説明

ポット苗移植機

【課題】畦クラッチの操作と植え付けの停止/再開の時間差を解消し、該時間差を考慮した畦クラッチの操作を必要としないポット苗移植機を提供する。
【解決手段】苗箱送り手段(送り爪)、苗押出棒、苗受け台、跳ね出し板、苗横送りベルトへの動力伝達を断続する畦クラッチ15を設置する。畦際近くで植え付けするとき、畦クラッチ15を切ると、これらの部材の作動が停止し、植付爪のみが作動を継続する。従って、ポット苗の植付幅(条数)を減らした植え付けが可能で、しかもクラッチの操作と植え付けの停止/再開の時間差が解消される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、碁盤目状に多数のポット苗室を有する可撓性のポット苗箱を苗載台に装填して1ポットピッチずつ間欠的に送り、前記苗載台上の取出位置で停止した前記ポット苗箱の横一列のポット苗室からポット苗を取り出し、そのポット苗を植付装置により順次圃場に植え付けるポット苗移植機に関する。
【背景技術】
【0002】
市販のポット苗移植機(特許文献1,2等参照)は、前記ポット苗箱を摺動自在に案内する複数の苗載台を備え、各苗載台に対応して、苗載台に装填したポット苗箱を1ポットピッチずつ間欠的に送る苗箱送り手段と、前記ポット苗箱が停止したとき前進して横一列のポット苗室からポット苗を押し出す苗押出棒と、前記苗押出棒によりポット苗室から押し出された横一列のポット苗を苗受け溝に受け入れて保持し続いて下方に移動する苗受け台と、前記苗受け台が下端近傍に移動してきたとき前記苗受け溝を通り抜け、前記ポット苗を前記苗受け溝から抜き出すとともに瞬間的にわずかに下方回動して前記ポット苗を強制的に落下させる跳ね出し板と、前記跳ね出し板により落下させたポット苗を載せ、左右両端に向けて搬送する苗横送りベルトと、前記苗横送りベルトの両端縁から送り出されたポット苗を圃場に植え付ける植付爪を備えている。
【0003】
前記ポット苗箱は、両側上縁に一定間隔(1ポットピッチ)で送り穴が形成されており、一般に送り手段である送り爪により1ポットピッチずつ苗載台に沿って送られる。特許文献1には、前記送り穴に下降しながら嵌入し、上昇しながら脱出する送り爪と、同じ送り穴に対し前記送り爪の下降に伴い嵌入し、上昇に伴い脱出する固定爪からなる苗箱送り手段が開示され、特許文献3にも、同様の送り爪と制止爪からなる苗箱送り手段が開示されている。一方、特許文献4にはポット苗箱の両側上縁を挟み付ける各一対のローラからなる苗箱送り手段が開示されている。
特許文献2には、下方への移動が揺動により行われ、かつ揺動に伴い略180°反転する苗受け台が開示されている。この場合、ポット苗の向きも180°逆転する。一方、特許文献4には、下方に移動する際に反転しない苗受け台が開示されている。
【0004】
この種のポット苗移植機は、2以上の苗載台を備え、4条植え、6条植え、8条植え等の多条植えである。通常は全条数で植え付けを行うが、1又は2以上の苗載台に対応する苗箱送り手段等の作動を止め、移植されるポット苗の植付幅(条数)を減らすことができるようになっている。これは、ポット苗移植機の植付幅の倍数と圃場の幅が必ずしも一致しないためである。通常は、畦際近くに植え付けるとき、最終行程において全植付幅(全条数)の植え付けが行えるように、その前の行程で植付幅(条数)を減らしている。ポット苗移植機では各苗載台ごとに条数は2であるから、2条単位で減らすことになる。
このため、ポット苗移植機には、各苗載台に対応して(苗載台の数だけ)、エンジンから上記苗箱送り手段等への動力伝達を断続する畦クラッチが、苗載台等を含む植付部の伝動機構部に設置されている。
【0005】
市販のポット苗移植機では、畦クラッチは、エンジンから苗箱送り手段と苗押出棒への動力伝達を断続できるようになっている。従って、畦クラッチを切ると、苗箱送り手段と苗押出棒の作動は停止するが、苗受け台、跳ね出し板、苗横送りベルト及び植付爪はエンジンから動力伝達を受けて作動を継続する。
また、特許文献3(段落0048参照)、特許文献5(段落0040参照)及び特許文献6(段落0044参照)には、畦クラッチにより、エンジンから苗箱送り手段、苗押出棒、苗受け台及び跳ね出し板への動力伝達を断続できることが記載されている。従って、畦クラッチを切ると、苗箱送り手段、苗押出棒、苗受け台及び跳ね出し板の作動は停止するが、苗横送りベルト及び植付爪はエンジンから動力伝達を受けて作動を継続する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実公昭58−11135号公報
【特許文献2】特公昭55−38082号公報
【特許文献3】特開平7−79626号公報
【特許文献4】特開2000−139141号公報
【特許文献5】特開2001−157505号公報
【特許文献6】特開2001−157507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
市販のポット苗移植機において、畦クラッチを切って苗箱送り手段と苗押出棒の作動を停止させても、苗受け台、跳ね出し板、苗横送りベルト及び植付爪の作動は継続するから、苗受け台乃至苗横送りベルトで搬送中のポット苗は植え付けされる。また、特許文献3,5,6に記載されたポット苗移植機において、畦クラッチを切って苗箱送り手段、苗押出棒、苗受け台及び跳ね出し板の作動を停止させても、苗横送りベルト及び植付爪は作動を継続するから、苗横送りベルトで搬送中のポット苗は植え付けされる。従って、畦クラッチを切ってから実際に植え付けが停止するまで、及び畦クラッチをつないでから実際に植え付けが再開されるまでに時間差が生じる。
このため、植え付けの停止/再開において、この時間差を考慮して、前もって畦クラッチを操作する必要があった。しかし、この時間差を瞬時に正しく把握することは、相当の熟練者でも難しい。
【0008】
従って、本発明は、畦クラッチの操作と植え付けの停止/再開の時間差を解消し、該時間差を考慮した畦クラッチの操作を必要としないポット苗移植機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、碁盤目状に多数のポット苗室を有する可撓性のポット苗箱を摺動自在に案内する複数の苗載台を備え、各苗載台に対応して、苗載台に装填したポット苗箱を1ポットピッチずつ間欠的に送る苗箱送り手段と、前記ポット苗箱が停止したとき前進して横一列のポット苗室からポット苗を押し出す苗押出棒と、前記苗押出棒によりポット苗室から押し出された横一列のポット苗を苗受け溝に受け入れて保持し続いて下方に移動する苗受け台と、前記苗受け台が下端近傍に移動してきたとき前記苗受け溝を通り抜け、前記ポット苗を前記苗受け溝から抜き出すとともに下方に回動して前記ポット苗を落下させる跳ね出し板と、前記跳ね出し板により落下したポット苗を載せ、左右両端縁に向けて搬送する苗横送りベルトと、前記苗横送りベルトの両端縁から送り出されたポット苗を圃場に植え付ける植付爪を備えたポット苗移植機において、各苗載台に対応して、前記苗箱送り手段、苗押出棒、苗受け台、跳ね出し板及び苗横送りベルトへの動力伝達を断続する畦クラッチが設置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るポット苗移植機では、苗箱送り手段、苗押出棒、苗受け台、跳ね出し板及び苗横送りベルトへの動力伝達を断続する畦クラッチを、機体の伝動機構部に設置した。これにより、畦クラッチを切ったときは、苗箱送り手段、苗押出棒、苗受け台、跳ね出し板及び苗横送りベルトの作動が停止し、一方、植付爪は作動を継続する。従って、畦クラッチを切ったとき、苗横送りベルトの端縁に送り出されたポット苗が、植付爪によって植え付けされ次第、植え付けが停止する。また、畦クラッチをつないだときは、苗横送りベルト上にあるポット苗が端縁から送り出され次第、植付爪により植え付けが再開される。
従って、クラッチ操作と実際の植え付けの停止/再開の間に、これまで生じていた時間差が生じず、その時間差を考慮した畦クラッチの操作が必要でなくなり、熟練者でなくても、畦際の植え付けが容易に行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るポット苗移植機の植付部の側面図である。
【図2】本発明に係るポット苗移植機の伝動機構部の展開断面図(a)及び側面断面図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図1,2を参照して、本発明に係るポット苗移植機について説明する。
図1はポット苗移植機の植付部を示すもので、1は苗載台、2は苗箱送り手段、3は苗押出棒、4は苗受け台(両矢印は苗受け台4の往復揺動経路を示す)、5は跳ね出し板、6は苗横送りベルト、7は苗横送りベルト6の端縁に配置されたガイド板、8はロータリーケース9に設置された植付爪、11は伝動機構部である。複数の植付部が自走車両に搭載されてポット苗移植機を構成する。
このポット苗移植機の構造及び機能は、伝動機構部11における畦クラッチの配置を除いて、市販のポット苗移植機又は特許文献1,2に記載されたポット苗移植機と基本的に同一である。以下、特許文献1,2等を同時に参照しながら、このポット苗移植機について説明する。
【0013】
ポット苗箱12は、特許文献1〜6にも記載されているように、多数のポット苗室が碁盤目状に形成され、左右両側にフランジ(上縁という)が形成され、該上縁に一定ピッチ(1ポットピッチごとに)で送り穴が形成されている。
苗載台1は、ポット苗箱12の底面(ポット苗室の底面)が摺動する湾曲した台板と、ポット苗箱12の両側上縁が摺動する上縁押さえ板を有する。前記上縁押え板は、台板の両側にガイド板を介して該台板の湾曲に沿って形成され、ポット苗箱12は前記台板と上縁押え板に挟まれ、摺動案内されて下流側へ送られる。なお、例えば実公昭59−12013号公報の図5に上記台板、上縁押え板及びガイド板が簡潔に記載されている。
【0014】
苗載台1に装填されたポット苗箱12は、苗箱送り手段2により1ポットピッチずつ下方に間欠的に送られ、取出位置に停止した横一列のポット苗室からポット苗が押出棒3により押し出される(特許文献2参照)。押し出された横一列のポット苗は苗受け台4の苗受け溝に保持される。苗受け台4は、ポット苗を保持したまま下方へ揺動移動し、その間に略180°反転する。苗受け台4の揺動の下端付近において、跳ね出し板5が前記苗受け溝を通り抜け、次いで下方に瞬間回動する。これにより前記横一列のポット苗は前記苗受け溝から抜き出され、かつ直ちに苗横送りベルト6上に突き落とされる。苗横送りベルト6上に載った横一列のポット苗は左右両端縁に向けて送られ、両端縁から1つずつ送り出され(落下し)、続いて回転する植付爪8によりガイド板7に沿って下方に運ばれ、直立状態で圃場に植え付けられる。
【0015】
苗箱送り手段2は、苗載台1上の取出位置近傍においてポット苗箱12の上縁の送り穴に下降しながら嵌入し、上昇しながら脱出する送り爪と、同じ送り穴に対し前記送り爪の下降に伴い嵌入し、上昇に伴い脱出する固定爪からなる(特許文献1参照)。なお、前記送り爪及び固定爪は、苗載台1の両側(左右)に配置されている。
なお、苗受け台や苗箱送り手段は上記のタイプに限定されるものではない。苗受け台は例えば特許文献4等に記載された反転しないタイプでもよく、苗箱送り手段は例えば特許文献4に記載されたローラを用いるタイプでもよく、あるいはローラと送り爪や制止爪を併用するタイプでもよい。
【0016】
次に図2を参照して、伝動機構部11について説明する。図2は展開断面図であり、各部の向き及び位置関係等は実際とは異なっている。また、同じ番号は同じ部位を示す。
13は伝動ケースであり、14は車両のエンジンのPTO出力が入力する入力軸である。入力軸14は植付爪8の駆動軸でもあり、両端14aにロータリー9が設置される。
入力軸14には畦クラッチ15及びギヤ16が設置されている。ギヤ16は入力軸14に対し自由回転状態で設置され、畦クラッチ15は入力軸14に対し回転方向で固定されている。従って、畦クラッチ15をギヤ16につないだときのみ、入力軸14の回転力がギヤ16に伝達される。畦クラッチ15の断続はクラッチレバー17により操作される。
【0017】
回転軸18にギヤ19とギヤ21が固定され、ギヤ19が前記ギヤ16と噛み合っている。固定軸22にギヤ23が回転自在に設置され、ギヤ23が前記ギヤ21と噛み合っている。回転軸24にギヤ25が固定され、ギヤ25がギヤ23と噛み合っている。従って、入力軸14の回転力は、畦クラッチ15、ギヤ16、ギヤ19、回転軸18、ギヤ21、ギヤ23及びギヤ25を介して回転軸24に伝達される。回転軸24の回転力は、両端に設置されたギヤ26と、回転軸27に固定されたギヤ28を介して前記回転軸27に伝達される。回転軸27は苗横送りベルト6の駆動軸である。
【0018】
回転軸29にカム31、ギヤ32、外カム33及び内カム34が固定されている。ギヤ32はギヤ21と噛み合い、これにより、入力軸14の回転力が、畦クラッチ15、ギヤ16、ギヤ19、回転軸18、ギヤ21及びギヤ32を介して回転軸29に伝達される。回転軸29は跳ね出し板5の駆動軸であり、一端29aに図示しないカムが設置され、該カムを介して跳ね出し板5を所定のタイミングで回動させる。
また、回転軸29の他端29bにクランク機構35(図1)が設置されている。回転軸29は、クランク機構35等(特許文献2参照)を介して苗受け台34を所定のタイミングで往復揺動及び反転させる。
【0019】
回動軸36にレバー37が固定され、その先端(下端)にカムローラ38が回転自在に設置され、カムローラ38が前記カム31の周面に押し付けられて転動する。従って、回転軸29の回転は、カム31、カムローラ38、レバー37を介して、回動軸36に伝達され、該回動軸36を所定のタイミングで往復回動させる。回動軸36の端部36aには苗箱送り手段2の前記送り爪を昇降させる図示しない送りアーム(特許文献1参照)が設置されている。回動軸36の1回の往復回動(回転軸29の1回の回転)ごとに、前記送り爪(及び固定爪)は苗載台1上の苗箱12を1ポットピッチずつ間欠的に移送する。
【0020】
回動軸39にレバー41の一端が固定され、前記レバー41の他端にカムローラ42が回転自在に設置され、カムローラ42が前記外カム33と内カム34の間に嵌入して転動する。また、回動軸39にレバー43が固定され、該レバー43の上端にラック43aが形成されている。一方、回動軸44にピニオン45が固定され、ピニオン45は前記ラック43aと噛み合っている。
回転軸29が回転すると、外カム33と内カム34が回転し、カムローラ42が両カムの間を従動することにより、レバー41が往復揺動し、回動軸39が往復回動し、さらにレバー43が往復揺動し、ピニオン45及び回動軸44が所定のタイミングで往復回動する。回動軸44の両端44aには、押出棒3を進退させる図示しない例えばラック−ピニオン機構が連結されている。
【0021】
ここで、入力軸14にPTO出力が入力され連続回転している場合に、畦クラッチ15をつないだ状態では、回転軸27,29が回転し、回動軸36,44が往復回動する。従って、苗箱送り手段2(回動軸36)、苗押出棒3(回動軸44)、苗受け台4(回転軸29)、跳ね出し板5(回転軸29)、苗横送りベルト6(回転軸27)、植付爪8(入力軸14)が全て作動し、通常の植え付けを行うことができる。
一方、クラッチレバー17を操作して畦クラッチ15を切ると、回転軸27,29及び回動軸36,44は回転及び回動を止め、入力軸14のみが回転を続ける。従って、苗箱送り手段2、苗押出棒3、苗受け台4、跳ね出し板5及び苗横送りベルト6の作動が停止し、植付爪8のみが作動を継続する。
従って、先に述べたとおり、クラッチ操作と実際の植え付けの停止/再開の間に、これまで生じていた時間差が生じず、その時間差を考慮した畦クラッチの操作が必要でなくなり、熟練者でなくても、畦際の植え付けが容易に行えるようになる。
【符号の説明】
【0022】
1 苗載台
2 苗箱送り手段
3 苗押出棒
4 苗受け台
5 跳ね出し板
6 苗横送りベルト
8 植付爪
11 伝動機構部
15 畦クラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
碁盤目状に多数のポット苗室を有する可撓性のポット苗箱を摺動自在に案内する複数の苗載台を備え、各苗載台に対応して、苗載台に装填したポット苗箱を1ポットピッチずつ間欠的に送る苗箱送り手段と、前記ポット苗箱が停止したとき前進して横一列のポット苗室からポット苗を押し出す苗押出棒と、前記ポット苗押出棒によりポット苗室から押し出された横一列のポット苗を苗受け溝に受け入れて保持し続いて下方に移動する苗受け台と、前記苗受け台が下端近傍に移動してきたとき前記苗受け溝を通り抜け、前記ポット苗を前記苗受け溝から抜き出すとともに下方に回動して前記ポット苗を落下させる跳ね出し板と、前記跳ね出し板により落下したポット苗を載せ、左右両端縁に向けて搬送する苗横送りベルトと、前記苗横送りベルトの両端縁から送り出されたポット苗を圃場に植え付ける植付爪を備えたポット苗移植機において、各苗載台に対応して、前記苗箱送り手段、苗押出棒、苗受け台、跳ね出し板及び苗横送りベルトへの動力伝達を断続する畦クラッチが設置されていることを特徴とするポット苗移植機。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−200162(P2011−200162A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−70078(P2010−70078)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000100469)みのる産業株式会社 (158)
【Fターム(参考)】