説明

トロリ線の摺動面切削装置

【課題】トロリ線の終端部で台車が停止する前の減速した所定速度でトロリ線から砥石を自動的に離し、トロリ線の摺動面の凹凸を防止すること。
【解決手段】線路上を走行可能な台車上に、トロリ線Tに対して横方向及び縦方向に追従可能に揺動枠5を設ける。この揺動枠5上に砥石16を設ける。砥石16は、位置調整機構18により上下位置を変更でき、駆動モータ27の駆動で水平回転し、トロリ線Tの下面を切削する。揺動枠5上に設けた押し上げローラ10の外周のスリットを速度センサが検知することにより、コントローラがカウントして走行速度を算出する。トロリ線Tの終端部で台車が停止前に減速していく途上の予め設定した速度に至ったら、砥石16をトロリ線Tから十分離れた高さ位置に下降させるようにコントローラが位置調整機構18を動作させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、トロリ線のパンタグラフとの摺動面であるトロリ線下面を平滑に切削するための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、剛体トロリ線においては、断面T字形で、比較的断面積の大きい変形しにくい長尺の導体から構成され、トンネルの天井部に固定される。このトロリ線の下面を摺動するパンタグラフを介して電車に駆動電力が供給される。トロリ線の下面には、溶接継ぎ目や支持点での凹凸、施工誤差による初期的な凹凸、パンタグラフの摺動による波状摩耗などの後発的な凹凸が生じる。このような凹凸があると、トロリ線の下面とパンタグラフとの接触が不完全になり、電力の供給が不安定になるので、定期的に切削して平滑になるように維持、管理する必要がある。
従来のトロリ線摺動面切削装置は、線路上を走行可能な台車上に昇降可能に枠体を設け、この枠体上に前後一対の押し上げローラを水平に支持し、押し上げローラ間に上下位置を変更可能に、かつモータ駆動で水平回転自在に砥石を設けて、この砥石をトロリ線の下面(摺動面)に圧接して、トロリ線を切削するものがある(特許文献1)。
【特許文献1】特開2004−98208号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来のトロリ線摺動面切削装置では、台車を走行させながら切削作業を行うが、トロリ線の終端部で台車が停止する際に、トロリ線に砥石を接触させたままであると、トロリ線に微少な凹凸を形成したり、トロリ線を傷つけて、摺動面の平滑を阻害する場合があり、このような凹凸等により、トロリ線とパンタグラフとの接触が不完全になったり、離線によりアークが生じて乗降客に不快感を与えるおそれがある。
従って、本発明は、トロリ線の終端部などで台車が停止する前の減速状態でトロリ線から砥石を自動的に離し、トロリ線の平滑化を確実にし、その作業負担を軽減するトロリ線摺動面切削装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するため、第1の発明においては、台車2の走行速度を速度センサ14で検知し、この速度センサ14により台車2の停止前の減速する途上の所定の速度を検知したら、位置調整機構18により砥石16をトロリ線Tから離れた高さ位置に配置するようにトロリ線Tの摺動面切削装置1を構成した。
第2の発明においては、枠体上に、トロリ線Tを押し上げるように線路と直交する方向に水平にローラ10を設け、このローラ10の外周に一又は等間隔に複数のスリット10bを設け、押し上げローラ10に臨むように配置した速度センサ14によりスリット10bを検出し、これをカウントすることにより線路上を走行する台車2の走行速度を算出してコントローラが位置調整機構18に砥石16を下降動作させるように構成した。
【発明の効果】
【0005】
本発明においては、線路上に台車を走行させながら切削作業を行って、トロリ線の終端部で台車を停止させる場合、速度センサにより停止前の所定の減速速度を検知して、位置調整機構により砥石をトロリ線から離した高さ位置に自動的に下降させるので、トロリ線の凹凸や傷を防止することができ、トロリ線とパンタグラフとの接触を良好にすると共に、その作業負担を軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
図1乃至図4において、摺動面切削装置1は、台車2の上に組み立てられ、線路上を矢印の方向(前後方向)に走行することができる。台車2上には、枠体を構成するスライドベース3、支持フレーム4及び揺動枠5が順次設けられている。
【0007】
スライドベース3は、台車2の上に、線路の延長方向と直交する方向(左右方向)に延びるように設けられたガイドレール6に沿って左右に移動自在である。このスライドベース3は、図示しない横行用モータ、ボールナット、ねじ棒等からなる伝動機構を備え、剛体トロリ線Tが線路に対して水平方向左右に変位する場合に、ガイドレール6上で、左右に移動して、トロリ線Tに追従する。
【0008】
支持フレーム4は、ガイドロッド4aによりスライドベース3上に連結され、スライドベース3に対して垂直に昇降自在である。支持フレーム4を昇降動作させるためのエアシリンダ7が、スライドベース3と支持フレーム4との間に介設されている。エアシリンダ7は、中間部においてトラニオン軸受8によりスライドベース3に枢支され、ロッド7aの先端が支持フレーム4の下面に結合されている。
【0009】
支持フレーム4上には、左右方向の支軸9により、揺動枠5が揺動自在に軸支され、かつ水平にバランスするように設けられている。図2乃至図4及び図6は、支持フレーム4より上の部分を示している。
【0010】
揺動枠5上には、上方に位置するトロリ線Tを押し上げるための前後一対の押し上げローラ10が設けられている。これらの押し上げローラ10,10は、支軸9の前後の対称位置に、左右方向に水平に支持されている。押し上げローラ10はローラベース11上にブラケット11aにより軸支され、ガイドロッド12aによりガイド筒12bに上下動自在に支持される。図5に示すように、押し上げローラ10の端部には鍔部10aが形成されており、この外周に円周方向等間隔に軸線方向の四つのスリット10bを有する。ローラベース11と揺動枠5との間には、トロリ線Tに対する押し上げローラ10の押圧力を検知するためのロードセル13が介設されている。エアシリンダ7の空気圧は、トロリ線Tに対する押し上げローラ10の押圧力が設定値になった状態で固定される。
【0011】
ローラベース11上には、センサブラケット15を介して速度センサ14が設けられている。この速度センサ14は、台車の走行速度を検出するために、押し上げローラ10の鍔部10aに臨むように配置され、スリット10bの通過を検知する。速度センサ14の検知信号は摺動面切削装置1の図示しない操作盤内のコントローラに入力され、カウントされて走行速度が算出され、停止前に減速していく途上の予め設定された速度に至ったら、砥石16をトロリ線から十分離れた高さ位置に下降させるようにコントローラにより位置調整機構18を動作させる。
【0012】
図4及び図6に示すように、砥石16は、押し上げローラ10,10間に位置しトロリ線Tの下面を研削するために昇降自在に設けられる。砥石16は円筒形で、揺動枠5に位置調整機構18を介して垂直に支持された回転軸17上に固着されている。位置調整機構18はスリーブ19、軸受け筒20、ボールナット21、軸受け22、ねじ棒23、伝動歯車対24、モータ25から構成されている。即ち、回転軸17は、外周に相対回転自在に被挿されたスリーブ19と共に、揺動枠5の軸受け筒20内に昇降自在に支持されている。スリーブ19は、軸受け筒20とキー結合され、相対回転することができない。スリーブ19の側面には、ボールナット21が固着されている。軸受け筒20は、揺動枠5に垂直に固定され、図9に示すように、一部にスリーブ19のボールナット21を上下動自在に突出させる切欠20aを備える。軸受け筒20には、切欠20aの下端側に位置して軸受け22が固着され、この軸受け22に下端部を支持されたねじ棒23が、ボールナット21に螺合している。ねじ棒23は、揺動枠5上のモータ25に伝動歯車対24を介して結合されている。軸受け筒20から下方へ突出した回転軸17の下端は、ベルト26を介して駆動モータ27に結合されている。カウンタウエイト28は、駆動モータ27の対向部に位置調整自在に設けられており、水平復元機構29と協働して、揺動枠5を水平にバランスさせる。砥石16の外周には、切削による粉塵の飛散を防ぐためのフード30が設けられている。図2に示すように、フード30には、削屑を吸引する集塵機を接続するための吸入口31が砥石16の回転方向に対応する位置に設けられ、必要に応じてこれを使用することができる。
なお、スライドベース3と支持フレーム4との間に介設される支持フレーム4の昇降駆動手段として、エアシリンダ7に代えて、サーボモータ等の他の各種のモータを採用することができる。
【0013】
図7,図8に示すように、軸受け筒20には、ボールナット21の可動範囲の上下端部及び中間部に上限、下限、原点リミットスイッチ32a,32b,32cが設けられている。上限、下限リミットスイッチ32a,32bは砥石16に対応するボールナット21の上限、下限位置を検知するもので、特に上限リミットスイッチ32aを逸脱すると砥石16の摩耗が検知される。原点リミットスイッチ32cは、砥石16の位置調整を行うモータ25の回転をカウントして砥石16の変位の基準点とするものである。
【0014】
砥石16の側部には、砥石16の上面(切削面)の上下位置を検知する砥石位置センサ33が設けられている。この砥石位置センサ33は、トロリ線の延線方向側部に位置し、フード30に固着されたブラケット34上に固定されている。砥石位置センサ33は、レーザを砥石16の上面に照射することによりその位置を検出する。
【0015】
この摺動面切削装置1は、線路上で台車2を走行させつつ、連続的にトロリ線Tの摺動面を切削する。即ち、エアシリンダ7により支持フレーム4を一定圧力で押し上げ、砥石16をトロリ線Tの摺動面に圧接しつつ線路に沿って進行する。剛体トロリ線Tは、パンタグラフの偏摩耗を防ぐために、パンタグラフに対する接触位置を所定範囲で左右方向にずらすべく、一径間毎に左右に屈折するように配置されている。このように、トロリ線Tが線路に対して水平方向左右に変位している場合には、スライドベース3をガイドレール6上で、左右に動かして、砥石16を適正位置に配置する。トロリ線Tが前後方向上下に傾斜している箇所においては、前後一対の押し上げローラ10により、揺動枠5がトロリ線Tの傾斜に従って傾斜し、常時トロリ線Tとの平行状態が維持されるから、砥石16はトロリ線Tの傾斜に沿って、これを均等に切削する。エアシリンダ7で支持フレーム4もろとも押し上げローラ10を昇降させることで、押し上げローラ10の剛体トロリ線Tに対する押圧力が一定に維持される。
【0016】
砥石16の切り込み量は、モータ25で砥石16の切削面の高さを調整することにより行う。この切削制御は、押し上げローラ10をトロリ線Tに押し当てた後モータ25で砥石16をトロリ線Tの最下面の高さ位置である初期位置に配置してから開始する。そして、砥石位置センサ33により切砥石16の上面位置を監視しながら、トロリ線Tを予め設定した切り込み量である基準切削代より大きくならないように、かつ予め設定された最小切削代より小さくならないように、モータ25を制御して砥石16を位置調整する。
【0017】
砥石16の切削面はそれ自体の摩耗により下方へ変位するため、これに応じて砥石16を上昇移動させるが、砥石16の切削面の高さが最小切削代を保持できなくなった場合には、上限リミットスイッチ32aによりこの砥石16の上限位置が検知され、エラー表示して、砥石16の交換等の必要な対処を促す。
【0018】
また、砥石16のトロリ線Tに対する押圧力の制御は、砥石16を回転させる駆動モータ27の負荷電流であるインバータ電流を検知することにより行う。砥石16が所定の押圧力を越えた場合には、モータ25で砥石16を下降動作させて、適切な押圧力の接触位置に配置し、駆動モータ27の過負荷を防止する。
上記のような砥石16の位置調整のための変位は、初期位置における原点リミットスイッチ32cの位置を基準にモータ25の回転をカウントすることにより制御する。
なお、本実施形態では切削装置1を剛体トロリ線Tに適用したが、これに限定するものでなく、通常の張力を与えたトロリ線に対しても適用できる。
【0019】
作業中の台車の走行速度は、速度センサ14が押し上げローラ10のスリット10bを検知して、操作盤内のコントローラのカウンタがカウントし、走行速度が算出される。この走行速度が、予め設定されている停止前の所定の速度以下になったら、コントローラにより位置調整機構18を動作させて、砥石16をトロリ線Tから十分離れた高さ位置に下降させる。従って、トロリ線Tの終端部で切削作業を中止するために台車を停止させる場合、停止前の減速した所定の速度で自動的に砥石16がトロリ線Tから離れるので、その後の切削を回避する。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は、トロリ線の終端部などで自動的に円滑に切削作業を中止するのに有効である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】摺動面切削装置の正面図である。
【図2】摺動面切削装置の上部の背面図である。
【図3】摺動面切削装置の上部の側面図である。
【図4】摺動面切削装置の上部の斜視図である。
【図5】(a)は押し上げローラの端部の正面図、(b)は側面図である。
【図6】摺動面切削装置の上部の断面図である。
【図7】位置調整機構の正面図である。
【図8】位置調整機構の側面図である。
【図9】図7のA−A断面図である。
【符号の説明】
【0022】
1 摺動面切削装置
2 台車
3 スライドベース
4 支持フレーム
4a ガイドロッド
5 揺動枠
7 エアシリンダ
9 支軸
10 押し上げローラ
10a 鍔部
10b スリット
11 ローラベース
12a ガイドロッド
12b ガイド筒
13 ロードセル
14 速度センサ
16 砥石
17 回転軸
18 位置調整機構
19 スリーブ
20 軸受け筒
21 ボールナット
22 軸受け
23 ねじ棒
24 伝動歯車対
25 モータ
27 駆動モータ
T 剛体トロリ線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線路上を走行可能な台車上に、線路に対して直交方向に移動可能に、かつ昇降可能に設けられ、台車の走行に伴い線路の上方に架設されたトロリ線に追従可能な枠体と、
この枠体上に、上下位置を変更可能に、かつ駆動モータで水平回転自在に支持され、上面を前記トロリ線下面に圧接可能に設けられた砥石とを備え、
前記トロリ線下面のパンタグラフとの摺動面を平滑に切削するトロリ線の摺動面切削装置において、
前記台車の走行速度を検知するための速度センサと、
この速度センサにより停止前の所定の減速速度を検知したら、前記砥石をトロリ線から離れた高さ位置に配置する位置調整機構とを具備することを特徴とするトロリ線の摺動面切削装置。
【請求項2】
前記枠体上に、トロリ線を押し上げるように線路と直交する方向に水平に回転自在に支持され、外周に一又は等間隔に複数のスリットを有し、線路上を走行する台車の移動に伴い回転するローラを備え、
前記速度センサがスリットを検出すべく前記ローラに臨むように位置し、
前記位置調整機構に、前記速度センサが検知した回転するスリットをカウントすることにより速度を算出するコントローラを備えていることを特徴とする請求項1に記載のトロリ線の摺動面切削装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−246630(P2008−246630A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−91673(P2007−91673)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(000001890)三和テッキ株式会社 (134)
【Fターム(参考)】