係止部材を係止する事により構成する1個の脱落防止機構との合計2個の脱落防止機構により、二重安全構造とする事が従来から考えられている。但し、この様な従来構造の場合も、上記特許文献1に記載されたディスクブレーキの場合と同様に、パッドピン及びキャリパにねじ部を形成する必要があり、ディスクブレーキの製造時にねじ加工の工程が増える為、製造コストが嵩む原因となっている。
【0008】
[先発明の説明]
この様な事情に鑑みて、本発明の発明者らは、先に、図24〜27に略示する様な先発明のディスクブレーキを発明した。この先発明に係るディスクブレーキは、自動二輪車等の車両の車体を構成する部材のうち、車輪に隣接して設けたチューブ(前輪の場合にはフォーク)2(図22参照)にサポート41を固定している。この車輪を構成するホイールの片面には円輪状のロータ3を、このホイールと同心に固定している。この構成により、このロータ3は、上記車輪と共に回転する。又、上記サポート41の上記チューブ2の長さ方向に関する一端部(図24、26〜28の左端部)に、第一の摺動ピン22の中間部をねじ止め若しくは圧入により結合固定している。この第一の摺動ピン22は、一端寄り部分(図26の上端寄り部分)に第一の円杆部42を、他端寄り部分(図26の下端寄り部分)に第二の円杆部21を、中間部に上記サポート41に結合固定する為の結合部を、それぞれ一体に設けている。このうちの第一、第二の円杆部42、21は、何れも外周面を円筒面としている。又、このうちの第二の円杆部21の先端部(図26の下端部)は、上記サポート41のアウタ側面(図26の下側面)から突出させた後、上記ロータ3の片面(図26の下側面)よりもアウタ側(図26の下側)に突出させている。そして、上記第一の摺動ピン22を、上記ロータ3の中心軸と平行な状態で、上記サポート41に結合固定している。
【0009】
一方、上記サポート41の上記チューブ2の長さ方向に関する他端部(図24、26〜28の右端部)に、第二の摺動ピン23の基端部(図24の表側端部)をねじ止めにより結合固定している。そして、この第二の摺動ピン23を、上記ロータ3の中心軸と平行な状態で、上記サポート41に固定している。又、この第二の摺動ピン23の先端部に、外周面を円筒面とした円杆部を設けている。
【0010】
そして、上記サポート41を介して上記チューブ2に支持固定した、上記第一、第二の摺動ピン22、23により、キャリパ1aを、上記ロータ3の軸方向の変位を自在に支持している。この為に、このキャリパ1aの、このロータ3を挟んで両側に設けたシリンダ部11と爪部10とのうち、シリンダ部11に、上記サポート41の長さ方向両側に延出する第一、第二のキャリパ腕部24、25を形成している。又、このうちの第一のキャリパ腕部24の先端部に摺動筒部26を一体に設けると共に、この摺動筒部26に上記第一の摺動ピン22に設けた第一の円杆部42の先半部を、軸方向(ロータ3の中心軸に対し平行な方向)の摺動自在に挿入している。又、上記第二のキャリパ腕部25の先端部に、ロータ3の中心軸に対し平行な通孔43(後述する本発明の実施例を表す図4参照)を形成すると共に、この通孔43に内嵌した伸縮ブーツ27(図4参照)内に、上記第二の摺動ピン23の先半部を、軸方向の摺動自在に挿入している。
【0011】
又、上記シリンダ部11及び爪部10の側面で、上記第二のキャリパ腕部25側に第三、第四のキャリパ腕部28、29を突出形成すると共に、これら第三、第四のキャリパ腕部28、29の先端部で互いに対向する部分に、前記ロータ3の中心軸に対し平行な第一の通孔30a、30bを、それぞれ形成している。
【0012】
更に、上記キャリパ1aに設けたシリンダ部11に、ピストン16a(図26)を、油密に上記ロータ3の軸方向の摺動自在に嵌装し、このシリンダ部11に図示しない給油ポートを通じて圧油の給排を自在とする事により、このシリンダ部11内からの上記ピストン16aの押し出しを自在としている。そして、このシリンダ部11内ヘの圧油の送り込みに伴って、このシリンダ部11から上記ロータ3に向け押し出すピストン16aの反力により、上記キャリパ1aを、このロータ3の軸方向に移動可能としている。そして、このキャリパ1aにより、一対のパッド4a、4bを、上記ロータ3の軸方向の変位自在に支持している。
【0013】
即ち、上記ロータ3の一部両側面と上記ピストン16a及び爪部10との間に、上記一対のパッド4a、4bを設けている。これら各パッド4a、4bは、プレッシャプレート13、13の片面にライニング17、17を添着して成る。この様な各パッド4a、4bは、これら各ライニング17、17を上記ロータ3の側面に対向させた状態で、上記爪部10と上記ロータ3の片側面(図26の下側面)との間、上記ピストン16aの先端面とこのロータ3の他側面(図26の上側面)との間に、それぞれ配置している。
【0014】
又、上記各パッド4a、4bを構成するプレッシャプレート13、13に、上記ロータ3の周方向両側に伸びる第一、第二のパッド腕部31、32a、32bを、それぞれ形成している。そして、上記各パッド4a、4bのうち、アウタ側(図24の表側、図26の下側)のパッド4bを構成するプレッシャプレート13に形成した第一、第二のパッド腕部31、32bに、厚さ方向に貫通する第二、第三の通孔33、34を、それぞれ形成している。又、上記各パッド4a、4bのうち、インナ側(図26の上側)のパッド4aを構成するプレッシャプレート13に形成した第一、第二のパッド腕部31、32aのうち、前記第三、第四のキャリパ腕部28、29側の一端部に設けた第一のパッド腕部31に、厚さ方向に貫通する第二の通孔33を形成している。これに対して、上記インナ側のパッド4aの他端部に設けた第二のパッド腕部32aは、ロータ3の周方向に関する長さを、アウタ側のパッド4bの他端部に設けた第二のパッド腕部32bよりも小さくしており、厚さ方向に貫通する通孔を形成していない。
【0015】
そして、上記第三、第四のキャリパ腕部28、29に形成した第一の通孔30a、30bに、パッドピン35の両端寄り部分を挿通支持すると共に、上記各パッド4a、4bの第一のパッド腕部31、31に形成した第二の通孔33、33に、上記パッドピン35の中間部を、ロータ3の中心軸に対し平行な方向の摺動自在に挿通している。又、このパッドピン35の長さ方向一端部(図26の上端部)外周面にフランジ部36を、全周に亙り形成している。又、上記パッドピン35の長さ方向に関して、上記第四のキャリパ腕部29とインナ側のパッド4aのプレッシャプレート13との間、及び、上記パッドピン35の長さ方向他端部(図24の表側端部、図26の下端部)で、上記第三のキャリパ腕部28の第一の通孔30aからアウタ側(図26の下側)に突出した部分との2個所位置に、それぞれが係止部であり、上記パッドピン35の径方向に貫通する係止孔37、37を、それぞれ形成している。そして、これら各係止孔37、37に、抜け止め部材であるクリップ(割りピン)38を、一部を挿通させた状態で係止している。尚、このクリップ38は、図25に詳示する様に、硬鋼線や他のばね材等の金属製の線材により造ったもので、基部39の両端から互いに同方向に折り曲げた一対の脚部40a、40bを有し、一方の脚部40aを上記係止孔37に挿通可能な直線状とする共に、他方の脚部40bに上記パッドピン35の外周面と係合自在な円弧部44を形成する事で、上記係止孔37からの上記クリップ38の抜け止めを図れる構造としている。
【0016】
一方、上記アウタ側のパッド4bの第二のパッド腕部32bに形成した第三の通孔34に、前記サポート41にその中間部を固定した第一の摺動ピン22の、第二の円杆部21のアウタ側を、上記ロータ3の中心軸に対し平行な方向の摺動自在に挿通している。又、上記サポート41の長さ方向一端寄り部分内側面に形成した凹部45(図27、28)内に、上記インナ側のパッド4aに設けた第二のパッド腕部32aを、パッドクリップ46(後述する本発明の実施例を表す図3参照)を介して、上記ロータ3の中心軸に対し平行な方向の摺動自在に係合させている。
【0017】
上述の様に構成する先発明のディスクブレーキの場合も、前述の図23〜24に示した従来構造の場合と同様に、制動時に、前記シリンダ部11に設けた給油ポートを通じてこのシリンダ部11内に圧油を送り込む事により、このシリンダ部11内に嵌装したピストン16aを押し出し、インナ側のパッド4aのライニング17を、ロータ3の他側面(図26の上側面)に押し付ける。すると、この押し付けの反作用として、上記キャリパ1aが上記ピストン16aの押し出し方向と反対方向(図26の上側)に変位する。そして、このキャリパ1aに設けた爪部10により、アウタ側のパッド4bのライニング17を、上記ロータ3の片側面(図26の下側面)に押し付ける。この結果、上記1対のパッド4a、4bが上記ロータ3の両側面に押し付けられて、これら両パッド4a、4bのライニング17、17とロータ3の両側面とが摩擦係合する。
【0018】
又、上述の様な先発明のディスクブレーキの場合には、前述の図22〜23に示した従来構造の場合と異なり、一対のパッド4a、4bを挿通支持したパッドピン35をキャリパ1aに支持する為に、これらパッドピン35とキャリパ1aとに、それぞれ雄ねじ部又は雌ねじ部を形成せずに済む。即ち、上述の先発明の構造の場合には、キャリパ1aにパッドピン35を支持する為に、このパッドピン35の両端寄り部分を、このキャリパ1aの第三、第四のキャリパ腕部28、29に形成した第一の通孔30a、30bに挿通支持している。この為、上記パッドピン35の両端寄り部分及び第一の通孔30a、30bにそれぞれ雄ねじ部又は雌ねじ部を形成する必要がない。
【0019】
又、上述の先発明の場合には、上記キャリパ1aに対する上記パッドピン35の脱落を防止する為に、このパッドピン35の長さ方向一端部側にフランジ部36を形成すると共に、このパッドピン35の長さ方向2個所位置にクリップ38、38を係止している。即ち、このパッドピン35が上記キャリパ1aに対しアウタ側(図26の下側)に変位する事は、上記フランジ部36とインナ側のクリップ38とのうちの少なくとも何れかが、上記第四のキャリパ腕部29の側面又はインナ側のパッド4aの第一のパッド腕部31の側面に突き当たる事で阻止される。又、上記パッドピン35が上記キャリパ1aに対しインナ側(図26の上側)に変位する事は、一対のクリップ38、38のうちの少なくとも何れかが、上記第三のキャリパ腕部28又は第四のキャリパ腕部29の側面に突き当たる事で阻止される。この様に、上述の先発明の構造の場合には、上記パッドピン35の何れの方向への変位も2個の脱落防止機構により阻止でき、二重安全防止構造となる。
【0020】
尚、上述の先発明の構造で、パッドピン35をキャリパ1aに組み付ける場合、このパッドピン35を、フランジ部36と反対側の端部を先にして、各キャリパ腕部28、29に形成した第一の通孔30a、30b、及び、各パッド4a、4bに形成した第二の通孔33、33に挿入する。そして、この挿入後に、上記パッドピン35の一部で、第四のキャリパ腕部29とインナ側のパッド4aとの間、及び、第三のキャリパ腕部28からアウタ側に突出した部分とに、それぞれ位置する係止孔37、37に、クリップ38、38を係止する。これら各係止孔37、37は、キャリパ1aにより覆われる事がない為、クリップ38、38の係止作業は容易に行なえる。
【0021】
この様な、先発明のディスクブレーキの場合には、前述の図22〜23に示した従来構造の場合と異なり、キャリパ1aに対するパッドピン35の脱落を防止する為に二重安全防止構造を採用しているのにも拘わらず、このキャリパ1aのパッドピン35を支持する部分と、このパッドピン35とに、ねじ部を形成せずに済む。この為、ディスクブレーキの製造時にねじ加工の工程を少なくするか、又はなくす事ができ、コスト低減を図れる。
【0022】
但し、この様な先発明のディスクブレーキの場合には、ディスクブレーキの組立工場への搬送時、又はこの組立工場での車両への組み付け時等に、インナ側のパッド4aに設けた第二のパッド腕部32aが、サポート41に形成した凹部45(図27)から脱落する可能性がある。即ち、上記インナ側のパッド4aの両端部に設けた第一、第二のパッド腕部31、32aのうち、第一のパッド腕部31は、第二の通孔33に、キャリパ1aに支持したパッドピン35の中間部を軸方向の摺動自在に挿通支持しているので、上記第一のパッド腕部31が上記サポート41から脱落する事はない。これに対して、上記第二のパッド腕部32aは、上記サポート41に形成した凹部45に、ロータ3の中心軸に対し平行な方向の摺動自在に係合させているのに過ぎず、上記第二のパッド腕部32aが上記サポート41に対し、ロータ3から離れる方向へ変位する事を規制していない。この為、例えば、前記組み付け時等に何らかの原因で、上記インナ側のパッド4aを構成するプレッシャプレート13の背面(ライニング17と反対側の面で、図27〜28の裏側面)とピストン16a(図26)の先端面との間に隙間が発生する事により、上記第二のパッド腕部32aがインナ側に変位すると、図28に示す様に、この第二のパッド腕部32aが上記凹部45からインナ側に外れて、上記インナ側のパッド4aが上記サポート41から脱落する可能性がある。この場合には、上記パッド4aが、パッドピン35を中心として図28の反時計方向に回転する様な状態となる。そしてこの様にインナ側のパッド4aが脱落した状態で、誤ってロータ3と共に車両に組み付けられると、正常に機能するディスクブレーキを得られなくなってしまう。尚、図28に示した例では、パッド4aが図27に示した状態から少しの角度だけ回転しているがこれは、パッド4aのライニング17の外縁がサポート41の縁に引っ掛かる為である。但し、この状態では、プレッシャプレート13の第二のパッド腕部32aがサポート41から外れる為、ピストン16a(図26)を押し付けても制動力を得られなくなってしまう。
【0023】
これに対して、上記サポート41に装着したパッドクリップ46(図3参照)の一部に上記インナ側のパッド4aがロータ3から離れる方向に変位する事を阻止する為の変位阻止部を設ける事も、従来から考えられている。但し、この様な変位阻止部をパッドクリップ46に設ける場合にはこのパッドクリップ46の成形作業が複雑になり、このパッドクリップ46のコストが嵩む原因となる。又、このパッドクリップ46は、サポート41に装着し易くする必要がある為、このパッドクリップ46の板厚を薄くする必要がある。この為、このパッドクリップ46の剛性を高くする事は難しく、パッド4aとの振動による接触で耐久性に不安がある。この様なパッドクリップ46に上記変位阻止部を設ける場合、上記インナ側のパッド4aがロータ3から離れる方向へ変位する事を十分に安定して阻止できるとは言い難い。
尚、本発明に関連する先行技術文献として、特許文献1の他に特許文献2〜4がある。
【0024】
【特許文献1】実公平6−36346号公報
【特許文献2】実公昭58−32029号公報
【特許文献3】実公昭63−47296号公報
【特許文献4】実開平6−85937号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明のディスクブレーキは、この様な事情に鑑みて、一対のパッドをキャリパに低コストで支持できる構造で、車両への組み付け時等でのインナ側のパッドのサポートからの脱落を有効に防止すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明のディスクブレーキは、前述の図24〜27に示した先発明の構造と同様に、サポートと、ロータと、一対のパッドと、キャリパとを備える。
このうちのサポートは、車体の一部に固定される。
又、上記ロータは、車輪と共に回転する。
又、上記各パッドは、上記ロータの側面に対向して配置している。
又、上記キャリパは、上記一対のパッドとロータとを跨いで配置している。
【0027】
特に、本発明のディスクブレーキにあっては、長さ方向一端側にフランジ部を、長さ方向の少なくとも一箇所に係止部を、それぞれ形成したパッドピンを備える。又、上記キャリパの上記一対のパッドを挟む両側部分にそれぞれ形成した一対の第一の通孔に、上記パッドピンの長さ方向両端寄り部分を挿通支持すると共に、上記各パッドを構成するプレッシャプレートに形成した第二の通孔に、上記パッドピンの長さ方向中間部をそれぞれ摺動自在に挿通している。又、上記係止部に係止した抜け止め部材と上記フランジ部とにより、上記キャリパに対する上記パッドピンの脱落を阻止している。又、上記一対のパッドのうちのインナ側のパッドを構成するプレッシャプレートの、上記第二の通孔と反対側の端部を、上記サポートの一部に、上記ロータの中心軸に対し平行な方向の摺動自在に係合させている。そして、上記サポートの一部、又はこのサポートに固定した摺動ピンの一部、又はこれらサポートと摺動ピンとの間に、上記インナ側のパッドが上記ロータから離れる方向に変位するのを阻止する為の変位阻止手段を設けている。
【発明の効果】
【0028】
上述の様に構成する本発明のディスクブレーキの場合には、前述した先発明のディスクブレーキと同様に、キャリパにパッドピンを支持する為に、このキャリパのこのパッドピンを支持する部分と、このパッドピンとに雄ねじ部又は雌ねじ部を形成せずに済む。この為、ディスクブレーキの製造時に、ねじ加工の工程を少なくするか、又はなくす事ができ、製造コストの低減を図れる。
【0029】
特に、本発明の場合には、サポートの一部、又はこのサポートに固定した摺動ピンの一部、又はこれらサポートと摺動ピンとの間に、インナ側のパッドがロータから離れる方向に変位するのを阻止する為の変位阻止手段を設けている。この為、サポートにパッドクリップを装着する場合でも、このパッドクリップを特に複雑な形状に成形する事なく、ディスクブレーキの組立工場への搬送時、又はこの組立工場での車両への組み付け時等に、インナ側のパッドの端部がロータから離れる方向に変位してサポートから脱落する事を防止できる。この為、正常に機能するディスクブレーキを安定して得られる。しかも、本発明の場合には、上記サポートの一部、又は上記摺動ピンの一部、又はこれらサポートと摺動ピンとの間で挟持した部材により、上記変位阻止手段を構成できる。この為、上記パッドクリップの一部によりこの変位阻止手段を構成する場合と異なり、変位阻止手段の剛性を高くする事を容易に行なえ、上記インナ側のパッドがロータから離れる方向に変位するのを十分に安定して阻止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
又、本発明のディスクブレーキを実施する場合に好ましくは、請求項2に記載した様に、上記変位阻止手段を、上記サポートの一部で、上記インナ側のパッドを構成するプレッシャプレートの背面に対向する部分に上記サポートの本体部と一体形成した壁部とする。
この好ましい構成によれば、部品点数の削減を図れる為、コストをより低減できる。
【0031】
又、上述の請求項2に記載した構成を実施する場合により好ましくは、請求項3に記載した様に、上記壁部を、上記サポートの一部で、上記インナ側のパッドを構成するプレッシャプレートの、上記第二の通孔と反対側の端部と係合する凹部の端縁部に上記サポートの本体部と一体形成したものとする。
このより好ましい構成の場合、インナ側のパッドのうちのパッドピンを挿通している第二の通孔と反対側の端部の近傍に変位阻止手段を設ける事ができる。この為、上記インナ側のパッドがロータの面方向に対し傾斜するのをより有効に抑える事ができ、このインナ側のパッドのサポートからの脱落を、より有効に防止できる。又、上記インナ側のパッドの姿勢の安定化をより図り易くなる。
【0032】
又、上述の請求項2又は請求項3に記載した構成を実施する場合により好ましくは、請求項4に記載した様に、上記壁部を、平板状の金属板により造るサポートの一部に、ロータから離れる方向に絞り加工を施す事により形成したものとする。
このより好ましい構成の場合、上記壁部を容易に形成できる為、コストの低減をより図り易くなる。
【0033】
又、本発明のディスクブレーキを実施する場合に好ましくは、請求項5に記載した様に、上記変位阻止手段を、上記サポートに固定した摺動ピンの一部に設けた、この摺動ピンと略同心の円輪状のフランジ部、又は上記サポートと摺動ピンとの間で挟持した、この摺動ピンと略同心の円輪部を有するフランジ部材とする。
この好ましい構成によれば、サポートに絞り加工を施す事なく、インナ側のパッドのサポートからの脱落を防止でき、しかも、サポートに対するフランジ部又はフランジ部材の円周方向の向きを規制する必要がない為、組立作業を容易に行なえる。
【0034】
又、本発明のディスクブレーキを実施する場合に好ましくは、請求項6に記載した様に、上記変位阻止手段を、上記サポートに固定した摺動ピンの一部に設けた、その円周方向のうちのサポートの幅方向中央側の円周方向一部が他の部分よりも直径方向外側に延出した非円形の外周縁を有するフランジ部、又は上記サポートと摺動ピンとの間で挟持した、その円周方向のうちのサポートの幅方向中央側の円周方向一部が他の部分よりも直径方向外側に延出した非円形の外周縁を有するフランジ部材とする。
この好ましい構成によれば、フランジ部又はフランジ部材の円周方向一部のみを直径方向外側に大きく突出した形状とでき、他の部分の径方向長さを小さくできる為、ディスクブレーキを限られた空間に設置する事を行ない易くなる。
【0035】
又、上述の請求項6に記載した構成を実施する場合により好ましくは、請求項7に記載した様に、上記変位阻止手段を、上記フランジ部又はフランジ部材であって、上記サポートに対し回り止め手段により回転を阻止したものとする。
又、上述の請求項7に記載した構成を実施する場合により好ましくは、請求項8に記載した様に、上記回り止め手段を、上記フランジ部又はフランジ部材と上記サポートとのうちの一方に設けた凸部と、他方に設けた凹部とを係合させる事により構成したものとする。
これらの請求項7、8に記載した構成によれば、インナ側のパッドと変位阻止手段とを、安定して対向させる事を容易に行なえ、上記パッドがサポートから脱落するのを、より安定して防止できる。
【実施例1】
【0036】
図1〜8は、請求項1〜4に対応する、本発明の実施例1のディスクブレーキを示している。尚、本実施例の特徴は、一対のパッド4a、4bをキャリパ1aに低コストで支持できる構造で、車両への組み付け時等でのインナ側のパッド4aのサポート41aからの脱落を有効に防止すべく、このサポート41aの一部の構造を工夫した点にある。本実施例に於いて、キャリパ1aをサポート41aに対し、第一、第二の摺動ピン22、23によりロータ3の中心軸に対し平行に変位自在とする構造、及び、一対のパッド4a、4bをサポート41a又はキャリパ1aに対し、上記ロータ3の中心軸に対し平行な方向に変位自在に支持する構造は、前述の図24〜27に示した先発明の構造と同様である。又、制動時に、キャリパ1a内に嵌装したピストン16aがパッド4a、4bの側面をロータ3の両側面に押し付ける等、ディスクブレーキの基本的な構造及び作用も、上記先発明の構造と同様である。この為、上記先発明に係る構造と同等部分には同一符号を付して重複する説明を省略若しくは簡略にし、以下、本発明の特徴部分、並びに、上記先発明の構造と異なる部分を中心に説明する。
【0037】
本実施例の場合、パッドピン35の長さ方向一端部(図1の上端部、図2の裏側端部、図3の表側端部、図5の上端部)側に、図5に詳示する様な、他の部分よりも直径が大きくなったフランジ部36を形成すると共に、このフランジ部36の片面(図1、5の上端面、図3の表側端面)に、プレス加工等により係止突部47を形成している。この係止突部47は、パッドピン35の中心軸に平行で且つ互いに平行な平坦面48、48で形成され、その係止突部47を掴んだペンチ等の把持手段により、上記パッドピン35を容易に回転させる事ができる様にしている。又、このパッドピン35の長さ方向2箇所位置に、それぞれが係止部である、一対の係止孔37、37を形成すると共に、これら各係止孔37、37に、それぞれが抜け止め部材である、クリップ(割りピン)38、38を係止している。
【0038】
又、キャリパ1aを構成する爪部10の側面に突出形成した第三のキャリパ腕部28のアウタ側面(図1の下側面、図2の表側面)で、この第三のキャリパ腕部28に形成した第一の通孔30aのアウタ側開口端周辺部に、誤組み付け防止突部49を、アウタ側に突出する状態で形成している。又、上記パッドピン35の方向を誤って組み付けた場合に、上記誤組み付け防止突部49の先端縁がこのパッドピン35に設けたフランジ部36の側面に突き当て可能となる様に、この誤組み付け防止突部49の形成位置を、このフランジ部36の直径との関係で規制している。具体的には、上記パッドピン35をキャリパ1aのアウタ側から、フランジ部36と反対側の端部を先にして、各キャリパ腕部28、29に形成した第一の通孔30a、30b、及び、各パッド4a、4bに形成した第二の通孔33、33に挿入した状態で、図2に示す様に、上記フランジ部36と上記誤組み付け防止突部49とが、上記パッドピン35の長さ方向に重畳する様に、この誤組み付け防止突部49の形成位置を規制している。そして、この様な誤組み付け防止突部49を形成した事により、上記パッドピン35の方向を誤って組み付けた場合に、上記フランジ部36が上記誤組み付け防止突部49に衝合し、上記パッドピン35に形成した係止孔37、37の少なくとも何れかが上記キャリパ1aの第三のキャリパ腕部28の第一の通孔30a(又は第四のキャリパ腕部29の第一の通孔30b)内に進入したままの状態となる様にしている。この構成により、作業者が上記パッドピン35を方向を誤って組み付けても、このパッドピン35の係止孔37、37にクリップ38、38を係止すると言った、誤組み付けが生じる事を有効に防止できる。尚、本実施例では、抜け止め部材としてクリップ38を、係止部として係止孔37を、それぞれ採用しているが、抜け止め部材としてCリングを、係止部として段差溝若しくはパッドピン35の外周面の全周に亙る係止溝を、それぞれ採用する事もできる。
【0039】
特に、本実施例の場合には、図6に詳示する様に、前記サポート41aの長さ方向一端部(図6の左端部)の内側面に形成した凹部45に、前記インナ側のパッド4aを構成するプレッシャプレート13の、第二の通孔33と反対側の端部に設けた第二のパッド腕部32aを、前記ロータ3の中心軸に対し平行な方向(図6の裏表方向)の摺動自在に係合させている。上記サポート41aは、平板状の金属板にプレス加工を施す事により造っている。そして、上記サポート41aの長さ方向一端部内側面で、上記凹部45の開口端周縁部に、上記インナ側のパッド4a側に突出させた変位阻止手段である、壁部50を、上記サポート41aの本体部と一体に形成している。又、この壁部50の先半部を、ロータ3から遠ざかる方向(図7の上側、図6、8の裏側)に塑性変形させている。この壁部50は、上記サポート41aの一部を、上記ロータ3から離れる方向に絞り加工を施す事により形成している。そして、上記壁部50の先半部のアウタ側面を、上記インナ側のパッド4aに設けた第二のパッド腕部32aの基端部上面に設けた突部51の背面(ライニング17と反対側の面で、図6の裏側面、図7の上側面)に対向させる事により、上記インナ側のパッド4aが上記ロータ3から離れる方向に変位するのを阻止している。
【0040】
又、本実施例の場合には、上記サポート41aの長さ方向一端部内側面で、上記凹部45の開口端のうちの上記壁部50と反対側の端部に断面L字形の第二の壁部52を、上記ロータ3に近づく方向(図1の下側、図2、6、8の表側、図3の裏側)に絞り加工を施す事により形成している。そして、上記第二のパッド腕部32aの下面と対向する、上記第二の壁部52のアウタ側面から上記サポート41aの本体部のインナ側面までの長さを大きくして、上記第二のパッド腕部32aがロータ3側から下側に脱落する事を、より生じにくくしている。
【0041】
上述の様に構成する本実施例のディスクブレーキによれば、前述の図24〜27に示した先発明のディスクブレーキと同様に、キャリパ1aにパッドピン35を支持する為に、このキャリパ1aのこのパッドピン35を支持する部分と、このパッドピン35とに雄ねじ部又は雌ねじ部を形成せずに済む。この為、ディスクブレーキの製造時に、ねじ加工の工程を少なくするか、又はなくす事ができ、製造コストの低減を図れる。
【0042】
特に、本実施例の場合には、サポート41aの一部に、インナ側のパッド4aがロータ3から離れる方向に変位するのを阻止する為の変位阻止手段である、壁部50を設けている。この為、本実施例の様に、サポート41aにパッドクリップ46を装着する場合でも、このパッドクリップ46の一部によりインナ側のパッド4aの変位を阻止する為の変位阻止手段を構成する場合と異なり、パッドクリップ46を特に複雑な形状に成形する事なく、ディスクブレーキの組立工場への搬送時、又はこの組立工場での車両への組み付け時等に、上記インナ側のパッド4aの第二のパッド腕部32aがロータ3から離れる方向に変位してサポート41aの凹部45から脱落する事を防止できる。この為、正常に機能するディスクブレーキを安定して得られる。しかも、本実施例の場合には、上記サポート41aの一部により上記壁部50を構成している為、この壁部50の板厚を特に厚くしてこの壁部50の剛性を高くする事を容易に行なえる。この為、上記パッドクリップ46の一部により上記変位阻止手段を構成する場合と異なり、上記インナ側のパッド4aがロータ3から離れる方向に変位する事を十分に安定して阻止できる。
【0043】
又、本実施例の場合には、上記サポート41aの一部で、上記インナ側のパッド4aの背面に対向する部分に、このサポート41aの本体部と一体形成する事により上記壁部50を構成している。この為、部品点数の削減を図れる事により、コストをより低減できる。更に、本実施例の場合には、上記壁部50を、上記サポート41aの一部で、上記インナ側のパッド4aの前記第二の通孔33と反対側の端部に設けた凹部50の開口端縁部に設けている。この為、上記インナ側のパッド4aでパッドピン35を挿通している第二の通孔33と反対側の端部の近傍に上記壁部50を設ける事ができる。この為、上記インナ側のパッド4aがロータ3の面方向に対し傾斜するのをより有効に抑える事ができ、このインナ側のパッド4aのサポート41aからの脱落を、より有効に防止できる。又、上記インナ側のパッド4aの姿勢の安定化をより図り易くなる。
【0044】
又、本実施例の場合には、上記壁部50を、平板状の金属板により造るサポート41aの一部に、上記ロータ3から離れる方向に絞り加工を施す事により形成している。この為、上記壁部50を容易に形成でき、コストの低減をより図り易くなる。尚、本実施例の場合には、上記サポート41aにパッドクリップ46を装着し、このサポート41aがロータ3の中心軸に対し平行な方向に、より円滑に変位できる様にしているが、この変位を円滑にできるのであれば、上記パッドクリップ46を省略する事もできる。
【実施例2】
【0045】
次に、図9〜10は、請求項1、5に対応する、本発明の実施例2のディスクブレーキを示している。本実施例の場合には、上述の実施例1の場合と異なり、サポート41に、インナ側のパッド4aがロータ3(図1、4参照)から離れる方向(図9の裏側、図10の上側)に変位するのを阻止する為の壁部50(図1、6〜8参照)を形成していない。その代わりに、本実施例の場合には、上記サポート41の長さ方向一端部(図9の左端部)に結合固定した第一の摺動ピン22aの一部に、上記インナ側のパッド4aがロータ3から離れる方向に変位するのを阻止する為の変位阻止手段である、大径のフランジ部53を設けている。即ち、上記第一の摺動ピン22aの中間部にこの第一の摺動ピン22aと同心の円輪状のフランジ部53を設けている。そして、この第一の摺動ピン22aの中間部でこのフランジ部53よりも他端側(図9の表側、図10の下側)に外れた部分を、上記サポート41の長さ方向一端部に設けた通孔57に圧入する事により、上記第一の摺動ピン22aを上記サポート41に結合固定している。又、この状態で、上記フランジ部53の内径寄り部分を上記サポート41のインナ側面(図9の裏側面、図10の上側面)に当接させる事により上記第一の摺動ピン22aのサポート41に対する軸方向の位置決めを図っている。そして、上記フランジ部53の外径寄り部分を、上記インナ側のパッド4aに設けた第二のキャリパ腕部32aと、この第二のキャリパ腕部32aの基端部に設けた突部51とのインナ側面に対向させる事により、上記インナ側のパッド4aがロータ3から離れる方向に変位するのを阻止している。
【0046】
上述の様に構成する本実施例のディスクブレーキによれば、サポート41に絞り加工を施す事なく、車両への組み付け時等での、インナ側のパッド4aのサポート41からの脱落を防止できる。しかも、本実施例の場合には、変位阻止手段であるフランジ部53が第一の摺動ピン22aと同心の円板状である為、サポート41に対するこのフランジ部53の円周方向の向きを規制する必要がない。この為、組立作業を容易に行なえる。
その他の構成及び作用に就いては、上述の実施例1の場合と同様である為、同等部分には同一符号を付して重複する説明及び図示を省略する。
【実施例3】
【0047】
次に、図11〜12は、請求項1、6に対応する、本発明の実施例3のディスクブレーキを示している。本実施例の場合には、上述の図9〜10に示した実施例2の構造で、第一の摺動ピン22bの中間部に設けたフランジ部54の外周縁を、その円周方向のうちのサポート41の幅方向中央側(図11〜12の右側)の円周方向一部が他の部分よりも直径方向外側に大きく延出した略楕円形状としている。そして、上記フランジ部54の先端部の側面を、上記インナ側のパッド4aに設けた第二のキャリパ腕部32aの基端部に設けた突部51の背面(図11の裏側面、図12の上側面)に対向させている。そして、上記フランジ部54により、上記インナ側のパッド4aがロータ3から離れる方向(図11の裏側、図12の上側)に変位するのを阻止している。
【0048】
この様な本実施例の場合、上記フランジ部54の円周方向一部のみを直径方向外側に大きく突出した形状とでき、このフランジ部54の他の部分の径方向長さを小さくできる為、ディスクブレーキを限られた空間に設置する事を行ない易くなる。
その他の構成及び作用に就いては、上述の図9〜10に示した実施例2の場合と同様である為、同等部分には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【実施例4】
【0049】
次に、図13は、やはり請求項1、6に対応する、本発明の実施例4のディスクブレーキを示している。本実施例の場合、第一の摺動ピン22cの中間部に設けたフランジ部55を、ほぼ全周に亙り同じ分だけ径方向に突出させた円輪部64の円周方向一部に、矩形状の係止突部56を設ける事により構成している。そして、この係止突部56を、サポート41(図9、10、12参照)の幅方向中央側(図13の右側)で突部51側に向けた状態で、第一の摺動ピン22cをサポート41に結合固定すると共に、上記係止突部56の先端部の側面を、上記インナ側のパッド4aに設けた第二のキャリパ腕部32aの基端部に設けた突部51の背面(図13の裏側面)に対向させている。
その他の構成及び作用に就いては、上述の図11〜12に示した実施例3の場合と同様である為、重複する説明を省略する。
【実施例5】
【0050】
次に、図14〜16は、請求項1、6〜8に対応する、本発明の実施例5のディスクブレーキを示している。本実施例の場合には、前述の図11〜12に示した実施例3の構造で、第一の摺動ピン22bとサポート41の長さ方向一端部との間に、この第一の摺動ピン22bの回り止めを図る為の回り止め手段を設けている。即ち、この第一の摺動ピン22bの中間部に設けたフランジ部54の外周面で、サポート41の幅方向端部側の端部(図14、15の右端部)に凸部58を設けると共に、この凸部58の先端部をサポート41側に直角に折り曲げている。これと共に、このサポート41の長さ方向一端部のインナ側面(図14(a)、16の表側面、図14(b)の下側面)で、上記凸部58と対向する部分に凹部59を設けている。そして、上記第一の摺動ピン22bの中間部で上記フランジ部54よりも他端側(図14(b)の上側)に外れた部分を、上記サポート41の長さ方向一端部に設けた通孔57に圧入した状態で、上記フランジ部54に設けた凸部58の先端部と上記サポート41の長さ方向一端部に設けた凹部59とを、凹凸係合させている。そして、これら凸部58と凹部59とにより、上記回り止め手段を構成している。上記フランジ部54は、この回り止め手段により、上記サポート41に対する回転をより有効に阻止される。
【0051】
上述の様に構成する本実施例によれば、上記インナ側のパッド4aとフランジ部54とを、安定して対向させる事を容易に行なえ、上記パッド4aが上記サポート41から脱落するのを、より安定して防止できる。
その他の構成及び作用に就いては、前述の図11〜12に示した実施例3の場合と同様である為、同等部分には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【実施例6】
【0052】
次に、図17〜19は、やはり請求項1、6〜8に対応する、本発明の実施例6のディスクブレーキを示している。本実施例の場合には、上述の図14〜16に示した実施例5の場合と異なり、フランジ部54とサポート41とで、凹部60と凸部61とを設ける側をそれぞれ逆にしている。即ち、本実施例の場合には、第一の摺動ピン22bの中間部に設けたフランジ部54の外周面で、サポート41の幅方向端部側の端部(図17、18の右端部)に径方向に凹んだ凹部60を設けている。これと共に、上記サポート41の長さ方向一端部のインナ側面(図17(a)、19の表側面、図17(b)の下側面)で、上記凹部60と対向する部分に凸部61を設けている。そして、上記第一の摺動ピン22bの中間部で上記フランジ部54よりも他端側(図17(b)の上側)に外れた部分を、上記サポート41の長さ方向一端部に設けた通孔57に圧入した状態で、上記フランジ部54に設けた凹部60に、上記サポート41の長さ方向一端部に設けた凸部61を、凹凸係合させている。そして、これら凸部60と凹部61とにより回り止め手段を構成している。
その他の構成及び作用に就いては、上述の図14〜16に示した実施例5の場合と同様である為、重複する説明を省略する。
【実施例7】
【0053】
次に、図20〜21は、請求項1、6に対応する、本発明の実施例7のディスクブレーキを示している。本実施例の場合には、前述の図11〜12に示した実施例3の構造で、第一の摺動ピン22の中間部に設けるフランジ部53aを、直径が小さい円輪状とすると共に、この第一の摺動ピン22の中間部でこのフランジ部53aから外れた部分に、この第一の摺動ピン22とは別体のフランジ部材62を外嵌している。このフランジ部材62は、金属板を、前述の図11〜12に示したフランジ部54と同様の非円形の外周縁を有する形状に形成したもので、中間部に上記第一の摺動ピン22の中間部を挿通する為の通孔63を形成している。そして、この第一の摺動ピン22の中間部をこの通孔63に挿通すると共に、この第一の摺動ピン22の中間部で上記フランジ部材62から外れた部分を、サポート41の長さ方向一端部に形成した通孔57に圧入している。そしてこの状態で、上記フランジ部53aの側面と上記サポート41の長さ方向一端部側面との間で上記フランジ部材62を挟持している。又、この状態で、このフランジ部材62の先端部が、サポート41の幅方向中央側(図20の左側)で、インナ側のパッド4aに設けた突部51側に向く様にこのフランジ部材62の向きを規制し、このフランジ部材62の先端部の側面をこのパッド4aの突部51の側面に対向させている。
【0054】
この様な本実施例の構造によっても、上記インナ側のパッド4aがロータ3(図1、4参照)から離れる方向(図20の裏側)へ変位するのを阻止できる。又、本実施例の場合には、上記第一の摺動ピン22の形状を簡略化して、この第一の摺動ピン22のコストの低減を図れる。又、本実施例の場合も、前述の図11〜12に示した実施例3の構造での第一の摺動ピン22に設けるフランジ部54の場合と同様に、フランジ部材62の円周方向一部のみを直径方向外側に大きく突出した形状とでき、このフランジ部材62の他の部分の径方向の長さを小さくできる。この為、ディスクブレーキを限られた空間に設置する事を行ない易くなる。
その他の構成及び作用に就いては、前述の図1〜8に示した実施例1の場合と同様である為、同等部分には同一符号を付して重複する図示並びに説明を省略する。
【0055】
尚、本実施例の場合には、第一の摺動ピン22に非円形の外周縁を有するフランジ部材62を外嵌した場合に就いて説明した。但し、請求項1、5に対応する構造として、第一の摺動ピン22の中間部にこの第一の摺動ピン22と略同心の円輪部を有するフランジ部材を、この第一の摺動ピン22の一部とサポート41の一部との間で挟持する状態で外嵌し、上記フランジ部材の一部をインナ側のパッド4aの背面に対向させる事もできる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施例1を示す、ロータの外径側から見た図。
【図2】図1を下方から見た図。
【図3】図2を裏側から見た図。
【図4】図3のA−O−A断面図。
【図5】パッドピンの長さ方向一端部の拡大斜視図。
【図6】一部を省略して示す、図1のB−B断面図。
【図7】図6のC−C断面図。
【図8】図6からサポートのみを取り出して示す図。
【図9】本発明の実施例2を示す、図6に相当する図。
【図10】図9のD−D断面図。
【図11】本発明の実施例3を示す、図9のE部で一部を省略したものに相当する図。
【図12】図11のF−F断面図。
【図13】本発明の実施例4を示す、図11と同様の図。
【図14】同実施例5を示す、(a)は図12の上側から見たものに相当する図で、(b)は(a)のG−G断面図。
【図15】図14(a)から第一の摺動ピンのみを取り出して示す図。
【図16】同じくサポートのみを取り出して示す図。
【図17】本発明の実施例6を示す、(a)は図12の上側から見たものに相当する図で、(b)は(a)のH−H断面図。
【図18】図17(a)から第一の摺動ピンのみを取り出して示す図。
【図19】同じくサポートのみを取り出して示す図。
【図20】本発明の実施例7を示す、図9の裏側から見たものに相当する図。
【図21】図20のI−I断面図。
【図22】従来構造の1例を示す図。
【図23】図22のJ−J断面図。
【図24】先発明の構造を示す略正面図。
【図25】先発明の構造に使用するパッドピンにクリップを係止した状態を示す部分拡大斜視図。
【図26】図24の上方から見た図。
【図27】一部を省略して示す、図26のK−K断面図。
【図28】インナ側のパッドの端部がサポートに設けた凹部から外れた状態を示す、図27と同様の図。
【符号の説明】
【0057】
1、1a キャリパ
2 チューブ
3 ロータ
4a、4b パッド
5 ブラケット
6 第一の摺動ピン
7 第二の摺動ピン
8 摺動孔
9 伸縮ブーツ
10 爪部
11 シリンダ部
12 パッドピン
13 プレッシャプレート
14 通孔
15 給油ポート
16、16a ピストン
17 ライニング
18 耳部
19 雄ねじ部
20 雌ねじ部
21 第二の円杆部
22、22a〜22c 第一の摺動ピン
23 第二の摺動ピン
24 第一のキャリパ腕部
25 第二のキャリパ腕部
26 摺動筒部
27 伸縮ブーツ
28 第三のキャリパ腕部
29 第四のキャリパ腕部
30a、30b 第一の通孔
31 第一のパッド腕部
32a、32b 第二のパッド腕部
33 第二の通孔
34 第三の通孔
35 パッドピン
36 フランジ部
37 係止孔
38 クリップ
39 基部
40a、40b 脚部
41、41a サポート
42 第一の円杆部
43 通孔
44 円弧部
45 凹部
46 パッドクリップ
47 係止突部
48 平坦面
49 誤組み付け防止突部
50 壁部
51 突部
52 第二の壁部
53、53a フランジ部
54 フランジ部
55 フランジ部
56 係止突部
57 通孔
58 凸部
59 凹部
60 凹部
61 凸部
62 フランジ部材
63 通孔
64 円輪部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の一部に固定されるサポートと、車輪と共に回転するロータと、このロータの側面に対向して配置した一対のパッドと、これら一対のパッドとロータとを跨いで配置したキャリパとを備えたディスクブレーキであって、
長さ方向一端側にフランジ部を、長さ方向の少なくとも一箇所に係止部を、それぞれ形成したパッドピンを備え、上記キャリパの上記一対のパッドを挟む両側部分にそれぞれ形成した一対の第一の通孔に、上記パッドピンの長さ方向両端寄り部分を挿通支持すると共に、上記各パッドを構成するプレッシャプレートに形成した第二の通孔に、上記パッドピンの長さ方向中間部をそれぞれ摺動自在に挿通し、且つ、上記係止部に係止した抜け止め部材と上記フランジ部とにより、上記キャリパに対する上記パッドピンの脱落を阻止しており、上記一対のパッドのうちのインナ側のパッドを構成するプレッシャプレートの、上記第二の通孔と反対側の端部を、上記サポートの一部に、上記ロータの中心軸に対し平行な方向の摺動自在に係合させており、上記サポートの一部、又はこのサポートに固定した摺動ピンの一部、又はこれらサポートと摺動ピンとの間に、上記インナ側のパッドが上記ロータから離れる方向に変位するのを阻止する為の変位阻止手段を設けたディスクブレーキ。
【請求項2】
変位阻止手段が、サポートの一部で、インナ側のパッドを構成するプレッシャプレートの背面に対向する部分に上記サポートの本体部と一体形成した壁部である、請求項1に記載したディスクブレーキ。
【請求項3】
壁部が、サポートの一部で、インナ側のパッドを構成するプレッシャプレートの、上記第二の通孔と反対側の端部と係合する凹部の端縁部に上記サポートの本体部と一体形成したものである、請求項2に記載したディスクブレーキ。
【請求項4】
壁部が、平板状の金属板により造るサポートの一部に、ロータから離れる方向に絞り加工を施す事により形成したものである、請求項2又は請求項3に記載したディスクブレーキ。
【請求項5】
変位阻止手段が、サポートに固定した摺動ピンの一部に設けた、この摺動ピンと略同心の円輪状のフランジ部、又は上記サポートと摺動ピンとの間で挟持した、この摺動ピンと略同心の円輪部を有するフランジ部材である、請求項1に記載したディスクブレーキ。
【請求項6】
変位阻止手段が、サポートに固定した摺動ピンの一部に設けた、その円周方向のうちのサポートの幅方向中央側の円周方向一部が他の部分よりも直径方向外側に延出した非円形の外周縁を有するフランジ部、又は上記サポートと摺動ピンとの間で挟持した、その円周方向のうちのサポートの幅方向中央側の円周方向一部が他の部分よりも直径方向外側に延出した非円形の外周縁を有するフランジ部材である、請求項1に記載したディスクブレーキ。
【請求項7】
変位阻止手段が、フランジ部又はフランジ部材であって、サポートに対し回り止め手段により回転を阻止したものである、請求項6に記載したディスクブレーキ。
【請求項8】
回り止め手段が、フランジ部又はフランジ部材とサポートとのうちの一方に設けた凸部と、他方に設けた凹部とを係合させる事により構成したものである、請求項7に記載したディスクブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2006−308001(P2006−308001A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−132150(P2005−132150)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】