説明

ベーンポンプ

【課題】 カバー側供給通路の調整を可能にして、ポンプの吸い込み特性のチューニングを容易にしたベーンポンプを提供することである。
【解決手段】 ボディの側面を塞ぐカバーCを、吸い込みポート22b,22c及び上記流体源側と連続する連通口22aを貫通させた第1プレート20と、上記吸い込みポート22b,22cと上記連通口22aとを接続する通路溝27を形成した第2プレート21とで構成し、上記第2プレート21の通路溝形成面21aを、第1プレート20上に積層するとともに、第1プレート20の吸い込みポート22b,22cを、上記ボディの吸い込み行程部分A,Aに一致させて取り付け、第2プレート21の通路溝27をカバー側供給通路とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ボディの側面をカバーで塞いだベーンポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
図6〜図8に従来のベーンポンプを示す。
図6に示すように、このベーンポンプは、ボディ1の側面をカバー2で塞いで構成されているが、このボディ1内のボアaには、図7に示すように楕円形の内壁3aを有するカムリング3を設けている。このカムリング3内には、ロータ4を設けるとともに、このロータ4には、複数のベーン5を放射状に配置するとともに、ロータ4から出没自在に組み込んでいる。
また、上記ボディ1及びカバー2には、軸穴6a,6bを形成するとともに、ボディ1側の軸穴6aに第1軸受部材7を設け、カバー2側の軸穴6bには第2軸受部材8を設けている。そして、これら第1軸受部材7と第2軸受部材8とによって、駆動軸9を回転自在に支持している。この駆動軸9は、上記ロータ4の中心部分を貫通し、貫通した部分をロータ4に固定している。
【0003】
さらに、上記カムリング3及びロータ4の側面には、サイドプレート10を設けている。そして、上記ロータ4は、カバー2とサイドプレート10との間で、ロータ4の回転に抵抗が発生しないとともに、ポンプ効率が悪化しない程度の微少なクリアランスを有した状態で保持されている。
なお、図7中、符号pはサイドプレート10に設けられた位置決めピンであり、この位置決めピンpによってボディ1に対するカムリング3の位置が決められるようにしている。但し、この位置決めピンpは、カバー側に設けられたものであってもかまわない。
【0004】
このようなベーンポンプは、図示していない駆動源の作動により、駆動軸9を図7中k方向に回転させると、この駆動軸9とともにロータ4が回転する。ロータ4が回転するとベーン5が突出し、その先端がカムリング3の内壁3aに押し付けられる。ただし、これらベーン5の先端が押し付けられるカムリング3の内壁3aは、図7に示すように楕円形をしているため、この内壁3aの形状に応じてベーン5が、ロータ4に対し、突出、収納を繰り返す。
【0005】
また、上記ベーン5の先端がカムリング3の内壁3aに押し付けられることによって、各ベーン5間に独立した室が構成されるが、これら室の容積は、ロータ4の回転に応じて変化する。すなわち、図7に一点鎖線で示す部分Aでは、ベーン5がロータ4に収納された状態から突出する過程であり、回転に伴って室の容積が拡大する。反対に、図7の一点鎖線で示す部分Bでは、ベーン5がロータ4に収納される過程であり、上記室の容積は縮小する。
そして、室の容積が拡大するときに、この室内に流体が吸い込まれるので、上記一点鎖線Aの範囲を吸い込み行程部分Aとする。
また、室の容積が縮小するときに、この室内の流体が吐出するので、一点鎖線Bの範囲を吐出行程部分Bとする。
【0006】
以上のように、ロータ4が回転することにより、吸い込み行程と吐出行程とが交互に繰り返される。そして、吸い込み行程において室内に吸い込んだ流体を、吐出行程において室の容積を縮小することで、サイドプレート10に形成した吐出穴11,11を介して高圧室12に導き、この高圧室12に導いた圧力流体は、図示していない通路を介して外部に吐出される。
【0007】
一方、上記吸い込み行程部分Aには、外部から流体が供給される。この吸い込み行程部分Aに流体を導くため、ボディ1には、図6、7に示すように流体源側に接続するボディ側供給通路13を形成し、カバー2には、図6に示すようにカバー側供給通路14を形成している。そして、上記ボディ側供給通路13と、カバー側供給通路14の開口14aとが連続するようにしている。
また、図8には、カバー2の、ボディ1側の側面2aを示しているが、図示のように、この側面2aには、開口14aと、吸い込みポート14b,14cとを開口させている。また、カバー2内部には、上記開口14aを、上記吸い込みポート14b,14cに連通するY字状のカバー側供給通路14を形成している。
このような側面2aに形成された開口14aを、ボディ側供給通路13に一致させるとともに、各吸い込みポート14b,14cを、図7の吸い込み行程部分A,Aに一致させて、上記カバー2をボディ1に取り付け、上記一対の吸い込みポート14b,14cから、ボディ1側の左右一対の吸い込み行程部分A,Aに流体を供給するようにしている。
【特許文献1】特開2004−028014号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来のベーンポンプでは、カバー2内に形成したカバー側供給通路14から吸い込みポート14b、14cを介して、ボディ1の一対の吸い込み行程部分A,Aに流体を供給するようにしている。しかし、ポンプの特性によっては、左右の吸い込み行程部分A,Aへの流量に差が出てしまうことがある。このように、一対の吸い込み行程部分A,Aで、吸い込み流量に差があると、ボディ1内での圧力バランスが崩れ、ベーンポンプの吐出に脈動が発生したり、部材ががたついたりするなど、不都合が起こることがある。
【0009】
このような場合には、カバー側供給通路14の断面積や形状を調整することによって、両吸い込み行程部分A,Aにおける吸い込み量をそれぞれ調整し、ポンプの吸い込み特性をチューニングしなければならない。ところが、上記したように、上記カバー2の側面2aには3個の開口があるだけで、カバー側供給通路14は、カバー2の内部に形成されているため、その調整はほとんど不可能であった。
また、カバー側供給通路14は、構造上鋳抜き加工による成形が必要である。そのため、カバー2の製造は加工方法が限定され、その分、加工コストが高くなっていた。
この発明の目的は、カバー側供給通路の調整を可能にして、ポンプの吸い込み特性のチューニングを容易にするとともに、コストダウンを実現したベーンポンプを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明は、ボディには、駆動軸と一体に回転するロータと、このロータの径方向に出没可能に組み込んだ複数のベーンとを設けるとともに、上記各ベーンによって形成される室が、ロータの回転に伴って容積を拡大する一対の吸い込み行程部分と、上記容積を縮小する一対の吐出行程部分とを備え、上記ボディの側面を塞ぐカバーには、上記吸い込み行程部分へ流体を供給するためのカバー側供給通路を形成したベーンポンプを前提とし、上記カバーは、一対の吸い込みポート及び上記流体源側と接続するための連通口を貫通させた第1プレートと、上記一対の吸い込みポートと上記連通口とを接続する通路溝を形成した第2プレートとを備え、上記第2プレートの通路溝形成面を、上記第1プレート上に積層するとともに、上記第1プレートの各吸い込みポートを、上記ボディの各吸い込み行程部分に一致させて取り付け、上記第2プレートの通路溝によってカバー側供給通路を構成した点に特徴を有する。
【0011】
第2の発明は、第1の発明を前提とし、上記第1プレートと、第2プレートとの間に、シール部材を介在させた点に特徴を有する。
第3の発明は、第2の発明を前提とし、上記シール部材が、シート状である点に特徴を有する。
【発明の効果】
【0012】
第1〜第3の発明によれば、ロータを組み込んだボディの側面を塞ぐカバーが、第1、第2プレートを積層することよって構成されるとともに、吸い込みポートが第1プレートの貫通穴で構成され、カバー側供給通路が第2プレートの通路溝で構成されているため、それぞれの調整が容易になった。
例えば、第1プレートに貫通した貫通穴を調整すれば、吸い込みポートの大きさや形状を調整することができる。また、第2プレートの通路溝も、溝の開口側から、溝幅や深さを調整することもできる。
このように、吸い込みポートや通路溝の大きさを調整できるので、カバー側供給通路を介して吸い込み行程部分へ供給される流量の調整ができ、ポンプの吸い込み特性のチューニングが簡単にできるようになる。
【0013】
また、従来のベーンポンプのカバーは、内部に供給通路を形成するために、中子を利用した鋳造で製造する必要があった。中子を利用した鋳造は、プレス加工などと比べて、製造コストが高くなってしまうため、結果として、ベーンポンプの製造コストが高くなってしまうこともあったが、この発明のカバーは、プレート部材に、プレス加工によって、ポートを形成したり、通路溝を形成したりできるためカバーの製造コストを大幅に低減することができる。従って、カバーだけでなく、ベーンポンプそれ自体の製造コストの大幅な低減が実現できる。
【0014】
第2の発明によれば、第1プレートと第2プレートとの間のシール性をより簡単に確保することができる。
また、第3の発明では、シール部材をシート状にしたので、シール部材を介在させる第1プレートと第2プレートの積層面は、いずれも平面で足り、シール部材を取り付けるための加工が不要である。例えば、シール部材としてOリングを用いた場合には、少なくとも第1プレートか、第2プレートのいずれか一方には、Oリングを設けるためのシール溝を形成する必要があるが、シール部材がシート状ならば、その必要がない。また、シール溝などの加工が必要であれば、加工工数が増えるだけでなく、溝などを形成する側のプレートの厚みもある程度必要になり、全体に大型化してしまう可能性もあるが、シート状のシール部材を用いれば、このような問題もない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、この発明の一実施形態を説明する。図1〜図5には、この発明のベーンポンプのカバーCを示している。
図1に示すように、この実施形態のカバーCは、第1プレート20、シート状のシール部材S、第2プレート21を積層して構成している。
なお、このカバーCは、ベーンポンプのボディの側面に取り付け、ボディの側面を塞ぐものである。この実施形態のボディは、図6、図7に示す従来例のボディ1と、外形以外は同じである。従って、この実施形態においてボディ1についての詳細な説明は省略する。
【0016】
この実施形態のカバーCを構成する第1プレート20は、図1に示すように、第2プレート21と反対側の面を表面20aとし、その反対側を裏面20bとしたとき、表面20aから裏面20bまでを貫通する貫通穴として、連通口22a及び吸い込みポート22b,22cを形成した板部材である(図2参照)。
そして、上記連通口22aをボディ側供給通路13(図7参照)に連結される位置に形成し、吸い込みポート22b,22cを、それぞれ、ボディ1側の吸い込み行程部分A,Aに対応する位置に形成している。上記連通口22aが、この発明の流体源側と接続する連通口にあたる。
【0017】
さらに、第1プレート20には、周囲に沿って、カバーCをボディ1に固定するための止めボルトを挿入するボルト挿入穴23を形成している。
なお、図中、符号24〜25は、第1プレート20の表面20aに形成した溝で、ボディ1内での圧力のバランスを保ったり、ロータ4のベーン5を組み込んだベーン保持部に高圧を導いたりするためのものであり、符号26は、サイドプレート10とカバーCとの相対位置を規制するために、サイドプレート10側に立設し、カムリング3を貫通させたピンpを挿入するためのピン穴である。
また、上記第1プレート20の連通口22a、吸い込みポート22b,22cの各貫通穴は、第1プレート20の素材となる金属製の板部材を打ち抜いたり、切削したりすることによって形成することができる。
そして、一旦、貫通させた上記連通口22aや、吸い込みポート22b,22cは、その開口内周を削ることで、大きさや形状を簡単に調整することができる。
【0018】
一方、上記第2プレート21は、図1、図3、図4に示すように、上記第1プレート20よりも厚みの薄い金属材をプレス加工したものである。
この第2プレート21は、図1のように、第1プレート20側となるこの発明の通路溝形成面21aに、Y字状の通路溝27を形成し、外周に沿ってボルト挿入穴23を形成している。
【0019】
また、図4は、第2プレート21の裏面21b側から見た斜視図であるが、この実施形態では、上記通路溝27をプレス加工しているので、第2プレート21の裏面21bには、図に示すように、上記通路溝27の深さに対応した凸部が形成される。
そして、上記通路溝27は、Y字状の通路溝27の基端を27aとし、二股に分岐した一方の先端を27b、他方の先端を27cとしたとき、各端部が、第1プレート20に形成した連通口22aおよび吸い込みポート22b,22cと対応するようにしている。すなわち、第2プレート21を第1プレート20に重ね、ボルト挿入穴23を一致させたとき、上記基端27aと第1プレート20の連通口22a(図2参照)とが一致し、一方の先端27bと一方の吸い込みポート22bとが一致し、他方の先端27cともう一方の吸い込みポート22cとが一致するような位置関係にしている。
【0020】
なお、この実施形態では、上記通路溝27をプレス加工で形成しているが、第2プレート21の形成方法はプレス加工に限らない。この第2プレート21の通路溝27は、吸い込み側であり、高圧が作用しないので、例えば、樹脂の型成形によって、通路溝27を有する第2プレート21を形成することもできる。
また、この通路溝27も、一旦、形成してから、部分的にプレスをしたり、切削したりすることで幅や深さを調整することができる。
【0021】
さらに、上記第1プレート20と第2プレート21との間に介在させるシート状シール部材Sは、図5に示すように中央に貫通穴28を開口し、周囲に沿ってボルト挿入穴23を形成した部材である。上記貫通穴28は、その内周側に、第2プレート21の通路溝27が収まる大きさにしている。
このようなシール部材Sは、ゴム製シートを打ち抜くことで、簡単に形成することができる。
【0022】
そして、上記第1プレート20の裏面20bに、上記シール部材Sを重ね、さらに第2プレートの通路溝形成面21aを重ねてカバーCを構成し、これを、上記ボルト挿入穴23を利用してボディ1に取り付ければ、実施形態のベーンポンプが完成する。このベーンポンプは、上記第1プレート20の吸い込みポート22b,22cがそれぞれ、吸い込み行程部分A,A(図7参照)に一致し、また、第1プレート20の連通口22aがボディ側供給通路13と一致し、上記通路溝27がベーンポンプのカバー側供給通路を構成する。
【0023】
この実施形態のベーンポンプにおいて、吸い込み特性のチューニングが必要なときには、第1プレート20の吸い込みポート22b,22cの大きさを調整したり、第2プレート21の通路溝27を調整したりすることで対応できる。
もしも、第1、第2プレート20,21の調整で、チューニングしきれない場合には、上記第1、第2プレート20,21のうち、いずれか一方のプレートを交換することによって、吸い込み特性のチューニングをすることもできる。
【0024】
さらに、上記カバーCを構成する、第1、第2プレート20,21及びシート状シール部材Sは、いずれも、従来例のカバー2のように表面に現れない通路を備えていないため、中子を利用した鋳造で製造する必要がない。そのため、カバーを鋳造によって製造する場合と比べて、カバーの製造コストを低く抑えることができる。
【0025】
なお、この実施形態では、シート状のシール部材Sを用いた例を説明したが、シール部材は、シート状のものに限らない。例えば、Oリングなどでもかまわない。
但し、Oリングを用いた場合には、第1プレート20あるいは第2プレート21に、Oリングを設けるためのシール溝を形成する必要がある。
これに対し、上記のようなシート状のシール部材Sならば、それを介在させる第1プレート20と第2プレート21の対向面20bと21aのいずれにも、シール部材Sを設けるための特別な加工が不要であるというメリットが有る。
また、第1プレート20と第2プレート21とを積層した積層面の隙間に、樹脂を注入して硬化させ、シート状のシール部材を形成することもできる。
【0026】
さらに、第1プレート20と第2プレート21との間のシール性が確保できれば、特別にシール部材を設けなくてもよい。例えば、第1プレート20を金属で形成し、第2プレート21を樹脂で形成して、両プレート20,21を接触させた状態で、接触面を過熱したり、接触面の一方あるいは両方を過熱した状態で接触させたりして、第2プレート21の通路溝27の形成面である表面21aを第1プレート20の裏面20bに溶着によって密着させることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施形態のカバーの斜視図である。
【図2】第1プレートの裏面を示した図である。
【図3】第2プレートの通路溝形成面を示した図である。
【図4】第2プレートの裏面側から見た斜視図である。
【図5】シート状シール部材の平面図である。
【図6】従来例のベーンポンプの断面図である。
【図7】図6のVII-VII線断面図である。
【図8】従来例のカバーの、ボディ側側面図である。
【符号の説明】
【0028】
20 第1プレート
21 第2プレート
S シート状シール部材
22a 連通口
22b 吸い込みポート
22c 吸い込みポート
27 通路溝
A 吸い込み行程部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボディには、駆動軸と一体に回転するロータと、このロータの径方向に出没可能に組み込んだ複数のベーンとを設けるとともに、上記各ベーンによって形成される室が、ロータの回転に伴って容積を拡大する一対の吸い込み行程部分と、上記容積を縮小する一対の吐出行程部分とを備え、上記ボディの側面を塞ぐカバーには、上記吸い込み行程部分へ流体を供給するためのカバー側供給通路を形成したベーンポンプにおいて、上記カバーは、一対の吸い込みポート及び上記流体源側と接続するための連通口を貫通させた第1プレートと、上記一対の吸い込みポートと上記連通口とを接続する通路溝を形成した第2プレートとを備え、上記第2プレートの通路溝形成面を、上記第1プレート上に積層するとともに、上記第1プレートの各吸い込みポートを、上記ボディの各吸い込み行程部分に一致させて取り付け、上記第2プレートの通路溝によってカバー側供給通路を構成したベーンポンプ。
【請求項2】
上記第1プレートと、第2プレートとの間に、シール部材を介在させた請求項1に記載のベーンポンプ。
【請求項3】
上記シール部材はシート状である請求項2に記載のベーンポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−47133(P2009−47133A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−216332(P2007−216332)
【出願日】平成19年8月22日(2007.8.22)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】